米国の利上げ先送りと金融市場 · 2019. 1. 16. ·...

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当資料は情報の提供を目的としており、当資料による何らかの行動を勧誘するものではありません。当資料は信頼できると思われる情報に基づいて 作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。ここに示された意見などは、当資料作成日現在の当社調査部の 見解であり、事前の連絡無しに変更される事もあります。投資に関する決定は、お客様御自身の判断でなさるようにお願いいたします。 投資環境レポート Vol.209 2015.10 1 Vol.209 Vol.209 2015 2015 10 10 米国の利上げ 先送りと金融市場 米国の利上げ 先送りと金融市場 (注) MSCI新興国株価指数は米ドルベース、為替相場は対米ドルでの騰落率。 (出所) Bloombergデータより野村アセットマネジメント作成 ○2015年9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、世界情勢や金融情勢が米国経 済に与える影響を見極めるため、利上げ開始を回避した。 ○現状で米国経済は底堅い成長過程にあると見られるが、特に中国経済の減速懸念 が強い中、先行きの米国経済が受ける影響度合いが警戒されたようだ。 ○利上げ先送りを受けても金融市場はリスク選好的にはならなかった。世界経済や米 国の利上げ時期を巡る不透明感が残る限り、不安定な状況が続く可能性がある。 ○目先の焦点である米国の利上げ開始時期だが、経済や市場のダウンサイドリスク の具現化に注意しつつも、大勢のFOMC参加者が想定する2015年内の決定を見込 むべきだろう。 -60 -50 -40 -30 -20 -10 0 10 S & P 5 0 0 D A X M S C I 年初来高値から9月17日までの変化 9月17日から9月30日までの変化 (%) 図1 主要な株価指数と為替相場の変動

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当資料は情報の提供を目的としており、当資料による何らかの行動を勧誘するものではありません。当資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。ここに示された意見などは、当資料作成日現在の当社調査部の見解であり、事前の連絡無しに変更される事もあります。投資に関する決定は、お客様御自身の判断でなさるようにお願いいたします。

投資環境レポート Vol.209 2015.10 1

Vol.209 Vol.209

2015 2015

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米国の利上げ先送りと金融市場 米国の利上げ先送りと金融市場

(注) MSCI新興国株価指数は米ドルベース、為替相場は対米ドルでの騰落率。 (出所) Bloombergデータより野村アセットマネジメント作成

○2015年9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、世界情勢や金融情勢が米国経

済に与える影響を見極めるため、利上げ開始を回避した。

○現状で米国経済は底堅い成長過程にあると見られるが、特に中国経済の減速懸念が強い中、先行きの米国経済が受ける影響度合いが警戒されたようだ。

○利上げ先送りを受けても金融市場はリスク選好的にはならなかった。世界経済や米国の利上げ時期を巡る不透明感が残る限り、不安定な状況が続く可能性がある。

○目先の焦点である米国の利上げ開始時期だが、経済や市場のダウンサイドリスクの具現化に注意しつつも、大勢のFOMC参加者が想定する2015年内の決定を見込むべきだろう。

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日経平均株価指数

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非農業部門雇用者数(左軸)非農業部門雇用者数(6ヵ月移動平均)(左軸)失業率(右軸)

(前月差、万人) (%)

(年)

米国の利上げ先送りと金融市場米国の利上げ先送りと金融市場投資の視点

図2 米国の失業率と非農業部門雇用者数 図3 世界の名目GDPに占める新興国・地域の割合

当資料は情報の提供を目的としており、当資料による何らかの行動を勧誘するものではありません。当資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。ここに示された意見などは、当資料作成日現在の当社調査部の見解であり、事前の連絡無しに変更される事もあります。投資に関する決定は、お客様御自身の判断でなさるようにお願いいたします。

投資環境レポート Vol.209 2015.10 2

(出所) CEICデータより野村アセットマネジメント作成

(注) IMF推計値・予測値を含む。 (出所) IMFデータより野村アセットマネジメント作成

●FRBは利上げ先送りを決定 9月17日、米連邦準備制度理事会(FRB)は金融政策の

維持を決定し、利上げを先送りした。

今回の米連邦公開市場委員会(FOMC)は、米国の景気回復によって労働市場の改善が進み、「最大限の雇用と物価の安定」というFRBの「二つの使命」のうち、前者の達成が見えてきた中で開催され、金融市場は利上げが決断されるか否か注目していた。

