唯一現存する軍用組立橋「jkt」の 実測調査とその...

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横河ブリッジグループ技報 No.35 2006年1月 唯一現存する軍用組立橋「JKT」の実測調査とその土木遺産価値について-北海道大夕張地区に残る小巻沢林道橋- 146 Masaru Ohtsuka,Yosihiro Hosoi,Yositaka Senoh and Kazunori Matsuo 元㈱横河ブリッジ・非常勤理事 ** 元㈱ワイ・シー・イー・執行役員 *** ㈱ワイ・シー・イー・執行役員 **** ㈱ワイ・シー・イー・技術部主任 大塚  勝 *  細井 義弘 **  妹尾 義隆 ***  松尾 和則 **** Field Survey and Historical Value of Japanese Army Portable Railway Bridge “J K T” Existing Only One in Hokkaido Ohyuhbari —Komakizawa Road Bridge at Disused Forestry Railway Line— By this report we will introduce the structural details of JKT and historical values of Komakizawa forestry road bridge with JKT type. JKT is the army portable railway bridge that Yokogawa bridge works developed 唯一現存する軍用組立橋 「JKT」 の 実測調査とその土木遺産価値について -北海道大夕張地区に残る小巻沢林道橋- in about 1929 for the Army’ s demand. There are a few JKT type bridges at only Hokkaido Ohyuhbari. We investgated Komakizawa bridge and made up the de- tailed design drawings. 1.はじめに 北海道大夕張地区のシューパロ湖周辺には,良質な林 産資源を開発するため,昭和 9 ~ 19 年頃に建設された森 林鉄道の廃線跡があり,JKT と呼称された可搬式軍用組 立橋を用いた林道橋や森林鉄道橋などが現存する(図-1, 2,写真- 1)。JKT は昭和の初期に当社が陸軍の要請に よって開発し,陸軍制式器材として大量に生産納入した 人力で組立可能な鉄道荷重用の「可搬式軍用組立トラス 橋」の略称である。全溶接による三角形の基本パネルを ピン結合で組み合わせて各支間に適用する構造で,特筆 しなければならないのは,これがわが国最初期の溶接橋 梁であった事である。陸軍では蒸気機関車による大掛か りな実橋載荷試験を行った。JKT は戦時中,日本本土ば かりではなく東南アジアや中国などでも大量に使われ, 当社だけでも1万トン以上製作した 1) 。戦後は道路橋,人 道橋に形を変えて全国各地に転用されたが次第に姿を消 し,今ではこの形式を見る事が出来るのはこの大夕張地 区だけになっている。当社におけるJKTに関する資料は 開発者であった曽川正之が残した資料 2) のみで,設計図面 など当時の詳細な記録は残されていない。大夕張地区に 残る JKT についても橋梁毎の設計図面は管理者も保有し 図- 1 森林鉄道路線図(夕張市史 pp.275 より)

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Page 1: 唯一現存する軍用組立橋「JKT」の 実測調査とその …...横河ブリッジグループ技報 No.35 2006年1月 唯一現存する軍用組立橋「JKT」の実測調査とその土木遺産価値について-北海道大夕張地区に残る小巻沢林道橋-147

横河ブリッジグループ技報 No.35 2006年1月

唯一現存する軍用組立橋「JKT」の実測調査とその土木遺産価値について-北海道大夕張地区に残る小巻沢林道橋-146

Masaru Ohtsuka,Yosihiro Hosoi,Yositaka Senoh and Kazunori Matsuo

* 元㈱横河ブリッジ・非常勤理事** 元㈱ワイ・シー・イー・執行役員*** ㈱ワイ・シー・イー・執行役員**** ㈱ワイ・シー・イー・技術部主任

大塚  勝*  細井 義弘**  妹尾 義隆***  松尾 和則****

Field Survey and Historical Value of Japanese Army Portable Railway Bridge“J K T” Existing Only One in Hokkaido Ohyuhbari—Komakizawa Road Bridge at Disused Forestry Railway Line—

By this report we will introduce the structural detailsof JKT and historical values of Komakizawa forestryroad bridge with JKT type. JKT is the army portablerailway bridge that Yokogawa bridge works developed

唯一現存する軍用組立橋「JKT」の実測調査とその土木遺産価値について

-北海道大夕張地区に残る小巻沢林道橋-

in about 1929 for the Army’s demand. There are a fewJKT type bridges at only Hokkaido Ohyuhbari. Weinvestgated Komakizawa bridge and made up the de-tailed design drawings.

