研究展望...

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70 研究展望 「デジタル・アーカイブ」の多様化をめぐる動向 ―日本と海外の概念を比較して― 古賀  崇 抄録 本稿は、「デジタル・アーカイブ」ないし“digital archives”をめぐる日本内外の主要な論考を 取り上げつつ、これらに関する日本内外の概念・考え方の「多様化」ないし「ズレ」を検証す ることを試みる。英語圏の “digital archives” については、「今いる人・人々の日々の業務や活 動」、またそれを体現する「ボーン・デジタルの記録」に焦点を当てるか、あるいは「デジタル 化された資料の集積(コレクション)に対してアクセスを提供するウェブサイト」を念頭に置 くか、といった違いがある。日本の「デジタル・アーカイブ」はもっぱら後者に当たると言え るが、“digital heritage”“digital collection” といった関連概念も考慮する必要がある。 A Review on Diversification of Digital Archives: Based on Comparison of Concepts between Japan and Other Countries Resume: The aim of this review article is to observe the diversification of the concept and definition of “digital archives,” based on the concerned articles in Japan and abroad. In the English- speaking countries, mainly two opposite definitions of digital archives exist;(a)collection of born-digital records based on activities of people and organization, and(b)websites that provide access to collections of digitized materials. In Japan, especially those eager to policy promotion of digital archives stand for the definition of(b) . In this situation, however, related concepts such as “digital heritage” and “digital collection” should be also considered. KOGA Takashi 内容: 1.   はじめに:日本の現状と、本稿での問題関心 2.   英語圏での “digital archives” の概念と内容 2. 1 アーカイブズ学事典での記述 2. 2 米国アーカイブズ界での “digital archives” 3.   関 連 概 念 と し て の “digital heritage” “digital collection” 4.   日本での「デジタル・アーカイブ」理解 4. 1 日本の理解と海外の概念との比較 4. 2  「デジタル・アーカイブ」関連の最近の論 集から 5.   まとめ こが たかし:天理大学人間学部総合教育研究センター

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研究展望

「デジタル・アーカイブ」の多様化をめぐる動向―日本と海外の概念を比較して―

古賀  崇

抄録本稿は、「デジタル・アーカイブ」ないし “digital archives” をめぐる日本内外の主要な論考を

取り上げつつ、これらに関する日本内外の概念・考え方の「多様化」ないし「ズレ」を検証することを試みる。英語圏の “digital archives” については、「今いる人・人々の日々の業務や活動」、またそれを体現する「ボーン・デジタルの記録」に焦点を当てるか、あるいは「デジタル化された資料の集積(コレクション)に対してアクセスを提供するウェブサイト」を念頭に置くか、といった違いがある。日本の「デジタル・アーカイブ」はもっぱら後者に当たると言えるが、“digital heritage”“digital collection” といった関連概念も考慮する必要がある。

A Review on Diversification of Digital Archives: Based on Comparison of Concepts between Japan and Other Countries

Resume:The aim of this review article is to observe the diversification of the concept and definition

of “digital archives,” based on the concerned articles in Japan and abroad. In the English-speaking countries, mainly two opposite definitions of digital archives exist;(a)collection of born-digital records based on activities of people and organization, and(b)websites that provide access to collections of digitized materials. In Japan, especially those eager to policy promotion of digital archives stand for the definition of(b). In this situation, however, related concepts such as “digital heritage” and “digital collection” should be also considered.

KOGA Takashi

内容:1.   はじめに:日本の現状と、本稿での問題関心2.   英語圏での“digital archives”の概念と内容2. 1 アーカイブズ学事典での記述2. 2 米国アーカイブズ界での“digital archives”3.    関 連 概 念 と し て の “digital heritage”

“digital collection”

4.   日本での「デジタル・アーカイブ」理解4. 1 日本の理解と海外の概念との比較4. 2  「デジタル・アーカイブ」関連の最近の論

集から5.   まとめ

こが たかし:天理大学人間学部総合教育研究センター

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「デジタル・アーカイブ」の多様化をめぐる動向―日本と海外の概念を比較して― 71

1.はじめに:日本の現状と、本稿での問題関心

近年、日本において「デジタル・アーカイブ」(あるいは「アーカイブ」)の振興策をめぐる議論が盛んに行われている。後述するように、日本では 1990 年代半ばに「デジタル・アーカイブ」の概念が提唱され、さまざまな実践も成されたが、近年では改めて「デジタル・アーカイブ」を国策として振興するための提言が提示されている。その大きな契機となったのが、2014 年 11 月刊行の

『アーカイブ立国宣言』[註 1]であり、そこには各領域での「アーカイブ」「デジタル・アーカイブ」の取り組み・課題の提示に加え、書名通りの「アーカイブ立国宣言」が政策提言として掲げられている(以下、政策提言としての「アーカイブ立国宣言」は「立国宣言」と略記)[註 2]。この「立国宣言」は、“ 各種文化資源専門家、研究者、行政担当者などの有志から成る官民横断的組織 ”[註 3]として 2012 年に設立された「文化資源戦略会議」が策定主体となっている。ここで掲げられた主要な政策提言は、以下の 4 つである(「提言 4」で言及された「孤児作品」については後述する)。

提言 1: 国立デジタルアーカイブ・センター(NDAC)の設立

提言 2:デジタルアーカイブを支える人材の育成提言 3: 文化資源デジタルアーカイブのオープン

データ化提言 4:抜本的な孤児作品対策また、2015 年 1 月には、こうした「立国宣言」

をより密に議論するために「アーカイブサミット2015」が東京で開催され、2016 年 6 月にも「アーカイブサミット 2016」が同じく東京で開催された[註 4]。

2010 年設立の一般財団法人デジタル文化財創出機構によるさまざまな活動や、国会議員連盟とのかかわりも含めた政策提言[註 5]、ならびに、その成果として 2016 年 3 月に刊行された『デジタル文化革命!』[註 6]も、「立国宣言」や「アーカイブサミット」と重なる取り組みと言える。これらはいずれも、「デジタル・アーカイブによる日本の文化資源・文化資産の対外発信」を前提にしたものであり、上記 2 冊の図書の副題に掲げられた「日本

の文化資源を活かす」「日本を再生する “ 文化力 ”」といったことばに、「アーカイブ」「デジタル・アーカイブ」の位置づけが端的に示されている。

加えて、上記のような取り組みでは「著作権」などの「知的財産」の取り扱いが、重要な課題のひとつと位置づけられている。特に、「孤児作品」ないし「孤児著作物」(orphan works)、すなわち著作権・所有権・肖像権などの権利者の存在・所在が不明な作品・著作物の取り扱いにつき、対策を進めるよう、「立国宣言」などの政策提言では求めている。より政策形成の現場に近いところでは、内閣の「知的財産戦略本部」が「デジタル・アーカイブ」を「知的財産戦略」の重点項目のひとつに位置づけている。その端緒と言えるのは、「知的財産政策に関する基本方針」(平成 25(2013)年 6 月7 日閣議決定)である。ここでは 4 つの基本方針のうち、「3 デジタル・ネットワーク社会に対応した環境整備」において、“ 以下の施策に重点的に取り組む ” というもののひとつとして、“ 文化資産など各分野のデジタル・アーカイブ化やその連携を推進する ” ことを挙げている。知的財産戦略本部が毎年策定・公示する「知的財産推進計画」では、2014 年版以降、「アーカイブの利活用の促進」に関する項目が設定されている。ただし、ここでの

