社会福祉施設職員の職務ストレッサーに関する基礎的研究 ·...

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103 Ⅰ.問題 現代社会はストレスが多く、ストレス社会 と呼ばれており(松原 1989;上野・高下・原 口・津田 1992)、厚生労働省による平成12年 保健福祉動向調査の概況によると「ストレス が大いにある」という回答が11.8%、「ストレス が多少ある」という回答が42.4%とストレスを 感じている人が過半数を超えている.また、 仕事上のストレスが男性では41.3%女性では 21.3%(計30.5%)となっており、働き盛りの 社会福祉施設職員の職務ストレッサーに関する基礎的研究 A Preliminary Study on Work-Related Stressors among Social Workers 鎌 田  大 輔 * Daisuke KAMADA Daisuke KAMADA 臨床心理学科(Department of Clinical Psychology) This study had three purposes. The first purpose was to examine the differences of work-related stressors among Social Workers. The second purpose was to examine the relationship between work-related stressors and stress responses. The third purpose was to examine the inferences of the work-related stressors to the stress responses. Participants in this study were 398 social workers (176 men, 222 women). The results of the t-test indicated that the average scores of women’s work-related stressors on environments and supervisions were higher than the average scores of men. The results of ANOVA indicated that some average scores of younger social workers were higher than the average scores of social workers over 50 years old on the sub-scales of work-related stressors. The results of co-relational analysis indicated that there were positive relations between the work-related stressors and the stress responses. The results of multiple regression analysis indicated that each inference from the work-related stressors to the stress responses was different. Key words: Social Workers, Work-Related Stressors, Stress Responses

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Page 1: 社会福祉施設職員の職務ストレッサーに関する基礎的研究 · 仕事上のストレスが男性では41.3%女性では 21.3%(計30.5%)となっており、働き盛りの

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Ⅰ.問題

 現代社会はストレスが多く、ストレス社会

と呼ばれており(松原 1989;上野・高下・原

口・津田 1992)、厚生労働省による平成12年

 保健福祉動向調査の概況によると「ストレス

が大いにある」という回答が11.8%、「ストレス

が多少ある」という回答が42.4%とストレスを

感じている人が過半数を超えている.また、

仕事上のストレスが男性では41.3%女性では

21.3%(計30.5%)となっており、働き盛りの

社会福祉施設職員の職務ストレッサーに関する基礎的研究

A Preliminary Study on Work-Related Stressors among Social Workers

鎌 田  大 輔 *

Daisuke KAMADA

* Daisuke KAMADA 臨床心理学科(Department of Clinical Psychology)

  This study had three purposes. The first purpose was to examine the differences of work-related stressors

among Social Workers. The second purpose was to examine the relationship between work-related stressors

and stress responses. The third purpose was to examine the inferences of the work-related stressors to the stress

responses. Participants in this study were 398 social workers (176 men, 222 women). The results of the t-test

indicated that the average scores of women’s work-related stressors on environments and supervisions were

higher than the average scores of men. The results of ANOVA indicated that some average scores of younger

social workers were higher than the average scores of social workers over 50 years old on the sub-scales of

work-related stressors. The results of co-relational analysis indicated that there were positive relations between

the work-related stressors and the stress responses. The results of multiple regression analysis indicated that

each inference from the work-related stressors to the stress responses was different.

Key words: Social Workers, Work-Related Stressors, Stress Responses

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東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 17 号(2010)

公社284施設に所属する2801名の社会福祉施設

職員を対象として、先行研究で用いられた項目

等を複合して尺度を作成し、社会福祉従事者の

バーンアウトとストレッサーおよび個人属性の

関連性について検討している。

 また、鎌田(2007)は、ストレッサーについ

ての自由記述を行い、それをもとに暫定尺度を

構成し、因子分析を行っている。そして、a)

