全段直結ダイナミックカップル方式 送信曹57 2 bシ...

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全段直結ダイナミックカップル方式 送信曹57 2 Bシングルバワ-アンプ 征矢進S。yosus- 本誌への発表が満10年となった筆者は,この間 に送信管を用いた直結パワーアンプを製作してきた. 今回は比較的安価に入手できる送信管572Bを出力 管に選択し,改めて全段直結ダイナミックカップル (DDC)方式によるアンプを発表する.この方式で は,ダ)ッド電流の流れる正バイアス領域を有効に はじめに 本誌主催の自作アンプコンテス トに初めて参加させていただいた のは, 1989年11月の第2回目で した それから早いもので10年 の月日が流れました この間, DDC(直結ダイナミッ クカップル方式), 4DC(GlとG2を 直流的に分割して,同時に信号を 入力する直結方式),カスコード 方式などを発表してきましな今 回は10年の区切りとして,一度初 ・いこ返ってDDCアンプを製作し, 改めて音質を追求してみることに しました. もともと送信管をオーディオア ンプに使田して,いかに効率良く 使いこなすか,また満足できる音 質に仕上げるかについて研究を進 めてきましたが,成果は十分あっ たように思います.この過程で得 た研究成果や,実際にアンプを製 32 使ったA2級動作が可能であり,送信管のオーディ オへの応用範囲が広がり,オーバーオールのNFB を施す際にもスタガi)ンクが容易になるという長所 がある.本機では特性のよく似た送信管81lAが差 し替えられるので カーボンプレート型572Bと板 プレート型81lAの音色の違いも楽しめる. 作するときのノウ-ウをご説明す ることで 少しでも読者の皆様の お役に立てれば幸いです. DDC方式 DDC方式とは 全段直結ダイ ナミックカップル方式の略称です. 基本的には 図1 (a)に示すロフ チン・ホワイト回路と, (b)に示 すダイナミックカップル回路のそ れぞれの長所を取り出し,融合さ せたとでもいうべき回路です.辛 の基本回路を(c)に示します. DDC回路は多くの長所ととも に短所も併せ掃っていますので それらについて説明します. (1)安定したNFBカ呵能 全段直結方式ですので,時定数 は出力トランス固有の低域1段と 高域2段のみです.細かい点につ いて考えれば別ですが オーバー オールの負帰還をかける場合でも, 基本的にはスタガ-比について検 討する必要はありません.使用す る出力トランスにもよりますが, 安定した負帰還をかけることが可 能となります. さらに,カップリングコンデン サーの音色的な色付けと,オーバ ースイング時に発生するプロッキ ンク現象から逃れることができま すので 音質向上を図れると考え ます. (2)カソードフォロワー駆動 2段目のカソードフォロワー管 バッファーとして機能します ので 高い入力インピーダンスに より,初段に対する負荷抵抗分は 無視できます.また,低い出力イ ンピーダンスにより,出力管に対 しては,グl)ッド電流が流れる正 領域まで十分ドライフすることが 可能となります. さらにカソードフォロワー管に 傍熱管を使用すれば これが立ち 上がるまでは,出力管(V2。)が MJ

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全段直結ダイナミックカップル方式

送信曹57 2 Bシングルバワ-アンプ

征矢進S。yosus-

本誌への発表が満10年となった筆者は,この間 主

に送信管を用いた直結パワーアンプを製作してきた.

今回は比較的安価に入手できる送信管572Bを出力

管に選択し,改めて全段直結ダイナミックカップル

(DDC)方式によるアンプを発表する.この方式で

は,ダ)ッド電流の流れる正バイアス領域を有効に

はじめに

本誌主催の自作アンプコンテス

トに初めて参加させていただいた

のは, 1989年11月の第2回目で

した それから早いもので10年

の月日が流れました

この間, DDC(直結ダイナミッ

クカップル方式), 4DC(GlとG2を

直流的に分割して,同時に信号を

入力する直結方式),カスコード

方式などを発表してきましな今

回は10年の区切りとして,一度初

・いこ返ってDDCアンプを製作し,

改めて音質を追求してみることに

しました.