「アーカイブ」は「(知的財産コンテンツの)デジタル・アーカイブ」と同義である。また、2015 年9 月には「デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会及び実務者協議会」が発足し、2016年 3 月には「中間報告」が策定されている[註 7]。

もっとも、このような「アーカイブ」「デジタル・アーカイブ」の位置づけには、批判的な見解も提示されている。例えば、「立国宣言」などの動向を批判的に考察する意図で2015年4月に開催された、第 5 回 LRG フォーラム「これからのアーカイブを考える-アーカイブサミット 2015 を受けて」(主催:アカデミック・リソース・ガイド(株))において[註 8]、司会の仲俣は “「立国宣言」のいう

「アーカイブ」が「文化」の側面のみに焦点を当てているのではないか、また、ここでいう文化は「交換可能な価値を生むもの」に限られているのではないか ”という問題提起を行った[註9]。このことについて、仲俣はこのフォーラムに基づく論考にお

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いて、以下のようにまとめ直している[註 10]。[引用者注・2015 年のアーカイブ]サミットおよび「[引用者注・アーカイブ立国]宣言」が無意識のうちに前提にしている「コンテンツ」とは、ようするに「産業化された文化」である。(中略)だがアーカイブとは、そもそも

「これは文化的コンテンツである」とあらかじめ承認されたものばかりが集積される場所ではない。むしろ単体ではまったく価値のないものが、集積されることで価値を生む(かもしれないから保存しておく)場所こそがアーカイブなのだ。

仲俣はまた、書籍としての『アーカイブ立国宣言』の「はじめに」が “21 世紀に入り、日本はグローバル化する世界の中で「坂道を転げ落ちるように」、その存在感を喪失してきた ”[註 11]という一文から始まることに注目し、“ 理想からではなく身も蓋もない現実論から、今回のサミットと「宣言」が生まれたことは疑い得ない ” と述べ、“ その身も蓋もない現実論からゆえの「浅さ・狭さ」” が、サミットや「立国宣言」にはある、と断じている[註 12]。筆者として付け加えるならば、サミットや「立国宣言」における「産業化された文化」をテコとした日本の「存在感」の回復、という基調は、「知的財産推進計画」―まさに「産業化された文化」だからこそ「知的財産」の推進が成り立つ―にも共通すると言えるだろう。

ここで、筆者自身の問題意識として、こうした振興策や政策提言で掲げられた「デジタル・アーカイブ」の概念が、諸外国のものとどれだけの隔たりがあるかどうか検証の必要がある、という点を述べておきたい。つまり、「デジタル・アーカイブによる日本の文化資源(資産)の対外発信」を意識するならば、「デジタル・アーカイブ」の概念や考え方そのものが対外的に届くものとなっているかどうかの検証が求められる。そうでなければ、日本の「デジタル・アーカイブ」は、いわゆる「ガラパゴス」、つまり日本国内だけで孤立した概念、あるいは対外的には届きにくい概念にとどまると言わざるを得ないのではないか、というのが、筆者の考えである。

本稿は上記のような問題意識のもと、国際組織

や諸外国における「デジタル・アーカイブ」概念、あるいはそれに類似した概念を取り上げ、日本で想定されている「デジタル・アーカイブ」概念との比較・検証を行う。もっとも、結論を先に述べると、「デジタル・アーカイブ」の概念は、日本国外でも多様化・多義化しており、必ずしも日本の現状が「ガラパゴス」と言えるわけではない、と判断できる。むしろ、国際レベルでも「デジタル・アーカイブ」の多様化が見られる中で、いかに日本の「デジタル・アーカイブ」の概念、および関連する概念の内実を掘り下げていくか、が課題となる、というのが、筆者の見立てである。

本稿での表記について簡単に触れておくと、基本的に「デジタル・アーカイブ」の表記で統一するが、論者によって「デジタルアーカイブ」の表記を用いている場合は、それを踏襲する。また日本での「デジタル・アーカイブ」と区別するため、英語圏のものは “digital archives” と記述する。

もっとも、「デジタルアーカイブ」と「デジタル・アーカイブ」を明確に区別して表記している論者が存在することにも、言及しておきたい。例えば、後藤の論考では、前者は “ いわゆる古典的な「デジタルアーカイブ」” としているが、これは後述するような、月尾嘉男の提唱に基づく「有形・無形の文化資産のデジタル上での閲覧・鑑賞・発信」を指すものと捉えられる。一方、後者は “ アーカイブズ学の知見なども踏まえた新しい形でのアーカイブを含意する意味 ” と位置づけている[註 13]。ただし筆者自身は、日本の現状を見ると

「デジタルアーカイブ」と「デジタル・アーカイブ」との明確な区別があるとは判断できず、さしあたり、上記のような表記の統一を、あくまでも便宜上行っておく、と述べるにとどめたい。

なお、本稿は「研究展望」のカテゴリーで執筆するものだが、網羅的なレビューを行うのではなく、主要な成果に絞ってレビューを行うことをお断りしておく。

2.英語圏での “digital archives” の概念と内容

まず、英語圏では “digital archives” についてどのように定義し、どう理解しているのかをまとめ

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てみたい。

2.1 アーカイブズ学事典での記述最初に取り上げるのは、2015 年 6 月に刊行され

た Encyclopedia of Archival Science という専門事典である[註 14]。これはアーカイブズ学に関する史上初の包括的事典と銘打って刊行され、伝統的な事柄から最新の動向に至る 154 項目について解説している。本書の詳細については筆者の別稿に譲るが[註 15]、この中に “Digital Archives” の項目が含まれている[註16]。この項目の著者Kate Theimer

(フリーの叙述家・編集者・教育者)は、digital archive(s)の意味するところは立場によって多様であることに留意しつつ、今日では以下 4 つが主な用法であると述べている。

(1)ボーン・デジタルの記録(records)の集積(2) デジタル化された資料の集積(コレクション)

に対してアクセスを提供するウェブサイト(3) ある事柄についての、さまざまな種類のデジ

タル化情報を扱うウェブサイト(例:テキスト情報と画像資料が混在したもの)

(4) ウェブ上の「参加型」コレクション(利用者からの資料提供に依拠するもの。“participatory archives(参加型アーカイブズ)” とも)[註 17]

以上のうち、アーカイブズ専門職はもっぱら(1)の用法に依拠しているが、それ以外の人々は(2)

(3)(4)を用いることが多いと、Theimer は記述している。

なお、この項目では以下の通り、(1)~(4)の具体的事例にも言及している。以下、抜粋する

(URL はいずれも 2016 年 9 月 28 日閲覧)。(1) Richard Rorty born digital files, 1988-2003(カ

リフォルニア大学アーバイン校図書館が受贈)<http://ucispace.lib.uci.edu/handle/10575/7>、Salman Rushdie Papers, Born Digital Materials(エモリー大学図書館が受贈 )<http://findingaids.library.emory.edu/documents/rushdie1000/series11/>

(2) Washington State Archives ‒ Digital Archives <http://www.digitalarchives.wa.gov/>、Alaska’s Digital Archives <http://vilda.alaska.edu/>((2)はほか多数につき、上記 2

つのみ抜粋)(3) Walter Scott Digital Archives <http://www.

walterscott.lib.ed.ac.uk/>、First World War Poetry Digital Archive <http://www.oucs.ox.ac.uk/ww1lit/>、Walt Whitman Archive <http://www.whitmanarchive.org/>

