第Ⅱ章 食料・農業・農村の主な動向 - maff.go.jp17 第Ⅱ章...
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○世界の食料需給は、人口増加や所得向上に伴う需要の増加、収穫面積の動向といった基礎的な要因に加え、近年ではバイオ燃料需要の増加、異常気象の頻発等の要因が大きく影響。
○世界の穀物(米、とうもろこし、小麦、大麦等)の需要量は人口の増加、所得水準の向上、バイオ燃料の原料への仕向量の増加等に伴い増加傾向で推移。
○需要の増加に対して、作柄変動による主要生産国での生産量の減少が続いたことから、期末在庫率は、2006年度には16.6%まで低下。2007年度にはアフリカ、アジア等を中心に食料をめぐる暴動等が発生するなど、需給状況はひっ迫し、「食料危機」が現実のものに。
○2008年度は、北半球の主要国で天候に恵まれたこと等から需要量を上回る生産量の増加が予想されており、期末在庫率は、20.0%まで回復する見込。
(1)世界の食料事情と農産物貿易交渉の動向第1節 食料自給力・自給率の向上と安全な食料の安定供給
資料:国連「World Population Prospects:The 2008 Revision」、米国農務省「Grain:World Markets and Trade(April 2009)」、「PS&D」を基に農林水産省で作成
注:人口は年、その他は年度
1970年(度)75 80 85 90 95 2000 05 08
20.0
指数 億t
%
穀物の生産量、需要量、期末在庫率等の推移
010203040
6080100120140160180200
5
10
15
20
25
(期末在庫率の推移)
単収(指数)
(収穫面積等(1970年=100))人口(指数)
需要量(右目盛)
収穫面積(指数)1人当たり
収穫面積(指数)
生産量(右目盛)
資料:農林水産省作成
近年、大きな影響を与えている要因
基礎的な要因
バイオ燃料向け等農産物需要増加
砂漠化の進行水資源の制約
中国等の急激な経済発展
世界人口の増加
所得の向上に伴う畜産物の需要増加
異常気象の頻発
家畜伝染病の発生
収穫面積の動向
単位面積当たり収量の増加
需 要
供 給
食料需給を決める要因
第Ⅱ章 食料・農業・農村の主な動向
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第Ⅱ章 食料・農業・農村の主な動向
○我が国の農産物輸入は、米国、EU、中国、豪州、カナダの上位5位の国・地域で7割を占めており、とうもろこしでは米国が9割を超えるなど、特定国に依存した構造。
○中国からの農産物輸入は、食品の残留農薬に関するポジティブリスト制が導入された2006年以降、野菜の輸入量が減少。また、輸入食品による薬物中毒事案もあり、2008年に農産物輸入額も減少に転じ、前年比で2割減。
○輸入の途絶等により深刻な事態が予想される場合、肉、野菜からいも類等熱量効率の高い作物への生産転換を行うなどにより、食事内容は現在とかけ離れたものとなるものの、国内生産のみでも1人1日当たり2,000kcal程度の熱量供給の確保は可能と試算。
○不測の事態に的確に対処するためにも、平素から、農地や担い手、農業技術の確保により国内農業の食料供給力(食料自給力)の強化を図る必要。
資料:財務省「貿易統計」を基に農林水産省で作成
我が国の主な農産物輸入相手国(2008年)
米国32.5%米国32.5%米国32.5%
EU12.8%EU12.8%EU12.8%中国
9.3%中国9.3%中国9.3%
豪州8%豪州8%豪州8%
カナダ7.4%カナダ7.4%カナダ7.4%
その他30%その他30%その他30%
5か国・地域で70%5か国・地域で70%5か国・地域で70%
輸入総額5兆9,821億円
中国からの農産物の輸入額及び野菜の輸入量の推移
資料:財務省「貿易統計」を基に農林水産省で作成
野菜の輸入量(右目盛)
