欧米の協調 its システムと自動運転の最新動向 · 欧米の協調. its...

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欧米の協調 ITS システムと自動運転の最新動向 The latest trend of collaborative ITS or automated driving system in Europe and the United States * 1 Hiroyoshi SUZUKI 1. はじめに 車車間や路車間通信による自車と外界との情報 交換により,自車の視界を広げて安全性・効率性・ 環境性や利便性を改善する協調 ITS (以下 C-ITSシステムに関し, ITS スポットや DSSS サービス など路車間 C-ITS システムは日本が実用化を先 行している.これに対し,欧米もシステムの研究・ 開発に力をいれ,実証実験の段階から実用化に近 づきつつある. また,C-ITS システムの究極的な姿ともいえる 自動運転システムは日本でも 1970 年代から開発 されてきたが, 2000 年代後半から再度脚光を浴び てきている.これは日米欧での道路安全,省エネ, 交通効率化指向の高まりや,自動ブレーキの実用 化など社会受容性の変化に加え,車の Drive by Wire 技術やセンサ技術, EV 化など自動運転に関 する技術的環境が整ってきたことにもよる. ここでは,欧米の C-ITS システムと自動運転シ ステムの最新動向に付き俯瞰するとともに,自動 運転のトピックと課題に付き示した. 2. C-ITS システムの動向 1 に欧米の C-ITS システムに関する政府の施 策と研究開発の概要を示した. 2. 1 欧州の動向 EU では C-ITS システムに関して 2008 年に ITS 展開のアクションプランが提案され,2010 10 月に欧州指令として発布された 1) .この中で,マ ルチモーダル旅行情報,リアルタイム道路交通情 報, eCall,トラックと商用車の駐車場情報・予約 の各サービスの実用化が優先アクションとして取 上げられている.また,2011 3 月にモビリテ ィ・運輸総局(DG_MOVE)が発行した交通白書 2) においても,2020 年までの交通事故死者半減, CO2 排出量の 20%削減等 10 の目標の達成のため のアクションとして C-ITS システムの導入の必 要性が述べられている. C-ITS システムの研究開発は 2007 年から 5 間で総額 532 億ユーロをかけた FP7 1 36 ユーロをかけた CIP 2 2 つのプログラムで実 施されている.FP7CIP とも最近では実用化に 結びつく実証実験(FOT)のプロジェクトが多い. 代表的なものとして, FP7 では欧州の 6 カ国のテ ストサイトで C-ITS システムの総合評価の FOT を行う DriveC2X20112013 年,18.9 百万ユ ーロ),CIP では eCall のパイロットを計 15 カ国 で行う HeERO および HeERO2 20112014 年, 16.3 百万ユーロ)があげられる. 欧州自動車メーカはこれらプロジェクトに参加 すると共に,C-ITS システムの開発・標準化を支 援する C2C-CC 3 にて積極的に活動を進め, 2012 年の 10 月には 12 の自動車メーカが C-ITS システムの 2015 年実用化を目指す MoU 3) を結ぶ JARI Research Journal 20130901 研究活動紹介1 一般財団法人日本自動車研究所 ITS 研究部 1 FP77th Framework Programme の略 2 CIP Competitiveness and Innovation Framework Programme の略 3 C2C-CCCar2Car Communication Consortium の略 1 欧米の C-ITS システム関連施策 JARI Research Journal (2013.9) 1

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Page 1: 欧米の協調 ITS システムと自動運転の最新動向 · 欧米の協調. ITS システムと自動運転の最新動向. The latest trend of collaborative ITS or automated

欧米の協調 ITS システムと自動運転の最新動向

The latest trend of collaborative ITS or automated driving system in Europe and the United States

