特集 統合失調症患者の 理解と支援 · 2015. 7. 23. · 特 集...

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特集 統合失調症患者の 理解と支援 統合失調症とは 薬物治療の位置づけと方法 抗精神病薬の 副作用とモニタリング 服薬支援における コミュニケーションのポイント 新薬くろ~ずあっぷ ルティナス膣錠100mg 一歩上をいく!エキスパートの仕事 4日間の抗菌薬投与で 溶連菌感染症は治った? 処方・調剤・保険請求のQ&A 医薬品適正使用のための ファーマシューティカルアセスメント 浮腫(むくみがある) 前編新連載 調剤と情報:Rx Info 第21巻 第6号 平成27年6月1日発行(毎月1日発行)平成7年6月19日 第三種郵便物認可 ISSN 1341-5212 2015 Vol.21 No.6 2 015 6

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Page 1: 特集 統合失調症患者の 理解と支援 · 2015. 7. 23. · 特 集 統合失調症患者の理解と支援 24(668) 調剤と情報 2015.6(Vol.21 No.6) はじめに

特集

統合失調症患者の理解と支援•統合失調症とは

•薬物治療の位置づけと方法

•抗精神病薬の副作用とモニタリング

•服薬支援におけるコミュニケーションのポイント

新薬くろ~ずあっぷルティナス膣錠100mg

一歩上をいく!エキスパートの仕事4日間の抗菌薬投与で溶連菌感染症は治った?

処方・調剤・保険請求のQ&A

医薬品適正使用のためのファーマシューティカルアセスメント浮腫(むくみがある)ー前編ー

新連載

調剤と情報:Rx Info 第21巻 第6号 平成27年6月1日発行(毎月1日発行)平成7年6月19日 第三種郵便物認可 ISSN 1341-5212

2015Vol.21 No.6

2015

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統合失調症とは  吉村 直記

薬物治療の位置づけと方法 高橋 結花 

抗精神病薬の副作用とモニタリング  栗原 正亮

服薬支援におけるコミュニケーションのポイント  大岩 眞二

今月の話題

11 平成27年度厚生労働省予算  日本薬剤師会

112 処方・調剤・保険請求のQ&A  日本薬剤師会

Topics

3 薬局の検体測定事業の手引き公表

特 集

統合失調症患者の理解と支援

CONTENTS

2015Vol.21 No.6

6

日本薬剤師会監修の頁

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聞いて納得! 薬剤師注目の急上昇ワード④健康な食事とは  武見 ゆかり 

45 新薬くろ~ずあっぷ171

ルティナス膣錠100mg 朽津 彩子,小村 誠,石川 洋一

67 処方監査や疑義照会で検査値を使いこなす⑨PT-INRを把握しワルファリン適正使用につなげよう  眞継 賢一,三宅 健文,一二三 奈津子

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新連載 医薬品適正使用のためのファーマシューティカルアセスメント①浮腫(むくみがある)―前編― 立野 朋志,尾上 洋 

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薬剤師によるケアロードマップ―計画的・継続的ケア支援ツール―⑨気管支喘息ケアロードマップ 吉田 美咲,早川 達 

91 サプリメント・プロファイル⑱―完サプリメントを安全に利用するには 梅垣 敬三 

94 在宅医療の現場から⑧―完在宅でのお薬手帳の保管場所はどこ? 髙﨑 潔子 

97 薬局ヒヤリ・ハットなくし隊がゆく57

処方せんの2枚目が患者のカバンの中に! 澤田 康文 以外は,じほう編集の頁

54 Dr.ハザマのここだけの話⑱―完薬学生の美しい誤解にのってみよう!

狭間 研至 

107 Report感染症治療ガイド2014年改訂版を解説第89回日本感染症学会学術講演会

60 Rx news 62,64 ときのことば 128 新製品情報 131 日本薬剤師研修センターだより 58 次号予告 138 『調剤と情報』ご愛読者アンケート&プレゼント

108 一歩上をいく! エキスパートの仕事②4日間の抗菌薬投与で 溶連菌感染症は治った?

