探究的な学習を充実させる総合的な学習の時間の単 …...小学校...

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O 0103 561 探究的な学習を充実させる総合的な学習の時間の単元展開 -学年の系統に応じた内容と言語活動の充実- いわれる において を覚えるこ だけに する く, じて し, し, しい するこ る。そ ため,21 きる たちに え, する かつ する (クリティカルシンキング),コミュニケーション を育 するこ められる。 23 において, 」を うこ 確に位 けられ, され た。「 」を させるこ たちに「学び について えを するこ き,「 」が育まれる ある。 って2 しよう する し, に, させるために ,各学 じて ように をすれ よい かを した。 に活 する られ, した。また, が, けた 感するこ きた。

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Page 1: 探究的な学習を充実させる総合的な学習の時間の単 …...小学校 総合的な学習の時間 2 を引き出し,その知性を鍛える双方向の課題解決

O 0 1 0 3 報 告 5 6 1

探究的な学習を充実させる総合的な学習の時間の単元展開

-学年の系統に応じた内容と言語活動の充実-

「知識基盤社会」といわれる現代においては,知識を覚えることだけに

集中するのではなく,必要に応じて取り出し,整理・分析し,新しい知を

創造することが重要となる。そのため,21世紀を生きる子どもたちには,

自ら考え,主体的に判断する力,物事を客観的かつ分析的,批判的に考察

する力(クリティカルシンキング),コミュニケーション能力,などを育

成することが求められる。

平成23年に小学校学習指導要領において,総合的な学習の時間の目標に

「探究的な学習」を行うことが明確に位置付けられ,探究の過程が示され

た。「探究的な学習」を充実させることで,子どもたちに「学び方」や「課

題や対象についての明確な考えを表現すること」などが身に付き,「生き

る力」が育まれるのである。

教育課程が完全実施となって2年が経過しようとする今,京都市の現状

を調査し,調査結果を基に,探究的な学習を充実させるためには,各学校

で学年の系統に応じてどのように総合的な学習の時間の単元展開をすれ

ばよいのかを構想した。結果,主体的に活動する子どもの姿が見られ,探

究的な学習が充実した。また,子ども自身が,身に付けた力や学ぶことの

有用性を実感することができた。

Page 2: 探究的な学習を充実させる総合的な学習の時間の単 …...小学校 総合的な学習の時間 2 を引き出し,その知性を鍛える双方向の課題解決

目 次 はじめに ···························· 1 第1章 探究的な学習を充実させる総合

的な学習の時間 第1節 教育課程において求められている総

合的な学習の時間の方向 (1)教育課程において求められているもの ·· 2 (2)取組の現状 ························ 3 第2節 探究的な学習を充実させるための課題 (1)単元構想上の課題 ·················· 7 (2)学習過程上の課題 ·················· 9 第2章 探究的な学習の充実をめざした

単元構想と評価 第1節 総合的な学習の時間における問題意

識の調査 ······················· 10 第2節 探究的な学習の充実をめざした単元

構想の視点 (1)学年の系統化を図る ··············· 12 (2)協同的な学びの場を設定する ······· 14 (3)探究的な学習を確かにする学習過程を

つくる ··························· 16 第3節 探究的な学習の充実をめざした評価の

視点 ··························· 18

第3章 学年の系統に応じた単元展開と

評価の実際

第1節 探究的な学習を充実させる単元展開 (1)協同的な学びの場の設定 ··········· 21 (2)学習過程をつくる ················· 24 (3)言語活動を通して学ぶ ············· 29 第2節 探究的な学習を充実させる評価 ··· 33 第4章 総合的な学習の時間のさらなる

充実のために

第1節 研究の成果と課題 ··············· 35 第2節 生きる力を育む総合的な学習の時間 (1)主体的に学ぶ ····················· 37 (2)生きる力を育む ··················· 38

おわりに ···························· 39

[付表] ····························· 40

<研 究 担 当> 進藤 弓枝 (京都市総合教育センター研究課研究員) <研究協力校> 京都市立朱雀第四小学校 京都市立葵小学校 <研究協力員> 汐満 裕子 (京都市立朱雀第四小学校教諭) 髙田 葉月 (京都市立葵小学校教諭)

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小学校 総合的な学習の時間 1

はじめに

平成23年3月に発生した未曾有の東日本大震災を受け,文部科学省で有識者会議が開かれた。防災教育の目標の第1項には,「周りの状況に応じ,自らの命を守りぬくため『主体的に行動する態度』の育成」(1)が挙げられた。地震や津波が起こったときに,どうすればよいかを自分で瞬時に判断し,行動することが第一に求められたのである。 女子サッカー,日本代表「なでしこジャパン」

の佐々木則夫監督は,「世界一になるためのストラテジー」と題した雑誌の取材の中で,「積極的に能動的にみんなで連携して動く」(2)ことが第一と答えている。選手たちは,自分たちのコンディションやチームの状態が悪くなると,ビデオを見て話し合い,ミーティングを繰り返し,自分たちで改善を図っていたという。試合が始まると,大声援の中,瞬時に判断し,あの広い7140㎡のピッチを90分間動き回らなければならない。だれかの指示を待つのではなく,自分で判断し動くことが一番のストラテジーなのである。 現代の課題がどこにあるのかを確認するならば,二つの取組とエピソードが物語るように,想定外の出来事をはじめ,社会生活の中で様々な困難な場面に直面したとき,的確に判断し主体的に行動する力の重要性が改めて浮き彫りになっているのである。 21世紀は,グローバル化が進み,情報が溢れ,答えのない課題や未だかつて出会ったことのない課題に直面するであろう「多文化共生の時代」といわれる。この時代を生きる子どもには,「自己を確立しつつ,他者を受容し,多様な価値観をもつ人々と共に思考し,協力・協同しながら課題を解決し,新たな価値を生み出しながら社会に貢献することができる個人」(3)であることが求められている。すなわち,コミュニケーション能力,問題解決能力,実践力等が求められているのである。 これらの力は,「社会を生き抜く力」であり,学習指導要領に示される「生きる力」にほかならない。そして,この「生きる力」を育むためには,「総合的な学習の時間」(以下,「総合」)の果たす役割は大きい。なぜなら,「総合」は,自ら課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てることをねらいとしているからである。 そこで,昨年度の研究を踏まえ,今年度は教育

課程における「総合」の実態や教員の意識につい

て調査し,探究的な学習が充実するための単元展開について明らかにしたいと考えている。

(1) 東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者

会議『東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する

有識者会議 中間とりまとめ』2011.9 p.4

(2) 佐々木則夫「世界一になるためのストラテジー」『初等教育

資料』(No.855)平成24年2月号 2012.2 p.48

(3) 文部科学省「子どもたちのコミュニケーション能力を育むた

めに」『コミュニケーション教育推進会議(審議経過報告)』

2011.8 p.1

第1章 探究的な学習を充実させる総合的

な学習の時間

第1節 教育課程において求められている総合的な学習の時間の方向

これまで,実生活,実社会の中では,与えられ

た情報を理解し,覚え,反復することが求められていた。しかし,「知識基盤社会」となった今,莫大な知識を覚えるのではなく,必要に応じて取り出し,吟味し,検討し,新しい知を創造することが重要とされる。そのため,21世紀を生きる子どもたちには,自ら考え実行する力,物事を見聞きしたままに受け取るのではなく,客観的かつ分析的,批判的に考察する力(クリティカルシンキング)などを育成することが求められる。それに合わせ,学習形態も,〈一斉学習〉から〈一人学び→グループ学習→全体交流〉へと変化してきている。 大学においても近年,授業者が一方的に知識を

伝達する講義形態に代わって,「アクティブ・ラーニング」と総称される学習形態が導入されるようになってきた。中央教育審議会大学分科会大学教育部会によると,この「アクティブ・ラーニング」は, ・学習者が能動的に学ぶことによって,後で学んだ情報を思い出しやすい。

・異なる文脈においてもその情報を使いこなしやすい。

という理由から用いられる学習形態である。発見学習,問題解決学習,体験学習,調査学習等が含まれるが,教室内でのグループ・ディスカッション,ディベート,グループ・ワーク等を行うことでも取り入れられると定義されている(4)。 このように高等教育においても,初等中等教育

で育成された能力を受け,「学生の思考力や表現力

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小学校 総合的な学習の時間 2

を引き出し,その知性を鍛える双方向の課題解決型の能動的な授業を中心とした高い学士課程教育へと質的に転換」(5)したことは意義深い。 そのような中,小学校において平成23年4月に教育課程が改訂され,2年が経過しようとしている。教育課程において,「総合」に求められているものと,実際に各学校がどのような現状にあるのかを確認しておきたい。 (1)教育課程において求められているもの 「生きる力」を育むという基本理念が変わらず

受け継がれていることは,先にも述べた。では,「生きる力」とは,一体どのような力であろうか。 梶田は,従前の「生きる力」と区別し,「確か

な学力を基盤とした『生きる力』である」(6)と述べている。また,門脇は,「生きる力は,『社会力』,すなわち『人が人とつながり社会をつくる力』である」(7)と述べている。つまり,「生きる力」とは,自ら学び,自ら考えることのできる力であり,他者を理解し,互いに協力し合いながら,主体的に課題を解決することのできる力であると考える。そしてその力は,『子どもたちのコミュニケーション能力を育むために(審議経過報告)』で定義されたコミュニケーション能力※1とも合致する。 文部科学省から平成22年1月に出された「総合」

の指導資料『今,求められる力を高める総合的な学習の時間の展開』(以下,指導資料)において,第2章,第1節「学習指導の基本的な考え方」は,次の五つの項から構成されている。 中でも,「探究的な学習」は,第1項に位置付

けられ,第2節では,探究的な学習における学習指導が「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」の四つのプロセスごとに詳しく紹介されている。 また,教育課程が全面展開した平成24年4月以降に,文部科学省『初等教育資料』において,表1-1のような特集が組まれている。特に注目すべきは,No.880(平成23年12月発行)以降,記事の見出しに「探究」という文言が増えてきている点と,No.883(平成24年2月発行)で「総合」の特集が組 まれた際のテーマが「総合的な学習の時間における探究的な学習」となっている点である。

指導資料やこれらの特集記事から,教育課程に

おいて「総合」のめざすべき方向がうかがえる。つまり,「総合」の改訂の趣旨を実現するためには,「探究的な学習」が大きな鍵を握っているのである。 ①探究的な学習 「総合」では,自ら学び,自ら考える力等を育

むために,既存の教科等の枠を超えて「横断的・総合的な学習」となることをめざしてきた。この ことに加え,今回の教育課程では「探究的な学習」となることが,目標に明確に位置付けられた。 「探究的な学習」とは,問題解決的な活動が発

展的に繰り返される学習活動のことである。一つの課題を解決することでまた新たな課題が生まれ,その課題解決に向かって粘り強く取り組む活動が繰り返されるのである。 無藤は,この学習のことを「教師の側で正答の

類を必ずしも想定しておらず,現実場面に入る中で,様々な情報を収集し,また,体験から学び,自分なりの課題を子どもが立て,その解決を求めていく活動」(9)と述べている。「雪博士」として

1 探究的な学習 2 協同的な学習 3 体験活動の重視 4 言語活動の充実 5 各教科等との関連 (8)

表1-1 平成23年4月以降,『初等教育資料』で「総合」 について特集された記事一覧

年 月 特 集 記 事 No.

平成二十三年

4 スタート!新学習指導要領 [新学習指導要領具体化の要点]

論説:総合的な学習の時間(田村学)872

6

言語活動の充実と授業改善

座談会:各教科等における言語活動の充実とその具体化 874

7

論説:総合的な学習の時間における言語活動の充実とその具体化 (田村学)

事例:東京都新宿区立大久保小学校

875

8 教師の指導力の向上と授業研究

論説:総合的な学習の時間における指導力向上と授業研究の充実 (田村学)

事例:横浜市立大岡小学校 東京都大田区赤松小学校 新潟県小千谷市立千田小学校

876

11 各教科等における評価方法等の工夫改善

論説:総合的な学習の時間における評価方法等の工夫改善(田村学)

事例:新潟県胎内市立中条小学校 879

12 思考力・判断力・表現力を育む授業づくり

論説:思考力・判断力・表現力を育む授業づくりのポイント (木原俊行)

事例:探究的な活動を通して,思考力・判断力・表現力を育む授業

880

平成二十四年

2 総合的な学習の時間における探究的な学習

座談会:探究の価値を,今,改めて考える

事例:茨城県牛久市立神谷小学校 東京都八王子市第四小学校

883

3 社会参画への意欲や態度を形成する教育の推進

解説:総合的な学習の時間における社会参画への意欲や態度の形成(田村学)

事例:北海道北見市立美山小学校

884

4 検証!学習指導要領の全面実施[振り返っての成果と課題]

論説:探究的に学ぶ子どもの姿の具現(田村学) 885

6 自ら学ぶ子どもを育てる授業づくり

論説:探究のプロセスにおける授業づくりのポイント(田村学)

事例:堺市市立北八下小学校 東京都立葛飾ろう学校小学部

887

8 授業改善に向けた教材研究の工夫

論説:総合的な学習の時間における教材研究のポイント(田村学)

事例:横浜市立戸部小学校 889

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小学校 総合的な学習の時間 3

知られた物理学者の中谷は,かつて,研究は「警視庁型」と「アマゾン型」の二つの方法があると随筆に書いていた。「警視庁型」は,追求する答えを犯人に例え,犯人を逮捕するためにはどうすればよいかを考え,捜査する研究方法である。この「警視庁型」は,犯人がいることが前提となる研究である。それに対して「アマゾン型」は,いるかもしれないし,いないかもしれない犯人を捜す研究である。「アマゾンの流域には新種の生物がいるかもしれないが,いないかもしれない。しかし,まずは行ってみよう。」というのである(10)。この「アマゾン型」の研究が「総合」の「探究的な学習」とつながる。アマゾンの流域というフィールドが,「総合」の場合,子どもたちが生活する社会なのである。 「総合」では,答えが一つに定まらない問題,

容易には解決に至らない問題を扱う。それが,自分たちの住む町の魅力であったり,生き方の問題であったりする。「総合」では「何を学ぶのか」よりも「どのように学ぶのか」という探究の過程を重視し,結果として「学び方」と「課題や対象についての明確な考えを表現すること」を学ぶことになると考える。 ②探究の過程 『小学校学習指導要領解説 総合的な学習の

時間編』(11)(以下,解説書)では,探究の過程を次のように示している。

この探究の過程は,いつも①から④のプロセスが順序よく繰り返されるわけではなく,順番が前後することもあれば,一つの活動の中に複数のプロセスが同時に設定されることもある。 また,探究の過程を図1-1のように,図式化し

ている。図に示されているように,スパイラルな構造の各過程で探究が繰り返され,学びが深まると同時に,生きる力が育まれていく。つまり,矢印の向かう先には自己の確立があると考える。 ※1 コミュニケーション能力とは,「いろいろな価値観

や背景をもつ人々による集団において,相互関係を深め,共感しながら,人間関係やチームワークを形成し,正解のない課題や経験したことのない問題について,対話をして情報を共有し,自ら深く考え,相互に考えを伝え,深め合いつつ合意形成・課題解決する能力」のことである。 (コミュニケーション教育推進会議審議経過報告「子どもたちのコミュニケーション能力を育むために」2011.8 p.5)

(2)取組の現状 「総合」は,今回の教育課程の理念のもとに実

施されて2年が経過しようとしている。そこで,開始してはじめの1年間の実施の状況について確認しておきたい。 ①全国における現状 文部科学省の教科調査官である田村は,『初等

教育資料』(No.885 平成24年4月号)の特集「検証!学習指導要領の全面実施」で,次の四つの成果と二つの課題を挙げている。

①【課題の設定】体験活動などを通して,課題を設定し課題意識をもつ

②【情報の収集】必要な情報を取り出したり収集したりする

③【整理・分析】収集した情報を,整理したり分析したりして思考する

④【まとめ・表現】気付きや発見,自分の考えなどをまとめ,判断し,表現する

図1-1 探究的な学習における児童の学習の姿

〈成果〉

◇補充学習のような知識・技能の習得を図る教育や運動会

の準備などと混同された実践がかなり改善されてきて

いる。

◇探究的な学習の価値に目を向け始め,探究による学力

の向上に向けた取組が増えてきている。

◇特に,整理・分析の過程に関する事例が,思考ツール

などの開発とともに深まってきている。

◇各学校における全体計画,年間指導計画,単元計画な

どが質的に向上し,授業実践の質も高まってきている。

〈課題〉

◆一部の学校において不適切な学習活動が改善されてい

ないため,改善の方向性を具体的に例示し,適切な学

習活動となるように対応する。

◆子どもが課題解決をする中に,ものや人と関わる体験

活動をし,話し合ったり伝え合ったり考えたりする言

語活動を位置付けることをイメージし,探究的な学習

の実現に向けて取り組む。 (12)

■探究の過程を経由する。

①課題の設定

②情報の収集

③整理・分析

④まとめ・表現

■自らの考えや課題

が新たに更新され,

探究の過程が繰り返

される。

課題の設定

情報の収集

整理・分析

まとめ・表現

■日常生活や社会に目

を向け,児童が自ら課

題を設定する。

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小学校 総合的な学習の時間 4

筆者は,昨年,拙稿「主体的な学びを支える総合的な学習の時間における言語能力の育成」(13)において,「総合」の課題を二つ挙げた。 □ 「総合」の趣旨・理念が正しく理解されず,

間違ってとらえられてしまっているため,望ましい実践が行われていない。

□ 学校教育全体で,思考力・判断力・表現力等を育成するための各教科等と「総合」との連携が十分に行われていない。

1点目の課題については,田村が述べるようにかなり改善してきていると考えられる。それは,今回の改訂で「総合」が第5章として独立したこと,解説書に加え指導資料がつくられたことによるものが大きい。 2点目の課題については,これまであまり意識されてこなかったというのが現状ではないだろうか。『初等教育資料』において,No.888(平成24年7月発行)に初めて特集「各教科等の関連を図った教育課程の創造」が組まれたことからも推測できる。 ②本市における現状 全国における現状を踏まえ,本市における現状を,小学校全173校で作成された「平成23年度 総合的な学習の時間 全体計画」(京都市教育委員会による調査)を基に,「具体的な学習活動」「学習活動にあてる時間数」「他教科等との関連」の三つの視点から整理,分析した。 a 取り上げた単元の具体的な学習活動 表1-2は,全国における「総合」の具体的な学習

活動,表1-3は,本市における「総合」の具体的な学習活動(いずれも平成23年度計画)である。

本市においては,横断的・総合的な課題として,人権,生き方探究(キャリア教育)についてもあえて欄を設けた。なぜなら,この二つの学習活動は,本市の特色として挙げられるからである。特に,第5学年の生き方探究(キャリア教育)の学習活動が97.1%であるのは,「京都まなびの街 生き方探究館」で行われる体験学習を取り入れた「スチューデントシティ学習」※2が全小学校で実施されているためである。(100%ではないのは,173校中5校が「スチューデントシティ学習」を「総合」で扱っていないためであると考えられる。) 全国と本市の実施状況を比較してみると,全

国,本市ともに,第3学年で「地域・暮らし」の学習活動が多い(全国74.0%,本市80.9%)。ほかにも,第4学年での「環境」(全国60.2%,本市75.1%),第5学年での「生き方探究」を除くと「環境」(全国59.6%,本市58.9%)の学習活動が多いなど,その割合に多少の相違があるものの,具体的な学習活動の傾向は似ていることがわかる。 第3学年で全国,本市ともに「地域・暮らし」

を実施する学校が多いのは,学習指導要領「総合」において「地域の人々の暮らし,伝統と文化など」が地域や学校の特色に応じた課題として例示されたことによると考える。また,特に本市での数値が高いのは,学校運営協議会が多く設置されており(173校中140校,平成24年2月10日現在)学校と地域とのつながりが深いためであると推測できる。 更に,本市における「国際理解」「情報」の二

つの学習活動について内容を詳しく調査した。 ⅰ「国際理解」 平成23年度,本市の第5・6学年において,外

国語を用いてコミュニケーションを図るなどの英語活動を行う学校が 0となった。また,第3・4学年においてもそれぞれ1.1%と減少し(京都市小中一貫教育特区を除く),改善されてきている。これは,学習指導要領において「外国語活動」が教育課程上に位置付けられたこと,「総合」において「探究的な学習」を展開することが明確に示されたことによると考える。 ⅱ「情報」 「情報」では,コンピュータのスキルを身に付

ける学習や情報モラルの学習活動を行う学校が少なからずあった(第3学年30.0%,第4学年28.3%,第5学年28.9%,第6学年26.0%)。学習指導要領「総合」において「探究的な学習」とすることを明確にしたことにより,今後,情報に関する学習活動の見直しが必要である。

表1-2 全国における「総合」の具体的な学習活動(%) ※複数回答 (平成23年度計画)(14)

表1-3 本市における「総合」の具体的な学習活動(%) ※複数回答 (平成23年度計画)

国際理解 情報 環境 福祉・健康 その他 地域・暮らし 伝統・文化 その他

第3学年 36.2 45.3 41.2 34.6 11.5 74.0 38.5 9.4第4学年 35.7 45.7 60.2 54.3 13.4 53.2 30.0 10.2第5学年 25.9 50.8 59.6 39.2 17.9 47.8 33.9 12.1第6学年 39.8 51.3 33.1 38.1 25.6 38.8 48.3 11.3

