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生産工学基礎 -- ものづくりと生産工学 水垣 善夫 九州工業大学 工学部 機械知能工学科 [email protected]

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生産工学基礎-1-

ものづくりと生産工学水垣 善夫

九州工業大学 工学部 機械知能工学科[email protected]

目次1. ものづくりと生産工学

1.1 生産工程概略

生産財と消費財

生産システムの情報化

品質管理手法

1.2 加工と材料の性質

金属材料物性値

製鉄

熱処理

生産財と消費財

• 生産財は、生産のための装置、治具など

• 経済学用語の一つであり、企業が生産活動を行う場合に必要とする財のことである。

• 工場に設置される工作機械などのような備品や、加工することで製品へと変えていく元である原材料などが生産財である。

• 生産に使われる工作機械の修理やメンテナンスなどといったサービスも生産財に含まれる。

生産財と消費財

• 工場に設置される工作機械などのような備品や、加工することで製品へと変えていく元である原材料など

旋盤 Engine lathe 工具 cutter, throw-away tip 素材 material

生産財と消費財• 消費を目的として家庭に需要とされるような財やサービスのことを言う。

• 同じ商品であっても家庭で消費されるならば消費財となり、企業で消費されるならば生産財という形に分類される。

• 一度きりの使用の非耐久消費財と、長期間にわたり消費される耐久消費財に分けられる。

生産工場「もの」と「お金」の流れ

もの(生産物)

お金(売り上げ)

社内工程(生産工場)

受注活動(仕様提示、見積もり)

顧客 営業

受注確定

設計

製造

品質保証

立会試験

納品

検査領収

着手金(一部)

金銭支払い(見積もり額)

社外 社外

このサイクルを回すこと=企業活動

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1.1 生産工程概略• 離散的生産工程:設計加工組立検査

• 設計 CAD(Computer Aided Design)system利用が主流

– 強度設計が基本。

• CADの形状モデルを用いて、有限要素法FEMを主とする解析技術計算システムCAEを多用し強度計算を行っている。

– 意匠面設計では見栄えと安全性が主要指標。

• CADの形状モデルを用いて、レイトレーシング法などによる光沢表現や質感の検証などを行っている。

– 動作確認は必須。

• 機構モデルを用いて部品相互の可動範囲や組立可能性の確認、完成状態の検証を行っている。

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設計工程• 市場調査・製品企画 ニーズ把握、迅速企画

• 製品設計

– 概念設計:基本仕様(重量、容積、機能、…)策定

– 詳細設計:部品設計 CAD ・生産設計との連携・…

• 生産設計

– 生産準備 生産ライン構成検討、冶工具準備、材料確保、…

– 工程設計 CAPP : Computer Aided Process Planning

– 組立検証 実物模型、digital mockup、…

– 物流検証 部品入荷、工場内流路、製品出荷、再利用品、…

生産システムの情報化

• 企業内の生産情報システム

• 設計・生産部門の情報処理

– CADの活用事例と幾何モデルの基礎

– トヨタ生産方式

• 品質管理

– QC七つ道具(Quality Management の名称が主流)

生産システムと生産管理(便覧b7 生産システム工学編)

企業 企業 経営管理、財務、マーケティングと販売、研究開発

工場 工場 製品設計と生産準備、生産管理、調達、出荷、廃棄物処理、リソース管理、設備管理

セクション/

エリアセクション/エリア

製造現場の管理

製造現場でのジョブの管理、リソースの確保と割付、製造のための各種支援

セル セル 工程間の管理 製造現場でのジョブの順序付けと監視

ステーション

ステーション 装置の制御 装置への指示と監視

装置 装置 製造の実施 指示に従って製造を実施 図6.5 ISO参照モデル

加工部位、加工仕様の確認

加工工程の設定

加工作業の設定(工程ごと)

NCプログラムの作成

図6.6 工程設計業務の流れ

CAMシステム

CLデータ

ポストプロセッサ

NCプログラム

図6.7 ポストプロセッサによる処理の流れ

情報処理流れ図:JIS X0121、 数値制御パートプログラム用言語: JIS B6327

CAM system:Computer Aided Manufacturing

計算機支援製造システム(狭義には工具経路生成システム)

CL data:

Cutter Location data

工具経路データ

NC:

Numerical Control

数値制御

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CAD機能事例詳しくは CADを自習のこと。下記Kernel別に各種開発されている。

Parasolid (Unigraphics Solutions), ACIS(Spatial Technology), Design Base(Ricoh), その他(CATIA, CreoParametric,I-DEA, et c.)

