歯科人工知能研究会 最終回~ 「新たなるフロンティアを目指し ... ·...
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歯科人工知能研究会
~最終回~ 「新たなるフロンティアを目指し
て」 Seeking the New Frontier
2008 年 6 月 21 日 京大会館
長年続いてきました歯科人工知能研究会も、堤先生の退職をもって名残惜しいですが、 今回で最後となりました。来る 6月 21日、京大会館にて堤先生に所縁のある先生方が集まり、最終回の歯科人工知能研究会が行われました。
今回の歯科人工知能研究会は、若手の先生方も含めて計 30名の先生方の出席がありまし
た。講演された先生方は、堤先生との思い出話をされたり、現在の自分の研究内容を発表
されたりと、多岐に渡るお話をしていただきました。多方面で活躍されている先生方の講
演を聞けたことで、堤先生に所縁のある先生方にとっても、また若手の先生方にとっても
良い機会ではなかったかと思います。
プログラム内容 ○開会の辞
南部 敏行先生 ■第1部
姜 有峯 先生 箕浦 哲嗣 先生 村瀬 晃平 先生 奥村 秀樹 先生 茂木 伸夫 先生
■第 2部 十河 基文 先生
河原 研二 先生 玄 丞烋 先生 南部 敏之 先生 前田 芳信 先生 ■特別講演
堤 定美 先生 ○ 閉会の辞
前田 芳信 先生 ■ 懇親会
姜有峯 先生
「コンピュータシミュレーションを用いた生体力学に関する研究」
外力によって生体組織に発生する応力及び歪みを明らかにするため、コンピュータシミュ
レーションを用い、生体力学を検討している。 1. むち打ち損傷の発生メカニズムについて 近年、交通安全が重視され、事故による死者は減少しているが、負傷者が増加してい
る。外力により生体組織に与える影響に関しては、画素(x線、MRI など)で診断しにくく発生メカニズムが不明だと考えられている。事故での死体の頚部状態を検討す
ると、頚部の捩れによる動脈、神経根の損傷、動脈孔の捩れという状態がわかった。
それに対して、外力を受ける時に頚部挙動の再現と椎間板の応力比較を有限要素法で
検討した。衝撃前、意識がある方は頚部に起こった応力が低いが、脊椎 C2、C3 の損傷がより高いと発見した。また、脳震盪の発生には、緩衝材の有無によって、頭部損
傷評価(HIC)を行った。 2. 人工股関節の生体力学について 人工股関節を装着している人の周囲骨リモデリングシミュレーションを検討している。
また、長期間の使用により、金属の疲労で関節の破折が多発している。従って、シミ
ュレーションを用い、疲労破壊部位を予測し、耐久性を評価している。さらに、デザ
イン変更を進め、多様な力学条件適用の可能性を分析し、応力配分の軽減として、最
適設計を究明している。
村瀬晃平 先生:近畿大学
「衝撃解析;衝撃・動的な有限要素解析」
シミュレーション研究のきっかけということで衝撃解析の概要とシステムということに
焦点をあてられました。その研究例として Br の衝撃シミュレーションを提示されました。Brの接合部(Wide connectionと Narrow connection)の 2つを用いて衝撃を与えたとき、接合部が広いか狭いかで値が全く異なるという結果を発表されました。これに加え、変形を
する前にエネルギーが中を伝わっていく、変形時と応力時のピークは異なる、接触・すべ
りの点も考慮されなければならないとのことでした。 以前、先生は静的荷重の研究もされていたとのことです。今回の結果から衝撃荷重時に
は静的荷重時と比較して、より深刻な応力集中を短期間に発生させるということ、形状デ
ザインの違い、材料特性が大きく関与していることが有限要素解析から明らかにされまし
た。また最後に新たなフロンティアを目指すにはどうしていくべきかということで、生体
シミュレーション特有の問題点を明らかにし、より複雑なモデル化へ、またより精度の高
いシミュレーションを行うべきとのことでした。
奥村秀樹 先生
「顎変形症手術を支援するコンピューターシステムに関する研究」 奥村先生は、堤先生のもとで、顎変形症手術のシミュレーションシステムについて研究
されていました。その研究の流れ、要点をご教示いただきました。 まずセファロ写真を三次元化する方法を構築されました。セファロ写真から点を選ぶと
いうのではなく、あらかじめ作ってある平均的な図をセファロ像に投影して編集する方法
を開発されたそうです。この方法により、短時間で3D画像を作成することが可能となり
