歯周病の新規分子標的治療薬 - jst › past_abst › abst › p › 08 › 835 ›...
TRANSCRIPT
歯周病の新規分子標的治療薬KYT-041
九州大学大学院薬学研究院プロテアーゼ疾患制御学研究室
山本 健二
2009年2月27日
A novel molecular target drug of periodontal diseases
1
九州大学,2009
要約1.歯周病原性細菌ジンジバリス菌の産生する蛋白質分解酵素
Gingipains(RgpとKgp)を特異的且つ同時に阻害する二元的ペプチド性阻害剤(KYT-041)を開発した。
2.KYT-041は、in vitroおよびin vivoの両系において、ジンジバ
リス菌のもつ病原性機能のすべてを阻害した。
3.KYT-041は、ジンジバリス菌感染によって誘導される動脈硬化
症や早期低体重児出産の亢進リスクを強く阻害した。
4.KYT-41は、 in vitroおよびin vivoの両系において、正常細胞
や正常組織には殆ど影響を及ぼさなかった。
歯周病に有用な新規分子標的治療薬となり得る可能性大!!
2
九州大学,2009
研究背景
1.歯の健康の重要性
歯や口腔の健康を保つことは、単に食物を摂取・咀嚼するだけでなく、食事や会話を楽しむなど生涯豊かな生活を送るための基礎となる。(種々の原因で歯や口腔の機能が失われると日常生活を困難にし、QOLの低下や社会的ならび
に全身的な障害の一因となる)。
高齢者においても歯の喪失が10歯以下であれば食生活に大きな支障が生じないことから、生涯を通じて自分の歯で好きなものをおいしく食べ、生き生きとした会話や笑顔を持ち続けるために、80歳になっても20歯以上の自分の歯を保とうとする「8020運動」が提唱・推進されている。
「健康日本21」(平成12年4月)では、制圧すべき疾患として糖尿病、循環器疾患、癌および歯科疾患の4つが掲げられた。さらに「健康増進法」(平
成14年8月)、「健やか生活習慣国民運動ー新健康フロンティア戦略ー」(平成19年4月)が相次いで交付され、口腔の健康を増進させることは国の施策としても重要であることを訴えている。
3
九州大学,2009
歯肉炎 gingivitis:日本人成人の80%以上が罹患歯周炎 periodontitis:日本人成人の40%以上が
罹患
しかし、実際に歯科診療所で治療を受けている患者は約120万人である。この数は、ウ蝕や欠損補綴の治療を含んだ患者数であるので、歯周病の治療を受けている患者はもっと少ないことになる。この数字の差から、「歯周病で気づかないでいる人」、「気づいても治療をしないでいる人」、「歯が抜けるのは老化に伴う生理現象と考えている人」がいかに多いかがわかる。
研究背景
2.歯周病の罹患状況
実に、国民全体で約70%以上が歯周病に罹患している
(平成17年歯科疾患実体調査)
歯周病
(日本の人口を1億3000万人とすると実に9500万人が罹患患者ということになる)
4
九州大学,2009
研究背景
3.歯周病と全身性疾患の関連
歯周病原菌は歯磨き、咀嚼、スケーリング・ルートプレーニング、抜歯、歯周外科などにより容易に全身循環系に侵入する。
菌血症,敗血症菌血症,敗血症
プラーク
早産,低体重児出産
早産,低体重児出産
心内膜炎心内膜炎
誤嚥性肺炎誤嚥性肺炎
動脈硬化症動脈硬化症
糖尿病糖尿病
歯周病は様々な全身性疾患のリスクとなる。
5
九州大学,2009
研究背景
4.歯周病の治療・診断技術の現況
1.現在臨床サイドで使用されている歯周病治療薬は、細菌性プラークに対応
するための抗微生物作用をもつ抗生物質や消毒薬が主であり、それらの
有害性が大きな問題となっている。
2.臨床サイドでは、歯周病診断のための様々な診査法(歯周ポケットの深さ、
動揺度、歯肉指数、歯肉溝滲出液量、X線上での骨破壊程度など)が使われ
ているが、早期診断のための実用的なバイオマーカーなどは知られていない。
したがって、有効な歯周病治療薬の開発ならびに歯周病を早期に予知・診査するための診査法の開発は、歯周病および関連する全身性疾患を予防・治療し、QOLの向上を実現するために解決されるべき喫緊の課題となっている。
6
九州大学,2009
ジンジバリス菌ジンジバリス菌
グラム陰性嫌気性細菌
非運動性
糖非分解性
蛋白質分解能
黒色色素産生
赤血球凝集能
血小板凝集能
線毛
リポ多糖(LPS)
夾膜
赤血球凝集素
血小板凝集因子
加水分解酵素
蛋白質分解酵素Gingipains(RgpA, RgpB, Kgp)
が存在する。
歯周病原性ジンジバリス菌の性状と病原性因子
本菌の特徴本菌の特徴 病原性因子病原性因子
主要な病原性因子主要な病原性因子
7
九州大学,2009
RgpA
Kgp
RgpB
SP Pro Adhesin
HAHbR
Protease
HA HA
Rgp Kgp
HAHbR
HA HA
Okamoto et al., 1995; Okamoto et al., 1996; Nakayama 1997
Gingipainsの構造と存在様式
Gingipiansは膜結合型や分泌型など様々な形で存在するGingipiansは膜結合型や分泌型など様々な形で存在する
8
九州大学,2009
歯周病病態と関連したGingipainsの機能
1) 歯周組織の直接破壊
2) 生体防御系の破壊
3) 炎症反応の亢進
4) 共凝集
5) 赤血球凝集
6) ヘモグロビン結合
7) 成長・増殖
8)生体防御系からの回避に寄与
宿主への病原性発現に関係
菌の増殖・生存に必須の機能
Gingipainsはジンジバリス菌の病原性の本体である
9
九州大学,2009
