生命への畏敬 17 - kisshokai.orgkisshokai.org/report/seimeihenoikei17-all.pdf ·...

14
17 20192019URL http://kisshokai.org/ 私たちは、公益財団法人橘勝会を通じて、 石川県民の健康保持・増進に関する活動を応援します。 公益財団法人 橘勝会 株式会社 ジェイ・エス・エス エア・ウォーター・リンク K・M・Uインターナショナル株式会社 三谷産業イー・シー株式会社 12 20 橘勝会 活動報告 テレビ金沢 「カラダ大辞典」 アーカイブス (平成29年~令和元年放送一覧) 最新の医療技術を考える特集 脂肪幹細胞による再生医療 ダビンチ手術 腎臓病へ進行させない糖尿病への取り組み 肩関節疾患 白内障手術と外来手術室 TOPICS 【血液検査を読み解いて健康寿命を伸ばそう】 テレビ金沢「カラダ大辞典」クロスマガジン 生命への畏敬 17 2019 Vol. テレビ金沢「カラダ大辞典」クロスマガジン 生命への畏敬 17 2019 Vol. テレビ金沢「カラダ大辞典」クロスマガジン 生命への畏敬 17 2019 Vol.

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テレビ金沢「カラダ大辞典」クロスマガジン『生命への畏敬』第17号 

2019年 2019年 月 日発行

発行 

公益財団法人橘勝会 

電話

076(218)8310 

URL http://kisshokai.org/

〒920―

0293 

石川県河北郡内灘町大学1―

1(学校法人金沢医科大学内)

私たちは、公益財団法人橘勝会を通じて、石川県民の健康保持・増進に関する活動を応援します。

公益財団法人 橘勝会

株式会社 ジェイ・エス・エス

エア・ウォーター・リンク

K・M・Uインターナショナル株式会社三谷産業イー・シー株式会社

12

20

橘勝会 活動報告 テレビ金沢 「カラダ大辞典」 アーカイブス (平成29年~令和元年放送一覧)

「最新の医療技術を考える」特集

脂肪幹細胞による再生医療ダビンチ手術腎臓病へ進行させない糖尿病への取り組み肩関節疾患白内障手術と外来手術室

TOPICS【血液検査を読み解いて健康寿命を伸ばそう】

テレビ金沢「カラダ大辞典」クロスマガジン

生命への畏敬 17 2019Vol.

テレビ金沢「カラダ大辞典」クロスマガジン

生命への畏敬 17 2019Vol.

テレビ金沢「カラダ大辞典」クロスマガジン

生命への畏敬 17 2019Vol.

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テレビ金沢「カラダ大辞典」アーカイブス(放送一覧)

活動報告

橘勝会

目次 テレビ金沢「カラダ大辞典」クロスマガジン

生命への畏敬 17 2019Vol.

4

金沢医科大学

肝胆膵内科学教授

再生医療センター長

堤 幹宏

最新の医療技術を考える

先進医療とその取り組み

脂肪幹細胞による再生医療

脂肪幹細胞による再生医療

特集

11

誰もが享受できる低コストかつ安全性を追求、脂肪幹細胞を駆使した再生医療

10

金沢医科大学副学長

泌尿器科学

教授

宮澤

克人

ダビンチ手術

ダビンチ手術

特集

22

低侵襲・確実性の高い前立腺がん手術、「ダビンチ」の躍進。

12

金沢医科大学

呼吸器外科学主任教授

呼吸器外科科長

浦本

秀隆

ダビンチ手術

ダビンチ手術

❷病巣完全切除と患者さんのQOL回復のための新たな選択肢、ダビンチ。

14

金沢医科大学糖尿病・内分泌内科学教授

内分泌・代謝科科長

古家

大祐

腎臓病へ進行させない糖尿病への取り組み

腎臓病へ進行させない糖尿病への取り組み

特集

33

16

金沢医科大学 整形外科学

臨床教授

市堰 徹

肩関節疾患

肩関節疾患

特集

44

182026

金沢医科大学眼科学講座

主任教授

佐々木

金沢医科大学

臨床感染症学教授(講座主任)

感染症科科長

飯沼

由嗣

白内障手術と外来手術室

白内障手術と外来手術室

特集

55

8

金沢医科大学

整形外科学助教

舘 慶之

脂肪幹細胞による再生医療

脂肪幹細胞による再生医療

膝の痛みを抑える新たな治療法、変形性膝関節症の細胞治療

なるほどトピックス

血液検査を読み解いて健康寿命を伸ばそう

 最近の医療技術は飛躍的に進化しています。

「AI・人工知能」などの進歩により、医療技術

も目まぐるしく変化。医療の水準を超えた最新

の医療技術は「先進医療」として厚生労働大臣

から認められています。これは高度な医療技術

をもつ医療機関にのみ限定されており、その対

象となる金沢医科大学病院では日々積極的に

取り組んでいます。今回は当病院における先進

医療についてご紹介いたします。

金沢医科大学肝胆膵内科学教授再生医療センター長

堤 幹宏

金沢医科大学副学長泌尿器科学 教授

宮澤 克人

金沢医科大学整形外科学助教

舘 慶之

4

10

金沢医科大学呼吸器外科学主任教授呼吸器外科科長

浦本 秀隆

12

金沢医科大学糖尿病内分泌内科学教授内分泌・代謝科科長

古家 大祐

14

金沢医科大学 整形外科学臨床教授

市堰 徹

16

金沢医科大学眼科学講座主任教授

佐々木 洋

18

金沢医科大学臨床感染症学教授(講座主任)

感染症科科長

飯沼 由嗣

20

8

23

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本学の再生医療センターは2016年、北陸初の

本格的な再生医療の研究施設としてスタートしま

した。中枢設備である細胞調製室は、指紋認証に

よって厳しく管理された無菌室となっており、細胞

の分離・培養の最新装置を揃えています。

 

当センターにおける主要な研究課題は2つです。一

つは、今回、堤幹宏センター長が紹介した『脂肪細胞

由来の幹細胞を用いた再生医療』。もう一つは、『樹状

細胞による免疫療法』です。樹状細胞とは免疫細胞

の一種で、その名のとおり、枝のような突起を四方に

伸ばした形状をしています。ガンなどの異物を取り

込み、その特徴をリンパ球に教えて攻撃を指示す

る、免疫系の重要な役割を担っています。

 『樹状細胞による免疫療法』とは、樹状細胞を再

生してがん細胞をたたく療法です。患者さんの白血

球から樹状細胞を抽出して培養し、がん細胞の目印

を覚えさせ、ワクチンにして体内に戻します。この

療法は様々な原発性がんや転移性がんに適用でき、

抗がん剤治療との併用も可能です。当センターでは

すでに、患者さんにこの免疫療法を始めています。

医学の最前線、再生医療。新たな知見や成

果がつぎつぎと現われるこの領域におい

て、堤幹宏教授が率いる金沢医科大学再

生医療センターの研究グループは、治癒

を待ち望む患者さんにとって実現性の高

い再生医療を追求しています。脂肪幹細

胞の回復能力を一日も早く臨床に活かす

べく、研究が進められています。

1980年 金沢医科大学医学部卒業1982年 同 消化器内科助手1987年 米国Mount Sinai 医科大学 Research fellow1989年 金沢医科大学消化器内科講師1995年 同 消化器内科助教授2000年 同 医学情報学助教授 併任

2005年 奈良県立医科大学     先端医学研究機構医療情報学分野教授2009年 金沢医科大学消化器機能治療学特任教授2010年 同 肝胆膵内科科長2015年 同 再生医療センター長2016年 同 肝胆膵内科学主任教授

誰もが享受できる低コストかつ安全性を追求、

脂肪幹細胞を駆使した再生医療

金沢医科大学病院金沢医科大学病院

 

かつてヒトの人生は50年、病気で終焉を迎え

るのはやむを得ない、という時代がありました。

私の専門は肝胆膵ですので肝臓を例にとると、

大酒で肝臓を悪くして肝硬変になり、肝がんに

いたる。酒の飲み過ぎで身体を壊すことは、鎌

倉時代にはすでに知られており、吉田兼好は『徒

然草』にさまざまな病気は酒が原因である、と

書いています。一方、飲酒をしない人も肝炎にな

る。その原因がB型肝炎ウイルスであることは昭

和中期に、C型肝炎ウイルスのことは平成に見出

されました。原因がわかれば予防や治療が可能

になる。こうして医学は発展を遂げてきました。

 

それでも肝硬変になれば、今のところ、残る

手立ては肝移植しかありません。臓器移植は、

ドナー不足、巨額の治療費など数多くの問題が

あり、一般的な医療として定着するのは難しいで

しょう。あるいは、脳梗塞による身体機能マヒと

いう後遺症も、現代の医療ではもと通りにでき

ない。これが医療の限界なのか、失われた本来の

機能を回復させることはできないのか…かくし

て、再生医療という新分野が拓かれることになっ

たのです。

  

再生医療の主役は「幹細胞」です。幹細胞と

いうのは実に面白い。分裂して自身のコピー細胞

を作る自己複製能と、他の種類の細胞に分化す

る分化能を有している。しかも、普通の体細胞

は分裂回数に限りがありますが、幹細胞は、ヒ

トの寿命が尽きるまで際限なく増殖することが

できます。たとえば、血球系細胞に分化するヒ

トの造血幹細胞は主に骨髄に在り、2つに分裂

すると自身と同じ細胞を複製する一方、赤血球、

白血球、血小板、樹状細胞などに分化します。

白血病の治療で前々から行われてきた骨髄移植

とは造血幹細胞の移植であり、再生医療の先駆

けといえます。

 

再生医療に応用されている幹細胞は、主に3

種類です。一般になじみがあるのは、山中伸弥教

授が創製したiPS細胞(=人工多能性幹細胞)

でしょう。成人の皮膚細胞へある種の遺伝子を

導入することによって作られ、ほぼすべての組織

や臓器の細胞に分化できる多能性と、ほぼ限り

なく増殖できる能力を持っています。20年、30

年前には想像すらできなかった、ブレイクスルー

ともいうべき成果です。

 

iPS細胞に先んじて研究されているのがES

細胞(=胚性幹細胞)です。こちらは、受精

後数日ほど経過したヒト胚から取り出した細胞

を培養して作製され、神経細胞や血球細胞な

どさまざまな細胞に分化する能力を備えていま

す。iPS細胞と同じく、ほとんど無限に増殖

する能力もあります。しかし、ヒトの受精卵を

利用することへの倫理的議論が研究の進展を妨

げています。

 

iPS細胞については、最初の臨床研究として

2014年、網膜細胞の移植が行われましたが、

億単位の費用がかかり、網膜細胞の作製に1年

間近く費やしている。腫瘍化のリスクもある。

目下、これらの課題を解決するための研究が進

められています。ただ、巨額の費用を必要とす

る、特別な人しか恩恵を受けられないような医

療は、真の医療ではない、と私たちは考えてい

ます。

 

iPS細胞、ES細胞、そして3つ目は体性幹

細胞です。この細胞は、造血幹細胞、神経幹

細胞、間葉系幹細胞(脂肪細胞、骨、軟骨など)