ました。歯牙上の点の決定は、歯牙の情報を精密に表す模型上の点とセファロ上の点を組
み合わせて行います。さらに、三次元化された像を用いて顎変形症に対するペーパーサー
ジェリーのシステム、それに続くサージカルスプリントを作製する方法を確立されました。 ベテランのDrになると、数値を見なくても、セファロ写真を見ただけで三次元の願貌を
想像できます。シミュレーションソフトはそうなるまでの助けとなるものであり、できる
ようになったら、必要がなくなるものと考えられます。このように、シミュレーションソ
フトといものは、人の知識を増大し、人を育てるものであるとおっしゃっていました
茂木信夫 先生
Morphologic changes in the perioral soft tissues in patients in the mandibular hyperplasia using a laser system for three-dimensional surface measurement
茂木先生は思い出の学位論文の話をしてくださいました。下顎前突症の軟組織を量的に解
析し、3次元的変化を計測。その際、使用するレーザーデバイスが堤先生の研究所にあっ
たことが、茂木先生と堤先生が出会うきっかけとなったそうです。 下顎前突症に対する処置として最も一般的なのは Obwegeser-Dal Pont法などの外科的処
置であるが、その際の骨格的不正の診断に側方セファロで分析していました。
側方セファロ分析は2次元的である上に、白人と日本人の側方・正方の面積割合が違うと
いうことから、正面の分析と3次元的診断の必要性があるとお考えになりました。
実験方法は、上顎では両側鼻翼と両側口角を結ぶ上に凸の台形、下顎では両側口角とオト
ガイを結ぶ下に凸の台形を基準空間として、それらをレーザーデバイスにて描出するとい
うものです。
河原研二 先生
「デジタル化でのDVTSの影響について」 河原研二先生は,堤先生との海外旅行(アメリカ,ドイツ)の思い出話からお話しされま
した.講演前半では,第 30回人工知能研究会・第 9回日本コンピュータ歯科医学会合同総会(岡山)において,DVTS(高速デジタルビデオ画像通信システム)を用いて行われた,学会会場と岡山理科大学の双方向会議の映像を流され,その際に用いられた具体的な方法に
ついて改めてお示し頂きました.講演後半では,医療への応用例として DVTS を用いた遠隔医療用画像通信により可能となる遠隔診断についてお話し頂きました.
玄丞烋 先生:京大再生医科学研究所
「歯科・口腔外科における有機高分子バイオマテリアル」 再生医療におけるバイオマテリアルの役割ということで、いろいろな分野における最先
端の材料のお話をして下さいました。 まず生体材料には分解吸収性のものと非分解吸収性の2種類があり、吸収性のものでは、
縫合糸(メディフィット)やGTRに用いられるメンブレンがある。骨折時におけるプレートや骨に近い曲げ強度をもつネオフィットスクリューもある。しかし、これらの欠点として
プレート周囲の骨がやせたり、弾性率がまだまだ上がらないなどの改善点もある。GTR においては生体でも一定の効果をあげてきたが、GBRのメンブレンにおける再生医療への応用が望まれる。現在ではビーグル犬での実験ですが、GBRメンブレンは歯槽骨再生率が高い(70~80%)というデータもあるとのことです。また近年では、食品添加物を用いた新規医療用接着材(LTDEX)という商品があり、これは肝臓切除時の止血がどのくらいかかるかというデータにおいて、通常の止血を行うよりも効果的であるという結果があるそうです。
他には、ポリマーを介してコラーゲンを固定化する人工歯根の研究など多岐にわたる材料
の話をしてもらいました。
南部敏之 先生
「パラレルメカニズムを利用した、顎運動ロボットに関する研究」 先生には、顎運動動ロボットの研究を紹介していただきました。パラレルメカニズムと
は、シリアルメカニズムと比較して、大きな力に耐え、高速に処理することができます。
出力が大きく、剛性が高いため、ロボット等に適しているという特徴があります。欠点は
リンク数が多く、制御が困難であることなどです。プラットフォームからベースへ足が出
て、制御している構造です。 顎運動計測装置(機械式と光学式)にて、遠隔診断ができます。この装置を用いると、
人の顎の動きを再現し、顎関節の診断や咬合関係の診査を行うことができます。 研究のお話以外にも、いろんな興味深いエピソードを聞かせていただきました。学生の
頃の堤先生との思い出、本研究会の今までの活動、また最近の松風でのお話(テレビ会議
