習熟度別少人数指導が学力に与える...

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【要旨】 本研究の目的は、小学校における習熟度別少人数指導が学力向上に対して効果的かどう かを検証することである。算数のテストスコアを算数の習熟度別少人数指導の実施の有無 に回帰することでその効果を検証するが、児童の潜在的な学力を考慮するために、 3 年度 前の同一児童群の学力をコントロール変数として用いる重回帰分析を行う。 鳥取県の小学校別学力調査結果を用いて分析を行った結果、年間授業時間数の 3/4 以上 習熟度別少人数指導を実施することは、算数のテストスコアに対して正の統計的に有意な 効果があることが明らかになった。さらに、児童一人当たりの教員数が多い学校ではその 効果が高くなることがわかった。 これらの結果から、習熟度別少人数指導の学力向上効果はその実施割合や学校資源によ って異なることがわかった。 2014 2 政策研究大学院大学 教育政策プログラム MJE13701 井上 敦 習熟度別少人数指導が学力に与える 効果について ―鳥取県の小学校別データを用いた分析―

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【要旨】

本研究の目的は、小学校における習熟度別少人数指導が学力向上に対して効果的かどう

かを検証することである。算数のテストスコアを算数の習熟度別少人数指導の実施の有無

に回帰することでその効果を検証するが、児童の潜在的な学力を考慮するために、3 年度

前の同一児童群の学力をコントロール変数として用いる重回帰分析を行う。

鳥取県の小学校別学力調査結果を用いて分析を行った結果、年間授業時間数の 3/4 以上

習熟度別少人数指導を実施することは、算数のテストスコアに対して正の統計的に有意な

効果があることが明らかになった。さらに、児童一人当たりの教員数が多い学校ではその

効果が高くなることがわかった。

これらの結果から、習熟度別少人数指導の学力向上効果はその実施割合や学校資源によ

って異なることがわかった。

2014 年 2 月

政策研究大学院大学 教育政策プログラム

MJE13701 井上 敦

習熟度別少人数指導が学力に与える

効果について

―鳥取県の小学校別データを用いた分析―

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目次

1. はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

1.1 問題意識・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

1.2 習熟度別少人数指導とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

1.3 習熟度別少人数指導の導入の経緯・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

1.4 習熟度別少人数指導に着目する意義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

1.5 先行研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

1.5.1 海外の先行研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

1.5.2 国内の先行研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

1.5.3 先行研究の問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

1.6 本研究の特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

1.7 本稿の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7

2. 仮説と推定モデル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

2.1 仮説の設定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

2.2 推定モデル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

3. 実証分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

3.1 データ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

3.2 被説明変数、説明変数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11

3.3 基本統計量・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12

3.4 仮説の検証・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

3.4.1 内生性の問題とその対処法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

3.4.2 推定結果とその解釈・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

3.5 習熟度別少人数指導の学力向上効果を高める要因の特定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17

3.5.1 量・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17

3.5.2 対象・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18

3.5.3 学校属性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19

3.5.4 指導内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

4. 政策提言と今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23

4.1 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23

4.2 政策提言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23

4.3 今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24

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付表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25

補論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30

謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33

参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34

参考資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36

このポリシーペーパーは、筆者が政策研究大学院大学教育政策プログラムの修了課題と

して分析した結果をまとめたものである。本稿における見解は筆者個人のものであり、

鳥取県教育委員会の見解を示すものではない。また、分析や解釈上の誤りがあるとすれ

ば、その責任のすべては筆者にある。

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1. はじめに

1.1 問題意識

日本では、国民の教育に対する関心が高い。特に、1999 年からのいわゆる「学力低下論

争」以降、「学力」に対する関心は高まり1、全国学力調査の順位が公表されるたびにマス

メディア等で大きく報道されるなど、現在まで一貫して高くあり続けている。この教育へ

の関心の高さは、国や地方自治体の教育行政に対し「学力向上」を重要課題として位置づ

けさせてきた。その結果、「少人数学級」、「習熟度別指導」、「学校選択制」、「小中一貫教育」

などの様々な新しい取組が生まれた。

ただ、これらの新しい取組はすでに多くの学校で実践されているにもかかわらず、その

教育成果は十分に検証されているとは言いがたい。取組を導入する契機となった学力低下

論争時は、実証的なエビデンスがまだ不十分であったため、各々の論者が自説を主張する

だけという水掛け論に終わりがちであった2。それから 10 年以上が経過した現在、多くの

自治体が独自の学力調査を継続的に行い、2007 年度以降は文部科学省が全国学力•学習状

況調査を実施するなど、日本の学力データの蓄積は進展しつつある。しかし、個人の学力

データだけでなく学校の学力データも、自ら公表している一部の学校を除き入手が困難な

状態が続いている。そのため、学力データを用いた実証研究の蓄積は未だ不十分であり、

学力向上に向けた取組が一体どれほどの教育成果をあげているのか、十分には把握されて

いない。

日本のように民主主義体制下においては、政府・自治体が、国民・住民に対して自らの

政策決定の妥当性を保障し、政策の説明責任を果たすことは不可欠である。その際、実証

データに基づいた科学的エビテンスを活用することは、議論を深める上で有効な手段とな

る。なぜなら、科学的エビデンスは客観的事実に基づいた冷静な議論を促し、限られた資

源を最も有効に活用する方法を検討する際に不可欠だからである。この点において、教育

成果の検証が不十分な現状は好ましいとは言いがたい。

こうした問題意識のもと、本研究では、習熟度別少人数指導と学力との関係を、学力デ

ータを用いて計量的に分析する。具体的には、「習熟度別少人数指導の実施は学校レベルの

学力向上に効果的か」、「どのような要因が習熟度別少人数指導の学力向上効果を高めるの

か」という疑問に対する回答を示すことを目的とする。

1.2 習熟度別少人数指導とは

習熟度別少人数指導とは、児童生徒の習熟の程度に応じて編成した少人数の学習集団に

対して行う指導のことである。その基本的なアイデアは、学級内の児童生徒の習熟の程度

のばらつきを小さくすることで学習指導の効果を高め、学力向上を図ろうとするものであ

1 「学力低下論争」の経緯については市川(2002)を参照 2 川口俊明 (2011) 「日本の学力研究の現状と課題」『日本労働研究雑誌』No.614、p.7

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る。編成される学習集団は、「習熟の遅いグループ」や「習熟の早いグループ」などがあり、

学習集団の習熟の程度によって「補充的な学習指導」や「発展的な学習指導」など、重視

される指導内容が異なる。また、年間授業に占める習熟度別少人数指導の割合は学校の方

針に依っており、年間を通して実施する学校もあれば、ある単元のみで実施する学校もあ

る。

1.3 習熟度別少人数指導の導入の経緯

習熟度別少人数指導は「確かな学力3」を育むための一手段として、全国の小・中学校で

広く実践されている指導方法である。

1990 年代初頭、「新しい学力観」の導入によって、学校における指導方法・指導形態が

大きく変わり、それまで続いてきた座学中心の「詰め込み教育」からの脱却が目指された4。

しかし、週 5 日制の段階的な導入や教育内容の削減による学力低下が懸念されるようにな

った。そうした不安の声の高まりに応えるかのように文部科学省は 2002 年に『学びのす

すめ』を発表し、「確かな学力」という新しいスローガンを掲げた5。『学びのすすめ』では

「確かな学力」の向上のため、各学校に対して「きめ細かな指導を効果的に行うことがで

きる」ように、「教科ごとの学習状況に応じて、少人数授業や習熟度別指導など個に応じた

指導を大幅に取り入れる」ことを求めた。さらに文部科学省は、2003 年 12 月 26 日付で

学習指導要領の総則を中心にその一部を改正した。そこでは、「個に応じた指導」の一層の

充実という観点から、小学校における個に応じた指導の充実のための指導方法の例示とし

て、「学習内容の習熟の程度に応じた指導」、「子どもの興味・関心等に応じた課題学習」、

「補充的な学習指導や発展的な学習指導」などが付け加えられた6。

1.4 習熟度別少人数指導に着目する意義

本研究において習熟度別少人数指導に着目するのは、同指導が以下の 3 点の特徴を有し

ているからである。

第 1 に、習熟度別少人数指導は全国的に普及している指導方法であり、賛同する保護者

が多いという特徴である。平成 25 年度全国学力・学習状況調査結果7からは、小学校第 6

3 「確かな学力」とは、文部科学省が提唱する、「知識や技能に加え、思考力・判断力・表現力などまで

を含むもので、学ぶ意欲を重視した、これからの子供たちに、知識や技能のほか、学ぶ意欲や、自分

で課題を見付け、自ら学び、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力等を含め

た学力」のことである。

文部科学省 「確かな学力」 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku/faq.htm 4 「新しい学力観」が「詰め込み教育」の脱却を目指したことについては寺脇(2008)を参照 5 文部科学省 (2002) 「確かな学力の向上のための 2002 アピール『学びのすすめ』」

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/actionplan/03071101/008.pdf 6 文部科学省 「小学校学習指導要領(平成 10 年文部省告示第 175 号)新旧対照表」

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/cs/1320060.htm 7 国立教育政策研究所 平成 25 年度「全国学力・学習状況調査 報告書・調査結果資料」

http://www.nier.go.jp/13chousakekkahoukoku/index.html

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学年の児童を対象とした調査において、前年度に習熟の遅いグループに対する習熟度別少

人数指導を実施した学校の割合は 53.6%に上り、実に 1 万 1 千校以上で実施されている。

また、ベネッセ教育研究開発センター8によれば、習熟度に応じた授業の実施に対して「賛

成(「どちらかといえば賛成」を含む)」と回答する保護者の割合は 80.5%に上り、保護者

の支持が多いことがわかる。こうした現状を踏まえると、習熟度別少人数指導は今後さら

に全国的に普及する可能性を有した指導方法といえる。直近の動向として、朝日新聞9は「東

京都教育委員会は、小学校高学年の算数と中学校の数学について、全公立学校で習熟度別

授業を導入する方針を固めた」と報じている。また、読売新聞10は「文部科学省は、一部

の公立中学校で行われている英語の『習熟度別指導』を、全国的に広げて実施できるよう

検討を始める」と報じている。

第 2 に、習熟度別少人数指導は教育予算に対する影響が大きいという特徴である。ベネ

ッセ教育研究開発センター11は、習熟度別指導の実施によって加配教員や非常勤講師が増

加していると指摘している。

第 3 に、日本には習熟度別少人数指導の教育成果を計量的手法によって分析した研究の

蓄積が極めて少ない現状がある。そのため、習熟度別少人数指導に関する知見の妥当性が

保障されていない場合も多く見られる。たとえば、佐藤(2004)12は Oaks(1985)13の研究成

果などから導かれる結論として、習熟度別指導は生徒間の学力格差を拡大して学校全体の

学力を抑制してしまうと指摘している。しかし、海外の知見が日本に当てはまるかどうか

は、日本の学力データに基づく実証分析を通して確かめる必要があり、指摘の妥当性が保

障されていない。

以上のことから、習熟度別少人数指導はその教育成果の検証が強く求められる学力向上

取組の一つと考えられる。

1.5 先行研究

習熟度別少人数指導は「少人数指導」と「習熟度別指導」を組み合わせた指導方法であ

ることから、ここでは「学級規模の縮小と学力」、「習熟度別指導と学力」および「習熟度

別少人数指導と学力」に関する国内外の先行研究を概観する。

8 benesse 教育開発研究センター 「朝日新聞社共同調査・東京大学共同研究『学校教育に対する保護者

の意識調査 2008』」

http://berd.benesse.jp/berd/center/open/report/hogosya_ishiki/2008/hon/index.html 9 朝日新聞 2013.10.25 「全校で習熟度別授業 都教委、算数・数学で 来年度にも」 朝刊 10 読売新聞 2013.2.03 「中学英語 学力別に授業 文科省検討 全国拡大目指す」 朝刊 11 benesse 教育研究開発センター 『第 4 回学習指導基本調査報告書―小学校・中学校を対象に』

http://berd.benesse.jp/berd/center/open/report/shidou_kihon/hon/ 12 佐藤学 (2004) 『習熟度別指導の何が問題か』岩波ブックレット、p.35 13 Oakes, J. (1985) Keeping Tracks:How Schools Structure Inequality, Yale University Press.