1.はじめに

北海道大夕張地区のシューパロ湖周辺には,良質な林

産資源を開発するため,昭和9~19年頃に建設された森

林鉄道の廃線跡があり,JKTと呼称された可搬式軍用組

立橋を用いた林道橋や森林鉄道橋などが現存する(図-1,

2,写真-1)。JKTは昭和の初期に当社が陸軍の要請に

よって開発し,陸軍制式器材として大量に生産納入した

人力で組立可能な鉄道荷重用の「可搬式軍用組立トラス

橋」の略称である。全溶接による三角形の基本パネルを

ピン結合で組み合わせて各支間に適用する構造で,特筆

しなければならないのは,これがわが国最初期の溶接橋

梁であった事である。陸軍では蒸気機関車による大掛か

りな実橋載荷試験を行った。JKTは戦時中,日本本土ば

かりではなく東南アジアや中国などでも大量に使われ,

当社だけでも1万トン以上製作した1)。戦後は道路橋,人

道橋に形を変えて全国各地に転用されたが次第に姿を消

し,今ではこの形式を見る事が出来るのはこの大夕張地

区だけになっている。当社におけるJKTに関する資料は

開発者であった曽川正之が残した資料2)のみで,設計図面

など当時の詳細な記録は残されていない。大夕張地区に

残るJKTについても橋梁毎の設計図面は管理者も保有し

図-1 森林鉄道路線図(夕張市史 pp.275より)

Page 2: 唯一現存する軍用組立橋「JKT」の 実測調査とその …...横河ブリッジグループ技報 No.35 2006年1月 唯一現存する軍用組立橋「JKT」の実測調査とその土木遺産価値について-北海道大夕張地区に残る小巻沢林道橋-147

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唯一現存する軍用組立橋「JKT」の実測調査とその土木遺産価値について-北海道大夕張地区に残る小巻沢林道橋- 147

ていない。これら現存するJKT は現在建設中の新しい

シューパロ湖ダムが完成すると大半が水没しその姿を見

ることができなくなる。筆者らはJKTを用いた小巻沢林

道橋について,平成12年,15年の2回にわたって調査を

行い,その構造詳細を確認し設計図を復元した。本文では

この調査の結果と陸軍によって行われた実橋載荷試験の

概要および,その土木遺産価値について報告する。

2.大夕張地区森林鉄道と現存する鋼橋

大夕張地区の森林鉄道は,当時北海道全域の御用林を

管理していた帝室林野局札幌支局により昭和9年に主夕

張線の建設工事から行なわれ,昭和19年には図-1の主

夕張線・下夕張線・夕張岳線の3つの森林鉄道線,合計

延長62.83kmが完成した3)。森林鉄道における橋梁は当

初はすべて木橋であり,大夕張地区でも多くの木橋が架

けられた。その後相次ぐ落橋事故が契機となり,木橋は

耐久性の点から使用年数に限界があり,当時の木材価格

上昇の中,工費の上からも鋼橋の方が有利との報告4)も

出されて,昭和23年から鋼橋への架替えが始まった。大

夕張地区全体では昭和23~27年間に橋梁21橋重量459t

の鋼橋が木橋に代わって架けられた4)(表-1)。

3.可搬式軍用組立橋JKTの概要

3.1 開発経緯

陸軍技術本部は昭和の初め,電弧溶接技術の研究を進

めていた当社に「戦場で工兵が川や谷,壕などの障害を

乗り越して交通路を確保するため,人力で運搬・組立の

出来る可搬式組立橋」の研究開発を命じた。開発を担当

したのは技術者曽川正之であった。

曽川は軽量かつ繰り返しの使用に耐えられる構造とし

て当時開発中の溶接構造を採用した。昭和4年,全溶接

構造の三角形パネルをピン結合で組み合わせた試験桁を

設計・製作し,工場で載荷実験を行ない充分な強度のあ

る事を確認した2)。この試験桁の構造は陸軍最初の可搬

式組立鉄道橋KKT「軽構桁鉄道橋」として正式に制定化

された。KKTは10トン程度の軽便列車を対象とした組

立橋であったが,その後蒸気機関車を対象とした本格的

な鉄道荷重用組立橋JKT「重構桁鉄道橋」が開発された。

A

BCDE

F

A 夕張岳線 1号橋 (三弦トラス)

B   〃  2号橋 (下路トラス)

C   〃  4号橋 (  〃  )

D   〃  5号橋 (九九式JKT)

E   〃  6号橋 (   〃   )

F 金尾別川鉄道橋 (上路トラス)

図-2 シューパロ湖周辺の森林鉄道橋

表-1 大夕張地区の森林鉄道 昭和23年~27年架橋実績 (札幌林友第No1 1954年 pp.34-37)

架設年度

昭和23年度

昭和23年度

昭和24年度

昭和24年度

昭和25年度

昭和25年度

昭和25年度

昭和25年度

昭和25年度

昭和26年度

昭和26年度

昭和26年度

昭和26年度

昭和26年度

昭和26年度

昭和26年度

昭和26年度

昭和26年度

昭和26年度

昭和27年度

昭和27年度

合計

線名

下夕張森林鉄道

下夕張森林鉄道

夕張岳森林鉄道

夕張岳森林鉄道

夕張岳森林鉄道

夕張岳森林鉄道

夕張岳森林鉄道

夕張岳森林鉄道

下夕張森林鉄道

下夕張森林鉄道

下夕張森林鉄道

下夕張森林鉄道

夕張岳森林鉄道

夕張岳森林鉄道

夕張岳森林鉄道

夕張岳森林鉄道

夕張岳森林鉄道

夕張岳森林鉄道

夕張岳森林鉄道

下夕張森林鉄道

下夕張森林鉄道

21箇所

橋名

下夕張川第一號橋梁

下夕張川第四號橋梁

下夕張川橋梁

第一號橋梁

金尾別橋梁

第十一號桟橋

第十四號桟橋

第四號橋梁

下夕張川第三號橋梁

下夕張川第二號橋梁

プトーサルシナイ橋梁

第一號マツプ橋梁

下夕張川橋梁

第一號橋梁

白金澤第一號橋梁

白金澤第二號橋梁

白金澤第三號橋梁

白金澤第四號橋梁

白金澤第五號橋梁

下夕張川第一號橋梁

下夕張川第四號橋梁

橋長(m)