をされたそうです!)などです。楽しく聞かせていただきました。
前田芳信先生 :大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座 第二補綴科教授
「何を目指して何が得られたか。そしてここから何を目指すか」
まず、前田先生が堤先生の研究室に行っていた頃の思い出話をしてくださいました。 よく二人で食事に行ったそうですが、その時に堤先生から「君は何がしたいんや?」とい
う厳しい質問を投げかけられることがあったそうです。それをきっかけに、前田先生は題
目のような考えが身についたそうです。 次に、歯科における知識の継承についてのお話をしてくださいました。 歯科の知識は徒弟制度のように後世に伝わっていくことが多かったが、そのように伝わっ
ていく知識は本当に科学だと言えるのか思い、歯科におけるエキスパートシステムを作ろ
うと決意なさったそうです。エキスパートシステムとは、エキスパートの技術を知識化す
ることです。従来の徒弟制度とは違い、臨床疫学的データの中から重要因子を見出し、科
学的エビデンスから判断基準を構築することです。
堤 定美 先生 特別講演 ・ 形状計測(CAD/CAM,MRI)位置計測(Robot arm)物性計測(MRE/SQUID,Vibration)の基本技術を応用してMeasuring,Processing, Imagingの3者の相互関係を構築していく。
・ Information Technology (IT)と歯科理工学 2000-2001では、歯科理工学が ITを生かして臨床または研究・教育で生かされる技術を実現化していくために、臨床系研究者と歯
科理工学系研究者の問題点と対策などが話し合われた。 ・ サイバーキャンパス・コンソーシアム事業イメージでは、複数の大学が、シラバスと ITを活用した授業運営情報の共有など、ネットワークを介してオンデマンド方式で授業の
連携・支援・学習成果の講評を行うことを目的とした。 ・ IT(Statistical Analysis of Clinical Evidence, CAD/CAM, CAE/Simulation,Virtual
Reality, CAIなど)の技術を用いて、顔面形態計測、石膏模型の CAD/CAM、顎顔面欠損症例に対するアプローチ、矯正・外科における手術前後の顔面形態の変化予測また手
術時に使用するスプリントをシミュレーションから作製する技術、学生と教員の間にお
けるワックスアップや窩洞形成の形態比較評価、バーチャルリアリティーでの歯牙切削
体験、パラレルメカニズムによる顎運動の再現、MRI と時間軸による筋肉・関節などの運動評価を行った。
・ ドイツの Humboldt大学における手術ナビゲーションシステムを紹介。 ・ 超電動磁気壱センサーSQUID(Superconducting Quantum Interference Device)による悪性腫瘍検査と、それを応用した脳磁図MEG(Magneto Encephalo Graphy)による脳の電気活動により生じた変動磁場の計測を可能にした。
歯科人工知能研究会と研究仲間 ・ AI
Diagnosis (Dr.N.Maeda) Decision making (Dr.Y.Maeda) Scheduling (Mr.Fukuma)
・ VR Parallel mechanism robot (Dr.Nambu) MRI(4D,DT)→MRE→SQUID (Mr.Azuma, Nakai, Yamaguchi, Dr.Kang)
・ CAD/CAM Operating planning (Dr.Okumura, Dr.Sogo, Dr.Motegi, Mr.Muramoto) Modelling (Prof.Gen, Dr,Ohta, Mr.Shibata)
・ Simulation FEM→JIS/ASTM/ISO→FDA, Japanese-FDA
Thermal, Impact, Remodeling, Fatigue analysis (Drs. Maeda, Inoue, Okada, Ishii, Sogo, Minoura, Murase, Yoshida, Kang)
堤先生の講演後、株式会社アイキャット代表取締役 十河基文先生、 大阪大学歯学部咀嚼補綴科 塚本先生から花束が贈呈されました。
懇親会 懇親会では、若手の先生方からベテランの先生方まで楽しい時間を過ごすことができまし
た。皆さん、昔の思い出話に花が咲いたのではないでしょうか。