農産物の輸入額
5,183
114
5,106
122
5,650
142
6,168
154
6,631
152
6,945
132
5,577
108
2002年 03 04 05 06 07 08
万t億円
0
4,000
5,000
6,000
7,000
120100
140160180200
2,020kcalの食事の例
資料:農林水産省「パンフレット『いざという時のために』~不測時の食料安全保障について~」
朝食朝食 昼食昼食 夕食夕食
茶碗1杯 茶碗1杯粉吹きいも1皿
粕漬け1皿
焼きいも2本焼きいも1本
焼き魚1切
果物(りんご1/4個分相当)
蒸かしいも1個
加えて、うどん2日に1杯、みそ汁2日に1杯、納豆3日に2パック、牛乳6日にコップ1杯、たまご7日に1個、食肉9日に1食
単位:%1位 2位 3位 4位
とうもろこし5,776億円
米国98.7
その他1.3 - -
大豆2,448億円
米国72.3
ブラジル15.2
カナダ9.3
中国3.1
小麦3,393億円
米国60.6
カナダ23.7
豪州15.5
その他0.2
牛肉2,225億円
豪州76.3
米国14.1
ニュージーランド6.1
その他3.5
資料:財務省「貿易統計」を基に農林水産省で作成
我が国の主な農産物輸入品(2008年)
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○WTO農業交渉は、モダリティ確立に向け2008年7月に閣僚会合が行われたが、開発途上国向けの特別セーフガードをめぐり、一部の開発途上国と先進国が対立し、これらが原因となって交渉は決裂。我が国としては、「多様な農業の共存」を基本理念とし、輸出国と輸入国のバランスのとれた貿易ルールの確立を目指し、農業の一層の体質強化を進めつつ、我が国の主張が適切に反映されるように積極的に取り組む。
○FTA(自由貿易協定)/EPA(経済連携協定)交渉は、WTOの多角的貿易体制を補完するものとして「守るべきもの」はしっかり「守る」との方針のもと、食料安全保障や国内農業の構造改革の進捗状況にも留意しつつ、我が国として最大の利益が得られるよう取り組む。
○世界の栄養不足人口は、2008年には約9億6千万人と推定。2008年7月のG8洞爺湖サミット等において、世界の食料生産の拡大や農業投資の重要性を確認。
我が国は、世界の食料安全保障の確保に寄与することを基本にODAを実施。世界のODA総額に占める農業分野の割合が減少傾向にあるなか、その割合が高まる努力をするとともに、農業開発支援の内容を一層充実させる必要。
WTO 農業交渉の流れ
(ラウンド立ち上げ)
(先進国と途上国が
対立し、決裂)
(先進国と途上国が
対立し、決裂)
(輸出補助金撤廃・
LDC対策等を決定)
議長案に基づく集中的・専門的議論 <現時点>
カンクン閣僚会議
交渉中断
日本提案
農業交渉開始
ドーハ閣僚会議
枠組み合意
香港閣僚宣言
議長案提示
閣僚会合
再改訂議長案提示
モダリティ合意
譲許表案の提出
譲許表交渉
最終合意
2000年3月 12月
01年11月
03年9月
04年7月
05年12月
08年7月21日~7月 12月
06年 07年 7月~1月
資料:農林水産省作成 モダリティ交渉
我が国のEPA/FTAをめぐる状況
シンガポールメキシコマレーシアチリタイインドネシアブルネイASEAN全体(注1)フィリピンベトナムスイス韓国(注2)GCC(注3)インド豪州
2002年 03 04 05 06 07 08 09
★発効(4月)交渉(11月~) ☆署名(9月)
発効・署名・大筋合意
交渉中
☆署名(8月)
☆署名(6月)
☆署名(9月)
☆署名(2月)
☆署名(3月)☆署名(4月)
交渉(1月~)
交渉(2月~)
交渉(2月~)
交渉(7月~)
交渉(6月~)
交渉(4月~)
交渉(2月~)
交渉(1月~)○大筋合意(9月)
交渉(5月~)○大筋合意(9月)
交渉(12月~)
交渉(9月~)
交渉(1月~)
交渉(4月~)