(4) September 11 Digital Archive <http://911digitalarchive.org/>、Digital Archives of Japan’s 2011 Disasters(2011 年東日本大震災デジタルアーカイブ、現在は “Japan Disasters Archives(日本災害アーカイブ)” に改称)<http : //www. jdarch ive . o rg/>、Our Marathon: The Boston Bombing Digital Archive <http://marathon.neu.edu/>、Digital Archives of Literacy Narratives <http://daln.osu.edu/>

2.2 米国アーカイブズ界での “digital archives”2.1 の事典での用法のうち(1)にかかわるもの

として、米国アーキビスト協会(SAA)の取り組みを紹介したい。なお、この項の記述は、筒井による 2014 年の「アート・ドキュメンテーション学会 第 7 回春季研究発表会」における発表と[註 18]、筆者の SAA2015 年次大会(クリーブランド)への参加経験に依拠している[註 19]。

SAAは2010年より、Digital Archives Specialist(DAS)という名の資格認定制度を運用している。DAS の資格取得には、SAA 年次大会などの折に開かれる講習会を一定数受講することと、規定の試験に合格することが求められている。DASは手短にまとめるならば、「デジタル環境下でアーキビストとしての役割を果たすことを保障する資格」という位置づけと言える。DASのための講習会科目は、2016 年 9 月時点で、以下のような枠組みで設定されている[註 20]。・ 基礎科目(4 科目選択必修):デジタル記録・文

書の処理の基礎、デジタル記録の整理と記述(その 1)、デジタル記録の評価選別、アーキビストのためのデジタル・フォレンジック(基礎編)など、全 9 科目

・ 技術と戦略に関する科目(3 科目選択必修):デジタル記録の整理と記述(その 2)、digital

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archives の保存、ボーン・デジタル・アーカイブズへのアクセス提供、digital archives におけるプライバシー・秘匿性をめぐる課題(後述)など、全 11 科目

・ ツールとサービスに関する科目(1 科目選択必修):アーキビストのためのデジタル・フォレンジック(応用編)、ウェブ・アーカイビングの基礎など、全 6 科目

・ 変化を導くための科目(Transformat ional courses 1 科目選択必修):利用者の経験に基づくデザインと digital archives など、全 3 科目上記の科目のうち、「digital archives におけるプ

ライバシー・秘匿性をめぐる課題」については、筆者は SAA2015 年次大会期間中に開かれた講習会を履修した。ここでの内容は別途報告しているが[註 21]、米国のアーカイブズ界において、digital archives やその取り扱いに際して想定されている点を、この講習会を通じてまとめると、以下の通りとなる。

(Ⅰ)Digital archives はボーン・デジタルの記録を前提とする。

これには、政府記録・医療記録・学校記録といった「組織アーカイブズ」のみならず、ある人からコンピュータやハードディスクをまるごと受け入れるといった「収集アーカイブズ」も含まれる。講習 会 に お い て は、 前 述 し た Salman Rushdie Papers, Born Digital Materials や、電子上の個人情報の扱いについて寄贈者に確認を取るしくみを定めたペンシルバニア州立大学の書式が取り上げられた[註 22]。これらの実例からは、「電子記録の寄贈をアーカイブズとして受け入れ、そのアクセスの方針も具体的に定める」という実践が、米国の各機関で成されていることがうかがえる。

(Ⅱ)Digital archives の取り扱いにあたり、「デジタル・フォレンジック」の知識・手法の習得や、その適用をめぐる倫理的判断が求められる。「デジタル・フォレンジック」(デジタル・フォ

レンジックスなどとも呼ばれる)とは、手短に言えば、コンピュータ上のファイルを復元する技術である。この講習会では、AccessData FTK Imager

<http://accessdata.com/product-download>、Identity Finder <http://www.identityfinder.com/> といった、デジタル・フォレンジックのためのソフトウェアを紹介するだけでなく、実際にデジタル・フォレンジックを digital archives に適用する際の注意点についても述べられた。例えば、講習会での「ケーススタディ」のひとつとして、

「『電子記録の収録分』として文書館へ寄贈されたコンピュータに対し、デジタル・フォレンジクスのしくみを適用したところ、寄贈者が削除したファイル(学術上の価値があると思われるが、寄贈者のプライバシーにもかかわるもの)が見つかったとして、こうしたファイルの扱いをどうすべきか」という事例が取り上げられた。つまり、アーカイブズ(文書館)業務の一環として、digital archives におけるデジタル・フォレンジックを適用する場合、復元されたファイルについても、プライバシー・秘匿性を考慮する必要がある、ということが意識されているのである。

なお、SAA がデジタル・フォレンジックを重視するのは、SAA の研修プログラム(DAS のための講習会を兼ねる)として、上記のようにデジタル・フォレンジックの「基礎(Fundamentals)」

「応用(Advanced)」の 2 コースを設定していることからも、うかがえる。

さらに言えば、デジタル・フォレンジックについても日米でのズレがあることに留意せねばならない。日本では、もっぱら犯罪捜査や民事・刑事訴訟上の「デジタル機器上の証拠の確保」、あるいは「セキュリティ・インシデント」への対処策として理解されているが[註 23]、米国では、少なくともアーカイブズ関係者の間では、電子記録の管理や、アーカイブズとしての取り扱いという点も視野に入れて、デジタル・フォレンジックを理解し実践している、と言える[註 24]。

(Ⅲ)Digital archives におけるプライバシー・秘匿性は、故人や歴史的人物のみならず、存命中の人物についてのものを大いに意識する必要がある。

この講習会においては、digital archives の対象となるものとして、前述のように「寄贈される個

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「デジタル・アーカイブ」の多様化をめぐる動向―日本と海外の概念を比較して― 75

人文書(存命中の個人含め)」のほか、弁護士が作成する記録、医療上の記録、学校上の記録といった、専門家らの業務にかかわる記録の扱いや、ディスカバリ(米国での民事訴訟上の証拠開示手続き)や文書提出命令への対処など「機微な情報を含む記録・文書の扱い」が説明された。つまり、「今いる人・人々の日々の業務や活動」や、それを体現する「ボーン・デジタルの記録」が、digital archivesに反映されることになる。

なお、「寄贈される個人文書」の一例として取り上げられた Salman Rushdie Papers, Born Digital Materials(エモリー大学図書館、2.1 で前述)においては、Rushdie がまだ存命であり、また著作『悪魔の詩』などで激しい論争を引き起こしてきたこともあり、Born Digital Material 上のファイル(PCやハードディスク内)へのアクセスについては、事前に同図書館に連絡することを要請し、およびアクセスを同館の手稿・アーカイブズ・貴重資料用の閲覧室内に制限している旨、同館の当該 Finding Aids の説明において明記している[註 25]。

付言すると、著作権については、DAS のための講習会科目の中では「技術・戦略に関する科目」に含まれているが、DAS の枠組みとしては上記の通り、デジタル記録や digital archives の中のプライバシー・秘匿性の扱い―必ずしも「知的財産」の枠には収まらない―にも留意している、というのがここでのポイントと言える。

3. 関連概念としての “digital heritage”“digital collection”

2.1 の事典における用法のうち、(2)や(3)に近 い 概 念 と し て、“digital heritage” や “digital collection” が挙げられる。これらについては、本稿冒頭に取り上げたような、日本で言及される「デジタル・アーカイブ」との関係で、確認しておく余地がある。

