特集 日精樹脂 090319 -...

6
15 環境調和型射出成形への取り組み 射出成形機メーカーという立場で、近年の環境問題に対して当社が取り 組んでいる数々の取組みの中から、環境調和型の成形材料と、当社独自 のハイブリッド成形機をその特長とメカニズム、実際の成形事例を交え 本稿で紹介するものである。 1.はじめに 1997 年に京都議定書が締結されて以来、地球温暖化 問題に関して社会全体の意識の高まりを感じていると ころである。温暖化効果ガスとして真っ先に挙げられ るのが二酸化炭素であろう。その二酸化炭素も産業革 命以来大気中の濃度が増え続け、それ以前の280ppm から 2005 年には 379 ppm にまで上昇したとのデータも ある。その温室効果を裏付けるが如く近年の気象デー タによると過去1300年で最も高温の年が1996年を除 く 1995 年から 2006 年に集中している。 この事から環境負荷の小さい生産システム及び製品 その物の開発を目指す必要があると考える。企業から の二酸化炭素排出は企業努力により効率化を進め排出 量を抑えている。だが一般家庭からの廃棄物は未だに 過剰包装された商品に溢れ、化石燃料の消費、廃棄を 行い炭素循環型社会にはそぐわない。 そのような現実を背景に、低環境負荷製品、『脱化 石燃料』の成形材料を目指したパルプインジェクショ ンモールディング(以下『PIM』という。これは現在、 東京大学生産技術研究所、大宝工業株式会社、日精樹 脂工業株式会社の三者にて共同研究実施中)と、製造 現場での環境負荷低減に貢献すべく、極限の省エネル ギー性能を目指し『平成18 年度優秀省エネルギー機 器表彰』において環境保全省エネ機器として高く評価 され、『資源エネルギー庁長官賞』を受賞した当社独 自のハイブリッド成形機を紹介する。 宮 下 治 樹 日精樹脂工業 ㈱ 2.1 PIM 成形材料の概要 PIM 成形は、パルプと澱粉を主成分とした材料を射 出成形して紙質の 3 次元立体構造を得る新しい加工技 術で大宝工業㈱により開発された。代表的な主原料は、 パルプ60wt%、澱粉30wt%、調整剤10wt% を水分率 30 ~ 40 % 程度となるように調整したものである。 2005 年より成形現象の解明、最適な成形材料と成形 機・成形条件、金型技術の確立を目指して三者による 共同研究プロジェクトが「民間等との共同研究」制度 に基づき実施され実用化の段階となっている。 2.2 PIM 成形の工程 図1 にその PIM工程の概略を示す。一般の熱可塑 性樹脂成形では金型内に充填後冷却して形状を固定す るが、PIM成形では100℃以下で可塑化された材料を 180℃前後に加熱された金型内に充填し材料に加えら れている水分を蒸発・乾燥させることで形状を固定化 する。成形時間を短縮化するためにはいかに効率よく 2.PIM 成形

Upload: others

Post on 02-Jan-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 特集 日精樹脂 090319 - 素形材センターsokeizai.or.jp/japanese/publish/200706/200903miyashita.pdf図1 PIM 工程の概略 図2 材料のLCA比較(原料からペレットまでのCO2発生量)

15

環境調和型射出成形への取り組み

射出成形機メーカーという立場で、近年の環境問題に対して当社が取り組んでいる数々の取組みの中から、環境調和型の成形材料と、当社独自のハイブリッド成形機をその特長とメカニズム、実際の成形事例を交え本稿で紹介するものである。

1.はじめに

 1997年に京都議定書が締結されて以来、地球温暖化問題に関して社会全体の意識の高まりを感じているところである。温暖化効果ガスとして真っ先に挙げられるのが二酸化炭素であろう。その二酸化炭素も産業革命以来大気中の濃度が増え続け、それ以前の280ppmから2005年には379ppmにまで上昇したとのデータもある。その温室効果を裏付けるが如く近年の気象データによると過去1300年で最も高温の年が1996年を除く1995年から2006年に集中している。 この事から環境負荷の小さい生産システム及び製品その物の開発を目指す必要があると考える。企業からの二酸化炭素排出は企業努力により効率化を進め排出量を抑えている。だが一般家庭からの廃棄物は未だに

