2.動物行動学の基礎 - 東京大学...2.動物 行動学(ethology) 第2回...

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1 2015年度筑波大学生命環境系集中講義 生物科学特講XIII(01AA048) 講義資料 http://www.brain.rcast.u-tokyo.ac.jp Password: neuron2015 神崎 亮平 東京大学 先端科学技術研究センター Research Center for Advanced Science and Technology 2.動物行動学(Ethology第2回 神経行動学:動物の感覚・脳・行動のしくみの理解と応用 神経行動学:動物の感覚・脳・行動のしくみの理解と応用 10月29日(木)9:30-16:30 1.イントロダクション 2.動物行動学の基礎 3.環境世界と感覚情報の表現 10月30日(金)9:30-15:00 4.神経細胞の基礎 5.生物電気とシナプス 6.行動発現の神経機構と脳-機械融合 10月30日(金)15:00-16:30:公開セミナー 7.昆虫科学が拓くあたらしい工学の世界 ~脳を創り,理解し,活用する~ 2.動物行動学の基礎 1.動物行動学の背景 2.動物行動学とは 3.反射と連合学習 4.プログラム行動 5.鍵刺激 6.解発機構 7.定型的行動パターン 2.動物行動学の基礎 1.動物行動学の背景 2.動物行動学とは 3.反射と連合学習 4.プログラム行動 5.鍵刺激 6.解発機構 7.定型的行動パターン 動物行動学を築いた人々 Ivan Petrovich Pavlov Charles Sherrington John Broadus Watson Conwy Lloyd Morgan Konrad Lorenz Nikolaas Tinbergen Karl von Frisch Jakob Johann von Uexküll Charles Darwin チャールズ・ダーウィン 『種の起源』 思考も,精神作用も,知能も,デザインも要らずに 秩序があらわれるしくみ:自然選択:を説明 ロンドン, 1859年, 初版 Charles Robert Darwin 1809~82

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Page 1: 2.動物行動学の基礎 - 東京大学...2.動物 行動学(Ethology) 第2回 神経行動学:動物の感覚・脳・行動のしくみの理解と応用 ... 行動の分類

1

2 0 1 5 年 度 筑 波 大 学 生 命 環 境 系 集 中 講 義 生 物 科 学 特 講 X I I I ( 0 1 A A 0 4 8 )

講義資料

http://www.brain.rcast.u-tokyo.ac.jp

Password: neuron2015

神崎 亮平 東京大学 先端科学技術研究センター Research Center for Advanced Science and Technology

2.動物行動学(Ethology)

第2回 神経行動学:動物の感覚・脳・行動のしくみの理解と応用

神経行動学:動物の感覚・脳・行動のしくみの理解と応用

10月29日(木)9:30-16:30

1.イントロダクション

2.動物行動学の基礎

3.環境世界と感覚情報の表現

10月30日(金)9:30-15:00

4.神経細胞の基礎

5.生物電気とシナプス

6.行動発現の神経機構と脳-機械融合

10月30日(金)15:00-16:30:公開セミナー

7.昆虫科学が拓くあたらしい工学の世界 ~脳を創り,理解し,活用する~

2.動物行動学の基礎

1.動物行動学の背景 2.動物行動学とは 3.反射と連合学習 4.プログラム行動 5.鍵刺激 6.解発機構 7.定型的行動パターン

2.動物行動学の基礎

1.動物行動学の背景 2.動物行動学とは 3.反射と連合学習 4.プログラム行動 5.鍵刺激 6.解発機構 7.定型的行動パターン

動物行動学を築いた人々

Ivan Petrovich Pavlov Charles Sherrington John Broadus Watson Conwy Lloyd Morgan

Konrad Lorenz Nikolaas Tinbergen Karl von Frisch Jakob Johann von Uexküll

Charles Darwin

チャールズ・ダーウィン

『種の起源』

思考も,精神作用も,知能も,デザインも要らずに

秩序があらわれるしくみ:自然選択:を説明

ロンドン, 1859年, 初版 Charles Robert Darwin

1809~82

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すべての種は共通の祖先にその起源を持つ.生命の歴史は種の

系統樹によって示すことができる.

自然選択は,誕生した個体の数が既存の資源の限界を超え,各

個体が資源をめぐって競争を強いられる場合に生じる.

生物の特徴は変化を受けながら遺伝する.変化は,ある意味でラ

ンダムである.つまり,適応性を増大させるような変化に導くいか

なる力も偏向性も存在しない.目下の環境に適応できた変化が選

択される.そのような変化を被った生物個体が生存し,新たな特

徴が子孫に受け継がれる可能性が高い.世代を経るにしたがって,

そのような特徴を持つ生物個体が増える.