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1.5.1 海外の先行研究

学級規模の縮小と学力に関する先行研究は、海外において多数蓄積されている。山下

(2008)14は米国の学級規模研究についてまとめ、学級規模縮小の効果は認められるが、学

級規模の縮小効果によるテスト得点の差については論者によって結果が異なり一致した結

論には至っていないと指摘している。

習熟度別指導と学力に関する先行研究では、習熟度別指導は児童生徒間の学力格差を拡

大させる可能性があることなどが指摘されている。Hoffer(1992)15は LSAY(Longitudinal

Study of American Youth)のデータを用いて、第 7 学年時の習熟度別指導が第 9 学年時の

成績に与える影響を、生徒の社会経済的地位、性別などの個人属性および第 7 学年時の学

力をコントロールした上で分析している。その結果、高学力であった生徒に対する習熟度

別指導はテスト結果に対して正の統計的に有意な効果があった。一方、低学力であった生

徒に対する同指導はテスト結果に対して負の統計的に有意な効果があった。また、

Carbonaro(2005)16はパネル分析から、下位コースに属すると努力が低減し、努力の違い

が学力の違いを生むため、習熟度別指導は学力格差の拡大をもたらすと指摘している。

ただし、海外と日本とでは学級の位置づけや習熟度別指導に対する考え方が異なるため、

一概に海外の知見が日本に当てはまるとはいえない。たとえば、加藤(2004)17は、日本の

習熟度別指導は欧米とはちがって、学習指導要領によって指導内容が細かく決められてい

るなかで実施されるため、高学力層に対して学習指導要領の示す各学年の内容を超えて指

導するという発想はないと指摘している。むしろ日本においては、文部科学省(2008)18が

『小学校学習指導要領解説 総則編』の「個に応じた指導」について「すべての児童に対

応するものであるが,学習の遅れがちな児童には特に配慮する必要がある」と示すように、

習熟の遅い児童に対する指導に力点が置かれているように思われる。そのため、日本にお

ける学級規模縮小の効果や習熟度別指導の効果は、日本の学力データによって検証される

必要がある。

1.5.2 国内の先行研究

日本における学級規模の縮小と学力の関係、習熟度別指導と学力の関係についての実証

研究は近年少しずつ蓄積されつつあるが、一致した見解は得られていない。川口(2011)19は

14 山下絢 (2008) 「米国における学級規模縮小の効果に関する研究動向」『教育学研究』 第 75 巻第 1 号、

p.19 15 Hoffer, T. B. (1992) “Middle school ability grouping and student achievement in science and

mathematics.” Educational Evaluation and Policy Analysis, Vol.14, No.3, pp.217-218 16 Carbonaro, W. (2005) “Tracking, Students' Effort, and Academic Achievement”, Sociology of

Education, Vol.78, No.1, American Sociological Association, p.27 17 加藤幸次 (2004) 『少人数指導習熟度別指導』 ヴィウィル、p.56 18 文部科学省 (2008) 『小学校学習指導要領解説 総則編』

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2009/06/16

/1234931_001.pdf 19 川口俊明 (2011)、前掲書、p.12

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2002 年以降に日本で行われた教育効果に関する分析を概観し、習熟度別指導や少人数指導

の効果について、肯定的な結果を示した研究が多いものの、使用データ、分析方法、対象

地域および学年などによって結論が左右されていると指摘している。また、川口(2011)の

後に発表された研究として、以下のようなものが挙げられるが、一致した見解には至って

いない。

学級規模の縮小の効果が確認された研究として、赤林・中村(2011)20の年度初めと終わ

りに実施された横浜市の 2 種類の学力テストデータを用いた Value added モデルの分析、

および妹尾・篠崎・北條(2013)21の 1 学年 1 学級の単学級サンプルを利用した分析が挙げ

られる。一方、学級規模の縮小の効果が確認されなかった研究として、Hojo and

Oshio(2012)22の 2007 年 TIMSS(Trends in International Mathematics and Science

Study)データを用いた回帰不連続デザインによる分析が挙げられる。

また、習熟度別指導の学力向上効果が確認された研究として、北條(2011)23の 2007 年

TIMSS データを用いた二段階最小二乗法による分析が挙げられる。一方、習熟度別指導

の学力向上効果が確認されなかった研究として、須藤(2013)24の 2007 年 TIMSS データを

用いた傾向スコア補正法による分析が挙げられる。

習熟度別少人数指導と学力の関係に関する先行研究は、筆者が調査した限り、以下の 2

点が挙げられる。第 1 に、上野・三野・小塩・佐野(2007)25は、ある自治体の児童生徒毎

の学力調査ミクロデータを用いて、個人属性や学校属性をコントロールした上で、少人数

指導と習熟度別少人数指導の学力向上効果を最小二乗法により検証している。その結果、

習熟度別少人数指導は少人数指導よりも学力調査結果に対する効果が大きく、その検証結

果はより強固なものとなるケースが多かったことから、習熟度別少人数指導は少人数指導

の中でも特に学力調査結果に対して効果が大きい指導方法である可能性を指摘している。

第 2 に、文部科学省(2010)26は、全国学力・学習状況調査の児童生徒毎の学力データと学

校別データを用いて、児童生徒を学力の高い順に A~D の層に分け、学級数、地域規模、

就学援助率をコントロールした上で、二項ロジスティック回帰分析を行っている。その結

果、習熟度別少人数指導を多くの時間で行うほど、「学力層 A の割合が全国の割合を上回

20 赤林英夫・中村亮介 (2011) 「学級規模縮小が学力に与えた効果の分析―横浜市公開データにもとづく

実証分析―」KEIO/KYOTO GLOBAL COE Discussion Paper Series、2011、DP2011-005 21 妹尾渉・篠崎武久・北條雅一 (2013) 「単学級サンプルを利用した学級規模効果の推定」『国立教育政

策研究所紀要』第 142 集、p172 22 Hojo, M. and Oshio, T. (2012) “What Factors Determine Student Performance in East Asia? New

Evidence from the 2007 Trends in International Mathematics and Science Study”, Asian

Economic Journal, Vol.24, No.4, p.351 23 北條雅一 (2011) 「学力の規定要因―経済学の視点から」『日本労働研究雑誌』、Vol.53、 No.9、 pp.23-24 24 須藤康介 (2013) 『学校の教育効果と階層 中学生の理数系学力の計量分析』東洋館出版社、p.114 25 上野有子・三野孝一郎・小塩隆士・佐野晋平 (2007) 「学力調査結果から見た学校選択制、少人数指導、

習熟度別指導の効果に関する実証分析」経済財政ディスカッション・ペーパー、DP07-01 26 文部科学省 (2010) 「平成 20 年全国学力・学習状況調査追加分析結果、習熟度別少人数指導について

(その 1)」『平成 19・20 年度全国学力・学習状況調査 追加分析報告書』、p.103

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る確率」と「学力層 D の割合が全国の割合を下回る確率」が高くなったことから、習熟度

別少人数指導を年間通して行うことが、低学力層の底上げと、高学力層の伸長に関係して

いると指摘している。

1.5.3 先行研究の問題

習熟度別少人数指導に関するこれらの先行研究には、少なくとも以下の 2 点の問題が挙

げられる。第 1 に、いずれの分析においても児童生徒の過去の学力がコントロールされて

いない点がある。習熟度別少人数指導の実施は、その対象となる児童生徒の過去の学力に

依存している可能性が考えられる。仮に学力の高い児童生徒の学校において習熟度別少人

数指導がより多く実施される傾向があれば、過去の学力をコントロールしていない回帰分

析においては、習熟度別少人数指導の学力に対する効果が過大に評価されることになる。

また逆に、児童生徒の学力が低い学校において習熟度別少人数指導が実施される傾向があ

れば、その効果は過小評価されることになる。そのため、習熟度別少人数指導の学力向上

効果を検証するためには、児童生徒の過去の学力をコントロールすることが不可欠である

と言える。

第 2 の問題点としては、学校属性による学力向上効果の違いが検証されていない点があ

る。習熟度別少人数指導を実施するか否かを検討する学校にとっては、「どのような学校が

習熟度別少人数指導を実施するのに適しているのか」という疑問に対する回答が必要であ

り、すでに実施している学校にとっては、「習熟度別少人数指導実施校において、学力を向

上させる要因は何か」という疑問に対する回答が必要である。この点において、習熟度別

少人数指導に関する知見として、同指導の学力向上効果の検証だけでは十分とは言いがた

く、習熟度別少人数指導の学力向上効果を高める要因の特定は不可欠であると言えよう。

1.6 本研究の特徴

本研究では先行研究の問題を克服するために、第 1 に、同一児童群の過去の学力をコン

トロールした。これにより、習熟度別少人数指導の学力に対する因果的効果を高い精度で

推定することが可能となった。第 2 に、習熟度別少人数指導の学力向上効果の検証だけに

とどまらず、その効果を高める要因の特定まで踏み込んで分析した。これにより、習熟度

別少人数指導の教育成果について、従来よりも詳細な知見を提供することが可能となった。

なお、本研究では実証データを用いた計量的な分析に主眼をおくため、本研究における

「学力」の定義については、苅谷・志水(2004)27が定義した「ペーパーテストで測定した

学業成績」とする。

27 苅谷剛彦・志水宏吉 (2004) 『学力の社会学 : 調査が示す学力の変化と学習の課題』岩波書店、p.3

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1.7 本稿の構成

本稿の構成は次のとおりである。第 2 章では、仮説と推定モデルについて述べる。第 3

章では、使用データの概要を述べた上で、習熟度別少人数指導が学力に与える効果の分析

を行う。第 4 章では、分析結果を踏まえて、学校レベルの学力向上の観点から、習熟度別

少人数指導に関する政策提言を行う。

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2. 仮説と推定モデル

2.1 仮説の設定

第 2 章以降では、習熟度別少人数指導の学力向上効果の分析を行う。分析するに当たり、

以下の仮説を立てた。

先行研究では、同一児童群の過去の学力はコントロールされておらず、推定結果が過大

もしくは過小評価されている可能性がある。そこで本研究においては、同一児童群の過去

の学力をコントロールした上で、習熟度別少人数指導の学力向上効果を推定する。

2.2 推定モデル

仮説を検証するための推定モデルは以下のように表される。

Ast = α + βXst + γZst + εst

Astは学校 s の t 年度のテスト結果である。

X は習熟度別少人数指導を実施した場合に「1」、実施しなかった場合に「0」をとるダミ

ー変数である。習熟度別少人数指導の実施によって学力が向上したのであれば、βの期待

される符合は正である。

Z はコントロール変数である。同一児童群の過去の学力などが含まれている。

εは誤差項である。

【仮説】

算数の習熟度別少人数指導は学力向上に効果的である。

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3. 実証分析

日本において学力向上取組の教育成果を分析する際の難点は、学力データへのアクセス

が制限されていることである。しかし、本研究では、全国の中でも先進的に学校別学力デ

ータを情報公開対象としている鳥取県に対して情報公開請求を行い、その難点を克服した28。

鳥取県では全国学力・学習状況調査が実施される 2007 年度以前は、県独自の学力調査

を実施し、各学校の学力を把握していた。そこで、本研究では被説明変数に全国学力・学

習状況調査の結果を、コントロール変数に県独自の学力調査結果を用いた。

3.1 データ

本研究で用いるデータは以下の(1)~(4)である。

(1) 2008・2009 年度全国学力・学習状況調査、鳥取県の小学校別データ

(2) 2005・2006 年度鳥取県基礎学力調査、小学校別データ

(3) 2008・2009 年度鳥取県人口移動調査データ

(4) 鳥取県学校便覧データ

各データの概要は以下のとおりである。

(1) 2008・2009 年度全国学力・学習状況調査、鳥取県の小学校別データ

全国学力・学習状況調査は文部科学省が実施する調査である29。2008・2009 年度におけ

る本調査は全国の小学校第 6 学年と中学校第 3 学年の児童生徒を対象とした悉皆調査であ

った。

調査事項は教科に関する調査と質問紙調査で構成されている。教科に関する調査は、算

数においては算数 A と算数 B の 2 種類の調査が実施されている。算数 A は「身に付けて

おかなければ後の学年等の学習内容に影響を及ぼす内容や,実生活において不可欠であり

常に活用できるようになっていることが望ましい知識・技能など(主として『知識』に関

する問題)を中心とした出題30」であり、算数 B は「知識・技能等を実生活の様々な場面

に活用する力や,様々な課題解決のための構想を立て実践し評価・改善する力などにかか

わる内容(主として『活用』に関する問題)を中心とした出題31」である。学校質問紙で

は「指導方法に関する取組や学校における人的・物的な教育条件の整備の状況等32」に関

28 鳥取県が学校別学力調査データを開示対象とするに至った経緯は、戸澤幾子(2010)を参照 29 文部科学省(2010)によると、全国学力・学習状況調査は「全国的な義務教育の機会均等とその水準の維

持向上の観点から、各地域における児童生徒の学力•学習状況を把握•分析することにより、教育及

び教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図る」ことなどを目的として行われている。 30 文部科学省 (2010) 「平成 20 年度全国学力・学習状況調査の概要」『平成 19・20 年度全国学力・学

習状況調査 追加分析報告書』、p.230 31 同上、p.230 32 同上、p.230

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して問われている。本データの特徴は、悉皆調査であるためサンプルセレクションバイア