★発効(7月)
★発効(9月)
★発効(11月)
★発効(7月)
★発効(7月)
★発効(12月)
★発効(12月)
☆署名(1月)
★発効(11月)(4月~) (3月) (9月)見直し交渉 ☆署名★発効
☆署名(12月)
☆署名(12月)
資料:農林水産省作成注:1)ASEAN全体とのEPAは、シンガポール、ラオス、ベトナム、ミャンマー(2008年12月)、ブルネイ(2009
年1月)、マレーシア(2009年2月)との間で発効。今後、他の4か国との間で各国の国内手続完了の通告後に発効予定
2)韓国とは、2004年11月以降交渉が中断。2008年6月と12月に「日韓経済連携協定締結交渉再開に向けた検討及び環境醸成のための実務協議」を開催
3)GCC(湾岸協力理事会)加盟国:バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦
ア セ ア ン☆署名完了(4月)
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第Ⅱ章 食料・農業・農村の主な動向
○我が国の2007年度の供給熱量ベースの総合食料自給率は、前年度より1ポイント上昇して40%。その主な要因は、天候に恵まれ小麦の生産量が過去10年で最高となったことや、米の1人1日当たりの消費量が増加したこと。生産額ベースの総合食料自給率は、野菜や米の価格低下、輸入飼料価格の高騰により2ポイント低下し、66%。
○食生活は便利で多様なものとなっているが、1965年度と2007年度の食事の内容を比較すると、ごはんが約半分に減る一方、肉や卵、油脂類を使った料理が増加。
○供給熱量ベースの総合食料自給率が長期的に低下してきた要因は、国内で自給可能な米の消費が減少する一方、国内生産では供給困難な飼料穀物が必要な畜産物や油糧原料を使用する油脂類の消費が増加したこと。また、食の外部化が進展するなか、外食、中
なかしょく
食等の実需者の加工・業務用需要の高まりに対応しきれていないことも一因。
(2)食料自給力・自給率の向上に向けた取組
1日5杯(1食150g換算)月1回
(1食150g換算)月1~2回
(10個入 パック) 3週間で 1パック 週に2本 年に3本
1日300g程度
1日80g程度
1日80g程度
1日3杯 月3回 月6回 2週間で1パック
週に3本 年に9本 1日260g程度1日110g程度
1日90g程度
※73%
※40%
資料:農林水産省「食料需給表」を基に農林水産省で作成 注:※は供給熱量ベースの総合食料自給率
〔自給可能〕 〔 飼料は輸入 〕 〔原料は輸入〕 〔加工品の輸入が増加〕
2007年度2007年度2007年度
1965年度1965年度1965年度(牛乳びん) (1.5kgボトル)
ごはん 牛肉料理 豚肉料理 卵料理 牛 乳 植物油 野 菜 果 実 魚介類
1人当たりの食事の内容と食料消費量の変化
資料:農林水産省「食料需給表」 注:[ ]内は国産熱量の数値
20 40 60 80 100 20 40 60 80 1000
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
0% %
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
供給熱量の構成の変化と品目別の食料自給率(供給熱量ベース) 総供給熱量 2,551kcal / 人・日[国産供給熱量 1,016kcal / 人・日]
1,090kcal[1,090kcal]
輸入飼料による生産部分
自給部分
輸入部分292kcal[81kcal]
159kcal[52kcal]
157kcal[74kcal]
総供給熱量 2,459kcal / 人・日[国産供給熱量 1,799kcal / 人・日]
米 100%
畜産物47% 45%
油脂類 33%
小麦 28%
砂糖類 31%
野菜 100%野菜 100%野菜 100%
その他 68%