Digital heritage については、ユネスコが 2003 年に「デジタル遺産保存に関する憲章(Charter on the Preservation of the Digital Heritage)」 を総会で採択しており[註 26]、日本でも松村が憲章の仮訳

を含め紹介している[註27]。ここでのdigital heritageは “ 文化、教育、学術、行政に関する情報だけでなく、技術、法律、医学の分野などでデジタル形式により作成された様々の情報、又は既存のアナログよりデジタル方式に転換されたものを包含する ” と定義しており[註 28]、「ボーン・デジタル」「デジタル化」の双方を念頭に置きつつ、幅広いものを対象としている。

より新しいところでは、ユネスコの「世界の記憶(Memory of the World)」[註 29]プログラムの一環としての PERSIST(Platform to Enhance the Sustainability of the Information Society Trans globally)プロジェクトの中で、2016 年 3 月に公表された「ユネスコ /PERSIST デジタル遺産の長期保存のための選定に関するガイドライン(The UNESCO/PERSIST Guidelines for the Selection o f D i g i t a l H e r i t a g e f o r L o n g - T e rm Preservation)」においても、digital heritage ということばが前面に出ている。ここでの digital heritage の定義においても、「ボーン・デジタル」

「デジタル化」の双方にわたる「遺産(heritage)」―重要な価値のために、世代を超えて継承されるべきもの―ということが、明記されている[註 30]。

なお、digital heritage と銘打つ著作は英語圏では少なからず刊行されており[註 31]、少なくとも英語圏では、「デジタル化された資料の集積(コレクション) に対してアクセスを提供するウェブサイト」については、digital archives というよりもdigital heritage が通じやすいのでは、と、筆者は考えている。

一方、digital collection については、米国情報標準化機構(NISO)が、2001 年から 2007 年にかけて刊行・改訂した報告書『優れたデジタル・コレクション構築のための指針の枠組み(A Framework of Guidance for Building Good Digital Collections)』で詳説している[註 32]。最終版である第 3 版(2007 年)では、digital collectionを「それ自体の発見・アクセス・利用を促進すべく選択され組織化されたデジタル資料(digital object)から構成されるもの」と定義している。また、digital collection を構成する主要な 4 要素として「資料」「コレクション」「メタデータ」「イニシ

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アティブ」を挙げ、さらに digital collection が図書館・文書館・博物館などに共通する取り組みだと捉えている[註 33]。こちらも、日本における「デジタル・アーカイブ」理解に近いものと筆者は考える[註 34]。

4.日本での「デジタル・アーカイブ」理解

4.1 日本の理解と海外の概念との比較以上のような国外の定義や用法に照らし合わせ

ると、日本での「デジタル・アーカイブ」はどのような意味として捉えられているのだろうか。

よく知られているように、日本の「デジタル・アーカイブ」(ないし「デジタルアーカイブ」)は、1990 年代半ばに月尾嘉男の造語として提唱された。すなわち、“ 有形・無形の文化資産をデジタル情報の形で記録し、その情報をデータベース化して保管し、随時閲覧・鑑賞、情報ネットワークを利用して情報発信 ” する、というものである[註 35]。ここ最近の「デジタル・アーカイブ」に関する政策提言も、この定義を引きずっているように思われる。つまり、「デジタル・アーカイブ」としては

「文化」資産にもっぱら焦点を当てており、ユネスコ憲章がいう「技術、法律、医学」のように人々の 日々の生活に密着した領域からは一歩切り離されたもの(あるいは「記録(records)」とは異なるもの)を「デジタル化」して発信しよう、というニュアンスがある。ここでは、おそらく「アート」や「アートのアーカイブ」も同じようなものとして理解されているものと推測される。言い換えれば、本稿冒頭で触れたように、“「産業化された文化」をテコとした日本の「存在感」の回復 ” といった近年の基調は、1990 年代半ばの時点から変わりがない、とも言える。

2.1 の事典での digital archives の 4 つの用法に立ち返るとすれば、日本の「デジタル・アーカイブ」は(1)とは言い難く、(2)~(4)に該当するものと言える。また、ユネスコ憲章などでいうdigital heritage と重なるところもあるが、まったく同一というわけではなさそうである。

さらに、「アーカイブ立国宣言」や「知的財産推進計画」に見られるように、日本においては「デ

ジタル・アーカイブ」と「アーカイブ」を同一視する動向も認められる。この点については、記録管理学会理事会が同学会の運営・活動上の課題をまとめた報告書の中で、「アーカイブ(ズ)」について、以下のように概念の整理を行っている[註 36]。

 公文書館で永久保存される公文書等は、英語のアーカイブ(ズ)に該当する。また、公文書館で永久保存することをアーカイビングと唱える。  なお、昨今は、電子情報で捕捉しウェブ上に掲示した画像等の情報資源(文化情報資源)をカタカナ語のアーカイブ(ズ)と称することが一般化しつつある。公文書、または組織文書を永久保存するアーカイビング、アーカイブ(ズ)との表現上同一化の傾向が強い。

(『アーカイブ立国宣言』など)つまり、記録管理の観点から見れば、本来は個

人や組織の活動・意思決定の過程を反映した―「過程連係情報(process-bound information)」といった定義が成される[註 37]―公文書、組織文書などの記録について、評価選別の手続を経て「永久保存」されるものこそが、英語でいう「アーカイブ(ズ)」に該当するが、日本の「昨今」の状況では、上記のように電子化されウェブ上に掲示される「画像等の情報資源(文化情報資源)」が、こうした「アーカイブ(ズ)」と「表現上同一化」されている、ということになる。

4.2  「デジタル・アーカイブ」関連の最近の論集から

ここで、「デジタル・アーカイブ」を扱った日本の最近の論集として、2015 年 6 月刊行の『デジタル・アーカイブとは何か:理論と実践』(以下、「本書」と略記)を取り上げたい。

書名にかかわらず、本書に収録された論考では「デジタル・アーカイブとは何か」について、統一した定義や見解が提示されているわけではない。例えば、以下のような定義づけがみられる。・ 影山幸一による「デジタルアーカイブ」の定義:

“ デジタルデータの複製にメタデータを付与したもの(デジタル二次資料)”[註 38]。

・ 江上敏哲による「デジタル・アーカイブ」の定

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「デジタル・アーカイブ」の多様化をめぐる動向―日本と海外の概念を比較して― 77

義:“ デジタル形式の資料・情報・データ―契約による e-resource や記事索引などの二次的データを含む―などを蓄積・集積・保存しユーザに提供している仕組み全般 ”[註 39]。これは図書館で扱う資料・情報源も広く射程に入れた定義と言える。実は筆者自身も本書に寄稿しているが、拙稿で

は “ 図書館・文書館・博物館等の取り組みをつなぐ「最大公約数」” として「アーカイブ」を捉え、それを基盤として “ デジタル形式で(図書館・文書館・博物館等における―引用者注)資料を作成・構築・発信するしくみ ” を「デジタル・アーカイブ」として定義した[註 40]。これは、「デジタル」が先に立つ傾向が強い日本の現状に対し、まずは

「アーカイブ」から理解・定義すること(「アーカイブズ」との違いも含め)が必要だと考えたものである。また日本内外の状況を意識するならば、日本の「デジタル・アーカイブ」は、上記のような“digital heritage”“digital collection” に通じるものがある、という考えも、このような定義づけに込めている。

