微生物を利用した水銀汚染土壌の浄化技術 ·...

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1 1.はじめに 水銀化合物は自然界に存在するほか,かつては化学工 業で使用され,温度計や電池などにも用いられていた。水 銀は自然界において, 0 価から +2 価の酸化状態で存在して いる。水銀化合物の中で 2 価の水銀イオン(以下,Hg 2+ と脂肪に溶解するアルキル水銀(CH 3 Hg + )は生物にとって 高い毒性を有しており,重大な公害も発生したため,土壌 溶出量基準で 0.0005mg/L 以下 ( アルキル水銀は検出され ないこと ) と厳しい規制がなされている。 水銀に汚染された土壌は,水銀化合物が約 360℃から 580℃で昇華する性質を持つことを利用し,加熱処理によ り土壌から分離して浄化する方法が一般的に行われてい る。処理には加熱のための多大なエネルギーを必要とす る。一方,常温での微生物による水銀の還元能力は古くか ら知られており,水銀還元酵素を持つ多くのグラム陰性 菌,グラム陽性菌を利用した水銀の気化処理の研究が続 けられている 1),2) 。また,化学合成独立栄養細菌である鉄 酸化細菌( Acidithiobacillus ferrooxidans )は水銀耐性 に特に優れ,従来の菌とは異なる2価鉄存在下における水 銀気化活性が見出されている 3),4) 本報では,水銀耐性をより高めた鉄酸化細菌(MON-1 株)を用い,浄化機構の解明と水銀汚染土壌浄化へ適用性 を検討するために実施した実証試験結果を報告する。 2.浄化機構 2-1.鉄酸化細菌 鉄酸化細菌は2価の鉄イオン(以下,Fe 2+ )を3価の鉄 (以下,Fe 3+ )に酸化する際に生じる電子をエネルギー源 として生育できる化学的独立栄養細菌である。鉄のほか に,元素状硫黄 (S 0 ) を酸化しても生育できる。 多くの微生物には,細胞内に侵入してきた水銀を気化 する機構が備わっているが,水銀濃度が高いと生育に必 要な代謝の働きが止まり,死滅する。バイオレメディエー ションの室内実験において,浄化に関与する微生物の活 動を停止させるために塩化水銀が用いられるのはこの作 用を利用するためである。 鉄酸化細菌は細胞内の水銀気化機構のほかに,細胞膜 で同様な機構を持っている 3),4) 。Fe 2+ から Fe 3+ への酸化で 得た電子を細胞膜表面で土壌中の Hg 2+ に渡して,Hg 2+ を金 属水銀 ( 以下,Hg 0 ) に還元する。Hg 0 は常温で容易に気化 して土壌から分離できるので,土壌を浄化することがで きる(下式)。 今 回 の 浄 化 に 用 い る 微 生 物 は, 鉄 酸 化 細 菌 の A.ferrooxidans MON-1 株で,日本の温泉地の土壌から採 取された SUG 2-2 株 5) を Hg 2+ 濃度を増加させた培地で培 養し,単離した水銀耐性菌である。図- 1 に SUG2-2 株と MON-1 株との水銀気化活性の比較を示す。1.0μM の水銀 存在下における水銀気化活性では,MON-1 株は SUG 2-2 株 の約 2 倍の能力を有しているが,さらに高濃度の 5μM の 濃度では,MON-1 株の水銀気化活性は SUG 2-2 株の約 9 倍 の能力を持つことがわかる。一方,水銀耐性の無い鉄酸 化細菌 AP19-3 株(水銀感受性株)は,どちらの濃度でも 水銀を気化する能力を持っていない。水銀耐性を有する SUG2-2 株と MON-1 株は,塩化水銀,アルキル水銀を還元 することが判明している 6) -10) 安藤ハザマ研究年報 Vol.2 2014 論 文 *1 先端技術研究部 微生物を利用した水銀汚染土壌の浄化技術 根岸敦規 *1 水銀に対して耐性が有り,水銀を気化する能力を持つ鉄酸化細菌を用い,その水銀気化が微生物のどこ で行われているかを,チトクロームc酸化酵素に着目して,水銀の還元気化活性を測定し確認した。その 結果,チトクロームc酸化酵素の働きにより気化活性が生じていることが明らかになった。また,この菌 を用いて実大規模の水銀汚染土壌の浄化実証試験を実施した結果,菌を添加したものは,12 時間後に環境 基準以下まで浄化がすることができた。この結果,鉄酸化細菌を利用することで,常温で汚染土壌から水 銀を分離・浄化できることが可能となった。 キーワード:鉄酸化細菌,水銀汚染土壌,還元気化,バイオレメディエーション

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Page 1: 微生物を利用した水銀汚染土壌の浄化技術 · 属水銀(以下,Hg0)に還元する。Hg0 は常温で容易に気化 して土壌から分離できるので,土壌を浄化することがで

1

1.はじめに

水銀化合物は自然界に存在するほか,かつては化学工

業で使用され,温度計や電池などにも用いられていた。水

銀は自然界において,0価から+2価の酸化状態で存在して

いる。水銀化合物の中で 2価の水銀イオン(以下,Hg2+)

と脂肪に溶解するアルキル水銀(CH3Hg+)は生物にとって

高い毒性を有しており,重大な公害も発生したため,土壌

溶出量基準で 0.0005mg/L 以下 (アルキル水銀は検出され

ないこと )と厳しい規制がなされている。

水銀に汚染された土壌は,水銀化合物が約 360℃から

580℃で昇華する性質を持つことを利用し,加熱処理によ

り土壌から分離して浄化する方法が一般的に行われてい

る。処理には加熱のための多大なエネルギーを必要とす

る。一方,常温での微生物による水銀の還元能力は古くか

ら知られており,水銀還元酵素を持つ多くのグラム陰性

菌,グラム陽性菌を利用した水銀の気化処理の研究が続

けられている 1),2)。また,化学合成独立栄養細菌である鉄

酸化細菌(Acidithiobacillus ferrooxidans)は水銀耐性

に特に優れ,従来の菌とは異なる2価鉄存在下における水

銀気化活性が見出されている 3),4)。

本報では,水銀耐性をより高めた鉄酸化細菌(MON-1

株)を用い,浄化機構の解明と水銀汚染土壌浄化へ適用性

を検討するために実施した実証試験結果を報告する。

2.浄化機構

2-1.鉄酸化細菌

鉄酸化細菌は2価の鉄イオン(以下,Fe2+)を3価の鉄

(以下,Fe3+)に酸化する際に生じる電子をエネルギー源

として生育できる化学的独立栄養細菌である。鉄のほか

に,元素状硫黄 (S0) を酸化しても生育できる。

多くの微生物には,細胞内に侵入してきた水銀を気化

する機構が備わっているが,水銀濃度が高いと生育に必

要な代謝の働きが止まり,死滅する。バイオレメディエー

ションの室内実験において,浄化に関与する微生物の活

動を停止させるために塩化水銀が用いられるのはこの作

用を利用するためである。

鉄酸化細菌は細胞内の水銀気化機構のほかに,細胞膜

で同様な機構を持っている 3),4)。Fe2+ から Fe3+ への酸化で

得た電子を細胞膜表面で土壌中の Hg2+ に渡して,Hg2+ を金

属水銀 (以下,Hg0) に還元する。Hg0 は常温で容易に気化

して土壌から分離できるので,土壌を浄化することがで

きる(下式)。

今回の浄化に用いる微生物は,鉄酸化細菌の

A.ferrooxidans MON-1 株で,日本の温泉地の土壌から採

取された SUG 2-2 株 5)を Hg2+ 濃度を増加させた培地で培

養し,単離した水銀耐性菌である。図- 1に SUG2-2 株と

MON-1 株との水銀気化活性の比較を示す。1.0μM の水銀

存在下における水銀気化活性では,MON-1 株は SUG 2-2 株

の約 2倍の能力を有しているが,さらに高濃度の 5μMの

濃度では,MON-1 株の水銀気化活性は SUG 2-2 株の約 9倍

の能力を持つことがわかる。一方,水銀耐性の無い鉄酸

化細菌 AP19-3 株(水銀感受性株)は,どちらの濃度でも

水銀を気化する能力を持っていない。水銀耐性を有する

SUG2-2 株と MON-1 株は,塩化水銀,アルキル水銀を還元

することが判明している 6)-10)。

1.はじめに

水銀化合物は自然界に存在するほか、かつては化学工業

で使用され、温度計や電池などにも用いられていた。水銀

は自然界において、0 価から+2 価の酸化状態で存在してい

る。水銀化合物の中で 2 価の水銀イオン(以下、Hg2+)と

脂肪に溶解するアルキル水銀(CH3Hg+)は生物にとって高

い毒性を有しており、重大な公害も発生したため、土壌溶

出量基準で 0.0005mg/L以下(アルキル水銀は検出されない

こと)と厳しい規制がなされている。

水銀に汚染された土壌は、水銀化合物が約 360℃から

580℃で昇華する性質を持つことを利用し、加熱処理によ

り土壌から分離して浄化する方法が一般的に行われてい

る。処理には加熱のための多大なエネルギーを必要とする。

一方、常温での微生物による水銀の還元能力は古くから知

られており、水銀還元酵素を持つ多くのグラム陰性菌、グ

ラム陽性菌を利用した水銀の気化処理の研究が続けられ

ている 1),2)。また、化学合成独立栄養細菌である鉄酸化細

菌(Acidithiobacillus ferrooxidans)は水銀耐性に特に

優れ、従来の菌とは異なる 2価鉄存在下における水銀気化

活性が見出されている 3),4)。

本報では、水銀耐性をより高めた鉄酸化細菌(MON-1 株)

