生物の基礎Ⅱ(b)② -...

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生物の基礎Ⅱ(B)② 1 体の基本構造-三つの体軸 体軸なし 頭尾軸 背腹軸 左右軸 卵割・・・卵での細胞分裂 【発生のはじめの段階で行われる特殊な体細胞分裂】 割球・・・卵割によってできた細胞 特徴 1.間期にDNAの複製は起こるが,細胞質が増加しない →分裂のたびに割球の大きさが小さくなる 2.分裂速度・・・通常の体細胞分裂と比べて非常に早い Xenopusの場合,体細胞分裂は約24時間周期,卵割は 約30分周期,ただし哺乳類はその例外) 3.卵割の様式は動物の種類によって異なる (A)両生類初期胚の割球の細胞周期はS期とM期しか示さない。サイクリンB の合成によってM期(分裂期)に入り,サイクリンBの分解によってS期 (DNA合成期)に進む。 (B)一般的な体細胞の細胞周期。M期の後に間期が続く。間期は,G 1 期,S期, G 2 期に分かれる。分化した細胞は通常細胞周期から離脱し,G 0 期と呼ば れる延長型のG 1 期に留まる。細胞周期の進行に関与するサイクリンとそ れらと対応するキナーゼをそれぞれのステージに示した。 P123 図6・8 P119 胞胚腔 表割 心黄卵 盤割 (全割) (部分割)

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Page 1: 生物の基礎Ⅱ(B)② - 弘前大学nature.cc.hirosaki-u.ac.jp/lab/3/animsci/PDF/6-2.pdf生物の基礎Ⅱ(B)② 3 ローマ数字は卵割溝の出現順を示す。(A,B)植物極へ向かう卵割溝の伸張が卵黄があ

生物の基礎Ⅱ(B)②

1

体の基本構造-三つの体軸

体軸なし

頭尾軸

背腹軸

左右軸

卵割・・・卵での細胞分裂

【発生のはじめの段階で行われる特殊な体細胞分裂】

割球・・・卵割によってできた細胞

特徴

1.間期にDNAの複製は起こるが,細胞質が増加しない

→分裂のたびに割球の大きさが小さくなる

2.分裂速度・・・通常の体細胞分裂と比べて非常に早い

(Xenopusの場合,体細胞分裂は約24時間周期,卵割は

約30分周期,ただし哺乳類はその例外)

3.卵割の様式は動物の種類によって異なる

(A)両生類初期胚の割球の細胞周期はS期とM期しか示さない。サイクリンB

の合成によってM期(分裂期)に入り,サイクリンBの分解によってS期

(DNA合成期)に進む。

(B)一般的な体細胞の細胞周期。M期の後に間期が続く。間期は,G1期,S期,

G2期に分かれる。分化した細胞は通常細胞周期から離脱し,G0期と呼ば

れる延長型のG1期に留まる。細胞周期の進行に関与するサイクリンとそ

れらと対応するキナーゼをそれぞれのステージに示した。

P123図6・8P119

胞胚腔

表割心黄卵

盤割

(全割)

(部分割)

Page 2: 生物の基礎Ⅱ(B)② - 弘前大学nature.cc.hirosaki-u.ac.jp/lab/3/animsci/PDF/6-2.pdf生物の基礎Ⅱ(B)② 3 ローマ数字は卵割溝の出現順を示す。(A,B)植物極へ向かう卵割溝の伸張が卵黄があ

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卵割卵は,卵黄の量と分布のしかたで,下記のように分けられる。卵黄は粘性が高く細胞質の分裂を妨げるため,卵の種類により卵割の様式が異なる。

卵の種類 等黄卵 端黄卵 心黄卵

弱端黄卵 強端黄卵

卵黄の量 少ない 比較的多い 極めて多い 極めて多い

卵黄の分布 均一 植物極側に分布 卵の中心に集中

卵割の様式 等割(全割) 不等割(全割) 盤割(部分割) 表割(部分割)

卵全体で卵割

が起こる。

割球の大きさ

がほぼ等しい。

全割であるが,

動物極側が主

に分裂し,割

球の大きさが

不等となる。

動物極側の一

部で卵割が起

こり,割球が

盤状に配列す

る。

卵黄内で分裂し

た娘核が卵表面

に移動し,核と核

の間に細胞膜が

侵入する。

分類 棘皮動物・哺乳類

両生類 爬虫類・魚類・鳥類

昆虫類・甲殻類

生物例 ウニ・ヒトデ・ヒト

カエル・イモリ トカゲ・メダカ ハエ・エビ

P119-20 P120-21

(A)接合子-精子進入部位(黒矢印)と植物極(白矢印)。胚子の周りに受精膜が認められる。(B)2細胞期。(C)8細胞期。(D)16細胞期。(E)32細胞期 小割球が植物極に認められる。(F)受精膜から孵化した胞胚-植物極板(白矢印)。

