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Cas Comp応用回路を使った 単段平衡ライン・アンプの製作 ●出力トランスつきでハイレゾ再生を目指す 手軽に作れるライン・アンプを 筆者が最近平衡接続にこだわり出 したことは,昨年の本誌11月号で は50CAIO CSPPを, 5月号と6 月号ではKT88の三溝CSPPの平 衡パワー・アンプを報告したことで ご承知かと思います. これらのアンプはいくつかの試聴 会で好評を得,自宅では現役の最前 線にいますが 入力は平衡接続用の XLR端子となっていますから,当 然のことながら,平衡出力を持つプ リアンプ(コントロール用ライン・アンプ) がないと音量調整はもちろんのこ ど,ソース切り替えのうえでも不便 で仕方ありません. そこで 手軽に作れるライン・ア ンプはないかと物色したところ,塞 動アンプの提唱と実践で神様的存在 となっている木村哲氏(自歓べるけ さん)のサイト(http://wwwop 316.com/tubes/tubeshtm)に,ライン・ トランスを出力段に使ったFET式 平衡プリアンプの記事があることに 気付きました(このサイトは非常に有益 ですから.ぜひご一読をお奨めします). 18 ここには回路の解説のみならず 製作上の勘所に加え,希望者には氏 が選別し特注を揃えた部品1式力瀬 布されるという至れり尽くせりの情 報が満載です.早速このアンプの部 品頒布を受け,ライン・トランスは 自分流のバイファイラー巻きのもの に変更して製作し現在.拙宅にて就 役中ですが なかなかすぼらしい音 ですし.使い勝手も上々です.これ に刺激を受けて,というか気をよく して,真空管式でもライン・アンプ を作ってみたくなった次第で 今回 はその報告です. ところで 出力トランスつきとい うと"色付け"に拒否感を示される かたも多かろうと思いますが 出来 のよいトランスを使うと"色付け' という否定的表現ではなぐ一定の キャラクター"という積極的表現が マッチします.筆者には躍動感とし て認識されます. これが嫌いといわれてしまえばそ れまでですが そもそもマイクロフ ォンを始めとして業務用機器の殆ど はライン・トランスを経由しての入 出力平衡接続ですから,われわれが 看塩田春樹音 便う音源のほとんどはライン・トラ ンスの影響下にあり,これを拒否的 に考えることば ある意味でナンセ ンスでもあります. しかも,トランス出力にすると. 平衡出力のコールド側をアースすれ ば不平衡出力になり,そのうえゲイ ンは変化しませんから.まだまだ多 い不平衡入力のパワー・アンプとの 接続が容易になり,常用プリアンプ としての存在価値が上がります(トラ ンス出力でない場合.単純にコールド側を アースするとトラブルが起きたり,ゲイン が半分になるので厄介です(調は前述の サイトにくわしい).諸兄には一度,也 力トランスつきライン・アンプを試 してみてはいかがでしょう. 回路の考えかた ライン・アンプに真空管を使う際 に最も官憲すべきことは残留雑音で す.パワー・アンプは入力VRの有 無を問わず通常はフル・ポリェ-ム ですから,そのアンプの利得にもよ りますが たとえば15倍程度(20- 30Wアンプ)だとすると,ライン・ア ンプの残留雑音が0.1mV Lかなく てもパワー・アンプからは1.5mA が出力されるので さほど高能率で はないスピーカでも結構耳につくノ イズが出ることになります.楽曲の 再生中はまったく気にならないもの の,楽音の切れ目での静寂を要求さ れる場面ではトランジスタ・アン プの無音に慣れた多くのかたの耳に は気になることでしょう. 電源回路や部品レイアウトには細 ジオ技術

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Cas Comp応用回路を使った

単段平衡ライン・アンプの製作

●出力トランスつきでハイレゾ再生を目指す

手軽に作れるライン・アンプを

筆者が最近平衡接続にこだわり出

したことは,昨年の本誌11月号で

は50CAIO CSPPを, 5月号と6

月号ではKT88の三溝CSPPの平

衡パワー・アンプを報告したことで

ご承知かと思います.