を用い、浄化機構の解明と水銀汚染土壌浄化へ適用性を検

討するために実施した実証試験結果を報告する。

2.浄化機構

2-1.鉄酸化細菌

鉄酸化細菌は2価の鉄イオン(以下、Fe2+)を3価の鉄(以

下、Fe3+)に酸化する際に生じる電子をエネルギー源として

生育できる化学的独立栄養細菌である。鉄のほかに、元素

状硫黄(S0)を酸化しても生育できる。

多くの微生物には、細胞内に侵入してきた水銀を気化す

る機構が備わっているが、水銀濃度が高いと生育に必要な

代謝の働きが止まり、死滅する。バイオレメディエーショ

ンの室内実験において、浄化に関与する微生物の活動を停

止させるために塩化水銀が用いられるのはこの作用を利

用するためである。

鉄酸化細菌は細胞内の水銀気化機構のほかに、細胞膜で

同様な機構を持っている 3),4)。Fe2+から Fe3+への酸化で得た

電子を細胞膜表面で土壌中の Hg2+に渡して、Hg2+を金属水

銀(以下、Hg0)に還元する。Hg0は常温で容易に気化して土

壌から分離できるので、土壌を浄化することができる(下

式)。

今 回 の 浄 化 に 用 い る 微 生 物 は 、 鉄 酸 化 細 菌 の

A.ferrooxidans MON-1 株で、日本の温泉地の土壌から採

取された SUG 2-2 株 5)を Hg2+濃度を増加させた培地で培養

し、単離した水銀耐性菌である。図-1に SUG2-2株と MON-1

株との水銀気化活性の比較を示す。1.0 μM の水銀存在下

における水銀気化活性では、MON-1 株は SUG 2-2 株の約 2

倍の能力を有しているが、さらに高濃度の 5 μM の濃度で

は、MON-1 株の水銀気化活性は SUG 2-2 株の約 9 倍の能力

を持つことがわかる。一方、水銀耐性の無い鉄酸化細菌

AP19-3 株(水銀感受性株)は、どちらの濃度でも水銀を気化

する能力を持っていない。水銀耐性を有する SUG2-2 株と

MON-1 株は、塩化水銀、アルキル水銀を還元することが判

明している 6)-10)。

微生物を利用した水銀汚染土壌の浄化技術

根岸敦規*

水銀に対して耐性が有り,水銀を気化する能力を持つ鉄酸化細菌を用い,その水銀気化が微生物のどこで行われて

いるかを,チトクロームc酸化酵素に着目して,水銀の還元気化活性を測定し確認した。その結果,チトクローム

c酸化酵素の働きにより気化活性が生じていることが明らかになった。また,この菌を用いて実大規模の水銀汚染

土壌の浄化実証試験を実施した結果,菌を添加したものは,12 時間後に環境基準以下まで浄化がすることができ

た。この結果、鉄酸化細菌を利用することで、常温で汚染土壌から水銀を分離・浄化できることが可能となった。

キーワード: 鉄酸化細菌,水銀汚染土壌,還元気化,バイオレメディエーション

* 技術本部 技術研究所 先端技術研究部

論 文

安藤ハザマ研究年報 Vol.2 2014

論 文

*1 先端技術研究部

微生物を利用した水銀汚染土壌の浄化技術

根岸敦規 *1

水銀に対して耐性が有り,水銀を気化する能力を持つ鉄酸化細菌を用い,その水銀気化が微生物のどこ

で行われているかを,チトクロームc酸化酵素に着目して,水銀の還元気化活性を測定し確認した。その

結果,チトクロームc酸化酵素の働きにより気化活性が生じていることが明らかになった。また,この菌

を用いて実大規模の水銀汚染土壌の浄化実証試験を実施した結果,菌を添加したものは,12時間後に環境

基準以下まで浄化がすることができた。この結果,鉄酸化細菌を利用することで,常温で汚染土壌から水

銀を分離・浄化できることが可能となった。

キーワード:鉄酸化細菌,水銀汚染土壌,還元気化,バイオレメディエーション

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写真-1にMON-1株の電子顕微鏡写真を示す。この菌の

至適温度は約 30℃,至適 pHは 2.5 であり,一般的な鉄酸

化細菌と同様な生理的性質を示す。水銀耐性は40μMの濃

度まで活性が確認されている。

2-2.水銀気化の測定

(1) 実験方法

水銀還元酵素は多くのグラム陰性菌,グラム陽性菌で,

その存在が確認されており,水銀気化処理の研究が進め

られている。SUG2-2 株で存在が確認された 2価鉄依存性

水銀還元酵素を,チトクローム c酸化酵素を精製し,水

銀気化活性を測定することによりその機構の解明を試み

た。TMPD(2,3,5,6-tetramethyl-p-phenylenediamine)は,

チトクローム c 酸化酵素の特異的基質として知られてい

る。好気性雰囲気,嫌気性雰囲気でチトクローム c 酸化

酵素の代わりに電子供与体として TMPD を用いて水銀の気

化が生じるかを検討した。

①培養条件

鉄酸化細菌には前述の水銀耐性菌である SUG2-2 株,

MON-1 株,比較として水銀感受性菌の AP19-3 株を用い

た。各々の菌は FeSO4・7H2O:30g, (NH4)2SO4:3g,K2HPO4:

0.5g, MgSO4・7H2O:0.5g,KCl:0.1g,Ca(NO3)2:0.01g を含

む pH=2.5 に調整した 2価鉄培地 70リットルを用い 30℃

の好気性下で 1週間培養した。

②洗浄細胞,細胞膜,細胞質の分離

培養液は鉄の沈殿を除くために No.2 ろ紙でろ過後,遠

心分離機で分離した。分離した菌を 0.1M のリン酸ナトリ

ウム緩衝溶液(pH= 7.5)で 3回洗浄した。洗浄細胞はフ

レンチプレス 120N/mm2 で破壊した。105,000g での遠心分

離後,細胞質は上澄み溶液に細胞膜は残渣に存在するの

で,残渣をさらに 0.1M のリン酸ナトリウム緩衝溶液(pH

= 7.0)に分散させ洗浄,分離精製した。

③チトクロームc 酸化酵素の精製

MON-1 株の細胞膜を 1.5% の界面活性剤オクチルグルコ

シドで可溶化後,pH4.5 の 0.1M 酢酸緩衝液で透析し,沈

殿する画分を2回のCMカラムクロマトグラフィーで分画

し精製した。

④ TMPD 酸化活性の測定

0.01mMの塩化水銀 (HgCl2) を含む 0.1Mβ-alanine-SO42-

buffer (pH3.0,2.0ml) に 0.2M TMPD(100μl) を加えた培

地に各鉄酸化細菌の休止細胞を 0.005mg 添加し 30℃,嫌

気状態で培養し,菌の増殖を 566nm の吸収で測定した。

⑤ TMPD 依存性水銀気化活性の測定

上記培養装置に水銀蒸気をトラップするために過マン

ガン酸カリウム溶液を加えたフラスコを入れた。気化水

銀濃度は原子吸光分析装置で測定した。

(2) 結果および考察

図- 2に水銀感受性菌,耐性菌の鉄酸化活性,チトク

ロームc 酸化酵素活性,TMPD 酸化活性を測定した結果を

示す。鉄酸化活性は水銀耐性が強くなるほど比活性が増

大した。チトクロームc 酸化酵素活性,TMPD 酸化活性も

同様に,水銀耐性が強くなる株の順に増大した。この結果

は,水銀耐性が強化されるほど鉄酸化酵素系の重要成分

であるチトクロームc 酸化酵素活性が強化されることを

示唆している。

次に MON-1 株の洗浄細胞を用い,TMPD を電子供与体に

して水銀の気化が起こるかどうかを検討した。TMPD はチ

トクロームc 酸化酵素の直接の基質として知られている

図-1 A.ferrooxidans の水銀気化活性

水銀濃度左:1.0μM, 右 :5.0μM

AP19-3(●):水銀感受性株,SUG2-2(▲),MON-1(■):水銀耐性株

写真-1 A.ferrooxidans MON-1 株

図-2 鉄酸化細菌の酸化活性測定

写真-1 に MON-1 株の電子顕微鏡写真を示す。この菌の

至適温度は約 30℃、至適 pH は 2.5 であり、一般的な鉄酸

化細菌と同様な生理的性質を示す。水銀耐性は 40μM の濃

度まで活性が確認されている。

写真-1 A.ferrooxidans MON-1株

2-2.水銀気化の測定

(1)実験方法

水銀還元酵素は多くのグラム陰性菌、グラム陽性菌で、

その存在が確認されており、水銀気化処理の研究が進めら

れている。SUG2-2 株で存在が確認された 2 価鉄依存性水銀

還元酵素を、チトクローム c酸化酵素を精製し、水銀気化

活性を測定することによりその機構の解明を試みた。TMPD

(2,3,5,6-tetramethyl-p-phenylenediamine)は、チトク

ローム c 酸化酵素の特異的基質として知られている。好

気性雰囲気、嫌気性雰囲気でチトクローム c 酸化酵素の代

わりに電子供与体として TMPD を用いて水銀の気化が生じ

るかを検討した。

①培養条件

鉄酸化細菌には前述の水銀耐性菌である SUG2-2 株、

MON-1 株、比較として水銀感受性菌の AP19-3 株を用いた。

各々の菌は FeSO4・7H2O:30g, (NH4)2SO4:3g,K2HPO4:0.5g,

MgSO4・7H2O:0.5g,KCl:0.1g,Ca(NO3)2:0.01g を含む pH=2.5

に調整した 2 価鉄培地 70 リットルを用い 30℃の好気性下

で 1 週間培養した。

②洗浄細胞、細胞膜、細胞質の分離

培養液は鉄の沈殿を除くために No.2 ろ紙でろ過後、遠

心分離機で分離した。分離した菌を 0.1M のリン酸ナトリ

ウム緩衝溶液(pH=7.5)で 3 回洗浄した。洗浄細胞はフ

レンチプレス 120N/mm2で破壊した。105,000g での遠心分

離後、細胞質は上澄み溶液に細胞膜は残渣に存在するので、

残渣をさらに 0.1Mのリン酸ナトリウム緩衝溶液(pH=7.0)

に分散させ洗浄、分離精製した。

③チトクローム c 酸化酵素の精製

MON-1株の細胞膜を 1.5%の界面活性剤オクチルグルコシ

ドで可溶化後、pH4.5 の 0.1M 酢酸緩衝液で透析し、沈殿す

る画分を2回の CM カラムクロマトグラフィーで分画し精

製した。

④TMPD 酸化活性の測定

0.01mM の塩化水銀(HgCl2)を含む 0.1Mβ-alanine-SO42-

buffer (pH3.0,2.0ml) に 0.2M TMPD(100μl)を加えた培地

に各鉄酸化細菌の休止細胞を 0.005mg 添加し 30℃、嫌気状

態で培養し、菌の増殖を 566nm の吸収で測定した。

⑤TMPD 依存性水銀気化活性の測定

上記培養装置に水銀蒸気をトラップするために過マン

ガン酸カリウム溶液を加えたフラスコを入れた。気化水銀

濃度は原子吸光分析装置で測定した。

(2)結果および考察

図-2 に水銀感受性菌、耐性菌の鉄酸化活性、チトクロ

ーム c 酸化酵素活性、TMPD 酸化活性を測定した結果を示

す。鉄酸化活性は水銀耐性が強くなるほど比活性が増大し

た。チトクローム c 酸化酵素活性、TMPD 酸化活性も同様

に、水銀耐性が強くなる株の順に増大した。この結果は、

水銀耐性が強化されるほど鉄酸化酵素系の重要成分であ

るチトクローム c 酸化酵素活性が強化されることを示唆

している。

図-2 鉄酸化細菌の酸化活性測定

 

Hg0

vola

tiliz

ed (n

mol

)

Time ( d )0 5 10

0

20

40

60

80

100

SUG 2-2

MON-1

AP 19-3

0 5 100

20

40

60

80

100

 H

g0vo

latil

ized

(nm

ol)

Time ( d )

MON-1

SUG 2-2

AP 19-3

Hg2+ = 1.0 μ M Hg2+ = 5.0 μ M

 H

g0vo

latil

ized

(nm

ol)

Time ( d )0 5 10

0

20

40

60

80

100

SUG 2-2

MON-1

AP 19-3

0 5 100

20

40

60

80

100

 H

g0vo

latil

ized

(nm

ol)

Time ( d )

MON-1

SUG 2-2

AP 19-3

Hg2+ = 1.0 μ M Hg2+ = 5.0 μ M

水銀気化量(nmol)

水銀気化量(nmol)

経過日数 経過日数

図-1 A.ferrooxidans の水銀気化活性

水銀濃度左:1.0μM,右:5.0μM

AP19-3(●):水銀感受性株,SUG2-2(▲),MON-1(■):水銀耐性株

0

10

20

30

40

50

O2

upta

ke (

l/mg

prot

ein/

min

)

0

10

20

30

O2

upta

ke (

l/mg

prot

ein/

min

)

0

2

4

6

8

10

Act

ivity

(mU

/mg)