進化的変化は,小さく有利な変化が蓄積されることにより,徐々に

そして恒常的に発生する.

ダーウィンの理論

最大の弱点:変異はどこから来るかを十分に説明していないこと

グレゴール・ヨハン・メンデル

(独: Gregor Johann Mendel,1822年 - 1884年)

1900年に,ユーゴー・ド・フリース,カール・エリッヒ・コレンス,エーリヒ・フォン・チェルマクらにより再発見されるまで埋もれていた.

メンデル遺伝学

1851年から2年間ウィーン大学に留学し,ドップラー効果で有名な

C.ドップラーから物理学と数学,F. ウンガーから植物の解剖学や

生理学,他に動物学などを学んだ.

メンデルは当時の細胞学の権威カール・ネーゲリに論文の別刷りを送ったが,数学的で抽象的な解釈が理解されなかった.メンデルの考えは,「反生物的」と見られてしまった.

遺伝形質は遺伝粒子(後の遺伝子)によって受け継がれるという粒子遺伝を提唱

自然選択は,進化的変化と適応の主要なメカニズムである.

進化は,きわめて小さくかつランダムな個体変化に基づく自然

選択によって起こる段階的(漸進的)な過程である.このような

変化は個体群のなかでは頻繁に発生し,どんな偏向性をも持た

ない.個々の変化の源泉は,ランダムな遺伝的突然変異と遺伝

組み換えに求められる.

新たな種の分化などの巨視的な現象は,遺伝子の変化と自然

選択という微視的な過程によって説明できる.

現代統合説 Modern Synthesis

ダーウィニズムとメンデリズムの統合

ネオダーウィニズム(neo-Darwinism) 比較心理学の基盤を作り,ヒトと動物の間の認知プロセスと認知メカニズムの類似性を指摘した. 進化論は人間と動物の連続性を明らかにした.もし,体の構造に連続性があるのならば,心にも連続性があるだろう. 「人間の行動に似た行動が動物に見られる場合には,似た感情や認知があると考えた(擬人法)」

ジョージ・ジョン・ロマネス(George John Romanes

1848年-1894年)

「ネオダーウィニズム」を提唱

クレバーハンス:馬も知性をもつ?

クレバーハンス(中央), オステン(左)とフングスト(右)(1907) Seboek&Rosenthal, 1981より

出典:http://en.wikipedia.org/wiki/Image:CleverHans.jpg

1891年,デンマークでドイツ人のウィリアム・フォン・オステンが飼っていた「ハンス」という名の馬が,高度な知性を持つとして有名になった.

動物の実験研究において,観察された動物の行動と観察者の妄想を区別する必要性を説いた.

「ある行動が心理学的に見てより低次の能力によって説明できる場合,さらに高次な心的能力をもちだしてそれを解釈すべきではない」

動物行動の擬人的解釈の戒めだが,この“法則”に寄りかかりすぎると,行動の解釈を誤る危険もある

Morgan's canon 1894

C. Lloyd Morgan 6 February 1852 - 6 March 1936

モーガンの公準

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「ある事柄を説明するためには,必要以上に多くの実体を仮定するべきでない」(Entities should not be

multiplied beyond necessity.)という

指針.思考節約(思考経済)の法則やケチの原理と呼ばれることもある.より平易な意味では「同様のデータを説明する仮説が二つある場合,より単純な方の仮説を選択せよ」(カール・セーガン)となる.

Occam's razor

もともとスコラ哲学にあり,14世紀の哲学者・神学者のオッカムが多用

サリーにある教会のステンドグラスに描かれたオッカムのウィリアム(Wikipedia)

オッカムの剃刀(カミソリ)

動物の感覚の研究 動物の運動の研究 動物の脳システムの研究 動物の認知能力の研究 動物の行動発現機構の研究 ロボティクス

動物行動学からつながる今日の研究の基礎

動物行動学 (Ethology)

Wheeler, W. M., 'Natural History', 'Oeccology', or 'Ethology'? Science, n.s. 15 (390), 971-796 (1902) PDF(クリック)

ギリシャ語 ethos: 習慣,習性,性格

「生物の本能・習性およびその他の一般に生物が表す行動と外部環境との関係を研究する学問」

Wheeler, W. M.が,1902年Scienceではじめて使用

脳の階層的な構成

P.D.マクリーン (Paul D. MacLean) の 「内臓脳」/「辺縁系」と 「三型階層性脳」説

機能の階層的構造

認知過程 新哺乳類脳:新皮質 認知過程

生得的過程

原始爬虫類脳:脳幹 生得的過程 (反射,プログラム行動)

情動過程

旧哺乳類脳:辺縁系 情動過程

2.動物行動学の基礎

1.動物行動学の背景 2.動物行動学とは 3.反射と連合学習 4.プログラム行動 5.鍵刺激 6.解発機構 7.定型的行動パターン

動物行動学

では,適応的,合目的的とは?