のように、生体のいたる組織に存在しています

が、私たちが着目したのは脂肪幹細胞です。

皮下脂肪由来の幹細胞は2001年に発見さ

れ、脂肪だけでなく、骨、筋肉、心筋、血管

など多種の細胞に分化することが明らかになっ

ています。

 

脂肪幹細胞の利点は、比較的、安価に抽出で

きることです。日本では一般に、米国製の数千万

円もする機器を使って幹細胞を取り出していま

すが、私たちが使っているのは、イタリアで開発

された十数万円の装置。脂肪は、美容整形で行

われている脂肪吸引で大量に得られ、しかも、

脂肪が多く集まる腹部だけでなく、臀部や大腿

部からも採取できます。このキットを用いた方

法では、採取した脂肪を酵素で分解する必要が

なく培養できます。その幹細胞を目的組織へ分

化誘導する方法を施します。

 

安全性にも長じています。腹部の脂肪吸引は

からだへの負担が少なく、また、本人の幹細胞

を使って治療を行うため、免疫による拒絶反応

の懸念もありません。

 

脂肪幹細胞を使った療法には、患部に直接注

入する方法と細胞シートを作製して患部に貼り

付ける方法があります。直接注入する方法では、

変形性膝関節症や糖尿病による褥瘡や壊疽など

の治療に、また、シートを用いる方法では肝硬

変や虚血性心疾患などの治療に適用され、高い

治癒成績が確認されています。再生医療の先進

国、イタリアではすでに脂肪幹細胞を用いた症

例が数千件以上あり、ヒトへの実用化が進んでい

ます。

 

再生医療が新しい分野であることから、基礎

研究や治療技術の確立もさることながら、安全

性を証明することが重要な課題となっています。

日本では、厚生労働省認定の特定認定再生医療

等委員会で厳格に審査され、認可を得てようや

く治療ができるようになります。本院の再生医

療センターでも特定認定再生医療等委員会を立

ち上げ、臨床応用を実施するための書類や国の

認可申請などの手続きを行っています。

 

私たちは、2019年8月より変形性膝関

節症に対して脂肪幹細胞を関節腔に注射した後

の安全性を確認する治験を5例行っています。

安全性を確認でき次第、先進医療の承認、保

険適用へと推し進めていきたいと思っています。

 

幹細胞シートによる肝硬変の治療では、ラット

を用いた動物実験を行っています。ラットの肝臓

は5葉に分かれた形状をしているのですが、ラッ

トを肝硬変に罹患させ、その肝臓の1葉にだけ

シートを貼ると、5葉すべてが正常な肝臓に回

復することを確かめました。次の段階では、ブ

タに対する安全性試験を行い、ヒトによる治験へ

と進めていく予定です。

 

脂肪幹細胞が、いかにして線維化した肝細胞

を正常化するのか。ラットの実験では、肝硬変

に罹った肝細胞に対しては修復するよう作用し

ますが、正常な状態の肝細胞に対しては何の作

用も起こしません。幹細胞が産出・分泌する生

理活性物質「サイトカイン」が、損傷や異常を

来した組織に対し、細胞の修復や増殖・再生な

ど必要な作用を促すことは知られているのです

が、その具体的なメカニズムはまだわかっていま

せん。

 

脂肪幹細胞を用いた再生医療は、肝硬変、

心筋梗塞、腎不全、膵臓疾患、乳がん摘出後

の乳房再建など幅広い適用が期待されています。

ただ、「再生医療とは、特別な研究機関が行う、

特殊な医療」という観念が、少なからず医療人

の間にはあります。私たち再生医療センターの

務めは、再生医療の研究を進展させるだけでな

く、再生医療の知識や情報を院内の全診療科と

共有すること、そしてどの診療科もすんなりと

参画、連携ができるように働きかけることにも

あります。

 

私たちの見据える再生医療研究とは、iPS

細胞研究のように臓器を丸ごと一から作製するの

ではなく、もともと在る臓器や組織に対し、失

われた機能や形状を回復させるというものです。

何より、費用や時間をむやみに要せず、すべて

の人にとって身近な医療であることを目指してい

ます。

金沢医科大学 肝胆膵内科学教授再生医療センター長 堤 幹宏

つつみ みきひろ

脂肪幹細胞による再生医療

脂肪幹細胞による再生医療

特集

11

北陸初の本格的な再生医療研究拠点

従来の医療の限界を突破する、

希望の領域

iPS細胞とES細胞の

万能性と課題

「先進医療とその取り組み」「先進医療とその取り組み」 11

最新の医療技術を考える

最新の医療技術を考える

45

Page 4: 生命への畏敬 17 - kisshokai.orgkisshokai.org/report/seimeihenoikei17-all.pdf · 手術呼吸器外科領域において、これまでに2000以上の症例を経験し、 「患者さんからが

iPS細胞は、分化した体細胞がリプログラミング(初期化)され、多能性を得た細胞で、あらゆる臓器や組織に分化できる

腹部など、全身の脂肪組織から大量に採取することができるうえ、脂肪は体表面近くにあり、採取による身体への負担は小さい

脂肪由来幹細胞は、軟骨や肝臓だけでなく、心筋や膵島などの再生治療についても研究を重ねている堤センター長

 

かつてヒトの人生は50年、病気で終焉を迎え

るのはやむを得ない、という時代がありました。

私の専門は肝胆膵ですので肝臓を例にとると、

大酒で肝臓を悪くして肝硬変になり、肝がんに

いたる。酒の飲み過ぎで身体を壊すことは、鎌

倉時代にはすでに知られており、吉田兼好は『徒

然草』にさまざまな病気は酒が原因である、と

書いています。一方、飲酒をしない人も肝炎にな

る。その原因がB型肝炎ウイルスであることは昭

和中期に、C型肝炎ウイルスのことは平成に見出

されました。原因がわかれば予防や治療が可能

になる。こうして医学は発展を遂げてきました。

 

それでも肝硬変になれば、今のところ、残る

手立ては肝移植しかありません。臓器移植は、

ドナー不足、巨額の治療費など数多くの問題が

あり、一般的な医療として定着するのは難しいで

しょう。あるいは、脳梗塞による身体機能マヒと

いう後遺症も、現代の医療ではもと通りにでき

ない。これが医療の限界なのか、失われた本来の

機能を回復させることはできないのか…かくし

て、再生医療という新分野が拓かれることになっ

たのです。

  

再生医療の主役は「幹細胞」です。幹細胞と

いうのは実に面白い。分裂して自身のコピー細胞

を作る自己複製能と、他の種類の細胞に分化す

る分化能を有している。しかも、普通の体細胞

は分裂回数に限りがありますが、幹細胞は、ヒ

トの寿命が尽きるまで際限なく増殖することが

できます。たとえば、血球系細胞に分化するヒ

トの造血幹細胞は主に骨髄に在り、2つに分裂

すると自身と同じ細胞を複製する一方、赤血球、

白血球、血小板、樹状細胞などに分化します。

白血病の治療で前々から行われてきた骨髄移植

とは造血幹細胞の移植であり、再生医療の先駆

けといえます。

 

再生医療に応用されている幹細胞は、主に3

種類です。一般になじみがあるのは、山中伸弥教

授が創製したiPS細胞(=人工多能性幹細胞)

でしょう。成人の皮膚細胞へある種の遺伝子を

導入することによって作られ、ほぼすべての組織

や臓器の細胞に分化できる多能性と、ほぼ限り

なく増殖できる能力を持っています。20年、30

年前には想像すらできなかった、ブレイクスルー

ともいうべき成果です。

 

iPS細胞に先んじて研究されているのがES

細胞(=胚性幹細胞)です。こちらは、受精

後数日ほど経過したヒト胚から取り出した細胞

を培養して作製され、神経細胞や血球細胞な

どさまざまな細胞に分化する能力を備えていま

す。iPS細胞と同じく、ほとんど無限に増殖

する能力もあります。しかし、ヒトの受精卵を

利用することへの倫理的議論が研究の進展を妨

げています。

 

iPS細胞については、最初の臨床研究として

2014年、網膜細胞の移植が行われましたが、

億単位の費用がかかり、網膜細胞の作製に1年

間近く費やしている。腫瘍化のリスクもある。

目下、これらの課題を解決するための研究が進

められています。ただ、巨額の費用を必要とす

る、特別な人しか恩恵を受けられないような医

療は、真の医療ではない、と私たちは考えてい

ます。

 

iPS細胞、ES細胞、そして3つ目は体性幹

細胞です。この細胞は、造血幹細胞、神経幹

細胞、間葉系幹細胞(脂肪細胞、骨、軟骨など)

のように、生体のいたる組織に存在しています

が、私たちが着目したのは脂肪幹細胞です。

皮下脂肪由来の幹細胞は2001年に発見さ

れ、脂肪だけでなく、骨、筋肉、心筋、血管

など多種の細胞に分化することが明らかになっ

ています。

 

脂肪幹細胞の利点は、比較的、安価に抽出で

きることです。日本では一般に、米国製の数千万

円もする機器を使って幹細胞を取り出していま

すが、私たちが使っているのは、イタリアで開発

された十数万円の装置。脂肪は、美容整形で行

われている脂肪吸引で大量に得られ、しかも、

脂肪が多く集まる腹部だけでなく、臀部や大腿

部からも採取できます。このキットを用いた方

法では、採取した脂肪を酵素で分解する必要が

なく培養できます。その幹細胞を目的組織へ分

化誘導する方法を施します。

 

安全性にも長じています。腹部の脂肪吸引は

からだへの負担が少なく、また、本人の幹細胞

を使って治療を行うため、免疫による拒絶反応

の懸念もありません。

 

脂肪幹細胞を使った療法には、患部に直接注

入する方法と細胞シートを作製して患部に貼り

付ける方法があります。直接注入する方法では、

変形性膝関節症や糖尿病による褥瘡や壊疽など

の治療に、また、シートを用いる方法では肝硬

変や虚血性心疾患などの治療に適用され、高い

治癒成績が確認されています。再生医療の先進

国、イタリアではすでに脂肪幹細胞を用いた症

例が数千件以上あり、ヒトへの実用化が進んでい

ます。

 

