建築空間のヒューマナイジングに a study on humanizing...

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付録1 建築空間のヒューマナイジングに関する検討 (技術報告集第 21 号 掲載論文) 建築空間のヒューマナイジングに 関する検討 A STUDY ON HUMANIZING THE BUILT ENVIRONMENT 宇治川正人---*1 讃井純一郎---*2 キーワード: 環境心理学, プログラミング,人間的要求 Keywords: Environmental Psychology, Programming, Human Needs Masato UJIGAWA Junichiro SANUI This paper digests outcomes of the Working Group on Humanizing that was organized in 2002 in AIJ. The descents of related disciplines were traced, and definition and background of ‘humanizing’ were discussed in the group. And a draft of “Four principles for humanizing the built environment” was made. Related techniques and methods were gathered and listed through some case studies. .まえがき 「ヒューマナイジング」とは、「建築空間や都市環境を、人間の要 求に沿った、人間のための空間にすること」という意味であり、シン シナティ大学の W.F.E. Preiser 教授が用い、国内では、日本建築学会 環境工学委員会環境心理生理小委員会の研究活動の中で使い始めた 概念である。 言うまでも無く、建築空間は、人間のために作られるものである。 しかし、実際の設計行為では、企画段階からディテールに至るまで多 種多様な選択肢があり、費用や時間などの制約の元で、膨大な意思決 定を、多数の関係者との調整を経て、行わなければならない。発注者 も設計者側も、組織が担当することの多い現代では、組織内部で思考 や判断の整合性を確保することも容易ではない。そのためには、設計 対象である建築空間の目的や要求を明確にすることが不可欠な作業 である。近年、その作業は、プログラミングあるいは、ブリーフィン グというプロセスとして実施することが推奨され始めた。プログラミ ングやブリーフィングは、設計に関わる全ての事項を対象とするが、 ヒューマナイジングは、特に、心理生理と関連の深い「人間の要求」 に焦点をあて、その背景や動機などを考慮して、要求の実現を目指し た検討を行う点を特徴としている。 使用者の要求に関する調査研究は、学術研究としても、各種の建 築施設を対象に数多く実施されてきた。それらの学術研究では、普遍 的な法則性や知見を求めることに主眼が置かれ、個々の設計解や設計 条件として具体化することは指向されないことが多い。しかし、近年 では、個々の建設プロジェクトの企画構想段階で、それぞれの特殊性 を踏まえて設計条件を検討する、いわゆるプログラミング行為を、 発注者が外部機関に業務として委託する事例も増えている。 環境心理生理小委員会では、2001 年に、環境心理分野における使 用者の要求に関する調査研究の事例を集めた書籍 1を刊行し、2002 年からは、ワーキンググループを設置して、実務への普及を目指した 検討を行ってきた。本資料は、2002 年に同小委員会に設置されたヒ ューマナイジング・ワーキンググループ(以下、ヒューマナイジング WGと略記)が、関連分野の動向、背景と意義、具体的な方策とその 技術について検討した内容を報告するものである。 ヒューマナイジングに関する検討は、まだ着手されたばかりであるが、 環境心理分野の理論や手法を体系化する視座を与えうるものであるこ と、また、建築計画学や環境工学など広範な分野と関連があること、設 計指針や技術基準などのアカデミックスタンダードのあり方に関する 内容も含んでいるため、ワーキンググループの検討内容を公開し、多く の方の助言や忠告を賜りたい。 2.本論 2.1 関連分野の動向と理論的背景 欧米の環境心理学の発展について概説したPreiser (1988) 2 は、 1960 年代に、人間にとって望ましい環境は一つ(One solution fits all)という従来の考え方が、種々の問題や矛盾の原因という認識が広ま った。人によって望ましい環境は異なる。目標はどう違うのか、どのよ うに環境を作れば良いのか、という問題に学際的に取り組みはじめ、環 境心理学が産声をあげた。」と述べている。 米国では、1960 年代の医療施設に対する建築家と医療専門家との共 同研究が発端となって 2) 、多数の心理学や行動科学の研究者が、建築の *1 General Manager, Takenaka Corporation, Engineering and Technology Department, Dr.Eng. *2 Professor, Kantou Gakuinn University, Department of Human Environmental Design, Dr.Eng. *1 ㈱竹中工務店 技術ソリューション本部 部長・博士(工学) (〒136-0075 東京都江東区新砂 1-1-1) *2 関東学院大学 人間環境デザイン学科 教授・博士(工学) 15

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Page 1: 建築空間のヒューマナイジングに A STUDY ON HUMANIZING …news-sv.aij.or.jp/t400/check/kankou/HMp3v2.313.pdf · 2.本論 2.1 関連分野の動向と理論的背景

付録1 建築空間のヒューマナイジングに関する検討

(技術報告集第21号 掲載論文)

建築空間のヒューマナイジングに

関する検討

A STUDY ON HUMANIZING THE BUILT

ENVIRONMENT

宇治川正人---*1 讃井純一郎---*2

キーワード:

環境心理学, プログラミング,人間的要求

Keywords:

Environmental Psychology, Programming, Human Needs

Masato UJIGAWA Junichiro SANUI

This paper digests outcomes of the Working Group on Humanizing that was organized in 2002 in AIJ. The descents of related disciplines were traced, and definition and background of ‘humanizing’ were discussed in the group. And a draft of “Four principles for humanizing the built environment” was made. Related techniques and methods were gathered and listed through some case studies.

1.まえがき

「ヒューマナイジング」とは、「建築空間や都市環境を、人間の要

求に沿った、人間のための空間にすること」という意味であり、シン

シナティ大学のW.F.E. Preiser教授が用い、国内では、日本建築学会

環境工学委員会環境心理生理小委員会の研究活動の中で使い始めた

概念である。

言うまでも無く、建築空間は、人間のために作られるものである。

しかし、実際の設計行為では、企画段階からディテールに至るまで多

種多様な選択肢があり、費用や時間などの制約の元で、膨大な意思決

定を、多数の関係者との調整を経て、行わなければならない。発注者

も設計者側も、組織が担当することの多い現代では、組織内部で思考

や判断の整合性を確保することも容易ではない。そのためには、設計

対象である建築空間の目的や要求を明確にすることが不可欠な作業

である。近年、その作業は、プログラミングあるいは、ブリーフィン

グというプロセスとして実施することが推奨され始めた。プログラミ

ングやブリーフィングは、設計に関わる全ての事項を対象とするが、

ヒューマナイジングは、特に、心理生理と関連の深い「人間の要求」

に焦点をあて、その背景や動機などを考慮して、要求の実現を目指し

た検討を行う点を特徴としている。

使用者の要求に関する調査研究は、学術研究としても、各種の建

築施設を対象に数多く実施されてきた。それらの学術研究では、普遍

的な法則性や知見を求めることに主眼が置かれ、個々の設計解や設計

条件として具体化することは指向されないことが多い。しかし、近年

では、個々の建設プロジェクトの企画構想段階で、それぞれの特殊性

を踏まえて設計条件を検討する、いわゆるプログラミング行為を、

発注者が外部機関に業務として委託する事例も増えている。

環境心理生理小委員会では、2001年に、環境心理分野における使

用者の要求に関する調査研究の事例を集めた書籍1)を刊行し、2002

年からは、ワーキンググループを設置して、実務への普及を目指した

検討を行ってきた。本資料は、2002年に同小委員会に設置されたヒ

ューマナイジング・ワーキンググループ(以下、ヒューマナイジング

WGと略記)が、関連分野の動向、背景と意義、具体的な方策とその

技術について検討した内容を報告するものである。

ヒューマナイジングに関する検討は、まだ着手されたばかりであるが、

環境心理分野の理論や手法を体系化する視座を与えうるものであるこ

と、また、建築計画学や環境工学など広範な分野と関連があること、設

計指針や技術基準などのアカデミックスタンダードのあり方に関する

内容も含んでいるため、ワーキンググループの検討内容を公開し、多く

の方の助言や忠告を賜りたい。

2.本論

2.1 関連分野の動向と理論的背景

欧米の環境心理学の発展について概説したPreiser (1988)2)は、

「1960 年代に、人間にとって望ましい環境は一つ(One solution fits

all)という従来の考え方が、種々の問題や矛盾の原因という認識が広ま

った。人によって望ましい環境は異なる。目標はどう違うのか、どのよ

うに環境を作れば良いのか、という問題に学際的に取り組みはじめ、環

境心理学が産声をあげた。」と述べている。

米国では、1960 年代の医療施設に対する建築家と医療専門家との共

同研究が発端となって2)、多数の心理学や行動科学の研究者が、建築の

*1 General Manager, Takenaka Corporation, Engineering and Technology Department, Dr.Eng.

*2 Professor, Kantou Gakuinn University, Department of Human Environmental Design, Dr.Eng.

*1 ㈱竹中工務店 技術ソリューション本部 部長・博士(工学)(〒136-0075 東京都江東区新砂1-1-1)

*2 関東学院大学 人間環境デザイン学科 教授・博士(工学)

15

Page 2: 建築空間のヒューマナイジングに A STUDY ON HUMANIZING …news-sv.aij.or.jp/t400/check/kankou/HMp3v2.313.pdf · 2.本論 2.1 関連分野の動向と理論的背景

設計や計画に対する研究に参加するようになり、環境行動研究

(Environmental Behavior Study)という研究領域や、いくつかの学術

団体(EDRA、IAPS、他)が、米国とヨーロッパに誕生した。

そうした研究動向を踏まえ、1950年代に発達したコンピュータ技術に

影響を受けた3)「Programming」や、実際の使用状態のユーザーによる評

価「POE: Post-Occupancy Evaluation: 居住環境評価」が、設計実務に

浸透していった。Preiser (1991)4)は、サイバネティックスの研究者で

あるvon Forester (1985)5)のフィードバック理論に準拠して、使用者や

発注者(ユーザー)の要求が建築空間に反映されるには、建築設計の段

階で、ユーザーの評価が、設計にフィードバックされるループ(道筋)

が存在することが必須であり、ユーザーは設計図面から完成後の空間の

態様を想像することは難しいので、空間の性能(Performance)と判断

基準(Criteria)とが比較できる仕組みを作る必要があることを指摘し

ている。(図1)

図 1 性能概念/評価のしくみ(出典4))

我が国では、建築の使用者を対象とする調査研究は、主に建築計画学

の分野で、それが研究の大半を占めるほど活発に行われている。かつて、

第2次大戦後の住宅困窮の時代に、住まい方に関する調査研究が始まり、

その成果は、公団住宅など公共住宅の設計指針や設計標準として結実し

たのをはじめ、現代においても、多種の建築施設を対象として、様々な

視点から、調査研究が実施されている。

環境工学分野では、1960年代に、視覚環境を対象に心理学との結びつ

きが始まり、Semantic Deferential法を色彩や照明計画、景観に適用す

る研究が開始された。その後、1980年代後半の情報革命や、ニューオフ

ィスの登場により、オフィスの居住性に対する関心が高まった。実務に

おいても、POE の適用が普及し、既に、オフィスの新築や改装などの一

般的な方法として定着している。

視覚環境の研究は、環境がどのように認識され、評価されるかという

知覚心理学的な問題意識や方法論を主な基盤としていた。その後、1980

年代に、経験や学習を通じて、後天的に形成される価値観や判断基準の

問題を扱う認知心理学が導入され、調査手法の開発や建築空間への適用

が進み、ユーザーの評価構造の把握に関する研究が蓄積されてきた。し

かしながら、これらの成果の実務への適用は、ごく一部にとどまってい

る。

さて、技術革新の著しいコンピュータ分野では、従来にない機能や、

その操作法が、ユーザーを混乱させる事態が頻発したため、人に優しく、

使いやすい方式(人間中心設計)も研究領域として、位置づけられるよ

うになった。その研究成果をもとに、1999年に発効した人間中心設計過

程の国際規格 ISO13407 は、ユーザーにとっての利用品質(Quality in

Use)の確保と向上を目指す設計プロセスを確立することを目的として、

コンピュータシステムの設計に際して実施されることが望ましい設計

活動を定めている。

それは、設計プロセスに、「利用状況の把握と明示」、「ユーザーの要

求事項の明示」、「設計案の作成」、「要求事項に対する設計案の評価」の

4つの活動を設け、その活動で生み出された設計案をチェックすること

である。(図2)

人間中心設計の導入の決定

終了

Yes

No設計案がユーザーの要求を満足?

(d)要求事項に対する設計案の評価

(c)設計案の作成

(b)ユーザーの要求事項の明示

(a)利用状況の把握と明示人間中心設計の導入の決定

終了終了

Yes

No設計案がユーザーの要求を満足?設計案がユーザーの要求を満足?

