小学校理科における観察・実験の技能に関する授業改善 ·...

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滋賀県総合教育センター 森 井 貴 士 キーワード 観察・実験の技能の習得 技能に関する実態調査 指導事例集 計画的な実施 試行による実感 観察・実験パフォーマンステスト 研究の要旨 Ⅰ 主題設定の理由 ······················· Ⅱ 研究の目標 ····························· Ⅲ 研究の仮説 ····························· Ⅳ 研究についての基本的な考え方 ··· 1 本研究における「観察・実験の技 能」のとらえ方 ···················· 2 観察・実験の技能の確実な習得を 目指す指導と評価の工夫 ········· 3 指導事例集の作成 ·················· Ⅴ 研究の進め方 ·························· 1 研究の方法 ·························· 2 研究の経過 ·························· (1) (1) (1) (2) (2) (2) (3) (3) (3) (3) Ⅵ 研究の内容とその成果 ··············· 1 実態調査から明らかになった観 察・実験の技能に関する課題 ··· 2 実態を踏まえた指導事例集の作 ······································ 3 指導事例集を活用した授業実践 4 指導事例集の活用による効果 ··· Ⅶ 研究のまとめと今後の課題 ········· 1 研究から明らかになったこと ··· 2 今後の課題 ·························· 文 献 (4) (4) (5) (7) (12) (13) (13) (14) 平成26年度(2014年度) 理科教育に関する研究Ⅱ 小学校理科における観察・実験の技能に関する授業改善 -滋賀県の実態を踏まえた指導事例集の作成と活用を通して-

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Page 1: 小学校理科における観察・実験の技能に関する授業改善 · 理科教育に関する研究Ⅱ 平成26年度(2014年度) 理科教育に関する研究Ⅱ 研究構造図

滋賀県総合教育センター

森 井 貴 士

キーワード

観察・実験の技能の習得 技能に関する実態調査 指導事例集

計画的な実施 試行による実感 観察・実験パフォーマンステスト

目 次

研究の要旨

Ⅰ 主題設定の理由 ·······················

Ⅱ 研究の目標 ·····························

Ⅲ 研究の仮説 ·····························

Ⅳ 研究についての基本的な考え方 ···

1 本研究における「観察・実験の技

能」のとらえ方 ····················

2 観察・実験の技能の確実な習得を

目指す指導と評価の工夫 ·········

3 指導事例集の作成 ··················

Ⅴ 研究の進め方 ··························

1 研究の方法 ··························

2 研究の経過 ··························

(1)

(1)

(1)

(2)

(2)

(2)

(3)

(3)

(3)

(3)

Ⅵ 研究の内容とその成果 ···············

1 実態調査から明らかになった観

察・実験の技能に関する課題 ···

2 実態を踏まえた指導事例集の作

成 ······································

3 指導事例集を活用した授業実践

4 指導事例集の活用による効果 ···

Ⅶ 研究のまとめと今後の課題 ·········

1 研究から明らかになったこと ···

2 今後の課題 ··························

文 献

(4)

(4)

(5)

(7)

(12)

(13)

(13)

(14)

平成26年度(2014年度) 理科教育に関する研究Ⅱ

小学校理科における観察・実験の技能に関する授業改善

-滋賀県の実態を踏まえた指導事例集の作成と活用を通して-

Page 2: 小学校理科における観察・実験の技能に関する授業改善 · 理科教育に関する研究Ⅱ 平成26年度(2014年度) 理科教育に関する研究Ⅱ 研究構造図

理科教育に関する研究Ⅱ

観察・実験の技能に関する習得状況の調査(国立教育政策研究所)において、児童の技能

の習得に課題が見られた。滋賀県では、技能に関する実態調査が今まで実施されていない

現状があり、技能の習得状況の把握、学習指導の充実が求められている。

滋賀県の実態を踏まえた指導事例集の作成と活用を通して、児童一人ひとりの観察・実

験の技能の確実な習得につながる授業のあり方を探る。

1 教員への観察・実験の技能に関する実態調査

技能に関する実態と課題を明らかにするために、アンケートによる調査を行う。

2 実態を踏まえた指導事例集の作成

調査から明らかになった課題を分析し、改善の切り口を取り入れた指導事例集を作成する。

指導事例集を活用することにより、以下の流れで授業の改善を目指す。

⇒ 指導に必要な知識・技能の習得→問題解決の授業づくり→習得への指導と評価の工夫

活用資料として、相互評価に用いる「検定カード」や技能に関する系統図等を作成する。

3 指導事例集を活用した授業実践

国立教育政策研究所の調査から課題の見えた顕微鏡、上皿てんびんの単元で授業を実践する。

作成した指導事例集では、技能の確実な習得を目指す三つの指導と評価の工夫を考えた。

■ 指導と評価の工夫①「計画的な実施」

問題解決の流れに沿って、児童が観察・実験を計画的に実施する。

⇒ 児童が見通しや目的意識を持って器具を操作することや、用いる必要性を感じる。

■ 指導と評価の工夫②「試行による実感」

器具の操作について、試行という具体的な体験を通して主体的な問題解決を図る。

⇒ 操作の意味や器具の機能等について、児童が実感を伴って理解する。

■ 指導と評価の工夫③「観察・実験パフォーマンステスト」

形成的評価として、個別に実技テストを行う。(グループでの相互評価)

⇒ 習得状況を把握し、指導と評価の一体化を目指す。また、学び合いにつなげる。

◆指導事例集を活用することで、授業者は、指導と評価の工夫を行い、観察・実験の技能

の確実な習得につながる授業を実践することができた。⇒ 授業改善・指導力の向上!

◆児童が、技能を確実に習得することによって、学習意欲の向上、操作時間の短縮、主体

的な問題解決へのつながりといった学習効果が見られた。⇒ 理科学習の活性化!

平成26年度(2014年度) 理科教育に関する研究Ⅱ

小学校理科における観察・実験の技能に関する授業改善 -滋賀県の実態を踏まえた指導事例集の作成と活用を通して-

研究員 森 井 貴 士

研究の背景 観察・実験の技能の習得状況に課題あり?!

目 的 観察・実験の技能に関する授業改善!

研究の方法 実態調査 ⇒ 指導事例集の作成 ⇒ 活用(授業実践)

研究の概要 聞いたことは忘れる 見たことは覚える 体験したことは分かる! 発見したことはできる!

概要版

成 果 指導事例集の活用による授業の改善と、理科学習の活性化!

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理科教育に関する研究Ⅱ

平成26年度(2014年度) 理科教育に関する研究Ⅱ 研究構造図

滋賀県の教員への実態調査

観察・実験の技能に関するアンケートによる調査

児童一人ひとりの観察・実験の技能の確実な習得

理科の指導力の向上

作成

活用

操作の正しい手順が分かる!

操作指導のポイントが分かる!

児童のつまずきに対する支援が分かる!

指導に必要な

知識・技能の習得

指 導 事 例 集

技能の習得に有効な指導・評価ができる!

問題解決の授業ができる!