過剰包装された商品に溢れ、化石燃料の消費、廃棄を行い炭素循環型社会にはそぐわない。 そのような現実を背景に、低環境負荷製品、『脱化石燃料』の成形材料を目指したパルプインジェクションモールディング(以下『PIM』という。これは現在、東京大学生産技術研究所、大宝工業株式会社、日精樹脂工業株式会社の三者にて共同研究実施中)と、製造現場での環境負荷低減に貢献すべく、極限の省エネルギー性能を目指し『平成18 年度優秀省エネルギー機器表彰』において環境保全省エネ機器として高く評価され、『資源エネルギー庁長官賞』を受賞した当社独自のハイブリッド成形機を紹介する。

宮 下 治 樹日精樹脂工業㈱

2.1 PIM成形材料の概要 PIM成形は、パルプと澱粉を主成分とした材料を射出成形して紙質の 3次元立体構造を得る新しい加工技術で大宝工業㈱により開発された。代表的な主原料は、パルプ60wt%、澱粉30wt%、調整剤10wt% を水分率30~40%程度となるように調整したものである。 2005年より成形現象の解明、最適な成形材料と成形機・成形条件、金型技術の確立を目指して三者による共同研究プロジェクトが「民間等との共同研究」制度

に基づき実施され実用化の段階となっている。

2.2 PIM成形の工程 図 1にその PIM工程の概略を示す。一般の熱可塑性樹脂成形では金型内に充填後冷却して形状を固定するが、PIM成形では100℃以下で可塑化された材料を180℃前後に加熱された金型内に充填し材料に加えられている水分を蒸発・乾燥させることで形状を固定化する。成形時間を短縮化するためにはいかに効率よく

2.PIM成形

Page 2: 特集 日精樹脂 090319 - 素形材センターsokeizai.or.jp/japanese/publish/200706/200903miyashita.pdf図1 PIM 工程の概略 図2 材料のLCA比較(原料からペレットまでのCO2発生量)

16

この工程を行うかが課題となる。金型から材料への伝熱促進と形状付与には金型を閉じておく必要があり、逆に水蒸気の排出促進には金型を開く必要がある。この矛盾する要件を両立させるため、金型を僅か開閉する動作を繰り返し行っている。

2.3 PIM成形品の特徴 PIM成形品の一般的特徴は、①低い比重(0.8~0.9)、

②汎用樹脂並みの寸法精度、③薄肉成形(0.2~0.5mm)が容易、④高い耐熱性(約200℃)と遅燃性、⑤一般ごみとして処分可能、⑥高い生分解性、⑦易リサイクル性などが挙げられる。一方紙素材であることからの短所としては①水や多湿に弱く変形し易い、②パルプ繊維の配向により機械特性のばらつきや表面性状のうねりが出易い、③ウェルド強度が弱いことなどが挙げられる。写真1にPIMの成形品例(試作品も含む)を示す。廃棄時に分別の手間を省くファイルの留め具、医療用廃棄物対策に有効な薬用アンプルケース、環境配慮と特有の質感を生かしたCDケースなど環境イメージを重視する用途で徐々に適用が進められている。 表 1に汎用樹脂とポリ乳酸、PIM成形品のそれぞれについて機械的諸特性の比較を例示する。またLCA(ライフサイクルアセスメント)の手法により原材料分を含めたPIM成形材製造時のCO2発生量を算出し

図 1 PIM工程の概略

図 2 材料の LCA比較(原料からペレットまでの CO2発生量)

写真 1 PIM成形品例

表 1 機械的特性の比較

PIM材料 汎用樹脂ポリ乳酸

新品材料 新聞・古紙 PS樹脂 PP樹脂比重(g/m3) 0.85 0.78 1.05 0.9 1.25引張強度(MPa) 29.0 19.0 27.9 19.0 69.0伸び(%) 8.5 4.8 40.0 80.0 4.0曲げ強度(MPa) 24.5 35.0 47.0 33.0 100.0曲げ弾性率(MPa) 2,900 3,600 2,500 1,200 3,800衝撃強さ(kg・J/m2) 11.5 5.6 6.0 6.6 2.1

7,588

5,352

3,2102,749

1,979 1,774

700

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

8000

ナイロン

セロファン

非結晶PET

ポリエチレン

ポリプロピレン

ポリ乳酸

PIM材

CO

2発

生量

(kg/ton)

Page 3: 特集 日精樹脂 090319 - 素形材センターsokeizai.or.jp/japanese/publish/200706/200903miyashita.pdf図1 PIM 工程の概略 図2 材料のLCA比較(原料からペレットまでのCO2発生量)