40

32

56

20

73.74

16.35

18.05

30.19

63.60

63.60

10

20

(90) 34

32

47.70

41.50

30.72

43.99

33.25

(78) 38

(44) 12

756.69

重量(kg)

50,820

45,550

69,930

25,410

43,034

3,518

7,709

13,909

28,929

28,906

3,729

7,458

23,679

16,822

17,836

14,546

12,258

18,187

10,476

12,112

3,692

458,510

摘要

九九式JKT

九九式JKT

九九式JKT

九九式JKT

型式

トラス20m×2連

トラス16m×2連

トラス28m×2連

トラス20m×1連

トラス26m×2連、鈑桁10m×2連

鈑桁6m×2連、I桁3.45m

鈑桁6m、11.54m

鈑桁6m、11.55m×2連

鈑桁14m×4連、6m

鈑桁14m×4連、6m

鈑桁10m

鈑桁10m×2連

鈑桁20m、14m

鈑桁16m×2連

鈑桁11.54m×2連、6m×3連、4m

鈑桁11.54m、10m、6m×3連

鈑桁10m×2連、9.58m

鈑桁12.76m、10m×3連

鈑桁10m×2連、6m×2連

鈑桁10m×2連、9m×2連

鈑桁6m×2連

写真-1 JKTを用いた小巻沢林道橋

JKT形式の鉄道橋は夕張岳線で2橋3連,下夕張線で

2橋4連が架設された5)。昭和29年大夕張ダムの建設に

伴い各橋梁は移設あるいは新設されたが,図-2に示す

ようにシュ-パロ湖周辺には当時の鋼橋が現存する。

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横河ブリッジグループ技報 No.35 2006年1月

唯一現存する軍用組立橋「JKT」の実測調査とその土木遺産価値について-北海道大夕張地区に残る小巻沢林道橋-148

KKT,JKTは共に陸軍制式器材として装備され6),7),特

にJKTは大量に生産,使用された。KKTおよびJKTは

人力での組立が前提であることから個々の部材は極力軽

量化を図る必要があって,我国の橋梁製作にはそれまで

用いられていなかった「溶接」が初めて採用された。我

国溶接橋梁の魁を成すものであった。

3.2 JKTの名称

KKT,JKTの頭文字K,Jはそれぞれ軽荷重,重荷重

を意味し,末尾のTは鉄道橋を意味する。この時期各種

の陸軍軍用組立橋が開発されたが,道路橋のDを末尾に

つけたKKD,JKDも使われた。これらの開発経過は表-

2に見る通りである2)。陸軍での正式名称は,JKTは「重

構桁鉄道橋」,KKTは「軽構桁鉄道橋」である。構桁は

トラス橋の漢字名称でKで表した。JKTは逐次改良が加

えられていくが,陸軍では兵器・器材として制式化した

年を表すため九三式,九九式重構桁として分類した。戦

前は西暦ではなく皇紀が一般的で,西暦1933 年は皇紀

2593年にあたり,この年に制式化されたJKTは「九三式

重構桁」と名称された。小巻沢林道橋は九九式であり,

1939年に制式化された形式である。

社の技術者が直接関わった京漢線黄河架橋の復旧概要9)を

紹介する。

全長3073mの京漢線黄河鉄道橋は日本軍の進出にあた

り中国軍によって徹底的に破壊されていた(図-3参照)。

昭和18年12月鉄道第6連隊は復旧作業に着手,僅か4ヶ

月足らずで軽列車や中戦車を通した。本作業には九三式

重構桁 JKT35組,架設機1組を用い,「・・・連隊には・・・

間組,横川(河の誤り)橋梁株式会社から各技師以下約十

名が配属され・・・」「三月初旬から重構桁の架設作業に

着手し・・・・かくして橋梁は昭和19年3月 25日に完成

し甲橋と命名された・・・」,さらに「・・大将は昭和19

年3月26日,とりあえず鉄道第6連隊とその配属部隊に

対し賞詞を付与してその労をねぎらった・・・」。

工兵器材

鉄道橋

第1次改修

試作 実験

実験

試作

試作 実験 JKT

改修 整備

KKT

試作

第1案

第2案

軽構げた鉄道橋

試作 実験 改修 整備 重構げた鉄道橋

KKTを編成替え 整備 KKD軽構げた道路橋

JKTを編成替え 整備 KKD重構げた道路橋

軽構げた鉄道橋架設橋

プレートガーダー鉄道橋

手延べ式架設橋

重構げた鉄道橋

重構げた鉄道橋

重構げた鉄道橋架設橋

九三式重構げた鉄道橋

九三式重構げた鉄道橋架設機

逐次改修

整備

整備 九九式重構げた鉄道橋

九九式重構げた鉄道橋架設機

道路橋

戦車橋 略

略 渡河器材

表-2 工兵器材としてのKKT,JKTなど軍用橋開発経緯表 (曽川正之追想録 pp.13より)