指導用の映像資料 技能に関する系統図

相互評価に用いる「検定カード」

問題解決の学習

授業づくり

確実な技能の習得を目指す

指導と評価の工夫

授業で

研修で

各地域・各学校において求められる授業改善 技能の習得状況の把握 学習指導の充実

技能の習得状況に関する実態調査 (平成24年度 国立教育政策研究所)

児童の器具を操作する技能に課題

小学校理科教育実態調査 (平成20年度 科学技術振興機構)

教員の理科の指導に対する苦手意識

授 業 改 善

改善の切り口 明らかになった 課題を分析

活用資料

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理科教育に関する研究Ⅱ

昔の人は、こんな 道具を使っていたよ

つり合っている左右に物を吊るせば、重さが比べられると思います

上手く つり合ったよ

ちょっと ずらせば…

次は、分銅作りだね

もう少しでつり合いそうだから、ちょっとだけだよ

もう少しのせるね

重さを量ってみよう!

やった!重さがピッタリ!

正確さを確認してみよう!

指導事例集を活用した授業Ⅰ 上皿てんびんの事例 6年

詳細は、紀要 P8~9参照

おしべの先に黄色い 粉がついていたよ

肉眼や虫眼鏡では、 よく見えないよ

このねじを回すとステージが上下するよ

回してピントを合わせてみよう

手順を確認するよ

花粉は、どんな形をしているのかな

ピントを確認して

バッチリ! はっきり見えるよ

指導事例集を活用した授業Ⅱ 顕微鏡の事例 5年

詳細は、紀要 P10~11参照

他の花粉も調べてみよう!

顕微鏡を使う単元… どう指導したら…

技能の習得を目指す指導事例集…?

上皿てんびんを使う単

元…どう授業しよう。

授業の展開は… 試行のねらいは… 相互評価させて… 「検定カード」も…

なるほど! 操作のポイントは…

ふむふむ

授業が楽しみだ! 児童に「分かった」 「できた」喜びを!

授業 start!

実験の計画は… 試行錯誤させて… 評価のポイントは… ここは学び合いを…

器具の準備と確認も…

ふむふむ

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理科教育に関する研究Ⅱ

- 1 -

理科教育に関する研究Ⅱ

小学校理科における観察・実験の技能に関する授業改善 -滋賀県の実態を踏まえた指導事例集の作成と活用を通して-

Ⅰ 主 題 設 定 の 理 由

平成20年1月の中央教育審議会の答申では、理科の改善の基本方針として「科学的な知識や概念の

定着を図り、科学的な見方や考え方を育成するため、観察・実験を一層充実する方向で改善する」と

示された。しかし、平成24年度全国学力・学習状況調査では、観察・実験の技能に関する知識の習得

に課題が見られた。それを受けて、ペーパー調査で測定しきれない観察・実験の技能に関して、平成

24年6月から12月にかけて国立教育政策研究所による習得状況の調査が行われた。これは、観察・実

験器具の操作についての調査であり、評価者が対象児童に一対一形式で操作を行わせ、評価するもの

である。この調査の結果、技能の習得に課題が見られ、「児童一人ひとりが観察・実験の技能を確実

に習得できるよう、指導方法等の工夫・改善、習得状況の把握が望まれる」1)と示された。また、「本

調査分析は、研究指定校における観察・実験の技能の習得状況を表したものであり、全国的に普遍的

な状況を表すものではない」2)とされている。滋賀県における観察・実験の技能に関する実態調査は、

今まで実施されていない現状がある。このことから、国立教育政策研究所の取組と結果を参考にした

観察・実験の技能に関する滋賀県の教員の指導や評価等の実態の把握が必要であると考える。

一方、小学校教員を対象にした平成20年度小学校理科教育実態調査では、「学級担任として理科を教

える教員の約5割が、理科の指導に苦手意識を感じており、その中でも教職経験が10年未満の教員で

は、6割を超えている」3)という結果となった。このような小学校教員の苦手意識を取り除き、理科

の指導力を向上させるためには、授業改善が必要であると考える。

これらのことから本研究では、滋賀県における観察・実験の技能に関する教員の実態を調査するこ

とで明らかになった課題を分析し、授業改善につなげたいと考え、本主題を設定した。

Ⅱ 研 究 の 目 標

小学校理科における観察・実験の技能に関して、滋賀県の教員の実態を踏まえた指導事例集の作成

とその活用を通して、児童一人ひとりの技能の確実な習得につながる授業のあり方を探る。

Ⅲ 研 究 の 仮 説

小学校理科における観察・実験の技能に関して、滋賀県の教員への実態調査から明らかになった課

題を分析し、改善につながる指導事例集を作成する。これを活用すれば、理科の授業が改善でき、教

員の指導力の向上を図ることができるであろう。さらに、技能の習得状況を見取る形成的評価として

「観察・実験パフォーマンステスト」を取り入れれば、指導と評価の一体化につながり、児童一人ひ

とりが観察・実験の技能を確実に習得することができるであろう。

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理科教育に関する研究Ⅱ

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Ⅳ 研究についての基本的な考え方

1 本研究における「観察・実験の技能」のとらえ方

小学校理科における観察・実験の技能についての評価の観点の趣旨は、「自然の事物・現象を観察し、

実験を計画的に実施し、器具や機器などを目的に応じて工夫して扱うとともに、それらの過程や結果

を的確に記録している」4)とされている。また、平成24年度に国立教育政策研究所によって行われた

観察・実験の技能の習得状況に関する調査は、「9つの項目(虫眼鏡、方位磁針、アルコールランプ、

直列つなぎ、並列つなぎ、検流計、顕微鏡、電子てんびん、上皿てんびん)において、それらを実際

に操作した技能の習得状況についてみるものである」5)として実施された。

これらのことから、本研究において確実な習得を目指す観察・実験の技能を、「観察・実験器具を

目的に応じて工夫して扱うこと」に絞って考える。

なお、小学校理科の目標は、「科学的な見方や考え方を養うこと」と明記されている。このことに

ついて、学習指導要領解説では、「理科の学習は、児童が既にもっている自然についての素朴な見方

や考え方を、観察・実験などの問題解決の活動を通して、少しずつ科学的なものに変容させていく営

みである」とされている。つまり、理科の学習は、児童が問題解決の活動をするところに特徴があり、

観察・実験の技能は、問題解決のための一つの手段であると考える。そのため、本研究では、単に器

具を扱えるのではなく、あくま

でも問題解決につながる技能

の習得を目指し、各学年で育成

する技能を明確にした(表1)。

これについては、問題解決の能

力と同じように、系統的に指導

する必要があると考える。

2 観察・実験の技能の確実な習得を目指す指導と評価の工夫

平成24年度に国立教育政策研究所から示された「観察・実験の技能の習得状況に関する調査分析の

結果を踏まえた指導改善等のポイント」6)の要点は、以下の三つである。

① 観察・実験器具に触れる機会を増やす学習指導の充実

② 観察・実験器具の機能を理解して操作する学習指導の充実

③ 各地域・学校における観察・実験の技能の習得状況の把握

本研究では、これらを参考に、以下の三つの指導と評価の工夫を行い、授業改善を目指す。

(1) 指導と評価の工夫①「計画的な実施」

学習指導要領の理科の目標には、「見通しをもって」「目的意識をもって」観察・実験などを行う

と明記されている。「計画的な実施」では、図1のような流れを意識的に学習活動の前半に取り入れ、

児童が見通しを持って器具を操作することや、器具を用いる必要性を感じることを目指す。これに

よって、ただ単に器具に触れる機会を

増やすだけでなく、児童自らが目的意

識を持って、操作する機会を増やす。

(2) 指導と評価の工夫②「試行による実感」

小学校学習指導要領解説理科編では、「実感を伴った理解」を次のように定義付けしている。一

つ目は、具体的な体験を通して形づくられる理解、二つ目は、主体的な問題解決を通して得られる

学年 問題解決の能力 問題解決につながる観察・実験の技能

3年生 比較しながら調べる ○簡単な観察・実験器具を目的に応じて使う

4年生 関係付けながら調べる

5年生 条件制御しながら調べる ○操作手順に従って観察・実験器具を目的に応じて工夫して使用する 6年生 推論しながら調べる

中学校 結果を分析・解釈する ○観察・実験器具の特性や仕組みを理解しながら目的に応じて工夫して使用する

表1 各学年で育成する問題解決の能力と問題解決につながる観察・実験の技能

図1 観察・実験への「計画的な実施」の流れ

観察実験

なぜ? どうして? ○○を使って調べよう

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理科教育に関する研究Ⅱ

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理解である。そこで、「実感を伴った理解」を目指し、以下のような活動を取り入れる。