対人関係的要因14項目、b)利用者支援6項

目、c)環境的要因5項目、d)自己の能力6

項目に、社会福祉施設職員を対象とした半構造

化面接により得られた、e)研修・スーパー

ヴィジョン4項目を加えた計35項目からなる社

会福祉施設職員用ストレッサー尺度を作成して

いる。

 ところで、ヒューマンサービス関連職種と

は、主に対人援助に関わる業務を行う者の総称

であり、例えば、看護師、教員、そして本研究

の調査対象となっている社会福祉施設職員など

が挙げられる。

 また、社会福祉施設職員とは、社会福祉施設

に勤務する職員の総称であり、社会福祉施設と

は、社会福祉法第2条第2項および第3項に規

定する第一種社会福祉事業および第二種社会福

祉事業を行う施設のことである。

 そこで本研究では、社会福祉施設職員の定義

を社会福祉法第2条第2項および第3項に規定す

る第一種社会福祉事業および第二種社会福祉事

業を行う施設に勤務するものとした。

Ⅱ.目的

 本研究では、社会福祉施設職員の職務スト

レッサーの特性について検討するために、社会

福祉施設職員の職務ストレッサーの性差、年齢

および経験年数による違いについての検討を行

なうことを第一の目的とした。

男性においては25〜34歳が61.6%、35〜44歳が

64.2%、45〜54歳が55.3%と高い数値を示して

いる.

 このように職場におけるストレスの深刻化が

報告される中、ヒューマンサービス関連職種

は特に他職種と比べてストレスが多いとされ

ている(Maslach & Jackson 1981; Yamada &

Drake 1995; 植戸 2000)。

 そのため、我が国においても、看護師を中心

にヒューマンサービス関連職種を対象としたス

トレス研究が行われており、廣瀬・堀川・宇田

川(2001)や久保・田尾(1994)などが報告さ

れている。

 しかし、看護師と同様にヒューマンサービス

関連職種であるにもかかわらず、社会福祉施設

職員を対象としたストレス研究は比較的少な

い。

 我が国における社会福祉施設職員を対象とし

た研究としては、川田(1986)が、医療現場で

働くソーシャルワーカーのバーンアウトに関す

る研究を行っており、尺度は、保健師を対象と

した調査において使用されたバーンアウト尺度

を一部変更したものを用いて検討している。

 また、矢富(1993)は、既存の様々な尺度か

ら項目を抽出して作成した尺度を用い、介護ス

タッフのストレスと施設の特性について考察し

ている。

 植戸(2000)は、社会福祉施設職員のストレ

スとその対応についての文献研究を行い、職場

におけるストレスだけではなく、社会福祉施設

職員が経験するであろうと考えられるストレス

について多面的に考察している。

 また、南(2000)は、天理大学社会福祉専攻

卒業生50名を対象に職務上のストレス構造につ

いての調査を行い、回答者の属性とストレス度

の関連について検討している。

 藤野(2001)は、関西圏の高齢者施設、福祉

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社会福祉施設職員の職務ストレッサーに関する基礎的研究

「非常にあてはまる」までの4件法で、採点

は4件法の回答にそのまま0〜3点を割り当

て、下位尺度ごとに合計得点を算出する。

 なお、この尺度は大学生用ストレス評価尺度

の下位尺度の一つではあるが、大学生に特有の

ストレス反応を測定するものではなく、全般的

なストレス反応を網羅していると判断し、本研

究で使用することとした。

5.手続き

 調査は、法人・事業団ごとに調査についての

協力依頼を行い、協力が得られた法人・事業団

ごとに郵送法を用いて行った。また、調査用紙

は無記名とした。

Ⅳ.結果

1.職務ストレッサーの性差についての検討

 社会福祉施設職員の職務ストレッサーについ

ての性差を検討するために、社会福祉施設職員

用ストレッサー尺度の下位尺度ごとにt検定を

行った。なお、下位尺度ごとの平均および標準

偏差をTable1に示した。

 その結果、環境的要因において男女の平均の

差が有意であり(t(396)=3.33)、女性の方

が環境的要因によるストレッサーを体験してい

るということが明らかになった。

 また、研修・スーパーヴィジョンにおいて

男女の平均の差が有意傾向であり(t(396)