(例)CATIA V4, V5, V6, …, R2019x過去の 日本IBM CATIA/CADAMホームページから引用

メカニカルデザイン概要設計から部品設計、図面作成まで、製品設計の中核となる作業工程を支援します。2次元、 3次元のワイ

ヤーフレーム、モック・アップ・ソリッド、イグザクト・ソリッド、3次元パラメトリッ

ク/バリエーショナル・デザイン、フィーチャー・べース・デザインといった形状

定義機能に加え、干渉チェック、機構解析、製図作成まで豊富な機能を提供します。(Model courtesy of Magnetti Marelli)

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CATIA V4, V5, V6, …, R2019x

SolidWorks これもよく使われている過去の 日本IBM CATIA/CADAMホームページから引用

CAE

CATIAは、CAEに対しても積極的に取り組んでいます。構造解析、ストレス解析をはじめとする

高度な解析にも対応した、プリ・プロセッサー、ソルバー、ポスト・プロセッサー機能を提供 します。さらに業界標準であるMSC/NASTRAN**、ANSYS**、PATRAN**との インターフェースも

装備され、他のソルバーとも簡単にインターフェースを取ることができます。

** MSC/NASTRAN は、MacNeal Schwendier 社の商標。** ANSYS は、Swanson Analysis 社の商標。

** PATRAN は、PDA 社の商標。

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幾何モデル: Geometric Model• Solid model

– 頂点・稜線・面の幾何情報

– 幾何情報の接続関係(位相情報)

–立体同士の合成、移動、表示などが自由自在

– Data構造による分類でB-reps型とCSG型に大別

– 面表現式はB-spline、BezierなどからNURBSへ統合

• Surface model

– 頂点・稜線・面の幾何情報だけで位相情報なし

• Wire-frame model

– 頂点・稜線の幾何情報のみ

• Decomposition model

– Octree, Quadtree など

トヨタ生産方式 (便覧b7 生産システム工学編より引用)

トヨタ生産方式の特徴かんばん方式

QC七つ道具品質管理で用いられる基礎的手法:特性要因図; パレート図; グラフ/管理図;チェックシート; ヒストグラム; 散布図; 層別。 (層別を外し、グラフと管理図を分けて七つとすることもある。)

(便覧b7 生産システム工学編より引用)

特性要因図

パレート図 管理図

失敗知識データベースの構造と表現(「失敗まんだら」解説)科学技術振興機構(JST)失敗知識データベース整備事業 統括 畑村 洋太郎平成17年3月 http://shippai.jst.go.jp/fkd/Contents?id=GE0704&fn=1#4 より引用

1.2 加工と材料の性質

• 地殻に豊富に存在する鉄

– 酸素、珪素(シリコン)、アルミニウム、鉄、カルシウム…

• 46.6%, 27.7%, 8.1%, 5.0%, 3.6%, …

– 自然界では酸化物として存在する鉄

• 赤鉄鉱石Fe2O3、褐鉄鉱石Fe2O3・nH2O、磁鉄鉱石Fe3O4

• 鋼の主成分は鉄と炭素、それに各種の添加物。

• 石器時代<青銅器時代<鉄器時代• 弥生時代に青銅器(銅と錫の合金)・鉄器がほぼ同時に伝わったため、日本には青銅器時代が無かったと考えられている

物性値 (温度条件:20℃, 293K)(理科年表*)

密度

×103(kg/m3)

縦弾性係数

(ヤング率)

×109 (Pa)

線膨張係数×10-6 (K-1)

(99.96%)

7.874 鉄(鋼)201-216

鉄(軟)211.4

11.8

(99.96%)

8.96 129.8 16.5

アルミニウム 2.6989 70.3 23.1

マグネシウム 1.738 45マグネシウム合金 AD91D

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(*:マグネシウム合金 AD91Dは(株)TOSEIのHPによる。)

製鋼

鉄鉱石・コークス・石灰石等を原材料にして、鋼を作る。

高炉では、炭素を過飽和した銑鉄ができる。

鉄鉱石は鋼の主成分である鉄を供給。

コークス(蒸し焼きにした石炭)は熱源、還元ガスCOの生成

および鋼の成分である炭素を供給。(蒸し焼きにすることで硫黄・コールタールなどの不純物を除去)石灰石は不純物の除去。

転炉・電気炉で鉄鋼ができる。

出典:新日鉄住金株式会社HP /企業情報/工場見学/バーチャル工場見学 から引用。

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高炉の基本構造

高炉 Blast furnace 羽口 Tuyere 熱風炉 Hot blast stove 銑鉄 Pig iron

鉄鉱石 Iron ore, コークス coke, 石灰石 lime-stone

転炉 Converter furnace 電気炉 Electric furnace

高炉内での化学反応式C +O2 CO2

CO2 + C 2CO (還元ガスとしてCOが生成される)