   学習活動

学年

横断的・総合的な課題 地域や学校の特色に応じた課題

国際理解 情報 環境 福祉・健康 人権 生き方探究 その他 地域・暮らし 伝統・文化 その他

第3学年 34.1 56.6 40.4 23.7 30.6 3.4 5.7 80.9 49.1 2.8第4学年 30.0 56.6 75.1 64.2 32.4 11.5 5.7 38.7 31.2 7.5第5学年 13.9 57.8 58.9 23.1 26.0 97.1 8.0 34.6 31.7 6.3第6学年 37.0 59.0 31.7 30.6 39.9 12.1 11.5 35.8 64.1 6.9

   学習活動

学年

横断的・総合的な課題 地域や学校の特色に応じた課題

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小学校 総合的な学習の時間 5

b 具体的な学習活動にあてる時間配分 次に,「探究的な学習」を意識して学習活動が行われているかという視点で,現状をみていく。 右に示した図1-2~図1-5は,本市における,各

学習活動にあてる時間数を学年ごとに示したものである。「情報」「国際理解」「人権」において10時間以下で実施している学校が多いことがわかる。特に「情報」においては,全学年とも6割を超える(第3学年63.3%,第4学年63.3%,第5学年66.0%,第6学年61.4%)。更に詳しく分析すると,第5学年の「情報」においては,5時間未満で実施している学校が全体の26.0%を占めている。 一方,21時間以上かけて実施している割合が多

い学習活動を学年ごとにみると,第3学年では「地域・暮らし」(実施校の70.5%),第4学年では「環境」(同57.2%)「福祉・健康」(同48.6%),第5学年では「環境」(同54.2%),第6学年では「伝統・文化」(同48.6%)であることがわかる。 また,第5学年で行う本市独自の「スチューデントシティ学習」は,標準指導時数として18時間が設定されている学習活動である。この学習活動を,18時間で実施している学校は46校,18時間よりも短い時間で実施している学校は16校,18時間よりも多い時間で実施している学校は104校もある。その中には,60時間かけて行う学校もある。 同様に,第4・5学年で行う長期宿泊などの野外活動や第6学年で行う修学旅行といった宿泊行事を「総合」の学習活動として実施している学校は45校あった。そのうち,「修学旅行で広島に行くことをきっかけとし,事前に歴史について調べ,実際に広島を訪れることで更に平和についての追究活動を行い,最終,自分の考える平和についてまとめる」など,探究的な学習を意識して単元を展開している学校が9校あった。残りの36校のうち12校は,事前指導やその行事に向けた係活動として時間を設定しており,24校についてはどのような学習活動をするのかは不明であった。 ここで注目すべき点がある。今年度4月に提出された平成24年度の全体計画を平成23年度のものと比較してみたところ,171校(統合のため前年度より減)中140校は何らかの見直しを行っていることが明らかとなった。見直しの仕方としては,次の三つのタイプに分けられる。

図1-3 第4学年の学習活動にあてる時間数の比較(%) (平成23年度計画)

図1-4 第5学年の学習活動にあてる時間数の比較(%) (平成23年度計画)

図1-5 第6学年の学習活動にあてる時間数の比較(%) (平成23年度計画)

1 単元は変えずに,時間数を変更する。(87校) 2 単元は変えずに,学習活動を変える。そのため,

時間数も変更する。(24校) 3 単元を変える。(29校)

図1-2 第3学年の学習活動にあてる時間数の比較(%) (平成23年度計画)

66.0

63.3

16.9

24.3

53.6

28.6

31.8

44.2

26.0

31.6

25.8

27.0

26.8

57.1

36.4

26.9

4.0

5.1

30.6

23.4

8.9

14.3

16.7

21.2

4.0

0 26.6

25.2

10.7

0

15.1

7.7

国際理解

情報

環境

福祉・健康

人権

生き方探究

地域・暮らし

伝統・文化

1~10時間 11~20時間 21~30時間 31時間以上

83.3

66.0

18.8

55.0

57.8

1.2

35.6

49.1

8.3

27.0

27.1

17.5

26.7

69.6

23.7

15.1

4.2

6.0

25.0

10.0

6.7

22.0

6.8

15.1

4.2

0 29.2

17.5

8.9

7.1

33.9

20.7

国際理解

情報

環境

福祉・健康

人権

生き方探究

地域・暮らし

伝統・文化

1~10時間 11~20時間 21~30時間 31時間以上

45.2

61.4

46.9

46.2

42.6

28.6

37.7

25.7

32.3

31.7

24.5

23.1

17.6

42.9

24.6

25.7

12.9

5.9

16.3

19.2

22.1

14.3

16.4

16.5

12.9

2.0

16.3

13.5

19.1

14.3

21.3

32.1

国際理解

情報

環境

福祉・健康

人権

生き方探究

地域・暮らし

伝統・文化

1~10時間 11~20時間 21~30時間 31時間以上

61.4

63.3

21.9

51.2

64.2

33.4

7.9

30.1

24.6

30.6

31.3

19.5

17.0

33.3

21.6

27.7

8.8

6.1

28.1

14.6

11.3

0

26.6

25.3

5.3

0 18.8

14.6

7.5

33.3

43.9

16.9

国際理解

情報

環境

福祉・健康

人権

生き方探究

地域・暮らし

伝統・文化

1~10時間 11~20時間 21~30時間 31時間以上

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小学校 総合的な学習の時間 6

実際に1年間実践してみて,「これでは,時間が足りない」「そのためにはどうすればよいか」と考えた学校もあるであろう。また,単元を振り返り,「探究的な学習」となっていないことに気付き,単元を見直した学校もあるであろう。事実,宿泊行事を学習活動として実施する学校は,3.2ポイント減少した。これは,「総合」を「探究的な学習」として実現しようとする意識の表れであると考える。 c 他教科等との関連 本市における「総合」と他教科等との関連について整理したのものが,表1-4である。

国語科や社会科との関連を意識している学校

は,全学年において100校を超えている。特に第3学年の社会科は160校であり,全体の92.5%の学校で関連を意識している。 図1-6は,「総合」と国語科の3領域1事項との関

連について,学年ごとにその割合を示したものである。特に「話すこと・聞くこと」(第3学年38.5%,第4学年48.3%,第6学年47.3%)「書くこと」(第3学年38.5%,第4学年43.1%,第5学年54.0%,第6学年51.6%)との関連を意識していることがわかる。 例えば第3学年では,国語科の単元「質問をし

たり感想を言ったりしよう」「ほうこく書を書こう」との関連を意識する学校が多い。前者は,出来事の報告,説明,感想や質問の仕方について学ぶ単元である。後者は,資料研究の報告書を書くプロセスや報告書の型を学ぶ単元である。また,

選書や摘読の力が身に付く単元でもある。このように国語科で身に付けた知識・技能を「総合」の探究の過程で活用することで,より確かな力が身に付くと考える。ほかには,国語科の教材「三年とうげ」(第3学年)と「総合」の国際理解の学習活動,資料「手と心で読む」(第4学年)と福祉の学習活動,資料「平和のとりでを築く」(第6学年)と平和の学習活動というように,内容の関連を意識している学校がある。 一方,社会科では内容の関連が多い。例えば第

3学年では,単元「わたしたちのまち」(105校)と「地域の人々が受けついできたもの」(88校)(副読本『わたしたちの京都』)との関連が多い。4ページ表1-3からわかるように,第3学年の「総合」では,「地域・暮らし」の学習活動が全体の80.9%を占めていることとも一致する。知識・技能の関連も考えられるが,ある学校が,「社会科の授業の発展的な扱いで行う」と述べているように,内容の関連を意識していることがわかる。中には,社会科の「適切に資料を選択し,調べ学習をしたり様々な情報からまとめたりすることができる」という学びのスタイルや「地図の見方,かき方」との知識・技能の関連を意識している学校もある。 また,少数ではあるが特別活動の学級活動,児童会活動,学校行事(主に遠足・集団宿泊的行事)との関連を意識している学校もある。 以上,全市小学校の「平成23年度 総合的な学習の時間 全体計画」から,本市における「総合」の現状を明らかにした。この現状を基に,第2節では,探究的な学習を充実させるための課題について述べていく。 ※2 「スチューデントシティ学習」のねらいは,「日常

生活に関わる社会のしくみや経済の働きを理解させる」「社会的・職業的自立をめざし,自らの生き方を考える力を育成する」の2点である。プログラムは,「事前学習」「体験学習」「事後学習」で構成されている。「事前学習」「事後学習」は,各学校で担任の指導により行われ,「体験学習」は,〈京都市スチューデントシティ〉において行われる。「スチューデントシティ学習」を実施するに当たっては,ジュニア・アチーブメントの教育プログラム・教材などを活用し,京都市ならではの伝統文化や産業などの視点を盛り込んだ独自のプログラム開発を行っている。 なお,ジュニア・アチーブメント(本部 アメリカ)

は,1919年に米国で発足した世界最大の経済教育団体で,民間・非営利の活動は現在,世界97ヶ国に広がりをみせ,4万社の企業支援を受けて青少年の社会的適応力の育成を目的とした教材や指導法の開発を行い,教材を無償で教育機関に提供している。日本においては1995年に日本アイ・ビー・エムの椎名武雄会長(現

表1-4 本市における「総合」と他教科等との関連(校) ※複数回答 (平成23年度計画)

図1-6 本市における「総合」と国語科の3領域1事項との関連 (平成23年度計画)

47.3

16.0

48.3

38.5

51.6

54.0

43.1

38.5

1.1

28.0

8.6

11.9

2.0

11.1

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

6年

5年

4年

3年

話すこと・聞くこと 書くこと 読むこと 伝国 ※3

学 年 国語 社会 算数 理科 音楽 図画工作 体育 家庭 道徳 特別活動

第3学年 112 160 4 66 8 1 3 34 4第4学年 131 139 8 66 4 2 5 30 9第5学年 108 148 3 57 3 4 6 35 28 9第6学年 116 147 3 34 6 4 12 24 43 10

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小学校 総合的な学習の時間 7

相談役)を理事長に,ジュニア・アチーブメント日本が設立された。学習プログラムには「体験型実技演習プログラム」「コンピュータ・シミュレーション」「セミナー・講習会」等があり,「スチューデントシティ学習」は「体験型実技演習プログラム」の一つである。

※3 「伝国」とは,「伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項」の略である。

第2節 探究的な学習を充実させるための課題 田村は,図1-1(3ページ)のように探究の過程を図示したことで探究的な学習についてのイメージを適切に伝えられたと効果を認める一方,「図式化したものを示すことはデメリットもある」(15)と述べている。そもそも子どもが生き生きと学ぶためのモデルとして探究的な学習のイメージを図式化したのだが,その目的を見失い,モデルが一人歩きし, 形骸化することを危惧しているのであろう。確かに,教師主導でこのモデルが展開されたとしても,子どもには力が付かない。探究的な学習は,子どもが主体でなければならない。子どもの中に何らかの必然性があり,「もっと知りたい」「もっとやってみたい」という意欲をもって,モデルに示された学習活動に主体的に取り組むことが重要なのである。 大切なのは子どもの実態であり,意欲である。だからといって,子どもに任せきりにするというのではない。無藤が「教師の意図があるべき」(16)と述べるように,目の前の子どもに寄り添い,子どもの実態をしっかりと把握した上で,探究的な学習となるように教師が意図的に学習活動を設定しなければならない。 そこで,「総合」における実施状況を調査した

結果からみえてきた,探究的な学習を充実させるための本市の課題について,単元構想,学習過程の二つの視点から考えてみたい。

(1)単元構想上の課題 単元を構想する上での課題として,次の2点が挙げられる。 ①学習活動にあてる時間数と内容 第1節において,「国際理解」と「情報」,「人権」を扱う単元の時間数が少ないことを明らかにした。特に,第5学年の「情報」では,5時間未満で実施している学校が全体の26.0%を占めていた。扱う時間数が多ければよいというものではないが,時間数が少ないとどうしても,探究的な学習を展開する上で無理が生じる。ましてや,5時間では問

題解決さえ行えないのが実状ではないだろうか。 そこで,探究的な学習が展開できるように,一

つの単元にあてる時間について検討を行うことが求められる。指導資料の第2章「年間指導計画の作成」において「年間指導計画例」で示されている単元の時間数を基に考えてみても,探究の過程を繰り返すのであれば,少なくとも20時間程度の時間が必要であると考える。 また,「スチューデントシティ学習」は,「総合」

で扱う場合,単元を構想するときに工夫が求められる。「スチューデントシティ学習」だけで単元を構想するのではなく,例えば,この学習をきっかけとして,仕事観,勤労観をテーマに探究的な学習を展開するなど,「総合」の単元の中に「スチューデントシティ学習」を組み込むことが大切である。 扱っている学校は少数ではあるが「特別活動」

に位置付けられる遠足・集団宿泊的行事についても同様のことがいえる。先に述べたように,宿泊行事を「総合」の学習活動として実施している45校のうち12校は,事前指導や係活動に時間をあてている。これでは,探究的な学習を展開するのには無理がある。「総合」の単元の中に「宿泊行事」での学習活動を組み込むような構想が求められる。例えば,防災をテーマに,地震について調べ,実際に修学旅行の機会を利用して阪神・淡路大震災で被害を受けた場所を訪ね,見学,調査などの追究活動を行い,事後,わかったことをまとめ,新たに生まれた課題を別の手段で追究するなど一連の学習活動を探究的な学習にすることが必要なのである。 つまり,探究的な学習を展開するためには,単

元を構想する際に次のような二つの工夫が重要である。 ○単元を構想するに当たって,1単元あたり20 時間程度は設定する。

○ 「スチューデントシティ学習」や「宿泊行事」についての単元を構想する場合,独立して単元を構想するのではなく,探究の過程に体験や追究活動の一つとして組み込む。

②他教科等との関連 小学校学習指導要領第1章総則第4「指導計画

の作成等に当たって配慮すべき事項」では,各教科等との関連について次のように規定している。

1(1)各教科等及び各学年相互間の関連を図り,系統的,発展的な指導ができるようにすること

1(4)児童の実態等を考慮し,指導の効果を高めるため,合科的・関連的な指導を進めること (17)

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小学校 総合的な学習の時間 8

「総合」と他教科等とは,「知識・技能」と「内容」の二通りの関連の仕方がある。第6学年の国語科の光村図書の単元「自分の考えを明確に伝えよう」を例に,それぞれの関連の仕方について以下に示す。 本市においては,「総合的な学習の時間 全体

計画」に,「各教科等との関連単元」という欄が設定されたことで,各学校において他教科等との関連が意識されるようになったことは成果といえる。しかし,他教科等との関連を意識していない学校や特定の教科との関連しか意識していない学校もみられる。 第1節で,国語科とは「知識・技能」の関連が

多く,社会科とは「内容」の関連が多いと述べた。このほかの教科等についても詳しく調査してみると,算数科や図画工作科,体育科,家庭科とは「知識・技能」の関連,理科や音楽科,道徳,特別活動の学校行事とは「内容」の関連が多い。このように,教科等によって関連の仕方に特徴がある。 また,表1-4(6ページ)から,国語科や社会科との関連を意識している学校が100校を超える一方,算数科のように関連を意識している学校が少ないなど,関連を意識しやすい教科と意識しにくい教科があることがわかる。 しかし,本市の平成23年度「生活科・総合的な

学習教育研究会」の夏季研修会で,前文部科学省主任視学官の嶋野は「総合」の単元を構想するとき組み入れる五つの活動の中に「実験・観察の要素」と「基礎的な算数活動」を挙げている(18)。このことからもわかるように,他教科等の「知識・技能」や学習過程との関連を図り,効果的で効率

的な指導を行うことは,子どもたちに確かな力を付けるために重要な視点となる。 ある学校では,「総合的な学習の時間 全体計

画」の「各教科等との関連単元」の欄に,関連する教科等のねらいを次のように挙げている。(一部抜粋)

このように各教科等で付けたい力を意識して

「総合」の単元を構想することは意義深い。 また,「総合」と社会科や算数科,理科との「知識・技能」の関連を意識している学校は少ないが,今後,意識して単元を構想していくことが求められる。例えば,次のような「知識・技能」の関連が考えられる。 このほかにも,それぞれの教科での学び方とい

うべき学習過程も「知識・技能」の関連として挙げられるであろう。 これらの優れた取組や,教科等との関連の仕方

を具体的に例示しながら,探究的な学習となるように全市へ広げていくことが大切だと考える。 また,他教科等との関連を教師が意識するだけ

ではなく,子ども自身が意識できるようにすることも大切である。なぜならば,学習の主体者は子どもだからである。

[第4学年 社会]

適切に資料を選択し調べ学習をしたり,様々な情報

からまとめたりすることができる。

[第4学年 算数]

数学的な見方や考え方を身に付け,理論的思考が

できるようにする。

[第5学年 理科]

身近な自然から体験活動をし,問題解決をしたり科

学的な見方や考え方ができるようにしたりする。

[第6学年 特別活動]

集団の一員としての自覚を深め,協力してよりよい

生活を築こうと自主的に行動することができる。

[社会科] 「地図の見方,かき方」「見学や調査のしかた」 「資料の読み取り」「資料を使っての説明の仕方

[算数科] 第3学年「表とグラフ(棒グラフ)」 第4学年「表とグラフ(折れ線グラフ)」

「調べ方と整理のしかた」 第5学年「平均」「単位量あたり」「割合」 第6学年「資料の調べ方」「見積もりを使って」

「割合を使って」 [理科] 「実験・観察の仕方」「結果の整理の仕方」 「考察の仕方」

「知識・技能」の関連

自分の考えを明確に伝えるために,この単元で学

ぶ知識・技能は次の五つである。

・課題の設定の仕方

・課題の解決の仕方

・意見文を書く手順

・意見文の文章構成

・スピーチの仕方

国語科で身に付けたこれらの知識・技能(学び方)

を「総合」の探究の過程で活用するという関連の仕

方をさす。

「内容」の関連

この単元でこれらの知識・技能を身に付けるため

に読む,教材「『平和』について考える」資料「平

和のとりでを築く」に書かれている内容を「総合」

の題材とする関連の仕方をさす。

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小学校 総合的な学習の時間 9

(2)学習過程上の課題 田村は,学習指導要領完全実施1年を振り返っ

て,「ややもすると体験活動だけが目的となり,そのことによってどのような学習が成立しているかは十分に問われてこなかった」(19)と述べている。本市においても,「総合」の学習過程を,図1-7に示した「調べて,まとめて,発表する」としている学校があることから,同様の課題があると考えられる。「体験活動や調べ学習をして,まとめて発表する」イコール「総合」の学習と考える傾向があるのではないだろうか。 しかし,探究的な学習では,「何のために体験

活動や調べ学習をするのか」「その体験をして(調べ学習をして)何がわかったのか」「そこからどう考えるのか」が重要なのである。そのために,話し合ったり,伝え合ったり,考えたりする言語活動が,学習過程上に適切に位置付けられなければならない。そして,それらの言語活動には必ず思考を意識することが求められる。 つまり,図1-7に示した過程に加え,「課題を設定する」活動と,「思考する」活動を設定することが大切となる。また,従来の「発表する」活動から,双方向性のある「交流する」という活動に意識を変える必要がある。図1-8に示すように,この学習過程は,学習指導要領の「総合」の解説で示された「探究の過程」の「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」と一致する。 いま,求められるのは,「思考する」活動,つまり「整理・分析」のプロセスを充実させることである。「整理・分析」では,収集した情報を課題と結び付けて思考する。情報を収集しても,思考しないと学びは深まらない。学びが深まらないと,「まとめ・表現」も表面的なものとなってしまう。 では,「思考する」とは,一体,どのような活動

なのだろうか。 指導資料によると,「収集した情報を種類ごと

に分類したり,細分化して因果関係を導き出したり,批判的・複眼的な視点で分析したりする」(20)ことであるとしている。思考は本来,頭の中で行うものであり,実際には見えないためにイメージしにくい。だからこそ,思考を具体化する必要がある。例えば,「比較する」「関連付ける」「分類する」「分析する」などの具体的な思考の方法を示すのである。 ある学校では,「総合的な学習の時間 全体計

画」の「各教科等との関連単元」の欄に,言語活動や具体的な思考の方法を下のように示している。(一部抜粋) このように,他教科等で身に付けた言語活動や

具体的な思考の方法を,「総合」で活用することが大切なのである。 また,「思考のための図式」を用いることで,

情報や考え方が可視化できる。指導資料では,「思考のための図式」を思考ツールとしてベン図,座標軸等が紹介されている。可視化することで,思考が確かなものとなり,関係性も見つけやすくなるという利点がある。はじめは教師に教えてもらってツールを活用していても,ツールの有用性を実感した子どもは,ほかの場面でも自発的にツールを活用できるようになるであろう。そのためにも,学習過程に「振り返り」の活動を位置付けることで,子どもが学びを実感することが大切となる。「振り返り」の活動については,第2章で詳しく述べることにする。 これらの優れた取組やツールを紹介し,全市へ

広げていくことで,「思考する」活動,「整理・分析」のプロセスにおける言語活動が充実すると考える。 (4) 中央教育審議会大学分科会大学教育部会「予測困難な時代に

おいて生涯学び続け,主体的に考える力を育成する大学へ

(審議まとめ)」2012.3 p.22

(5) 前掲(4) p.20

(6) 梶田叡一「新しい時代の教育に望むこと」『初等教育資料』

(No.833)平成20年4月号 2008.4 p.2

(7) 門脇厚司「異なる価値を受け入れ,共に育つ子どもを育てる」

『初等教育資料』(No.885)平成24年4月号 2012.4 p.68

図1-7 ある学校の考える「総合」の学習過程

図1-8 求められる学習過程と「探究の過程」

[3年]