もうひとつ述べると、本書において日本内外の考え方のズレを如実に表したのが、中国航空工業文書資料館副館長・戴先明の論考である[註 41]。戴は中国の「電子文書」や「電子文書館」について記述しているが、これは「現行の組織活動についてのボーン・デジタルの記録」にかかわるものであり、2.1 の事典の用法では(1)にあたる事柄を扱う。例えば、電子ファイルや電子文書の存在を前提とした文書管理システムの構築の実例や、電子ファイルからのメタデータ抽出システムの実例を、この論考では記述している。しかし、本書全体としてはもっぱら「デジタル化された資料」を論じている中では、「現行の組織活動についてのボーン・デジタルの記録」を中心に添えたこの論考だけが「浮いている」のである。

なお、本書については、松崎裕子による詳細な紹介・批評が記録管理学会誌『レコード・マネジメント』70号(2016年 3月)に掲載されている[註42]。端的に言えば、松崎は本書を通じ、「レコードキーピングの考え方に重みを置く」人々と、日本で「デジタル・アーカイブ」を唱道する人々との間に差

異がある、と見いだしている。ここでいう「レコードキーピング」は、“ いわゆる伝統的なアーカイブズ学・記録管理学から派生した ” 考え方であり[註 43]、松崎はそれを “ 記録の作成から時間をかけて社会的な資源となるまでをひとつながりのものと考える ” 考え方だと、手短にまとめている[註 44]。前者の観点からすれば、“「デジタル・アーカイブ」を唱道する人々は記録の作成過程、さらに言うならば、記録作成過程が内に含む人間の行為や組織の活動のプロセスに無頓着であるように感じる ” と、松崎は指摘している[註 45]。松崎はこうしたギャップの一端が、本書に収録された「若手座談会」における、熊谷慎一郎(当時、宮城県図書館)の “ デジタル・アーカイブの構築者が記録生成のプロセスに、関わるというのは結構難しいです ” という発言にある[註 46]、と記述している。

もうひとつ、この書評における松崎の重要な指摘は、日本で「デジタル・アーカイブ」を唱道する人々は、その活用を重視している、という点である。松崎は、前述の「若手座談会」における、花田一郎(大日本印刷)の “ 資料を持っている方々が、残さなきゃいけないという使命とは別に、「でもこういう活用をしたら面白いな」という発想を持ったっていいわけです ” という発言に注目しつつ[註 47]、「デジタル・アーカイブ」の「活用」と、

「レコードキーピング」が対象とする “ 記録の作成にはじまる一連の過程 ”、言い換えれば “ 記録の誕生の時点から出所原則と原秩序尊重の原則を尊重した記録のマネジメント ” との間に、つながりを付ける必要性を提示している[註 48]。

5.まとめ

1990 年代半ばの月尾の提唱から、「立国宣言」などの近年の動向に至るまで、日本で主流となっている「デジタル・アーカイブ」について、その概念・思考の特色をまとめると、以下のようになるだろう。・ あらかじめ存在しているもののデジタル化を主

な対象とする・ 「文化資源」ないし「産業化された文化」への意

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78 アート・ドキュメンテーション研究 No.24(2017.3)

・ 「活用」への意識・ 記録作成過程への関心の低さ:特にボーン・デ

ジタル記録について。特に前 2 者については、後藤が批判したように、

「優品主義」に基づく「デジタルアーカイブ」と、アーカイブズ―「優品主義」とは異なる「評価・選別」に立脚する―とのねじれをもたらした、と言える[註 49]。ただし、東日本大震災を契機に、「優品主義」「お宝」にとどまらず、写真・映像など、人々の日々の営み、またそれを襲った災害についても記録し後世に残していく、という取り組みも、日本での「デジタル・アーカイブ」の実践では見られるようになった。これは、2.1 で前述したEncyclopedia of Archival ScienceでのTheimerの定義では(4)のウェブ上の「参加型」コレクションに当てはまり、現に前述の通り、「2011 年東日本大震災デジタルアーカイブ」がこの事典での(4)の例に含まれている。また、後藤もこうした動向を “ アーカイブズとデジタル・アーカイブの「邂逅」” の契機と捉えている[註 50]。もっとも、こうした動向については、大岡が次のように「危惧」を表明している[註 51]。

[東日本大震災に関するアーカイブ活動に伴う―引用者注]パラダイム転換の中では、アーカイブ主体が国家から離れて民間に広がっていった。デジタル技術の普及によって「誰でも・どこでも・何でもアーカイブ」できるということは、それはそれで非常によろしいことですが、ただ、震災後活動の未来への説明責任という意味で、最も問われるべきは、これまでのアーカイブズ運動が問題にしてきた政治権力の活動であるはずです。「誰でも・どこでも・何でもアーカイブ」しておけばそれでいいというわけではなく、中央政府や地方行政が何をしたかということの説明責任を果たさせるために、公文書を残し、それを公開させるということを政府に要求し、監視しなくてはならない。「なんでもアーカイブ」が氾濫する中で、「アーカイブズ」運動が問題にしてきた文脈が埋もれてしまってはまずいのではないか。そんな危惧を持っています。

しかしながら、「デジタル・アーカイブ」ないし

digital archives の位置づけが明確ではないのは、日本に限った事情ではない、とも言える。その点は、2.1 で 前 述 し た、Encyclopedia of Archival ScienceでのDigital Archivesの項目にまとめられた通りである。また、この項目にも引用されているが、オーストラリア国立公文書館に勤務していた Adrian Cunningham は、2008 年の論考において、“ レコードキーピングの観点からは、「デジタル・アーカイブ」ということばは誤用され、さらに「乗っ取られ(hijacked)」てもきた ” と指摘している[註 52]。つまり、松崎が『デジタル・アーカイブとは何か』の書評で指摘した、“「レコードキーピングの考え方に重みを置く」人々と、「デジタル・アーカイブ」を唱道する人々との間に差異がある ” という事情は、決して日本の状況に限った話ではない、ということである。

本稿のもとになった筆者の研究発表(後述)に対し、永崎研宣(人文情報学研究所)は “「デジタル・アーカイブ」のガラパゴス化というよりも、むしろ多様性として捉えるべきではないか ” と指摘した。本稿で記したような現状に鑑みると、筆者はこの指摘には同意せざるを得ない[註 53]。本稿の冒頭では、筆者自身の問題意識として、日本の “ 振興策や政策提言で掲げられた「デジタル・アーカイブ」の概念が、諸外国のものとどれだけの隔たりがあるかどうか検証の必要がある”と記した。この検証の結果を踏まえると、実際には明確な隔たりがあるとは言いがたい、と結論づけることができる。つまり、海外での取り組みを踏まえると、日本でいう「デジタル・アーカイブ」は「対外的には届きにくい」とは言えず、「ガラパゴス」とは言い切れない、ということとなる。

ただし、「レコードキーピングの考え方」に根ざすアーカイブ(ズ)観と、そうではないアーカイブ(ズ)観との間に隔たりがあるという点もまた、日本と海外(少なくとも英語圏)では共通している。日本においては、前述した松崎以外にも、「レコードキーピングの考え方」に基づく「アーカイブズ」の観点から、森本や後藤などの論者が、これと「アーカイブ」「デジタル・アーカイブ」との

「理解のズレ」を指摘しているが[註 54]、英語圏でも同様の「理解のズレ」が生じていると言える。

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「デジタル・アーカイブ」の多様化をめぐる動向―日本と海外の概念を比較して― 79

こうした「理解のズレ」のもとで、「デジタル・アーカイブ」の理解の「多様化」が生じているのが、世界的な動向とまとめることができる。しかし、それは国際的に見ても、「デジタル・アーカイブ」の「分かりにくさ」「あいまいさ」につながってしまう[註 55]。