○ 試行錯誤の体験を通して、児童自らが「器具の機能や仕組みにつながる問題」を解決する

○ 児童が器具の操作を自由に試行する体験を通して、自ら「正しい操作方法」に気付く

「試行による実感」では、児童が試行を繰り返し、次第に見通しを立てて、技

能に関する問題の解決策や方法を見いだすことを目指す。そのため、試行を通し

た児童の思考に重点を置く(図2)。これにより、器具の機能や仕組み、操作の意

味について、児童が実感を伴って理解すると考える。また、操作方法の説明にお

いても、授業者からの問いかけによって、児童に思考を促す場面を仕組む。

(3) 指導と評価の工夫③「観察・実験パフォーマンステスト」

観察・実験の技能の確実な習得のために、指導と評価の一体化を図りたいと考える。それには、

児童一人ひとりの技能の習得状況の把握や評価が必要である。そこで、本研究では、授業の中で児

童の観察・実験の技能の習得状況を見取る形成的評価として「観察・実験パフォーマンステスト」

を提案する。これは、ペアあるいはグループの中で一人ずつ観察・実験器具の操作を行い、手順通

り進められたかについて、他の児童が評価を行う(相互評価)ものである。これを基に個に応じた指

導を行い、児童一人ひとりの技能の確実な習得を図る。

なお、このテストは、実技テストとして独立して行うのではなく、単元における観察・実験の中

に取り入れる工夫が必要であると考える。そうしたことから、何度も繰り返し操作する必然性や、

操作について相互評価する必要性のある観察・実験を目指す。

3 指導事例集の作成

平成20年度小学校理科教育実態調査では、「理科を指導する小学校教員

は、すぐに使える優れた教材や指導法に関する情報への期待が強い」7)と

されている。この情報を基にして授業を行うことで、児童の観察・実験の

技能の確実な習得につながると考える。そこで、本研究では、観察・実験

の技能に関する指導事例集を作成する(図3)。この指導事例集は、理科に

苦手意識を持つ教員や若手教員の指導力向上のための研修においても活用できると考える。

Ⅴ 研 究 の 進 め 方

1 研究の方法

(1) 県内の教員への実態調査として、観察・実験の技能に関するアンケートによる調査を行う。

(2) 実態調査から明らかになった課題を分析し、改善につながる指導と評価の工夫を検討する。

(3) 各単元の授業において、指導と評価の工夫を行う展開案を示した指導事例集を作成する。

(4) 指導事例集を活用した授業を実践し、その効果や指導と評価の工夫について検証する。

(5) 研究の成果と課題を研究紀要等にまとめ、その活用を図る。

2 研究の経過

4月 5月 6月 7月 8月

研究構想、推進計画の立案 観察・実験指導力向上研究協議会(アンケート) 第1回専門・研究委員会(研究構想、計画) 観察・実験指導力向上研究協議会(アンケート回収) 第2回専門・研究委員会(授業の展開案の検討) 指導事例集の作成

9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月

授業実践、指導事例集の修正 授業実践、第3回専門・研究委員会(考察) 研究の成果と課題の分析 研究紀要原稿執筆 研究発表準備、研究ダイジェスト作成 研究発表大会、研究報告会 研究のまとめ、次年度研究構想

図2 「試行による実感」

図3 指導事例集の表紙の一部

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理科教育に関する研究Ⅱ

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Ⅵ 研 究 の 内 容 と そ の 成 果

1 実態調査から明らかになった観察・実験の技能に関する課題

本研究を進めるにあたり、観察・実験の技能に関する実態と課題を明らかにするために、アンケー

トによる調査を行った。これは、平成26年度「文部科学省委託事業 小・中学校理科の観察・実験指

導力向上研究協議会」の受講者(県内の小・中学校教員が各校1名ずつ参加)を対象に実施した。

その結果から、明らかになった主な課題を以下の六つにま

とめ、指導事例集の作成に生かすことにした。

(1) 児童一人ひとりの習得状況の把握、評価方法

習得状況の把握、評価方法については、図4に示すよう

に、実施に偏りが見られる。「行っている」「どちらかと言

えば行っている」と肯定的に回答した教員が最も多いのが、

「ペーパーテスト」で95%以上である。一方、肯定的に回

答した小学校教員が少ないのが、「相互評価(およそ30%)」

と「実技テスト(およそ40%)」である。また、「実技テスト」

は、小・中学校で回答の割合におよそ30%の差がある。

さらに、図5に示すように、技能の習得に係る授業で「評

価を指導に生かす指導と評価の一体化」を意識したいと回

答した教員は、他の項目に比べて少ない。

これらのことから、習得状況の把握、評価の主な方法が、

「ペーパーテスト」であり、技能というよりは、技能に関

する知識を見取ることになっていると考える。特に、小学

校では「実技テスト」があまり実施されておらず、技能の

習得状況の把握、評価方法に課題があると考える。

(2) 目的意識や必要性をもたせた観察・実験

授業で意識したいことについては、図5に示す

ように、「目的意識や必要性を持たせた観察・実験」

と回答した教員が最も多い。一方、5ページの図

6に示すように、「指導内容・方法が困難」と感じ

ている小学校教員が多い。その中には、目的意識

や必要性を児童に持たせるための指導に悩んでい

ると記述した教員もいる。

これらのことから、児童の主体的な問題解決につながる「目的意識や必要性を持たせた観察・実

験」について、教員の意識は高いものの、指導に対する支援が必要であると考える。

(3) グループ活動や相互評価を取り入れた学び合い

図5に示すように、技能の習得に係る授業で意識したいことについて、次いで多い回答が、「グ

ループ活動や相互評価を取り入れた学び合い」である。一方で、図4に示すように、「相互評価」を

「行っている」と回答した教員は、小・中学校ともに、5%未満である。

これらのことから、「グループ活動や相互評価を取り入れた学び合い」について、教員の意識が

あるにもかかわらず、実施できていないという現状があると考える。

図4 習得状況の把握、評価方法について

0% 20% 40% 60% 80% 100%

中学校

行っている どちらかと言えば行っている

どちらかと言えば行っていない 行っていない

0% 20% 40% 60% 80% 100%

中学校

小学校

中学校

小学校

中学校

小学校

中学校

小学校

中学校

小学校

中学校

小学校

中学校

小学校

相互評価

自己評価

ペーパーテスト

実技テスト

発言分析

記録・記述分析

行動観察

行動観察

記録・記述分析

発言分析

実技テスト

ペーパーテスト

自己評価

相互評価

(回答総数 小学校教員 183 中学校教員 68)