これらのアンプはいくつかの試聴

会で好評を得,自宅では現役の最前

線にいますが 入力は平衡接続用の

XLR端子となっていますから,当

然のことながら,平衡出力を持つプ

リアンプ(コントロール用ライン・アンプ)

がないと音量調整はもちろんのこ

ど,ソース切り替えのうえでも不便

で仕方ありません.

そこで 手軽に作れるライン・ア

ンプはないかと物色したところ,塞

動アンプの提唱と実践で神様的存在

となっている木村哲氏(自歓べるけ

さん)のサイト(http://wwwop

316.com/tubes/tubeshtm)に,ライン・

トランスを出力段に使ったFET式

平衡プリアンプの記事があることに

気付きました(このサイトは非常に有益

ですから.ぜひご一読をお奨めします).

18

ここには回路の解説のみならず

製作上の勘所に加え,希望者には氏

が選別し特注を揃えた部品1式力瀬

布されるという至れり尽くせりの情

報が満載です.早速このアンプの部

品頒布を受け,ライン・トランスは

自分流のバイファイラー巻きのもの

に変更して製作し現在.拙宅にて就

役中ですが なかなかすぼらしい音

ですし.使い勝手も上々です.これ

に刺激を受けて,というか気をよく

して,真空管式でもライン・アンプ

を作ってみたくなった次第で 今回

はその報告です.

ところで 出力トランスつきとい

うと"色付け"に拒否感を示される

かたも多かろうと思いますが 出来

のよいトランスを使うと"色付け'

という否定的表現ではなぐ一定の

キャラクター"という積極的表現が

マッチします.筆者には躍動感とし

て認識されます.

これが嫌いといわれてしまえばそ

れまでですが そもそもマイクロフ

ォンを始めとして業務用機器の殆ど

はライン・トランスを経由しての入

出力平衡接続ですから,われわれが

看塩田春樹音

便う音源のほとんどはライン・トラ

ンスの影響下にあり,これを拒否的

に考えることば ある意味でナンセ

ンスでもあります.

しかも,トランス出力にすると.

平衡出力のコールド側をアースすれ

ば不平衡出力になり,そのうえゲイ

ンは変化しませんから.まだまだ多

い不平衡入力のパワー・アンプとの

接続が容易になり,常用プリアンプ

としての存在価値が上がります(トラ

ンス出力でない場合.単純にコールド側を

アースするとトラブルが起きたり,ゲイン

が半分になるので厄介です(調は前述の

サイトにくわしい).諸兄には一度,也

力トランスつきライン・アンプを試

してみてはいかがでしょう.

回路の考えかた

ライン・アンプに真空管を使う際

に最も官憲すべきことは残留雑音で

す.パワー・アンプは入力VRの有

無を問わず通常はフル・ポリェ-ム

ですから,そのアンプの利得にもよ

りますが たとえば15倍程度(20-

30Wアンプ)だとすると,ライン・ア

ンプの残留雑音が0.1mV Lかなく

てもパワー・アンプからは1.5mA

が出力されるので さほど高能率で

はないスピーカでも結構耳につくノ

イズが出ることになります.楽曲の

再生中はまったく気にならないもの

の,楽音の切れ目での静寂を要求さ

れる場面ではトランジスタ・アン

プの無音に慣れた多くのかたの耳に

は気になることでしょう.

電源回路や部品レイアウトには細

ラ ジオ技術

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心の注意を払うとしても,このあた

りはバラック実験では検証できず

やってみなければわからない領域で

す.したがって.一応出来上がって

ら, NFB量はもちろんのこと,場

合によっては利得の変更はおろか,

回路変更やレイアウト変更もあるべ

し,との覚悟とフレキシtfl)ティを

もって臨む必要があります.

前置きが長くなりました.第1図

が本機の全回路図で 5687による

CasComp応用回路を使った単段

増幅,ライン・トランス出力の平衡

アンプです.このCasComp応用回

路という回路は 原理的には完全無

ひずみ出力が得られ,広帯域で か

つ不幡設定は自由自在という,今回

のような場合には打ってつけのスグ

レものです.カスコード管はなんで

あろうと問いません.この回路は本

誌で「実験トランジスタ・アンプ設

計諮軽」を連載しておられる黒田徹

先生の2008年の大発明です.