国語:「報告する文章を書こう」(収集・表現)

社会:「わたしたちのまち」(調査・比較・表現)

調べる まとめる 発表する

課題の設定

情報の収集

整理・分析

まとめ ・表現

課題を設定する 調べる まとめる 思考する 交流する

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小学校 総合的な学習の時間 10

(8) 文部科学省『今,求められる力を高める総合的な学習の時間

の展開』2010.11 pp..17~18

(9) 無藤隆「新しい時代の幼稚園,小学校教育に求められている

もの」『初等教育資料』(No.833)平成20年4月号 2008.4 p.17

(10)中谷宇吉郎「比較科学論」『中谷宇吉郎随筆集』岩波文庫 岩

波書店 2011.1 p.277

(11)文部科学省『小学校学習指導要領解説 総合的な学習の時間

編』2008.8

(12)田村学「探究に学ぶ子どもの姿の具現」『初等教育資料』

(No.885)平成24年4月号 2012.4 pp..47~48

(13)進藤弓枝「主体的な学びを支える総合的な学習の時間におけ

る言語能力の育成-探究的な学習を実現する言語活動の構

想-」『平成23年度研究紀要』京都市総合教育センター

2012.3

(14)文部科学省「平成23年度公立小・中学校における教育課程の

編成・実施状況調査の結果について」

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/__icsFiles

/afieldfile/2012/01/31/1315677_1_1.pdf 2013.2.20 (15)田村学「探究の価値を,今,改めて考える」『初等教育資料』

(No.883)平成24年2月号 2012.2 p.72

(16)無籐隆「なぜ,今,探究学習が必要とされるのか」『「探究

型」学習をどう進めるか-学習の創造的発展と問題解決力の

育成-』2008.7 p.14

(17)文部科学省『小学校学習指導要領』2008.1 p.15

(18)嶋野道弘「探究心をわきたたせ,確かな学びをつくるために」

『研究収録第22集 探究心をわきたたせ,確かな学びを創る

子ども』京都市小学校生活科・総合的な学習教育研究会

2012.3 p.82

(19)前掲(12) p.48

(20)前掲(8) p.31

第2章 探究的な学習の充実をめざした単 元構想と評価

第1節 総合的な学習の時間における問題意識の

調査 ①意識調査の目的と方法 a 意識調査の目的 第1章では,「総合的な学習の時間 全体計画」

を基に,本市における現状と課題について明らかにした。そこでは,新たな教育課程を基に全体計画が立てられ,1年間実施した後,見直しや改善が行われたことも明らかとなった。 そこで,2年目の実践が行われている現在,教

員がどのような問題意識をもっているのかについて調査した。これにより,各学校での指導の現状

を明らかにし,新たな「総合」の取組の検証をするとともに,今後の指導の在り方を検討する材料としたい。 b 意識調査の方法 平成24年7月27日に京都市勧業館みやこめっせにおいて実施された「生活科・総合的な学習教育指導講座」(京都市教育委員会,京都市生活科・総合的な学習教育研究会主催)に参加した本市の教員85名を対象に,アンケート調査を行った。 質問は大きく分けて「単元を構想するときに大切にしていること」「単元を構想するときに困っていること」の二つである。 「単元を構想するときに大切にしていること」

については,16の項目について「特に」「時々」「あまり」「全く」の4段階で解答を求めた。また,「単元を構想するときに困っていること」については,16の項目について選択形式(複数回答)で回答を求め,自由記述の欄も設けた。 ②意識調査の結果と考察 表2-1は,「単元を構想するときに大切にしてい

ること」の16項目についての回答結果をまとめたものである。有効回答数は85である。

次ページ表2-2は,「単元を構想するときに困っ

ていること」について16項目の中から選択形式で回答を求めた結果である。複数回答とし,選択の数に制限はしなかった。85名中,どの項目も選択しなかったのは7名,15項目を選択したのは2名で,一人平均3.9項目を選択した。

表2-1 教員の意識調査結果➊「大切にしていること」 回 答 内 容 常に 時々 あまり 全く 無答

1 内

①学年の系統性 43.5% 50.6% 4.7% 0.0% 1.2%

2 ②各教科等との関連性 38.8% 54.1% 5.9% 0.0% 1.2%

3 知識・技能

①学年の系統性 38.8% 47.1% 14.1% 0.0% 0.0%

4 ②各教科等との関連性 40.0% 54.1% 5.9% 0.0% 0.0%

①素材(テーマ)との出会わせ方 74.1% 18.8% 5.9% 0.0% 1.2%

②追究活動

のさせ方

学習課題,学習計画を立てる活動 48.2% 43.5% 8.2% 0.0% 0.0%

7 見学したり体験したりする活動 67.1% 30.6% 2.4% 0.0% 0.0%

8 図書館やコンピュータで調べる活動 27.1% 57.6% 14.1% 0.0% 1.2%

9 インタビューしたりアンケートをとったりする活動 37.6% 51.8% 10.6% 0.0% 0.0%

10 地域の方やゲストティーチャーとの協同的な活動 50.6% 41.2% 5.9% 1.2% 1.2%

11 ③学習形態の工夫(グループ交流など) 54.1% 42.4% 3.5% 0.0% 0.0%

12 ④表現活動 57.6% 36.5% 5.9% 0.0% 0.0%

13 ⑤振り返る活動 49.4% 47.1% 3.5% 0.0% 0.0%

14 評

①自己評価 34.1% 48.2% 14.1% 1.2% 2.4%

15 ②子ども同士の相互評価 16.5% 57.6% 24.7% 0.0% 1.2%

16 ③指導と評価の一体化 36.5% 51.8% 9.4% 0.0% 2.4%

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小学校 総合的な学習の時間 11

a 「大切にしていること」から見えてくること 「総合」の改訂のポイントとして挙げられる

「体験」「協同」と関連の深い「7 見学したり体験したりする活動」「11 学習形態の工夫(グループ交流など)」が「常に」「時々」を合わせると97.7%,96.5%となっていることが注目すべき点である。また,「10 地域の方やゲストティーチャーとの協同的な活動」も91.8%と高い数字である。これらのことから,改訂の趣旨が多くの教員に周知されているととらえることができる。 b 評価についての課題 「困っていること」において,一番多くの教員

が選択したのは,「11 評価をどのようにしたらよいかわからない」(43.5%)であった。また,<評価>に関連のある「付けたい力」についての項目「9 付けたい力をどのように育てたらよいかわからない」も32.9%と高かった。つまり,教員が最も課題であると感じているのは<評価>のことである。 また「大切にしていること」の調査において,

<評価>については,全ての項目で「常に」の回答が4割を下回っている。特に「15 子ども同士の相互評価」においては,16.5%と意識が低い。「時々」を合わせても,「14 自己評価」は82.3%,「15 子ども同士の相互評価」は74.1%,「16 指導と評価の一体化」は88.3%しかなく,他の項目と比較すると意識が低いことがわかる。 これらのことから,付けたい力の不明確さが,

評価の困難性を招いているのではないかと考えられる。また,評価方法が明確ではないために,評価に対する意識が低いともいえるのではないだろ

うか。そうであるならば,付けたい力を明確にすることを前提とし,付けたい力に応じた評価規準の設定と評価方法の開発が求められる。 c 単元の構想・単元づくりについての課題 「困っていること」で次に多いのが,「12 学

習課題をどのようにつくらせたらよいかわからない」(41.2%)であった。このことから,「課題の設定」に困難を感じていることがわかった。これを解決するためには,どのように単元を構想するのかを考え,課題を醸成させるプロセスを工夫することが大切になると考える。これは,「1 探究的な学習になりにくい」が29.4%と,ほかに比べて高い割合を示していることとも関連しており,〈単元構想・単元づくり〉に課題がみられるということにつながる。合わせて,自由記述の中にも以下のような記述が見られた。 中でも,下線の「単発の授業が多い①」という

記述は,筆者が第1章第2節(1)①で「1単元にあてる時間が少ないことが課題である」としたことを裏付ける結果となった。また,「体験活動の充実の仕方②」や「体験活動の生かし方③」,「思考操作のさせ方④」を課題として挙げていることは,第1章第2節(2)で,田村が「探究に学ぶ子どもの姿の具現」(初等教育資料No.885)で述べていることを受け,筆者が「学習過程の見直し」を課題としたことを裏付ける結果となった。 また,「大切にしていること」では「7 見学した

り体験したりする活動」の回答が多く,追究活動における体験活動への意識は高いものの,「8 図書館やコンピュータで調べる活動」や「9 インタビューしたりアンケートをとったりする活動」の割合がほかと比較するとやや低い傾向にあった。これらのことから,教育現場では探究的な学習を展開するための指針となるものが求められていると考える。どのようにすれば探究的な学習となるのか,

〈単元構想・単元づくり〉に関する課題

・単元をどのようにつくればよいかわからない ・単元の構想の仕方がわからない ・テーマの設定の仕方がわからない ・探究的な学習をスパイラルに展開するためにはどうすればよいか

・探究の学習過程を実際の単元でどう位置付ければよいかわからない

・単発の授業が多い① ・体験活動を充実させる方法がわからない② ・体験活動で終わらせないためにはどうすればよいか③ ・どのように思考させたらよいのか。どのような思考ツールを使えば有効なのかが難しい④

表2-2 教員の意識調査結果➋「困っていること」(複数回答) 回 答 内 容 選択率

探究的な学習になりにくい。 29.4%

2 内容について,学年の系統性をどのように意識したらよいかわからない。 23.5%

3 内容について,各教科等との関連性をどのように意識したらよいかわからない。 15.3%

4 知識・技能について,学年の系統性をどのように意識したらよいかわからない。 16.5%

5 知識・技能について,各教科等との関連性をどのように意識したらよいかわからない。 12.9%

6 テーマをどのように設定したらよいかわからない。 28.2%

7 コミュニティティーチャーなどの人材の確保が難しい。 36.5%

8 時間数が 70時間に削減されて,単元が構想しにくくなった。 12.9%

9 付けたい力をどのように育てたらよいかわからない。 32.9%

10 単元のなかにどのように言語活動を位置付けたらよいかわからない。 16.5%

11 評価 評価をどのようにしたらよいかわからない。 43.5%

12

指導の仕方

学習課題をどのようにつくらせたらよいかわからない。 41.2%

13 学習計画をどのように立てさせたらよいかわからない。 27.1%

14 追究活動をどのようにさせたらよいかわからない。 23.5%

15 集めた情報をどのように整理させたらよいかわからない。 18.8%

16 表現活動をどのようにさせたらよいかわからない。 8.2%

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小学校 総合的な学習の時間 12

探究的な学習の過程に体験活動や言語活動,思考操作をどのように位置付けるのか,追究活動の方法などについて具体的に示していく必要性を感じる。 d 各教科等との関連・学年の系統性の課題 自由記述には〈年間計画〉に関して,以下のよ

うな課題が挙げられた。 これらをみると,下線で示すように,「学校と

して」「学校全体で」という文言が多く用いられていることに気付く。学校全体で年間計画を作成することで,「各教科等との関連」や「学年の系統性」も明らかとなり,見通しがもちやすくなるであろう。 このことは,表2-3教員の意識調査➌が示すよ

うに,多くの教員が<各教科等との関連><学年の系統性>を重視していることからもわかる。ただし,実際の構想においては,「各教科等との関連」「学年の系統性」のどちらについても1~2割程度の教員が課題と感じているという現状がある。

更に,自由記述には次のような課題があげられている。 これらのことから,〈各教科等との関連・学年

の系統性〉を学校全体で意識し,付けたい力の系統表や年間計画を作成したり,年間計画に各教科

等との関連を示したりしていくことを重視すべきであると考える。 e コミュニティティーチャーの課題 〈コミュニティティーチャー〉に関しては,「大切にしていること」において「10 地域の方やゲストティーチャーとの協同的な活動」の「特に」「時々」を選択した割合が91.8%と高い。これについては,「総合」において多くの教員が協同的な学びを意識していることの表れであると,前にも述べた。これに対して,「困っていること」において「7 コミュニティティーチャーなどの人材確保」が36.5%とほかに比べると高いことがわかる。自由記述においても以下のような記述が見られる。 つまり,〈コミュニティティーチャー〉との協

同的な学びの大切さはわかっているが,課題も多いのである。そこで,〈コミュニティティーチャー〉についての条件整備を行うことが必要と考える。詳しくは,次節で述べる。 第2節 探究的な学習の充実をめざした単元構想

の視点 (1)学年の系統化を図る 第1節で,教員が<各教科等との関連><学年の系統性>が大切だと感じていることが明らかとなった。<各教科等との関連>については,拙稿「主体的な学びを支える総合的な学習の時間における言語能力の育成」(21)においてその重要性について述べた。年間計画に各教科等との関連を示すなど,より一層の具現化を図ることが望まれる。 <学年の系統化>については,解説書「第6章第2節年間指導計画の作成において」に,「年間計画を作成するに当たっては,当該学年までの児童の学習経験やその経験から得られた成果について事前に把握し,その経験や成果を生かしながら年間計画を立てる必要がある」(22)と記述されていることからも明らかなように,「内容」と「付けたい力」の両面から確かにしていかなければならない。 ①「内容」の系統化を図る 「内容」の系統化を図るにあたって,三通りの方法が考えられる。一つは同じ「内容」の単元を

〈年間計画〉に関する課題 ・学校として系統立てて年間計画を立てていきたい ・学校全体で足並みをそろえて「総合」を行うことが大切だと思う

・学校としてカリキュラムづくりを行っていかないといけない

・年間計画を立てることが大切だとわかっているが, 実際は立てられていない

〈各教科等との関連〉に関する課題 ・各教科等との関連があいまい ・各教科で学んだことが十分活用できていない 〈学年の系統性〉に関する課題 ・付けたい力が学校として系統的に設定されていないので,子どもに力が付けられているか不安

・知識・技能の系統表がない ・これまでにどのような力が付いているのか,どこまで力を付けるのかがわからない

・学校として力の系統表が必要 ・系統的に指導できていないので,本当に子どもに力が付いているのかわからない

〈各教科等との関連〉〈学年の系統性〉に関する課題 ・学校として,縦と横の系統性を確立すること

〈コミュニティティーチャー〉に関する課題 ・コミュニティティーチャーの確保 ・担任が変わると,コミュニティティーチャーと継続しにくいこと

・コミュニティティーチャーとの打合せ,共通理解の図り方

表2-3 教員の意識調査結果➌

各教科等との関連 学年の系統性

内 容 知識・技能 内 容 知識・技能

大切にしている 92.9% 94.1% 94.1% 85.9%

困っている(複数回答) 15.3% 12.9% 23.5% 16.5%

※「大切にしている」の数字は,「特に」と「時々」の数字を合わせたもの

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小学校 総合的な学習の時間 13

第3学年,第4学年,第5学年,第6学年と段階的に高めていく方法であり,一つは学年ごとに扱う「内容」を意図的に変えて4年間にいろいろな内容の単元を展開する方法である。もう一つは,二つの方法を混合したものである。 a 同じ「内容」を扱う 同じ「内容」の単元を段階的に高めていく方法のよい点は,一つの「内容」を掘り下げて行える点にある。また,段階的に積み上げていくために,新しい対象物に出会っても戸惑いが少ない点である。留意すべき点は,「内容」の広がりが少ないので,意図的に子どもたちの視野を広げるように単元を構想することが求められる点である。例えば,子どもの実態を把握し,何年生はだれと,どのような交流をするのかを発達段階に応じて設定していくことが大切となる。これらを総合すると,表2-4に示すような単元例が考えられる。これは,筆者の作成した,全ての学年で「福祉」の内容を扱う場合の単元例である。 b 違った「内容」を扱う 意図的に違った内容を扱う方法のよい点は,4年間にいろいろな「内容」の学習ができるという点である。留意すべき点は,段階的に積み上げていくことができないために同じ「内容」を扱う方法と比べると,体験の積み重ねが不足して活動が制限される場合が考えられる点である。これらを総合すると,表2-5に示すような単元例が考えられる。これは,筆者が各教科等との関連を意識して作成したものである。

c 同じ「内容」と,違った「内容」を扱う 同じ「内容」と,違った「内容」の両方を扱うというのは,aとbとのよい点を合わせもつ方法である。時間数が各学年70時間なので,1単元20時間程度と考えると,1年間で三つ程度の単元を行うことが可能である。そこで,一つの単元を,第3学年から第6学年まで段階的に積み上げていき,他の単元は,子どもの実態に応じて多様な「内容」の単元を展開するという方法が考えられる。 ②「付けたい力」の系統化を図る 今回実施した意識調査の「困っていること」の

自由記述に,「これまでにどのような力が付いているのか,どこまで力を付けるのかがわからない」と書かれたものがあった。また,「付けたい力が学校として系統的に設定されていないので,子どもに力が付けられているか不安」というものもあった。教科とは違い,「総合」や「外国語活動」などでは各学年の目標が設定されていない。その上,「総合」では目標さえも各学校に委ねられている。これは,子どもや学校,地域の実態に応じ,各学校において創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開してほしいというねらいによるものである。だからこそ,各学校で「付けたい力」を設定し,各学年の発達段階に応じた系統表を作成することが必要となってくる。 解説書の第5章第3節「育てようとする資質や

能力及び態度の設定」に,付けたい力の系統表をつくる上での手がかりとなる記述が見られる。 これらのことを参考に,付けたい力の系統表を

作成し,系統的に子どもたちに力を付けていくことが求められる。付けたい力の系統表や,評価規準については第3節「探究的な学習の充実をめざした評価の視点」で詳しく述べる。

表2-5 違った「内容」を扱う場合の単元例

表2-4 同じ「内容」を扱う場合の単元例

育てようとする資質や能力及び態度の設定に際しては,学年段階ごとに考えることが必要となってくる。(略)…全教職員がそれぞれの実践経験を生かし,児童の実態を踏まえて考えることが大切である。その際,以下のような視点も参考になる。 ・各教科等に示された目標及び内容 ・児童のそれまでの経験 ・児童の興味・関心 ・直接体験から間接体験へといった,児童の活動の

質的変化 ・具体から抽象へといった,児童の思考や認識の発達 なお,一つの資質や能力及び態度について設定すべき段階の数については…(略)…2学年をひとまとまりとした2段階による設定が,実践事例としても多く,また現実的な示し方である。 (23)

扱う「内容」 他教科等との関連

第3学年

国際理解 国語科 資料「3年とうげ」

地域・暮らし 社会科

第4学年

福 祉 国語科 資料「手と心で読む」

情 報 国語科 教材「アップとルーズで伝える」

第5学年

生き方探究 (キャリア教育)

スチューデントシティ

環 境 理科,学校行事(長期宿泊学習)

第6学年

伝統文化 社会科

生き方探究 (キャリア教育)

卒業に向けて

対 象 主な活動

(第 2学年) (高齢者) (地域の高齢者に昔遊びを教えてもらう)

第 3学年 高齢者 高齢者福祉施設を訪問。発表・ふれあい。

第 4学年 視覚に障害のある人 国語科資料「手と心で読む」

アイマスク体験。話を聞く。ふれあい。

第 5学年 身体に障害のある人 車いす体験。話を聞く。

車いすバスケット。車いす介助。

第 6学年 障害のある全ての人

ボランティア

障害のある人,ボランティアから話を聞

く。アドバイスをもらう。

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小学校 総合的な学習の時間 14

思 考

考 え

個 情報収集

情 報

(2)協同的な学びの場を設定する 協同的な学びとは,他者と協力して行う学習活動のことである。ここでいう他者とは,共に学ぶ仲間だけではなく,他学年,教師,地域の人,専門家,学習に関係のある大人など多様な他者をさす(以下,地域の人,専門家,学習に関係のある大人のことをコミュニティティーチャーとする)。では,多様な他者と協力して活動していれば協同的な学びが成立しているかといえば,そうではない。グループ学習の形態をとったり,コミュニティティーチャーから話を聞いたりするだけでは協同的な学びとはいえないのである。なぜなら,そこに「学び」がないからである。例えば,グループ学習の形態をとっていても,子どもが何のために話し合うのかといった目的が不明確であったり,話合いの方法を身に付けていなかったりすると話合いは成立しない。情報を出し合うだけの交流は,情報交換であって課題を解決するための話合いとはいえない。また,コミュニティティーチャーから話を聞いていても,話す側と聞く側の目的が共有されていなかったり,課題の追究が行われなかったりする活動は,学習とはいえない。つまり,協同的な学びとは,形式だけではなく,内容,質が重要であり,他者と助け合い,学び合い,高め合う学習活動でなければならない。 平成20年1月に出された中央教育審議会の「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)」(以下,答申)に,「自己と対話を重ねつつ,他者や社会,自然や環境と共に生きる,積極的な『開かれた個』であることが求められる」(24)と示されている。 自己と対話を重ねるとは,新たな情報とこれま

での体験や既有の知識とを結び付けて,自分の考えを構築していくことである。つまり,自分で考えつつ,他者と協力しながら身近な地域社会の課題の解決に主体的に取り組み,その発展に貢献しようとする態度を育むことが大切なのである。 協同的な学びは,他者との関係という視点から

みれば,「協働的な学び」と「支援を受けての学び」の二つに大別される。「協働的な学び」とは,同じ学習目標をもち,同じフィールドで共に活動する子ども同士による学習である。一方,「支援を受けての学び」とは,コミュニティティーチャーなどによって,情報を提供してもらうなどの支援を受けて行う学習である。 ①協働的な学び 一人一人が自分の考えをもっていないと協働的

