代数学特論3 - 東京理科大学代数学特論3 水曜2 限(10:40˘12:10) k202...

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代数学特論3 水曜 2 (10:4012:10) K202 ≡≡≡≡ 数学科セミナー室 担当教員 : 加塩 朋和 研究室 :4 号館 3 E-mail : kashio [email protected] 教科書・参考書 本講義は以下に沿って進みます. 小木曽啓示著「代数曲線論」 朝倉書店 なお, このレジュメは LETUS (https://letus.ed.tus.ac.jp) で配布しています. , 加筆・修正したものをアップロードしていく予定です. 1

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代数学特論3水曜 2 限 (10:40∼12:10) K202≡≡≡≡ 数学科セミナー室

担当教員 : 加塩 朋和 研究室 : 4号館3階E-mail : kashio [email protected]

教科書・参考書本講義は以下に沿って進みます.

• 小木曽啓示著「代数曲線論」 朝倉書店

なお, このレジュメは LETUS (https://letus.ed.tus.ac.jp) で配布しています. 順次, 加筆・修正したものをアップロードしていく予定です.

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目次 (編集中)

1 複素関数論から準備 3

2 リーマン球面 (1) 6

3 リーマン球面 (2) 10

4 リーマン面上の正則写像 (1) 13

5 リーマン面上の正則写像 (2) 17

6 楕円曲線 21

7 補足 28

8 レポート課題 29

9 層係数コホモロジー群 (1) 30

10 層係数コホモロジー群 (2) 34

11 層係数コホモロジー群 (3) 38

12 リーマン-ロッホの定理 (1) 43

13 リーマン-ロッホの定理 (2) 47

14 補足 51

15 期末試験 52

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1 複素関数論から準備定義 1. 点 a ∈ C の近傍 U 上で定義された関数 f : U → C を考える. f(z) が点 a で複素微分可能 であるとは

limz→a

f(z)− f(a)z − a

が (z → a の近づけ方によらず) 定まることである. また, ある領域 (= 連結開部分集合)

Ω ⊂ C上で定義された関数 f(z) : Ω→ Cが, 各点 a ∈ Ωで複素微分可能であるとき, f(z)

は Ω 上で 正則 (holomorphic) であるという.

命題 2. (1) D := z ∈ C | |z − a| < ϵ 上で正則な関数 f(z) は

f(z) =∞∑n=0

cn(z − a)n (z ∈ D)

の形 (テーラー展開) で表される. またこのとき

f(z) が z = a で N ∈ N 位の零を持つ def⇔ c0 = c1 = · · · = cN = 0, cN+1 = 0.

(2) D := z ∈ C | 0 < |z − a| < ϵ 上で正則な関数 f(z) は

f(z) =∞∑

n=−∞

cn(z − a)n (z ∈ D)

の形 (ローラン展開) で表される. z = a は f(z) の 孤立特異点 と呼ばれ, 以下に分類される.

• z = a が 除去可能特異点 def⇔ ∀n < 0, cn = 0同値⇔ limz→a f(z) ∈ C であり, f(a) := limz→a f(z) と定義し直すことによってf(z) は z ∈ C | |z − a| < ϵ 上の正則関数とみなせる.

• z = a が N ∈ N 位の極 def⇔ c−N = 0, ∀n < −N , cn = 0同値⇔ limz→a(z − a)Nf(z) ∈ C×.

• 孤立特異点 z = a が 真正特異点 def⇔ ∀N ∈ N, ∃n < −N s.t. cn = 0.

(3) ある領域 Ω 上の各点で, 正則, 除去可能特異点, 極のいずれかである複素関数を Ω

上の 有理型関数 (meromorphic function) と呼ぶ.

注意 3. 領域 Ω ⊂ C 上の有理型関数 f を考える.

(1) a ∈ Ω が除去可能特異点である場合, f(a) := limz→a f(z) と定義し直すことによって, f は a で正則であるとみなす. とくに Ω 内の各点で, f は正則か極を持つかのいずれかである.

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(2) 極の定義より, 点 a ∈ Ω で f が極を持てば, ある開円板 D = z ∈ C | |z − a| < ϵ内の極は a のみである. とくに極全体のなす集合は Ω に集積点を持たない.

(3) f が a で N 位の零 ⇔ ∃h s.t. f(z) = (z − a)Nh(z), h は a で正則かつ h(a) = 0.

(4) f が a で N 位の極 ⇔ ∃h s.t. f(z) = (z − a)−Nh(z), h は a で正則かつ h(a) = 0.

定理 4 (正則関数の剛性). 領域 Ω ⊂ C 上の正則関数 f, g を考える. ある開集合 O ⊂ Ω

上 f, g が一致すれば, Ω 上で f, g は一致している.

命題 5. (1) 領域 Ω 上の正則関数 f , 領域 Ω′ 上の正則関数 g が f(Ω) ⊂ Ω′ を満たしているとする. このとき g f も Ω 上の正則関数となる.

(2) 領域 Ω 上の有理型関数 f に対し, 1f(z) := 1

f(z)も Ω 上の有理型関数となる. さらに

f が a で N 位の零 (又は極) を持つ ⇔ 1f(z) が a で N 位の極 (又は零) を持つ.

f(a) = 0 ⇔ 1f(z) は a で正則.

定義 6. 開集合 U, V ⊂ C 間の写像 f : U → V が 双正則 def⇔ f : 全単射, 正則, f−1: 正則.

命題 7. 領域 Ω ⊂ C 上の正則関数 f を考える. 点 a ∈ Ω でのテーラー展開

f(z) =∞∑n=0

cn(z − a)n

を考える. 以下は同値.

(1) a のある近傍 a ∈ U において f |U : U → f(U) は双正則.

(2) c1 = 0.

証明の概略. 簡単のため (平行移動により) a = 0, c0 = 0 とする.

(1 ⇒ 2) df−1

dz(f(a)) = ( df

dz(a))−1 より c1 = 0 が必要.

(2 ⇒ 1) f(d1z + d2z2 + · · · ) = c1(d1z + d2z

2 + · · · ) + c2(d1z + d2z2 + · · · )2 + · · · =

c1d1z + (c1d2 + 2c2d1)z2 + · · · = z が, 解 d1 = c−1

1 , d2 = −2c2d1c−11 , . . . をもつ. よって

g(z) := d1z + d2z2 + · · · とおけば f g = id. 同じ級数が g f = id も満たす.

注意 8. 通常の関数 f : Ω→ C は

各点 a ∈ Ω に対し, 値 f(a) ∈ C を対応させる

ものであった. さらに連続関数であれば, 値 f(a) は別々に与えられるものではなく, 連続的になっている. 有理型関数 f の場合は, むしろ 各点 a ∈ Ω に対し, ローラン展開 f(z) =

∑n cn(z − a)n ∈ C[[z − a]] を対応させる

ものであり, やはり各点でのローラン展開は “連続的” になっている.

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注意 9. 複素平面 C やその領域は, 自然な同一視: C = R2, x + yi ↔ (x, y) により, 2

次元実多様体としての構造も持つ. とくに, 領域 Ω ⊂ C 上の正則関数を, 2 変数実関数u(x, y), v(x, y) を用いて

f(x+ iy) =: u(x, y) + iv(x, y)

と表したとき

u(x, y), v(x, y) は C∞ 級関数で

∂u∂x

= ∂v∂y

∂u∂y

= − ∂v∂x

(コーシー・リーマンの方程式)

を満たす.

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2 リーマン球面 (1)

定義 10. 複素数の “比” 全体からなる集合

P1 := P1(C) := [a0 : a1] | a0, a1 ∈ C, (a0, a1) = (0, 0)

を リーマン球面 などと呼ぶ. ただし [0 : 0] は考えず, 比が同じものは同じ元だとみなす:

[a0 : a1] = [b0 : b1]def⇔ ∃c ∈ C× s.t. (a0, a1) = c(b0, b1).

また, 自然な射影

π : C2 − (0, 0) → P1, (a0, a1) 7→ [a0 : a1]

により, P1 へ商位相を入れる.

命題 11. 部分集合 U0, U1 ⊂ P1 を

U0 := [a0 : a1] ∈ P1 | a0 = 0, U1 := [a0 : a1] ∈ P1 | a1 = 0

で定める.

(1) i = 0, 1 に対して Ui は P1 の開集合であり

P1 = U0 ∪ U1

は開被覆となる.

(2) i = 0, 1 に対して

φi : Ui → C, [a0 : a1] 7→

a1a0

(i = 0)a0a1

(i = 1)

は同相写像となる.

以上より “P1 は 2 枚の複素平面を張り合わせたもの” だとみなせる. すなわち

• Cw, Cz を 2 つの複素平面とする. これらは同じものだが, 見分けがつくように添え字 w, z をつける. また, Cw を動く変数は w, Cz を動く変数は z とおく.

• φ0 によって U0 と Cw を同一視する:

U0 ↔ Cw, [a0 : a1] 7→a1a0, [1 : w]← [ w.

同様に U1 と Cz を同一視する:

U1 ↔ Cz, [a0 : a1] 7→a0a1, [z : 1]←[ z.

とくに Cw,Cz ⊂ P1 とみなしている.

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• このとき P1 = Cw ∪ Cz, Cw ∩ Cz = C×w = C×

z . ただし

C×w ∋ w = z ∈ C×

z ⇔ w = z−1

という関係で, C×w ,C×

z が張り合わさっている.

注意 12. P1 は Cz に 1 点 0 ∈ Cw を追加した 一点コンパクト化 だともみなせる. この追加された点を (Cz から見て) 無限遠点と呼び ∞ で表す:

P1 = Cz ∪ Cw = Cz

⨿∞.

とくに P1 は第二可算公理を満たす連結・コンパクト・ハウスドルフ空間である.

定義 13. P1 = Cw ∪ Cz とみなす. 領域 V ⊂ P1 と, その上で定義された写像 f : V → A

(A は任意の集合) を考える.

(1) Vz := V ∩ Cz, Vw := V ∩ Cw とおく. とくに Vz, Vw は複素平面の領域である.

(2) f の制限を fz := f |Vz , fw := f |Vw で表し, f の 座標表示 と呼ぶ.

(3) f が V 上の正則関数 def⇔ fz(z), fw(w) がともに正則関数.

また V 上の正則関数全体を OP1(V ) で表す.

(4) f が V 上の有理型関数 def⇔ fz(z), fw(w) がともに有理型関数.

また V 上の有理型関数全体をMP1(V ) で表す.

注意 14. Vz 上, Vw 上でそれぞれ勝手に定めた写像 fz(z) : Vz → A, fw(w) : Vw → A が V

上の写像だとみなせることと, fz|Vz∩Vw = fw|Vz∩Vw が同値である. これは次の 変換則 に言い換えられる.

fw(w) = fz(1w) (w ∈ Vz ∩ Vw).

すなわち, 変換則を満たす座標表示 fz, fw は V 上の写像

f : V → A, a 7→

fz(a) (a ∈ Vz)fw(a) (a ∈ Vw)

を定める.

問題 1. fz : Cz → C, fz(z) := z2−1zとおく.

(1) fz は Cz 上の有理型関数であることを確かめよ.

(2) fw(w) := fz(1w) を具体的に計算し, Cw 上の有理型関数であることを確かめよ.

(3) fz, fw は P1 上の有理型関数を定めることを確かめよ.

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補題 15. f を領域 V ⊂ P1 上の有理型関数とする. a ∈ Vz ∩ Vw において

• fz の a ∈ Vz における零点 (または極) の位数

• fw の a ∈ Vw における零点 (または極) の位数

が一致する. これらを f の a ∈ V における零点 (または極) の位数と呼ぶ.