図5 技能の習得に係る授業で意識したいことについて

15

60.2

23.5

72

41.1

25.6

65

22.4

91.2

30

評価を指導に生かす指導と評価

の一体化

グループ活動や相互評価を取り

入れた共同的な学び

短時間で有効な指導と評価

目的意識や必然性をもたせた観

察・実験

個別に行う場面を設定した授業

展開

小学校

中学校

(数字は%)

評価を指導に生かす 指導と評価の一体化

グループ活動や相互評価を 取り入れた学び合い

短時間で有効な指導と評価

目的意識や必要性を 持たせた観察・実験

個別に行う場面を設定した 授業展開

(回答総数 小学校教員 183 中学校教員 68)

(複数回答可)

(数値は%)

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理科教育に関する研究Ⅱ

- 5 -

(4) 観察・実験器具の個別の操作

図6に示すように、日頃の指導では、「活動する

児童・生徒の偏り」を課題と記述した教員が最も

多い。一方、4ページの図5に示すように、「個別

に行う場面を設定した授業展開」を意識したいと

回答した小学校教員は、30%である。

これらのことから、日頃の授業では、積極的に

活動する児童・生徒だけが器具を操作する傾向に

あり、個別の操作の保証が必要であると考える。

(5) 小学校教員の理科の指導力向上

図6に示すように、小学校教員が課題とした記述が多かったのが「指導内容・方法が困難」であ

る。また、「準備や片付けが大変」と回答する小学校教員の割合も中学校に比べて高い。県内の小学

校高学年では、担任以外の教員が理科を指導している学級が半数以上あり、その関連がうかがえる。

これらのことから、理科の苦手な小学校教員への指導内容・方法に対する支援や、理科の指導力

向上のための手立てが求められていると考える。

(6) 小・中学校の理科教育の接続

技能に関する指導や評価等について、小・中学校教員の回答の割合

を比較すると、類似点や相違点が明らかになった。また、図7で示す

ように、中学校の学習内容を踏まえて指導「している」と回答した小

学校教員は5%、「ややしている」は35%である。

これらのことから、指導と評価についてや、学びのつながり等、小・

中学校の接続を、滋賀県の実態を踏まえて見直す必要があると考える。

2 実態を踏まえた指導事例集の作成

(1) 明らかになった課題を改善する切り口

実態調査から明らかになった課題を改善する切り口を考えた。これらの切り口を取り入れた指導

事例集を作成する(表2)。

明らかになった課題 改 善 の 切 り 口 指 導 事 例 集 で は …

1 児童一人ひとりの

習得状況の把握、評価方法

実技テストで児童一人ひとりの

習得状況を把握する

個別に実技テストで把握、評価する

⇒「観察・実験パフォーマンステスト」

2 目的意識や必要性を 持たせた観察・実験

児童に、観察・実験器具を用いる目的や 見通しを持たせ、必要性を感じさせる

器具を用いる目的・必要性を持たせた観察・実験 ⇒「計画的な実施」

3 グループ活動や相互評価を

取り入れた学び合い

技能の習得のための学び合いとして、

グループ学習や相互評価を取り入れる

グループ学習を取り入れる

⇒「計画的な実施」「試行による実感」

相互評価を活用する

⇒「観察・実験パフォーマンステスト」

4 観察・実験器具の 個別の操作

児童が器具に触れる機会を増し、 全員が個別に操作する機会を保証する

器具を操作する機会を増やす観察・実験 ⇒「計画的な実施」

個別に操作することを保証する

⇒「観察・実験パフォーマンステスト」

5 小学校教員の 理科の指導力

器具の機能や仕組み、操作の意味について

児童に実感を伴って理解させる指導を行う

体験を通した問題解決を仕組む

⇒「試行による実感」

授業の支援として、指導内容・方法等の

詳細を示した資料を作成する

問題解決の学習過程を踏まえた学習展開

指導と評価の工夫を行う学習活動

6 小・中学校の 理科教育の接続

技能に関する学びのつながりを明確にする 学びのつながりを示した系統図の作成

小・中学校の技能に関する指導や評価を接続する 実態を踏まえた指導と評価の工夫

表2 実態調査から明らかになった課題とその改善の切り口を取り入れた指導事例集について

図6 技能の習得に係る指導で日頃、課題であると感じていることについて

4.4

10.2

22

20.5

19.1

7.3

20.5

25

7.6

22.4

10.3

12.5

13.6

14.2

9.8

22.9

その他

指導内容・方法が困難

授業時間の不足

児童・生徒の実態

個別の指導や評価ができない

準備や片付けが大変

設備・備品の不足

活動する児童・生徒の偏り

小学校

中学校

(数字は%)

図7 小・中学校の接続について

している

5%

ややして

いる

35%あまりし

ていない

46%

して

いない

14%

中学校の学習内容を

踏まえて指導している

(複数記述有り)

(回答総数 小学校教員 183 中学校教員 68)

(回答総数 小学校教員 183)

(数値は%)

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理科教育に関する研究Ⅱ

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(2) 指導事例集の内容

指導事例集における各事例の構成を図8に示す。この指導事例

集を活用することにより、理科の授業を改善し、小学校教員の理

科の指導力の向上および児童の技能の習得を目指す。

ア 各事例の表紙について

指導事例集は、使用する観察・実験器具ごとに事例をまとめ

た。表紙には、器具を使用する複数の単元を示すことで、器具

に触れる機会を増やすべく学習指導の充実を図る。また、国立

教育政策研究所から示された指導改善の要点をまとめた。

イ 操作方法について

ここでは、授業者が指導に必要な器具の操作についての知識・技能を習得することを目指した。

そのため、図9に示すように、操作の手順や指導のポイント等を写真とともにまとめた。

なお、操作方法を指導する際には、指導事例集の他に、映像資料を用いることにした。これは、

プレゼンテーションソフトで作成し、スライドの加工や提示のタイミングの変更ができるように

している。また、図10に示すように、児童に見せながら指導できるように、分かりやすく、簡潔

な言葉で作成し、児童の印象に残るようにした。

これらを、教材研究や予備実験、授業の中で活用する

ことにより、誰でも正しくかつ安全に観察・実験器具を

取り扱い、指導できるようになると考える。

ウ 授業展開案について

理科学習の特徴である問題解決の学習過程を重視して、授業の展開案を作成した(p.7の図11)。

展開案は、各器具を使用する単元内の問題解決を一括りとし、これに沿って授業を行えば、問題

解決の学習過程を踏まえた授業ができるようになっている。授業者が、このような授業を体験す

ることで、理科の指導力の向上につながると考える。

また、指導と評価の工夫を行う学習活動を取り入れ、児童の技能の確実な習得を目指す。これ

については、見てすぐ分かる使いやすいものを目指し、左ページには、学習活動や教師の支援を

示し、右ページには、指導と評価の工夫のポイントを示し、見開きで活用するようにした。これ

により、授業者が、児童の技能の習得に有効な指導や評価を行うことができると考える。

図9 顕微鏡の事例における操作方法のページの一部

操作方法の中で、特に児童に思考させたい内容についての教師からの問いかけ。児童に思考させることで、

より深い理解を図る!

つまずきに対する指導のポイント

↓↓↓つまずきを見取る

評価方法

よくある児童のつまずき

つまずきを予想した上で余裕を持って指導できる!

操作方法の説明

正しい操作方法が

分かる!