再生医療が新しい分野であることから、基礎

研究や治療技術の確立もさることながら、安全

性を証明することが重要な課題となっています。

日本では、厚生労働省認定の特定認定再生医療

等委員会で厳格に審査され、認可を得てようや

く治療ができるようになります。本院の再生医

療センターでも特定認定再生医療等委員会を立

ち上げ、臨床応用を実施するための書類や国の

認可申請などの手続きを行っています。

 

私たちは、2019年8月より変形性膝関

節症に対して脂肪幹細胞を関節腔に注射した後

の安全性を確認する治験を5例行っています。

安全性を確認でき次第、先進医療の承認、保

険適用へと推し進めていきたいと思っています。

 

幹細胞シートによる肝硬変の治療では、ラット

を用いた動物実験を行っています。ラットの肝臓

は5葉に分かれた形状をしているのですが、ラッ

トを肝硬変に罹患させ、その肝臓の1葉にだけ

シートを貼ると、5葉すべてが正常な肝臓に回

復することを確かめました。次の段階では、ブ

タに対する安全性試験を行い、ヒトによる治験へ

と進めていく予定です。

 

脂肪幹細胞が、いかにして線維化した肝細胞

を正常化するのか。ラットの実験では、肝硬変

に罹った肝細胞に対しては修復するよう作用し

ますが、正常な状態の肝細胞に対しては何の作

用も起こしません。幹細胞が産出・分泌する生

理活性物質「サイトカイン」が、損傷や異常を

来した組織に対し、細胞の修復や増殖・再生な

ど必要な作用を促すことは知られているのです

が、その具体的なメカニズムはまだわかっていま

せん。

 

脂肪幹細胞を用いた再生医療は、肝硬変、

心筋梗塞、腎不全、膵臓疾患、乳がん摘出後

の乳房再建など幅広い適用が期待されています。

ただ、「再生医療とは、特別な研究機関が行う、

特殊な医療」という観念が、少なからず医療人

の間にはあります。私たち再生医療センターの

務めは、再生医療の研究を進展させるだけでな

く、再生医療の知識や情報を院内の全診療科と

共有すること、そしてどの診療科もすんなりと

参画、連携ができるように働きかけることにも

あります。

 

私たちの見据える再生医療研究とは、iPS

細胞研究のように臓器を丸ごと一から作製するの

ではなく、もともと在る臓器や組織に対し、失

われた機能や形状を回復させるというものです。

何より、費用や時間をむやみに要せず、すべて

の人にとって身近な医療であることを目指してい

ます。

iPS細胞

血液 皮膚心臓 胃 脳

皮下脂肪採取

脂肪由来の幹細胞の

魅力の数々

驚異的な再生能力の実用化には

安全性の確認が課題

夢の医療を

身近な、現実的な医療へ

幹細胞抽出

心筋肝臓組織

軟骨

金沢医科大学病院金沢医科大学病院「先進医療とその取り組み」「先進医療とその取り組み」 11

67

Page 5: 生命への畏敬 17 - kisshokai.orgkisshokai.org/report/seimeihenoikei17-all.pdf · 手術呼吸器外科領域において、これまでに2000以上の症例を経験し、 「患者さんからが

 

関節症のなかで特に多い変形性膝関節症と

は、軟骨(骨と骨があたらないよう緩衝剤の働

きをしている)が加齢とともにすり減り、関節

の変形と痛みのため歩行障害などを来す疾患で

す。変形性膝関節症になりやすいのは、膝の内

側に重みが偏るO脚の人、長年にわたり膝に負

担をかけてきた高齢の人、肥満のため膝への負

担が大きい人、日頃から仕事やスポーツにより

膝に負担がかかる人です。日本人で変形性膝関

節症になる人の多くは、膝の内側の軟骨がすり

減るタイプであり、進行すると内反変形(=O

脚変形)を起こし、膝内側の痛みが悪化します。

 

治療にはまず、ヒアルロン酸の関節注射や消

炎鎮痛剤の投与などを行います。症状が改善

されず生活に支障が出る場合、関節の変形が

進んで痛みが強い場合、人工関節置換術を検

討します。手術の場合、リハビリ期間も含めて

膝の痛みを訴える人は1千万ともいわれる変形性膝関節症。

その疼痛と悪化を根治的に解消するのは人工関節置換術のみ

で、薬剤などによる有効な対処法はまだありません。いま注目

の再生医療分野から細胞治療という新たな治療法が示されま

した。再生医療センターと整形外科、形成外科による共同研究

がその成果を世に送り出そうとしているところです。

2012年 金沢医科大学医学研究科修了(医学博士)2012年~金沢医科大学助教専門は膝関節の外科、一般整形外科

膝の痛みを抑える新たな治療法、

変形性膝関節症の細胞治療

金沢医科大学病院金沢医科大学病院

大体1カ月で退院できます。この手術では除痛

効果が確実なため、患者さんにたいへん喜ばれ

ます。また、変形があまり強くなく、可動域

が保たれ、痛みが内側に集中しているならば、

内側だけ人工関節に置換する手術もできます。

一方、40代後半〜50代で、膝の変形が軽度で関

節軟骨も残っている人には、高位脛骨骨切り術

が適応されます。これは、膝の少し下の部分の

骨を切り、変形を矯正することで膝関節の内

側にかかる荷重を外側に移動させて、痛みを緩

和するという手術です。

 

現在私たち整形外科では、堤教授率いる再

生医療センターと共同研究チームを組み、変

形性膝関節症の患者さんに対し、自家脂肪組

織由来細胞群の投与による新たな治療法に取

り組んでいます。脂肪幹細胞を用いた細胞治

療の研究は、さまざまな疾患への適応が広まっ

ており、変形性膝関節症に関しても、疼痛を

改善する治療成績が報告されています。何よ

りも、ES細胞やiPS細胞とは異なり、患者

さん本人の細胞を利用することから、免疫の

拒絶反応といった安全性に対する不安があり

ません。

 

自家脂肪組織由来の幹細胞を膝に注入する

治療法は以前からありますが、その方法では脂

肪を大量に採取し、培養、注射に至るまで4週

間程度を要します。幹細胞の抽出に高額な酵素

や機械を用いるため、治療費も高額になります。

 

当院が行う自家脂肪由来幹細胞を用いた治

療は、患者さんの腹部から脂肪を吸引し、この

皮下脂肪を「専用キット」で粉砕し、洗浄した

上澄み液を抽出、膝関節内に注射するという

方法です。治療時間はおおむね2時間前後をみ

ています。この「専用キット」は再生医療の先

進国であるイタリアで開発され、すでに実用化

されて効果が認められています。私たちのとこ

ろでは2019年6月から、変形膝関節症の患

者さんにご協力いただき、安全性と効果を評価

するための臨床研究を始めています。

  

変形膝関節症の進行度は一般に5段階(グレー

ド1〜5)に分類されますが、これまでの研究

報告によれば、脂肪幹細胞の関節内への投与後

1年間の持続効果は、グレード2に対して8割、

グレード3に6割、グレード4には4割の罹患者

に有効であるという結果が出ており、早期の幹

細胞投与が治療効果を長続きさせると推測でき

ます。また、研究報告のなかには、すり減った

膝軟骨が増加したという成果もあります。一方、

自家脂肪由来幹細胞による効果がどれほど継続

するのか、確実な数値は今後の研究課題です。

また、脂肪幹細胞を投与しても、もともとO脚

の人の場合、膝関節の内側に負担が偏在するこ

とに変わりはなく、痛みが再発する可能性はあ

ります。

 

当院の脂肪幹細胞治療の安全性の研究で良好

な結果を得られれば、広く患者さんにこの治療

法を受けていただけるようになります。実用化

にいたれば、日帰り治療も可能であり、手術を

受けたくない人、高齢の人には適したものとな

るでしょう。変形性関節症の新たな治療法とし

て、膝関節だけでなく股関節や肩関節などへの

応用も期待できます。

金沢医科大学整形外科学助教 舘 慶之

たち よし ゆき

変形性膝関節症の痛みを解消、

人工膝関節置換術

自家脂肪由来幹細胞による

治療法の導入

安全性の研究から

新たな治療の選択肢に

大腿骨

脛骨

腓骨骨棘

軟骨がすり減って直接ぶつかる軟骨

変形性膝関節症(進行期)正常な膝関節

「先進医療とその取り組み」「先進医療とその取り組み」 11

脂肪幹細胞による再生医療

脂肪幹細胞による再生医療

特集

11

最新の医療技術を考える

最新の医療技術を考える

89

Page 6: 生命への畏敬 17 - kisshokai.orgkisshokai.org/report/seimeihenoikei17-all.pdf · 手術呼吸器外科領域において、これまでに2000以上の症例を経験し、 「患者さんからが

 「ロボット手術」と聞くと、どのようなイメージ

を抱くでしょうか?「手術支援ロボット」とは、ガ

ンダムのようなヒト型ロボットが執刀するわけで

はなく、外科医がロボットアームを遠隔操作して

手術するというもの。医療用ロボットはリハビリ

テーション領域に始まり、1992年、手術支援ロ

ボットが初めて人工関節置換術に臨床応用され、

現在、前立腺がんに対し最も利用されています。

 

手術支援ロボットの代名詞ともよぶべき機器

は、米国のメーカーが開発した「ダビンチ」です。

外科医が3D画像を見ながらコントローラを操

作する操縦台、その指示どおりに鉗子や内視鏡

を操るロボットアーム、術野の画像を映すモニ

ターで構成されています。

 

ダビンチはいまや、世界に約4400台が普及

し、日本には約300台、世界第2位の設置数で

す。手術件数は増加の一途をたどり、全世界で約

アメリカで誕生した手術支援ロボット「ダビンチ」は、前立腺がん手術への導入に始まり、

「患者さんに優しい手術」という評価の高まりとともに、米国や日本をはじめ世界に普及し

ています。泌尿器ロボット支援手術プロクター認定制度認定医である宮澤克人教授がダビ

ンチ手術の最新事情をご紹介します。

100万件。海外では婦人科と一般外科の手術

が増えています。

 

本院では2015年、最新機種のダビンチXi

を国内で最初に導入しました。Xiは従来型に

比べ、ロボットアームの搭載器を手術台のどの方

向からも設置でき、アームの細径化によって可動

域が拡大、どのアームにもカメラの設置が可能と

なっています。

 

前立腺がんは、日本人男性が最も罹患するが

んであり、一方、死亡者数では第6位。早期に治

療すれば治るということです。罹患者が増える

のは65才以上ですが、50代の現役世代も罹りま

す。前立腺がんが増加した原因は、社会の高齢

化や食事の欧米化、診断技術の向上にありま

す。すなわち、わずかな採血で測定できる前立

腺がんの腫瘍マーカーであるPSAが普及したこ

とや、先進的な生検法ができたことに依るもの

です。これはエコー検査とMRIを融合させたシ

ステムで、がんの検出感度が高く、異常部位に狙

い定めて組織を採取できます。

 