鈴 木 尋 善 *1 Hiroyoshi SUZUKI

1. はじめに 車車間や路車間通信による自車と外界との情報

交換により,自車の視界を広げて安全性・効率性・

環境性や利便性を改善する協調 ITS(以下 C-ITS)システムに関し,ITS スポットや DSSS サービス

など路車間 C-ITS システムは日本が実用化を先

行している.これに対し,欧米もシステムの研究・

開発に力をいれ,実証実験の段階から実用化に近

づきつつある. また,C-ITS システムの究極的な姿ともいえる

自動運転システムは日本でも 1970 年代から開発

されてきたが,2000 年代後半から再度脚光を浴び

てきている.これは日米欧での道路安全,省エネ,

交通効率化指向の高まりや,自動ブレーキの実用

化など社会受容性の変化に加え,車の Drive by Wire 技術やセンサ技術,EV 化など自動運転に関

する技術的環境が整ってきたことにもよる. ここでは,欧米の C-ITS システムと自動運転シ

ステムの最新動向に付き俯瞰するとともに,自動

運転のトピックと課題に付き示した. 2. C-ITS システムの動向 図 1に欧米のC-ITSシステムに関する政府の施

策と研究開発の概要を示した. 2. 1 欧州の動向 EUではC-ITSシステムに関して2008年にITS展開のアクションプランが提案され,2010 年 10月に欧州指令として発布された 1).この中で,マ

ルチモーダル旅行情報,リアルタイム道路交通情

報,eCall,トラックと商用車の駐車場情報・予約

の各サービスの実用化が優先アクションとして取

上げられている.また,2011 年 3 月にモビリテ

ィ・運輸総局(DG_MOVE)が発行した交通白書

2)においても,2020 年までの交通事故死者半減,

CO2 排出量の 20%削減等 10 の目標の達成のため

のアクションとして C-ITS システムの導入の必

要性が述べられている. C-ITS システムの研究開発は 2007 年から 5 年

間で総額 532 億ユーロをかけた FP7 注 1)と 36 億

ユーロをかけた CIP 注 2)の 2 つのプログラムで実

施されている.FP7,CIP とも最近では実用化に

結びつく実証実験(FOT)のプロジェクトが多い.

代表的なものとして,FP7 では欧州の 6 カ国のテ

ストサイトで C-ITS システムの総合評価の FOTを行う DriveC2X(2011~2013 年,18.9 百万ユ

ーロ),CIP では eCall のパイロットを計 15 カ国

で行う HeERO および HeERO2(2011~2014 年,

計 16.3 百万ユーロ)があげられる. 欧州自動車メーカはこれらプロジェクトに参加

すると共に,C-ITS システムの開発・標準化を支

援する C2C-CC 注 3)にて積極的に活動を進め,

2012 年の 10 月には 12 の自動車メーカが C-ITSシステムの 2015 年実用化を目指す MoU3)を結ぶ

JARI Research Journal 20130901 【研究活動紹介】

*1 一般財団法人日本自動車研究所 ITS 研究部

注 1 FP7:7th Framework Programme の略 注 2 CIP : Competitiveness and Innovation Framework

Programme の略 注 3 C2C-CC:Car2Car Communication Consortium の略

図 1 欧米の C-ITS システム関連施策

- - JARI Research Journal (2013.9)

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と共に,ウィーンの ITS 世界会議にてインフラ側

のプロジェクト TT 注 4)と共同で DriveC2X の仕

様に基づいたデモを実施した. C-ITS システムを車車のみでなく路車でも進め

るため,欧州のインフラ側の機関・団体 ASECAP,CEDR,POLIS 注 5)と自動車側の C2C-CC が設立

した団体 Amsterdam Group もまた,2015 年実

用化に向けた MoU を 2012 年に結んでいる. 欧州各国は国プロとして DriveC2X と協調した

プロジェクトも実施している.例としてドイツの

SimTD,フランスの SCORE@F などが上げられ

る.SimTD は総予算が DriveC2X の約 2.5 倍以上

の巨大プロジェクトである.DriveC2X と SimTDはいずれも今年 6 月に各々ヨーテボリとフランク

フルト近郊にて最終デモを実施した. さらに,同じ 6 月にドイツ,オランダ,オース

トリア政府は C-ITS システムの 2015 年からの配

備に同意した.これは,欧州の大動脈であるロッ

テルダム-フランクフルト-ウィーン間で C-ITSシステムサービスを行うものであり Cooperative ITS Corridor と名づけられている. なお,FP に続く欧州の研究開発は 2014 年度よ

り 5年間予算規模約800億ユーロでHorizon2020の名の下に行われる予定であり,この中の 6 つの

社会的テーマの一つに「 Smart, green and integrated transport」(68 億ユーロ)が上げら

れている.Horizon2020 は 2014 年 1 月に最初の

プロジェクト募集が開始される予定である.

