米国における業進出 マニュアル ~会社設立~...copyright©2013 jetro. all rights...

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Copyright©2013 JETRO. All rights reserved. 米国における事業進出 マニュアル ~会社設立~ 2014 1 独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ) ニューヨーク事務所 進出企業支援・知的財産部・進出企業支援課

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米国における事業進出

マニュアル

~会社設立~

2014年 1月

独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ) ニューヨーク事務所

進出企業支援・知的財産部・進出企業支援課

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本レポートの利用についての注意・免責事項

本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)ニューヨーク事務所が現地法律事務所

Moses & Singer LLPに作成委託し、2013年 12月現在入手している情報に基づくもの

であり、その後の法律改正などによって変わる場合があります。また、掲載した情報・

コメントは筆者およびジェトロの判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのと

おりであることを保証するものではありませんことを予めお断りします。

ジェトロは、本報告書の記載内容に関して生じた直接的、間接的、派生的、特別の、

付随的、あるいは懲罰的損害および利益の喪失については、それが契約、不法行為、無

過失責任、あるいはその他の原因に基づき生じたか否かにかかわらず、一切の責任を負

いません。これは、たとえジェトロがかかる損害の可能性を知らされていても同様とし

ます。

本報告書にかかる問い合わせ先:

独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)

進出企業支援・知的財産部 進出企業支援課

E-mail: [email protected]

ジェトロ・ニューヨーク事務所

E-mail : [email protected]. jp

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目次

はじめに ..................................................................................................................... 1

第 1章 米国進出 ....................................................................................................... 1

1.1 米国に事業拠点を構築する .................................................................................. 1

1.2 米国で会社をつくる ............................................................................................ 3

1.3 法人化する必要があるか ..................................................................................... 3

第 2章 会社の種類 .................................................................................................... 4

2.1 CORPORATIONとはどういう会社なのか .......................................................... 4

2.2 LIMITED LIABILITY COMPANY(LLC)とはどういう会社なのか .................. 5

2.3 CORPORATIONと LLCの違いは ...................................................................... 5

2.4 LLCを直接子会社とする場合の問題点 .................................................................. 6

第 3章 会社設立 ....................................................................................................... 7

3.1 どの州で会社を設立するべきか ........................................................................... 7

3.2 州外法人登録をして他州でビジネスをする ............................................................ 8

3.3 会社はどのように設立するか .............................................................................. 8

3.4 基本定款を作成する ............................................................................................... 8

3.5 CORPORATION設立後の手続き ...................................................................... 10

3.6 LLC設立に伴う重要な手続き .............................................................................. 11

3.7 会社設立に伴うその他の手続き ......................................................................... 12

第 4章 COPRORATIONの経営 .............................................................................. 13

4.1 株主総会の役割 ................................................................................................. 13

4.2 取締役会の役割 ..................................................................................................... 14

4.3 親会社の法的責任 ............................................................................................. 15

4.4 会社を解散する ..................................................................................................... 16

本レポートに付随する添付資料について ................................................................... 17