(d)要求事項に対する設計案の評価(d)要求事項に対する設計案の評価

(c)設計案の作成(c)設計案の作成

(b)ユーザーの要求事項の明示(b)ユーザーの要求事項の明示

(a)利用状況の把握と明示(a)利用状況の把握と明示

目標

Goal

判断基準

Criteria

性能尺度

Performance

建築空間Output

比較

評価者Evaluator

評価対象Object

目標

Goal

目標

Goal

判断基準

Criteria

判断基準

Criteria

性能尺度

Performance

性能尺度

Performance

建築空間Output

比較比較

評価者Evaluator

評価対象Object

図2 ISO13407人間中心設計過程の概要

この国際規格は、開発されるシステムの特性ではなく、そのシステム

を作り出す開発プロセスについての指針、すなわち、「プロセス規格」

であることが大きな特徴である。技術革新のスピードが速いコンピュー

タシステムの分野では、性能や特性を数値で表わしても、その数値がす

ぐに陳腐化してしまう。また、新たな性能や特性が登場する例も多く、

数値的な基準が時代遅れや足かせとなりかねない。また、ユーザーの要

求も変化し、多様化や高度化が進む。そこで、その時の技術やユーザー

の要求を踏まえることと、それに応じた活動をすることを規格としたの

である。

これまで、建築学会の指針や基準(アカデミックスタンダード)は、

殆どが、材料や空間の特性や、その性能に関する数値を定める方式で作

成されてきた。技術革新が速い分野や、個々の空間やユーザーの特殊性

や多様性を尊重することが求められる事項については、プロセス規格の

考え方も参考になると思われる。

2.2 定義

「ヒューマナイジング」という概念は、1990年代初頭にW.F.E. Preiser

教授が、その著書4)で用いはじめた。Humaneとhumanizeは、「人道的な」、

「人間化する、人間味を与える」という意味(研究社、新英和中辞典)

であるが、同教授は、居住性について、1 次レベル(健康と安全、セキ

ュリティ)、2次レベル(機能、効率、作業性)、3次レベル(社会的、

心理的、文化と審美的要求)と3つのレベルから捉えたモデルを示し、

ヒューマナイジングとは、居住性の優れた建物にするということで、特

に、3次レベルに焦点があるとも述べている。1次レベルの問題は、古

くから問題にされ、既に各種の法律で規定されているものが多い。2次

レベルの問題は、建築主から要望として出されたり、具体的に検討しや

すいものが多く含まれている。しかし、3次レベルの問題は、把握する

こと自体が難しい問題や、立場によって捉え方が異なる問題が少なくな

い。

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Page 3: 建築空間のヒューマナイジングに A STUDY ON HUMANIZING …news-sv.aij.or.jp/t400/check/kankou/HMp3v2.313.pdf · 2.本論 2.1 関連分野の動向と理論的背景

なお、本報告冒頭の「建築空間や都市環境を、人間の要求に沿った、

人間のための空間にすること」は、W.F.E. Preiserの定義を踏まえ、ヒ

ューマナイジングWGで作成した定義である。

プログラミングやブリーフィングは、居住者や使用者の目的や要求だ

けではなく、設計に関連のある、より広範な問題を扱うものであり、ヒ

ューマナイジングは、人間の要望や要求に特化している。両者の関係は

図3のように図示できよう。

プログラミング

人間の要求

Human Needs

それ以外の要求

動機

顕在化した

要求 背景

ヒューマナイジング

プログラミング

人間の要求

Human Needs

それ以外の要求

動機

顕在化した

要求 背景

ヒューマナイジング

図 3 ヒューマナイジングとプログラミング

2.3 ヒューマナイジングの背景と意義

ヒューマナイジングという問題を、取り上げなければならない背景に

ついて検討した結果を、要約して以下に示す。

①発注者

・その建物の事業目的から、個々の空間の特性に至るまで、設計の際に

明確化すべき事項は膨大にあるが、発注者が設計対象の建物に関して必

要な要求事項を、きちんと設計者に伝えることは難しい。

・発注者が個人でなく、組織集団である場合は、言語化しなければ、そ

の組織の意志として伝えにくいが、実際には、それを、正確に文章化す

ることは容易ではない。

・発注者側が、組織集団である場合は、部署間あるいは担当者間で利害

が相反し、その調整を要する場合もある。

・ユーザーと発注者とが異なる施設も多いが、ユーザーが望んでいる内

容を、発注者が把握しきれていないことが少なくない。

②設計者

・発注者は、設計者なら、最適な解を実現してくれるはずという期待を

抱いていることが多い。しかし、建築種別や分野ごとに、専門知識は高

度化しており、新たに登場する建築空間も、新技術も数多い。国内外の

最先端の情報を把握しておくだけでも簡単でない。

・設計者は、図面の作成以前に、法規への対応や関係者との合意形成、

材料の調達や品質の確認など、作業が山積している。

・ユーザーを直視しない設計者や建築ジャーナリズムが少なくない。デ

ザイナー達が参考にする雑誌の掲載写真には、人間の姿が映っておらず、

建物の使用状況に関する情報は、掲載されないことが多い。

③ユーザー(使用者・利用者)

・個人の価値観や判断基準は、後天的に環境との関わりの中で形成され、

経験や情報によって、生涯、修正され続けられる(注1)。所得や余暇時間

の増加、交通通信ネットワークや情報メディアの発達によって、現代人

は、それまでと比較にならない程、経験も情報も多様化し、空間に対す

る期待水準や評価基準も多様化している。プロジェクトごとに、期待水

準や評価基準は一様ではなく、画一的な設計指針では対応できないこと

が少なくない。

・高齢化社会に突入し、利用者として、健常者でない人々を想定せざる

を得ない(ユニバーサル・デザイン)。個々の施設には特殊性があり、

ユニバーサル・デザインの一般論的な情報だけでは不十分で、ユーザー

の行動や要望を、きめ細かく把握しておく必要がある。

・利用者が不特定多数の施設の場合、設計の段階では、まだユーザーは

特定できず、要求や要望を直接聞くことは難しい。

④施設間競合

・様々な施設が利用者に比較され、選択される状況に置かれており、よ

り高い満足をユーザーに与えるものでなければ生き残ることができな

い。公共施設でも、医療施設や社会教育施設をはじめ、競合関係にある

施設は多い。

・地域振興やまちづくりのような地域計画でも、最近はその地域や都市

の魅力づくりが計画の中心に位置づけらている。例えば、コンベンショ

ン都市やリゾートは、集客力そのものがテーマとなるが、集客のポイン

トはリピーター(再来者)を獲得することであり、実際に体験して、高

い満足感が得られる空間が求められている。

日本建築学会や各種研究機関が、ユーザーの目的や要求に関して実施

した調査研究やその知見の蓄積は膨大である。個々の建設プロジェクト

において、使用者の要求に関する既存の知見を設計にフィードバックさ

せるループを設けることは、蓄積された成果を活用させる手段として、

大きな可能性を持っている。

ユーザーの要求に対する、学術研究や実務における調査の目的は、①

課題を発見すること、②課題に対して最適な設計解を導くこと、に大別

することも可能であろう。前述したように、環境心理学は、ユーザーの

要求や価値観が多様化する中で、標準的な設計解で対処することの限界

を契機として誕生したものであるが、①課題を発見することが、個々の

プロジェクトにおいても、重要な場合が少なくない。ケースに応じて、

適切な方法を提案し、実行できるよう、知識や技術を体系化し、実務と

して確立することが望まれよう。

2.4 ヒューマナイジングの4原則(試案)

ヒューマナイジングに求められることは、上記のような問題への対

処手段を確立することである。ヒューマナイジング WG では、ユニバー

サル・デザインの7原則を参考にして、ヒューマナイジングで達成すべ

きことを検討し、「ヒューマナイジングの4原則(試案)」を作成した。

表 1 ヒューマナイジングの4原則(試案)

原則 内容

要望や要求の収集 設計する建物に関して、関係者の要望や要

求を、きちんと集める。

要求や問題点の体系化 要求事項や問題点を体系的に整理して示

す。

秀例学習とあるべき姿

の検討

優れた事例を学習し、作る空間のあるべき

姿を、知恵を結集して作る。

運用段階での改善 使用後の状況を確認し、施設を運用する段

階でも改善を加えてゆく。

要求は言語化しなければ、他人に伝わらない。要求や要望を収集する

場合は、多くの関係者(発注者、使用者、管理者、他)に接し、先入観

にとらわれずに記述すること、その時点では、解を見出すことが難しそ

うな問題も、列挙しておくことが望ましい。

また、要求事項や問題点は、表面的な内容だけでなく、その背景や動

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機を明らかにすることが、より適切な設計解に結びつくことが多い。そ

して、類似の事項はグルーピングし、概念の包含関係を整理し、重要度

や優先度を判断し、優先的に取り組む課題を明確にしておく必要がある。

近年、優れた事例を集め、比較をすることは、組織や製造プロセスの

革新の効果的な方法(ベンチマーキング)としても普及している。発注

者や設計者が、優れた事例について議論し、実際に訪問して体験してお

くことは、共通認識の醸成にも役立つ。

スクラップ&ビルドが当たり前であった我が国の建築界も、既存の建

物を改装しながら長期間使用する考え方に転換する兆しが現れている。

使用後のユーザーによる建物の評価を調べて、それをよりユーザーの要

求に沿った改装計画の検討に活かしてゆくことは、地球環境時代の社会

的な要請でもあろう。

2.5 ヒューマナイジングの方法

また、上記4原則(表1)は、それを可能にする方法で裏打ちされる

ことが必要である。ヒューマナイジングWGでは、収集した国内外での

事例をもとに、具体的な技術や手法を、4原則に対応させて整理した(表

2)。

表2 ヒューマナイジングのための技術や手法

4原則 技術や手法

要望や要求の収集

POE(居住環境評価)、アンケート調査、

グループインタビュー、プロブレム・

シーキング、評価グリッド法、キャプ

ション評価法

要求や問題点の体系化 ネットワーク図、品質表(要求品質展

開)、ISM(構造モデル化手法)

秀例学習とあるべき姿の

検討

ベンチマーキング、チェックリスト、

特性要因図、品質表(品質特性展開)、

プロトタイピング(進化型アプローチ)

運用段階での改善 POE、ベネフィット・ポートフォリオ

なお、ヒューマナイジングWGが収集した事例を、技術や手法に対応

させて表3に示す(注2)。例えばオフィスでは、組織内の仕事の流れや、

各人のワークスタイルなどを建築設計に反映させる業務(ワークプレイ

スのデザイン)に対するニーズが増大している9)。

表 3 技術や手法と主要な適用事例

技術や手法 適用例のある施設

POE(居住環境評価) オフィス、病院、学校

プロブレム・シーキング オフィス、研究所

評価グリッド法、ネットワーク

オフィス、病院、学校、工場、

水族館、ホテル、集合住宅、福

祉施設、まちづくり

キャプション評価法 商店街、福祉施設

品質表(要求品質展開、品質特

性展開) 高齢者住宅

ISM(構造モデル化手法) PR施設

ベンチマーキング 研究所、学校、オフィス

チェックリスト 工場、交流空間

特性要因図 ビル風対策

プロトタイピング(進化型アプ

ローチ)、ベネフィット・ポート

フォリオ

オフィス、研究所

3.結語

3.1 得られた成果

2002 年度からの2年間のヒューマナイジングWGの活動成果として、

以下のような事項が挙げられる。

・関連分野の動向、背景や意義の整理

・ヒューマナイジングの定義や類似概念の整理

・ヒューマナイジングの4原則(試案)の作成(表1)

・4原則(試案)に関連させた、技術や手法の整理(表2)

・関連する国内外の事例の収集(表3) 3.2 今後の課題

米国では、多くの建築施設を所有する政府機関が、施設の建設や維持

管理の方策を検討するために設けた連邦施設会議(Federal Facilities

Council)が、全米科学アカデミーに、POEがプログラミングや予算、設

計、建設の段階で、意思決定をどのように支援できるかという検討を依

頼し、2002年に、その成果を報告6)している。

国内でも、2001年に、国土交通省が、大学や職業安定所など公共建築

を対象に、設計の前の段階で、ユーザーの要求を調査し、設計条件とし

て活用する試みを始めた。

ヒューマナイジングWGでは、さらに、業務としてのアウトプットの

あり方や、標準的な工程を検討し、ヒューマナイジングが業務として確

立することを目指している。 (注1) 米国の臨床心理学者G.A. Kellyは、「人間は経験を通じて各人に固有の思考構造(コンストラクト・システム)を作りあげ、その構造によって、環境およびそ

こでの様々なできごとを理解し、またその結果を予測しようと努めている」という

パーソナル・コンストラクト理論を提唱した。これは、評価のメカニズムには、個

人差があり、また、経験によって変化することを認める立場である。 (注 2)技術や手法については参考文献 1),7),8)、事例については参考文献 1)および9)を参照されたい。 (注 3)環境心理生理小委員会 ヒューマナイジングWG メンバー 宇治川正人(竹中工務店)、成田一郎(大成建設)、丸山 玄(大成建設)、武藤 浩

(竹中工務店)、讃井純一郎(関東学院大学)、山田 哲弥(清水建設)、小島隆矢

(建築研究所)、植木暁司(国土交通省)、小野久美子(同 国土技術政策総合研究

所)、W.F.E. Preiser(シンシナティ大学)、井上 誠(福山大学)(2004.10現在) 参考文献 1) 日本建築学会編:「建築空間のヒューマナイジング 環境心理による人間空間の創造」, 彰国社, 2001.9

2) Preiser, W.F.E.:Preface, In F. Diekmann, Psychology and the Built Environment, Leske & Budrich, 1988

3) Cherry, Edith:Programming for Design, John Wiley & Sons Inc., 1998 4) Preiser, W.F.E., Vischer, J.C., White; E.T.,:Design Intervention: Toward A

More Humane Architecture, John Wiley & Sons Inc., 1991 5)von Forester, H.,:Epistemology and Cybernetics: Review and Preview.