動物の個体が外界に対して能動的に示す(運動),その個体の生活になんらかの意味が裏付けられているような動き(適応的,合目的的) TaskをもったAgentの振る舞い

行動 (behavior)とは?

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動物行動学

動物の個体が外界に対して能動的に示す(運動),その個体の生活になんらかの意味が裏付けられているような動き(適応的,合目的的) TaskをもったAgentの振る舞い

行動 (behavior)とは?

適応: 生物がその環境中で上手く生活していけるような特徴(表現型)を持っていること(環境下の新しい問題・状況に対処する知的機能)

機能(適応的,合目的的)による区分 性行動,摂食行動,闘争(逃避)行動 生得性からの区分 本能行動(反射),学習行動

行動の分類

ティンバーゲンの4つのなぜ

1. どんな機能,適応性をもっているか(究極要因). 2. それはどのような仕組みか(至近要因) . 3. 成長に従いどう獲得されたか(発達要因). 4. どんな進化を経てきたのか(系統進化要因)

ある動物の行動があると,

の四つの要因を明らかにする必要がある.

Nikolaas Tinbergen

4つのなぜ 生物の目が見える理由

1.究極要因 :機能(適応)

その行動には進化的にどのような意味があったのか.どのように適応的だったのか

食物を見つけて危険を回避すること

2.至近要因 :機構

その行動を直接引き起こす生理的,心理的,社会的メカニズム

眼のレンズは光を網膜の視覚システムに集める.

3.発達要因:個体発生

その行動はどのようにして習得されていくか.「生まれ(遺伝)」か「育ち(文化を含む,発達期の環境)」

ニューロンは眼と脳を接続するために光の刺激を必要とする(Moore, 2001:98-99)

3.系統発生要因

どのような祖先型の行動からそれが発達してきたのか.現在の生物がどのような進化の経路をたどってきたか.

脊椎動物の眼は盲点を持って形成されたが,「完全な」眼に向かう適応的な中間形態が存在しなかったために,その初期の形態が維持された.

ティンバーゲンの4つのなぜ

動物行動学

行動は基本的には動機づけを前提として一定の解発機構に従って解発される

解発機構 (Releasing Mechanism, RM)

解発因 (鍵刺激) 解発機構

生得的 行動パターン

感覚器 中枢神経系 効果器

(神経生理学的には,中枢神経系により,信号刺激を処理し,筋収縮の時空間パターンを形成する機構)

2.動物行動学の基礎

1.動物行動学の背景 2.動物行動学とは 3.反射と連合学習 4.プログラム行動 5.鍵刺激 6.解発機構 7.定型的行動パターン

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ウミウシの逃避行動

軟体動物門マキガイ綱ウミウシ目 出典:BBC Nerve

解発因 (鍵刺激) 解発機構

生得的 行動パターン

感覚器 中枢神経系 効果器

行動の単位は?

行動の単位は?

条件反射学 (conditioned reflex) Ivan Petrovich Pavlov 1849~1936 (1904) 動物の行動は無条件反射と学習による条件反射の積み重ね

古典的条件付け

Ivan Petrovich Pavlov

1904: ノーベル医学生理学賞

1849~1936

桑原万寿太郎 1910-1998

ミツバチの吻伸展反射 条件付けの実験パラダイム

CS

US

CS:条件刺激,ラベンダーの匂い US:無条件刺激,20%サッカロース

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昆虫の古典的条件付け

ミツバチの吻(口)を伸ばす反射行動を利用して匂いの識別能力をみる

シナプス synapse

イギリスの生理学者Michael Fosterの教科書で提案 (1897) ギリシャ語に由来し,clasp(留める),join(結合する,合わせる)

反射の神経生理学

Charles Sherrington Michael Foster

反射

1. 心理学は客観的,実験的な自然科学の一部門. 行動だけを問題にすべき.意識や内観は排除.

2. 行動はある刺激に対する要素的な反応からなる.反応は筋肉運動や腺分泌からなる.すべての行動は,条件付けによる要素的な刺激と反応の連鎖による.刺激-反応(S-R;stimulus-response)心理学.

