物理化学Ⅰ 第05回 2019p - takahashi lab...1 分子軌道法分子軌道法...

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1 分子軌道法 分子軌道法 分子軌道法 物理化学Ⅰ 52019/06/27 医薬保健研究域薬学系 医薬保健研究域薬学系 活性相関物理化学 活性相関物理化学 髙橋 髙橋 広夫 広夫

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  • 1

    分子軌道法分子軌道法分子軌道法

    物理化学Ⅰ 第5回 2019/06/27

    医薬保健研究域薬学系医薬保健研究域薬学系

    活性相関物理化学活性相関物理化学

    髙橋髙橋 広夫広夫

  • 2

    講義スケジュール

    6/21(6/21(金金) 08:45) 08:45--10:15 10:15 原子価結合法と原子価結合法と混成軌道混成軌道

    6/27(6/27(木木)) 08:4508:45--10:15 10:15 分子軌道法分子軌道法

    6/13(6/13(木木) 08:45) 08:45--10:15 10:15 波と粒子の二重性波と粒子の二重性・・前期量子論前期量子論

    6/20(6/20(木木)) 08:4508:45--10:15 10:15 シュレーディンガー方程式と化学結合シュレーディンガー方程式と化学結合

    6/28(6/28(金金)) 08:4508:45--10:15 10:15 静電相互作用・ファンデルワールス力静電相互作用・ファンデルワールス力

    7/04(7/04(木木)) 08:4508:45--10:15 10:15 疎水性効果・電磁波疎水性効果・電磁波

    7/05(7/05(金金)) 08:4508:45--10:1510:15 講義講義((前半前半))++試験試験((後半後半))

    6/14(6/14(金金) 08:45) 08:45--10:15 10:15 シュレーディンガー方程式と量子数シュレーディンガー方程式と量子数

    6/27(6/27(木木) 08:45) 08:45--10:15 10:15 分子軌道法分子軌道法

  • 3

    本日のお題

    • 分子軌道法

    • 混成軌道(復習)

    • 同位相逆位相(復習)

    • 原子価結合法の問題点(復習)

    • 原子価結合法 (復習)

  • 4

    原子価結合法: Valence bond (VB) method

    ・ 電子は 原子に属する

    ・ 原子が電子を出し合って結合を作る

    原子が結合して分子ができる

    分子軌道法: Molecular orbital (MO) method

    ・電子は 分子全体に広がっている

    ・分子は原子の集まりではない

    分子は「分子」という物質

    分子軌道

  • 5

    電子の軌道が分子全体に広がっている

    原子軌道を分子に拡張した 考え方

    原子のように分子にも軌道がある と考える

    炭素の原子軌道の例(1s)

    ベンゼンの分子軌道の例(最安定軌道)

    メタンの分子軌道の例(2番目に安定な軌道)

    分子軌道法

    メタンの例

  • 6

    パウリの排他律

    電子の2つ入っている軌道:

    電子の入っていない軌道:

    最もエネルギーの高い被占軌道:

    最高被占軌道(HOMO)

    Highest occupied molecular orbital

    最もエネルギーの低い空軌道:

    最低空軌道(LUMO)

    Lowest unoccupied molecular orbital

    電子が1つ入った軌道:

    半占軌道(SOMO)

    Singly occupied molecular orbital

    被占軌道

    空軌道

    メタンの分子軌道(エネルギー準位)

    ↑↓

    ↑↓

    ↑↓ ↑↓↑↓

    4つのC-H結合があるが、縮退している軌道は3つ

    (MO法原子価結合法)

    → 各分子軌道に2つずつ電子が入る

    軌道の分類

  • 7

    原子軌道

    ・ 水素原子:シュレディンガー方程式を解く

    ・ 水素以外:水素原子を参考に近似

    分子軌道

    ・ シュレディンガー方程式は解けない

    ・ 参考になるものも無い

    → 原子軌道を組み合わせて分子軌道を表現

    分子軌道の求め方

    注→ 原子価結合法のような共有結合の概念はない

  • 8

    例1:水素分子

    原子Aー原子B

    A B

    1s 1s

    HA HB

    分子軌道 Ψ1

    水素原子Aの1s軌道をχA1s

    分子軌道 Ψ1は ( cは係数 )