証明. ポイントは, 張り合わせに用いている写像

φ : C×w → C×

z , w 7→ w−1

が “双正則写像” であることである. 具体的には, a ∈ Vz (↔ 1a∈ Vw) に対して

fz(z) = (z − a)Nh(z), h は a で正則かつ h(a) = 0

のとき

fw(w) = fz(1w) = (w − 1

a)Nw−NaNh( 1

w),

であり, w−Nanh( 1w) は w = 1

aで正則かつ非零である.

問題 2. 問題 1 の有理型関数の零点, 極を求めよ. またそれぞれの位数を求めよ.

命題 16. (1) OP1(P1) = C. すなわち P1 全体で正則な関数は定数関数のみ.

(2) MP1(P1) = C(z). ただし C(z) := p(z)q(z)| p(z), q(z) ∈ C[z], q(z) = 0 であり,

f(z) ∈ C(z) は

• Cz 上は fz(z) := f(z) そのもの.

• Cw 上は fw(w) := f( 1w) とおく.

により P1 上の有理型関数とみなす.

証明. (1) f ∈ OP1(P1) を取る. このとき

• fz は 0 ∈ Cz で正則なので, テーラー展開

fz(z) =∞∑n=0

cnzn

をもつ. fz は Cz で正則なので, この等式は z ∈ Cz で成立する.

• 同様に

fw(w) =∞∑n=0

dnwn (w ∈ Cw)

と書ける.

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これらは変換則を満たすので∞∑n=0

cnw−n =

∞∑n=0

dnwn

が成り立つ. これが任意の w ∈ Cw ∩ Cz = C×w で成り立つには c0 = d0 かつ cn, dn = 0

(n > 0) が必要となる.

(2) f(z) ∈ C(z) が, (2) の手順でMP1(P1) の元とみなせることは明らか.

逆は f ∈ MP1(P1) が fz(z) ∈ C(z), fw(w) = fz(1w) を満たしていることを言えばよい.

f ∈MP1(P1) とする. 極は集積点を持たず, P1 はコンパクトなので, 極は有限集合である.

極のうち, Cz 内にあるものを a1, . . . , an とおき, それぞれの極の位数を N1, . . . , Nn とおく. このとき

gz(z) :=n∏i=1

(z − ai)Nifz(z)

は Cz 上の正則関数であり

gw(w) := gz(1w) =

∏ni=1(1− aiw)Ni

w∑n

i=1Nifz(

1w) =

∏ni=1(1− aiw)Ni

w∑n

i=1Nifw(w)

は Cw 上の有理型関数となる (∵仮定より fw(w)は Cw 上の有理型関数). 組 (gz(z), gw(w))

は明らかに変換則を満たすのでMP1(P1) の元 g を与える. さらに g の極は (あるとしたら) 0 ∈ Cw のみ. この位数を N とおけば, z = 0, w = 0 での展開は

gz(z) =∞∑n=0

cnzn (z ∈ Cz), gw(w) =

∞∑n=−N

dnwn (w ∈ C×

w)

と書けており, さらに変換則∞∑

n=−N

dnwn = gw(w) = gz(

1w) =

0∑n=−∞

c−nwn

を満たす. すなわち

c0 = d0, c1 = d−1, . . . , cN = d−N , cN+1 = cN+2 = · · · = 0, とくに gz(z) ∈ C[z]

が分かる. よって fz(z) :=∏n

i=1(z − ai)−Nigz(z) ∈ C(z). 変換則 fw(w) = fz(1w) は明らか

であろう.

注意 17. 上の命題の (2) は

• MP1(Cz) の部分集合 C(z) の元は, 一意的にMP1(P1) の元へと延びる.

• また,MP1(P1) の元はこれらで尽きる.

ことを言っている. すなわち

MP1(P1)同一視= C(z) ⊂MP1(Cz)

とみなせる.

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3 リーマン球面 (2)

定義 18. 連続写像 f : P1 → P1 を考える. 区別のため, 始域の P1 の被覆を P1 = Cw ∪Cz

で表し, 終域の P1 の被覆を P1 = Cs ∪ Ct で表す. f : P1 → P1 が 正則写像 であるとは

• f |f−1(Cs) : f−1(Cs)→ Cs.

• f |f−1(Ct) : f−1(Ct)→ Ct.

がともに正則であることとする.

注意 19. f は座標表示

• fw := f |Cw : Cw → P1.

• fz := f |Cz : Cz → P1.

の組で変換則 fw(w) = fz(1w) を満たしているものである. さらに Vws := f−1

w (Cs), Vws :=

f−1w (Ct), Vzs := f−1

z (Cs), Vzt := f−1z (Ct) 上に分割して

• fws := f |Vws : Vws → Cs.

• fwt := f |Vwt : Vwt → Ct.

• fzs := f |Vzs : Vzs → Cs.

• fzt := f |Vzt : Vzt → Ct.

を考える. これらが全て正則であるとき, f : P1 → P1 は正則写像である. また, 重複する領域において, 各関数の正則性は同値になる.

補題 20. 正則写像 f : P1 → P1 全体 = MP1(P1)⨿∞ (= C(z)

⨿∞). ただし

∞ : P1 → P1 は, 定値写像 ∀a 7→ ∞ を表す.

証明. (⊃), すなわち f ∈ MP1(P1) が, 正則写像 P1 → P1 とみなせることを言う (定値写像 ∞ が正則写像は明らか). f が a ∈ P1 で正則なとき, 明らかに f : Va → C = Ct ⊂ P1

(Va は a の充分小さな近傍) も a で正則. 次に f が a ∈ P1 で N 位の極を持つとする. また, 簡単のため a ∈ Cz とする (a ∈ Cw でも同様). すなわち

このとき fzt は a で N 位の極を持つ.

厳密には, f は z ∈ Cz | 0 < |z − a| < ϵ で定義されるが

fzw : a 7→ 0 ∈ Cs ⊂ P1

と考えることにより, f は a の近傍 z ∈ Cz | |z − a| < ϵ 上の連続写像となる. Cs と Ct

の張り合わせ s = t−1 より,

fzt =1fzsは a で N 位の零を持つ (とくに正則)

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ことが分かる.

(⊂) を言うには, 定値写像 ∞ 以外の正則写像 f : P1 → P1 に対して

• Ω := P1 − f−1(∞) とおく. ここで ∞ = 0 ∈ Cs ⊂ P1 である.

• 各点 a ∈ Ω において f |Ω : Ct は正則.

• 各点 a ∈ f−1(∞) において f は極を持つ.

ことを言えばよい. 演習問題とする.

問題 3. 上記の (⊂) の証明を完成させよ.

定義 21. P1, . . . , Pm ∈ P1 を相異なる点とし, n1, . . . , nm ∈ N とする. このとき

Γ

(P1,OP1

(m∑i=1

niPi

)):=f ∈MP1(P1) | P =P1,...,Pm において正則

P=Pi において高々 ni 位の極をもつ

.

命題 22. dimC Γ(P1,OP1(∑m

i=1 niPi)) = 1 +∑m

i=1 ni.

証明. 簡単のため Pi = ai ∈ Cz (i = 1, . . . ,m) とする. z − a ∈ C(z) =MP1(P1) は

• z = a で 1 位の零をもつ.

• z = b ∈ Cz で正則かつ零でない.

• z =∞ (= 0 ∈ Cw で 1 位の極をもつ.

ことに注意. よって f ∈ Γ(P1,OP1(∑m

i=1 niPi)) に対し

g(z) :=m∏i=1

(z − ai)nif(z)

はMP1(P1) = C(z) = p(z)q(z)| p(z), q(z) ∈ C[z], q(z) = 0 の元 p(z)

q(z)で, Cz 上正則なもの

である. もし deg q(z) > 0 なら必ず根 a ∈ C s.t. q(a) = 0 をもつので, その点で極をもつことになる. よって deg q(z) = 0, すなわち q(z) = c (定数) である. 結局

g(z) := c−1p(z) =n∑i=0

cizi ∈ C[z]

の形となる. よって

f(z) =

∑ni=0 ciz

i∏mi=1(z − ai)ni

と書ける. さらに f が ∞ で正則

⇔ fw(w) =∑n

i=0 ciw−i∏m

i=1(w−1−ai)ni

= w−n+∑m

i=1 ni

∑ni=0 cn−iw

i∏mi=1(1−aiw)ni

が w = 0 で正則⇔ n ≤∑m

i=1 ni

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だから, 結局 N :=∑m

i=1 ni に対して

Γ

(P1,OP1

(m∑i=1

niPi

))

=

c0 + c1z + · · ·+ cNz

N∏mi=1(z − ai)ni

∈ C(z) | c0, c1, . . . , cN ∈ C

となり題意が従う.

問題 4. Γ(P1,OP1(n∞)) は n+ 1 次元複素ベクトル空間となる. 基底を一組与えよ.

一般化へ向けてのポイント P1 は, 2 枚の複素平面 Cw,Cz を “張り合わせる” ことで定義された. この張り合わせを表す写像は

φ : C×w → C×

z , w 7→ w−1,

ψ : C×z → C×

w , z 7→ z−1

となり “どちらの向きも正則関数” (双正則写像) になっていることに注意. この結果,

写像

f : P1 → C

が, 張り合わせ部分の点 a = 0,∞ で正則かどうかは

a ∈ Cz → P1 f→ C,

a−1 ∈ Cw → P1 f→ C

のどちらで考えても変わらない. 実際, 片方は, もう片方に φ または ψ を合成した関数になっている:

C×z → P1 f→ C,

φ →

ψ→

C×w → P1 f→ C.

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4 リーマン面上の正則写像 (1)

定義 23. X を空でない第二可算公理を満たす連結ハウスドルフ空間とする. 開被覆

X = ∪i∈IUi

と, 同相写像

φi : Ui → Ui (i ∈ I, Ui ⊂ C は開集合)

Ui ∩ Uj = ∅ ⇒ φij := φi φ−1j : φj(Ui ∩ Uj)→ φi(Ui ∩ Uj) は正則

を満たすとき, (X, φi : Ui → Uii∈I) を リーマン面 という. X, φ : Ui → Uii∈I は, それぞれリーマン面の 台空間, 座標近傍系 (アトラス) という.

注意 24. 上記定義の φij は, その逆写像 φ−1ij も正則なので, 双正則になることに注意:

X ⊃ Ui ⊃ Ui ∩ Uj≈→ φi(Ui ∩ Uj) ⊂ Ui ⊂ C,

φij →

φji→

X ⊃ Uj ⊃ Uj ∩ Ui≈→ φj(Uj ∩ Ui) ⊂ Uj ⊂ C.

すなわち, リーマン面は (同相写像 φi : Ui → Ui により Ui ⊂ X, Ui ⊂ C を同一視したとき), 複素平面の開集合 Ui 達を, 双正則写像 φij : φj(Ui ∩ Uj)→ φi(Ui ∩ Uj) によって張り合わせて得られる.

問題 5. (1) C は id : C → C を座標近傍 (系) とするリーマン面であることを確かめよ.

(2) P1 はコンパクトなリーマン面であることを確かめよ. とくに座標近傍系を明記せよ.

定義 25. (X, φi : Ui → Uii∈I) をリーマン面とする.

(1) 集合 A への写像 f : X → A に対し, 制限 fi := f |Ui: Ui → A の引き戻し Fi :=

fi φ−1 : Ui → A を考える. このとき 変換則

Ui ∩ Uj = ∅ ⇒ Fj(z) = Fi(φij(z)) (z ∈ φj(Ui ∩ Uj) ⊂ Uj ⊂ C)

を満たすことに注意. また, 変換則を満たす写像の族

Fi : Ui → A | i ∈ I s.t. Fj(z) = Fi(φij(z)) (z ∈ φj(Ui ∩ Uj))

は, リーマン面 X 上の写像を定める.