添付資料

①Corporationの基本定款

②LLCの基本定款

③Corporationの解散証明書

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米国における事業進出マニュアル

~会社設立~

はじめに

日本の中小企業が米国へ進出する際にはまず事業拠点の設立を考えなくてはなりませ

ん。日本でも株式会社、合名会社、合資会社、合同会社と多種に渡る会社形態がありま

すが、米国においても同様です。会社形態によって、それぞれ法律上、税務上でメリッ

ト、デメリットがありますので、進出目的、業種に合わせた進出形態をお勧めします。

また、本稿では会社形態の他、実際に進出するにあたって必要となる手続きや申請先

などの解説から、一方で米国から撤退する手続きまで幅広く解説をいたします。

なお、本稿の内容は一般情報として提供されており、特定の案件に対する個々の状況

に適した法的アドバイスではありませんので、ご了承ください。個々の状況に適したア

ドバイスを必要とする際には、必ず専門の弁護士にご相談ください。

第 1 章 米国進出

日本の中小企業が米国市場に参入する方法には、どのようなものがあるのでしょうか。

技術提供によるライセンス活動。エージェントやディストリビューター(代理店)を利

用した製品輸出。現地企業とのジョイントベンチャー。効率的に経営資源を獲得するた

めの国際的事業買収など様々ですが、中でも一番オーソドックスなのは、現地拠点を独

自に設立して米国事業に着手する方法です。この章では、中小企業が単独で米国に進出

し、ゼロから事業活動をはじめるにはどのような形態があるか、その概要を見ていきま

す。

1.1 米国に事業拠点を構築する

米国に進出する上で何が事業形態として適しているかについては、以下の4つの点を

検討して決めることになります。

(1)米国で展開する事業の規模や業種

(2)事業登録の要否など、米国進出をスタートするにあたっての容易性

(3)税務上のメリット・デメリット

(4)米国の法的リスクが、構成員や日本の親会社に波及する可能性

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図表 1 非法人事業形態

米国における事業形態は、非法人(駐在人事務所、支店、パートナーシップ)と法人

(会社、LLC)とに分類できます。上で述べた4つのポイントに関して、それぞれの特

徴を挙げていきます。

駐在員事務所 支店 パートナーシップ1

設立方法

登録なし

(本店が)州外法人

として営業登録

一般パートナーシップ2

は、2名以上のパートナー

の合意により成立。有限パ

ートナーシップ3は、事業

を行う州で Certificate of

Limited Partnership(定

款)を登録する。

構成員・親会社の

責任の限度

親会社と別個の法人

格はない。駐在員事

務所の行為は、親会

社の行為とみなされ

る。

親会社と別個の法人

格はない。支店の行

為は、親会社の行為

とみなされる。

一般パートナーシップで

は、全構成員が無限責任を

負う。有限パートナーシッ

プでは一般社員は無限責

任、有限社員は有限責任を

負う。

税務

駐在員事務所は、

「恒久的施設」(事

業を行う一定の場

所)に該当しないた

め、連邦法人税の対

象からは除外され

る。州の租税法の対

象となるか否かにつ

いては要確認。

連邦および州の課税

の対象となる。

二重課税

連邦および州の課税の対象

となる。

パス・スルー課税

(後述)

これらの非法人事業形態を選択して米国進出を果たした後、事業規模が拡大した場合

には、米国ビジネスから発生する債務について構成員が無限責任を負うことを避けるた

め、会社への組織変更(法人成り)をすることが多いようです。では、次に会社を含む

法人事業形態について見ていきます。

1 パートナーシップは 2種類あります。全ての社員が無限責任である一般パートナーシップと、無限責任を

負う社員と有限責任を負う有限社員とで構成される有限パートナーシップです。 2 一般パートナーシップは、信頼できるパートナー(「社員」といいます。)間で、経営や利益分配の権利

などを共有することに合意することで、簡易に形成される組織です。現地企業とのジョイントベンチャーを

行う時によく利用される形態です。一般パートナーシップでは、出資者である全社員が無限責任を負います。

つまり、一般パートナーシップが倒産して借金が支払えなくなれば、社員は、自分の個人財産をもって残り

の債務を返済する義務があります。 3 有限パートナーシップは、少なくとも 1人の一般社員(無限責任を負う)と 1人の有限社員(有限責任を

負う)から構成されます。一般社員が業務の執行を担当し、有限社員は事実上経営権をもちません。

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図表 2 法人事業形態

Corporation Limited Liability Corporation

設立方法 事業を行う州で基本定款の登録 事業を行う州で基本定款の登録

構成員・親会社の責任

の限度

有限責任

有限責任

税務

連邦および州の法人税の対象とな

る。

二重課税4

連邦および州の法人税の対象とな

る。

パス・スルー課税

(Corporation として、二重課税

を選択することも可能)

米国における会社に対する規制は、州ごとに定められています。会社設立や運営につ

いて、日本と同じだろうと思い込むのは危険です。主な州に共通する会社法の基本的知

識を持っておくことは、米国ビジネスを成功させる上で重要なポイントです。

1.2 米国で会社をつくる

日本の中小企業が米国における販売や生産の拠点を単独で構築する場合は、現地法人

を子会社として設立することが一般的です。このような、米国新規事業の基本となる子

会社の形態には、図表 2のとおり、(a) Corporationと(b) Limited Liability

Corporation (以下「LLC」に省略。)が考えられます。

米国で設立される会社は、米国での営利を目的として継続的に営業活動を行う法人で

あり、取引や訴訟の当事者となることができるように、構成員や親会社から独立した法

人格を取得します。Corporationと LLCの両形態では、ともに、法人が構成員とは別

個の法的な主体となり、ビジネスから生ずる責任は原則として法人が負い、出資者は出

資の限度でのみ責任を負うという「有限責任」制がとられています。別の見方をすれば、

この有限責任にこそ、米国事業を法人化する意味があるといえます。

1.3 法人化する必要があるか

米国で本格的な事業活動を開始するための営業準備活動や情報収集、または取引先と

の連絡窓口を暫定的に行う場合、足がかりとして駐在員事務所を設定することがありま

す。または、ある程度の期間や規模の販売・営業を行うための施設として、支店を開く

ことも考えられます。

4 Corporationの中には、パス・スルー課税を受ける「S-Corporation」と呼ばれる形態があります(この形態

を選択しない Corporationは、「C-Corporation」と呼ばれます)。ただし、S-Corporationを選択するには、

株主が「米国市民や永住権者である個人または一定の財団・信託のみに限られる」という要件を満たさなけ

ればなりません。従って、日本法人を親会社とする場合や米国市民権・永住権を持たない者が株主になろう

とする場合には、S-Corporationを選択することができません。

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図表 1に記載したように、駐在員事務所の設立には届出が必要とされません。支店の