スを考慮する必要がなく、標本の信頼性が高いことである33。

(2) 2005・2006 年度鳥取県基礎学力調査、小学校別データ

鳥取県基礎学力調査は鳥取県独自の学力調査であり34、調査対象は県内すべての公立小・

中学校の小学校第 3 学年、第 6 学年、中学校第 2 学年の全児童生徒である。そのため、本

データは母集団を鳥取県内の小学校としたとき、サンプルセレクションバイアスを考慮す

る必要がなく、標本の信頼性が高い。

本研究では、2008・2009 年度全国学力・学習状況調査の調査対象となった小学校第 6

学年の児童群の過去の学力を把握するため、同児童群が小学校第 3 学年時に実施された

2005・2006 年度基礎学力調査結果を用いた。

(3) 2008・2009 年度鳥取県人口移動調査データ35

鳥取県人口移動調査は、県内各市町村の人口などを月ごとに把握したデータである。本

研究においては、全国学力・学習状況調査が実施された各年度 4 月における各小学校の属

する自治体人口を把握するために用いた。

(4) 鳥取県学校便覧データ

鳥取県の学校便覧は学校別の学年別男女児童数、教員数などの教育統計がまとめられて

おり、鳥取県のホームページ上から入手できる36。本研究においては、各学校における女

子児童割合の把握及び全国学力・学習状況調査データの欠損値の補完のために用いた。

33 本研究で用いる鳥取県小学校別データは情報公開請求を通じて取得したものである。当データは鳥取

県情報公開条例第 9 条第 2 項第 2 号及び第 6 号並びに第 7 号に該当するため、「児童生徒の数が 10

人以下の学級に係るもの」、「児童生徒の数が 1 人または 2 人の学校における『児童』『生徒』に関す

る回答部分」については非開示となった。その結果、2008 年度データにおいては、当時の県内市町

村立小学校(本校)148 校のうち 29 校が、2009 年度データにおいては 139 校のうち 23 校が非開示と

なった。さらに、2009 年度においては 3 校が調査実施日以降に調査を実施したため、当該小学校デ

ータは入手できず、2008 年度と 2009 年度をプールしたサンプル数は 232 となった。また、一部の

データに補完できない欠損値があり、推定時に用いたサンプル数は合計 229 となった。なお、非開示

対象となり一部のデータが欠落したことは、習熟度別少人数指導が学力に与える効果を推定する上に

おいて、重大なサンプルセレクションバイアス問題につながるとは考えない。なぜなら、学校の平均

正答率は児童数の少ない学校ほど児童一人ひとりの学力が学校平均正答率に大きな影響を与えるため、

本研究のように習熟度別少人数指導という学校としての取組が学校レベルの学力に与える効果を分析

する際には、学校内の児童数が極端に少ないサンプルを用いることは不適切と考えるからである。ま

た、実施日以降に調査を実施した学校や欠損値を含んでいるため推定の際に外れたサンプルについて

も、全サンプルに占める割合が非常に小さいため、本研究においては、重大なサンプルセレクション

バイアス問題につながるとは考えない。 34 鳥取県基礎学力調査は「鳥取県の児童生徒の基礎学力の実態を把握し、結果の分析等に基づき各学校

における学習指導の改善と教育施策の充実を図ることを目的」としている。

鳥取県教育委員会・小中学校課 平成 14~18 年度「基礎学力調査(鳥取県が実施した学力調査)」

http://www.pref.tottori.lg.jp/80858.htm 35 鳥取県地域振興部統計課 鳥取県人口移動調査 http://www.pref.tottori.lg.jp/9974.htm

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3.2 被説明変数、説明変数

次に、被説明変数と説明変数の概要を説明する。表 3-1 は、分析に用いるすべての変数

名と各変数の作成方法をまとめたものである。

表 3-1 説明変数、被説明変数の特定

変数

属性変数名 変数の作成方法

算数A 全国学力・学習状況調査算数Aの学校平均正答率を各年度で平均50、標準偏差10 となるように偏差値化した変数

算数B 全国学力・学習状況調査算数Bの学校平均正答率を各年度で平均50、標準偏差10 となるように偏差値化した変数

習熟度別少人数指導3/4以上・

遅いダミー

「算数の授業において、児童の習熟度に応じた指導方針や授業計画を立て、これらに則り、習熟の遅いグループに

対して少人数による指導※を行い、習得できるようにした。

※ここでいう『少人数による指導』とは、1つの学級を2つ以上の学習集団に分けたり、複数の学級から学級とは

別の2つ以上の学習集団に分けた上で、それぞれの学習集団を別の教員が指導するケースが該当します。学級を班

に分けて同じ内容の指導を一人の教員が行うケースは含みません。」という質問に対して、「年間の授業のうち、

おおよそ3/4以上で行った」という回答を「1」、それ以外の回答を「0」とする変数

習熟度別少人数指導1/2以上3/4

未満・遅いダミー

上記の質問に対して、「年間の授業のうち、おおよそ1/2以上、3/4未満で行った」という回答を「1」、それ以外の回答を「0」とす

る変数

習熟度別少人数指導3/4以上・

早いダミー

上記の質問文中の「習熟の遅いグループに対して」を「習熟の早いグループに対して」に置き換えた質問に対し

て、「年間の授業のうち、おおよそ3/4以上で行った」という回答を「1」、それ以外の回答を「0」とする変数

習熟度別少人数指導1/2以上3/4

未満・早いダミー

上記の質問文中の「習熟の遅いグループに対して」を「習熟の早いグループに対して」に置き換えた質問に対して、「年間の授

業のうち、おおよそ1/2以上、3/4未満で行った」という回答を「1」、それ以外の回答を「0」とする変数

女子児童割合 各学校の小学校第6学年の女子児童数を第6学年児童数で割った値

第3学年時スコア 鳥取県基礎学力調査算数の学校平均正答率を各年度で平均50、標準偏差10 となるように偏差値化した変数

就学援助0%ダミー「就学援助を受けている児童の割合は、どれくらいですか」という質問に対して、「在籍していない」という回答

を「1」、それ以外の回答を「0」とする変数

就学援助5%未満ダミー 上記の質問において、「5%未満」という回答を「1」、それ以外の回答を「0」とする変数

就学援助5-10%ダミー 上記の質問において、「5%以上、10%未満」という回答を「1」、それ以外の回答を「0」とする変数

就学援助10-20%ダミー 上記の質問において、「10%以上、20%未満」という回答を「1」、それ以外の回答を「0」とする変数

就学援助20-30%ダミー 上記の質問において、「20%以上、30%未満」という回答を「1」、それ以外の回答を「0」とする変数

就学援助30%以上ダミー上記の質問において、「30%以上、50%未満」または「50%以上」という回答を「1」、それ以外の回答を「0」と

する変数

学校児童数 学校の全児童数

学校児童数の2乗/100 学校児童数の2乗を100で割った値

児童一人当たり教員数 学校の教員数を学校児童数で割った値

授業規律ダミー「児童は授業中の私語が少なく、落ち着いている」という質問に対して、「そのとおりだと思う」という回答を

「1」、それ以外の回答を「0」とする変数

補充的指導ダミー「算数の授業において、前年度までに次のような指導をどの程度行いましたか」という質問の「補充的な学習の指

導」に対して「よく行った」という回答を「1」、それ以外の回答を「0」とする変数

発展的指導ダミー上記の質問の「発展的な学習の指導」に対して「よく行った」という回答を「1」、それ以外の回答を「0」とする

変数

反復練習ダミー上記の質問の「計算問題などの反復練習をする授業」に対して「よく行った」という回答を「1」、それ以外の回答

を「0」とする変数

保護者働きかけダミー「児童に対して、前年度までに次のような取組を行いましたか」という質問の「保護者に対して児童の家庭学習を促すような働

きかけ」に対して「よく行った」という回答を「1」、それ以外の回答を「0」とする変数

都市規模10万人以上ダミー全国学力・学習状況調査実施年4月の鳥取県人口移動調査において、市町村人口10万人以上の自治体に属する場合を

「1」、そうでない場合を「0」とする変数

都市規模1万-10万人ダミー上記の調査において、市町村人口1万人以上10万人未満の自治体に属する場合を「1」、そうでない場合を「0」と

する変数

都市規模1万人未満ダミー 上記の調査において、市町村人口1万人未満の自治体に属する場合を「1」、そうでない場合を「0」とする変数

2009年度ダミー 全国学力・学習状況調査実施年度が2009年度のときに「1」、2008年度のときに「0」をとる変数

2008年度ダミー 全国学力・学習状況調査実施年度が2008年度のときに「1」、2009年度のときに「0」をとる変数

学校

教員

地域

年度

被説明変数

学力

説明変数

児童

習熟

度別少人数指導

家庭

本研究では、被説明変数として全国学力・学習状況調査の学校別算数 A、B 平均正答率

を各年度、各科目で平均 50、標準偏差 10 となるように偏差値化したものを用いた。

習熟度別少人数指導ダミー変数は、年間授業に占める習熟度別少人数指導の割合と対象

グループの分類から、「習熟度別少人数指導 3/4 以上・遅いダミー」、「習熟度別少人数指導

36 鳥取県教育委員会・教育総務課 「学校便覧」 http://www.pref.tottori.lg.jp/toukeisiryou/

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1/2 以上 3/4 未満・遅いダミー」、「習熟度別少人数指導 3/4 以上・早いダミー」および「習

熟度別少人数指導 1/2 以上 3/4 未満・早いダミー」の 4 種類を作成した。

コントロール変数には、鳥取県基礎学力調査の学校別算数平均正答率を各年度で平均50、

標準偏差 10 となるように偏差値化したものが含まれている。そのほかに、児童属性、家

庭属性、学校属性、教員属性、地域属性および年度属性に関する変数を用いた。6 種類も

の変数を用いる理由は、教育成果は様々な要因が関連することから、習熟度別少人数指導

の学力向上効果を推定するためには、それらの要因を十分にコントロールする必要がある

からである。児童属性では、男女差による影響をコントロールするために「女子児童比率」

を用いた37。家庭属性では、家庭の経済力差による影響をコントロールするために「就学

援助受給割合ダミー」を用いた38。学校属性では、学校規模の差による影響をコントロー

ルするために「学校児童数」、「学校児童数の 2 乗/100」を用い39、児童一人当たりの教員

数の差による影響をコントロールするため「児童一人当たり教員数」を用い40、学習規律

の差による影響をコントロールするために「授業規律ダミー」を用いた41。教員属性では、

指導方法の差による影響をコントロールするために「補充的指導ダミー」、「発展的指導ダ

ミー」および「反復練習ダミー」を用い、教員と家庭との連携状況の差による影響をコン

トロールするために「保護者働きかけダミー」を用いた。地域属性では、都市の規模の差

による影響をコントロールするために「都市規模ダミー変数」を用いた42。年度属性では、

年度間で学力に大きな影響を与える県単位の取組や出来事が生じていた場合に、その影響

をコントロールするために「年度ダミー変数」を用いた。

3.3 基本統計量

表 3-2、3-3 は本研究で用いるデータの基本統計量を示したものである。基本統計量は以

下の(1)~(4)に分けて報告した。

(1) 全サンプル

(2) 「第 3 学年時スコア」50 以上と 50 未満の学校に分けたサンプル

(3) 「習熟度別少人数指導 3/4 以上・遅いダミー」が 0 と 1 の学校に分けたサンプル

(4) 「習熟度別少人数指導 3/4 以上・早いダミー」が 0 と 1 の学校に分けたサンプル

37 北條(2013)や瀬沼(2007)は算数・数学の学力や学習態度に男女差があることを指摘している。 38 全国学力・学習状況調査の児童の個票レベルに基づくデータとその保護者、教員に関するデータを紐

付けして分析した耳塚(2009)は、世帯年収の高い家庭ほど子どもは高学力であることを指摘している。 39 舞田(2008)は学校規模が小さい学校のほうが学力に正の影響を与えると指摘している。 40 須藤(2013)、安藤(2008)は、教員一人当たりの児童が少ないほうが学力向上に効果的であることを指摘

している。 41 志水・藤井(2009)は、子どもの学力を支えている学校は学習規律の徹底がなされていると指摘している。 42 妹尾・篠崎・北條(2013)は非僻地よりも僻地のほう学級規模拡大による負の効果が大きいことを示し、

地域の児童の属性が異なっている可能性を示唆している。耳塚(2007)は児童の学力の規定要因にかな

りの地域差があることを論じている。

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なお、(2)~(4)については、それぞれのグループの平均値に統計的な差があるかどうかを

検証した t 検定結果についても報告した。

表 3-2 基本統計量Ⅰ

(1)

全サンプル

(a) (b) (c)

サンプル数 229

平均値(標準偏差)

50 52.514 47.182 -5.332 ***(10) (9.986) (9.277) (1.278)

50 52.684 46.992 -5.691 ***(10) (10.035) (9.102) (1.271)

0.388 0.371 0.407 0.035 (0.488) (0.485) (0.493) (0.064)

0.069 0.058 0.083 0.025 (0.255) (0.021) (0.027) (0.034)

0.218 0.239 0.194 -0.045 (0.414) (0.428) (0.397) (0.054)

0.039 0.033 0.046 0.013 (0.195) (0.016) (0.020) (0.025)

0.483 0.480 0.487 0.007 (0.089) (0.097) (0.081) (0.011)

50 57.209 41.922 -15.286 ***(10) (6.096) (6.839) (0.854)

0.074 0.090 0.055 -0.035 (0.262) (0.288) (0.230) (0.034)

0.170 0.198 0.138 -0.059 (0.376) (0.400) (0.347) (0.049)