大豆 41% 大豆 41% 大豆 41% 果実 86%果実 86%果実 86%
%%
(供給熱量割合)
314kcal[76kcal]
75kcal[58kcal]126kcal[78kcal]
79kcal[19kcal]66kcal[25kcal]
363kcal[12kcal]
324kcal[45kcal]
207kcal[69kcal]
399kcal[63kcal]
597kcal[571kcal]
(品目別供給熱量自給率)【1965年度】(供給熱量総合食料自給率73%)
(品目別供給熱量自給率)【2007年度】(供給熱量総合食料自給率40%)
米 96%
畜産物16%畜産物16%畜産物16% 50%
油脂類 3%
小麦 14%小麦 14%
砂糖類33%砂糖類33%
魚介類 62%野菜 77%野菜 77%野菜 77%大豆大豆大豆 24%24%24%
果実果実果実 37%37%37%
その他24%298kcal
[204kcal]39kcal[34kcal]55kcal[23kcal]74kcal[74kcal]99kcal[108kcal]
196kcal[60kcal]
供給熱量の構成の変化と品目別の食料自給率(供給熱量ベース)
魚介類 110%魚介類 110%魚介類 110%
(供給熱量割合)
(供給熱量割合)
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○食料自給率目標(2015年度に供給熱量ベースで45%、生産額ベースで76%)の達成に向け、農業生産面に加え、食料消費面の取組も合わせた両面にわたる取組を行うことが重要。
また、食料に関する問題意識を共有し、消費者、企業、団体、地方公共団体といった関係者が一体となって国産農産物の消費拡大等を具体的に推し進めることが重要な課題。
○食料自給率向上に向けた国民運動「FOOD ACTION NIPPON」が2008年10月にスタート。個人、企業、団体等の自主的な参画により、国産食材を活用した新商品の開発、国産食材にポイントを付与する取組をはじめ、国産農産物の消費拡大等に向けた様々な取組を展開。
○供給熱量ベースの食料自給率を1%向上させるために必要な消費の拡大量は、国民1人当たりにすると、ごはんであれば、一食につきもう一口の消費をふやせば良いという試算。
資料:農林水産省作成
関係者の取組(例)
食料自給率目標の達成
国民・日本型食生活の実践 ・国産農産物の消費を増加 ・食べ残し・廃棄の抑制
食品製造・流通・外食関係事業者・消費者ニーズに 対応(信頼確保)・適正な表示の実施
政府・食料自給率向上に向けた取組を支援 ・不測時に備えた体制整備
国民運動による取組望ましい食料消費の姿の実現・栄養バランスの改善・食べ残し・廃棄の減少生産努力目標の実現・消費者・実需者ニーズに対 応した国内農業生産の拡大
農業生産者・農業団体・農地の有効利用・消費者・需要者 ニーズに対応
食料自給率目標達成に向けた関係者の取組
「FOOD ACTION NIPPON」が訴えること
資料:農林水産省「食料需給表」等を基に農林水産省で作成 注:消費の増加に見合う分、輸入に頼る他の品目の消費が減少するものと仮定して試算
国産小麦100%使用のうどんを月にもう3杯国産小麦100%使用のうどんを月にもう3杯国産小麦100%使用のうどんを月にもう3杯
国産大豆100%使用の豆腐を月にもう3丁国産大豆100%使用の豆腐を月にもう3丁国産大豆100%使用の豆腐を月にもう3丁
ごはんを一食につきもう一口
ごはんを一食につきもう一口
ごはんを一食につきもう一口
食料自給率(供給熱量ベース)を1%向上させるために必要な消費の拡大量(試算)
「FOOD ACTION NIPPON」は、「日本の食を次の世代に残し、創る」ために、日本の食料自給率の向上を目指した国民運動で、より多くの国産農産物を食べることによって食料自給率の向上を図り、食の安全と豊かさを確かなものとして子供たちの世代へ引き継いでいくことを目指しています。また、「食料自給率を高めていくためには、国はもちろん、みんなが力を合わせることが必要」として、次の5項目を提案し、「できることから始めよう」と呼びかけています。