な学びは成立しない。そのため,協働的な学びは,「パーソナルワーク→グループワーク→クラスワーク」というプロセスとなる。 「パーソナルワーク」とは,個人で行う活動のことである。図2-1に示すように,情報を収集した

り,思考したりして,一人一人が情報や考えをもつ。「パーソナルワー ク」を効果的に行

うためには,以下の2点が大切である。 ・何について調べたり考えたりするのか,それは何のためなのかが明らかになっていること。つまり,目的が明確であること

・情報収集の仕方や考え方などの知識・技能が身に付いていること

「グループワーク」とは,グループで行う活動のことである。図2-2に示すように,それぞれが収

集した情報や自分の考えをもっているため,多様な情報や考えをもち寄ることができる。また,一人一人,考え方やものの見方が違っており, 異なる考えが出

されたり異なる視点で考えたりできる。そのため,子どもたちの考えが,広がったり深まったりして,より質の高い考えが生まれる。 「グループワーク」を効果的に行うためには,以

下の4点を意識しなければならない。 ・グループワークに参加する一人一人が目的を共有していること ・話合いや情報の分析の仕方,分類や比較といった考え方などの知識・技能が身に付いていること ・一人一人が理由や根拠を基にして自分の考えをもっていること ・互いの考えを尊重し,共に学ぼうという思いがあること

「グループワーク」では,同じ視点で課題を追究している者同士が集まって活動する場合と,異なった視点で追究している者が集まって活動する場合が考えられる。 「クラスワーク」とは,学級全体で課題を解決

図2-1 パーソナルワークの仕組み

図2-2 グループワークの仕組み

情報

交流

思考

個 個

個 個

情報

情報 情報

考え

考え 考え

考え

より質の高い 考 え

深まる 広がる

グループ

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小学校 総合的な学習の時間 15

する活動のことである。ときには学年全体で取り組むこともある。図2-3に示すように,それぞれのグループから出される質の高い考えを互いに聞き合い,自分たちのグループの考えとの相違点に気付きそれぞれのグループの独創性に気付く。そこに客観性が生まれ,更に学びの質が高まるのである。「クラスワーク」を効果的に行うためには,「グループワーク」と同様の4点を意識するとともに,多勢の幅広いものの見方や考え方を受け入れたり,より高度な結論に至る姿勢をもったりすることが大切である。

「パーソナルワーク」で自分の考えを形成し,

その考えをもちより「グループワーク」で活動することで,より質の高い考えに至る。そして,「クラスワーク」で,自分たちとは違ったものの見方,考え方があることを知り,それぞれのグループの考えのよさに気付き,更に考えを広げ,深める。図2-4は,協働的な学びのプロセスを図示したものである。

このプロセスを経ることで,一人一人に多面的なものの見方や思考,望ましい人間関係が育ち,学習の質が向上する。 協働的な学びは,「課題の設定」「情報の収集」

「整理・分析」「まとめ・表現」の全てのプロセスで行うものであるが,特に「整理・分析」のプロセスで重点的に行いたい。なぜなら,「整理・分析」は,多様な情報を基に,より複雑に思考する場面だからである。 ②支援を受けての学び 身近な人々や社会,自然の問題について,子どもだけでは解決できない課題も多くある。そのようなとき,コミュニティティーチャーなどから話を聞いたり,実際に手をとって教えてもらったりする活動を設定することが大切となる。これが,支援を受けての学びである。支援を受けての学びが成立するためには,何より,コミュニティティーチャーを確保することが大切である。また,何のためにこの学習活動をするのか,この学習活動を行うことで何を学ばせたいのかといった目的を明確にし,その目的を教師とコミュニティティーチャーで共有することも大切である。 a コミュニティティーチャーの確保 第1節での教員の意識調査で明らかとなったように,コミュニティティーチャーの確保が難しい現状がある。では,どうすれば確保できるのか。まずは指導者が「地域を知る」ことである。また「これまでのつながりを大切にする」ことも忘れてはならない。 「地域を知る」ためには,地域を歩くことから

始めたい。今まで何気なく通っていた道を,時間をかけて歩いてみるのである。店先で一生懸命金網細工をする人の姿であったり,琴の音色であったり,今まで気付かなかったものが見えたり聞こえたりしてくる。また,子どもや保護者から情報を得ることもできる。「どうしていつも公園はきれいなのかな。だれか知っている?」と子どもに聞いてみると「それはね,いつも○○さんが掃除をしてくれているからだよ。花壇の手入れもしてくれているよ。」といった答えが返ってくることがある。「今度,学習で伝統工芸の学習をするのですが,伝統工芸に携わっておられる方をだれか御存じではありませんか。」と懇談会などで保護者に尋ねることもできる。ほかにも,PTAや学校運営協議会などに協力をお願いすることも考えられる。 「これまでのつながりを大切にする」ために

は,コミュニティティーチャーのリストを作成し図2-4 協働的な学びのプロセス

図2-3 クラスワークの仕組み

多面的なものの見方 望ましい人間関係

学習の質の向上

〈クラスワーク〉

〈パーソナルワーク〉

〈グループワーク〉

交流 分類・比較・関連付け

交流 考えの尊重 批判的思考

より質の高い 考 え

総合化・多様化 された考え

グループ

グループ

グループ

グループ グループ

グループ

交流

思考

交流

思考

個 個

個 個

情報収集・思考 整理・選択

考 え

考え

考え 考え

考え

考 え の総合化・多様化

グループ

グループ

グループ

グループ グループ

グループ

交流

思考

考え

客観性 独創性

深まる 広がる

ク ラ ス

考え

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小学校 総合的な学習の時間 16

ておくことが大事である。表2-6のような表を作成し,だれが,どの単元の,どのような活動のときに来たのか,その人はだれの紹介なのかといったことを,連絡先とともに一覧にしておく。そして,単元が終わったときや学年末にそのリストを更新していく。そうすれば,個人的な関わりではなく学校としての財産となる。 b 目的の共有 コミュニティティーチャーと子どもの関係は,ツアーコンダクターと旅行客の関係に似ている。ツアーコンダクターは,旅行客の思いや願いを知って,どうすれば旅を楽しめるのかプランを練る。旅行客から求められると自分のもっている多くの知識の中からアドバイスをする。しかし,決して前に出ることはない。旅の主役は自分ではなく旅行客だと知っているからである。コミュニティティーチャーもツアーコンダクターと同様に,前に出ることはなくそっと寄り添い,子どもたちの学びを支える。しかし,違っているのは,学びのプランを立てるのはコミュニティティーチャーではなく,子どもだという点である。そして,子どもとコミュニティティーチャーとの出会いや関わり方をコーディネートするのは教師である。そういった意味でも,教師は子どもにとって一番の支援者なのである。 教師は,コミュニティティーチャーと目的を共

有することが大切である。そのためには,事前の打合せを行うことが必要である。単元のねらい,単元の構想を説明し,何分で,どのようなことを話してほしいのか,なぜその話をしてほしいのかを伝えるのである。また,その活動が単元のどこに位置付けられているのかも話しておかなければならない。できることならば,実際に学校に来てもらって,活動する場所を見て,イメージをもっておいてもらうとよい。また,学校で用意しておかなければいけない物,準備してもらいたい物などについても確かめておきたい。 この「支援を受けての学び」は,多様な場面で行われる。例えば,課題を発見する場面で素晴らしい技を見せてもらったり,情報を収集する場面で活動をともにしながらアドバイスをもらったり

することもあるだろう。また,学んだことを伝える場面で,発表を聞いてもらうこともあるだろう。課題を解決するために,コミュニティティーチャーと共に学ぶことで,多くの情報を得るだけでなく,ものの考え方や生き方を知ることができる。また,コミュニティティーチャーに学んだことを伝えることで,自分たちの取組の意義を認めてもらうこともできるのではないだろうか。 これらのことは,自己の生き方を考える上でも

有効である。また,地域社会に参画しようとする意識を高めることにもなるのである。 (3)探究的な学習を確かにする学習過程をつくる 第1章の「総合」の現状と課題の中で,学習過程を見直すときに留意する点を五つ挙げた。これらを総合して,探究的な学びを確かにする新たな「八つの学習過程」を提案したい。

左に示した八つから成るこの過程は,自分が設定した課題について,計画的に追究し,思考し,自分の考えをまとめ,表現する学習となるように構成している。以前,筆者が第5学年を担任

していたときに行った,祇園祭を題材とした単元『祭のいのち』(6月~7月,35時間)を例に挙げながら「八つの学習過程」について説明していく。 ①事象と出会う 話を聞く,見学する,資料を見るなどの体験を通して,改めて事象と出会う場面である。事象に対して子どもがもっていたこれまでの概念とのずれから感動,不思議,疑問が集められる体験を位置付ける。このとき,子どもがこれまでにもっていた事象に対する概念を,一人一人記述しておき,単元の最後に,学習を終えてその概念がどのように変容したかを実感できるようにしておく。 このとき,教師は,これまでに子どもがどのような体験をしてきたのか,既習事項は何なのかを確かめておくことを忘れてはならない。同時に,子どもにも,これまでどのような体験をしてきたか,既習事項は何なのかを自覚させることが大切である。 『祭のいのち』の場合,祇園祭のビデオを見たり,お囃子を聴いたり,懸装品を見たりする体験を重ねることにより,子どもたちは今までもっていた祭に対するイメージとの大きなずれを感じ,

学年 単元 名 前 学習活動 いつから 紹介者 住 所 電話番号 備考

○年

表2-6 コミュニティティーチャーのリスト例

①事象と出会う

②学習課題を決める

③予想・仮説を立てる

④学習計画を立てる

⑤調査する(記録する)

⑥課題を解決する

⑦調査したことを報告する

⑧学習を振り返る

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小学校 総合的な学習の時間 17

たくさんの感動が生まれる。今まで気付いていなかった祭の迫力,懸装品やお囃子の素晴らしさに魅了された子どもは,「もっと祭のことが知りたい」という興味や関心をもつのである。 ②学習課題をきめる 体験を意図的に繰り返すうちに,課題が醸成され,確かな課題がつくられる場面である。図書などによって,既に明らかにされていることを踏まえることもある。体験をした後には一人一人が,学んだこと,疑問に思ったこと,もっと知りたいこと,心に響いた言葉などを記述しておくようにする。そして,課題を設定する際には,理由を必ず文章化しておきたい。 『祭のいのち』の場合,「もっと祭のことが知りたい」という興味や関心が,体験を重ね,祭のことがわかってくると,「このような素晴らしい祭がどうして1200年以上も続いてきたのだろう」という疑問となる。そして祭を支える人から話を聞くうちに,それだけ人を惹き付ける祭の魅力とは何なのだろうと考え「祭のみりょくを探ろう」という課題が生まれるのである。 ③予想,仮説を立てる 課題に対する予想をもつ場面である。実際の生活の中で体験したことや教科等の学習で体験したことと知識を結び付けて考えるなど,幅広く予想が立てられるようにしたい。 『祭のいのち』の場合,これまでの様々な体験から得た知識を基に一人一人が「みりょく」とは何なのかを予想する。例えば,「誇り」「美しさ」「願い」「喜び」「伝える心」などである。 ④学習計画を立てる 課題を解決するために,どのような学習活動をすればよいかを考え,見通しをもつ場面である。「総合」や各教科等の中で課題を解決した体験を基に学習の方法が考えられるようにしたい。 『祭のいのち』の場合,これまで「総合」や各教科等で行ってきた課題解決の過程を基に,自分でどのような手順で課題を解決するかを考えたり,これまでの体験から,「お囃子を自分で演奏してみる」(音楽:リコーダーの演奏 第3学年)「お囃子をしている人にアンケートをとる」(国語:アンケート 第4学年,算数:調べ方と整理のしかた 第4学年)などの方法を考えたりすることである。 ⑤調査する 立てた計画を基に情報を収集する場面,課題を追究する場面である。情報を収集するためには次のような活動が考えられる。

このとき,感覚的な認識だけではなく,客観的な認識であるデータも集めておきたい。 『祭のいのち』の場合,感覚的な認識を集めると

は,お囃子を自分で演奏して難しさを実感したり,曳き初めに参加して鉾を曳くときの思いを知ったりすることである。また,客観的な認識とは,囃子方にアンケートをとり,お囃子を演奏していて嬉しいこと,つらいことを聞いて表やグラフに整理したり,神輿の重さ,担ぐ人の人数を調べたりして,客観的な数値を集めることである。 ⑥課題を解決する 収集した情報の中から課題を解決するために必要な情報を取り出し,整理・分析する場面である。このとき,取り出した情報を,比較する,分類する,関連付けるなどの思考操作を行う活動を意図的に設定することが重要である。思考操作は実際には頭の中で行うものであり,見えないためにイメージしにくい。そのために,表やマップなどの図式(思考ツール)を活用し,可視化することで思考が深まると考える。思考するための方法を表したものが図2-5である。 思考を伴う活動を設定するとともに,「協働的な学び」を充実させることで,より質の高い,総合的で多様な考えを生みだすことができると考える。 『祭のいのち』の場合,お囃子を実際に演奏して思ったことと,縄がらみ(鉾を組み立てるときにくぎを1本も使わず縄を巻いて組み立てる手法)をやって思ったことをベン図に表して共通点と相違点を明らかにする。見つけた祭の魅力をウェビングマップを用いて関連付けるなどの活動が考えられる。このとき,それぞれがデータを出し合い,交流することで,より学びの質が高まるのである。 ⑦調査したことを報告する 確かになった自分の考えをまとめて表現する場

・実験する ・観察する ・見学する ・インターネットで調べる ・追体験する ・本で調べる ・インタビューをする ・アンケートをとる など

図2-5 思考するための方法

思考のための図式 (思考ツール)

・表 ・マップ ・ツリー図 ・ベン図 ・座標軸 ・チャート図

など

思考のための操作 ・比較する ・分類する ・関連付ける ・類推する ・帰納的に考える ・演繹的に考える

など

思考するための方法

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小学校 総合的な学習の時間 18

面である。相手意識,目的意識をもって表現したい。このとき,〈方法〉〈形態〉〈場〉を明確に示すことが大切である。 『祭のいのち』の場合,例えば,地域の人を招

待して,ポスターにまとめた祭の魅力をポスターセッションで伝えたり,学年全体で祭の魅力をテーマにフォーラムを開いたりなどの活動が考えられる。 ⑧学習を振り返る 自分の学びを振り返る場面である。内容と知識・技能の両面から振り返りを行う。「内容を振り返る」とは,例えば,学習のはじめにもっていた事象に対する概念がどのように変容したかを確かめることである。学習を終えて記述した対象に対しての自分の思いを,最初に書いた文章と比較することで,子どもは学びの広がりや深まりを実感するであろう。「知識・技能を振り返る」とは,この学習を通してどのような力が付いたのか,また,どのような課題があるのかを自己評価することである。結果だけでなく,学習の過程で行った活動についても自己評価することが大切である。 学習を振り返ることで,自分の変容に気付くと

同時に,今まで様々な教科で学んだことを活用していることを実感する。この気付きや実感が主体的に学ぶ態度を育むのである。 『祭のいのち』の場合,子どもが,「はじめは

祭といえば夜店の楽しさだけしか知らなかったけれど,この学習をして1200年以上続いてきた祭にはたくさんの人の思いや願いが込められていることがわかった。1200年前の人々の思いを受け継ぎ,それを未来に伝えていくのは自分たちだという誇りが祭を支えているのだ。今,私ができることはその思いを一人でもたくさんの人に伝えていくことだと思う。(略)」と書いたように,祭に対するとらえが学習をする前と後で大きく変容したことに気付く。また,この学習を通して,祭の魅力をリーフレットに表し観光客に配ることで,他教科等で身に付けた表現の方法を「総合」で活用していることを実感する。そして,観光客からお礼の便りが届いたことで,学びの有用性が高まるのである。

以上,「八つの学習過程」について事例に沿って解説してきた。この学習過程の中で,「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」の探究の過程が繰り返されていく。例えば「⑤調査する」の活動で,新たな課題を発見する場合もあるだろう。「⑥課題を解決する」の活動で,新たに課題が生まれる場合もあるだろう。また,「⑦調査したことを報告する」の活動をしていて課題がより鮮明になったり,新たな課題が生まれたりすることもあるだろう。はじめは小さな疑問であったものから新たな課題が生まれ,探究の過程を繰り返すごとに,核心に迫る課題となり,探究的な学習が充実していくのである。 ここで一つ留意しておきたいのは,この八つの

学習過程を柔軟にとらえるということである。つまり,どの単元においても①から⑧の学習過程が順序よく設定されるとは限らない。あるときは予想,仮説を立てずに学習が展開するかもしれない。調査したことを報告するのではなく,学んだことを生かして何かを行うことがあるかもしれない。また,単元の中で探究の過程が3回繰り返される場合もあれば,4回繰り返される場合もある。八つの学習過程を経ることや探究の過程が何回繰り返されるかが大事なのではなく,子どもが学ぶことが楽しい,力が付いたと実感できる探究的な学習が展開されることが大事なのである。そのためには,単元の展開を一つの型にはめるのではなく,子どもの実態や学習の状況に応じて変化したり,それらに合わせて選択したり,ダイナミックに単元を構想することが大切となってくる。

第3節 探究的な学習の充実をめざした評価の視点 第1節で,意識調査の結果,教員が一番課題と

感じているのが〈評価〉であることを述べた。目標及び内容が各学校に委ねられているため,具体化することが難しいからであろう。 国の立場としては,「総合」の評価に関して,平成23年11月「総合的な学習の時間における評価方法等の工夫改善のための参考資料(小学校)」(以下,参考資料)を示している※4。そこには,以下のような記述が見られる。

〈方法〉ポスター・レポート・新聞・パンフレット プレゼンテーションソフトを使った発表 など

〈形態〉掲示・展示・発表会・フォーラム・討論会 ポスターセッション など 〈場〉 学級・学年全体・他学年と交流・学校全体 地域の人や保護者と一緒に など

学習指導要領に示された総合的な学習の時間の目標

等を踏まえ,各学校の具体的な目標,内容に基づいて

定めた観点による,観点別学習状況の評価を基本とし

て各種の評価活動を集めることが求められる。 (25)

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小学校 総合的な学習の時間 19

このような基本的な考え方を踏まえ,現場で感じている「難しさ」を取り除くためには,どのように評価をしていけばよいのかについて述べていきたい。

※4 平成22年3月の中央教育審議会初等中等教育分科会

教育課程部会「児童生徒の学習評価の在り方について

(報告)」,平成22年5月の初等中等教育局長通知「小

学校,中学校,高等学校及び特別支援学校等における

児童生徒の学習評価及び指導要録の改善等について」を

受け,平成23年11月国立教育政策研究所教育課程研究セン

ターから「総合的な学習の時間における評価方法等の工夫

改善のための参考資料(小学校)」が提示された。 ①評価のプロセス a 評価の観点を設定する 「難しさ」を克服するためには,はじめに評価の観点を具体化しておくとよい。 参考資料に,評価の観点の考え方とそれに基づ

く観点の具体例が図2-6のように表されている。 「総合」の全体計画は,「目標」「内容」「育て

ようとする資質や能力及び態度」の三つを中心に構成されている。図2-6の①は,「目標」,②は「育てようとする資質や能力及び態度」,③は「内容」とのつながりが深い観点となっている。このような考え方を踏まえて評価の観点を具体化する取組が必要となる。40ページの付表1に筆者が作成した評価の観点例を示す。この表は,例示の②を踏まえて作成したものである。 ア 「育てようとする資質や能力及び態度」を踏

まえた評価の観点例 学習指導要領の第3の1の(4)に「育てようとする資質や能力及び態度については,例えば,学習

方法に関すること,自分自身に関すること,他者や社会とのかかわりに関することなどの視点を踏まえること」(27)と記述されている。この三つの視点はあくまで例示ではあるが,解説書において育てたい資質や能力及び態度を「各学校において定める目標を,実際の学習活動へと実践化するために,より具体的・分析的に示したもの」(28)と示していることから,この三つの視点を基に,六つの観点を設定し,付表1の横軸に示した。 そのうち「課題設定力」「情報収集力」「思考力」

「表現力」の四つの力は「学習方法に関すること」を基に設定した。これらは探究の学習過程の「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」の四つのプロセスと対応するようにした。「自分自身に関すること」を基にした「活用力」は,主に探究的な学習を確かにする学習過程の「⑦調査したことを報告する」「⑧学習を振り返る」のプロセスと対応している。それに対して,「他者や社会とのかかわりに関すること」を基にした「学び合う力」は,①から⑧の全てのプロセスで行う。 イ 学年の系統化 解説書では「育てようとする資質や能力及び態度の設定に際しては,学年段階ごとに考えることが必要」(29)と述べている。このことを踏まえ,付表1では,第3学年から第6学年の4年間だけではなく,小学校・中学校9年間を見通し,学年に応じて系統的に子どものあるべき姿を示した。これにより,実現したい子どもの姿が明確となり,段階的に付けたい力を育成することによって,評価もしやすくなるであろう。 b 単元の評価規準を設定する 次に,評価の観点を具体化したものを基に,単元の評価規準を設定する。 「総合」において子どもの学習状況を評価するためには,「育てようとする資質や能力及び態度」と「内容」を踏まえることが大切である。そのため,各単元において評価規準を設定する場合,各観点に即して期待される具体的な子どもの姿をイメージする際にも「育てようとする資質や能力及び態度」と「内容」に照らし合わせて考えることが重要となる。評価規準については,第3章で具体例を示す。 ②評価方法の工夫 評価の観点,単元の評価規準が設定できたら,評価方法を具体化する必要がある。評価には,次のような方法が考えられる。