117 ギモンを解決! 気になる薬のQ&A③メトホルミン  富樫 真実子,堀 美智子

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 統合失調症を心の疾患ととらえると患者との接し

方がわからなくなる場合がありますが,神経の疾患

ととらえ,ゴールを明確にすることで薬を通したサ

ポートが行いやすくなります。

 今月号の特集では,統合失調症患者のケアに必要

な疾患・治療薬・副作用の基本的な知識と,薬局

店頭で使えるコミュニケーション術を紹介します。

■ 統合失調症とは ………………………… 14

■ 薬物治療の位置づけと方法 …………… 16

■ 抗精神病薬の副作用とモニタリング …… 24

■ 服薬支援におけるコミュニケーションのポイント ………… 28

特集

統合失調症患者の理解と支援

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統合失調症患者の理解と支援特 集

24 調剤と情報 2015.6(Vol.21 No.6)(668)

はじめに

2002年の厚生労働省社会保障審議会障害者部会精神障害分会の報告書は,精神科医療に関わる医療従事者に大きなインパクトを与えた。その内容は,長期間の入院生活に起因した,社会生活を送るうえでの生活能力の低下や住居がないなどの環境要因の不足により,入院を余儀なくされている患者を7万2,000人と推定し,今後10年間で退院させ,ひいては世界的にみても精神病床数が突出して多いわが国の精神科病床数1)

を減少させ,地域医療でまかなおうというものだった(2015年現在でそれが達成しているとは言い難い)。

このような変化により,統合失調症治療のゴールは社会復帰となった。これに伴い,薬剤師に求められる機能も変わってきた(図1)。本稿では,抗精神病薬による副作用を予防あるいは軽減するための方策,薬剤師としての視点などについて述べたい。

副作用の種類と投薬・指導時のポイント

1 錐体外路症状黒質線条体系ドパミン神経を遮断することにより起こる副作用。パーキンソン病様症状を主とし,①4~8Hzの四肢の振戦

②肘関節の歯車現象などの筋強剛③小股歩行,突進歩行,腕の振りの減少などの歩行困難

④仮面様顔貌,作業時間の延長などの動作緩慢⑤静座不能(アカシジア)⑥持続的な筋緊張(ジストニア)⑦流涎⑧舌,口唇,四肢の不随意運動(ジスキネジア)などがみられる。これらを評価する方法として,一般社団法人日本精神科評価尺度研究会が扱う薬原性錐体外路症状評価 尺 度(DIEPSS)が有 用である(表1)。評価結果を薬歴に記載しておけば,処方変更を行ったり,抗パーキンソン薬を使用したりした場合の錐体外路症状の継時的変化を評価しやすい。不定期ではあるが講習会も開催されている。過去の受講者の約半数は薬剤師ということもあり,参加しやすい。慣れてくれば,投薬指導中にほぼ同時並行でDIEPSSを行うことができる。•投薬・指導時のポイントDIEPSSでの評価は患者が処方せんを持って,薬局に入ってきた瞬間から始める。受付カウンターまでの歩行の程度や,処方せんを渡す時の手の振るえ度合い(振戦の評価は患者に紙を持っていただくとわかりや

抗精神病薬の副作用とモニタリングこごみ薬局 栗原 正亮

図1 治療ゴールの変化による治療の変化

症状を抑えて入院生活を平和的に送る

社会復帰

QOL低下要因2)

 錐体外路障害(60%) 鎮静(50%) 体重増加(50%) 性機能不全(30%)カッコ内はおよその発生率

副作用がゴールの障害→副作用を最小限に抑え,効果が 最大限になる薬剤選択および 投与量模索が重要に

治療のゴール

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ルティナス腟錠100mg (プロゲステロン)

