『目に見えない病気』 o 精神疾患の原因とその治療...

ホメオパシー推薦図書館 Oasis 56 Oasis No.57 Summer 2012 使 3,990 円(税込) 248ページ ホメオパシー出版刊 フィリップス・アウレオルス・パラケルスス (1493-1541)スイス人医師・錬金術師

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Page 1: 『目に見えない病気』 O 精神疾患の原因とその治療 …ホメオパシー推薦図書館 Oasis 56 Oasis No.57 Summer 2012 パラケルスス著﹃目に みた。見えない病気﹄を読んで

ホメオパシー推薦図書館  Oasis 56

Oasis No.57 Summer 2012

 パラケルスス著﹃目に

見えない病気﹄を読んで

みた。

 ご存知のように、パラ

ケルススはルネサンス初

期の医学者であり、錬金

術師である。彼の思想は

後世において多方面の影

響を与え、とりわけ今日

の代替医療の思想的な土

台を築いたとされている。

ハーネマンもパラケルス

スの影響を受けていたこ

とは明白で、性格的にも

自信家で、歯に衣を着せ

ぬ痛烈な批判をするとこ

ろや、そのために伝統的

なアカデミズムから追放

されたことなど、共通す

るところが多い。

 さて、そんなパラケル

ススの著した本書は、今

日でいう精神医学につい

て論じられたものである。

内容は五巻より構成され

ており(ただし第

二巻は欠落)、第

一巻は「信仰によ

って人間に起こる

病気について」と

題され、信仰(な

いしは「信念」)

のあり方が、人の

健康を大きく左右すると

主張している。そして舞

踏病などの具体的な事例

をあげて説明が展開され

ており、最後の結びの言

葉として、信仰も医薬と

同じように考えるべきだ

と語っている。

 「医薬は健康に役立つ一

方で、死を引き起こすた

めにも使える。だから、

この点について次のよう

に心得てほしい。すなわ

ち、君たちは、信仰をそ

の働きにおいても同じよ

うに理解すべきである」

(七十六頁)

 第三巻は「目に見えな

いものの働きについて」

と題されている。パラケ

ルススによれば、想像力

による信仰心(信念)の

働きは「目に見えないか

らだ」によるものであり、

想像によって病気が引き

起こされるとする。さら

にまたこの巻では、今日

でいう「胎教」と思われ

る記述があり、次のよう

に語られている。

 「女性が妊娠中に窃盗や

色情の欲望を思い浮かべ

たとしよう。こういう欲

望は子どもに働きかけ、

ホメオパシー推薦図書館

9月1日全国書店発売

『医師の迷宮』に続くパラケルスス第二弾!

精神疾患の原因とその治療法について書かれた古典的名著!

  〈ホメオパシー古典シリーズ〉

『目に見えない病気』

パラケルスス 著

由井寅子

日本語版監修

澤元

3,990 円(税込) 248 ページホメオパシー出版刊

フィリップス・アウレオルス・パラケルスス

(1493-1541)スイス人医師・錬金術師

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57 Oasis ホメオパシー推薦図書館

Oasis No.57 Summer 2012

生まれながらにして持っ

ている素質となり、生涯

にわたって付きまとう」

(一〇〇頁)

 パラケルススのこうし

た見解は、現代の医療に

照らし合わせてすべてが

支持されるものとは言え

ないにしても、想像力が

胎児に影響を与えるとい

う考え方そのものは、今

日においても慎重に耳を

傾ける価値があることは

確かであろう。本書に目

を通していくと、ときど

きこのようなハッとさせ

られる言葉が飛び込んで

くる。

 第四巻は「目に見えな

いものについて」と題さ

れ、聖人の遺体(聖遺体)

が持つ力などを素材にあ

げながら、磁気的ともい

うべき治癒の力について

論じられている。そして、

へたに不自然な治療を行

うよりも、生命が持つ自

然治癒力を信頼する方が

よいと主張している。

 「(薬よりも)自然の力

に頼った方が、人々は、

はるかによりいっそう健

康を回復する。人々は目

に見えない仕方で健康に

なる」(一五六頁)

 

また、この巻には、ホメ

オパシーを彷彿とさせる

ような記述も見られる。

 「真の薬は目に見えるも

のではない。……薬の物

体的な側面は必要でない」

(一五六頁)

 

「物質が量的に少なくなれ

ば少なくなるほど、それ

だけいっそう医薬の効力

は高まる」(一五七頁)

 言うまでもなく、以上の

記述は希釈震盪によって作

られたレメディーや、「最

小投与の法則」などを思い

起こさせるものである。

 最後の第五巻は「目に

見えない働きについて」

と題され、天使や悪魔、

魔術などに言及しながら、

信仰の正しいあり方を説

いている。また、ここで

もホメオパシーの考え方

と共通する見解が散見さ

れる。たとえば聖書の言

葉を引用してこう述べて

いる箇所がある。

 「(

敵が)私たちを槍で刺

し殺せると思っているとし

ても、その槍は折れてしま

う。まさにその同じ槍が私

たちの医薬に変わるからで

ある」(一六五頁)

 これは毒物(

その他)を

原物質とするレメディー

によって病を癒そうとす

るホメオパシーの原理そ

のものである。

 一方、実証主義を貫いた

ハーネマンの姿勢に通じる

ような言葉も見られる。

 「読者よ、事柄を正しく

認識したいのであれば、

独善的に自分の信念だけ

が正しいと思ってはなら

ない。判断するなら、経

験に基づいて行うべきで

ある」(一六四頁)

 このように、本書を読

み進めていくと、ハーネ

マンがパラケルススの影

響を受けていることが浮

き彫りにされてくるので

あるが、もしかしたらハ

ーネマンは、パラケルス

スの生まれ変わりではな

いかとさえ思われてきた

りもする。

 数世紀を経て現代によ

みがえった本書は、決し

てスラスラと読めるよう

な文体ではないが、とき

にはじっくりと腰をすえ

てこのような古典に目を

通し、時空を超えて過去

の偉人と対話してみるこ

とも、必要な経験ではな

いだろうか。

                

書評:斉藤 

啓一

斉藤啓一

一九六〇年東京生まれ。作家、哲学者。

意識の覚醒をメインテーマに、哲学

や心理学の研究に励む。

ホスピスの心理カウンセラーを務め

た経験をもち、心理療法や統合医療

の分野にも造詣が深い。

カレッジ・オブ・ホリスティック・

ホメオパシー講師(心理学担当)。

著書に『愛は治癒力を活性化する』(ホ

メオパシー出版)な

ど、十数冊の哲

学関連の著作がある。