AP19-3SUG2-2

MON-1AP19-3

SUG2-2MON-1

AP19-3SUG2-2

MON-1

Iron-oxidizing activity Cytochrome c oxidizing activity TMPD oxidizing activity

0

10

20

30

40

50

O2

upta

ke (

l/mg

prot

ein/

min

)

0

10

20

30

O2

upta

ke (

l/mg

prot

ein/

min

)

0

2

4

6

8

10

Act

ivity

(mU

/mg)

AP19-3SUG2-2

MON-1AP19-3

SUG2-2MON-1

AP19-3SUG2-2

MON-1

Iron-oxidizing activity Cytochrome c oxidizing activity TMPD oxidizing activity

写真-1 に MON-1 株の電子顕微鏡写真を示す。この菌の

至適温度は約 30℃、至適 pH は 2.5 であり、一般的な鉄酸

化細菌と同様な生理的性質を示す。水銀耐性は 40μM の濃

度まで活性が確認されている。

写真-1 A.ferrooxidans MON-1株

2-2.水銀気化の測定

(1)実験方法

水銀還元酵素は多くのグラム陰性菌、グラム陽性菌で、

その存在が確認されており、水銀気化処理の研究が進めら

れている。SUG2-2 株で存在が確認された 2 価鉄依存性水銀

還元酵素を、チトクローム c酸化酵素を精製し、水銀気化

活性を測定することによりその機構の解明を試みた。TMPD

(2,3,5,6-tetramethyl-p-phenylenediamine)は、チトク

ローム c 酸化酵素の特異的基質として知られている。好

気性雰囲気、嫌気性雰囲気でチトクローム c 酸化酵素の代

わりに電子供与体として TMPD を用いて水銀の気化が生じ

るかを検討した。

①培養条件

鉄酸化細菌には前述の水銀耐性菌である SUG2-2 株、

MON-1 株、比較として水銀感受性菌の AP19-3 株を用いた。

各々の菌は FeSO4・7H2O:30g, (NH4)2SO4:3g,K2HPO4:0.5g,

MgSO4・7H2O:0.5g,KCl:0.1g,Ca(NO3)2:0.01g を含む pH=2.5

に調整した 2 価鉄培地 70 リットルを用い 30℃の好気性下

で 1 週間培養した。

②洗浄細胞、細胞膜、細胞質の分離

培養液は鉄の沈殿を除くために No.2 ろ紙でろ過後、遠

心分離機で分離した。分離した菌を 0.1M のリン酸ナトリ

ウム緩衝溶液(pH=7.5)で 3 回洗浄した。洗浄細胞はフ

レンチプレス 120N/mm2で破壊した。105,000g での遠心分

離後、細胞質は上澄み溶液に細胞膜は残渣に存在するので、

残渣をさらに 0.1Mのリン酸ナトリウム緩衝溶液(pH=7.0)

に分散させ洗浄、分離精製した。

③チトクローム c 酸化酵素の精製

MON-1株の細胞膜を 1.5%の界面活性剤オクチルグルコシ

ドで可溶化後、pH4.5 の 0.1M 酢酸緩衝液で透析し、沈殿す

る画分を2回の CM カラムクロマトグラフィーで分画し精

製した。

④TMPD 酸化活性の測定

0.01mM の塩化水銀(HgCl2)を含む 0.1Mβ-alanine-SO42-

buffer (pH3.0,2.0ml) に 0.2M TMPD(100μl)を加えた培地

に各鉄酸化細菌の休止細胞を 0.005mg 添加し 30℃、嫌気状

態で培養し、菌の増殖を 566nm の吸収で測定した。

⑤TMPD 依存性水銀気化活性の測定

上記培養装置に水銀蒸気をトラップするために過マン

ガン酸カリウム溶液を加えたフラスコを入れた。気化水銀

濃度は原子吸光分析装置で測定した。

(2)結果および考察

図-2 に水銀感受性菌、耐性菌の鉄酸化活性、チトクロ

ーム c 酸化酵素活性、TMPD 酸化活性を測定した結果を示

す。鉄酸化活性は水銀耐性が強くなるほど比活性が増大し

た。チトクローム c 酸化酵素活性、TMPD 酸化活性も同様

に、水銀耐性が強くなる株の順に増大した。この結果は、

水銀耐性が強化されるほど鉄酸化酵素系の重要成分であ

るチトクローム c 酸化酵素活性が強化されることを示唆

している。

図-2 鉄酸化細菌の酸化活性測定

 H

g0vo

latil

ized

(nm

ol)

Time ( d )0 5 10

0

20

40

60

80

100

SUG 2-2

MON-1

AP 19-3

0 5 100

20

40

60

80

100

 H

g0vo

latil

ized

(nm

ol)

Time ( d )

MON-1

SUG 2-2

AP 19-3

Hg2+ = 1.0 μ M Hg2+ = 5.0 μ M

 H

g0vo

latil

ized

(nm

ol)

Time ( d )0 5 10

0

20

40

60

80

100

SUG 2-2

MON-1

AP 19-3

0 5 100

20

40

60

80

100

 H

g0vo

latil

ized

(nm

ol)

Time ( d )

MON-1

SUG 2-2

AP 19-3

Hg2+ = 1.0 μ M Hg2+ = 5.0 μ M

水銀気化量(nmol)

水銀気化量(nmol)

経過日数 経過日数

図-1 A.ferrooxidans の水銀気化活性

水銀濃度左:1.0μM,右:5.0μM

AP19-3(●):水銀感受性株,SUG2-2(▲),MON-1(■):水銀耐性株

0

10

20

30

40

50

O2

upta

ke (

l/mg

prot

ein/

min

)

0

10

20

30

O2

upta

ke (

l/mg

prot

ein/

min

)

0

2

4

6

8

10

Act

ivity

(mU

/mg)

AP19-3SUG2-2

MON-1AP19-3

SUG2-2MON-1

AP19-3SUG2-2

MON-1

Iron-oxidizing activity Cytochrome c oxidizing activity TMPD oxidizing activity

0

10

20

30

40

50

O2

upta

ke (

l/mg

prot

ein/

min

)

0

10

20

30

O2

upta

ke (

l/mg

prot

ein/

min

)

0

2

4

6

8

10

Act

ivity

(mU

/mg)

AP19-3SUG2-2

MON-1AP19-3

SUG2-2MON-1

AP19-3SUG2-2

MON-1

Iron-oxidizing activity Cytochrome c oxidizing activity TMPD oxidizing activity

写真-1 に MON-1 株の電子顕微鏡写真を示す。この菌の

至適温度は約 30℃、至適 pH は 2.5 であり、一般的な鉄酸

化細菌と同様な生理的性質を示す。水銀耐性は 40μM の濃

度まで活性が確認されている。

写真-1 A.ferrooxidans MON-1株

2-2.水銀気化の測定

(1)実験方法

水銀還元酵素は多くのグラム陰性菌、グラム陽性菌で、

その存在が確認されており、水銀気化処理の研究が進めら

れている。SUG2-2 株で存在が確認された 2 価鉄依存性水銀

還元酵素を、チトクローム c酸化酵素を精製し、水銀気化

活性を測定することによりその機構の解明を試みた。TMPD

(2,3,5,6-tetramethyl-p-phenylenediamine)は、チトク

ローム c 酸化酵素の特異的基質として知られている。好

気性雰囲気、嫌気性雰囲気でチトクローム c 酸化酵素の代

わりに電子供与体として TMPD を用いて水銀の気化が生じ

るかを検討した。

①培養条件

鉄酸化細菌には前述の水銀耐性菌である SUG2-2 株、

MON-1 株、比較として水銀感受性菌の AP19-3 株を用いた。

各々の菌は FeSO4・7H2O:30g, (NH4)2SO4:3g,K2HPO4:0.5g,

MgSO4・7H2O:0.5g,KCl:0.1g,Ca(NO3)2:0.01g を含む pH=2.5

に調整した 2 価鉄培地 70 リットルを用い 30℃の好気性下

で 1 週間培養した。

②洗浄細胞、細胞膜、細胞質の分離

培養液は鉄の沈殿を除くために No.2 ろ紙でろ過後、遠

心分離機で分離した。分離した菌を 0.1M のリン酸ナトリ

ウム緩衝溶液(pH=7.5)で 3 回洗浄した。洗浄細胞はフ

レンチプレス 120N/mm2で破壊した。105,000g での遠心分

離後、細胞質は上澄み溶液に細胞膜は残渣に存在するので、

残渣をさらに 0.1Mのリン酸ナトリウム緩衝溶液(pH=7.0)

に分散させ洗浄、分離精製した。

③チトクローム c 酸化酵素の精製

MON-1株の細胞膜を 1.5%の界面活性剤オクチルグルコシ

ドで可溶化後、pH4.5 の 0.1M 酢酸緩衝液で透析し、沈殿す

る画分を2回の CM カラムクロマトグラフィーで分画し精

製した。

④TMPD 酸化活性の測定

0.01mM の塩化水銀(HgCl2)を含む 0.1Mβ-alanine-SO42-

buffer (pH3.0,2.0ml) に 0.2M TMPD(100μl)を加えた培地

に各鉄酸化細菌の休止細胞を 0.005mg 添加し 30℃、嫌気状

態で培養し、菌の増殖を 566nm の吸収で測定した。

⑤TMPD 依存性水銀気化活性の測定

上記培養装置に水銀蒸気をトラップするために過マン

ガン酸カリウム溶液を加えたフラスコを入れた。気化水銀

濃度は原子吸光分析装置で測定した。

(2)結果および考察

図-2 に水銀感受性菌、耐性菌の鉄酸化活性、チトクロ

ーム c 酸化酵素活性、TMPD 酸化活性を測定した結果を示

す。鉄酸化活性は水銀耐性が強くなるほど比活性が増大し

た。チトクローム c 酸化酵素活性、TMPD 酸化活性も同様

に、水銀耐性が強くなる株の順に増大した。この結果は、

水銀耐性が強化されるほど鉄酸化酵素系の重要成分であ

るチトクローム c 酸化酵素活性が強化されることを示唆

している。

図-2 鉄酸化細菌の酸化活性測定

 H

g0vo

latil

ized

(nm

ol)

Time ( d )0 5 10

0

20

40

60

80

100

SUG 2-2

MON-1

AP 19-3

0 5 100

20

40

60

80

100

 H

g0vo

latil

ized

(nm

ol)

Time ( d )

MON-1

SUG 2-2

AP 19-3

Hg2+ = 1.0 μ M Hg2+ = 5.0 μ M

 H

g0vo

latil

ized

(nm

ol)

Time ( d )0 5 10

0

20

40

60

80

100

SUG 2-2

MON-1

AP 19-3

0 5 100

20

40

60

80

100

 H

g0vo

latil

ized

(nm

ol)

Time ( d )

MON-1

SUG 2-2

AP 19-3

Hg2+ = 1.0 μ M Hg2+ = 5.0 μ M

水銀気化量(nmol)

水銀気化量(nmol)

経過日数 経過日数

図-1 A.ferrooxidans の水銀気化活性

水銀濃度左:1.0μM,右:5.0μM

AP19-3(●):水銀感受性株,SUG2-2(▲),MON-1(■):水銀耐性株

0

10

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40

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O2

upta

ke (

l/mg

prot

ein/

min

)

0

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20

30

O2

upta

ke (

l/mg

prot

ein/

min

)

0

2

4

6

8

10

Act

ivity

(mU

/mg)

