確かな学力を育む理科授業の在り方 ―理科を専攻としていない...

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確かな学力を育む理科授業の在り方 ―理科を専攻としていない教員の理科の授業の支援の具体的な方策― Contents and methods of science lesson to bring up certain scholatics achievement. -Concrete strategy to support for outside majoy teacher- 土田牧也 MAKIYA, Tsuchida 岐阜大学大学院教育学研究科教職実践開発専攻(教職大学院) Gifu University Professional Graduate School of Education 小学校教育の特徴の1つに、一人の教員が多様な教科を指導することがある。しかし、そ [要約] れぞれの教材の準備や授業後の処理・評価等で十分な時間を確保できず、その教員が苦手にしてい る教科については教材研究や授業実践が十分なされていないという傾向がある。そこで、理科の授 業を中心に確かな学力を育むという観点から、理科を専攻としていない教員の理科の授業を充実す るための支援の在り方を開発的に工夫して実施しその有効性を検証したいと考えている。 確かな学力 小学校理科 免許外 理科の授業の充実 [キーワード] 1.はじめに ー背景と研究への思いー 平成 月の中央教育審議会答申では、 20 1 今後の理科教育に関しては、一人一人の科学に 関する基礎的素養の向上が喫緊の課題となって おり、学校教育においては、指導内容が見直さ れ、理科の「エネルギー 「粒子 「生命 「地 球」などの科学の基本的な見方を概念として内 容の構造化や指導内容の充実など指導内容を見 直し、基礎的・基本的な知識・技能の確実な定 着のために、科学的な知識・技能を活用する活 動を十分に確保し、理科の学習に対する関心や 学習意欲を高めることを重視することが求めら れている。このような状況において、小学校の 教員は、多様な教科を教えたり専攻としていな い教科の授業をしたりと、確かな学力を育むこ とができるよう日々授業を工夫し実践してい る。本研究では、小学校において理科を専攻と していない教員を対象に理科の授業の課題を明 らかにするとともに、理科を専攻としていない 教員の理科の指導力向上の具体的な支援策を得 たいと考えている。 2.研究の目的 1)理科にかかわる様々な調査結果を比較・分 析し、児童と教員の つの側面から理科の授 2 業や理科学習の課題を考察する。 2)岐阜市における理科の授業を担当している 教員の理科の授業の課題を考察する。 3)理科を専攻としていない教員の理科の指導 力向上を目指す具体的な支援策を模索する。 3.研究の方法 1)岐阜県における児童生徒の学習状況調査 の結果や小学校理科教育実態調査の結果の 比較・分析する。 2)岐阜市で理科の授業を担当している学級 担任の理科の授業の意識調査を行う。 3)意識調査の結果を比較・分析する。 4)理科を専攻としていない学級担任の理科 の授業の実態を把握する。 5)理科を専攻としていない教員の今後の理 科の授業を充実するための方策の在り方に ついて明らかにする。 1 科教研報 Vol.25 No.6

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確かな学力を育む理科授業の在り方

―理科を専攻としていない教員の理科の授業の支援の具体的な方策―

Contents and methods of science lesson to bring up certain scholatics achievement.

-Concrete strategy to support for outside majoy teacher-

土田牧也

MAKIYA, Tsuchida岐阜大学大学院教育学研究科教職実践開発専攻(教職大学院)

Gifu University Professional Graduate School of Education

小学校教育の特徴の1つに、一人の教員が多様な教科を指導することがある。しかし、そ[要約]

れぞれの教材の準備や授業後の処理・評価等で十分な時間を確保できず、その教員が苦手にしてい

る教科については教材研究や授業実践が十分なされていないという傾向がある。そこで、理科の授

業を中心に確かな学力を育むという観点から、理科を専攻としていない教員の理科の授業を充実す

るための支援の在り方を開発的に工夫して実施しその有効性を検証したいと考えている。

確かな学力 小学校理科 免許外 理科の授業の充実[キーワード]