図2-6 評価の観点の考え方とそれに基づく具体例(26)

①学習指導要領に示された総合的な学習の時間の目標,ないしは,それを踏まえて各学校で定めた目標及び内容に基づいた観点 (例)「よりよく問題を解決する資質や能力」,「学び方やものの考え方」,「主体的,創造的,協同的に取り組む態度」,「自己の生き方」等

③各教科の評価の観点との関連を明確にした観点 (例)「関心・意欲・態度」,「思考・判断・表現」,「技能」,「知識・理解」等

新たな観点の例示

②学習指導要領に示された「学習方法に関すること」,「自分自身に関すること」,「他者や社会とのかかわりに関すること」等の視点に沿って各学校で定めた,育てようとする資質や能力及び態度をふまえた観点 (例 1)「学習方法」,「自分自身」,「他者や社会とのかかわり」等 (例2)「課題設定の力」(学習方法),「情報収集の力」(学習方法),「将来展望の力」(自分自身),「社会参画の力」(他者や社会とのかかわり)等

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小学校 総合的な学習の時間 20

ⅰは,子どもが活動しているときに行うのに対し,ⅱとⅲは活動で作成した制作物やワークシート等をファイルしたものを後で評価することも可能となる。ⅲは,教師が子どもに学習の成果を明確に伝え,子どもに達成感,自己効力感を高め,次の課題をもたせる上で有効であり,このポートフォリオを家に持ち帰ることで保護者への説明責任を果たすことにもなる。 指導者である教師は,これらの三つの方法を基

に評価を行う。また,教師だけではなく,子どもがこれらの資料を基に,自己評価や相互評価を行うことも求められる。なぜなら,評価を行うことで,子ども自身が,この活動でどのような力が身に付けられるのかを自覚すると同時に,その力が身に付いたのかをメタ認知することができるからである。 設定した単元の目標に合わせて,これらの評価方法の中から適切なものを選び,組み合わせて確実に評価が行えるように工夫することが大切となる。このとき,次のような工夫も実際の場面では考えられる。 a 変容をみる 単元の最初と最後ではどのように変容したの

かを評価する。それは,事象に対するとらえであったり,知識・技能であったりする。 b 重点をおいてみる 付けたい力の中の何に重点をおくのかを考えて,評価する。この場合,単元の途中で評価をすることになる。個人を評価するだけではなく,学習活動全体の評価をすることも考えられる。 c 詳しくみる 子どもの様子を詳しくみるために,教師による

「セル評価」をするという方法もある。「セル評価」とは,表2-7に示すように,評価規準を基に,子どもの様子と評価をセルに記録していく評価方法である。これらの評価の方法を基に,セル評価表を作成することは,子どもの学習状況に関する評価を行う上でも,教師の学習指導や年間計画に関する評価を行う上でも有効である。横のセルを右に時系列に見ていくことで,子どもの実態や学習状況が把握できるとともに,学習の中での変容もとらえやすくな

る。また,毎時間記録していくことで,一人一人に応じた適切な支援を行うことができる。セルを縦に見ていけば,その時間の学習指導を振り返る手掛かりとなる。多くの子どもが評価規準に達していない場合,本時の学習活動の目標や支援が適切であったのかを検討することもできる。

評価は,評価をするために行うのではなく,子どもに力を付けるために行うものである。そのために,指導と評価の一体化を充実させることが大切となる。 第3章では,これらの仮説を基に実践を行い,検証していく。 (21)前掲(13)

(22)前掲(11) p.65

(23)前掲(11) pp..51~52 (24)中央教育審議会『幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特

別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)』

2008.1 p.9

(25)国立教育政策研究所教育課程研究センター『総合的な学習の時間

における評価方法等の工夫改善のための参考資料(小学校)』

2011.11

(26)前掲(25) p.2

(27)前掲(17) p.110

(28)前掲(11) p.50

(29)前掲(11) p.5

第3章 学年の系統に応じた単元展開と評

価の実際

第1節 探究的な学習を充実させる単元展開 研究協力校の第3学年と第6学年において,以

下の二つの実践を行った。

観点・評価規準(方法)を記入する。 評価 評価

氏 名 様子を記入する。

月   日 (  )

活動内容を記入する。

規準に達している場合・・・○

達していない場合・・・△

規準より更に優れている場合・・・◎

を記入する。

例)課題設定力:・・・・している。

(制作物・学習カード)

表2-7 セル評価表(一部抜粋)と記入の仕方

ⅰ 観察による評価 ・発表や話合いの様子・観察や実験の様子 ・インタビューをしているときの様子 など

ⅱ 制作物による評価 ・レポート・ワークシート・絵・ポスター・新聞 など ⅲ ポートフォリオによる評価

第3学年「こん虫パラダイス」 9月~12月,全30時間

「生きもの大すき3年レンジャー,しぜんいっぱい

大作戦」を学習課題とし,生きものが住みやすい学校

づくりを通して,環境を見つめ,生きものとの共生を

考える単元。 (41ページの付表2参照)

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小学校 総合的な学習の時間 21

この二つの実践を基に,筆者が第2章で提案し

た「協同的な学びの場」「学習過程」「言語活動」の三つの柱について検証を行いたい。なお,「学年の系統化」については,各項の中の に示すことにする。 (1)協同的な学びの場の設定 協同的な学びについての考え方や,大切にしたい点については,前章14ページで述べた。そこで,子ども同士で行う「協働的な学び」とコミュニティティーチャーなどによって支援を受けて行う「支援を受けての学び」の二つの活動について,どのように設定し,生かしたのかについて,具体的な実践例を基に検証を行う。 ①協働的な学び 協働的な学びは,筆者が提案する八つの学習過程の全ての過程で行うべきものである。しかし,特に「⑥課題を解決する」過程,探究の過程でいう「整理・分析」の過程で重点的に行いたいと考える。また,協働的な学びを充実させるために,「パーソナルワーク→グループワーク→クラスワーク」というプロセスで行うことを提案した。この提案に基づいて,次の学習活動を実践例として取り上げる。 [パーソナルワーク] 図書館ボランティアから話を聞いたり,低学年の

人たちと交流したりした活動を基に,「だれかのために行動するとき,大切なことは何か」について考えた。図3-1は,体験から得た情報を根拠と してワークシートに

記述し,そのうちの三つを選び,付箋紙に書いている様子である。 [グループワーク] 一人一人が考えた三つの「大切なこと」を,理由や根拠を明らかにして出し合い,KJ法の手法で整

理していった。図3-2 は,そのときの様子で ある。このとき,支援 としてKJ法的手法の のポイントを示した交 流シートを用意するこ とで,「大切なこと」が 分類しやすくなった。

[クラスワーク] 各グループで整理した「大切なこと」をクラス全

体で出し合った。この ときも子どもが司会, 記録,タイムキーパー を務めた。図3-3は,そ のときの様子である。 各グループから出され た「大切なこと」を司 会と記録の子どもが黒

板にKJ法の手法を用いて整理していった。ある子どもの振り返りには,「みんなの意見をしっかり聞いてみんなでまとめていくと,自分が思いつかなかった考えが出て,参考になって役立つ。友だちの『時間を大切にする』という考えに納得した。いろいろな目線(視点)を大切にしていきたい。今日考えた『大切なこと』をもとに今度は地域の人の役に立ちたい。」と書いていた。このことから,協働的な学びの場を設定することで,多面的なものの見方の必要性に気付くとともに,次の活動への意欲が生まれ,学習の質が高まったといえる。 ほかにも,第3学年「こん虫パラダイス」の中で,収集した情報を同じ生きものを調べている者同士で

交流するという協働的 な学びの場を設定し た。図3-4がそのときの 様子である。子どもた ちは,「じょうほうをこ うかんして,自分が知 らないこともわかっ た。今度の時間に図か

んでたしかめてみたい。」「○○さんは家でも調べていてすごいと思った。こんどは,どこにたくさんダンゴムシがいるか調べてみたい。」などの感想をもっ

〈第6学年〉「12歳の自分」

⑥課題を解決する(整理・分析)の過程

最高学年として,自分たちは低学年の人たちに何が

できるかを考え,低学年の人たちとの交流会を企画し

た後,「だれかのために行動するとき,大切なことは

何か」について交流する学習活動。

図3-3 クラスワークの様子

第6学年「12歳の自分」 10月~12月,全26時間

「12歳の自分にできることは何だろう」を学習課題

とし,校内や学区の中で自分がいま、何ができるかを

考え行動することを通して,社会の一員としての自覚

をもったり,自分の生き方を考えたりする単元。

(42ページの付表4参照)

図3-2 グループワークの様子

図3-1 パーソナルワークの様子

図3-4 グループワークの様子

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小学校 総合的な学習の時間 22

た。自分とは違った情報を得ることで,次への活動のめあてがもてたり,友だちのがんばりを認めたりすることができたのである。 以上のように,学年の違いはあっても学習活動の内容に合わせてKJ法やウェビングマップの手法を取り入れるなど交流の方法を工夫し,協働的な学びの場を設定することで,思考が深まると同時に,望ましい人間関係が育ったと考える。筆者は,第2章で話合いの方法を身に付けていることが,話合いの成立条件であると述べた。今回の実践では,期間が限られており,話合いについての系統立てた指導が十分に行えなかった。本来なら,第3学年からこのような話合いや整理・分析の交流の方法を身に付けていくことにより,子どもだけで学習活動の目的や内容によって交流の方法を選択し,主体的に交流できるようにしていくことが大切である。また,このような子どもを育てるためには,「総合」だけではなく,全ての教科等でこのような協働的な学びの場を設定することが求められる。 ②支援を受けての学び 身近な人々や社会,自然の問題について子どもだ

けでは解決できない場合,支援を受けての学びが有効である。支援を受けての学びにはいくつかの形式があるが,今回は,次の四つの形式を設定した。「話を聞く」「活動のための機会を与えてもらう」「一緒に活動して教えてもらう」「学んだことを伝える」である。 a 話を聞く 子どもたちは,これまで最高学年として縦割り

活動等で低学年の世話をしたり,運動会の組体操等でがんばる姿を披露したりしてきた。しかし,これらは行事等での活動であり,自分から主体的に関わったとはいえない。そこで,低学年とふれあう交流会を自分たちで計画することにした。しかし,1年生との交流会を開いてみたところ,材料が不足したり,うまく説明できなかったり,1年生を退屈させてしまったりといった反省点がたくさん出た。 そのことを踏まえて,いつも自分たちのために活動してくれている図書館ボランティアから,どのような工夫をしているのか話を聞く活動を設定した。事前に,図書館ボランティアには,学習の趣旨,流

れを説明しておい た。図3-5は,話を聞 いているときの様子 である。子どもたち は,これまで人形劇 や読み聞かせを当た り前のようにしても らってきていたが, 話を聞くうちに,何

時間もかけて人形を手作りしたり,何度も練習したりしていること,相手のことを考えて話を選んでいることなどを知り,相手のことを思い準備することの大切さに気付いていった。 ある子どもは,「『大変だけどみんなが喜んでくれるのがうれしい』という気持ちが大事なのだと思った。大変なこともあるだろうけど,みんなが喜んでくれる活動をしたい。」と振り返りに書いていた。この後,各学年との交流会を計画するのだが,相手が喜んでくれるためには,相手が好きな遊びは何なのか,どのようなことをしたいと思っているのかを知ることが大切だと考え,アンケートをとったり,聞きに行ったりするようになった。また,各グループで計画を立て準備をしっかりするようにもなった。 このように,子どもたちだけで考えていてもわからないことについては,コミュニティティーチャーから実際に話を聞くことが有効であり,目的に合わせて,話の中から必要な情報を取り出す力が重要となる。子どもたちは,コミュニティティーチャーからただ知識を与えてもらうだけではなく,その人の人間性からも多くのことを学んだようである。 b 活動のための機会を与えてもらう 低学年との交流会を通して多くのことを学んだ子どもたちの目は,自然と自分たちの住む地域へと向いていった。そして,地域の中で弱い立場にある人々に対して自分たちができることはないかと考えるようになった。そこで,高齢者,障害のある人,そして,小さな子どもとのふれあいを通して,相手への理解を深め,「自分たちができること」を考えていくことにした。そのために,担任が,高齢者,障害のある人,小さな子どもとふれあえる場を探した。その結果,高齢者については民生委員,障害

〈第6学年〉「12歳の自分」 ⑤調査する(情報の収集)の過程

図書館ボランティアから話を聞き,ボランティア

精神について考える学習活動。

図3-5 図書館ボランティアから話を聞く様子

〈第6学年〉「12歳の自分」 ⑤調査する(情報の収集)の過程

交流を通して,「やさしい町」にするために自分たち

に何ができるかを追究する学習活動。

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小学校 総合的な学習の時間 23

のある人については京都市障害者スポーツセンターの職員,小さな子どもについてはS幼稚園の園長先生にお世話になり交流することになった。事前に,民生委員,京都市障害者スポーツセンターの職員,園長先生に単元のねらい,流れを説明し,時間と場所,交流の内容について細かく調整を行った。 図3-6,7,8は,交流しているときの様子である。交 流する前,高齢者に

ついて「足腰が弱 く,歩くのがゆっく りで,耳が聞こえにく い人が多い」と思っ ていた子どもが,交 流した後「今までは, 話しかけたら迷惑 がられる,聞こえな かったらどうしよ うと思って声がか けられなかったが, 交流して楽しく話せ たし,明るくて元気 な方々が多い。『声を かけてね』と言われ て安心した。これか らは,声をかけてい きたい。」という考 えに変わった。 また,障害のある

人について,「からだ のどこかが不自由で あんまり動けない。 元気がない人が多い

と思っていたが,私たちと同じように運動していたし,みんなとっても楽しそうで笑顔だった。私たちとなんら変わらない。ちょっとした工夫があれば一緒にできることがたくさんある。」という感想をもった。更に,小さな子どもについて,「交流するまでは,私たちとそんなにかわらないと思っていたが,危険なことにあまり気付かずはしゃいでいた。思っていた以上に小さくてがっしりしていなかった。小さくて危険も多いので,守ってあげなければと思った。」などと交流を通して,障害のある人,小さな子どもに対する認識も変容した。 いくら図書で調べたり,教師が話して聞かせたりしても,見て,聞いて,実際にふれあってみないことにはわからないことも多くある。今回の活動においても実際にふれあうことで,その人のあ

たたかさ,やさしさ,明るさ,がんばりに気付き,より身近な存在となった。高齢者,障害のある人,小さな子どもという大きなとらえではなく,お隣に住んでいる○○さん,車いすに乗っている○○さん,お隣の幼稚園に通っている○○ちゃん…という自分とのつながりが生まれたことで,「○○さんが暮らしやすい,やさしい町にしたい」という,より主体的な活動となった。 c 一緒に活動して教えてもらう 子どもたちには「いのちの庭・あかしやの森」というすばらしいフィールドで,伸び伸びと活動し,自然のすばらしさを実感してほしいと考えた。そこで,「いのちの庭・あかしやの森」で生きものを探したり,観察したりしている子どもにそっと寄り添い,子どもが「あれ?」「なぜかな?」と不思議に思ったときにアドバイスをしてくれる生きもの博士に来てもらうことにした。事前に,「いのちの庭・あかしやの森」をみてどのような生きものがいるのかを確かめてもらったり,学習の流れやねらいについて伝えたりした。追究活動はあくまでも子どもが主体であり,生きもの博士が中心となって誘導するものではない。そのために,どのようなスタンスで子どもに

接してもらいたい かについても伝え

た。図3-9は,子ども と生きもの博士が 一緒に活動してい る様子である。生き もの博士は,決して 前に出ることなく,

子どもの活動を見守り,質問にやさしく答えてくれていた。豊かな自然の中で知る新しい知識は,生きた知識となって学びが深まっていった。 d 学んだことを伝える 自分たちが考えた自然をいっぱいにする作戦をポスターセッションで伝える「しぜんいっぱい発表会」を開いた。このとき,2年生や保護者とともに生きもの博士もお招きした。子どもたちは,少し照れながらも誇らしそうに発表していた。また,発表会の

図3-6 高齢者と交流している 様子

図3-7 障害のある人と交流している様子

〈第3学年〉「こん虫パラダイス」 ⑤調査する(情報の収集)の過程 生きものについて調べる学習活動。

図3-9 生きもの博士と一緒に 活動している様子

〈第3学年〉「こん虫パラダイス」 ⑦調査したことを報告する(まとめ・表現)の過程 学んだことを交流する学習活動。

図3-8 幼稚園児と交流している様子

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小学校 総合的な学習の時間 24

最後に,生きもの博士 に感想を伝えてもら う場を設定した。図 3-10は,そのときの 様子である。お世 話になった人たちか ら自分たちの学びを 認めてもらうこと で自己有用感が高ま

り,大きな自信となった。後日,生きもの博士から,「子どもたちの発表の内容がすばらしかった。子どもたちから元気をもらった。子どもたちががんばっているのだから自分もがんばりたい。」という内容の手紙が届いた。このことからもわかるように,充実した「支援を受けての学び」は,子どもが知識を教えてもらうだけではなく,生きもの博士も子どもたちから元気をもらうなど,双方向の関係を築くのである。 以上のことから,支援を受けての学びは3年生においても,6年生においても,体験活動を重視する「総合」において有効な学習であることが明らかとなった。そのためには,第2章で述べたように,教師が事前にしっかりと単元を構想し,だれに頼めばよいかなど準備をしておくことが大切である。そして,コミュニティティーチャーと連絡を取り合い,目的を共有しておくことが必要不可欠である。教師の思いや願いを伝えたり,日程を調整したりといった細やかな準備をすることで,子どもたちの学習活動は充実する。このことが,第2章(16ページ)で述べた「教師は子どもにとって一番の支援者」という意味なのである。 (2)学習過程をつくる 筆者は,第2章で探究的な学習を確かにするために,新たに八つの学習過程を提案した。第3学年で行った「こん虫パラダイス」の単元を実践例として取り上げ,解説を行う。 S校の第3学年で設定されている付けたい力

は,以下のとおりである。 S校には,ビオトープ,「あかしやの森」があ

る。そして今年度,あかしやエコ改修が行われ,新たに「いのちの庭」がつくられた。これらの素晴らしいフィールドで,子どもたちに様々な感覚を使って自然を体感してほしいと考えた。自然の中で暮らしているいろいろな生きものと出会い,生きものについて調べ,友だちと交流する中で,生きもの同士のつながり,自然とのつながりについて知る。自然の中では,どの生きものも食べたり食べられたりしながら,バランスをとって暮らしていること,そのうちどれか一つの生きものがなくなってしまってもバランスが崩れ全ての生きものが亡くなってしまうことに気付く。これらの活動から自然を守り,いのちを大切にしようという気持ちをもってほしいと考えた。 これらの付けたい力や思い,願いを基に,「こ

ん虫パラダイス」を構想した。付表2に単元の構想を示す。 ①事象と出会う:生きものと出会う 体験を通して改めて事象と出会う場面である。

事象に対して子どもがもっていたこれまでの概念とのずれから,感動,不思議が集められる体験をはじめに位置付けることが大事だと第2章で述べた。そこで,この単元では,セミの抜け殻を紹介し,みんなでその抜け殻がどこにあったのかを予想することから学習を始めた。 「あかしやの森にあったのと違うかな。あかし

やの森でセミの鳴き声をよく聞くもん。」「僕は前,果樹園でセミを見たから,果樹園だと思うな。」などと子どもたちは口々に予想した。今まで何気なく見ていた抜け殻を意識することで,学校の自然,生き物に目を向けることができたのである。また,「生きもの発見Map」にセミのシールを貼っていくことで,学校のいろいろな場所にセミの抜け殻があることに気付くことができた。このことが

【学年の系統について】「こん虫パラダイス」は,S

校の総合・あかしや学習で行われている,学習課題Ⅰ

群に位置する「環境」を扱った単元である。S校では,

第3学年から第6学年まで系統的に「環境」の学習を

行っており,第3学年ではこん虫などの生きもの,第

4学年では植物,第5学年では自然とわたしたちの生

活,第6学年では環境エネルギーについて系統的な取

組が行われている。

【かかわる力】いろいろな昆虫について興味をもち,体験を伴った関わり方をしようとする。

【続ける力】季節とともに成長したり変化したりする生きものを追究していく中で,調べる方法を考え,計画を立てて取り組む。

【考える力】自分なりの課題意識をもって調べ,状況や結果からその理由を予想し,調べたことと比較する。

【表す力】自分の課題について追究する際,わかったことや考えたことを相手にわかりやすく表現する。

【自己を見つける力】生きものについて,取り組んでいる内容や方法が好ましいものか,友だちと協調して行っているかを判断し,修正する。

図3-10 生きもの博士からの感想を聞いている様子

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小学校 総合的な学習の時間 25

きっかけとなり,ほ かにどのような生き ものがいるのか興味 をもった子どもたち は,一週間生きもの 探しをして,見つけ た生き物のシールを 地図に貼っていくこ とにした。図3-11は,

そのときの様子である。 1週間後,完成した地図を見て,「生きものは学

校のどのような場所に多いのか」「どのような生きものがいるのか」について交流した。セミの抜け殻がきっかけとなり,生きもの探しをすることで,改めて子どもたちは学校の生きもの,自然環境と出会い,今まで身近すぎて気付かなかった生きものの多さに驚くとともに,学校の自然環境の素晴らしさに感動した。地図による「整理・分析」については,第3項で詳しく述べる。 完成した地図を見て「いのちの庭・あかしやの

