犯罪被害者救済に関する一考察 - 立命館大学 - …2 損害賠償の実態...

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犯罪被害者救済に関する一考察――犯罪被害賠償基金設立への展望――

吉 木 栄(公法専攻・法政専修コース)

は じ め に

現代社会は,社会関係の複雑化と価値観の多様化にともない,犯罪態様

も多様化し,一般的に理解し難い犯罪が氾濫している。たとえば,通り魔

殺人のように,客体は不特定で,かつ有責性を伴わなくとも犯罪被害者と

なりうるという現状である。このような犯罪被害に遭遇したとき,われわ

れはどこまで精神的・経済的損害回復ができるというのであろうか。

犯罪被害者は,犯罪によって,自己の安定していた生活を破壊され,身

体的,心理的,財産的な損害を被る。その被害者化の過程で様々な変化が

もたらされるが,犯罪被害者の多くは,自己に加えられた侵害がきちんと

処理されることを望んでおり,それが実現されなければ,被害者の正義感

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は じ め に

第一章 わが国における現行損害回復制度

一 加害者による損害賠償

二 国家による損害回復制度

三 小 括

第二章 諸外国における損害回復制度

一 司法上の損害回復

二 小 括

第三章 犯罪被害補償制度の展望

一 犯罪被害賠償基金の設立

二 わが国における射程

お わ り に

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情・応報感情は切り裂かれることになる。しかし,現行刑事司法は裁判官,

検察官,被告人・弁護人という三面構造であり,加害者関係的に遂行され

る結果,被害者はあくまでも証人に過ぎず,被害者の正義感情・応報感情

が充足されることはない。被害者にとっての正義は,加害者の責任が確定

され,その行為が否認され,物質的・精神的な損害調整が行われてはじめ

て実現されるのである。このように考えると,犯罪が単に国家規範違反に

尽きるものではなく,犯罪が具体的な被害者を侵害することだという当然

の事柄を確認することが,より重要なのではないか。

一般的に,犯罪は正統な対価を払わずに,他人を犠牲にして何らかの利

益をうる行為である。したがって,そのような行為をした者からは,不当

に利得されたものを剥奪し,一方,犠牲になった者の利益は,できるだけ

それ以前の状態に戻すことが正義に適っている。不幸にして殺人の犠牲に

なった人々は戻らず,重傷害を負った被害者の身体を完全に戻すことは困

難だが,遺族や障害を負った被害者の生活をできるだけ以前の状態に近い

ところまで戻し,失われた経済的利益を回復することは,精神的回復にも

大きく寄与するものであり,正義の要求であると思われる。

そうであるならば,犯罪被害者における経済的損害回復の現状を考える

とき,犯罪被害者と加害者にとっていかなる経済的損害回復手段が最も正

義に適っているのであろうか。

第一章 わが国における現行損害回復制度

一 加害者による損害賠償

一般に「被害者」とは,他人の不法行為や犯罪によって権利の侵害や損

害を受けた者であり,刑事訴訟法上は告訴ができ,民事法上は損害賠償を

請求することができるとされる。

わが国の裁判は大別して刑事裁判と民事裁判に分かれている。

犯罪被害者救済に関する一考察(吉木)

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1 被害者と加害者の関係

刑事上の被害者と加害者の関係

刑事裁判は国家が犯罪者を処罰するためのもの1)であって,検察官が原

告の立場2)で被告人の処罰を求めることになっており,現在は外国のよう

な付帯私訴等の制度(第二章にて後述)がないため,犯罪被害者は当該事

件の当事者であっても,刑事訴訟における当事者ではない。この点につい

て,被害者の権利として,刑事訴訟上の当事者としての権利付与を主張す

る見解3)がある。

しかし,刑事訴訟上「被害者の権利」として法的地位を付与された場合

には,特に「意見陳述権」が問題となる。第一に,「意見陳述権」を権利

行使する被害者と権利行使しない被害者に差異が生ずるのではないか。ほ

ぼ同種同様の事件であっても,意見陳述があった事件となかった事件では

量刑が異なってくる危惧は拭えない。そもそも量刑については責任主義の

範囲で公正に判断されなければ正義に反することになる。特に,事実認定

においては,客観的判断とはいえ,判断を下す裁判官も人間である以上,

予断・偏見が生ずる可能性があり,冤罪・誤判の生ずる可能性は否定でき

ない。したがって,被疑者・被告人の防御権の保障として,反対尋問を経

ない一方的意見陳述は認められるべきではない。第二に,意見陳述をしな

い被害者に対して,それを行使しないことに対する社会的非難や圧力を生

じさせるのではないか。犯罪被害者実態調査4)を見ても,被害者感情は複

雑で多面性を有することは明らかである。被害者の中には事件を思い出す

ことを苦痛に感じ,公判に出廷することを拒否する人々も存在することを

忘れてはならない。

とするならば,現在の刑事手続構造が裁判官・検察官・被告人という三

面構造を前提としている以上,被害者に手続関与ができる場合であっても

犯罪被害者の意見陳述は心情陳述であり,事実認定にむけての意見は認め

られず,刑事裁判上での積極的当事者とはなりえない。

民事上の被害者と加害者の関係

立命館法政論集 第2号(2004年)

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民事裁判は私人の権利に関する紛争を処理するためのものであって,被

害者は原告となって加害者を被告に損害賠償請求をすることができる。損

害賠償の大前提として,自らの行為で人に損害を与えた者は,その行為の

結果を引き受けるべきであり,犯罪の被害回復は,加害者である犯人が行

うのが大原則である。すなわち,犯罪行為により被害を受けた者またはそ

の遺族は,民法709条の不法行為責任に基づく損害賠償請求を行うのが原

則とされる。もっとも,未成年者や精神障害のために物事の是非善悪の弁

識能力を欠き責任能力がない者に対しては,損害賠償請求はできないが,

民法714条による責任無能力者の監督義務者等の責任に基づき,たとえば

親権者(民法820条),保護者(精神保健および精神障害者福祉に関する法

律20条,21条)等に対して損害賠償請求ができる。したがって,犯罪に

よって発生した損害は,基本的には,不法行為責任に基づき,加害者が被

害者に賠償・弁償すべきものである。

しかし,犯罪被害者救済として,従来から,この民事的救済は殆ど機能

してこなかった。というのは,被害者側が犯人に損害賠償請求を提起し勝

訴の見込みが明白であっても,犯人側に支払能力のない場合が多く,民事

裁判に訴える意味がないためである。

犯罪被害の実態に関する調査報告5)によると,事件による損害について,

民事訴訟を提起したかについて,各罪種とも「起こしておらず,今後も起

こすつもりはない」(全体の57.1%)とするものの比率が最も高い。その

不提起理由としては,「これ以上相手と関わりあいたくない」(同約62%),

「勝訴しても,相手方の資力からみて,損害が取り戻せない」(同約32%)

とするものが大半で,特に,殺人等では68.1%と最も高くなっている。他

方,「起こした」,「今後起こす予定である」を併せた比率は約20%台で,

その提起理由としては,殺人の75%,業過致死の75.9%,業過傷の71.4%,

および傷害の81.8%が「加害者に謝罪や反省を求めるため」としている。

では,損害賠償の実態はどのようになっているのであろうか。

犯罪被害者救済に関する一考察(吉木)

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2 損害賠償の実態

犯罪被害の実態

2000年犯罪被害の実態調査報告6)によると,被害者への損害賠償の実態

としては,第一に、犯罪被害者が犯罪による直接的な被害に加えて,多様

な精神的影響および生活面への影響を受けており,特に犯罪被害者遺族に

おいては,80%以上の者が,多様かつ深刻な精神的影響および生活面での

影響を受けていることが判明した7)。第二に、被害者等への謝罪,示談等

について,業過致死および業過致傷では,保険制度の普及を背景として

(代理人による謝罪,保険会社からの示談ではあるが),かなり行われてい

るのに対し,その他の罪種では行われる比率が低い。とりわけ殺人罪では

1割と極端に低く8),「謝罪もなく示談の見込みもない」とする場合が約

7割を占め,支払があったとしても加害者に無資力な者が多いためか加害

者本人からの支払は約12%と極僅かであった9)。第三に,被害者側が加入

している保険金の受領状況については,受けていない者が半数を超え,受

けたとする者のうち,約4割の者が支払額が損害補填に十分でなかったと

しており,特に,殺人(約47%)と傷害(約53%)が高くなっている10)。

第四に、被害感情を決定付ける要因として,罪種ごとに多様な要因はある

が,一部の罪種,特に生命・身体犯では,事件による精神的影響や生活面

での影響および謝罪・賠償金全額支払等の有無が重要な要因と考えられる

こと11)が明らかになった。

では,犯罪加害者の被害者に対する意識はどのようになっているのであ

ろうか。

被害者に対する加害者意識

2000年加害者意識に関する報告書12)によると,第一に,生活上の影響に

ついては,加害認識を有する者は,殆どすべての罪種において被害者に対

して「申し訳ないという気持ち」を持つ傾向が認められる13)。第二に,事

件の責任の全部または一部が被害者にあると考える者は,被害者に対して

「申し訳ないという気持ち」を持たないという傾向が認められ14),被害者

立命館法政論集 第2号(2004年)

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の苦悩を加害者に正確に理解させることが重要と思われる。特に,「前よ

りも,申し訳ないという気持ちが強くなった」とする者の気持ちの変化の

きっかけについては,「謝罪をしたこと」,「示談や弁償の手続きをしてい

る中で」に優位な関連が認められる15)ことから,謝罪等の行動は,被害者

に対する「申し訳ないという気持ち」を深める手がかりとなる。第三に、

謝罪,示談,弁償との関連については,申し訳ないと思う者は,謝罪等の

行動に積極的であることが認められるが,窃盗・詐欺等の一部罪種におい

ては謝罪を行った者に被害者感情が緩和したと受け止める傾向がある。

一方,暴力団関係受刑者では,とりわけ,傷害,恐喝,殺人等に関わっ

た者は,被害者に対して申し訳ないという気持ちを持っていないものが多

く,被害者やその家族の生活上の影響についても認識していない傾向が強

い。また,財産犯を中心とした累入者においても,間接的被害に対する認

識が希薄であり,申し訳ないという気持ちが少ない上に,今回の服役等の

事実で被害者感情は既に緩和していると考える傾向があり,被害者の気持

ちを詳しく知りたいとの意向を持たないものが多い16)。

では,暴力関係者および累入者に「他者感覚の喪失」傾向が強いという

ことから,各種犯罪被害の実態と被害回復および慰謝の措置の程度と刑事

処分内容との関係はどのようになっているのであろうか。

犯罪被害の回復状況と刑事処分内容の関係

財産犯については,被害額は全体を通して1万円を超え10万円以下が最

も多く,全般的には被害還付のなされる割合が高い17)。また,被害額の大

きさのみならず被害回復率の程度が訴追の要否や量刑に当たっての判断要

素の一つとされており,被害弁償による被害回復を促す要因18)となってい

ることがうかがえる。

生命犯等については,示談成立と示談交渉中を併せたものの比率は,罪

種別にみると,過失犯が高く,強制わいせつにおいても比較的高いのに対

して,殺人では極端に低くなっている19)。特に,過失犯における被害者死

亡等の重大結果の場合には,示談の成否が処分内容に大きな影響を与えて

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おり,性犯罪においても被害者との示談の成否が起訴・不起訴および実

