昔々のことだあ。今の福島県双葉町に久四朗ちゅう、狩人がい ... · 2019....
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昔々のことだあ。今の福島県双葉町に久四朗ちゅう、狩人がいたんだと。久四朗は大変親孝行者だったけんど。この頃は獲物が取れなくって、食うごとさえ困っていたんだど。
「おっかあ行ってくっかんなあ。正月も直ぐだし、いっぺえ獲物とってくっからまってろよ」 そういって家を出たげんちょ。ぜんぜん自信はなかったんだど。ところが。
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山の中の沼のそばに行ったら、なんと池の中にカモが数えきれないぐらいで、グァウグァウ、鳴いていたんだど
よろこんだ久四朗。ズドーンと鉄砲ぶったれば、カモが5,6羽、沼の上でバタバタしてんだと 「やったー」って久四朗は、沼にかけつけだっけんど、急に風が吹いてきで。 せっがく、ぶったカモがあっち岸の方さ流されち行くんだと。
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あわてた久四朗「カモさどこいぐ、カモオン」
なんでいってもどんどんあっちさいっちまう。そんで久四朗も必至だ。詰めてえ沼さはいっで、向こう岸までカモごとおっかけたんだと。
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沼に足をとられながら、やっとつかまえたカモは5羽。
一発で5羽もとれるなんて、ねんて運がいいんだべとカモを見でみっど1発の弾が5羽のけつめどとおりぬけだんだど
よろこんだ久四朗「やった!」と飛び上がったど思ったら体が重くってあがんねんだど。
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はて、なんじょしたんだべ。ふしぎに思った久四朗。おもいどころを調べて見たれば、また、たまげた。
着物のたもとにはドジョウと鮒が3匹、襟のあたりには鯉が5匹。ふんどしの中にはうなぎが3匹。頭の毛にはエビがいっぺえひっからまってたんだど。 久四朗は大変な喜びで寒いのをがまんして着物を脱いで魚をいれたんだど。
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ハックショーンとやったら。鼻の穴から、またドジョウが一匹。
さて、このカモは何かでしばんなくねえと、あたりをみまわしだら。沼の岸にいもづるがみつかったんだど。 「どれこいづでしばっか」とちかよったところ、つるの近くの茶かしに
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土さ動いたんだど。なんだあ今度は
久四朗はおっかなびっくり近寄ってみっと、それは今、がくっと目をおどしたばっかりのイノシシだったど 流れ弾がこれもやっぱりけつめどさ当たっていたんだな。
こりゃすごいと思ってイノシシがほってだとどころみだら。長いも、つまりじねんじょだな、そいつが何本も出てきたんだど。 何とまあ大したものだな
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そんなにいっぺえ獲物が取れたんで久四朗はかあちゃんといいお正月をむかえられたんだど。
この話は、すぐに村中に知れわだって「久四朗はけつめどぶちの名人だ」と有名になったんだど・
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この話はあだりにも広がってな。双葉にいた天野さんとかっていう立派なお屋敷の留守番にたのまっちゃんだと。
そんで、天野さんちには鉄砲ねえがら弓矢でまもってくいろって、弓と矢わたさっちゃんだど。 久四朗は鉄砲なら自信あったけど弓矢なんて使ったごとなんかねえ。 ほんでも今更、ほんあごと言うわkにもいがねえべ。久四朗はこまっちまたんだど。
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「弓矢なんかつかったことなんかねえのに泥棒なんか来たらなじすっぺ」久四朗はがたがた音がすっと、ふるえていたんだど。
んでもいづまでふるえてばっかりいらんにぇべ。夜くらくなってへたくそなどこ誰にも見ら んにぇ時に久四朗は弓に矢をつがえでぎゅーとひっぱんだど。 久四朗は力があったから思いっきり弓をひいたとたん。
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矢をもっている手がすべって矢がピューッと、どっかに飛んで行ったんだど。 久四朗はびっくりしちまって、ふとんかぶって、どきどきしながら寝たふりしたんだど。
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次の朝、がやがや騒ぐ音がしたんで久四朗もそこさいってみたんだど。そうすっど米俵をかついだ泥棒がケツさ矢が刺さって死んでいたんだど。
集まった人たち「いやあ久四朗は大したもんだ。鉄砲だけでんえ弓矢までも尻ねらってびったと当てる。大したもんだ。久四朗は矢尻の名人だ」と久四朗をほめたど
久四朗は今更、あれはまぐれだとも言わんねがら黙っていたれば「久四朗は手柄をじまんしねえどころが立派だ」って、天野さんからいっぺいお礼もらったんだど。
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久四朗の弓矢のうわさは広まって。お城の殿様もきこえたんだど。
そん時、双葉の石熊さ。クマが出てこまってるんで退治してもらいでえっつう願いが来てたんだど・
ほんで殿様は久四朗をよんで「久四朗、今度は暴れ熊を退治してもらいたい。敵はてごわいから、家来を3名つけてやる。それからこの弓矢をもっていげ」 馬も用意して頼んだど。
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殿様の頼みなんで断れなくって、久四朗は行くことにはしたんげちょ。おっかなくってしかたねがったんだど
家来だちは「こんなりょうじのけらいになって死んでらんにぇ」「久四朗が毒おにぎっり食って死んだって、みんなはクマに食われて死んだと思うべ」 どなって、三人で弁当のおにぎりさ毒入れたんだど。
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久四朗は乗ったごともねえ馬さ乗せらっちぇ、山に向かったど。久四朗はおっかなくて、おっかあやみんなども、もう会えなぐなると悲しくって 「おーん、おーん」と泣きながらでかけたんだど。
うんでも見送る日おてゃ「いやあ大したもんだ。久四朗はあれ命がけの仕事なのにうおーんうおーんって唄っていくど」と手を振って見送ったど
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山にはいいって石熊あだりまで来っと家来たちが
「久四朗ねえ、おれだちは久四朗さんの弓でうだれだクマがておいになって、里であばれっと困っから山の入り口でまってっからな」と言ってがた、久四朗に「クマやっつげんには腹減ってはだめだ」なんていって、あの毒入りのおにぎりをふろしきさつづんで背中にしょわせで逃げていったど。
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久四朗は一人になっと、急にさびしくなっておっかなぐなって、ふるえでいたど。そこさ、ガサガサって山がら大きいクマが出てきたんだど。 びっくらした久四朗は、慌てて大石のそばにあった木によじのぼったんだと。
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久四朗があわてて木に登ったもんだから。あのふるしぎの毒おにぎりがポロポロっと大石の上さまいだようにおちたんだど。
そこさ来た大熊、原へってだもんだから、ほの毒おにぎりバクバク食って、ころっと死んじまったんだど。
よろこんだ久四朗は木から降りてきて死んでるクマの尻さ矢をぶっさして、そのまんま石の上さねちまったんだと。
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次の朝、みんなが山に行くと大熊が尻に矢をさされてしんでいたど。そして、その横さ、久四朗が大のいになって、はなぐらかいでねでいたんだど。
これには皆、すっかりたまげで「矢尻の名人、久四朗」と久四朗をほめたたえたんだど、久四朗は殿様からもいっぺえごほうびをもらって幸せにくらしたんだど。
ほんでな、大きい石があってな、クマが出たところを石熊っていうようになったんだど。 おしまい。
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