0.262 0.256 0.268 0.012 (0.440) (0.438) (0.445) (0.058)

0.358 0.330 0.388 0.058 (0.480) (0.472) (0.489) (0.063)

0.100 0.090 0.111 0.020 (0.301) (0.288) (0.315) (0.039)

0.034 0.033 0.037 0.003 (0.184) (0.179) (0.189) (0.024)

267 251 284 33.536 **(151) (145) (157) (20.012)

942 841 1056 215.757 *(1028) (993) (1059) (135.706)

0.079 0.080 0.077 -0.003 (0.031) (0.031) (0.031) (0.004)

0.288 0.330 0.240 -0.089 *(0.453) (0.472) (0.429) (0.059)

0.323 0.355 0.287 -0.068 (0.468) (0.480) (0.454) (0.062)

0.069 0.099 0.037 -0.062 **(0.255) (0.300) (0.189) (0.033)

0.519 0.528 0.509 -0.019 (0.500) (0.501) (0.502) (0.066)

0.506 0.512 0.500 -0.012 (0.501) (0.501) (0.502) (0.066)

0.537 0.512 0.564 0.052 (0.499) (0.501) (0.498) (0.066)

0.388 0.413 0.361 -0.052 (0.488) (0.494) (0.482) (0.064)

0.074 0.074 0.074 -0.000 (0.262) (0.263) (0.263) (0.034)

0.484 0.462 0.509 0.046 (0.500) (0.500) (0.502) (0.066)

0.515 0.537 0.490 -0.046 (0.500) (0.500) (0.502) (0.066)

注2)* は10%、**は5%、***は1%の有意水準で統計的に有意であることを示す。

平均値(標準偏差)

229

平均値差 (標準誤差)

算数A

就学援助10-20%ダミー

就学援助20-30%ダミー

算数B

(2)

(a)第3学年時スコア50以上

(b)第3学年時スコア50未満

(c)t検定:(b)-(a)の差

121

女子児童割合

平均値(標準偏差)

108

就学援助30%以上ダミー

習熟度別少人数指導3/4以上・遅いダミー

習熟度別少人数指導1/2以上3/4未満・遅いダミー

習熟度別少人数指導3/4以上・早いダミー

習熟度別少人数指導1/2以上3/4未満・早いダミー

学校児童数

第3学年時スコア

就学援助0%ダミー

就学援助5%未満ダミー

就学援助5-10%ダミー

学校児童数の2乗/100

児童一人当たり教員数

授業規律ダミー

補充的指導ダミー

発展的指導ダミー

2008年度ダミー

注1)括弧内は標準偏差または標準誤差

反復練習ダミー

保護者働きかけダミー

都市規模10万人以上ダミー

都市規模1万-10万人ダミー

都市規模1万人未満ダミー

2009年度ダミー

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表 3-3 基本統計量Ⅱ

(d) (e) (f) (g) (h) (i)

サンプル数 140 89 229 179 50 229

平均値(標準偏差)

平均値(標準偏差)

平均値差 (標準誤差)

平均値(標準偏差)

平均値(標準偏差)

平均値差 (標準誤差)

49.258 51.167 1.908 * 49.613 51.383 1.769

(10.265) (9.507) (1.352) (9.759) (10.807) (1.599)

49.145 51.344 2.199 * 49.319 52.435 3.116 **

(10.688) (8.696) (1.350) (10.176) (9.019) (1.590)

0.481 0.486 0.004 0.481 0.490 0.009

(0.096) (0.079) (0.012) (0.094) (0.072) (0.014)

50.060 49.905 -0.154 49.856 50.515 0.659

(9.700) (10.509) (1.358) (9.925) (10.349) (1.603)

0.092 0.044 -0.047 * 0.083 0.040 -0.043

(0.291) (0.208) (0.035) (0.277) (0.197) (0.042)

0.178 0.157 -0.021 0.184 0.120 -0.064

(0.384) (0.366) (0.051) (0.388) (0.328) (0.060)

0.221 0.325 0.104 ** 0.262 0.260 -0.002

(0.416) (0.471) (0.059) (0.441) (0.443) (0.071)

0.357 0.359 0.002 0.329 0.460 0.130 **

(0.480) (0.482) (0.065) (0.471) (0.503) (0.077)

0.107 0.089 -0.017 0.100 0.100 -0.000

(0.310) (0.287) (0.040) (0.301) (0.303) (0.048)

0.042 0.022 -0.020 0.039 0.020 -0.019

(0.203) (0.149) (0.024) (0.194) (0.141) (0.029)

244 302 57.509 *** 250 327 77.063 ***

(147) (151) (20.264) (144) (162) (23.787)

816 1141 325.290 *** 834 1329 494.234 ***

(907) (1172) (138.071) (878) (1387) (161.596)

0.083 0.072 -0.011 *** 0.081 0.069 -0.012 ***

(0.033) (0.028) (0.004) (0.033) (0.022) (0.005)

0.3 0.269 -0.030 0.273 0.340 0.066

(0.459) (0.446) (0.061) (0.447) (0.478) (0.073)

0.264 0.415 0.151 *** 0.268 0.520 0.251 ***

(0.442) (0.495) (0.062) (0.444) (0.504) (0.073)

0.057 0.089 0.032 0.044 0.160 0.115 ***

(0.232) (0.287) (0.034) (0.207) (0.370) (0.040)

0.478 0.584 0.105 * 0.519 0.520 0.000

(0.501) (0.495) (0.067) (0.501) (0.504) (0.080)

0.542 0.449 -0.093 * 0.525 0.440 -0.085

(0.499) (0.500) (0.067) (0.500) (0.501) (0.080)

0.514 0.573 0.058 0.525 0.580 0.054

(0.501) (0.497) (0.067) (0.500) (0.498) (0.080)

0.392 0.382 -0.010 0.396 0.360 -0.036

(0.490) (0.488) (0.066) (0.490) (0.484) (0.078)

0.092 0.044 -0.047 * 0.078 0.060 -0.018

(0.291) (0.208) (0.035) (0.269) (0.239) (0.042)

0.485 0.483 -0.002 0.491 0.460 -0.031

(0.501) (0.502) (0.068) (0.501) (0.503) (0.080)

0.514 0.516 0.002 0.508 0.540 0.031

(0.501) (0.502) (0.068) (0.501) (0.503) (0.080)2008年度ダミー

補充的指導ダミー

保護者働きかけダミー

発展的指導ダミー

反復練習ダミー

都市規模10万人以上ダミー

都市規模1万-10万人ダミー

就学援助30%以上ダミー

授業規律ダミー

学校児童数

学校児童数の2乗/100

児童一人当たり教員数

2009年度ダミー

都市規模1万人未満ダミー

算数A

女子児童割合

算数B

第3学年時スコア

就学援助0%ダミー

(3)

(d)習熟度別少人数指導3/4以上・遅いダミーが0

(e)習熟度別少人数指導3/4以上・遅いダミーが1

(f)t検定:(e)-(d)の差

(g)習熟度別少人数指導3/4以上・早いダミーが0

(h)習熟度別少人数指導3/4以上・早いダミーが1

(i)t検定:(h)-(g)の差

注1)括弧内は標準偏差または標準誤差

注2)* は10%、**は5%、***は1%の有意水準で統計的に有意であることを示す。

(4)

就学援助5%未満ダミー

就学援助5-10%ダミー

就学援助10-20%ダミー

就学援助20-30%ダミー

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表 3-2 の(1)より、習熟の遅いグループに対する習熟度別少人数指導を年間授業の 3/4 以

上実施した学校は全体の 39%、1/2 以上 3/4 未満実施した学校は 6.9%である。同様に、

習熟の早いグループに対する同指導を年間授業の 3/4以上実施した学校は全体の 22%、1/2

以上 3/4 未満実施した学校は全体の 3.9%である。なお、図 3-1 は 2008 年度から 2013 年

度(2011 年度は除く)全国学力・学習状況調査の都道府県別結果43から、習熟の遅いグルー

プに対して年間授業の 3/4 以上習熟度別少人数指導を実施した学校の割合をグラフ化した

ものである。図 3-2 は、図 3-1 の「習熟の遅いグループ」を「習熟の早いグループ」に置

き換えたものである。図 3-1、3-2 からは、鳥取県は全国平均よりも習熟度別少人数指導を

積極的に実施したことが確認できる。

図 3-1 前年度の算数の授業において、年間授業の 3/4 以上、習熟の遅いグループに対する

習熟度別少人数指導を実施した学校の割合

出典:2008~2013 年度(2011 年度除く)全国学力・学習状況調査、都道府県別結果より筆者作成

図 3-2 前年度の算数の授業において、年間授業の 3/4 以上、習熟の早いグループに対する

習熟度別少人数指導を実施した学校の割合

出典:2008~2013 年度(2011 年度除く)全国学力・学習状況調査、都道府県別結果より筆者作成

43 国立教育政策研究所 平成 20~25 年度「全国学力・学習状況調査」

http://www.nier.go.jp/kaihatsu/zenkokugakuryoku.html

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16

3.4 仮説の検証

3.4.1 内生性の問題とその対処法

習熟度別少人数指導が学力に与える因果的効果を実証分析する際の技術的問題として、

同指導の実施の有無に影響を与えるが観測されない変数が存在する場合に、同指導の推定

結果が過大または過小に評価される可能性がある。そのような変数の例として、「習熟度別

少人数指導実施前の学校の学力水準」が考えられる。「1.5.3 先行研究の問題」でも述

べたように、仮に学力の高い児童の学校において習熟度別少人数指導がより多く実施され

る傾向があれば、過去の学力をコントロールしていない回帰分析においては、習熟度別少

人数指導の学力に対する効果が過大に評価されることになる。また逆に、児童の学力が低

い学校において習熟度別少人数指導が実施される傾向があれば、その効果は過小評価され

ることになる。

以上のような内生性の問題の対処法の 1 つとして、「観測されない変数の代理変数」を

コントロール変数として用いる方法がある。本研究では、「習熟度別少人数指導実施前の学

校の学力水準」は観測できないが、その代理変数として「第 3 学年時スコア」を用いるこ

とで、内生性の問題に対処した。

3.4.2 推定結果とその解釈

分析は以下の(1)~(4)の被説明変数と習熟度別少人数指導ダミー変数を用いたパターンで

行った。表 3-4 は推定結果の一部を示したものである44。

(1) 算数 A、習熟度別少人数指導 3/4 以上・遅いダミー

(2) 算数 B、習熟度別少人数指導 3/4 以上・遅いダミー

(3) 算数 A、習熟度別少人数指導 3/4 以上・早いダミー

(4) 算数 B、習熟度別少人数指導 3/4 以上・早いダミー

表 3-4 仮説の検証(一部抜粋)

2.178 * 2.456 *(1.270) (1.320)

1.797 2.828 *(1.529) (1.585)

サンプル数 229 229 229 229

注1)括弧内は標準誤差

注2)* は10%、**は5%、***は1%の有意水準で統計的に有意であることを示す。

算数B

(1) (2) (3) (4)

習熟度別少人数指導3/4以上・早いダミー

習熟度別少人数指導3/4以上・遅いダミー

算数A 算数B 算数A

表 3-4 の分析パターン(1)、(2)より、習熟の遅いグループに対して年間授業の 3/4 以上習

熟度別少人数指導を実施することは、算数 A・B に対して正の統計的に有意な効果がある。

44 詳細は付表 3-4 参照

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また、分析パターン(4)より、習熟の早いグループに対して年間授業の 3/4 以上習熟度別少

人数指導の実施することは、算数 B に対して正の統計的に有意な効果がある。

以上の結果から、習熟の遅いグループに対する習熟度別少人数指導は算数 A、B の学力

向上に効果的であり、習熟の早いグループに対する習熟度別少人数指導は算数 B の学力向

上に効果的である。

3.5 習熟度別少人数指導の学力向上効果を高める要因の特定

仮説の検証を通して習熟度別少人数指導の学力向上効果は確認されたが、「1.2 習熟

度別少人数指導とは」で述べたように、習熟度別少人数指導にはさまざまな形態が存在す

る。そこで以下では、どのような条件が習熟度別少人数指導の学力向上効果を高めるのか

を分析する。

3.5.1 量

はじめに「量」に着目する。具体的には、習熟度別少人数指導の年間授業に占める割合

のちがいによる、同指導の学力向上効果を検証する。検証方法は、仮説の検証で用いた推

定モデルの X に、習熟度別少人数指導 3/4 以上ダミーと習熟度別少人数指導 1/2 以上 3/4

未満ダミーを入れて、それぞれの係数推定値を比較する。分析は以下の(1)~(4)のように、

被説明変数、習熟度別少人数指導 3/4 以上ダミーおよび習熟度別少人数指導 1/2 以上 3/4

未満ダミーを用いたパターンで行う。表 3-5 は分析結果の一部を示したものである45 。

(1) 算数 A、習熟度別少人数指導 3/4 以上・遅いダミー、習熟度別少人数指導 1/2 以上 3/4

未満・遅いダミー

(2) 算数 B、習熟度別少人数指導 3/4 以上・遅いダミー、習熟度別少人数指導 1/2 以上 3/4

未満・遅いダミー

(3) 算数 A、習熟度別少人数指導 3/4 以上・早いダミー、習熟度別少人数指導 1/2 以上 3/4

未満・早いダミー

(4) 算数 B、習熟度別少人数指導 3/4 以上・早いダミー、習熟度別少人数指導 1/2 以上 3/4

未満・早いダミー

45 詳細は付表 3-5 参照

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表 3-5 「量」のちがいによる習熟度別少人数指導の学力向上効果の検証(一部抜粋)