1.「いまが旬」の食べものを選びましょう2.地元でとれる食材を日々の食事に活かしましょう3.ごはんを中心に、野菜をたっぷり使ったバランスのよい食事を心がけましょう4.食べ残しを減らしましょう5.自給率向上を図るさまざまな取組を知り、試し、応援しましょう(FOOD ACTION NIPPONのホームページ(http://www.syokuryo.jp/)より抜粋)
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第Ⅱ章 食料・農業・農村の主な動向
○朝食の欠食率は、男性は30歳代(30.2%)、女性は20歳代(24.9%)で最も高いほか、野菜・果物の摂取量が不足するなどの食生活をめぐる問題が顕在化。子どもの生活習慣の乱れは、学習意欲や体力等の低下要因として指摘。朝食の摂取は生活習慣の形成上重要。
○食生活をめぐる様々な問題に対処するため、食に関する知識や判断力を身に付ける食育が重要。「食事バランスガイド」を認知し、また、参考にしている者の割合も上昇。
○小売、中食、外食産業をはじめ、様々な場面で「食事バランスガイド」の活用を促すために必要な情報をより積極的に提供し、健全な食生活の実現を図ることが重要。また、「食事バランスガイド」を活用した「日本型食生活」の実践を促進することが重要。
(食育の推進状況)
朝食の摂取と学力調査の正答率
資料:文部科学省「平成20年度全国学力・学習状況調査」 注:国語A、算数・数学Aは主として「知識」、国語B、算数・数学Bは主として「活用」に関する問題
0
40
60
80
100
算数B算数A国語B国語A0
40
60
80
100% %
数学B数学A国語B国語A
全く食べていない
あまり食べていないどちらかといえば、
食べている毎日食べている67
52
74 7664 67
52433734
564946
555047
70666353453935
666055
433631
585247
(小学校第6学年) (中学校第3学年)
食事バランスガイドの認知度及び参考度
資料:(財)食生活情報サービスセンター「平成17年度食行動等実態調査」(2006年1月調査)、(社)農山漁村文化協会「平成18年度『食事バランスガイド』等の普及状況調査 郵送モニター調査編」(2007年2月調査)、(社)農山漁村文化協会「平成19年度『食事バランスガイド』等の普及状況調査 郵送モニター調査編」(2008年2月調査)、(株)ジェイアール東日本企画「平成20年度『食事バランスガイド』認知及び参考度に関する全国調査郵送モニター調査」(2009年2月調査)を基に農林水産省で作成
注: 東京圏・近畿圏及び地方圏に居住する満20歳以上70歳未満の男女、2005年度2,100人、2006年度2,500人、2007年度2,500人、2008年度2,441人を対象として実施(回収率はそれぞれ87.3%、91.8%、93.4%、95.4%)
0 20 40 60 80 100%
内容を含め知っている その他、無回答知っている
参考にしている 参考にしていない等
2005年度
06
07
08
4.52.9 18.5 知らない 71.82.1
7.8 5.1 27.9 57.31.8
10.6 9.6 38.6 40.2
1.0
18.0 7.8 名前程度は聞いたことがある 44.5 28.71.0
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事 例 観光地における「地産地消」の実践
旅行情報誌の発行等を行う研究所は、三重県菰こも
野の
町ちょう