1.はじめに ー背景と研究への思いー

平成 年 月の中央教育審議会答申では、20 1

今後の理科教育に関しては、一人一人の科学に

関する基礎的素養の向上が喫緊の課題となって

おり、学校教育においては、指導内容が見直さ

れ、理科の「エネルギー 「粒子 「生命 「地」 」 」

球」などの科学の基本的な見方を概念として内

容の構造化や指導内容の充実など指導内容を見

直し、基礎的・基本的な知識・技能の確実な定

着のために、科学的な知識・技能を活用する活

動を十分に確保し、理科の学習に対する関心や

学習意欲を高めることを重視することが求めら

れている。このような状況において、小学校の

教員は、多様な教科を教えたり専攻としていな

い教科の授業をしたりと、確かな学力を育むこ

とができるよう日々授業を工夫し実践してい

る。本研究では、小学校において理科を専攻と

していない教員を対象に理科の授業の課題を明

らかにするとともに、理科を専攻としていない

教員の理科の指導力向上の具体的な支援策を得

たいと考えている。

2.研究の目的

1)理科にかかわる様々な調査結果を比較・分

析し、児童と教員の つの側面から理科の授2

業や理科学習の課題を考察する。

2)岐阜市における理科の授業を担当している

教員の理科の授業の課題を考察する。

3)理科を専攻としていない教員の理科の指導

力向上を目指す具体的な支援策を模索する。

3.研究の方法

1)岐阜県における児童生徒の学習状況調査

の結果や小学校理科教育実態調査の結果の

比較・分析する。

2)岐阜市で理科の授業を担当している学級

担任の理科の授業の意識調査を行う。

3)意識調査の結果を比較・分析する。

4)理科を専攻としていない学級担任の理科

の授業の実態を把握する。

5)理科を専攻としていない教員の今後の理

科の授業を充実するための方策の在り方に

ついて明らかにする。

1

科教研報 Vol.25 No.6

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4.結果と考察

1)小学校の理科授業における課題の析出

①岐阜県の児童の学習状況

児童の理科学習の実態を「平成 年度 岐22

阜県における児童生徒の学習状況調査の結果」

から考えてみる。この調査は、岐阜県内で抽出

された小学校の 年生を対象に国語、算数、理5

科、社会、生活調査の つの視点で実施されて5

おり、それぞれの教科ごとの正答率や結果の分

。 、析が公表されている この調査結果の理科では

「科学的な思考 「技能・表現 「知識・理解」」 」

の評価の観点ごとの正答率の平均値は 「科学、

73 7 62 8的思考」は . % 「技能・表現」は .、

% 「知識・理解」は . %となり 「科学的、 、69 6

な思考」が高い傾向にある。このような正答率

からは 「技能・表現」の正答率はやや低いも、

のの、どの項目も「おおむね満足できる」とい

うように捉えてしまいがちである。しかし、設

問1つずつの正答率を分析してみると問題点が

あることが分かる。

表 は、設問1つずつの正答率を「科学的な1

思考 「技能・表現 「知識・理解」の観点に」 」

分けて整理したものである。このようにして設

問1つずつの正答率を見てみると、正答率の平

均値が高かった「科学的な思考」でも、正答率

が %、 %と低い設問があり、どの観点に48 45

おいても、正答率が 割を切る設問があること6

が分かる。特に「技能・表現」の観点において

6 8 5は、正答率が 割を下回った設問は 問中、

問( . %)となり、他の「科学的な思考」62 5

「知識・理解」と比較しても、正答率の低い設

問が多かった。

このように岐阜県の児童の学習状況調査の正

答率の低い設問が 「科学的思考 「技能・表、 」

現 「知識・理解」のどの観点にもあることか」

らも、理科の授業において「基礎的・基本的な

知識・技能を身に付ける 「思考力・表現力の」

育成」をすることが重要となる。そのため、教

師の理科の指導力向上や理科の授業の充実が必

要とされている。

②小学校理科教育実態調査結果より

科学技術振興機構理科教育支援センターと国

立教育政策研究所教育課程センターが実施した

「平成 年度小学校理科教育実態調査結果」20

からは、学級担任として理科を教える教員(理

科主任を除く)の約 %が、理科全般の内容50

の指導が「やや苦手」か「苦手」と感じている

結果や(図1 、約 %が理科の指導法につい) 70

ての知識・技能が「やや低い」か「低い」と感

じている結果が明らかになった。この結果から

学級担任とし

て理科を教え

る教員(理科

主任を除く)

