当町初の創作太鼓「佐比内金山

太鼓」が今年、創設30周年を迎えま

した。創設記念誌によると、昭和61

年11月14日に佐比内小学校校舎新

築記念事業として佐比内金山太鼓

の創設が決定。62年５月28日に都

南太鼓から指導を受け、９月27日

には佐比内小学校で「佐比内金山

太鼓創設発表会」が開催されまし

た。

　「子どもたちにふるさとの伝

統文化や地域の誇りを伝えたい」

「創作太鼓の活動によって地域を

活性化させたい」という地域の願

いとともに、地域一丸となっての

取り組みでした。

　特集では、今年３月に矢巾町田

園ホールで昼夜２回開催された

創設30周年記念公演「ＴＨＥ

ＫＩ

ＮＺＡＮ」やオーストラリアでの

演奏の様子を写真で紹介すると

ともに、日々佐比内金山太鼓の練

習に励む若衆の皆さんから、その

魅力を伺いました。

響け世界へ、新たな鼓動、胸打つ感動

佐比内金山太鼓

創設30周年

特集

2

3 紫波ネット 2017年 7月号

　佐比内地区は町の南東部にあり、約３５０世帯１０００人が暮らす

緑豊かな山々に囲まれた農村地域。佐比内地区は約４００年前、金の

産地として栄え、全国から鉱員が集い、最盛期には1万3千人を数え

たといわれています。

　佐比内金山太鼓は「歴史を太鼓にのせて活ある里づくり」をキャッチ

フレーズに、昭和62年5月28日に創設。かつての産金で栄えた華やかな

佐比内の歴史を背景に、「子どもたちに文化を伝え残したい」という思

いで、地域が一丸となって誕生した当町初の創作太鼓です。

　毎年８月14日には、佐比内金山祭を開催。保育所、小学校、中学校、

若衆、親子、シルバーと年代ごとにチームを作って演奏が行われ、伝承

活動に力を入れています。

　創設5周年、10周年、15周年、20周年、25周年、そして30周年と記念

となる節目の年には、記念公演

を重ねてきました。県内のイベン

トへの参加はもちろん、公演活動

は、岩手から東北へ、東北から全

国へ、そして世界へと広がり、「佐

比内金山太鼓」の名を世界へと

轟かせています。

　佐比内金山太鼓の主な拠点は

佐比内小学校。佐比内地区だけ

でなく、町外からの参加者も多

くいます。練習は毎週火曜日と

金曜日の週2回。日々、各種イベ

ントに向けて熱のこもった練習

が行われています。

佐比内金山太鼓とは

　創設当時、私は専業農家で、町のはずれ

にある佐比内が遅れている地域だと思って

いました。金山太鼓の創設に大きく影響を

与えたのは、当時佐比内小学校で教頭を務

めていた俵博先生でした。俵先生からいた

だいた「サミュエル・ウルマン」の詩の一節に

は、こう書かれています。

　〜若さとは人生のある時期のことでは

なく、心のあり方のことだ。人は歳月を重

ねたから老いるのではない。理想を失うと

きに老いるのである。歳月はひふにしわを

刻むが、情熱の消滅は魂にしわを刻む。若

くあるためには、易きにつこうとする心を

叱しった咤する冒険への希求がなければならな

い。〜

　私たち大人は「太鼓によって、子どもたち

にふるさとの誇りを与えたい」という俵先

生の熱意、そしてサミュエル・ウルマンの詩

を語る真し

んし摯

な思いに心を動かされました。

俵先生の情熱が金山太鼓を誕生させたと

言っても過言ではありません。

　金山太鼓が今日まで続いている歴史の

中で、公民館の役割は大きかったと思いま

す。特に地域の人たちが地域の将来を真剣

に考えるようになった昭和62年ごろから、

公民館長や指導員には、金山太鼓の発展に

力を注いでいただきました。本当に感謝し

ています。

　今後は、少子高齢化の中でも太鼓の技や

精神などを伝えていくための方法を考え

たいと思っています。老いも若きも笑顔で

喜んで太鼓を打っている姿を見ると、みん

な金山太鼓を生きがいにしてくれている

のだなと感動します。この感動をこれから

も伝えていきたいです。

　佐々木さんは、昭和62年の創設時には若衆約30人をまとめる演技部の副部長で、

平成20年からは保存会会長を務めています。太鼓に取り組むことが決まった当時の

記憶をたどりながら、佐比内金山太鼓(

以下、金山太鼓)