設立については、営業を行う州で親会社が州外法人としての営業登録5をします。この

ように、比較的手軽に米国進出をスタートできることが、駐在員事務所や支店を設立す

ることのメリット6です。

しかし、駐在員事務所の活用は、本格的な事業活動へと繋げるための営業準備・

情報収集などに限定され、これを超えると支店として営業登録が必要になるほか、

連邦の課税対象となる可能性があります。また、駐在員事務所や支店は、独立の法

人ではないため、両形態の活動は親会社の行為とみなされます。駐在員事務所や支

店の利用は、米国での訴訟対応の負担や巨額賠償のリスクを日本の親会社が抱える

危険性がある、という点に注意しなければなりません。

第 2章 会社の種類

米国で子会社を設立する場合、法人形態として Corporation または LLC を選択する

ことが一般的です。この2つの形態にはいずれも相応のメリットがあるため、どちらか

が絶対に有利だという正解があるわけではありません。個別の事情に応じてさまざまな

要素を考慮した上で、より適切と思われる方を選択します。

2.1 CORPORATIONとはどういう会社なのか

Corporation は、日本の株式会社に相当する形態です。Corporation は株式を発行し

て資金を集めることができます。大衆から多くの資金を集めることができるという点で、

大規模な事業活動を行うのに適しています。ただし、実際には家族経営の商店から複数

国に展開するコングロマリットまで、さまざまな規模の企業が Corporation 形態を活用

しています。

Corporation の出資者を Shareholder(株主)といいます。株主は会社の実質的所有

者として、出資額の限度でのみ責任を負います。Corporation は、株主とは別個の法主

体として、Corporation の名義で財産を取得・保有し、譲渡し、契約を締結し、訴訟を

行います。Corporation が債務を負ったとしても、原則として、株主が債権者から直接

返済を請求されることはありません。

Corporation の経営は、所有者である株主ではなく、Director(取締役)と Officer

(執行役員)が行います。

5 ニューヨーク州では、Application for Authorityといいます。 6 駐在員事務所については、事業を継続的に行うための「恒久的施設」とは考えられていないため、連邦法

上の課税対象から除外される、というメリットも持ち合わせています。ただし、「恒久的施設」か否かはオ

フィスの活動実態に着目して判断され、「駐在員事務所」という名称でも活動実態によっては支店とみなさ

れ、連邦の課税対象となることがありますので、注意が必要です。

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2.2 LIMITED LIABILITY COMPANY(LLC)とはどういう会社なのか

LLC は現在、米国において幅広く利用されている企業形態です。LLC は、日本の合

同会社7に相当する形態で、Corporation とパートナーシップのいい所取りをしたような

会社といえます。

LLC の出資者は Member(「社員」といいます。)とよばれています。Corporation

と同じように、有限責任制により、社員が出資額を超えた責任を負うことはありません。

会社運営や社員間の規律は、Operating Agreement(「運営契約」といいます。)の定

めによって行われます。Corporation は会社法の厳格な適用を受けるため、手続き的な

負担が大きいともいえますが、これと異なり、LLC は契約によって比較的自由に運営

方法を決められることがひとつの魅力です。

LLCの経営は、社員がこれを行うことも可能ですし、社員の代表者あるいは社員か

ら委任を受けた第三者が Manager として担当することもできます。つまり、LLC では、

Corporationのように所有と経営が必ずしも分離されているわけではなく、社員が直接

会社の経営を行うことができます。

2.3 CORPORATIONと LLCの違いは

Corporation と LLC では、出資者の地位を、他人に容易に譲渡することができるか

どうかについて、違いがあります。Corporation の出資者は株主であり、その地位を株

式といいます。Corporation の株式は自由に譲渡することを基本8としています。

Corporation は、不特定多数の投資家に株式を購入してもらうことで、多くのお金を集

めることができる仕組みの企業形態なのです。

LLC の社員の地位を、持分といいます。Corporation の株式とは異なり、一般的には、

LLC の持分は自由に譲渡することができないよう、社員間の運営契約で定められてい

ます。このような契約がある場合、LLC の社員が持分を第三者に譲渡するには、原則

として他の社員の合意が必要です。株式と比較すると持分の譲渡性は低く、LLC は中

小企業を予定したビジネス形態といえます。従って、資金調達力は Corporation のほう

があるということになります。

また、Corporation と LLC には、税務上の取扱いについても大きな違い9があります。

Corporationは法人の段階(法人税)とその所有者である株主の段階(所得税)で二重

7 「日本版 LLC」と言われる合同会社は 2006 年に施行された会社法によって新設されました。合同会社の

設立数は年々増えているとはいえ、株式会社に比べるとまだ圧倒的に少ないです。なお、日本の合同会社に

ついてはパス・スルー課税(後述)が認められていません。

8 Corporationの株主が複数となる場合は、会社にとって好ましくない者が株主になることを阻止するため、

株式の譲渡を制限する必要が生じることがあります。株式譲渡の制限は、株主間協定(株主が決定する事項

をまとめたもの)において定めることができます。100%子会社を設立する際は、親会社が単独の株主であ

るため、株主間協定が締結されないケースもあり、この場合は、株式が自由に譲渡できることが法律の上で

推定されることになります。 9 Corporationと LLCに関する税務上のメリット・デメリットについては、個別の状況により異なる場合があ

りますので、国際税務の専門家に相談した上で判断してください。

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に課税を受けることになります。つまり、Corporationがその利益に対して法人税を課