45 (689)調剤と情報 2015.6(Vol.21 No.6)

新薬くろ~ずあっぷ 171

 経腟投与は筋注投与に比べて使用において利便性に優れていることから患者治療満足度が高く3),アドヒアランスの向上が期待できる。 世界にて過去30年間,約500万人といわれる体外受精児に投与された黄体ホルモンのほぼ100%が天然型のプロゲステロン製剤であり2, 4),本剤は体内にて自然に産生されるホルモンと同じ構造の天然型プロゲステロン腟錠である。

2.経腟投与によるプロゲステロン補充の有用性 本剤は,標的臓器である子宮にプロゲステロンを効果的に送達することができるとともに,患者自身により投与できるため通院回数が減り,注射剤にみられるような連日通院の負担や注射部位疼痛を伴うことがなく,患者の時間的および身体的負担を軽減することが期待される。国立成育医療研究センター・不妊診療科(以下,当院)で実際に本剤を使用している患者の印象はおおむね良好である。注射剤のような痛みもなく,通院も少なくて済むため好印象のようである。 体外受精・胚移植または卵細胞質内精子注入法を受ける日本人女性108例を対象に,採卵日翌日から本剤1錠(100mg)を1日2回または1日3回,腟内に最大10週間投

特徴

1.開発の経緯 本剤はARTプログラムの一環として不妊症治療に対する治療薬として,37の国または地域で承認されている(2014年9月現在)1)。 これまで国内では,生殖補助医療(ART)の際の黄体補充を適応症とする黄体ホルモン剤は承認されておらず,天然のプロゲステロン製剤としてはプロゲステロン注射剤の筋肉内投与の適応外使用や院内製剤,輸入による腟剤の使用が行われていた。一方,海外ではプロゲステロン腟剤の使用割合が77%(調査対象の治療周期総数,28万4,600周期/年を100%として)と主流であることが,2012年に行われた世界82カ国408施設のウェブ調査の結果から明らかとなった2)。 このような背景から,日本受精着床学会や患者団体であるNPO法人Fineによりプロゲステロン腟剤の開発の要望書が提出され,第3回「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において,必要性が高いと判断された結果,国内での開発が始まり,2014年9月,本剤が「生殖補助医療における黄体補充」を効能・効果として承認された。

◆ 国内初の生殖補助医療(Assisted Reproductive Technology;ART)における黄体補充を効能・効果とするプロゲステロン腟錠である。

◆ 黄体ホルモンを適切に補充することができ,妊娠継続に寄与する。

◆ 本剤は1回1錠を1日2回または3回,採卵日から10週間(または妊娠12週まで)使用する。妊娠が継続しなかった場合は本剤の投与を中止する。

◆ 専用のアプリケータを用いて腟の奥部に直接挿入する。

P o i n t

国立成育医療研究センター薬剤部 朽津 彩子,小村 誠,石川 洋一

ルティナス腟錠100mg(プロゲステロン)

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PT-INRを把握しワルファリン適正使用につなげよう

67調剤と情報 2015.6(Vol.21 No.6) (711)

PT活性%(基準値:72.7~117.7%)

 正常血漿を100%とした場合のPTの活性値を表す。血液が固まりにくいと低くなる。

PTーINR

 ワルファリン投与患者では,通常PT-INRを1.6~3.0に調節するが,目標とするPT-INRは患者の疾患や年齢などによって異なる。高度な抗凝固効果を目指す場合はPT-INR 2.0~3.0(これは常に確実に2.0を超えるという意味である),軽度の抗凝固効果を目指す場合はPT-INR1.6~2.4とし,基本的には2.0を超えるように投与量を調節する。実際,心房細動による服用例では,PT-INR2.0未満になると血栓症発症の危険性が高まるとの報告がある。 PT-INRは以下の通り,患者プロトロンビン時間を正常プロトロンビン時間で割りつけたもの(PT比)を,ISI(国際感度指数:International Sensitivity Index)で累乗したものである。