刑・執行猶予の判断に極めて大きな要素になっている20)ことから,被害回

復の程度や被害者との示談の成否が刑事処分に当たっての要素とされてい

ることが,被害者に対しての被害弁償や慰謝の措置を講じることを促す結

果となっているものと思われる。

しかし,実務上,被害回復の程度や被害者との示談の成否が刑事処分に

当たっての要素とされているということは,真摯な反省の有無を問わず,

資力のある加害者では起訴されて実刑に処されるということが少ないが,

そうでない加害者には逆という不公平感が残存する。

3 問 題 点

加害者による損害賠償は,民事上の損害賠償請求に基づくものが原則で

ある。公害被害者や薬害被害者,自然災害被害者においては,加害者が大

きな資力を有する大企業や国家であり,不法行為に基づく民事訴訟や行政

訴訟によって勝訴した場合には,損害賠償が実現される。また,同じ犯罪

被害でありながら,自動車事故(業務上過失致死傷罪)被害者においては,

自賠責保険によって,損害賠償が実現される。

ところが,前述の通り,一般刑法事犯においては,民事上の損害賠償請

求で勝訴したところで犯罪者の大半が無資力であり,特に身体・生命の侵

害という被害の重大さに比して損害賠償が現実的に機能していない状況で

ある。また,平成12年に制定された犯罪被害者関連二法(同年11月施行)

で「民事上の和解規定」(付随措置法4条関連)が設けられ,加害者に資

力があれば,それとの和解が裁判上の効力を有するので,和解条項に基づ

き加害者の財産を差し押さえる等の強制執行が可能となったが,現実には,

実際の支払の確実性が乏しいうえ裁判所が実質的内容に介入できないため,

利用例は極僅か21)という状況である。結局,加害者が無資力である限りに

おいては,加害者からの民事上の損害賠償制度が犯罪被害回復には殆ど機

能していないという現状である。とはいえ,加害者が特定できなかったり,

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このように加害者が特定できても無資力であったりする場合には,速やか

な賠償が望めないとするならば,被害者感情は緩和せず,救済されない。

そこで,このような犯罪被害者救済策として,わが国をはじめ諸外国で

は国家による補償がなされているが,犯罪被害者の経済的損害回復の補填

として十分機能しているのであろうか。次節ではその実態を検討してみた

いと思う。

二 国家による損害回復制度

わが国には,被害者への補償制度を定めた法律として,① 警察官の職

務に協力援助した者の災害給付に関する法律,② 海上保安官に協力援助

した者の災害給付に関する法律,③ 証人等の被害についての給付に関す

る法律,④ 公害健康被害の補償等に関する法律,がある。また,特別立

法として,自然災害被害者に関しては,⑤ 災害救済法が制定されている。

その他として,⑥ 自動車損害賠償保障法に基づく自賠責保険,⑦ 犯罪被

害者等給付金の支給等に関する法律がある。本課題の中で,特に注目され

るのは⑦である。

「犯罪被害者等に対する給付金支給制度」は故意犯による犯罪被害者救

済措置として設置されたものであり,その理念は,突然不慮の犯罪に遭っ

て死亡したり,障害の残ったりした被害者に,国が損害の一部補填も兼ね

て見舞金を支給するものと説明されている22)。

1 犯罪被害者等に対する給付金支給制度

この制度は見舞金の形を取っている。その根拠は,殺人・傷害の犯罪行

為によっていわれのない被害を受け,民事賠償も受けられず泣き寝入りせ

ざるを得ない気の毒な被害者に対して,他の国民も潜在的被害者となりう

る以上は社会全体の連帯共助の精神から損害の一部補填を含む見舞金とし

て金銭給付を行い,もって被害者の精神的・経済的打撃を緩和することに

より,法秩序に対する不信感を除去することに求められる。

犯罪被害者救済に関する一考察(吉木)

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この制度の趣旨は,「人の生命または身体を害する犯罪行為により,不

慮の死を遂げた者の遺族または重傷病を負ったもしくは障害の残った者」

に対し,国が遺族給付金または障害給付金として一時金を支給することに

ある(犯給法1,4条)。給付金の種類としては,① 被害者が死亡した場

合の遺族給付金,② 被害者が重傷病を負った場合の重傷病給付金,③ 被

害者に障害が残った場合の障害給付金がある(犯給法2条5項)。

運用状況は,平成15年度版犯罪白書によると,犯罪被害者等に対する給

付金支給は,平成13年7月1日の改正により支給最高額は1,079万円から

1,573万円,支給最低額は220万円から320万円に引き上げられ23),支給裁

定総額は11億2700万円支給されたが,その内の遺族への支給額は9億6200

万円である。申請者は平成11年から増加傾向にあり,平成14年は544人で,

その大半は遺族である。障害給付金が僅かに認められるものの,新たに創

設された重傷病給付金(2001年7月1日施行)については最高額が19万円

であるが,同年施行日以降の犯罪被害者が対象であるため,平成13年に7

人の申請があったが,これは裁定されていない。因みに,平成14年度の支

給裁定者の総数は566人で,そのうち遺族が463人,傷害が40人,重傷病が

63人である。平成14年度の支給額の遺族一人当たりの平均は僅か約207万

円である。

一方,同じく加害者が特定できなかった,または特定できても無資力

(無保険)であった場合,自動車事故(業務上過失致死傷罪を含む。)に

よって不慮の死を遂げたもしくは負傷した被害者には,政府が損害を補填

する自動車損害賠償保障事業24)から支払われるが,自動車損害賠償保障制

度における平成13年(会計年度)の保障事業の支払状況は,ひき逃げ

3,574人および無保険591人の支払額は死者一人当たり平均約2,169万円,

負傷者一人当たり平均約51.1万円である(国土交通省自動車交通局の資料

による)。

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2 犯罪被害者救援基金

被害者等に対する救援事業として,1981年に財団法人犯罪被害者救援基

金が設立された。この基金は,犯罪被害者給付制度と同様の社会連帯共助

の精神をその法的性格として,国の拠出金と個人および団体の寄付を合わ

せた浄財を基礎25)として運用されており,人の生命・身体を害する犯罪行

為により不慮の死を遂げまたは重障害を受けた者の子弟のうち,経済的理

由による就学困難者に対して,奨学金や学用品費(以下「奨学金等」とい

う。)の給与,その他犯罪被害者にかかわる救援事業26)を行う組織である。

奨学金等の事業は他国に類例を見ないわが国独自の制度である,とする。

奨学金等給付事業の奨学金は「給与」であるから返済義務はなく,対象

となる子弟に毎月給与されるものと,小学校ないし大学の入学時に給与さ

れる一時金とがある27)。給与対象は,① 人の生命または身体を害する犯

罪行為により,不慮の死を遂げた者または重障害を受けた者の子弟,②

犯罪被害を受けた時点において,主として被害者の収入により生計を維持

していた子弟,③ 小学校,中学校,高等学校,専修学校の高等課程もし

くは専門課程,高等専門学校,大学(大学院を除く),または盲学校,聾

学校もしくは養護学校に在学し,学業,人物ともに優秀で,かつ学資の支

弁が困難と認められる子弟,である。

制度実施以降の採用状況は,小学生が最も多く,大学生の採用は最も少

ない。犯罪被害者別にみると,制度実施以降1997年までの被害事件764件

で採用された奨学生は1,341人で,そのうち殺人被害の子弟が全体の

60.7%,傷害致死が同23%,強盗殺人が同11.9%となっており,障害は

0.8%に過ぎず,奨学生として採用される者は圧倒的に遺児である。

3 問 題 点

上述のとおり,社会連帯共助として政府が損害補填を行う「犯罪被害者

等に対する給付金制度」の給付金の額は,同じく社会連帯共助として業務

上過失致死傷罪を含む自動車事故被害者に対して政府が損害補填を行う

犯罪被害者救済に関する一考察(吉木)

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「自動車損害賠償補償事業」の給付金と比較して小額である。

この点,犯罪被害者支援の先進諸外国における「国家による損害補償制

度」は,損害賠償型,労災型,見舞金型など性格は様々であり,その補償

対象となる犯罪の種別や受給者の範囲,補償金額等の相違はあるものの,

治療費,通院費,休業補償等,被害者の身体的回復および精神的回復にお

ける経済的支援が充実しており28),国家による犯罪被害者への金銭的支援

の必要性が世界的認識となっている。

しかし,損害賠償型,労災型という経済的支援の実現のためには,その

財源確保が重要課題となる。財源確保については,その経済情勢によって

大きく作用され,現在の世界的不況下においては,新たな国家補償制度の

創設に向けた増税等の国民負担はかなり困難をともなうものと思われる。

また,国家施策によるその他のさまざまな種類の被害者との関係において

犯罪被害者のみを特別扱いする根拠が問題となる。このように現行制度は,

財源の点からも,その他の被害者との関係からも,その適用要件は限定さ

れており,身体的回復・精神的回復までの経済的支援には乏しい一時的救

済でしかない。

とはいえ,犯罪被害者に関する世論調査(平成12年9月)でも,犯罪被

害者給付制度について65.2%が「支給額を増やした方がよい」とし,支給

対象者範囲についても63.0%が「広げた方がよい」と答えており,また他

方では,ひき逃げや無保険車による事故で自賠責保険や自賠責共済では救

済を受けられない気の毒な交通事故被害者に対して政府が損害を補填する

自動車損害保障事業の存在をも念頭におけば,犯罪被害者への国による給

付金額も,たとえば,後者の程度の額までは引き上げられてもよいのでは

ないだろうか。

また,「犯罪被害者救援基金」についても,同じ不慮の死を遂げた者の

遺児でありながら,自動車交通事故の遺児を対象とした援助体制と比較す

ると,犯罪被害者遺児への援助は明らかに貧弱である。自動車交通事故の

遺児を対象としたものとして,① 独立行政法人自動車事故対策機構

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(NASVA)29)では,一定の要件はあるものの,後遺障害保険金・共済金お