AP19-3SUG2-2

MON-1AP19-3

SUG2-2MON-1

AP19-3SUG2-2

MON-1

Iron-oxidizing activity Cytochrome c oxidizing activity TMPD oxidizing activity

0

10

20

30

40

50

O2

upta

ke (

l/mg

prot

ein/

min

)

0

10

20

30

O2

upta

ke (

l/mg

prot

ein/

min

)

0

2

4

6

8

10

Act

ivity

(mU

/mg)

AP19-3SUG2-2

MON-1AP19-3

SUG2-2MON-1

AP19-3SUG2-2

MON-1

Iron-oxidizing activity Cytochrome c oxidizing activity TMPD oxidizing activity

安藤ハザマ研究年報 Vol.2 2014

Page 3: 微生物を利用した水銀汚染土壌の浄化技術 · 属水銀(以下,Hg0)に還元する。Hg0 は常温で容易に気化 して土壌から分離できるので,土壌を浄化することがで

3

ので,チトクロームc の還元型から水銀の気化が起こる

かどうかを検討した。図- 3に嫌気状態における水銀気

化量の測定結果を示す。TMPD を添加した場合は,添加し

ない場合に比較して多量の水銀の気化が起こった。この

水銀気化量の差は TMPD 依存性の水銀気化活性と考えられ

た。煮沸した洗浄細胞を用いた場合,0.5 mM のシアン化

カリウムを添加してチトクロームc 酸化酵素を阻害した

場合には水銀の気化は起こらなかった。この結果もチト

クローム c酸化酵素が水銀気化を行えることを強く示唆

している。

最終精製のチトクロームc 酸化酵素 2.5 μgを用いて,

シアン存在,非存在下で,TMPD を電子供与体にして Hg2+

を還元して Hg0 を生成できるかどうかを検討した。図- 4

に結果を示す。この図に示すように,精製酵素は TMPD を

電子供与体として水銀を気化することができた。チトク

ローム c酸化酵素の阻害剤シアン (NaCN) は水銀の還元・

気化反応を強く阻害している。

図-5にMON-1株の水銀還元機構模式図を示す。水銀イ

オン (Hg2+) と酸素の酸化還元電位は 0.82 と 0.85 と近い

値であり,嫌気状態で水銀を気化できるのはこの理由に

よるものと考えられる。また,シアン化合物は末端酸化

酵素を阻害することが知られており,精製酵素が同様に

阻害され水銀の気化が生じないことから,水銀の還元に

チトクロームc 酸化酵素のヘム鉄,CuB が関与しているこ

とが示唆された。高度水銀耐性鉄酸化細菌MON-1株は高い

チトクロームc 酸化酵素活性と高い 2価鉄依存性気化活

性を有している一方,多くの細菌が細胞質内に持つ NADPH

依存性の水銀気化活性は SUG2-2 株と同程度であった。

自然界においては,Fe(Ⅲ),Mn(Ⅳ),Te(Ⅳ)等の金

属イオンや,より有毒な Cr(Ⅵ),Hg(Ⅱ),Pb(Ⅱ),Co

(Ⅲ),Ag(Ⅰ),Mo(Ⅳ)等の金属イオンは微生物的に還

元されることが知られている。このような金属イオンを

還元できる微生物は,自らの成長のエネルギー源として

それらを利用し,有害金属から自らを守ることができる

と考えられる。Trurko ら 11) によると,グラム陰性菌であ

るAgrobacterium tumefaciens,大腸菌,緑膿菌の呼吸鎖

の末端酸化酵素が亜テルル酸塩(TeO32-)の還元に関与し

ていると報告しており,特に緑膿菌において,シアン化カ

リウムは特に亜テルル酸塩の還元を阻害していることが

判明している。今回の結果と照らし合せると,チトクロー

ム c酸化酵素が金属抵抗性に対し呼吸と同様に重要な役

割を果たすことが示唆される。

3. 鉄酸化細菌(MON-1 株)を用いた実大規模の

浄化実証試験

小規模,中規模浄化試験の結果 12)を踏まえ,浄化効果

の確認と品質管理手法を検討するため,実大規模で水銀

汚染土壌の浄化実証試験を実施した。浄化装置の構成例

を図- 6に示す。

次に MON-1 株の洗浄細胞を用い、TMPD を電子供与体にし

て水銀の気化が起こるかどうかを検討した。TMPD はチトク

ローム c 酸化酵素の直接の基質として知られているので、

チトクローム c の還元型から水銀の気化が起こるかどう

かを検討した。図-3 に嫌気状態における水銀気化量の測

定結果を示す。TMPD を添加した場合は、添加しない場合に

比較して多量の水銀の気化が起こった。この水銀気化量の

差は TMPD 依存性の水銀気化活性と考えられた。煮沸した

洗浄細胞を用いた場合、0.5 mM のシアン化カリウムを添加

してチトクローム c酸化酵素を阻害した場合には水銀の気

化は起こらなかった。この結果もチトクローム c 酸化酵素

が水銀気化を行えることを強く示唆している。

図-3 MON-1株のTMPD存在下での水銀の気化

最終精製のチトクローム c 酸化酵素 2.5 μg を用いて、

シアン存在、非存在下で、TMPD を電子供与体にして Hg2+

を還元して Hg0を生成できるかどうかを検討した。図-4

に結果を示す。この図に示すように、精製酵素は TMPD を

電子供与体として水銀を気化することができた。チトクロ

ーム c 酸化酵素の阻害剤シアン(NaCN)は水銀の還元・気化

反応を強く阻害している。

図-4 MON-1株のTMPD添加による水銀気化の影響

図-5 に MON-1 株の水銀還元機構模式図を示す。水銀イ

オン(Hg2+)と酸素の酸化還元電位は 0.82 と 0.85 と近い値

であり、嫌気状態で水銀を気化できるのはこの理由による

ものと考えられる。また、シアン化合物は末端酸化酵素を

阻害することが知られており、精製酵素が同様に阻害され

水銀の気化が生じないことから、水銀の還元にチトクロー

ム c 酸化酵素のヘム鉄、CuB が関与していることが示唆さ

れた。高度水銀耐性鉄酸化細菌 MON-1 株は高いチトクロー

ム c酸化酵素活性と高い 2価鉄依存性気化活性を有してい

る一方、多くの細菌が細胞質内に持つ NADPH 依存性の水銀

気化活性は SUG2-2 株と同程度であった。

図-5 MON-1 株の水銀還元機構

自然界においては、Fe(Ⅲ)、Mn(Ⅳ)、Te(Ⅳ)等の

金属イオンや、より有毒な Cr(Ⅵ)、Hg(Ⅱ)、Pb(Ⅱ)、

Co(Ⅲ)、Ag(Ⅰ)、Mo(Ⅳ)等の金属イオンは微生物的

に還元されることが知られている。このような金属イオン

を還元できる微生物は、自らの成長のエネルギー源として

それらを利用し、有害金属から自らを守ることができると

考えられる。Trurko ら 11)によると、グラム陰性菌である

Agrobacterium tumefaciens、大腸菌、緑膿菌の呼吸鎖の

末端酸化酵素が亜テルル酸塩(TeO32-)の還元に関与して

いると報告しており、特に緑膿菌において、シアン化カリ

ウムは特に亜テルル酸塩の還元を阻害していることが判

明している。今回の結果と照らし合せると、チトクローム

c 酸化酵素が金属抵抗性に対し呼吸と同様に重要な役割を

果たすことが示唆される。

3.鉄酸化細菌(MON-1株)を用いた実大規模の

浄化実証試験

小規模、中規模浄化試験の結果 12)を踏まえ、浄化効果

の確認と品質管理手法を検討するため、実大規模で水銀汚

染土壌の浄化実証試験を実施した。浄化装置の構成例を図

-6 に示す。

0

10

20

30

40

50

60

0

10

20

30

40

50

60In the presence of TMPD In the absence of TMPD

Hg0

vola

tiliz

ed (n

mol

)

0.5 mM KCN

TMPD

-dep

ende

nt

mer

cury

vol

atili

zatio

n ac

tivity

Boiled ce

lls

Active r

esting ce

lls

0.5 mM KCN

Boiled ce

lls

Active r

esting ce

lls

with 1 mM NaCN

without NaCN

Time (h)

Hg0

vola

tiliz

ed(n

mol

/2.5

μg

prot

ein)

α

βγ

Periplasmic space Inner membrane Cytosol

2 Fe2+

2 Fe3+

½ O2 + 2H+

H2O

Hg2+

Hg0

Hg2+

Hg0

Hg2+

Hg0

NADP+

NADPH + H+

(1)NADPH-dependent mercury

Cytochorme c oxidase subunits

(2) Fe2+-dependent mercury

Rusticyanin

Cytochrome c4

TMPD(Reduced)TMPD(Oxidized)

reductase

reducing system

Iron:rusticyanin reductase

次に MON-1 株の洗浄細胞を用い、TMPD を電子供与体にし

て水銀の気化が起こるかどうかを検討した。TMPD はチトク

ローム c 酸化酵素の直接の基質として知られているので、

チトクローム c の還元型から水銀の気化が起こるかどう

かを検討した。図-3 に嫌気状態における水銀気化量の測

定結果を示す。TMPD を添加した場合は、添加しない場合に

比較して多量の水銀の気化が起こった。この水銀気化量の

差は TMPD 依存性の水銀気化活性と考えられた。煮沸した

洗浄細胞を用いた場合、0.5 mM のシアン化カリウムを添加

してチトクローム c酸化酵素を阻害した場合には水銀の気

化は起こらなかった。この結果もチトクローム c 酸化酵素

が水銀気化を行えることを強く示唆している。

図-3 MON-1株のTMPD存在下での水銀の気化

最終精製のチトクローム c 酸化酵素 2.5 μg を用いて、

シアン存在、非存在下で、TMPD を電子供与体にして Hg2+

を還元して Hg0を生成できるかどうかを検討した。図-4

に結果を示す。この図に示すように、精製酵素は TMPD を

電子供与体として水銀を気化することができた。チトクロ

ーム c 酸化酵素の阻害剤シアン(NaCN)は水銀の還元・気化

反応を強く阻害している。

図-4 MON-1株のTMPD添加による水銀気化の影響

図-5 に MON-1 株の水銀還元機構模式図を示す。水銀イ

オン(Hg2+)と酸素の酸化還元電位は 0.82 と 0.85 と近い値

であり、嫌気状態で水銀を気化できるのはこの理由による

ものと考えられる。また、シアン化合物は末端酸化酵素を

阻害することが知られており、精製酵素が同様に阻害され

水銀の気化が生じないことから、水銀の還元にチトクロー

ム c 酸化酵素のヘム鉄、CuB が関与していることが示唆さ

れた。高度水銀耐性鉄酸化細菌 MON-1 株は高いチトクロー

ム c酸化酵素活性と高い 2価鉄依存性気化活性を有してい

る一方、多くの細菌が細胞質内に持つ NADPH 依存性の水銀

気化活性は SUG2-2 株と同程度であった。

図-5 MON-1 株の水銀還元機構

自然界においては、Fe(Ⅲ)、Mn(Ⅳ)、Te(Ⅳ)等の

金属イオンや、より有毒な Cr(Ⅵ)、Hg(Ⅱ)、Pb(Ⅱ)、

Co(Ⅲ)、Ag(Ⅰ)、Mo(Ⅳ)等の金属イオンは微生物的

に還元されることが知られている。このような金属イオン

を還元できる微生物は、自らの成長のエネルギー源として

それらを利用し、有害金属から自らを守ることができると

考えられる。Trurko ら 11)によると、グラム陰性菌である

Agrobacterium tumefaciens、大腸菌、緑膿菌の呼吸鎖の

末端酸化酵素が亜テルル酸塩(TeO32-)の還元に関与して

いると報告しており、特に緑膿菌において、シアン化カリ

ウムは特に亜テルル酸塩の還元を阻害していることが判

明している。今回の結果と照らし合せると、チトクローム

c 酸化酵素が金属抵抗性に対し呼吸と同様に重要な役割を

果たすことが示唆される。

3.鉄酸化細菌(MON-1株)を用いた実大規模の

浄化実証試験

小規模、中規模浄化試験の結果 12)を踏まえ、浄化効果

の確認と品質管理手法を検討するため、実大規模で水銀汚

染土壌の浄化実証試験を実施した。浄化装置の構成例を図

-6 に示す。

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0

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40

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60In the presence of TMPD In the absence of TMPD