3.3 戦前(1950年以前)のJKT

JKTはその開発目的から,戦前は外地の戦場で使用さ

れた。例えば映画「戦場にかける橋」で有名なメクロン橋

や中国黄河橋梁の復旧工事などである1),8)。ここでは,当

また横河橋梁80年史1)には津浦線大黄河橋梁修復工事

が記録され,「このため軍は・・・応急仮橋としてJKT(重

構桁鉄道橋)を架設し,辛うじて列車を運行・・・」とあ

り,当社から主軸技術者の一人として現地に派遣され,

日本人50名,中国人100余名をもって僅か6ヶ月で復旧

工事を完成させた有江義晴の名前がある。有江は戦後北

海道開発局に勤務し,シューパロ湖にかかる大夕張岳森

林鉄道橋1号橋(三弦トラス橋)を設計した。写真-2に

黄河鉄道橋復旧工事でのJKT仮橋を示す。

写真-2 大黄河鉄橋復旧工事におけるJKTの架設(曽川正之追想録 pp.103より)

(昭和十八年十二月頃の状況) 減水期であったため破壊部分の杭列の残存部分は水面上に露出していた又橋梁下流には中洲を生じていた。 上,下流の中洲とも河岸及水深は常に移動変化し又湿地にて重材料の運搬には困難な個所が多かった。 増水期には上,下流とも中洲は消滅し河中は3kmに及ぶ

1. 2. 3.

図-3 京漢線黄河鉄道橋の概要図 (戦史叢書(1)河南の会戦 pp.93より)

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3.4 戦後のJKT

JKTは戦後,道路橋や歩道橋,災害復旧時の応急橋,架

設器材など多目的な用途に使用されたが,道路整備が進

むにつれ次第に撤去,架け替えられていった。

東京都赤羽に昭和8年赤羽工兵隊専用の軽便鉄道とし

て架けられたKKTは,戦後も「工兵橋」の名前で歩道橋

として親しまれていたが,昭和63年新しい橋梁に変わっ

て今は見ることができない。

脱,紛失が無いよう実用上の細かい配慮がされている(写

真-6参照)。

4.JKTを用いた小巻沢林道橋の実測調査

4.1 調査目的

小巻沢林道橋は,夕張川上流国道452号線と旧主夕張

森林鉄道との分岐点の小巻沢林道に建設された,重構桁

上にレールを並べ木床版を敷設(図-4,歩道部詳細図参

照)した道路橋である。森林鉄道橋からの転用と推測され

るがJKT橋部には橋歴版が無く,製作会社も不明で,設

計図面をはじめ確かな一般寸法図すら残されていない。

実測調査によってその構造を明らかにし,限られた資料

と照合することによって本橋が戦前のJKTの構造そのも

のか否かを確認し,さらにJKT橋としての「小巻沢林道

橋」の設計図復元を行うことが本調査の目的である。

4.2 調査方法

実測調査は梯子と足場板を用いて下面から行った。調

査の様子を写真-5に示す。

第一回目調査平成12年 17月 12日~14日目視調査

第二回目調査平成15年 10月 3日~8日実測調査

実測箇所は支間割りなど主要寸法,下部工形状,腐食

状況,橋歴版確認などで,構造詳細,部材寸法,支承構

造および設計図面復元に必要な寸法を実測した。

         

4.3 実測調査結果

実測調査結果と参考文献2),10),11)等を参照しながら

設計図を復元した。その結果,本橋は九九式JKTの形状を

そのまま残していることが判明した。復元した詳細設計図

を図-4~9に,各部の詳細を写真-6,写真-7に示す。

写真-3 道路橋として利用されたJKT岐阜県渚橋(横河橋梁80年史 pp.155より)

岐阜県渚町に現存していたJKT(写真-3)も昭和60年

頃まで確認されていたが今はなく,本州,四国,九州で

は現存するKKT,JKTはなくなった(表-3)。大夕張地

区に残るJKTは戦後に建設された森林鉄道橋ではあるが,

今ではこの地区のみにしか見ることのできない貴重な橋

梁となっている。

表-3 JKT使用の道路橋例(曽川正之追想録 pp.104より)

橋 名

落合橋

広河原橋

岩井谷橋

越野尾橋

深沢橋

渚橋

所在地

滋賀県

宮崎県

宮崎県

宮崎県

栃木県

岐阜県

内   容

JKT3列1段 14T 221

 〃 使用 15T 567

JKT改造2段式4列 52T 659

  支間32m×5.5m(1段)