よび自動車損害賠償保障事業の保償金の立替貸付事業として,無利子貸付

や介護料の支給がなされ,②(財)交通遺児育成基金30)では,対象は限定

されているが,19歳に達するまで年金方式で育成給付金が支給され,③

(財)交通遺児育英会においては,貸与(無利子)ではあるが,応募要件

は比較的緩く31),その他の奨学金との併用が可能で,その対象を高校生,

専門学校生,短大生,大学生,および大学院生等としており最高学府への

進学の道が開かれている32)。

このように,犯罪被害者救援基金の奨学金等が給付であるとはいえ,そ

の給付は圧倒的に低学年齢層が多いのに比して,交通遺児育成基金による

育成給付金や交通遺児育英会の奨学金は,一定の要件があるものの,長期

間にわたる給付および最高学府への進学の道が開かれており手厚い援助体

制となっている。思うに,第三者の手によって最愛なる家族が不慮の死を

遂げた者の遺児であるという点では同じ境遇であり,このような格差は不

当といわざるを得ない。たとえば,罰金等を融通するなどの手段を講じ,

犯罪被害者救援基金の奨学金給付等も交通遺児と同等の援助体制がなされ

てもよいのではないだろうか。

三 小 括

以上のとおり,わが国における「加害者による損害賠償」,「国家による

損害補償制度」の実態を検討してきた。しかし,これらは被害者の経済的

回復には十分機能しているものとはいえない現状にあることが明らかと

なった。

では,加害者による被害者への民事上の損害賠償の実現において,それ

を刑事上の和解・弁償プログラムとして国家の介入によって強制力をもた

せることは可能であろうか。この点,諸外国では,被害者の損害回復にお

いて,国家が関与した司法上の損害回復制度が採用されている。次章では,

これらの損害回復制度を検討してみることにする。

犯罪被害者救済に関する一考察(吉木)

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第二章 諸外国における損害回復制度

一 司法上の損害回復

1 付帯私訴制度

特 徴

付帯私訴には,別途民事訴訟を提起して同じ問題について争う二重の手

間や刑事裁判と矛盾した民事裁判の結論を回避すること,被害者の速やか

な経済的な被害回復を図ることなどの目的がある。被害者にとっては,簡

易,迅速,安価に民事裁判を受けられるという利益があり,「被害者の民

事的救済に役立つものである」とする見解33)がある。そこで,私訴制度の

代表的存在であるフランスと,わが国と同様に刑民が峻別されているドイ

ツの運用状況を検討してみる。

運用状況

(2-1) フランスの運用状況

代表的なフランスの付帯私訴制度は,被害者の手続き的権利の根拠を損

害賠償権に認めるものであり,頻繁に活用されているが,刑事裁判所で行

使される私訴権については,被害者の損害回復は刑事司法の副次的課題で

あるとして位置付けられている34)。公訴提起は検察官が行う起訴便宜主義

が採用されており,検察官が予審開始請求を行わない場合には,予審開始

請求をなさしめ(訴追権),かつ民事請求を行うという形式によって私人

訴追が認められ,刑事裁判において証人申請,尋問,弁論,上訴等を行う

権利が私人原告人(被害者)にも認められる35)。もっとも,これらの権利

の理論的根拠は,賠償請求権であり,それが刑事裁判所で扱われるために,

被害者に刑事手続の当事者としての地位が認められているものである36)。

犯罪被害者が私訴権を行使して損害賠償を求めた場合,重罪法院,軽罪

裁判所,および違警罪裁判所は,これについて裁判をし,被告人に対して

損害賠償の支払を命じることができ,私訴と並行して職権または申し立て

立命館法政論集 第2号(2004年)

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により差し押さえられた物の所有者への還付を審理中に命じることができ

る。被告人に無罪または刑の免除の言い渡しがあったときにおいても,被

告人の責に帰すべき事由から生じた損害については,私訴原告人に対する

損害賠償の支払を被告人に命じることができる(フランス刑事訴訟法372

条)。また,保護観察つき執行猶予,宣告猶予の言い渡しについては,遵

守すべき特別義務として,犯罪によって生じた損害の全部または一部の賠

償を課すことができ,その特別義務に従わない場合には取り消すことがで

きる。実務では,被告人を宣告猶予にしておいて,損害賠償等の完了を

待って刑の免除をするという運用がなされており37),私権を優先させてい

ることがうかがえる。

(2-2) ドイツの運用状況

ドイツでは,私人訴追と和解手続(詳細は2.刑事和解制度にて後述。)

が結合しているため,比較的軽微な刑法上の紛争は,行為者と被害者の直

接的接触によって処理するものとされている38)。しかし,私人訴追におけ

る損害回復規定(刑訴法153条 a)による指示は事案の1%以下であり,

法的現実において,副次的な役割しか果たしていない39)。

ドイツの運用状況は,ドイツの刑事裁判所関係の統計によると,1997年

の区裁判所および地方裁判所での刑事事件の判決に出された件数のうち,

区裁判所における付帯私訴によるものは0.7%,地方裁判所では1.3%に過

ぎない40)。

問 題 点

フランスでは民刑の一致ということで,刑事が不起訴または無罪判決に

なれば被害者救済の道は閉ざされてしまうことになり,私訴判決の執行は

あまりうまくいってないという指摘もある41)。また,この制度では,加害

者である被告人に賠償能力がなければ,賠償を得ることができなかった42)。

この点,私訴だけでは十分でないので,憲法上の「公の災害に対する連

帯」を根拠に国家賠償43)がなされ,国家は加害者に求償できるとされてい

る。

犯罪被害者救済に関する一考察(吉木)

123

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ドイツではわが国44)と同様に民刑分離の思想が根強く,判断基準が異な

ることから訴訟の長期化45)への懸念も大きいため,付帯私訴の利用の現状

については,「手続きが遅延するおそれがあるとき決定により裁判をしな

いことができる」(刑事訴訟法405条,406条 a)とする規定が付帯私訴の

利用率を低くしている理由と考えられており46),再生の試みはあるものの,

法改正後もあまり活用されていない47)。結局は,被害者の損害賠償の方法

の一つとして,個々の裁判官がどの程度積極的に取り込むか否かに負うと

ころが大きい48)とされる。

被害者の積極的司法参加と被疑者・被告人との関係については,ドイ

ツ・フランスでは職権主義が採用されているので,被害者に訴訟関与を認

めても,検察官,被告人・弁護人と同様の訴訟の主導的役割を担うわけで

はない。結局,付帯私訴制度は,被害者にとっては損害賠償の実現方法の

一つであるが,加害者が無資力の場合には,実質的な損害回復は期待でき

ないものと思われる。

2 刑事和解制度

特 徴

刑事和解は,行為者に自発的な損害回復措置を行わせて,その社会復帰

を促進するとともに,被害者の損害回復を図り,ひいては紛争解決をもた

らすことを目標とするもので,法的国家的保障を堅持しながら被害者保護

を実現する点に特徴がある。和解によって,物質的損害の一部が回復され

るほか,被害者の不安感や精神的負担を除去し,法秩序への信頼を回復な

いし強化するといった意義に加えて,加害者に対しても,紛争解決への積

極的関与を通して,自己の誤った態度および行為の責任についての自覚を

促していくという教育的意義が存在することが理解されるようになってき

た49)。

特に,ドイツでは,実体法・手続法の両面から和解制度の充実・本格化

を図っており,刑事和解が大きな潮流となっている。

立命館法政論集 第2号(2004年)

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運用状況

ドイツでは,原則起訴法定主義であるが,1990年の少年裁判法の改正に

おいて,被害者・加害者の和解調停への努力が手続き打ち切りの要件ある

いは処分の内容として取り入れられた。これは軽微事件の場合,損害回復

のために被疑者に一定の弁償を行う等の賦課事項を加害者=行為者に課し

て公訴提起を一時的に見合わせ,これが現実に履行されたときには,検察

官は手続を打ち切ることができるとするものである。既に公訴が提起され

ている場合にも,裁判所で公判手続きの終了までは同様の処理が可能であ

る。

その後,1994年犯罪防止法(12月1日施行)によって,加害者と被害者

の和解,損害回復に関する規定が新設され,成人加害者と被害者との和解

プロジェクトが実施されている。犯罪が軽微でないため損害回復による手

続の打切りが認められない場合でも,行為者が被害者との和解に努め,そ

の行為による損害の全部または大部分を回復しまたは回復しようと真剣に

努力したときは,刑を減軽・免除することができる(刑法46条 a)。これ

により裁判所は,その刑を減刑し,または,1年以下の自由刑ないし360

日分以下の日数罰金が科せられるときは刑を免除することができ50),さら

に,和解機関51)で,両者が損害回復に合意し,加害者が取り決められた損

害回復を行った場合,裁判所の合意の下で刑事手続の打ち切りを行うこと

ができる。

ドイツ連邦司法省発行資料「Tater-Opfer-Ausgleich in Deutschland」に

よると,この制度の運用状況は次のようなものである。1995年に11の州の

42の和解プロジェクト実施機関が実施した和解対象案件は1,813件で、最終

的に和解が全部または一部について成立した加害者と被害者は約50%強で

ある。その和解内容は,謝罪(約70%),慰謝料(約20%),損害賠償(少

年および青年加害者約30%,成人加害者約20%)で,そのうち,損害賠償

額は150マルク(2000年2月末現在1マルク56円)以下が約40%,750マル

ク以下では70%前半を占め,慰謝料の額は約75%が800マルク以下の範囲

犯罪被害者救済に関する一考察(吉木)

125

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で行われている。和解によって取り決められた金銭的給付の支払状況をみ

ると,少年および青年の78%、成人の89.1%が「完全に支払った」とし,

全体的には80.5%と高い比率になっている。一方,参加を拒否した少数と

の関連では,犯罪者・被害者ともに,「もはや二度と接触を持ちたくな

かった」としている52)点も注目に値する。

(2-2) 被害者基金

諸外国の多くは,犯罪被害者基金を有しており,その目的は,もっぱら

犯罪被害者に対するものとして運用されている。

ところが,ドイツでは注目に値する基金が設立されている。これらの基

金は賠償のための信用基金53)で,寄付金と罰金とを通じて資金が融通され

ており,賠償が達成されなかったことにより個別的なケースの解決が失敗

に帰すことがないように設立されたものである。

ドイツの殆ど全ての少年刑法分野におけるプロジェクトは,被害者基金

を有していて,貧困な加害者が物的損害54)を賠償できるようにされており,

これによって,被害者にとっては加害者が無資力であっても貸付支払によ

る速やかな損害回復が可能55)となっている。物的損害が直ちに支払えない

場合には,被害者基金から同意された金額が直接被害者に支払われ,加害

者がこれを低い割合の分割払いで基金へ返済することになる。その金額を

働いて返済することも可能で,その場合には仮定的な時間給を伴った公益

労働56)によっても行うことができる。

確かに,上述の和解による金銭的給付の支払状況において,「完全に支

払った」とする者は,全体で8割という高い比率を占めており,また加害

者は実際には無資力な者である場合が多く,このような被害者基金制度は

和解プログラムの成功をもたらすには必需であると思われる。

問 題 点

刑事和解制度導入について,ドイツの立法者は,「所為の結果の回避に

対する行為者の自律的決定が不処罰に足りうることを承認し」,「行為者が

犯罪を『起こらない前の状態にする』ことによって,刑罰の賦課を通して

立命館法政論集 第2号(2004年)