図6・9(a)-(b)P120

動物細胞層

動物細胞層

最初2回の卵割は経卵割である。第3卵割は赤道卵割で,ほとんど同じ大きさの割球からなる8細胞期胚を生ずる。しかし,第4卵割によって割球に3つの異なる型が出現する。動物極の4個の割球は経卵割し,中割球と呼ばれる8個の細胞からなる単層の動物細胞層を生ずる。4個の植物極側の割球は非対称的に分割し,4個の大割球からなる細胞層と,その下に4個の小割球からなる細胞集団を生ずる。

図6・9(a)-(b)P120

(A)接合子の予定運命図。(B)頂毛と植物極板をもつ後期胞胚。(C)一次間充織細胞をもつ胞胚。(D)二次間充織細胞をもつ原腸胚。(E)プリズム胚期。(F)プルテウス幼生-接合子の細胞質の予定運命が色別で示してある。

図6・9(a)-(f)P120

(A)第1卵割途中の卵の横断面。卵子は動植物軸に対して放射対称である。精子が侵入し,精子核が内方へ移動する。色素のある動物半球とそれがない植物半球がみられる。(B)第1卵割の後期に,表層細胞質が内部細胞質に対して約30°回転する。原腸胚形成は灰色新月環で始まる。(C)灰色新月環。(D)第1卵割面は灰色新月環を二分する。

図6・10P121

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ローマ数字は卵割溝の出現順を示す。(A,B)植物極へ向かう卵割溝の伸張が卵黄があるために遅れている。(C)第3卵割溝は卵黄が存在するために極物極から離れて,動物極の方へずれている。(D-H)動物半球に比べて,植物半球に少数で大型の割球をもつ桑実胚が形成される。(H)は胞胚期の胚の横断面を示す。

図6・5(b)P119

図6・11P121

原口は赤道面のやや植物極側に開いて,細胞が胞胚腔の中に入り込む。この時移動するのは主に動物半球の細胞である。これによって次第に大きな原腸が内部に形成され,もともと植物極にあった細胞群が動物半球の細胞群に取り込まれるようになる。この大規模な細胞の運動の結果,外胚葉,中胚葉,内胚葉ができる。

(A-D)ニワトリ卵の胚盤葉を背面から見たところ

(E)Cの側面図

端黄卵である鳥類の胚では,動物極側の胚盤で卵割が起こる。

図6・8(c)P119

(A)卵割が進むにつれて,細胞層と卵黄との間に隙間ができる。この細胞層の部分を胚盤葉といい,その下の隙間を胚盤下腔という。

(B)さらに細胞は小さくなるが胚盤葉は大きく広くなり,特に胚盤葉の周辺部は胚盤葉を取り込むように細胞数が多くなり,周辺帯(帯域)と呼ばれ胚盤下腔も広くなる。

(C)やがて胚盤葉の細胞数の増加と共に胚盤葉の周辺部の細胞が伸びて広がり1層の細胞層を形成し,胚盤葉下層となる。

(D)組織像(Cに相当する)。

(A)初期ニワトリ胚子の三次元模型図

(B)胞胚腔へ通過しようとしている胚盤葉上層細胞(矢印)の走査電顕像

(A)卵殻が形成される20時間ほどの間に卵白(Albumen)が回転する。(B)この時卵黄(Yolk)がわずかに傾く。(C)重力に対して最上部に位置しているところが胚子の後端となる。

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(A)正常な胚子では,前後(A-P)軸は2つのカラザを結ぶ方向に垂直になる。(B)卵管子宮部で回転している(矢印の方向)卵の断面図。卵黄が少し右に傾き,胚盤葉の位置が傾く。傾いた胚子の上端部が将来の胚子の後端部となる。(C)卵管子宮部内で長時間過ごした卵を,カラザでつり下げると,A-P軸は正常卵と同じになる。(D)若い卵をつり下げると,A-P軸は後端を上向きに形成される。

256個の核

極細胞約5個

合胞体胚盤葉

後極 極細胞

(A)核分裂のあとでそれぞれが細胞に分かれる過程を示す。

(B)胚盤葉の細胞化を示す核分裂の蛍光染色像。

(C)細胞化を示す卵の横断面。

図6・12P122

動物極

植物極

初期の卵割•等黄卵•均等全卵割

Gulyas (1975)

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ウシ胚の発育ステージ

1細胞 2細胞 8細胞 16細胞 桑実胚

胚盤胞 拡張胚盤胞

脱出胚盤胞

初期胚盤胞

脱出中胚盤胞

図6・5(e)P124

ヒトの卵は卵管の膨大部で受精して,4-5日で卵管を通過して子宮に達する。その

間に,透明帯の中の胚は卵割が進み,はじめは割球が緩く結合し細胞塊になって桑

実胚まで卵割が進み,やがて内部の細胞群が一方に偏り,内細胞塊と栄養膜細胞層

に分かれ,その隙間ができる。この隙間が胞胚腔であり,この時期を胚盤胞期と呼

び,胞胚期に相当する。内細胞塊が将来からだをつくる部分で,栄養膜細胞層は絨

毛膜の形成に関与し,子宮に着床して母体からの栄養の摂取に役立つ。

(A,B)妊娠15日目のヒト胚と子宮との連絡。(A)正中線を通った矢状断面。(B)胚の背側からみた図。(C)胚盤葉上層細胞の動き。