基礎講座 各滅菌器の概要と正しい使い方...基礎講座...
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基礎講座
各滅菌器の概要と正しい使い方 ~高圧蒸気滅菌器~
チヨダエレクトリック(株)
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内容
・医療機器の滅菌法選択
・高圧蒸気滅菌の原理及び注意点
・高圧蒸気滅菌の残留空気排除方法
・滅菌のモニタリング
・高圧蒸気滅菌器の取扱い及び管理
画像はGoogle「歯科 滅菌」検索より引用
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表 主な滅菌法とその特徴
滅菌法 原理 特徴、使用上の注意
高圧蒸気滅菌 飽和蒸気による蛋白質の熱変性
・滅菌条件(115~135℃、30~8分)に耐えられればもっとも安全で確実な滅菌法
・滅菌物を詰め込みすぎたりで、空気が残留すると滅菌が阻害される
酸化エチレンガス滅菌
EOによる蛋白
質のアルキル化
・高い浸透性と比較的低温で滅菌が可能である
・残留毒性がある為エアレーションが必要である
・特定化学物質のため法的対応が必要である
過酸化水素ガス滅菌
過酸化水素から生じるヒドロキシラジカル等による細胞膜などの損傷
・低温、低湿下で滅菌が可能、
・滅菌後は直ちに使用可能(エアレーション不要)
・天然素材の布、紙、セルロース製品、液体、粉末は不可
「ポケット版 感染対策ハンドブック」小学館より一部改変
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医療機器の洗浄、滅菌
洗浄及び滅菌法の選択については、
• 各器材の添付文書を参照して、適切かつ確実に実施する
• 複数の方法が選択できる場合は、各洗浄法ならびに滅菌法の特徴を理解し、再生費用も考慮して選択・実施する
• ※添付文書:薬機法に基づき作成される公文書で、医薬品、医療機器等において、警告や使用上の注意、品目仕様その他の重要事項を記載した使用者向けの製品情報を記載した書面(ウィキペディアより引用修正)
• 医薬品医療機器総合機構(PMDA)で無料で閲覧できる • http://www.info.pmda.go.jp/info/iryou_index.html
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医療機器の添付文書には、
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医療機器の添付文書には、
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高圧蒸気滅菌の原理
• 滅菌器の容器内で残留する空気と滅菌剤である飽和蒸気を入れ替えて、
• 適当な温度及び圧力の飽和蒸気で滅菌物を加熱することにより、
• 飽和蒸気が飽和水に戻るときに放出する熱エネルギーによって微生物を死滅させる
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飽和蒸気
凝固
空気
蒸気
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高圧蒸気滅菌の基本的パラメータ
1 時間 2 温度 3 飽和蒸気(湿度)
飽和蒸気により、滅菌物が所定の温度まで上昇し、設定された時間維持されること
〈ポイント〉
• 適切な収容方法と収納量
• 滅菌前の十分な空気排除
• 飽和蒸気の使用
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滅菌処理中に空気が残存すると、
所定の圧力における飽和蒸気の温度に達しない。(飽和蒸気でないから、)
改訂第4版 医療現場の滅菌 へるす出版 Ⅵ高圧蒸気滅菌 P54より
空気の残留が滅菌に与える影響
図1 真空動作3回 図2 真空動作2回
パック内温度 パック内温度
温度上昇に注目 温度上昇に注目
空気除去回数が少ないから
温度上昇に時間がかかる
滅菌不良発生のリスク
滅菌物の内部では、(イメージ)
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空気
滅菌物
空気
蒸気
残留空気が完全に排除されない場合
空気がバリアとなって飽和蒸気の浸透を妨げてしまう⇒温度が上がらない
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残留空気の排除方法
1.重力加圧脱気式 缶内にて蒸気を発生又は蒸気を導入し、加圧及び蒸気と空気の重量差を利用して、残留空気を排出する方式
重力置換型の例
2.真空脱気プリバキューム式 真空ポンプによる強制空気排除を行ってから、缶内に蒸気を供給して、滅菌工程に入る。
真空排気型の例
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空気排除の方式
1.重力加圧脱気式 缶内にて蒸気を発生又は蒸気を導入し、加圧及び蒸気と空気の重量差を利用して、残留空気を排出する方式
重力加圧脱気式の例
真空脱気プリバキューム式に比べ、空気排除の不良が懸念される
真空ポンプが無いため、缶内は真空にはならない
圧力
時間
新版 増補版 消毒と滅菌のガイドライン へるす出版 P.151 図2D-5
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空気排除の方式
2.真空脱気プリバキューム式
真空ポンプによる強制空気排除を行ってから、缶内に蒸気を供給して、滅菌工程に入る。