2.196 * 2.466 *

(1.313) (1.365)

0.139 0.071

(2.458) (2.555)

1.551 2.667 *

(1.535) (1.596)

-4.480 -2.926

(3.176) (3.301)

サンプル数 229 229 229 229

注1)括弧内は標準誤差

注2)* は10%、**は5%、***は1%の有意水準で統計的に有意であることを示す。

習熟度別少人数指導1/2以上3/4未満・遅いダミー

習熟度別少人数指導3/4以上・早いダミー

習熟度別少人数指導1/2以上3/4未満・早いダミー

算数A 算数B 算数A 算数B

習熟度別少人数指導3/4以上・遅いダミー

分析パターン (1) (2) (3) (4)

表 3-5 の分析パターン(1)、(2)、(4)より、習熟度別少人数指導 3/4 以上ダミーの係数推定

値は、いずれも習熟度別少人数指導 1/2 以上 3/4 未満ダミーのそれよりも大きい。

以上の結果より、習熟度別少人数指導は、年間授業の 1/2 以上 3/4 未満実施するよりも、

3/4 以上実施した方が、学力向上効果が高くなる傾向がある。

3.5.2 対象

次に「対象」に着目する。具体的には、習熟度別少人数指導の対象となる学習集団には

「習熟の遅いグループ」や「習熟の早いグループ」があるが、習熟度別少人数指導をどの

学習集団に対して実施することが効果的かを学校レベルの学力水準別に検証する。検証方

法は、「第 3 学年時スコア」が 50 以上と 50 未満のグループに分けた上で、仮説の検証で

用いた推定モデルを推定する。分析は以下の(1)~(8)のグループ、被説明変数および習熟度

別少人数指導 3/4 以上ダミーを用いたパターンで行う。表 3-6 は分析結果の一部を示した

ものである。

(1) 第 3 学年時スコア 50 以上、算数 A、習熟度別少人数指導 3/4 以上・遅いダミー

(2) 第 3 学年時スコア 50 以上、算数 B、習熟度別少人数指導 3/4 以上・遅いダミー

(3) 第 3 学年時スコア 50 以上、算数 A、習熟度別少人数指導 3/4 以上・早いダミー

(4) 第 3 学年時スコア 50 以上、算数 B、習熟度別少人数指導 3/4 以上・早いダミー

(5) 第 3 学年時スコア 50 未満、算数 A、習熟度別少人数指導 3/4 以上・遅いダミー

(6) 第 3 学年時スコア 50 未満、算数 B、習熟度別少人数指導 3/4 以上・遅いダミー

(7) 第 3 学年時スコア 50 未満、算数 A、習熟度別少人数指導 3/4 以上・早いダミー

(8) 第 3 学年時スコア 50 未満、算数 B、習熟度別少人数指導 3/4 以上・早いダミー

なお、表 3-2 より、第 3 学年時スコアが 50 以上のサンプル数は 121 である。そのなか

で、習熟の遅いグループに対して年間授業の 3/4 以上習熟度別少人数指導を実施した学校

は 37%、習熟の早いグループに対して同指導を実施した学校は 24%である。一方、第 3

学年時スコアが 50 未満のサンプル数は 108 である。そのなかで、習熟の遅いグループに

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対して年間授業の 3/4 以上習熟度別少人数指導を実施した学校は 41%、習熟の早いグルー

プに対して同指導を実施した学校は 19%である。

表 3-6 は分析結果の一部を示したものである46 。

表 3-6 学校の学力水準別、習熟度別少人数指導の学力向上効果の検証(一部抜粋)

分析パターン

算数A 算数B 算数A 算数B 算数A 算数B 算数A 算数B

-0.299 1.534 4.435 ** 2.767

(1.963) (2.024) (1.727) (1.822)

2.729 3.968 * 0.034 0.453

(2.310) (2.373) (2.363) (2.435)

サンプル数 121 121 121 121 108 108 108 108

注1)括弧内は標準誤差

注2)* は10%、**は5%、***は1%の有意水準で統計的に有意であることを示す。

習熟度別少人数指導3/4以上・

遅いダミー

習熟度別少人数指導3/4以上・

早いダミー

第3学年時スコア:50以上 第3学年時スコア:50未満

(1) (8)(7)(6)(5)(4)(3)(2)

表 3-6 の分析パターン(4)より、第 3 学年時スコアが 50 以上の学校では、習熟の早いグ

ループに対して年間授業の 3/4 以上習熟度別少人数指導を実施することは、算数 B に対し

て正の統計的に有意な効果がある。また、分析パターン(5)より、第 3 学年時スコアが 50

未満の学校では、習熟の遅いグループに対して年間授業の 3/4 以上習熟度別少人数指導を

実施することは、算数 A に対して正の統計的に有意な効果がある。

以上の結果より、学力水準が高い学校で、習熟の早いグループに対して年間授業の 3/4

以上習熟度別少人数指導を実施することは算数 B の学力向上に効果的であり、学力水準が

低い学校で習熟の遅いグループに対して年間授業の 3/4 以上同指導を実施することは、算

数 A の学力向上に対して効果的である。

3.5.3 学校属性

ここでは「学校属性」に着目する。どのような学校属性を有した学校で習熟度別少人数

指導を実施すると、その学力向上効果が高まるのかを検証する。検証方法は仮説の検証の

際に用いた推定モデルの Z に各説明変数と習熟度別少人数指導ダミー変数の交差項を追加

した上で推定する。分析は以下の(1)~(4)の被説明変数、習熟度別少人数指導 3/4 以上ダミ

ーを用いたパターンで行う。

(1) 算数 A、習熟度別少人数指導 3/4 以上・遅いダミー

(2) 算数 B、習熟度別少人数指導 3/4 以上・遅いダミー

(3) 算数 A、習熟度別少人数指導 3/4 以上・早いダミー

(4) 算数 B、習熟度別少人数指導 3/4 以上・早いダミー

46 詳細は付表 3-6 参照

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表 3-7 は分析結果の一部を示したものである47。なお、表 3-7 の「主効果」の列には仮

説の検証の際に用いた各説明変数の係数推定値と標準誤差を、「習熟度別少人数指導 3/4 以

上ダミーとの交差項」はここでの検証のために追加した各説明変数と習熟度別少人数指導

3/4 以上ダミー変数の交差項の係数推定値と標準誤差を報告した。

表 3-7 学校属性による習熟度別少人数指導の学力向上効果の検証(一部抜粋) 分析パターン

-0.013 0.080 0.011 0.052 -0.002 0.112 0.015 0.031

(0.035) (0.051) (0.036) (0.054) (0.031) (0.070) (0.033) (0.074)

0.000 -0.009 -0.000 -0.006 -0.000 -0.013 * -0.000 -0.005

(0.005) (0.006) (0.005) (0.007) (0.004) (0.008) (0.005) (0.008)

7.562 167.255 * 65.502 62.080 33.299 254.202 62.498 26.949

(50.480) (89.001) (52.634) (92.798) (43.999) (161.851) (46.185) (169.892)

サンプル数 229 229 229 229

注1)括弧内は標準誤差

注2)* は10%、**は5%、***は1%の有意水準で統計的に有意であることを示す。

(1) (2) (3) (4)

算数A 算数B 算数A 算数B

児童一人当たり教員数

主効果

習熟度別少人数指導3/4以上・

遅いダミーとの交差項

主効果

習熟度別少人数指導3/4以上・

遅いダミーとの交差項

主効果

習熟度別少人数指導3/4以上・

早いダミーとの交差項

学校児童数

学校児童数の2乗/100

主効果

習熟度別少人数指導3/4以上・

早いダミーとの交差項

表 3-7 の分析パターン(1)より、「児童一人当たり教員数」と「習熟度別少人数指導 3/4

以上・遅いダミー」の交差項は算数 A に対して正の統計的に有意な効果がある。また、分

析パターン(3)より、「学校児童数の 2 乗/100」と「習熟度別少人数指導 3/4 以上・早いダ

ミー」の交差項は算数 A に対して負の統計的に有意な効果がある。

以上の結果より、「児童一人当たり教員数」が多い学校で、習熟の遅いグループに対して

年間授業の 3/4 以上習熟度別少人数指導を実施することは、算数 A の学力向上に効果的で

ある。また、「学校児童数」が多い学校で、習熟の早いグループに対して年間授業の 3/4 以

上習熟度別少人数指導を実施することは、算数 A の学力向上に負の効果があり、同指導を

実施するのに適した学校児童数が存在することが示唆される。なお、表 3-7 の分析パター

ン(3)の結果から算出される最適な学校児童数は 431 名、1 学年平均に換算すると 72 名程

度となった。

3.5.4 指導内容

最後に「指導内容」に着目する。具体的には、習熟度別少人数指導実施校においてどの

ような指導を実施することが学校レベルの学力を高めるのかを検証する。検証方法は、年

間授業の 3/4 以上習熟度別少人数指導を実施した学校で、「補充的な学習指導」、「発展的な

学習指導」および「反復練習」を「よく行った」ことが、テスト結果に対して正の統計的

に有意な効果があるかを確認する。つまり、仮説の検証で用いた推定モデルの X が「1」

47 詳細は付表 3-7 参照

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21

のときのこれらの指導方法のダミー変数の γを推定する。なお、推定結果の解釈の妥当性

を高めるために、X が「0」のときの γも推定する。分析は以下の(1)~(8)の被説明変数、

習熟度別少人数指導 3/4 以上ダミーの値を用いたパターンで行う。

(1) 算数 A、習熟度別少人数指導 3/4 以上・遅いダミーが「0」

(2) 算数 B、習熟度別少人数指導 3/4 以上・遅いダミーが「0」

(3) 算数 A、習熟度別少人数指導 3/4 以上・早いダミーが「0」

(4) 算数 B、習熟度別少人数指導 3/4 以上・早いダミーが「0」

(5) 算数 A、習熟度別少人数指導 3/4 以上・遅いダミーが「1」

(6) 算数 B、習熟度別少人数指導 3/4 以上・遅いダミーが「1」

(7) 算数 A、習熟度別少人数指導 3/4 以上・早いダミーが「1」

(8) 算数 B、習熟度別少人数指導 3/4 以上・早いダミーが「1」

なお、表 3-3(3)の t 検定結果より、習熟の遅いグループに対して年間授業の 3/4 以上習

熟度別少人数指導を実施した学校は、実施しなかった学校よりも、「補充的指導ダミー」、

「反復練習ダミー」が大きく、統計的に有意である。同様に、表 3-3(4)の t 検定結果より、

習熟の早いグループに対して年間授業の 3/4 以上習熟度別少人数指導を実施した学校は、

実施しなかった学校よりも、「補充的指導ダミー」、「発展的指導ダミー」が大きく、統計的

に有意である。これらの結果の要因として、学級内の児童の習熟のばらつきが小さくなる

ことで、これらの指導を実施しやすい環境ができたことが考えられる。

表 3-8 は分析結果の一部を示したものである48。

表 3-8 習熟度別少人数指導実施校における学力向上に効果的な指導方法の特定(一部抜

粋)

分析パターン

-0.117 -0.962 -0.892 -1.232 -1.282 -0.449 1.489 0.334

(2.151) (2.299) (1.737) (1.828) (2.129) (2.080) (3.381) (3.497)

3.222 1.506 3.478 1.183 11.120 **

*

3.715 12.414 ** 4.578

(3.922) (4.192) (3.655) (3.846) (3.739) (3.651) (4.657) (4.817)

1.558 -0.674 1.154 -0.696 0.027 -2.010 -2.657 -3.175

(1.895) (2.025) (1.581) (1.664) (2.165) (2.115) (3.928) (4.063)

サンプル数 140 140 179 179 89 89 50 50

注1)括弧内は標準誤差

注2)* は10%、**は5%、***は1%の有意水準で統計的に有意であることを示す。

(1) (2) (3) (4)

算数B

(7) (8)

算数A 算数A

習熟度別少人数指導3/4以上・

遅いダミーが「0」のとき

習熟度別少人数指導3/4以上・

早いダミーが「0」のとき

習熟度別少人数指導3/4以上・

遅いダミーが「1」のとき

算数B 算数A 算数B 算数A

習熟度別少人数指導3/4以上・

早いダミーが「1」のとき

算数B

(5) (6)