腹腔鏡下の前立腺摘除術は、創が小さく出

血量が少ない、低侵襲性、制がん性や術後QO

Lの改善といった利点がある一方、体腔鏡手術の

中で最も手技が難しく、長時間を要するという

に対する腎悪性腫瘍手術がすでに実施されて

おり、縦隔腫瘍、直腸がん、肺がん、子宮体がん

に対しても始まっています。

 

ダビンチにも弱点はあり、その一つは、外科医か

ら触覚が失われることだといわれています。しか

し、それを改善する技術の向上や術者をより一

層支援するシステムの開発、あるいはダビンチを

超えるロボットの登場などが予見され、手術支

援ロボットは外科手術を次々と変革していくの

ではないでしょうか。

1984年 金沢医科大学卒業1989年 同 大学院医学研究科修了1994年 金沢医科大学講師1999年 豪州フリンダーズメディカルセンター留学2006年 金沢医科大学助教授2011年 同 特任教授2013年 同 主任教授

2016年 同 学長補佐2019年 同 副学長

宮澤 克人 ●みやざわ かつひと

低侵襲・確実性の高い前立腺がん手術、

「ダビンチ」の躍進。

金沢医科大学病院金沢医科大学病院

金沢医科大学副学長泌尿器科学 教授

難点があります。ダビンチを用いた手術では、腹

腔鏡手術の低侵襲性に加えて解像度が高い

3D画像、広い視野の下で正確な切除と縫合を

行うという確実性、術後の尿失禁や性機能症を

低減する機能性に優れています。また、従来の

前立腺がん手術では、術中の出血に備えて術前

の2〜3週前から400CCの採血を2〜3回

行う必要がありましたが、ダビンチ手術に、こう

した自己血貯血・輸血の症例はほとんどありま

せん。

 

日本のダビンチ手術は2016年度、総数1万

7000件のうち、前立腺がん手術が1万600

0件にも上っています。米国では、ダビンチがFD

A(=アメリカ食品医薬品局)に認可された20

00年以降、前立腺がんのダビンチ手術は増え続

け、2010年には、ほぼ100%だった開腹手術

に替わり、90%近くを占めるようになりました。

 

ロボット支援手術の保険適用については、20

17年度には前立腺がんと腎がんだけでした

が、翌年には、食道がん、胃がん、直腸がん、子宮

体がん、子宮全摘、膀胱がん、弁形成、肺がん、縦

隔腫瘍(良性・悪性)が加わり、12件が保険適用

となりました。本院におけるダビンチ手術は、前

立腺がんに対する前立腺悪性腫瘍手術、腎がん

外科手術の次代を開く、

ダビンチ

前立腺がん手術の

低侵襲性や安全性が向上

手術支援ロボットの

機能向上に期待

泌尿器科ダビンチ手術チームを率いる宮澤教授は、厳格な審査やセミナー受講をクリアした専門医のみがなれるプロクター認定医

「先進医療とその取り組み」「先進医療とその取り組み」 22

最新の医療技術を考える

最新の医療技術を考える

ダビンチ手術

ダビンチ手術

特集

22

1011

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手術支援ロボット「ダビンチ」が、米国において加

速的に普及している状況を見ると、日本はこの分

野で遅れをとっていることは現状では明らかです。

そこで、先進技術をいち早く取り入れるべきとの

見解から、呼吸器外科領域でもロボット支援胸部

手術「RATS」(= R

obot Assisted T

horacic

Surgery

)が推進されています。

 一方、RATSの導入には厳しいガイドラインが

課せられています。たとえば、外科手術の技術難

易度はA〜Eに5区分されており、難易度Eの

手術は国内で限られた外科医しか執刀できない

最高レベルですが、その執刀医の認定を行うのは

高難度新規医療技術評価委員会という組織。

RATSを病院に導入するには、この委員会に

認可されなくてはなりません。RATSの執刀

医も、ダビンチの製造企業が設けるプログラムを

履修して認証を取得する必要があります。①ダ

呼吸器外科領域において、これまでに2000以上の症例を経験し、「患者さんからが

んを切除し、もとの日常の生活へ戻す」ことが外科医の務めと語る、浦本秀隆教授。手術

支援ロボット「ダビンチ」の優位性と課題をふまえ、がんを取り除く新たな技術として

その進展を見つめています。

最新の医療技術を考える

最新の医療技術を考える

ビンチの基本を学ぶオンライントレーニング、②ダ

ビンチの操作方法の習得、練習用シミュレーター

で手技のトレーニング、③トレーニングセンターで

動物を用いた手術のトレーニング、④企業が指定

した施設で症例見学、⑤初回症例のシミュレー

ション、以上をクリアした上で、実際の手術を始

めることができます。初回症例は、ダビンチ手術

認定医のプロクターを招き、その指導下での手術

になります。また、ナショナルクリニカルデータ

ベース(=外科系諸学会が連携する手術情報の

収集事業)に症例事前登録を行う義務もあり

ます。これらは、RATSの安全性や確実性を保

証するためのものにほかなりません。

 

2018年4月、ロボット支援下内視鏡手術

12件が保険適用となり、呼吸器外科では、縦隔

(=左右肺、胸椎、胸骨に囲まれた部分)悪性腫

瘍、縦隔良性腫瘍、肺悪性腫瘍が対象です。本

院では2015年、ダビンチの最新型Xiを導入

し、2017年に初めて、RATSによる縦隔腫

瘍手術を行いました。          

 

ダビンチの長所は主に3点。①術者の細かい手

ブレを補正する、②ズーム機能と3D画像で術

野を鮮明に映し出す、③多関節のある鉗子は人

間の指のような可動域を有し、複雑な操作もで

によるナビゲーションなど機能の高度化、あるい

は、ダビンチとは異なるコンセプトに基づくロ

ボットも開発されるのではないでしょうか。た

だ、どんな革新的なロボットが現れようとも、私

たち外科医が旨とすることは変わりません。第

一は、手術を無事終えて患者さんを自宅に、も

との生活に戻すこと、第二は、病巣を完全に取

り除くこと、第三は、できる限り小さい傷にす

ることです。

1994年 産業医科大学医学部医学科卒業産業医科大学病院、国立東京第二病院、北九州市立医療センターなどで研鑽、Sweden王国Gothenburg Universityに留学 2013年 産業医科大学医学部第2外科学准教授     (病院呼吸器・胸部外科診療副課長兼任)2014年 埼玉県立がんセンター胸部外科科長(部長兼任)2016年 金沢医科大学呼吸器外科学主任教授、同呼吸器外科科長

浦本 秀隆 ●うらもと ひでたか

ダビンチ手術

ダビンチ手術

特集

金沢医科大学病院金沢医科大学病院「先進医療とその取り組み」「先進医療とその取り組み」

22

22

金沢医科大学 呼吸器外科学主任教授呼吸器外科科長

きる、ということです。こうした機能により、手

術創が小さい、出血量が少ない、術後の痛みが軽

いなど、低侵襲な術式となります。

 一方、手術支援ロボットは歴史の浅いシステムで

すから、短所もあります。特に問題といわれるの

は、外科医が触覚を失ってしまうこと。組織を把

持したり、癒着を剥離したり、糸を結索したり、

と指先で感じ取る手技が随所で本来は不可欠

なのですが…。さらに、胸腔には血流の多い血管

が集まっており、胸部手術において緊急の出血

時、RATSでは機器をロールアウト(ロボットを

患者さんからはなす)しなくてはならず、おそら

く、胸腔鏡下手術のほうが速やかに対処できる

と思われます。

 

手術支援ロボットはその先進性により高い評

価を得ており、これまで、胸部のがん手術には、

胸腔鏡下手術と開胸手術の2種だったところ

に、RATSという新たな選択肢ができました。

大切なことは、がんのステージや患者さんの症

状、年齢、生活環境などをトータルに検討した

上で、患者さんと担当医が同じ方向を見つめ、患

者さんにとってベストな治療を選ぶことであろう

と思います。

 

手術支援ロボットは今後、触覚の生成やAI

安全性と確実性を

徹底的に保証したシステム

呼吸器系の内視鏡手術3種に

ダビンチ保険適用

患者さんのベストのための

新たな技術

ダビンチ手術は、操縦席の執刀医、助手、看護師などチームによって遂行される

病巣完全切除と患者さんのQOL回復のための

新たな選択肢、ダビンチ。

※※QOL=Q

uality of Life

「生活の質」と訳され、身体的・心理的・社会的な状態の

良質さを意味する。

1213

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糖尿病の発症には、インスリンの分泌不足やイ

ンスリン抵抗性(インスリンが効きにくい)、過食や

運動不足などの生活習慣、肥満、加齢が関与して

いますが、根本的原因は明らかになっていません。

米国では「アジア系は胴回りに脂肪が付きやす

く、白人に比べ、低いBMI値でも2型糖尿病を

発症しやすい」という知見から、BMI23以上を

糖尿病検査の対象としています。日本人も、見か

けは肥満でなくても内臓脂肪が蓄積している人

は多い。内臓脂肪は、糖や脂質の代謝に関わるホ

ルモンを分泌しており、脂肪細胞が増えるとイン

スリン抵抗性を招く物質の分泌が増え、一方、イン

スリン感受性を高める物質は減少します。

 

糖尿病が厄介なのは、自覚症状がないことで

す。たとえば、空腹時血糖値が200mg/dL

を超えていても平然としている方がいる。糖尿病

の典型的な症状である口渇、多飲、多尿、体重減

日本における糖尿病の推計人口はいまや1000万人。糖尿病は大別すると、すい臓障害

によりインスリンが出ない1型、肝臓や筋肉でのインスリン作用が低下する2型があり、

日本人の9割以上は後者です。古家大祐教授が糖尿病の最新事情を概説します。

少があっても、それを異常と認識しない方も少な

くありません。

 

食後2時間血糖値が180mg/dL以上と

いう高血糖状態が続くと、糖尿病血管合併症の

リスクが顕著となります。細小血管が障害され

ると、手足がしびれたり感覚が鈍くなったりする

神経障害、腎臓の働きが低下する腎症、視力が落

ちる網膜症、いわゆる三大合併症を来します。脳

卒中や心筋梗塞など動脈硬化系疾患リスクは健

常者の3倍に達し、認知症や歯周病も発症しや

すくなります。

 

糖尿病性腎症は、糖尿病罹患から15〜20年後

に発症しやすく、全患者の30〜40%を占めます。

高血圧、高脂質、喫煙により発症リスクは上がり

ます。その経過は、尿中微量タンパクの検出に始

まり、タンパク尿が増えるとともに血液を濾過す

る機能が年々低下し、腎不全、透析導入にいたり

ます。糖尿病性腎不全は、1998年以降、新規

人工透析の原因疾患の1位となっています。

 

