絵画印象の研究における形容詞対尺度構成の検...

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KurumeUniversity PsychologicalResearch2014,No.13,45-53 原著 絵画印象の研究における形容詞対尺度構成の検討Ⅱ* 長潔容江')。原口雅浩2) 要約 長・原口(2013)が14本の論文を対象に,SD法による形容詞対尺度構成を検討した結果,絵画印 象は,活動'性因子(12項目),明るさ因子(8項目),評価性因子(4項目),やわらかさ因子(3項目) の4因子(27項目)で評定されることが分かった。そこで,本研究では,長・原口(2013)の形容詞 対尺度を用いて絵画印象を評定してもらった。そして,因子分析の結果をもとに絵画印象の4因子モ デルを仮定し,構造方程式モデリングによる分析を絵画ごとに行った。その結果,絵画印象は,活動 性因子,明るさ因子,評価'性因子,やわらかさ因子の4因子,各4項目の計16項目で評定されること が分かった。 キーワード:絵画印象,SD法.形容詞対 問題 これまで,さまざまなテーマで絵画に関する心理学 的研究がなされてきた。たとえば,表現技法の教示 (石坂・高橋,2006)や絵画のタイトル(Franklin, Becklen,andDoyle,1993)のように,絵画に付加 された情報を扱った研究や,絵画の色彩(筒井・近江, 2006)や遠近法の歪み(石坂・高橋,2006)のように, 絵画自体を扱った研究などである。 絵画印象に関する研究の領域において,絵画印象を 測定する方法としてよく用いられるのがSemantic DifferentialTechnique(以下,SD法)である。こ れまでの絵画印象の研究で使用された尺度は,それを 構成する因子および形容詞対の内容が研究によって異 なることが多い。そのため,絵画印象の研究を行う際 に,どの因子および形容詞対から構成される尺度を使 用するのが適しているかを判断するのは難しい。 そこで,長・原口(2013)は,先行研究の中から, 日本絵画および西洋絵画の有名絵画を評価対象として 研究を行った14本の論文を採択し,それらの研究で使 用されたSD法による形容詞対尺度から因子および形 容詞対を収集した。その結果,29種類の因子および99 項目の形容詞対が得られた。その後,頻出度が高い項 目でまとめたところ,絵画印象は,活動性因子(「安 定した一不安定な」,「興奮的一沈静的」,「動的一静的」, 「個性的な-平凡な」,「まとまった-ばらばらな」, 「男性的一女性的」,「感情的一理知的」,「強い-弱い」, 「健康な一不健康な」,「古い一新しい」,「大人っぽい- 子供っぽい」,「派手な-地味な」の形容詞対'2項目), 明るさ因子(「明るい-暗い」,「楽しい一寂しい」, 「表面的一深みのある」,「暖かい-冷たい」,「重い- 軽い」,「単純な-複雑な」,「神経質な一神経質でない」, 「陽気な-陰気な」の形容詞対8項目),評価性因子 (「美しい一醜い」,「面白い-つまらない」,「好き一嫌 い」,「良い-悪い」の形容詞対・4項目),やわらかさ 因子(「柔らかな-固い」,「ゆるんだ-緊張した」, 「鋭い-鈍い」の形容詞対3項目),以上の4因子27項 目の形容詞対で評定されることが分かった。 1)久留米大学大学院心理学研究科 2)久留米大学文学部心理学科 *本研究は,日本心理学会第77回(北海道)および九州心理学会第74回大会(沖縄)において発表したものである。 -45-

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KurumeUniversityPsychologicalResearch2014,No.13,45-53 原著

絵画印象の研究における形容詞対尺度構成の検討Ⅱ*

長潔容江')。原 口 雅 浩 2 )

要約

長・原口(2013)が14本の論文を対象に,SD法による形容詞対尺度構成を検討した結果,絵画印

象は,活動'性因子(12項目),明るさ因子(8項目),評価性因子(4項目),やわらかさ因子(3項目)