おさえておきたい指導のポイント

図10 上皿てんびんについての映像資料

図8 各事例の構成と活用によるねらい

各事例の構成

表紙

操作方法

授業展開案

活用資料

指導に必要な知識・技能の習得

問題解決の学習過程を踏まえた

授業づくり

指導事例集を活用すれば

理科授業の改善

技能の習得への指導と評価の工夫

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理科教育に関する研究Ⅱ

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エ 活用資料について

授業で活用できるワークシートを作成した。これは、操作に対

する評価の観点等を示した相互評価および自己評価に活用でき

るものや、各自が繰り返し器具を扱う練習ができるものである。

また、観察・実験の技能の観点から学びのつながりを示した系

統図を作成した。これは、図12に示すように、習得した顕微鏡の

技能を他の単元に活用したり、虫眼鏡や解剖顕微鏡等の使い方を

顕微鏡の操作に応用したりすることによって、より確実な児童の

技能の習得を図るものである。さらに、中学校の学習内容にも触

れ、小学校教員が学びのつながりを意識して指導することで、指

導力の向上を目指せるように工夫した。

3 指導事例集を活用した授業実践

表3に示すように、平成24年度の国立教育政策研究所の調査結果では、特定の観察・実験器具(方

位磁針、並列つなぎ、顕微鏡、上皿てんびん)において、児童の技能の習得に課題が見られた。この

結果を参考に、技能の習得に向けた授業の改善を図る必要がある。そこで、本研究では、課題の見え

た器具を使用する第6学年「てこの規則性(上皿てんびん)」、第5学年「植物の結実(顕微鏡)」の二

つの単元を取り上げ、指導事例集を活用した授業を実践した。

授業実践Ⅰは、問題解決の学習過程を踏まえた授業におい

て、指導と評価の工夫を行うことにより、児童の観察・実験の

技能が高められた事例である。

授業実践Ⅱは、児童の自由な試行からの操作方法の理解と、

「検定カード」を用いた「観察・実験パフォーマンステスト」

により、確実な技能の習得につながった事例である。

なお、授業を実践する学級の児童にとって、本単元が使用す

る器具を初めて操作する機会であった。

調査項目 第4学年 第5学年 第6学年

虫眼鏡 91.6% 97.8%

方位磁針 58.6% 55.3%

アルコールランプ 60.9% 94.2%

直列つなぎ 87.2% 92.6%

並列つなぎ 55.9% 69.7%

検流計 65.1% 72.5%

顕微鏡 59.8% 27.9%

電子てんびん 87.2% 72.7%

上皿てんびん 46.8%

表3 国立教育政策研究所の調査結果(通過率)

図11 授業展開案のページにおける掲載項目について

観察・実験パフォーマンステスト

単元の流れ

単元のねらい

習得を目指す技能

学習課題

学習活動

教師の支援

学習のまとめ

発展学習

事前準備について

計画的な実施

試行による実感

見開きにして活用

準備や片付けの効率化!手際よく観察・実験が進められる

意欲的に活動技能を高める!

学習のゴールをイメージする

時間の目安

評価規準評価方法

指導と評価の工夫のポイントが分かる!

指導の見通しを持つことができる!

結論

問題解決の流れ

問題解決の学習過程を踏まえた授業ができる!

図12 顕微鏡の技能に関する学びのつながり

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理科教育に関する研究Ⅱ

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(1) 授業実践Ⅰ 上皿てんびんの事例 第6学年「てこの規則性」

ア 単元における「観察・実験の技能」のとらえ方

本単元では、てこについて興味・関心を持って追究する活動を通して、てこの規則性について

推論する能力を育てるとともに、それらについての理解を図り、てこの規則性についての見方や

考え方を持つことができるようにすることがねらいである。

そこで、習得を目指す観察・実験の技能を「上皿てんびんを適切に操作して、てこのきまりを

利用したはかり(てんびんばかり・さおばかり)を計画的に作製する」とした。本研究の実態調

査では、上皿てんびんの代わりに電子てんびんを用いる学校が多いことが分かった。しかし、上

皿てんびんを用いることで、てこの規則性についてのより確かな理解を図ることができると考え

た。また、ものづくりが、てこの規則性について推論する能力の育成や、見方や考え方を持つこ

とにつながると考え、表4に示すような学習活動を設定した。

表4 第6学年「てこの規則性」における上皿てんびんの技能に関する学習活動

イ 「計画的な実施」による器具を用いる見通しや目的意識の重視

本事例では、てこのきまりを利用したはかりの作製が、活動の中

心となる。そこで、ものづくりの動機付けを図るため、導入として

両手に持ったリンゴの重さ比べを行った。児童は、どうすれば重さ

を比べたり、量ったりすることができるのか、既習のてこの規則性

を基に考えた。

次に、てんびんばかり等の昔の道具を提示し、児童が使い方を考えた。これによって、授業者

からの指示に頼ることなく、児童自身がものづくりの計画を立て、見通しを持つことができた(図

13)。さらに、作製するてんびんばかりで重さを量るには、いろいろな重さの分銅を作る必要が

あることに気付き、上皿てんびんを用いる目的や必要性を感じることにもつながった。また、児

童は、作製したはかりの正確さを調べるために上皿てんびんを用いる計画も立てた。これにより、

目的意識を持って、上皿てんびんを繰り返し操作する機会を増やすことができた。

ウ 試行錯誤による器具の仕組みや操作の意味の実感

ものづくりの中に、児童が試行錯誤する活動を取り入れた。はかりの「つり合い」を探す場面

では、既習のてこの規則性から、多くの児童が定規を使って支点から左右同じ距離を測り、おも

学習内容 指導と評価の工夫 目的(○児童 ◇授業者)