Milan, Italy: Lecture at Casa Della Cultura, 18 February 1985 6) Federal Facilities Council:Learning from our buildings A State-Of-

The-Practice Summary of Post-Occupancy Evaluation, Federal Facilities Council Technical Report No. 145, 2002

7) 日本建築学会編:「快適なオフィス環境がほしい 居住環境評価の方法」, 彰国社, 1994.8

8) 日本建築学会編:「よりよい環境創造のための環境心理調査手法入門」, 技報堂出版, 2000.5

9)デザイナーのための建築設備チェックリスト「日本におけるブリーフィング事例」, 建築文化臨時増刊, 彰国社, 2003.12

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付録2 小委員会議事録(要約)

1.初年度(2005 年度)

(1)第1回小委員会 5月9日(月)

1)新宿駅と羽田第2ターミナルの踏査調査

現実の問題点を直接自分の肌で感じてテー

マを設定する方針の元で、新宿駅見学会(踏査

調査)を 3/20 に実施した。その見学会での討

議から、「おもてなし感」を検討のテーマに設

定することを決定した。その後、ベンチマーキ

ング(比較対象)的な追調査として、羽田第2

ターミナル踏査調査(4/25)を実施した。

2)W.F.E.Preiser 教授の来日計画

シンシナティ大学 W.F.E.Preiser 教授が、本

年9月に来日する計画がキャンセルになった。

現時点では、本小委員会で講演会等を企画する

予定はないが、ヒューマナイジングに関する関

心や認識を喚起するために、今後、建築研究開

発コンソーシアム等を通じ、共催または後援と

いう形で開催するチャンスを窺いたい。

3)「Design Intervention」の翻訳

昨年度末に、情報提供・協力などを打診した

「Design Intervention」の翻訳は取りやめる

こととした。多くのマンパワーを確保する必要

があること、出版年が古いことや、国情の違い

等から、翻訳する意義に確信が持てないことが

その理由である。しかし、福祉関連分野の専門

家の方々からのご協力の申し出が得られたの

で、今後このようなテーマでの検討事項や作業

が発生する場合には、今回の打診の経験が活か

せると思う。

4)「おもてなし感」とヒューマナイジング

「おもてなし感」は、かなりレベルの高いヒュ

ーマナイジングと言える。このテーマを発想し

たのは院生の方であり、若い方たちが、日本の

公共空間に、そういうレベルを期待する状況が

存在することは、環境心理・建築の分野の方(研

究者、実務者を問わず)にも知っていただきた

い。

5)次回小委員会への宿題

踏査調査で各自が感じた「ユーザーの視点に

立った要求」事項のうち重要度の上位6項目を

提出

6)本小委員会の ML を作成した。

(2)第2回小委員会 6月9日(木)

1)駅、空港などの公共の場所における「おもて

なし感のある空間」の要求品質展開表の作成。

手順:①各自がカードに、要求項目と記入者名

を記入(6 枚/1名)

②テーブルを囲んで座り、1 枚ずつカードを読

み上げ、テーブルに置く。次に、隣の人がカー

ドを読み、それまでに登場したカードとほぼ類

似の内容だったら、その上に重ねる。(全カー

ドを紹介)

③積まれたカードを眺め、内容が近いものを、

近い位置に配置する。

④それを表形式にして、大分類、中分類という

形に整える。その際、「その他」というカテゴ

リーを設け、少数意見や意見が分かれるような

ものを収容する。以上で、当日の作業を終える

が、これはあくまで「第 1 次案」。

作業結果:総数 61 枚のカードを 30 枚に整理し、

8つのグループに分類した。グループ名は付け

ていない。また、大分類、中分類というような

形には整えられていない。グループ、要求内容

は順不同。

(3)第3回小委員会 7月 14 日(木)18:

00~21:00 於:千駄ヶ谷インテス

1)「おもてなし感」のチェックリスト

前回の要求のグルーピングに基づいて、「お

もてなし感のある空間」の要求品質展開が試作

され、それに基づいて、建築施設用「おもてな

し感」のチェックリスト案が作られた。

チェックリストの試行例;横浜ランドマーク

プラザショッピングモール(讃井委員)、五島

美術館の庭園(山田委員)と、たたき台に関す

る意見(古賀委員、佐藤委員からのメール)が

紹介され、①チェックリストの内容・記載のし

かた、②「おもてなし感」とは、③当たり前品

質と魅力的品質、④今後の方針など を検討し

た。

改めて、「ヒューマナイジングの4原則」を

確認し、原則 1.要求や要求の収集は、概ね検

討を深めたので、原則 2.要求や問題点の体系

化を進めることとし、次回は、佐藤委員の「駅

の快適性に関する研究」を聞くことにした。

(4)第4回小委員会 9月 21 日(水)

1)「駅の快適性に関する調査研究」の報告

「駅の快適性に関する調査研究~お客さま

の考える「駅の快適性」評価要素のモデル化~」

が佐藤委員から報告された。

(注)佐藤委員は、第1回チュートリアルに参

加して、評価グリッド法を学習。

報告は、グループインタビューで利用者の駅

に対する思いや考え方を調査したものである。

被験者は5~6名を 1グループとし、20-30代、

40-50 代、60 代以上の男性と女性について各 2

グループで計 71 名、事前に、駅についての良

い点/悪い点を写真撮影してもらった。

調査人員は、ファシリテイター1人、記録2

人。1 グループの所要時間は2時間程度。

グループインタビューの手順は、①嫌いな駅、

②好きな駅、③撮影してきた駅の評価、④評価

視点の補完(ラダーリング)、⑤駅の将来アイ

デア(A~M の 12 案)の評価、⑥「理想の駅」

について自由討議。

評価の高かったアイデアは、A)植物や噴水な

ど自然のものをたくさん取り入れた駅、K)駅の

19

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構内やホームの壁に面に色々な情報が映し出

される駅、L)切符を持たずに乗り降りできる駅、

D)街のシンボルとなるような建築物の駅など。

評価の低かったアイデアは、F)大道芸人やミ

ュージシャンがホームにいる駅、H)着替えるス

ペースがある駅。

調査結果は、JR 東日本の社内発表会で発表し

た。新しい投資(建築設計)の説得資料として

活用されている。まったく新しい発見というよ

りは、薄々気が付いていたことが明らかになっ

たという感があり、また、ニーズがあると思っ

て設計提案したが、実際にはあまりニーズが無

いことに気づくこともあった。

コンコース

車両

店舗

改札駅務室

コンコース

(キップ売り場)

外部・駅前広場

プラットホーム 店舗

参考図 駅の機能・全体構成(検討中)

2)その他

その後、「おもてなし感」について、トヨタ

レクサス販売店のデザイン(「もてなし」をキ

ーコンセプトに採用)、茶道や作法についての

考え方などについて意見交換。

(5)第5回小委員会 10 月 26 日(水)

1) チュートリアルの企画

チュートリアルの企画案を検討した。題名:

「ニーズをカタチにする方法」、日時:来年4

月頃。主催は日本建築学会 環境心理生理運営

委員会(ヒューマナイジング小委員会)とし、建築研

究開発コンソーシアム)との共催も検討する。

コーディネータは小島委員。プログラムは、コー

ディネータの趣旨説明の後、第1部:建築施設に

おける利用者ニーズ、第2部:住宅市場における住

み手のニーズ、の2部構成とする。その2部に、事例

1:国土交通省営繕部における公共施設のニーズ

調査・CS 調査 小野久美子(国総研)、事例2:利

用者ニーズのシナリオ・コンセプト化技術 丸山玄

(大成建設)、調査報告:住まいを建てた・買った・

直した人の期待と満足 小島隆矢(建築研究所)、

事例3:エンドユーザーのための住意識アセスメン

ト・サービス 大元康弘(リクルート)、総合討論、あ

るいは事例 4:ハウスメーカーの体験型施設、を紹

介し、最後に、懇親会を開催する。

2)「おもてなし感の品質表」の作成

品質表は、ユーザーニーズ(要求品質展開)

と建物の特性(設計仕様に反映)とを関連付け

た表である。

第1段階として、各委員がこれまで、踏査調

査やチェックリストで指摘した事項を、要求品

質展開の項目ごとに集め、建物の構成要素別に、

再編集する。(第 2 章 表 2.2 指摘分類表)

建物の構成要素は、既往の「不老空間の品質

表」を参考に、立地環境、全体計画、外観、空

間構成、室空間、内装・開口部、サイン、設備、

家具什器、その他、と設定した。

作業時間が不足したため、委員ごとに担当項

目を決め、建物の構成要素の項目に配分して幹

事に提出することにした。次回はそれに基づい

て、要求品質の項目と建物の構成要素の項目ご

とに重要度評価(◎○△)をつける(それが品

質表)。

(6)第6回小委員会 12 月 8 日(木)18:00

~20:00 於:白金竹友クラブ

1)「駅・空港に関する指摘分類表」について

指摘数が9以上あった事項→◎、指摘数が2

以下だった事項→△、指摘数が3~8だった事

項→○とした。「◎」のついた事項は、(自分が

どこにいるか分かる-全体計画・空間構成)、

(目的地までの経路がわかりやすい-全体計

画・空間構成)、(窮屈な感じがしない-室空

間・開口部・内装)、が『駅・空港の特性』と

言える。

今回の調査結果からみると、羽田空港第2タ

ーミナルは「迷わない」という良い評価を得て

いる。「迷わない」というごく基本の性能が高

評価である点を考えると、「おもてなし感」は

駅・空港に求められる基本要求とは言えないの

ではないか?

2)品質表の活用について

品質表は、これからある製品を設計すること

を前提として作成される物である。それに対し

て、「駅・空港に関する品質表」は設計するこ

とを目的としていないので、とりまとめた結果

を一歩先に進められないのではないか。

企業で品質表を活用する場合、横軸(機能・

設計言語・表頭)に、他社比較、CS重み付け、

ウエイト配分などの欄を設け、ベンチマーキン

グ等に活用している。例えば、建築物に対する

ニーズを評価グリッド法で把握する場合、ニー

ズを一段掘り下げて把握し設計解を探り、良い

設計へとつなげていく。品質表(品質機能展開)

20

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の場合は、ニーズ(縦軸)を設計言語(横軸)

に変換して設計解を求めていくプロセスであ

る。従って品質表を活用する場合は、ターゲッ

トとするビジョン、目標を設計言語であらかじ

め設定しておいて、それに対するニーズの関連

を探るべきである。

駅に対してテーマを絞るとすれば、例えば、

「エキナカに求められる機能」というテーマで

機能展開してみるとか、あるいは「熱負荷を低

くする」というハード面に絞ってみるやり方も

あるかもしれない。どちらの場合も、ニーズ(縦

軸)の内容は同じだが、機能(横軸)の内容を

それぞれのテーマに設定して、関連性を探るよ

うにするべきである。

品質表自体は完璧・絶対的な何かを示してい

るのではない。ある程度のチェックリストとし

ての活用が期待される。例えば、求められてい

るニーズ-機能の絞り込み、1事例(ソリュー

ションではない)を挙げることができる。

全体計画・空間構成など根本的な(動かしが

たい)条件、また時間とコストという制約条件

などが絡み合う問題についてはどのように解

決したらいいのだろうか。→機能側に設計者と

しての具体的な対策(ソリューション)を入れ

て、ニーズとの対応を検討してみるといいかも

しれない。

この品質表を強化する意味で、(駅・空港設

計の)エキスパートにインタビューを行い、機能面を

追加して、ニーズとの対応を改めて検討してみては

どうか。駅の設計担当者に、駅の設計の善し悪しを

評価してもらうのも良いかもしれない。一度、駅設計

の実務者を交えた話し合いができると、さらに議論

が進められると思う。 (7)第7回小委員会 1 月 30 日(月)

1)チュートリアル企画

小委員会で了承された催し物実施計画書が

環境工学本委員会でも了承された。案内の公告

は建築雑誌3月号・4月号に掲載される予定。

2)つくばエクスプレスに関する講演

鉄道・運輸機構の方と交渉中。次回小委員会

にて講演いただく予定。

3)「駅・空港のおもてなし感(性能的表現)」(品

質表)

人の属性によって表の中身は変わってくる

と思う。そのために、記入欄・項目を増やす、

またはすべての利用者共通事項から枝分かれ

/階層化(一段下げる)して特記すべき項目を

作る、などの工夫が必要ではないか。

公共建築を対象としているので、上記のよう

なことをしても、最終的には統合化が必要とな

ると思う。

品質表のあり方として、必要と思われる事項

を全部付加した「利用者にとても優しい」型も

あるかと思うが、「おもてなし」の観点でいう

と全部付加するのは過剰であり、“引き算”も

必要(必要最低限とも違うが、特別なサービス

を付加する、というようなこと)。目的に応じ

てカスタマイズする方法もある(例:バリアフ

リーバージョンなど)。

建築の場合、あれもこれもと出てくる要求性

能が多すぎる。思い切って 20 マスぐらいで十

分なのではないか?とりあえず網羅的に項目

は揃っていて、必要に応じ個別に検討するとい

うスタイルが良いのではないか。

今現在では、普遍性のある項目と解決策の1

つを提案してしまっている項目が混在してい

るが、普遍性のある項目に統一すべきではない

か。

事例をたくさん用意して参考にしてもらう

という方法も有効だと思う。

おもてなし感について、要求対応レベル、サ

ービス提供かが明確になっていない。「果たし

てこれは、おもてなしか?」とまだ悩む。

いろいろなユーザーがいるけれども、それぞ

れが最適な状態を作り出すことでは?