17

特集 環境にやさしいものづくり機械

て図 2に比較した。これらの結果からPIMのCO2発生量は、PPの35%、ポリ乳酸の39%と少なく環境負荷が非常に小さいエコ材料であると言える。

2.4 PIM成形のためには PIM成形とプラスチック射出成形技術とは形態上ほぼ同じ工程から成り立っているが、PIM材料・製品特性は本質的には異なっている。例えば、PIM成形材料の流動過程では、材料内の水分を材料表面から噴出・蒸発させながら充填が行われる。この気層の介在によって流動材料と金型表面との抵抗が著しく低下するためプラグフロー状に滑る流動をする。また、成形品の内部には、粗密な空隙パターンが生成し寸法精度、収縮率に影響する。製品設計、金型設計にはこれら諸特性がノウハウとして必要条件となる。同様にPIM成形機も材料特性に合致した可塑化装置、PIM成形工

法を実現できる仕様となっていることが必要となる。PIM成形材料は、上述のようにパルプ、澱粉に水分を加えている。可塑化工程で適切な剪断・圧縮ができるデザインでなければ計量不安定や材料ヤケの問題が発生する。金型内での水蒸気排出のための金型寸開閉は、高速で精度良く行わねばならず、専用機であるNEX-EPIシリーズで実現できた内容である。また、これらは、成形品の品質と同時に成形サイクルに関わる重要なポイントである。PIM成形を行う場合は、そのノウハウと専用化した成形機(写真 2)が使用される。

2.5 PIM成形の動向 PIMならではの特徴を活かした新しいエコ成形加工の可能性探索が、現在㈶生産技術奨励研究会「PIMコンソーシアム」の中で積極的に進められている。基礎研究と併走して柔らかいPIM成形品、硬く高強度なPIM成形品、防水性や印刷特性を高めたPIM成形品、新しい包装材やカバー、容器類への適用などさまざまな製品開発や実用化の研究がされている。特に包装材への適用は、小型軽量化による輸送効率・コストならびに輸送CO2発生量の大幅な削減効果をもたらし今後の発展が期待される分野である。 新しい成形加工技術であるPIM発展には、エコロジカルであると同時にエコノミカルでなければならない。PIM成形材料を、安定、安価に長期に渡って供給できる体制と、熱可塑性樹脂並みの成形加工サイクルが目標である。

3.1 Xポンプシステムを取り巻く環境 もう一方の要件となる加工システムの射出成形機についてであるが、今日ではサーボモータ駆動の電気式成形機が市場占有率を伸ばしているものの必ずしもユーザーニーズを満している機械ではない。摺動部分の多い機械構成は、多量の潤滑油を使用しながらその回収もままならず、クリーンマシンのイメージとは程遠い姿である。有限寿命部品を随所に使用している機構のため、長期の機構精度確保が困難となり、そのライフサイクルは一般的に油圧式成形機以下である。また、堅牢で長持ち、更に機械重量比較では電気式成形機に比し油圧式が多くの機種で約10%軽量であり、製造段階での負荷が小さいという観点からすると油圧式の方が地球環境にやさしい製造設備であると言える。しかし、油圧式にも劣る部分がある。作動油を用いること、省エネルギー、油温の変動による機械稼動状態

及び品質の変化、成形サイクル等である。これらの部分を改善する事で、記述の優位点と併せて導入メリットが高く地球環境にやさしい成形機となる。電気式の良さと、当社が長年培ってきた油圧直圧式の良さを融合した成形機を当社では、Xポンプシステムによるハイブリッド成形機と呼んでいる。

3.2 システム構成 従来の油圧システムに対しXポンプシステム(図 3)は、サーボモータと 2流量選択式ポンプを組み合わせ「必要な時に必要な回転速度でサーボモータ動作を行う 」ことを特長とする。この方式は、従来の常時回転する誘導モータと可変容量ポンプの組み合わせによる斜板角度でポンプ吐出量を制御する方式とは違い、エネルギー損失の大幅な軽減はもとより応答性の向上にも寄与し、更に作動油温度の上昇、及び作動油の汚染を解消することも可能となった。これらの効果が認め

3.Xポンプシステム搭載ハイブリッド成形機

写真 2 PIM専用成形機

Page 4: 特集 日精樹脂 090319 - 素形材センターsokeizai.or.jp/japanese/publish/200706/200903miyashita.pdf図1 PIM 工程の概略 図2 材料のLCA比較(原料からペレットまでのCO2発生量)

18

られ㈳日本機械工業連合会の平成18年度優秀省エネルギー機器表彰において「資源エネルギー庁長官賞」、および平成19年度プラスチック成形加工学会「青木固技術賞」を受賞した。