真空脱気プリバキューム式の例
・空気排除を1回のみ行う場合、
・蒸気導入とを複数回繰り返す場合、また蒸気導入を陽圧まで行う場合などいくつかの方式がある
新版 増補版 消毒と滅菌のガイドライン へるす出版 P.152 図2D-7
ボウィー・ディックテスト
プリバキューム式高圧蒸気滅菌器において、滅菌器チャンバー内の空気除去が適切に行われ、かつ適正な滅菌用蒸気が供給されたことを確認する試験方法 ISO-11140-3,4,5にて規定されている。
医療現場における滅菌保証のガイドライン2015 10.化学的インジケータ 132頁より
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ボウィー・ディックテスト結果例
図3 真空動作2回/3回
暖機運転有り
真空動作3回
判定:合格 (○)
暖機運転有り
真空動作2回
判定:不合格 (×)
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記録計
温度センサー
蒸気 給蒸バルブ
ストレーナー
減圧弁
水
排気排水
空気
給水バルブ
ストレーナー
電磁弁 定流量弁
外筒
内筒
エアー
フィルタ 空気弁
滅菌弁
安全弁 外筒
圧力計
内筒
圧力計
ポンプ弁
排気弁
内筒スチームトラップ
外筒スチームトラップ
真空ポンプ
滅菌物
真空脱気プリバキューム式の基本構造
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真空-真空ポンプ作動と蒸気供給により、内筒内 の空気排除、置換を複数回繰り返す。
滅菌-内筒内に蒸気が継続供給され、飽和
蒸気で滅菌圧力に維持する。
乾燥-真空ポンプが作動し、沸点の低下に
より滅菌物の乾燥を行う。
20 AMMI 院内業務規範より抜粋
被滅菌物の滅菌装置への入れ方
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高圧蒸気滅菌の滅菌物積載例
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滅菌工程のモニタリング
滅菌条件が達成されたことを、以下の方法を 用いて確認し、その結果を記録し保管する ① 機械的モニタリング:圧力計、記録計など 滅菌装置が正常に運転を完了しているかを確認 ② 化学的モニタリング:ケミカルインジケータ 滅菌物が滅菌剤に暴露されたかをインクの変色 で確認(ISO11140-1でタイプ1~6まで分類) ③ 生物学的モニタリング:バイオロジカルインジケータ 抵抗性を示す指標菌の死滅を滅菌後の培養で 確認(ISO-11138により規定、蒸気滅菌用は Geobacillus stearothermophilusで1.0×105以上)
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方法 長所 短所
・いつでも読み取れる
・電源OFFでも確認できる
・細かな値が読めない
・経時変化が把握できない
・記録に残らない
・細かな数字が読める
・複数の項目が確認できる
・経時変化が把握できない
・電源OFFでは確認できない
・記録に残らない
・経時変化が把握できる
・記録に残せる
・複数の項目が確認できる
・細かな値が読めない
・電源OFFでは作動しない
機械的モニタリングの特徴
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化学的モニタリング(CI:蒸気滅菌) 医療現場における滅菌保証のガイドライン2015より
勧告A:病院内滅菌を行っているすべての施設で実行すべき項目 B:病院内滅菌を行っている施設で可能な限り採用すべき項目 C:病院内滅菌を行っている施設で適宜採用すべき項目
名称 適用 勧告
包装外部用CI すべての包装に使用する ※内部用CIが視認可能で識別が容易であれば使用しなくて良い
A
包装内部用CI ・すべての包装に使用する
・滅菌が困難な部位、厳重な包装、手術器械、フラッシュ滅菌には必ず使用
B A
ボウィー・ディックテスト
・前真空タイプには、毎日の運転開始前に実施し、合格を確認
・滅菌器の移設、修理、故障、滅菌不良時は3回連続実施し、合格することを確認
A B
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生物学的モニタリング(BI:蒸気滅菌) 医療現場における滅菌保証のガイドライン2015より
勧告A:病院内滅菌を行っているすべての施設で実行すべき項目 B:病院内滅菌を行っている施設で可能な限り採用すべき項目 C:病院内滅菌を行っている施設で適宜採用すべき項目
適用 勧告
蒸気滅菌工程用に開発されたBIを毎日使用する B
同一滅菌器で複数のプログラムを利用している場合、プログラム毎に使用する
B
インプラントを滅菌する場合は、毎回使用し、陰性結果を確認後に払出す
A
PCDは滅菌が困難と考えられる部位に設置する A
望ましくは、判定結果を確認してから滅菌物の払い出しを行う
B
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1.滅菌物は冷えるまで、 そのままにしておく
・汚染防止や水分の凝結 防止のため
2.滅菌物を目視検査しなが ら取り出す
・CI変色確認、滅菌包装の 完全性
3.滅菌物は冷ましてから、 無菌性保存カバーの下に 置く
滅菌物の取り出し及び検査のポイント
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1.滅菌中に扉に加わる力は?