もともと送信管をオーディオア

ンプに使田して,いかに効率良く

使いこなすか,また満足できる音

質に仕上げるかについて研究を進

めてきましたが,成果は十分あっ

たように思います.この過程で得

た研究成果や,実際にアンプを製

32

使ったA2級動作が可能であり,送信管のオーディ

オへの応用範囲が広がり,オーバーオールのNFB

を施す際にもスタガi)ンクが容易になるという長所

がある.本機では特性のよく似た送信管81lAが差

し替えられるので カーボンプレート型572Bと板

プレート型81lAの音色の違いも楽しめる.

作するときのノウ-ウをご説明す

ることで 少しでも読者の皆様の

お役に立てれば幸いです.

DDC方式

DDC方式とは 全段直結ダイ

ナミックカップル方式の略称です.

基本的には 図1 (a)に示すロフ

チン・ホワイト回路と, (b)に示

すダイナミックカップル回路のそ

れぞれの長所を取り出し,融合さ

せたとでもいうべき回路です.辛

の基本回路を(c)に示します.

DDC回路は多くの長所ととも

に短所も併せ掃っていますので

それらについて説明します.

(1)安定したNFBカ呵能

全段直結方式ですので,時定数

は出力トランス固有の低域1段と

高域2段のみです.細かい点につ

いて考えれば別ですが オーバー

オールの負帰還をかける場合でも,

基本的にはスタガ-比について検

討する必要はありません.使用す

る出力トランスにもよりますが,

安定した負帰還をかけることが可

能となります.

さらに,カップリングコンデン

サーの音色的な色付けと,オーバ

ースイング時に発生するプロッキ

ンク現象から逃れることができま

すので 音質向上を図れると考え

ます.

(2)カソードフォロワー駆動

2段目のカソードフォロワー管

は バッファーとして機能します

ので 高い入力インピーダンスに

より,初段に対する負荷抵抗分は

無視できます.また,低い出力イ

ンピーダンスにより,出力管に対

しては,グl)ッド電流が流れる正

領域まで十分ドライフすることが

可能となります.

さらにカソードフォロワー管に

傍熱管を使用すれば これが立ち

上がるまでは,出力管(V2。)が

MJ

 

 

 

 

Page 2: 全段直結ダイナミックカップル方式 送信曹57 2 Bシ …3...全段直結ダイナミックカップル方式 送信曹57 2 Bシングルバワ-アンプ 征矢進S。yosus-本誌への発表が満10年となった筆者は,この間

送信菅パワーアンプ/572Bシングル

ノヾ

(a)ロフチン・ホワイト回路

[図1]直結トライブ方式の例

直熱管であってもグリッド電位は

アース電位(OV)にありますので

プレート電流はほとんど流れませ

ん.カソードフォロワー管のヒー

ターウォームアップにつれて,也

力管のkが流れ出し,設定した電

流値で安定します.

(3)自己バイアス抵抗のロス

単一電源で全段直結動作を行う

には,出力管のカソード電圧をか

さ上げする必要があり,カソード

の自己バイアス抵抗が大きな値と

なります.そのため,ここでの電

力ロスが大きくなり,多量の熱を

発生しますし,カソード電圧をか

さ上げした分, B電源を高くする

必要があります.これらは本方式

の唯一の欠点です.

反面,自己バイアス抵抗は出力

管に対するブレーキ効果があり,

出力管を保護できますし,定電流

動作に近くなるため,ペアチュー

ブを使用しなくとも特性の揃った

アンプが製作できます.

出力管572B

今回使用する出力管は,中国製

正     の572Bで,スヴェトラ-ナ製SV

が     572シリーズの原型ともいえる

送信管です.厚みのあるカーボン

に     プレートと,トップにプレートが

ち     引き出された構造は,業務用送信

が     管として貫禄十分です.

IJ      2000/4

Vlc ��V2C �B�V3〔

I, 刮ヌ

(C) DDC基本回路

572Bのフィラメントは6.3V/

4Aで プレート損失は45Wで

すので 81lAや812と同規模

の送信管と考えられます.実際に

真空管の中を見ますと,フィラメ

ント・グリッド間は狭く,グリッ

ド・プレート間は大変広くなって

いて,高FL.高内部抵抗管の特徴

を備えています.