の4因子(27項目)で評定されることが分かった。そこで,本研究では,長・原口(2013)の形容詞

対尺度を用いて絵画印象を評定してもらった。そして,因子分析の結果をもとに絵画印象の4因子モ

デルを仮定し,構造方程式モデリングによる分析を絵画ごとに行った。その結果,絵画印象は,活動

性因子,明るさ因子,評価'性因子,やわらかさ因子の4因子,各4項目の計16項目で評定されること

が分かった。

キーワード:絵画印象,SD法.形容詞対

問題

これまで,さまざまなテーマで絵画に関する心理学

的研究がなされてきた。たとえば,表現技法の教示

(石坂・高橋,2006)や絵画のタイトル(Franklin,

Becklen,andDoyle,1993)のように,絵画に付加

された情報を扱った研究や,絵画の色彩(筒井・近江,

2006)や遠近法の歪み(石坂・高橋,2006)のように,

絵画自体を扱った研究などである。

絵画印象に関する研究の領域において,絵画印象を

測定する方法としてよく用いられるのがSemantic

DifferentialTechnique(以下,SD法)である。こ

れまでの絵画印象の研究で使用された尺度は,それを

構成する因子および形容詞対の内容が研究によって異

なることが多い。そのため,絵画印象の研究を行う際

に,どの因子および形容詞対から構成される尺度を使

用するのが適しているかを判断するのは難しい。

そこで,長・原口(2013)は,先行研究の中から,

日本絵画および西洋絵画の有名絵画を評価対象として

研究を行った14本の論文を採択し,それらの研究で使

用されたSD法による形容詞対尺度から因子および形

容詞対を収集した。その結果,29種類の因子および99

項目の形容詞対が得られた。その後,頻出度が高い項

目でまとめたところ,絵画印象は,活動性因子(「安

定した一不安定な」,「興奮的一沈静的」,「動的一静的」,

「個性的な-平凡な」,「まとまった-ばらばらな」,

「男性的一女性的」,「感情的一理知的」,「強い-弱い」,

「健康な一不健康な」,「古い一新しい」,「大人っぽい-

子供っぽい」,「派手な-地味な」の形容詞対'2項目),

明るさ因子(「明るい-暗い」,「楽しい一寂しい」,

「表面的一深みのある」,「暖かい-冷たい」,「重い-

軽い」,「単純な-複雑な」,「神経質な一神経質でない」,

「陽気な-陰気な」の形容詞対8項目),評価性因子

(「美しい一醜い」,「面白い-つまらない」,「好き一嫌

い」,「良い-悪い」の形容詞対・4項目),やわらかさ

因子(「柔らかな-固い」,「ゆるんだ-緊張した」,

「鋭い-鈍い」の形容詞対3項目),以上の4因子27項

目の形容詞対で評定されることが分かった。

1)久留米大学大学院心理学研究科

2)久留米大学文学部心理学科

*本研究は,日本心理学会第77回(北海道)および九州心理学会第74回大会(沖縄)において発表したものである。

-4 5-

絵画印象の研究における形容詞対尺度構成の検討Ⅱ

しかしながら,やわらかさ因子は3項目と少なく,

各因子に含まれる形容詞対の項目数にばらつきがあっ

た。そのため,各因子で用いる形容詞対の項目数を統

一し,その後作成した尺度を用いて実際に絵画印象を

評定してもらう必要があった。

そこで,研究lでは,長・原口(2013)の絵画印象

を測定する4因子,27項目の形容詞対尺度を用いて絵

画印象を評定してもらい,その後因子分析を行い,長・

原口(2013)の結果を確認した。さらに,研究2では,

研究lの結果をふまえて評価性因子およびやわらかさ

因子の項目を追加し,新たに作成した形容詞対尺度を

用いて絵画印象を評定してもらった。まず因子分析を

行い,次に因子分析の結果から絵画印象のモデルを仮

定し,構造方程式モデリングによる分析を行い,形容

詞対尺度の構成を検討した。

研究1絵画印象を評定する形容詞対尺度の検討

目的

長・原口(2013)が絵画印象に関する14本の論文を

対象に,それらの研究で使用されたSD法による形容

詞対尺度を検討した結果,絵画印象は,活動性因子

(12項目),明るさ因子(8項目),評価性因子(4項目),

やわらかさ因子(3項目)の4因子27項目の形容詞対

で評定されることが分かった。

そこで,研究1では,長。原口(2013)で得られた

絵画印象を測定する4因子形容詞対27項目について絵

画印象を評定してもらい,その後因子分析を行い,長・

原口(2013)の結果を確認することを目的とした。

方法

調査協力者

大学生および大学院生116名(男性32名,女性84名)