の湯の山温泉をモデル地域として、地産地消の取組を通じて宿泊客の「食」に関する満足度を高めるプロジェクトを立ち上げた。 この取組を始めた背景として、宿泊業界は地域単位での地産地消の取組が少なく、「地産地消って難しい」というイメージがあり、旅行者の「地元の食を味わいたい」という期待にどうこたえるかという課題をかかえていたことがあげられる。 このため、プロジェクトでは、まず、宿や地域の「地産地消」に対する意識を変え、認識を共有することから始めた。そして、「地産地消」の範囲を県産に広げ、県産品を夕食に加えて朝食やお茶時に提供したり、食材や産地情報をお品書きで宿泊客にわかりやすく伝えたりするといった取組を行った。 このような取組により、8割を超える宿泊客から「湯の山温泉らしい食を味わえた」と評価されるなど、宿泊客の「食」に対する満足度は高まった。また、三重県食材の新たな発掘、流通ルートの開拓にもつながっている。今後も「地元ならではの食」、「食を通したコミュニケーション」を地域一体で考え、できることから実践していくこととしている。
○地産地消は、地域で生産された農産物を地域で消費するだけでなく、生産者と消費者を結び付け「顔が見え、話ができる」関係づくりを行う取組。食料自給力・自給率の向上や地域農業の活性化につながるだけでなく、農産物の輸送に伴うCO2排出量の削減が期待。
○学校給食法の改正により、学校給食での地域の産物の積極的利用を位置付け、また、学校給食を活用した食育を推進。学校給食での地域の産物の利用促進は、農産物直売所等が流通コーディネーターの役割を果たすなど、地域の産物を安定的に供給する体制づくりが重要。
○地産地消の活動拠点である農産物直売所の年間販売額は、平均8,870万円(2006年度)で、3年前と比べ19%増加。農産物直売所のなかには、他の農産物直売所とのネットワークを形成し、地域農産物の相互供給を行うなどの取組もみられ、こういった取組により、流通コスト分を生産者所得にできるといった効果が期待。
(地産地消の推進状況)
学校給食における米飯給食の実施と地域の産物の活用状況
資料:文部科学省「米飯給食実施状況調査」、「学校給食における地場産物の活用状況調査」(2007年度) 注:1)完全給食を実施する公立小・中学校のうち、約500校を対象に実施 2)使用割合は、学校給食に使用した食品数のうち、地域の食品数の割合(食材数ベース)
米飯給食実施回数全国平均 週3.0回
4回 (1県)3~4回(32府県)3回未満(14都道府県)
地域の産物の活用率全国平均 23.3%
30%超 (14道県)20~ 30%(26府県)20%未満 (7都府県)
資料:じゃらんリサーチセンター 「とーりまかし第12号」(2008年6月)
地産地消をはじめる4つのポイント
11 22
44 33
「地産地消」は特別なことじゃない
食材は県単位で考えよう
食の接点は夕食だけじゃない!
宿泊客とのコミュニケーション
が大切
愛知県
三重県奈良県
京都府菰野町
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第Ⅱ章 食料・農業・農村の主な動向
○食料産業は我が国経済のなかで一大産業分野を形成しており、食用農水産物の生産段階では輸入を含め11兆円の規模が、加工・外食等の段階を経るにつれてその価値は高まり、飲食費の最終消費段階で74兆円の規模まで7倍に増加。
○食品産業における食品廃棄物等の発生量は、年間1,100万t程度あるなか、食品リサイクル法で規定している飼料、肥料等への再生利用等の実施率は54%まで上昇。
○食品リサイクル法の改正(2007年12月)により、小売業や外食産業での飼料化、肥料化の取組を一層推進。また、市町村の枠組みを超えた食品循環資源の回収やリサイクルによって生産された農畜産物等の利用がさらに促進されたため、リサイクル・ループの構築を行う取組が進展。
○食品ロス発生量は、食品関連事業者と一般家庭から排出されるものを合わせると、年間500~ 900万tと推計。食品ロス削減に向けて、食品産業、消費者が、食べ物に対する感謝の心を大切にするという意識を共有し、適切な在庫管理による発生量の削減や、規格外品を食品として有効活用するなど、各段階で取り組んでいくことが重要。