2. 2 米国の動向 米国では 2010 年から 5 年間の ITS 戦略研究計

画にもとづき連邦運輸省の RITA 注 6)が中心にな

り Connected Vehicle イニシアティブを展開して

いる.その最も主なプロジェクトは Safety Pilotで,NHTSA 注 7)が主導し米国自動車メーカのコ

ンソーシアムである CAMP 注 8)の協力のもとに,

全米 6 箇所のテストコースにおける受容性評価テ

ストを経て,2012 年 8 月より 1 年間ミシガン州

アナーバの公道で約 2800 台以上の様々な車両と

車載器を用い,C-ITS システムの通信,アプリ,

システムやドライバ・社会受容性等を総合評価す

る大規模 FOT を実施している.図 2 に Safety Pilot 実用化時のシナリオを示す. さらに,この成果をベースに,今年度中に C-ITS

システムの乗用車への搭載判断,2014 年度に大型

車への搭載判断,2015 年度に路側インフラの展開

判断が予定されている.また,Safety Pilot に続

き,地域を増やした Pilot も計画されている. 図 2 に示すように,米国での C-ITS システムの

通信は ITS 用として確保してきた 5.9GHz 帯

DSRC と携帯系等を使うとしているが,5.9GHz帯は今年度,連邦通信委員会において WiFi との

共用化検討を指示されており,この結果によって

は米国の C-ITS システムの実用化に大きな影響

を与えることが考えられる.

図 2 Safety Pilot 実用化シナリオ

(出典:19th ITS World Congress)

3. 自動運転の動向 3. 1 2000 年代以降のシステム研究開発動向 冒頭の理由に加え,2007 年の DARPA 注 9) URBAN Charange や 2008 年の GM の自動運転

車実用化の記者発表等もあり,2000 年度後半より

自動運転システム開発への機運が再度高まってき

て,様々な研究開発が行われている.

注 4 TT:Testfeld Telematic の略 注 5 ASECAP:European Association with tolled moterways,

bridges and tunnels の略.欧州の有料道路事業者の団体 CEDR:Conference of European Directors of Roads の略.

欧州の道路管理者の団体 POLIS:European Cities And Regions Networking For Innovative Transport Solutions の略.欧州の地方公共団体

のネットワーク 注 6 RITA:調査・革新技術庁の略 注 7 NHTSA:国家道路交通安全局の略 注 8 CAMP:Crash Avoidance Metrics Partnership の略 注 9 DARPA:国防高等研究計画局の略

- - JARI Research Journal (2013.9)

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欧州では FP7 プロジェクトとして高度自動化

車両開発の Have_it(2008~2011 年),大型商用

車を先頭車とする隊列走行開発の SARTRE(2009~2011 年),主として自動コミュータ開発

の CityMobile(2006~2011 年)等が実施され,

SARTREでは 2012年にスペインの公道でデモが

行われた.また,大学においても様々な研究開発

が行われ,ドイツのアーヘン工科大学ではトラッ

ク隊列走行 KONVOI の公道走行を 2009 年に,自

由ベルリン大学では自動運転車のベルリン市内の

公道走行を 2011 年に実施した.また,イタリア

のパルマ大学は上海万博にあわせて 2010 年に自

動運転車でユーラシア大陸横断を成し遂げている.

また,Daimler,BMW,VW,VOLVO 等の自動

車メーカや Continental,Bosch 等のサプライヤ

でも自動運転車が開発され,テストコースや公道

での走行を行っている.これらの一部には FP7 プ

ロジェクトの成果や大学との共同研究の成果が使

われている.FP7 では 2013 年度の最終募集

Call10 で「統括自動運転の開発とデモ」に関し

25 百万ユーロの予算が割かれている. 米国ではカリフォルニア大学バークレー校の研

究機関である PATH やカーネギーメロン大学,ス

タンフォード大学,バージニア工科大学,オハイ

オ州立大学等で以前から自動運転や隊列走行の研

究開発が行われてきており,DARPA URBAN Charange ではカーネギーメロン大学,スタンフ

ォード大学,バージニア工科大学の順に 1 から 3位を独占した.また,GM,Ford 等の自動車メー

カでも自動運転車が開発され,GM は 2010 年の

上海万博や 2011 年の ITS 世界会議にて自動コミ

ュータのデモを実施した.また Google はスタン

フォード大学やカーネギーメロン大学の開発者が

主体で自動運転車を開発し,既にカリフォルニア

の公道で約 20 万 km の走行実績を積んでいる.