私たちは新規治療法を視野に、抗老化物質S

IRT1(以下、サーチュイン遺伝子)に注目して

ることができます。インスリンポンプ療法(携帯型

インスリン注入ポンプでインスリンを皮下に常時

注入)と持続血糖測定器を併用すれば、測定値

を見ながらポンプを調整できます。いずれ、この

ような持続血糖測定器とインスリンの適正注入

の連動を自動化する「closed-loop」というシステ

ムが普及していくでしょう。

 

糖尿病の重症化予防策には石川県も非常に積

極的です。私たちも糖尿病の診断や治療の研究

はもちろん、糖尿病に関する啓発にも一層尽力し

ていきます。

滋賀医科大学医学部卒業1992年 滋賀医科大学医学部附属病院助手1994年 ハーバード大学医学部附属ジョスリン糖尿病センター研究医2004年 滋賀医科大学医学部附属病院講師2005年 金沢医科大学医学部内分泌代謝制御学部門教授2007年 金沢医科大学医学部糖尿病・内分泌内科学講座主任(部門名変更)専門は糖尿病、糖尿病血管合併症など

古家 大祐 ●こや だいすけ

携帯機器を用いて、糖尿病の重篤化阻止と

患者QOL向上へたゆみなく挑戦。

金沢医科大学病院金沢医科大学病院

金沢医科大学糖尿病・内分泌内科学教授内分泌・代謝科科長

きました。「長寿遺伝子」ともよばれるサーチュイ

ン遺伝子は、エネルギー摂取が制限されるほど活

性化し、長寿作用を発揮します。糖尿病に関し

ていえば、私たちの実験では、カロリー摂取を30〜

40%抑えるとサーチュイン遺伝子を活性化する

補酵素が増え、インスリン感受性が高まることを

確認しています。

 

また、最近、脚光を浴びている治療薬にSGLT

2阻害薬があります。血液内の過剰な血糖を尿

中に排出させることで血糖値を下げる薬剤で、血

糖値のみならず、血圧降下、腎機能保護、内臓脂

肪や脂肪筋の減少、糖尿病性心血管疾患のリスク

低減、さらには非糖尿病症心不全などにも有用な

ことがわかってきました。2型糖尿病患者の腎症

発症を15年先延ばし、透析人口を半減させるので

はないかという、まさに神がかり的な効能です。

 

糖尿病の管理や合併症予防には血糖コントロー

ルが不可欠です。そのためには血糖自己測定が

有効ですが、従来の機器は、測定の手間もさるこ

とながら、測定時の数値しか把握できないという

ものでした。ところがこの度、簡単に持ち歩くこ

とができる血糖自己測定器が出ました。14日間

の血糖プロファイルをつぶさに見られ、食事や運

動、服薬による血糖値の変動をリアルタイムで知

糖代謝に関与する内臓脂肪は

日本人の大敵

社会的問題ともいうべき、

重篤な合併症

糖尿病治療に新たな光、

腹七分目と画期的薬剤

糖尿病管理に活躍、

持続血糖測定器の進化

右の機器は皮下間質液中の糖濃度を測るセンサーと、そのデータを読み取り、記録するリーダーから成るシステム

上腕に貼る 血糖測定器

最新の医療技術を考える

最新の医療技術を考える

腎臓病へ進行させない糖尿病への取り組み

腎臓病へ進行させない糖尿病への取り組み

特集

33

「先進医療とその取り組み」「先進医療とその取り組み」 33

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肩関節の骨格は上腕骨、肩甲骨、肩峰などから

成り、体幹とつながっています。上腕骨の骨頭に肩

甲骨のくぼみ(=関節窩)が被さり、上腕骨と肩甲

骨を腱板が支えています。さらに、肩関節外側を

三角筋という大きな筋肉が覆っています(図①)。

 

肩関節の痛みは、生活に差し障るほど痛い、腕が

挙がらないというほど悪化しなければ、このまま様

子を見ようという人が多い傾向にあります。しか

し、肩関節痛を起こす疾患は数多く、凍結肩(「四

十肩、五十肩」が進行した肩関節拘縮状態)、イン

ピンジメント症候群、腱板断裂、変形性肩関節症、

関節リウマチ、石灰沈着性腱板炎などは治療をす

べき疾患です。凍結肩(拘縮)は関節周辺に炎症が

生じ、関節包が癒着したり組織が肥厚したりする

疾患です。インピンジメント症候群は、もともと肩

峰が下方に出ていたり肩峰下部に骨棘ができるこ

とにより、肩を挙げると引っかかりや痛みを感じる

疾患です。

 

腱板断裂は、加齢や肩の酷使で脆くなる、また

は外傷などによって腱板が裂ける疾患です。腱板

断裂を放置しておくと、縫合が困難になるため、

早期治療が必要です。病態が進行すると、関節同

士が当たって軟骨がすり減り、関節や骨の変形に

至ることがあります。これがいわゆる変形性肩関

節症です。高齢化社会のいま、加齢に伴う腱板断

裂が増えています。肩関節の痛みは良くなったり

悪くなったりを繰り返しますが、腱板の炎症や断

裂のために徐々に肩の機能が低下していきます。そ

のため、早期診断・早期治療が必要です。    

        

 

腱板断裂の基本的な治療はまず、鎮痛用の内服

薬や貼り薬、ヒアルロン酸の注射などを用います。

関節の変形が進み、痛みが増悪している、または肩

なります。ただし、リバース型人工肩関節置換術の

導入にはガイドラインがあり、肩の手術経験を

100例以上、腱板手術を50例以上の経験がある

こと、日本整形外科学会の定める講習会を受講し

ていることなど、病院と医師に基準が設けられてい

ます。当院では早々にこの資格を取得しました。

 

また、当院では術後1〜2日目からリハビリを

始めます。リバース型の機能には三角筋が重要で

あり、これを鍛えるために、仰臥位で腕を60度、90

度、120度の位置に保つ訓練を含む早期リハビリ

テーションを開発し、より早期の機能回復を目指

しています。リバース型人工肩関節の適応は70才

以上(条件次第では60才代も可能)に限られてい

ますが、こうした新しい治療を導入することで、一

人でも多くの患者さんのQOLが良くなることを

願っています。

 

金沢医科大学病院金沢医科大学病院

順天堂大学医学部医学科卒業、金沢医科大学大学院修了、医学博士取得。現 金沢医科大学整形外科 臨床教授。専門は肩関節、股関節。日本整形外科学会専門医、日本体育協会公認スポーツドクター、日本整形外科学会認定リウマチ医、日本再生医療学会認定医、厚生労働省難治性疾患克服事業「特発性大腿骨頭壊死症」研究協力員

市堰 徹 ●いちせき とおる

金沢医科大学 整形外科学臨床教授

が動かせないような状態や腱板断裂には手術加療

を検討します。手術では、痛みや炎症の原因部分

の除去や切れた腱板の縫着などを行います。腱板

は自然に治癒することはほぼありません。当院で

は、腱板断裂や間接拘縮などの肩関節疾患に対し

て、肩関節鏡手術を行っています。この手術は、小さ

な創を4カ所ほど開け、内視鏡や器具を体内に挿

入、腱板を縫う、骨の異常な部分を削る、癒着をは

がすなどの適切な処置を行います。

 一方、腱板断裂が広範囲におよび、縫うことがで

きない状態、あるいは肩関節の変形が進行してい

る状態に対しては、肩関節の損傷部分を切除し

て人工肩関節と交換します。関節の状態に応じ、

上腕骨頭のみを置換するケース(人工骨頭置換

手術)と上腕骨頭と関節窩の両方を置換する

ケース(人工肩関節全置換手術)があります。従

来の人工肩関節は、上腕側に据える端部が半球

型のものと肩甲骨側に付けるソケット状のもので

構成されています。

 

2014年、リバース型人工肩関節が日本でも使

えるようになりました。この人工関節は従来型を

反転(=リバース)させた構造で、半球型の器具を

肩甲骨側、ソケット状の器具を上腕側に装着しま

す。術後は関節痛が軽減され、腕の拳上も可能に

肩関節の痛みの原因とは?

腱板断裂が悪化すると

変形性肩関節症に

リバース型人工肩関節が

新たな療法に

リバース型人工肩関節は1980年代にフランスで開発され、2004年にアメリカで認可、かなりおくれて日本でも認可された

従来の人工肩関節は解剖学的に人間の関節に合わせた形状

変形性関節症の外科手術で用いられる人工関節は、耐久性や形状などの改良により着

実に進歩を遂げてきました。そうしたインプラントの一つ、リバース型人工肩関節を、

当院整形外科ではいち早く導入。患者さんのQOL改善を図るべく、最新最良の医療を

探究し続けています。

肩が痛い、腕が挙がらない人のQOL向上

新たな人工肩関節置換術。

肩峰

腱板

上腕骨頭

鎖骨

肩甲骨三角筋

上腕骨

関節窩

図①

「先進医療とその取り組み」「先進医療とその取り組み」 44

最新の医療技術を考える

最新の医療技術を考える

肩関節疾患

肩関節疾患

特集

44

1617

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水晶体は、光を屈折させて網膜に像を結ぶレン

ズとして働く眼内の組織です。水晶体が濁って光

が通りにくくなる疾患が「白内障」です。レンズ

が濁る原因はクリスタリンというタンパク質の変

性で、その誘因は、加齢、紫外線、喫煙、近視、ステ

ロイドの内服、糖尿病に伴う血糖上昇など多々あ

ります。これらの因子が眼内に酸化ストレスを引

き起こし、水晶体を傷つけます。水晶体では抗酸

化物が酸化ストレスを除去していますが、加齢に

よりその防御能が衰えます。

 

白内障の自覚症状としては、視力が落ちた、眼

鏡が合わなくなった、ぼやけて見える、白っぽく膜

がかかったように見える、車のライトが眩しいなど

の異常があげられます。白内障は発症すると元

の状態に戻すことはできず、視力低下のない初期

ならば薬剤で予防や抑制を図ります。

 

治療は手術が一般的です。濁った水晶体を粉砕

して取り出し、代わりに眼内レンズを挿入すると

いうものです。

 

眼内レンズには、ピント(焦点)の合う距離が1

つの単焦点と複数の多焦点があります。単焦点

眼内レンズの場合、遠くにピントを合わせると近

くが、近くに合わせると遠くが見えないため、眼

鏡で補います。

単焦点眼内レンズを挿入する場合、術前に、遠く

れ、一般には容易な手術と捉えられがちですが、実

は、術後の視機能は手術の精密さに左右されま

す。当科では高精度な治療を提供するべく、新設

されたアイセンターに先進機器を揃えています。

最新の超音波吸引装置、網膜硝子体手術装置、

そしてフェムトセカンドレーザー。多焦点レンズを

挿入する際、適正な位置に挿入しないと術後に乱

視や不具合が生じてしまいます。この機器は、コン

ピュータ制御のレーザーにより角膜切開から水晶

体カットまでの重要な工程を精密に施術します。

 