に寄せる思いを伺いました。

自分の地域を

誇りに思って

ほしかった

佐比内金山太鼓保存会会長　佐々木 武さん

佐比内金山太鼓創設発表会（昭和62年9月27日）

4

自然と人に根ざした芸能が

各地域にある町

紫波ネット（以下司会）　はじめに紫波

町の魅力を一つ教えてください。

沼田（舞）さん　町の魅力といえば、自

然が豊かなところです。小学生のころ、

校舎の裏山に秘密基地をつくって遊ん

でいました。この辺に住んでいて良かっ

たなと思えることの一つです。

沼田（充）さん　私はこの町の落ち着い

た空気が好きです。町の景色を見ると

水と緑のバランスが非常にいい町だな

と感じます。また、佐比内地区は他の地

区に比べて人が少ないですが、人と人と

のつながりが濃いと思います。

佐々木さん　佐比内の魅力になります

が、佐比内小学校で行われている桜の

花見給食が好きでした。この他にも、少

年消防クラブやわんぱく相撲など、他

の地区にはないような取り組みがあっ

たように思います。

平山さん　佐比内地区には、おもしろ

いことを考える人が多いと思います。

パワーのある個性的な人たちがたくさ

んいて、「やってやるぞ」という精神を感

じます。毎年８月に行われる金山祭に

さまざまな人が集まってきて、地域のつ

ながりを感じます。大きい家族のよう

だなと思いました。

高橋さん　町内各地に自然と人と、そ

れに根ざした芸能があり、大人も子ど

もも関係なく、地域で取り組んでいるの

はすごいことだと思います。自然が残っ

ているからこそ人も芸能も育つのだと

感じます。

金山太鼓を伝えていく

立場になりたい

司会　佐比内金山太鼓は、皆さんにとっ

てどんな存在ですか。

沼田（舞）さん　私が保育所に通ってい

たころは、すでに幼年太鼓がありまし

た。また、今日一緒に参加している父、

そして母も金山太鼓に取り組んでいた

ので、気付いたら自分も金山太鼓をやっ

■佐比内金山太鼓の歩み

○昭和61年

11月14日　佐比内小学校校舎新築記

念事業として「金山太鼓」創設決定

○昭和62年

5月28日　都南太鼓の指導を受け

る

※創設記念日

9月27日　佐比内金山太鼓創設発

表会（佐比内小学校）

○平成元年

3月21日　都南太鼓・佐比内金山太

鼓姉妹会盟約式

8月14日　第1回佐比内金山祭

※以後毎年開催

○平成4年

11月22日　創設5周年記念式典（佐

比内公民館）

○平成6年

9月25日

東北太鼓フェ

スティバル（秋

田県田代町）

○平成9年

11月16日

佐比内金山太

鼓創設10周年記念式典（佐比内小学

校）

○平成10年

3月1日　「わ太鼓‘98」佐比内金山

太鼓創設10周年記念公演（矢巾町田

園ホール）

○平成14年

5月4〜8日　創設15周年として

「ニューヨーク和太鼓コンサート

２００２」に参加

座談会参加者（左から）平山 真希さん、沼田 舞

ま り え

莉枝さん、沼田 充範さん、高橋 環

たまき

さん、佐々木 勉さん■開催日時　５月30日(火)　午後７時～９時■会場　佐比内公民館

座│談│会

沼田 充範さん(副会長)

佐比内出身・在住57歳 会社役員

沼田 舞莉枝さん佐比内出身・盛岡市在住

28歳 保育士

若衆が語る「佐比内金山太鼓」の魅力

5 紫波ネット 2017年 7月号

ていました。学生時代に地域から離れ

た期間もありましたが、トータルで23

年間ほど金山太鼓に関わっています。

　