補充的指導ダミー

発展的指導ダミー

反復練習ダミー

表 3-8 の分析パターン(5)より、習熟の遅いグループに対して年間授業の 3/4 以上習熟度

別少人数指導を実施した学校において、発展的な内容の学習指導を「よく行った」ことは、

48 詳細は付表 3-8 である。

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22

算数 A に対して正の統計的に有意な効果がある。同様の結果は、分析パターン(7)より、習

熟の早いグループに対して年間授業の 3/4 以上習熟度別少人数指導を実施した学校におい

ても確認できる。なお、補充的指導ダミー、反復練習ダミーの統計的有意性は確認できな

い。

以上の結果より、年間授業の 3/4 以上習熟度別少人数指導を実施する学校において、「発

展的な学習の指導」を「よく行う」ことは算数 A の学力向上に効果的であるが、「補助的

な学習指導」および「反復練習」を「よく行う」ことは、学力向上に効果的であるとはい

えない。

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23

4. 政策提言と今後の課題

4.1 結論

冒頭で示したとおり、本研究の目的は、「習熟度別少人数指導の実施は学校レベルの学力

向上に効果的か」、「どのような要因が習熟度別少人数指導の学力向上効果を高めるのか」

という疑問に対する回答を示すことであった。ここでは、分析を通して明らかになったこ

とをまとめ、上記の疑問に対する回答を示す。

はじめに算数の習熟度別少人数指導が学力向上に効果的であるかを分析した。その結果、

習熟の遅いグループに対して年間授業の 3/4 以上習熟度別少人数指導を実施することは算

数 A、B の学力向上に効果的であり、習熟の早いグループに対して年間授業の 3/4 以上同

指導を実施することは算数 B の学力向上に効果的であることがわかった。

次に、習熟度別少人数指導の学力向上効果を高める要因を検証した。「量」の観点からは、

習熟度別少人数指導を年間授業の 3/4 以上実施したほうが、1/2 以上 3/4 未満実施するより

も学力向上効果が高い傾向にあることがわかった。「対象」の観点からは、学力水準の低い

学校では習熟の遅いグループに対する習熟度別少人数指導が、学力水準の高い学校では習

熟の早いグループに対するそれが各々学力向上に効果的であることがわかった。「学校属性」

の観点からは、児童一人当たり教員数が多い学校で、習熟の遅いグループに対して年間授

業の 3/4 以上習熟度別少人数指導を実施することは、算数 A の学力向上に効果的であるこ

とがわかった。また、学校児童数が多い学校で、習熟の早いグループに対して年間授業の

3/4 以上習熟度別少人数指導を実施することは、算数 A の学力向上に負の効果があり、同

指導を実施するのに適した学校児童数が存在することが示唆された。「指導内容」の観点か

らは、年間授業の 3/4 以上習熟度別少人数指導を実施する学校において、発展的な学習指

導をよく行うことは、算数 A の学力向上に効果的であることがわかった。

4.2 政策提言

本研究を通して得られた知見を踏まえて、学校レベルの学力向上の観点から学校に対し

て以下の 3 点の政策提言を行う。第 1 に、習熟度別少人数指導の割合が年間授業の 3/4 以

上になるように学級運営体制を整備することが望ましい。特に、児童一人当たりの教員数

が多い場合は、習熟の遅いグループに対する習熟度別少人数指導を実施するとよい。第 2

に、習熟度別少人数指導を実施する際には、自校の学力水準を把握することが肝要である。

相対的に自校の学力水準が低ければ、習熟の遅いグループに対する習熟度別少人数指導を

実施することが望ましい。反対に、自校の学力水準が高ければ、習熟の早いグループに対

する習熟度別少人数指導を実施することが望ましい。第 3 に、年間授業の 3/4 以上習熟度

別少人数指導を実施する学校は発展的な学習指導がどの程度行われているかを把握するこ

とが肝要である。あまり行われていないのであれば、よく行う体制を整備することが望ま

しい。

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24

4.3 今後の課題

最後に、本研究における課題を 3 点提示する。第 1 に、本研究で用いたサンプルは、鳥

取県内に限定されている点である。そのため、鳥取県固有の状況を排除できておらず、ま

た、サンプルサイズが必ずしも大きくない、という課題が残された。全国的な習熟度別少

人数指導の妥当性を議論するためには、他の都道府県のサンプルを利用した分析も必要で

ある。第 2 に、本研究は小学校第 6 学年の児童のみの分析でとどまっている点である。中

学校でも習熟度別少人数指導が普及していることを踏まえると、小・中学校の各学年の検

証結果の比較が必要である。第 3 に、本研究で用いたデータは学校別データであり、児童

の個票データではないため、習熟度別少人数指導の論点の 1 つである「児童間の学力格差」

については明らかにできていない。そのような分析を可能にするためには、長期間にわた

る同一児童の経年データが必要である。そのような情報環境整備が進むことを期待したい。

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25

付表

付表 3-4 仮説の検証

2.102 2.178 * 2.358 * 2.456 *

(1.329) (1.270) (1.418) (1.320)

1.971 1.797 3.053 * 2.828 *

(1.599) (1.529) (1.699) (1.585)

-0.406 -0.949 3.926 3.219 -0.557 -1.021 3.482 2.880

(7.237) (6.911) (7.717) (7.185) (7.265) (6.948) (7.721) (7.201)

13.027 *** 11.271 *** 6.566 4.284 13.259 *** 11.551 *** 6.758 4.540

(4.344) (4.166) (4.632) (4.330) (4.349) (4.176) (4.622) (4.328)

9.493 ** 9.352 *** 3.814 3.632 9.797 *** 9.674 *** 4.138 3.978

(3.740) (3.571) (3.988) (3.712) (3.742) (3.578) (3.977) (3.709)

9.131 ** 9.103 *** 1.629 1.592 9.510 *** 9.506 *** 2.017 2.012

(3.600) (3.438) (3.839) (3.574) (3.597) (3.440) (3.823) (3.565)

8.476 ** 9.185 *** 1.484 2.406 8.602 ** 9.332 *** 1.542 2.491

(3.568) (3.410) (3.804) (3.545) (3.574) (3.421) (3.798) (3.545)

5.495 6.224 1.185 2.131 5.645 6.391 * 1.283 2.252

(3.950) (3.776) (4.212) (3.925) (3.957) (3.787) (4.205) (3.925)

0.011 0.016 0.024 0.031 0.011 0.017 0.023 0.031

(0.023) (0.022) (0.024) (0.023) (0.023) (0.022) (0.024) (0.023)

-0.003 -0.003 -0.002 -0.003 -0.003 -0.003 -0.002 -0.003

(0.003) (0.003) (0.003) (0.003) (0.003) (0.003) (0.003) (0.003)

41.709 54.757 55.280 72.242 * 41.038 53.901 54.583 71.291 *

(40.386) (38.668) (43.064) (40.198) (40.476) (38.808) (43.014) (40.221)

3.499 ** 3.037 ** 3.492 ** 2.892 ** 3.363 ** 2.915 ** 3.296 ** 2.713 *

(1.458) (1.396) (1.554) (1.451) (1.463) (1.403) (1.555) (1.454)

-0.317 -0.544 -0.249 -0.544 -0.351 -0.530 -0.449 -0.681

(1.537) (1.469) (1.639) (1.527) (1.556) (1.488) (1.653) (1.542)

7.115 ** 6.100 ** 3.005 1.686 6.839 ** 5.866 ** 2.560 1.295

(2.785) (2.668) (2.969) (2.774) (2.803) (2.689) (2.979) (2.787)

1.246 1.253 -0.770 -0.761 1.511 1.521 -0.452 -0.439

(1.445) (1.380) (1.541) (1.435) (1.443) (1.379) (1.533) (1.430)

-0.469 -0.323 -0.604 -0.414 -0.593 -0.469 -0.686 -0.526

(1.410) (1.346) (1.503) (1.400) (1.408) (1.346) (1.496) (1.395)

1.186 1.211 0.949 0.981 1.204 1.233 0.954 0.992

(1.456) (1.390) (1.552) (1.445) (1.459) (1.395) (1.551) (1.446)

-6.326 ** -5.486 ** -4.337 -3.246 -6.601 ** -5.776 ** -4.661 16.065

(2.689) (2.574) (2.867) (2.676) (2.691) (2.580) (2.860) (2.674)

0.777 0.495 0.341 -0.025 0.838 0.561 0.408 0.049

(1.278) (1.222) (1.363) (1.270) (1.280) (1.226) (1.360) (1.270)

0.281 *** 0.365 *** 0.277 *** 0.360 ***

(0.061) (0.063) (0.061) (0.063)

35.213 *** 19.436 ** 35.922 *** 15.413 * 35.450 *** 19.798 ** 36.398 *** 16.065 *

(8.343) (8.669) (8.896) (9.012) (8.370) (8.713) (8.895) (9.031)

修正済み決定係数 0.135 0.211 0.016 0.147 0.131 0.205 0.018 0.146

サンプル数 229 229 229 229 229 229 229 229

注1)括弧内は標準誤差

注2)* は10%、**は5%、***は1%の有意水準で統計的に有意であることを示す。

注3)(1) 算数A、習熟度別少人数指導3/4以上・遅いダミーを用いた分析 (2) 算数B、習熟度別少人数指導3/4以上・遅いダミーを用いた分析

(3) 算数A、習熟度別少人数指導3/4以上・早いダミーを用いた分析 (4) 算数B、習熟度別少人数指導3/4以上・早いダミーを用いた分析

注4)(a)は第3学年時スコアを除いたとき、(b)は第3学年時スコアを加えたとき

分析パターン (1) (2) (3) (4)

算数A 算数B 算数A 算数B

(a) (b) (a) (b) (a) (b) (a) (b)

習熟度別少人数指導3/4

以上・遅いダミー

習熟度別少人数指導3/4

以上・早いダミー

女子児童割合

就学援助0%ダミー

就学援助5%未満ダミー

就学援助5-10%ダミー

就学援助10-20%ダミー

就学援助20-30%ダミー

学校児童数

学校児童数の2乗/100

児童一人当たり教員数

授業規律ダミー

補充的指導ダミー

発展的指導ダミー

反復練習ダミー

保護者働きかけダミー

都市規模10万人以上ダ

ミー

都市規模1万人未満ダ

ミー

2009年度ダミー

第3学年時スコア

定数項

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付表 3-5 「量」のちがいによる習熟度別少人数指導の学力向上効果の検証

2.196 * 2.466 *

(1.313) (1.365)

0.139 0.071

(2.458) (2.555)

1.551 2.667 *

(1.535) (1.596)

-4.480 -2.926

(3.176) (3.301)

-0.928 3.230 -2.382 1.991

(6.938) (7.212) (6.998) (7.274)

11.265 *** 4.281 11.362 *** 4.416

(4.177) (4.342) (4.167) (4.332)

9.357 *** 3.634 9.340 *** 3.760

(3.580) (3.722) (3.577) (3.718)

9.102 *** 1.592 9.130 *** 1.767

(3.446) (3.582) (3.442) (3.577)

9.184 *** 2.405 9.130 *** 2.359

(3.418) (3.553) (3.415) (3.550)

6.214 2.126 6.338 * 2.217

(3.788) (3.938) (3.778) (3.927)

0.016 0.031 0.016 0.031

(0.022) (0.022) (0.022) (0.022)

-0.003 -0.003 -0.003 -0.003

(0.002) (0.002) (0.002) (0.002)

54.882 72.306 * 49.612 68.489 *

(38.823) (40.359) (38.835) (40.365)

3.044 ** 2.895 ** 2.971 ** 2.750 *

(1.403) (1.458) (1.400) (1.455)

-0.554 -0.550 -0.340 -0.557

(1.483) (1.542) (1.490) (1.549)

6.102 ** 1.687 5.559 ** 1.095

(2.674) (2.780) (2.691) (2.797)

1.253 -0.761 1.567 -0.409

(1.383) (1.438) (1.376) (1.430)

-0.318 -0.412 -0.420 -0.493

(1.352) (1.406) (1.343) (1.396)

1.207 0.979 1.345 1.065

(1.394) (1.449) (1.394) (1.449)

-5.480 ** -3.242 -5.910 ** -3.677

(2.582) (2.684) (2.575) (2.676)

0.499 -0.023 0.398 -0.057

(1.227) (1.275) (1.228) (1.276)

0.281 *** 0.365 *** 0.273 *** 0.358 ***

(0.061) (0.063) (0.061) (0.063)

19.375 ** 15.382 * 21.512 ** 17.185 *

(8.754) (9.101) (8.777) (9.123)

修正済み決定係数 0.277 9.254 0.209 0.145

サンプル数 229 229 229 229

注1)括弧内は標準誤差

注2)* は10%、**は5%、***は1%の有意水準で統計的に有意であることを示す。

習熟度別少人数指導3/4以上・遅いダミー

習熟度別少人数指導1/2以上3/4未満・遅いダミー

習熟度別少人数指導3/4以上・早いダミー

習熟度別少人数指導1/2以上3/4未満・早いダミー

注3) (1) 算数A、習熟度別少人数指導3/4以上・遅いダミー、習熟度別少人数指導1/2以上3/4未満・遅いダミーを用いた分析

(2) 算数B、習熟度別少人数指導3/4以上・遅いダミー、習熟度別少人数指導1/2以上3/4未満・遅いダミーを用いた分析

(3) 算数A、習熟度別少人数指導3/4以上・早いダミー、習熟度別少人数指導1/2以上3/4未満・早いダミーを用いた分析

  (4) 算数B、習熟度別少人数指導3/4以上・早いダミー、習熟度別少人数指導1/2以上3/4未満・早いダミーを用いた分析

分析パターン (1) (2) (3) (4)