てんびんばかり

計画を 立てる

【計画的な実施】 ○身近な物で「重さ比べ」をする

○昔の道具の使い方を考える

○ものづくりに上皿てんびんを用いる見通しや目的意識を持つ ○上皿てんびんを正しく扱う必要性を感じる

てんびん

ばかりを

作製する

○「つり合い」を

探す ○分銅作り

【試行による実感】

○左右同じ重さのおもりを使い、棒が水平につり合うところを探す

○上皿てんびんの仕組みである「つり合い」について実感する

【観察・実験パフォーマンステスト】

○上皿てんびんを用いて、粘土を量り取る

○検定カードを用いて、操作を相互評価する ○正確なはかりの作製を目指す

○順に操作し、上皿てんびんを個別に操作する

○意欲的に上皿てんびんを操作し、相互評価の必要性を感じる

◇技能の習得状況を把握し、課題が見られる場合は、指導に生かす

物の重さを

量る

【試行による実感】

○作製したはかりで重さの量り方を試行する

○上皿てんびんを用いて、正確さを調べる

○操作に関する問題を解決し、重さに見当をつけて量るために、分銅

を重い順にのせるという操作の意味について実感する

さおばかり

計画を 立てる

【計画的な実施】 ○昔の道具の使い方を考える

○ものづくりの見通しを持つ ○正確さを確認するため、上皿てんびんを用いる必要性を感じる

さおばかりを

作製する

【試行による実感】

○支点からの距離をずらし、つり合いを探す ○てこの規則性について、体験を通して実感する

物の重さを

量る

【観察・実験パフォーマンステスト】 ○上皿てんびんを用いて、正確さを調べる

○検定カードを用いて、操作を相互評価する

○順に操作し、上皿てんびんを個別に操作する ○正確さの確認も科学的な見方や考え方であることを理解する

◇技能の習得状況を把握し、課題が見られる場合は、指導に生かす

図13 昔の道具を参考にものづ くりの計画を立てる児童

つり合っている左右に物を吊るせば・・・

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理科教育に関する研究Ⅱ

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りを吊るしていた。しかし、これだけでは上手くいかず、

何度もおもりの位置を微調整する姿が見られた(図14)。こ

のことから、具体的な体験と主体的な問題解決によって、

てんびんの仕組みである「つり合い」の実感を伴った理解

につながったと考える。さらに、図15に示す学習後の児童

の感想から、つり合うことで重さを量る上皿てんびんの仕

組みや、調節ねじを回して水平にする必要があるという操

作の意味の理解にもつながったことが分かる。また、少し

ずらしただけでつり合わなくなった経験から、はかりとい

う道具の精密さを実感していた児童もいた。

次に、作製したてんびんばかりを使って身近な物の重さ

を量る活動を取り入れた(図16)。これについても、試行錯

誤の中で、児童が問題の解決策を見いだすことによって、

見当をつけて重さを量る操作の意味の実感につなげようと

考えた。児童からは、「重すぎたから、次は10gに変えてや

ってみよう」「19g~20gということは分かったけど、これ以上

小さいおもりがない」等、重さに見当をつけていると考えられる

発言が多く見られた。

また、支点からの距離を変えて重さを量るさおばかりの作製で

は、てんびんばかりに比べ、上手くつり合わせられない児童が多

かった。児童は、おもりの位置を少しずつ変えながら「つり合い」

を探す試行錯誤の中で、重ければどうするのか、軽ければどうす

ればよいのかという問題解決を何度も経験した。それが、てこの

規則性の理解や、上皿てんびんをつり合わせるという操作の技能にもつながったと考える。

エ 「観察・実験パフォーマンステスト」による技能の確実な習得

はかりづくりの計画から、上皿てんびんを用いる目的や、操作を繰り返す必要性を児童自身が

感じていた。そこに「観察・実験パフォーマンステスト」を取り入れることで、個別に操作する

機会を保証することができた。

また、「観察・実験パフォーマンステスト」は、操作の技能を見取る形成的評価として取り入

れたが、正確なはかりの作製には、グループで操作を確認する必要があることを多くの児童が感

じていた。そのため、「まだつり合っていないよ」「袋をのせるのを忘れているよ」等、相互評価

の中で、操作について意欲的に指摘し合う姿が見られた(図17)。

上皿てんびんの操作について相互評価する際には、操作手順の確認に加え、左右を水平につり

合わせるための重さを調整する回数を評価者に記録させた。こ

れにより、できるだけ少ない回数で重さを調整しようと丁寧に

操作する児童が多かった。また、調整する回数の多い児童には、

授業者が個別に支援をし、重さの概念や見当の付け方等を再確

認した。

このように、単元の途中に、「観察・実験パフォーマンステ

スト」を取り入れることで、児童の技能の習得状況を授業者が

把握することができた。このことが、指導と評価を一体化させ、

児童の技能の確実な習得につながったと考える。

図14 てんびんばかりの「つり合い」を探す児童

上手くつり合ったよ

ちょっと ずらせば…

○身の周りの物で、はかりを作れたことに驚きました。上皿てんびんは、もっと特別な仕組みがあると思っていたのに、簡単な仕組みでした。

○支点からの距離を同じにしてもつり合わなくて、ちょっとずつずらして、やっとつり合いました。上皿てんびんの調節ねじと似ていると思いました。

○上皿てんびんは、つり合っているから重さを量れることを、実際に自分でつり合わせる体験をしたからわかりました。

図15 上皿てんびんの仕組みや操作の意味を実感した児童の感想(一部抜粋)

つり合いそうだね

10gを5gに変えたよ

図16 作製したてんびんばかりで重さを量る児童

もう少しのせるね

もう少しでつり合いそうだから、ちょっとだけだよ

図17 上皿てんびんの操作を相互評価する児童

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理科教育に関する研究Ⅱ

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(2) 授業実践Ⅱ 顕微鏡の事例 第5学年「植物の結実」

ア 単元における「観察・実験の技能」のとらえ方

本単元では、植物の成長や結実の様子について興味・関心を持って追究する活動を通して、植

物の受粉と結実が関係していることについて条件を制御して調べる能力を育てるとともに、それ

らについての理解を図り、生命を尊重する態度を育て、植物の成長や結実とその条件についての

見方や考え方を持つことができるようにすることがねらいである。

そこで、習得を目指す観察・実験の技能を「顕微鏡を適切に操作して、おしべの先についてい

る粉(花粉)を観察する」とした。顕微鏡を用いて花粉を大きく、はっきりと観察することによっ

て、花粉に興味を持ち、形状等の特徴を調べることができる。そのことが、植物の受粉と結実の

関係を調べる能力の育成につながると考え、表5に示すような学習活動を設定した。

表5 第5学年「植物の結実」における顕微鏡の技能に関する学習活動

イ 自由な試行による実感を伴った操作方法の理解

授業者による顕微鏡の操作方法についての説明の前に、

児童が、操作を自由に試行する活動を取り入れた。これは、

授業者が初めから説明するよりも、児童が試行する中で、

次第に見通しを立てて、正しい操作の方法を見いだしてい

く方が、確実な技能の習得や学習後の技能の保持につながると考えたからである。

そこで、図18に示すような意識させたい操作について、授業者が「視野を明るくするには、ど

うすればいいかな」等と児童に問いかけ、自由に試行させた。この三つの操作は、顕微鏡を適切

に操作する際に、中心となる技能である。また、本研究の実態調査から、中学校において、生徒

の習得状況の割合が半数以下であった高倍率の操作にもつながる技能であると考えた。

なお、プレパラートの破損やレンズに傷を付けることを避ける

ため、児童には、一番低い倍率の対物レンズを用いて、低倍率(40

倍)でのみ操作を試行させた。学級の児童は、「動物の誕生」の単

元において解剖顕微鏡を操作してメダカの卵を観察した経験が

あった。授業者が技能に関する学びのつながりを意識すること

で、反射鏡や調節ねじを操作すれば、明るさやピントが調節でき

るという児童の気付きにつなげることができた(図19)。

さらに、試行しながらグループで交流したことによって、「プレパラートを動かすと花粉が反

対に動くよ」等、発見を伝えたり、上手くいかない原因を一緒に考えたりする姿が見られた。

そして、操作の試行で困ったことを児童に発表させ、適切な操作方法を指導した。児童にとっ

ては、一度試行した操作を再度確認することになり、操作手順や操作の意味の確実な理解につな

がった。また、低倍率で観察できた児童は、「まだ小さくて見えないから、もっと大きく観察し

学習内容 指導と評価の工夫 目的(○児童 ◇授業者)

花のつくりを 観察する

【計画的な実施】 ○肉眼や虫眼鏡で花粉を観察する

○結実における花粉の役割を、その形状や特徴から考えようとする ○「花粉をもっと大きく観察したい」と、顕微鏡を用いる必要性を感じる

顕微鏡の

操作について

学ぶ

【試行による実感】

○低倍率で顕微鏡の操作を自由に試行する

○自らが操作に関する問題を解決する

○低倍率での観察から、高倍率での操作の必要性を感じる

【試行による実感】(操作方法の説明)