JKT改造1段式5列 25T 642   横長20m×巾員4.5m(1段)

JKT改造ゲタ 48T 885

JKT改造 57T 596   支間35m,二等橋(1段)

完成年月

昭和24年 12月

昭和24年 12月

昭和23年 12月

昭和23年 12月

昭和22年 2月

昭和23年 3月

3.5 JKTの構造

JKTは標準パネルを組み合わせてトラス橋を構成するが,

支間に応じてパネルの段数や並列する主構数を変え,支間

5mから2段7列支間32mまで対応できた(写真-4)。

部材はすべて形鋼で,板厚5mmのガセットを介して溶

接でパネルを構成し,ブレースや対傾構の部材は小さい

アングルを直付けするなど極力軽量化を目指した設計に

なっているが,軽量化に最も寄与しているのは溶接構造

の採用であった。繰り返しの使用に耐えなければならな

いピン結合部は充分補強されている。ピンに鎖をつけ逸

写真-4 JKTを下面から。JKTは支間に対応して列数を増減する

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横河ブリッジグループ技報 No.35 2006年1月

唯一現存する軍用組立橋「JKT」の実測調査とその土木遺産価値について-北海道大夕張地区に残る小巻沢林道橋-150

1000 1504 1504 1504 1504 1504 1504200 20048(12@1504+2@1000)

147

1003

147

1297

500

1600

1290

5007550075500

500

50075

75500

500

構造一般図 S=1/20

380

75

90100

53 110

147

340165175

121210

6.5 40.5

1414

R7515

a,b

c

a部詳細 S=1/5

90 100

53147

R75

340370

12164

7584

12164

75 84

6.5 1219

180

b部詳細 S=1/5

75

R50

49110

73.586.570

230

80 80286

452

175

15

175

41235124

5

c部詳細 S=1/5

415

455

745

50 830 120 110 1274 120

575 575

500 75 500 75 500

C.L

C.L

C.L

C.L

147

1003

147

1297

220

100

620 614

3 1 1 1

2 2 2

200 1000 80 2850 160 2850 160 2850 160

590

図-5 構造一図

200487780 8920 9150

47173

A1 P1 P2 P3 A2

A1~P2,P3~A2

A1支点上 中間

P2~P3

支点上 中間

283090~150

510

1100

1297

側面図

195

1297

283090~1501492

80

720

平面図

断面図 S=1/20

575 575

190

歩道部詳細図 S=1/5

70

70

370 315370

220

40

90~150

(A2支点上)

(1205)(190)

(600)

90~150

300

図-4 小巻沢林道橋実測全体一般図

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唯一現存する軍用組立橋「JKT」の実測調査とその土木遺産価値について-北海道大夕張地区に残る小巻沢林道橋- 151