=1.78)、女性の方が研修・スーパーヴィジョ

ンについてのストレッサーを体験している傾向

があることを示唆された。

2.職務ストレッサーの年齢差についての検討

 年齢による職務ストレッサーの違いについて

検討するために、年齢を独立変数、社会福祉施

設職員用ストレッサー尺度の各下位尺度得点を

従属変数とした1元配置の分散分析を行った。

 年齢の群分けについては、度数分布の状況か

 次に、社会福祉施設職員の職務ストレッサー

とストレス反応の関連性について検討すること

を第二の目的とし、ストレス反応に対する職務

ストレッサーの影響性について検討することを

第三の目的とした。

Ⅲ.方法

1.�調査協力者 関東圏の知的障害者、精神障

害者、身体障害者、高齢者関連の21施設に

所属する社会福祉施設職員を対象として調

査を行い、回答が得られたもの529名のう

ち、回答に不備のなかった398名(男性176

名、女性222名)を分析対象とした。

2.�対象施設 関東圏の知的障害者、精神障害

者、身体障害者、高齢者関連の21施設を対

象とした。

3.調査時期 2005年10月〜12月に実施した。

4.質問紙

⑴社会福祉施設職員用ストレッサー尺度 鎌田

(2007)が作成した社会福祉施設職員の職務

ストレッサーを測定するための尺度で、「対

人関係的要因」尺度14項目、「利用者支援」

尺度6項目、「環境的要因」尺度5項目、

「自己の能力」尺度66項目、「研修・スー

パーヴィジョン」尺度4項目の計35項目から

なる。回答は、「いつもある」から「ない」

までの5件法で、採点は5件法の回答にその

まま1〜5点を割り当て、下位尺度ごとに合

計得点を算出する。

⑵ストレス反応尺度 尾関(1993)の大学生用

ストレス評価尺度におけるストレス反応を測

定するための尺度で、⒜抑うつ、⒝不安、⒞

怒り、⒟認知的混乱、⒠引きこもり、⒡身体

的疲労感、⒢自律神経系の活動性亢進、とい

う7つの下位尺度(各5項目、計35項目)か

らなる。回答は、「あてはまらない」から

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東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 17 号(2010)

(MSe=1.82, p<.05)。

 自己の能力については、20歳以上〜25歳未

満と50歳以上(MSe=2.81, p<.05)、25歳以上

〜30歳未満と50歳以上(MSe=3.56, p<.05)、

30歳以上〜40歳未満と50歳以上(MSe=2.45,

p<.05)、40歳以上〜50最未満と50歳以上の間

(MSe=2.32, p<.05)に有意差がみられた。

 研修・スーパーヴィジョンについては、

20歳以上〜25歳未満と50歳以上(MSe=1.51,

p<.05)、25歳以上〜30歳未満と50歳以上との

間(MSe=1.55, p<.05)に有意差がみられた。

3�.職務ストレッサーの経験年数差についての

差についての検討

 経験年数による社会福祉施設職員の職務スト

レッサーの違いについて検討するために、経験

年数を独立変数、社会福祉施設職員用ストレッ

サー尺度の各下位尺度得点を従属変数とした1

元配置の分散分析を行った。

 経験年数についても年齢と同様に度数分布に

もとづいて、0〜3年未満、3年以上〜5年未

満、5年以上〜10年未満、10年以上〜15年未

満、15年以上の5群とした。なお、下位尺度ご

との平均および標準偏差をTable3に示した。

 その結果、対人関係的要因(F(4,397)