これがネバダ州での自動運転免許法令化のさきが

けとなって,図 3 に示すように第 1 号の試験用ナ

ンバープレートがこの自動運転車に与えられた. 連邦運輸省の FHWA 注 10)では 2013 年に「高度

協調ハイウェイと車両システム」に関する研究を

4.5 百万ドルで公募しており,NHTSA も後述す

る政策方針文書 5)で自動運転に関する研究を進め

るとしている. 3. 2 米国における自動運転免許法制化 世界において初めて自動運転車に免許を与える

法案 4)が米国ネバダ州で 2011 年に可決され,ネ

バダ州自動車登録免許管理局(DMV)が免許規則

R084-115)を制定し 2012 年 3 月より施行され,前

述のように第 1号免許がGoogle車に与えられた. この法制化の動きはこれ以降各州に急速に広が

りつつあり今年 5 月現在,図 4 に示すようにカリ

フォルニア州,フロリダ州,コロンビア特別区が

法制化を終え 15 州が検討中であり,検討中の州

も法制化に肯定的な姿勢を見せている.なお,制

定された他州の規則もほぼ内容はネバダ州と同等

である.

R084-11 は 28 のセクションからなり,自動運

転車の定義,運転免許,車両登録とナンバー発行,

テスト免許申請と交付,運転要件,車両適合要件

等を規定している.以下,内容を紹介する.

注 10 FHWA:連邦高速道路局の略

図 3 Google 自動運転車:

ネバダ州の自動運転試験ナンバー1 号車

(出典:Nevada DMV Website)

図 4 米国における自動運転車免許動向

- - JARI Research Journal (2013.9)

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* 自動運転車は以下のように定義されている. 人のアクティブな制御や継続的なモニタ無

しで,全てが人工知能や技術による機械的な

操作で走行する車両 走行車内に物理的にいるかいないかに関わ

らず,その自律走行車両に engage している

人をその車両の運転者とみなす いわゆる安全運転支援システムやドライバ

支援システムは自律走行車とはみなさない * 自動運転車を運転するものは運転免許証に「G

裏書」が必要であると共に,それを申請するた

めの費用 5 ドルと自動運転車を運転する能力

と的確性に関する情報の提供を必要とする. * 自動運転車の登録には車両メーカか認可され

た自動走行技術証明施設の確認書が必要.この

登録が認可されると現状はテスト用として赤

色の一時ナンバープレートが与えられる. * 実際に自動運転車を公道でテストするには,テ

スト免許申請が必要で,申請費用,供託金,保

険証書や走行実績証明,技術説明書,安全とト

レーニング計画等を提示する必要があり,これ

が認可されれば免許申請した場所区分と環境

区分の範囲での 1 年間のテスト免許が与えら

れる.試験場所は以下の 6 区分,環境は以下の

5 区分から申請する. 試験場所区分:インターステートハイウェイ,

ステートハイウェイ,都会環境,複雑な都会

環境,生活道路,無舗装か無印の道路 環境区分:夜間,雨,霧,雪/凍結,強い横

風 * テスト運転には常に自動運転車の操作経験と

知識を有する 2 名が乗車していることが必要

で,1 名は常に運転をオーバーライドできるこ

とが,他の 1 名は異常をモニタしていることが

条件であり,車両には自動運転 ON/OFF を容

易に切り替えできる SW と異常時の注意換気

システム等の装備が要求される. 今年 5 月,各州の自動運転免許法制化を追う形

で,NHTSA より自動運転車に関する政策方針文

書 6)が発表された.この文書では車の自動化のレ

ベルの定義,NHTSA における自動化研究計画の

概要とともに,州の自動運転車のテストと認可に

対する推奨原則を示している.このうち,自動運

転車の公道テストに関する推奨はほぼネバダ州の

規則と同等であるが,NHTSA は自動運転車は技

術やヒューマンファクタの課題がまだ多く,現時

点ではテスト目的以外で認可しないよう州政府に

強く勧告している. 3. 3 自動運転の定義と課題再整理 様々な走行支援システムの開発・実用化や自動

運転の研究開発が進むにつれ,自動運転実用化を

進める上でその技術的課題や法的課題の再認識と,

自動運転のレベルやその用語の明確な定義化やロ

ードマップの必要性が関係者間で指摘され,かか

る活動が進みつつある. 欧州では 2011 年にEU の資金で SMART64 プロジェクトが TNO 注 11)を中心に実施され,自動

運転の定義と展開シナリオ,現状のシステム・技

術調査や課題の整理等が行われた 7).また,ドイ

ツの BASt 注 12)では 2012 年に自動運転の分類や

定義,法的側面での課題の検討が行われた 8). 米国では 2012 年に FHWA の資金で PATH が

中心となって最近の協調走行支援から自動運転に

至るシステムの日米欧の現状を調査し,日欧と米

国との比較や課題を示している 9).但し,本レポ

ートではGoogle等の完全自動運転は省いている.