3Fe2O3 + CO 2Fe3O4+CO2 (200-800℃で)Fe3O4 + CO 3FeO+CO2 (300-800℃で)FeO + CO Fe+CO2 (400-1000℃で)FeO + C Fe+CO (950℃以上で)

(酸化鉄がCOないしはCにより鉄に還元される)

高炉:酸化鉄の高温還元による高濃度炭素の鉄(銑鉄)の生成精錬炉(転炉):高炭素濃度の鉄(銑鉄)の中の炭素の酸化(脱炭)に

よる低炭素濃度の鉄(鋼鉄・錬鉄)の生成

鋼鉄の生産方式には、銑鉄から転炉で生成する方法と、鉄スクラップから電気炉で生成する方法の2種類がある。

鉄―炭素系平衡状態図

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Fe-黒鉛系(安定)

Fe-Fe3C系(準安定)

鋳鉄鋼gFe + Fe3C

gFe + L

aFe + Fe3C

オーステナイト

▲ パーライト

▲ レーデブライト

平衡状態図と金属組織構成図

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用語解説• フェライト(ferrite):α鉄(体心立方構造)およびこれに他元

素が固溶した相の組織名。フェライト系の鋼は低温脆性を起こす傾向。

• セメンタイト(cementite):Fe3Cの組成を持つ加工物の総称。低温で強磁性、210℃磁気変態点以上で常磁性。フ

ェライトとの共析組織をパーライト、オーステナイトとの共析組織をレーデブライトと呼ぶ。

• パーライト(pearlite):炭素鋼に現れるフェライトとFe3Cの

セメンタイトからなる層状組織。(ソルバイトおよびトルースタイトは今では微細パーライトと総称される。)

• オーステナイト(austenite): 1種類以上の元素をふくむγ

鉄固溶体(γ鉄は面心立方構造)。30

用語解説

• α鉄:体心立方構造。強磁性体。常温。

• β鉄:体心立方構造。常磁性体。 (キュリー温度:A2点) 780℃以上。(磁気変態を起こしたα鉄)

• γ鉄:面心立方構造。912℃ (A3点)以上。

• δ鉄:体心立方構造。1394℃ (A4点)以上。

熱処理

(旧 機械工学便覧 B3編)

熱処理用語• 焼きなまし(焼鈍、annealing)

– 完全焼きなまし• A3点(亜共析鋼)、またはA1点(過共析鋼)以上の温度(800℃程度)に加熱し、その温度の十分な時間(e.g. 5hrs)保持した後、炉冷(e.g. 30℃/h)してこれを軟化させる焼なまし。

– 応力除去焼きなまし• 鋼を変態点以下の温度(560~600℃程度)に加熱保持(e.g. 2.5hrs)した後、炉冷して、圧延、鍛造、機械加工、溶接などで生じた残留応力を除去する焼なまし。低温焼なましともいう。

– 球状化焼きなまし

• 鋼中の炭化物を球状化する焼なましで、工具鋼は球状化焼なましによって性質が向上するので、一般的に行なわれる。 (750~780℃程度5hrs+

炉冷+ 690℃程度1.5hrs+炉冷)

• 焼きならし(焼準、normalizing)• Ac3またはAcm以上の温度まで加熱し、昇温保持し、空冷。均質化効果は焼きなましと同様であるが、微細化の効果は冷却速度が速いことによって大きく、機械的性質の改善効果が大きく、切削性の向上なども目的。

熱処理用語

• 焼き入れ(Quenching)

– 鋼をオーステナイト域に加熱後に急冷することにより、マルテンサイト変態を生じさせて、硬化する処理

– オーステナイト域:A1変態点(727℃)以上。実用上800℃前後

– 急冷:通常は水冷却または油冷却により常温近傍まで冷却。臨界冷却速度の小さい特殊な材料では空冷でもマルテンサイト変態が起きる

– マルテンサイト(martensite):α鉄中に炭素が強制的に

多量に固溶された緻密で硬い針状組織。オーステナイト域の鋼からマルテンサイトへの変化をマルテンサイト変態と呼ぶ。

熱処理用語• 焼き戻し(tempering)

– 焼き入れによる組織を安定な組織に近づけ、所要の性質・状態を得るために、適当な温度に加熱後、冷却する処理

– 加熱温度はAc1温度(加熱時にオーステナイトが生成を開始する温度)以下