算数A 算数B 算数A 算数B

女子児童割合

就学援助0%ダミー

就学援助5%未満ダミー

就学援助5-10%ダミー

就学援助10-20%ダミー

就学援助20-30%ダミー

学校児童数

学校児童数の2乗/100

児童一人当たり教員数

授業規律ダミー

補充的指導ダミー

発展的指導ダミー

反復練習ダミー

保護者働きかけダミー

都市規模10万人以上ダミー

都市規模1万人未満ダミー

2009年度ダミー

第3学年時スコア

定数項

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付表 3-6 学校の学力水準別、習熟度別少人数指導の学力向上効果の検証

分析パターン

算数A 算数B 算数A 算数B 算数A 算数B 算数A 算数B

-0.299 1.534 4.435 ** 2.767

(1.963) (2.024) (1.727) (1.822)

2.729 3.968 * 0.034 0.453

(2.310) (2.373) (2.363) (2.435)

-6.408 -5.785 -5.250 -4.957 10.203 26.645 ** 15.247 29.228 **

(9.638) (9.942) (9.576) (9.837) (11.509) (12.139) (12.154) (12.522)

10.358 7.623 9.841 7.636 9.943 -1.532 10.120 -1.521

(6.310) (6.509) (6.231) (6.401) (6.044) (6.375) (6.289) (6.480)

7.178 4.886 7.338 5.451 11.485 ** 3.938 12.519 ** 4.517

(5.443) (5.614) (5.399) (5.547) (5.023) (5.298) (5.204) (5.361)

4.809 1.219 4.620 1.603 13.933 *** 3.020 14.515 *** 3.332

(5.317) (5.484) (5.241) (5.384) (4.606) (4.858) (4.778) (4.923)

6.288 4.230 5.960 4.220 12.232 *** 2.294 12.622 *** 2.471

(5.417) (5.588) (5.365) (5.512) (4.455) (4.698) (4.631) (4.771)

5.587 1.715 5.382 1.820 6.500 2.311 6.448 2.273

(5.871) (6.056) (5.819) (5.978) (5.091) (5.369) (5.279) (5.438)

0.023 0.050 0.022 0.050 0.013 0.029 0.017 0.031

(0.034) (0.035) (0.034) (0.035) (0.031) (0.033) (0.032) (0.033)

-0.004 -0.006 -0.004 -0.006 -0.003 -0.002 -0.003 -0.002

(0.004) (0.004) (0.004) (0.004) (0.004) (0.004) (0.004) (0.004)

13.895 48.520 16.076 49.554 74.190 100.869 * 70.242 98.723

(57.423) (59.232) (57.019) (58.577) (56.087) (59.153) (58.155) (59.916)

3.268 3.394 2.985 3.035 2.607 0.573 2.209 0.357

(2.070) (2.135) (2.069) (2.125) (2.168) (2.287) (2.249) (2.317)

0.070 -1.062 -0.438 -1.459 -0.898 0.615 -0.303 0.890

(2.236) (2.307) (2.229) (2.290) (2.083) (2.197) (2.209) (2.276)

5.120 0.340 4.546 -0.310 7.587 7.389 7.338 7.181

(3.519) (3.630) (3.521) (3.617) (5.443) (5.741) (5.650) (5.821)

2.594 2.085 2.382 1.950 0.008 -3.093 0.571 -2.678

(2.097) (2.163) (2.082) (2.139) (1.959) (2.066) (2.047) (2.109)

-1.513 -2.700 -0.950 -2.201 1.059 1.997 0.805 1.803

(2.127) (2.194) (2.134) (2.192) (1.983) (2.091) (2.062) (2.125)

-0.463 0.748 -0.410 0.901 3.102 1.006 3.308 * 1.119

(2.197) (2.266) (2.182) (2.241) (1.888) (1.991) (1.957) (2.016)

-4.330 -2.220 -3.150 -1.250 -6.581 * -6.393 * -6.380 * -6.404 *

(4.295) (4.431) (4.298) (4.416) (3.452) (3.641) (3.656) (3.766)

1.524 0.386 1.563 0.452 0.007 0.409 0.225 0.526

(1.850) (1.909) (1.838) (1.888) (1.794) (1.892) (1.861) (1.917)

0.403 ** 0.513 *** 0.402 ** 0.523 *** 0.147 0.310 ** 0.113 0.293 **

(0.161) (0.166) (0.160) (0.164) (0.137) (0.145) (0.143) (0.147)

20.965 10.111 20.132 8.631 14.394 3.951 13.678 3.725

(15.381) (15.866) (15.293) (15.711) (12.678) (13.371) (13.197) (13.596)

修正済み決定係数 0.082 0.032 0.094 0.053 0.214 0.092 0.156 0.069

サンプル数 121 121 121 121 108 108 108 108

注1)括弧内は標準誤差

注2)* は10%、**は5%、***は1%の有意水準で統計的に有意であることを示す。

(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8)

習熟度別少人数指導3/4以上・遅いダミー

習熟度別少人数指導3/4以上・早いダミー

女子児童割合

就学援助0%ダミー

就学援助5%未満ダミー

就学援助5-10%ダミー

都市規模10万人以上ダミー

都市規模1万人未満ダミー

就学援助10-20%ダミー

就学援助20-30%ダミー

学校児童数

学校児童数の2乗/100

児童一人当たり教員数

授業規律ダミー

2009年度ダミー

第3学年時スコア

定数項

第3学年時スコア:50以上 第3学年時スコア:50未満

注3) (1) 第3学年時スコア50以上、算数A、習熟度別少人数指導3/4以上・遅いダミーを用いた分析

(2) 第3学年時スコア50以上、算数B、習熟度別少人数指導3/4以上・遅いダミーを用いた分析

(3) 第3学年時スコア50以上、算数A、習熟度別少人数指導3/4以上・早いダミーを用いた分析

(4) 第3学年時スコア50以上、算数B、習熟度別少人数指導3/4以上・早いダミーを用いた分析

(5) 第3学年時スコア50未満、算数A、習熟度別少人数指導3/4以上・遅いダミーを用いた分析

(6) 第3学年時スコア50未満、算数B、習熟度別少人数指導3/4以上・遅いダミーを用いた分析

(7) 第3学年時スコア50未満、算数A、習熟度別少人数指導3/4以上・早いダミーを用いた分析

(8) 第3学年時スコア50未満、算数B、習熟度別少人数指導3/4以上・早いダミーを用いた分析

補充的指導ダミー

発展的指導ダミー

反復練習ダミー

保護者働きかけダミー

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28

付表 3-7 学校属性による習熟度別少人数指導の学力向上効果の検証

分析パターン

-28.252 -14.057

(19.541) (20.375)

-59.413 * -13.525

(30.801) (32.332)

-0.206 -6.144 6.837 -10.970 -2.390 -6.362 2.994 -5.323

(8.934) (16.987) (9.315) (17.712) (7.845) (23.036) (8.235) (24.180)

12.392 ** -4.313 5.407 -6.443 12.590 *** -4.898 5.957 -11.561

(5.019) (10.883) (5.233) (11.347) (4.614) (14.096) (4.843) (14.796)

7.408 * 5.007 0.695 6.191 8.888 ** 8.978 3.214 5.942

(4.346) (8.285) (4.531) (8.638) (3.908) (12.199) (4.102) (12.805)

5.966 8.016 -1.943 7.206 9.120 ** 10.209 1.830 3.749

(4.332) (8.184) (4.517) (8.533) (3.789) (11.210) (3.977) (11.767)

7.515 * 5.483 0.131 5.037 8.805 ** 9.764 2.212 3.360

(4.169) (8.198) (4.347) (8.548) (3.759) (11.511) (3.946) (12.083)

4.575 2.541 -0.346 3.628 6.434 0.513 2.076 0.599

(4.699) (8.979) (4.900) (9.362) (4.180) (12.088) (4.388) (12.689)

-0.013 0.080 0.011 0.052 -0.002 0.112 0.015 0.031

(0.035) (0.051) (0.036) (0.054) (0.031) (0.070) (0.033) (0.074)

0.000 -0.009 -0.000 -0.006 -0.000 -0.013 * -0.000 -0.005

(0.005) (0.006) (0.005) (0.007) (0.004) (0.008) (0.005) (0.008)

7.562 167.255 * 65.502 62.080 33.299 254.202 62.498 26.949

(50.480) (89.001) (52.634) (92.798) (43.999) (161.851) (46.185) (169.892)

3.472 * -0.255 2.595 1.402 2.775 * 0.764 2.550 1.277

(1.795) (2.986) (1.872) (3.113) (1.616) (4.023) (1.696) (4.223)

-0.117 -1.165 -0.962 0.513 -0.892 2.382 -1.232 1.567

(2.035) (3.135) (2.122) (3.269) (1.725) (3.908) (1.811) (4.102)

3.222 7.898 1.506 2.209 3.478 8.936 1.183 3.395

(3.710) (5.595) (3.868) (5.834) (3.630) (6.042) (3.810) (6.343)

1.558 -1.531 -0.674 -1.336 1.154 -3.811 -0.696 -2.479

(1.792) (3.016) (1.869) (3.145) (1.571) (4.366) (1.649) (4.583)

-0.280 0.736 0.779 -1.526 -0.706 1.570 -0.396 -0.165

(1.807) (2.950) (1.884) (3.076) (1.549) (3.696) (1.626) (3.879)

-0.306 4.218 -0.504 2.942 0.771 6.821 * 0.452 4.484

(1.861) (3.086) (1.940) (3.218) (1.581) (4.119) (1.659) (4.324)

-8.927 *** 12.992 ** -7.776 ** 13.676 ** -7.715 ** 15.442 ** -5.608 * 10.070

(3.230) (5.985) (3.367) (6.240) (3.038) (7.843) (3.189) (8.232)

1.096 -1.449 -0.421 1.110 0.528 1.396 -0.148 2.848

(1.590) (2.655) (1.657) (2.769) (1.397) (3.537) (1.466) (3.713)

0.291 *** 0.009 0.365 *** 0.044 0.254 *** 0.241 0.353 *** 0.124

(0.080) (0.132) (0.084) (0.137) (0.071) (0.182) (0.075) (0.191)

29.023 ** 19.817 27.017 *** 19.759 *

(11.908) (12.416) (10.286) (10.797)

修正済み決定係数 0.194 0.124 0.182 0.099

サンプル数 229 229 229 229

注1)括弧内は標準誤差

注2)* は10%、**は5%、***は1%の有意水準で統計的に有意であることを示す。

習熟度別少人数指導3/4以上・

早いダミー

児童一人当たり教員数

保護者働きかけダミー

都市規模1万人未満ダミー

2009年度ダミー

学校児童数の2乗/100

算数B算数B 算数A

女子児童割合

就学援助0%ダミー

(1) (2) (3) (4)

定数項

就学援助10-20%ダミー

就学援助20-30%ダミー

授業規律ダミー

補充的指導ダミー

第3学年時スコア

都市規模10万人以上ダミー

学校児童数

発展的指導ダミー

反復練習ダミー

算数A

主効果

習熟度別少人数

指導3/4以上・

早いダミーとの

交差項

主効果

注3) (1) 算数A、習熟度別少人数指導3/4以上・遅いダミーを用いた分析

(2) 算数B、習熟度別少人数指導3/4以上・遅いダミーを用いた分析

(3) 算数A、習熟度別少人数指導3/4以上・早いダミーを用いた分析

(4) 算数B、習熟度別少人数指導3/4以上・早いダミーを用いた分析

主効果

習熟度別少人数

指導3/4以上・

遅いダミーとの

交差項

主効果

習熟度別少人数

指導3/4以上・

遅いダミーとの

交差項

習熟度別少人数

指導3/4以上・

早いダミーとの

交差項

習熟度別少人数指導3/4以上・

遅いダミー

就学援助5%未満ダミー

就学援助5-10%ダミー

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29

付表 3-8 習熟度別少人数指導実施校における学力向上に効果的な指導方法の特定

分析パターン

-0.206 6.837 -2.390 2.994 -6.350 -4.132 -8.752 -2.329

(9.444) (10.093) (7.899) (8.312) (12.898) (12.596) (20.882) (21.601)

12.392 ** 5.407 12.590 **

*

5.957 8.079 -1.036 7.691 -5.603

(5.305) (5.670) (4.645) (4.888) (8.620) (8.419) (12.842) (13.284)

7.408 0.695 8.888 ** 3.214 12.416 * 6.887 17.867 9.156

(4.594) (4.910) (3.934) (4.140) (6.297) (6.149) (11.141) (11.525)

5.966 -1.943 9.120 ** 1.830 13.983 ** 5.262 19.330 * 5.579

(4.579) (4.894) (3.814) (4.014) (6.199) (6.054) (10.172) (10.522)