これに先立ち 2009 年に PATH10),また 2012 年に

はスタンフォード大学 11)において自動運転に関

する法的側面の検討が行われている.自動運転の

分類や定義に関しては,TRB 注 13)の ITS 委員会

および Vehicle-Highway Automation 委員会に設

けた分類 WG における検討結果 12)や,前述の

NHTSA の政策方針文書 5)の分類がある. 表 1 に米国の NHTSA における分類と,ドイツ

の BASt における分類を比較して示した.表に示

すように,いずれも,全く自動走行制御を行わな

い Level0 から,完全自動の Level4 までの 5 段階

に分類している.但し,Level3 と Level4 に関し

ては若干双方で定義が異なり,米国では Level4はドライバーレス自動運転車まで考慮し,走行環

境も非限定としているが,ドイツではあくまでド

ライバーの存在を想定し,走行環境も限定してよ

いとしている.

注 11 TNO:オランダ応用科学研究機構の略 注 12 BASt:ドイツ連邦道路交通研究所の略 注 13 TRB:米国交通輸送調査委員会の略

- - JARI Research Journal (2013.9)

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表 1 自動運転の定義

*1:走行制御機能のない利便システムや警報までの安全システムを含む

*2:NHTSAでは道路のモニター,BAStではシステムのモニター

ただし,双方とも Level0~Level2 のシステムは

運転の最終責任はドライバーであり,Level3,Level4 は自動運転時はシステムに責任がある点

は同じである. Level0 の例は,前方障害物衝突警報や車線逸脱

警報など車両制御を行わず情報提供や警報のみを

行うシステムであり,Level1 の例は,ACC,レー

ンキーピングや自動ブレーキシステムであって,

ステアリングまで制御する駐車支援は Level2 に

相当するとしている.また,Level3 の例として

NHTSA は Google 自動運転車を,BASt は

KONVOI と SARTRE をあげている. 図 5 に自動運転の課題の一覧を示した.環境を

限定しない無人の完全自動運転に至るには,TRBの分類 WG 等でも多様な道筋を考慮しており,例

えば Level3 以降のシステムでも速度,他車やイ

ンフラとの協調の程度,道路条件(専用道~一般

道),天候や道路条件など様々な制限条件をつけた

システムの実用化が考えられる.したがって対応

する課題とそのレベルも異なってくる. ただし,Level3 以降のシステムにおいては,

Level2 までにはなかった,法的課題,ヒューマン

ファクターの課題への対応が必要になる. 法的課題の例としては 1949 年ジュネーブ道路

交通条約あるいは 1968 年ウィーン道路交通条約

への対応があげられる.両条約は後者が前者の改

訂であるが,ドイツがウィーン条約を批准してい

るのに対し,米国はジュネーブ条約のみを批准し

ている(日本も同じ).最大の関連条項は第 1 条

(ジュネーブ条約では第 4 条)の運転者の定義と

第 8 条 運転者の記載であるが,両条約には若干

の表現の違いが見られ,米国とドイツで解釈のず

れが見られる.現状の解釈では米国のほうが「運

転者」や「運転者による運転」を弾力的に捕らえ

ており,ドイツとは異なり自動運転は必ずしもジ

ュネーブ条約に反しないと考えているようである.

ただし,上記条約のみでなく国内法の問題もあり,

必ずしも国内法で同じ解釈になるとは限らない. ヒューマンファクターの課題として SMART64は,ドライバーと自動運転車との HMI として, ドライバーの自動化動作と限界の理解 異なるレベルの自動化の遷移

米国:NHTSA ドイツ:BASt 制御環境条件

ドライバ システム 不能時処理

モニター(*2) 制御(運転)

0 No-Automation非自動化

Driver Onlyドライバー単独

なし(*1) - - - - ドライバー ドライバー

1 Function-specificAutomation特定機能自動化

Assisted支援

縦方向or横方向

限定 ○ - - ドライバー ドライバー

2 CombinedFunctionAutomation結合機能自動化

Partiallyautomated部分自動

縦方向and横方向

限定 ○ ○短時間

- ドライバー ドライバー

Highlyautomated高度自動

4 Full Self-DrivingAutomation完全自律運転自動化

システム(自動運転時)

