救急現場での循環器疾患...*ヘパリン75-100単位/kg...

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循環器内科 宮井翔平 救急現場での循環器疾患

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Page 1: 救急現場での循環器疾患...*ヘパリン75-100単位/kg iv.(実際は5000単位=5ml) 合併疾患に注意! VT/VF、房室ブロック(下壁梗塞の場合)

循環器内科 宮井翔平

救急現場での循環器疾患

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はじめに・・・

普段救急外来で頑張ってくれている初期研修医の先生方に、循環器疾患について理解を深めもらい、循環器緊急疾患の初期対応により参加してもらいたい!

今日からすぐに実践できることを中心にお話しします。

あくまでエッセンスなので、より細かい・詳しい知識は自己学習や現場実務を通して深めて下さい。

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救急現場で遭遇する循環器疾患

●急性心不全

●急性冠症候群

●肺塞栓症

●心室頻拍/心室細動

●急性大動脈解離

●大動脈瘤破裂

●心タンポナーデ

・・・etc.

多くは、・バイタル異常をきたしている・症状が強い・緊急度、重症度が高い

迅速に、かつ確実に鑑別診断をつける必要あり

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急性心不全

心不全とは・・・

「なんらかの心臓機能障害、すなわち、心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果、呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し、それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群」

急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)

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心不全の診断

フラミンガムの心不全診断基準(Mckee PA, et al. 1971 )

大基準2つ または 大基準1つ+小基準2つ以上

●大基準・発作性夜間呼吸困難・頸静脈怒張・湿性ラ音・Ⅲ音聴取・CVP>16㎝H2O・肝・頸静脈逆流・循環時間延長≧25秒・急性肺水腫・X-pでの心拡大

●小基準・下腿浮腫・夜間咳嗽・労作時呼吸困難・肝腫大・胸水貯留・頻脈(HR≧120bpm)・肺活量減少(最大量≦1/3)

問診、身体診察、エコーがあれば診断できる!

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心不全は “血液循環の渋滞”

左心不全・肺うっ血、肺水腫・胸水貯留

右心不全(体液貯留)・浮腫・頸静脈怒張・胸腹水貯留・肝/腎うっ血・腸管浮腫

末梢灌流不全血圧低下臓器血流低下尿量減少

水分貯留・うっ血

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心不全かな?と思ったら・・・●症状を聞く「動いて息が切れる」、「横になると息が苦しい」・・・

●既往歴・患者背景リスク(高血圧、糖尿病、冠動脈疾患、不整脈、弁膜症など)利尿薬使用歴、心不全の既往、家族歴、体重推移など

●身体所見低酸素血症、浮腫、心雑音、頸静脈怒張、など

●12誘導心電図or胸部X-p異常Q波、陰性T波、脚ブロック、不整脈・・・肺うっ血、心拡大、胸水貯留・・・

1項目以上該当

●NT-proBNP≧400pg/ml●心エコーでの病的所見●CT検査

急性・慢性心不全診療ガイドライン2017

*NT-proBNP<125pg/mlなら心不全除外しやすい。肥満例では低め、腎不全・貧血・加齢などで高めに出る!

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急性心不全に対する初期対応から急性期対応のフローチャート

日本循環器学会.急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017 年改訂版http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_tsutsui_h.pdf

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本来は急性心筋梗塞(≒急性左心室障害)に伴う左心不全の予後予測分類。

⇒(右心不全のない)左心不全の治療戦略決定に有効

左心系うっ血と低心拍出の有無で分類

フォレスター分類

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主に右心系うっ血所見と低灌流を指標に身体所見で分類⇒体液貯留に重点を置いた病態把握が簡便に可能

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血液循環を規定する因子

前負荷心臓に返ってくる血液≒容量負荷

後負荷心臓から拍出される時にかかる抵抗≒圧負荷

心臓・血液をくみ上げる力・血液を送り出す力=ポンプ機能

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CS(クリニカルシナリオ)病院到着前を含む超急性期の急性心不全の簡便な病態把握の指針⇒収縮期血圧を分類指標としており、分類毎に推奨される治療が示される。

最初の10分で大まかな病態を把握する!