に調査に参加してもらった。

評定尺度

絵画印象を測定する尺度として,長・原口(2013)

で得られた,活動性因子(12項目:安定した-不安定

な,興奮的一沈静的,動的一静的など),明るさ因子

(8項目:明るい-暗い,楽しい-寂しい,陽気な一

陰気など),評価性因子(4項目:美しい一醜い,好

き一嫌い,良い-悪いなど),やわらかさ因子(3項

目:柔らかな-固い,ゆるんだ-緊張した,鋭い-鈍

い)の4因子,27項目の形容詞対を使用した。評定法

は,SD法による7段階評定である。

絵画刺激

Markovi6&Radonji6(2008)の研究で使用され

た,FiguralRealismおよびAbstractartの絵画の

中から,長・原口(2012)より得られた規則性と単純

性の主成分得点の両極に位置した絵画を各2枚,計4

枚を選択し使用した。作者名およびタイトル(年代)

は,絵画1:ViktorVasarely「V2ga6me(1968)」,

絵画2:Jacques-LouisDavid「me1Stz6meWbme7z

En/b7℃加gPgacebyRzj7m加gBgtuノee九tノie

Com6atta7zts(1794-1799)」,絵画3:Franciscode

Zurbaran「StZ〃L旅uノjthPotte可Jtz『s(XVII

century)」,絵画4:JacksonPollock「jVm7z6erZ

(Lazノe7zd〃Mjst)(1950)」である。

絵画は白地のA4の用紙にカラー印刷して用いた。

絵画の大きさは,横長の絵画で縦12.3~14.2cm×横

19.2~22.7cm,縦横比が同じ絵画で縦14.3cm×横14.3

cmであった。

手続き

A4の用紙に1枚ずつカラー印刷した12枚の絵画を

ランダムに並べ替え,冊子にした絵画刺激と調査用紙

を配付した。絵画印象を評定する尺度について,絵画

を1枚ずつ見ながら評定してもらった。

結果

形容詞対27項目について,絵画1~4の絵画ごとお

よび4枚の絵画を合わせたデータで最小二乗法,プロ

マックス回転による因子分析を行った。4枚の絵画を

合わせたデータは,形容詞対×絵画×調査協力者の3

相データであるが,形容詞対×(絵画×調査協力者)