Hg0

vola

tiliz

ed (n

mol

)

0.5 mM KCN

TMPD

-dep

ende

nt

mer

cury

vol

atili

zatio

n ac

tivity

Boiled ce

lls

Active r

esting ce

lls

0.5 mM KCN

Boiled ce

lls

Active r

esting ce

lls

with 1 mM NaCN

without NaCN

Time (h)

Hg0

vola

tiliz

ed(n

mol

/2.5

μg

prot

ein)

α

βγ

Periplasmic space Inner membrane Cytosol

2 Fe2+

2 Fe3+

½ O2 + 2H+

H2O

Hg2+

Hg0

Hg2+

Hg0

Hg2+

Hg0

NADP+

NADPH + H+

(1)NADPH-dependent mercury

Cytochorme c oxidase subunits

(2) Fe2+-dependent mercury

Rusticyanin

Cytochrome c4

TMPD(Reduced)TMPD(Oxidized)

reductase

reducing system

Iron:rusticyanin reductase

次に MON-1 株の洗浄細胞を用い、TMPD を電子供与体にし

て水銀の気化が起こるかどうかを検討した。TMPD はチトク

ローム c 酸化酵素の直接の基質として知られているので、

チトクローム c の還元型から水銀の気化が起こるかどう

かを検討した。図-3 に嫌気状態における水銀気化量の測

定結果を示す。TMPD を添加した場合は、添加しない場合に

比較して多量の水銀の気化が起こった。この水銀気化量の

差は TMPD 依存性の水銀気化活性と考えられた。煮沸した

洗浄細胞を用いた場合、0.5 mM のシアン化カリウムを添加

してチトクローム c酸化酵素を阻害した場合には水銀の気

化は起こらなかった。この結果もチトクローム c 酸化酵素

が水銀気化を行えることを強く示唆している。

図-3 MON-1株のTMPD存在下での水銀の気化

最終精製のチトクローム c 酸化酵素 2.5 μg を用いて、

シアン存在、非存在下で、TMPD を電子供与体にして Hg2+

を還元して Hg0を生成できるかどうかを検討した。図-4

に結果を示す。この図に示すように、精製酵素は TMPD を

電子供与体として水銀を気化することができた。チトクロ

ーム c 酸化酵素の阻害剤シアン(NaCN)は水銀の還元・気化

反応を強く阻害している。

図-4 MON-1株のTMPD添加による水銀気化の影響

図-5 に MON-1 株の水銀還元機構模式図を示す。水銀イ

オン(Hg2+)と酸素の酸化還元電位は 0.82 と 0.85 と近い値

であり、嫌気状態で水銀を気化できるのはこの理由による

ものと考えられる。また、シアン化合物は末端酸化酵素を

阻害することが知られており、精製酵素が同様に阻害され

水銀の気化が生じないことから、水銀の還元にチトクロー

ム c 酸化酵素のヘム鉄、CuB が関与していることが示唆さ

れた。高度水銀耐性鉄酸化細菌 MON-1 株は高いチトクロー

ム c酸化酵素活性と高い 2価鉄依存性気化活性を有してい

る一方、多くの細菌が細胞質内に持つ NADPH 依存性の水銀

気化活性は SUG2-2 株と同程度であった。

図-5 MON-1 株の水銀還元機構

自然界においては、Fe(Ⅲ)、Mn(Ⅳ)、Te(Ⅳ)等の

金属イオンや、より有毒な Cr(Ⅵ)、Hg(Ⅱ)、Pb(Ⅱ)、

Co(Ⅲ)、Ag(Ⅰ)、Mo(Ⅳ)等の金属イオンは微生物的

に還元されることが知られている。このような金属イオン

を還元できる微生物は、自らの成長のエネルギー源として

それらを利用し、有害金属から自らを守ることができると

考えられる。Trurko ら 11)によると、グラム陰性菌である

Agrobacterium tumefaciens、大腸菌、緑膿菌の呼吸鎖の

末端酸化酵素が亜テルル酸塩(TeO32-)の還元に関与して

いると報告しており、特に緑膿菌において、シアン化カリ

ウムは特に亜テルル酸塩の還元を阻害していることが判

明している。今回の結果と照らし合せると、チトクローム

c 酸化酵素が金属抵抗性に対し呼吸と同様に重要な役割を

果たすことが示唆される。

3.鉄酸化細菌(MON-1株)を用いた実大規模の

浄化実証試験

小規模、中規模浄化試験の結果 12)を踏まえ、浄化効果

の確認と品質管理手法を検討するため、実大規模で水銀汚

染土壌の浄化実証試験を実施した。浄化装置の構成例を図

-6 に示す。

0

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60In the presence of TMPD In the absence of TMPD

Hg0

vola

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ed (n

mol

)

0.5 mM KCN

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-dep

ende

nt

mer

cury

vol

atili

zatio

n ac

tivity

Boiled ce

lls

Active r

esting ce

lls

0.5 mM KCN

Boiled ce

lls

Active r

esting ce

lls

with 1 mM NaCN

without NaCN

Time (h)

Hg0

vola

tiliz

ed(n

mol

/2.5

μg

prot

ein)

α

βγ

Periplasmic space Inner membrane Cytosol

2 Fe2+

2 Fe3+

½ O2 + 2H+

H2O

Hg2+

Hg0

Hg2+

Hg0

Hg2+

Hg0

NADP+

NADPH + H+

(1)NADPH-dependent mercury

Cytochorme c oxidase subunits

(2) Fe2+-dependent mercury

Rusticyanin

Cytochrome c4

TMPD(Reduced)TMPD(Oxidized)

reductase

reducing system

Iron:rusticyanin reductase

図-3 MON-1 株の TMPD 存在下での水銀の気化

図-4 MON-1 株の TMPD 添加による水銀気化の影響

図-5 MON-1 株の水銀還元機構

安藤ハザマ研究年報 Vol.2 2014

Page 4: 微生物を利用した水銀汚染土壌の浄化技術 · 属水銀(以下,Hg0)に還元する。Hg0 は常温で容易に気化 して土壌から分離できるので,土壌を浄化することがで