(135℃滅菌の場合) 扉面積×圧力=66×145×2.16
=20,671kg → 約20トン
「圧力容器」として法規制
2.扉を開く前に、安全を確 認 してください
①行程は完了又は準備
②開扉可表示
③滅菌圧力計が0指示
↓
扉を開く
高圧蒸気滅菌装置は「圧力容器」
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ボイラ及び圧力容器安全規則
高圧蒸気滅菌装置=第1種圧力容器
設
置
届
落
成
検
査
第一種圧力容器検査証交付
使
用
定
期
自
主
検
査
性
能
検
査
使用者側の法規制
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小型高圧蒸気滅菌器のタイプ
EN13060について
備考1 説明は製品と試験用負荷の範囲を示している
備考2 未包装の滅菌済器具は、即時の使用か、あるいは非滅菌の保管、輸送および使用を意図されている。(例えば交差感染防止のため)
小型蒸気滅菌器:滅菌モジュール(300×300×600mm)を収容できない、チャンバー容積が60リットルを超えない
種類 用途の説明
B 包装済、未包装、固体、空洞負荷製品タイプA及び多孔性のすべての製品の滅菌
N 未包装の固体製品の滅菌
S 滅菌器の製造者が指定した製品の滅菌。未包装の固体製品と、浸透性製品、小型の浸透性品目、空洞負荷製品タイプA、空洞負荷製品B、一重包装製品、多重包装製品のうちの少なくとも一つを含む
表1- 滅菌サイクルの種類
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卓上高圧蒸気滅菌器のEN13060による分類と脱気方法
Bタイプ Sタイプ Nタイプ
プレバキューム式 蒸気パルス式 重力置換式
※BタイプとNタイプの違い(見分け方例):圧力計、B&Dプログラム有無
Nタイプの図および重力置換式グラフは、新版増補版 消毒と滅菌のガイドライン へるす出版 P151,156より引用
Bタイプ高圧蒸気滅菌器について
まとめ
• 高圧蒸気滅菌法は、滅菌剤が無害であり、被滅菌物が適用可能であれば、安全で確実な第一優先の滅菌法である
• 高圧蒸気滅菌は、予め缶内および滅菌物内の残留空気を確実に排除しなければならない
• 残留空気を排除する方法は重力加圧脱気式と真空脱気プリバキューム式がある
• 重力加圧脱気式は脱気に時間がかかる
• 高圧蒸気滅菌は、飽和蒸気による熱伝導によりいったん滅菌物が濡れる
• 滅菌方法の選択は添付文書を参照する
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参考文献 ・新版 増補版消毒と滅菌のガイドライン へるす出版
・改訂第4版 医療現場の滅菌 へるす出版
・EN 13060:2004+A2:2010 Small steam sterilizers
・歯科用器材の再生処理 4(通称:黄本) 日本医療機器学会
・医療現場における滅菌保証のガイドライン2015 日本医療機器学会
※歯科クリニック向けの参考文献の一例