空間相関を考慮した ベイズ統計による pm2.5濃度解析 · 2.5濃度分布の...

10
PM 2.5 濃度分布の 空間統計解析 名古屋市環境科学調査センター 久恒 邦裕、 山神 真紀子 平成27年度調査研究発表会資料 平成28221 PM 2.5 について 【概要】 ○粒子径2.5μm以下の空気中に浮遊している粒子の 総称。 ○発生源は燃焼施設・自動車・野焼き・家庭・黄砂など 多岐にわたる様々な成分が混在 髪の毛の太さが5080μm 細胞の大きさが約10μm PM 2.5 2 研究の背景 PM 2.5 の環境基準が平成219月に定められた。 常時監視データとしてPM 2.5 の採取を目的に応じて 2通りの方法で行っている。 自動測定 成分分析測定 目的 環境基準適不適の判断 成分の把握 測定項目 質量濃度の測定 質量濃度と成分濃度の測定 年間データ数 365日×24時間×17地点 4季節×14日×6地点 メリット データ数が多い 成分が詳細に明らかになる デメリット PM 2.5 の成分の詳細は 不明 分析コストがかかり サンプル数を増やせない 3 成分分析測定 目的 成分の把握 測定項目 質量濃度と成分濃度の測定 年間データ数 4季節×14日×6地点 メリット 成分が詳細に明らかになる デメリット 分析コストがかかり サンプル数を増やせない 研究の背景 PM 2.5 の調査・研究の目的】 PM 2.5 の発生源等の影響を明らかにして 有効な削減策へと繋げる(高濃度化の要因を探る)。 4

Upload: others

Post on 22-May-2020

3 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

PM2.5濃度分布の 空間統計解析

名古屋市環境科学調査センター

久恒 邦裕、 山神 真紀子

平成27年度調査研究発表会資料

平成28年2月2日

1

PM2.5について 【概要】

○粒子径約2.5µm以下の空気中に浮遊している粒子の総称。

○発生源は燃焼施設・自動車・野焼き・家庭・黄砂など多岐にわたる。

○様々な成分が混在

髪の毛の太さが50~80µm 細胞の大きさが約10µm

PM2.5

2

研究の背景 • PM2.5の環境基準が平成21年9月に定められた。

•常時監視データとしてPM2.5の採取を目的に応じて2通りの方法で行っている。

自動測定 成分分析測定

目的 環境基準適不適の判断 成分の把握

測定項目 質量濃度の測定 質量濃度と成分濃度の測定

年間データ数 365日×24時間×17地点 4季節×14日×6地点

メリット データ数が多い 成分が詳細に明らかになる

デメリット

PM2.5の成分の詳細は 不明

分析コストがかかり サンプル数を増やせない

3

自動測定 成分分析測定

目的 環境基準適不適の判断 成分の把握

測定項目 質量濃度の測定 質量濃度と成分濃度の測定

年間データ数 365日×24時間×17地点 4季節×14日×6地点

メリット データ数が多い 成分が詳細に明らかになる

デメリット

PM2.5の成分の詳細は 不明

分析コストがかかり サンプル数を増やせない

研究の背景 【PM2.5の調査・研究の目的】

PM2.5の発生源等の影響を明らかにして

有効な削減策へと繋げる(高濃度化の要因を探る)。

4

自動測定 成分分析測定

目的 環境基準適不適の判断 成分の把握

測定項目 質量濃度の測定 質量濃度と成分濃度の測定

年間データ数 365日×24時間×17地点 4季節×14日×6地点

メリット データ数が多い 成分が詳細に明らかになる

デメリット

PM2.5の成分の詳細は 不明

分析コストがかかり サンプル数を増やせない

研究の背景 【PM2.5の調査・研究の目的】

PM2.5の発生源等の影響を明らかにして

有効な削減策へと繋げる(高濃度化の要因を探る)。

違った視点からの 解析が、できないか?

5

PM2.5の日々の変動グラフ (2015年度名古屋市内:速報値)

0

5

10

15

20

25

30

35

40

12月

14日

12月

15日

12月

16日

12月

17日

12月

18日

12月

19日

12月

20日

12月

21日

12月

22日

12月

23日

12月

24日

12月

25日

12月

26日

12月

27日

12月

28日

12月

29日

12月

30日

12月

31日

1月

1日

1月

2日

1月

3日

1月

4日

1月

5日

1月

6日

1月

7日

1月

8日

1月

9日

1月

10日

1月

11日

1月

12日

PM

2.5質量濃度

(μg/m

3)

愛知工業高校

中村保健所

滝川小学校

八幡中学校

富田支所

惟信高校

白水小学校

守山保健所

大高北小学校

天白保健所

上下水道局北営業所

名塚中学校

テレビ塔

熱田神宮公園

港 陽

千 竈

元塩公園

大まかな変動は類似しているが、測定局間に差がある。

6

PM2.5 年平均値の分布 (2014年度)

μg/m3

測定局間の差に 地理的な傾向は 存在するのか?