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神経体液性因子(交感神経活性、レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系等)の

急激な亢進

救急外来での治療法:●亜硝酸薬による血管拡張(例:ミオコールスプレー 2~3push 血圧を3-5分毎に確認しながら適宜追加)

●NIPPV:非侵襲的陽圧換気(ASV装着:初期設定PEEP=5cmH2O)

*全身の体液量は増加していないので、基本的には利尿薬の適応なし

CS1:急性心原性肺水腫(sBP≧140㎜Hg)

急激な末梢血管抵抗上昇

=vascular failure

after load(=後負荷) mismatch

volume central shift

急性左心不全 ・数分~数時間で進行する・多くは左室収縮能は保たれる

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全身体液貯留を主体とする。原因背景に・・・・慢性的な心機能低下・腎機能低下・低Alb血症 ・貧血 ・・・etc

救急外来での治療法:●利尿薬投与(例:ラシックス20mg 1A 静脈注射)

0.5ml/kg/minを目標に尿量管理を。

*CS1のようなvascular failureも合併していることも多いので、合わせて、血管拡張薬やNIPPVなども併用可能。

CS2:体液貯留(sBP:100-140㎜Hg)

様々な要因を元にpre load

(=前負荷)過剰が徐々に進行。

数日~数週前からの増悪兆候

両心不全・肺うっ血、肺水腫 ・全身浮腫、胸腹水貯留

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心拍出が高度に低下した状態

LOS(low output syndrome)

after load(=後負荷) mismatchによって、volume central shiftが起こる。

CS3:低心拍出性症候群(sBP<100㎜Hg)

CS1やCS2の病態に加えて低心拍出による臓器・末梢低灌流

基礎となる心臓疾患が必ず存在する!・低心機能:

DCM、虚血性心筋症、HCM、・・・etc・弁膜症:大動脈弁狭窄症、僧帽弁逆流症,等・不整脈:VT/VF、心房細動、徐脈性不整脈

救急外来での治療法:●カテコラミン(DOA、DOB):イノバン3-10γ、ドブポン1-10γ、など●一時ペーシング、DC、血液透析、IABP、PCPS、など●病状に応じて少量の血管拡張薬や、NIPPV、利尿薬なども併用可能。

⇒より厳密に病態を把握した上で、多数の薬剤やデバイスが必要になる。*低心拍出の原因の迅速な特定が重要!!

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心拍出後負荷前負荷

クリニカルシナリオ:循環を制限する3要素に対するアプローチを説明している

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簡単にできる心エコー

●左心系の評価

・eyeball-EF

・左室流入血流速度

・肺エコーでのBline

●右心系の評価

・IVC径:>20㎜、かつ、呼吸変動<50%

⇒CVP>10mmHg(正常8まで)

・胸水/腹水の有無

⇒すべて複雑な測定はいらない!簡単な操作と見た目のみでvolume過剰の有無を判断できる。

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急性心不全まとめ

●病歴、身体所見などから早期に心不全を診断、

大まかな病態を把握する。

●クリニカルシナリオを元に、前負荷、後負荷、心拍出の

3つの要素を評価し介入できる治療を模索する。

●簡便なエコーで左心不全・右心不全の程度を評価し、

病態の把握に役立てる。

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急性冠症候群

“急性冠症候群(ACS)は,冠動脈粥腫(プラーク)の破綻と

それに伴う血栓形成により冠動脈内腔が急速に狭窄, 閉塞し,心筋が虚血,壊死に陥る病態を示す症候群である”

急性冠症候群診療ガイドライン(2018 年改訂版)

心筋壊死有り⇒急性心筋梗塞

心筋壊死なし⇒不安定狭心症

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急性冠症候群(ACS)の分類

STEMI N-STEMI

急性心筋梗塞(AMI) 不安定狭心症(UAP)