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(2) 別のリーマン面 (Y, ψj : Vj → Vjj∈J) への連続写像 f : X → Y を考える. 各点P ∈ X に対して, 近傍 UP ⊂ X を

UP ⊂ Ui, f(UP ) ⊂ Vj (∃i ∈ I, ∃j ∈ J)

となるようにとったとき

ψj f φ−1i : φi(UP )→ ψj(f(UP ))

を f の 座標表示 という.

(3) f : X → Y が点 P ∈ X で 正則 def⇔ f の座標表示 ψj f φ−1i が φi(P ) で正則.

f : X → Y が 正則写像 def⇔ 各点 P ∈ X で正則.

(4) 正則写像 f : X → C を X 上の 正則関数 と呼ぶ.

注意 26. f : X → Y の点 P 付近での座標表示 ψj f φ−1i : φi(UP )→ ψj(f(UP )) の始域

と終域は

“φi(P ) ∈ C の近傍”→ “ψj(f(P )) ∈ C の近傍”

という写像になる. 厳密には, 始域側の変数を z ∈ Cz, 終域側の変数を t ∈ Ct とおくとき

Xf→ Y

⊂ ⊂

UPf |UP→ f(UP )

≈ ≈

Cz ⊃ φi(UP )ψjfφ−1

i→ ψj(f(UP )) ⊂ Ct

∈ ∈

z 7→ t = ψj f φ−1i (z)

と書くべきであるが

φi : UP ≈ φi(UP ) , ψj : UP ≈ ψj(f(UP ))

∈ ∈ ∈ ∈

φ−1i (z) ↔ z ψ−1

j (t) ↔ t

を同一視して

t = f(z)

と略記することもある.

注意 27. 上記の正則性は座標近傍の選び方によらない (∵ φij が双正則写像). すなわち

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リーマン面 = “正則関数が定義できる曲面”

と言える.

定義 28. X,Y をリーマン面とする. 全単射 f : X → Y で, f, f−1 が共に正則写像となるものを 双正則写像 と呼ぶ. また, X,Y の間に双正則写像が存在するとき, X,Y は 同型または 双正則 である, という.

記号の節約のため, 次の概念を導入する.

定義 29. 台空間 X に対し, 定義可能な座標近傍系全体 AX を考える. φi : Ui → Ui | i ∈I, ψj : Vj → Vj | j ∈ I ∈ AX に対し順序 ⪯ を

φi : Ui → Ui | i ∈ I ⪯ ψj : Vj → Vj | j ∈ J∃ι : I → J s.t. 単射かつ ∀i ∈ I, ψι(i) = φi

で定める. この順序に関する極大元を X の 極大座標近傍系 と呼ぶ.

注意 30. 台空間 X 上の座標近傍系 φi : Ui → Ui | i ∈ I に対し, それより大きな極大座標近傍系 ψj : Vj → Vj | j ∈ I が存在する (∵ 追加可能な座標近傍を可能な限り追加してやればよい). このとき

idX : (X, φi : Ui → Ui | i ∈ I)→ (X, φj : Vj → Vj | j ∈ I)

は双正則写像となる. よって以下では, リーマン面の座標近傍系は, 極大なものだとして良い. このとき

• 座標近傍 φ : U → U の制限 φV : V → φ(V ) (V ⊂ U , 開集合).

• 座標近傍 φ : U → U の平行移動 φ : U → U +z0 (z0 ∈ C, U +z0 := z+z0 : z ∈ U).

• 座標近傍 φ : U → U と双正則写像 ψ : U → V の合成 ψ φ : U → V (V ⊂ C).

も, もともとその座標近傍系に含まれているとしてよい (∵ 張り合わせの写像 φij が, それぞれ恒等写像, 平行移動, ψ になり, 双正則写像). とくに, 座標近傍 φP : UP → UP で

φP (P ) = 0

となるものが存在し (∵ 平行移動 ), 点 P ∈ X の 局所座標 と呼ばれる.

補題 31. 点 P ∈ X の局所座標 φ : U → U を考える.

(1) ψ : V → V も P の局所座標であれば, 商 ψφは P の近傍において, 零点をもたない

正則関数となる.

(2) P の近傍において零点をもたない正則関数 u に対し, 積 uφ は P の十分小さな近傍上で局所座標となる.

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証明. (1) 張り合わせ写像 ψ φ−1 は双正則写像であった. よってテーラー展開は

ψ φ−1(z) = c1z + c2z2 + · · · (c1 = 0)

となる (局所座標より φ(P ) = ψ(P ) = 0, とくに ψ φ−1(0) = 0 に注意). よって, 関数 ψφ

の局所座標 φ : U → U における表示

ψ

φ φ−1(z) =

ψ φ−1

φ φ−1(z) =

ψ φ−1(z)

z= c1 + c2z + · · · (c1 = 0)

は φ(P ) = 0 ∈ U の近傍において正則.

(2) 同様に, 局所座標 φ : U → U での表示を考えると

u φ−1(z) = d0 + d1z + d2z2 + · · · (d0 = 0)

より

(uφ) φ−1(z) = (u φ−1)(z)× id(z) = d0z + d1z2 + d2z

3 + · · · (d0 = 0).

すなわち uφ, φ の張り合わせ関数 (uφ) φ−1 が双正則写像なので uφ = (uφ) φ−1 φ も局所座標となる.

定理 32 (正則写像の剛性). リーマン面間の正則写像 f, g : X → Y が, 非空開集合 U ⊂ X

で一致すれば, X 全体で一致する.

証明. 複素平面での正則写像の剛性へ帰着される. 省略.

補題 33. 座標近傍 φ : U → U と点 P ∈ U を考える. U (または U − P) 上定義された正則関数 f が

点 P で n 位の零 (または極) をもつ def⇔ f φ−1 が φ(P ) で n 位の零 (または極) をもつ

と定める. このとき, この定義は座標近傍の取り方によらない.

証明. P1 での証明と同様. 省略.

定義 34. 写像 f : X → C が 有理型関数 def⇔ f は各点 P ∈ X で正則または極を持つ. また, 有理型関数 f : X → C に対し

ordP f :=

n (f は P で n 位の零をもつ)

−n (f は P で n 位の極をもつ)

0 (f は P で正則かつ非零)

と定める.

補題 35. X 上の有理型関数全体 ∪ ∞ = 正則写像 : X → P1 全体 . ただし,

∞ : X → P1, x 7→ ∞ は定値写像を表す. とくに非空開集合で一致する有理型関数は, 全体で一致する (∵ 正則写像の剛性 ).

証明. P1 での証明と同様. 省略.

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5 リーマン面上の正則写像 (2)

定理 36. 非定値正則写像 f : X → Y を考える. 各点 P ∈ X に対して, 適切な局所座標φP : UP → UP , ψf(P ) : Vf(P ) → Vf(P ) を取れば

ψf(P ) f φ−1P : UP → Vf(P ), z 7→ t = zm (z ∈ UP , t ∈ Vf(P ), m ∈ N)

とできる. またこの m は一意的に定まり, 正則写像 f の点 P での 分岐指数 と呼ばれる.

分岐指数が 2 以上の点 P は, f の 分岐点 と呼ばれる.

証明. 適当な局所座標での表記のテーラー展開が

ψ f φ−1(z) = cmzm + cm+1z

m+1 + · · · (cm = 0)

とかけたとする. このとき P の局所座標 φ を題意を満たすように取り直しす. まず

u(z) := cm + cm+1z + · · ·

は 0 の近傍において零点をもたない正則関数だから, その範囲で

u1/m(z) := exp(

1mlog u(z)

)が well-defined で, 正則かつ u1/m(0) = 0 を満たす. さらに, 恒等写像 z との積 v(z) :=

zu1/m(z) を考えると

ϕ := v φ = (u1/m φ)φ

は P の近傍での局所座標を与える. これが題意を満たす. 実際

v(z)m = cmzm + cm+1z

m+1 + · · · = ψ f φ−1(z)

に注意して

ψ f ϕ−1(z) = (ψ f φ−1) v−1(z) = zm

を得る.

次に一意性を見る.

ψ1 f φ−11 (z) = zm, ψ2 f φ−1

2 (z) = zn

と書けたとする. 張り合わせ写像 ψ1 ψ−12 , φ1 φ−1

2 は, それぞれ 0 を 0 へ送る双正則写像だから

ψ1 ψ−12 (t) = c1t+ c2t

w + · · · , φ1 φ−12 (z) = d1z + d2z2 + · · · (c1, d1 = 0)

と書ける. よって

zm = ψ1 ψ−12 ψ2 f φ−1

2 (z) φ1 φ−12 (z)

= c1(d1z + d2z2 + · · · )n + c2(d1z + d2z2 + · · · )2n + · · ·= c1d1z

n + · · ·

が成り立ち, m = n が従う.

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注意 37. 証明方法より, ある局所座標でのテーラー展開が

ψ f φ−1(z) = cmzm + cm+1z

m+1 + · · · (cm = 0)

なら, P = φ(0) での分岐指数は m である. さらに局所座標とは限らない座標表示で

ψ f φ−1(z) = c0 + cm(z − a)m + cm+1(z − a)m+1 + · · · (cm = 0)

となれば, P = φ(a) での分岐指数は m である (∵ 平行移動により上の形に直せる ).

系 38. 非定値正則写像は開写像である.

証明. 各点 P での局所座標表示が t = zm (m ∈ N) の形. この m 乗写像は, 開円板z | |z| < ε を開円板 t | |t| < εm へ移すので開写像.

定理 39. X,Y をリーマン面とし, X はコンパクトとする. このとき

(1) 正則写像 f : X → Y は定値写像, または全射となる.

(2) (1) でさらに Y がコンパクトでなければ定値写像となる.

(3) コンパクトリーマン面上の正則関数は定数関数のみである.

証明. (1) f は連続より f(X) はコンパクト. とくに Y の閉集合である. さらに, もし非定値なら, 上の系より開写像である. 特に f(X) は開集合である. 合わせて f(X) は Y の連結成分になり, Y は連結だったので f(X) = Y を得る.

(2) もし全射なら Y = f(X) もコンパクト.

(3) 正則関数は正則写像 f : X → C とみなせる. C は非コンパクトなので (2) より.

定理 40. X,Y をコンパクトリーマン面とし, 非定値正則写像 f : X → Y を考える.

(1) 各点 Q ∈ Y に対し, その逆像 f−1(Q) は有限集合であり, そこでの分岐指数の和∑P∈f−1(Q)

eP

は Q ∈ Y によらず一定になる. この値を f の 写像度 または 被覆次数 と呼ぶ.

(2) 有限個の Q ∈ Y を除き, 全ての P ∈ f−1(Q) で f は不分岐. またそのような Q で

f の写像度 = |f−1(Q)|.

証明. (1) まず仮定より f は全射であることを注意しておく. 各点 P に対して, 局所座標P ∈ UP ≈ UP (と f(P ) ∈ Vf(P ) ≈ Vf(P )) で, その局所座標での表示が

UP → Vf(P ), z 7→ t = zeP

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となるものを取っておく. UPP∈X は X の開被覆なので, X のコンパクト性より, 有限個で被覆できる:

X = ∪ni=1UPi.

各 UPi上では ePi

乗写像なので, この範囲内で

|f−1(Q) ∩ UPi| ≤ ePi

(Q ∈ Vf(Pi))

となる. よって

|f−1(Q)| ≤∑

i s.t. Q∈VPi

|f−1(Q) ∩ UPi| =

∑i s.t. Q∈VPi

ePi<∞.