○自由な試行で困った操作について解決する ○高倍率の操作方法を学ぶ

○試行した操作の確認によって、操作の意味について理解をする ○適切な操作手順を理解し、操作を評価できるようにする

顕微鏡で

花粉を 観察する

【観察・実験パフォーマンステスト】

○検定カードを用いて操作を相互評価する ○様々な種類の花の花粉を観察する

○順に操作し、個別に操作する

○意欲的に何度も顕微鏡を操作する ◇技能の習得状況を把握し、課題が見られる場合は、指導に生かす

図19 試行しながら交流する児童

回してピントを合わせてみよう

このねじを回すとステージが上下するよ

図18 試行によって意識させたい顕微鏡の操作

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理科教育に関する研究Ⅱ

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たい」と、高倍率(300~400倍)の操作の必要性を感じ、意欲的に操作方法を学ぶ姿が見られた。

ウ 「検定カード」を用いた「観察・実験パフォーマンステスト」による技能の確実な習得

(ア) 操作を繰り返す児童の学習意欲

花のつくりを学習してきたヘチマやアサガオの花粉を顕微鏡で観察すると、植物によって花

粉の大きさや形状が違うことに児童が気付いた。そこで、授業者が、次時に向けて「観察した

い花があれば持って来ていいよ」と告げると、多くの児童が、観察したい花を持参した。また、

授業者も花粉の形状が違う花を用意した。「観察・実験パフォーマンステスト」を取り入れるに

は、何度も操作したいという意欲が必要である。児童は、花粉が大きく、はっきりと見えた際、

歓声を上げたり、形状の違う花粉を見つけると嬉しそうに友だちに見せたりしていた。その感

動や喜びが、もっと他の花粉も調べてみたいという学習意欲につながり、操作を繰り返す原動

力となった。

(イ) 「検定カード」を用いたことによる効果

操作について児童が的確に評価をするために

は、明確な評価の観点が必要であると考えた。

そこで、「検定カード(図20)」を用いて、相互評

価をすることにした。また、各自の操作の振り

返りとして、自己評価にも活用した。第1時終

了後の「検定カード」から、顕微鏡の高倍率(300

~400倍)の操作について技能の習得に課題が見

られた。そこで、次時に、再度操作方法につい

て学習する時間を設け、高倍率の操作について

再確認した。「検定カード」を用いた相互評価や

自己評価を基に、授業者が児童の技能の習得状

況を把握し、指導に生かすことができた。この

ような指導と評価の一体化が、確実な技能の習

得につながったと考える。

「検定カード」には、評価の観点の他に、顕

微鏡の操作を評価するポイントを示した。児童

は、対物レンズを離してピントを合わせる操作

の際に、ステージの上下に注目しながら評価し

た。また、観察視野の明るさやピントについては、実際に対物

レンズをのぞいて確認した上で評価していた。これにより、自

己評価では把握しにくい操作の技能についても的確に評価し、

交流する様子が見られた(図21)。「観察・実験パフォーマンステ

スト」は、技能の習得状況を見取る形成的評価としてだけでな

く、学び合いや自分の操作を見つめ直す機会となった。このこ

とから、児童の確実な技能の習得につながったと考える。

また、「検定カード」を相互評価や自己評価のためだけでな

く、操作の手順やポイントを確認するためのマニュアルとして

活用する児童の姿も見られた。これは、児童が器具を初めて操

作する上で、限られた時間内での操作方法の理解や、技能の習

得に有効であったと考える。

図20 顕微鏡の操作についての「検定カード」

評価するポイント(相互評価)

評価の観点

振り返り(自己評価)

図21 顕微鏡の操作について相互評価する児童

もう少し明るくできるはずだよ

明るさを 確認して

のぞきながらステージを上げてるよ

ピントを 合わせるよ

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理科教育に関する研究Ⅱ

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4 指導事例集の活用による効果

(1) 児童の観察・実験の技能の確実な習得

指導事例集を活用して授業を実践した研究協力

校の児童に対して、単元終了後にアンケート調査

を行った。上皿てんびんの事例については、図22

に示すような結果となり、ほぼ全員が技能を習得

したことが分かった。さらに、相互評価でも、ほ

ぼ全員が操作できるようになったことが、「検定カ

ード」からうかがえる。また、上皿てんびんの仕

組みや操作の意味についても多くの児童が理解し

ていることが分かった。

顕微鏡の事例についても、図23に示すような結

果となり、ほぼ全員が技能を習得したことが分か

った。さらに、相互評価でも、ほぼ全員が操作で

きるようになったことが、「検定カード」からうか

がえる。しかし、高倍率の操作については、低倍

率に比べ、自己評価が低く、今後も関連する単元

で繰り返し操作させ、習得状況を見取りながら指

導をしていく必要がある。

(2) 技能の習得による学習効果

ア 学習意欲の向上

顕微鏡の操作に関する意欲は、図24に示すよ

うな結果となり、ほぼ全員が意欲的に学習した

ことがうかがえる。その理由は、授業の様子か

ら、顕微鏡の操作ができるようになったことで、

花粉を大きく、はっきりと観察できたからだと

考える。また、図25に示すように、顕微鏡を用

いて観察することで、花粉の形状や大きさ等の

違いに気付き、新たな疑問を持つ児童もいた。

顕微鏡を用いて観察したいという意欲が、技

能の習得につながるだけでなく、顕微鏡を操作

する技能の習得が、もっと花粉を調べたいとい

う学習意欲を向上させることになった。さらに、

形状や特徴から結実における花粉の役割の理解も深まり、授業の活性化につながった。

イ 操作時間の短縮

上皿てんびんの事例では、操作を重ねるにつれ、重さの概念や見当のつけ方が身に付き、より

少ない回数で重さを調整できるようになったことが児童の記録から読み取れる。また、顕微鏡の

事例では、「検定カード」や花粉の観察記録から、多くの種類の花の花粉を観察できたことがう

かがえる。これは、技能の習得により、顕微鏡を操作するのに費やす時間が短縮されたからであ

ると考える。

短時間で顕微鏡の操作ができれば、花粉の観察や、その役割を考える等の考察の時間が確保で

○花粉は、花それぞれで形や大きさが違うんだなぁとわかりました。もっといろいろな花粉を調べてみたいです。

○3つの花を調べられたので楽しかった。今度は、種や微生物を拡大してみたい。

○自分が持ってきた百日草の花粉がイガイガボールだったのでびっくりした。どうして形が違うのか調べたい。

図25 顕微鏡を用いた学習後の児童の感想(一部抜粋)

図22 上皿てんびんに関する技能についての自己評価

0% 20% 40% 60% 80% 100%

上皿てんびんの操作(そうさ)を、一人

でもできる自信がある

上皿てんびんを使って物の重さをは

かることができた

上皿てんびんを使って、決められた

重さの粘土(ねんど)をはかりとるこ…

なぜ、重い順に分銅(ふんどう)をの

せていくのかがわかった

なぜ、調節(ちょうせつ)ねじを回し

て、上皿てんびんを水平にするの…

よくあてはまる あてはまる あまりあてはまらない あてはまらない

上皿てんびんの操作を、 一人でもできる自信がある

なぜ、調節ねじを回して、 上皿てんびんを水平にするのか分かった

上皿てんびんを使って、 物の重さを量ることができた

上皿てんびんを使って、 決められた重さを量り取ることができた

なぜ、重い順に分銅を のせていくのかが分かった

(回答総数33)