された上で、株主も Corporationの利益から分配される配当などに対して所得税を課さ

れるという「二重課税」が行われています。これに対して LLCでは、法人の段階での

課税がありません。法人が稼いだ利益は、そのまま出資者である社員に配分されたと考

え、社員の所得税としてのみ課税されます。課税の対象である利益が法人を通り過ぎる

(パス・スルー)という考え方から、これをパス・スルー課税と呼びます。このパス・

スルー課税が、LLCの大きな魅力といえます。なお、後述するように、LLCは税務上

の取扱いとして、パス・スルー課税でなく、Corporationと同様の方式を選択すること

もできます。

2.4 LLCを直接子会社とする場合の問題点

会社経営の柔軟性の高さやパス・スルー課税など、良いこと尽くめの LLCですが、

日本の親会社の 100%子会社とする場合には、その利点や効果を十分に発揮できないと

いう問題があります。

日本における税法上の取扱いとして、親会社から米国 LLCに対する出資は、損益通

算のメリットを享受できない可能性があります。その上、米国 LLC が Corporationと

しての課税を選択しない場合、日本の親会社が米国税務当局による税務調査の対象とな

りますで、注意しなければなりません。

LLCを直接子会社とする場合の問題点は上記の通りですが、米国に統括会社やホー

ルディング・カンパニーを設立10し、この統括会社の孫会社を LLCとすることで、

LLCの特性が活かせることがあります。図表 3のように、統括会社と孫会社の使い分

けは、米国で小売ビジネスを展開する際にしばしば活用されます。また、税務上の理由

というよりも、各会社・店舗の資産を訴訟リスクから保護する目的で、このスタイルを

利用することがあります。

図表 3 米国統括会社の設立

10 この場合、統括会社は 日本の直接子会社なので、Corporationを設立することとします。

日本本社

米国統括会社

Corporation

小売

A州

LLC

小売

B州

LLC

小売

C州

LLC

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例えば、米国の複数の州で小売事業を展開する場合、労働や雇用に関する法律など、