=5.76, p<.01)、利用者支援(F(4,397)=2.48,

p<.05)、環境的要因(F(4, 397)=10.98,

ら、20歳以上〜25歳未満、25歳以上〜30歳未

満、30歳以上〜40歳未満、40歳以上〜50最未

満、50歳以上の5群とした。なお、下位尺度ご

との平均および標準偏差をTable2に示した。

 その結果、利用者支援(F(4,397)=4.75,

p< .01)、環境的要因(F(4,397)=2 .46 ,

p< .05)、自己の能力(F(4,397)=8 .18 ,

p< . 0 1)、研修・スーパーヴィジョン(F

(4,397)=3.81, p<.01)において有意差がみら

れた。

 そこでTukey法による多重比較を行なった

ところ、利用者支援については、20歳以上〜

25歳未満と50歳以上(MSe=2.40, p<.05)、

25歳以上〜30歳未満と50歳以上(MSe=2.50,

p<.05)、30歳以上〜40歳未満と50歳以上

(MSe=1.78, p<.05)との間に有意差がみられ

た。

 環境的要因については、30歳以上〜40歳未満

と40歳以上〜50最未満の間に有意差がみられた

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社会福祉施設職員の職務ストレッサーに関する基礎的研究

ストレス反応尺度の各下位尺度得点について

Pearsonの相関分析を行った。なお、相関分析

の結果をTable4に示した。

 相関分析の結果、研修・スーパーヴィジョン

尺度得点と自律神経系の活動性の亢進尺度得点

間の関連性を除いて、すべての下位尺度間で有

意な弱い正の相関または中程度の正の相関がみ

られた。

 また、中程度の相関がみられたものに焦点を

当ててみてみると、対人関係的要因と怒り、環

境的要因と身体的疲労感、自己の能力と不安、

怒り、情緒的反応、というようにストレッサー

の種類によって関連するストレス反応に違いが

あることが明らかになった。

 そのため、それぞれのストレッサーが各スト

レス反応にどのような影響を与えているのかを

検討するために、ストレッサー尺度の各下位尺

度得点を説明変数、ストレス反応尺度の各下位

尺度を従属変数としたステップワイズ法による

重回帰分析を行った(Table5)。

 その結果、抑うつについては自己の能力、対

p<.01)で有意差がみられた。

 そこでTukey法による多重比較を行なった

ところ、対人関係的要因については、0〜

3年未満と10年以上〜15年未満(MSe=4.45,

p< .05)、0〜3年未満と15年以上との間

(MSe=5.43, p<.05)に有意差がみられた。

 利用者支援については、0〜3年未満と

1 5 年 以 上 と の 間 に の み 有 意 差 が み ら れ た

(MSe=1.62, p<.05)。

 環境的要因については、0〜3年未満と

10年以上〜15年未満(MSe=2.27, p<.05)、

0〜3年未満と15年以上との間(MSe=3.32,

p<.05)、3年以上〜5年未満と15年以上との

間(MSe=3.17, p<.05)、5年以上〜10年未満と

15年以上との間(MSe=2.08, p<.05)に有意差

がみられた。

4�.職務ストレッサーとストレス反応の関連性

についての検討

 社会福祉施設職員の職務ストレッサーとスト

レス反応の関連性について検討するために、

社会福祉施設職員用ストレッサー尺度および

R2

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東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 17 号(2010)