は、理科の授

業に何らかの

抵抗を感じな

がら、理科の

授業を行って

いる実態が分

かる。

この学級担任として理科を教える教員(理科

主任を除く)には、中学校、高等学校の理科の

免許を保有している教員の数も含まれている。

図2は、同じ調査による学級担任として理科を

教える教員(理科主任を除く)の教員免許の保

2

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有率である。中学校の理科の免許の保有率は

%であり、高等学校の理科の免許の保有率10.6

。 、は %となっている このような結果から8.62

理科の免許を保有している教員の割合は高いわ

けではく、仮に中学校の理科の免許の保有者と

高等学校の理科の免許の保有者が別々であった

としても理科の免許を保有している教員は高く

ても約 %であり、逆に約 割は理科の免許20 8

を保有せずに理科の授業を行っている。

このように児童に理科の授業で確かな学力を

育むことがこれからの教育課題として挙げられ

ている中、理科の免許を保有していない教員が

理科の授業への抵抗を感じていたり、理科の免

許を保有している教員の数が少なかったりする

現状があるかぎり理科の授業で確かな学力を育

むことは難しい。

そのため、理科の免許を保有していない教員

の理科の授業への抵抗を少しでも減らし、理科

の指導力を向上することで小学校の理科の授業

が充実することができるのではないかと考え

た。

③岐阜市における理科授業への意識調査の結果

「 」平成 年度小学校理科教育実態調査結果20

の比較・分析からは、全国的な理科の授業につ

いての課題に迫ったが、岐阜市における学級担

任として理科の授業を教えている教員の実態調

査を実施し、理科の授業の課題を考察したいと

考えた。そのため、岐阜市で理科の授業につい

ての意識調査をするためアンケートを作成し

た。このアンケートには全国と岐阜市の調査結

果を比較できるように「平成 年度小学校理20

科教育実態調査結果」を参考にして作成した。

そして、岐阜市の の小学校、 名から回11 113

答を得た。

学級担任として理科の授業を担当している教

員のアンケートの集計の結果、学級担任として

理科を教える教員の約 %が,理科全般の内62

容の指導が「やや苦手」か「苦手」と感じてい

る。このデータを全国の調査結果と比較してみ

ると、図 のようになる 「やや得意」と回答3 。

45 35する教員の割合は、全国は %、岐阜市は

%となり 「やや苦手」と回答する教員の割合、

は、全国は %、岐阜市は %となった。こ47 52

の結果から、岐阜市で理科の授業を教える学級

担任の苦手意識が全国と比べて高いことが分か

る。実際には、全国の小学校理科教育実態調査

では、理科免許を保有している教員も含まれて

いるため、一概に岐阜市は苦手意識が高いとは

言い切れないところもある。しかし、今回の調

査では、アンケートに回答した学級担任として

理科を教える教員 人中、理科の免許を保有113

している教員は 名となり、全体の約 %と18 16

なった。このことから、岐阜市も全国と同じよ

うに理科の免許を保有している教員の数は少な

く、理科の授業を教える約 割は理科の免許を8

保有せずに理科の授業を行っている。

では、実際に、学級担任として理科を教える

教員の中でも、理科を専攻としている教員と理

科を専攻としていない教員とではどのような意

識の差が生まれてくるだろうか。調査結果をさ

らに比較・分析し、理科を専攻としている教員

3

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と理科を専攻としていない教員による理科全般

の指導内容の意識についての結果を図 に示4

す。

この結果から分かることは、理科を専攻とし

ている教員と理科を専攻としていない教員とで

、 「 」 、「 」は 明らかに やや得意 または やや苦手

の数値に違いがあることである。例えば「やや

得意」だと回答している理科を専攻としている

教員は %であるのに対して、理科を専攻と83

していない教員は % 「やや苦手」だと回答26 、

している理科を専攻としている教員は %であ6

るのに対して、理科を専攻としていない教員は

%となった。このように理科を専攻として61

いる教員と理科を専攻としていない教員の理科

の指導内容の意識に大きな差が見られた。

表2は理科の学習過程毎の認識度と実施度を

調査したものである。認識度とは、それぞれの

学習過程の重要性についてどの程度認識してい

るかを示したもので、実施度はそれぞれの学習

過程をどの程度実施したかである。認識度が最

も高いのは 「⑤実験・観察の場」の %とな、 95

31り 最も低いのは ④実験方法を考える の、 、「 」

%となった また 実施度で最も高いのは ⑥。 、 、「

結果や考察を書く場」の %となり、最も低68

9いのは「⑨実社会・実生活とつなげる場」の

%となった。この結果から分かることは、それ

ぞれの学習過程毎の重要性の認識度は高い項目

が多いが、実施度は重要性の認識度よりも低い

ということである。特に、認識度で最も高かっ

67た「⑤実験・観察の場」ですら、実施度は

%となっている。つまり、理科の授業を実施す

るのに何らかの困難さを感じているのである。

この調査についても、理科を専攻としている

教員と理科を専攻としていない教員の理科の学

習過程毎の認識度や実施度を比較・分析した。

表 にあるように、理科を専攻とする教員の認3

識度については 「⑤実験・観察の場 「⑦結、 」

果や考察を交流する場」の認識度は %と高100