建物の性能ではなく、人によるサービスの扱

いは?→建物性能・ものでも、人によるもので

も、それはどちらもソリューションである。ど

ちらで対応することが、その利用者に対しての

おもてなしになるかを選択すれば良いだけだ

ろう。「その利用者に対するおもてなし」とい

っても、利用者一人一人によって全部違ってく

るわけではなく、一部(人によってちょっと)

違うくらいのイメージ。

(8)第8回小委員会 3 月 24 日(金)15:00~

17:30 於:鉄道・運輸機構東京支社会議室

(注)鉄道・運輸機構より、茅英雄氏(設備部

建築課)、桐生義春氏(設備部建築課)にご参

加いただいた。また外部からの参加者もあった。

1)講演:つくばエクスプレスにおけるユニバー

サル・デザイン

つくばエクスプレス(以下、TX)の全体概

要、TXの各駅、および駅舎の紹介、TXのユ

ニバーサル・デザインのための工夫についてご

講演いただき、質疑応答があった。

開通前に、身障者や外国人の方を対象とした

見学会、意見交換会を実施した。

開通から半年経過した時点で利用者による

アンケート調査を実施した。「使いやすさ」

「わかりやすさ」を設問のポイントにしている。

2005 年 11 月に「バリアフリー優秀大賞」(バ

リアフリー推進ネットワーク;交通エコロジ

ー・モビリティー財団)を受賞した。

2)講演:地下鉄駅のユニバーサル・デザインに

21

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対する取り組み(みなとみらい線)

みなとみらい線(以下、MM 線)の全体概要、

各駅、および駅舎の紹介があった。

地下鉄駅には、① 駅が深層化する、② 方向

感覚が狂う、③ 閉塞感がある等の課題にどう

取り組むかが重要である。MM 線は、建築家、設

計事務所が空間デザインを手がけ、それぞれの

駅が個性的なものになっている。

吹き抜け空間を広く取ることや(みなとみら

い駅)、その土地の歴史をモチーフにする(馬

車道駅)などの工夫がされている。

ユニバーサル・デザインに重点を置くように

なったのは、平成 10 年くらいからで、MM 線は

平成初期の開通であり、まだユニバーサル・デ

ザインを謳ってはいないが、TX並みの配慮は

されている。トイレは、当時としてはまだ珍し

かった洋式トイレを設置し、多目的トイレにつ

いてはTXよりも上のレベルの設備である。

3)「おもてなし感」の重要度と影響度

「駅・空港のおもてなし感(性能的表現 暫

定版)」の完成度を挙げるため、参加者による

作業と討議を進めた。1次(品質)項目の重要

度と、2次(品質)項目による影響度(2次項

目が、1次項目にどの程度の影響を及ぼすか)

について、◎、○、△の記入を行った。また、

足りない要素を「その他」欄に加筆した。鉄道・

運輸機構の茅氏、桐生氏にも記入していただい

たが、ほぼ同じような結果となった。 以下は、参加者の討論(意見)

MM 線の歴史性のあるデザインと、TXの機能

性を兼ね備えたものが究極の駅となるのでは

ないか。

MM 線は、それぞれの駅が個性を引き出すよう

に競争させるという狙いがあった。これには、

交通の便としての良さ、駅周辺の人気スポット

を利用するなどの効果に加えて、「駅が見たい

と思わせる」駅にしたいという想いがあったか

らである。

建築学会ユビキタス特別研究委員会の調査

では、家で仕事をしたり仕事先で家のことをし

たり、というこれからのライフスタイルによる

建築施設の機能や用途の融合を“Melt(溶け

る)”と表現した設計者がいたが、駅もそうな

るのかもしれない。

富山県高山市では観光バリアフリーを実施

している。高山は、外国人観光客にとって「ま

さに日本のイメージ」を体感できるところとし

て人気がある(京都は駅に降り立った時点で、

違うと思うらしい)。この「期待感」が愛着に

繋がるのではないだろうか。とすると、「期待

に応える」ことが「おもてなし感」に繋がるの

ではないか。

みなとみらい駅は海をイメージした。沿線イ

メージ、利用者が期待するイメージがおもてな

し感に繋がるのかもしれない。沿線イメージと

いっても、最近は相互乗り入れなどがあり没個

性になりがちである。だからこそ、MM 線のよう

に建築家に期待が寄せられるのではないか。

22

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2.第2年度(2006 年度)

(1)第1回小委員会 4 月 10 日(月)

1)本年度の活動方針

今年度後半を目処に、公開シンポジウムの開

催を目指す。ワークショップ、企画講演、市民

公開無料シンポジウムなど、ひと味違うシンポ

ジウムを開催したい。シンポジウムの一番のテ

ーマは、「駅についてのおもてなし感」であり、

「駅の品質表」である。

実際のいろいろな駅を対象としてチェック

をしてみて、ヒューマナイジング4原則に則っ

たベンチマーキングをしたり、その結果から駅

のおもてなし感につながる提案を行ったりし

てみてはどうか。

「駅の品質表」は、受け入れられやすいもの

だと思う。ただし、この表を細かく精査しても

あまり意味がなくなると思う。精査、あるいは

深掘りは、1つあるいはいくつかの升目(項目)

に限定して進めたほうが良い。

「駅」以外の他のテーマとして、「老人福祉

施設」や「おもてなし」をキーワードとした高

級自動車(レクサス)の販売店なども検討でき

るのではないか。

2)「おもてなし感」に関する検討

前回の鉄道・運輸機構での討議でも話題にな

ったが、“おもてなし感”を明確な共通イメー

ジとして持ちにくい。

鉄道もグリーン車など車両に対しては、費用

対効果で「おもてなし」しているけれど、駅舎・

ホームについてはどう対応すればいいのか難

しいことだと思う。

この品質表をコンペで使うとなると、また内

容が変わってくるだろう。

3)調査についてのアイデア等

「おもてなしされていると思いますか」とい

う質問を、新宿駅をはじめ、複数の駅の利用者

にして、比較してみる。差異のあることを検証

する。普段使う駅を5つ思い浮かべてもらい、

「おもてなしされている/されていない」の評

価とその理由を聞く。

「おもてなし感」順位と満足度評価との関係

をみてみたい。

品質表が何のためかを明らかにしておくため

にも、検証実験の必要性は高い。

対象・目的別におもてなし感を展開してみて

はどうか。デパート・商店街・ショッピングセ

ンター/複合施設:例えばトリトンスクエアで

は、いい季節だと建物周りのベンチがお昼時な

ど有効活用されているが、それ以外の時期は閑

散としている。スタジアムや劇場・ホール…そ

のホールに行ける・行くだけでわくわくする、

というホールがある。公演内容+そのホール、

で「絶対に行く」ということになる。

(2)チュートリアル「ニーズをカタチにする方

法」 4 月 28 日(金)13:15~17:00

主催:建築研究開発コンソーシアム、共催:

日本建築学会 環境心理生理運営委員会 ヒュ

ーマナイジング小委員会という形式で、4 月 28

日(金)に、トリトンスクエア Z 棟4F フォ

ーラムで開催され、定員を超える参加者があっ

た。また、非建築系の企業団体からの参加者も

みられ、ユーザーニーズの把握・形成に対する

関心の高さがうかがえた。

(3)第2回小委員会 5 月 25 日(木)

1)チュートリアル結果報告

小島委員より、4/28 に開催されたチュートリ

アルのアンケート結果について報告があった。

事例 4 ハウスメーカーの体験型施設の発表で

は、聴衆が行ってみたいと思うような具体的な

施設概要の説明があると良かったと思う。評価

グリッド法のインタビューでは、被験者が体験

した範囲の空間の特性しか考慮されない。主催

側としては、そのことを意図して体験型学習施

設の発表を依頼した。家造りのステージ(ニー

ズを把握する→ストーリー(シナリオ)の作成

→納得工房で体験→それらを踏まえて設計者

と話し合う)が、聴衆にもっと明確に伝わると

なお良かったと思う。

あまり3%

よくなかった0%

どちらとも13%

よかった47%

とてもよかった37%

N=30

あまり3%

よくなかった0%

どちらとも13%

よかった47%

とてもよかった37%

N=30

図 「講演会は総合的にみて、いかがでしたか」の回答

自由回答の意見(一部) ・無料ということが信じられない程素晴らしい。(学会よりも良い

会場です。)

・話を聞いて、今の私の関心はニーズ把握より、CS 調査や POE

にあることに気が付きました。そこがもっと知りたいと思いました。

・把握した価値観をスペックにおとすところに設計者の意見がど

う重なるのかが気になりました。価値観をどうとらえる、シナリオに

すると、ネットワーク図より伝わるなど、とても印象的でした。

テーマの設定が良いと思います。5人の講師がそれぞれ異なる

角度からお話いただいて大変勉強になりました。ありがとうござ

いました。

2)「子育てにやさしい住まいと環境」(ミキハ

ウス子育て総研の取り組みについて)の紹介

ミキハウス子育て総研では、子育てにやさし

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い住まいと環境について、過去の調査から、ふ

さわしい条件を整理し、それを満たしたプロジ

ェクトを認定する制度を実施している。このよ

うな認定制度を、1民間調査機関が実施してい

ることはユニークであり、建築学会の委員会活

動としても、考慮に値する。

ミキハウスと言えば子供服のブランド企業

であり、ターゲットとする購買層の要求水準を

想定した評価基準項目になっていると思われ

る(水準が高い)。

我々建築の関係者から見ても、評価基準項目

は良く考えられていると思う。

耐震性、防火性などハード面の性能は国で制

定されているのに対し、「子育て」、いわば使い

勝手の面での評価認定を民間で行うというこ

の試みは、新たなビジネスモデルとして成立し

ている。

3)シンポジウム開催について

開催時期については、小委員会の成果をもと

に開催。できれば今年度末、もしくは1年後(来

年度早々)。建築研究開発コンソーシアムで開

催してはどうか。

午前中に講習会、午後に講演会というプログ

ラムにしてはどうか(講習会と講演会では客層

が違うので)?

環境心理生理関係の委員会では、手法の講習

会という発想が多い。それは、一般社会に伝え

るべき知見や成果の乏しいからではないか?

手法を教える講習会というのは、学生や研究者

を相手にするものであって、そもそも、外部に

成果をきちんと発表することがこのようなシ

ンポジウムの目指すところであり、そういうこ

とができなければ、社会に対する環境心理生理

分野の存在意義はない。

プログラムについて:プログラムの構成とし

て、招待講演はディスカッションの直前に。企

画案では、「官庁施設のニーズ・CS 調査」とし

て国での取り組み事例報告が挙げられている

が、成田委員・丸山委員、古賀委員などから報

告発表があっても良いと思う。

駅以外の対象施設として、水族館がいいので

はないか。

シンポジウムタイトルが、案の段階で、「空

間のおもてなし感」となっているが、「おもて

なし感-新しい空間の性能」として、「空港で

のケース」、「家でのケース」(子育てにやさし

い…はここに入る)、「駅でのケース」…とシー

ン毎に捉えていくのが良いのではないだろう

か。

これらの空間は、「お金を払って利用してい

る」という感覚は利用者にはないので、「水族

館」というシーンを加えても良いのではないか

と思う。

4) 「おもてなし感」とは

「おもてなし」とは、茶道で見られるような

「ニーズを察し、さりげなく対応する」という

行為であることが、通常は連想される。それに

対して、「駅におけるおもてなし感」とは、「客

を客として扱って欲しい、もう少しレベルの高

い空間を提供して欲しい」という風に認識して

いた。

(提案者の青木委員より)その時のディスカッションで皆の駅に対する意見を聞いていて、ちょっとした要望にも対応できる駅が望ましいと思った。駅にはいろいろな利用者がいて、普通の人でもちょっと休憩したい人や、中には迷いやすい人もいる。そのようないろいろなニーズを持っていてそれに対応できることが、「おもてなし感」だと思った。 これまで環境心理分野では、人々の感じ方の

平均点を設計に反映させようとするところが

あったが、多様なニーズに対応するという点で、

「おもてなし感」は新しい発想ではないかと思

う。

「おもてなし」は、どちらかというと設計側か

ら発信されている。「おもてなし感」とは、受

け手がそう感じるかどうかの話。(非常に抽象

的ですみません。前者はユニバーサル・デザイ

ン(UD)、多目的トイレなどのイメージです。

もちろん受け手は「もてなされている」と感じ

ると思います)

UD は、現在のところ高齢者・障害者に対象が

絞られていると思う。「おもてなし感」として、

もっと普通の人を対象にしても良いのではな

いだろうか。

オ ラ ン ダ ・ ス キ ポ ー ル 空 港 で は 、

“Hospitality”をテーマに、「全ての宗教に対

応」「ビジネスシーンに対応」を掲げていた(例

えば、お祈りのための空間、利用者が利用可能

な会議室等)。この“Hospitality”が、「おも

てなし感」に近いのではないだろうか。(ただ

し、日本で使われる“Hospitality”の意味と

は若干異なる)

IBM でも企業として、民族、性別、宗教、障

害の有無といった多様性に対応している。

(注)ワーク・ダイバーシティやダイバーシ

ティ・デベロップメント・オフィス(日産自動

車)などの例あり。

「おもてなし感」は、包容力を持った言葉で、

日本的な良さが含まれていると思う。きちんと

定義をすれば、次世代設計テーマとしてより良

いものになっていくと思う。

品川駅の新幹線の案内サインがわかりやす

くて、初めは良いと思っていた。しかし慣れて

くると何とも思わなくなってしまった。そうい

ったところが、「おもてなし感」の難しさでも

24

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ある。

通勤者にとっての駅、旅行者にとっての駅な

ど、それぞれのシーンを総和すると“良い駅”

像が見えてくるのではないだろうか。

品質表の項目を使って点数をつけたり、駅の

性格別おもてなし感を考察したりすれば、表も

見やすくなり、理解もされやすくなるのではな

いだろうか。

高齢者のニーズ等については、別途調べて報

告に加えるべきである。

それぞれのシーン事例が「おもてなし感」の

パーツとして存在し、全体的なストーリーとし

て構成されると、非常に説得力のあるものにな

るであろう。もちろん、UD やバリアフリーもパ

ーツとして含まれる。

(4)S邸の見学会 7 月 7 日(金)