森に生きものが多い」ことに気付いた子どもたちに,「どうしていのちの庭・あかしやの森がつくられたのか」「地域の人や保護者,教職員の思いや願い」「作るときの苦労」について校長先生から話を聞く活動を設定した。校長先生は,子どもたちが理解しやすいように,日本庭園の写真といのちの庭の写真を比較したり,子どもたちに問いかけたりしながら話をしてくださった。最後の「先生の願いは,いのちを大事にしてほしいということです。みんなが大事。動物も植物も大事。お互いに大事にしないといけないのです。」という言葉に,子どもたちは,

真剣にうなずいてい た。図3-12は,校長 先生から話を聞いた 後,子どもが質問を している様子である。 いのちの庭やあ かしやの森に対する たくさんの人の思い を知った子どもたち

は,「いのちの庭にもっと生きものを増やしていきたい。」「これからは,虫を殺したり草をぬいたりしないで,大切にしていきたい。いのちの庭のいのちを守っていきたい。」と考えるようになった。これらの思いが,次の活動で学習課題「生きもの大すき3年レンジャー,しぜんいっぱい大作戦」を考える基盤となったことはいうまでもない。

②学習課題を決める 学習課題を決める場面である。もちろん決める

のは子どもである。そのため,これまでの体験が大切となってくる。 この単元では,これまでの体験を基に「みんな

の考えを一つにまとめましょう。」と話し,「○○レンジャー,□□□大作戦!」と書いたカードを提示した。子どもたちがそこに入る言葉を考えることにより,自分たちで考えた学習課題であるという意識をもってほしいと考えたからである。今回は3年生ということもあり,自分たちは何のために活動しているかを常に意識できるように,発達段階に合わせて,合言葉にもなるような課題とした。レンジャーという言葉を用いたのは,運動会の3年生の種目に使われており,子どもたちになじみのある言葉であったため,がんばろうという気持ちが表しやすいと考えたからである。子どもたちは一生懸命考え,次のような案を出した。 これらを基に話合いを続け,「生きもの大すき3年レンジャー,しぜんいっぱい大作戦」に決定した。子どもたちは,単なる思いつきではなく,これからの活動をイメージして学習課題を考えることができた。 ③予想・仮説を立てる 課題に対する予想をもつ場面である。この単元では,これまでの体験や理科の学習を基に自分たちがいのちの庭やあかしやの森にもっといたらいいなと思う生きものを考え,どうすればいっぱいにできるかを考えた。どのような生きものが増えたらよいかを考える基準となったのは,校長先生の話にあった「自然のまま」ということである。 実際にいのちの庭やあかしやの森に行ってど

のような生きものが増えたらいいかを考えるうちに,コオロギやホタルなどの生きものがあがった。その理由も「鳴き声がきれいで,1年生や2年生にも観察してほしいから。」や「あかしや祭りや学校でお祭りをするときキラキラ光るときれいだから。」など,しっかりと考えて生きものを選んでいた。また,どうすれば増やせるかを考える基準となったのは,理科の単元「こん虫を育てよう」「動物のすがたとかんきょう」で学習した内容であっ

〈レンジャー〉 3年・いのち3年・生きもの大すき 〈大作戦〉 生きもの発見・生きものかんさつ・生きものふやそう 生きもの大切・生きもの・生きものみつけた しぜんいっぱい・しぜんかんさつ・しぜんふやそう しぜん大切・なかまをふやそう

図3-11 生きものシールを地図に貼っている様子

図3-12 校長先生の話を聞いて質問している様子

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小学校 総合的な学習の時間 26

た。子どもたちは,理科で学習した内容を生かし,「たまごをうむ場所がないとだめだからつくる。」「食べ物がないと増えない。」などと予想していた。 ④学習計画を立てる 課題を解決するためには,どのような活動をすればよいかを考え,見通しをもつ場面である。これまでの学習経験を基に考えられるようにするのが望ましいのであるが,これまで学習計画を立てた経験がなかったため,この単元ではワークシートを工夫し,学習を進めた。 はじめに,予想を基に「しぜんいっぱい大作戦」

を成功させるためには,どのような活動をすればよいかを一人一人が考え,ワークシートに書いた。そして,それらの考えを出し合った。このとき出た主な考えは次のようなものであった。 まず,「ふまない」や「つかまえない」という

考えは,活動ですることではなく,日常心がけることであることをみんなで確認した。次に,活動する順番に考えを整理した。すると,生きものが住みやすい場所や来やすい自然にするためには,まず,えさや住んでいるところを知らなければならないことに気付いた。そこで,子どもたちは,はじめにえさや住んでいる場所を調べ,次に増やすための活動をすればよいと考え,下の表3-1に示した学習計画表に整理した。 次に,それぞれの活動で「具体的にどのようなことをするのか」「そのとき今まで各教科等で身に付けたどのような力を使えばよいのか」を考えた。3年生ということもあり,今までこのように各教科等

で身に付けた力を関連させて考えることは経験していないので,例を挙げて考えやすいようにした。下の表3-2は,完成させた学習計画表である。

⑤調査する:生きものについて調べる 言い方を変えれば,情報を収集する活動である。3年生なので,はじめは全員が「住んでいる場所」を調べることにした。この活動のワークシートには調べ方の手引きとなる事項を示しておき,今後の追究活動が自分たちでスムーズに行えるようにした。図3-13がそのときのワークシートの一部である。 子どもたちが常に学習課題を意識できるよう

に,毎時間のワークシートに学習課題を書いておいたり,学習のはじめに声に出して言ったりするようにした。

5 学習のふりかえりをする。

活 動 すること つかいたい力

1 生きものさがしをする。

いのちの庭の話を聞く。

・一週間,生きものをさがす。

(何が,どこにいたか)

・地図にシールをはる。

・校長先生に話を聞く。

・地図を見る力(社会)

・かんさつする力(理科)

・話を聞く力

学習かだいを考える。

生きものを考える。

学習計画を立てる。

に をいっぱいにしたいな。

そのためには, のことをもっとよく知ることが大事だね。

<メ モ>

月 日( )天気

あかしや総合学習 3 年

生きもの大すき 3年 レンジャー,

し ぜ ん い っ ぱ い 大作戦だいさくせん

どこ 生きもの

生きもの

住みやすい場所って? ○どのようなところにいるかな? 草の多いところ,花の咲いているところ, 木のあるところ,水のあるところ,地面のやわらかいところ・・・ 調べてみよう!! ・自分でかんさつしよう ・自分でさがしに行こう ・生きものはかせに聞いてみよう (すが先生・さいとう先生) ・図かんで調べてみよう ※聞いたり図かんで調べたりしてわかったことは,自分でもたしかめておくといいね。 考えてみよう!! ○どうしてそのようなところにいるのかな?

表3-2 「こん虫パラダイス」学習計画表(完成版)

図3-13 「こん虫パラダイス⑥」のワークシート(一部)

・住みやすい場所にする ・食べ物をふやす ・生きものが来やすい自然にする

・観察して食べ物を知る ・観察してふやす ・どんなところに住んでいるか調べる

・ふまない ・つかまえない

表3-1 「こん虫パラダイス」学習計画表(一部)

活 動 すること つかいたい力

生きものさがしをする。 いのちの庭の話を聞く。

・一週間,生きものをさがす。 (何が,どこにいたか) ・地図にシールをはる。 ・校長先生に話を聞く。

・地図を見る力(社会) ・かんさつする力(理科) ・話を聞く力

学習かだいを考える。 生きものを考える。 学習計画を立てる。

いたらいいなと思う生きものについて調べる。

○何を調べるか。 ・住みやすい場所・食べ物 ・動き・しゅるい ・からだのようす

・計算の力(算数) ・図かんの使い方(国語) ・かんさつのしかた(理科)

生きものをふやすために行動する。

・すみかをつくる。 ・食べ物を育てる。 ・たまごをうみやすくする。 ・ごみをなくす。

・生きもののそだて方(理科) ・植物のそだて方(理科)

ほうこくする。 ○だれにつたえるか ・2年生・おうちの人 ・地いきの人 ○何でつたえるか ・ポスター

・発表のしかた(国語) ・ポスターのかき方(国語) ・そうだんのしかた(学活)

5 学習のふりかえりをする。

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小学校 総合的な学習の時間 27

自分たちで学習計画を立てたことで,単元の見通しがもてたのと同時に,具体的な活動がイメージできたので,子どもたちは安心して主体的に活動することができた。学習計画表については,拡大した表を常に掲示しておき,いま,どの活動をしているかがわかるようにした。 図3-14,15は,追究活動をしている様子である。

子どもたちは,自分 の増やしたい生きも ののことを調べに, 何度もいのちの庭や あかしやの森に出か けて行った。どのよ うなところにダンゴ ムシが多くいるのか を調べるために,運 動場の鉄棒の下,い のちの庭の草はら, 校門のタイルの上, あかしやの森の落ち 葉の下など場所を決 めてダンゴムシが何 匹いるかを比較する 子どもや,セミの幼

虫が出てきた穴の数を数える子どももいた。また,教室の前に,図鑑や科学読み物を集めてコーナーをつくり,自由に読めるようにすることで,休み時間にも図鑑を広げて調べるなど,図書による調べ学習も主体的に行うことができた。 次に,増やしたい生きものについて収集した情報をウェビングマップの手法を用いて整理した。そして,カテゴリごとに整理したワークシートを基に,同じ生きものを調べている友だちと情報を交流し,自分の知らなかった情報については,更に調べていった。交流の様子については,第1項(21ページ)に述べたとおりである。 ⑥課題を解決する 収集した情報の中から課題を解決するために必要な情報を取り出し,整理・分析する場面である。この単元では,はじめに,生きものについて収集した多くの情報の中から,増やすために必要な情報を取り出した。学習計画を立てる際に,生き物を増やすためには,住みやすい環境を整えたり,食べ物を増やしたりすればよいことに気付いていた子どもたちは,整理したワークシートから「すみか」「食べ物」をポイントに,必要な情報を取り出していった。

次に,選び出した情報を基に,増やすための作戦を考え,これからの活動の計画を立てた。T児は,「オオカマキリの食べ物は,小がたの虫,クモ(アカオニグモなど),ハチ(ミツバチなど),カエル(アマガエル)など。肉食で,草原の虫が多くて高い所に生息していること」から,「えさをふやして,すみかをつくってカマキリをふやす大作戦」を考えた。そして,えさであるカエルやハチ,クモを探すことにした。そのときのT児のワークシートが図3-16である。 T児はこの後,実際にえさになる生きものを探

しに行き,いのちの庭でクモを11匹も見つけた。観察した結果,いのちの庭には大型のクモが多く,巣は高い所につくられていることがわかった。 このように,収集した情報の中から実際に必要な情報を取り出し,分析することで,新たな課題が生まれ,追究活動が繰り返され,学びが深まっていった。また,ワークシートの中に活動のプロセスを示すことにより,見通しをもち主体的に学習を進めることができた。 ⑦調査したことを報告する:ポスターセッション 確かになった自分の考えをまとめて表現する

場面である。子どもが,相手意識,目的意識をもって表現することが大切で,〈方法〉〈形態〉〈場〉を明らかにすることが求められる。 この単元では,ポスター〈方法〉を作成してポ

スターセッション〈形態〉で発表することにした。〈場〉については,2年生や保護者,生きもの博士,3年生の友だちに伝えることにした。学習計画を立てた際に,子どもたちが,自分たちが調べたことと,そこから考えた作戦を2年生に伝えた

図3-14 生きものを観察している様子

図3-16 T児の「こん虫パラダイス⑨」のワークシート

わかったこと (選び出した必要な情報)

考えた作戦

作戦を成功させるために,更にする活動

実際に調べたこと

図3-15 生きものについて図鑑で調べている様子

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小学校 総合的な学習の時間 28

いと話していたからである。 これまでにも,夏休みの自由研究でポスターに

まとめたことがある子どもはいたが,全員が経験してはいなかったため,はじめにポスターの表現様式と表現の工夫について学習した。ポスターの表現様式や表現の工夫,ポスターセッションの方法については,第3節で詳しく述べる。 どの子どもも,ポスター作りに主体的に取り組

むことができた。図 3-17は,そのときの 様子である。 作成したポスター

を使って,ポスター セッションを行っ た。はじめは緊張し ていた子どもも,回 数を重ねるごとに 笑顔で発表ができる ようになっていった。 余裕ができてくる と,指示棒で示した り,身ぶりを交えた りしながら,聞く相 手に応じて発表の 内容も少し変えて

いた。図3-18は,ポスターセッションをしているときの様子である。 最後に,「自然いっぱい大作戦」を成功させる

ために大切なことについてクラスワークを行った。生きもののすみかと食べ物について出し合う中で,子どもたちは,自分の調べた生きものについてだけではなく,ポスターセッションで友だちから聞いたことやこれまでにもっていた知識なども合わせて発表することができた。 子どもたちが発言した一つ一つの知識を関連

させて,構造的に板書したものが図3-19である。

この板書を見て,子どもたちは,すぐに生きもの が関わり合っていることに気付くことができた。それは,全員の知識を総合し,可視化することで,食べたり食べられたり,助けたり助けられたりといったいろいろなつながりを視覚的にとらえるこ

とができたからであ る。図3-20は,板書 を基に,説明してい る様子である。この 時間の振り返りに 「楽しかった」とい う感想を書いている 子どもが何人かい た。それは,友だち

と交流して一人ではできない質の高い学びができたことへの喜びの声であったと筆者はとらえている。なぜなら,この1時間の子どもたちの集中力はすばらしく,たくさんの子どもが発言していたからである。子どもは,休み時間になっても黒板に集まり,指をさしながら話し合っていた。この姿一つとっても,質の高い学びができたことがわかる。 ⑧学習を振り返る 学習の最後に,「しぜんいっぱい大作戦をせいこうさせるために大切なこと」について一人一人が記述した。以下は,ある子どもが書いた文章である。 ほかにも,「植物がなかったら,植物を食べる

虫が困るから,草もぬかないようにしていきた

図3-19 出された子どもの考えを構造的に表した板書

図3-18 ポスターセッションを している様子

ぼくははじめ,自分のふやしたい虫だけふやしたらいいと思っていたけど,1ぴき(しゅるい)の虫だけをふやさずに,バランスよく虫も植物もふやせばいいと思いました。わけは,1ぴき(しゅるい)だけふやせば,その虫だけがたくさんになって,食べるものがあんまりなくなってしまうからです。 だから,ぼくは,バランスよく虫や植物をふやすた

めには,生きものをそまつにしている人がいたら注意して自分も生きものを大切にしていきたいです。

※( )は,筆者によるもの

図3-20 板書を基に,説明している様子

図3-17 ポスターを作成して いる様子

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小学校 総合的な学習の時間 29

い。」「虫をつかまえても,観察したらにがしてあげたい。」などの記述が見られた。はじめ,子どもたちは,1種類の生きものだけのことを考えていたが,友だちと交流する中で,1種類の生きものを大切にするためには全ての生きものを大切にしなければならないこと,生きものを大切にするためには植物や水といった周りの自然環境も大切にしなければならないことに気付き,自分ができることから始めていこうと考えるようになった。 内容についての振り返りを行うと同時に,知

識・技能の面についても振り返りを行った。まず,学習計画を立てるときに考えた「つかいたい力」について振り返りを行った。 自分たちが使いたいと考えた力がこの学習で

使えたのかについてたずねたところ,21名中17名の子どもが「観察する力(理科)」「生きものを育てる力(理科)」が「大変役立った」と回答した。(複数回答)「役立った」と回答した子どもを加えると,どちらも20名になる。また,16名の子どもが,「図かんの使い方(国語)」が大変役立ったと回答した。ほかにも,「話をする力」「話を聞く力」「話し合う力」も役立ったと回答している子どもが多かった。(「大変役立った」「役立った」と回答した子どもを合わせると,それぞれ21名,20名,19名となる。) 次にこの学習を通してどのような力が身に付いたかを考えた。6名の子どもが「ポスターをかく力」,5名の子どもが「発表する力」,4名の子どもが「観察する力」をあげた。また,もっと伸ばしたい力として,4名の子どもが「観察する力」をあげた。ここで注目したいことは,身に付けたい力ともっと伸ばしたい力が同じであった子どもや,大変役立ったと回答している力ともっと伸ばしたい力が同じ子どもがいたことである。力の有用性を子どもが実感したため,更に伸ばしていきたいと考えたのであろう。また,もっと伸ばしたい力として「ポスターをかく力」「話す力」をあげた子どもは,理由として,「ほかの学習でもポスターをかきたいから。」「ほかの勉強でも気を付けたいから。」など,自分の身に付けた力を他教科等でも活用していきたいと考えていることもわかった。 今回の活動を通して,「総合」は,改めて各教

科等を総合する時間であることを確信した。子どもにも各教科等との関連が意識できるようにすることで,各教科等で身に付けた力が「総合」に発展させられること,「総合」で身に付けた力を各教科等に生かせることを実感することができた。

以上のように八つの学習過程を設定することで,細かなステップで単元を展開することができた。「学校にはどこに,どのような生きものがいるのだろう」という小さな疑問が,活動を重ねるうちに,単元を貫く学習課題「生きもの大すき3年レンジャー,しぜんいっぱい大作戦」がつくられ,その課題を解決するために「増えたらいいなと思う生きものについて調べよう」「生きものを増やすための作戦を実行しよう」と探究の過程が繰り返されるごとに新たな課題が生まれ,探究的な学習が深まっていったのである。 (3)言語活動を通して学ぶ 第2章で,適切な言語活動をそれぞれの学習過程に位置付けることにより探究的な学びが充実すると述べた。そこで,探究の学習過程の「整理・分析」と「まとめ・表現」で行った言語活動を実践例として取り上げる。 ①整理・分析 〈第3学年〉地図に表して考える 単元「こん虫パラダイス」の「①事象と出会う」で行った言語活動である。図3-21は,筆者が作成した「『総合』・言語活動カード〈地図に表して考える①〉」である。

【学年の系統について】 この学習は,第4学年の「グリーンUPプロジェクト」へとつながっていく。虫をはじめとする生きものが植物と関わり合っていることを学んだ子どもたちは,更に第4学年で植物について詳しく学ぶ。今回学んだ生きものを中心とした自然界のつながりには,残念ながら「水」と「土」しか登場しなかったが,植物を中心とした自然界のつながりを学ぶことで,きっと「太陽」や「空気」「風」とのつながりも明らかになるであろう。これが,系統的に学ぶことのよさであると考える。

個 人

グループ

学級全体

課題の設定 情報の収集 整理・分析 まとめ・表現

あるエリアの中で収集した情報を地図に整理して,考えます。

利 点

・エリアの特徴がとらえやすい。

・ほかのエリアと比較しやすい。

・エリアの特徴と,調査した結果を関連付けて考えられる。

ポイント

○地図を用意する・・・・・・・地図は,通常,北を上にしてつくります。

目じるしとなるもの,とくちょうのあるものをか

きこんでおきます。

○情報を地図に表す・・・・・・数値やもの,言語情報を地図に表します。

数字,簡単な言葉,印,色,マークなどで表すと

見やすいです。

(凡例をのせるといいです)

※地図を拡大して全体で整理すると,情報を共有できます。

地 図

図3-21 「総合」言語活動カード〈地図に表して考える①〉

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小学校 総合的な学習の時間 30

このカードを基に,集めた情報を地図に整理し,その地図を基に比較したり関連付けたりして思考する活動を行った。 社会科で学習する地図は,3年生の子どもたち

にとって身近なツールの一つである。地図に表すことで,どこにどの生きものがいるのか,どこに生きものが多いのかなどがひとめでわかるので,事実が読み取りやすい。そのため,情報を比

較したり関連付けた りしながら,自分の 知識と重ねて考える ことができた。図 3-22が今回作成した 地図の一部,図3-23 が生きものシールの 一部である。

今回は,社会科との関連を強く意識して,地図

の読み取り方についても指導したことで,情報を整理するだけではなく,整理した情報を基に,学校の自然環境について分析することができた。それは,次のような子どもたちの発言からも明らかである。

〈第6学年〉座標軸・ベン図に表して考える 単元「12歳の自分」の「⑥課題を解決する」で

行った言語活動である。図3-25は,筆者が作成した「『総合』・言語活動カード〈座標軸に表して考える①〉」である。 このカードを基にそれぞれの考えをグループ

で交流しながら座標軸上に表し,完成した座標軸を基に思考する活動を行った。今回は,やさしい町にするために「自分たちができること」を考えることがねらいなので,座標(視点)は,X軸を「自分たちだけでできる・自分たちだけではできない」,Y軸を(自分たちが定義した町にするためには)「必要性が高い・低い」と設定した。そして,自分があればいいなと思う「設備・施設」「取組・行事」「その他」を書いた付箋紙を四つの象限に分類した。 整理し終わった座軸を見て,気付いたことを出

し合った。このとき,あるグループでは,次のような話合いが行われた。図3-26はそのときの様子である。この話合いから,座標軸を用いて情報を整理したことで思考するときの視点がぶれず,分

C1 : 自分たちだけでできて必要性の高いことは,黄色 (取組・行事)が多いね。積極的に取り組んでいき たいね。

C2 : それに対して,自 分たちでできない けど必要性が高い ことは,青(設備 ・施設)が多いね。

C3 : なるほど,私たち の力だけでは,施 設をつくるなんて 無理だね。どうやったら実現できるかな。

C4 : 難しいな。でも,私たちができることをやってい たら,大人の人も変わってくれるかもしれないよ。

・いのちの庭やあかしやの森は,自然がいっぱいで,虫

も過ごしやすくていい環境なのだ。

・いのちの庭とあかしやの森ではいる生きものが違う。

同じように自然がいっぱいなのに,どうしている生き

ものが違うのだろう。

・運動場のまん中は,自然が少ないから生きものがいな

いけど,運動場の周りは木や自然が多いから生きもの

も多いのだろう。

【学年の系統について】 第3学年で,社会科で学習した地図を使って整理・分析する活動を設定した。第

3学年で,地図に表し整 理・分析する方法を身に 付けておくことで,今後, 自分で活用できるように なると考える。実際,第 6学年でポスターを作成 するとき,図3-24のよう に校区の地図に危険な所, 工夫している所などを色分 けしたシールで表している グループがあった。