州によって異なる法律にどのように対応するのかが課題となります。もちろん、州外法

人登録によって、一つの会社(州外法人)として複数の州においてビジネスを展開する

ことは可能です。しかし、小売のように訴訟リスクの比較的高いビジネスにおいては、

一つの州の店舗にあるリスクが、他の州の店舗に影響することのない形態にしておくこ

とが好ましいといえます。そこで、図表 3のように、統括会社で中央集中的経営を図り

つつ、各店舗をそれぞれ LLCとして法人化させることで、法的リスクを波及させない

スキームづくりをすることが重要です。また、統括会社と LLC孫会社の間では損益通

算することができますし、二重課税を避けるという LLCのメリットも活かすことがで

きます。

第 3章 会社設立

この章では、米国において、Corporationや LLCがどのように設立されるのかを見

ていきます。米国における会社設立の方法は州によって異なりますが、いずれの州にお

いても基本的には簡潔で定型的な手続きとなっています。

3.1 どの州で会社を設立するべきか

米国における会社運営は、設立する州の法律に従ってなされることになります。従っ

て、まずは、会社の運営のしやすさの観点から、どの州法に基づいて会社を設立するべ

きかを検討します。

米国に設立する会社が、1)米国での上場を目指す、2)公開会社である、あるいは

3)全米で事業展開を行うような規模の大きいものである場合、設立州としてデラウェ

ア州を選択するのが一般的です。会社の設立にデラウェア州が好まれる理由として、設

立・解散手続きの簡便性・迅速性、豊富な判例の集積による対応力・予測可能性の高さ

など、経営者にとって運営しやすい会社法制度になっている点が挙げられます。

では、必ずデラウェア州を選択するべきでしょうか。近年、デラウェア州以外の州も、

より多くの会社を誘致するため、経営者にとってより魅力的な制度となるよう会社法の

整備が進められていますので、会社設立についてデラウェア州が絶対的に優位というわ

けではありません。また設立する州と事業活動を行う州が異なる場合は、事業活動を行

う州で州外法人登録が必要になることにも留意が必要です。大規模な事業展開を考えて

いないのであれば、州外法人登録など煩雑な手続きや余分なコストを避ける意味でも、

実際にビジネスを行う州で会社設立を行うことが実務的といえます。

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3.2 州外法人登録をして他州でビジネスをする

州外法人登録とは、ある州(または米国外)で設立した会社が別の州(または米国

内)において営業する資格を得るために必要な手続きです。日本の親会社が米国に支店

を設立する場合は、支店を設立する州で親会社の州外法人登録を行います。また、米国

では会社の形態が Corporationや LLCである場合、設立した州以外で営業活動をする

ためには、必ず州外法人登録の手続きをしなければなりません。

州境を超えて地域的な営業を開始する際は、州外法人として営業資格を得るのか、そ

れとも州ごとに別法人を設立するべきかなど、事業に適したビジネススタイルについて、

弁護士や会計士に確認するようにしましょう。

3.3 会社はどのように設立するか

Corporationあるいは LLCであっても、会社をつくる作業は、少なくとも 1人の発

起人を選択するところから始まります。これは、会社設立のための事務手続きを、発起

人がすべて行うためです。ほとんどの州では、居住の有無を問わず、18歳以上の人で

あれば誰でも発起人となることができます。実務としては、弁護士や会計士を発起人に

任命することが多いようです。

会社設立にあたり、発起人は、会社の基本ルールである定款を作成し、これを設立す

る州の州務長官に提出します。基本定款の登録とそれに伴う申請手数料の支払により、

会社の設立は完了することになります。

図表 4 会社設立のながれ

3.4 基本定款を作成する

発起人が作成する基本定款には、会社の組織・運営における重要な決まりごとが書か

れています。ニューヨーク州では、Corporationの基本定款を Certificate of

Incorporation(添付資料 1)といいます。LLCの場合は、Articles of Organization

(添付資料 2)を州務長官に提出し、登録します。州によって基本定款の名称は異なり

ますが、添付資料 1や添付資料 2のように、形式は雛形化されており、記載事項の内容

もほぼ同じものとなっています。以下図表 5では参考までに、ニューヨーク州における

Corporationと LLCの基本定款の記載事項を見ていきます。

発起人の選択

発起人が基本定

款を作成する

申請手数料の支

払とともに州務

長官に基本定款

を提出

基本定款の登

録:法人格の

取得

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図表 5 基本定款の必要的記載事項

Corporation LLC

① 会社名、商号の選定11 既に他の企業によって使用され

ている企業名と同じ名称は使用

できない。Corporation である

ことを示すため、

“Corporation(Corp.)”

“Incorporated (Inc.)”

“Limited”といった用語を含

まなければならない。

既に他の企業によって使用され

ている企業名と同じ名称は使用

できない。LLCであることを示

すため、“Limited Liability

Company(LLC)” という用語

を含まなければならない。

② 事業目的 「会社が行うことのできるすべ

ての適法行為を事業目的とす

る」、と包括的に書くことが一

般的。

記載なし

③ 事務所の所在地 事務所の存在するまたは営業を

行うカウンティ(郡)を記載。

事務所の存在するまたは営業を

行うカウンティ(郡)を記載。

④ 発行可能株式の数12・

種類(名称およびその株式

の有する権利)、額面13の

有無の設定

100%子会社を設立する場合

は、「発行可能株数(普通株)

を 200・額面なし」や、「発行

可能株数(普通株)1000・額

面$0.01」と設定しているケー

スが多い。

記載なし

⑤ 送達代理人の氏名と住

所の登録

会社の役員・従業員を送達代理

人と指定することもできるが、

訴状や公式文章など重要書類が

確実に届くために、代行会社14

を代理人とすることもある。

会社の役員・従業員を送達代理

人と指定することもできるが、

訴状や公式文章など重要書類が

確実に届くために、代行会社を

代理人とすることもある。

会社の名称・住所、発行可能株式数や株式の種類など、基本定款の内容は、登録後も

自由に変更することができます。ニューヨーク州における基本定款の変更には、取締役

会と株主総会両方の決議15が必要となり、変更内容を記載した Certificate of

Amendmentを州務長官に提出することが義務付けられています。

また、米国では、ほとんどの州において最低資本金制度がありません。従って、米国

では、わずか1セントの資本金であっても事業を起こすことができます。資本金を会社

の銀行口座に預金していなくても、簡単に会社が設立できる制度となっています。

11 “Doing Business As(DBA、dba、d/b/a などとも略されます)”、すなわち、法律上の登録名称とは異な

る屋号を利用することも可能です(州への登録が必要)。 12 授権資本を基礎に、フランチャイズ税や株式税を課す州があります。必要以上に発行可能株式を大きく定

めることは、結果として税金を増やすことになりうるので注意が必要です。 13

額面金額イコール株式発行価格ではない点に注意しましょう。ただし、米国の会社法においては、額面以

下の価格で株式を発行することができないルールになっていますので、額面は、普通株の最低価格を設定す

る上での目安となります。また、会社の表示資本(Stated Capital)や資本剰余金(Capital Surplus)を決定す

る上でも、額面金額は重要な基準となります。 14 代行会社には、CT Corporationや Corporation Service Companyなどあります。代行会社を送達代理人に指

定する場合の費用は、年間$300程度となっています。 15 会社の住所、送達代理人の変更などを行う場合は、取締役会の決議のみが必要となります。

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3.5 CORPORATION設立後の手続き

図表 6 Corporation設立後の手続きのながれ

LLCと比較して、Corporationは、会社法によって議事録の作成など法人としての手

続きや各種形式要件を厳格に遵守することが求められる形態です。株主総会や取締役会

が開催されない場合や、あるいは重要な会社の決定を示す議事録がないなど、手続の欠

如が見られると、Corporationの法人としての存在が裁判所によって否認される可能性

が生じます。このような場合には、会社が存在しないとみなされるため、株主が会社の

債務について個人として責任を負うことになってしまいますので、注意しなければなり

ません。

基本定款の登録後に行う重要な社内の手続きは、創立総会と第一回取締役会の開催で

す。創立総会・第一回取締役会は、もっぱら書面による決議によって簡略化されること

が一般的です。創立総会においては、会社を運営するための社内ルールとなる付属定款16の承認を行い、会社の経営を担う取締役を選任し取締役会を構成することなどを定め

ます。第一回取締役会では、株式発行の承認や、会社運営の業務執行を行う執行役員の

16 付属定款は英語で Bylawsといいます。付属定款では、例えば、株主総会・取締役会に関する事項、執行

役員の選任・責任、会社への補償請求権や、配当に関する規定などが定められています。基本定款とは異な

り、付属定款は州務長官への届出を必要としません。付属定款は、あくまでも社内規則であり、ここに定め

る内容については、基本定款に抵触しない限り会社が自由に決めることができます。付属定款の変更には株

主総会の決議を要することを基本としていますが、基本定款や付属定款に規定すれば、取締役会による変更

も認められます。

基本定款の登録

付属定款と株主間契約

の作成 発起人による創立

総会の開催

取締役の選任

第一回取締役会の開催

創立総会の決議事項の承認、役員の選任、付属定款の承認、会計年度の設定、

会社印の承認、株券の承認、株式発行と発行価格の承認、取引銀行の承認

付属定款の承認

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選任などが行われます。創立総会・第一回取締役会で決定した事項は、予め用意したコ