INR =ISIPTtest

PTnormal

 ISIはPT測定システム間,施設間の差異をなくす係数(単に感度を合わせるための係数)であるが,一般的に0.9~1.7の範囲が良いとされ,1.0に近いものが望ましいとされている。これは,ISIが低いほど患者プロトロンビン時間と正常プロトロンビン時間との差が大きくなる,いわゆる正常と異常の分離度が良いという観点からの評価である。ISIは,PT測定試薬の添付文書に記載されている。 なお,以下の病態時には延長,短縮することがある1)。【延長】 ・ビタミンK欠乏状態:吸収不全症候群

はじめに

 播種性血管内凝固症候群(DIC),肝硬変,肝臓がん,血友病,潰瘍性大腸炎,クローン病などの診断に血液凝固系の検査がある。この検査には,凝固時間,PT比(プロトロンビン比),PT活性%,PT-INRなどいくつかの検査法がある。 今回は心房細動治療のためにワルファリンを服用している患者の薬剤適正使用に必要なPT-INRを取り上げ解説する。

臨床検査値をチェック!

全血凝固時間(正常値:10分±2分)

 静脈血を採取し,その採血時から血液の流動性が消失するまでの時間を測定する方法。 内因系凝固因子の欠乏, 循環抗凝血素の存在,線溶亢進などで異常となり,そのスクリーニング検査として用いられていたが,PT,APTTが一般的に用いられるようになり,あまり行われなくなってきた。

PT(プロトロンビン時間)(基準値:血液が凝固するまでの時間が,10~13秒なら正常)

 採取した血液の血漿部分に試薬(クエン酸ナトリウム)を入れ,37℃の水槽中で凝固(フィブリンが析出)するまでの時間を計る。秒単位のため,数値が狂いやすく,普通は3~4回繰り返して検査する。凝固反応の外因系と共通系の凝固異常を調べる検査である。

PT比(プロトロンビン比)

 患者プロトロンビン時間を正常プロトロンビン時間で割りつけたもの。

「処方監査や疑義照会で検査値を使いこなす」

PT-INRを把握しワルファリン適正使用につなげよう

関西電力病院薬剤部 眞継 賢一西陣病院薬剤部・医薬品情報室 三宅 健文田辺記念病院臨床薬剤部 一二三 奈津子

第9回

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75調剤と情報 2015.6(Vol.21 No.6) (719)

2.聴き取り・コミュニケーション 薬局の薬剤師として最初に行う大事なポイントは聴き

1.症例提示 新規の患者Aさん(69歳女性)が,処方せんをもって来局されました。処方内容は右の通りです。 服用開始後2年経過しているとのことです。お薬手帳も持参されましたので,併せて確認しました(図1)。 初回質問表において,特に問題となることはありませんでした(図2)。

●はじめに●

ファーマシューティカルアセスメントとは,「適切な薬物療法を実施・提案するために,薬剤師が行う聴き取り・フィジカルイグザミネーション*・検査データや他職種から得た情報やデータなどを活用し,薬学的視点をもって包括的に評価すること」を指して,筆者らが提唱している概念です。難しいように感じるかもしれませんが,実際には薬剤師が日常の服薬支援で行っていることを言

葉に表したもので,決して難しいものではありません。薬局窓口でできることは,当然在宅医療の現場でも行えます。逆もしかりです。ファーマシューティカルアセスメントを行う流れの例を示します。 *身体検査

患者の状態をしっかりと把握し,問題点を抽出する(聴き取り・コミュニケーション)

フィジカルイグザミネーション・検査データや他職種から得た情報やデータなどを活用する(情報を活用する)

薬学的視点をもって包括的に評価する(アセスメントを行う)