    1s 1s

    HA HB

    分子軌道 Ψ2

    数学的にはもう1つ A

    B

    χA1s χB1s

    分子軌道の求め方

    H-H

    1 = cA1s + cB1s

    2 = cA1s − cB1s

    水素原子Bの1s軌道をχB1s とする

    分子軌道 Ψ2は

  • 9

    分子を構成する原子の原子軌道をχiとすると

    で表すことが多い

    → 分子軌道を原子軌道の線形結合で表現する方法

    Linear combination of atomic orbitals: LCAO MO法

    LCAO MO法では

    水素の例ではχA1sとχB1sからΨ1とΨ2が生成

    i

    iic

    分子軌道の求め方

    使用した原子軌道と同じ数の分子軌道が生成される

    とよぶ

  • 10

    電子の存在確率が高い領域

    分子軌道Ψ1に電子が入ることにより、2つの原子核の間に結合が生じる

    → このような軌道を 結合性軌道 とよぶ

    分子軌道Ψ1

    + +-

    + +

  • 11

    + +

    電子の存在確率が高い領域

    分子軌道Ψ2に電子が入ると、原子核間の反発がさらに強くなる

    → このような軌道を 反結合性軌道 と呼ぶ

    分子軌道Ψ2

    + -+-

    原子核同士を遠ざけるように働く。

    単に結合していないだけでなく、

  • 12

    原子価結合法と同様・反結合性軌道には * をつける

    ・書ける場合には、 その分子軌道の材料 も書く

    Ψ1はσ1s 、Ψ2はσ*1s

    → π軌道

    分子軌道法の補足

    + +

    →σ軌道

    結合平面に節がない

    + +

    節:存在確率がゼロ存在確率がゼロの平面を持つ

  • 13

    結合性軌道:

    → 正電荷によって電子が安定化

    反結合性軌道:

    → 波の振動数が大きい

    Ψ1は水素原子の原子軌道よりも エネルギーが低く

    Ψ1はχA1s 、χB1sよりエネルギーが低い

    → H+HよりH2の方が安定

    A1s

    2

    B1s

    1HA HB H2

    HA + HB → H2 の場合

    + +

    結合性・反結合性

    原子間に電子が存在する確率が高い

    原子間に節面が存在する

    →高エネルギー

    Ψ2は水素原子の原子軌道よりも エネルギーが高い

    エネルギー込みで原子軌道から分子軌道を作る

  • 14

    結合性軌道に電子が入る

    Ψ1はχB1sよりはエネルギーが低い

    → H + H+よりはH2+のほうが安定(現実にH2+は観測されている)

    ただし、H2の方が電子2個で結合を作るため、強い結合になる

    電子が必ずしも対になる必要はない

    A1s

    2

    B1s

    1HA HB +H2+

    = 結合ができる

    HA + HB+ → H2 + の場合

  • 15

    例2: メタンの場合

    H1 H2 H3

    H4 1

    x軸

    z軸

    y軸

    C1s, C2s, C2px, C2py, C2pz

    LCAO MO法では、分子軌道は

    =

    ↑↓

    ↑↓

    ↑↓ ↑↓↑↓

    炭素の1s, 2s, 2px, 2py, 2pz軌道を

    水素H1~H4の1s軌道をH1, H2, H3, H4

    + c6H1 + c7H2 + c8H3 + c9H4+ c2C2s + c3C2px + c4C2py + c5C2pz

    → , , a , b , c

    c1C1s

    2

    とする。

    3a 3b 3c

    H1 H2

    H4H3

    C

  • 16

    例2: メタンの場合(つづき1)

    Ψ1は、 最もエネルギーの低い軌道

    = 他の原子との「結合」に関与していない(内殻電子なので)

    このような軌道を 非結合性軌道 という

    注)結合を助けも邪魔もしないから「非」結合性軌道。

    (ほぼ 炭素の1s軌道そのまま )

    H1 H2 H3

    H4 1

    結合の邪魔をしている「反」結合性軌道とは別もの

    2

    2 ≈ c21C2s + c22H1 + c22H2 + c22H3 + c22H4

    ( 炭素の2s軌道と、4つの水素の1s軌道との合成 )

    = c21C2s + c22 (H1 + H2 + H3 + H4)

    1 ≈ C1s

  • 17

    a ≈ px − −

    ( px軌道の位相にあわせて水素の1s軌道の符号が逆になる )

