状態方程式と状態の変化 pv nrtohki/physics_c/may19.pdf(becher, johann yoachim, 1635-1682)...

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状態方程式と状態の変化 理想気体の状態方程式 RT pV ファンデルワールスの状態方程式(1873年)は実在気体に適用される。 RT b V V a p 2 (1モル) これは理想気体のボイル-シャルルの法則であり、比例定数γは気体の質量や種類 によって異なるが、アボガドロ(Avogadro)の法則(すべての気体は、同じ温度、同 じ圧力下では同じ体積の中に同じ分子数を含む)により、同じ数の分子を含む気体 では種類によらず定数となる。そこで、理想気体1モルに対しては pV=RT とな り、nモルに対しては となる。 Rは気体定数 nR pV Vが充分大きくなり、a, b が無視できるときは理想気体の状態方程式に一致する。 つまり、理想気体とは実在の気体が希薄になった極限と考えられる。定数a, bに ついては気体分子運動論から説明される。

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Page 1: 状態方程式と状態の変化 pV nRTohki/Physics_C/May19.pdf(Becher, Johann Yoachim, 1635-1682) は物質に は「燃える土」という元素が存在すると提唱し た。すへての可燃性物質の中にこれが含まれて

状態方程式と状態の変化

理想気体の状態方程式 RTpV

ファンデルワールスの状態方程式(1873年)は実在気体に適用される。

RTbVV

ap

2 (1モル)

これは理想気体のボイル-シャルルの法則であり、比例定数γは気体の質量や種類によって異なるが、アボガドロ(Avogadro)の法則(すべての気体は、同じ温度、同じ圧力下では同じ体積の中に同じ分子数を含む)により、同じ数の分子を含む気体では種類によらず定数となる。そこで、理想気体1モルに対しては pV=RT となり、nモルに対しては

となる。 Rは気体定数 nRTpV

Vが充分大きくなり、a, b が無視できるときは理想気体の状態方程式に一致する。つまり、理想気体とは実在の気体が希薄になった極限と考えられる。定数a, bについては気体分子運動論から説明される。

Page 2: 状態方程式と状態の変化 pV nRTohki/Physics_C/May19.pdf(Becher, Johann Yoachim, 1635-1682) は物質に は「燃える土」という元素が存在すると提唱し た。すへての可燃性物質の中にこれが含まれて

各種液体(ペンタン、テトラクロロメタン、水)の蒸気圧曲線

温度

圧力

沸点

水の融点

大気圧

大気圧での水の融点は0℃で沸点

は100℃である。

3状態の変化:真空にした容器に液体を閉じこめ一定の温度に維持すると蒸発が起こり、一定の圧力(飽和蒸気圧, saturated vapor pressure)に達すると蒸発が停止

する。飽和蒸気圧と温度の関係は物質に依存している。

沸騰(boiling)は液体の内部からも蒸発が起きる現象で、飽和蒸気圧と外圧が等しくなる温度(沸点, boiling point)で生じる。

Page 3: 状態方程式と状態の変化 pV nRTohki/Physics_C/May19.pdf(Becher, Johann Yoachim, 1635-1682) は物質に は「燃える土」という元素が存在すると提唱し た。すへての可燃性物質の中にこれが含まれて

水分子:液相に存在 気相への移行 両相の平衡状態

蒸発と沸騰(水分子)

外部からの圧力を克服して気体の体積を維持する力が飽和蒸気圧であり、飽和蒸気圧が外圧に等しくなれば液体の内部でも気化し、それが沸騰となる。

水の飽和蒸気圧以下 飽和蒸気圧

蒸発 蒸発/凝縮

(気化/液化)

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水の状態図

温度→

蒸気

固体 液体

臨界温度

臨界圧力

3重点圧力

3重点温度

大気圧

融点 沸点

点Cは臨界点でこれを超えると蒸気と液体の区別がなくなる。

圧力

Page 5: 状態方程式と状態の変化 pV nRTohki/Physics_C/May19.pdf(Becher, Johann Yoachim, 1635-1682) は物質に は「燃える土」という元素が存在すると提唱し た。すへての可燃性物質の中にこれが含まれて

1669年: ドイツ人科学者のベッヒャー (Becher, Johann Yoachim, 1635-1682) は物質には「燃える土」という元素が存在すると提唱した。すへての可燃性物質の中にこれが含まれており、燃焼はこれが他の物質と分離する現象であると説明した。

燃素説(フロギストン説)

1703年:ドイツの医師ゲオルグ・エルンスト・シュタール

(Stahl, Georg Ernst, 1660-1734) はベッヒャーの説を受け継いで「油性の土」にギリシャ語で「火をつける」という意味を持つ「フロギストン phlogiston(燃素)」と名付けた。

Page 6: 状態方程式と状態の変化 pV nRTohki/Physics_C/May19.pdf(Becher, Johann Yoachim, 1635-1682) は物質に は「燃える土」という元素が存在すると提唱し た。すへての可燃性物質の中にこれが含まれて

アントワーヌ=ローラン・ラヴォアジェ

Antoine Laurent Lavoisier (1743-1794)