古賀委員が設計された住宅の見学会を開催。

六本木の交差点至近の、築 47 年で数度の増改築を経た

木造二階建住宅を、全面改修した物件です。構造補強を行

った上で、家族の変化に合わせて一部減築し、光庭と吹抜

を設けて一階への採光・通風を確保しました。また一階は

客を呼んで楽しめるよう、開け放って一体利用を可能とし

ました。その他、畳は一部可動式にし、客間やダイニング

の座席として多目的な利用を可能にし、空間的な有効利用

にために便所の扉を特殊な開き勝手にしています。(古

賀)

一体的な一階

吹抜 光庭

和室の居間的使用 和室の客間的使用

(5)第3回小委員会 10 月4日(水)

1)中間報告書(案)より

各委員の専門分野やスキル(個人的な活動の

部分)が小委員会の活動として活かされていな

いと思う。全体の方向性を決めた上で、個々の

得意分野について発表したり、それをもとに議

論を行うという活動の進め方もあるのではな

いだろうか。

佐藤委員によるプレゼンテーション(記録

注;2005 年 9 月 21 日開催の小委員会で実施)

も報告書に入れるべきである。

シンポジウム開催などの学会発表を見据え

て、まず各委員が普段取り組んでいる施設の

“おもてなし感”について述べる機会を作って

はどうか。

近畿地方整備局が担当する和歌山県の海南

税務署が興味深い。これは骨組み(躯体)を残

した居抜きによる大規模改修のプロジェクト

であるが、入居官署からの評判がとてもよい。

どのようにして工事が行われたか、なぜこのよ

うに満足度の高い結果になったか詳細を知り

たい。

2)駅のおもてなし感(品質表)について

これ以上のブラッシュアップは、それなりの

目的を設定しないと難しいと思う。逆にいうと、

全体的なマップとしてはかなり精査されてい

るのではないか。設計コンペの提案書としても

使える。

このままで、駅だけでなく、例えばデパート

などの評価にも適用できると思う。もちろん品

質表を作成した方法論(プロセス)は他の施設

にも応用できる。

他の施設を選んで(自由研究的に)提案する、

ということをしてみても良いのでは。

「おもてなし感」が人々に求められる背景に

は、要求水準の向上がある。“できる”だけで

なく“気持ちよくできる”状況を作りあげる。

「おもてなし」ではなくて「おもてなし感.」で

あるところがポイントで、“居心地のよさ”の

ようなものを利用者が感じとるような仕掛け

をセットするようなイメージか。

大学などでは、キャンパスの設備やデザイン

(小綺麗)に力を入れている。近頃では、学生

の確保という点である意味「商売」に近いとも

言える。ヒューマナイジングの観点である“誰

でも”という面では、大学は当てはまらない

か?

ミキハウスの取り組みは非常に良い。ヒュー

マナイジング小委員会のアウトプットも、こう

いう形で反映できれば良いと思う。

3) 老人福祉施設改修プロジェクトのインタビ

ュー調査(話題提供)

古賀委員は、東久留米の老人福祉施設の改修

プロジェクトを手がけている(3月に設計終了

予定)。この施設は、正規スタッフが約 50 名、

非常勤の方も合わせると 100 名ほどの規模であ

る。ニーズ調査を 11 月 7 日・14 日頃実施する

予定だが、どのように調査をすれば良いかで検

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討中。空間の味付けのようなところに力を入れ

たいので、スタッフからのいわゆる“突拍子も

ない意見”は大歓迎である。

設計者としては、職員にとっても介護される

側の人にとっても「家」のように思ってもらい

たい。職員の中には、介護者のことを優先して、

働きやすさや快適性といった自分にとっての

ことを無視している人も少なくないので、そう

いう人にも仕事の合間にくつろいだりできる

ような空間を提供したい。

職員の男女比は、現在7:3(で女性が多い。

介護者も9:1~8:2で女性が多い)。仕事

内容は、力仕事が多い。

インタビューのテクニカルな事項として:グ

ループ内で仕事上の上下関係がないように調

整する、3人は“しゃべりにくい人数”、キー

となる人物と、最前線で働いている人から話を

聞く 等。

佐藤委員が携わった「駅の快適性」のグルー

プインタビューのように、刺激(イメージ画等)

を見せてから話を聞くのはどうか。

→はっきりとした絵を見せると、それにひっ

ぱられる可能性もあるので、言葉で通じる機能

は言葉で伝えた方が良い。

→イメージとして写真を見せても、写真情報

に引っ張られてしまい、結局好みの問題に陥っ

てしまう危険性がある。

キャプション評価法は効果的。指摘者の言葉

(指摘内容)に加えて、その人が取った写真が

あるので、この写真が設計情報として非常に役

立つ。

聞き方として、物に帰着させてはいけない。

問題と感じていることは、すぐにインタビュ

ーイの口から出てくる。それ以外のことは深追

いせず、また枝葉末節も気にしない(あっさり

調査派)。

その人の思いの丈を語ってもらった方が、大

事な項目はどんどん出てくる。

4) 次回以降

次回以降は、新たな課題を見いだしたり、施

設のあり方を再検討することを目的として、各

委員が業務ないし研究領域で対象とする施設

に対して、「おもてなし感」という切り口で1

人ずつ発表し、自由に討議することとする。

(6)第4回小委員会 12 月 6 日(水)

各委員の発表

1)古賀委員(特別養護老人ホーム)

改修物件で竣工後に使われ方を調べてみた

ところ、当方の意図通りに使われていない空間

がどうしても存在してしまう。

“なじみのカルテ”として、入居者1人1人

を対象とした、「こんなことをして楽しそうだ

った」「この人はこの場所が好き」というよう

な、その人が生き生きする場所、シチュエーシ

ョンを記録したものを作成していきたい。これ

は、職員による何かの意思決定の際に判断材料

となることを目的としている。

(カルテの)フォーマットを考えなくてはい

けないが、ボリュームのあるものになりそうと

いう懸念と、電子化をどこまでするか、という

問題がある。 →総合所見のようなものを電子

情報化しておけばいいのでは?

中野区 K 特別養護老人ホーム 改修

施設の職員の「馴染みの環境づくり」を目指した実践的

な活動から出てきた、改修のアイデアをもとに設計を行っ

たものです。高齢者が昔なじんだ環境に近い空間を提供す

ることで、落ち着いて楽しく過ごしてもらいたいという意

図です。現在は8月末竣工予定で工事の最終段階です。 完成しておしまいではなく、今後は職員と共に、これら

の空間を利用したケアの方法について研究していく予定

です。(古賀)

1階:パーティルーム 1階:喫茶コーナー (パーティルームは会食など面会の家族と水入らずにな

れる場所、喫茶コーナーは、地域の人も巻き込んだコミュ

ニティーづくりの核)

3階:家事コーナー(土間)3階:家事コーナー(畳)

(家事コーナーは、残存能力を生かして生活行為を行う場

所。洗濯や畳み物・繕い仕事などを想定)

(その他)

茶道の経験を「おもてなし感」としてまとめ

られると良い。また実際にお茶でおもてなしし

たい。

2)成田委員(オフィスなどのホスピタリティ)

施設に対するユーザーニーズは、刻々と変化

するものであると捉える(ITに関する要求は、

特に頻繁に更新される)。そこで出される要求

に1つ1つ対応するのではなく(間に合わな

い)、もう少し幅広く 要求に対応する必要性

から、「ホスピタリティ」という考え方が提唱

されるようになった。

ホテル(業界、施設用途)では、「ホスピタ

リティ」に関する本が何冊か出版されている

(主にサービス面、ソフト面)。「サービスと対

価」に対して、「ホスピタリティと顧客ロイヤ

リティ」の関係がある。この“顧客ロイヤリテ

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ィ”とは、“顧客の忠誠心”すなわち、固定客、

ファン、上客、御贔屓筋、リピーターといった、

心とお財布と行動がつなぎとめられた顧客(の

獲得)、という意味。

ホスピタリティの例:フォーシーズンズホテ

ルのフィットネスジムの従業員マニュアルに

は、「運動開始から 10 分後にお客様にタオルを

渡す」とは書かれていない。利用者の目線で対

応するよう心がけさせるために、「汗をかいて

いるお客様にそっとタオルを差し出すこと」と

ある。

ホスピタリティについて、商業系の施設を対

象とした事例はしばしば見られるが、オフィス

ビルを対象とした事例はあまりない。

オランダが先駆的(10 年ほど前から)。アメ

リカの病院などの事例もあるが、これは実はオ

ランダの専門家がアメリカで提唱しているも

の。

航空会社とスーパーマーケットではホスピ

タリティの内容が違う。何をもってホスピタリ

ティか、ということよりも、それぞれの企業毎

の(恐らく戦略的に)ホスピタリティを宣言す

ることが重要であると言われている。

オフィスの場合は、自分達の従業員の生産性

を上げることが究極の目的で、ホスピタリティ

とは、そのために、例えば仕事の達成感を感じ

させる、モチベーションの向上に繋げるための、

(雇用者側の)「おもてなし」であるといえる

(Google の例)

日本建築学会で取り組むのであれば、まずハ

ード面・ソフト面の両軸で事例研究をしてみる

とよいかと思う。

ホスピタリティとはまた少し異なるが、知的

障害を持つ人のための空間や設備を提供する

活動(の総称)として、「スヌーズレン」

( snoezelen ; 日 本 ス ヌ ー ズ レ ン 協 会

http://www1.ocn.ne.jp/~snoezel/)がある。

(7)第5回小委員会 1 月 10 日(水)

1)古賀委員より(前回補足)

“なじみのカルテ”の作成について、当該施

設のスタッフの方とその後、打合せを2回ほど

行ったが、カルテの内容等についての進展はあ

まりない。入居者についての記録は日誌として

残っている(業務の一部)が入居者全員分はな

い。過去のデータを一度集めて整理する必要が

あるが、施設スタッフを巻き込むのは難しい。

業務とこのカルテの位置づけも含めて、どう軟

着陸させるかが課題である。

2)三ツ木委員

(「おもてなし感」全般)

サービスのレベルと料金の関係は比較的わ

かりやすいが、「おもてなし感」となると、そ

の具体的なレベルがイメージしにくい。

おもてなしについて、ハード面で対応するか、

ソフト面で対応するかの選択があると思う。例

えば、建物玄関前に3段の階段がある場合、

「階段を取り払って長いスロープをつける」と

いう方法(ハード的対応)と「人が介助する」

という方法(ソフト的対応)があるだろう。-

お年寄りが 10 人来るならスロープ設置、1人

ならば手を貸す、といった対応が現実的ではな

いか。

要求レベル別に対応、と言ったときに、人は

どこまで要求している/するか、のレベル(尺

度)の設定が非常に難しい。(例えばレストラ

ンのグレードなど。レストランとファストフー

ド店に対するニーズなど)

おもてなし感は、使う側が自発的に気が付く

場合のみ有効なもの。供給側から「ここまで気

を遣いました」とアピールするものではない。

高齢者や障害者は、他の人からの助けはなる

べく借りたくないと思っている人が多い。人の

手を借りずに済むのが、施設のホスピタリティ

かもしれない。

セコム社は、食事支援ロボット「マイスプー

ン」を開発したが、“自分で好きなものが食べ

られる”ことがポイントだそうだ。介護してい

る人も一緒に食事ができ、おいしいという想い

を共有できること、笑顔を交わせることが喜ば

れている。

(トイレ空間の話など)

衛生設備機器メーカーと共同で調査できな

いか?(実は結構彼らも手詰まり?)。

トイレットホルダーの位置;右半身、左半身

のどちらの障害かでも使える/使えないがあ

る。そもそもホルダーの位置などは、間仕切り

板に桟があるかないかというような現場の事

情で決められることが多い。

海外生活の長い人や 20 才以下の子供など、

日本人でも和式が使えない人が増えている。

心理的な要求レベルを決めるのは、同じ人に

よっても時によって変わる程であり、大変難し

い。

一律的な基準(スタンダード)を定めること

よりも、使う人のレベルを引き出してカスタマ

イズする仕組み(システム、調べ方)を作ろう

という発想が、ヒューマナイジングもしくは、

環境心理分野では大切だと思う。(オーダーメ

イドのスーツを作るのに、SMLサイズの寸法

は意味がない。どこを測るかが重要な情報とな

る)

バックヤードがどのような状態かで、従業員

に対する経営側の意識が見える(ちょっと大げ

さ)。職場の環境を向上して志気を高めるべき

であると考える経営者も出始めている。建築の

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問題ではなくどちらかと言えば社会的歴史的

問題。

3)丸山委員

「お客さんを迎える」とはどういうことであ

るのか。また、施設提案の“役所・庁舎”には

銀行、博物館なども入るが、建物に入ったとき

から「おもてなし感」のある感じという、もの

を、具体的にイメージしたい。

“スポーツ観戦施設”(スタジアム)では、

試合が終了すると、退場が集中するので、退場

待ちの人が多数発生してしまうが、その人達を

飽きさせない工夫をしている例があった。

スポーツ観戦は試合内容が重視されるが、そ

れでも意外と施設(どこでやるか)が観に行く

/行かないの判断材料になっているのではな

いか。ドームか武道館なら武道館がいいとか、

あそこの競馬場ならいかない、など。

映画館:結構きめ細かく対応している。シネ

コンが増え、ノウハウもいろいろ蓄積されてい

る(座席に飲み物をこぼすと、席ごと外して交

換していて驚いた)。電車のシートは、掃除の

しやすさのため昔は外せたが、今は固定式にな

っている。

東北新幹線は、スキー板置き場分(電話ボッ

クスくらいの大きさ)、座席感覚が狭くなって

しまうため、乗車客に座面を出して(前にずら

して)もらう仕組みになっている。

ところが、今では配達サービスの普及、スノ

ースポーツ人口の低下等から、このスペースが

使われないこともある(代替案として自動販売

機を組み込むのが妥当?)