それとも

測定局ごとに 独自の傾向が 存在するのか?

7

目的

•自動測定機による日々のPM2.5濃度変化

を、その地理的な条件と合わせて考慮して、

その特徴を探る。

【仮説】 PM2.5の濃度への影響は、3つの種類に分解できる。 それぞれの影響を、場所ごとに区切って調べる。

8

1.広域的な影響

A

B C

D

全地点で、同じ期間(オレンジ色の四角)に 同じように高濃度となる現象が観測された。

↓ 広域的に共通した原因が存在する。

観測された PM2.5濃度の日変動

9 by vector free

○国外からの越境汚染の影響

○気温などの 気象条件による影響

○国内の汚染の影響

広域的な影響の例

10

2.地域的な影響

A

B C

D

いくつかの地点で、同じ期間(オレンジ色の四角)に 同じように高濃度となる現象が観測された。

↓ 一定の地域に共通した原因が存在する。

11

by avaxhome.ws ○大規模な発生源の影響

地域的な影響の例

○密集した複数の発生源の影響 by avaxhome.ws

○交通量の多い道路の影響

12

A

B C

D

3.局所的な影響

一つの地点で、ある期間(オレンジ色の四角)に 高濃度となる現象が観測された。

↓ 個別の局所に影響した原因が存在する。

13

by avaxhome.ws

○測定局近傍の、小規模な発生源の影響

局所的な影響の例

A

14

濃度変動への影響の種類

【仮説】

• PM2.5に影響を与えるのは

<広域的な影響>(広い範囲の影響)

<地域的な影響>(一定範囲の影響)

<局所的な影響>(ごく狭い範囲への影響)

の3つに分解できる。

• これらの影響を、測定局ごとに統計的に解析して影響の大きさを具体的に調べる。

15

解析対象データ

•愛知県、岐阜県(一部)、三重県(一部)の常時監視局77局の日平均値

• 2012年4月1日

~2014年3月31日

(2年分)

☆大気汚染物質広域監視システム(そらまめ君:速報値)にて公表されているデータ 16

解析対象データ

<広域的な影響>

右の地図全体に共通した影響

<地域的な影響>

0.1度×0.1度(約9×11km)の四角に共通した影響

<局所的な影響>

測定局(赤い丸)のみへの影響

17

測定値のモデル

<地域的な影響>は 隣の地域とは 似た変動を示す。 (空間自己相関をもつ)

0.1度(約9km)

0.1度 (約11km)

18

名古屋市近辺の区分け

19

測定値に対する仮定

PM2.5の測定値

広域的に共通した値(変動)

地域的な影響 局所的な影響

空間自己 相関をもつ

20

計算に用いたソフト

• R:統計解析ソフト。今回は、データの加工や結果の確認を行うのがメイン。(パッケージR2WinBUGSを使用):無料

• WinBUGS:ベイズ統計のコアの計算を担う。:無料

ベイズ統計とは?

21

ベイズ統計とは? 特徴 メリット デメリット

頻度主義的 統計学

従来より使われている統計学。(検定, 有意水準, etc.)

条件が整えられたデータが得意。

多くの計算ソフトが対応。

要因が複雑なデータは苦手

ベイズ 統計学

2000年ごろよ

り様々な分野で注目され始めた統計学。

欠測に強い。

複雑なデータにも対応可能。

解釈が直感的で解りやすい。

手軽に扱える計算ソフトが無い。 計算量が膨大。

環境分野へ応用が期待される。 22

推定結果 - 広域的な影響の値(月変動)-

8

10

12

14

16

18

20

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月

PM

2.5濃度

(μg/

m3 )

推定された値 実測値の平均値

推定された値(広域的な影響の値)に、以降で示す 地域的な影響や局所的な影響が加わって実測値となる。

(2012、2013年度)

23

• 広域的な影響に対する、相対的な影響値を示す。

• 名古屋港周辺から北の地域にかけて高い値が示された。

• 全体的には南西側で高く、北東側で低い値となった。

計算結果 -地域的な影響-

24

計算結果 -地域的な影響- (名古屋近郊)

25

• 広域的な影響に対する、相対的な影響値を示す。

• 高い値、低い値が各所に点在。

計算結果 -局所的な影響-

26

計算結果 -局所的な影響- (名古屋近郊)