(食料産業の取組)
資料:総務省他9府省庁「平成17年産業連関表」を基に農林水産省で試算 注:1)食用農水産物には、特用林産物(きのこ等)を含む。精穀(精米、精麦等)、と畜(各種肉類)、冷凍魚介類は、
食品製造業を経由する加工品であるが、最終消費においては「生鮮品等」に含めている。 2)旅館・ホテル、病院等での食事は、「外食」ではなく、使用された食材費をそれぞれ「生鮮品等」及び「加工品」
に計上している。
食用農水産物
国内生産9.4兆円
生鮮品の輸入1.2兆円
飲食費の最終消費73.6兆円(100%)
生鮮品等13.5兆円(18.4%)
加工品39.1兆円(53.2%)
外食20.9兆円(28.5%)
食用農水産物の生産から飲食費の最終消費に至る流れ(2005年)
3.0兆円直接消費向け
0.3兆円
5.8兆円加工向け
0.7兆円
0.6兆円外食向け
0.1兆円
1.4兆円1次加工品の輸入
3.9兆円最終製品の輸入
食品廃棄物等の発生の流れ
資料:農林水産省「平成17年度食料需給表」、「平成18年食品循環資源の再生利用等実態調査報告(平成17年度実績)」、「平成17年度食品ロス統計調査」、環境省「一般廃棄物の排出及び処理状況等、産業廃棄物の排出及び処理状況等(平成17年度実績)」を基に農林水産省で作成
焼却または埋立処分量(1,400万t)
食品由来の廃棄物(1,900万t)
うち可食部分と考えられる量(500~ 900万t)※いわゆる食品ロス
廃棄物(1,100万t)
うち可食部分と考えられる量(食べ残し、過剰除去、直接廃棄)(200~ 400万t)
食品資源の利用主体
食品資源の利用主体
有価取引される製造副産物(300万t)※大豆ミール等
再生利用量(500万t)
食品廃棄物等排出量(1,100万t)
廃棄物(800万t)
うち可食部分と考えられる量(規格外品、返品、売れ残り、食べ残し)(300~ 500万t)①食品関連事業者
・食品製造業 ・食品卸売業、 小売業 ・外食産業
②一般家庭
食用仕向量(9,100万t)
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○安全な食品を消費者に供給し、健康への悪影響を未然に防ぐためには、リスク分析の枠組みのもと、農場から食卓にわたるフードチェーンにおいて、食品の安全性向上のための取組の徹底を図る必要(フードチェーンアプローチ)。
○食品の安全確保に当たっては、危害防止のために特に重点的に管理すべきポイント(重要管理点)を常時監視・記録する工程管理手法であるH
ハ サ ッ プ
ACCP(危害分析・重要管理点)を導入することにより、安全性を高めることが重要。
(3)食の安全と消費者の信頼の確保
国産及び輸入食品の安全確保
資料:農林水産省作成
フードチェーン
生産者 農畜水産物生産段階 加工・流通段階
食品 消費者
農林水産省(国産農林水産物等の生産、流通及び消費の改善を通じた安全確保)
厚生労働省(国内流通食品の監視)
厚生労働省(輸入検疫の実施)輸出検疫担当部局農業部局
輸出国
(農薬取締法等による国内の生産資材の規制等) 連携
連携
国産品
輸入品
リスク分析の枠組み
資料:農林水産省作成
■リスクコミュニケーションリスク分析の全過程において、消費者等関係者間でリスクについての情報・意見を交換すること
何らかの問題が発生する可能性がある場合、問題発生を未然に防止したり悪影響の起きる可能性を低減したりすること
リスク分析
■リスク管理どの程度のリスクがあるのかを実態調査すること等により知ったうえで、リスクを低くするための措置を検討し、必要に応じて適切な措置をとること
■リスク評価食品中に含まれる有害物質等を摂取することにより、どのくらいの確率でどの程度の健康への悪影響が起きるかを科学的に評価すること
リスク管理の枠組み
④リスク管理の再検討事業者等の取組や汚染状況等のモニタリングを通じてリスク管理措置の有効性を検証し、その結果に応じてリスク管理の再検証