(第1図)

入力部をCas Comp

回路とした5687単

段平衛ライン・アン

この回路は筆者としては使い慣れ

おり,発表した多くのパワー,アン

プに使っていますが単段でライン・

アンプに使うのは今回が始めてで

す.とはいえ,昨年の本誌4月号に

CasCompによる6BQ5の単段増幅

パワー・アンプを発表していますの

で ある意味実験ずみとはいえるの

ですが ライン・アンプにCas-

Comp回路を使うとなると,それな

りの問題点がいくつかあります.

実は当初は第2図のような回路

で このまま完成にまで持ち込む予

定でした 第1図との基本的な違い

は初段とトランスの問のオペアンプ

の有無です.第2図の回路は一見単

純なのですか いくつかの考慮をし

ています.

考慮その1 : CasCompは出力イン

ピーダンスが高いので カソード・

フォロワ回路などを後段に付加して

出力インピーダンスを下げてやらね

は 実用に供せません.と同時に,

プの全回路図         soMEYA

AclOOV

二   二イ

JUL 2015

前述のとおり不平衡パワー・アンプ

と安心して接続しようとするなら.

トランス出力にする以外に手があり

ません

ということで 本殿では入力対出

力が1:lのライン・トランスを出

力デバイスとして使うことにより,

出力インピーダンス問題と不平衡対

応問題を解決します.

考慮その2:トランスというのは

いわずもがなではありますが 2次

側に接続される機器(パワー・アンプ)

の入力インピーダンスによってl次

側インピーダンスはモロに影響を受

け.出力管5687の動作条件を決め

るロード・ラインがこれによって大

きく変動してしまいます,

パワー・アンプの場合は, 2次側

には少なくとも公称8Qなどの決ま

った負荷が与えられるので1次側イ

ンピーダンスは変動せず 出力管の

ロード・ラインは変動しないのです

(実動時はスピーカのインピーダンスが変動

180k5687 日3kH.8V + 儉F3穂soMEYA o22u十十8VKAt6-12 �

一ご く⊃ N 50 一: co C) 50 �82 2H G 3C

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180k KM24-33 儡m4NK50ZFP

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ち 64V

19

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しますから,この限りではないのですが).

つまり.出力段の動作条件は,つ

ながれるパワー・アンプによって変

わってしまいます.ただ この点は

気持ちの問題としては少々落ち着き

ませんが 出力が数Vでよいプリア

ンプではさほど大きな問題ではない

として割り切ることにします.むし

ろ問題はつぎの考慮その3です.

考慮その3 : CasComp回路におけ

る利得はRp/Rkで決まります.

Rpはプレート負荷抵抗であり,ラ

イン・トランスの1次インピーダン

スがこれに相当します. Rkは増幅

管のカソード抵抗で これは純抵抗

で一定値です.もうおわかりと思い

ますが 接続されるパワー・アンプ

の入力インピーダンスでトランスの

1次インピーダンスが変動するとい

うことは,接続されるパワー・アン

プによってライン・アンプの利得,

すなわち,出力が変動するというこ

とにはかなりません.

この回路を使ううえで設計上最も

留意しなければならないのか この

変動対策です.そこで できるだけ

この変動を緩和するために.トラン

スの2次側をパワー・アンプの入力

インピーダンスより可能な限り低い

抵抗でターミネートします.こうす

ると.パワー・アンプの入力インピ

ーダンスが変動しても,クーミネ-

5687 8 33k+8V + NJM002霊H

~去①○ 33k 一〇 一20V 1 70V ��ウ「����2���В�

-20V

82(15 2mA)

〈第2図)当初計画した回路だが結果は思わしなかった

ト抵抗との合成値はターミネート抵

抗値以下になりますから,低ければ

低いほどインピーダンスの変化幅は

圧縮されるわけです.場合によって

はNFBをかけることによってこ

の変動を抑え込むようにします.