中学生のころ「太鼓はやらされてい

るのではない。やりたい人を集めよう」

と思い、13人ほどのメンバーでジュニア

チームを結成しました。

司会　その経験は、自分にとってどんな

意味があったと思いますか。

沼田（舞）さん　「地元とつながった」と

感じました。自分たちの世代は、太鼓に

対して良い思い出がたくさんあります。

「太鼓をやっていて良かった」と言って

くれる友達が多いです。当時のメンバー

のうち、現在残っているのは私だけです

が、金山太鼓は家族とのつながりでも

あり、なくしたくない存在です。私が金

山太鼓を伝えていく立場になりたいと

思っています。

都南太鼓の練習場で見た

生演奏に感動

司会　副会長には、創設時に地域の皆

さんがどんな思いで金山太鼓に取り組

んでいたのか、その後の歩みも含めてお

話を伺いたいと思います。

沼田（充）さん　佐比内小学校の新築記

念事業として、当時の校長先生と教頭

先生に動いていただきました。「子ども

たちに和太鼓をやらせたい」という思い

から地域みんなで立ち上がりました。

創設時に都南太鼓の練習場に行って、

実際に太鼓を打つところを生で見まし

た。見た瞬間に感激し、感動しました。

なぜかわからないのですが、涙が止まら

なくなりました。それくらい強烈な音

でした。一瞬で魅了され、30年という月

日が過ぎました。

存続の危機を乗り越え、

若者たちも参加

司会　創設から時を経て、どのように

発展してきたのでしょうか。

沼田（充）さん　10周年までは、ゆるや

かな登り坂の時期だったと思います。一

方で、危機的状況もありました。子ども

たちが小学校を卒業すると同時に太鼓

をやめて、一緒に取り組んでいた家族

も抜けていきました。団体としての人

数が少なくなっていき、5年目が最大の

危機の時期でした。私自身は「自分一人

でもやる」という気持ちが強くありま

したが、「これではいけない」となって、新

曲「阿あ

うん吽」を作曲しました。これが好評

で、さまざまな公演に出させていただく

ようになりました。10周年では「灼し

ゃくねつ熱」

を作曲し、少しずつ盛り上がっていきま

した。

　若者たちが集まってくるようになった

のは、20周年ころからですね。その一人

が、高橋くんです。20周年を過ぎたあた

りから急激に活動の場が増えていきま

した。今では、年間50回を超えるペース

で公演を行っています。現在は、公演な

どを任せられる若衆が15人ほどいます

が、私が経験した30年の中では、今が頂

点だなと感じています。

金山太鼓が変わるきっかけ

「鼓こ

どう童

」の公演

司会　佐々木さんにとっての金山太鼓

は、どのようなものですか。

佐々木さん　私は、平成3年に金山太

鼓を始めました。新潟県佐渡市を拠点

に太鼓を中心とした芸能活動を行って

いる太鼓芸能集団「鼓童」の公演が、当

時の大廹町で行われると聞いて見に行

きました。プロの太鼓を見ると自分た

ちの地域の太鼓は彼らの10分の１ぐら

いの迫力しか無いと感じ、カルチャー

ショックを受けました。金山太鼓が変

わっていくきっかけになったと思います。

　

現在は事務局を担当しています。10

10月20日　全国太鼓フェスティバル

（陸前高田市）

○平成18年

3月2〜6日

アップル＆グ

レープ・ハー

ヴェストフェ

スティバル

２００６（オー

ストラリア・ス

タンソープ）

○平成19年

3月4日

創設20周年記念公演「響〜更なる飛

躍〜」（矢巾町田園ホール）

○平成20年

2月13日

草の根訪問

「こんにちは

知事です」

「元気なコミュ

ニティ１００

選」選定書交

付式（佐比内

公民館）

○平成24年

2月26日　「みんなの心ひとつに」創

設25周年記念公演（矢巾町田園ホー

ル）

○平成27年

8月20日　全国中学校総合文化祭

２０１５（東京都調布市）

○平成28年

3月5日　アップル＆グレープ・ハー

ヴェストフェスティバル２０１６（オー

佐々木 勉さん(事務局長)