ーポレートキット17にしっかりと保管することが重要です。

3.6 LLC設立に伴う重要な手続き

LLCチェックリスト

公告掲載義務: LLC を設立する前に、設立州での公告義務の有無を、必ず確認する

ことが大切です。ニューヨーク州においては、LLC の設立日から 120 日以内に、主た

る事務所が置かれた郡の書記官(County Clerk)が指定する新聞 2 紙に連続 6 週間に

わたり設立公告を掲載しなければなりません。この要件は、ニューヨーク州で LLC を

設立する上では、大きな負担となります。例えば、代理会社を通して公告する場合は、

費用として$1,300~$2,000 程かかることになります。このような公告費用の金額は、

主たる事業所の所在地をどこに置くかによって異なります。

運営契約: LLC の経営は、LLC の実質的所有者である社員全員が締結する運営契約

の定めによって行われます。運営契約は、社員がたとえ 1 人(親会社のみ)であっても、

必ず作成・締結することが必要です。ニューヨーク州においては、LLC 基本定款の届

出後 90 日以内に、社員全員によって運営契約を書面により締結することが義務付けら

れています。ただし、運営契約自体を、州務長官に提出する必要はありません。

LLCの運営契約は、Corporationにおける付属定款と株主間協定を合わせたような特

性を持っています。運営契約には、Managerまたは社員経営者の役割、任期、義務お

よび責任、社員間の権利関係(利益配当および損益分配に参加する権利など)、経営体

制と議決要件、その他 LLCの運営に関する必要事項などを定めます。

Corporationの運営は州会社法の厳格な規制の対象となりますが、LLCの場合は、運

営契約に定めた規定の下、契約の自由を原則とする柔軟な運営を行うことが可能です。

つまり、社員が望まない限りは、Corporationに見られるような厳格な手続きに従わず

に LLCの運営を行うことができます。運営契約を作成しないことに対するペナルティ

は存在しませんが、運営契約がない場合は、州の定める LLC法に従った運営がされる

ことになります。

17 会社の議事録などをまとめるためのバインダーです。株券、会社印、議事録簿などを収納して、$80程で

代行会社から購入することが可能です。

ビジネスを行う州で基本定款を登録した後に・・・。

✔ 公告義務の確認

✔ 運営契約の作成と締結

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3.7 会社設立に伴うその他の手続き

1) 連邦雇用主番号(Employer Identification Number)の申請

会社設立後、連邦課税当局が企業の識別に用いる番号である連邦雇用主番号

(「EIN」といいます。)を取得します。EIN は、会社の銀行口座開設や、連邦税・州

法税の支払などに際して必要となります。EIN の取得の申請は、内国歳入庁(Internal

Revenue Service。「IRS」)に対し、オンライン、電話、ファクスまたは郵便(書式

SS-4に必要事項を記入して提出)で行います18。

2) 保険

会社設立後、Corporationおよび LLCは、少なくとも各州法の定める最低限の種

類・内容の保険に加入する義務を負います。

図表 7 ニューヨーク州において法人に加入が求められる保険

種類 対象 法律上強制される

労災補償

(Workers’ Compensation)

ニューヨーク州において設立され、

従業員を有する企業(従業員数にか

かわらず)

強制される

障害保険

(Disability Insurance)

同上 強制される

失業保険

( Unemployment

Insurance)

新設企業は、ニューヨーク州労働省

失業保険局(Unemployment

Insurance Division of the New

York State Department of Labor)

に雇用主として登録19。登録後、同

局により失業保険加入義務があるか

否かが判断される。

加入義務ありと判

断されれば強制さ

れる

自動車保険 ニューヨーク州において設立され、

車両を有する企業

強制される

Corporation・LLC を受取人

とする生命保険

一定の株主・社員や取締役、管理

職、執行役員について、特にそのビ

ジネスが彼らの有する独自の技能に

依存する場合

強制でない

18http://www.irs.gov/businesses/small/article/0,,id=102767,00.html 19https://applications.labor.ny.gov/eRegWeb/eRegInitialPart1.html