の2相のデータに構成して分析を行った。カイザー基

準およびスクリー基準において,4因子が適当である

と判断した。

表1~4は,絵画1~4の各絵画の因子分析の結果,

表5は,全絵画をまとめて因子分析した結果である。

表6は,各絵画,そして全絵画の因子分析の結果を

一覧表にまとめたものである。番号1が活動性因子,

番号2が明るさ因子,番号3が評価性因子,番号4が

やわらかさ因子である。なお,表中の因子名は,長・

原口(2013)の結果のものである。

まず,因子分析の結果を見て,各形容詞対が1~4

の因子のうちどれに属しているかを,該当する箇所に

番号を記入した。たとえば,項目番号8の「不安定な一

安定した」については,絵画1,絵画2,絵画4の因

子分析の結果では活動性因子に属していたので1,絵

画3と全絵画の因子分析の結果では活動'性因子と評価

-46-

表4絵画2の因子分析の結果

表1絵画1の因子分析の結果 表2絵画2の因子分析の結果

久留米大学心理学研究第13号2014

、122

-.260

-051

形容詞因子1因子2因子3因子4 形容詞因子1因子2因子3因子4

表3絵画3の因子分析の結果

- 47 -

4102

3703

0034

1791212

075

陽気な

健康な

楽しい

暗い

暖かい

深みのある

緊張した

神経質でない

新しい

平凡な

単純な

派手な

興奮的

感情的

つまらない

動的

不安定な

鈍い

美しい

好き

良い

まとまった

子供っぽい

男性的

軽い

弱い

柔らかな

暗い

陽気な

楽しい

暖かい

派手な

健康な

好き

男性的

良い

軽い

感情的

まとまった

不安定な

興奮的

動的

美しい

子供っぽい

緊張した

神経質でない

鈍い

柔らかな

平凡な

単純な

つまらない

弱い

深みのある

新しい

396476489799302665701568

765177881284063544201743

010020101000222011010021

一.742

.681

.675

.604

.427

.421

2195473774

6901396146

2102313130

38365826260485949

44060172220349906

00102122300210021

21537450258811108875

62183890122891252037

100112121100033410111

708161

795452

766544

340260309

345626091

000003311

809187750069470152

036060426552848165

011113100002003032

-.362

.323

135

882784762865095763188

955384532400913285002

333320230020040202131

2687778766143

8559805693089

0021102130000

-012 -566

092002

491547

766554

、198 -.565、643

-.630

.582

.579

.537

-.473

.469

.438 510

.095 500

085 499

-.046 -.492

‘000 482

一.278 、469

一.104 一.417一.088

.259

.320

.177

-.052

-.309

-.152

.085

.148

-.381

-,730

.674

.570

.547

、060

.128

.373

-.119

.107

-.040

.199

-.178

.049

508700340

101235844

000311120

、712

.685

.499

.497

-.456114704

993238

001211

71160

85343

65544

一.198

-.245

-.215

.320

538

532

529397

一.046

.000

-.278

-.104

一.012

.198

.438

.095

085

.574

.411

、386

.247

.228

一.428

一.358

2658697

0742130

8755544

形 容詞因子1因子2因子3因子4

一.320

-.214

.135

.033

.162

--177

形容詞因子1因子2因子3因子4

1231531487729

8103709978057

0020011103111

良い

好き

男性的

美しい

健康な

まとまった

鈍い

平凡な

興奮的

つまらない

不安定な

派手な

動的

暗い

柔らかな

単純な

感情的

新しい

神経質でない

緊張した

暖かい

子供っぽい

陽気な

楽しい

深みのある

軽い

弱い

美しい

好き

良い

つまらない

まとまった

新しい

男性的

深みのある

動的

興奮的

感情的

不安定な

子供っぽい派手な

暗い

陽気な

楽しい

軽い

神経質でない

