直接基礎の地盤定数の設定について -...
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平成14年の道路橋示方書1)(以下、道示)の改訂により導入された極限支持力式の寸法効果は、極限支持力が基礎幅の増加にともない低減する傾向にあることから、この基礎形状による寸法効果を適正に考慮するよう設定されたもので、設計計算上軽視できないものである。一方で、設計に用いる地盤定数(cおよびφ)は一般的な物性値や推定式等から求める場合が少なくないため、その値は小さく評価される傾向にあり、適正な構造物設計のためには性能規定型設計を踏まえた、より信頼性の高い地盤定数(c, φ , 補正係数等)の把握が必要とされている。 本報では、道路橋示方書改訂以降の直接基礎の設計計算に関する実態調査をとりまとめ、極限支持力式による設計計算、設計定数の設定方法、確認試験の方法について解説を行う。
道示において、直接基礎の鉛直支持力に関する安定計算は、以下の2項目について実施する必要がある1)。
基礎幅の増加にともない直接基礎の極限支持力度が低減する現象は、古典的技術テーマとして知られている2)。この現象についてはφの応力依存性等諸説あるが、実務上はTerzaghi の支持力理論における支持力係数(Nγ)が基礎幅の増加とともに減少すると理解され、道示ではH14改訂で寸法効果補正を考慮した直接基礎の極限支持力式が採用された1)。 H14道示より寸法効果補正が導入されたため、従前より極限支持力が小さく推定される傾向にある。これにより、H8道示までは構造決定要因になる場合が少なかった(1)極限支持力式により構造が決定されるケースがあるため、極限支持力について十分検討する必要がある。また、極限支持力は地盤定数(c,φ)から算出されることから、地盤定数にこれまでより高い精度が求められることとなった。
直接基礎の地盤定数の設定について
福島 宏文* 西本 聡** 冨澤 幸一***
}21{ 1 γeqqcceu SNBSqNScNAQ γβγκακ ++=
( IV 10.3.1)Qu
(kN) Ae (m2)α, βκ
c (kN/m2)q (kN/m2) q=γ2DfDf (m) γ1, γ2
(kN/m3)
Be(m) Be=B–2eB
B (m) eB (m) Nc, Nq, NγSc, Sq, Sγ
Sc=(c*)λ, Sq=(q*)υ, Sγ=(B*)μ
c*=c/c0 (1 c* 10) c0=10(kN/m2)q*=q/q0 (1 q* 10) q0=10(kN/m2)B*=Be/B0 (1 B*) B0=1.0(m) λ, υ, μ
–1/3
(kN/m2)700 400 200
(kN/m2)
1
(MN/m2) (MN/m2)
2,500 3,750 500
1,000 1,500 10
600 900 1500
技術資料
18 寒地土木研究所月報 №652 2007年9月
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寸法効果の補正係数の影響を確認するため、以下の条件を想定して、鉛直支持力照査に関する新旧道示の比較計算を行った。
:地震時、土被り無し、浮力有り:V=10,433kN, H=2,463kN, M=25,647kN・m:幅 B=7.5m,奥行きD=8.0m:軟岩,c=45kN/ ㎡,φ =35°
γ=10.2kN/ ㎥(水中)
このときの、H8およびH14道示による設計値と鉛直荷重の関係を に示す。
この設計条件でH8道示による照査を行った場合、許容支持力 Qaおよび最大地盤反力度の両方で余裕があり、想定条件より小さい底版寸法となると考えられる。一方で、H14道示による照査では、寸法効果の補正により許容支持力 QaがH8道示の6割程度となるため、極限支持力式から構造が決定することになった。 また、一般的な設計例においても直接基礎の支持力が4~6割程度減少する事例が確認されている。この減少の程度は、実務上無視できない範囲であるため、寸法効果の厳密評価に対応した、より適正な地盤定数(cおよびφ)を調査・算定し支持力評価を行うことが求められる。
直接基礎の支持力照査において、支持地盤の地盤定数(粘着力 c,せん断抵抗角φ)の評価は重要であるが、その評価手法は特に統一されたものがなく、現地の条件や各機関で独自に設定しているのが実情である。 ここでは、岩盤および砂れき地盤における一般的な地盤定数の調査手法・試験手法・評価手法を示し、設計計算における現状の課題の整理を行う( )。
岩盤の地盤定数を、三軸圧縮試験や一面せん断試験等の室内試験により得る方法は、室内試験としての精度は高いが、割れ目のない局部的な値を求める結果になるため、構造物の支持地盤としての地盤定数の決定に当たっては、現況の状況を判断し、測定値を低減する必要がある。 砂れき地盤は、サンプリングの実施が極めて困難であることや、径が大きいため大型三軸圧縮試験等の特殊な試験が必要になる。そのため、設計条件を得るために特殊な室内試験を実施することは、現状では一般的ではない。