8月以降、金融市場では、FRBが利上げを決断できるのか懐疑的に見る向きが増えていた。一つには、中国での株式市場の混乱や人民元の基準値切り下げをきっかけに世界的な株価下落が生じたことがある。さらに、米国のインフレ率が低位に留まっていることもある。足元のインフレ率はFRBの目標の2%を下回り、インフレ期待も抑制されている。また、米ドル高と株価の調整によって米国の金融環境の引き締まりも生じている。FRBが利上げに踏み切る以前に金融市場は金融引き締めを織り込み、それが実際の利上げの必要性を後退させた形となった。このような点から、金融市場はFRBが利上げを急ぐ必要性は後退したと見たようだ。

FRBは、FOMC後の声明で「経済活動は緩やかなペースで拡大している」との認識を示し、国内需要や労働市場については前向きな評価を維持した。ただし、インフレ率は目標を下回り続けているとし、「世界経済や金融情勢が米国の経済活動をやや抑制し、短期的にインフレに一層の下押し圧力をかける可能性が高い」とした。つまり、FRBの利上げ先送りの主因は国外情勢のようだ。

●先送りの背景となった国外情勢 FRBは利上げの是非を判断する上で、国内情勢を重視

すると見られており、今回の利上げ先送りの背景に国外情勢を挙げたことは注目される。

米国経済に関しては、底堅い成長を続けている、というFRBの評価は損なわれていない。イエレン議長が「利上げをこなせるだけでなく、利上げを必要とする状況にある」と述べた7月中旬以降に発表された経済指標も堅調だ。実際、4-6月期に実質国内総生産(GDP)は前期比年率+3.7%となり(FOMC後の9月25日の確報で同+3.9%に再度上方修正されている)、1-3月期の悪天候や西海岸港湾ストなどの一時的要因による成長鈍化からの戻りが確認された。また、雇用統計ではインフレ率の上昇期待につながる賃金上昇率の明確な加速こそ確認できていないものの、8月の失業率は5.1%となり、FOMC参加者が長期均衡水準と見る5.0-5.2%(2015年6月時点)のレンジ内へと低下していた。雇用増加のモメンタム鈍化の兆しはあるものの、平均的には月間20万人程度の増加が続いており、労働市場は堅調な改善を続けていると言えよう(図2参照)。

一方、FRBが懸念した国外情勢は、特に中国をはじめとする新興国・地域経済情勢だ。イエレン議長は、中国やその他新興国・地域経済の成長に関する懸念の高まりが金融市場のボラティリティ上昇に繋がったとの認識を示し、中国経済が予期したよりも急激に減速するリスクに言及した。実際、中国の財新製造業購買担当者景気指数(PMI)は景況感の改善と悪化の境界となる50を9月まで7ヵ月連続で下回っている。

米国は輸出依存度が相対的に低いこともあって、中国向け輸出額がGDPに占める割合は0.7%程度に留まっている。そのため、中国経済減速の貿易を通じた直接的な影響は限定的だろう。しかし、中国を含む新興国・地域の世界経済における存在感が増していることも事実だ(図3

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図4 中国・米国の製造業景況感指数 図5 FOMC参加者の政策金利見通し(2016年末)

(注) 中国は財新製造業PMI、米国はISM製造業景況感指数を表示(出所) Markit、CEICデータより野村アセットマネジメント作成

(出所) FRB資料より野村アセットマネジメント作成

当資料は情報の提供を目的としており、当資料による何らかの行動を勧誘するものではありません。当資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。ここに示された意見などは、当資料作成日現在の当社調査部の見解であり、事前の連絡無しに変更される事もあります。投資に関する決定は、お客様御自身の判断でなさるようにお願いいたします。

投資環境レポート Vol.209 2015.10 3

参照)。これに伴い、米国経済は新興国・地域の動向に、より影響を受けるようになってきた可能性はある。例えば、中国経済の減速懸念が資源価格の低迷と資源国経済の成長鈍化につながれば、影響は増幅されて米国にも波及するだろう。また、世界経済の減速懸念は米国の景況感の悪化を通じて消費・投資行動を抑制していく可能性もあろう。事実、米国のサプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数は、世界経済への懸念や米ドル高などもあって低下傾向にある(図4参照)。

FRBの利上げ先送りの真意はここにあるだろう。すなわち、中国を始めとする新興国・地域経済の成長減速や金融市場動向が米国経済に与える影響が不透明であることを警戒し、利上げを決断する前に見極めが必要と判断した模様だ。