佐比内出身・在住 47歳団体職員

6

周年、20周年などの記念公演では、公演

の企画を担当しました。もともと準備

や企画をするのが好きなので、苦になり

ません。いつもどうすれば人が集まるの

かを考えながら企画を練っています。

興味本位から本気になるまで

司会　平山さんと高橋さんは、どんな

きっかけで金山太鼓を始めたのですか。

平山さん　私は約２年前に金山太鼓を

始めました。きっかけは、職場の上司から

「太鼓の練習があるから一緒に来る？」

と誘われ、興味本位で佐比内小学校での

練習を見に行ったことです。その日のう

ちに基礎練習を始めましたが、太鼓を打

つのが気持ちいいと感じました。また、

メンバーの皆さんも「気軽に来ていい

よ」と言ってくれたので、練習に通い始め

るようになりました。練習はみんな本気

で取り組んでいます。良い意味で、やめ

られなくなりました。もっと叩けるよう

になりたいと本気で思いました。

高橋さん　私は小学校のころから金山

太鼓をやっています。高校生から23歳こ

ろまで、洋楽のバンドに夢中になって、

金山太鼓からも地域からも離れていま

した。

　

22歳のころ佐比内地区に戻り、地元

でドラマーとしてバンド活動をしてい

ました。そのころ「金山太鼓の既存の曲

にドラムの音を乗せてみたいので、一度

見学に来てみないか」と誘われて、ドラ

マーとして練習を見に行きました。

　そこで太鼓を打ち込む姿や迫力ある

太鼓の音にとても感動しました。上手

下手ではなく、腹の底に「ガツン」と来る

ものがありました。テクニックなどでは

なく、気持ちがぶつかり、融合していく

ように感じました。

金山太鼓への熱い思い

司会　町内外で活動していて、金山太鼓

は人々からどんな反応がありますか。

沼田（舞）さん　「何でそんなに熱くな

れるのですか」と聞かれたことがありま

した。思いがあって取り組んでいること

は、見ている人に確実に伝わります。う

そはつけないのだと感じています。

佐々木さん　「なぜ太鼓なの」「たかが

太鼓でしょ」という人もいましたが、実

際に演奏を見てもらうことで評価が変

わりました。うそのない熱い気持ちは、

人に感動をもたらすと感じます。

平山さん　30周年の記念公演では、経

験を生かしてダンスを披露しました。

太鼓だけでなく、新しい手法による公

演が金山太鼓の新しいファンを増やす

きっかけになると思います。

高橋さん　公演などを見た人々からは

「楽しそうに打っているね」「若い人が

いっぱいいるね」と言っていただきます。

どんな場所に行っても、どんなメンバー

でも、「佐比内金山太鼓ってすごい」と言

われるように、頑張っていかなければい

けないなと思います。

沼田（充）さん　おかげさまで、町外か

らの若者も増えつつあり、公演には多く

のお客さまに足を運んでいただいてい

ます。今後、40年、50年と活動が続いて

いけば、本当の保存会になっていくのだ

と思います。まだまだ金山太鼓は伸び

ると思います。それだけの力量があり

ます。末永くご支援をよろしくお願い

します。

司会　本日は、貴重なお話をありがと

うございました。

ストラリア・サザンダウンズ）

10月9日　希望郷いわて国体自転車

競技会（佐比内サイクルパーク）

○平成29年

3月5日　創設30周年記念公演「Ｔ

ＨＥ

ＫＩＮＺＡＮ」（矢巾町田園ホー

ル）

高橋 環さん佐比内出身・盛岡市在住

35歳 会社員

平山 真希さん大船渡市出身・盛岡市在住

24歳 会社員

第29回佐比内金山祭 Kinzan festival　佐比内金山祭では、保育所、小学校、中学校、若衆、親子、シルバーと年代ごとに、総勢約230人による演奏が行われます。■日時　8月14日(月) 午後４時～■会場　佐比内小学校グラウンド 特設ステージ■問合せ　佐比内公民館　☎・FAX 674-2626 　*sahinai.kinzandaiko@gmail.com　佐比内金山太鼓保存会ホームページ　http://www.echna.ne.jp/~kinzan/

7 紫波ネット 2017年 7月号