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3) ライセンスの取得

米国で展開するビジネスによっては、各州の監督当局から何らかの許認可を取得する

必要が生ずる場合があります。例えばニューヨーク州の場合、ある特定の事業が許認可

を必要とするか否かについては、以下の許認可担当部署に直接問い合わせることができ

ます。

図表 8 ニューヨーク州および市許認可担当部署

ニューヨーク州 ニューヨーク市

New York State Department of State,

Division of Licensing Services

270 Broadway

New York, NY 10007

(212) 417-5747

http://www.dos.state.ny.us/licensing/

New York City Department of Consumer

Affairs, Division of Licenses

42 Broadway

New York, NY 10004

(212) 487-4051 http://www.nyc.gov/html/dca/html/business/b

usiness.shtml

4) 年次・隔年報告書

米国でビジネスを行う会社は、登録州において、会社の住所や取締役の名前・住所な

どを記載した報告書を定期的に提出20する義務があります。

第 4章 CORPOATIONの経営

この章では、米国に進出する場合の形態としてもっともオーソドックスな

Corporationの経営について見ていきます。Corporationを選択する場合は、会社経営

について法律上要求されている事項について理解することが重要です。特に、経営陣に

課される義務や責任、日本の親会社が責任を負う可能性のある状況などについては、十

分に把握しておかなければなりません。

4.1 株主総会の役割

株主総会は、株主が会社の組織に関する事項や、重要な利益に関する事項を決定する

ための機関です。株主総会には、一定の期間までに開催される定時株主総会と、必要に

応じて召集される臨時株主総会があります。

20 ニューヨーク州の場合は、オンラインで隔年報告書が提出できます。

http://www.dos.ny.gov/corps/bus_llc_faq_statements.asp

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Corporationにおいては、会社の所有者である株主が、取締役に経営をまかせていま

す。そのため、株主総会では、会社の経営を誰が行うかなどの基本的で重要な事柄を決

定し、それ以外の具体的な細かい部分は取締役が決定します。

株主総会の決議は各州のルールに基づいて行われますが、株主総会決議を行うために

は、議決に必要な定足数21を満たすことが条件となります。定足数は、一般に、議決権

を有する株式数の過半数以上(50%以上)と定められています。ニューヨーク州におい

ては、議決権総数の 3分の 1以下に減少できないことを条件に、議決に必要な定足数を

軽減する規定22を、基本定款や付属定款において自由に設定することを認めています。

株主総会決議により会社を拘束するためには、定足数を満たす株主が出席し、かつ出席

株主の過半数の賛成が必要です。

図表 9 株主総会

4.2 取締役会の役割

Corporation の所有者である株主は、一部の重大事項を除いては自ら経営を行うこと

はなく、株主の委任を受けた取締役会23(Board of Directors)が Corporationの経営を

行います。取締役会の役割は主に 2 つあります。1つは、執行役員(President、Vice-

President、Secretary、Treasurer、CEO、CFO など)を選任24し、会社の方針を定め

た上で具体的な経営内容を決定することです。もう1つは、執行役員の業務執行に問題

がないかを監督することです。

21 英語では、Quorumといいます。 22 議決に必要な定足数を加重する場合は、原則として付属定款ではなく、基本定款で設定することが必要で

す。 23 ニューヨーク州では、取締役の人数は 1名で足ります。また、米国居住者でなくても、18歳以上であれ

ば誰でも米国企業の取締役を務めることができます。 24 LLCも執行役員を置くことができます。

株主総会の権限:

1)取締役の選任・解任

2)基本定款、合併や解散など、会社組織に関する決定

3)利害関係株主とのビジネスや、資産売却など、株主の

利 害に関する事項の決定

決議要件:

定足数+出席株主の過半数の賛成で議決

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Corporation の取締役は、会社および株主に対する受託者(Fiduciary)として、誠実

かつ誠意をもって、会社にとって最善の利益であると合理的に信ずる態様で行動する義

務(信認義務)を負い25ます。いいかえれば、取締役は、会社に対して、1)善管注意

義務(Duty of Care)26と、2)忠実義務(Duty of Loyalty)27を負います。

図表 10 取締役会

取締役は、取締役会の一員として経営を行う際にも、上記の信認義務として、最善の

経営判断を行うことが求められています。ただし、取締役が誠実かつ合理的に、そして、

十分な情報に基づいて経営判断をする限り、その判断の適否を問題にされることはあり

ません28。

取締役会の決議においても、定足数の充足が求められます。取締役会の定足数は、一

般に、全取締役の過半数とされています。ニューヨーク州では、全取締役の数の 3分の

1を下回らないことを条件に、付属定款において、定足数を過半数以下に設定すること

が認められています。定足数が満たされれば、出席取締役の過半数をもって、取締役会

の決議となります。

4.3 親会社の法的責任

米国子会社を設立した場合、親会社は、子会社の生産・販売・人材・財務などの事業

活動についてさまざまな影響を及ぼす可能性があります。では、親会社は、どの程度ま

で米国子会社をコントロールすることが、法律上、許されているのでしょうか。親会社

が、子会社に対して、過剰なコントロールを行使すると、子会社の法人格が否認され、

子会社の責任を親会社が負うリスクが生じる点に注意しなければなりません。

前述のとおり、Corporation では、原則として、出資者である株主の責任が出資の限

度に限定される有限責任となっています。有限責任は、会社が法人格を持っていて、会

社の構成員とは別個の独立した存在として活動し、また責任を負うことができるからこ

25 執行役員も、取締役と同じ信認義務を負います。また、LLCの経営陣も、Corporationの場合と同じく受

託者としての義務に服し、全社員の利益のために最善を尽くさなければなりません。 26 その任務を、誠実に、かつ、通常の思慮分別を有する人間であれば同様の状況において発揮するであろう