●FOMC後も払拭されなかった不透明感 FRBの利上げ先送り決定を受けた金融市場の反応は、

必ずしもこれを好感するものではなかった。市場参加者の一部では、米国の利上げが先送りされれば、流動性相場が継続するという期待からリスク選好姿勢が強まり、株高・新興国通貨高が生じるという期待もあった。しかし、実際には、金融市場はFOMC後に米国の金融政策に対する不確実性が高まったと捉えたようだ。金融市場は安定を取り戻しきれず、主要な株価指数は9月末にかけて概ね下落し、新興国通貨も対米ドルでさらに下落した(図1参照)。

こうした金融市場の反応は、8月以降の金融市場のボラティリティ上昇の要因が、必ずしもイエレン議長が強調した新興国・地域の懸念だけではなく、FRBの利上げを巡る不透明感そのものにもあった可能性を示唆している。FRBの利上げ先送りは、現状のような不安定な金融市場環境が当面続きやすくなる可能性を高めたとも言えよう。

●今後の金融政策見通し 先行きの金融市場動向を占う上で、目先の焦点はやは

り米国の利上げが年内に行われるのかどうか、という点になろう。年内の利上げ開始はFOMC参加者のコンセンサスとされ続けてきた。実際、FOMC参加者の多くは依然として2015年内の利上げ開始が適切であるという見方を変更していない。

年内には10月、12月にFOMCが開催される。イエレン議長は議長会見が予定されていない10月27-28日のFOMCで利上げを選択する可能性について排除しなかったが、今回FRBが利上げを先送りした要因となった国外情勢の米国への影響を判断するためには1ヵ月余りの期間は短すぎるだろう。従って、米国経済が緩やかな成長を続け、金融市場がある程度安定しているという条件付きながら、12月15-16日のFOMCで8年以上にわたった金融緩和局面が転換点を迎える可能性が高いと見られる。仮に明確な理由がなく利上げが来年以降へ先送りされるとすれば、中央銀行の信頼性が損なわれかねない。この見方を覆すほどの経済や市場のダウンサイドリスクが具現化するか否かに注意しつつ、年内利上げ開始を見込んでおくべきであろう。

利上げ開始時期の後ろ倒しもあって、FOMC参加者の2016年末の政策金利見通しは徐々に低下してきている。そして、利上げペースは概ね四半期に0.25%ポイント程度の緩やかなものが想定されている(図5参照)。米国が利上げを開始したとしても、利上げペースが緩慢であれば、金融引き締めによる米国経済の急減速は回避されよう。これが実現されていくのならば、利上げを巡る不透明感は払拭され、金融市場の安定化がもたらされる可能性がある。

胡桃澤 瑠美(経済調査部)

円 ユーロ

為替レート(対米ドル動向)

円 ユーロ

(出所) Bloombergデータより野村アセットマネジメント作成 (出所) Bloombergデータより野村アセットマネジメント作成

当資料は情報の提供を目的としており、当資料による何らかの行動を勧誘するものではありません。当資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。ここに示された意見などは、当資料作成日現在の当社調査部の見解であり、事前の連絡無しに変更される事もあります。投資に関する決定は、お客様御自身の判断でなさるようにお願いいたします。

投資環境レポート Vol.209 2015.10 4

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対円(左軸)

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(年/月)