2-GussPL 150*9*3404-RibPL 65*9*1352-GussPL 230*9*420

2-L 40*40*5

2-L 40*40*5

4-GussPL 170*200

5-L 40*40*5

4-GussPL 180*5*210

1-L 40*40*5

4-RingPL φ110*6

2-GussPL 120*8*120

1-RingPL φ110*5

2-GussPL 120*9*280

2-L 65*65*6

2-L 40*40*5

8-RingPL φ60*5

A

A

2-[150*75*6.5

1-L 40*40*5

1-L 40*40*5

2-L 40*40*5

2-PL 130*28.5*165

1-PL 130*15*165

1-PL 125*19*180

1-RingPL φ110*5

1-GussPL 150*12*3551-GussPL 155*19*340

8-RingPL φ110*4

4-GussPL 225*12*450

2-GussPL 100*6*220

2-L 40*40*5

4-GussPL 75*5*100

2-PL 125*12*180

2-PL 130*10*165

2-PL 150*14*340

2-RingPL φ110*5

2-RingPL φ110*5

2-GussPL 250*14*380

2-PL 150*19*3402-PL 150*12*3702-GussPL 180*9*240 35 430 35 35 430 35

25

80

495 505 650 730 252604 1902794

200 2504 9060 140 525 465 665 740

175140

7575

150

1003

150

1297

25 450 25500

500

415

8305 120

150500 467 25

1280210 990 9060 290 10

3043035

500

90 500 130 130 500 190

120 125

450

120

210

180

450

49

2251386.5

73.5

654300731882808

654

430

110 120

160

90430430190500

422

844

725

17515

91

14773.5

53

26

37.5

19025100

660455

660

40.5

130130 90 430130130

850

725

90

19010025

190

2-[ 150*75*6.5

4-L 40*40*5

4-L 40*40*5

745

4-GussPL 100*5*1501600

710

2-L 40*40*5

2-L 40*40*5

4-GussPL 140*5*1804-L 75*75*6

4-GussPL 140*5*180

2-[150*75*6.5

555

4-L 40*40*5

2-GussPL 100*5*150

75

2-L 40*40*5

590

6

2-L75*75*6

2-L 40*40*5

712

1600

430

335

350

435

3-L 40*40*5

2-L75*75*6

4-PL 300*25*7508-PL 105*28*250

4-PL 280*22*28

16-RibPL 50*6*135

2-[ 150*75*6.5

4-RingPL φ60*58-L40*40*5

4-PL 130*25*30

2-[150*75*6.5

4-GussPL 130*5*170

500

75500

75500

575

575

575

300

15022

172

25

280

300750

300

280

280

280

6060

145

430

430

280

430

4040

4040

80

90 255105

2510525

4040

105

300

250

180

180

250

300

80

180

80 300

250

180

80 300

250

200

200

200

575

575

575

200

295

295

295

22 25150

28

255 10590

1510

370

90280

6

25φ

30φ

11

210 40404040

2125

11 22

280

145

145

145

28

2160285027002440

630

130497

434

26

630

73.5

33.5147

497434

75

49350

80

205

32

25170

630

32

340

20525630

75

2200

橋脚寸法図 S=1/50

3820

200480

2150

2800

1200

1600

4460

3365

635460

1600

13501200

1750

3990

2970

2500

2100

440

580

A-A

C-C D-D

C

DDC

A A

B-B

B

B

ピン詳細図 S=1/5

ピン位置

支承板詳細図 S=1/5

2415

4500 1990

2090 900

1915

P1

1090

8901860

2400

P2 P3

1040

1140

φ28

φ28

ボルト径

φ16

ボルト径 φ22

図-8 ブロック③詳細図

図-6 ブロック①詳細図 図-7 ブロック②詳細図

図-9 橋脚および支点部寸法図

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5.陸軍技術本部による実橋載荷試験

陸軍では昭和12年5月 20日~6月30日,鉄道第2連

隊作業場で九三式JKTの載荷試験を行ない,部材応力度,

写真-5  実測調査の様子

写真-6 JKT下弦材連結部。ピンに鎖がつけられている

写真-7 橋脚付近端部パネル構造

変位量を測定した。支間26mから5mまで9つの支間に

対して蒸気機関車に牽引された列車を走らせた。機関車

の自重148トン,無蓋貨車自重13トン,積載荷重30トン,

合計191トンの荷重をJKT上に載荷,移動した(写真-8

~9)。

パネルは最高2段6列(支間26m),最小1段3列(支間

5m)に組立てられた。

試験の詳細は「九三式重構桁鉄道橋試験報告書昭和12

年 7月 16日」12)にあるが,この結果安全性が確認され,

九三式重構桁JKTは制式化されて,以後陸軍によって内

外に大量に使用されることになった。以下にこの試験報

告書よりその概要を紹介する。張間(支間)などの用語は

出来る限り報告書の中で使用されているものを用いた。

写真-8 陸軍による実橋載荷試験,張間は20m(九三式重構桁載荷試験報告書 陸軍技術本部 pp.1414より)

写真-9 張間11m上に機関車を載荷。右は張間20m(九三式重構桁載荷試験報告書 陸軍技術本部 pp.1410より)

図-10 重列車の編成(九三式重構桁載荷試験報告書陸軍技術本部より)

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5.1 試験の目的

九三式重構桁鉄道橋ノ構桁数ヲ変化シテ各種張間ニ応ス

ル橋梁ヲ架設シソノ抗力ヲ試験スルニ在リ(原文のまま)

5.2 試験の方法

① 張間・構桁数・段数を表-4のケース毎に試験を行う。

既設橋台および枕木を積んだ橋脚を設置し各張間に対

応する

② 橋梁の架設および広軌重列車(鉄道省KS20相当)の運

転は鉄道第2連隊に委託

③ 重列車ノ通過試験

完成セル各橋梁上ニ広軌重機関車ニテ牽引セル30ト

ン積無蓋貨車一両ヲ以テ編成セル列車(略々鉄道省

KS20ニ相当スル単機列車)及ビ広軌重機関車ヲ表-5

ノ如ク通過セシム(原文のまま)(図-10)

橋梁の種類

張間(米)

構桁数

段数

表-4 載荷試験のケース (九三式重構桁載荷試験報告書 陸軍技術本部より)

Ⅴ Ⅳ Ⅲ

橋梁の種類

張間(米)

通過荷重

備考

表-5 蒸気機関車の載荷方法 (九三式重構桁載荷試験報告書陸軍技術本部より)

二六

二三

二〇

一一

一七

一四

一七

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ 最初単機、次

ニ重列車

最初単機、次

ニ重列車 単機

同右

同右

張間二〇米以下ノ場合ニ於テハ廣軌機関車ノ長サ大ナル

為、単機ノミニテ荷重ハ全張間上ニ満載セラルルノ状態

ナルヲ以テ機関車ノミヲ通過セシム。

④ 各構桁下弦材中央部の応力度を寺野,山本式応力計に

て測定

⑤ 各構桁の撓度は両岸基礎および中央に於いて眼鏡水準

儀を以て測定

⑥ 構桁摺動量は張間26m,23mに対して測定

5.3 試験の結果

各試験のうち応力,撓度測定結果を表-6,表-7に,

各ケースの最大応力度を表-8に示す。なお張間11m,

8m,5mの実測応力度について「・・・測定値ガ計算値ヨ

リ増大セルモ其ノ絶対値ハ小ナルヲ以テ抗力十分ナリ」

と記述している。

表-6 載荷試験撓度測定結果表 (九三式重構桁載荷試験報告書 陸軍技術本部より)