行動主義心理学

John Broadus Watson が1913年に提唱

内観:自分の意識やその状態をみずから観察すること.自己観察.内省

Behaviorism

John Broadus Watson

• Psychology as the Behaviorist Views It (1913)

(行動主義者から見た心理学) • Psychology from the Standpoint of a Behaviorist (1919)

(行動主義の心理学)

(1878~1958)

エドワード・ソーンダイク Edward L. Thorndike,1874年8月31日 - 1949年8月9日

以下に掲載されている.http://psychclassics.yorku.ca/Thorn

dike/Animal/index.htm

Animal Intelligence

Edward L. Thorndike (1911)

試行錯誤説(ネコの問題箱の研究)が有名.1903年に「教育心理学」を刊行,これは後に3巻本の大著となる(1913-14).教育評価の父としても知られる.

動物の行動は,個々の行為を何らかの見通しのもとに行っているわけではなく試行錯誤に過ぎない,ということが彼の強調点

参考:http://kg.kanazawa-gu.ac.jp/kokusaibunka/?p=5162

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エドワード・ソーンダイク Edward L. Thorndike,1874年8月31日 - 1949年8月9日

以下に掲載されている.http://psychclassics.yorku.ca/Thorn

dike/Animal/index.htm

Animal Intelligence

Edward L. Thorndike (1911)

試行錯誤説(ネコの問題箱の研究)が有名.1903年に「教育心理学」を刊行,これは後に3巻本の大著となる(1913-14).教育評価の父としても知られる.

動物の行動は,個々の行為を何らかの見通しのもとに行っているわけではなく試行錯誤に過ぎない,ということが彼の強調点

参考:http://kg.kanazawa-gu.ac.jp/kokusaibunka/?p=5162

試行錯誤学習:正反応と誤反応を繰り返すことを,試行錯誤と言い,これにより学習が成立すること(ソーンダイク,E.L.).問題箱を用いた動物の行動観察から見出した.

試行錯誤学習は,刺激状況(S)と反応(R)が結合するS-Rの連合学習であるとし,動物や人間の学習を最もよく特徴づけると説明する.

満足や快状態をもたらす効果のある行動は生起しやすくなり,反対に,嫌なものや不快なものをもたらすような行動の場合には状況との結合が弱められる(効果の法則).

試行錯誤を繰り返すことにより,刺激(S)と反応(R)の結びつきが徐々に強くなり,問題解決にかかる時間は短くなる.

この効果の法則が,ハルやスキナーの強化による学習理論(オペラント条件付け)の元となる.

http://psychoterm.jp/basic/learning/03.html

試行錯誤の定義

オペラント条件付け

スキナー箱には,レバーが付いていて,ラットがこれを押すと扉が開き,餌が出てくる.最初に偶然レバーを押して餌を得ることができたラットは,報酬の餌をこうして得ることを学習する.ラットがレバーを押す頻度を変えさせる実験操作を「強化」という.

スキナー箱

パラス・フレデリク・スキナー (1904-1990)

試行錯誤によって新しい反応(行動)を学習.新しい刺激(感覚)をこれまでの反応と連合する古典的条件付けとは異なる.

スキナー箱

パラス・フレデリク・スキナー (1904-1990)

オペラント条件付け

行動はある刺激(S)に対する 要素的な反応(R)からなりたつ

行動主義心理学

すべての行動は, 反射と条件反射の連鎖 によって説明できる.

Behaviorism

ウミウシの逃避行動:反射の連鎖による説明

軟体動物門マキガイ綱ウミウシ目 出典:BBC Nerve

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知覚したセンサ情報に基づいて,単純な反射的行動を出力するモジュールを,階層・並列的に実行する.小規模な処理を並列して実行することにより,素早い判断や実環境に適した柔軟な行動が可能となる. 単純な行動の相互作用により,複雑な行動が創発される.