縦方向and横方向

限定 ○ ○十分な余裕時間(NHTSA)余裕時間(BASt)

- システム(自動運転時)

限定(BASt)非限定(NHTSA)

-無人も可(NHTSA)

○(BASt)十分な余裕時間

最小リスク処理(BASt)

システム(自動運転時)

システム(自動運転時)

3 Limited Self-DrivingAutomation限定自律運転自動化

自動制御 オーバーライド要求 責任所在分類Level

Fully automated完全自動 縦方向

and横方向

図 5 自動運転における課題

- - JARI Research Journal (2013.9)

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異なった自動化機能の統合 等にフォーカスすべきとしている.さらに,図 6のように,「歩行者などとのアイコンタクトのない

車がどのように反応するか」を歩行者などが知る

ための車と外部との HMI という従来のシステム

にはなかった機能が自動運転車には必要になる点

を強調している.

図 6 自動運転車と他道路使用者との HMI

(出典:SMART64 Report)

4. まとめ 車の地平を広げる C-ITS システムと,ヒューマ

ンエラーを克服し,ユーザを運転タスクから解放

する自動運転システムは軸こそ異なるがいずれも

安全性のみならず効率性,環境性や快適性を大き

く向上させる. 本報では欧米の C-ITS システムの政府施策や

開発・実用化の最新の動向と,自動運転システム

に関する近年の研究開発動向,および自動運転に

おけるトピックとして米国の自動運転免許法制化,自動運転の定義と特有な課題につき紹介した. C-ITS システムは欧米でも実証を経て実用化の

ステージに入っており,いずれも 2015 年からの

実用化を計画している.欧米はサービスやプラッ

トフォーム(プロトコル,メッセージ等)で協調

し国際標準を目指している.日本の C-ITS システ

ムは実用化が先行したため欧米のプラットフォー

ムとは異なるものの,車車間 C-ITS の実用化等の

動きもあり欧米に対向して国際標準活動を強化し

ていく必要がある. 自動運転システムについては 2000 年後半以降

の開発実用化への機運の再考や,最近の自動ブレ

ーキ搭載車など「ぶつからないクルマ」の認知を

受けて欧米ともに技術的・非技術的課題や具体的

な実用化に関する検討を強化している.自動運転

システムの実用化に関しては,何を目指すかのロ

ードマップが非常に重要であり,そのためにはま

ず自動運転に関する日本語の語彙の統一も必要で

ある.また,図 5 に示すように技術的課題以外の

課題やメーカ間や官民の協調を要する課題も多く,

日本自動車研究所が果たせる役割も多いものと考

える.

参考文献

1) DIRECTIVE 2010/40/EU OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 7 July 2010 on the framework for the deployment of Intelligent Transport Systems in the field of road transport and for interfaces with other modes of transport

2) WHITE PAPER, Roadmap to a Single European Transport Area – Towards a competitive and resource efficient transport system, Brussels, 28.3.2011, COM(2011) 144 final

3) Memorandum of Understanding for OEMs within the CAR 2 CAR Communication Consortium on Deployment Strategy for cooperative ITS in Europe, 27 June 2011

4) Assembly Bill No. 511–Committee on Transportation 5) ADOPTED REGULATION OF THE DEPARTMENT

OF MOTOR VEHICLES, LCB File No. R084-11 6) Preliminary Statement of Policy Concerning

Automated Vehicles, National Highway Traffic Safety Administration

7) Definition of necessary vehicle and infrastructure systems for Automated Driving, SMART 2010/0064

8) BASt-study: Definitions of Automation and Legal Issues in Germany, Tom M. Gasser / Daniel Westhoff, 25th July 2012, Road Vehicle Automation Workshop

9) Recent International Activity in Cooperative Vehicle–Highway Automation Systems, FHWA-HRT-12-033

10) Liability and Regulation of Autonomous Vehicle Technologies, California PATH Research Report, UCB-ITS-PRR-2009-28

11) AUTOMATED VEHICLES ARE PROBABLY LEGAL IN THE UNITED STATES, Bryant Walker Smith, November 1, 2012, CIS

12) Automated Vehicles: Terminology and Taxonomy, Steven E. Shladover, Taxonomy WG, 2012 Road Vehicle Automation Workshop

- - JARI Research Journal (2013.9)

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