それでは、日本の現状に立ち返り、「デジタル・アーカイブの構築・運用・発信・維持」を進めるための方策としては、どのようなものが適切だろうか。ひとつは、日本から海外に向け「デジタル・アーカイブ」について発信するにあたっては、2.1 の事典における(1)~(4)のような用法の違いを意識した上で、「人を見て法を説く」、つまり相手方がどのように「アーカイブ」「デジタル・アーカイブ」を捉えているかを把握しつつ発信する、ということが考えられる。これは上記の通り、国際的に見ても「デジタル・アーカイブ」の「分かりにくさ」「あいまいさ」が存在する状況のもとでの、

「苦肉の策」とも言えよう。また、日本において「アーカイブ」の概念自体

が曖昧さをはらむため、日本国内においては「アーカイブズ」概念、およびその基礎を成す「記録

(records)」の概念の浸透を図っていくことも、あわせて考慮すべきだろう。この点に関連し、松崎は「デジタル・アーカイブ」の普及促進に関わる日本の研究者に対し、“ 諸外国の動向も参照しながら、つまりインターナショナルにも通用するように、[アーカイブ、アーカイブズ、デジタルアーカイブ、デジタル・アーカイブといった-引用者注]上記の用語、概念の整理と体系化・理論化にぜひとも取り組んでほしい”と要望している[註56]。もっとも、このような用語についても、日本国外ではアーカイブズ界とそれ以外での「意味の相違」が考えられ、現に “digital archives” をめぐってはTheimer や Cunningham が指摘したように、その意味の「多様化」が存在している、とも言える。ただ、国際的にはアーカイブズという研究・実務領域において、アーカイブ(ズ)の概念の整理が成されてきたことと、そこには「レコードキーピング」といった基盤となる考え方が存在している、という点には、注意を払う必要があるのではないだろうか。

さらに、本稿の掲載誌の主題である「アート・ドキュメンテーション」に引きつけると、上記と同様に、「アーカイブズ」概念、およびその基礎を成す「記録(records)」の概念の理解・浸透が重要なものと考える。つまり、「提示・公開された作品」と「作品の完成に至るまでの過程、あるいは完成後の取り扱いの過程を示すもの(「記録」に近い)」との相違点や関係性に留意しつつ、ドキュメンテーションないし「アーカイブ(ズ)」を考察・実践していく、ということである。日本でもごく最近になって、「アート・アーカイブ(ズ)」の重要性が認識されつつあるが[註 57][註 58]、ここでもやはり「提示・公開された作品」と「過程を示すもの」との相違点や関係性を留意する必要性が高い。アートに関するアーカイブ(ズ)を、デジタル環境のもとで構築・運用する場合でも、同じことが当てはまるはずである。これをごく単純化して図示すると、図 1 の通りとなる。

最後に以下について、付言しておきたい。本稿は「デジタル・アーカイブ」をめぐる国内外の「概念理解」の面でのギャップに焦点を当てた。そのため、「デジタル・アーカイブ」をめぐる、実際の構築・運用の技術に関するギャップについては扱っていないが、この点についても検証の必要があるだろう。つまり、「デジタル・アーカイブ」として発信されるコンテンツが、国際的に―とりわけウェブ上で―発見・検索しやすいもの、また利用しやすいもの(ここでは技術的な意味で)になっ

図 1  アート・ドキュメンテーション/アート・アーカイブ(ズ)の模式図

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80 アート・ドキュメンテーション研究 No.24(2017.3)

ているかどうか、ということである。一例を挙げると、デジタル画像相互運用のための国際規格International Image Interoperability Framework

(IIIF、トリプルアイエフ)の導入・活用をめぐるギャップである。IIIF は、永崎のことばを借りれば、“ 画像データやそれに対する注釈情報等のコンピュータ間でのやりとりの仕方を各機関の間で一元化することによって、利用者が色々な使い方を自由に選べるようにする ” 可能性をもたらすものである[註 59]。IIIF のサイトを見ると、国立図書館・国立公文書館含め、世界各国の有力な機関が IIIFに準拠したシステムの開発や実装・運用を行っている反面[註 60]、日本では永崎らの尽力により、ようやく試験的システムの実装が始まったばかりの段階である[註 61]。こうした「デジタル・アーカイブ」をめぐる構築・運用の技術、またその標準化についても、日本独自の仕組みでどこまで進めてよいか、あるいは国際的標準をどこまで意識すべきか、といった点が論点となりうる。こうした点の考察については、筆者が別稿を予定しているので、あわせてご参照いただければ幸いである。

もうひとつ、「立国宣言」の「提言 2」にも掲げられているが、「デジタルアーカイブを支える人材の育成」をどう考えるべきか、また、既存の関連資格が職の保障にどれだけつながるか、という点も、考えるべき大きな課題に含まれる。この点も、筆者が 2016 年 9 月の国際会議にて発表を行い、資料も公開しているが[註 62]、「インターナショナルにも通用する」人材育成、またそれと並び、国や地域を支える人材育成が、どのような形で実現でき持続できるか、引き続き検討と試行・実践が必要である。

謝辞本稿は、アート・ドキュメンテーション学会

(JADS)第 8 回秋季研究発表会(2015 年 11 月 14日、根津美術館)における、筆者の発表「日本の

「デジタル・アーカイブ」はガラパゴスか?:諸外国の関連概念との比較と検証」(予稿集 pp.22-24.)をもとに作成した。発表にご意見・ご質問いただいた各位にあつくお礼申し上げる。

な お、 本 稿 は JSPS 科 研 費 JP25730191、JP1

6K00454 の助成による成果の一部である。

註1) 福井健策 , 吉見俊哉(監修)『アーカイブ立国

宣言:日本の文化資源を活かすために必要なこと』東京 , ポット出版 , 2014

2) 政策提言としての「立国宣言」は、註 1, pp.11-26 に掲載されているほか、「文化資源戦略会議」のウェブサイトにも掲載されており、ウェブ版では英語の抄訳も付している。<http://archivesj.net/?page_id=163> 2016 年 9 月 28日閲覧

3) 「文化資源戦略会議とは」文化資源戦略会議 . <http://archivesj.net/?page_id=15> 2016 年9 月 28 日閲覧

4) これらのサミットの詳細については、サミットの事務局を務める同会議のウェブサイトを参照。文化資源戦略会議 . <http://archivesj.net/> 2016 年 9 月 28 日閲覧

5) 活動の詳細については下記のウェブサイトを参照。デジタル文化財創出機構 . <http://www.digital-heritage.or.jp/> 2016 年 9 月 28日閲覧

6) デジタル文化財創出機構『デジタル文化革命!:日本を再生する “ 文化力 ”』東京 , 東京書籍 , 2016

7) これらの詳細については下記のウェブサイトを参照。知的財産戦略本部 . <http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/> 2016年 9月28日閲覧

8) 登壇者は仲俣暁生(司会)、平野泉、古賀崇、水島久光。このフォーラムに基づく 4 名の論考は、下記に収録。特集「「アーカイブサミット 2015」を総括する/第 5 回 LRG フォーラム これからのアーカイブを考える:「アーカイブサミット 2015」を受けて」『ライブラリー・リソース・ガイド』no. 11, 2015, pp.112-131

9) 古賀崇「アーカイブの射程を考える」『ライブラリー・リソース・ガイド』no. 11, 2015, pp.120-124, 引用箇所は p.120

10) 仲俣暁生「アーカイブという「思想」の可能性」『ライブラリー・リソース・ガイド』no.