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規範の妥当性を強化し,行為者を改善し,あるいは犯罪の模倣を抑止する

ため公共を威嚇するという必要性がなくなる57)」とする。

しかし,被害者が和解に応じれば,刑事司法プロセスから離脱させると

いうことは,被害者が起訴裁量権を持つことになり,① 被害者の寛容さ

によって犯罪者の刑罰や処遇が決まるのは,犯罪対策の安定性を失わせる

のではないか,② 結局,裕福な者が金銭的な解決を図ることができ得を

する制度になってしまうのではないか,③ 被害者に和解を迫り被害者の

寛容を強要58)することになりかねないのではないか,という懸念は払拭で

きない。

確かに,刑事司法は犯罪が生んだ被害者と加害者の間の紛争解決手段で

もあるが,国家秩序違反への対処手段でもある。また,法秩序の安定を図

るものでもある。したがって,あくまでも司法は「公正」でなければなら

ない。

とするならば,結局,当事者間での紛争解決としての刑事和解の射程は,

些事な軽微事犯という個別法益に限定され,加害者と被害者の和解による

刑事手続の打ち切りは,社会が認める範囲でのダイバージョンに過ぎない

のではないか。ドイツにおいては軽微犯罪に限定せず,重大犯罪であって

も損害回復を試みた加害者をも刑事和解の対象としているが,果して,重

大犯罪の被害者とその加害者が,刑事和解の場に対等に立てるのかという

疑問が残る。

3 弁償命令制度

特 徴

アメリカをはじめ,イギリス,オーストラリア,カナダなどでは,弁償

命令の制度があり,裁判所は有罪の言渡しを受けた者に,刑罰に代えて,

または刑罰に加えて被害者への弁償を命ずることができる。この制度には,

被害者の経済的損失を埋めることはもちろん,加害者が被害者に与えた損

害を自ら弁償し,その行為の重大さを理解することを通じて,社会とのか

犯罪被害者救済に関する一考察(吉木)

127

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かわりを再認識することが期待されている。

運用状況

(2-1) アメリカでの運用状況

アメリカでは,刑事裁判において,刑の宣告猶予やプロベーションの条

件等として,被告人に被害回復,賠償等を含む被害弁償命令を科すること

ができる。1982年制定の犯罪被害者および証人保護法,1984年制定の犯罪

被害者援助法では,犯罪被害者が経済的損失を被った事案においては,連

邦および州の裁判所は,この弁償命令を原則として言い渡さなければなら

ず,言い渡さない場合には,その理由を記録に明確にすることを義務付け

ている。その後,弁償命令が,被害者の刑事司法に対する満足度に重大な

影響を及ぼす要因のひとつであり,また,犯罪者に対する更生の効果をも

持つという認識が広まり,現在では,連邦および全ての州において,弁償

命令に関する規定が設けられ,その他執行方法等の改善が行われている。

連邦では,裁判所は,全ての事件において弁償命令を科する権限を有し

(18USC §3663),性的虐待や暴力犯罪等の一定の犯罪の場合は,原則と

して弁償命令が必要的とされている(18USC §228(d), 2248, 2259, 2327,

3663A)。また弁償命令は,民事執行が可能であり(18USC §3613),支払

のない場合には,プロベーションの取消など多様な措置がとられる

(18USC §3613A)59)。弁償履行については,矯正施設における刑務作業賃

金による支払や,被害者援助団体を含む私的団体に回収を請け負わせてい

る州など様々であり,1984年には犯罪被害者基金が設立され,一定の要件

を満たした各州の犯罪被害補償プログラムおよび被害者支援プログラムに

補助金を公布している60)。

(2-2) イギリスでの運用状況

イギリスでは,刑事裁判において裁判官が刑罰の一つとして弁償命令お

よび賠償命令を言い渡すことができる。賠償命令は,犯罪の軽重にかかわ

らず,犯罪被害者が存在する限り,財産犯,生命身体犯を含む全ての犯行

について発せられ,裁判所は,被害者が存在する全ての犯行について賠償

立命館法政論集 第2号(2004年)

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命令を言い渡すかの検討をし,言い渡さない場合には,その理由を示す義

務があり,他の処分と併せて命じることもできる。罰金と併せて命じられ

た場合には被害者救済のために,賠償命令を優先させなければならない。

イギリスでは,裁判の80%で執行されている61)。

もっとも,イギリスの賠償命令は,あくまでも被害者救済を目的とした

もので,加害者が賠償金を支払う資力がある場合に,民事訴訟にかかる労

力を緩和するために設けられた処分であり,賠償によって刑が軽減される

ようなことがあってはならないとされている62)。

問 題 点

アメリカでの弁償および和解プログラムの適用は,刑事司法の運用者の

裁量とイニシアティブに委ねられているため63),非常に非体系的64)なもの

になっており,弁償命令が必要か否かは,各州によって規定が異なり一貫

性に乏しい65)。弁償履行についても,保護観察命令との関係で履行しなけ

ればならないその他の経済的負担があり,弁償命令に他の制裁に対する優

先権が付与されていないため,賠償金を徴収するための強制的処分は殆ど

効果がなく,民事執行の場合以上の期待はできない。また,不履行につい

ての保護観察命令およびプロベーションの取消もあまり用いられていな

い66)ことから,加害者の履行がなければ成功しない。イギリスにおいても,

執行は裁判所で行われるが,賠償を行うことができないときには,「支払

の不履行を理由に」付加的自由刑が考慮される66)ことから,二重処罰が問

題となるのではないだろうか。

結局,アメリカおよびイギリスにおける賠償命令制度も,加害者の支払

不履行に関しては加害者に対し刑罰やその他の制裁が加わるにとどまり,

加害者が無資力の場合には,被害者は実質的な損害回復は期待できないも

のと思われる。

二 小 括

司法における損害回復制度の目的は,被害者の損害回復という被害者救

犯罪被害者救済に関する一考察(吉木)

129

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済の他,被害者の犯罪処理への参加,ダイバージョン,犯罪者の社会復帰

などが挙げられているが,その枠組みは,資力を有する加害者を想定した

ものであった。

また,これら諸外国の制度の多くは,被害者の損害を回復することに

よって,行為者に刑の軽減および免除という利益を付与するというダイ

バージョンを中心とするものであったが,イギリスの議論でアシュワース

が,このような損害回復刑事司法論は「被害弁償」と「処罰」の両概念を

混同していると指摘している点に注目したい。

アシュワースによると「国家は社会秩序を維持して市民生活の安全を図

るべく,法適用の効率性と一貫性を確保するために,特に市民による自救

行為を避け,市民が『法を自らの手中に収めること』を防ぐために,統治

と法に対して責務を負っている。したがって,国家は判決と量刑を統制す

べき68)」とする。さらに,「被害弁償というのは,可能な限りの経済的な

原状回復の形態をとるため,侵害が大であればあるほど被害弁償も大きく

なる。一方,処罰は非難の形態をとり,被った侵害の重大性によるだけで

はなく犯人の非難可能性によって影響を受けることになる。」,「被害弁償

と処罰は犯罪の大小や非難要素の相違によっても異なる。量刑判断は,犯

罪者の性格や態様等影響を及ぼすが,犯罪の重大性と犯罪者の非難可能性

に重点が置かれるべき69)」とする。

確かに,犯罪被害の対象としては,企業,団体,政府等も対象となり,

薬物所持や薬物自己使用等の「被害者なき犯罪」も存在しうる。わが国に

おいては,「大麻」の単純所持(自己使用目的を含む)でも5年以下の懲

役刑が規定され(大麻法3条1項,24条の2第1項),罰金刑を採用しな

い厳罰主義が採られており,このような「被害者なき犯罪」が「非犯罪

化」70)されない限り,どのような被害弁償をもって量刑判断がなされるの

か。このように考えると,アシュワースの指摘どおり,被害弁償と処罰は

混同されるものではなく,犯罪は国家規範違反に対する罪であり,被害者

の法的利益は被害弁償にあるのではないか。とすれば,「法の安定性」お

立命館法政論集 第2号(2004年)

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よび「正義」という観点から,これら司法上の損害回復としての諸制度は,

要件が限定され,被害者・加害者双方とも限定された場合にしか利用でき

ないのではないか。

とはいえ,これらの制度の理念には,被害者の経済的損失を埋めること

はもちろん,加害者が被害者に与えた損害を自ら弁償し,その行為の重大

さを理解することを通じて,社会とのかかわりを再認識することが期待さ

れている,という点においては注目に値するものである。確かに,加害者

の大半が「他者感覚」を喪失しており,また,「責任転嫁・回避」傾向を

有している場合が多いことからも,このような誤った態度および行為の責

任について自覚を促すきっかけとしては大いに有効であると思われる。

問題は,賠償能力のない加害者を「ない袖は振れない」論理で野放図に

し,無資力な加害者からの損害賠償が実現されないところにある。それ故

に,加害者に対する被害者の不公平感が強調され,さらなる応報感情の増

幅をもたらしているのではないだろうか。そういう袋小路を打開するには,

たとえば,加害者が被害者に賠償するための資金を貸与するという内容の

経済的支援制度を設置し,それを利用できるとすれば,加害者と被害者の

「民事上の和解および損害賠償」として,経済的損害回復が実現される可

能性が高くなるのではないだろうか。

そこで,犯罪被害者への補償のための基金という構想をどのように具体

化することが可能か,次章で考察する。

第三章 犯罪被害補償制度の展望

一 犯罪被害賠償基金の設立

第一章,第二章では,犯罪被害者の損害回復制度の現状から,諸制度を

考察してきた。しかし,民事賠償,付帯私訴,刑事和解,弁償命令制度等,

現行の諸制度のいずれをとっても,加害者が無資力であっては,経済的損

害回復の実現には力不足であったように思われる。経済的損害回復の実現

犯罪被害者救済に関する一考察(吉木)

131

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を図る上での核心は,結局は,加害者の無資力問題の解決にあるのではな