7.515 * 0.131 8.805 ** 2.212 12.999 ** 5.168 18.569 * 5.572

(4.407) (4.710) (3.785) (3.983) (6.302) (6.155) (10.489) (10.850)

4.575 -0.346 6.434 2.076 7.116 3.282 6.947 2.675

(4.968) (5.309) (4.208) (4.429) (6.830) (6.671) (10.936) (11.312)

-0.013 0.011 -0.002 0.015 0.066 * 0.063 * 0.109 * 0.047

(0.037) (0.039) (0.031) (0.033) (0.034) (0.033) (0.060) (0.063)

0.000 -0.000 -0.000 -0.000 -0.009 ** -0.007 * -0.013 ** -0.006

(0.005) (0.005) (0.004) (0.005) (0.004) (0.004) (0.006) (0.006)

7.562 65.502 33.299 62.498 174.817 **

*

127.583 ** 287.502 * 89.447

(53.363) (57.030) (44.298) (46.618) (65.436) (63.906) (150.170) (155.339)

3.472 * 2.595 2.775 * 2.550 3.217 3.997 * 3.540 3.827

(1.898) (2.028) (1.627) (1.712) (2.130) (2.080) (3.552) (3.675)

-0.117 -0.962 -0.892 -1.232 -1.282 -0.449 1.489 0.334

(2.151) (2.299) (1.737) (1.828) (2.129) (2.080) (3.381) (3.497)

3.222 1.506 3.478 1.183 11.120 **

*

3.715 12.414 ** 4.578

(3.922) (4.192) (3.655) (3.846) (3.739) (3.651) (4.657) (4.817)

1.558 -0.674 1.154 -0.696 0.027 -2.010 -2.657 -3.175

(1.895) (2.025) (1.581) (1.664) (2.165) (2.115) (3.928) (4.063)

-0.280 0.779 -0.706 -0.396 0.456 -0.746 0.864 -0.561

(1.910) (2.042) (1.559) (1.641) (2.082) (2.033) (3.235) (3.346)

-0.306 -0.504 0.771 0.452 3.912 * 2.437 7.592 ** 4.937

(1.967) (2.102) (1.592) (1.675) (2.198) (2.147) (3.667) (3.794)

-8.927 *** -7.776 ** -7.715 ** -5.608 * 4.064 5.900 7.726 4.461

(3.414) (3.649) (3.059) (3.219) (4.498) (4.393) (6.971) (7.211)

1.096 -0.421 0.528 -0.148 -0.352 0.688 1.925 2.699

(1.680) (1.796) (1.407) (1.480) (1.899) (1.855) (3.133) (3.241)

0.291 *** 0.365 *** 0.254 *** 0.353 *** 0.301 **

*

0.410 *** 0.495 *** 0.478 ***

(0.085) (0.091) (0.072) (0.075) (0.093) (0.091) (0.161) (0.167)

29.023 ** 19.817 27.017 *** 19.759 * 0.770 5.760 -32.396 6.234

(12.588) (13.453) (10.356) (10.898) (13.832) (13.508) (27.992) (28.956)

修正済み決定係数 0.146 0.100 0.130 0.113 0.290 0.190 0.349 0.000

サンプル数 140 140 179 179 89 89 50 50

注1)括弧内は標準誤差

注2)* は10%、**は5%、***は1%の有意水準で統計的に有意であることを示す。

都市規模10万人以上ダミー

都市規模1万人未満ダミー

2009年度ダミー

第3学年時スコア

定数項

注3)(1) 算数A、習熟度別少人数指導3/4以上・遅いダミーが「0」のときの分析

(2) 算数B、習熟度別少人数指導3/4以上・遅いダミーが「0」のときの分析

(3) 算数A、習熟度別少人数指導3/4以上・早いダミーが「0」のときの分析

(4) 算数B、習熟度別少人数指導3/4以上・早いダミーが「0」のときの分析

(5) 算数A、習熟度別少人数指導3/4以上・遅いダミーが「1」のときの分析

(6) 算数B、習熟度別少人数指導3/4以上・遅いダミーが「1」のときの分析

(7) 算数A、習熟度別少人数指導3/4以上・早いダミーが「1」のときの分析

(8) 算数B、習熟度別少人数指導3/4以上・早いダミーが「1」のときの分析

児童一人当たり教員数

授業規律ダミー

補充的指導ダミー

発展的指導ダミー

反復練習ダミー

保護者働きかけダミー

就学援助5%未満ダミー

就学援助5-10%ダミー

就学援助10-20%ダミー

就学援助20-30%ダミー

学校児童数

学校児童数の2乗/100

算数B 算数A 算数B

女子児童割合

就学援助0%ダミー

習熟度別少人数指導3/4以上・

遅いダミーが「0」のとき

習熟度別少人数指導3/4以上・

早いダミーが「0」のとき

習熟度別少人数指導3/4以上・

遅いダミーが「1」のとき

習熟度別少人数指導3/4以上・

早いダミーが「1」のとき

算数A 算数B 算数A 算数B 算数A

(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8)

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30

補論

本論では習熟度別少人数指導が学力に与える効果を中心に論じた。しかし、各分析を通

して興味深い結果も得られたので、補論では本論で取り上げていない結果についてまとめ

る。

(1) 仮説の検証結果について

付表 3-4 は仮説の検証結果である。付表 3-4 では、「第 3 学年時スコア」の有無によって

習熟度別少人数指導 3/4 以上ダミーの係数推定値がどう変化するのかを確認するため、各

分析パターンにおいて「第 3 学年時スコア」を(a)用いなかった場合と、(b)用いた場合の推

定結果を示している。

付表 3-4 の分析パターン(1)の(a)と(b)を比較すると、(a)よりも(b)のほうが、習熟度別少

人数指導 3/4 以上・遅いダミーの係数推定値が大きい。同様に、「第 3 学年時スコア」を用

いた場合のほうが習熟度別少人数指導3/4以上・遅いダミーの係数推定値が大きいことは、

付表 3-4 の分析パターン(2)の(a)と(b)の比較からも確認できる。これらの結果は、習熟の

遅いグループに対して年間授業の 3/4 以上習熟度別少人数指導を実施したときの学力向上

効果は、「第 3 学年時スコア」を加えなければ過小評価されることを示している。その要

因として、もともと学力水準が低い学校で、習熟の遅いグループに対する習熟度別少人数

指導が積極的に実施されてきたことが考えられる。

一方、付表 3-4 の分析パターン(3)の(a)と(b)を比較すると、(a)よりも(b)のほうが、習熟

度別少人数指導 3/4 以上・早いダミーの係数推定値が小さい。同様に、「第 3 学年時スコア」

を用いた場合の方が習熟度別少人数指導 3/4 以上・早いダミーの係数推定値が小さいこと

は、付表 3-4 の分析パターン(4)の(a)と(b)の比較からも確認できる。これらの結果は、習

熟の早いグループに対して年間授業の 3/4 以上習熟度別少人数指導を実施したときの学力

向上効果は、「第 3 学年時スコア」を加えなければ過大評価されることを示している。そ

の要因として、もともと学力水準が高い学校で、習熟の早いグループに対する習熟度別少

人数指導が積極的に実施されてきたことが考えられる。

(2) 学校属性による習熟度別少人数指導の学力向上効果の検証

付表 3-7 は学校属性による習熟度別少人数指導の学力向上効果を検証した結果である。

「都市規模 1 万人未満ダミー」の主効果は分析パターン(1)~(4)のいずれも算数 A・B に

対して負であり、統計的に有意である。一方で、分析パターン(1)、(2)、(3)より、「都市規

模 1 万人未満ダミー」と「習熟度別少人数指導 3/4 以上ダミー」の交差項は算数 A・B に

対して正の統計的に有意な関係にある。係数推定値をみると、主効果の係数よりも習熟度

別少人数指導 3/4 以上ダミーとの交差項の係数のほうが大きい。つまり、人口 1 万人未満

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31

の自治体に属する学校のうち、年間授業の 3/4 以上習熟度別少人数指導を実施した学校で

は、未実施の学校で確認されるスコアの低さはみられない49。

また、分析パターン(3)より、「都市規模 10 万人以上ダミー」と「習熟度別少人数指導

3/4 以上・早いダミー」との交差項は算数 A に対して正の統計的に有意な関係にある。そ

の要因として、習熟度別少人数指導を実施するには、ある程度の児童数と児童の学力のば

らつきが必要であり、そうした環境を生みやすいのは人口 1-10 万人の自治体に属する学校

よりも人口が大きい 10 万人以上の自治体に属する学校であることが可能性として考えら

れる。

(3) 表 3-3 基本統計量Ⅱについて

■就学援助受給割合ダミー

表 3-3(3)の t 検定結果より、習熟の遅いグループに対して年間授業の 3/4 以上習熟度別

少人数指導を実施した学校は、実施しなかった学校よりも、「就学援助 5-10%ダミー」が

大きく、「就学援助 0%ダミー」が小さくなっており、いずれも統計的に有意である。また、

表 3-3(4)の t 検定結果より、習熟の早いグループに対して年間授業の 3/4 以上習熟度別少

人数指導を実施した学校は、実施しなかった学校よりも、「就学援助 10-20%ダミー」が大

きくなっており、統計的に有意である。その要因は明確にはわからないが、耳塚(2009)50が

指摘するように、児童の学力と家庭の経済力が相関している可能性があることを踏まえる

と、就学援助受給割合が 5-10%、10-20%の学校において学校内の児童の学力がばらつき

やすく、習熟度別少人数指導を実施しやすい環境ができたことが可能性として考えられる。

■学校児童数、児童一人当たり教員数

表 3-3(3)、(4)の t 検定結果より、年間授業の 3/4 以上習熟度別少人数指導を実施した学

校は、非実施の学校よりも「学校児童数」が多く、統計的に有意である。その要因として、

習熟度別少人数指導を実施するためにはある程度の児童数と児童の学力のばらつきが必要

であり、学校児童数が多い学校ほどそのような環境ができた可能性が考えられる。

また、表 3-3(3)、(4)の t 検定結果より、年間授業の 3/4 以上習熟度別少人数指導を実施

した学校は、非実施の学校よりも「児童一人当たり教員数」が少なく、統計的に有意であ

る。その要因として、習熟度別少人数指導を実施した学校は、学校児童数が多いことが考

えられる。

49 ただし、分析パターン(4)の交差項は統計的に有意ではない。 50 耳塚寛明 (2009) 「全国調査の結果による市町村・学校のサンプリング手法及び教員等に対する補完的

な追加調査を実施・活用する調査分析手法の調査研究」『平成 19・20 年度 全国学力・学習状況調査

追加分析報告書』 文部科学省

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■都市規模 1 万人未満ダミー

表 3-3(3)より、習熟の遅いグループに対して年間授業の 3/4 以上習熟度別少人数指導を

実施した学校は、非実施の学校よりも、「都市規模 1 万人未満ダミー」が小さく、統計的

に有意である。その要因として、人口 1 万人未満の自治体に属する学校は、学校児童数が

少なく、習熟度別少人数指導を実施するのに適していない環境である可能性が考えられる。

(4) 習熟度別少人数指導実施校における学力向上に効果的な指導方法の特定の検証結果に

ついて

表 3-8 は、習熟度別少人数指導実施校における学力向上に効果的な指導方法の特定の検

証結果である。

分析パターン(5)、(7)より、年間授業の 3/4 以上習熟度別少人数指導を実施した学校は、

就学援助ダミーのなかでも「5-10%ダミー」の算数 A に対する係数推定値が最大である。

この要因は明確には特定できないが、表 3-3 の t 検定結果の解釈でも述べたように、就学

援助受給割合が 5-10%の学校では児童の学力のばらつきが大きい可能性があり、学力のば

らつきの大きい学校で習熟度別少人数指導を実施したことが、同指導の効果を高めた可能

性が考えられる。

分析パターン(5)、(7)より、年間授業の 3/4 以上習熟度別少人数指導を実施した学校にお

いて、「都市規模 10 万人以上ダミー」が算数 A に対して正の統計的に有意な関係にある。

この結果は、年間授業の 3/4 以上習熟度別少人数指導を実施した学校のなかで、人口 10

万人以上の自治体に属する学校は、人口 1-10 万人の自治体に属する学校と比べて、平均的

に算数 A・B が高いことを示している。その要因として、人口 10 万人以上の自治体に属

する学校のほうが、ある程度の児童数と児童の学力のばらつきを確保しやすく、習熟度別

少人数指導の効果を高めた可能性が考えられる。

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謝辞

本研究を行うにあたり、終始温かく親切丁寧なご指導いただきました田中隆一先生に心

より感謝申し上げます。

また、適宜、大変丁寧なご指導いただきました森田玉雪先生、種々の有益なご助言をい

ただきました政策研究大学院大学教育プログラムの今野雅裕先生、岡本薫先生、永井順國

先生およびプログラムコーディネーターの山本公香さんに心より御礼申し上げます。

さらに、データの提供やヒアリングにご協力をいただきました鳥取県教育委員会の皆様

に心より感謝申し上げます。

最後に、1 年間励まし合いながら、ともに研究の道を歩んだ教育政策プログラム学生の

皆様に感謝申し上げます。

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