岩盤の地盤定数を、換算 N値を変数とする推定式より求める方法が、NEXCOの設計要領3)等で提案されている。同推定式は、統計データからの平均値であり、岩盤の亀裂や風化の程度により、慎重に適用する必要がある。 砂れきについても、道示で提案されている、標準貫入試験の N値からせん断抵抗角を推定する参考式等による地盤定数を推定する方法がある4)。ただし、砂
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れきは N値が過大に出る傾向にあることから、N値の取り扱いに注意が必要である。
北海道開発局道路設計要領5)に示された軟岩の地盤定数を推定する方法で、過去の試験データから統計的に、一軸圧縮強度・RQD・割れ目の状況により、岩の強度区分を設定したものである。
岩盤については、岩級区分と地盤定数の関係を整理した表がNEXCOの設計要領3)に示されている。 また、砂れきについても、道路土工や道路橋示方書等の要領・指針に、一般的な土質における値が整理されている。 しかし、土質区分や岩級区分と地盤定数の関係は、強い相関性があるとは必ずしもいえないため、参考値として取り扱う必要がある。 また、H8道示までは、洪積世の固結している砂れきは、c = 50 kN/㎡程度の粘着力を有している場合があることが記載されていた6)が、H14道示からは具体的な数値は示されていない7)。そのため、粘着力 cを考慮しない設計例が報告されているが、必ずしも現場条件を反映しているとは言い難い。設計定数の設定に当たっては、各種地盤条件を検討する必要がある。
平板載荷試験は、支持地盤が浅い場合や露出している陸上部でのみ実施できる方法であり、設計時に採用するのは難しい。しかしながら、岩盤の強度は、要素
としてではなく、亀裂や風化を含む地盤全体としての評価を行うことが重要である。この方法は、直接的に地盤の支持力、あるいは c, φを推定する方法であり、もっとも信頼性の高い方法である。 砂れきについても同様に、試験実施には支持地盤が露出している必要があり、設計時に採用するのは困難であるが、信頼性の高い推定法である。
で示したように、各種機関の要領基準等において地盤定数の推定方法がある程度示されている。しかしながら、安全側で評価される傾向にある統計的手法によって設計値が決定されることが多いのが現状と考えられる。 現在一般化されている評価手法に加え、最近の技術開発にともない、原位置で精度良く地盤定数を測定する新しい試験方法が提案されている(例えば、原位置せん断摩擦試験8))。今後は、これらの調査方法を取り入れながら、設計条件を検討することが重要になると考える。
直接基礎設計における設計の実態と現状の課題を把握するため、H14道示により設計された北海道開発局における道路橋の直接基礎構造物を対象に実態調査を行った。調査項目は、支持地盤(調査内容・設計条件・算出根拠)および安定計算(構造決定条件等)についてである。今回報告のあった94構造物に関する結果を以下に示す。
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直接基礎の設計に際しては、滑動、転倒、支持に対する安定性照査を行うよう定められている。実態調査からは、全体の45%が支持力により構造を決定している( )。 半数近くの構造物が、寸法効果補正により従前より底版寸法が大きく設計される傾向にある支持力の照査で構造決定していることがわかった。
直接基礎の内、支持地盤の84%は、岩盤(軟岩、中硬岩、硬岩)である( )。 直接基礎の橋梁下部工が砂質土地盤に設計施工された例はなかった。
岩盤の地盤定数推定法は、北海道開発局要領(一軸圧縮試験・RQD)による方法と、NEXCO要領(換算 N値から推定)による方法で、それぞれ半数程度となり、これ以外の方法はとられていない( )。すなわち、一軸圧縮強度、N値等から間接的に推定する手法が根拠となっている。
砂れきのせん断抵抗角については、全てのケースにおいて道示で提案されている砂のせん断抵抗角を N値から推定する方法を用いている。また粘着力については、全てのケースで考慮されておらず、c = 0として設計されていた。 岩盤と同様に、砂れきについても間接的な推定法により地盤定数が推定されており、特に、設計で粘着力を考慮していないことは、現場条件を反映しているとは言い難い。
今回の調査の範囲では、地盤定数の決定根拠は、砂れき地盤・岩盤地盤ともに、過去の試験データから統計的に設定された、間接的な推定法以外とられていない。また、砂れきの粘着力は設計で考慮されていないなど、安全側な設定がなされている。今後、性能規定型設計への移行にともない高い精度の設計定数が求められることが考えられるが、現状ではこの要求に対応しているとは言い難い。
前述の通り、直接基礎の性能規定型設計に対応した、より信頼性の高い事前調査法方法が求められており、その一例として原位置せん断摩擦試験8)を紹介する。
原位置せん断摩擦試験(以下、SBIFT: Self Boring typed In-situ Friction Test.)はボーリング孔での原位置試験で、地盤の粘着力 c、せん断抵抗角φ、変形係数Eを測定できる試験である。試験機の概要を 、