レッサーの違いについて検討するために、年齢

および経験年数を独立変数、社会福祉施設職員

用ストレッサー尺度の各下位尺度得点を従属変

数とした1元配置の分散分析を行った。

 その結果、利用者支援、環境的要因、自己の

能力、研修・スーパーヴィジョンにおいて有意

差がみられた。

 また、多重比較の結果、利用者支援について

は、50歳以上の群と40歳未満の年齢群との間に

有意差がみられ、50歳以上のものは、40歳未

満のものに比して利用者支援についてのスト

レッサーを体験していないということが明らか

になった。このことについては50歳以上のもの

は、年齢的に管理的な立場に付くことが多く、

利用者への直接的な支援が減少し、施設の運営

管理的な職務が増加するためと考えられた。

 環境的要因については、30歳以上〜40歳未満

と40歳以上〜50最未満の間に有意差がみられ

た。このことについては40歳以上〜50最未満の

ものは、他の若い年齢層に比して、体力的な衰

えがみられるとともに、現場では、若手の職員

への指導や管理を担う立場にあるのに対し、50

歳以上のものは、その多くが管理運営的な立場

にあることと関係しているのではないかと考え

られた。

 自己の能力については50歳以上の群と他の年

齢群との間に有意差がみられた。

 このように50歳以上のものは、他の年齢層に

比して有意に自己の能力に関するストレッサー

の体験が少ないということが明らかになった。

このことについてもまた、50歳以上のものは、

その多くが管理運営的な立場にあり、利用者

への直接援助よりも職員のシフトの調整などと

いった施設の運営・管理的な職務が増えること

と関連しているのでないかと思われた。つま

り、他職種に比してストレスフルであるとされ

る対人援助に携わる時間が物理的に減少するこ

人関係的要因が、不安については自己の能力、

環境的要因、利用者支援が、怒りについては対

人関係的要因、自己の能力が有意な正の影響を

示した。

 情緒的反応については自己の能力、利用者支

援、環境的要因が、引きこもりについては、自

己の能力、対人関係的要因が有意な正の影響を

示した。

 身体的疲労感については環境的要因、自己の

能力が、自律神経系の活動性の亢進については

環境的要因、対人関係的要因が有意な正の影響

を示した。

 これらの結果から、職務ストレッサーの種類

により、現れるストレス反応も異なるというこ

とが明らかになった。

Ⅴ.考察

 本研究では、社会福祉施設職員の職務スト

レッサーの特性について検討するために、社会

福祉施設職員の職務ストレッサーの性差、年齢

および経験年数による違い、社会福祉施設職員

の職務ストレッサーとストレス反応の関連性に

ついての検討を行った。

 まず、職務ストレッサーの性差について検討

するために、社会福祉施設職員用ストレッサー

尺度の下位尺度ごとにt検定を行った結果、女

性の方が環境的要因によるストレッサーを体験

しており、研修・スーパーヴィジョンについて

も多く体験している傾向があることが明らかに

なった。

 この点については、嶋(1992)において、調

査対象者は大学生ではあるが、女性の対人スト

レスが男性よりも有意に高いことが報告されて

いることから、ストレス全般についての性差が

反映された結果である可能性が示唆された。

 次に、年齢および経験年数による職務スト

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社会福祉施設職員の職務ストレッサーに関する基礎的研究

谷・中嶋・香川(2003)が言及している社会福

祉施設職員の離職率の高さとも関連していると

考えられ、これらの職員を対象としたストレス

マネジメント・トレーニングを行うなどの対策

が今後重要となってくるだろう。

 また、職務ストレッサーとストレス反応の関

連性について検討するために、社会福祉施設職

員用ストレッサー尺度およびストレス反応尺度

の各下位尺度得点についてPearsonの相関分析

を行ったところ、研修・スーパーヴィジョン尺

度得点と自律神経系の活動性の亢進尺度得点間

の関連性を除いて、すべての下位尺度間で有意

な弱い正の相関または中程度の正の相関がみら

れた。

 また、中程度の相関がみられたものに焦点を

当ててみてみると、対人関係的要因と怒り、環

境的要因と身体的疲労感、自己の能力と不安、

怒り、情緒的反応、というようにストレッサー

の種類によって関連するストレス反応には違い

があり、それぞれ特徴があることが明らかに

なった。

 そのため、それぞれのストレッサーが各スト

レス反応にどのような影響を与えているのかを

検討するために、社会福祉施設職員用ストレッ

サー尺度の各下位尺度得点を説明変数、ストレ

ス反応尺度の各下位尺度を従属変数としたス

テップワイズ法による重回帰分析を行ったとこ

ろ、抑うつについては自己の能力、対人関係的

要因が、不安については自己の能力、環境的要

因、利用者支援が、怒りについては対人関係的

要因、自己の能力が有意な正の影響を示した。

 情緒的反応については自己の能力、利用者支

援、環境的要因が、引きこもりについては自己

の能力、対人関係的要因が有意な正の影響を示

した。身体的疲労感については環境的要因、自

己の能力が、自律神経系の活動性の亢進につい

ては環境的要因、対人関係的要因が有意な正の

とが起因しているのではないだろうか。

 研修・スーパーヴィジョンについては、30歳

未満の年齢群と50歳以上との間に有意差がみら

れた。このことについても、直接援助に不慣れ

な若手職員とベテランの年配職員、若手職員の

直接援助を中心とした職務内容と年配のベテラ

ン職員の職務内容の違いが起因しているものと

考えられた。また、このことから若手職員を中

心とした研修・スーパーヴィジョンの重要性が

明らかになった。

 これらの結果から、総じて、50歳以上のもの

が他の年齢層に比してストレッサーの体験が少

ないことが明らかになった。また、その多くが

職務の変化によるものと考えられた。

 経験年数の差については、対人関係的要因、

利用者支援、環境的要因で有意差がみられた。

 多重比較の結果、対人関係的要因について

は、0〜3年未満と10年以上の2群との間に有意

差がみられた。

 利用者支援については0〜3年未満と15年以

上との間にのみ有意差がみられた。

 環境的要因については0〜3年未満と10年以

上の2群との間、3年以上〜5年未満、5年以

上〜10年未満の2群と15年以上との間に有意差

がみられた。これらの結果については、年齢に

おける結果と同様に、主に経験に乏しい若手職

員と年配のベテラン職員の差、職務の違いによ

る差に起因するところが大きいものと考えられ

た。

 特に、利用者支援においては、0〜3年未満

と15年以上との間にのみ有意差がみられ、この

ことが顕著に現れているといえるのではないだ

ろうか。

 また、年齢差および経験年数の差についての

結果から、職務経験の短い若手職員が最も多く

ストレッサーを体験していることが明らかに

なった。このことは、堀田(2007)や佐藤・澁

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東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 17 号(2010)