続いて∑

P∈f−1(Q) eP が定数であることを見る. Y が連結より, Y ∋ Q 7→∑

P∈f−1(Q) eP ∈ Zが局所定数関数であることを言えばよい. すなわち Q ∈ Y の (充分小さい) 近傍 V で

Q′ ∈ V ⇒∑

P∈f−1(Q′)

eP =∑

P∈f−1(Q)

eP

を示す. これは各点 P ∈ f−1(Q) での局所座標表示

UP → VQ, z 7→ t = ze

での議論に帰着できる (近傍をうまく取り換える議論. 省略). すなわち

Q′ ∈ VQ ⇒∑

P∈f−1(Q′)∩UP

eP = e

を見ればよい. 実際

• Q′ ∈ VQ, = Q ⇒ |f−1(Q) ∩ UP | = |z ∈ UP | ze = t| Q′ =Q⇔t=0= |z = exp(2πik

e)t

1e | k =

0, 1, . . . , e− 1| = e.

• [f の P ′ ∈ VP , = P での分岐指数] = [z 7→ t = ze の z = a = 0 での分岐指数](⋆)= 1.

となり

Q′ ∈ VQ ⇒∑

P∈f−1(Q′)∩UP

eP = 1 + 1 + · · ·+ 1︸ ︷︷ ︸e 個

= e

を得る. なお (⋆) は, z′ := z − a, t′ := t− ae とおいて

z′ 7→ t′ = t− ae = ze − ae =(e1

)(z − a) +

(e2

)(z − a)2 + · · ·+ (z − a)e

の z′ = 0 (⇔ z = a) での分岐指数 = 1 から従う.

(2) (1)の証明中に, 局所座標表示 UP → VQ, z 7→ t = ze において分岐しているのは z = 0

の所だけであることを見た. とくに分岐点 P ∈ X は離散的であり, X がコンパクトなら有限集合. よってその像 Q = f(P ) ∈ Y 達も有限集合. あとは自明.

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系 41. (1) X,Y をコンパクトリーマン面とし, 非定値正則写像 f : X → Y を考える.

このとき

f が双正則 ⇔ f は 1 重被覆.

(2) X をコンパクトリーマン面とし, f をX 上の有理型関数とする. このとき ordP f = 0

となる P ∈ X は高々有限個であり∑P∈X

ordP f

(:=

∑P∈X, ordP f =0

ordP f

)= 0.

証明. (1) 双正則であれば全単射. とくに全ての Q ∈ Y で |f−1(Q)| = 1. よって上の定理の(2)より写像度 = 1. 逆に写像度 = 1 であれば全ての点で全単射であり, 局所座標表示は

U → V , z 7→ t = z

とできる. この逆写像も

V → U , t 7→ z = t (= id)

なので正則.

(2) 有理型関数を, 正則写像 f : X → P1 とみなす. このとき

零点全体 = f−1(0), 極全体 = f−1(∞).

に注意. さらに

ordP f =

eP (f(P ) = 0)

−eP (f(P ) =∞)

だから ∑P∈X

ordP f =∑

P∈f−1(0)

eP −∑

P∈f−1(∞)

eP

と書ける. これは上の定理の (1) より 0.

問題 6. 問題 1 と同様に, Cz 上の有理型関数

fz : Cz → Ct, fz(z) :=(z − 1)4

z2 + 1

を, P1 上の有理型関数とみなし, さらに正則写像

f : P1 → P1

とみなす. この正則写像 f の分岐点を全て求めよ. また, 各点での分岐指数, 及び f の写像度も求めよ.

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6 楕円曲線教科書 pp67–99 で扱われているリーマン面の具体例のうち, 楕円曲線 を紹介する.

定義 42. 部分集合 Λ ⊂ C で

Λ = Zω1 ⊕ Zω2 := n1ω1 + n2ω2 | n1, n2 ∈ Z (ω1, ω2 ∈ C×, ω1/ω2 /∈ R)

の形に表せるものを 格子 と呼ぶ. 格子は加法群 C の部分群 (可換群なので自動的に正規部分群) であることに注意.

例えばガウス整数環 Z[√−1] = Z⊕Z

√−1 は格子である. 以下, Λ = Zω1⊕Zω2 を任意

の格子とする.

定義 43. C 上の同値関係

α ∼ β ⇔ α− β ∈ Λ

に対する商集合

E := C/Λ := C/∼

を 複素トーラス と呼ぶ. また, 自然な射影を

p : C→ E, α 7→ α := α + Λ

で表す.

命題 44. 複素トーラスは, 剰余群としての群構造を持つ: α + β := α + β.

証明. 自明.

補題 45. (1) p は全射かつ, 連続かつ, 開写像.

(2) E の 基本領域 として

S := aω1 + bω2 | 0 ≤ a, b < 0

が取れる. とくに

p|S : S → E

は全単射.

(3) E は第 2 可算公理を満たす, 連結・コンパクト・ハウスドルフ空間.

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証明. (2) 任意の点 α ∈ C は α = xω1 + yω2 (x, y ∈ R) の形に一意的に書ける (∵ ω1, ω2

は R 上一次独立). よって α ∼ α0 := aω1 + bω2 0 ≤ a, b < 0 を満たす a, b がただ一つ存在する (a, b は x, y の小数部分).

(1) 全射かつ連続は自明. 開写像であることを言うには, 開球

B(α, ϵ) := z ∈ C | |z − α| < ϵ

を取ったとき, その像 p(B(α, ϵ)) が開集合であることを言えばよい. これは

p(B(α, ϵ)) ⊂ E が開集合 商位相の定義⇔ p−1(p(B(α, ϵ))) ⊂ C が開集合

p−1p((B(α, ϵ))) = ∪m,n∈ZB(α +mω1 + nω1, ϵ)

より従う.

(3) S の閉包 S は連結かつコンパクト. よってその像 p(S) = E も連結かつコンパクト.

ハウスドルフ性は

α = β ⇒ α /∈ p−1(β) = β + n1ω1 + n2ω2 | n1, n2 ∈ Z⇒ ϵ := min

γ∈p−1(β)|α− γ| > 0 (∵ p−1(β) は離散集合)

⇒ B(α, ϵ2) ∩B(γ, ϵ

2) = ∅ (∀γ ∈ p−1(β))

⇒ α ∈ p(B(α, ϵ2)), β ∈ p(B(β, ϵ

2)), p(B(α, ϵ

2)) ∩ p(B(β, ϵ

2)) = ∅

が分かる. p が開写像より, 2 点 α, β を開集合 p(B(α, ϵ2)), p(B(β, ϵ

2)) で分離できた.

注意 46. E = C/Zω1⊕Zω2 の概形は以下のようになる. 複素平面において, 4点 A := ω2,

B := ω1 + ω2, C = ω2, D := 0 を考える.

• 平行四辺形 ABCD を考える (ベクトルとして AB = DC, BC = AD). 辺 AB, DC

を張りつけると, 円柱の側面が出来上がる. 更に, 辺 BC, AD を貼りつけたものが,

穴が一つの浮輪の形をしており, C/L と同一視できる.

• 貼りつける際に, 点 A,B,C,D は, まず A ↔ D, B ↔ C が重なり, 更に, B ↔ A,

C ↔ D も重なっている. すなわち, A,B,C,D は一点になっている.

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命題 47. E は (自然な座標近傍系が定まり) コンパクトリーマン面となる.

証明. 各点 P ∈ E に対して αP ∈ p−1(P ) をとり, “十分小さな開集合” αP ∈ UP ⊂ C をとると

p|UP: UP → UP := p(UP )

が同相写像となる. この逆写像を集めたもの

φP := p|−1UP

: UP → UP

が座標近傍系を与える (問題とする). なお, “十分小さな開集合” UP は, 基本領域を平行移動したもの

αP + S = αP + aω1 + bω2 | 0 ≤ a, b < 0

に含まれるように取ればよい.

問題 7. 上の証明中のように φP : UP → UP をとる. UP ∩ UQ = ∅ であるとき,

φP φ−1Q : φQ(UP ∩ UQ)→ φP (UP ∩ UQ)

は平行移動

z 7→ z + ω (ω := φQ(P )− αP ∈ Λ, 定数)

であることを確かめよ. とくに双正則写像である.

定義 48. C 上の有理型関数 f(z) で, Λ = Zω1 ⊕ Zω2 の作用で不変:

ω ∈ Λ⇒ f(z + ω) = f(z)

なものを 2 重周期関数 と呼ぶ. これは

f(z + ω1) = f(z + ω2) = f(z)

と同値である.

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補題 49. 2 重周期関数全体を P で表し, コンパクトリーマン面 E 上の有理型関数全体をC(E) で表す. このとき

C(E)→ P , f 7→ p∗f := f p

は全単射である. 今後これらを同一視する.

証明. 全単射をいうには, 逆写像

P → C(E)

を作ればよい. 実際 g ∈ P に対して

f : E → C ∪ ∞, P = p(α) 7→ f(P ) := g(α)

と定める. 2 重周期性より f(P ) は P = p(α) となる α の取り方によらず, well-defined になる. f が有理型関数になっていることや, g 7→ f が p∗ の逆写像を与えているのは簡単にわかる.

注意 50. 1 位の極を一つだけもつ 2 重周期関数は存在しないことが示せる. (∵ C(E) の方で考える. もしそのような関数が存在すれば E ∼= P1 となりる. 一方で E と P1 は “幾何的性質” が異なるので矛盾となる→ 問題 12) つまり, 次の ℘ 関数 は, 最も “基本的な”

2 重周期関数であると言える.

定理 51. (1) (格子 Λ に付随する) ワイエルシュトラスの ℘ 関数 を

℘(z) :=1

z2+∑

0=ω∈Λ

(1

(z − ω)2− 1

ω2

)で定める. この級数は (広義一様絶対) 収束し, 格子点にのみ 2 位の極をもつ 2 重周期関数となる.

(2) ℘ 関数は項別微分可能. とくに

℘′(z) := −2∑ω∈Λ

1

(z − ω)3

となり, これは 2 重周期関数で, 格子点上にのみ 3 位の極を持つ.

ペー関数の性質を調べるには, 以下の補題が必要になる.

補題 52. z ∈ C, t > 0 に対し ∑ω∈Λ, z−ω =0

1

|z − ω|t<∞⇔ t > 2.

注意 53. (1) 上の補題は,リーマンゼータ関数の収束・発散の証明と同様の手法で示せる.

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(2) 微分 ℘′(z) に比べて, ペー関数のそのものの定義は “回りくどさ” がある. しかし,

ただ単に∑

ω∈Λ1

(z−ω)2 と定義しても, 上の補題より収束しないことが分かる.

定理 51 の証明の概略. 以下の順番で議論する:

(a) ℘(z) の広義一様絶対収束性 (z /∈ Λ)

(b) ℘(z) の正則性と項別微分可能性

(c) ℘′(z) の周期性

(d) ℘(z) の周期性

(e) ℘(z), ℘′(z) の極 (z ∈ Λ) でのローラン展開

(a) 1(z−ω)2 −

1ω2 = z(2ω−z)

(z−ω)2ω2 ∼ ωω4 = 1

ω3 となる. ここで f(ω) ∼ g(ω)def⇔ f(ω)

g(ω)(ω ∈ Λ) が有界,

と定めた. よって補題と優級数定理より, 広義一様絶対収束が言える.

(b) 一般に, 正則関数の一様収束先は正則関数で, 微分と極限の順序交換可能である.

(c) Λ は加法群なので, ω0 ∈ Λ に対して Λ − ω0 = Λ である. とくに ℘′(z + ω0) :=

−2∑

ω∈Λ1

((z+ω0)−ω)3 = −2∑

ω∈Λ1

(z−(ω−ω0))3= −2

∑ω∈Λ−ω0

1(z−ω)3 = −2

∑ω∈Λ

1(z−ω)3 .