4

(1) 浄化条件

表- 1に示す性状の水銀汚染模擬土壌3m3 を鋼製タン

クに準備し,反応装置(6m3 土壌混練用ミキサー )にバッ

クホウを用いて投入した(写真- 2)。

浄化試験は以下の2条件で実施した。

①鉄塩,菌同時添加における浄化効果の確認

調整した水銀汚染模擬土壌3m3 を反応装置に入れ,pH

を 3〜 4にするために,反応装置を高速で撹拌しながら適

量の濃硫酸と硫酸第一鉄溶液と鉄酸化細菌培養液(蛋白

量 0.1g) を同時に添加・混和した。混和後,反応装置を低

速で撹拌しながら 12時間反応させた。

②鉄塩のみ添加の場合の浄化効果の確認

硫酸第一鉄のみで,還元される水銀量を把握するため

に,鉄酸化細菌培養液を添加しないで,①と同様な試験を

実施し,水銀濃度減少量を測定した。

(2) 実証試験方法

反応装置の投入(排出)口に,気化した Hg0 が漏れない

ように蓋をし,混合物をミキサー内の空気と接触するよ

うに撹拌し,水銀汚染土壌と MON-1 株を接触させた (写真

- 3)。ミキサー内は水銀除去装置の後段に設置されたエ

アポンプの吸気により,負圧に保たれた。MON-1 によって

還元され気化した水銀は,ミキサーの蓋を貫通してミキ

サー内部まで挿入された配管を通じ,写真-4に示す水銀

除去装置へ導き,回収した。

各試験終了後,ミキサー内の土壌はミキサーを逆回転

して排出させ,バックホウのバケットで受け止め,鋼製タ

ンクへ戻した。

(3) 汚染拡散防止対策

反応装置は写真- 5に示すような汚染土壌対策用仮設

テント(間口8m×奥行 15m,高さ 5.5m)内に設置した。

反応装置は負圧に制御され,水銀除去装置へと導かれて

いるが,以下の汚染拡散防止対策を施した。

①仮設テント内部の汚染拡散防止対策

反応装置から出てくる Hg0 蒸気を含む排気は,液体ト

ラップ装置と活性炭処理により Hg0 を取り除き,テント内

に排出した。テント内は定期的に作業環境モニタリング

を実施し,Hg0 濃度が作業環境基準を満足していることを

確認した。

図-6 浄化装置構成例

(1)浄化条件

表-1 に示す性状の水銀汚染模擬土壌3m3を鋼製タン

クに準備し、反応装置(6m3土壌混練用ミキサー)にバッ

クホウを用いて投入した(写真-2)。

表-1 水銀汚染模擬土壌の性状

項目 備考土質 シルト混合砂質土粒度 5mm以下含水率 17.40%

土壌含有量 30mg/kg土壌環境

基準の2.0倍

土壌溶出量 0.10mg/L土壌環境

基準の200倍

表-1 水銀汚染模擬土壌の性状

浄化試験は以下の2条件で実施した。

①鉄塩、菌同時添加における浄化効果の確認

調整した水銀汚染模擬土壌3m3を反応装置に入れ、pH

を 3~4 にするために、反応装置を高速で撹拌しながら適

量の濃硫酸と硫酸第一鉄溶液と鉄酸化細菌培養液(蛋白量

0.1g)を同時に添加・混和した。混和後、反応装置を低速

で撹拌しながら 12 時間反応させた。

②鉄塩のみ添加の場合の浄化効果の確認

硫酸第一鉄のみで、還元される水銀量を把握するために、

鉄酸化細菌培養液を添加しないで、①と同様な試験を実施

し、水銀濃度減少量を測定した。

(2)実証試験方法

反応装置の投入(排出)口に、気化した Hg0が漏れない

ように蓋をし、混合物をミキサー内の空気と接触するよう

に撹拌し、水銀汚染土壌と MON-1 株を接触させた(写真-

3)。ミキサー内は水銀除去装置の後段に設置されたエアポ

ンプの吸気により、負圧に保たれた。MON-1 によって還元

され気化した水銀は、ミキサーの蓋を貫通してミキサー内

部まで挿入された配管を通じ、写真-4 に示す水銀除去装

置へ導き、回収した。

各試験終了後、ミキサー内の土壌はミキサーを逆回転して

排出させ、バックホウのバケットで受け止め、鋼製タンク

へ戻した。

(3)汚染拡散防止対策

反応装置は写真-5 に示すような汚染土壌対策用仮設テ

写真-2 微生物反応浄化装置

写真-3 ミキサー内部状況

写真-4 水銀除去装置

ント(間口8m×奥行 15m,高さ 5.5m)内に設置した。

反応装置は負圧に制御され、水銀除去装置へと導かれてい

るが、以下の汚染拡散防止対策を施した。

①仮設テント内部の汚染拡散防止対策

反応装置から出てくる Hg0蒸気を含む排気は、液体トラ

ップ装置と活性炭処理により Hg0を取り除き、テント内に

排出した。テント内は定期的に作業環境モニタリングを実

施し、Hg0濃度が作業環境基準を満足していることを確認

した。

排ガス吸引管

過マンガン酸カリ ウム溶液トラップ

水トラップ

活性炭吸着塔

図-6 浄化装置構成例

(1)浄化条件

表-1 に示す性状の水銀汚染模擬土壌3m3を鋼製タン

クに準備し、反応装置(6m3土壌混練用ミキサー)にバッ

クホウを用いて投入した(写真-2)。

表-1 水銀汚染模擬土壌の性状

項目 備考土質 シルト混合砂質土粒度 5mm以下含水率 17.40%

土壌含有量 30mg/kg土壌環境

基準の2.0倍

土壌溶出量 0.10mg/L土壌環境

基準の200倍

表-1 水銀汚染模擬土壌の性状

浄化試験は以下の2条件で実施した。

①鉄塩、菌同時添加における浄化効果の確認

調整した水銀汚染模擬土壌3m3を反応装置に入れ、pH

を 3~4 にするために、反応装置を高速で撹拌しながら適

量の濃硫酸と硫酸第一鉄溶液と鉄酸化細菌培養液(蛋白量

0.1g)を同時に添加・混和した。混和後、反応装置を低速

で撹拌しながら 12 時間反応させた。

②鉄塩のみ添加の場合の浄化効果の確認

硫酸第一鉄のみで、還元される水銀量を把握するために、

鉄酸化細菌培養液を添加しないで、①と同様な試験を実施

し、水銀濃度減少量を測定した。

(2)実証試験方法

反応装置の投入(排出)口に、気化した Hg0が漏れない

ように蓋をし、混合物をミキサー内の空気と接触するよう

に撹拌し、水銀汚染土壌と MON-1 株を接触させた(写真-

3)。ミキサー内は水銀除去装置の後段に設置されたエアポ

ンプの吸気により、負圧に保たれた。MON-1 によって還元

され気化した水銀は、ミキサーの蓋を貫通してミキサー内

部まで挿入された配管を通じ、写真-4 に示す水銀除去装

置へ導き、回収した。

各試験終了後、ミキサー内の土壌はミキサーを逆回転して

排出させ、バックホウのバケットで受け止め、鋼製タンク

へ戻した。

(3)汚染拡散防止対策

反応装置は写真-5 に示すような汚染土壌対策用仮設テ

写真-2 微生物反応浄化装置

写真-3 ミキサー内部状況

写真-4 水銀除去装置

ント(間口8m×奥行 15m,高さ 5.5m)内に設置した。

反応装置は負圧に制御され、水銀除去装置へと導かれてい

るが、以下の汚染拡散防止対策を施した。

①仮設テント内部の汚染拡散防止対策

反応装置から出てくる Hg0蒸気を含む排気は、液体トラ

ップ装置と活性炭処理により Hg0を取り除き、テント内に

排出した。テント内は定期的に作業環境モニタリングを実

施し、Hg0濃度が作業環境基準を満足していることを確認

した。

排ガス吸引管

過マンガン酸カリ ウム溶液トラップ

水トラップ

活性炭吸着塔

図-6 浄化装置構成例

(1)浄化条件

表-1 に示す性状の水銀汚染模擬土壌3m3を鋼製タン

クに準備し、反応装置(6m3土壌混練用ミキサー)にバッ

クホウを用いて投入した(写真-2)。

表-1 水銀汚染模擬土壌の性状

項目 備考土質 シルト混合砂質土粒度 5mm以下含水率 17.40%

土壌含有量 30mg/kg土壌環境

基準の2.0倍

土壌溶出量 0.10mg/L土壌環境

基準の200倍

表-1 水銀汚染模擬土壌の性状

浄化試験は以下の2条件で実施した。

①鉄塩、菌同時添加における浄化効果の確認

調整した水銀汚染模擬土壌3m3を反応装置に入れ、pH

を 3~4 にするために、反応装置を高速で撹拌しながら適

量の濃硫酸と硫酸第一鉄溶液と鉄酸化細菌培養液(蛋白量

0.1g)を同時に添加・混和した。混和後、反応装置を低速

で撹拌しながら 12 時間反応させた。

②鉄塩のみ添加の場合の浄化効果の確認

硫酸第一鉄のみで、還元される水銀量を把握するために、

鉄酸化細菌培養液を添加しないで、①と同様な試験を実施

し、水銀濃度減少量を測定した。

(2)実証試験方法

反応装置の投入(排出)口に、気化した Hg0が漏れない

ように蓋をし、混合物をミキサー内の空気と接触するよう

に撹拌し、水銀汚染土壌と MON-1 株を接触させた(写真-

3)。ミキサー内は水銀除去装置の後段に設置されたエアポ

ンプの吸気により、負圧に保たれた。MON-1 によって還元

され気化した水銀は、ミキサーの蓋を貫通してミキサー内

部まで挿入された配管を通じ、写真-4 に示す水銀除去装

置へ導き、回収した。

各試験終了後、ミキサー内の土壌はミキサーを逆回転して

排出させ、バックホウのバケットで受け止め、鋼製タンク

へ戻した。

(3)汚染拡散防止対策

反応装置は写真-5 に示すような汚染土壌対策用仮設テ

写真-2 微生物反応浄化装置

写真-3 ミキサー内部状況

写真-4 水銀除去装置

ント(間口8m×奥行 15m,高さ 5.5m)内に設置した。

反応装置は負圧に制御され、水銀除去装置へと導かれてい

るが、以下の汚染拡散防止対策を施した。

①仮設テント内部の汚染拡散防止対策

反応装置から出てくる Hg0蒸気を含む排気は、液体トラ

ップ装置と活性炭処理により Hg0を取り除き、テント内に

排出した。テント内は定期的に作業環境モニタリングを実

施し、Hg0濃度が作業環境基準を満足していることを確認

した。

排ガス吸引管

過マンガン酸カリ ウム溶液トラップ

水トラップ

活性炭吸着塔

図-6 浄化装置構成例

(1)浄化条件

表-1 に示す性状の水銀汚染模擬土壌3m3を鋼製タン

クに準備し、反応装置(6m3土壌混練用ミキサー)にバッ

クホウを用いて投入した(写真-2)。

表-1 水銀汚染模擬土壌の性状

項目 備考土質 シルト混合砂質土粒度 5mm以下含水率 17.40%

土壌含有量 30mg/kg土壌環境

基準の2.0倍

土壌溶出量 0.10mg/L土壌環境

基準の200倍

表-1 水銀汚染模擬土壌の性状

浄化試験は以下の2条件で実施した。

①鉄塩、菌同時添加における浄化効果の確認

調整した水銀汚染模擬土壌3m3を反応装置に入れ、pH

を 3~4 にするために、反応装置を高速で撹拌しながら適

量の濃硫酸と硫酸第一鉄溶液と鉄酸化細菌培養液(蛋白量

0.1g)を同時に添加・混和した。混和後、反応装置を低速

で撹拌しながら 12 時間反応させた。

②鉄塩のみ添加の場合の浄化効果の確認

硫酸第一鉄のみで、還元される水銀量を把握するために、

鉄酸化細菌培養液を添加しないで、①と同様な試験を実施

し、水銀濃度減少量を測定した。

(2)実証試験方法

反応装置の投入(排出)口に、気化した Hg0が漏れない

ように蓋をし、混合物をミキサー内の空気と接触するよう

に撹拌し、水銀汚染土壌と MON-1 株を接触させた(写真-

3)。ミキサー内は水銀除去装置の後段に設置されたエアポ

ンプの吸気により、負圧に保たれた。MON-1 によって還元

され気化した水銀は、ミキサーの蓋を貫通してミキサー内

部まで挿入された配管を通じ、写真-4 に示す水銀除去装

置へ導き、回収した。

各試験終了後、ミキサー内の土壌はミキサーを逆回転して

排出させ、バックホウのバケットで受け止め、鋼製タンク

へ戻した。

(3)汚染拡散防止対策

反応装置は写真-5 に示すような汚染土壌対策用仮設テ

写真-2 微生物反応浄化装置

写真-3 ミキサー内部状況

写真-4 水銀除去装置

ント(間口8m×奥行 15m,高さ 5.5m)内に設置した。

反応装置は負圧に制御され、水銀除去装置へと導かれてい

るが、以下の汚染拡散防止対策を施した。

①仮設テント内部の汚染拡散防止対策

反応装置から出てくる Hg0蒸気を含む排気は、液体トラ

ップ装置と活性炭処理により Hg0を取り除き、テント内に

排出した。テント内は定期的に作業環境モニタリングを実

施し、Hg0濃度が作業環境基準を満足していることを確認