暖かい

健康な

緊張した

弱い

平凡な

単純な

柔らかな

鈍い

、803

.718

-.677

.613

.585

.420

8020586

6778363

1100012

233023620625530102

912676117064174723

011010030000211010

764361221251617477205863253

361147048913161081654959092

016101111110000210110200633

、854

.841

.790

-.648

19497766

42265125

01112201

36148389230758

09341296073063

10010100100323

5483276958964666875216

0812091170000915546042

2012112110113131020210

87412487185783346684245

62251523569623530521330

33320000200011023001020

一.300 一.606

一.034 一.716

8180365741888

7385924612022

3322100010001

一.071 648 831

.763

710

536

485

405

122

一.432 576

、538

571

一.260

一.051

100

性因子に属していたため1および3と記入した。

表7は,1因子のみに因子負荷量が高かった形容詞

対を1点,2因子にまたがって因子負荷量が高かった

形容詞対を0.5点として得点化し,まとめたものであ

る。なお,得点が3点以上,なおかつ属する因子が長・

原口(2013)と同じ結果となった形容詞対には網掛け

している。

表7より,活動性因子は12項目中6項目,明るさ因

子は8項目中5項目,評価性因子は4項目中3項目

(他の因子と重複したものを除く),やわらかさ因子は

3項目中1項目が,長。原口(2013)と同じ結果となっ

た。

しかし,それ以外の形容詞対は他の因子に属してい

る,あるいはどの因子にも含まれていないことから,

評定する絵画によって,どの因子に含まれるかが変わ

表5全絵画の因子分析の結果

、457

形容詞因子1因子2因子3因子4

一.226

一.062

.207

興奮的

動的

派手な

感情的

単純な

つまらない

弱い

平凡な

男性的

鈍い

深みのある

美しい

好き

良い

まとまった

不安定な

健康な

子供っぽい

陽気な

暖かい

神経質でない暗い

楽しい

軽い

緊張した

新しい

柔らかな

283947859036136415580412

640932102928735564017562

100203230100110111011013

806 -.077 58644898692

46643075807

10020001211

、766 一.201

、701 108

.654 -242

一.640

一.610

一・595

一.579

絵画印象の研究における形容詞対尺度構成の検討Ⅱ

751532309

034530386

211022112

、689

.662

.471

-.466

.439

一.134

.100

-.226

一.370

.346

771633525

530327309

001322300

、814

.722

.698

.582

-.555

.544

-.476

2921861

4380550

0112034

0328436

3305782

0102400

る形容詞対である可能性がある。

表6因子分析の結果のまとめ

-48-

、353

-.258

-.146

.104

一.578

.512

.401

71826

ノ0044

02121

・-.450

番号

22

13

26

19

24

10

27

16

25

20

15

23

判4

21

形容詞対‘

不安定な‐‐安定した

興奮的・・沈静的

動的一 静 的

個性的な一平凡な

ばらばらな一まとまった

男性的一女性的

感情的.‐理知的

強い..弱い

不健康な・・健康な

新しい-古い

子供っぽい一大人っぽい

派手な.‐地味な

明るい..暗い

楽しい -寂 しい

表面的一深みのある

暖かい=冷たい

軽い. 重 い

単純な・・複雑な

神経質でない一神経質な

陽気な一陰気な

美しい..醜い

面白い..つまらない

好き・嫌い

良い い

柔 らかな-固い

ゆるんだ一緊張した

鈍い-鋭い

因子名

活動性

活動性

活動性

活動性

活動性

活動性

活動性

活動性

活動性

活動性

活動性

舌動性

明るさ

明るさ

明るさ

明るさ

明るさ

明るさ

明るさ

明るさ

評価性

評価性

評価性

評価性

やわらかさ

やわらかさ

やわらかさ

画1 絵画2 絵画3 絵画4 全絵画

0101011

表7因子分析の結果のまとめ

OI51010

01310

1110

2110

0131210