いか。

加害者が経済的損害回復を成し遂げることによって,その行為の重大さ

を理解し,社会との関わりを再認識するとするかぎりは,加害者が自らの

責任で損害賠償をすべきである。問題は,無資力な加害者に損害賠償責任

を負わせるとして,その賠償金を如何に確保させるかである。この点,私

案として,加害者からの損害賠償を確実に実現するものとして,「犯罪被

害賠償基金」の設立を提案したいと思う。

1 概 要

国家機関として,無資力の加害者に対し被害者への和解金および損害賠

償金の貸付を行う「犯罪被害賠償基金」を設立する。

法的根拠

正義の要求としては,重要な社会規範を有責的に侵害した者は不当な自

由を通して不適法に獲得した利益に対する償いのために,不利益を甘受し

なければならない。加害者が法規違反によって刑罰に処され,不利益を甘

受することは自明の理であるが,それと同時に,被害者の経済的損失を埋

めるための不利益をも甘受しなければならない。

特に,被害者への損害回復は,前述の被害実態から明らかになったよう

に,加害者が被害者に与えた損害を自ら弁償することによって,被害者に

損害を与えた事実を自覚することを促す。そして,その行為の重大さを理

解することを通じて,贖罪意識が強調され,社会とのかかわりを再認識す

ることが期待される。このことから,ここで提案する基金を設け,加害者

本人による損害回復の行為を確実なものとすることは,加害者にとっては

再社会化を促進することになり,また被害者にとっては,加害者が無資力

であった場合や,加害者が刑の執行により支払が行える状況にない場合に

も,発生した損害の償いが受けられ,経済的損害回復の実現としての被害

者救済となる。

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この点,世界的思想潮流である修復的司法理念が参考となる71)。

財 源

まず,財源については,次のように考える。現在犯罪者からの罰金

(2002年度約790億円),交通反則金(2002年度約820億円)および没収金が

国庫金として一般会計に計上されている72)。このうち,交通反則金につい

ては,交通安全対策基金として地方自治体に全額交付されているので,罰

金および没収金の一部を,犯罪被害者への和解金および賠償金運用として,

「犯罪被害賠償基金」へ移用する。

その法的根拠としては,第一に,罰金および没収金は,国家に収入をも

たらすものである(財政法3条)が,罰金は,有罪宣告なされた者の短期

自由刑などに代替する社会内処遇の一つとして財産利益を剥奪したもので

あり,没収は犯罪行為による不法収益を剥奪したものであることから,租

税と異なり予期されていない偶発的収入である。罰金等が被害賠償基金の

ための財源手段として移用されたとしても,一般国民の税負担を直接に増

大させるものではない。現に,ドイツやアメリカでは罰金の一部が「被害

者基金」の資金として融通されていることも参考となる。第二に,「犯罪

被害賠償基金」の趣旨および使途は,加害者の立ち直りとしての再社会化

施策であり,かつ被害者の実質的損害回復という被害者救済施策の性格を

有し,犯罪予防および法秩序への信頼を回復ないし強化させるという刑事

政策であることが挙げられる。これに共通するものとして,① 交通反則

金が予防につながる施策として全額を「交通安全対策基金」に運用されて

いる趣旨およびその使途,② 自動車交通事故被害者救済においては,無

保険自動車やひき逃げによる被害者救済としての保障事業の財源が自賠責

保険の一部から賄われている趣旨およびその使途も参考となりえよう。

移用規模としては180億円を基礎とする。その根拠は,平成13年度の犯

罪被害者等給付金は約600人弱に給付されており,殺人における示談状況

では全てが500万円を超え,3000万円以下(44.4%),1000万円以下

(22.2%),5000万円以下(22.2%)である73)ことから,最も多い範囲の最

犯罪被害者救済に関する一考察(吉木)

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高額である3,000万円を参考とすると約180億円となる74)。

運 用

(3-1) 対 象

その適用対象は,身体・生命の故意犯による犯罪被害者への和解金およ

び損害賠償金とする。

その根拠は,① 殺人および業過致死では全体の80%以上の者が生活面

で何らかの影響があったとしている一方で,強盗,窃盗,詐欺・恐喝につ

いては半数以上が「影響がない」としており,財産犯の損害に比して原状

回復が困難であるということ,② 財産犯における被害額は大半が10万円

以下であり,被害回復率は財産犯全般的に被害還付のなされる割合が高い

のに対して,生命・身体犯の損害賠償金額は高額であり,特に殺人等につ

いては全額支払のあったとする者は10%に過ぎず,被害者側の加入してい

る保険も損害補填に不十分であったとする者が約4割を占めていること,

が前述の犯罪被害の実態調査報告によっても明らかである。とすれば,生

命・身体の故意犯による和解金および損害賠償が最重要と思われる。

(3-2) 返済方法

加害者の返済方法として,① 基金が立て替えた「民事上の和解金およ

び損害賠償金」に対して,加害者がこれを支払可能な金額での分割払いで

基金へ返済する。② 刑務所収容時においては,刑務作業の労務75)を返済

額に換算する。③ 失職の場合には,その返済金額を働いて返済すること

も可能とし,その場合慈善施設等での社会奉仕など(3-3にて後述。)も考

慮に入れるものとする。④ 最高貸付金額の限度額は1,000万円とし,最低

返済金額は月3万円,最高返済金額は収入の20%,返済期間は最長20年と

する。あまりに長期間返済は加害者への過酷な負担ともなりうるため,最

長返済期間および貸付金額の上下限を規定するのが妥当と思われる。

返済方法について,特に問題となるのは②である。現在の自由刑につい

ては,国連の被拘禁者処遇最低基準規則等によっても刑務作業を課すこと

は認められているが,その目的ないし本質ににつき,多数の見解が存在す

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る。主なものとして,① 自給自足の原則を強調する見解,② 刑事施設内

規律維持のための手段とする見解,③ 受刑者の社会復帰手段とする見解

で刑務作業を処遇の一環とする見解,④ 刑務作業を自由労務としての賃

金制を主張する見解がある76)。思うに,刑務作業の報酬を被害者への損害

賠償金に充当することでそれを社会復帰への処遇の一環をなすものと解す

ることは可能であろう。特に,無資力な殺人等の重罪犯罪加害者が長期収

容された場合には,刑務作業賞与金を充当するのでなければ貸付返済は不

可能であり,結局その場合の犯罪被害者には損害賠償が期待できないとい

う不合理が生ずることになる。現に,アメリカやフランス77)等の諸外国で

は,刑務作業報酬を被害者への弁済に充当している国が存在する。

刑務作業についてのわが国の現行制度では,作業収入は全額国家収入と

なり,就業者には作業の督励として作業賞与金が与えられている。平成15

年度版犯罪白書によると,平成14年度(会計年度)における刑務作業の1

日平均就業人員は約5万4,000人(生産作業・職業訓練・自営作業および

請願作業を含む。),刑務作業による歳入額は約81億円(法務省矯正局資料

による。)である。この作業賞与金計算高の一人1ヶ月あたりの平均は

4,215円(同資料による。)で原則釈放時に支給されるが,1ヶ月あたり平

均176時間就労で1時間当たり僅か23.94円である。一方,1日につき2時

間以内・一定の条件下で許可されている余暇時間の自己労作は,平成15年

3月31日現在,93人が従事し一人1ヵ月平均2,020円(同資料による。因

みに1時間当たり約45.9円)の収入があり,1日8時間の強制労働である

作業賞与金よりも1時間あたりの支給額は僅かに高い。受刑者の1日稼働

平均収入は,平成14年度会計から単純計算すると,約568円(1時間当た

り約71円)である。受刑者の収容中の衣・食・住としての経費がかかるこ

とから,たとえば受刑者の食事における1日の副食費は成人受刑者1人あ

たり約423.95円(平成15年度会計年度)とされており,これら諸経費を差

し引くと殆ど残らない。しかし,行刑施設における受刑者処遇の基調は,

刑の執行を通じて強制処遇を行い,「受刑者の改善更生および社会復帰を

犯罪被害者救済に関する一考察(吉木)

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図る」ことにおかれているものであり,採算を重視しているものではない。

とはいえ,この刑務作業賞与金が就労の対価ではなく恩恵的なものと位

置付けられている限り,被害者への賠償金に充当するには余りにも小額で

ある。刑務作業賞与金を被害者の賠償金に充当するものとして位置付ける

ためにも,刑務作業の就業条件が,作業環境,安全および衛生に関しては

労働基準法,労働安全衛生法の趣旨に沿ってなされていることから鑑みて,

労働基準法の最低賃金基準の準用がなされてもよいのではないだろうか78)。

労務安全情報センターによる平成14年度の最低賃金額は,605円(沖縄県

を含む8県)から708円(東京都)で,全国加重平均額は664円である。せ

めて,最低枠の1時間あたり605円の支給は認められてもよいと思われる。

刑務作業賞与金を賠償金に充当するものとして位置付けられた場合,施

設収容期間における基金返済額を概算すると,年あたり116万円となる。

その根拠は,懲役新受刑者の刑期別構成比をみると,99.1%が懲役で1年

以上2年以下(36.6%)が最も多く,これに3年以下を併せると,59.0%

となる。このことから平均刑期を2年とした場合,刑務所収容時における

被害者への賠償金充当額を1時間605円として概算をすると,605円 ×

40h × 4w × 24ヶ月で2,323,200円(年あたり約116万円)となる。もっ

とも刑務作業については,施設収容期間の長短や,作業の種類,人的・物

的設備等の問題も山積しているが,施設収容期間については当基金の対象

を「生命・身体犯」に限定しており,殺人等の重大犯罪の科刑状況をみる

と,その大半が2年以上10年以下であり,殺人,強盗致死傷では10年を超

え無期もしくは死刑となっている79)。また,殺人における示談状況は,全

てが500万円を超え3000万円以下が最も多いことから,単純計算ではある

が,年あたり116万円の賠償金充当額を収容期間で返済するとすれば,最

低額の500万円は約4.3年で全額返済できることになる。しかし,実際には,

刑務作業賞与金が賠償金に充当するものと位置付けられた場合(賃金制と

すれば),基金を利用しない他の収容者との関係からも施設内の生活諸経

費は自弁となりうるため,全額を返済金に充当できるものではない。年

立命館法政論集 第2号(2004年)

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116万円を参考に概算すると,1ヶ月約10万円の収入のうち,自弁分を差