と考えられる程度の注意をもって、履行する義務のことをいいます。 27会社の利益と取締役個人の利益が合致しない場合に、誠実に、かつ良心に従い、公正かつモラルを持って、

正直に行動する義務のことをいいます。 28 これを、経営判断の原則(「Business Judgement Rule」)といいます。

株主から会社の経営

を受託

取締役会

① 業務執行機能:新株の発行、利益配当の決定など。

② 監督機能:役員の選任、監督、解任など。

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そ、認められる制度です。しかし、別の人格であることを利用して、株主である親会社

が責任逃れをするために子会社を利用することは認められていません。

会社を単なる隠れ蓑として扱った場合、Corporation の法人としての形式は裁判所に

よって無視され、株主が会社の債務について個人として責任を負うこととなります。こ

れが、「Piercing the Corporate Veil(法人格否認)」と呼ばれる法理29です。

子会社の法人格が否認されるケースは大きく分けて 2 つあります。1 つは、会社とは

名ばかりで、子会社が親会社の単なるダミーである場合です。もう 1 つは、法律の適用

を避ける目的において法人格を悪用する場合です。

図 表 11

法 人 格 否

認の法理

4.4 会社を解散する

会社の解散とは、会社の法人格を消滅させる手続きです。解散手続きは、会社を設立

するのと同様に、設立州および営業登録各州の法律に従うことになります。 例えば、

ニューヨーク州において Corporationを任意的に解散(Voluntary Dissolution)する場

合は、基本定款などに特段の規定がない限り、株主総会で議決権を有する発行済株式総

数の 3分の 2以上の賛成を得た決議によって行われます。

図表 12 ニューヨーク州における拠点の閉鎖

駐在員事務所・

支店

パートナーシップ Corporation LLC

事業閉鎖の

登録

駐在員事務所

は、登録は不

要。支店は、事

業廃止届を行

う。

一般パートナーシ

ップは、登録は不

要。有限パートナ

ーシップは、会社

の解散から 90日以

内に、解散証明書

(Certificate of

Dissolution)を提

出。

解散証明書

(Certificate of

Dissolution)を提

出。

解散証明書

(Certificate of

Dissolution)を

提出。

29 法人格否認の法理以外で、株主が例外的に会社の債務について個人責任を負う場合としては、①従業員に

対する未払賃金請求について上位 10 位の大株主が個人責任を負う、②会社が売上税を支払っていない場合

に、会社の経営に重大な権限と支配を有する株主が個人責任を負う場合がある、といった例が挙げられます。

① 法人格の形骸化:

〇 親会社による子会社資産の操作

〇 議事録が用意されないなど、会社形式の欠如

〇 子会社の日常的ビジネスに対する親会社の関与

〇 子会社の人材を親会社が使用・指示する。

② 法人格の悪用:子会社を詐欺や犯罪を行うた

めに設立・利用した。

法人格の否認

親会社が子会社

の責任を負う。

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ニューヨーク州において Corporationを任意解散する場合は、①税金が適切に納付さ

れたことを証明する納税完了通知(「タックスクリアランス」といいます。)を税務局

から取得し、②税務局からのタックスクリアランスと併せて解散証明書(添付資料 3)

を州務長官に提出する義務があります。タックスクリアランスには、長い時には、6ヵ

月以上の時間を要することもあります。解散証明書が受理されると、Corporationは、

契約の履行や財産・業務の清算など、限られた範囲のみの活動を行うため一定期間継続

することになります。

図表 13 ニューヨーク州の解散の種類と方法

任意解散30 司法解散

(Judicial Dissolution)

宣誓解散

(Dissolution by

Proclamation)

解散手続 株主総会の決議を得

る。税務局からの同意

書と併せて、解散証明

書を州務長官に提出。

Corporation が違法行為を

行うために設立されたな

ど、法人格が悪用された

場合または、取締役間や

株主間の対立により会社

業務の遂行が難しくなっ

た場合(「デッド・ロッ

ク」)に、裁判所の命令

などによって行われる。

また、会社が債務超過と

なった場合、株主・取締

役会は、司法解散を裁判

所に請求することもでき

る。

フランチャイズ税の

一定期間の滞納など

により、州から法人

格喪失の処分を受け

ることによる。

本レポートに付随する添付資料について

添付資料 出所:New York State Department of State(DOS)、http://www.dos.ny.gov/

①Corporationの基本定款 (CERTIFICATE OF INCORPORATION OF XXX )

②LLCの基本定款 (ARTICLES OF ORGANIZATION OF XXX )

③Corporationの解散証明書 (CERTIFICATE OF DISSOLUTION OF XXX )

※これら添付資料は本レポートが作成された 2014年 1月以前に入手した情報に基づいたものであり、その

後、情報が更新される場合がありますので、New York State Department of State(DOS)、

http://www.dos.ny.gov/にて上記に関する最新の情報をご確認することをお勧めします。(DOSホームペ

ージ画面右上 Searchで検索が可能です。)

30 LLCの任意解散については、一定の解散事由を予め運営契約に設定しておく(例:社員の死亡)か、

または全社員の過半数以上の賛成を得た決議によって行われる。