アセスメントを活用する(疑義照会や服薬支援)STEP

1 ~STEP

4 の流れを,症例を基に確認しながら,ファーマシューティカルアセスメントを紐解いていきましょう。今回は,

STEP

1 ~STEP

2 について解説します。

STEP

1STEP

2

STEP

3STEP

4

患者の状態をしっかりと把握し,問題点を抽出する(聴き取り・コミュニケーション)

STEP

1

浮腫(むくみがある)-前編-第1回

薬剤師フィジカルアセスメント 研究会(P-PAL)津山調剤薬局株式会社 立野 朋志株式会社ファーマシィ 尾上 洋

医薬品適正使用のための

新連載

ファーマシューティカルアセスメント症例からみ

ミコンビ配合錠AP   1錠(テルミサルタン・ヒドロクロロチアジド配合錠)1日1回 朝食後  28日分

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気管支喘息ケアロードマップ

81調剤と情報 2015.6(Vol.21 No.6) (725)

気管支喘息ケアロードマップ中村記念病院薬剤部 吉田 美咲

北海道薬科大学薬物治療学分野 早川 達

薬剤師によるケアロードマップ─計画的・継続的ケア支援ツール─ 9

 2014年6月施行の改正薬事法および薬剤師法では,薬剤師は「患者またはその看護に当たっている者に対し,必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない」(下線筆者)とされた。処方せんに基づく情報提供義務から,服用後の有効性・安全性確保までの管理・指導義務を求められたのは大きなパラダイムシフトである。しかし,服薬指導に必要な情報は数多くあるが,それらの情報をどのタイミングでどのように利用するかの観点で述べたものは少ない。そこで,本連載は薬局薬剤師が継続的に患者ケア(情報収集,指導,確認)をするための時間軸を取り入れた「ケアロードマップ」を疾患ごとに提示し,それを解説するものである。 これは,薬剤師の日常業務に少しだけ計画性と継続性をもたせて指導と確認を行うことによって,患者ケアの向上に役立ててもらうことを趣旨としている。これから治療を開始する初回来局の患者には,「気管支喘息ケアロードマップ」に従って,各種情報,製薬企業提供の資材・支援ツールなどを利用しながら,できる範囲で時系列的に指導・確認を継続していただきたい。経過途中の患者であってもケアの要素は一緒である。この場合も適宜指導・確認をしていっていただきたい。その結果として,6カ月後ないしは1年後の患者コンプライアンスの向上と良好な臨床効果が得られることを期待する。 ぜひ,日常業務に少しだけ「患者を思う気持ち」を加えて,「気管支喘息ケア」に参画する薬剤師の1人となっていただきたい。患者のために! 私たちの未来のために!

気管支喘息

 気管支喘息は,気道が慢性的な炎症を起こしている状態であり,気道過敏性の亢進と可逆的な気道狭窄を特徴とする。慢性炎症により気道が障害を受け,修復を繰り返すことで気道狭窄が不可逆的になり,気管支喘息の難治化につながる。 平成23年度厚生労働省患者調査では,気管支喘息患者数は104万5,000人とされているが,これはあくまで継続的な治療を受けている人数であって,未治療者の数を含めると患者数は約800万人に上る1)といわれている。喘息死の数は年々減少傾向にあるが,平成25年度厚生労働省人口動態調査では人口10万人対で1,700名以上と決して少なくはない。 気管支喘息の治療目標は,治療による副作用なしに健常人と変わらない生活を送り,正常に近い肺機能を保ち,喘息死を回避することである。言い換えると,適切な治療を行えば健常人と何ら変わらない日常生活を送れるということである。 気管支喘息の治療は,吸入ステロイド薬による薬物治療がメインとなる。一般的にステロイド薬は誤解を受けや

すい薬剤であることと,確実な吸入手技が治療に影響することから,患者教育がより重要となってくる。気管支喘息治療において薬剤師は,単なる服薬指導にとどまることなく,患者と信頼関係を築き,患者背景やライフスタイルも考慮した一歩踏み込んだケアを行う必要がある。