し引くと返済金充当額は3万円が限度と思われる。とすれば,年間36万円

相当の返済金額で,最低額500万円の完済は約13.8年となる。

とはいえ,作業の種類,人的・物的設備に関しては,現在も民間企業の

協力を得て実施されているが,民間企業の生産拠点が,発展途上国への移

転を余儀なくされている現状である。この点,協賛企業に対しては,税制

優遇措置もしくは助成金等の優遇措置を設けることによって,外界企業導

入の刑務所工場の設置などにおいてその実現が図られるのではないだろう

か。

次に問題となるのは④である。最高金額については,示談金額として

500万円以上3,000万円以下が最も多いが,1,000万円限度が妥当であると

思われる。その根拠は,重大犯罪で無期懲役になったとしても,模範囚で

あれば15年で仮出所ができる可能性があり,最低額の500万円の返済の場

合,上記の年36万円返済の計算によると約13.8年で完済することになる。

刑務作業賞与金のみでの全額返済では,加害者に反省を求めるための負荷

としては,賠償金を支払わない現状と何ら変化がないことになる。1,000

万円では約27.8年,2,000万円では約55.6年かかる。被害者にとっては賠

償金額の多寡は重大な関心事ではあるが,加害者の真摯な反省をともなう

謝罪も重要な関心事である。余りに過酷な返済期間をともなう賠償金の借

入金が返済される可能性は低く,現実的とはいえない。他方,加害者の社

会復帰にとってより重要なことは,自らが侵害した被害者の損害を自らが

弁償することによって,加害者の真摯な反省をともなう謝罪・贖罪を促す

ことである。したがって,社会復帰後に実社会で労働の対価として得た収

入で返済を貫徹することがより重要である。もっとも,出所後の返済につ

いては,就職等の社会復帰ができるまで,たとえば,半年から1年の返済

猶予期間を設ける等の配慮も必要と思われる。

返済額および返済期間については,出所後直ちに高収入職につく可能性

は低く,労務安全情報センターによる平成10年の日本の新規学卒者初任給

犯罪被害者救済に関する一考察(吉木)

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基準を参考とすると,産業,性,学歴別初任給は高卒で平均月収15万円80)

となる。これを最低基準とすると,月々の返済額は最低生活費を差し引く

と収入の20%が限度であろう。最低返済金額を3万円とした場合,法定金

利5%を含まない単純計算での返済期間は500万円の借り入れで13.8年と

なる。他方,社会復帰後の最高返済金額を収入の20%とした場合,1995年

民間給与統計(国税庁資料)によると,1年を通じて勤務した給与所得者

の平均給与は457万円である。仮に,社会復帰後の平均収入を450万とした

場合,上限(収入の20%)の年返済額は90万円となり,1,000万円借り入

れ完済するには約11年となる。以上から,施設収容期間中の返済可能金額

3万円を最低返済額とし,社会復帰後の収入の20%を最高返済額とする。

返済期間については,最長20年が妥当と思われる。その根拠としては,当

基金の最高借入額1000万円を完済するには最長返済期間20年で月平均約

4.2万円の返済額となるが,一般国民が金融機関から長期借り入れした場

合,たとえば住宅ローン等の最長35年と比較した場合,金額的にも期間的

にも返済できる可能性は十分にあると想定できよう。したがって,猶予期

間を除く返済期間は最長20年が妥当と思われる。もっとも,施設収容中の

刑務作業賞与金を損害賠償金に充当するものとすれば,出所後の返済期間

は短縮でき,もしくは被害者への賠償金額を増額することもできるであろ

う。

(3-3) 基金への返済債務の不履行および免責

基金への返済債務の不履行につき,たとえば,差し押さえ,社会奉仕命

令等の強制的な手段を創設し,不履行の場合には,その債務残額に応じて,

強制執行もしくは社会奉仕労働等の強制的手段を処するものとする。

債務不履行にどう対処するかは困難な問題である。たとえば,歴史上存

在した「債務拘禁」のような制度を構想するにしても,身内に返済の肩代

わりをしてもらうための拘禁では,自己責任回避となるのではないか。し

たがって,加害者に真摯な反省および自己責任の自覚を促すには,あくま

でも本人自らが返済すべきである。

立命館法政論集 第2号(2004年)

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ところで,わが国の現行刑法においては,罰金刑または科料を完納する

ことができない者は一定期間労役場に留置される(刑法第18条)ことに

なっているが,留置された者は懲役刑受刑者に準じて扱われる(監獄法第

8条,9条)。この労役場留置の性格に関しては,罰金に代わる代替刑と見

るか,罰金の納付に代えて労働を提供させる処分とみるかについては争い

がある。この点,判例が,労役場留置を換刑処分として特別の執行方法と

している(最大判昭和25年6月7日刑集4巻6号956頁)ことから考えて,

形式的意味での刑ではないが,実質的には罰金に代わる刑としての性格を

備えるもの81)と思われる。「犯罪被害賠償基金」の利用に関しては,国家

と加害者の金銭貸借契約であるから,刑罰とはいえない。とすれば,労役

場留置は刑罰に代替する手段であるから,再収容は妥当ではない。

また,行政上の制裁のうち,金銭債権に関する措置としては,国税徴収

法(47条以下)の準用による強制徴収や延滞加算金,課徴金という経済的

負担があり,これらは経済的インセンティブを利用し,義務履行を誘導す

るものであり,効果が高いとされる82)が,加害者が無資力であるために設

けられた制度に更なる金銭的負担を強いることには問題が生じよう。

そこで,債務不履行による強制的手段としては差押えなどの強制執行が

考えられるが,差し押さえる財物がない場合が問題となる。この点,イギ

リスの社会奉仕命令が参考となる。このモデルは,「裁判所が16歳以上の

者で有罪が確定し,拘禁刑を科しうる犯罪者に,その他の方法により犯罪

者を処分するに替えて,その者の同意を得て,1年の期間内40時間以上

240時間以下,社会奉仕執行官の指示に従い無報酬での奉仕労働を命ずる

ことができる」という制度で,他の刑に替わる「代替処分」ではなく,1

個の「独立したコミュニティ刑」として扱われている83)。また,ドイツで

は,前述の通り,社会奉仕労働モデルを「刑事和解基金」の支払不能な者

に命ずることによる両モデルのドッキングの試みがなされ,一部の州で一

定の成果をあげ注目されている84)。これらを参考にすると,加害者の債務

不履行については,差し押さえる物がない場合,たとえば,地方公共団体

犯罪被害者救済に関する一考察(吉木)

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等での役務(公園の清掃等)や公共サービス従事,または民間からの労務

の提供等の「金銭返済に代替する社会奉仕労働」を命じる,法制度を新設

し,実行させることが最も考慮に値するものと思われる。

ところで,当基金の利用に関しては,死刑囚による民事上の和解金,冤

罪者による民事訴訟上の賠償金も想定される。まず,真摯な反省により民

事上の和解が成立した死刑囚に関しては,死刑が執行されれば債務履行が

不能となる。加害者に遺産があれば,差し押さえることもできるが,ない

場合には,被相続人の負債債務は相続人に継承される。しかし,相続人に

よって限定相続もしくは相続放棄がなされた場合には,回収が不可能とな

る。結局貸し倒れとなるのであれば,死刑囚への貸付を除外することも考

えられるが,加害者の刑事責任が死刑という重大犯罪の加害者本人からの

経済的損害回復がないとすれば,被害者感情は緩和せず,司法への不信感

が増長されるのではないか。とすれば,債務不履行に至る確率が高いとは

いえ,死刑囚への貸付を除外すべきではない。死刑囚の基金利用および債

務不履行については,真摯な反省の下で多少なりともの被害者遺族へ償い

として自発的に,任意的に和解を成立させたにもかかわらず,国家が死刑

囚の返済手段を断ったのであるから,債務残高については免責とするなど

の配慮がなされてもよいのではないだろうか。

次に,冤罪が確定した場合には,被冤罪者は,刑事上では刑事補償がな

され,民事上では,当該犯罪被害者への損害賠償については,被冤罪者は

被害者に対して賠償責任を負わないので,既に支払った賠償金については,

被害者に対して不当利得金返還請求権を有する85)ことになる。一方,被害

者は,真犯人が検挙されれば,真犯人に対して不法行為による損害賠償請

求が可能であるが,真犯人が検挙できなかった場合には,事実上,故意犯

による侵害が生じていたにもかかわらず,真犯人が検挙できなかったがた

めに,賠償金額を請求することができないことになる。本来ならば,加害

者が特定できなかった場合や民事賠償を受けられない場合に申請できる犯

給制度の申請時効は「被害を知った日から2年以内または被害が発生した

立命館法政論集 第2号(2004年)

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日から7年以内」である。冤罪であったことが確定したときには既に時効

が成立しており,申請できないということになれば,被害者は救済されず,

犯給制度の趣旨に反することになるのではないか。したがって,このよう

な場合も想定されるので,犯給制度の趣旨からも,このような場合には時

効は消滅し,被害者は,「冤罪であったことが確定したことを知った日か

ら2年以内」であれば,犯給制度に申請できるとする措置が必要と思われる。

2 効 果

被害者への効果

被害者側にとっては,第一に,犯罪被害者の民事上の損害賠償請求の実

現,および加害者からの直接の謝罪をともなう弁償により報復感情の緩和

が期待できる。第二に,加害者との関係といった点でも,国家が介入する

ことでより速やかな賠償が可能となり,加害者からの分割払い等長期間の

関わりを回避できる。つまり,加害者と顔を合わせることによって事件の

ことを思い出すというフラッシュバック回避がある程度期待できる。この

ことによって,新生活へのスタートがし易くなるものと思われる。第三に,

経済的損害回復は,被害者の精神的回復に有用である。被害者感情は複雑

で多様であるが,前述の弁償・示談調査においては,「全額あり」の場合

には被害感情は必ずしも悪くないが,逆に「一部ありまたは全額なし」の

場合には,被害感情は激しくなる傾向が認められ,特に,殺人等について

は,「全額あり」が非常に少なく,その遺族全員が「前よりも許すことが

できないという気持ちがつよくなった」としている86)ことからも明らかで

ある。

以上により,加害者から直接謝罪をこめた加害者本人による弁償がなさ

れることは,被害者の経済的損害回復および精神的回復に重要であると思

われる。

加害者への効果

加害者側にとっては,第一に,実務の現状においては,被害者との示談

犯罪被害者救済に関する一考察(吉木)

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の成否が起訴・不起訴および実刑・執行猶予の判断に極めて大きな要素に

なっており,被害回復の程度や被害者との示談の成否が刑事処分に当たっ

ての要素とされていることから,基金の利用によって「民事上の和解」が

成立すれば,実刑を回避もしくは減刑を期待することができる。第二に,

基金の利用によって,資力の有無による不公平さが是正される。第三に,

刑事責任のみならず,自力の被害弁償によって,民事において責任を全う

することができ,自立心が培われる。つまりは,自分のなした行為には常

にリスクがともなうものであるということを自覚させ,真摯な反省および

自己決定・自己責任の自覚を促せる。第四に,基金の返済,すなわち賠償

金の支払という目的をもった労務によって勤労意欲を促進させる。

以上により,「犯罪被害賠償基金」は加害者にとっても特別予防として

再犯防止・社会復帰に有用である。

さらに,法定刑において,刑事・民事責任を全うすることが強制される

ことにより,一般予防にも功を奏するものと思われる。

予防効果については,かつてロクシンが1987年の論文87)で述べたように,

一般予防的効果の要素は,「法が市民に対して貫徹されたという信頼効果,

および,犯罪者のなしたことによって,一般人の法意識が安定し,行為者

との紛争が処理されたものとみなす満足効果88)」であり,また,特別予防

的効果の要素は,「積極的な制裁の帰結をともなう自発的な損害回復の可

能性を通して,行為者は,犯罪結果および被害者の苦痛に取り込むことを

動機付けられ,このことが再社会化を促進する狼狽・驚愕というものに至

りうる89)」とするならば,損害回復の有する再社会化作用は著しい重要性

を獲得する90)ものと思われる。

思うに,加害者意識において,累犯者の多くが刑事責任によって民事責

任が緩和されているとする傾向が強いことからも,「他者感覚の喪失」が

真摯な反省を促せていない要因の一つであると考えられ,また,申し訳な

いという気持ちが前よりも大きくなったきっかけとして,示談交渉の手続

きの中でそのように変化したとする比率が高いということからも,民事上

立命館法政論集 第2号(2004年)