岡部憲明氏が設計した小田急線の新型ロマ

ンスカーは、作る列車数が少なく(2編成)、

一品生産的感覚で作れた。今は、予約が取れな

いくらい人気になっている。

TGV(フランスの鉄道):車内がラウンジのよ

うに暗いが、これがステータス感になっている

と思う。日本は列車内が暗いとかえってクレー

ムの対象となる(ホテルなども)。

(8)第6回小委員会 2 月 16 日(金)

1)小野委員の発表

4つ星、5つ星のホテルよりも3つ星の方が、

居心地が良かったりする。利用する側の身の丈

に合っていないと、おもてなし感を感じられな

いものである。

ユビキタスの社会では、どこでも仕事ができ

るようになる。自分のデスクにはり付かなくて

すむため、「居心地の良い場所」が選ばれる。

ここ一番の仕事の時は、普段あまり行かないよ

うなちょっと高級な喫茶店に行くなど、場所と

気分は関係が深い。「どこでも仕事ができる」

ということは利点かもしれないが、会社で仕事

をするよさ、ということもある(例えば、困っ

た時に周りに助けを求められる、など)。 ⇒ 群

れの効用と、独りの効用

サイン計画:直進の途中で、「まだ直進」と

いう表示があるのは、結構高いレベルのおもて

なし。

2)小島委員の発表より

経験価値(個人や企業がブランドに接する際

に、実際に肌で何かを感じたり感動したりする

ことにより、その人の感性や感覚に訴える価値

(バーント・H・シュミット))という概念があ

るが、顧客のロイヤルティ(loyalty:忠誠・

忠実)の帰着点が、建築と消費財では違う。経

験価値マネジメントの中で、Step5「継続的イ

ノベーションへの取り組み」が大切。→ (例)

クレーム対応を重ねていくうちに良くなって

いく。

老舗は経験価値をわかっていたから生き残

ることができた。 「おもてなし感」という「経験価値」 (感性工学会感性商品研究部会の研究会から) ●経験価値とは: 個人や企業がブランドに接する際に、実際に肌で

何かを感じたり感動したりすることにより、その人

の感性や感覚に訴える価値。(バーント・H・シュミ

ット) ●戦略的経験価値モジュール(SEM): ①SENCE 感覚的経験価値 ②FEEL 情緒的経験価値 ③THINK 認知的?創造的?経験価値 ④ACT 行動的?肉体的?経験価値 ⑤RELATE 関係的経験価値

●経験価値プロバイダー(Ex-Pro): ・顧客の経験価値を生む刺激を提供する要素 ・コミュニケーション、アイデンティティ、製品、

コブランディング、環境、ウェブサイト、人間 ・マーケターは、この7要素のうち、どの Ex-Pro

を用いて SEM を構築するかを決定する。 ●経験価値グリッド:(?)

SEM×Ex-Pro の対応関係を2元表で表したものをこのように呼んでいるらしい。 ●経験価値マネジメント(CEM): ・顧客の経験価値を高めるための戦略的なマネジメ