    3a 3b 3c

    H1

    H2 H3

    H4

    H1

    H2

    H4

    H3 H3

    H1

    H2

    H4

    例2: メタンの場合(つづき2)

    cpx c − −

    炭素の2px軌道と4つの水素の1s軌道との合成。

    x軸

    z軸

    y軸H1 H2

    H4H3

    C

    x軸

    Ψ3b とΨ3c は Ψ3a と同様と考える

  • 18

    3a 3b 3c

    H1

    H2 H3

    H4

    H1

    H2

    H4

    H3 H3

    H1

    H2

    H4

    例2: メタンの場合(つづき3) x軸

    z軸

    y軸H1 H2

    H4H3

    C

    x軸

    b ≈ pz − −

    3c ≈ c32C2px + c32H1 − c32H2 + c32H3 − c32H4

    炭素の2pz軌道と4つの水素の1s軌道との合成

    炭素の2py軌道と4つの水素の1s軌道との合成

    軌道はCとHの間ではなく、分子全体に軌道が広がっている

    ただし、4つの水素原子は等価(3a, 3b, 3cの係数は全て同じ)

    cCpz c − −

    = c31C2py + c32 (H1 − H2 + H3 − H4)

    分子軌道

  • 19

    1s, 2s, 2px, 2py, 2pzの原子2個分(計10個)の

    軌道が材料

    → できる分子軌道も10個

    酸素分子の電子は16個

    14個は普通に入る

    縮退したπ*2p軌道にはフント則にしたがって1つずつ入る

    → 不対電子が2個できる

    例3:酸素分子

    1s

    2s

    2p

    O O2

    ↑↓

    ↑↓

    ↑↓

    ↑↓

    ↑↓

    ↑↓

    ↑↓

    ↑↓ ↑↓

    ↑ ↑

    ↑ ↑フント則

    O + O → O2 電子の入った軌道の部分のみもちろん3s, 3p, 4s, 3d, …に対応する分子軌道もあり得るが、基底状態を考える上では関係ない。

    1s

    2s

    2p

    O

    ↑↓

    ↑↓

    ↑↓

    ↑ ↑

    一番下は内殻の1sのためほとんど重なりがなく、軌道の安定化がほとんどない。

    σ軌道

    π軌道

    π*軌道

    σ*軌道

    σ軌道

    σ*軌道

    σ軌道

    σ*軌道

    ↑↓

  • 20

    ホウ素の2sと2pがsp3混成軌道を作ると考えると

    ホウ素の価電子は3つ

    → 4つのsp3軌道のうち3つに不対電子、1つは空外側の4つのHはBのsp3とσ結合

    ・水素の1s軌道(電子1個)

    ・ホウ素のsp3軌道(電子1個)

    ・別のホウ素のsp3軌道(電子なし)

    分子軌道を作る

    例4:ジボラン-まずは混成軌道で

    BHH

    H

    H

    BHH

    → この部分は普通の原子価結合法

    1s

    sp3

    H B-B

  • 21

    例4:ジボラン-つづき

    BHH

    H

    H

    BHH

    1s

    sp3

    H B-B B-H-B

    ↑↓

    反結合性軌道

    非結合性軌道

    結合性軌道

    一番下の軌道に電子が入るため3原子が2電子で結合

    → 3中心2電子結合

  • 22

    例4:ジボラン-分子軌道法-混成軌道を使わずに表現

    1s 1s

    1s 1s

    HB

    H

    H

    H

    BHH

    1s 1s

    1s 1s

    1s

    1s 2s 2s

    1s

    1s

    1s

    1s 2s 2s

    1

    2

    3

    4

    2原子間のみに電子が偏るのではなく、分子全体に広がる

    → 非局在化

    1s H

    BH

    H

    H

    BHH

    1s 2pz 2pz

    1s

    1s

    1s

    1s 2py 2py

    1s

    1s

    1s

    1s 2py 2py

    1s

    1s

    1s

    1s

    1s

    1s

    2px2px

    5

    6

    7

    8

    1と2はホウ素の1s軌道からなる分子軌道で、内殻のため

    ほとんど相互作用しない(1s軌道そのまま)

    6のように間の水素を介さず、2つのホウ素が「結合」しているような軌道もある。

    いずれにしても、 LCAO MO法は、手計算ではとけない