した。

排ガス吸引管

過マンガン酸カリ ウム溶液トラップ

水トラップ

活性炭吸着塔

図-6 浄化装置構成例

(1)浄化条件

表-1 に示す性状の水銀汚染模擬土壌3m3を鋼製タン

クに準備し、反応装置(6m3土壌混練用ミキサー)にバッ

クホウを用いて投入した(写真-2)。

表-1 水銀汚染模擬土壌の性状

項目 備考土質 シルト混合砂質土粒度 5mm以下含水率 17.40%

土壌含有量 30mg/kg土壌環境

基準の2.0倍

土壌溶出量 0.10mg/L土壌環境

基準の200倍

表-1 水銀汚染模擬土壌の性状

浄化試験は以下の2条件で実施した。

①鉄塩、菌同時添加における浄化効果の確認

調整した水銀汚染模擬土壌3m3を反応装置に入れ、pH

を 3~4 にするために、反応装置を高速で撹拌しながら適

量の濃硫酸と硫酸第一鉄溶液と鉄酸化細菌培養液(蛋白量

0.1g)を同時に添加・混和した。混和後、反応装置を低速

で撹拌しながら 12 時間反応させた。

②鉄塩のみ添加の場合の浄化効果の確認

硫酸第一鉄のみで、還元される水銀量を把握するために、

鉄酸化細菌培養液を添加しないで、①と同様な試験を実施

し、水銀濃度減少量を測定した。

(2)実証試験方法

反応装置の投入(排出)口に、気化した Hg0が漏れない

ように蓋をし、混合物をミキサー内の空気と接触するよう

に撹拌し、水銀汚染土壌と MON-1 株を接触させた(写真-

3)。ミキサー内は水銀除去装置の後段に設置されたエアポ

ンプの吸気により、負圧に保たれた。MON-1 によって還元

され気化した水銀は、ミキサーの蓋を貫通してミキサー内

部まで挿入された配管を通じ、写真-4 に示す水銀除去装

置へ導き、回収した。

各試験終了後、ミキサー内の土壌はミキサーを逆回転して

排出させ、バックホウのバケットで受け止め、鋼製タンク

へ戻した。

(3)汚染拡散防止対策

反応装置は写真-5 に示すような汚染土壌対策用仮設テ

写真-2 微生物反応浄化装置

写真-3 ミキサー内部状況

写真-4 水銀除去装置

ント(間口8m×奥行 15m,高さ 5.5m)内に設置した。

反応装置は負圧に制御され、水銀除去装置へと導かれてい

るが、以下の汚染拡散防止対策を施した。

①仮設テント内部の汚染拡散防止対策

反応装置から出てくる Hg0蒸気を含む排気は、液体トラ

ップ装置と活性炭処理により Hg0を取り除き、テント内に

排出した。テント内は定期的に作業環境モニタリングを実

施し、Hg0濃度が作業環境基準を満足していることを確認

した。

排ガス吸引管

過マンガン酸カリ ウム溶液トラップ

水トラップ

活性炭吸着塔

図-6 浄化装置構成例

表-1 水銀汚染模擬土壌の性状

写真-2 微生物反応浄化装置

写真-3 ミキサー内部状況

写真-4 水銀除去装置

安藤ハザマ研究年報 Vol.2 2014

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5

②大気に対する汚染拡散防止対策

土壌の搬出入時などの Hg0 の拡散防止のために,仮設テ

ント内を換気装置で負圧に保った。仮設テントの排気は,

集塵装置および水銀用活性炭吸着塔 (写真- 6) を通して

排出し,Hg0 蒸気等が周囲に拡散しないように留意し,定

期的にモニタリングを実施し漏洩が無いことを確認した。

③試験に伴う土壌・地下水汚染の防止対策

仮設テントは緩衝土の上に土木シートを敷設後,鉄板

を敷いて養生し,さらに土木シートを敷設し,汚染土壌の

地上および外部への漏洩を防止した。また,重機による土

木シートの破損を防ぐために重機の通行箇所にゴムマッ

トを敷いて土木シートを養生した。重機の動くスペース

を明確にし,バリケードなどで安全通路を確保した。ミキ

サー,バックホウ,床面は適宜清掃した。

(4) 実大規模浄化実証試験結果

浄化装置内の土壌を 1,2,4,6,12 時間後に採取し,水銀

の土壌溶出量を測定した。図- 7,8に無添加と菌添加の

条件で試験を行った水銀の土壌溶出量の変化と pH の変

化を示す。菌の添加後 2時間で,第2溶出基準を満足し,

12時間後には,環境基準以下に浄化することができ,菌

添加の効果が確認された。また,pHは菌を添加した場合,

MON-1 株の活動により酸が生成するため,4以下に抑えら

れていた。土壌含有量は菌添加で 5.0mg/kg,無添加の場

合 25mg/kg であり,菌添加により土壌環境基準を満足す

る結果となった。気化した Hg0 は,水銀除去装置の前段に

設置した過マンガン酸カリウム酸性溶液により 100%回

収され,後段の水銀捕集用特殊活性炭からは検出されな

かった。また,漏洩防止用にテント外部に設置してあるテ

ント内排ガス処理装置の活性炭からも,検出されなかっ

た。その他,テント内外の作業環境モニタリングにおいて

も,Hg0 は検出されなかった。

なお,試験後の浄化が確認された土壌は,セメントを添

加して,脱水・中和処理を施し,産廃汚泥として処分した。

(5) トリータビリティー試験

実際の汚染土壌に本工法を適用するためには,トリー

タビリティー試験を実施し,下記の各項目について事前

に確認しておく必要がある。

①水銀含有量,溶出量の値:含有量が高く,溶出量が小さ

い場合,不溶化処理されている場合があるので,本技術が

適用できない可能性がある。

②菌添加量,酸添加量の把握:実際の水銀汚染サイトでは

アルカリ性の高い土壌が多く存在するので,鉄酸化細菌

の活動が可能な pH=4 以下に下げる必要がある。硫酸で酸

性にすると,鉄酸化細菌の栄養塩として加える硫酸第一

鉄に影響を与えないことが確認されているので,硫酸の

添加量をトリータビリティー試験で確認する。

②大気に対する汚染拡散防止対策

土壌の搬出入時などの Hg0の拡散防止のために、仮設テ

ント内を換気装置で負圧に保った。仮設テントの排気は、

集塵装置および水銀用活性炭吸着塔(写真-6)を通して排

出し、Hg0蒸気等が周囲に拡散しないように留意し、定期

的にモニタリングを実施し漏洩が無いことを確認した。

③試験に伴う土壌・地下水汚染の防止対策

仮設テントは緩衝土の上に土木シートを敷設後、鉄板を

敷いて養生し、さらに土木シートを敷設し、汚染土壌の地

上および外部への漏洩を防止した。また、重機による土木

シートの破損を防ぐために重機の通行箇所にゴムマット

を敷いて土木シートを養生した。重機の動くスペースを明

確にし、バリケードなどで安全通路を確保した。ミキサー、

バックホウ、床面は適宜清掃した。

写真-5 仮設テント

写真-6 テント内排ガス処理装置

(4) 実大規模浄化実証試験結果

浄化装置内の土壌を 1,2,4,6,12 時間後に採取し、水銀

の土壌溶出量を測定した。図-7,8 に無添加と菌添加の条

件で試験を行った水銀の土壌溶出量の変化と pH の変化を

示す。菌の添加後 2 時間で、第2溶出基準を満足し、12

時間後には、環境基準以下に浄化することができ、菌添加

の効果が確認された。また、pH は菌を添加した場合、MON-1

株の活動により酸が生成するため、4以下に抑えられてい

た。土壌含有量は菌添加で 5.0mg/kg、無添加の場合 25mg/kg

であり、菌添加により土壌環境基準を満足する結果となっ

た。気化した Hg0は、水銀除去装置の前段に設置した過マ

ンガン酸カリウム酸性溶液により 100%回収され、後段の

水銀捕集用特殊活性炭からは検出されなかった。また、漏

洩防止用にテント外部に設置してあるテント内排ガス処

理装置の活性炭からも、検出されなかった。その他、テン

ト内外の作業環境モニタリングにおいても、Hg0は検出さ

れなかった。

なお、試験後の浄化が確認された土壌は、セメントを添

加して、脱水・中和処理を施し、産廃汚泥として処分した。

(5)トリータビリティー試験

実際の汚染土壌に本工法を適用するためには、トリータ

ビリティー試験を実施し、下記の各項目について事前に確

認しておく必要がある。

①水銀含有量、溶出量の値:含有量が高く、溶出量が小さ

い場合、不溶化処理されている場合があるので、本技術が

適用できない可能性がある。

②菌添加量、酸添加量の把握:実際の水銀汚染サイトでは

アルカリ性の高い土壌が多く存在するので、鉄酸化細菌の

活動が可能な pH=4 以下に下げる必要がある。硫酸で酸性

にすると、鉄酸化細菌の栄養塩として加える硫酸第一鉄に

影響を与えないことが確認されているので、硫酸の添加量

をトリータビリティー試験で確認する。

0.0001

0.001

0.01

0.1

1

0 2 4 6 8 10 12 14 浄化時間(時間)

水銀溶出量(mg/L)

(mg/L)

菌添加 無添加

第 2溶出量値

土壌環境基準値

2

3

4

5

6

7

8

9

10

0 5 10 15

pH

浄化時間(時間)

菌添加

無添加

図-7 浄化時間と土壌溶出量の変化

図-8 浄化時間と汚染土壌 pHの変化

②大気に対する汚染拡散防止対策

土壌の搬出入時などの Hg0の拡散防止のために、仮設テ

ント内を換気装置で負圧に保った。仮設テントの排気は、

集塵装置および水銀用活性炭吸着塔(写真-6)を通して排

出し、Hg0蒸気等が周囲に拡散しないように留意し、定期

的にモニタリングを実施し漏洩が無いことを確認した。

③試験に伴う土壌・地下水汚染の防止対策

仮設テントは緩衝土の上に土木シートを敷設後、鉄板を

敷いて養生し、さらに土木シートを敷設し、汚染土壌の地

上および外部への漏洩を防止した。また、重機による土木

シートの破損を防ぐために重機の通行箇所にゴムマット

を敷いて土木シートを養生した。重機の動くスペースを明

確にし、バリケードなどで安全通路を確保した。ミキサー、

バックホウ、床面は適宜清掃した。

写真-5 仮設テント

写真-6 テント内排ガス処理装置

(4) 実大規模浄化実証試験結果

浄化装置内の土壌を 1,2,4,6,12 時間後に採取し、水銀

の土壌溶出量を測定した。図-7,8 に無添加と菌添加の条

件で試験を行った水銀の土壌溶出量の変化と pH の変化を

示す。菌の添加後 2 時間で、第2溶出基準を満足し、12

時間後には、環境基準以下に浄化することができ、菌添加

の効果が確認された。また、pH は菌を添加した場合、MON-1

株の活動により酸が生成するため、4以下に抑えられてい

た。土壌含有量は菌添加で 5.0mg/kg、無添加の場合 25mg/kg

であり、菌添加により土壌環境基準を満足する結果となっ

た。気化した Hg0は、水銀除去装置の前段に設置した過マ

ンガン酸カリウム酸性溶液により 100%回収され、後段の

水銀捕集用特殊活性炭からは検出されなかった。また、漏

洩防止用にテント外部に設置してあるテント内排ガス処

理装置の活性炭からも、検出されなかった。その他、テン

ト内外の作業環境モニタリングにおいても、Hg0は検出さ

れなかった。

なお、試験後の浄化が確認された土壌は、セメントを添

加して、脱水・中和処理を施し、産廃汚泥として処分した。

(5)トリータビリティー試験

実際の汚染土壌に本工法を適用するためには、トリータ

ビリティー試験を実施し、下記の各項目について事前に確

認しておく必要がある。

①水銀含有量、溶出量の値:含有量が高く、溶出量が小さ

い場合、不溶化処理されている場合があるので、本技術が

適用できない可能性がある。

②菌添加量、酸添加量の把握:実際の水銀汚染サイトでは

アルカリ性の高い土壌が多く存在するので、鉄酸化細菌の

活動が可能な pH=4 以下に下げる必要がある。硫酸で酸性

にすると、鉄酸化細菌の栄養塩として加える硫酸第一鉄に

影響を与えないことが確認されているので、硫酸の添加量

をトリータビリティー試験で確認する。

0.0001

0.001

0.01

0.1

1

0 2 4 6 8 10 12 14 浄化時間(時間)

水銀溶出量(mg/L)

(mg/L)

菌添加 無添加

第 2溶出量値

土壌環境基準値

2

3

4

5

6

7

8

9

10

0 5 10 15

pH

浄化時間(時間)