これら機器のなかでも特筆したいのは、サージ

カルガイダンスシステムと術中収差測定装置で

す。乱視矯正可能な眼内レンズは乱視軸に正確

に合わせる必要があり、術前に乱視軸をマーキン

グしますが、手術で仰臥位になると目が回旋し、

マーキングに微妙なズレが生じます。サージカルガ

イダンスシステムは、術中も正しい乱視軸を表示

してくれます。

 

また、眼内レンズ挿入術では、術前に設定した

レンズ度数が、術中、角膜切開や水晶体除去で目

の形状が変化して誤差が生じることがありま

す。収差測定装置は術中の状態を測定し、その測

定値を世界的な医療機器メーカーが蓄積する手

術データにオンラインで照会して、患者さんに最

適のレンズ度数を示します。当科ではこのように、

トップレベルの白内障治療体制を整え、見え方の

質をひたすら追求しています。

金沢医科大学病院金沢医科大学病院

1987年 金沢大学 卒業1987年 自治医科大学眼科学教室 入局1991年 米国オークランド大学眼研究所 研究員1993年 自治医科大学眼科学教室 助手1996年 金沢医科大学眼科学講座 講師2005年 金沢医科大学眼科学講座 教授2007年 中国医科大学 客員教授2009年 東北文化学園大学視覚機能学専攻 客員教授2018年 特定非営利活動法人 紫外線から眼を守るEyes Arc 理事長現在に至る

佐々木 洋 ●ささき ひろし

金沢医科大学眼科学講座主任教授

と近く、どちらを見えるようにするのか、ピント

を合わせるおよその距離を決めます。しかし、こ

うした漠然とした選択は術後、患者さんにとって

予想外の見え方となり、不快感や強いストレスを

覚える症例も少なくありません。そこで、レンズ

の度数によってどのような見え方をするのか、術

前に試せる「ビジョンシミュレーター」というシステ

ムを私たちは開発しました。レンズの度数が同じ

でも、瞳孔の大きさによって見え方は異なるため、

患者さんが自分に適した見え方を試して選ぶこ

とは、QOLの観点から有意義であると考えてい

ます。さらに、左右の目のピントを少し違えるこ

とで見える範囲が広がり、QOLは格段に上がり

ます。

 一方、多焦点眼内レンズには、2焦点、焦点深度

拡張型、3焦点があります。2焦点レンズは、遠く

(5m以上)と近く(30・40・50・70㎝のどれか)にピ

ントが合います。焦点深度拡張型は、50㎝から遠

方が違和感なく見えますが、30〜40㎝の近方は眼

鏡が必要です。3焦点は、近く、中間、遠くにピン

トが合い、光の周りに輪がかかって見えたり、眩し

く感じたりするハロー・グレアなどの短所はあるも

のの、満足度の高いレンズです。

 

白内障手術は国内で年間150万件も行わ

酸化ストレスにより

水晶体が濁る疾患

術後の視機能が

生活の質に影響する

百聞は一見に如かず、人間が得る情報の約80%は眼から入ります。すなわち、いくつに

なっても視機能の保持が重要ということです。日本の80才以上のほぼ100%が罹患

する白内障に対し、視機能の質を見据え、いかに高精度な治療を行えるか。この問いに、

当院眼科の佐々木チームは最新の技術を以って応えています。

見え方の質を徹底追求、

白内障手術の最前線。

佐々木教授らが開発したビジョンシミュレーター。眼内レンズのピントの違いにより見え方がどう変わるかを試せる

高精度手術が

見え方の質を保持する

「先進医療とその取り組み」「先進医療とその取り組み」 55

最新の医療技術を考える

最新の医療技術を考える

白内障手術と外来手術室

白内障手術と外来手術室

特集

55

1819

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血液検査を読み解いて健康寿命を伸ばそう

1986年 名古屋大学医学部卒業1998年 名古屋大学医学部附属病院検査部助手2002年 京都大学医学部附属病院検査部講師、検査部副部長2004年 京都大学大学院医学研究科臨床病態検査医学助教授2010年 金沢医科大学臨床感染症学講座・感染症科教授2011年 金沢医科大学病院中央臨床検査部長兼務、現在に至る 

飯沼 由嗣 ●いいぬま よしつぐ

金沢医科大学臨床感染症学教授(講座主任) 感染症科科長

 

みなさんは健康診断後に受け取

る検査結果について、きちんと理解

していますか。異常を知らせる結

果が出ていても、「基準値から少し

はずれているだけだから大丈夫だ

ろう」などと素人判断をしていま

せんか。

 

このデータには自分の健康に関

する大切な情報が含まれており、

ときにはそれが重大なシグナルで

ある場合も少なくありません。本

号では検査項目の中の血液検査に

関する基本情報をご紹介、理解を

深めていただこうと思います。

 

健康診断で通常行われている血

液検査は、検査後1〜2時間で結

果がわかる迅速検査というもの

で、大きく2種類に分けられます。

 

1つは、赤血球などの血液成分を

調べる狭義の「血液検査」。22ペー

ジの「1血液成分検査」にあたりま

す。血液中の細胞成分である血球

には、大別すると赤血球・白血球・

血小板があり、赤血球は酸素を肺

から全身に運ぶ役目、白血球は細

菌やウイルスなどから体を守る役

目、血小板は出血した際に血液を

固め血を止める役目を担います。

 

もう1つは、採血した血液を遠

心分離機にかけ、できた上澄み

(血清)を調べる「生化学検査」。

「脂質検査」「糖質検査」「肝機能

検査」「腎機能検査」「電解質検

査」などがあります。

 

採血の際に管2本分の血液が採

取されますが、それはこの2種類

の検査のためなのです。

血液検査を読み解いて健康寿命を伸ばそう

なるほどトピックス

身体計測

血  圧

今回

参考基準値

g/dL

10 /μl

%

10 /μl

U/L

U/L

U/L

mg/dL

mg/dL

mg/dL

mg/dL

mg/dL

mg/dL

mg/dL

mL/min/1.73㎡

mg/dL

mmHg

mmHg

前回 前々回

受 診 日

身 長体 重腹 囲B M I

最 高 血 圧最 低 血 圧

肝機能検査A S LA L Tγ - G T

腎機能検査/その他検査クレアチニンGFRcreat尿 酸

糖質検査血 糖HbA1c(NGSP)

尿 検 査蛋 白糖

潜 血

貧血検査血 色 素 量赤 血 球 数ヘマトクリット値血 小 板 数

脂質検査中 性 脂 肪HDLコレステロールLDLコレステロール総コレルテロールNon-HDLコレステロール

(男)~84.9(女)~89.9

(男)13.1~17.9(女)12.1~15.9

(空腹)(随時/食直後)

~99~139

(男)410~530(女)380~480(男)39.0~52.0(女)35.0~48.0

18.5~24.9

~129

~84

(-)、(+-)

(-)、(+-)

(-)、(+-)

~30

~30

~30

~149

40~

~119

150~199

~149

~5.5

14.0~35.0

(男)~1.20(女)~1.00

60.0~

~7.0

4

4

① 血液成分検査・貧血・白血病など

② 脂質検査・動脈硬化

③ 糖質検査・糖尿病

④ 肝機能検査・肝臓病

⑤ 腎機能検査・腎臓病・痛風

あなたの血液元気ですか?

検査報告書

血漿

赤血球

血小板白血球

異常値があれば、決して放置せず専門家にまず相談しましょう。また、基準値内にとどまっているかどうかだけを注意するのでなく、毎年定期的に受けることも大切。年ごとの変化を比べたり、異常値にどんどん近づいていないかなどもチェックしましょう。

2021

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1つ(SV)の基準

食事バランスガイドどうすれば、バランスのとれた食べ方になるか、考えてみませんか?

あまり厳しく考えず、できることから始め好きな食べ物をうまく活用してください。

一皿に主食、副食、主菜が盛られた料理の数え方の例

※食事バランスガイドは、ごく一般的な食べ方のバランスを示したものです。特定の病気の予防や食事療法のためには使えません。ご注意ください。

野菜や果物100%のジュースは、飲んだ重量の半分として考えます。たとえば、200mL=1つにあたります。

チャーハンカレーライスカツ丼

主食2つ2つ2つ

副菜1つ2つ1つ

主菜2つ2つ3つ

主 食

副 菜

主 菜

牛乳・乳製品

果 物厚生労働省・農林水産省による

= 穀物に由来する炭水化物約40g

1つ(SV)の基準= 主材料に由来するたんぱく質約6g

1つ(SV)の基準= 果物の重量約100g

1つ(SV)の基準= 牛乳・乳製品に由来するカルシウム約100mg

1つ(SV)の基準= 主材料の重量約70g

※料理を「1つ」「2つ」…と 「つ(SV=サービング)」 という新しい単位

 

コレステロールは体の主要脂質成分

の一種。生命の維持に不可欠なもので

すが、こうした脂質は取り過ぎたり、

代謝がうまくいかなかったりすると血

管壁に付着し、血管が硬く狭くなる動

脈硬化を引き起こします。動脈硬化

は、放置しておくと心筋梗塞や脳梗塞

といった生命を脅かす重大な病気にも

なりかねないので、検査値にはとりわ

け注意を払わねばなりません。

 

LDLコレステロールは、増えすぎ

ると動脈硬化が促進されるため悪玉

コレステロールと言われています。一

方、HDLコレステロールは、血管に付

着した余分なコレステロールを回収し

て肝臓に運ぶ役目を持っているので、

善玉コレステロールとも呼ばれます。

総コレステロールはこれらを合わせた

数値です。

 

仮に総コレステロールが基準値内に

とどまっていたとしても、悪玉コレス

テロールが基準値を超えている場合

は要注意。放っておくと健康寿命を損

ないかねません。早めに医師と相談し

て食習慣の改善や運動の習慣化など

に努めると同時に、場合によっては薬

物療法なども追加しながら改善を心

がけましょう。

 

また、中性脂肪は体を動かすエネル

ギー源となるものですが、増えすぎる

と内臓脂肪となって蓄積されることも

あれば、血管壁と結びつくことで動脈

硬化の原因にもなります。中性脂肪の

 

糖尿病は、血液中のブドウ糖量が上

がる病気です。健康な体内では、膵臓

が作り出すインスリンが血糖値を正常

にコントロールしています。しかし、イ

ンスリンを作り出す細胞が疲弊する

と、インスリンが分泌されなくなった

り、効き目が悪くなったりして糖尿病

になります。

 