く、続いて「①事象提示」の % 「⑥結果や88 、

考察を書く場」の %となり、重要性の認識81

度が高い学習過程が多い。また、実施度につい

ては 「⑤実験・観察の場 「⑥結果や考察を、 」

書く場」は %となり、続いて「⑦結果や考100

」 、「 」察を交流する場 の % ⑧まとめを書く場88

の %となり、高い数値も見られたが 「⑨実75 、

社会・実生活とつなげて考える の %や ④」 「18

実験方法を考える」の %など低い数値も見31

られた。認識度と実施度の差については 「⑨、

実社会・実生活とつなげて考える場」では、認

識度が %、実施度が %となり、 %の65 18 47

差が見られ、理科を専攻としている教員も、全

体と同じように認識度は高いが、実施度は低い

項目がある。

続いて理科を専攻としていない教員の認識度

は、数値に大きさ差が見られた。一番認識度が

、「 」 、高かったのは ⑤実験・観察の場 の %で92

続いて「⑥結果や考察を書く場」の % 「⑦84 、

結果や考察を交流する場」の %となった。71

しかし、認識度が一番低かったのは 「④実験、

4

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方法を考える」の %、続いて「③予想の交27

流」の %となった。実施度については 「⑤41 、

実験・観察の場 「⑥結果や考察を書く場 「⑧」 」

まとめを書く場」の %が最も高い数値であ62

った。逆に数値が最も低かったのは「⑨実社会

・実生活とつなげて考える場」の7%「実験方

法を考える」の %となった。11

このように理科を専攻とする教員と理科を専

攻としない教員には認識度や実施度には大きさ

な差が見られた。理科を専攻としている教員と

理科を専攻としていない教員とでは、認識度に

ついては 「①事象提示 「③予想の交流 「④、 」 」

実験方法を考える」等のように大きな差が見ら

れた。特に 「④実験方法を考える」について、

57は、理科を専攻としている教員の認識度は、

%であるのに対して、理科を専攻としていない

教員の認識度は %となり、 %もの重要性27 30

の認識度の違いがあることが分かる。また、実

施度については、理科を専攻としていない教員

の最も高かった実施度の「⑤実験・観察の場」

「⑥結果や考察を書く場」の %よりも、理62

科を専攻とする教員は %も高く、 %の38 100

数値を示しており、小学校で理科の授業を担当

する教員でも理科の授業内容に様々な差が見ら

れる。

図5は、理科の授業の様々な知識・技能に関

する意識を調査したものである。例えば 「学、

習内容の知識・技能」についての意識の高さを

回答した結果である。知識・技能には「学習内

容の知識・技能 指導法の知識・技能 観」、「 」、「

察・実験の知識・技能 「学習評価の知識・」、

技能」の4つを観点を位置づけた。この結果か

ら分かることは 「学習内容の知識・技能」が、

他の項目よりも 「高い」と回答する割合が多、

いことである。しかし、逆に「指導法の知識・

技能」や「観察・実験の知識・技能」の回答は

「やや低い」の項目の割合が多くなっている。

つまり、理科を専攻としていない教員は、理科

の様々な事象についての知識をもっているが、

実際に理科を指導することや観察・実験を行う

ことなどに不安を感じていることが推測でき

る。

このように理科を専攻としていない教員は、

理科の授業について様々な困難さを感じてお

り、理科を専攻としていない教員の理科授業の

充実を図るためには、その困難さを乗り越えて

いく具体的な支援策が必要となってくるのであ

る。

2)理科の指導力向上のための手だて

①「夏期理科研修」の位置づけ

図 の「理科の授業に関する意識」の観察・5

「 」「 」実験の知識・技能について やや低い 低い

の割合が %となっていることから、理科を66

専攻としてない教員の観察・実験の知識・技能

を高めるには、その知識・技能を身に付けるよ

うな場を位置づけることが有効であると考え

た。そこで、理科を専攻としていない教員の理

科への関心を高め、観察・実験の操作や教材・

教具の開発の在り方を身に付けてもらうことを

5

科教研報 Vol.25 No.6

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中心とした「夏期理科研修」を実施することを

。 、 「 」考えた 具体的には 夏休みに 夏期理科研修

を実施する小学校の理科室を使用して 年生か1

ら 年生までの理科を専攻としていない教員を6

対象に実施する。その際、できるだけ現場のニ

ーズに応えることができるように、その学校の

理科を専攻としていない教員の理科の授業への

意識調査をし、集計分析したものをもとに、い

。 、くつかの研修のプログラムを作成する そして

そのプログラムから研修内容を選択してもらい

研修に参加するという具体的な方策を考えた。

②理科の授業の分かりやすいカリキュラムの作

図 の「理科の授業に関する意識」の指導法5

の知識・技能について「やや低い 「低い」の」

割合が %となっていることからも、理科の71

指導法の不安を解決するためには、まずは、理

科を専攻としていない教員がどのような理科の

授業を行うのか傾向をつかむ必要がある。具体

的な方策として、理科を専攻する教員が作成し

た指導案をもとに、理科を専攻としている教員

と理科を専攻としていない教員の授業を比較・

分析し、理科を専攻する教員と理科を専攻とし

ない教員の理科の授業の違いを明らかにする。

その後指導案の分かりにくい点などについて修