ケアロードマップの構成とポイント

 ケアロードマップには,横軸に時間軸,縦軸に薬剤師が行う指導項目・確認項目を示した。 気管支喘息は吸入器を用いて治療を行うため,吸入手技を確実に理解してもらう必要がある。また,呼吸機能によって吸入の可否を見極めることも重要であるため,吸入手技の指導と確認では患者による実演を行う。治療評価は,症状が安定するまでは1~4週間ごと,安定してからは3カ月ごとに行う。副作用なく薬物治療を継続できることが喘息治療の目標の一つなので,不適切な治療を漫然と行わないように定期的(3カ月ごと)に評価する。

1.初回「服薬上の注意」,「発作時の対処法」 確認事項として最重要となるのは重症度である( 1 )。

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97調剤と情報 2015.6(Vol.21 No.6)

▶▶処方せんの2枚目が患者のカバンの中に!

(741)

ケース1 ベテランの医師がパナルジンの処方を 間違うはずがない!

発生場面は?カテゴリー① 処方設計・チェックと治療のチェック

処方内容は?患者:70歳の男性,病院の内科

Rp.

パナルジン錠100mg 2錠

1日2回 朝・夕食後 28日分

初めての来局であり,過去の薬歴もない。薬剤師から

の患者インタビューには,きちんと対応している。

何が起こった?

 パナルジンが初回投与にもかかわらず4週間分処方

されていた。処方せんを応需した薬局薬剤師は,病院

の薬剤部に疑義照会したが,病院薬剤部の判断のみで

28日分処方のままとなり,「そのままお薬をお渡ししてください」との返答であった。

薬局ヒヤリ・ハットなくし隊がゆく

処方せんの2枚目が患者のカバンの中に!

第57回

隊長 東京大学大学院薬学系研究科育薬学 澤田 康文

▶▶どのような経緯で起こった?

 薬局薬剤師による患者インタビューで,2週間後の来院,さらに種々の検査の予定はないとのことであったため,病院の薬剤部に疑義照会した。しかし,処方医師は当該病院以外のほかの公立病院より週に1度診察に来ていたため,病院薬剤師にとっては顔なじみでもないし,さらにベテランの医師であるとの判断から連絡を取ることをしなかった。したがって,病院薬剤師の判断のみで28日分処方のままということになってしまった。 数日後,月に1度の当該薬局と病院(病院薬剤師と医師など)との定期打ち合わせにて,薬局薬剤師が本件に関して医師(当該処方医とは別の勤務医)へ相談したところ,「初回に28日分処方することはあり得ない」とのことから病院薬剤部へ対処するようにとの連絡があった。その後,病院薬剤師が処方医師に連絡を取ったところ,パナルジンの投与期間制限については認識していなかったこと,常勤している公立病院では28日分の処方が多かったことなどのため,つい28日分処方してしまったということであった。 処方は14日分に変更となり,薬局薬剤師は患者宅に連絡して,2週間後に来院して診察や検査を受けるように伝え,患者も同意した。残りの14日分のパナルジンは薬剤

 薬局,患者宅(在宅)において,医薬品が関係したインシデント・アクシデントの例は枚挙にいとまがありません。これら

の原因として,薬剤師や医師などの医療従事者の薬学的知識,技能・技術と医療従事者としての態度の問題や,医療施設

における薬剤関係のシステムの問題などが考えられます。結果的に多種多様なトラブルが発生しています。その発生場面を

大きくカテゴリー分類すると,①処方設計・チェックと治療のチェック,②一般調剤業務,③患者への指導・説明―な

どに分けることができます。今回も,これらカテゴリーにおいて発生した代表的事例を紹介しましょう。

  ● ケース1:ベテランの医師がパナルジンの処方を間違うはずがない!

  ● ケース2:処方せんの2枚目が患者のカバンの中に!

  ● ケース3:代理人から情報が伝わらないためにコンプライアンス不良に