(d)微分 ℘′(z)が周期性をもつので (℘(z)−℘(z+ωi))′ = 0, すなわち ℘(z)−℘(z+ωi) = ci(i = 1, 2, Λ = Zω1 ⊕ Zω2). 特に ℘(−ωi

2)− ℘(ωi

2) = ci. 一方で定義より ℘(−z) = ℘(z), 特

に ℘(ωi

2) = ℘(−ωi

2). よって ci = 0.

(e) 周期性より z = 0 でのローラン展開を見れば十分. 計算で

℘(z) = z−2 +∞∑n=1

∑0=ω∈Λ

2n+ 1

ω2n+2z2n,

℘′(z) = −2z−3 +∞∑n=1

∑0=ω∈Λ

2n(2n+ 1)

ω2n+2z2n−1

を得る. 補題より各係数∑

0=ω∈Λ2n+1ω2n+2 ,

∑0=ω∈Λ

2n(2n+1)ω2n+2 は収束することに注意.

系 54. (2 重周期関数 ℘ を E 上の有理型関数とみなしたとき) ℘ : E → P1 は 4 点0, ω1

2, ω2

2, ω1+ω2

2で分岐する 2 重被覆となる. また

℘−1(℘(α)) = α,−α

となる.

証明. [℘(z) は格子点にのみ 2 位の極をもつ 2 重周期関数] を, 正則写像 ℘ : E → P1 の言葉に直すと

℘−1(∞) = 0, 0 ∈ E は分岐点であり, その分岐指数は 2

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である. よって

deg℘ =∑

P∈℘−1(∞)

eP = 2,

すなわち 2 重被覆である.

次に ℘(z) は偶関数なので

℘(a) = ℘(−a)

が成り立つ. よって

a = −a⇒ 2 = deg℘ =∑

P∈℘−1(℘(a))

eP = ea + e−a

eP≥1⇒ ea = e−a = 1,

すなわち, a,−a ∈ E が異なれば, a は不分岐である.

さらに

a = −a⇔ 2a = a− (−a) ∈ Λ⇔ a =n1ω1 + n2ω2

2(n1, n2 ∈ Z)

⇒ a =

0 (n1, n2 ∈ 2Z)ω1

2(n1 ∈ 2Z+ 1, n2 ∈ 2Z)

ω2

2(n1 ∈ 2Z, n2 ∈ 2Z+ 1)

ω1+ω2

2(n1, n2 ∈ 2Z+ 1)

だから, 分岐点は高々これら 4 点である. 0 で分岐しているのは上で見た. 例えば ω1

2で分

岐していることを確かめるには, 注意 37 より, 微分が消えていることを見ればよい. 実際,

℘′(z) は奇関数なので ℘′(ω1

2) = ℘′(−ω1

2), 周期性より ℘′(ω1

2) = ℘′(−ω1

2+ω1) = ℘′(−ω1

2), 合

わせて ℘′(ω1

2) = 0 を得る. 他の 2 点も同様.

命題 55. 恒等式

℘′2 = 4℘3 − g2℘− g3

が成り立つ. ただし g2 := 60∑

0 =ω∈Λ ω−4, g3 := 140

∑0 =ω∈Λ ω

−6.

証明. それぞれのローラン展開を代入すると

℘′(z)2 −(4℘(z)3 − g2℘(z)− g3

)=定数項が 0 の C 上の正則関数

となる. とくにこの関数は基本領域 S 上で正則で, 従って同じ範囲で有界である. 左辺の形から 2 重周期関数でもあるので, S +ω (ω ∈ Λ) でも同じ値をとり C = ∪ω∈Λ(S +ω) 全体で有界な正則関数になる. これは定数関数しかない. 一方でこの関数の定数項は 0 だったので, = 0 を得る.

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注意 56. 楕円曲線の一般化として 超楕円曲線 が考えられる. 大まかに説明すると,

複素射影平面

P2 := [a0 : a1 : a2] | a0, a1, a2 ∈ C, (a0, a1, a2) = (0, 0, 0),

[a0 : a1 : a2] = [b0 : b1 : b2]def⇔ ∃c ∈ C× s.t. (a0, a1, a2) = c(b0, b1, b2)

は 2 次元複素多様体となり,

ϕ : E → P2, a 7→ [℘(a) : ℘′(a) : 1] (a = 0), 0 7→ [0 : 1 : 0]

は複素多様体としての埋め込みを与える. とくに, (1 次元) 複素多様体としての同型

E ∼= C := ϕ(E) = [X : Y : Z] ∈ P2 | Y 2Z = 4X3 − g2XZ2 − g3Z3

を得る. ここで, 定義多項式 Y 2Z = 4X3 − g2XZ2 − g3Z3 は, 命題 55 の 2 変数多項式

y2 = 4x3 − g2x− g3

を 斉次化 したものである:

f(x, y) := y2 − 4x3 + g2x+ g3⇒ f(XZ, YZ)Z3 = Y 2Z − 4X3 + g2XZ

2 + g3Z3.

同様に

y2 = a0x2n+1 + a1x

2n + · · ·+ a2nx+ a2n+1

(ai は定数, 右辺は重根をもたない奇数次多項式)

を斉次化して定義された射影的代数曲線

[X : Y : Z] ∈ P2 | Y 2Z2n−1 = a0X2n+1 + a1X

2nZ + · · ·+ a2nXZ2n + a2n+1Z

2n+1

を超楕円曲線と呼び, リーマン面になることが知られている.

注意 57. 本節では ℘, ℘′ ∈ C(E) を示した. 実は

C(E) = C(℘, ℘′) ∼= Frac(C[X,Y ]/(Y 2 − 4X3 + g2X + g3)) ∼= C(X)(√

4X3 − g2X − g3)

が示せる. 右から二つ目は 2 変数多項式環 C[X,Y ] の素イデアル (Y 2− 4X3 + g2X + g3)

による剰余環の商体, 一番右は 1 変数代数関数体 C(X) に,元√4X3 − g2X − g3 を添加

した体.

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7 補足もし時間があれば何か話します.

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8 レポート課題• プリントにある問題を解けるだけ解いて数学科事務室へ提出.

• 期限は, 年明け ∼ 試験日前日まで.

• 誰かに解き方を聞くのは良いですが, 他の人のレポートの丸写しは認めません.

また, 参考にしたもの (本, 誰々のレポート, 誰々に聞いた, 等) を明記してください.

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9 層係数コホモロジー群 (1)

リーマン面上の正則関数は, 局所的な性質 (テーラー展開できる) で特徴づけられ, 大域的な性質 (コンパクトリーマン面上の正則関数は定数関数, 等) が導かれる. その他多くの概念に関して

局所での議論 ↔ 大域での議論

をつなげる “マシーン” が [層] と [層係数コホモロジー] である.

以下しばらくの間, X を位相空間とし, U を開集合全体 (位相構造) とする.

定義 58. X 上の (C-線形空間の) 前層 とは

• U ∈ U に対し, C-線形空間 F(U) が定まり,

• U, V ∈ U が V ⊂ U を満たせば, 線形写像 rFV U : F(U)→ F(V ) が定まり,

かつ以下のルールを満たしていることである:

(1) F(∅) = 0 (0 次元線形空間).

(2) U ∈ U⇒ rFUU = idF(U).

(3) W,V, U ∈ U, W ⊂ V ⊂ U ⇒ rFWU = rFWV rFV U .

注意 59. (1) 記法としては, 前層 F は, 線形空間と線形写像の集まり

F = (F(U) | U ∈ U, rFV U : F(U)→ F(V ) | U, V ∈ U, V ⊂ U)

で, 条件 (1), (2), (3) を満たすもののことである. 以下, 何も書かなくても, U, V,W

などは X の開集合を動くとし, 例えば

F = (F(U), rFV U : F(U)→ F(V )) = (F(U), rFV U)

などと略記する.

(2) 条件 (1) は便宜上の定義である.

(3) rFV U は 制限写像 と呼ばれる. (2), (3) は, “制限” に関して自然な性質となる. また

f ∈ F(U), V ⊂ U ⇒ f |V := rFV U(f)

とも表記する.

(4) Γ(U,F) := F(U) とも表記する. 元 f ∈ F(U) を, F の U 上の 切断 (section) と呼ぶ.

(5) 前層は “どんどん局所へ制限していく” ことを定式化している.

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定義 60. X 上の前層 F で以下を満たすものを 層 と呼ぶ: U ∈ U の開被覆

U = ∪i∈IUi

に対して

(1) f ∈ F(U) に対し,

[∀i ∈ I, f |Ui= 0] ⇒ f = 0.

(2) (fi)i∈I ∈∏

i∈I F(Ui) に対し

[∀i, j ∈ I, fi|Ui∩Uj= fj|Ui∩Uj

] ⇒ ∃f ∈ F(U) s.t. ∀i ∈ I, f |Ui= fi.

注意 61. (1) 層は, 局所へ制限するだけでなく “局所的なデータから大域的なデータを復元できる” ことを定式化している.

(2) 層の定義は

0→ F(∪i∈IUi)f 7→(f |Ui

)i∈I→∏i∈I

F(Ui)(fi)i∈I 7→(fi|Ui∩Uj

−fj |Ui∩Uj)i,j∈I

→∏i,j∈I

F(Ui ∩ Uj)

が完全系列になるとも言い換えられる.

問題 8. リーマン面 X 上の 正則関数のなす層 OX を

OX(U) := “U 上の正則関数全体”,

rOXV U : OX(U)→ OX(V ), f 7→ f |V

で定める. 同様に 有理型関数のなす層MX を

MX(U) := “U 上の有理型関数全体”,

rMXV U :MX(U)→MX(V ), f 7→ f |V

で定める. 実際に OX が層であることを確かめよ.

定義 62. X 上の前層 F を考える.

(1) x ∈ X に対し, 順極限

Fx := lim−→U∋xF(U) :=

(⨿U∋x

F(U)

)/∼,

F(U) ∋ f ∼ g ∈ F(V )def⇔ ∃W ⊂ U ∩ V s.t. f |W = g|W (∈ F(W ))

を x での ストーク と呼ぶ. ストーク Fx の一般元は, x の (充分小さい) 近傍 U 上での f ∈ F(U) で代表される:

[f ] ∈ Fx.

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(2) SuppF := x ∈ X | Fx = 0 を, 前層 F の サポート と呼ぶ.

(3) X 上の前層 F ,G の間の 準同型写像 φ : F → G とは, 線形写像

φ(U) : F(U)→ G(U)

達の集まりで

V ⊂ U ⇒ rGV U φ(U) = φ(V ) rFV U : F(U)→ G(V )

を満たすものである. 全ての φ(U) 達が同型写像であるとき, φ は 同型写像 であるといい, 記号

φ : F∼=→ G, F ∼= G

で表す.

(4) 準同型写像 φ : F → G から自然に, ストーク間の準同型写像

φx : Fx → Gx, [f ] 7→ [φ(f)]

が定まる.

問題 9. リーマン球面 P1 上の正則関数全体のなす層 OP1 を考える.

(1) OP1(P1) を求めよ.

(2) ∆r := z ∈ Cz | |z| < r とおく. OP1(∆r) ∼= “収束半径が r 以上となる冪級数∑∞n=0 cnz

n 全体” であることを説明せよ.

(3) 0 ∈ Cz ⊂ P1 におけるストーク (OP1)0 ∼= Cz := “収束半径が正となる冪級数∑∞n=0 cnz

n 全体” であることを説明せよ.

略解. (1) は §2 参照. (2) の同型は

OP1(Dr) ∋ f 7→ “f の z = 0 でのテーラー展開”

で得られる.