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の責任を果たすことは,被害者に直接謝罪することにもなり,その謝罪を

通して,贖罪を真摯な反省を促し,再犯防止へと繋がるものと思われる。

このことからも加害者が直接被害者に対して損害賠償をすることは,加害

者の立ち直りにも有効である。加害者は犯罪を犯したことによって,刑事

上の責任(法益侵害)だけでなく,民事上の責任(事実上の侵害)をも負

うものであり,刑事上の処遇を終えたからといって,民事上の責任は回避

できないのである。自己の行動には常に責任がともなうものであることを

自覚することによって,彼は真に再社会化されるのではないだろうか。

刑事政策的効果

国家政策としても,「犯罪被害賠償基金」は有用である。第一に,上述

のように,加害者本人からの損害賠償は特別予防および一般予防効果が期

待でき,犯罪防止および法秩序の安定へとつながる。第二に,犯罪被害者

救済として,加害者が無資力である場合には,裁定により犯罪被害者等給

付金支給がなされるが,この基金の利用によって,無資力な加害者からの

損害賠償が可能となり,申請者数および支給総額が減少する可能性がある。

一方,基金利用の加害者からは返済金が回収されることにより,コストが

削減されることになる。

とするならば,国家機関として「犯罪被害賠償基金」を設立し,無資力

の加害者に対し国家が被害者への和解金および損害賠償金の貸付を行うべ

きである。

二 わが国における射程

上述のとおり,わが国の犯罪被害者補償制度を検討してきた。わが国の

犯罪被害者対策が先進諸外国に比して大きく後れをとっていることは明白

である。諸外国では犯罪被害者の経済的損害回復が様々な実践的試みとし

て展開されている。各国にはそれぞれ固有のシステムがあり,様々なモデ

ルが展開されている。わが国の現行司法は刑民が峻別されており,刑事和

解や付帯私訴モデルがそのまま採用されるには問題が山積している。

犯罪被害者救済に関する一考察(吉木)

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そうだとしても,被害者に対する経済的損害回復は,被害者の精神的損

害回復に寄与するものであり,法秩序を維持していく上にも重要な課題で

ある。経済的損害回復として,加害者による民事上の損害賠償を実現する

には,無資力な加害者に損害賠償金を貸与するシステムが必要であると思

われる。わが国にも,加害者の再社会化施策および犯罪被害者の経済的損

害回復の実現化施策モデルとして,固有のモデルである「犯罪被害賠償基

金」を創設すべきである。

お わ り に

犯罪被害者救済として,第三者による身体的・精神的な一次被害に加え

ての経済的・精神的な二次・三次被害は極力避けなければならない重要課

題である。

本論文は,犯罪被害者救済の一考察として,経済的損害回復を中心に

「犯罪被害賠償基金の設立」につき考察してきた。しかし,重大犯罪の犯

罪被害者が子供や老人のように経済的担い手でない場合や経済的に困窮し

ていない場合には,たとえ犯罪加害者からの損害賠償が履行されたとして

も,その精神的被害が緩和されることは困難を要するであろう。このよう

な被害に見舞われた犯罪被害者救済については,今後の課題である。

とはいえ,当基金の設立の展望として,無資力であるが故に野放図にさ

れ,開き直っていた加害者が,この基金の設立によって賠償能力が付与さ

れることになり,加害者本人からの賠償が実現されるとすれば,数多くの

犯罪被害者が経済的損害回復を享受することができるのではないだろうか。

また,この基金の設立によって,犯罪加害者が無資力であるが故の賠償責

任回避が困難となる可能性が高くなり,刑事上,民事上の責任を果たすこ

とによって自律した人間として立ち直り,社会に寄与するならば,それは

結局,わが国における犯罪の減少に資するものと期待することができよう。

以上

立命館法政論集 第2号(2004年)

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1) 犯罪の捜査及び検察官による公訴権の行使は,国家及び社会の秩序維持という公益を図

るために行われるのであって,犯罪の被害者の被侵害利益ないし損害の回復を目的とする

ものではなく……被害者または告訴人が捜査又は公訴提起によって受ける利益は,公益上

の見地に立って行われる捜査又は公訴の提起によって反射的にもたらされる事実上の利益

にすぎず,法律上保護された利益ではない(最高裁判決平成2年2月20日)。

2) あくまでも,国家に対する侵害であるから,公益の代表者としての原告であり,被害者

側の代理人ではない。

3) 全国犯罪被害者の会ヨーロッパ調査団編著『ヨーロッパ調査報告書――被害者の刑事手

続への参加をめざして――』(全国犯罪被害者の会2002年12月)79~89頁。

4) 1993年から94年にかけて実施された。詳細は,宮澤浩一 その他編著『犯罪被害者の研

究』(成文堂1996年)参照。

5) 法務総合研究所研究報告7「犯罪被害の実態に関する調査」(2000年)48~51頁参照。

6) 前掲注5)25~47頁参照。

7) 但し,強盗,窃盗,詐欺恐喝については半数以上が「影響がない」としており,罪種間

に差異がある。前掲注5)18~26頁参照。

8) 前掲注5)31~41頁参照。

9) 前掲注5)38頁参照。

10) 前掲注5)42~44頁参照。

11) 前掲注5)75~80頁参照。

12) 法務総合研究所研究部報告8「犯罪被害に対する加害者の意識に関する研究」2000年9

~76頁参照。

13) 前掲注12)14~16頁参照。

14) 前掲注12)21~33頁参照。

15) 前掲注12)35~43頁参照。

16) 前掲注12)44~69頁参照。

17) 法務総合研究所研究部報告8「犯罪被害の回復状況」(2000年)155~161頁参照。

18) 前掲注17)166~169頁参照。

19) 前掲注17)170頁参照。

20) 前掲注17)171~173頁参照。

21) 安原浩「裁判実務からみた被害者保護制度について」(2002年刑法雑誌42巻1号)98,

99頁参照。

22) 村澤眞一郎「犯罪被害給付金制度(一)」警察研究52.1.50

23) 障害給付金は最高(1級)1,849.2万円,最低(14級)18万円である。因みに,自賠責

保険,自賠責共済では,死亡で最高3,000万円,傷害で最高120万円,後遺障害で最高

3,000万円である(自動車損害賠償保障法施行令参照)。

24) 自賠責保険及び自賠責共済を補完するもので,ひき逃げや無保険車による事故で自賠責

保険や自賠責共済では救済を受けられない気の毒な交通事故被害者に対して政府が損害を

補填している。そのてん補額は自賠責保険に準じている。「平成15年度版犯罪白書」

194~195頁参照。

犯罪被害者救済に関する一考察(吉木)

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25) 総資金額は,設立時約1億400万円,1993年3月末現在約42億755万円である。奥村正雄

「第5章被害者支援の現状と問題点」宮澤浩一編著『講座被害者支援第1巻犯罪被害者支

援の基礎』(東京法令出版社2000年)215~222頁参照。

26) その他の事業として,生活の指導及び相談事業および障害見舞金給付事業がある。詳細

は,奥村・前掲論文注25)215~222頁参照。

27) 毎月給与は,小中学生9,000円,高校生15,000円(国公立),23,000円(私立),大学生

23,000円(国公立),29,000円(私立)。一時金は,小学・大学生70,000円,中学・高校生

30,000円である。詳細は奥村・前掲論文注25)215~222頁参照。因みに,(財)交通遺児

育英会の月額貸与金は,高校生で2~4万円,大学生で4~6万円、大学院生で5~10万

円,入学一時金は高校生が30万円、大学生が40万円である。(http://www.kotsuiji.com/

taiyo.html)

28) 「平成11年度版犯罪白書」383頁以下参照。

29) 特殊法人等の改革の一環として,自動車事故対策センター(昭和48年12月設立)の後を

受け,独立行政法人自動車事故対策機構法(平成14年法律第183号)に基づき、平成15年10

月に設立された。主に自動車事故の発生防止および被害者の保護促進を業務としており,

生活状況が困窮している被害者には育成資金および生活資金の貸付をしている。(http://

www.nasva.go.jp/gaiyo/index.html)

30) 国土交通省所管で政府補助金,日本財団,(社)日本損保協会,(社)日本自動車工業会,

その他の出捐により,基本財産は6億8千5百万円で運営されている。

31) 道路における交通事故で死亡、もしくは重い後遺障害のため(身体障害者福祉法の第1

級から第4級に相当)経済的に修学が困難な学生。

32) 佐藤吉一・屋久哲夫「第8節交通事故被害者対策」宮澤幸一編著『講座犯罪被害者支援

第2巻犯罪被害者対策の現状』(東京法令出版2000年)117~128頁参照。

33) 前掲注3)79~89頁参照。

34) 本質的に賠償請求権である私訴権は,民事裁判所においても行使できるが(刑訴法典3,

4条),民事裁判所で行使される場合には,司法の統一性を理由に刑事の判決まで民事手

続が停止され,かつ刑事判決に民事判決が拘束される(民事裁判に対する刑事裁判の拘束

力)という考え方が取られており,被害者にとっては,検察官の立証を利用することがで

き,手続も迅速な刑事手続を利用する方が有利なため,私訴制度は一般的な利用となって

いる。水谷規男「被害者の手続権利の理論的根拠について――フランス法を比較検討の素

材として――」(刑法雑誌40巻2号)112参照。

35) しかし,法文上,付帯私訴の訴追権は「被害当事者」に認められ,「私訴原告人」は賠

償請求が出来るという位置付けになっており,賠償請求権と被害者の訴追権は必ずしも一

致しない。水谷・前掲論文34)116頁参照。

36) 水谷・前掲論文34)113頁参照。

37) 中野陽子,岡田和也「フランスにおける犯罪被害者への援助」法務総合研究所研究部報

告9(2000年)158頁参照。

38) ドイツ対策グループ編著川口浩一他訳『犯罪被害の対策――対案・損害回復――』(成

文堂2002年)高橋則夫訳18頁参照。

立命館法政論集 第2号(2004年)