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「デジタル・アーカイブ」の多様化をめぐる動向―日本と海外の概念を比較して― 81

11, 2015, pp.113-115, 引用箇所は p.11411) 文化資源戦略会議「はじめに」、註 1, pp.7-10,

引用箇所は p.712) 註 10, p.11513) 後藤真「アーカイブズからデジタル・アーカ

イブへ:「デジタルアーカイブ」とアーカイブズの邂逅」『アーカイブのつくりかた:構築と活用入門』NPO 知的資源イニシアティブ(編), 東京 , 勉誠出版 , 2012, pp.103-116, 引用箇所はp.103

14) Duranti, Luciana, Patricia C. Franks (eds.) Encyclopedia of Archival Science. Lanham, Rowman & Littlefield, 2015

15) 古賀崇「Duranti, Luciana; Franks, Patricia C, eds. Encyclopedia of Archival Science」(紹介)『アーカイブズ学研究』no. 24, 2016, pp.129-132

16) Theimer, Kate. “Digital Archives.” 註 14, pp.157-160

17) Participatory archivesについては、同じ事典・同じ著者による下記の項目も参照。Theimer, Kate. “Participatory Archives.” 註 14, pp.261-262

18) 筒井弥生「ディジタル・アーキビスト米国事情:ディジタル・アーカイブズ・スペシャリスト資格について」『アート・ドキュメンテーション学会(JADS)第 7 回秋季研究発表会 予稿集』2014 年 11 月 22 日 , お茶の水女子大学 , pp.11-14

19) 下記を参照。古賀崇「米国アーキビスト協会2015 年次大会<報告>」『カレントアウェアネス -E』(メールマガジン)no. 289 <http://current.ndl.go.jp/e1715> 2016 年 9 月 28 日閲覧

20) “Dig i ta l Arch ives Spec ia l i s t(DAS)Curriculum and Certificate Program.” Society of American Archivists. <http://www2.archivists.org/prof-education/das> 2016 年 9 月 28 日閲覧

21) 古賀崇「アメリカ・アーキビスト協会 2015 年次大会・プレカンファレンス(講習会)「デジタル・アーカイブズにおけるプライバシー・

秘 匿 性 を め ぐ る 課 題(Privacy and Confidentiality Issues in Digital Archives)」」

(イベントレポート)『人文情報学月報』(メールマガジン)no. 50, 2015. <http://www.dhii.jp/DHM/dhm50-2> 2016 年 9 月 28 日閲覧

22) Deed of Gift Addenda for collections with electronic records. Pennsylvania State University. <https://scholarsphere.psu.edu/downloads/0k225b067> 2016 年 9 月 28 日閲覧。なお、関連する論考の例として下記を参照。Zastrow, Jan. “Digital Acquisitions and Donor Relations: Assets, Apprehensions, and Anxieties.” Computers in Libraries. vol. 26, no. 5, 2016, pp.16-18

23) 日本における「デジタル・フォレンジック」の位置づけを示す例として、下記を参照。デジタル・フォレンジック研究会(編)『デジタル・フォレンジック事典』改訂版 , 東京 , 日科技連出版社 , 2014;高橋郁夫 ほか(編)『デジタル証拠の法律実務 Q&A』東京 , 日本加除出版 , 2015

24) フォレンジックないしデジタル・フォレンジックをアーカイブズ、記録管理、レコードキーピングの文脈で捉える動きは、英語圏では従来から確認できた。例として下記を参照。Upward, Frank. “The Records Continuum.”

(Chapter 8) Archives: Recordkeeping in Society. Sue McKemmish et al.(eds.)Wagga Wagga, Centre for Information Studies, Charles Sturt University, 2005, pp.197-222. また、註 14 の事典にも関連項目がある。Rogers, Corinne. “Digital Records Forensics.” 註 14, pp.166-170

25) Series 11: Born Digital Materials. Salman Rushdie Papers. Robert W. Woodruff Library, Emory University. <https://findingaids.library.emory.edu/documents/rushdie1000/series11/> 2016年9月28日閲覧

26) Charter on the Preservation of Digital Heritage. UNESCO, Oct. 15, 2003. <http://p o r t a l . u n e s c o . o r g / en/ev . php -URL_ID=17721&URL_DO=DO_TOPIC&URL_

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82 アート・ドキュメンテーション研究 No.24(2017.3)

SECTION=201.html> 2016 年 9 月 28 日閲覧27) 松村多美子「デジタル資料保存の国際的イニ

シアチブ:ユネスコのデジタル遺産保存憲章」『情報管理』vol. 47, no. 7, 2004, pp.471-475(うち「憲章」の日本語仮訳は pp.473-475)<http://doi.org/10.1241/johokanri.47.471>2016 年 9 月28 日閲覧

28) 註 27, p.47429) Memory of the World プログラムについて

は、従来は「世界記憶遺産」といった日本語訳が当てられてきたが、日本の外務省は 2016年 6 月より “ 権威のある世界遺産や無形文化遺産との混同防止 ” のために、「世界の記憶」という訳語を用いている。下記を参照。「「記憶遺産」改め「世界の記憶」、外務省が日本語名称変更」『読売新聞』2016 年 6 月 11 日夕刊 , p.1

30) The UNESCO/PERSIST Guidelines for the Selection of Digital Heritage for Long-Term Preservation. UNESCO/PERSIST Content Task Force, Mar. 2016. <http://www.ifla.org/node/10315> 2016 年 9 月 28 日 閲 覧。Digital heritageなどの用語の定義についてはp.16 を参照。

31) 例として下記を参照。MacDonald, Lindsay. Digital Heritage: Applying Digital Imaging to Cultural Heritage. Abingdon, Routledge, 2014;Colley, Sarah. “Ethics and Digital Heritage.” The Ethics of Cultural Heritage. Ireland, Tracy, Schofield, John(eds.)New York, Springer, 2015, pp.13-32

32) NISO のこの報告書については、下記で詳しく論じた。古賀崇「優れたデジタル・コレクション構築のための指針の枠組み 第 2 版(レポート紹介)」『情報管理』vol. 48, no. 1, 2005, pp.48-49;古賀崇「「MLA 連携」の枠組みを探る:海外の文献を手がかりとして」『明治大学図書館情報学研究会紀要』no. 2, 2011, pp.2-9;古賀崇「デジタル・アーカイブの可能性と課題」『デジタル・アーカイブとは何か:理論と実践』岡本真・柳与志夫(責任編集), 東京 , 勉誠出版 , 2015, pp. 49-69, 該当箇所は pp.53-55

33) A Framework of Guidance for Building Good Digital Collections. 3rd ed. Baltimore, U.S. N a t i o n a l I n f o r m a t i o n S t a n d a r d s Organization, 2007, p.4 <http://framework.niso.org/> 2016 年 9 月 28 日閲覧

34) なお、後述する『デジタル・アーカイブとは何か』の責任編集担当のひとり・柳は、同書冒頭で、“ デジタル・コレクション=デジタル・アーカイブではない ” と記述しているが、そう述べる根拠は明記していない。柳与志夫

「はじめに」『デジタル・アーカイブとは何か』註 32, pp.i-iii, 該当箇所は p.ii

35) 影山幸一「忘れ得ぬ日本列島:国立デジタルアーカイブセンター」『デジタル・アーカイブとは何か』註32, pp.3-25, 引用箇所はp.3. なお、この定義は、「デジタルアーカイブ推進協議会