応力 死荷重 応力

活荷重 応力

衝撃 応力 (活荷重

+ 衝撃)

(構桁の自 重による)

L+i L+i+d d L' i' L'+i'+d L'+i'+d(秒/時) (mm) (kgf/cm2) (kgf/cm2) (kgf/cm2) (kgf/cm2) L'+i'+d

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

重列車 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃

1.4 2.6 6.6 4.4 9.0 6.2 7.0 6.0 7.0

往   復 往   復 往   復 往   復 往   復

13 12.5 11 12.5 11.5 13.5 12 12 12 12.5

640 615 542 615 566 665 590 590 590 615

843 818 745 818 769 868 793 793 793 818

203 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃

705 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃

140 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃

1048 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃

0.8 0.78 0.71 0.78 0.73 0.83 0.75 0.75 0.75 0.78

1.

2.

3.

4.

   

実測応力と 計算応力と の比

張 間    26m            6 列            2 段 応力計に依る実測応力 計算に依る応力

中 央

26m

応力計の取付位置 応力計の取付位置   測定

構桁総断面

応力計の取付位置   測定第九回及び第十回

中 央

自   第一回 至   第八回

九三式重構桁鉄道橋々桁荷重通過試験成績 構桁応力測定表 昭和十二年五月二十二日 天候晴

橋梁の種類

測定番号

荷重の種類

速  度

往  復

読 み

備   考

測定第九個ヨリ応力計ノ取付位置ヲ下図ノ如ク変更ス

重列車ハ貨車ヲ前押シトシテ通過セリ

応力算出ノ弾性係数E=2,100,000 kgf/cm2 トス

応力計ハ「寺野,山本」式応力計ヲ使用ス

西岸

東岸

南岸

北岸

A B C

反り 26m

A B C

A B C (秒/時)

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

重列車

1.4

2.6

6.6

4.4

9.0

6.2

7.0

6.0

7.0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

81

36

44

52

33

30

30

31

31

31

85

49

44

44

37

36

36

37

37

37

44.5

31.0

22.0

18.0

20.5

21.0

21.0

21.5

21.5

21.5

1.

2.

3. 測定番号ハ応力測定番号ト同シ

4. 測定位置及荷番ハ下図ノ如シ

橋梁の種類

摘    要

張間     26 m        6 列       2 段

43 33

反り(mm)

試験前 試験後

各測定位置に 於ける垂降量 (mm)

(mm)

九三式重構桁鉄道橋々桁荷重通過試験成績 構桁ノ撓度測定表 昭和十二年五月二十二日 天候晴

測定番号

荷重の種類

速 度

荷重通過試験前及試験後ノ「反り」ハ眼鏡水準儀ヲ以テ測定セリ

各測定位置ニ於ケル垂降量ノ測定ハ眼鏡水準儀ヲ以テ行ヒ通過荷重ガ張間間ニテ最大撓能率ヲ生ズル点ニ於テ一斉ニ測定セリ

中央部 の最大 撓度

東岸

西岸

表-7 載荷試験応力度測定結果表 (九三式重構桁載荷試験報告書 陸軍技術本部より)

5.4 判 決

九三式重構桁鉄道橋ハ32m以下ノ各種張間ニ応シ表 

ノ如ク構桁ヲ配列セハ広軌重列車(鉄道省KS20ニ相当ス

ル単機列車)ノ通過ニ対シ抗力十分ナリ(原文のまま)(表

-9)

表-8 最大応力度測定結果の総括表 (九三式重構桁載荷試験報告書陸軍技術本部より)

二六

二三

一七

一四

一一 八 五

八六八

七五〇

一〇九六

九三七

八七三

七〇一

五七五

一〇四八

九五四

一一三六

九五六

七五九

五四六

三二九

張間(米)

実測応力 (最大kgf/m2)

計算応力 (kgf/m2)

表-9 載荷試験により決定した適用基準 (九三式重構桁載荷試験報告書陸軍技術本部より)

二 二 二 一 一 一 一 一 二

二六

二三

二〇

一七

一四

一一 八 五

参考

三二

六 五 五

上構

上構

上構

上構

上構

三 七

張間(米)

構桁列数

構桁段数

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唯一現存する軍用組立橋「JKT」の実測調査とその土木遺産価値について-北海道大夕張地区に残る小巻沢林道橋-154