経験年数においても再度カテゴライズする必要

があった。そのため、今後、調査対象を拡大

し、より詳細な検討を加える必要があるだろ

う。第二に、社会福祉施設職員の職務ストレッ

サーに焦点を当てた研究であるため、これまで

大学生等を対象とした研究において、ストレス

と関連があることが示唆されているソーシャ

ルサポート(嶋 1992;和田 1998;福岡・橋本

1997)、自己効力感(嶋 1998)、ユーモアの

センス(上野・高下・原口・津田 1992)、等

との関連性については検討がなされていない。

このため、このことについても今後、検討して

いく必要があるだろう。

引用文献

藤野好美(2001)「社会福祉従事者のバーンアウトとストレスについての研究」『社会福祉学』42⑴, 137-149.福岡欣治・橋本宰(1997)「大学生と成人における家族と友人の知覚されたソーシャル・サポートとそのストレスの緩和効果」『心理学研究』68, 403-409.廣瀬清人・堀川悦夫・宇田川一夫(2001)「看護婦のストレス対処行動の有効性に関する研究―自己評価の観点を中心にして―」『感性福祉研究年報』 2, 213-220. 堀田聰子(2007)「訪問介護員の定着促進に向けて―離職の現状と介護職の意識を手がかりに―」『月間福祉』90(12), 29-32.厚生労働省(2001)「過半数がストレスを感じている〜平成12年度 保健福祉動向調査の概況〜」『労務事情』38(990), 60-64.鎌田大輔(2007)「社会福祉施設職員用ストレッサー尺度の作成」『福祉心理学研究』 4⑴, 26-34.川田素子(1986)「医療環境のストレス要因と各職種の精神的健康度 ソーシャルワーカーの場合」『看護展望』11⑽, 960-963.久保真人・田尾雅夫(1994)「看護婦におけるバーンアウト―ストレスとバーンアウトの関係―」『実験社会心理学研究』34, 33-43.松原達哉(1989)「大学生のストレス解消法」

影響を示した。

 これらの結果から、職務ストレッサーの種類

により、現れるストレス反応も異なるというこ

と、ストレッサーを多く体験することにより、

ストレス反応が増大するというが明らかになっ

た。ストレッサーがストレス反応に正の影響を

示すことは、大学生を対象とした尾関・原口・

津田(1994)と同様の結果であった。

 また、自己の能力に関するストレッサーが自

律神経系の活動性の亢進以外のすべてのストレ

ス反応を増大することについては、逆の視点で

はあるが、嶋田(1998)が示唆しているストレ

ス過程に肯定的な影響を持つとされる自己効力

感との関連性がうかがえる。つまり、自己の能

力不足などに関する事象がストレッサーとなっ

ているということは、ここでは因果関係につい

て述べることができないが、状態としてはスト

レス低減効果があるとされる自己効力感につい

ても低いということが考えられるため、ストレ

ス反応の度合いも高いものと考えられる。

 これらのことから、社会福祉施設職員の職務

ストレッサーは、性別、年齢、経験年数によっ

て異なり、さらにストレッサーの種類により現

れるストレス反応も様々であるということが明

らかになった。そのため、性別、年齢、経験年

数といった属性の違いや社会福祉施設職員個々

の体験しているストレッサーの種類、程度によ

り異なるアプローチを用いた、より効果的なス

トレスマネジメントを進めていくことが重要で

あるといえよう。

Ⅵ.今後の課題

 本研究は調査データ等にいくつかのリミテー

ションがあった。第一に、本研究においては、

各属性(年齢・経験年数)における調査協力者

の分布に多少のばらつきがあったため、年齢、

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Page 9: 社会福祉施設職員の職務ストレッサーに関する基礎的研究 · 仕事上のストレスが男性では41.3%女性では 21.3%(計30.5%)となっており、働き盛りの

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社会福祉施設職員の職務ストレッサーに関する基礎的研究

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