定理 63. X 上の前層 F = F(U), rFV U を考える. F の 層化 Fa = Fa(U), rFa

V U を

Fa(U) := (sx)x∈U ∈∏x∈U

Fx | ∀x ∈ U, x ∈ ∃Ux ⊂ U, ∃t ∈ F(Ux) s.t. sx = tx (x ∈ Ux),

rFa

V U : Fa(U)→ Fa(V ), (sx)x∈U 7→ (sx)x∈V

で定める. このとき

(1) Fa はX 上の層となる.

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(2) 各ストーク間には自然な同型 Fx ∼= Fax が存在する. (しかし, 必ずしも F(U) ∼=Fa(U) とは限らない.)

問題 10. x ∈ X での 摩天楼層 Cx を

Cx(U) :=

C (x ∈ U),0 (x /∈ U),

rCxV U : Cx(U)→ Cx(V ),

f 7→ f (x ∈ U, V ),

∀f 7→ 0 (x ∈ U, /∈ V ),

0 7→ 0 (x /∈ U, V )

で定める.

(1) Cx が層であることを確かめよ.

(2) Cx の各点でのストークを求めよ.

(3) Cx のサポートを求めよ.

注意 64. 前層 F の各ストーク Fx を “なめらかに” つなげたものが F の層化 Fa である.

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10 層係数コホモロジー群 (2)

定義 65. (1) 位相空間 X の離散集合 Pii∈I 上の形式和

D =∑i∈I

ni[Pi] (ni ∈ Z)

を, X の 因子 という. さらに

• degD :=∑

i∈I ni.

• 二つの因子の和や差

D ±D′

が自然に定まり, 因子全体はアーベル群となる.

• 因子 D =∑

i∈I ni[Pi] が 効果的因子def⇔ ∀i ∈ I, Ni ≥ 0. またこのとき

D ≥ 0

で表す. 二つの因子 D,D′ に対し

D ≥ D′ def⇔ D −D′ ≥ 0.

• 因子 D =∑

i∈I ni[Pi] に対し

D+ :=∑

i∈I, ni>0

ni[Pi], D− :=

∑i∈I, ni<0

|ni|[Pi]

とおく.

• X 上の因子 D =∑

i∈I ni[Pi] と部分集合 U ⊂ X に対し

D|U :=∑

i∈I, Pi∈U

ni[Pi]

とおく. これは U 上の因子を与える.

(2) リーマン面 X 上の有理型関数 f : X → C に対し, f の定める因子 を

div f :=∑

P∈X, ordP f =0

ordP f [P ]

で定める.

(3) リーマン面 X 上の因子 D =∑

i∈I ni[Pi] に付随する層 OX(D) を

OX(D)(U) := f ∈MX(U) | div f +D|U ≥ 0

で定める.

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問題 11. 問題 1 の有理型関数 f : P1 → C, fz(z) := z2−1zを考える.

(1) div f を求めよ.

(2) Dk = k[0] とおく. どんな k に対しても f /∈ OP1(Dk)(P1) となることを示せ.

(3) f ∈ OP1(D)(P1) となる因子 D の例を一つ挙げよ.

定義 66. リーマン面 X 上の 正則微分形式の層 Ω1X を以下で定める (ここでは天下り的

な定義を用いる. 教科書 §3 にちゃんとした定義が書いてある).

(1) 領域 U ⊂ C に対して

Ω1(U) := f dz | f は U 上の正則関数 = “正則関数と dz の形式的な積全体”

とおく. また, U 上の正則関数 f, g に対して

f dg := (fg′) dz, g′ :=dg

dz(g の導関数)

と考え

f dg ∈ Ω1(U)

を定義する.

(2) 局所座標 φ : U → U に対し

Ω1X(U) := f dg | f, g ∈ OX(U),

f1 dg1 = f2 dg2 ∈ Ω1X(U)

def⇔ (f1 φ−1) d(g1 φ−1) = (f2 φ−1) d(g2 φ−1) ∈ Ω1(U).

この定義は局所座標の取り方に寄らない (別の局所座標 φ′ : U → U ′ に取り換えても同じものになる) ことが示せる. 制限射は

rΩ1

XV U : Ω

1X(U)→ Ω1

X(V ), f dg 7→ (f dg)|V := (f |V ) d(g|V ).

(3) 任意の開集合 U ⊂ X をとる. 座標近傍系での開被覆 U = ∪i∈IUi (φi : Ui → Ui は座標近傍) を取って

Ω1X(U) := ωii∈I | ωi ∈ Ω1

X(Ui) s.t. ωi|Ui∩Uj= ωj|Ui∩Uj

∈ Ω1X(Ui ∩ Uj).

この定義は座標近傍系の取り方に寄らない (別の U = ∪i∈I′U ′i , φ

′i : U

′i → U ′

i に取り換えても自然な同型がある) ことが示せる. 制限射の定義は (2) と同様.

問題 12. (1) Ω1P1(P1) = 0 を示せ.

(2) Ω1C/Λ(C/Λ) ∋ dz を示せ. ただし dz は以下で定義する:

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(a) 自然な射影 p : C→ C/Λ は局所的に全単射であった: 各点 z ∈ C に対し, 十分小さな近傍 U がとれて

p|U : U → U := p(U)

は同型写像. この逆写像 φ := p|−1U : U → U が座標近傍を与える.

(b) (a) で与えた座標近傍に対して

ω ∈ Ω1C/Λ(C/Λ) s.t. ω|U = d(z φ) ∈ Ω1

C/Λ(U)

で dz := ω を定める.

略解. (1) ω ∈ Ω1P1(P1) は

ω|Cz =∞∑n=0

cnzn dz, ω|Cw =

∞∑n=0

dnwn dw,

∞∑n=0

cnzn dz =

∞∑n=0

dnz−n dz−1 = −

∞∑n=0

dnz−2−n dz (z ∈ C×

z )

と書ける. よって cn = dn = 0.

(2) U ∩ V = ∅ のとき, 座標近傍 φ = p−1 : U → U , ψ = p−1 : V → V の差は平行移動分しかない:

ψ(P ) = φ(P ) + λ (λ ∈ Λ は定数, ∀P ∈ U ∩ V ).

このとき

d(z ψ) = d(z φ+ λ) = d(z φ)

が言える (∵ 定数の微分は 0).

定義 67. (1) ベクトル空間 Ai と線形写像 fi : Ai → Ai+1 の列

· · · → Ai−1fi−1→ Ai

fi→ Ai+1 → · · ·

∀i, Im fi−1 = Ker fi

を満たすとき, 完全 (系列) であるという.

(2) 完全系列

0→ A1f1→ A2

f2→ A3 → 0

を 短完全 (系列) と呼ぶ. ただし 0 := 0 は 0 次元ベクトル空間とし, 両端の線形写像は 0→ A1 0 7→ 0A1 , A3 → 0, ∀a 7→ 0 を考える.

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注意 68. 完全系列は, ベクトル空間だけでなく, 群や加群に対しても定義できる.

問題 13. 以下を示せ.

(1) 0→ Af→ B が完全 ⇔ f が単射.

(2) Af→ B → 0 が完全 ⇔ f が全射.

(3) 任意の線形写像 f : A→ B に対して 0→ Ker f自然な単射→ A

f→ Im f → 0 は完全.

定義 69. X 上の層 F ,G,H と準同型写像 φ : F → G, ψ : G → H を考える. このとき

0→ F φ→ G ψ→ H→ 0

が 層の短完全系列 def⇔ 各点 x ∈ X のストークに誘導される線形写像が短完全系列:

0→ Fxφx→ Gx

ψx→ Hx → 0.

問題 14. リーマン面 X と, その点 P を考える. このとき

0→ OX(−P )φ→ OX

ψ→ CP → 0

は完全系列であることを示せ. ただし

φ(U) : OX(−P )(U)→ OX(U), f 7→ f,

ψ(U) : OX(U)→ CP (U), f 7→

f(P ) (P ∈ U)0 (P /∈ U)

と定める.

Fx の完全系列?⇒ F(U) の完全系列

0→ F φ→ G ψ→ H→ 0 が短完全系列であるとき

0→ F(U) φ(U)→ G(U) ψ(U)→ H(U) (U ∈ U)

も完全系列になる (教科書 p120, 補題 5.27). しかし

ψ(U) : G(U)→ H(U)

は必ずしも全射とはならない. この全射性の “阻害要因” を考えると, (コ)ホモロジーの定義に行き着く.

37

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11 層係数コホモロジー群 (3)

定義 70. X 上の層 F と開被覆 U := Uii∈I : X = ∪U∈UU = ∪i∈IUi (Ui ∈ U) をとる.

(1) q ≥ 0 に対し, 次のベクトル空間を考える.

Cq(U ,F) :=∏

(i0,i1,...,iq)∈Iq+1

F(Ui0i1...iq),

Ui0i1...iq := Ui0 ∩ Ui1 ∩ · · · ∩ Uiq .

Cq(U ,F) の元を (チェック) q-コチェイン と呼ぶ.

(2) 線形写像

∂q : Cq(U ,F)→ Cq+1(U ,F),

(fi0,...,iq)(i0,...,iq)∈Iq+1 7→

(q+1∑k=0

(−1)kfi0,...,ik−1,ik+1,...,iq+1 |Ui0,...,iq+1

)(i0,...,iq+1)∈Iq+2

を q-コバウンダリー作用素 と呼ぶ.

(3) Zq(U ,F) := Ker ∂q の元を q-コサイクル と呼ぶ.

(4) Bq(U ,F) := Im ∂q−1 の元を q-コバウンダリー と呼ぶ. ただし ∂−1 = 0, すなわちB0(U ,F) = 0 と解釈する.

(5) ∂q ∂q−1 = 0, すなわち Zq(U ,F) ⊃ Bq(U ,F) が示せる. 商ベクトル空間

Hq(U ,F) := Zq(U ,F)/Bq(U ,F)

を, 開被覆 U に関する q 次チェックコホモロジー群 と呼ぶ.

コチェインと “張り合わせ” 0 コチェインの元 (fi)i∈I ∈ C0(U ,F) =

∏i∈I1 F(Ui) は, 各 F(Ui) の元をバラバラに

集めたものである. これらが “張り合わさる” ことを式で書くと

∀(i, j) ∈ I2, fi|Ui∩Uj= fj|Ui∩Uj

層の定義⇔ ∃f ∈ F(X) s.t. ∀i ∈ I, f |Ui= fi

であった. この条件は

(fi)i∈I ∈ Z0(U ,F) = Ker [∂0 : C0(U ,F)→ C1(U ,F), (fi)i∈I 7→ (fi − fj)(i,j)∈I2 ]

と同値である. すなわち

(⋆) F(X) ∼= Z0(U ,F) = H0(U ,F), f 7→ (f |Ui)i∈I

(∵ B0(U ,F) = Im ∂−1 = 0). 38

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問題 15. 1-コチェイン空間は

F(U ∩ U ′) (U,U ′ ∈ U)

達の直積であり, 2-コチェイン空間は

F(U ∩ U ′ ∩ U ′′) (U,U ′, U ′′ ∈ U)

達の直積である. U,U ′, U ′′ が相異なるとき ∂1|F(U ′∩U ′′)×F (U∩U ′′)×F (U∩U ′) を具体的に書くと

F(U ′ ∩ U ′′)× F (U ∩ U ′′)× F (U ∩ U ′)→ F(U ∩ U ′ ∩ U ′′),

(f, g, h) 7→ f |U∩U ′∩U ′′ − g|U∩U ′∩U ′′ + h|U∩U ′∩U ′′

となる.

(1) U = U ′ = U ′′ のとき

∂1|F(U∩U) : F(U ∩ U)→ F(U ∩ U ∩ U) = id: F(U)→ F(U)

を確かめよ.