(JDAA)」の 1996 年 9 月のパンフレットに掲げられたものである。JDAAは1996年に設立され、2005 年に解散した。註 13, pp.103-104 も参照。

36) 小川千代子「記録管理学会 2013-2014 年度理事会メンバーによるブレーンストーミング成果報告書」『レコード・マネジメント』no. 70, 2016, pp.3-14, 引用箇所は p.9

37) 「過程連係情報としての記録や、それに基づくアーカイブ(ズ)」に関する説明の例として、下記を参照。テオ・トマセン(石原一則訳)

「アーカイブズ学入門」『入門・アーカイブズの世界:記憶と記録を未来に』記録管理学会・日本アーカイブズ学会(共編), 日外アソシエーツ , 2006, pp.47-64

38) 註 35, p.439) 江上敏哲「「誰でも」とは誰か:デジタル・

アーカイブのユーザを考える」『デジタル・アーカイブとは何か』註 32, pp.27-47, 引用箇所は p.27

40) 古賀崇「デジタル・アーカイブの可能性と課題」註 32, pp.50

41) 戴先明(日本語訳監修:古賀崇)「将来の電子文書館とその発展方法」『デジタル・アーカイブとは何か』註 32, pp.261-288

42) 松崎裕子「岡本真・柳与志夫 責任編集『デ

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「デジタル・アーカイブ」の多様化をめぐる動向―日本と海外の概念を比較して― 83

ジタル・アーカイブとは何か:理論と実践』」(書評)『レコード・マネジメント』no. 70, 2016, pp.95-103

43) 註 42, p.9944) 註 42, p.10145) 註 42, p.9946) 岡本真(司会)・上田啓未・嘉村哲郎・熊谷慎

一郎・小村愛美・花田一郎「若手座談会:実践するデジタル・アーカイブ」『デジタル・アーカイブとは何か』註 32, pp.181-197, 引用箇所は p.188

47) 註 46, p.19348) 註 42, p.10249) 註 13, p.10650) 註 13, pp.107-10851) 大岡聡「3.11 震災関連テレビ映像資料アーカ

イブをめぐって:歴史研究者の立場から」『ジャーナリズム & メディア:新聞学研究所紀要』no.8, 2015, pp.137-146, 引用箇所は p.144. なお、大岡はこのほか、デジタル・アーカイブについて、“ デジタル化されたとき、作成者の思いのようなものはそぎ落とされてしまうのではないか ” “ アーカイブしさえすれば、記憶は継承され、教訓は活かされるのだろうか ”という危惧を記している(pp.143-145)。

52) Cunningham, Adrian. “Digital curation/digital archiving: a view from the National Archives of Australia.” American Archivist. 2008, vol. 71, no. 2, pp.530-543, 引用箇所はp.530 <http:/doi.org/10.17723/aarc.71.2.p0h0t68547385507> 2016 年 9 月 28 日閲覧

53) 発表の記録として下記を参照。藤原秀之「コレクション展レクチャー・一般セッション 2 に参加して」(第 8 回秋季研究発表会+第 64 回見学会)『アート・ドキュメンテーション通信』no. 108, 2016, pp.6-8, 該当箇所は p.7

54) 森本祥子「(コメント 3)伝統的アーカイブズとデジタルアーカイブ:発展的議論を進めるために」『アーカイブズ学研究』no. 15, 2011, pp.55-60. 後藤の論考は註 13 と同一。

55) 国際レベルでの「アーカイブ」「アーカイブズ」「デジタル・アーカイブ」の多様性・あいまい

さを、実例に則して論じた例として、下記を参照。齋藤歩「アーカイブズのデジタル化がめざすもの」AMeeT(一般財団法人ニッシャ印刷文化振興財団), 2016 年 1 月 5 日 <http://www.ameet.jp/digital-archives/129/> 2016年 9 月 28 日閲覧

56) 注[42]p.10157) 例として下記を参照。谷口英理「日本の美術

館にアーカイブズは可能か? シンポジウム「日本の戦後美術資料の収集・公開・活用を考える」」アートスケープ , 2016 年 4 月 15 日 <http://artscape.jp/study/digital-achive/10121712_1958.html> 2016 年 9 月 28 日閲覧;東京国立近代美術館公開講演会「アーカイブズ・オブ・アメリカンアート(AAA)のすべて」

(2016 年 6 月 18 日), 東京国立近代美術館 <http://www.momat.go.jp/am/visit/library/aaa20160618/> 2016年 9月 28日閲覧 , 講演資料等を公開

58) ごく最近の事例を述べると、「松方コレクション」、つまり実業家・松方幸次郎(1865-1950)が収集を行ったものの散逸した西洋絵画等のコレクションのうち、ロンドンで焼失した作品に関する文書が、2016 年 2 月にロンドンのテート美術館付属アーカイブ閲覧室にて確認されたことが、同年 9 月に報じられた。これは「作品の完成後(ないしその前段階)の取り扱いの過程を示すもの」に含まれるものであり、アート・アーカイブの意義の一端を示すものと言える。詳細は下記を参照。「ロンドンで焼失した松方コレクション作品に関する文書の発見について」国立西洋美術館 , 2016年 9 月 5 日 <https://www.nmwa.go.jp/jp/information/whats-new.html#news20160905> 2016 年 9 月 28 日閲覧

59) 永崎研宣「今、まさに広まりつつある国際的なデジタルアーカイブの規格、IIIF のご紹介」digitalnagasaki のブログ , 2016 年 4 月 28 日 <http://digitalnagasaki.hatenablog.com/entry/2016/04/28/192349> 2016 年 9 月 28 日閲覧

60) International Image Interoperabi l i ty

Page 15: 研究展望 「デジタル・アーカイブ」の多様化をめぐる動向opac.tenri-u.ac.jp/opac/repository/metadata/4389/AOP... · 70 研究展望 「デジタル・アーカイブ」の多様化をめぐる動向

84 アート・ドキュメンテーション研究 No.24(2017.3)

Framework. <http://iiif.io/> 2016 年 9 月 28日閲覧

61) 実例は註 60 の「digitalnagasaki のブログ」で示されているほか、国文学研究資料館の「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画(略称:歴史的典籍 NW 事業)」においても、歴史的典籍のデジタル画像の組織化・表示に IIIF を適用した試みが成されている。下記を参照。古賀崇「国際研究集会「日本古典籍への挑戦―知の創造に向けて―」」

(イベントレポート)『人文情報学月報』(メールマガジン)no. 61, 2016. <http://archives.mag2.com/0001316391/> 2016 年 9 月 28 日閲覧

62) Koga, Takashi. “How to fill the gap in the recognition of and education on digital archives? The situation in Japan and abroad.” 4th Asia Pacific Conference on Archival Education, Seoul NPO Center, Sep. 5, 2016. <http://doi.org/10.13140/RG.2.2.19448.65289> 2016 年 9 月 28 日閲覧

付記本稿本文の末尾に記した、筆者の「別稿」について、本稿脱稿後、以下の通り刊行が成されたことを付記しておく。古賀崇「総論:日本におけるデジタルアーカイブのゆくえを探る:国際的動向を踏まえた、「より深い利用」に向けての展望」『情報の科学と技術』vol. 67, no. 2, 2017, pp.48-53

(2016 年 9 月 28 日受理)