行動型ロボット

モータ系

センサ群

うろつきまわる (探索)

衝突回避

獲得 (ゴールに向かう)

Behavior-Based Robot

行動の単位は? 無条件反射/反応(UR:unconditioned response) 条件反射/反応 (CR:conditioned response)

Ivan Petrovich Pavlov 1849~1936 (1904) 動物の行動は無条件反射と学習による条件反射の積み重ね

古典的条件付け

反射 2.動物行動学の基礎

1.動物行動学の背景 2.動物行動学とは 3.反射と連合学習 4.プログラム行動 5.鍵刺激 6.解発機構 7.定型的行動パターン

動物行動学を築いた3人の研究者

ティンバーゲン ローレンツ ローレンツを追う

ガチョウの子どもたち (刷り込み imprinting)

フリッシュ

Austria

Österreichische

Akademie der

Wissenschaften, Institut

für vergleichende

Verhaltensforschung

Altenberg, Austria

Konrad Lorenz (1903-1989)

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Konrad Lorenz

映像

“刷り込み”を活用した研究

Great Britain

Department of

Zoology

University Museum

Oxford, Great

Britain

Nikolaas Tinbergen (1907-1988)

イトヨの配偶行動・攻撃行動

出典:放送大学

1951

本能の研究 行動学が体系化された記念的教科書

Federal Republic of

Germany

Zoologisches

Institut

der Universität

München, Munich,

Federal Republic of

Germany

Karl von Frisch (1886 - 1982)

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Karl von Frisch

ミツバチの感覚生理と行動解析 色彩知覚,偏光知覚,化学感覚 ミツバチのダンス言語 動物のコミュニケーションについて 一大センセーションを巻き起こした

Karl von Frisch

次のような行動を観察したとき 行動というものを

どのように説明しますか?

イトヨの配偶行動・攻撃行動

出典:放送大学

セグロカモメ 雛の餌ねだり行動

出典:放送大学 Tinbergen and Perdeck, 1950

脳の階層的な構成

P.D.マクリーン (Paul D. MacLean) の 「内臓脳」/「辺縁系」と 「三型階層性脳」説

機能の階層的構造

認知過程 新哺乳類脳:新皮質 認知過程

生得的過程

原始爬虫類脳:脳幹 生得的過程 (反射,プログラム行動)

情動過程

旧哺乳類脳:辺縁系 情動過程

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出典:脳神経生物学 岩波書店

脳の階層的な構成 動物行動学を築いた3人の研究者

ティンバーゲン ローレンツ ローレンツを追う

ガチョウの子どもたち (刷り込み imprinting)

フリッシュ

行動の単位:反射とプログラム行動

1)2)と,3)から5)は行動でも性質が異なる.

獲物を捕獲する直前 (3) に獲物を取り除いても,捕獲から口をぬぐう行動が起こる

1) 獲物の動きを検出 2) 獲物に向き直り,両眼の視野に獲物を固定

3) 舌を伸ばしてからめ獲る 4) 飲み込む 5) 前足で口をぬぐう

1)から5)へと行動が連鎖的におこる.

ヒキガエルの捕獲行動

行動の単位:反射とプログラム行動

1)2)は,反射行動 3)から5)はプログラム行動

生得的行動パターン (定型的行動パターン)

1) 獲物の動きを検出 2) 獲物に向き直り,両眼の視野に獲物を固定

3) 舌を伸ばしてからめ獲る 4) 飲み込む 5) 前足で口をぬぐう

獲物を捕獲する直前 (3) に獲物を取り除いても,捕獲から口をぬぐう行動が起こる

1)から5)へと行動が連鎖的におこる.

ヒキガエルの捕獲行動

動物が知っていることの大半は生まれつきのもの(本能的,生得的) .

生まれつき遺伝的にもっている生得的な行動パターンが,程度の差はあれ動物界全体でみられる.

動物行動の基本 Lorenz 「行動の生得的解発機構」

1. 行動形質

動物の行動は形態的特徴と同様に,その種固有に遺伝的に備わっている.

2. 定型的(生得的)行動パターン, 行動単位

遺伝的に組み込まれた,プログラムされた完結性のある行動パターンが備わっている.

3. 解発因(リリーサ,信号刺激,鍵刺激) 生得的行動パターンは,遺伝的に決められた特定の因子によって,ひとまとまりの動作として解発される.

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鍵刺激が眼前に現れても,内的な動機づけができていないときには定型行動の閾値は高く,強力な刺激が入力されても行動は発現しない.逆に,ある動因が激しく上昇すれば,鍵刺激なしに行動が起こることがある(行動閾値(behavioral threshold) が下がっている)

例)ケ−ジ内に巣作りの材料なしで入れておくと,nest-building behaviorを何もない状況下で行う.

真空行動 vacuum activities

真空行動においても,一連の行動レパートリーが発現することは,そのような行動パターンが遺伝的に組み込まれていることを示している.

vacuum activities

真空行動

ガチョウが巣の中で卵を抱いているとき,一つの卵が,巣から転げ出したとき,ガチョウは首をのばして,くちばしで卵を転がして巣に運び込む.