5687

考慮その4 :回路図からもおわかり

のように, NFB抵抗はトランスの2

次側にあるターミネート抵抗に並列

に入りますから,このNFB抵抗に

よってもトランスのインピーダンス

は変動してしまいます.つまり, 「考

一一°一一一一 ��ク�ネ�ナ�� �� �� �� ����

●ー ��ネ�イ� �� �� ����

-1kH2 -10kHz 劔 ��

i 劔亦� ��

〟"〟.100Hz 劔 ��

20

1 So.1 紺 S も a 仲 裁 00 �� �� �� �� �"� ��

zi �� ・--lkH

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0.00 �� �� �� �� �� ��

(第3図)第2図回路の雑音ひずみ率特性          〈第5図)第4回回路の特性. -まず安心(?)

ラ ジオ技術

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∃寒 � ��

-一つ-R 剪� ��

● �� �� ����≡ ���� � ��

出力M

(第10図)L Rチャネルの雑音ひずみ率特性

芭 〇・l

掛もiB.

匿競藻o″)1

-lkHz 一〇-10kHz +100Hz 劔�� ��

出力 M

〈第12図)トランスあり, Rチャネルの雑音ひずみ率特性

雪ol掛慕ト、

伽l

鵜001

-lkH之 ・一〇-10kHZ 一五一100H之 劔�� ��

出力(∨)

〈第14図)トランスなし. Rチャネルの雑音ひずみ率特性

場合の2ケースについて掲載します.

トランスを使用しない場合は 回

路図のトランスの1次側のAlとB

lおよびA2とB2を直結して出力

を取り出すのですがトランスはつ

けたままのデータです.したがって

「トランスあり,なし」という表現は

トランス経由の出力が「トランスあ

り」,トランス不経由の出力が「トラ

ンスなし」の意味ですから,誤解な

きようお願いします.

28

lkHz 10kHz lOOHz �� ��

王害mi○○- � ���� �� ����

-●

出力(の

く第11図)トランスあり. Lチャネルの雑音ひずみ率特性

g o.1

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5伽違oJ)1

lkHz 10kHz lOOH~ �� ��

漢。。王 �� �� �� �� ����

-●

出力(∨)

(第13図)トランスなし, Lチャネルの雑音ひずみ率特性

i-11一書 �� �� �� ��

-R一事し 一〇>iiーし-ヽR �� ��● �� ��

間臆

iiiIi臆 �� �� �� ��

811118 �� �� �� ��

第10, 11図はトランスありの場

令,第12, 13図はトランスなしの

場合です. 「トランスあり」では100

Hzのひずみ率がシミュレーション

でもわかっていたとおり, lkHzや

10kHzとはかなり離れていますが

「トランスなし」ではほほ完全に揃っ

ています.「トランスあり」は 見栄

えこそよくありませんが 十分に低

ひずみですから,実質的な差はない

と考えてよいでしょう.

0.1        1        10        100

周波(舵)

(第15図)クロストーク特性

しかし,当然ながら音は違います.

これは好みの範疇ですから,音を聴

いて決めればよいでしょう.最初か

らトランスなしとする場合は. A点

同士を18kQでターミネートします.

(3)残留雑音:

入力VR最小位置で左右それぞ

れ0.1mV, 0.08mVとなっており,

この数値だけでは単純にいえばギリ

ギl)合格です.ただ 前述のとおり

ハム成分はほとんど認められず 30

ラ ジオ技術

 

 

 

 

 

 

(CP) 3-一Yロへ

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kHzのローパス・フィルタ(LPF)で

高域をカットすると0.02mVまで

雑音は低下しますし. 80kHzの

LPFでは0.03mVとなりますから,

雑音源は高域にあるようです.多分,

NFB抵抗が大きいせいだと思われ

ます.

高域の雑音は 再生時の空気感に

ザワッキを出すといわれますが 筆

者の場合は年齢のせいもあってか,

まったく気になりませんので特に

対策はしていません.気になる場合

は整流ダイオードに力、容量のコンデ

ンサをパラに入れると軽減されまし

ょう.

(4)クロストーク(第15図)

案の定,決してよいとはいえない

レベルです.入力切替えは普及クラ

スのトグル・スイッチですし, VR

も超高級品ではありませんから,左

右入り乱れての配線では仕方ありま

せん.利便性をとると,こうなりま

す.それでも20kHz以下の可聴帯

域内では-60dBですから,一般的_

なレベルでいえ!珂でしょう.入力

切替も音量調節も左右独立してそれ

ぞれ行うようにすると, -100dB

は可能ですが それならライン・ア

ンプは不要です.