糖尿病で特に怖いのが、血管が詰ま

ること。腎臓の細小血管が詰まると慢

性の腎臓病を発症し、目の小さな血管

が詰まれば網膜症、手足の小さな血管

が詰まると壊死という重大な合併症

を招きます。また、大きな血管が詰ま

れば心筋梗塞や脳梗塞になるリスク

も高く、健康寿命が大きく損なわれて

しまいます。糖尿病は初期には自覚症

状がほとんどないため、気づいたとき

には手遅れだったという事例が後を絶

ちません。

 

糖尿病もしくは糖尿病予備群であ

るかどうかは血糖値で判断します。一

般的な血糖値は飲食の影響を大きく

受けるので、最近は過去1〜2カ月の

平均値が反映されるHbA1cのデー

タがよく使われています。

 

糖尿病には1型と2型があり、1型

はごく一部。ほとんどの場合が、カロ

リー過多などの生活習慣に遺伝的要

素が加わって起こる2型です。異常が

見られた場合は早めに医師に相談す

るとともに、食生活の改善や運動の習

慣化が求められます。

数値が語ることにしっかり耳を傾けよう

 

こちらでは、主な検査項目や、そこから疑われる病気について

ご紹介します。データを見るときは、その年の値だけに注目する

のではなく、前回や前々回と比べてどう変化しているのかを注視

することが重要。それが病気の早期発見や生活習慣改善の手が

かりとなります。

脂質検査

悪玉コレステロールと

言われる

【LDLコレステロール】

善玉コレステロールと

言われる

【HDLコレステロール】

悪玉(LDL)+善玉(HDL)

+その他のリポ蛋白成分

【総コレステロール】

総コレステロールから

善玉(HDL)コレステロールを

引いたもの

【non-

HDLコレステロール】

エネルギー源である中性脂肪量

【中性脂肪】

動脈硬化

〝動脈硬化のリスクを減らす〞

糖質検査

血液中のブドウ糖の量

【血糖】

過去1〜2カ月の平均的な

血糖状態を反映

【HbA1c】

糖尿病

〝糖尿病から身を守る〞

 

これらの3つの検査値が低い場合は

貧血が疑われます。貧血には種類があ

りますが、最も多く見られるのが鉄欠

乏性貧血で、「生化学検査」で鉄に関す

る成分(血清鉄など)の数値が低けれ

ば鉄欠乏性貧血と診断されます。

 

欠乏の原因は主に2つあり、1つは

栄養不良などで鉄の摂取が少ない場

合。もう1つは出血で鉄が排出されて

いる場合です。

 

栄養不良であれば不足分を補えばい

いのですが、もし出血が原因であれば、

いったいどこから出血しているかを調

べなければなりません。消化管からの

出血が疑われる場合は、胃や大腸など

腸管の病気を疑い便潜血検査などを行

います。また、女性であれば子宮筋腫の

可能性もあります。月経血が多く出る

ことで貧血が引き起こされます。

 

大切なのは、きちんと調べて原因を

特定することです。「鉄が不足してい

血液成分検査

赤血球の数を示す

【赤血球数】

血色素のこと、赤血球中の

血色素の割合を示す

【ヘモグロビン】

血液に占める赤血球の

体積の割合

【ヘマトクリット値】

貧血

〝血球が知らせる体の異常〞

炎症・感染症で増加

【白血球】

出血を止める働き

【血小板】

■ 白血病など

るなら鉄の補給だけすればいい」など

と安易に考えて対処すると、潜んでい

る病気を見逃しかねません。

 

外部からの病原体の侵入を防ぐ役

割の白血球は、炎症や感染症、血液疾

患で数が増加します。炎症や感染症が

治ると正常値に戻るのですが、白血球

数が非常に多い場合や逆に極端に少な

い場合は白血病など血液系の病気が疑

われます。

 

また血小板は、数が減ったり働きが

悪くなったりすると、血が止まりにく

くなります。

値には食生活が大きく関与しており、

食事を見直せば改善されることも多い

ので、飲み過ぎや食べ過ぎに注意して

適正な食習慣を身につけましょう。さ

らにウォーキングなどの軽度の運動を

習慣化することも有効です。

 

近年動脈硬化の指標として

non-

HDLコレステロール値が注目

されており、特定健診の項目に加わり

ました。LDLコレステロール以外にも

動脈硬化を促進するリポ蛋白成分があ

り、それを評価するための指標となり

ます。

2223

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肝臓は沈黙の臓器とも呼ばれ、自覚

症状が現れにくいのが特徴。病気の発

見が遅れてしまうことがよくあるの

で、検査結果には特に留意したいとこ

ろです。

 

AST、ALT、γ-

GTPなどは肝細

胞の中で働いている酵素です。肝臓に

何らかの障害が生じるとこれらの酵素

が血液中に漏れ出すため、肝逸脱酵素

と呼ばれ、数値が上がると要チェック。

特にALTは肝臓に多く含まれるの

で、肝機能の異常はALT値によく表

れます。

 

コリンエステラーゼは肝臓のみで作

られる酵素で、一般的健診の検査項目

には含まれないことも多いのですが、

肝機能が低下すると数値が下がるこ

とから、肝臓の病気を判断する際の大

切な指標となっています。

 

また、ビリルビンは古くなった赤血

球が破壊されるときに作られる黄色い

色素で、肝臓に取り込まれる前のもの

を間接ビリルビン、胆汁の中に入った

ものを直接ビリルビン、両方を合わせ

て総ビリルビンといいます。黄疸の指

標になると同時に、肝臓や胆嚢・胆管な

どの病気で数値が高くなります。

 

肝臓疾患は放置しておくと肝硬変

や肝臓がんなどにもつながりかねませ

ん。何か異常があれば必ず医師に相談

するとともに、飲み過ぎや食べ過ぎに

は十分に注意しましょう。

 

腎臓は、血液中の老廃物を体の外に

排出するという大切な役目を担う臓器

です。

 

クレアチニンは筋肉で作られるタン

パク質の一種。尿素窒素(BUN)などと

同じように、健康な場合は腎臓の糸球

体でろ過され、尿となって体外に排出さ

れます。しかし、さまざまな原因で腎機

能が低下すると、これらが尿中に出さ

れる量が減り、血液中に溜まってきま

す。ですから、クレアチニンやBUNの

血液中濃度が高くなると、腎機能の低

下が考えられます。

 一方、eGFRは推算糸球体ろ過量の

略称で、クレアチニン値をベースに年齢

 

血液中にあるこれらの電解質は、人

間の体の基本的組成であり、なくては

ならないもの。電解質は高すぎても低

すぎても人体の機能は破綻してしま

います。これまでご紹介してきたよう

な慢性疾患が対象の血液検査には、こ

れらの項目は見当たらないかもしれま

せん。けれどもこうした電解質のデー

タは病気の診断に重要な役割を果た

します。

 

ナトリウム・カリウム・クロールなど

は、脱水や腎不全、下痢、嘔吐などに

よってバランスが崩れます。カリウムは

危険を知らせる指標としても知られ、

心臓の機能と関連していて、極端に上

がったり下がったりすると心臓が停止

することもあります。また、腎不全に

なった場合もカリウムの数値が高くな

りますし、ナトリウムが下がってカリウ

ムが上がった場合などは命に関わる不

整脈を発症する恐れがあります。

 

カルシウムや無機リンは、骨・腎臓・副

甲状腺の指標に使われています。ホル

モンやビタミンなどの作用で一定に調

整されており、悪性腫瘍になった場合

にバランスが崩れることがあります。

 

マグネシウムは細胞を活性化し、神

経・筋肉の機能を助けるなどの働きを

します。不足すると、けいれんや抑う

つ状態など多様な症状を引き起こし

ます。

 

これらの電解質が異常値を示した

ときは緊急事態ですから、直ちに詳し

い検査を行って原因を突き止めるとと

もに、早急な治療が必要となります。

 

電解質を除き、これまでご紹介した

血液検査はどれも、主に生活習慣病な

どの慢性疾患をターゲットとするもの

です。がんの発見には、レントゲン・C

Tなどの画像診断や腫瘍マーカーな

ど、他の種類の検査を受ける必要があ

ります。

 

また、健康診断の検査結果はあくま

でもスクリーニングであり、病気の予

防や早期発見のための糸口に過ぎない

ことを理解しておくのも大切でしょ

う。この結果だけで病気は判断できま

せん。何か気になることがあれば、早

めに専門家に相談していただきたいと

思います。

 

ただ長生きするのではなく、自立し

て健康に生活できる期間、すなわち健

康寿命を伸ばすことこそが重要です

から、そのためにも検査はきちんと受

け、異常や病気をいち早く見つけなけ

ればなりません。

 

特に重要なのは、毎年定期的に検査

すること。そして、数値がどのように

変化しているかを注意深く見ることで

す。前年に比べて急激に変化していた

り、データのカーブが年々上昇(または

下降)したりしている場合は要注意。

数値には必ず意味がありますから、素

人判断や放置はいけません。数値の意

味を正確に受け取り、専門家の助言に

耳を傾けましょう。

 

わからないことは遠慮せず、どんど

んドクターに尋ねてください。このよ

うな基礎知識を身につけておけば、質

問もより的確に行えるかと思います。

 

また、健診に加え、時折は人間ドック

で詳しく調べてもらうのもいいでしょ

うね。正しい知識とより良い生活習慣

で、元気に長生きしてください。

腎機能検査

筋肉で作られ、腎臓から

排出される老廃物

【クレアチニン】

血液中の尿素窒素

【BUN】

クレアチニン値や年齢などを

もとに腎機能を推算

【eGFR】

腎臓病

〝大切な腎臓を守るために〞

電解質検査

【ナトリウム】

【カリウム】

【クロール】

【カルシウム】

【無機リン】

【マグネシウム】

〝急性疾患の診断に重要〞

〝沈黙の臓器が伝えるもの〞

④ 肝機能検査

肝臓や心臓、筋肉などに

含まれている酵素

【AST】

主として肝臓に

含まれている酵素

【ALT】

肝臓内の細胞で作られる

酵素、主にアルコール摂取量

に比例して数値が上昇

【γ

-

GTP】

肝臓で作られる酵素、

肝機能が悪いと数値が

下がるが脂肪肝では上昇

【コリンエステラーゼ】

肝臓や胆嚢・胆管、黄疸の

指標にもなる

【ビリルビン】

肝臓疾患・胆道疾患

【尿酸】

痛風

老廃物の一つ、プリン体が

分解されて出来る

や性別などを加味して推算したもの。

この数値が下がると腎臓の働きが低下

していることになります。

 