図3-24 第6学年の子どもが作成した地図

図3-23 生きものシール(一部)

図3-22 「生きもの発見Map」(一部)

図3-25 「総合」言語活動カード〈座標軸に表して考える①〉

図3-26 グループワークの様子

個 人 グループ 学級全体

課題の設定 情報の収集 整理・分析 まとめ・表現

収集した情報や,自分の考えを座標軸を使って整理して,考えます。

利 点

・二つの視点(X軸とY軸)で情報を分類するのに役立つ。

・先に視点が示されているので,分類しやすい。

手 順

1 収集した情報(考え)を付箋紙に書く。

(一つの情報につき,付箋紙を一枚使う)

2 X軸とY軸の二つの軸が何を表すのか(視

点)を決める。

3 座標軸のどの象限に位置付けるとよいかを

考えながら付箋紙を置いていく。

座標軸の用紙 付箋紙

X軸

Y軸

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小学校 総合的な学習の時間 31

析が行いやすかったことがわかる。また,「設備・施設」「取組・行事」「その他」を色分けしたことで,各象限の特徴をしっかりととらえることができた。 次に,各グループで考えたことを基にクラス

ワークを行った。高齢者,障害のある人,小さな子どもという三つの立場から考えが出てくるので,ベン図を用いて整理していくことにした。図3-27は,「『総合』・言語活動カード〈ベン図に表して考える①〉」である。 このカードを基に,各グループから出た考えを

ベン図にまとめ,思考する活動を行った。 今回は,三つの円を描き,お年寄り,障害のある人,小さな子どもに分けて考えを出していった。すると,共通して大切なことが見えてきた。「交流すること」「互いを大切にすること」「手助け・助け合うこと」などである。そして,「(設備や施設も大事だが)障害があるとか歳をとっているとか小さいとかではなく,相手を思う心,気持ちが大切」「一人一人の居場所があるということが大切」ということに気付いた。図3-28はそのときの板書の一部である。

これは,一人の子どもが学習の最後に書いた文章である。 それぞれのグループの考えをベン図に表すこ

とで,「お年寄りにとって大切なこと」と「障害のある人にとって大切なこと」「小さな子どもにとって大切なこと」の共通点,相違点がはっきりと可視化でき,まとめたベン図を見て,思考を働かせることができた。 ②まとめ・表現 〈第3・6学年〉ポスターセッションで発表する 第3学年も第6学年も「⑦調査したことを報告する」で行った言語活動である。図3-29は,「『総合』・言語活動カード〈ポスターセッション①〉である。 第3学年は,ポスターにまとめるのは初めてで

あったため,手順を追って学習していった。 はじめに,ポスターのイメージをもつために,用意したモデルのポスターを使って内容(表現様式)と表現の工夫をまとめた。子どもたちがまとめたポスター作りのポイント(内容と表現の工夫)は,次ページの図3-30のとおりである。 図3-28 ベン図でまとめた板書(一部)

図3-27 「総合」言語活動カード〈ベン図に表して考える①〉

積極的にあいさつをしたり,声をかけたりして地域でのネットワークを築くことが大切だと思う。その

ネットワークの輪を広げることで,みんなが助け合え

る,安心・安全なすてきな町になれる。(略)今日,

全体でまとめた「一人一人の居場所があることが大切」

と言うことが実感できると思った。その手段として,

ほかのグループが考えていた地域委員の人に頼むとい

うのも良いなと思った。自分たちでできることはでき

る限りして,どうしてもできないところは,大人の人に

助けてもらうというのも一つの方法なのかなと思った。

図3-29 「総合」言語活動カード〈ポスターセッション①〉

個 人 グループ 学級全体

課題の設定 情報の収集 整理・分析 まとめ・表現

違う立場からの情報や考えをベン図を使って共通点と相違点に整理して,考えます。

利 点

・共通点と相違点の両方を明らかにできる。 ・整理したベン図によって,それぞれの特徴が明らかになる。

・整理したベン図によって,課題を解決する方法や新しい考えなどが生み出しやすい。

手 順

1 収集した情報(考え)を付箋紙に書く。 (一つの情報につき,付箋紙を一枚使う)

2 はじめ,それぞれの相違点の場所に付箋紙

を貼る。

3 二つの相違点の場所に貼った付箋を見比べ,

共通する情報(考え)を共通点に移す。

ベン図の用紙 付箋紙

相違点 (特 徴)

共通点

Bの立場からみた情報〈考え〉

Aの立場からみた 情報〈考え〉

Bの立場からみた情報〈考え〉

Bの立場からみた情報〈考え〉

個 人 グループ 学級全体

課題の設定 情報の収集 整理・分析 まとめ・表現

グループや個人が調べたこと,学んだことをポスターにして発表する方法。 利 点 ・複数のグループ(個人)が同時に発表できる。

・発表する者と聞き手との距離が近いため,聞き手の反応がわかりやすい。 質問や感想も出やすい。 ・聞き手の反応を基に,発表の仕方や内容を工夫できる。 ・少人数で行うため,発表しやすい。聞きやすい。 ・聞き手にとっては,自分の聞きたいテーマを選んで聞くことができる。 手 順 [事前]・調べたこと,学んだことを絵や図を入れてポスターにまとめる。 ・発表メモ,発表原稿を作る。

・前半に発表するグループ・人(Aグループ)と後半に発表するグループ・人(Bグループ)に分ける。

1 Aグループが発表する。(Bグループは,聞きたいテーマを選んで聞きに行く) 2 交流する。(Bグループの人が質問をしたり,感想を言ったりして考えを深め合う) 3 Bグループが発表する。(Aグループは,聞きたいテーマを選んで聞きに行く) 4 交流する。(Aグループの人が質問をしたり,感想を言ったりして考えを深め合う)

パネル (掲示板)

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小学校 総合的な学習の時間 32

次に,このポイントを基に,一人一人がポス

ターを作っていっ た。図3-31は,作成 途中のポスターであ る。項目ごとに紙に 書いて台紙に貼っ ていくようにした ので,「大きな紙に 直接かくよりも負

担が少ない」「細かなステップで作成できる」「動かしてレイアウトを工夫することができる」などの効果があった。 ポスターが出来上がったら,今度は,発表の練

習である。今回は,発表原稿を書かずに,ポスターを使ってどのように話していったらよいかをみんなで考えた。これまでに国語科の学習で,発表の仕方を学び,『発表名人10か条』を作ったので,それを基に,「相手意識をもって話す」「1文は短く」「簡単な言葉で話す」「ポスターは書き言葉になっているので,話し言葉に代えて話す」「自分の体験を入れて話す」などのポイントを示し,練習した。 ポスターセッションは,体育館を会場に,2年生,保護者,生きもの博士を招いて行った。A,

B,Cの3グループに分 かれ,Aグループが発 表しているときは,B, Cグループも友だちの 発表を自由に聞きに行 くことにした。このと き,自分の発表と比べ ながら聞くようにし

た。図3-32が発表の様子である。 単元の振り返りをしたときも,「ポスターをか

くことをがんばれたか」という問いに,21名中16名が「大変がんばれた」,5名が「がんばれた」と答えた。「あまりがんばれなかった」「がんばれなかった」と答えた子どもはいずれもいなかった。

この結果には,三つの要因が考えられる。一つはポスターの表現様式,表現の工夫を学習したことで,どのようにポスターを作ればよいのかがメタ認知できていたこと。もう一つは,ワークシートを工夫することで,思考をうながし,収集した情報が整理・分析しやすかったこと。そして,ポスターを作成するとき1枚の大きな紙に直接かいていくのではなく,項目ごとに別の紙にまとめ,台紙に貼っていく方法をとったことである。 また,「発表がしっかりできたか」という問い

に,20名中「とてもできた」と答えた子どもが17名,「できた」と答えた子どもが3名,「あまり」「できなかった」と答えた子どもはいなかった。全員がしっかりできたと実感した理由を子どもたちの感想から分析してみると,次の三つに分けられる。 第6学年は,これまでの各教科等の学習を踏まえて,グループごとに工夫してポスターを作成した。「総合」でポスターについての学習は行わな

かったが,これまでの 学習経験を基に,まと め方もそれぞれ工夫 してあり,グル―プご とに趣向を凝らした バラエティ豊かなポ スターが出来上がっ た。図3-33は,ポス ターの一部である。 ポスターセッショ ンは,グループを二つ に分け,前半,後半で 発表する者を交代し, 全ての者が発表を経験 できるようにした。図 3-34はポスターセッ

ションをしている様子である。 以上のように,第3学年においても第6学年においてもポスターセッションで表現する活動を取り入れた。実際行ってみると,ポスターセッションは,発表者と聞き手との距離が近く「質問や感想がでやすい」「相手の反応を見て発表のしかたや内容を工夫することができる」「ポスターと口頭で

①題名 ②学年・組・名前 ③調べた理由 ④調べたこと ⑤そこから考えたこと(いっぱいにするためにわかったこと)

⑥自分のしようと思う こと(作戦)

図3-32 ポスターセッション をしている様子

図3-33 作成したポスター

図3-34 ポスターセッション をしている様子

図3-30 子どもたちがまとめたポスター作りのポイント

・ポスターがしっかりかけていたこと

・国語科の学習で身に付けた「発表名人10か条」が役

立ったこと

・聞き手がしっかり聞いてくれたこと

図3-31 作成途中のポスター

内 容 ・文字の大きさ・太さ ・文字の色・形 ・かんたんな文・言葉

・絵・図

・表にしたり囲んだり

・見出し

・読みたくなる題名

表現の工夫

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小学校 総合的な学習の時間 33

説明するので理解してもらいやすい」などの利点を子どもたちも実感することができた。 また,同じポスターセッションという言語活動

を行っても,学年により各教科等での既習の内容が違う。そのため,学年によって学習の展開が違ってくるのは当然のことである。ここで大切なことは,学年の系統に応じて活動の内容を考え,より確かに定着できるようにすることである。

第2節 探究的な学習を充実させる評価 第2章では,評価の方法について述べ,実際に

「育てようとする資質や能力及び態度」を踏まえて,小学校第1学年から中学校までの学年に応じた「付けたい力の系統表」を作成し,40ページの付表1に示した。この系統表を基に,第6学年の「12歳の自分」の単元の評価規準を設定し,実践を行った。この実践を事例とし,検証を行う。

①単元の評価規準を設定する 「総合」において子どもの学習状況を評価する際,はじめに,単元で実現をねらう「育てようとする資質や能力及び態度」と「内容」を設定することが大切である。そこで,この単元において「育てようとする資質や能力及び態度」を「学習方法に関すること」「自分自身に関すること」「他者や社会とのかかわりに関すること」の三つの視点を基に以下のように考えた。 視点1 (2)学習活動と評価の実際 視点2

視点3 また,「内容」を,以下のように設定した。

次に,それぞれの付けたい力は,単元のどの学習活動において,どのような子どもの姿が見られたらよいのかをイメージした。そして,単元における「育てようとする資質や能力及び態度」と「内容」の全項目が網羅されるように,必要に応じて組合せて評価規準を作成するとともに,指導と評価の計画を立てた。42ページの付表3が評価規準,付表4が指導と評価の計画である。

②学習活動と評価の実際 第6学年「12歳の自分」において「思考力」「学

び合う力」「表現力」について実際に行った評価の一部を以下に示す。 a 思考力を行動観察とワークシートを組み合わせて評価する

この学習活動においては,思考力の評価規準を「②これまでの活動を通して得た情報を分類したり,関連付けたりして何が大切かを考えている。」と設定した。 A児は,1年生との交流で絵本の読み聞かせを行った。図3-35は,そのときの様子である。少し

照れながらも,笑顔 で,1年生の目の高 さに合わせ腰をか がめて話をするな ど,相手のことを考 えて行動していた。 その日の振り返り に,「僕の考えた遊び

を喜んでくれてよかった。1年生は笑っていたので楽しそうだった。でも,あまり話せなかったので,恥ずかしがらないで堂々と向き合うことが大切だと思った。」と記述している。また,図書館ボランティアのNさんから話を聞いたときには,時間をかけて準備をしてくれていたことに気付いた。そして,各学年との交流を通して,「真剣にふれあうこと」が大切だと考えた。自分の体験を基に,何が大切かをしっかりと考えることができたのである。 グループワークで考えを交流し,KJ法の手法

を用いて「楽しんでもらう」「相手の意見を聞く」

【学習方法に関すること】 ア 今までの学校生活の中から課題を発見し,設定す

る。 イ 方法を選択し,情報を収集する。 ウ 課題解決をめざして事象を比較したり関連付けた りして考える。

エ 相手や目的に応じて効果的に表現する。

【自分自身に関すること】 オ 自らの生活の在り方を見直し,実践する。

【他者や社会とのかかわりに関すること】 カ 異なる意見や他者の考えを受け入れる。

a 最高学年としての自分たちの役割を自覚し,低学年 に対して主体的に関わりをもつ。

b ボランティア精神について理解し,社会との結び付 きを強く意識して行動する。

c 地域の一員としてよりよい福祉を創造するために,今の自分ができる取組を考え,実行する。

図3-35 1年生に読み聞かせ をしている様子

⑤課題を解決する(整理・分析)の過程

低学年との交流会を開いた後,これまでの活動を

振り返って,「だれかのために何かをするとき,大

切なのはどのようなことか」について思考する学習

活動。

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小学校 総合的な学習の時間 34

「計画を立てる」ことの大切さにも気付くことができた。このときの振り返りには,「自分と同じような考えが出てきた。経験を理由に話し合えたので分類しやすかった。」と記述している。こうしたA児の姿から,評価規準に示す子どもの姿を実現していると考えることができる。 しかし,A児は,グループワークでは自分の考

えを理由を入れながら話ができたが,クラスワークでは残念ながら発言しなかった。A児の課題は,グループワーク,クラスワークの際に,もう少し主体的に話合いに参加できるようになることであると考えた。そこで,以後のグループワーク,クラスワークのときに机間指導を行い,発言をうながすなどの支援を行うように心がけた。 b 学び合う力を交流の様子とワークシートで評 価する

この学習活動においては,学び合う力の評価規準を「①自分の考えを相手にわかりやすく伝えたり,相手の考えを評価して受け止め自分の考えに生かしたりしている。」と設定した。 B児は,はじめ「不便を感じない町」がお年寄りにとっての「やさしい町」だと考えていた。しかし,グループでKJ法の手法を使って互いの考えを整理するうちに,「気軽に話しかけられる」「孤独を感じない」「一人一人が関わりをもてる」「助け合える」といった町が「やさしい町」なのだと気付いた。そして,グループとしては「一人一人が進んで関わりをもてる,環境が整った町」と定義した。このときの話合いにB児は積極的に参加し,自分の考えを根拠を明らかにして伝えていた。また,記録も引き受け,交流シートにみんなの考えを工夫して記録していた。図3-36がそのときの 交流シートである。 この時間の振

り返りは「体のこ とばかり考えて気 持ちまで考えてい なかった。『みんな が助け合って関わ りのもてる町』に 私たちからしてい

きたい。」と記述していた。B児は,友だちと考えを交流することにより,自分では気付いていなかった気持ちの面からも「やさしい町」について考え,自分なりに「やさしい町」について定義し直すことができたのである。そして,そのような町にするために,自分ができることについて,ワークシートに次のように記述した。 この文章から,友だちの考えを全て受け入れる

のではなく,しっかりと評価し,自分が納得のいくところは受け入れるというB児の姿勢がうかがえる。このことから,評価規準に示す子どもの姿を実現していると考えることができる。 c 表現力を制作物(ポスター)と発表の様子で 評価する この学習活動においては,表現力の評価規準を「①探究してきたことを基にして,『やさしい町』にするために自分たちができることを,これまでに身に付けた表現方法を生かして,ポスターに効果的に表している。」「②ポスターを基に,学んだことや自分の考えを,相手を意識して,効果的に発表している。」の二つを設定した。 C児は,「小さな子ども」グループである。幼稚園児との交流を通して小さな子どもについての理

解を深め,小さな子ども にとって校区はやさしい 町なのかについて調査 し,改善点をポスターで 提案した。図3-37がポス ターの一部である。 このグループの「やさ

しい町」の定義は,「危 険・困難がない町(子ど もが安心・安全に楽しく図3-37 作成したポスター

自分から物事を進めていくという行動力が重要になってくると思います。公の場での活動が多く挙げられているけれど,今すぐ始められる簡単なことは「あいさつ」だと思います。もちろん,サークルなどの活動や交流も大切だと思うけれど,そのような活動の基となっているのは,「あいさつ」などの身近なコミュニケーションです。あいさつを徹底した後,交流などの計画を進めていくと自然な笑顔で効率よく進めていけるかなぁと思います。ボランティアは気持ちも大切な一つだから,する側の気持ちも考えて,急な交流は大変かもしれないし,身近なところからハードルを上げていった方が相手に喜んでもらえると思います。

図3-36 交流シート

⑤課題を解決する(整理・分析)の過程 学習課題「やさしい町にするためには何が大切なのだろう」について交流を通して探った後,「『やさしい町』について考えよう」「『やさしい町』にするために自分たちにできることは何だろう」について友だちと交流して思考する学習活動。

⑦調査したことを報告する(まとめ・表現)の過程 「自分たちの学びを伝えよう」と,ポスターセッションで表現する学習活動。

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小学校 総合的な学習の時間 35

暮らす町)」である。そこで,校区を歩き,子どもにとって危険な場所,困難な場所,工夫している場所を調査して地図に表すと同時に写真も対応させ,「子どもたちの身近な危険や困難をなくすためには」と題して示した。表現の工夫,論の展開,どれをとっても優れており,今までに身に付けた表現の方法を生かして効果的にポスターを仕上げていた。 中でもC児はこのグループの中心となり,効果

的に表現するためにいろいろなアイディアを提案していたのである。また,発表もわかりやすく,発表原稿を丸覚えするのではなく,聞き手に応じて話し方を変えるなど,相手意識をもった発表ができていた。こうした姿から,C児は評価規準に示す子どもの姿を十分に実現していると考えることができる。 以上,評価の実際の方法について述べた。評価の観点,付けたい力を具体化し,それを基に単元の評価規準を設定することで,評価はしやすくなる。また,毎時間,全ての子どもの姿をもれなく見取ることは難しいが,ワークシートやポスターなどの制作物やポートフォリオによっても見取ることができる。セル評価によって変容をみたり,個に応じて前の単元で課題のあった力を重点的にみたりすることもできる。そして何より,評価をすることで,子ども一人一人の力を知ることができる。そして知っているからこそ,更に力を伸ばすことができるのである。これが指導と評価の一体化たるゆえんである。 以上,第3章では,「協同的な学びの場」「学習

過程」「言語活動」「学年の系統」について実践を基に検証を行ってきた。これらを踏まえ,第4章では,研究の成果と課題を検証し,「総合」についての新たな提言を行う。

第4章 総合的な学習の時間のさらなる充実のために

第1節 研究の成果と課題 ① 八つの学習過程と適切な支援 今回の実践において,探究的な学習を充実させることができた要因は二つ考えられる。一つは学習過程を八つ設定したことであり,もう一つは教師が適切に支援したことである。この二つの要因について考察を加えたい。

a 八つの学習過程 これまで,本市の小学校において取り入れられ

ている学習過程は,第1章であげた「調べて,まとめて,発表する」という三つの過程をはじめ,「ふれる,つかむ,むかう,生かす」に代表される四つの過程,「ふれる,つかむ,調べる,伝える,生かす」といった五つの過程であった。それらの過程を基に,「①事象と出会う」や「⑧学習を振り返る」という過程を新たに設定したり,追究活動を「⑤調査する」と「⑥課題を解決する」に分けたりした。このことにより,一つ一つの学習活動のめあてが明らかとなり,充実した活動を行うことができたと考える。これまでも,事象に目を向けたり,学習を振り返ったりする活動を行ってきた学校もあるだろうが,学習過程上に位置付けることにより,だれもがこれらの活動を意識できるようになると考える。このことは,子どもたちが主体的に学ぶ上で,必要不可欠なことである。 また,「活動内容がわかるようにそれぞれの過

程に具体的な名称をつけたこと」「各教科等と共通する学習過程にしたこと」によって,教師も子どもも学習の内容がイメージしやすくなり,見通しをもって学習を進めることができた。 b 教師の適切な支援 ここでいう教師の適切な支援とは,「協同的な学びの場を設定する」「言語活動を充実させる」ために行った指導行動のことである。今回,実際に行った支援は,筆者が拙稿「主体的な学びを支える総合的な学習の時間における言語能力の育成」(30)の中で定義した「示唆する」「引き出す」「意味付ける」などはもちろんのこと,具体的には,以下のものがある。 このような支援をすることによって,協働的な学びが充実するとともに,思考も深まった。 また,ポスターの表現様式と表現の工夫を学

び,ポスターで表現することで,自分の学びを確かにすることができた。ほかにも,ポスターセッションの準備のときに国語科で学んだ「発表のしかた」を提示するなど,教師が各教科等との関連