久留米大学心理学研究第13号2014

01310

0 1 1 1 1 1 ‐ I

01110

2101110

0121012

研究2絵画印象を評定する形容詞対尺度構成

目的

研究1より,4枚の絵画印象の多くは,活動性因子

(6項目:不安定な一安定した,興奮的一沈静的,動

的一静的,個性的な-平凡な,感情的一理知的,派手

な一地味な),明るさ因子(5項目:明るい-暗い,

楽しい-寂しい,暖かい-冷たい,神経質でない-神

経質な,陽気な一陰気な),評価性因子(3項目:美

しいー醜い,好き一嫌い,良い-悪い),やわらかさ

(1項目:柔らかな-固い)の4因子,形容詞対15項

目で評定されることが分かった。しかし,作成された

尺度は,各因子の形容詞対の項目数に大きなばらつき

があった。

そこで,研究2は,長・原口(2013),Markovi6&

Radonji6(2008),筒井・近江(2010)より,評価性

因子に含まれると考えられる,面白い-つまらない,

快い一不快なの2項目,やわらかさ因子に含まれると

考えられる,ゆるんだ一緊張した,くつろいだ一張り

つめた,穏やかな一厳格な,やさしい一乱暴なの4項

目,計6項目の形容詞対を新たに加えた尺度を用いて

再調査し,形容詞対尺度を検討することを目的とした。

方法

調査協力者

大学生および大学院生82名(男性21名,女性57名,

不明4名)に調査に参加してもらった。

評定尺度

絵画印象を測定する尺度として,研究1で得られた

尺度に6項目を加えた,活動'性因子(6項目:不安定

な-安定した,興奮的一沈静的,動的一静的,個性的

な-平凡な,感,情的一理知的,派手な一地味な),明

るさ因子(5項目:明るい-暗い,楽しい-寂しい,

暖かい-冷たい,神経質でない-神経質な,陽気な一

陰気な),評価性因子(5項目:美しい-醜い,好き一

嫌い,良い-悪い,面白い-つまらない,快い-不快

-49-

因子

活動性

明るさ

評価性

柔かさ

形容詞対

不安定な一安定した

興奮的一沈静的

動的一静的

個性的な.‐平凡な

ばらばらな..まとまった

男性的一女性的

感情的一理知的

強い-弱い

不健康な一健康な

新しい-古い

子供っぽい一大人っぽい

派 手な ・地 味な

明るい-暗い

楽しい-寂しい

表面的・・深みのある

暖かい-冷たい

軽い-重い

単純な一複雑な

神経質でない一神経質な

陽気 な一 陰気 な

美しい-醜い

面 白 い ・ ・ つ ま ら な い

好き一嫌い

良い-悪い

柔 ら か な ・ ・ 固 い

ゆるんだ一緊張した

鈍い-鋭い

活動性■ 4

3壁

13.5

0.5

2.5

明るさ

1.5

1.5

陥繍

0.5

評価性

1.5

4.5

2.5

41

柔かさ

』溌蕊3

0-5

237597758252

012451762514

111200120111

■■巳e●■■■●■■■

な),やわらかさ(5項目:柔らかな-固い,ゆるん

だ一緊張した,くつろいだ一張りつめた,穏やかな一

厳格な,やさしい一乱暴な)の4因子,21項目の形容

詞対を使用した。評定法は,SD法による7段階評定

である。

絵画刺激

研究lと同様に,Markovi6&Radonji6(2008)

の研究で使用された,FiguralRealismおよびAb‐

stractartの絵画の中から,長・原口(2012)より得

られた規則性と単純性の主成分得点の両極に位置した

絵画を各2枚,計4枚を選択し使用した。

手続き

A4の用紙に1枚ずつカラー印刷した12枚の絵画を

ランダムに並べ替え,冊子にした絵画刺激と調査用紙

を配付した。絵画印象を評定する尺度について,絵画

を1枚ずつ見ながら評定してもらった。

結果

表8は,3相データを,形容詞対×(絵画×調査協

力者)の2相データに構成し,最小二乗解,プロマッ

クス回転による因子分析の結果をまとめたものである。

因子分析の結果,絵画印象は,活動性因子(動的一静

的,不安定な一安定した,個性的な一平凡な,派手な一

地味な),明るさ因子(明るい-暗い,陽気な一陰気

な,暖かい-冷たい,楽しい-寂しい),評価性因子

(良い-悪い,美しい-醜い,好き一嫌い,快い一不

快な),やわらかさ因子(ゆるんだ一緊張した,くつ

ろいだ-張りつめた,穏やかな-厳格な,柔らかな-

固い)の4因子(説明率58.7%),各4項目の計16項

目で評定されることが分かった。

次に,表8の因子分析の結果から,絵画印象につい

て図1のモデルを仮定し,Amos2LO(IBM)を用

いて,構造方程式モデリングによる分析を絵画ごとに

行った。

表9は,因子から項目へのパス係数を絵画ごとにま

とめたものである。分析の結果,活動性からのパス係

数の絶対値が.03~、79,明るさからのパス係数が.50~

85,評価性からのパス係数が.62~.92,やわらかさか

らのパス係数が.53~、85であった。活動性因子の「不

安定な一安定した」など,一部パス係数が小さい形容

詞対・はあったものの,ほぼ全ての形容詞対で高い値が

みられた。したがって,絵画印象は4因子16項目で評

定されると言える。

表8因子分析の結果

6937,廷FD084.