②リスク管理措置の策定生産者・事業者に対し、安全性を向上させるためにとるべき対策を具体的に提示(実施指針等)するなど
③リスク管理措置の実施②の実施指針等の内容を工程管理手法(GAP、HACCP等)に組み込むこと等により、生産者・事業者に普及
①リスク管理の初期作業食品安全に関する問題点の特定、科学的知見の収集・解析、危害要因の優先度の分類、汚染実態等の調査、汚染低減技術等の開発・改良 等
ギャップ
ハサップ
資料:農林水産省作成
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第Ⅱ章 食料・農業・農村の主な動向
事 例組合員の意識向上につながるGAPの取組
○他方、農業生産現場においては、2011年度までに米麦や野菜・果樹等の主要な産地(2千産地)において農業生産工程管理手法(G
ギ ャ ッ プ
AP)の導入を目指しており、これまでに1,138産地(2008年7月末現在)で導入。
○消費者の信頼を確保するためには、コンプライアンス(法令の遵守及び倫理の保持等)の徹底が必要。また、食品表示Gメンによる不適正表示の監視と、食品表示110番や食品表示ウォッチャー等、行政と消費者が一体となった監視により、厳しく取締り・指導。
○トレーサビリティは、食品の移動を把握できるようにするものであり、各事業者が食品の入出荷記録を作成・保管することが重要。問題が発生した際に、問題のあった商品の特定等が可能となり、生産者、消費者等にとって有益。
○食品小売業者のトレーサビリティ導入率は増加傾向にあるが、中小企業はコスト面の問題からその導入に遅れ。今後、低コストで容易に取り組める方法を普及・浸透させる必要。
千葉県香か
取とり
市し
の農事組合法人では、生産者自らが主体的に考え実行するという「生産者の自立」を原点に、誰もが安心して、おいしく食べられる食品をつくること、自然環境を保全することを目指しており、取引先、消費者、そして世界中の農業関係者との交流を大切にしている。 同法人は、組合員が理解しやすく前向きに取り組める基準書の策定をきっかけに世界標準といわれるE
ユ ー レ ッ プ ギ ャ ッ プ
UREPGAP(現在はGグ ロ ー バ ル ギ ャ ッ プ
LOBALGAP)の認証を受けたが、審査の際、農場責任者自身もニュージーランドで牧場を営む審査員から生産者目線での助言を受け、農場運営の改善に役立つと感じたという。 GAPの取組内容は、日々のチェック方法、ほ場管理、農薬使用等の記録とその保管方法、作業者の教育訓練方法、衛生管理や事業者の健康管理方法等多岐にわたっている。GAPの導入が直接売上げの増加にはつながってはいないが、組合員の意識の向上、組織的生産へのステップアップに有効と考え、今後、さらに組合員の理解と実践を促進することとしている。
GAPに基づく農薬保管
トレーサビリティの基本的な考え方
資料:農林水産省作成
品 目出荷日出荷先出荷量
品 目仕入日仕入元仕入量
品 目出荷日出荷先出荷量
品 目仕入日仕入元仕入量
※矢印の向きは、 商品と問合せの 流れを示す。
流通段階で作成・保存 小売段階で作成・保存 消費者生産段階で作成・保存
トレーサビリティ導入率の推移(食品小売業者)
資料:農林水産省「食品産業動向調査」
0
10
20
30
40
50%
一部の食品に導入すべての食品に導入
070605042003年度6.46.212.6
11.2
17.3
28.5
14.8
21.0
35.8
14.6
24.2
38.8
20.0
23.4
43.4
生鮮食品の不適正表示比率の推移(米穀を除く農畜水産物、商品数ベース)
資料:農林水産省「生鮮食品の品質表示実施状況調査」 注:各年度とも小売店舗500万商品以上を対象として、名称及び原産地の表示状況を調査
%
0
1
2
3
4
5
070605042003年度
名称
原産地1.2 1.2
0.8 0.5 0.4
4.3
2.6
1.61.0 0.8