に示す。試験機構は従来からの孔内水平載荷
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試験と直接型せん断試験を組み合わせたものである。水平加圧応力、せん断応力、せん断変位等の計測記録から解析を行い、各地盤定数を推定する( )。 は測定機材をセットした状況である。機材設置場所を確保するために足場を必要とする以外に、特別な作業スペースは不要である。 適用可能な土質は、中硬岩、玉石を除く多くの地盤条件が対象である。特に、不攪乱試料の採取が困難な砂礫、強風化軟岩、破砕帯、崩積土などで試験可能な点が特徴として挙げられる。
現在の所、北海道開発局の実施事業において SBIFTにより地盤定数を得て設計計算を実施した事例は無い。 試験法の設計定数へ適用性を判断する基礎資料とするため、直接基礎の支持地盤において、SBIFT、大型平板載荷試験(600㎜載荷板による試験)、三軸圧縮試験(CU)により地盤定数の推定を行い、設計条件との比較検討を行った。
岩種 :軟岩(泥岩) せん断抵抗角 :φ=35° (換算 N値より推定) 粘着力 : c =45 kN/㎡(換算 N値より推定)
推定結果の一覧を、 に示す。 SBIFT により計測された地盤定数は、設計条件にほぼ近似し、過大でない範囲でそれを上回るもので
あった。また、平板載荷試験による推定値ともおおむね合致している。 一方、室内試験(三軸圧縮試験)の結果は、他の推定値と異なる傾向を示した。これは、室内試験と原位置の条件(飽和条件、排水条件等)の差異が一因と考えられる。 1事例のみから試験方法の適用性を判断することは避けるが、当該地盤においては、SBIFT の結果は他の推定結果とも比較的良好な相関性を示し、現状で用いられている設計定数の推定方法の一つとして活用可能であることが示された。 今後は、設計に活用できるように、様々な対象地盤においてデータを蓄積することが必要である。
c (kN/m2) ( )NEXCO
N45 35
(600mm
)45 39
2m
4m
6m
58
33
57
49.3
36.1
36.9
36.7
36.6
(CU)
93.7
130.5
167.0
33.9
31.1
31.8
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本報では、性能規定型設計への移行に伴いH14道示より導入された極限支持力の寸法効果について解説・実態調査を行った。また、直接基礎支持地盤の地盤定数推定方法の検討を目的に、原位置せん断摩擦試験(SBIFT)および大型平板載荷試験を実施し検討を行った。その結果、以下の知見を得た。1) 直接基礎の設計計算に関する実態調査から、設計の半数程度が支持力で構造決定しており、寸法効果補正による影響を受けていると考えられる。
2) 地盤定数の決定根拠は、N値等からによる間接的な推定法によることがほとんどである。
3) 設計時には地盤定数の設定に十分な配慮が必要であり、そのためには、設計前に地盤定数の総合的な判断が可能となる十分な地質調査が必要になる。
4) 軟岩(泥岩)地盤において、SBIFT および大型平板載荷試験を実施し検討を行ったところ、当該地盤においては設計条件とも比較的高い相関性を示し、SBIFT が設計定数の推定方法の一つとして適用可能性があることが示された。
1) 日本道路協会:道路橋示方書(I 共通編・IV 下部構造編)・同解説、pp.269-279、2002.3.
2) 地盤工学会:支持力入門 pp. 102-103、1990.113) 日本道路公団:設計要領 第二集 橋梁建設編、pp.4-6-4-12、1998.7
4) 日本道路協会:道路橋示方書(I 共通編・IV 下部構造編)・同解説、pp.564-565、2002.3.
5) 北海道開発局:道路橋設計施工要領 第3集 橋梁、pp.3-B-1-3-B-12、2006.4
6) 日本道路協会:道路橋示方書(I 共通編・IV 下部構造編)・同解説、p.236、1996.12.
7) 日本道路協会:道路橋示方書(I 共通編・IV 下部構造編)・同解説、p.131、2002.3.
8) 前田良刀ほか:原位置せん断摩擦試験(SBIFT)の紹介、基礎工 pp.76-78、2006.9
福島 宏文*
寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ寒地地盤チーム主任研究員
西本 聡**
寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ寒地地盤チーム上席研究員技術士(建設・総合)
冨澤 幸一***
寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ寒地地盤チーム主任研究員技術士(建設・総合)
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