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39) 高橋訳・前掲書38)19頁参照。

40) 滝本幸一,橋本三保子「ドイツにおける被害者保護施策および被害者救済活動の現状」

法務総合研究所研究部報告9(2000年)112頁2~7行参照。

41) 損害賠償の執行は,裁判の25%しかなされていない。マルク・グリューンヒューゼン

(大田達也訳)「ヨーロッパにおける被害者学の動向――被害者サービスのためのヨーロッ

パ・フォーラムを中心として――」(被害者学研究第10号2000年)13頁参照。

42) 殺人や傷害致死事件の犯人の99%には支払能力がなかったこと,被害弁償の支払を命じ

られた被告人から1年以内に弁償の一部または全部の弁償を得られた被害者は2割程度で

あったという結果報告もある。九州弁護士会連合会・大分県弁護士会編著『犯罪被害者の

権利と救済』(現代人文社1999年)103頁参照。

43) 1990年改正で犯罪被害者救済基金を設立し,そこから支払われることとなったが,財源

は一般の損害保険から契約1件につき20フラン(約300~400円)が自動的に拠出されるた

め,国家責任の回避ともいわれている。しかし,一ヶ月以上の労働不能,強姦および強制

わいせつによる精神的損害を含む損害に対しては,被害者の経済的事情等に関係なく,限

度額ナシの補償を受けることができ,一ヶ月未満の労働不能および財産上の被害について

も,要件はあるものの保障されている。さらに,何れも当座の必要を満たすための「仮払

い決定」ができる。中野,岡田・前掲報告37)163頁参照。

44) わが国にかつて存在した付帯私訴制度(旧刑訴法567条)は,裁判の長期化,当事者主

義との関係,手続の複雑さ等を理由に戦後廃止されている。

45) フランスでも,刑事裁判所で付帯私訴だけの審理を続けている(刑事判決がなされ付帯

私訴の責任原因審理が終了しても,損害についての審理が係属している)事件も珍しくな

い。司法研究所編著『フランスにおける民事訴訟の運営』(財団法人法曹会1993年)222頁

による。

46) 滝本,橋本・前掲報告40)112頁11~16行参照。

47) 加藤克佳「刑事手続における被害者の地位――ドイツ法を素材として――」(刑法雑誌

40巻2号)110頁3行による。

48) 滝本,橋本・前掲報告40)112頁21~25参照。

49) 滝本,橋本・前掲報告40)118頁8~11行参照。

50) ドイツ連邦司法省によると,実務上,刑法46条 a は罪名の限定がなく運用されており,

自由刑に処せられるものの95%が1年以内の刑となるのが現状であるため,当事者間に和

解があって刑法46条 a が運用される場合は,刑の免除になる場合が多い。滝本,橋本・

前掲報告40)118頁参照。

51) 和解機関は,裁判所と関係するソーシャル・サービス,各州の少年保護局関係の公的機

関と民間機関によるものに大別される。1995年では368の機関が設置され,このうち和解

実地状況が集計されている261機関の所属構成は,ソーシャル・ワーカー39箇所,少年保

護局153箇所,民間機関69箇所となっている。滝本,橋本・前掲報告40)120~121頁参照。

52) ディータ・レスナー・吉田敏雄訳「弁償と制裁――紛争解決助力としての裁判所援助」

『犯罪被害者と刑事司法』(成文堂1995年)101頁参照。

53) 概して500マルクから10,000マルクまでの資金を有し,成人のための資金を有している

犯罪被害者救済に関する一考察(吉木)

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基金もある。ハインツ・シェッヒ,ブリッタ・バンネンベルク・比嘉康光(訳)「ドイツ

における被害者-加害者の和解――実績調査と刑事政策的結論」『犯罪被害者と刑事司法』

(成文堂1995年)201~202頁参照。

54) 物的損害は,およそ半分のケースで発生しており,大抵は1,000マルク(約7万円)以

内である。ハインツ・前掲論文53)201~202頁参照。

55) 高橋訳・前掲書38)25頁以下参照。

56) 社会奉仕作業として40種類ほどが用意され,作業時間は1時間当たり約7マルク(約500

円)で計算される。加藤久雄著『ボーダレス時代の刑事政策[改訂版]』(有斐閣1999年)

144頁参照。

57) 高橋訳・前掲書38)20頁による。

58) 被害者が拒否している場合でも,刑法46条 a を受けて被害者の意思とは関係なく,加

害者に損害賠償等を試みさせたり,公益に繋がる仕事に従事させたりといった働きかけが

行われている。滝本,橋本・前掲報告40)119頁参照。また,わが国でも刑事和解は実務

慣行として示談・弁償という形で存在しており,量刑事情,微罪処分,起訴猶予,執行猶

予等の判断に影響を与えているが,示談成功率の最も高い現行の交通事犯の示談において

は,保険会社ないしその弁護士と被害者との間での「示談の代行」によって賠償交渉が行

われており,その結果が加害者の刑事処分に影響を与えている場合が多く,加害者と被害

者の和解は事務的に行われている現実が,被害者側の不満の一つとなっているという指摘

もある。奥村・前掲論文注25)230頁参照。

59) 安東美和子,松田美智子,染田惠「アメリカにおける犯罪被害者施策およびその運用実

態」法務総合研究所研究部報告9(2000年)22頁7~12行。

60) 労災補償を採用しているアメリカでは,VOCA(1983年に設立された司法省犯罪被害者

対策室(Office for Victims of Crime)によって運営されており,州が前年に被害者に対し

て交付した補償金の40%は連邦の補助金として交付されている。なお,VOCA の補助金

の財源は,連邦犯罪の犯罪者からの罰金,没収金を原資とし,1997年には23億ドルの資金

を有す。安田貴彦「諸外国に見る犯罪被害者対策の現状――アメリカを中心に――」(法

律のひろば1999年5月)42~52頁参照。安東,松田,染田・前掲報告59)39頁参照。

61) グリューンヒューゼン・前掲論文41)13頁参照。

62) 浜井浩一,横地環「連合王国における犯罪被害者施策」法務総合研究所研究部報告9

(2000年)66~67頁参照。

63) エルマー・ヴァイテカンプ・中野目善則(訳)「アメリカ合衆国及びカナダにおける,

被害者への弁償と被害者/加害者間の和解に関する最近の発展」『犯罪被害者と刑事司法』

(成文堂1995年)156頁参照。

64) ヴァイテカンプ・前掲論文注63)157~158頁参照。

65) 安東,松田,染田・前掲報告59)22頁参照。

66) 田淵浩二訳・前掲書38)185頁参照。また,不履行によって刑務所に収容される可能性

があるが,その場合は,不履行が意図的で,かつ,他の刑罰では刑罰および抑止の目的を

達成することができない場合に限定されているので,被告人が努力したにもかかわらず賠

償を支払うことができなかった場合には,命令不履行を理由に被告人を拘禁することはで

立命館法政論集 第2号(2004年)

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きない。佐伯仁志「刑罰としての損害賠償――アメリカ法の最近の動向――」(産大法学

34巻3号2000年)396,397頁参照。

67) 田淵訳・前掲書38)174頁参照。

68) 奥村正雄「刑法における損害回復論の検討――イギリスの議論を中心に――」『宮澤浩

一先生古希祝賀論集第1巻犯罪被害者の新動向』(成文堂2000年)184~185頁による。

69) 奥村・前掲論文注68)186頁,188頁による。

70) 詳細は,加藤・前掲書56)23~29頁参照。

71) 修復的司法理念としては,高橋則夫「特集 刑法の目的と修復的司法の可能性」刑法雑

誌41巻2号2002年106頁以下参照。前野育三「修復的司法 市民のイニシアティブによる

司法を求めて」(犯罪社会学研究第27号2002年「課題研究 修復的司法――理念と現代的意

義」)11~25頁参照。小宮信夫「修復的司法の概念・利点・類型――課題研究の論評とし

て」(犯罪社会学研究第27号2002年「課題研究 修復的司法――理念と現代的意義」)4~

9頁参照。

72) 2002年度予算案による。

73) 前掲注17)155~161頁参照。

74) 補足として,「犯罪被害者等給付金支給制度」の財源も罰金から移用されれば,他の被

害者との差異が解消され,諸外国にみる国家による身体的・精神的・経済的支援の充実が

図れるのではないだろうか。因みに,移用規模は,600人×2,000万円(政府保障事業が支

払った死亡1人当たりの平均額)として,120億円規模を基礎とする。但し,賠償金が支

払われた場合には,本制度の給付金は,現行どおり賠償額に応じて不支給もしくは減額さ

れるものとする。

75) 刑務作業は,懲役受刑者及び労役場留置者を中心に,刑法上所定の作業を行うことが義

務とされており,1日8時間,1週間につき40時間の作業時間となっている。(平成15年

度版犯罪白書135頁。)

76) 藤本哲也著『刑事政策概論(全訂第三版)』(青林書院2001年)244~248頁参照。

77) フランスにおける行刑施設の収容者の職業訓練や刑務作業の報酬金は,収容者の持つ個

人別口座に入ることになっており,そのうち80%は自弁品の購入等施設内での自分の生活

に使い,10%は出所後の準備に充て,10%は賠償金に充てている(1978年政令 D113条,

1982年政令 D325条)。賠償金を支払い始めていることは仮釈放や刑の執行の軽減にも結び

付くので,それが損害賠償の動機付けの一つになっている。中野,岡田・前掲報告37)

165頁参照。

78) 刑事施設法案(第120回国会内閣提出法案第87号)では,作業収入は国庫に帰属する

(第71条)が,釈放前における作業報奨金の支給の正当事由として,被害者に対する損害

賠償への充当金を列挙し(第73条),作業報奨金に関する基準は法務大臣が定める(第72

条3項)としている。

79) 平成15年度版犯罪白書による。

80) 厚生労働省「平成10年賃金構造基本統計調査結果速報(初任給)」資料による。

81) 藤本・前掲書76)167,168頁参照。

82) 原田尚彦著『行政法要論(全訂第四版増補版)』(学陽書房2001年)213~225頁参照。

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83) 加藤・前掲書56)111~114頁参照。

84) 加藤・前掲書56)115頁参照。

85) 裁判で確定した場合の損害賠償については,既判力に拘束されるので,基準の事前の事

情によって被害者に対して再審請求(民訴法338条1項8号)で変更しなければならない。

86) 前掲注5)75~80頁参照。

87) Roxin, C., Die Wiedergutmachung im System der Strafzwecke, in : Schoch (Hrsg.),

Wiedergutmachung und Strafrecht, Munchen 1987, 37.

88) 高橋訳・前掲注38)38頁5~6行。

89) 高橋訳・前掲注38)38頁9~11行。

90) 高橋訳・前掲注38)39頁参照。

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