フランス、パリで生まれた。幼いころ母を失い、叔母のもとで成長し、法科大学を卒業したが、気象・天文などの勉学に熱中していた。金属など燃焼することで質量が増大することを知り、燃焼は酸素との結合であり、燃素などというものは存在しないことを明らかにし、それまで燃焼は燃素(フロギストン)が抜け出すことであるとされていた燃素説を否定した。 また、元素とみなせる物質を33種挙げて元素表を作った。その中には熱素もあり、熱素説の先駆けとなった。 フランスを代表する化学者であり、化学の基礎を築いたが、フランス革命の動乱の最中で旧体制の手先の烙印を押され、ギロチンにより処刑された。化学反応の研究において系統的に天秤を用いることによって、フロギストン説は誤りであると結論した。

熱素:高温側から低温側に流れる目に見えず重さのない流体

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仕事と熱量の等量関係

ラボアジェが提唱した目に見えず重さのない熱の流体である熱素が、あらゆる物質の隙間にしみわたり、温度の高い方から低い方に流れるとの熱素説も摩擦で熱が発生することから熱はエネルギーの一種であると考えられるようになった。

1843年にはジュールの実検で仕事と熱量の等量関係が示されたことで、その意味は薄れ、気体分子運動論により完全に否定された。

仕事Wと熱量Qとの比は常に一定で の比例関係が成立する。ここで、J は熱の仕事等量(mechanical equivalent of heat)と呼ばれ、J=4.1855±0.0004 joule/cal である。

JQW

仕事:物体に力が加えられた状態でその物体が移動するとき、その力と移動距離の内積である。

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Juleの熱と仕事の等量関係についての実験

ゆっくりと降下する重りが水槽内の羽を回転させる仕事による温度変化を測定し、熱と仕事の等量関係を求めた(1843年)。

ジュール(James Prescott Joule ,1818-1889)は左の実験装置で熱と仕事の等量関係を示した。

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熱力学の第1法則:「エネルギー保存則」を熱エネルギー、内部エネルギー(分子の運動エネルギー)、仕事に拡張した保存則である。

熱力学の第1法則

内部エネルギー

熱力学で便宜的に仮想的な閉じた空間としての系がある状態でもつ総エネルギーである。 ただし、系が運動しているときの運動エネルギー、重力場などにあるときの位置エネルギーは内部エネルギーに含めない。

熱力学第1法則の表式:系が外から熱量Qと仕事Wを受けて最初の状態1から最終状態2に変化し、そのとき内部エネルギーがU1からU2に変化すれば第1法則として次式が成立する。 WQUU 12

系に与えられた熱ΔQと系になされた仕事ΔWの和が内部エネルギーの増加分ΔUとすると

となる。

体積変化による系の仕事 ΔW=-PΔV は圧力の強さにより異なるので、微小な変化について取り扱える微分・積分を導入して、

と書き換える。

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気体の体積変化による仕事(Work) 仕事(work):力学で仕事Wは力Fにより、物体を力の方向に距離dだけ移動させたとき、W=Fd と表される。

シリンダーとピストンに閉じこめられた気体の体積変化による仕事は一定の圧力P0で面積Aのピストンをxiからxfまで移動させるとその仕事量ΔWは

となる。 VP

VVP

xxAPW

if

if

0

0

0

)(

)(

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準静的過程(quasi-static process)

有限の速さで系の状態が変化する場合は厳密には系の各部分の状態量に不均一さが生じており、均質系となっていない。そこで、熱力学では変化の過程のすべての段階においてほぼ平衡状態が維持されていると見なせる準静的過程を導入している。

断面積Sのピストンとシリンダーでの体積変化による仕事で考えるとき、シリンダー内の気体の圧力 p と体積 V に対してピストンにかかっている外圧 po よりもpが無限小だけ大きいときピストンは無限にゆっくりと外に向かって微小な距離dl移動する。このとき、圧力pは一定と考えて系の体積の増加をdV

とすれば系のした仕事は p・S dl=p dV となり、-dW=pdV である。

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逆行可能な過程

系がある変化をしたとき、系と系外の両方について元と同じ経路を逆向きに辿らせて元の状態に戻せるならば、系が辿ったその過程は逆行可能である。準静的過程は圧力を無限小だけ変化させて変化の向きを逆にすることができるので逆行可能である。また、熱が2つの物体の間で移動する場合の準静的過程は温度差が無限小であり、そのときも逆行可能である。

準静的過程は逆行可能である。

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状態量と全微分形式の関係(状態方程式での説明)

理想気体の状態方程式 pV=nRT で圧力、体積、温度の内2つの変数を決めれば残りの1つは決定される。そこで、V=V(T,p) と考えると と表される。 dp

p

VdT

T

VdV

Tp

),(),( pTVppTTVdV を次のように変形する。

dpp

VdT

T

V

pp

pTVppTVT

T

ppTVppTTV

pTVppTVppTVppTTV

Tp

),(),(),(),(

),(),(),(),(

となり、全微分形式が得られる。

この全微分形式の導出には

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pV=nRT をpとTで編微分すると、それぞれ次のようになる。

T

V

p

nR

T

V

p

V

p

pV

p

nRT

p

V

p

T

22

これを最初の全微分形式に代入して

dpp

dVV

dTT

111

理想気体の状態方程式の微分形を得る。

この式をある初期状態 (p0,V0,T0 ) から任意の状態 (p,V,T)まで積分すれば理想気体の状態方程式が得られる。

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状態量の体積についての全微分形式に加えて、状態量の圧力と温度についても以下のように全微分形式で表現できる。

dpp

TdV

V

TdT

dTT

pdV

V

pdp

Tp

pT

ところで、体積の温度依存的な変化を示す偏微分の項は次のような変化率として用いられている。

T

p

p

V

V

T

V

V

1

1

定圧膨張率

等温圧縮率