試聴と感想

利得が20倍の50Wパワー・ア

ンプをフル・ボリュームの状態で接

摸し,能率93dBのスピーカにピッ

クリ耳をつけでも,かすかなハムも

糖こえませんから,まずプリアンプ

としては第一関門合格です.

製作前にはいくつかのアンプ・キ

ットの仕様書を参考にと確認しまし

たが真空管の限界ノイズ以下とい

うあり得ない数値を掲禾しているも

のは論外としても,逆に1.5mVと

かlmVとか桁違いに大きいではな

いか,と思えるものまであり,なか

JUL 2015

なか実体は掴めません.残留雑音が

同じ0.1mVであっても,本機のよ

うにハム成分のほとんどないものか

ら.大部分がハム成分というものま

でありますから,プリアンプの場合

はパワー・アンプ以上に試聴してみ

ることが重要だと思います.

さて,音質です.真空管のプ)ア

ンプといいながら,結局真空管の前

後にオペアンプを使ったハイブリッ

ド・アンプになりましたが,オペア

ンプも本機のような使いかたをする

限りは音の色付けにはほとんど寄与

するところはないといってよい,ど

思います.このような認識のもと,

ときどき引っ張り出す古いヤマハの

プリアンプC2a,親局の英Arcam

のA32のプリ部,最近作ったFET

式差動平衡プリと,手持ちの3つの,

それもすべて半導体式のプリアンプ

との比較をしてみました 音源は

192kHz/24bitのFLACや

SACDなどのハイレゾを中心にしま

した.

真空管式は確かにややウオーム・

トーンではありますが だからとい

って決してフヤケタ音ではなく,ハ

イレゾならではの分解能を十全に再

現してみせます.表現は難しいので

すが たとえば女声の超高音であれ

ば それが突き刺さるように聴こえ

るのではなく,沿み入るように耳に

届きます.

その中にあって, 「トランスあり」

ではそこに芯と厚みのある躍動感が

加わり, 「トランスなし」ではスタテ

ィック,かつストレートで半導体式

に通じる音がします.低音は 特に

真空管だから膨らむとか暖味になる

とか,はたまた量感が不足するとい

ったマイナス要素はまったく見つけ

られませんが 半導体式よりは押出

しのよさを感じます.特に「トラン

スあり」では わずかですが「トラン

スなし」よりその感を強くします.

しかし,これらの印象は文字にす

るからであって,パワー・アンプの

違いほどではなく,スピーカの違い

とは桁はずれで ソースとの相性も

あり, 「これに止めを刺す」といえる

だけの耳の持ち合わせがないことも

あって, 「トランスあり」も「なし」も

水準以上ではないかと思います.

今回はそもそもトランス付きを標

薦して設計製作してきたこともあ

り.音も気に入っているので「トラ

ンスあり」で使っていくことにしま

すが「トランスなし」ではより物理

特性の優れたものになりますから,

ほんとうにトランスを使わないこと

もアリではないかと思います.

振返れば このアンプ たった1

段増幅の超シンプル回路にもかかわ

らず 実験を開始して以来いろいろ

な課題にぶつかり.その都度基礎デ

ータを集めては回路を作り直すなど

の試行錯誤の繰り返しで 途中でパ

ワー・アンプ製作に浮気したりした

こともあって,ここに至るまでに3

ケ月もかかってしまいました しか

し,この3ケ月は無駄ではなかった

ようです.アンプの設計・製作は,

まだまだやることが残っている奥の

深いものだと実感しています.

× ×

なお. 5月号の拙稿において染谷

電子製出力トランスASTR-21の

仕様を掲載しましたが 量産版では

2次巻線の極性が逆になりました

筆者の回路図ではコールドを緑色に

していましたが 量産版では紫にな

りますから,ご注意ください.また,

外観は合わせカバー・タイプと角形

ケース入りタイプの2種類があり,

巻線方法にもレイヤー巻きとボビン

巻きの2種類が用意されましたので

詳細は染谷電子(048-445- 1440)にお

尋ねください.

29