(2) U = U ′ = U ′′ のとき

∂1|F(U∩U)×F (U∩U ′′) : F(U ∩ U ′′)× F (U ∩ U)→ F(U ∩ U ∩ U ′′)

を具体的に書け.

定義 71. (1) 位相空間 X の二組の開被覆 U = Uii∈I ,V = Vjj∈J を考える. V が Uの 細分 であるとは

∃π : J → I s.t. Vj ⊂ Uπ(j).

このとき

V > U

で表す. この写像 π を 細分写像 と呼ぶ. 一般には, 一つの細分 V > U に対して複数の細分写像が取れる.

(2) 細分 V = Vjj∈J > U = Uii∈I と細分写像 π : J → I は

• コチェイン間の線形写像

π∗ : Cq(U ,F)→ Cq(V ,F),(fi0,...,iq)(i0,...,iq)∈Iq+1 7→ (fπ(j0),...,π(iq)|Vj0,...,jq )(j0,...,jq)∈Jq+1

を誘導し, さらに

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• コバウンダリー間の線形写像

π∗ := π∗|Zq(U ,F) : Zq(U ,F)→ Zq(V ,F)

を誘導し, さらに

• コホモロジー間の線形写像

T VU := π∗ : Hq(U ,F)→ Hq(V ,F)

を誘導する. T VU は細分 V > U のみに依存し, 細分写像にはよらない.

(3) X 上の層 F の q 次チェックコホモロジー群 を順極限

Hq(X,F) = lim−→UHq(U ,F) =

(⨿U

Hq(U ,F)

)/∼

で定める. ただし最右辺の U は X の開被覆全体を走り

Hq(U ,F) ∋ a ∼ b ∈ Hq(V ,F) def⇔ ∃W s.t. W > U ,V , T WU a = T W

V b.

また, 自然な写像の合成を

TU : Hq(U ,F) →⨿U

Hq(U ,F)↠ Hq(X,F), a 7→ TU(a) = [a]

で表す.

注意 72. 一般の Hq(X,F) は Hq(U ,F) の順極限で定義されているが, H0, H1 に関してはそれほど “極限” ではない.

補題 73. H0(X,F) ∼= H0(U ,F) ∼= F(X) (∀U).

証明. p38 の (⋆) より.

補題 74. (1) V > U ⇒ T VU : H1(U ,F)→ H1(V ,F) は単射.

(2) X の開被覆 U が層 F の ルレイ被覆

def⇔ ∀U ∈ U , H1(U,F|U) = 0.

U が層 F のルレイ被覆であるとき,

TU : Hq(U ,F)→ Hq(X,F)

は同型写像.

(教科書 p129, 補題 5.41, p130, 補題 5.42)

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問題 16. P ∈ X の摩天楼層 CP を考える. H1(X,CP ) = 0 を, 以下の手順で示せ.

(1) 任意の開被覆 U を以下のように加工する: P ∈ V ∈ U を一つ固定し

U ′ := U ∩ (X − P) | V = U ∈ U ∪ V .

このとき U ′ > U であること, そして

H1(U ′,CP ) = 0⇒ H1(U ,CP ) = 0

であること (∵ 補題 74-(1)) を説明せよ.

(2) U,U ′ ∈ U ′, U = U ′ であれば P /∈ U ∩ U ′ であり, とくに CP (U ∩ U ′) = 0 となることを説明せよ.

(3) Z1(U ′,CP ) = 0 を導け ((2) と問題 15-(1) 参照).

(4) ∀U , H1(U ,CP ) を導け (もちろんその結果 H1(X,CP ) = 0 となる).

X 上の層 F ,G の間の準同型写像 φ : F → G は, 線形写像

φ(U) : F(U)→ G(U)

達の集まりであった. これらはコチェイン間の準同型写像

φqU : Cq(U ,F)→ Cq(U ,G), (fi0,...,iq) 7→ (φ(Ui0...iq)(fi0,...,iq))

を導き, さらにコサイクル間, コホモロジー間の準同型写像を導くことが示せる:

φqU : Hq(U ,F)→ Hq(U ,G), [(fi0,...,iq)] 7→ [(φ(Ui0...iq)(fi0,...,iq))],

φq : Hq(X,F)→ Hq(X,G), [[(fi0,...,iq)]] 7→ [[(φ(Ui0...iq)(fi0,...,iq))]].

定理 75. X 上の層の短完全系列

0→ F φ→ G ψ→ H→ 0

に対し, 層係数コホモロジー群の長完全系列

0→H0(X,F) φ0

→ H0(X,G) ψ0

→ H0(X,H)δ0→H1(X,F) φ1

→ H1(X,G) ψ1

→ H1(X,H)

が得られる.

注意 76. (1) δ0 は 連結準同型写像 と呼ばれる, 具体的に書ける写像である.

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(2) 一段目は

0→F(X)φ(X)→ G(X)

ψ(X)→ H(X)

ともかける.

(3) X がパラコンパクトであれば, さらに

0→H0(X,F) φ0

→ H0(X,G) ψ0

→ H0(X,H)δ0→H1(X,F) φ1

→ H1(X,G) ψ1

→ H1(X,H)δ1→H2(X,F) φ2

→ H2(X,G) ψ2

→ H2(X,H)...

と伸ばすことができる.

証明に関して 各ストーク上では短完全列 0→ Fx

φx→ Gxψx→ Hx → 0 が成立しているから,

ψ(X) : G(X)→ H(X) の全射性の阻害因子

は, p37 の “Fx の完全系列?⇒ F(U) の完全系列” での議論のように,

局所 ⇔ 大域

の議論に行き着き, 層係数コホモロジーの長完全系列が得られる. (より詳しくは, 教科書 p123 の観察 5.32, ちゃんとした証明は p131, §5.9 を参照.) 問題 17. 長完全系列と, 問題 14, 16 から言えることを考えてみよ.

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12 リーマン-ロッホの定理 (1)

以下では X をコンパクトリーマン面とする.

問題 18. §4 の内容を使って, 任意の コンパクトリーマン面 X に対し

H0(X,OX) = C

が成り立つことを説明せよ.

定義 77. コンパクトリーマン面 X の 種数 を

g(X) := h1(OX) := dimCH1(X,OX)

で定める.

定理 78. g(X) <∞.

証明は省略. ちなみに著者曰く, 教科書中で “証明が最も込み入った定理” とのこと.

定理 79 (教科書 p138, 系 5.53). R ∈ (0,∞] に対して

H1(∆R,O∆R) = 0.

ここで

∆R := z ∈ C | |z| < R

とおき, ∆∞ = C と約束する.

証明に関して. 教科書では, より扱いやすい実解析的関数の補題 (ドルボールの補題) を経由して証明が行われる. 複素正則関数の直接の取り扱いは “ずっとデリケートである”.

問題 19. 以下の手順で g(P1) = 0 を示せ.

(1) U := U0, U1 (U0 := Cw, U1 := Cz ⊂ P1) が OP1 のルレイ被覆を与えていることを説明せよ (∵ 定理 79).

(2) f = (f00, f01, f10, f11) ∈ C1(U ,OP1) = OP1(U00) × OP1(U01) × OP1(U10) × OP1(U11)

に対し

f ∈ Z1(U ,OP1)⇔ ∂1(f) = 0

⇔ f00 = f11 = 0, f01 = −f10

を導け (問題 15 参照).

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(3) f01 ∈ OP1(U01) は

f01 = g0|U01 − g1|U01 (g0 ∈ OP1(U0), g1 ∈ OP1(U1))

の形に書けることを説明せよ. (U01 = U0 ∩ U1 = z ∈ Cz | z = 0 上のローラン展開

f01(z) =∑n∈Z

anzn

を, z に関して正則な部分と w = z−1 に関して正則な部分に分ける.)

(4) (3) の g0, g1 を用いて g = (g0, g1) ∈ C0(U ,OP1) = OP1(U0)×OP1(U1) とおくとき

∂0(g) ∈ C1(U ,OP1) = OP1(U00)×OP1(U01)×OP1(U10)×OP1(U11)

を計算せよ.

(5) g(P1) = 0 を導け.

定理 80 (リーマン・ロッホの定理). コンパクトリーマン面 X の因子 D に対し h0(D) :=

dimCH0(X,OX(D)), h1(D) := dimCH

1(X,OX(D)) はともに有限で

h0(D)− h1(D) = 1− g + degD

を満たす.

注意 81. (1) χ(D) := h0(D)− h1(D) は オイラー・ポアンカレ標数 と呼ばれる.

(2) 標数の定義と問題 18 より, 自明な因子 0 に対し

1− g = dimCH0(X,OX)− dimCH

1(X,OX) = h0(0)− h1(0) = χ(0).

よってリーマン・ロッホの定理は

χ(D) = χ(0) + degD,

χ(D)− degD は定数

などとも言い換えられる.

証明の概略. D = 0 の場合: 上の注意での言い換えより明らか.

D ≥ 0 の場合: degD に関する帰納法で示す. D ≥ 0, degD = 0, すなわち D = 0 の場合は上より成立. あとは

主張: D で成立 ⇒ D + [P ] で成立

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を言えばよい. 問題 14 の同様の考え方で, 層の短完全系列

0→ OX(D)→ OX(D + [P ])→ CP → 0

が得られる. 層係数コホモロジーの長完全系列は

0→ H0(X,OX(D))→ H0(X,OX(D + [P ]))→ C→ H1(X,OX(D))→ H1(X,OX(D + [P ]))→ 0

を言うので (∵ 摩天楼層の定義より H0(X,CP ) = CP (X) = C,問題 16より H1(X,CP ) =

0), 主張は, 次元公式

線形写像 f : V → W (すなわち完全系列 0→ Ker f → V → Im f → 0) に対し

dimV = dimKer f + dim Im f

の一般化

完全系列 0→ V1 → · · · → Vn → 0 に対し∑

n: 奇数 dimVn =∑

n: 偶数 dimVn

に帰着される.

D が一般の場合: D = D+ − D−, D± ≥ 0 の形に書いて, degD− に関する帰納法.

degD− = 0 の場合は D ≥ 0 を意味するから上より成立. あとは

主張: D で成立 ⇒ D − [P ] で成立

を言えばよい. 今度は

0→ OX(D − [P ])→ OX(D)→ CP → 0

から導ける.

注意 82. リーマン・ロッホの定理だけからでも “少なからずのことが分かる” (教科書p162, 問題 6.4) が, 幾つかの道具を組み合わせることで, より強力になる. 教科書曰くコンパクトリーマン面の 3 種の神器 を紹介しておく:

リーマン・ロッホの定理: h0(D)− h1(D) = 1− g + degD.

セールの双対定理: h1(D) = h0(KX −D).

消滅定理: degD ≥ 2g − 1⇒ h1(D) = 0.

ただし KX は X の 標準因子 と呼ばれる因子 (下記の定義・問題参照) である.

定義 83. 定義 66 の [正則関数] を [有理型関数] に置き換えることで, リーマン面 X 上の有理型微分形式の層 KX が定義できる:

(1) U ⊂ C ⇒ KC(U) := f dz | MC(U). f, g ∈MC(U)⇒ f dg := (fg′) dz, g′ := dgdz.

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(2) 局所座標 φ : U → U に対し KX(U) := f dg | f, g ∈ MX(U). ただし f1 dg1 =

f2 dg2 ∈ KX(U)def⇔ (f1 φ−1) d(g1 φ−1) = (f2 φ−1) d(g2 φ−1) ∈ KC(U).

(3) U = ∪i∈IUi, φi : Ui → Ui は座標近傍系, と書けたとき

KX(U) := ωii∈I | ωi ∈ KX(Ui) s.t. ωi|Ui∩Uj= ωj|Ui∩Uj

∈ KX(Ui ∩ Uj).