判Iイー“l剖I割lゴーハd部IFDの皇、廷Q》no14罰l弐1

XXXXXXXXXXXXXXXX

形容詞対 活動性明るさ評価性やわらかさ共通性

288224915712

087209576011

100100110102

■■。■●■■■■■や②

静的

安定した

平凡な

地味な

暗い

陰気な

冷たい

寂しい

悪い

醜い

嫌い

不快な

緊張した

張りつめた

厳格な

固い

動的

不安定な

個性的な

派手な

明るい

陽気な

暖かい

楽しい

良い

美しい

好き

快い

ゆるんだ

くつろいだ

穏やかな

柔らかな

.693

.646

.643

.505

、278

-.168

-.136

.368

86685719

34116292

03010001

■P■■■g■■

絵画印象の研究における形容詞対尺度構成の検討Ⅱ

5897612151481344

8434091935793656

7536764476666543

■甲■■●■■●■甲■印。■●巴

-.067

-.065

.043

.170

、804

.752

.646

.497

、927

.891

.655

.475

61698151

14121365

01000000

、858

‘833

.809

.732

12.10

58.7

説明分散

説明率

-50-

4274586003610956

5534865586776665

久留米大学心理学研究第13号2014

図1絵画印象の因子モデル

表9構造方程式モデリングによる分析の結果

0329084422240560

6027776797888676

形容詞対 絵画1絵画2絵画3絵画4因子

静的

安定した

平凡な

地味な

暗い

陰気な

冷たい

寂しい

悪い

醜い

嫌い

不快な

緊張した

張りつめた

厳格な

固い

xl6動的

爵×',不安定な性xl3個性的な

xl派手な

xl7明るい

曹刺②陽気なさx3暖かい

xl5楽しい

x5良い

鴛鯉美しい性x20好き

x9快い

やx8 ゆるんだ

わ×4くつろいだ1つ

力、xl8穏やかなさxl4柔らかな

因子間相関 28~.80.23~、90.10~、70.09~、68

4319219185220323

5245785566888675

.■■■●■■■●■■甲■■●■

7696333532885590

61-46776786888757

■●’◆炉●■■■■■■■e②●B

長・原口(2013)は,絵画の印象について研究され

た論文の中から,14本の論文を採択し,絵画印象の研

究で使用されたSD法による形容詞対尺度構成を検討

した。その結果,絵画の印象は,活動性因子(12項目),

明るさ因子(8項目),評価性因子(4項目),やわら

かさ因子(3項目)の合計4つの因子(27項目)で評

定されることが分かった。研究の課題として,作成さ

れた尺度を調査協力者に評定してもらい,実際にこれ

らの4因子に分かれるかについて調査すること,そし

て各因子に含まれる形容詞対の項目数にばらつきがあ

るため,研究で実際に使用する際は,各因子で用いる

形容詞対の個数を統一することが挙げられた。

そこで研究1では,長・原口(2013)で得られた絵

画印象を測定する4因子27項目の形容詞対について,

絵画印象を評定してもらった。その後,4枚の各絵画

および全ての絵画をまとめた,計5回の因子分析を行っ

た。因子分析の結果と長・原口(2013)の結果から,

絵画印象は活動性因子(6項目:不安定な一安定し

まとめ

- 51-

絵画印象の研究における形容詞対尺度構成の検討Ⅱ

た,興奮的一沈静的,動的一静的,個』性的な-平凡な,

感情的一理知的,派手な-地味な),明るさ因子(5

項目:明るい-暗い,楽しい-寂しい,暖かい-冷た

い,神経質でない-神経質な,陽気な一陰気な),評

価性因子(3項目:美しい-醜い,好き一嫌い,良い-

悪い),やわらかさ因子(1項目:柔らかな-固い)