ガチョウの卵回収行動

このとき,ガチョウの首の動きを横から見ると,前後にピストンのように規則的に動かしていた.これを正面から見ると,首を左右に少し動かして卵が横に転がるのを防いでいた.

ガチョウの卵回収行動

卵を動かし始めた直後に卵を突然取り去った

ガチョウはあたかも卵がまだあるかのように首をそのままピストン運動し続けた.しかし,首の横への動きは消失した.

ガチョウの卵回収行動

卵を運ぶ行動には独立した2種類の動きがある

ピストン運動 首の横への動き

反射行動 プログラム行動

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ガチョウの卵回収行動

行動のきっかけ 行動を起こす仕組み

反射行動 プログラム行動

定型的行動パターン (生得的行動パターン)

行動の修飾と切り替え

行動の修飾と切り替え

嗅覚

視覚

聴覚 味覚

触覚

その他

行動を解発する3つの柱

2.動物行動学の基礎

1.動物行動学の背景 2.動物行動学とは 3.反射と連合学習 4.プログラム行動 5.鍵刺激 6.解発機構 7.定型的行動パターン

環境にはどのように動けばよいかの情報がある.

一部の環境情報(鍵刺激)で動き方がきまる.

解発因 (鍵刺激) 解発機構 生得的行動パターン

1. 感覚器(解発因(リリーサ),鍵刺激) 2. 中枢神経系(解発機構) 3. 効果器(生得的行動パターン)

感覚器 中枢神経系 効果器

行動を解発する3つの柱

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解発因 (鍵刺激) 解発機構 生得的行動パターン

1. 感覚器(解発因(リリーサ),鍵刺激) 2. 中枢神経系(解発機構) 3. 効果器(生得的行動パターン)

感覚器 中枢神経系 効果器

環境にはどのように動けばよいかの情報がある.

一部の環境情報(鍵刺激)で動き方がきまる.

行動を解発する3つの柱 解発因(リリーサ)

ローレンツ(1935)の提唱

同種他個体の特定の行動的反応を解発するような機能をもった特性. その特性には形態・色彩・音・におい・身振り・行動などが含まれる.

種内交信にとって重要

Releaser

種内交信にとって重要

今日では同種個体間に限らず,行動を解発するものをリリーサとよぶことも多いが,その場合には,実際には鍵刺激を意味しているのがふつうである.

Releaser

解発因(リリーサ) イトヨの配偶行動・攻撃行動

出典:放送大学

イトヨの雄の闘争行動 トゲウオでは,赤い腹部がすべて必要なのではなく,本質的には,赤い色が鍵刺激となる.ライバル雄の赤い腹が背側にあると意味がない.

鍵刺激 セグロカモメ 雛の餌ねだり行動

出典:放送大学 Tinbergen and Perdeck, 1950

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セグロカモメ雛の餌ねだり行動の解発値

スポットの色

を変える

灰色のくちばしに

白から黒まで階調

の異なるスポット

くちばしの色

を変える 解発値 (releasing value )

カワスズメの 頭部模様の 威嚇効果

Heiligenberg W,Kramer U,

Schulz V (1972)

15.0 cm

クロウタドリのヒナの口開け行動

Tinbergen N, Kuenen PJ (1939)

異質的加重型

ある反応がいつくかの感覚刺激によって影響を受ける場合,その刺激の効果はいくつかの異なる感覚経路,または一つの感覚経路を通して互いに相補的に働く.

異種感覚統合, マルティモダリティ,センサフージョン

異質的加重型・刺激集積の法則

African cichlid fish (Astatotilapia burtoni)

Dummy (1) had a black eye-bar, but no orange pectoral spots.

average bite rate :2.81 bites/min

Dummy (2) had orange spots in the pectoral region as well as on the

dorsal, caudal, and anal fins, but lacked the black eye-bar.

average bite rate : 1.77 bites/min

Dummy (3) combined both features by having the black eye-bar and

the orange spots.

average bite rate : 1.12 bites/min . (After Leong 1969)

the law of heterogeneous (Seitz 1940)

ヒキガエルの捕獲行動

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ゲシュタルト受容型の例

小さい物体が動いているとそれに対して補食行動を起こす.

ヒキガエル(Bufo bufo) 捕獲行動

• モデルが虫のように横方向に動くとき:餌として認識

• 立った形で横に動くとき: ”恐れ”例えばヘビと認識

1. 物体の動きに反応する 2. 物体の向きによって異な

る行動がみられた

模型実験:白い背景に黒い細長い物体が鍵刺激.