また, X 上の非零有理型微分形式 0 = ω ∈ KX(X) の定める因子

KK :=∑P∈X

ordP ω[P ]

を X の標準因子 と呼ぶ. ただし X の座標近傍系 φi : Ui → Uii∈I をとり ω = ωii∈I ,ωi = (fi φi) dz (fi ∈MX(Ui)) と書いたとき

P ∈ Ui ⇒ ordP ω := ordφi(P ) fi.

注意 84. (1) 任意のコンパクトリーマン面には, 非零有理型微分形式 ω が存在する. また有理型微分形式全体は, 体MX(X) 上の 1 次元ベクトル空間

KX(X) =MX(X)ω

となる.

(2) 標準因子 KX は一意的に定まらないが, h0(KX − D) は一定の値となる. とくに,

セールの双対定理の主張は, 標準因子 KX の取り方によらない.

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13 リーマン-ロッホの定理 (2)

以下は 3 種の神器 (の証明に用いる道具たち) から導ける.

系 85. コンパクトリーマン面 X の種数を g, 標準因子を KX で表す. また, D を任意の因子とする.

(1) h0(D)− h0(KX −D) = 1− g + degD.

(2) degD ≥ 2g − 1⇒ h0(D) = 1− g + degD.

(3) g = h0(KX) = dimC Ω1X(X).

(4) degKX = 2g − 2.

問題 20. 問題 12-(2) で与えた正則微分形式 dz ∈ Ω1C/Λ(C/Λ) を有理型微分形式 dz ∈

KC/Λ(C/Λ) とみなす.

(1) dz の定める標準因子 KC/Λ を求めよ.

(2) g(C/Λ) = 1 を導け

定理 86. コンパクトリーマン面に関して以下は同値.

(1) g(X) = 0.

(2) X ∼= P1.

証明. (1) ⇐ (2) 問題 19 より.

(1) ⇒ (2) 系 85-(2) より

degD ≥ −1⇒ h0(D) = 1 + degD.

とくに, 任意の点 P0 ∈ X に対して

h0(0) = 1, h0([P0]) = 2.

これは 0 = ∃f ∈ OX(X)([P0])−OX(X), すなわち, ある点 P0 ∈ X でのみ, ちょうど 1 位の極を持つ有理型関数 f が存在することを言っている. これを正則写像 f : X → P1 として被覆次数をみると

deg f =∑

P∈f−1(∞)

eP = eP0 = 1

となる. 被覆次数 1 の正則写像は双正則であったので, 題意が従う.

定理 87. コンパクトリーマン面に関して以下は同値.

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(1) g(X) = 1.

(2) 格子 ∃Λ s.t. X ∼= C/Λ.

(3) x3 + ax2 + bx+ c = 0 が重根を持たないような ∃a, b, c ∈ C s.t.

X ∼=[X : Y : Z] ∈ P2 | Y 2Z = X3 + aX2Z + bXZ2 + cZ3= “y2 = x3 + ax2 + bx+ c のグラフ ⊂ C2 の 1 点コンパクト化”.

証明の雰囲気. (1) ⇒ (2) “周期積分” の手法.

(1) ⇐ (2) 問題 20 より.

(2) ⇒ (3) §6 より.

(2)⇐ (3) §6の逆が言える. キーとなるのは,格子点の生成元を見つける方法 ≒ “周期積分”

の手法: C/Λ の正則一次形式 dz を, p22 の赤い線に沿って一周積分すると∫ ω1

0dz = ω1,

青い線に沿って一周積分すると∫ ω2

0dz = ω2 が得られる. 同様に, 代数曲線 y2 = x3 +

ax2 + bx+ c 上の正則一次形式 dxyを “一周積分” して, 対応する格子点の生成元を得る.

(3) ⇒ (1) フルビッツの公式 (教科書 p188, 定理 7.2) より.

(3) ⇐ (1) 個人的な趣味により, ここだけ少し詳しく話す. 系 85-(2) より

degD ≥ 0⇒ h0(D) = degD.

とくに, 任意の点 P0 ∈ X に対して

h0(0) = 1 (一般のコンパクトリーマン面で成り立つ), h0(k[P0]) = k (k = 1, 2, . . . ).

つまり

C = OX(X) = OX(X)([P0]) ⊊ OX(X)(2[P0]) ⊊ OX(X)(3[P0]) ⊊ · · ·

であり, ⊊ でちょうど 1 次元づつ増えている. よって

• P0 ∈ X でのみ, ちょうど 1 位の極を持つ有理型関数は存在しない.

• P0 ∈ X でのみ, ちょうど 2 位の極を持つ有理型関数 ξ が存在する.

• P0 ∈ X でのみ, ちょうど 3 位の極を持つ有理型関数 η が存在する.

さて, 次の 7 つの有理型関数を考える:

1, ξ, ξ2, ξ3, η, ξη, η2.

これらは P0 でのみちょうど

0, 2, 4, 6, 3, 5, 6

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位の極を持つので

1, ξ, ξ2, ξ3, η, ξη, η2 ∈ OX(X)(6[P0]), dimCOX(X)(6[P0]) = 6

となり, 一次従属となる. とくに一次関係式

aη2 + bξη + cη = dξ3 + eξ2 + fξ + g (a, b, c, d, e, f, g ∈ C)

を満たす. さらに

• a = 0. とくに変数変換 η → a−12 η により, a = 1 としてよい.

∵ 1, ξ, ξ2, ξ3, η, ξη は全て極の位数が異なることから, 一次独立であることが分かる.

実際, a = 0 とすると

bξη + cη = dξ3 + eξ2 + fξ + g.

左辺は P0 で高々 5 位の極をもつので, 右辺の d = 0, すなわち

bξη + cη = eξ2 + fξ + g.

すると今度は, 右辺は P0 で高々 4 位の極をもつので, 左辺の b = 0, となる. 同様の議論を続けて, 全ての係数が 0 になる.

• d = 0. とくに変数変換 ξ → d−13 ξ により, d = 1 としてよい.

∵ 1, ξ, ξ2, η, ξη, η2 も全て極の位数が異なる.

• さらに変数変換 η → 12(η − bξ − c) により b = c = 0 としてよい. 結果,

η2 = ξ3 + aξ2 + bξ + c (a, b, c ∈ C)

の形になる.

このとき

Φ: X → P2, P 7→ [ξ(P ) : η(P ) : 1]

が複素多様体としての埋め込みになっていることが言えれば, “自動的に” その像が “y2 =

x3 + ax2 + bx+ c のグラフ” と一致していることが分かる. 埋め込みであることの証明にも 3 種の神器が活躍する. 例えば単射性

P,Q ∈ X, P = Q⇒ (ξ(P ), η(P )) = (ξ(Q), η(Q))

を言うには, 層の短完全系列

0→ OX(3[P0]− [P ]− [Q])→ OX(3[P0])→ CP ⊕ CQ → 0

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を考える. ただし層の間の準同型は

OX(3[P0]− [P ]− [Q])(U)→ OX(3[P0])(U), f 7→ f,

OX(3[P0])(U)→ CP (U)⊕ CQ(U),

f 7→

(f(P ), f(Q)) (P,Q ∈ U)(f(P ), 0) (Q /∈ U ∋ P )(0, f(Q)) (P /∈ U ∋ Q)(0, 0) (P,Q /∈ U)

で定める. この短完全系列から導かれる層係数コホモロジーの長完全系列

0→ OX(3[P0]− [P ]− [Q])(X)→ OX(3[P0])(X)→ C2 → H1(X,OX(3[P0]− [P ]− [Q]))

に, 消滅定理

deg(3[P0]− [P ]− [Q]) = 1 ≥ 1 = g(X)⇒ H1(X,OX(3[P0]− [P ]− [Q])) = 0

を使って, 全射

OX(3[P0])(X)f 7→(f(P ),f(Q))→ C2 → 0

を得る. 一方で

1, ξ, η,∈ OX(X)(3[P0]) は一次独立, dimCOX(X)(3[P0]) = 3

だから

OX(3[P0])(X) = C⊕ Cξ ⊕ Cη

なので, 先の全射性は

C2 = C(1, 1) + C(ξ(P ), ξ(Q)) + C(η(P ), η(Q))

を言っている. もし (ξ(P ), η(P )) = (ξ(Q), η(Q))なら右辺 = C(1, 1) ⊊ C2 となり矛盾である. 埋め込みのためのもう一つの条件 “写像の微分が消えない” も似た議論で示せる.

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14 補足もし時間があれば何か話します.

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15 期末試験問題 1. (1) リーマン球面 P1 の定義を書け.

(2) P1 上の正則関数全体 OP1(P1), 有理型関数全体MP1(P1) は, それぞれどのような集合になるか (どんな体と同型になるか) 書け. 答えのみでよい.

(3) fz(z) :=z2−1zが定める P1 上の有理型関数 f を考える. f の全ての零点・極と, そ

れらの位数を書け. 答えのみで良い.

問題 2. (1) リーマン面 の定義を書け.

(2) コンパクトリーマン面 X,Y の間の非定値正則写像 f : X → Y を考える. このとき以下が同値であることを説明せよ (細かく証明しなくてよい).

f が双正則 ⇔ f は 1 重被覆.

問題 3. (1) 複素トーラス (または楕円曲線) E = C/Λ の定義を書け.

(2) ワイエルシュトラスの ℘ 関数 ℘(z) の性質を一つ挙げよ. どんな性質でもよい.

問題 4. (1) 層 の具体例を一つ挙げよ. 層であることの証明などはしなくてよい.

(2) fz(z) :=z2−1zが定める P1 上の有理型関数 f を考える. f ∈ OP1(D)(P1) を満たす,

リーマン球面 P1 の因子 D の例を一つ挙げよ.

(3) リーマン―ロッホの定理 を説明せよ. 定理の主張・証明・応用など, 自由に書いてよい.

(配点: 各 10 点.)

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欠席者分

問題 1. (1) 有理多項式 fz(z) := z+1z2はリーマン球面 P1 上の有理型関数 f を定める.

このことを説明せよ. とくに, 無限遠点 ∞ ∈ P1 での値はどう定義されるか書け.

(2) fz(z) :=z+1z2が定める P1 上の有理型関数 f の全ての零点・極と, それらの位数を書

け. 答えのみで良い.

問題 2. P1, . . . , Pm ∈ P1, n1, . . . , nm ∈ N に対し

Γ

(P1,OP1

(m∑i=1

niPi

)):=f ∈MP1(P1) | P =P1,...,Pm において正則

P=Pi において高々 ni 位の極をもつ

と定める. n+1 次元複素ベクトル空間 Γ(P1,OP1(n∞)) の基底を一組与えよ. 答えのみで良い.

問題 3. (1) リーマン面 X,Y に対し, 写像 f : X → Y が, 点 P ∈ X で正則であることの定義を書け.

(2) X,Y をコンパクトリーマン面とし, 非定値正則写像 f : X → Y を考える. f の写像度 (被覆次数) の定義を書け.

問題 4. (1) 複素トーラス (楕円曲線) E = C/Λ の定義を書け.

(2) 複素トーラス (楕円曲線) E は, (a) 連結, (b) コンパクト, (c) ハウスドルフ空間 となる. (a), (b), (c) のうち一つを選び, そのことが成り立つ理由を説明せよ. (あまり細かく証明しなくてよい.)

問題 5. (1) 前層の定義を書け.

(2) コンパクトリーマン面 X の種数 g(X) の定義と, リーマン球面の種数 g(P1), 複素トーラスの種数 g(E) を書け. 答えのみで良い.

(3) リーマン―ロッホの定理 を説明せよ. 定理の主張・証明・応用など, 自由に書いてよい.

(配点: 各 10 点.)

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