の4因子,15項目の形容詞対で評定されることが分かっ

た。しかしながら,評価性因子およびやわらかさ因子

の形容詞対の項目数が他の因子と比べて少なかった。

そこで研究2では,評価性因子に含まれると考えら

れる,面白い-つまらない,快い-不快なの2項目,

やわらかさ因子に含まれると考えられる,ゆるんだ一

緊張した,くつろいだ一張りつめた,穏やかな一厳格

な,やさしい一乱暴なの4項目計6項目の形容詞対

を新たに加えた尺度を用いて再調査した。

因子分析の結果,絵画印象は,活動性因子(動的一

静的,不安定な-安定した,個性的な一平凡な,派手

な一地味な),明るさ因子(明るい一暗い,陽気な一

陰気な,暖かい-冷たい,楽しい-寂しい),評価性

因子(良い-悪い,美しい-醜い,好き一嫌い,快い-

不快な),やわらかさ因子(ゆるんだ一緊張した,く

つろいだ一張りつめた,穏やかな一厳格な,柔らかな-

固い)の4因子,各4項目の計16項目で評定されるこ

とが分かった。さらに,因子分析の結果をもとに絵画

印象の4因子モデルを仮定し,構造方程式モデリング

による分析を絵画ごとに行った。その結果,ほぼ全て

の形容詞対で高いパス係数がえられた。

しかしながら,活動性因子の「不安定な一安定した」

のパス係数が小さく,モデルの適合度をより高くする

には誤差間相関を仮定しなければならなかった。こ

のことから,パス係数が小さい形容詞対については,

尺度に採用するかどうかを検討する必要があると考え

られる。

以上の結果から,絵画印象は,活動性因子,明るさ

因子,評価』性因子,やわらかさ因子の4因子,計16

項目で評定されることが分かった。この結果は,

Osgoodらの意味構造は評価性(Evaluation),力量

性(Potency),活動性(Activity),この3次元によ

り多くの概念をおおよそ説明できる(荒木,1981)と

いう主張とはやや異なる。明るさ因子の「明るい-暗

い」,さらにやわらかさ因子の「柔らかな-固い」の

形容詞対は,先行研究では力量性因子としてまとまっ

て抽出される場合が多い。今回の結果のように,明る

さ因子とやわらかさ因子が独立して抽出されることは

少ない。また,明るさ因子と力量性因子に関しては,

ある程度共通する性質をもっていることが示唆される

が,やわらかさ因子に関しては,絵画印象などの芸術

作品を評定する場合に抽出される,特有の因子である

可能性がある。

また,本研究で使用した絵画刺激は,全て西洋絵画

であった。そのため,本研究で得られた形容詞対尺度

は,西洋絵画に限定されたものである可能性があり,

この点に関して検討する必要があると考えられる。

引用文献

荒木紀幸(1981).絵画鑑賞に関する心理学的研究

宮崎大学教育学部紀要,49,1-29.

長潔容江・原口雅浩(2012).絵画の秩序と評価に関

する感性心理学的研究九州心理学会第73回大会発

表論文集,19.

長潔容江・原口雅浩(2013).絵画印象の研究におけ

る形容詞対尺度構成の検討久留米大学心理学研究,

12,81-90.

Franklin,MB、,Becklen,R,C、,&Doyle,C,L・

(1993).Theinfluenceoftitlesonhowpaintings

areseen・LEONARDO,26,103-108.

石坂裕子・高橋晋也(2006).表現技法の教示が絵画

の印象に与える影響一遠近法の歪みに着目して一

心理学研究,77,124-131.

Markovi6,S、&Radonji6,A・(2008).Implicitand

explicitFeaturesofpaintings,SpatialVision,

21,229-259.

筒井亜湖・近江源太郎(2006).絵画における「面白

さ感」と色彩日本色彩学会誌,30,128-129.

-5 2-

久留米大学心理学研究第13号2014

ScaleconstructionofadjectivepalrsontheresearchofimpressionofpaintingsⅡ.

KIYoECHo(G7α血ateScノカooZQ/PSychoJo幻,K”u77zeU7zijueアsZ妙)

MAsAHIRoHARAGucm(Dep”tme7ztQ/PSycノZoZogy,FaczzZibノQ/Lj”at”e,Kzjrzz77zgU7zZue7siity)

Abstract

ChoandHaraguchi(2013)collectedl4papersthathaveusedthesemanticdifferentialtechniquetoratethe

lmpresslonofpaintingsandanalyzedthescales,Resultsindicatedfourfactors:Activity(l2items),Brightness

(8items),Evaluation(4items)andSoftness(3items).Thisstudyaimedtoratetheimpresslonabout4paint-

mgsusingthescalesofChoandHaraguchi(2013)andtoclarifytheconstructionofscalesofadjectivepalrs

byperformmgstructuralequationmodelingparpaintingsassuming4factorsconstruction,Itisconcluded

that,thescalesusedforratingImpress1onsaboutpaintingsareconstructed4factors:Activity(4items),

Brightness(4items),Evaluation(4items)andSoftness(4items).

Keywords:impress1onofpajntings,semanticdifferentialtechnique,adjectivepalr

-53-