正し、新たな指導案を作成する。その際、でき

るだけ単位時間だけでなく、単元指導計画やワ

ークシート等についても検討し、教員の指導と

子どもの学びの両面から授業の分析を行いたい

と考えている。

現在1つめの「夏期理科研修」については、

岐阜市の2つの小学校で実施を予定しており、

参加する教員の意識調査を行っている。また、

2つめの「理科を専攻としていない教員への分

5かりやすいカリキュラムの作成 については」 、

月に行われた 年生と 年生の理科を専攻とし4 6

ている教員と理科を専攻としていない教員の授

、 。業分析を行い それぞれの違いを分析している

また、理科を専攻としていない教員から、理科

の指導案の問題点などをヒアリングしている。

このように様々な調査分析をもとに、理科を

専攻としていない教員への理科授業の充実のた

めの具体的な方策を つ考え実践していきたい2

と考えている。

5.おわりに

理科を専攻としていない教員は、確かな学力

を育むために、日々理科の授業の実践をしてい

ることが明らかになってきた。しかし、理科を

専攻としていない教員は、理科の授業を行うこ

とに困難さを感じている。そのため、今後は理

科を専攻としていない教員の理科の授業を充実

する手だてを実践し、理科を専攻としていない

教員が、今より少しでも理科の授業の指導力を

高める方策を明らかにしていきたいと考えてい

る。このような取り組みを続けることで、理科

を専攻としていない教員が、一人でも多くの児

童に理科のおもしろさや理科の授業で確かな学

力を育むことを期待したい。

引用・参考文献

・文部科学省:中央教育審議会答申( )H20,1

・岐阜県教育委員会:平成 年度岐阜県にお22

ける児童生徒の学習状況調査の結果( )H22,4

・科学技術振興機構理科教育支援センター、国

2立教育政策研究所教育課程センター:平成

( )0 H21,4年度小学校理科教育実態調査結果

・安彦忠彦、角屋重樹、石井雅幸: 年度小H22

学校学習指導要領の解説と展開理科編 教育

出版

6

科教研報 Vol.25 No.6

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GeoGebraの表計算機能を用いた教材開発

Digital contents using GeoGebra Spreadsheet 木下 潤一

KINOSHITA,Junichi 愛知教育大学大学院

Aichi University of Education Graduate School

[要約]近年日本での研究も進められてきている GeoGebra は,動的幾何ソフトウェアとしての機能だ

けでなく様々な機能をもっている。その中の1つとして GeoGebra には表計算機能があり,表計

算機能をうまく利用することで様々な事例を探求することができると考えられる。GeoGebra の

表計算機能について解説するとともに,具体的事例をふまえながら,他のソフトウェアでは探

求が困難である問題についても扱うことができることから,GeoGebra の表計算機能の有効性を

示す。

[キーワード]GeoGebra,動的幾何ソフトウェア,機能統合性,表計算機能

1. はじめに

GeoGebra は 2002 年にフロリダ大西洋大学の

Markus Hohen Water によって開発されたソフトウ

ェアである。開発当初は,GeoGebra は動的幾何ソ

フトウェアとしての機能しか備えていなかった。

しかし,現在 GeoGebra は関数グラフツール,表

計算機能,数式処理機能など様々な機能を備えて

おり,機能統合性という側面から他のソフトウェ

アではできない探求ができるという特徴がある

と考えられる。

近年日本での研究も進んでおり,濱田龍義

(2010)の『大学初年級における GeoGebra の教育

利用』,舟川快(2010)の『GeoGebra の特性を活か

した教材開発』など,GeoGebra に関する研究が行

われている。舟川(2010)は,GeoGebra の機能統合

性に着目し,関数グラフツールと作図ツールを活

用させた教材例を提示した。これにより,

GeoGebra の機能統合性という側面が,他のソフト

ウェアでは扱うことができない事例を扱うこと

ができるということが示された。

そこで,本研究では GeoGebra の表計算機能と

動的幾何ソフトウェアとしての機能を連動させ

た事例を提示し,GeoGebra の機能統合性における

教材開発のさらなる可能性を示す。

2. 表計算機能について

ここでは,GeoGebra の表計算機能というのがど

のようなものかを示す。

GeoGebra における表計算機能の特徴は,グラフ

ィックスビューで作図した図などの,角の大きさ,

辺の長さ,面積などのオブジェクトの値を,履歴

として表計算ビューの値として,記録できること

である。GeoGebra は本来動的幾何ソフトウェアで

あるので,図形をダイナミックに動かすことがで

きる。そして,そのダイナミックな動きの中での

それぞれの値を表計算ビューに記録することが

できる。

GeoGebra において,表計算機能を使う方法を紹

介する。例として三角形 ABC を作図する。グラ

フィックスビューに 3 点 A,B,C を取り,それ

らを線分でつなぎ,三角形 ABC を作図する。次

に角度,長さ,面積を測定するコマンドをそれぞ

れ用いて,それぞれの角度と三角形 ABC の面積

の大きさを測定する。

次に,GeoGebra のメニューバーの「ツール」の

中にある「表計算」をクリックし,表計算ビュー

を表示する。図 1 のように GeoGebra の画面が3