従来のGingipains阻害剤とその問題点
Histatin 5 human saliva Rgp, Kgp Ki =1.5 x 10-5 M (Rgp)IC50 =1.4 x 10-5 M (Kgp)
Inhibitor Source Target Inhibition constants
p35 baculovirus Kgp Ki = 2 x 10-10 M
CrmA cowpox virus Kgp kass = 2.1x10-5 M-1s-1
(Arg>Lys mutant)
D-Phe-Pro-Arg-CH2Cl synthesis Rgp kass=1.0~2.2 X 10-7 M-1s-1
D-Phe-Phe-Arg-CH2Cl synthesis Rgp kass=2.1~4.7 X 10-7 M-1s-1
Cbz-Phe-Lys-CH2OCO-2,4,6-Me3-Phsynthesis Kgp kass=4.2 X 10-6 M-1s-1
A71561 synthesis Kgp Ki=3 X 10-7 MKYT-1 synthesis Rgp Ki= 2.4 X 10-10 MKYT-36 synthesis Kgp Ki=1.3 X 10-10 M
FA-70C1 Streptomyces Rgp Ki=4.5 X 10-9 M
天然の阻害剤は特異性が低く、毒性が強い。また、RgpとKgpを同時阻害するものはない。合成の阻害剤はKYT-1およびKYT-36を除けば特異性が低く、毒性が高い。KYT-1とKYT-36は特異性が高く、毒性も低いがRgpとKgpを同時阻害することはできない。したがって、現在Gingipainsを標的分子とした歯周病治療薬として実用化されたものはない。
10
九州大学,2009
4.0 x 10-8 for Rgp、2.7 x 10-10 for Kgp
新技術の特徴
Rgp/Kgp親和性阻害剤(KYT-41)の構造と特徴
HCl・H2N
NH
OHN
O
ONHO
O
ON
O
H
HN
H2N NNO2
CO2HMW : 806.27
Cbz-Glu-Lys-CO-Arg-CO-NH(CH2)2Ph
1.RgpおよびKgpを同時阻害する
ことができる世界初のペプチド性阻害剤である(新規性)。
2.宿主ならびに他の微生物由来のプロテアーゼに対しては弱い阻害活性しか示さない(特異性)。
3.In vitroおよびin vivoの両系で、
ジンジバリス菌の病原性を強く阻害する(有効性)。
4.宿主細胞に対する影響は殆ど認められない(安全性)。
11
九州大学,2009
新技術の特徴・従来技術との比較
従来技術の問題点であった、特異性、安全性、有効性を改良することに成功した。
従来の歯周病治療薬を有益性と有害性の関係で見たとき、歯ブラシによる機械的清掃に優る有効性が認められた薬物は殆どない。本技術の適用により、安全性、有効性が確認されたため、新規歯周病治療薬として適応することが可能となった。
本技術の低コスト化が図られため、歯周病治療薬のコストを削減することが可能となることが期待される。
12
九州大学,2009
想定される用途
本技術は、歯周病の治療や予防の目的で歯周病患者に適用することで口腔の健康を増進するメリットが大きいと考えられる。
上記以外に、歯周病に連関する動脈硬化性心疾患や糖尿病などの全身性疾患に対しても予防・治療効果が得られることが期待される。
また、達成された歯周病治療・予防効果に着目すると、ガム、グミ、スナック、菓子類、サプリメント、ペットフードなどの食品類や、歯磨剤や洗口剤などのオーラルケア製品といった分野や用途に展開することも可能と思われる。
13
九州大学,2009
想定される業界
想定されるユーザー医薬品製造メーカー
オーラルケア製造メーカーおよび研究所
菓子製造業メーカー
ガム、グミ、サプリメント等製造メーカー
ペットフード製造メーカー等
想定される市場規模歯周病予防・治療分野 200億円強(2001年統計)
オーラルケア市場 600億円強(2001年統計)ペットフード市場 100億円?
14
九州大学,2009
実用化に向けた課題
現在、本剤の製造コストについては事業化が可能なところまで対
応済み。しかし、医薬品以外の用途に対応するための大量生産
体制の確立が未解決である。
現在、本剤の非臨床試験(薬理試験、安定性試験、毒性試験等)
は研究室レベルでは解決済みであるが、臨床適用に必要な第
三者機関による系統的な非臨床試験は未解決である。
現在、粉末剤や油剤としての安定性は確立されているが、今後、
ペットフード等の食品類へ適用していく場合の条件設定を行って
いく必要がある。
実用化に向けて、安定性をさらに向上できるよう技術を確立する必
要もあり。
15
九州大学,2009
企業への期待
未解決の安定性の向上については、マイクロカプセル化等の技術や剤型、投与方法等の改良により克服できる。
歯科医薬品の開発に関心のある企業との共同研究を希望。
また、歯周病の予防・治療を目指したオーラルケア製品や食品類を開発中、あるいは今後開発を考えている企業、ペットの歯周病分野への展開を考えている企業には、本技術の導入が有効と思われる。
16
九州大学,2009
本技術に関する知的財産権
発明の名称: ペプチド誘導体及びその薬学的に許容される塩並びにその用途
出願番号 :PCT/JP02/11860出願人 :国立大学法人九州大学
発明者 :山本健二、須田悦光、浅尾哲次
17
九州大学,2009
お問い合わせ先
九州大学知的財産本部
技術移転グループ
TEL 092-642 -4361
FAX 092-642 -4365
e-mail [email protected]