カモメの仲間は,素嚢に多くの食物を蓄えることができる.これを吐き出して,つがいの相手やヒナに餌を与える. 行動の鍵となる刺激は,黄色いくちばしの赤いスポット.

セグロカモメ (Larus argentatus) の雛の餌乞いつつき行動

ゲシュタルト受容型の例

超正常刺激 (supernormal stimulus)

自然の解発因よりも大きな反応を動物に呼び起こす刺激.

セグロカモメ (Larus argentatus) の雛の餌乞いつつき行動

ゲシュタルト受容型の例 超正常刺激

ミヤコドリ

(Haematopus ostralegus)

成鳥と雛

3個からなる正常な卵塊よりも5個の卵からなる超正常な卵塊を好んで抱卵する.

自分自身の卵(手前)やセグロカモメの卵(左)よりも,超正常の大きな卵を好む.

Tinbergen N, 1969

From wikipedia カッコウの托卵

supernormal stimulus

1. 大きさは実際の雌の四倍(それ以下であれば,大きいほどよい)

2. 黄色と黒が素早く入れ替わって見えるもの(形はどうでもよく,色を塗り分けたローラーを回転させても良い).

3. その入れ替わりの回数は毎秒75回(それ以下なら多いほどよい).

4. 黄色の部分の斑点は無い方がよい( D.マグヌス)

ヒョウモンチョウの翅:

表面はオレンジ色に黒いまだら模様があり,裏面はよりくすんだ色

チョウの雌にこのような進化が起こってもよいはず?

ヒョウモンチョウ(雄)の配偶者(雌)選択

ヴィレンドルフのヴィーナス.胸と胴体が現実の女性以上に誇張されている.

ヒトの唇も口紅によって超正常化される

“男”らしさを強調.南アメリカワイカインデアン,日本の歌舞伎役者,ロシアのアレキサンダー二世

(from Eibl-Eibesfeldt I, 1974)

supernormal stimulus

超正常刺激

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刺激加算型からゲシュタルト受容へ

Bower TGR (1966) Anim. Behavior 14: 395-398 「いないいないばあ」を15秒おきに2秒間提示する. その結果,反応率が一定の基準に達したら,15秒おきに2秒間,部分に分解した条件刺激を一定の順序で反応が全く消えるまで提示する.

顔パターンと

その構成要素

乳児の顔向け行動の強さ

8ー12週令 15および20週令

1,500 1,600

4,000 2,300

1,466 1,000

合 計 6,966 4,900

6,900 10,500

1. 全体は,その部分の総和以上のものである

2. 刺激のパターン(要素)だけでなく,全体的な構図が重要

3. 構成する要素の単なる集まりだけでなく,全体とし一つの場を作っている

ゲシュタルト受容型

さまざまなコミュニケーション法の特性 (J.Alcock, 1984)

信号によって伝えられる内容

1)個体の所属(種,性,年齢,親子など)

2)個体の内的状態(気分,衝動,意図などの表出)

C.ダーウィン『人及び動物の表情について』

3)外界の事象

アリの餌場伝達,ミツバチのダンス

サバンナモンキーの警戒の声

2.動物行動学の基礎

1.動物行動学の背景 2.動物行動学とは 3.反射と連合学習 4.プログラム行動 5.鍵刺激 6.解発機構 7.定型的行動パターン

解発因 (鍵刺激) 解発機構 定型的行動パターン

1. 感覚器(解発因(リリーサ),鍵刺激) 2. 中枢神経系(解発機構) 3. 効果器(定型的行動パターン)

感覚器 中枢神経系 効果器

環境にはどのように動けばよいかの情報がある.

一部の環境情報(鍵刺激)で動き方がきまる.

行動を解発する3つの柱

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解発機構

1. 生得的解発機構 Innate Releasing Mechanism (IRM)

2. IRME: IRM Experienced

3. 習得的解発機構 Acquired Releasing Mechanism (ARM)

解発因 (鍵刺激) 解発機構 定型的行動パターン

感覚器 中枢神経系 効果器

Releasing Mechanism

生得的解発機構

ある特定の刺激の受容に必要な神経感覚機構であり,その刺激に対する反応を解発する機構をいう

系統発生的に確立されたもの

Innate Releasing Mechanism (IRM)

IRM は,経験によって変容し,その選択的刺激濾過機能(刺激選択性)を高めたり,低めたりすることがある

IRME: IRM Experienced

鳥模型とシチメンチョウの逃避行動

動物の個体発生の過程でもっぱら学習によって形成される解発機構

習得的解発機構

学習(learning)

動物の経験によって行動が変化すること

Acquired Releasing Mechanism (ARM)

学習 (learning)の種類

非連合学習

連合学習

• 刷り込み (ダグラス・スポルディング,オスカル・ハインロート, コンラート・ローレンツ)

• 試行錯誤学習 (Edward L. Thorndike)

• 洞察学習 (Wolfgang Köhler 1887-1967 例:チンパンジーの道具を使ったバナナ獲得)

• 模倣学習(Thorndikeが始めたが,ヒト以外には観察されない?)