そこで今回は8l lAと同等に扱

ってもよさそうだと考え, DDC

方式で設計することにしました,

後述しますが 実際には572Bと

81lAは,差し換えできるほどよ

く似た出力管であることが判明し

ました

回路構成

回路全体を図2に,使用した真

空管を表1に示します.

(1)初段

初段は7F7をSRPPで使用し

ました. GT管を使用するのであ

B

れば らSL7CTが同等管です.

カソード抵抗は4.7kQとして,

バイアス電圧を1.6Vに設定しま

した.

なお,アンプ全体の感度が高い

ことから,カソードのパスコンを

はずして電流帰還をかけたところ,

残脅-ムノイズが増加し,音質も

荒く感じましたので 最終的には

パスコンを入れました.また,初

段で大きなドi)フトがあると,也

力段の動作に悪影響を及ぼします

ので B電源に270kmのブリーダ

ー抵抗を入れて電流を流し,少し

でも安定動作となるよう配慮しま

した.

(2)ドライブ段

ここにはeVb相当のロクタル

管7C5を使用してみました何

もロクタル管である必要はありま

せんが 私はロクタル管の銀色に

輝く姿態が大好きですので 好み

で選んだものです.

33

 

)

 

 

 

 

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2702W 70V 剌m塑宣352V

[図2] 572Bシングルパワーアンプ全回路

動作は7C5を3極管接続とし

たカソードフォロワーです.出力

管のグリッド電流は10mA程度流

れますが,カソード抵抗に分流す

る電流を含めても,十分余裕を持

ってドライブできます.

[表l ]使用真空管の主な規格

(3)出力段

出力管は前述の572Bです.令

回はパルエレクトロニクスから購

入した中国製ですが,本誌の広告

を見ますとCRコーポレーション

にもあるようです. 1本5000円

前後と上蝦的安価ですが 決して

塑琵 鉄s#��705 鍍cr� 宝b侈fUB�

用途\ー ��電力増幅用 ��大容量全波直覿 ��(ssB用) �7(�ク8�ャr�高〟淑3極管 ��騷ネャr�整流管

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34

あなどれない実力を待つ出力管で

あると考えます.

プレート損失はCCS規格で

45Wあり,本機は約30Wで使用

しました これでも出力は13W

あり十分でしょう.少しでも内輪

な使い方をして,末長く可愛がっ

てあげたいものです.

次にこの572Bアンプは,オー

バーオールのNFBでは音質的に

満足できませんでしたので カソードNFBのみで仕上げてありま

す.オーバーオールのNFBを12

dBと6dBについて試しましたが

いずれも低域が引っ込むよう子

音ヌケが良くありませんでした.

K-NFBのみですと,ダンピング

ファクターは1.6程度と少し足り

ない感じですが 実際に音出しを

しますと,生き生きとしてヌケが

良く,不満はありません.

MJ

 

 

 

 

 

M

 

 

 

 

B

V

 

 

 

 

 

 

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送信筈パワーアンプ/572Bシングル

1

'S

10 20  50 100 200 5CO lk 2k  5k 10k 20k 50k look

周波数旧Z)

[図3]周波数特性

10 20   50 100 200  500 loo°

入力〔mV)

[図5]入出力観望

?・.高内部抵抗の送信管を使用し

た裸の状態では平均的な値です.

K-NFBをかけると, 1.66にな

りました.オーバーオールのNFB

をかければ よりDF値を上げる

こともできますが.前述のように

音質的な観点からK-NFBのみに

しています.

(3)入力対出力特性

当初,オーバーオールのNFB

を予定していましたが,最終的に

はK-NFBのみとしましたので

360mVでフルパワーとなり,高

感度アンプに仕上がりました(図

5).最大出力は波形の崩れる点

で決めると,約13Wといったと

ころです.