ントプロセス Step1. 顧客の経験価値世界の分析 --調査・分析 Step2. 経験価値プラットフォームの構築

--提供する経験価値のポジショニングを明確化 Step3. ブランド経験価値のデザイン

--静的要素のデザイン(製品、ロゴ、店舗、広告 etc) Step4. 顧客インターフェイス構築 ---動的な相互作用要素(Web、メール、接客 etc) Step5. 継続的イノベーションへの取り組み ---経験価値を継続的に創造できる企業

~~~~~~ ・「おもてなし感」が経験価値に含まれることは明ら

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か。 ・経験価値創造の考え方や方法論をあてはめてみた

い。 →とりあえず本を買って知識を仕入れたい。 ・建築の場合、経験価値によって顧客がロイヤルテ

ィを感じる対象は何?(通常、企業やブランド) ・「まちづくり」「高齢者福祉施設の環境づくり」等

の活動は、ある程度 CEM になじむ。 Step1.魅力・不満 etc を調査 → Step2. 環境づくりの目標設定 → Step3 以降の実践

2.3 第3年度(2007 年度)

(1)第1回小委員会 5 月 21 日

1)学会大会(福岡)関連企画の紹介(小島委員)

2)「(仮称)未来のオフィス像 札幌会議」後援

について(宇治川)

3)「おもてなし感」とは フリーディスカッシ

ョン

これまで、小委員会の委員による「おもてな

し」をテーマにした発表を行ってきたが、それ

らを個々のテーマとして各委員によって深め

ていくやり方もあるのではないか。

例えば、まず「おもてなし」をテーマにA4

版1枚のボリューム程度で、所感を記してみて

はどうか。

おもてなし感=もてなされている感じのこ

と。もてなす側(主体・仕掛ける側)が客をど

のように扱うか、そして客がそれをどう受け取

るかの関係性。(客が「もてなされているなぁ」

と思えばもてなす側は“しめたもの”?)

人による「おもてなし」:宿のおかみが挨拶

にくる、上司のことではなくお客様のことを考

えた行動を取るスタッフ、ホスピタリティ、お

客様の要求を捉えることができる教育であり、

その資質を備えた人材を見抜く…

建築的な「おもてなし」:UD の行きつくとこ

ろ? UD は万人に対応することを目指してお

り、それは個別対応と違う。ユビキタスは個別

対応を目指している(各人のコミュニケーショ

ンとワークスタイルに対応した空間を提供し

ます、というようなスタイルを取っている)

“建築的なおもてなし”と言う場合、「おも

てなし」はその建物を利用する人すべてを対象

とすべきだと思う。(老人福祉施設の場合、入

居者である老人へのサービス=「おもてなし」

では不完全。共に生活するスタッフも「おもて

なし」されるべきである)

「おもてなし」と「ヒューマナイジング」の

繋がりを明確にすべきである。

ヒューマナ4原則→駅→「おもてなし感」→

ヒューマナ4原則にまた戻る?

(2)第 2 回小委員会 7 月 2 日

1)「おもてなし感」の概念定義

おもてなし⇒“わたしのため”:もてなされ

ることによって自分という個人を自ら認識す

る。自分が特別扱いされる感じが心地よい。

もてなす側は、その相手のことを想わないと

もてなせない。人格と人格がふれあわないとお

もてなしにならない。

スーパー等に設置の IC タグ⇒過去の買い物

履歴から商品をおすすめ:確かに個人対応では

あるが、「おせっかい」になりかねない。

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「曖昧な感じ」、「例えば何かうんざりする

ような状況の時に、そっと察して提供してくれ

る」、「ちょっとしたそっとした気遣い」。これ

はかなり上位(上級)の「おもてなし」。そも

そもは「お客さんとして扱って欲しい」からス

タートしている。

客人扱い→もてなし→おもてなし

「おもてなし」のつもりが受け手にしてみれば

「おせっかい」のことも。(過剰すぎるのもダ

メ)

当たり前品質すら充足していない時に、優し

くされると、もてなされていると感じる。

苦労を感じてこそ、おもてなしを感じる?

(人はどんどん楽をしたがるし、一度享受した

ことをすぐ当たり前と思ってしまう)

2)「駅という空間」に関する議論

テレビ番組で駅の中の飲食店をプロデュー

スしてきた方を紹介していた。ある駅の駅長さ

んが、「これまで、駅の中に滞留する時間は短

いほど良いという発想であったが、エキナカは

それに真っ向から対立する非常識の発想だっ

た」と語っていた。

非日常的な場合(旅行や不慣れな駅を利用し

ている時)はおもてなしをしてもらいたいと想

うが、日常は構われたくない。

平常時でのおもてなしとはどんなものか?

-地域・期間限定のお弁当???

新幹線で PC を使って仕事をしたい人にはコ

ンセントのある席に割り振る。

“2号車は弱冷房車です”“1号車は女性専

用車両です”そういう情報をお客さんに与える

のも個別対応であり、おもなしにあたる。

地下鉄の駅を通し番号にしたこと(C10、M4

など:特に外国人に配慮)、トイレ情報、乗り

換え用地図など、情報をうまく流せていること

は、おもてなしに相当する。不慣れな駅でも、

行き先が即座に理解できるサインなどには、も

てなされ感がある。

*駅に関する意見あれこれ*

電車の出発案内:時として「大船行き 12 時

08 分」よりも「横浜・関内方面」の方が重要な

情報のことがある。不慣れな場合、発着時間も

さることながら、そもそも乗り場がよくわから

ないことがある。

東京メトロ:改札を出たところに周辺地図が

あるが、どうせなら、ホームにも地図があって

欲しい。大きな地図をホームや駅構内に掲げる

スペースはないが、出口を間違えると遠回りを

しなくてはならないこともある。

すいている車両を教えてもらえると便利。

3)「おもてなし感」の他の施設への適用

おもてなし感を建物としてどういう形で提

供するのか。そしてどんな施設に適用すべきか。

・公共性が高くて個別性が高い施設。

・ソフト的なサービスとは切り離せない。お

手本となるサービスを他の施設で導入してみ

る。(図書館のサービス向上のために、インタ

ーコンチネンタルホテルのホスピタリティを

手本とした、という事例がある)

・類似用途を参考にする(例:空港→駅)

どうもてなすかについては、「建物でもてな

す」(例:ちょっとした休憩スペース、分かり

やすい案内表示)場合と、「もてなす人間がも

てなしやすい空間を提供する」場合がある。

→シェフが動きやすい空間→それによって

シェフはおいしい料理を提供することができ

る。

→駅:スタッフ、駅員が動きやすい→利用者

にサービスしやすくなる。

老人福祉施設の場合、人(スタッフ)の方で

がんばりすぎてしまうような気がする(建物う

んぬんの前に、スタッフが“われわれが我慢し

て、気合いを入れれば良いのです”みたいな感

じ)。施設・空間的な部分で対処することで、

「もてなす人間がもてなしやすい空間」を提供

することができる。

ミュージアム:動物園→経営の心構え次第、

水族館は、もともと学術的な意味での標本展示

がはじまりで「展示することに意義がある」と

いう考え方だった。その“汽車窓”方式から、

イルカやアザラシのショーを行う“スタジアム

水槽”が取り入れられ、その後で、多くの魚が

共生する状態を見せる“環境水槽”が登場した。

車椅子利用者が海に潜っている感覚を楽し

むため、たくさん訪れるようになった(エレベ

ーター対応が追いついていないという課題の

あるところも)。

美術館:展示の仕方にひどいものがある。海

外の美術館(大英博物館?)や上野動物園のパ

ンダ舎のようにじっくり見たい人と素通りし

たい人の動線を分けるなどの工夫が必要。

4)アーバンインフラテクノロジー推進会議へ

の論文応募

上記会議は、「環境と人にやさしいまちづく

り技術」を標榜している。

2002年度以降のヒューマナイジング小委員

会の成果を論文として応募することに決定。

→タイトルは、交通ターミナルにおける「おも

てなし感」の品質表 とする。

5)そのほか・まとめ

おもてなしを十杷一絡げにせず、バンド(グ

レード)を決めた方がいい。

駅というカテゴリーの中にも、夜行列車の北

斗七星のような上級の対応をする列車・サービ

スと、日常の駅のサービスとは異なる。

お金を払うかどうか?→当然ある(含む)だ

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ろう。

やはり、もてなされるためには、お金を払う

という気持ちはある。飛行機にしても、先に搭

乗できる・席が入り口から近い・席が大きくゆ

ったり座れるなどのメリットがある。

空間

・茶道

・ホテル

・レクサス

・駅

・駅(北斗七星)

図 空間(環境)によるもてなし・人によるも

てなし (3)第 3 回小委員会 8 月 6 日

1)老人福祉施設とおもてなし(古賀委員)

まず、高齢者施設の種類別の説明をしていた

だき、古賀委員が改修を手がけた「かみざきホ

ーム」での取り組みの紹介をしていただいた。

2)“3段階のおもてなし”

前回のバンド(グレード)を踏まえ、おもて

なし感の種別の提案がされた。

第1種(人間扱い):不快さや不満を感じず

に「人間扱いされている」と感じられる…法律

で定められるようなこと、最低基準、当たり前

品質の充足

第2種(懐の広さ):多様化している利用者

の要求に応えられる…ニーズの把握と応答、マ

ニュアル対応可能なレベル、魅力的品質にアプ

ローチ

第3種(茶道や高級旅館・ホテルが目指す「お

もてなし」):特定の個人の特定の状況に応じた

サービスの提供

「おもてなし感」の概念を、3段階に分ける

ことにより、より明確になった。

3)「未来のオフィス像 札幌会議」進捗状況について(宇治川) 4)今後の方針

(今年度の活動案)

駅の「おもてなし感」に関する検討をとりま

とめる。

鉄道会館における「おもてなし感」…見学と

関係者の方へのインタビュー。

シーン別、シナリオ・ライティングに挑戦(監

修:丸山委員)

①アーバンテクノロジー推進会議、②環境心

理小委員会(小島主査)+施設の公共性評価W

G(建築経済委員会-施設マネジメント小委員

会)によるシンポジウム(企画段階)での成果

発表を予定。

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(4)未来のオフィス像 札幌会議 9 月 28 日~

29 日

ヒューマナイジング小委員会が提案と後援、

ユビキタス特別研究委員会業務施設小委員会

が主催。日本オフィス学会にも共催していただ

き、後援していただいた団体は、ビジネス機械・

情報システム産業協会、日本ファシリティマネ

ジメント推進協会、日本テレワーク協会、など。

建築学会では、建築計画委員会ワークプレイス

小委員会、建築経済委員会プログラミング小委

員会、北海道支部建築計画委員会にも協力いた

だいた。

小委員会からは成田、丸山、宇治川が参加。

丸山委員が、T-PALET(大成版レパグリ手法)

を使ったオフィス計画を紹介。会議全体の運営

を宇治川が担当。参加 32 名。

なお、業務施設小委員会からは、実施した未

来のオフィスに関する提案や事例の収集シー

トをテキストマイニング手法を用いて分析し

たが、キーワードの出現頻度から、コミュニケ

ーションとワークスタイルが上位にあり、今後

のオフィス計画における重要な概念であるこ

と、その2語の今後の方向性として、「コミュ

ニケーション」は創発志向、「ワークスタイル」

は多様化(TPO・選択可能性)が窺えること

が報告された。

頻度

0 10 20 30 40 50

オフィス

コミュニケーション

ワークスタイル

空間

可能

ツール

組織

設置

業務

環境

活性化

現在

向上

仕事

変化

利用

提案

実現

サービス

頻度

0 10 20 30 40 50

オフィス

コミュニケーション

ワークスタイル

空間

可能

ツール

組織

設置

業務

環境

活性化

現在

向上

仕事

変化

利用

提案

実現

サービス 図 キーワードの出現頻度

コミュニケーション軸

創発

IT化効率追求

十人一色 十人十色 一人十色

ワークスタイル軸 図 未来のオフィス像のマップ化

(5)第4回小委員会 10 月 15 日

1)「未来のオフィス像 札幌会議」実施結果

2)アーバンインフラテクノロジー推進会議

研究発表会(11/5)に発表する『交通ターミナ

ルにおける「おもてなし感」の品質表』のプレ

ゼ内容について(同)

一般論で何かするのは大変。個別に具体的に

検討していかなくては意味がない。

(「おもてなし」最上位の)ホテルでのおも

てなしを、もっと低いレベルの施設に落とし込

んでみては? -暗黙の部分を明文化して

温泉旅館→2.5 種から3種くらい?ある旅館

では、集中監視室(監視カメラ)で情報を一元

管理している。困った顔をしているお客さんへ

のフォロー、従業員にその場は判断をさせて、

その後対処策などの情報を報告させる(吸収)。

讃井研究室で、駅の混雑を研究テーマとしよ

うとする学生がいる(動線の研究)。調べてみ

ると、意外と研究されていない。JR、東急な

どの方に話を聞いてみると、現場にまかせてい

るとのこと。→とりあえず、柵・ロープ等で対

第3種のおもてなし感のような、対価サービ

ス的なものは、建築学会的には方向性がやや違

う。当たり前品質の充足はもちろん、少し魅力

的品質側にいけばベター、という発想で取り組

めばよいのでは。

3)今後の方針など

来年度(最終年度)は、讃井委員に主査を引

き受けていただく。

来年度は、「おもてなし感」については、この

辺りでとりまとめつつ、新規テーマについて探

索する。

(残った?作業)

品質展開表を1種2種3種に分けたり、重要

度(○◎△)を吟味したり、空欄になっている

ところを埋める(あくまでも具体例ベースで)。

シナリオ・ライティング的なシーン毎のま

とめ?

鉄道博物館に行って、見学及び施設担当の

方にお話を伺う → 大人気のため企画が大変

そう。みんな電車が大好き(通勤電車を除く)。

足元を固める意味で(第1種のおもてなし、

環境心理の基盤的研究)、こんな研究テーマも

あるという情報発信をするのも重要なこと(例

えば、先ほどの動線の研究)。

なにかの課題に対して、ヒューマナイジング

プロデュース的なことをする。

シンポジウムをどんどん開催する。環境心理

的な適用事例を発表すれば、窓口としての役割

を担うことができる。イベントオリエンテッド

も活動方法の1つとして十分あり得る。

32

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3)流浪塾

(6)第5回小委員会 2008 年 2 月 26 日 新規に解説する研究会(流浪塾)は、インス

ピレーションとイマジネーション及びモチベ

ーションを刺激し合う場をめざす。ヒューマナ

イジング小委員会とのタイアップで、4 月 1 日

に武蔵工大の小林茂雄先生による「落書き問

題」に関するセッションを開催の予定。タイト

ルは、「落書きのある街アートのある街」。

1) 11 月 5 日に行われたアーバンテクノロジー

推進会議での結果、9 課題中 4 位で次点という

結果であった(上位 3 位が入賞)。

2)3種のおもてなし感

第2種(懐の広さ)多様化している利用者の

要求にこたえられる(について)

最近,気になった言葉「感情労働」:「自分の

気持ちを押し殺し、相手に合わせた言葉や態度

で対応する仕事」…米国の社会学者アーリー・

ホックシールドが肉体労働、頭脳労働と並ぶ第

三の労働形態として提唱したもの。例えば、キ

ャビンアテンダント、老人介護スタッフ、ホテ

ル従業員等々。

これまで環境心理の分野では、平均的な人間

像を扱ってきた。しかし、実はそんな「標準人

間」はいない。UD は、標準ではない多様化した

要求にこたえられるものを作ろうとしている。

現在の UD は、主に行動に支障のないことを目

指しているが、「懐の広さ」は、心理的要求の

多様化に対応する概念であろう。

33

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付録3 交通ターミナルにおける「おもてなし感」の品質表

(アーバンインフラテクノロジー推進会議の発表論文)

1.はじめに

「建築空間や都市環境を、人間の要求に沿った、人間のための空間にすること」を目標とし

た日本建築学会の委員会活動の一環として、駅や空港など交通ターミナルの「おもてなし感」

の品質表を作成した。この品質表は、「おもてなし感」が感じられる空間の条件を整理・体系化

したもので、今後の交通ターミナル計画の方向性の検討に供するものである。

2.関連分野の動向と理論的背景

(1)ヒューマナイジング

「ヒューマナイジング」とは、「建築空間や都市環境を、人間の要求に沿った、人間のための

空間にすること」という意味であり、シンシナティ大学のW.F.E.プライザー教授が用い、建築

学会の環境心理分野のメンバーが使い始めた言葉である1)。

言うまでも無く、建築空間は、人間のために作られるものである。しかし、実際の設計過程

では、企画段階から詳細設計に至るまで多種多様な選択肢があり、建設費や設計期間など様々

な制約の元で、膨大な意思決定を、多数の関係者との調整を経て行わなければならない。発注

者も設計者も、組織が担当することの多い現代では、その組織の内部で思考や判断の整合性を

確保することも容易ではない。そのような事情から、施設の全体計画や個々の空間について、

達成すべき必要かつ十分な空間的条件が整理されずに、設計仕様や設計図が決定されることも

少なくなく、供用を開始してから、利用者に不便や不満の念を抱かせることにもなる。また、

利用者の居住性や快適性に対する判断基準は、自身の経験や他の施設との比較の中で、社会的

に形成されるもので、時代とともに変化してゆくものである。

建築学会では、2002 年度にヒューマナイジングに関する研究委員会を設け、ユニバーサル・

デザインの7原則を参考にして、ヒューマナイジングの 4 原則(試案)を設定し、各原則を達

成するための技術や手法を整理した(表 1)。

表 1 ヒューマナイジングの4原則(試案)と技術や手法

4原則 技術や手法

①要望や要求の収集

設計する建物に関して、関係者

の要望や要求を、きちんと集め

る。

POE(居住環境評価)、アンケート調査、

グループインタビュー、プロブレム・

シーキング、評価グリッド法、キャプ

ション評価法

②要求や問題点の体系化要求事項や問題点を体系的に

整理して示す。

ネットワーク図、品質表(要求品質展

開)、ISM(構造モデル化手法)

③秀例学習とあるべき姿

の検討

優れた事例を学習し、作る空間

のあるべき姿を、知恵を結集し

て作る。

ベンチマーキング、チェックリスト、

特性要因図、品質表(品質特性展開)、

プロトタイピング(進化型アプロー

チ)

④運用段階での改善

使用後の状況を確認し、施設を

運用する段階でも改善を加え

てゆく。

POE、ベネフィット・ポートフォリオ

(2)おもてなし感

34

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「おもてなし感」とは、利用者が施設側から「もてなされている」と感じる印象であり、ヒ