• 慣れ • 感作

• 古典的条件付け

• オペラント条件

櫻井芳雄:考える細胞ニューロンより

動物の学習能力

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定型的行動パターン(FAP)

1. 比較的単純な感覚刺激(鍵刺激)により解発 2. 中枢神経系に遺伝的に備わるプログラム によって生じる(生得的解発機構, Innate Releasing Mechanism; IRM)

3. IRMは中枢神経系に階層的に構成 (ティンバーゲンの階層モデル)

行動解発の階層モデル

Tinbergen, 1942

Tinbergen, 1942

イトヨの雄の生殖本能に見られる 階層的編成の原則

生殖本能

闘争

営巣

配偶

子供の世話

追跡

かみつき

威嚇

その他

掘る 材料の検査 穴を開ける 固着させる その他

ジグザグ・ダンス 巣へ雌を誘導する 入り口を示す 体をふるわせる

卵を受精させる その他

ファンニング 卵の救出

その他

行動を生み出す機構の階層構造

(Tinbergen, 1951 を改変)

中枢

連続的なインパルス 発火を阻止する障壁

活性化された中枢から来る 動機づけインパルス

IRM

次の低いレベルの中枢

解発因 (鍵刺激,信号刺激)

中枢 中枢 中枢

行動中枢

欲求行動(appetitive behavior) 動機付けられている行動を解発する リリーサ(鍵刺激)を求める行動

完了行動 (consumartory behavior) 欲求行動を満足させる行動

欲求行動と完了行動

ウオーレンス・クレイグ(1876-1954)

動物の内部状態の変化(たとえば脱水による水分のバランス変化)

は脳で感知されて,「動因(drive)」が次第に高まる.この高まりは外見的には欲求行動(興奮状態)として表れ,それに見合った外的刺激(水)を探す行動が生じる.刺激に出くわすと,完了行動(飲水)が引き起こされる.これにより欲求行動は低下し,ついにはなくなる.

2.動物行動学の基礎

1.動物行動学の背景 2.動物行動学とは 3.反射と連合学習 4.プログラム行動 5.鍵刺激 6.解発機構 7.定型的行動パターン

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解発因 (鍵刺激) 解発機構 定型的行動パターン

1. 感覚器(解発因(リリーサ),鍵刺激) 2. 中枢神経系(解発機構) 3. 効果器(定型的行動パターン)

感覚器 中枢神経系 効果器

環境にはどのように動けばよいかの情報がある.

一部の環境情報(鍵刺激)で動き方がきまる.

行動を解発する3つの柱 ウミウシの逃避行動:FAPとして説明

軟体動物門マキガイ綱ウミウシ目 出典:BBC Nerve

1. 生得的(遺伝的)innate, genetical

2. 階層構造 hierarchy

3. 動機付け motivation

4. 完了行動 consummatory behavior

5. 適応的 adaptation

定型的行動パターンの特徴(まとめ)

頑強性(robust)と適応性(adaptive)

中枢神経系に遺伝的に プログラムされた行動発現系

同種の動物からの教示や外的な報酬や罰による条件付けや学習を必要としない

生得的(遺伝的,内因的) innate, genetical

この意味において,本能行動の神経機構を明らかにする場合,1つの制御あるいは協調機構としての解釈が可能となる

本能はその行動に階層性を持ち,一連の順序の決まったひとまとめの行動の系である(パターン化した型をとる)

階層構造 hierarchy

反射・走性のような固定化された行動の場合と異なり,本能行動を解発するためには,生体内に特殊な準備状態が形成されていなければならない

この過程を動機づけという

動機付け motivation

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充電された状態になっており,ひとたび解発因によって行動が発現すると放電現象,すなわち完了行動が存在し,それに達するまで続けられるのが普通である

中枢神経系に遺伝的に プログラムされた行動発現系

完了行動 consummatory behavior

その環境のもとでの生活の仕方にうまく合致している.

合目的的にみて有利と判断できる状態にある.

適応的

頑強性(robust)と適応性(adaptive)

adaptation