3.3 ハイブリッド成形機の基本的特徴 この方式により大幅な省エネルギー化が可能となった。図 4に従来式油圧成形機とハイブリッド成形機、電気式成形機の同一成形での消費電力量測定結果を示すが、ハイブリッド成形機は電気式に匹敵する省エネとなっている。大半が熱に変わってしまう無駄なエネルギー発生を少なくすることは油圧システムにとって大きな意味を持つ。図 5は、オイルクーラへの通水を

行わない条件での従来油圧システムとの作動油温度変化を比較したものである。作動油を媒体とする加工機械においては作動油温度変化が製品品質に影響を与えることから、従来はオイルクーラへの通水量を確保するために工場冷却水設備の施工、メンテナンスに大きな労力とコストを要していたが、Xポンプシステムは作動油温度の上昇自体を抑えられることからそれらの負担を大幅に低減することが可能となった。また、作動油温度の上昇を抑えることで作動油の汚染も少なくすることとなり、必要作動油量を低減することにもつながった。結果、必要作動油量は弊社従来機比で約1/2 ~ 2/3 と大幅に低減された。

3.4 フルクローズド制御のハイブリッド成形機 上記は回転数制御の駆動方式とすることで得られる特徴の基本的な部分である。この基本的土台の上に成形機として要求される諸機能をしっかり構築することでハイブリッド成形機は成り立っている。油圧式成形機の苦手とした大半をハイブリッド機では解消させる事ができた。以降それらの特徴について図を主体にして例示する。3.4.1 射出側 図 6は、従来油圧機と射出立ち上がりを比較した波

図 4 消費電力比較

図 5 冷却水停止時の作動油温度比較

図 6 射出速度立ち上がり比較

図 7 低速射出波形

0

1

2

3

4

5

6

消費電力量

(kWh)

消費電力量比較 Xポンプ機 vs 電気式 vs 従来油圧式

従来油圧機

FN80‑12A

Xポンプ機

FNX80‑12A

電気式

NEX80‑12E

5.12

0

1

2

3

4

5

6

消費電力量

(kWh)

消費電力量比較 Xポンプ機 vs 電気式 vs 従来油圧式

従来油圧機

FN80‑12A

Xポンプ機

FNX80‑12A

電気式

NEX80‑12E

2.72 2.66

冷却水を通さない時の作動油温変化55

50

45

40(℃)

35

30

25

14:00 14:28 14:57 15:26 15:55 16:24 16:52 17:21

従来油圧ポンプ機:PN40‑5A

室内温度

Xポンプ機:PNX40‑5A

時刻

温度

             

図 3 Xポンプ概念図

Page 5: 特集 日精樹脂 090319 - 素形材センターsokeizai.or.jp/japanese/publish/200706/200903miyashita.pdf図1 PIM 工程の概略 図2 材料のLCA比較(原料からペレットまでのCO2発生量)

19

特集 環境にやさしいものづくり機械

形である。従来機の 1/2 の時間に短縮され、同時に最高射出速度もUPしているので充填性が格段に向上している。図 7は、射速度10mm/sec以下の低速域での波形である。従来油圧機が最も苦手とした領域であるが設定通りに制御されている。図 8は、射出速度 1 mm/sec以下の極低速での制御性、図 9は、充填時の負荷圧上昇に伴う速度の落ち込み改善が明確である。制御をフルクローズドとしているので電気式に遜色のない性能まで到達している。 作動油温度の変動は射出圧力にも僅かながら影響を及ぼす。Xポンプシステムは作動油温度の変動が少ない油圧システムであるが、熱帯から高緯度地域、また大陸内陸部にまで広がった製造拠点において昼夜、季節間での成形条件、機械動作の互換性を追及するためには作動油温度変動に影響を受けない制御システムが要求される。図10は、作動油温度を変化させ各温度での製品質量の平均値と±3σ(n=100ショット)を比較したものである。30℃の油温変化に対し一定した質量が得られている。3.4.2 型締側 従来油圧式の場合、型位置制御はオープンループであり開閉速度やスローダウン位置の条件設定のたびに流れ距離を見込んだ調整が必要となり、金型交換の段取り作業を煩雑にしていた。加えて作動油温度変動の影響も受け、型開き停止位置の変化により製品取出しミスでチョコ停が発生したり、金型パーティング面の衝突防止のため無駄なスローダウン距離を設定せざるを得ないなど生産性の低下も招いていた。こ