分割され,Excel のような表計算の画面が出てく

る。先ほど測定した,長さ,角度,面積など,値

を残したいものを右クリックし,メニューの中か

7

科教研報 Vol.25 No.6

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ら「残像を表計算に記録」をクリックすると,表

計算ビューの A1 のセルのところに,そのオブジ

ェクトの記号が表示される。例えば,先ほど測定

した三角形 ABC における距離 AB を選択し,「残

像を表計算に記録」をクリックすると表計算ビュ

ーの A1 のセルに「距離 AB」と表示される。この

状態で,先ほど作図した三角形を動かすことによ

り,図1のように長さがどのように変化したかの

推移を表す残像を表示することができる。

図 1

こうすることで,今までであれば点の座標や長

さといった値を手作業で紙に移すといった作業

をしていたものが,GeoGebra を用いることでその

作業を省略することができる。また,表計算に記

録したものの中から,変数を選択してグラフに表

すこともできる。こういった探求は今までの作図

ツールでは簡単には出来なかったが,GeoGebra

の表計算機能を用いることで、このような探求を

行うことが可能となる。

3. 表計算機能を活かした教材例

では,表計算機能を活用してどのような探求が

可能になるかを示す。ここでは,二等辺三角形に

関する教材例を用いて,GeoGebra の表計算機能が

どのような効果を表すのかを示す。

1) 長さに関する教材例1

まず二等辺三角形の2つの線分の長さを比較

する問題を例にする。

問題1 AB=ACとなる二等辺三角形ABCの辺

BC 上に点 D をとる。点 D から,辺 AB に平行

な直線を引き辺 AC との交点を E,点 D から辺

ACに平行な直線を引き辺 AB との交点を F とす

る。この時,辺 FD と辺 DE の間にはどのよう

な関係がありますか。 まず,線分 FD と線分 DE の長さを先ほどの「残

像を計算に記録」を用いて表計算ビューに値を記

録する。

図 2

点 D を動かすことで,線分 FD と線分 DE の長

さを記録することができる。表計算を用いない場

合と比較して,表計算に出力することによりどこ

の値でも 2 つを足して 5 になるということがわか

る。また図 2 のように,表計算の機能として,表

計算の B 列と C 列を足すと常に 5 になることも

表示することができる。このように,表計算とし

ての使い方もできるということが挙げられる。 2) 長さに関する教材例 2

問題 1に関して,二等辺三角形という条件を任

意の三角形にするとどのようになるかを示す。

問題 2 三角形 ABC の辺 BC 上に点 D をとる。

点 D から,辺 AB に平行な直線を引き,辺 AC と

の交点をE,点Dから辺ACに平行な直線を引き,

辺 AB との交点を F とする。この時,点 D を点 B

から点 C に向けて移動させたとき,線分 FD と線

分 DE,および FD+DE と線分 BD の間にはそれぞ

れどのような関係がありますか。

図 3

8

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先ほどの問題 1 の場合,二等辺三角形という条

件があるため,辺 FD と辺 DE の間には常に一定

になるという関係がある。しかし,この問題の場

合どのようになるかは想像がつきにくい。問題 1の時と同じように,平行四辺形の対応する辺が等

しいという条件を用いて解こうとしても,任意の

三角形であるため,より難易度はあがる。 GeoGebra の表計算ツールを用いて,線分 FDと線分 DE の残像を表計算に記録し,2 変数のグ

ラフを表示すると図 4 のようになる。

図 4

この図 4 は表計算ソフトに記録された線分 DFの長さと線分 DE の長さをグラフにしたものであ

る。点の集合が一直線にならんでいることから,

この 2変数の間の関係が一次関数になるというこ

とがわかる。では,その値はどのような値になり,

線分 BD と FD+DE の値の関係はどのようなもの

かを考える。任意の三角形を直角三角形に作り直

し,線分 BD,線分 FD,線分 DE の残像を記録する

と図 5 のようになる。

図 5 ここで,図 5のように線分BDの長さとFD+DE

を計算したものを表示してやることで,線分 BDと FD+DE の長さの和の関係が見えてくる。線分

BD の長さによって,FD+DE の長さが一次関数

によって定められることがわかる。

図 6 一次関数という予想がGeoGebraによって導く

ことで,この先の探求はどのような式になるのか,

本当にその式が正しいのかを確かめる活動にな

ると考えられる。 この問題からわかるように,GeoGebra におい

て本来動的幾何ソフトウェアであることから,動

的幾何環境において,任意の図にすぐ変形するこ

とができる。加えて,このように表計算機能を用

いて探求することによって,理解しにくい図や探

求しづらかった問題などにおいても子どもの探

求の支援をすることがGeoGebraには可能である

と言える。

3) 面積に関する教材例1

先に述べた問題の条件を少し変化させ,問題 1の図形において問題を少し変えてやると,長さと

面積を測定するような問題となる。この問題にお

いてGeoGebraの表計算ソフトを用いると次のよ

うな探求ができる。 問題 3 AB=AC となる二等辺三角形 ABCの辺 BC 上に点 D をとる。点 D から,辺 ABに平行な直線を引き,辺 AC との交点を E,点