6.大夕張地区に残るJKTの土木遺産価値

小巻沢林道橋に代表される大夕張地区のJKT橋の土木

遺産価値について以下に整理する。

6.1 我国に現存する唯一のJKTである

陸軍の機密事項とされ現存する記録さえきわめて少な

いJKT橋であるが,北海道大夕張地区を除いてすべて既

に架け替え,撤去されて現存しない。本調査により現存

するJKTが開発当初の姿をそのまま残していることが明

らかになった。我が国唯一の現存例としてきわめて貴重

である。

6.2 JKTは我国最初期の溶接構造鉄道橋である

当社では早くから溶接工法導入の研究に着手し,昭和

4年にはアメリカGE(ゼネラル・エレクトリック)社の7.5

キロワット直流溶接機3台を購入して東京工場に設備し

ていた1)。可搬式組立橋の開発命令を受けた当社は支間

32mの組立トラスを設計し,それの強度検証実験のため

に4パネル12mの試験桁を新しい溶接機を用いて製作し

た。工場内で行なわれた載荷実験では部材が座屈しても

溶接部には異常が認められず,トラスの強度と共に溶接

構造の健全性が実証された2)(写真-10)。

写真-10 破壊試験中のKKT部分桁 昭和4年 (曽川正之追想録 pp.22より)

こうして軍用組立橋という特殊な用途ではあるが,溶

接で製作された初めての鉄道用橋梁が誕生した。これが

軽便列車用の組立橋「軽構桁鉄道橋KKT」と呼称され,

陸軍の制式器材となった。KKTの開発は蒸気機関車用の

鉄道橋JKTへと展開するが,基本構造は同じで順次改良

された。

当初のKKTは現存せず,大夕張地区に現存するJKT

によってのみその構造を見ることができる。

6.3 陸軍による大掛かりな実物大載荷試験が行われた

5.に既述のとおりJKTの開発後,陸軍は制式器材と

して装備するに当たって大掛かりな実物大載荷試験を行

い,強度,たわみなど安全性を確認し架橋器材として制

式化した。

6.4 JKTの現状が良好であること

小巻沢林道橋は建設後60余年風雨に曝されているが無

塗装橋梁の安定化錆にも似た健全な状態である。現地の

清浄な空気と全面暴露され風雨に洗われる自然環境,当

時の鋼材成分などが要因であろう。良好な状態でその構

造詳細を直接見ることができるということも貴重な遺産

価値である。

7.おわりに

我が国橋梁における溶接工法の最初は昭和3年奥羽本

線檜山川橋梁の桁補強工事であり,主要部分を溶接構造

とした鋼橋での実施例は昭和5年西鹿児島駅跨線橋に始

まるとされているが,記述したようにKKT,JKTはほぼ

同時期の溶接構造鉄道橋であった。

今回の実測調査で小巻沢林道橋が戦前のJKTと同じ構

造詳細であることが確認され,詳細設計図を復元し資料

とすることができた。九九式JKT標準パネル図など貴重

な資料を進藤義郎氏((株)ドーコン常務取締役)からいた

だき,また調査に際しては地元保存会の方々にも協力い

ただいた。お礼申し上げたい。

夕張地区にはJKT以外にも戦前・戦後の土木遺産価値

のある鋼橋が現存し(写真-11~ 13参照),進藤・今氏

ら多くの方々が調査活動されている8),10),11),13)。本報

告がこれらの報告とともにJKT橋の土木遺産価値を理解

する上で少しでも役立てれば幸いである。

写真-11 金尾別川森林鉄道橋(平成15年10月調査 大塚撮影) 上路トラス2連(2×20m)鈑桁2連(2×10m)

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写真-12 金尾別川森林鉄道橋の橋歴版 (平成15年10月調査 妹尾撮影) 昭和25年 横河橋梁製作所製作

写真-13 三菱鉱業大夕張鉄道跡に残る旭沢橋梁 (平成15年10月調査 大塚撮影) 昭和2年 横河橋梁製作所製作

参考文献

1)(株)横河橋梁製作所:横河橋梁八十年史 ,昭和62年

2)横河橋梁技報編集委員会:曽川政之追想録,昭和57年

3)夕張市役所:夕張市史,pp.269-275,1959

4)竹中一男:札幌林友,林野弘済会札幌支部,No.1,

pp.34-37,1954

5)河野哲也・今 哲之:「大夕張地区に今も残る森林鉄

道用橋梁を訪ねて」,虹橋,No.58,pp.68-74,(社)日

本橋梁建設協会,平成9年秋季

6)陸軍技術本部:器材概説輯録,pp.136-153,昭和6-9年

7)陸軍技術本部:陸軍鉄道将校必携第三部,pp.95-107,

昭和11年

8)進藤・葛西・今・佐藤:北海道の現存事例による重構

桁(JKT)橋梁の特徴に関する研究,土木学会第22回

土木史研究発表会,2002.6

9)防衛庁防衛研究所資料室:戦史叢書 一号作戦 <1>

河南の会戦,pp.93-95,昭和42年,朝雲新聞社

10)進藤・今・原口・佐藤:夕張シューパロ湖周辺におけ

る橋梁土木遺産について,土木学会北海道支部論文報

告集第,No.55,1999.2

11)奈良一郎:幻の重構桁橋,東骨技報,No.43,1997

12)陸軍技術本部:九三式重構桁試験報告書,昭和12年

7月16日

13)進藤・今・原口・佐藤:大夕張地区における森林鉄道

橋梁の特徴と評価に関する研究,土木学会土木史研究

発表会論文報告集,No.19,1999.6