・「パーソナルワーク→グループワーク→クラスワーク」 というプロセスを設定する ・活動の見通しがもてるようなワークシートを作成する ・交流するときに思考するためのツールを提示する (地図や座標軸など) ・板書を構造的に工夫する ・コミュニティティーチャーと事前にていねいに打合 せを行い,目的を共有する など

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小学校 総合的な学習の時間 36

を意識することにより,子どもも意識して既習の知識や技能を活用することができた。 「こん虫パラダイス」の学習が終わったとき,

18名の子どもが,「『総合』が好きになった。」と答えた。「わからないことが,どんどんわかるようになったから。」「今まで,大嫌いだった虫が好きになったから。」などと笑顔で話をしてくれた。このことからも,八つの学習過程や支援が,探究的な学習を充実させるために有効であることがわかる。 今後は,この学習のスタイルを継続させていく

ことが重要である。一つの単元だけではなく,今後も同じように単元を展開していくことで,子どもに学び方が身に付き生きた力となるであろう。また,「総合」だけではなく,各教科等においても同じスタイルで学習を進めることが望まれる。今回は,第6学年の国語科の学習「学級討論会をしよう」において同じ八つの学習過程で学習を進めたが,1教科でしか実践できておらず,考察を行うまでには至っていない。今後,この学習過程を全ての教科等で取り入れることが有効かどうかについても取組を進めていきたいと考える。 ② 学年の系統性 今回の実践において,「総合」が「内容」と「知識・技能」の両面で実生活,実社会と深くつながっていることを改めて認識できた。この両面から考察を加えてみることにする。 a 「内容」の各教科等との関連と学年の系統性 第3学年の「こん虫パラダイス」は,理科の「B生命・地球」の単元「3こん虫をそだてよう」「4しぜんのかんさつをしよう(2)」と内容の関連が強い単元であった。学習する時期もほぼ同じであったため,教師だけではなく,子どもも関連を意識して学習を進めることができた。単元の最後に,「しぜんいっぱい大作戦」を成功させるために大切なことについて学習を行った際にも,「理科の教科書に,アリは,アブラムシをテントウムシに食べられないように守っていると書いてありました。」など「総合」で学んだ内容だけではなく,理科で学んだ内容を発表する子どもがいた。ほかにも,社会科で学ぶ地図の内容など各教科等の内容と関連させたことで,学びが広がった。 また,S校では,先に述べたように第3学年から第6学年まで「環境」についての学習が系統立てて行われている。そのため,学校が一体となって学習に取り組み,「環境」についての内容を段階的に積み上げることができると考える。

b 「知識・技能」の各教科等との関連と学年の 系統性

今回,学習計画を立てる際に,子ども自身に,これまで自分が各教科等で身に付けた力の中のどの力を使うのかを考えさせた。また,学習の最後に振り返りとして,計画した力を活用することができたかどうか,どのような力が伸びて,更に伸ばしたい力は何かについて考えさせた。これらの活動は,子どもたちが自分の力をメタ認知する上で有効であった。 今回,小学校第1学年から中学校までの「付けたい力の系統表」を作成した。この系統表を手がかりに,各教科等との関連を意識しつつ,段階的に付けたい力を育成したり,評価を行ったりすることができる。規準がはっきりしているために,だれが担任をしても,学校として一人一人の子どもに確実に力を付けることができると考える。 教師と子どもの両者が,「内容」と「知識・理

解」において学年の系統性と教科等との関連を意識することで,子どもは,様々な場面で学びの有用性を実感できた。そしてこれらの学びが,実生活,実社会とも密接につながっていることに気付いた。これは,「12歳の自分」の学習が終わったとき,子どもたちが自分の成長したところとして「自分も社会の一員だという自覚がもてた。」「これから,ボランティア精神を大切にしたい。」「多面的に物事を見られるようになった。」「考え方が身に付いた。(この力は)どの場面でも使えるから,生活にも生かしていきたい。」などの点をあげたことからも明らかである。 今回の実践や考察から,付けたい力を系統的に

育成することの重要性が明らかとなった。ところが,今回実施したアンケート調査によって,系統的に力を育成するための指針となるべきものの一つである系統表が,多くの学校で作成されていないことが明らかになった。そこで,今後の課題としては,付けたい力の系統表を各学校が作成していくことが求められる。このことは,本市の小学校の教員が一番課題であると感じている「評価」の問題を解決するためにも,子ども一人一人に確かな力を育成するためにも,急務であると考える。

③ 単元展開の工夫 今回取り組んだどちらの実践においても,当初立てた単元構想どおりに展開できない部分があった。そこで,それぞれの実践についての課題を考察したい。

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小学校 総合的な学習の時間 37

a 第3学年「こん虫パラダイス」 この単元では,急に気温が下がり生きものが姿

を見せなくなってしまい,当初計画していた観察を十分行うことができなくなってしまった。このことから,今後の課題として,単元を扱う時期を再検討することがあげられる。「環境」の内容を扱う場合,自然が相手であるので,多少のリスクは仕方がないとしても,できるだけよい条件のもとで活動できるのが望ましい。そう考えるならば,もっと多くの生き物が活発に活動している季節を選ぶのがよいのではないだろうか。 生きものが観察しにくいという状況の中で,な

ぜいま,生きものが少ないのかを考えたり,図鑑等の図書を活用して情報を収集したりしたことを基に,もう一度「いのちの庭・あかしやの森」の自然を観察したことは,意義のあることであった。実際,この学習で,ある子どもはセミを観察することができなかった。しかし,図鑑で,幼虫は地面の下で木の汁を吸って生活し,地上に出てきて羽化をすることや成虫は木の樹液を吸うことを知り,実際にあかしやの森に出かけ,地面に空いた穴の数を数えたり,樹液を観察したりすることができた。 b 第6学年「12歳の自分」 この単元では,高齢者,障害のある人,小さな子どもとふれあう場がなかなか見つからなかった。また,見つかった後も,日程調整が上手くいかず,三つのグループは別々の日に交流することになってしまった。このことから,今後の課題としては,できるだけ早い時期に相手先を見つけ,打合せをすることがあげられる。 ふれあう場がなかなか見つからない状況の中で,担任は熱心に相手先を探し,交渉を進めていった。また,別々の日に交流する活動を設定するのは,学習をする上で足並みが揃わず大変であるにもかかわらず,時間割を調整し,それぞれ2回,場を設定することで,充実した交流を行うことができた。 以上,それぞれの実践において課題はみられたものの,教師の熱心な思いのもと,どちらの実践においても充実した探究的な学習を展開することができた。今回のように,自然環境が変わったり,途中で困難な状況が発生したりしても,その時々に応じ,どうすれば子どもに充実した学びを保証できるかを考え,柔軟に対処することが大切であることを実感した。このような教師の姿勢が,子どもの学びを充実させるのである。

第2節 生きる力を育む総合的な学習の時間 井上が,魅力ある授業であるための条件を次のようにあげている。 ここにあげた三つの条件は,「総合」の学習そのものである。このような学習が「総合」において充実するために,これまでの研究を踏まえ二つの提言をしたい。 (1)主体的に学ぶ 学習の主体者は,子どもである。主体的に学ぶことで,知識が実生活や実社会において生きて働く「知恵」に変わるのである。 筆者が担任をしていたとき,常々,子どもたち

に「マスターキーを持ちなさい。」と言っていた。一つの部屋を開ける鍵をいくつも持つよりも,どの部屋でも開けられる鍵を一つ持つ方が実際的であるということである。ここでいう「部屋」とは「物ごと・課題」のことで,「開ける」というのは「成す・解決する」ということである。つまり,鍵は「知識」のことであり,マスターキーは「知恵」のことである。マスターキーを持つためには,主体的に学ぶことが大切である。 では,主体的に学ぶとは,どういうことなのだ

ろうか。それは,自己の考えを高め,確立することである。そのために第2章で提案した「パーソナルワーク→グループワーク→クラスワーク」という協働的な学びのプロセスを大切にしたい。といっても,プロセスを経ることが大切なのではなく,プロセスを経て自分の考えを確立したり,自分のことを多面的に見たりできるようになることが大事なのである。パーソナルワークで,自分の考えをしっかりともち,グループワーク,クラスワークで友だちと交流して,考えを深めると同時に,多面的なものの見方や「比較する」「分類する」

(略)

条件5 学習過程がつながっていること

◆いろいろなことをやれる(学習活動の多様化)

◆つながりが分かる(学習方法の手順化)

◆感動と壮快さが広がる(達成点と連帯感の意識化)

条件6 自分を創造できること

◆一人が認められる(個性の尊重)

◆一人でやれる(自己学習力の育成)

条件7 教師と学級集団に対して輝かしく思えること

◆役に立てる(学級集団への位置付け)

◆発表できる(自己表現の保証)

◆まとめて残してある(学習活動の記録化) (31)

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小学校 総合的な学習の時間 38

「関連付ける」など の思考の方法を身に 付ける。そして,自 分で考える楽しさ, 学ぶ喜びを感じるこ とで,主体的な学び が身に付いていくの である。また,これ

らのプロセスの中で,子どもが司会,記録,タイムキーパーを務めることで,司会力,対話力,要約力などの力も育っていく。図4-1は,実際に子どもがクラスワークで司会,記録,タイムキーパーを務めている様子である。主体的に学習に取り組むようになると,自信が生まれ,自分の思いを表現したり,批判的に友だちの話を聞いたり,難しいことにも挑戦したりするようになってくる。このような姿が,井上のいう条件6の「一人でやれる」であり,「一人が認められる」ということである。 協働的な学びを充実させるためには,一人一人の子どもに,基礎・基本の力を育てていくことが求められる。そのためには,教師も子どもも各教科等との関連,学年の系統性を意識して,一学年ごとに段階的に,そして確実に力を付けていくことが大切である。このことが井上のいう条件5の「学習過程がつながっている」ということである。また,子どもが主体的に学ぶためには,ワークシートを工夫する,活動の場や時間を保証するなど多くの教師の支援も忘れてはならない。ワークシートの工夫を例にあげて,教師の支援の意義について解説する。 ワークシートには3種類の形式がある。「知識を与えるワークシート」「思考をうながすワークシート」「振り返りをするワークシート」である。 特に,思考をうながすワークシートは,活動のプ

ロセスや思考するための方法を示すことで,「学習の見通しがもてる」「思考の方法が身に付く」などの利点があり,主体的に学習を進める上で有効である。また,振り返りをするワークシートは,自分がどれだけの力が身に付いているかを自己評価することで,メタ認知できる。この3種類のワークシートを効果的に提示することで,子どもは,主体的に学ぶことができるようになるのである。図4-2は,3種類のワークシート例である。 また,主体的に学ぶことは,ともに学ぶことで

もある。以前,担任をしていた子どもが,「協働的に学ぶようになって何が変わりましたか。」という問いに,「クラスのみんなの仲が良くなりました。それは,お互いの話をよく聞くようになったから

です。何かもめごとが起こっても,自分たちで話し合って解決できるようになりました。」と誇らしげに語った。このことからもわかるように,主体的な学びは,人と人との絆も強くするのである。 (2)生きる力を育む 主体的に学ぶことで探究的な学習が充実する。

探究的な学習が充実することで,「生きる力」が育成されていく。つまり,主体的な学習は,「生きる力」の根幹をなしているのである。 ここでいう「生きる力」とは,学習指導要領に示されている力であり,筆者がはじめに(1ページ)で述べた「社会を生き抜く力」のことであり,「自分で学び新たなものを創造する力」(32)のことである。 次ページの図4-3は,「総合」と「各教科等」の

「生きる力」との関係を表したものである。「総合」は横断的・総合的な学習であり,各教科等で身に付けた内容や知識・技能を相互に関連付け,学習や生活に生かし,それらが子どもの中で総合的に働くようにすることが求められている。つまり,「総合」だけで「生きる力」を育成するのではない。内容や知識・技能,言語活動において横断的,合科的,総合的に各教科等と関連させながら,探究的な学習を展開することが重要なのである。また,全ての教科等で,主体的な学習活動と,多様な言語活動を展開することで,思考力・判断力・表現力や言語能力などを子どもに育成していくことが大事なのである。 また,「総合」においては,探究の過程を繰り

国語 ふりかえり

☆ 一人学びで,発表するときのくふうがみつけられた。 ◎ ○ △

☆ グループで,やくそくをまもって交流できた。 ◎ ○ △

☆ グループ交流は,楽しかった。 ◎ ○ △

☆ グループ交流をして,新しいくふうがみつけられた。 ◎ ○ △

☆ みんなで発表名人 10 かじょうをつくって,楽しかった。 ◎ ○ △

☆ 自分もくふうして発表したくなった。 ◎ ○ △

思ったこと,考えたことを書きましょう。

名 前

姿勢よく

立つ場所を考えて

大きく口を開けて

大きな声で、はっきりと

分かりやすいはやさで

笑顔で、相手を見て

大事な言葉を強調して

よくようをつけて

声の調子を変えて

実物を見せたり、

ポイントをさしたりして

図4-2 3種類のワークシート例

知識を与える ワークシート

言語活動を行うときのポイントが示されている。

思考をうながす ワークシート

図3-16のワークシートや,この交流シートのように,思考するための方法が示されている。

振り返りをするワークシート 自己評価,メタ認知するための項目になっている。

図4-1 クラスワークの様子

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小学校 総合的な学習の時間 39

総合的な学習の時間

習 得 活 用

言語活動内 容

横断的・合科的・総合的

各 教 科 等

力・判

力・表

知識・技能内 容

課 題

課題の設定

新 た な 課 題

情報の収集

整理・分析

まとめ・表現

探究的な学習の充実

学年の系統性

体験活動 協同的な学び

付けたい力

知識・技能

言語活動

言 語 活 動 の 充 実

返す中で,効果的に協同的な学びの場や体験活動を設定することで探究的な学習は充実していく。このとき,内容や知識・技能,言語活動において,学年の系統性を明らかにしていくことが子どもたちの力を伸ばす上で重要となる。 このように,全ての教科等で生きる力を育成し

ていくことが大切なのである。子どもに主体的な学習を保障し,探究的な学習を充実させ,生きる力を育成していくためには,一人一人の教師がそのことを意識し授業を改善することはもちろんのこと,学校全体で取り組むことが重要である。 (30) 前掲(13) p.193

(31) 井上一郎『教師のプライド』東洋館出版社 2009.8 p.39

(32) 前掲(31) p.104

おわりに

昨年の春大学を卒業し,現在,幼稚園に勤務している教え子が,小学校時代の「総合」を振り返って,次のように語ってくれた。「私にとって総合の時間は,楽しみな時間でした。他の時間とは違って,答えのない課題に向かって自分たちで追究していくというのは,大変でしたが,楽しかったです。大学でスキー部に入ったとき,高校のときとは違い,細かく練習の仕方を教えてもらえません

でした。周りのみんなはそのことに戸惑っていましたが,私は与えられた練習をそのままするよりも,自分で考えて練習する方が楽しかったです。今から思うとそれは,小学校のときの『総合』の学習が生きていたのだと思います。今,幼稚園の先生をしていますが,一人一人の子どもに合った接し方をしたり,先輩の先生の子どもへの接し方を見て自分ができそうなことを取り入れたりしているのも,『総合』で学んだことだと思います。」 話を聞いていて,大好きな子どもたちと生き生きと活動する職場での姿が目に浮かんできた。彼女は,社会の中で自らの位置を確立し,自己を創造し続けている。10年経った今,小学校時代の学びが大きく開花したことに喜びを覚えるとともに,主体的に学ぶことの意義を改めて感じた。 子どもが「学ぶことが楽しい。」「力が付いた。」と実感できる。「もっと知りたい。」と探究的な学習が繰り返されていく。教師が「子どもとともに学ぶのが楽しい。」といえる。そんな「総合」が,京都市の全ての小学校で展開されることを願っている。 最後に,本研究の主旨を理解し,快く実践授業に取り組んでいただいた,京都市立朱雀第四小学校及び京都市立葵小学校の研究協力員の先生をはじめ教職員の方々,御指導,御助言をいただいた先生方に対して心より感謝の意を表したい。

図4-3 「総合」と各教科等の「生きる力」との関係図

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小学校 総合的な学習の時間 40

[付表1 探究的な学習を成立させるための付けたい力の系統表]

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小学校 総合的な学習の時間 41

[付表2 第3学年「こん虫パラダイス」(全30時間)単元構想]

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小学校 総合的な学習の時間 42

学び合う力 (発表の様子) (話合いの様子) (ワークシート) 学び合う力 (発表の様子) (話合いの様子) (ワークシート) 課題設定力① (ワークシート) 情報収集力② (交流の様子)(振り返りシート) 情報収集力① (話を聴いている様子)(アンケート)思考力①・学び合う力 (話合いの様子)(ワークシート)情報収集力② (交流の様子)(振り返りシート)思考力②・学び合う力 (話合いの様子)(ワークシート)課題設定力②・学び合う力(ワークシート) 課題設定力② (話合いの様子) (ワークシート) 課題設定力③ (ワークシート) (話合いの様子) 情報収集力② (交流の様子) (振り返りシート) 思考力②・学び合う力 (話合いの様子) (ワークシート) 思考力③・学び合う力 (話合いの様子) (ワークシート) 表現力①②・学び合う力(発表の様子)(ポスター)活用力 (ワークシート)

評価規準(評価方法)

探究の過程

情報の収集

情報の収集

情報の収集

情報の収集

課題の設定

課題の設定

整理・分析

整理・分析

整理・分析

整理・分析

まとめ・表現

[付表3 第6学年「12歳の自分」の評価規準]

[付表4 第6学年「12歳の自分」(全26時間)の指導と評価の計画]

評価の 観 点

学習方法に関すること 自分自身に関すること 他者や社会とのかかわ

りに関すること

課題設定力 情報収集力 思 考 力 表 現 力 活 用 力 学び合う力

単元の

評価規準

①今までの学校生活を振り返り,複数の問題を整理して一つに絞り込み,課題を設定している。(ア・a)

②これまでの課題設定の方法を基に,KJ法的な手法を使って課題を設定している。(ア・b)

③これまでの学習計画の立て方を振り返り,「人にやさしい町」にするための学習計画を立てている。 (ア・c)

①ボランティアについてのコミュニティティーチャーの話をメモをとり整理した上で,情報を収集している。

(イ・b)

②課題を解決するために,目的や相手に応じて,方法を選択し,調べている。

(イ・ac)

①収集した情報を基に,互いの考えを交流し,多角的にみたり,順序立てたりして,一番よい遊びを考えている。

(ウ・a)②これまでの活動を通して得た情報を分類したり,関連付けたりして何が大 切かを考えている。

(ウ・b)③収集した情報を総合して,視点を明らかにして「やさしい町」にするために自分たちができることを考えている。

(ウ・c)

①探究してきたことを基にして,「やさしい町」にするために自分たちができることを,これまでに身に付けた表現方法を生かして,ポスターに効果的に表している。

(エ・bc) ②ポスターを基に,学んだことや自分の考えを,相手を意識して,効果的に発表している。

(エ・bc)

①高齢者,障害のある人,小さな子どもについて,既有の知識と追究活動を通して学んだ気付きとをつなげて,よりより町づくりについて考え,社会の一員として自分のできることを考え,実践しようとしている。 (オ・bc)

①自分の考えを相手にわかりやすく伝えたり,相手の考えを評価して受け止め自分の考えに生かしたりしている。 (カ・abc)

①事象と出会う ②学習課題を決める ③予想・仮説を立てる ④学習計画を立てる ⑤調査する ⑥課題を解決する ①´事象と出会う ②´学習課題を決める ③´予想・仮説を立てる ④´学習計画を立てる

⑤´調査する ⑥´課題を解決する

⑦調査したことを報告する ⑧学習を振り返る

学 習 過 程 ○日常生活を振り返り,自分たちはだれに,どんなことをして もらっているかを考える。 ○最高学年として,自分たちは低学年の人たちのためにどんな ことをしてきたか考える。

○自分たちが低学年の人たちにできることを考える。 ○やってみよう。

○振り返ろう。 上手くいったこと,いかなかったこと。 なぜ上手くいかなかったのだろう。 ○図書ボランティアさんに聞いてみよう。 ○1~5年生にアンケートをとろう。 ○準備をしよう。 ○活動をしよう。 ○活動を振り返ろう。 何が大切なのだろう。 やってみての思い。 ○地域の人に自分たちがお返しできることはないだろうか。 ○4年生の学習を思い出そう。 ○学習計画を立てよう。 ○交流を通して探っていこう。 ○「やさしい町」について考えよう。 ○「やさしい町」にするために自分たちにできることは何だろう。 ○ポスターセッションで伝えよう。 ○学習を振り返ろう。 どのような力が身に付いたかな。 更に伸ばしたい力は何かな。 これからの生活に生かしていきたいことは何かな。

自分たちを支えてくれている人たちと出会う

安心・安全パトロール

図書ボランティア 女性会の方

パパ サポート

低学年の人たちに喜んでもらえることをしよう

地域の中で自分たちのできることをしよう

お年寄りの人に

障害のある人に

幼稚園の人に

やさしい町にするためには何が大切なのだろう

自分たちの学びを伝えよう

たて割り ・そうじ ・遠足 ・運動会

運 動 会 ・組体操 駅伝 ・朝練習

世話をする 頑張りを示す

主 な 学 習 活 動 意見交流 意見交流 意見交流 インタビュー メ モ アンケート KJ法的な手法 インタビュー KJ法的な手法 座標軸 ベン図 ポスターセッション

主な言語活動と思考

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小学校 総合的な学習の時間 43