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ACSの診断治療フローチャート

結果を待たずに再灌流療法を検討

トロポニン陽性が確認できるまで数十分~数時間

⇒待っている間も心筋障害が進行するかもしれない・・・

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再灌流までの時間●STEMI

総虚血時間3時間以内での再灌流が

得られれば予後良好。

⇒病院到着~再灌流までの時間

(=Door to Balloon time)は90分以内

が推奨される。

●NSTEMI

高リスク患者にはできるだけ早期の

再灌流が推奨される。

*高リスク:

持続性胸痛、経時的ST-T変化、

トロポニン上昇、循環動態不安定、etc

ST上昇有無に関係なくできるだけ早期に心臓カテーテル検査を行う!

症状出現

救急要請~救急隊到着~救急搬送

病院到着

心電図、採血、エコー、など

AMI診断

人員招集、IC、前処置~カテーテル室搬入

穿刺~造影道具準備

Wire通過~血栓吸引

CAG+PCI

再灌流

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早期診断のために●症状:

・胸痛、背部痛、心窩部痛、頸部痛、肩痛、症状聴取不可

・超急性発症(「○○している時」、「○時○分から」)

・持続性or間欠的or消失

・前駆症状:労作性胸痛の存在、過去の症状との違い

●身体診察:

・vital、呼吸音聴診 ⇒Killip分類

・橈骨動脈、上腕動脈、大腿動脈触知を確認

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早期診断のために●12誘導心電図:

⇒ACS疑いなら、真っ先に心電図をチェックする。

*過去の心電図があれば必ず比較する。

*1回目ではっきりしなければ数分~数十分空けて再検。

●心エコー:

壁運動で病変予測 心機能やうっ血、合併疾患の確認

●血液検査:

心筋逸脱酵素、血球、脂質、糖尿病、・・・etc

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初期対応と注意点

M:モルヒネ

●実際の現場で用いることはほとんどない!

O:酸素

●SpO2≧94%以上なら投与しなくてよい。

N:亜硝酸剤●硝酸イソソルビドテープ40㎎貼付、ミオコールスプレー1push*右室梗塞、重症大動脈弁狭窄症、ショック状態は禁忌⇒下壁梗塞症例では注意!エコーでA弁の確認!

A:抗血栓薬*バイアスピリン100㎎ 2錠 噛み砕いて内服*ヘパリン75-100単位/kg iv.(実際は5000単位=5ml)

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合併疾患に注意!

●VT/VF、房室ブロック(下壁梗塞の場合)

⇒発症後いつでも起こり急変する可能性あり。

DCをいつでも使えるように!

●急性大動脈解離

ACSが大動脈解離の合併症のことがある。

右冠動脈の梗塞の場合に多い。

●重症大動脈弁疾患

狭窄症:硝酸薬禁忌、血行動態不安定

閉鎖不全症:IABP禁忌

⇒できれば緊急カテーテル検査前にエコーや体幹部CTで弁膜症や全身大血管の確認を行う。

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ACS以外の急性胸痛鑑別疾患

(Ibanez B, et al. 2018

心筋梗塞を疑いながらも他の疾患の鑑別も行う救急外来で遭遇しうる緊急疾患、重症疾患も多い

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急性冠症候群まとめ

●診断~治療は超緊急。Door to Balloon時間=90分!

●ST上昇していなくても疑わしければしつこく調べる。

絶対に見逃さない!

●診断、初期対応しながら、合併症の確認も忘れずに!

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さいごに

・今回は、研修医のみなさんが循環器疾患に関わりやすいように初期対応に絞ってお話しました。

・実際は、入院後治療・慢性期治療などやるべきことはたくさんあります。少しずつ理解を深めて頂ければ幸いです。

*急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)

急性冠症候群診療ガイドライン(2018 年改訂版)

⇒onlineで無料で誰でも閲覧できます。