図 8 極低速射出速度のリニア性比較

図 9 高負荷時の速度比較

図 10 作動油温度変動による製品質量変化 図 11 高速型開き速度変化による型開き停止位置比較

1mm/s以下の極低速域射出速度分解能

0.00.10.20 .30 .40 .50 .60 .70 .80 .91 .01 .11 .2

0 0.1 0 .2 0 .3 0 .4 0 .5 0 .6 0 .7 0 .8 0 .9 1 1.1 1 .2

射出速度設定(mm/s)

射出

速度

(mm/s)

標準制御 クローズドループ制御

標準制御 作動油温 -製品質量

クローズドループ制御 作動油温 -製品質量

Page 6: 特集 日精樹脂 090319 - 素形材センターsokeizai.or.jp/japanese/publish/200706/200903miyashita.pdf図1 PIM 工程の概略 図2 材料のLCA比較(原料からペレットまでのCO2発生量)

20

れを改善するため新たに型開閉の停止位置、スローダウン位置などの目標位置と速度にクローズドループを構成した。図11にその効果の一例として高速型開き速度変更による型開き停止位置変動の比較を示す。比較条件は停止位置設定=200mm、スローダウン距離= 10mm、スローダウン速度=10%を固定し、高速型開き速度を100ショット毎に10%ずつ上げて型開き停止位置の流れ量とばらつき幅を評価した。クローズドループ制御では停止位置平均=200.44mm、ばらつき幅=0.89mmに収まっている。型開き速度をフルスケールで変動させてもこのレベルの停止精度を確保できれば、型開閉条件変更時の微調整の煩雑さ、及び作動油温度変動に起因する不具合については実用上解消したといえる。

3.5 成形事例 ハイブリッド成形機での成形事例を紹介する。射出応答性を活かした成形事例として写真 3に導光板(サイズ:2.5インチ 厚さ:0.4mm材料:PC 取数:2個)を示す。充填性能に関係する最高射出速度や射出立ち上がり応答性だけでなく、均一転写や厚さ寸法の調整のために、VP切り替え後の減圧特性を任意に設定できる機能も備えている。 射出速度の極低速領域の安定性と長時間高保圧耐性の特性を活かした成形事例として写真 4に球体

(サイズ:φ65mm、ゲート:ダイレクト、材料:PMMA、取数:1個)を示す。ゲート付近のジェッティング、フローマーク不良対策から極低速充填速度=0.4mm/secの設定としている。また保圧=100MPa、保圧時間=477secの条件は現行の電気式成形機では不可能である。

日精樹脂工業株式会社 本社テクニカルセンター〒389-0693 長野県埴科郡坂城町南条 2110    TEL. 0268 -81 -1061 FAX. 0268 -81 -1096 http://www.nisseijushi.co.jp/         

写真 3 高応答立ち上り+高応答減圧成形事例

写真 4 極低速射出+長時間高保圧成形事例

 環境省発表の2007年度温室効果ガス排出量(速報値)によると、2007年度温室効果ガスの総排出量は13億7,100万トンと算定された。京都議定書規定による基準年に比べると8.7%(約 1億1,000万トン)上回っており、二酸化炭素に限ってみても基準年からは14.1%の増加がみられている。各分野の内訳として、産業分野(工場等)では基準年に比べて-3.1% *1 減少に転じているが、運輸部門:+14.3%、エネルギー転換部門(発電所等):+13.0%、中でも家庭部門:+33.0%、業務その他部門(商業・サービス・事業所など):+34.0%と、家庭生活に伴う分野での増加は著しい。京都議定書削減約束となっている2012年までに森林吸収源対策などを差し引いても9.3%(1 億1,700万トン)の削減が必要となる。 弊社は物作り分野の一員として、先に紹介したPIM及び、ハイブリッド成形機の環境調和型成形を通じて

低炭素社会構築の一助となるべく社会貢献を目指すものである。

 参考文献・ 横井秀俊、丸野満義;「パルプ射出成形(PIM)の技術開発動向」、成形加工、第19巻 第11号・ 海野義元:「究極のハイブリッド成形機を目指して」、フルードパワー、vol. 20、2006年、No.1・ 岡田晴雄:「進化したハイブリッド式成形機の特性評価」、プラスチック成形加工学会第15回秋季大会予稿集・ 清水功次:「ハイブリッド射出成形機 PNX、FNX」、 三光出版社、最新の射出成形技術新版・環境省「2007年度の温室効果ガス排出量」(速報値)

4.おわりに

*1:電力排出原単位が 2006 年度の値と仮定した場合