ューマナイジングのレベルとしては、高度な水準と言える。この概念を提案したのは大学院生

の研究メンバーであり、日本の公共空間に、若い方たちがそういうレベルを期待する状況が存

在することは、注目に値する。一般の建築施設での居住性や快適性の水準が向上した結果、居

心地の良い環境であることが当たり前になったことがその背景にあると考えられるが、高齢社

会や観光立国を目指すわが国の現況を鑑みても、今後の公共空間のあり方に関わる問題提起に

なり得るのではないだろうか。また、鉄道や航空機などの交通サービスで、競合相手のあるも

のは、サービス向上策の方向性を示すものでもある。

なお、研究委員会(ヒューマナイジング小委員会)では、「おもてなし感」は、①不快さや不

満を感じずに「人間扱いされている」と感じられる基礎的なレベル(第1種)、②多様化してい

る利用者の要求にこたえられる「懐の広さ」(第2種)、③特定の個人の特定の状況に応じたサ

ービスを提供できる高度な対応(第3種)など、多角的な視点を含んでいることが議論されて

いる。

3.方法

ヒューマナイジングの 4 原則(表 2.1)に沿って、踏査調査や文献調査により、利用者の要

望や要求を収集し(①要望や要求の収集)、その内容を整理して、要求品質展開表(注 1)を作成

した(②要求や問題点の体系化)。また、空港のターミナルやショッピング施設などいくつかの

秀例を調査し、要求品質展開表の項目と、建物の構成要素(立地環境、全体計画、外観、空間

構成、室空間、内装・開口部、サイン、設備、家具什器、その他)の項目ごとに関連事項を示

し、重要度や影響度を評価して品質表を作成(③秀例学習とあるべき姿の検討)した。

(1)踏査調査

ヒューマナイジング小委員会のメンバー11 名が、2005 年 3 月 14 日午後 16 時から約 1 時間、

JR 新宿駅の構内を歩き、各自が気の付いたことをカードに記入した。同時に、委員会の活動テ

ーマの提案を求め、検討の結果、「おもてなし感」をテーマに選定した。ベンチマーキング(比

較対象)的な追調査として、羽田第2旅客ターミナルの踏査調査(2005 年 4 月 25 日)を実施

した。

(2)要求品質展開表の作成

踏査調査で委員会メンバーが作成したカードをもとに、各メンバーが重要度の高いと判断し

た項目をカード化し、それを分類した(表 2)。さらに、概念としての上位・下位の関係を検討

して、「おもてなし感の要求品質展開表」とした。表 3 は、その要求品質展開表を用いて、施設

を検討する際のチェックリストとしたものである。このチェックリストを、横浜ランドマーク

プラザショッピングモール、世田谷区五島美術館などで試用した。

(3)品質展開表の作成

各メンバーが、踏査調査やチェックリストで指摘した事項を、要求品質展開表の項目ごとに

整理した。さらに、建物の構成要素を、立地環境、全体計画、外観、空間構成、室空間、内装・

開口部、サイン、設備、家具什器、その他、と分類し、指摘された事項を構成要素ごとに分類

した(表 4)。その過程で、概念の包含関係を検討し、1次2次項目を若干修正した。要求品質

の項目と建物の構成要素の項目ごとに重要度評価(◎○△)を行った(表 5)。

(4)品質表の重要度評価の確認

表5の品質展開表の重要度評価は、駅の設計者の感覚と合致しているのだろうか。つくばエ

クスプレス線やみなとみらい線の設計を担当した鉄道建設・運輸施設整備支援機構の 2 名の担

当者にも重要度評価をしていただいた(2006 年 3 月 24 日)。2 名の評価はほぼ同じであったが、

35

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「愛着がもてる」だけは、◎と△に分かれた。また、1 次項目の「安心できる」に、「安全であ

る」を追加する提案があった。鉄道設計の知識が十分でないヒューマナイジング小委員会のメ

ンバーは、そのことの認識が薄かったが、重要事項と考え、2 次項目に追加した。

表 2 利用者の視点に立った要求のグルーピング

グループ ユーザーの視点に立った要求 グループ ユーザーの視点に立った要求

グループ6

視覚障害者に行動しやすい工夫がさ

れている

人に優しい駅とする(バリアフリー) グループ1

時間が有効に使える

自分がどこにいるか分かる

目的地に行く経路が分かりやすい

慣れる程に一層快適に利用できる

グループ2

必要な情報が簡単に入手できる

利用者が知りたい情報を整理して提

供している

相談できる人がいる

失敗(乗り遅れ)しても慌てずに行動

できる

グループ7

記憶・印象に残りやすい

空間に魅力がある

豊かな気持ちになれる

ワクワク感がある

場所の雰囲気が温かい

心遣いが感じられる

楽しい変化がある

愛着がもてる

グループ3

防犯上、雰囲気から安全性を感じら

れる

不安を感じることなく行動できる

グループ4 滞留者の居場所がある

休憩ができる

グループ5

必要な機能が提供されている(便利で

ある)

(体力的に)楽に行動できる

人の流れがスムーズであり疲れない

人と待ち合わせがしやすい

グループ8

騒々しくない

居心地がよい

落ち着く

窮屈な感じがしない

肩身の狭い思いをしない

表 3 施設調査用「おもてなし感」のチェックリスト 1次 2次 評価 理由

自分がどこにいるか分かる

目的地までの経路が分かりやすい 迷いにくい

その他

犯罪に会わない 安心できる

不安なく行動できる

(多数の)人々がスムーズに移動できる

休憩できる

障害者も行動しやすい

人と待ち合わせがしやすい

楽に行動できる

その他

窮屈な感じがしない

清潔である

温もりの感じられる内装

(視覚的に)ごちゃごちゃしていない

騒がしくない

居心地がよい

その他

個性的である

ワクワク感がある 愛着がもてる

その他

その他 便利である

◎○△×? その理由

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表4 駅・空港のおもてなし感の品質展開表(性能的表現、部分)

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表 5 駅・空港のおもてなし感の品質展開表(重要度)

1次 2次 外観 ・

外装

全体計画 ・

空間構成

室空間 ・開

口部・内装サイン

設 備 ・ 家 具 什

器・アート・植栽

サービス、運

営、その他

犯罪に会わない △ ○

不安がない △ ○ △ △ 安心できる○

安全である △

多数の人もスムーズに移動できる ○ ○ ○

障害者も移動しやすい ○ △ △ ○

迷いにくい、自分がどこにいるか分か

◎ ○ △

目的地までの経路が分かりやすい ◎ △ ○ ○

楽に移動できる◎

その他 △

休憩できる ○ △ ○

人と待ち合わせがしやすい ○ 便利である○

その他

清潔である △ ◎

騒がしくない ○

(視覚的に)ごちゃごちゃしていない △ ○ ○ △

窮屈な感じがしない △ ○

温もりが感じられる ○

居心地がよい○

その他 △ △ △

個性的である ○ △ △

ワクワク感がある・楽しい ○ ○ △ ○ 愛着がもてる○

その他 △

4.得られた成果と今後の展開

研究委員会の活動として踏査調査や分析作業を行い、駅や空港など交通ターミナルの「おも

てなし感」の品質展開表を作成した。この表は、交通ターミナルを計画する際に、検討すべき

項目を整理・体系化したもので、計画のチェックリストとして使用できる。なお、表4は、網

羅的に多くの項目を示しているが、個々の施設に適用する場合には、その施設の特殊性を考慮

して取捨選択すべきである。 品質展開表の作成過程では、商業施設や美術館も取り上げたが、表4は、それらの施設につ

いても、共通な項目を多く含んでいる。 今後の展開としては、品質展開表(表 5)に示された多くの性能項目について、設計基準や

ガイドラインを設定することが望まれる。ただし、対象となる施設も多様化や個性化が進んで

おり、設計基準や設計標準の一律的な適用は、必ずしも、「おもてなし感」の向上には寄与しな

いと思われる。また、対象施設やその利用者の特殊性を把握する技術の確立も望まれる。

(注 1)品質展開:要求品質表および品質展開表

品質展開は新しく商品を開発したり、設計する際に用いられる手法で、ユーザーの視点から開発・設計す

るものがどうあるべきかを検討する点に特徴がある。品質展開は、品質展開表を作るが、表の左側(縦軸)は、

要求品質展開表といい、ユーザーにとって重要な問題を大項目(1次項目)、中項目(2次項目)、さらに小

項目(3次項目)というように示す。潜在的なものも含め、多くの要求を収集し、それをカード化し、グル

ーピングしたものが3次項目となる。表の上部(横軸)は、品質特性展開表といい、商品の性能を整理して

示す。要求品質展開表と品質特性展開表ができたら、項目ごとに両者の関連を検討し、商品の望ましい姿を

検討する。

参考文献

1) 日本建築学会編:「建築空間のヒューマナイジング 環境心理による人間空間の創造」, 彰国社, 2001.9

2) 水野滋/赤尾洋二編:「品質機能展開 全社的品質管理へのアプロ-チ」,日科技連,1978

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付録5 DESIGN INTERVENTION(目次と序文) DESIGN INTERVENTION: Toward a More

Humane Architecture は、W.F.E.Preiser 教授ら3名が編集し、1991 年に刊行された書籍である。

2004年度のヒューマナイジング・ワーキンググループが中心となって、和訳する事を検討し

たが、刊行されてから時間が経過していること、

米国と日本では、ホームレスや更生期間中の住

宅のあり方など国情や背景が異なることもあ

り、和訳の作業は見送ることになった。 しかし、環境心理研究者にとって、紹介され

た事例の報告や、問題の取り上げ方、研究者の

姿勢や社会的役割など多くの点で示唆に富む

内容があり、目次と序文の和訳を紹介する。 なお、Intervention とは、 1 間に入ること、

介在.2a 調停 ,仲裁.b 干渉 という意味で、設計者と利用者との間に第 3 者的に、環境心理の分野などの研究者、専門化が入り、設計案を

寄りよいものにすることを目指している。

「Design intervention」にどんな日本語をあてはめるかということ自体、さまざまな見解があ

ろうが、とりあえず、ここでは「設計への介入」

という語を用いた。

原著の「Design innovation」は、「設計革

新」と訳している。

(1)目次

序文 寄稿者 設計への介入への序論: 将来の環境設計のための宣言(マニフェスト) 第 1 部 社会変化と住宅設計 1. 一人親家族の住宅計画 2. 母親と子供たちのための住宅:ブルックビュウの家 3. 更正中の妊娠女性たちの住宅計画:マサチューセッツモデルと奇跡 4. ホームレスのための設計 5. 高齢者のための高層住宅の再生:ピンクパレスの事例 6. イスラエルの退職者コミュニティーの美しいビジョン:NOFIM 7. 高齢者のための最善の設計

第2部 障害者のための設計 8. 受容可能な環境:ユニバーサル・デザインを目指して 9. シカゴでのウエストサイド外来ケアセンター

39

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10. 多発性硬化症センターのプログラミングと居住環境評価 11. グループホームと住宅のグループ:新たなハウジングコンセプトとスウェーデンでの痴呆を持っている高齢者への適用

12. 痴呆のための設計 13. なじみがある設計が痴呆患者への対処を助ける 14. 受容可能な設計の難しい次元:家族との対面 第3部 設計革新 15. オランダにおける有機的設計:革新的オフィスビルの事例研究 16. オフィス環境における設計革新 17. 労働環境の設計における革新:一つの事例研究 18. 設計革新と変化への挑戦 エピローグ:建築と社会の変化に関する意見の要約

(2)序文(和訳)

この本は、その構想から刊行にいたる過程の

中でいくつかの重要な変化を遂げました。当初、

障害者に利用しやすい建物の設計に関する一

連のケーススタディと、その分析として着手さ

れました。やがて、社会変化と設計革新との関

係に対する考察や、アイデアと事例を集めたも

のに変化しました。内容が広がった結果、設計

への介入(design intervention)を定義することに挑戦することも行われました。 初稿では、この本は障害者が受容可能な優れ

た建物の事例を示し、どのように建築の設計が、

利用しやすさに対応することができたか例示

するつもりでした。この研究を進める中で、私

たちは、建物の設計や改築、改装に関する身体

障害者以外の、広い社会的ニーズに関連のある

多くの面白い物語に出会いました。私たちはそ

れらの価値のある革新的な建築の事例も、本に

掲載すべきだと考えました、そして我々の任務

は、特殊なニーズや、すべての人々のための、

住宅や仕事の環境に関連する、設計への介入の

広範な定義を含むよう拡がりました。 私たちの扱った多くの事例は、りっぱな建築

雑誌には紹介されないし、この本の設計革新は

ビッグネームの建築家によって設計された外

国の大都市の本社ビルを褒め称えることはし

ません。 私たちの物語の英雄たちは、「権力構造」か

ら認められておらず、称えられていません。こ

れらの建物のユーザーは、貧者、公民権剥奪者、

普通の労働者と他の社会の無力なグループの

代表者達です。 これらの建物の建築家とプランナーは、自分

達が脚光を浴びるよりも、人々の窮状を軽減し

たり、環境を改善することを目指している人た

ちです。 この本の第3稿が完成する頃には、私たちは

建築の設計と社会変化の問題全体に関心を持

っていることを悟りました。 本書は「設計への介入の序説:将来の環境設

計のための宣言」によって、建築の社会的責任

に挑戦することと、将来の社会的責任のための

宣言で口火を切ります。この章では、設計の革

新的な考えと、例えば、障害者も普遍的に利用

できるような新しい社会的挑戦に応える建築

を目指した、より人間的な志向に向けて、基本

となる考え方を紹介します。 第1部、住宅の設計への介入は、建築家に発

注しないユーザーのための環境改善の事例研

究を取り上げます。 現代の都市社会では、建物の新しいユーザー

として、ホームレス、片親家族、更正期間中の

妊娠女性たち、低収入の人々と生活保護高齢者

が存在します。これらの事例研究での設計への

介入は広い範囲に及び、そして決して一様では

ありません。それら事例研究は、計画や設計の

意思決定に用いられるプロセス、ユーザー参加

40

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の方法、あるいはプロジェクトの資金調達や、

設計の標準化を目的とした社会学的・行動科学

的調査研究を扱っています。この章の著者たち

が述べた経験から導かれる明白な結論は、建築

仲裁が、いろいろな方法で、そしていろいろな

目標と結果で表されるということです。それは、

建物の形、色と装飾よりいっそう広範囲に及ん

でいます。 第2部、障害者のためのデザインは、本書が

当初目指した内容の部分です。私たちは「バリ

アフリー建築」は、「障害者のためのデザイン

は全ての人のためでもある」という意見に従う

べきであると感じます。 第2部の原稿は、バリアフリー建築が視覚的

にもエキサイティングで、使いやすさを達成し

た優れた事例が、視覚的も素晴らしいレベルに

達した方法を紹介しています。 この部分は、バリアフリー建築がそのことだ

けに留まらず、建てられた環境の必須の部分と

なっている統合的な設計コンセプトと考え方

による成功した事例を取り上げました。 これらは、連邦アクセシビリテイスタンダー

ドのような、基準のかたちで使われてしまうの

で、我々は身体障害者のための設計要求項目の

包括的なリスト化を避けようとしました。 第2部の著者は、大西洋両岸の国を代表する

人たちであり、そして我々は障害と障害者のニ

ーズの定義に関して、種々の文化的な偏見や展

望を反映させた広範囲の視点と考え方を促し

ました。 第3部、設計革新における、統一的なテーマ

は現代オフィスビルの設計の改良です。第3部

の意味するところは、人間の要求を満たし、快

適さを増大させるような、人間的な、責任に応

える環境の目標が最高であるということです。 このセクションは、建築の専門家の最近の考え

方や、社会変化と建築、将来の建築に対する推

測などについてのインタビューに基づいて、建

築の教育者と実務家の間の「討論」で締め括ら

れます。

本書の著者は、3つのタイプに分けられます。

そして、それぞれのタイプの事例が、この本の

3つのパートを通じて展開されます。第1のグ

ループは、設計への介入と設計革新に関する理

論的、哲学的な論説です。2番目のグループは、

新しい設計概念と戦略を表すオフィスや住宅、

病院の建物の事例研究に関する記述です。3番

目のグループは、痴ほうで苦しんで人々のため

の住環境を設計すること、あるいは貧困に陥っ

たホームレスの女性と子供たちの環境のニー

ズを明確化する現象などについての調査研究

を含んでいます。 以上3グループの著者が、設計革新の定義に

取り組みました。そして実務的で有用な方法で、

より良い、貧しくない世界にするための、建築

に関する彼らのアイデアを表明します。 1980 年代に入ってから、社会の貧しいグル

ープについて話をしたり、考えるのをやめるた

めに、建築家と他の専門家が出現しました。彼

らが育った 60年代と 70年代の理想を棄てたために、教養を身につけている人々は、社会的良

心と社会変化への介入から遠ざかっていった

ように思われます。もちろん、これは私たちの

社会で、満たされていないニーズが減少したと

か、私たちに関係した社会問題が解決されたこ

とを意味しません。 この本を作る中で、我々は、建築を通じて行

われてきた社会の問題解決が、どれだけ、穏や

かで、効果的かを把握することができました。

この本の内容は、我々の社会の「持たざる者」

の要求に関心を持ち、満たそうとしている、建

築家やプランナー、他の人々がいることを、繰

り返し、示しています。その人たちは、10 年前の社会への抗議者より、小さく、静かな集団で

あるかもしれないが、効果的です。実際に、公

的な資金が非営利のプロジェクトに殆ど拘わ

らなくなったそれらの国で、これらの専門家の

功績は、より少ない財源で達成されて、さらに

いっそう顕著です。 筆者は、最近のアーキテクチャーという雑誌

の論文で、「社会建築」 (60 年代後期と 70 年代初期に専門家を動かした社会的良心の運動)

41

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が何をもたらしたかを問い掛けています。

(1989 年7月、ページ 50)彼女は今の建築の研究者、学者と実務者から得られた回答を報告

しています。そして、「社会問題に対しての関

心」が戻って来ており、仲間が「ゆっくりと、

ほったらかされた社会問題に対する責任を取

り始めて」いると結論づけています。 本書の我々の意図は、社会問題に対しての関

心が建築において生きており、活気に満ちてい

ることや、時代の流行にかかわらず社会問題を

解決することを約束し続ける、少数だが、効果

的で献身的な専門家がいること、そして、その

建築は我々の時代の社会悪の軽減に適用され

ていることを明示しています。

42