27 局所的な影響

地域的な影響

地域的にも 局所的にも

高濃度になりやすい

地域的にも 局所的にも

低濃度になりやすい

地域的には高濃度

局所的には低濃度になりやすい

地域的には低濃度

局所的には高濃度になりやすい

地域的な影響と局所的な影響の関係 (測定局ごとにプロット)

28

PM2.5 常時監視地点(名古屋市内)

守山保健所

上下水道局北営業所

テレビ塔

滝川小学校

天白保健所

愛知工業高校

八幡中学校

熱田神宮公園

名塚中学校

千竃

元塩公園

大高北小学校

中村保健所

白水小学校

富田支所

惟信高校

港陽

29

一般局 自排局

測定局名 地域的な 影響

局所的な 影響

測定局名 地域的な 影響

局所的な 影響

愛知工業高校(北) 1.08 1.00 上下水道局北営業所(北)

1.11 1.12

中村保健所(中村) 1.18 0.95 名塚中学校(西) 1.23 1.16

滝川小学校(昭和) 1.11 1.01 テレビ塔(中) 1.11 1.08

八幡中学校(中川) 1.18 1.00 熱田神宮公園(熱田)

1.11 0.95

富田支所(中川) 1.18 0.98 港陽(港) 1.18 1.00

惟信高校(港) 1.18 1.09 千竃(南) 1.11 1.04

白水小学校(南) 1.21 1.04 元塩公園(南) 1.21 1.24

守山保健所(守山) 1.08 0.97

大高北小学校(緑) 1.21 0.97

天白保健所(天白) 1.11 0.97

影響の推定値(名古屋市内)

30

排出量データ:EAGrid2000-JAPAN1)

とは? • EAGrid2000-Japanは、2000年度を対象とした大気汚染物質排出データである。

•日本国内の様々なデータ(固定発生源種類・規模、発電量、廃棄物処理量、自動車交通量、船舶航行データなど)から、1km2ごとでの排出量を推定した総合的な排出量データ。

• この中から、今回はPM2.5の排出に係るデータを取り出し、結果の比較を行った。

1) Kannari, A., Tonooka, Y., Baba, T., Murano, K.:Development of multiple-species 1 km×1 km resolution hourly basis emissions inventory for Japan, Atmospheric Environment, 41, 3428‒3439 (2007). 31

排出量データ:EAGrid2000-JAPANの種類(一部)

○発電所

○廃棄物の焼却施設

○工場ボイラーなどの燃焼施設

○農業廃棄物焼却(野焼き)

○自動車排気

○船舶

○農業・産業用機械

○航空機 など

32

自動車排気からのPM2.5の 排出データとの比較 (EAGrid2000-JAPAN)

kg/年 33

大規模固定燃焼施設からのPM2.5の 排出データとの比較 (EAGrid2000-JAPAN)

kg/年 34

船舶からのPM2.5の 排出データとの比較 (EAGrid2000-JAPAN)

kg/年 35

0.80

0.85

0.90

0.95

1.00

1.05

1.10

1.15

1.20

1.25

1.30

局所的な影響

一般環境

大気測定局自動車排出ガス

測定局

局所的な影響の評価 (一般環境と道路沿道の比較)

36

まとめ

• PM2.5濃度を、<広域的な特徴>・<地域的な特徴>・<局所的な特徴>に分けて評価。

•<広域的な影響>は夏場や春に高くなった。

•<地域的な特徴>は名古屋港近辺で高くなった。燃焼施設や船舶、および自動車からの排出が影響していると考えられる。

•<局所的な特徴>もそれぞれの測定局で定量的に評価することができた。

37

今後の検討課題

•発生源の具体的な特定に結び付けるためには、さらなる情報が必要。

•成分分析用測定は、今年度の調査で一巡し、データが一通り揃った。

•成分データについても、本検討の手法が可能かを検証して、新たな知見を導き出す。

38

謝辞

•解析ソフトの利用に際し、北海道大学の久保拓弥博士が公開しているR2WBwrapper.Rを併用しました。

•地図の県境データについては「国土数値情報 (行政区域データ) 国土交通省」を使用して作成しました。

39

本発表は

大気環境学会誌第50巻第2号(2015)

<ベイズ統計を用いたPM2.5常時監視データの解析>

および

環境科学調査センター年報第3号(2014)

<空間統計学を用いた常時監視データ解析>

を基としております。

論文はインターネット等で入手できます。さらに詳細な検討方法やデータなどについては、そちらをご覧ください。

40