図24 顕微鏡の操作に対する意欲

0% 20% 40% 60% 80% 100%

顕微鏡を使って、もっといろいろなものを観

察したいと思った

顕微鏡を使って、もっと大きく観察したいと

思った

顕微鏡で花粉を観察するのは楽しかった

よくあてはまる あてはまる あまりあてはまらない あてはまらない

顕微鏡を使って、 もっといろいろなものを観察したいと思った

顕微鏡で花粉を観察するのは楽しかった

顕微鏡を使って、 もっと大きく観察したいと思った

(回答総数34)

0% 20% 40% 60% 80% 100%

顕微鏡の操作を一人でもできる自信がある

顕微鏡の倍率を変え、高倍率を観察するこ

とができた

プレパラートを動かして、花粉を視野の真ん

中に置くことができた

調節ねじを回して、ピントを合わせることが

できた

反射鏡を調節して、視野を明るくすることが

できた

よくあてはまる あてはまる あまりあてはまらない あてはまらない

顕微鏡の操作を一人でもできる自信がある

反射鏡を調節して、 視野を明るくすることができた

顕微鏡の倍率を変え、 高倍率で花粉を観察することができた

プレパラートを動かして、 花粉を視野の真ん中に置くことができた

調節ねじを回して、 ピントを合わせることができた

図23 顕微鏡に関する技能についての自己評価

(回答総数34)

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理科教育に関する研究Ⅱ

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きる。つまり、個々の技能の習得は、「授業時間の不足」(p.5の図6)という課題の改善にもつな

がる。

ウ 主体的な問題解決へのつながり

図26に示すように、上皿てんびんの事例でも、ほぼ全員

が楽しく学習したことが分かった。その理由は、児童が主

体的に活動し、問題解決の面白さを感じたからではないか

と考える。作製したはかりの正確さを、上皿てんびんを用

いて調べる場面では、重さの数値が一致したことに児童か

ら自然と歓声が上がっていた。また、数値に誤差が出た際

には、作製したはかりを見直し、原因を探る姿が見られた。

図27に示す児童の感想から、上皿てんびんを用いて考え

た計画を実証しようとする児童の様子がうかがえる。また、

複数回行っても同じ結果になる再現性や、多くの人々に承

認され公認される客観性についても、上皿てんびんを正し

く操作して確かめようと、意欲的に活動する様子が分かる。

このように、上皿てんびんを目的に応じて適切に操作す

ることが、問題解決の一つの手段となった。技能の習得は、

科学的な見方や考え方(実証性、再現性、客観性)を養う主

体的な問題解決につながると考える。

(3) 理科の指導力の向上

指導事例集を活用して授業を実践した

教員に、その効果について調査した結果

を図28に示す。授業者の感想から、指導

事例集の活用が、授業の改善や指導力の

向上に有効であったことがうかがえる。

また、技能の習得による学習効果を感じ、

これからの授業に生かしていこうという

意欲にもつながった。

Ⅶ 研究のまとめと今後の課題

1 研究から明らかになったこと

(1) 技能の確実な習得を目指す指導と評価の工夫である「計画的な実施」を授業に取り入れることで、

児童が、見通しや目的意識を持って器具の操作を繰り返し、主体的に学習に取り組むことができた。

(2) 「試行による実感」において、児童が試行を通して自ら問題を解決することで、器具の機能や仕

組み、操作の意味について実感を伴って理解し、確実な技能の習得につながった。

(3) 習得状況を見取る形成的評価として「観察・実験パフォーマンステスト」を授業に取り入れるこ

とは、指導と評価を一体化させ、児童の技能の確実な習得につながった。また、相互評価として取

り入れたことで、技能の習得のための学び合いとして有効であった。

(4) 指導事例集を活用することで、授業者は、指導と評価の工夫を行い、観察・実験の技能の確実な

習得につながる授業を実践することができた。

○自分のつくったはかりが正確か調べるときは、とてもドキドキしました。ピッタリと重さが合ったときは、とってもとってもうれしかったです。家族に自慢したいです。

○上皿てんびんで正確さを調べると、1gぐらいずれていました。もう一度はかりを確認してからやったら、合っていました。もっといろいろな重さで確認したいです。

○重さが合わなくて、悔しいです。前の時間は合っていたのに、どうして合わなかったのか調べます。

図27 はかりづくりの学習後の児童の感想(一部抜粋)

図26 はかりづくりの学習における学習意欲

よくあては

まる

61%

あてはまる

36%

あまりあて

はまらない

3%

あてはまら

ない

0%

自分で「はかり」をつくる活動は

楽しかった

(回答総数33)

【操作説明について】 ○顕微鏡の操作に関しては、今まで自信がなかったが、これからは、自

信をもって指導できる。やはり、授業者が、しっかりと顕微鏡の機能

を理解して操作できるということが指導の大前提になってくると思う。そういう点で、指導事例集の操作説明は、大変ありがたく、活用

しやすかった。 【授業展開案について】 ○指導事例集の学習展開は、見やすく、活用しやすかった。指導と評価

の工夫の「試行による実感」は、児童の気付きや発見に驚かされた。主体的に考え、問題解決の面白さを児童と一緒に感じる授業ができた。

○「観察・実験パフォーマンステスト」により、短時間で一人ひとりの

習得状況を把握でき、指導に生かせた。全員が操作できるようになっ

た喜びを感じたことで、学級に学びの集団としての一体感が生まれた。

図28 指導事例集を活用した授業者の感想(一部抜粋)

Page 18: 小学校理科における観察・実験の技能に関する授業改善 · 理科教育に関する研究Ⅱ 平成26年度(2014年度) 理科教育に関する研究Ⅱ 研究構造図

理科教育に関する研究Ⅱ

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2 今後の課題

(1) 児童の技能の確実な習得を図る「観察・実験パフォーマンステスト」について、用いる場面や機

会、評価の技法等、評価の妥当性や信頼性を高めるための更なる工夫や改善が必要である。

(2) 今年度は、国立教育政策研究所の調査において課題の見えた観察・実験器具について資料づくり

を進めた。今後は、他の器具を使用する単元や他学年でも資料作りを進め、系統性を意識して、学

年に応じた技能を積み上げる必要がある。

文 献

1)2)5)6)国立教育政策研究所 「理科の学習指導の改善・充実に向けた調査分析について」、平成24年(2012年)

3)7)科学技術振興機構 理科教育支援センター「小学校理科教育実態調査に関する報告書」、平成20年(2008年)

4)国立教育政策研究所 「評価規準の作成、評価方法等の工夫改善のための参考資料」、平成23年(2011年)

文部科学省「小学校学習指導要領解説理科編」、平成20年(2008年)

文部科学省「小学校理科の観察、実験の手引き」、平成23年(2011年)

国立教育政策研究所「全国学力・学習状況調査の結果を踏まえた理科の観察・実験に関する指導事例集」、平成26年(2014年)

日本初等理科教育研究会『初等理科教育5月号』、農山漁村文化協会、平成25年(2013年)

専 門 委 員

大津市立仰木の里東小学校長 上野 眞

栗 東 市 立 金 勝 小 学 校 長 吉永 秀哉

研 究 委 員

大津市立瀬田北小学校教諭 柿本 忠史

守山市立吉身小学校教諭 岩岡 伸和

研 究 協 力 校

大津市立瀬田北小学校

守山市立吉身小学校