D から辺 AC に平行な直線を引き,辺 AB との

交点を F とする。点 D を点 B から点 C へと移

動させたとき,辺 BD と四角形 AFDE の面積の

間にはどのような関係がありますか。

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求めるものを長さと面積にしたことで先ほど

の問題とは違い,対応関係が一次関数ではなくな

ることがわかる。答えは二次関数になるので,相

似比と面積比の知識があれば,計算で解くことは

可能である。

図 7 まず線分BDの長さと四角形AFDEの面積を表

計算ビューに記録させ,点 D を点 B から点 C へ

と移動する。そうすると,表計算ビューにおいて

それぞれの値が記録される。これより,子どもた

ちも一次関数ではないということは表計算ビュ

ーに記録された値を見ることで確認ができる。そ

こで,この2つの値がどのような関係になってい

るかを予想させ,その予想が正しいかどうかとい

うところで,表計算ビューに記録した四角形

AFDEの面積と線分BDの長さをグラフ化するこ

とで,予想が正しそうであることを確認すること

ができる。図 8 は線分 BD の長さと四角形 AFDEの面積の関係をグラフに表したものである。これ

より,多くの子どもがこの 2 変数の関係が単調増

加,単調減少にはなっていない,二次関数のよう

な関係になっていると答えるのではないだろう

か。

図 8

もちろん,ここまでの活動で終わってしまうの

ではなく,二次関数になるという予想から,しっ

かりとした式を用いて答えを導き出すという活

動も必要である。 授業に活用するべきかどうかは悩ましいが,

GeoGebra の表計算機能には,図 9 のように 2 変

数を選択して作成したグラフから近似曲線を求

めるという機能もついている。答えの確認という

意味では,すぐに答えを導きだしてくれるのもあ

りがたいと考えることもできる。

図 9

4) 面積に関する教材例 2

問題 2 の時と同じように,問題 3 の条件を変化

させるとどのようになるだろうか。問題 3 におけ

る三角形を二等辺三角形ではなく,任意の三角形

に条件を変えた例を紹介する。 問題 4 三角形 ABC の辺 BC 上に点 D をと

る。点 D を通り辺 AB に平行な直線と,辺 ACとの交点を E,点 D を通り辺 AC に平行な直線

をと辺 AB との交点を F とする。この時,線分

BDの長さと四角形AFDEの面積の関係はどの

ようになりますか。

図 10

10

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先ほどの問題とは変わり,任意の三角形にした

ことにより,いろいろな三角形で考えることがで

きる。授業の流れとしては先ほどの二等辺三角形

時に作成した二次関数のグラフがどのように変

化するかを予想させるところから始めたい。二等

辺三角形から,頂点を上下左右に動かすとグラフ

はどのように変化するか,またその場合における

四角形AFDEの面積と直線BDの長さの関係はど

のように変化するのかを考えさせることができ

る。 生徒の予想は様々なものが出てくると考えら

れる。右側に動かしたときには,グラフの頂点も

右に動くのではないか,変わらないのではないか,

二次関数ではなく他の関数になるのではないか

など様々なものが考えられるだろう。またこのよ

うに発問をすることで,様々な意見を生徒から引

き出し,その理由を考えさせることができる問題

であると言える。 実際に三角形を動かしてみると,四角形 AFDE

の面積は点Dが線分BCの中点をとるときが常に

最大になることはわかる。図 11 は先ほどの図と

はちがった任意の三角形において線分 BD と四角

形 AFDE の面積の関係をグラフに表したもので

ある。

図 11 図 11 をみても,点 D が辺 BC の中点に来ると

きに最大値をとり,これはどのような図形であっ

ても二次関数の形は変わらないことが GeoGebraの表計算機能よりわかる。 しかし,子どもにはなぜそうなるのだろうとい

う疑問が残ることになる。そのような疑問はしっ

かりと式から導き出し,三角形がどのような形で

あっても辺 BC の中心に来るときが四角形 AFDEの面積が最大になることを確認することが必要

である。

5) 角度に関する教材例

これまでは長さと面積に関する事例を紹介し

てきたが,最後に角度に関する事例を紹介する。 問題 5 二等辺三角形 ABC において,底角

B,Cのそれぞれの角の二等分線の交点をDとす