な    (4)出力対歪率特性

素     図6のとおり,無帰還ではlW

出力時の歪率が1.2%,またその

カープもソフトディストーション

図     型で 満足できる特性だと考えま

3     す.カソード負帰還をかけると歪

2000/4

50 100 200   500 1k

周波数(Hz)

[図4]ダンピングファクター特性

2k   5k 1 0k  20k

572BLch PL-8r! /=lkHz Rc目口_5mV 劔劔 �� ��""" � �� �� ��I_ ,-cp

〃〃, �, �� �� ��

〃`1 � �� �� ��

無I 亢�B�還 �� � �� �� ��

K �-NF �8凝り �� �� ��

001 002  005 01 02   05 1  2    5 10  20

出力〔W〕

[図6]歪率特性

星星琶星間[写真8]各周波数における方形波応答(Lch/負荷80/lW.上.入力,下.出力)

固弼繭[写真9]負荷条件による10kHz方形波応答(Lch.上●入力,下:出力)

圏圏[写真10]最大出力付近のIkHz正弦波(Lch/負荷80.上:入九 下:出力)

39

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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811ALch BL=8it r=lkHz 劔 �� �� �� ��

"--"" 劔 �� �� �� ��

I �� �� ��

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K-NF 嶋*�.���� ��

10 20  50 100 200  500 loo°

入力(mⅥ

[図7]出力管を8llAに差し替えた場合の入出力特性

率特性も向上します.また, 1

- 3 W付近で一度歪率が下がる

傾向です.いずれにしても,常用

出力では1%を切りますので・,十

分な特性です.

波形観測

8 0純抵抗負荷時における方形

波応答を写真8 (a)-(C)に示し

ます.いずれも,周波数特性にピ

ークやテリップのない,素直を特

性であることを示しています.

写真9 (a)は負荷オープン時の

波形です.安定した波形と考えま

す. (b) (C)は容量負荷時です.

811ALch RL-8m 劔 �� �� �� �� �� �� ��i

/ 椿ニエ���� �� �� �� �� �� �� ��

〟 �� ��

K-NFB 劍*�.���� �� �� ��

.OlO. ��"� ����05 ��0.101 �"� ���局 ��12 �� 迭� ��1020

出力M

[図8]出力管を81lAに差し替えた場合の歪率特性

不安定をアンプでは,負荷抵抗に

わずかな容量を付加するだけで波

形が大きく乱れ 純容量負荷では

手に負えないほど発振します.衣

機はオーバーオールの負帰還を使

用しないこともあり,波形はきわ

めて安定したものとなっています

写真10(a)は出力12.5W時,

(b)は14W時のサイン波出力です

上下が対称につぶれない傾向があ

り,本機ではカットオフのほうが

少し早いようです.

811 Aに変更

572Bと8llAは規格がよく似

[写真Il]本機では不慮の火傷や出力管の破損を防止するために,専用のパンチングメタル襲ボンネットを追加

40

ているので 差し替えてみること

にしました.初段のブリーダー抵

抗270kJlの代わりに, 500kmの

ボリュームを入れて調整したとこ

ろ,やはり270kn付近でカソー

ド電圧が120Vになりました そ

こで再度270knの固定抵抗に戻

してデータをとりました

入出力特性を図7に,歪率特性

を図8に示します. 811のほう

がいくぶん低歪率です力†最大出

力付近の歪率特性は572Bの方が

好ましいように思います.いずれ

にせよ, 81lAと5728は類似管

といえましょう.

ただし,音質的には少し異なる

傾向を示します. 81lAは高域の

澄んだ爽やかを音質力特徴ですが,

5728はいくぶん低いほうにエネ

ルギーがシフトしている感じです.

これは単に板プレートとカーボン

プレートの違いだろうと理解して

います.

本機では定数の変更なしで差し

替えができましたので 811Aア

ンプを製作された方で572Bに興

味のある方は 一度実験して音質

の変化を確認してみるのも面白い

でしょう.その際は,必ずプレー

ト電流を測定して同じかどうか確

認してください.

MJ

80

各室霊iコ

∠~ゝ7

∨   嵩 す 1 9 詔 は ス そと

 

9