菌添加

無添加

図-7 浄化時間と土壌溶出量の変化

図-8 浄化時間と汚染土壌 pHの変化

②大気に対する汚染拡散防止対策

土壌の搬出入時などの Hg0の拡散防止のために、仮設テ

ント内を換気装置で負圧に保った。仮設テントの排気は、

集塵装置および水銀用活性炭吸着塔(写真-6)を通して排

出し、Hg0蒸気等が周囲に拡散しないように留意し、定期

的にモニタリングを実施し漏洩が無いことを確認した。

③試験に伴う土壌・地下水汚染の防止対策

仮設テントは緩衝土の上に土木シートを敷設後、鉄板を

敷いて養生し、さらに土木シートを敷設し、汚染土壌の地

上および外部への漏洩を防止した。また、重機による土木

シートの破損を防ぐために重機の通行箇所にゴムマット

を敷いて土木シートを養生した。重機の動くスペースを明

確にし、バリケードなどで安全通路を確保した。ミキサー、

バックホウ、床面は適宜清掃した。

写真-5 仮設テント

写真-6 テント内排ガス処理装置

(4) 実大規模浄化実証試験結果

浄化装置内の土壌を 1,2,4,6,12 時間後に採取し、水銀

の土壌溶出量を測定した。図-7,8 に無添加と菌添加の条

件で試験を行った水銀の土壌溶出量の変化と pH の変化を

示す。菌の添加後 2 時間で、第2溶出基準を満足し、12

時間後には、環境基準以下に浄化することができ、菌添加

の効果が確認された。また、pH は菌を添加した場合、MON-1

株の活動により酸が生成するため、4以下に抑えられてい

た。土壌含有量は菌添加で 5.0mg/kg、無添加の場合 25mg/kg

であり、菌添加により土壌環境基準を満足する結果となっ

た。気化した Hg0は、水銀除去装置の前段に設置した過マ

ンガン酸カリウム酸性溶液により 100%回収され、後段の

水銀捕集用特殊活性炭からは検出されなかった。また、漏

洩防止用にテント外部に設置してあるテント内排ガス処

理装置の活性炭からも、検出されなかった。その他、テン

ト内外の作業環境モニタリングにおいても、Hg0は検出さ

れなかった。

なお、試験後の浄化が確認された土壌は、セメントを添

加して、脱水・中和処理を施し、産廃汚泥として処分した。

(5)トリータビリティー試験

実際の汚染土壌に本工法を適用するためには、トリータ

ビリティー試験を実施し、下記の各項目について事前に確

認しておく必要がある。

①水銀含有量、溶出量の値:含有量が高く、溶出量が小さ

い場合、不溶化処理されている場合があるので、本技術が

適用できない可能性がある。

②菌添加量、酸添加量の把握:実際の水銀汚染サイトでは

アルカリ性の高い土壌が多く存在するので、鉄酸化細菌の

活動が可能な pH=4 以下に下げる必要がある。硫酸で酸性

にすると、鉄酸化細菌の栄養塩として加える硫酸第一鉄に

影響を与えないことが確認されているので、硫酸の添加量

をトリータビリティー試験で確認する。

0.0001

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0.1

1

0 2 4 6 8 10 12 14 浄化時間(時間)

水銀溶出量(mg/L)

(mg/L)

菌添加 無添加

第 2溶出量値

土壌環境基準値

2

3

4

5

6

7

8

9

10

0 5 10 15

pH

浄化時間(時間)

菌添加

無添加

図-7 浄化時間と土壌溶出量の変化

図-8 浄化時間と汚染土壌 pHの変化

②大気に対する汚染拡散防止対策

土壌の搬出入時などの Hg0の拡散防止のために、仮設テ

ント内を換気装置で負圧に保った。仮設テントの排気は、

集塵装置および水銀用活性炭吸着塔(写真-6)を通して排

出し、Hg0蒸気等が周囲に拡散しないように留意し、定期

的にモニタリングを実施し漏洩が無いことを確認した。

③試験に伴う土壌・地下水汚染の防止対策

仮設テントは緩衝土の上に土木シートを敷設後、鉄板を

敷いて養生し、さらに土木シートを敷設し、汚染土壌の地

上および外部への漏洩を防止した。また、重機による土木

シートの破損を防ぐために重機の通行箇所にゴムマット

を敷いて土木シートを養生した。重機の動くスペースを明

確にし、バリケードなどで安全通路を確保した。ミキサー、

バックホウ、床面は適宜清掃した。

写真-5 仮設テント

写真-6 テント内排ガス処理装置

(4) 実大規模浄化実証試験結果

浄化装置内の土壌を 1,2,4,6,12 時間後に採取し、水銀

の土壌溶出量を測定した。図-7,8 に無添加と菌添加の条

件で試験を行った水銀の土壌溶出量の変化と pH の変化を

示す。菌の添加後 2 時間で、第2溶出基準を満足し、12

時間後には、環境基準以下に浄化することができ、菌添加

の効果が確認された。また、pH は菌を添加した場合、MON-1

株の活動により酸が生成するため、4以下に抑えられてい

た。土壌含有量は菌添加で 5.0mg/kg、無添加の場合 25mg/kg

であり、菌添加により土壌環境基準を満足する結果となっ

た。気化した Hg0は、水銀除去装置の前段に設置した過マ

ンガン酸カリウム酸性溶液により 100%回収され、後段の

水銀捕集用特殊活性炭からは検出されなかった。また、漏

洩防止用にテント外部に設置してあるテント内排ガス処

理装置の活性炭からも、検出されなかった。その他、テン

ト内外の作業環境モニタリングにおいても、Hg0は検出さ

れなかった。

なお、試験後の浄化が確認された土壌は、セメントを添

加して、脱水・中和処理を施し、産廃汚泥として処分した。

(5)トリータビリティー試験

実際の汚染土壌に本工法を適用するためには、トリータ

ビリティー試験を実施し、下記の各項目について事前に確

認しておく必要がある。

①水銀含有量、溶出量の値:含有量が高く、溶出量が小さ

い場合、不溶化処理されている場合があるので、本技術が

適用できない可能性がある。

②菌添加量、酸添加量の把握:実際の水銀汚染サイトでは

アルカリ性の高い土壌が多く存在するので、鉄酸化細菌の

活動が可能な pH=4 以下に下げる必要がある。硫酸で酸性

にすると、鉄酸化細菌の栄養塩として加える硫酸第一鉄に

影響を与えないことが確認されているので、硫酸の添加量

をトリータビリティー試験で確認する。

0.0001

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0.1

1

0 2 4 6 8 10 12 14 浄化時間(時間)

水銀溶出量(mg/L)

(mg/L)

菌添加 無添加

第 2溶出量値

土壌環境基準値

2

3

4

5

6

7

8

9

10

0 5 10 15

pH

浄化時間(時間)

菌添加

無添加

図-7 浄化時間と土壌溶出量の変化

図-8 浄化時間と汚染土壌 pHの変化

写真-5 仮設テント

写真-6 テント内排ガス処理装置

図-8 浄化時間と汚染土壌 pHの変化

図-7 浄化時間と土壌溶出量の変化

安藤ハザマ研究年報 Vol.2 2014

Page 6: 微生物を利用した水銀汚染土壌の浄化技術 · 属水銀(以下,Hg0)に還元する。Hg0 は常温で容易に気化 して土壌から分離できるので,土壌を浄化することがで

6

4.まとめ

水銀に対して耐性が有り,水銀を気化する能力を持つ

鉄酸化細菌を用い,その水銀気化機構の解明を目指し,鉄

の酸化還元機構が備わっているチトクロームc 酸化酵素

に着目して,水銀の還元気化活性を測定することにより

確認した。その結果,チトクロームc 酸化酵素の働きによ

り,鉄の酸化に伴う電子が,水銀イオンに渡され,金属水

銀に還元されることが明らかになった。

この機構を利用した浄化実証試験で用いた水銀汚染土

壌は,pH=10 程度のアルカリ性の高い土壌を想定した。こ

のような土壌に対しては,10N 硫酸と 10%硫酸第一鉄を加

え,pH=4.0 に調整し,12〜 24 時間低速撹拌で反応させる

ことで鉄酸化細菌による浄化が可能になる。この硫酸と

硫酸第一鉄のプロセスには以下の利点がある。

①時間を置くことで,難溶性の水銀化合物の溶出を促進

させる効果がある。

②硫酸第一鉄のみで,溶出した Hg2+ を気化させることが

できる。

鉄酸化細菌による浄化は,MON-1 株を添加し,混和する

ために強めの撹拌をする。その後12〜24時間ゆっくり撹

拌する。Fe2+ 濃度が減少した場合は,MON-1 株と硫酸第一

鉄を加える。適宜,Hg0 をモニタリングして,浄化の確認

を行う。

菌体の確保に関しては,電気培養による MON-1 株の大量

培養が可能になり,通常の液体培養に比べ 100倍以上の菌

体量が得られるようになった。さらに,冷蔵保存が可能

で,6ヶ月以上にわたり水銀気化活性が低下しないことが

確認されている。

本浄化実証試験に用いた鉄酸化細菌は,人畜無害であ

ることが OECD の報告書 13) でも認められており,環境省の

バイオレメディエーション指針 14) にも適合すると考えら

れる。

今後は,菌の水銀浄化に関与している酵素を分離・精製

し製剤化することで,土壌に混合しやすい浄化工法を開

発するとともに,土壌洗浄などの技術と組み合わせシス

テム化することで,複合汚染へ対応できるようにしてい

きたい。

水俣条約発効に向けて,気化した水銀の回収方法も検

討しており,水銀のリサイクルにも取り組んでいきたい。

本技術は,安藤ハザマと菌の浄化機構を解明した杉

尾剛岡山大学名誉教授,竹内文章岡山大学環境管理セン

ター准教授と共に特許を取得(第 4578597 号)している。

参 考 文 献

1) J. B. Robinson, and O. H. Tuovinen, Microbiol.

Rev., 48 pp.95-124, 1984.

2) A. Velasco, .P. Acebo and F. Flores, Extremophiles,

3, pp.35-43,1999.

3) K. Iwahori, F. Takeuchi, K. Kamimura and T. Sugio,

Appl. Environ.,Microbiol., 66,pp.3823-3827,2000.

4) T. Sugio, et.al.,J. Biosci. Bioeng., 92, pp.44-49,

2001.

5) T. Sugio, H. Kuwano, A. Negishi, et.al., Biosci.

Biotechnol. Biochem., 65, pp.555-562,2001.

6) F. Takeuchi, et.al., et.al.,Biosci. Biotechnol.

Biochem., 65, pp.1981-1986, 2001.

7) T. Sugio, T. Tano and K. Imai, Agric. Biol. Chem.,

45, pp.2037-2051, 1981.

8) K. Imai, T. Sugio, T. Tsuchida and T. Tano, Agric.

Biol. Chem., 39, pp.1349-1354,1975.

9) K. Y. Ng, et.al., Biosci. Biotechnol.Biochem., 61,

pp.1523-1526, 1997.

10)A. Negishi, et.al., IBS2003 symposium in Athens,

pp.449-455, 2003.

11) S.M.Trutko,et.al.,Arch.Microbiol., 173, pp.178-

186, 2000.

12) 根岸,守谷,竹内,杉尾,水銀汚染土壌の微生物による

浄化工法の実証試験,土木建設技術発表会 2009,pp.271-

278,土木学会 建設技術研究委員会,2009 年 11 月

13) Consensus documentat on information used in the

assessment of environment application involving

Acidithiobacillus, ENV/JM/MONO(2006)3, OECD, 2006.

14) 経済産業省製造産業局生物化学産業課 環境省水・大気

環境局総務課環境管理技術室「微生物によるバイオレメ

ディエーション利用指針の解説」2005 年7月(2010 年

3月一部改訂)

Remediation Method for a Mercury-polluted Soil with a Acidithiobacillus ferrooxidans

Atsunori NEGISHI

A mercury resistant Acidithiobacillus ferrooxidans can reduce mercuric ions (Hg2+) with ferrous iron as an electron donor under acidic conditions to give volatilized metallic mercury (Hg0). The mechanism of volatilization exists in cytochrome c oxygenase. Large-scale remediation of mercury-polluted soil was conducted, and leached mercury concentration from the soil was less than criteria in 12 hours. This method indicates that under room temperature, the soil polluted mercury compounds can be remedied by using the ability of the Acidithiobacillus ferrooxidans MON-1 strain to reduce and volatilize.

安藤ハザマ研究年報 Vol.2 2014