腎不全の進行を予防するためにも検

査値の確認は重要です。中でも心配な

のが糖尿病患者の場合です。前ページ

でも糖尿病の方は血管が詰まりやすい

と言いましたが、腎臓の細小血管が詰

まると腎機能はどんどん低下してい

き、やがては透析を受けなければなら

ない状況に陥ります。

 

尿酸は、体内のプリン体が分解され

てできる老廃物です。数値は食生活と

密接に関係しており、血液中に溜まり

すぎると高尿酸血症と診断されます。

足の関節などにたまってしまうと、痛

風を発症します。

 

健啖家によく見られるので、発症を

防ぐためには、食生活の改善に特に力

を入れていただきたいですね。異常が

軽度だからと放置しておくと痛風発作

以外にも様々な合併症を引き起こす可

能性があるので、早めに医師に相談す

ることも大切です。

NaKCl

CaIP

Mg

2425

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公益財団法人

「すこやか健康応援団」

活動報告

主な事業

本法人は、石川県内の教育・医療機関の知的資源を活用して

①出版事業

②放送事業

③セミナー事業

④研究助成事業

⑤便宜供与事業

などの公益事業を行っております。

 金沢医科大学等の協力を経て、放送

事業「カラダ大辞典」のクロスマガジン

として、健康情報雑誌「生命への畏敬」

を年一回、発刊しております。

 石川県内の図書館等の公共施設に配

布するとともに、公益財団法人橘勝会

のホームページ上でもバックナンバー

を公開し、幅広く地域住民の皆さまの

健康知識の普及・啓発に努めます。

 金沢医科大学等の協力を経て、健康情報番組「カラダ大辞典」を隔週土曜日

テレビ金沢より放送しております。

 がんの治療や予防医学、健康管理等を主なテーマとし、地域医療や高度先進

医療に関する最新情報も取り上げております。

①パソコン・スマートフォンで「カラダ大辞典」と検索ください。

②画面中央の3つの項目「診療科別・ドクター別・放送一覧」のいずれかをクリックしてください。

③項目を選択してクリックすると動画がはじまります。

■放送/テレビ金沢(4ch)隔週土曜11時45分から放送中!

「カラダ大辞典」アーカイブス閲覧方法テレビ金沢の番組ホームページで から閲覧できます。

 放送終了後は、テレビ金沢「カラダ大辞典」ホームページ上でもパソコン、スマートフォンより閲覧可能な放送動画のアーカイブスとして公開し、幅広く地域住民の皆さまの健康知識の普及・啓発に努めます。アーカイブス一覧は公式ホームページもしくは次のページをご覧ください。

橘勝会

健康情報雑誌「生命への畏敬」

①出版

テレビ金沢「カラダ大辞典」

②放送

テレビ金沢「カラダ大辞典」クロスマガジン

生命への畏敬 16 2018Vol.

橘勝会 活動報告 テレビ金沢 「カラダ大辞典」 アーカイブス (平成28~30年放送一覧)

女性医療人たちが語らう、更年期のこと。

「更年期障害」「更年期障害」

特集(座談会)

上手に向き合う更年期の不調

■女性総合医療センターが更年期の女性たちをしっかりサポート■更年期に多い不定愁訴の改善は漢方療法の得意とするところです■快眠は健康と美のもと!更年期の不眠に悩む人、ご相談ください■アンチエイジングの鍵は毛細血管ケアと血流改善

更年期に起こる症状や障害の予防・治療特集

TOPICS

■女性総合医療センターが更年期の女性たちをしっかりサポート■更年期に多い不定愁訴の改善は漢方療法の得意とするところです■快眠は健康と美のもと!更年期の不眠に悩む人、ご相談ください■アンチエイジングの鍵は毛細血管ケアと血流改善

【がんゲノム医療】【再生医療】

■ 2018年発行 vol.16

■ 2017年発行 vol.15

①パソコン・スマートフォンで「橘勝会」と検索ください。

②「事業内容」よりご覧になりたいバックナンバーをクリックしてください。

橘勝会

カラダ大辞典

アーカイブスの見かた

「カラダ大辞典」 アーカイブス(放送一覧)

放送日 タイトル 所 属氏 名 放送日 タイトル 所 属氏 名4/7

4/21

5/5

5/19

6/2

6/16

6/30

7/14

7/28

8/11

8/25

9/8

9/22

NST栄養サポートチーム

新型出生前診断 NIPT

大動脈解離の治療

夏バテの漢方治療

栄養バランスのとれた食事とは

尿路結石の治療と予防

毛細血管と健康との関係

肺がん検査の新たな取り組み

睡眠時無呼吸症候群

女性特有の不調の治療

爪白癬の治療

高濃度乳房とは

ACO(エーコー)とは

左古ひとみ

高林 晴夫 非常勤医師

坂本  滋 教授

守屋 純二 准教授

山本 香代 管理栄養士

橘  宏典 助教

赤澤 純代 副センター長

薄田 勝男 教授

藤本 由貴 助教

澤田 未央 助教

望月  隆 教授

野口 昌邦 教授

水野 史朗 教授

栄養部

産科婦人科

心臓血管外科

総合診療センター

栄養部

氷見市民病院 泌尿器科

女性総合医療センター

呼吸器外科

女性総合医療センター

女性総合医療センター

皮膚科

乳腺・内分泌外科

呼吸器内科

10/6

10/20

11/3

11/17

12/1

12/15

12/29

1/12

1/26

2/9

2/23

3/9

3/23

自立を応援する生活用具

義足のいろいろと最新装具

災害時の食事を考える

最新内視鏡 検査と治療

リンパ浮腫の治療

病理医とは?

術後の患者の生活を守る

前立腺がん 新検査

睡眠負債と認知症のリスク

睡眠障害 不眠症

誤嚥予防の食事法

鉄欠乏性貧血

口腔がん早期発見のために

影近 謙治 教授

影近 謙治 教授

猪口 一也 管理栄養士

伊藤  透 教授

島田 賢一 教授

山田 壮亮 教授

木南 伸一 准教授

宮澤 克人 教授

大黒 正志 教授

古田 壽一 教授

気谷恵理子 管理栄養士

川端  浩 教授

出村  昇 准教授

リハビリテーションセンター

リハビリテーションセンター

栄養部

消化器内視鏡科

形成外科

臨床病理学

一般・消化器外科

泌尿器科

高齢医学科

睡眠医学センター

栄養部

血液リウマチ膠原病科

歯科口腔科

■平成29年度放送分

■平成30年度放送分

放送日 タイトル 所 属氏 名 放送日 タイトル 所 属氏 名4/1

4/15

4/29

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5/27

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7/8

7/22

8/5

8/19

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精神科リエゾンチーム

腎臓をいたわる食事

高齢者の“暮らし”を守る

禁煙のすすめ

運動のすすめ

夏休みキッズ探検隊

高齢者の熱中症対策

漢方薬で不調を治療

嗅覚障害の治療

認知症センター誕生

小型肺がんの外科治療

災害弱者 その命を守る

新田 佑輔 助教

橋本 玲子 臨床心理士

中井 有里 

竹下 欣吾 管理栄養士

中橋  毅 教授

浦本 秀隆 教授

中川  卓 先生

我妻 孝則 がん看護専門看護師

渡邊 啓介 医師

澤田 未央 助教

三輪 高喜 教授

入谷  敦 講師

本野  望 助教

中井 寿雄 講師

神経科精神科

栄養部

能登北部地域医療研究所

呼吸器外科

腎臓内科

集学的医療センター

高齢医学科

総合診療センター

耳鼻咽喉科

高齢医学科

呼吸器外科

看護学部 在宅看護学

9/16

9/30

10/14

10/28

11/11

11/25

12/9

12/23

1/6

1/20

2/3

2/17

3/3

3/17

医療塾で地域に光

リハビリテーションセンター

変形性膝関節症の治療

子宮頸がん 予防と最新治療

乳児湿疹のケア方法

下肢静脈りゅうの外科治療

特に注意が必要な冬の感染症

ロボット支援手術

糖尿病 治療薬の発展

乳房再建術とは

あご骨の再生治療

デュアルエナジーCT

非アルコール性脂肪肝疾患

ドライアイの治療

中橋  毅 教授

影近 謙治 教授

舘  慶之 助教

笹川 寿之 教授

橘髙 祐子 助教

小畑 貴司 講師

飯沼 由嗣 教授

宮澤 克人 教授

北田 宗弘 教授

島田 賢一 教授

松本 剛一 准教授

的場 宗孝 教授

土島  睦 教授

柴田奈央子 助教

能登北部地域医療研究所

リハビリテーションセンター

整形外科

産科婦人科

小児科

氷見市民病院 胸部心臓血管外科

感染症科

泌尿器科

糖尿病・内分泌内科

形成外科

歯科口腔科

放射線治療科

肝胆膵内科

眼科

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リエゾン精神看護専門看護師

NST専従(管理栄養士)

放送日 タイトル 所 属氏 名 放送日 タイトル 所 属氏 名4/6

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8/10

子どものこころの健康を守る

子どもの頃からの紫外線対策

子宮筋腫 最新治療

腰椎椎間板ヘルニアと腰痛予防

私たちの健康を守る免疫とは

耳の異常でおこるめまい

慢性便秘症の治療と予防

腎臓の健康とフレイル

フレイル予防で健康長寿

認知症を支える町づくり

木原 弘晶 助教

北本 福美 講師

初坂奈津子 助教

笹川 寿之 教授

織田 悠吾 助教

小内 伸幸 教授

三輪 高喜 教授 

有沢 富康 教授

足立 浩樹 准教授

大黒 正志 教授

川﨑 康弘 教授

田中 浩二 准教授

神経科精神科 

眼科学

産科婦人科

整形外科

免疫学

耳鼻咽喉科

消化器内科

腎臓内科

高齢医学科

神経科精神科

看護学部 精神看護学

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10/19

11/2

11/16

11/30

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12/28

成人先天性心疾患とは

スキン-テアの知識と予防

がんと向き合い自分らしく生きる

顎関節症の知識と予防

成人気管支ぜん息の治療と注意点

発展する糖尿病治療

肩の痛みの外科治療

胆道閉鎖症の症状と治療

日頃から心がける認知症予防

血液検査 項目の読み方

安藤  誠 教授

木下 幸子 准教授

北村 佳子 講師

出村  昇 教授

四宮 祥平 助教

古家 大祐 教授

市堰  徹 教授

岡島 英明 教授 

入谷  敦 講師

飯沼 由嗣 教授

小児心臓血管外科

看護学部 成人看護学

看護学部 成人看護学

歯科口腔科

呼吸器内科

内分泌・代謝科

整形外科

小児外科

高齢医学科

感染症科 

■令和元年度放送分

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