る。この時,∠BAC と∠BDC にはどのような

関係がありますか。

図 12

図 12 は飯島康之が開発した GeometricConstr- acter(以下 GC)を用いて探求した場合である。図

12 のように角度の表示をし,そこからどのような

関係があるかを考えさせるという活動になる。

GC を用いる場合それぞれの角度の大きさを測定

した後,関係を見いだせない子どもに対して紙を

配布し,対応する角度の値を書きとらせ,それぞ

れの対応関係を調べるという探求をする。加えて,

それでも対応関係が見えない子どもにはその書

きとった角度を基に,グラフを書かせるという活

動をすることになる。 しかし,GeoGebra の表計算機能を用いれば,

この過程はすぐにGeoGebraの中の機能だけで完

結に済ませることができる。図 13 のように,角

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度を示し表計算ビューにそれぞれの角度の値を

記録してやることで対応する値がどのような関

係になっているかを調べることができる。

図 13

この問題の中で,2 つの角度の関係を求めるこ

とは重要であるが,書き写すことに多くの時間を

費やしてしまうのはとてももったいないことで

ある。その時間を他の探求に充てることができる

というのは,GeoGebra を用いて探求するなかで

大きな特徴の 1 つとなると言える。

4. 考察と今後の課題

今回事例をふまえて紹介した GeoGebra の表計

算機能において考察すると次のような特徴とし

てまとめられる。

特徴 1 Excel とは違い,図形の生のデータを扱

うことができる。

特徴 2 より子どもの思考力を求めるような発

問が可能となる。

特徴 3 GeoGebra の表計算機能によって,2 変

数の間の関係が一次関数でないものも容易

に扱うことができる。

特徴 1 に関しては,Excel と比較したときの違

いである。GeoGebra の場合,グラフィックスビュ

ーで用いられた値をそのまま表計算ビューで扱

うことができ,またグラフィックスビューに連動

して,生のデータを扱うことができることは,1

つの特徴として挙げられる。

特徴 2,3 に関して,GeoGebra では他の作図ツー

ルでは探求が難しかった事例を扱うことが可能

である。今回紹介した事例において 2変数の関係

が一次関数,二次関数になる例を紹介した。これ

らの問題のうち,特に関係が二次関数になる問題

において,値を表示させるだけでは理解すること

が困難な課題である。しかし,GeoGebra の表計算

機能を用いて2変数の関係をグラフに簡単に表せ

るからこそ,探求することが容易にできる例であ

る。

今後の課題として,GeoGebra の機能性を最大限

に活かしきれていないと感じる部分が多くある。

特に今回,問題 5 で角度を扱う問題を提示した。

実際に GeoGebra を用いて扱っていただくとわか

るのだが,長さと面積の時と同じような手順を踏

んでも,2 つの変数が角度の場合,グラフに対応

関係を示すことができない。点の座標を記録する

ことも同様にできるのだが,これも同じように表

計算に記録したものを活用した,GeoGebra ならで

はの教材が見いだせていない。これらを用いて具

体的な教材例を示すことができれば,GeoGebra

を用いてできる探求がさらに増え,幅が広がるこ

とは言うまでもない。今後 GeoGebra のソフトウ

ェアとしての機能が増加,洗練されることにも期

待しつつ,今回提示した表計算機能や他の

GeoGebra の機能をうまく活用した教材を今後も

提案していきたい。

5.参考文献

1) 濱田龍義(2010) 『大学初年級における

GeoGebra の教育利用』.数理解析研究所講究録

1674.112-119.

2) 舟川快(2011) 『GeoGebra を利用した数学的

探求とその教材化に関する研究』.愛知教育大

学大学院.修士論文.

3) 舟川快(2010) 『GeoGebra の特性を活かした

教材開発 -極限に関する教材例- 』.日本科学

教育学会.年会論文集 34.279-280

4) GeoGebra http://www.geogebra.org/

5) GeoGebra 日本

http://sites.google.com/site/geogebrajp/

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