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2015年9月末の対米ドルの円相場は1米ドル=

119.9円となり、8月末の121.2円に対して1.1%の円

高となった。上旬に118円台まで円高となった後は

概ね120円台で推移したが月末に円高が進んだ。

金融市場のリスク選好姿勢や米国の金融政策

が円相場の主な変動要因となった。上旬には、米

国の製造業景況感指数や雇用統計が利上げを後

押しする内容ではなかったことで円高となったが、

中国財政省がインフラ支出や税制改革の加速を

発表すると、金融市場のリスク回避姿勢は後退し、

円は反落した。16-17日の米連邦公開市場委員会

(FOMC)で中国などの新興国経済の減速や金融

環境の引き締まりが米国経済に与える影響を確

認するとして利上げが先送りされると、円高が進

む局面もあった。その後、イエレン連邦準備制度

理事会(FRB)議長を含むFOMC参加者が年内の

利上げ開始を支持する発言をしたことなどから、

円高基調は続かなかった。ただし、月末に金融市

場のリスク回避姿勢が強まると円が選好された。

今後の円相場を見る上では、引き続き日米の金

融政策スタンスが重要だ。FOMC参加者の政策金

利見通しによれば、米国の利上げは年内に始まる

可能性が高い。ただし、利上げが緩やかなペースに

留まれば、米国の利上げ開始後に為替相場に大き

な影響を与えるのは日本銀行の金融政策となろう。

2015年9月末の対米ドルのユーロ相場は、1ユ

ーロ=1.118米ドルとなり、8月末の1.121米ドルに

対して0.3%のユーロ安となった。月半ばにかけて

ユーロ高が進み、一時1.14米ドル台に至ったが、

その後はユーロ安となった。なお、対円では、米ド

ル安(円高)の影響もあり、1ユーロ=135.9円から

134.0円へ1.4%のユーロ安となった。

欧米の金融政策や当局者発言などがユーロ相

場の主な変動要因となった。9月3日の欧州中央

銀行(ECB)理事会で、ECBはスタッフによるインフ

レ見通しを引き下げ、資産購入プログラムにおけ

る銘柄ごとの買入枠の上限を引き上げた。また、

理事会後の声明では、資産購入を必要であれば

2016年9月以降も続ける方針を強調し、これによっ

て一時ユーロ安が進んだ。しかし、米国の利上げ

先送り観測が高まり、実際にそれが決定されると

ユーロは1.14米ドル台半ばまで上昇した。その後、

FOMC参加者の発言や独大手自動車会社の排ガ

ス不正問題への懸念の高まりなどから、ユーロは

下落に転じた。

今後のユーロ相場を見る上で、米欧の景気や

金融政策スタンスが重要となろう。また、年内にス

ペイン総選挙の実施が見込まれる中、ユーロ圏の

政治リスクはくすぶり続ける可能性があり、注意し

たい。

豪ドル

ブラジル・レアル

豪ドル ブラジル・レアル

(出所) Bloombergデータより野村アセットマネジメント作成 (出所) Bloombergデータより野村アセットマネジメント作成

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投資環境レポート Vol.209 2015.10 5

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対円(左軸)

対米ドル(右軸)

(年/月)

(円/レアル) (レアル/米ドル)

2015年9月末の対米ドルの豪ドル相場は、1豪ド

ル=0.70米ドルとなり、8月末の0.71米ドルに対し

て1.3%の豪ドル安となった。豪ドルは下落基調で

推移した後、上昇に転じたものの、月末にかけて

再度下落した。なお、対円では、米ドル安(円高)

の影響もあり、1豪ドル=86.2円から84.1円へ2.5%

の豪ドル安となった。

月初は、豪州の4-6月期の国内総生産(GDP)成

長率や7月の小売売上高が市場予想を下回ったこ

とを受け、豪ドルは軟調に推移した。その後は、上

昇に転じる場面もあったものの、中国の9月の財新

製造業購買担当者景気指数(PMI)速報値が軟調

な結果となったことや、独大手自動車会社の排ガ

ス不正問題を受け金融市場のリスク回避姿勢が

高まったことなどから、豪ドルは再度下落した。

今後の豪ドル相場を見る上では、引き続き米国

の金融政策が注目される。FRBが9月の利上げを

見送ったことで、金融市場では米国の利上げ時期

を巡る不透明感が残り、豪ドルはこうした金融市

場の思惑に左右されやすい展開となることが見込

まれる。また、豪州の主要貿易相手先である中国

の経済指標が弱含みを続けていることに対しても

金融市場は警戒感を強めており、こうした動向も

豪ドル相場を左右するだろう。

2015年9月末の対米ドルのレアル相場は、1米ド

ル=3.95レアルとなり、8月末の3.62レアルに対し

て9.0%のレアル安となった。レアルは月間を通じ

て総じて下落基調で推移した。なお、対円では、米

ドル安(円高)の影響もあり、1レアル=33.5円から

30.4円へ9.2%のレアル安となった。

月初は、欧米株式が下落するなど世界的に金

融市場のリスク回避姿勢が高まったことを受け、レ

アルは軟調に推移した。その後も、9月9日に大手

格付機関の一つが、ブラジルの格付を引き下げ、

外貨建て長期債務格付を投機的としたことや、格

下げ後にルセフ大統領が発表した財政緊縮策を

巡り議会との協議が難航していることが嫌気され、

レアルは下落を続けた。

今後のレアル相場を見る上での注目点はブラ

ジルの政治動向だ。今回の格下げを受け、ルセフ

大統領は財政再建を強化する方針を示している。

しかし、国営石油会社を巡る汚職疑惑や財政緊縮

による景気の悪化を受け、政権の支持率は低下

を続けており、野党が大統領の弾劾要求を議会に

提出するなど、大統領の辞任を求める声が強まっ

ている。現在のところ野党は弾劾手続きを進める

だけの議席を有していないとされるものの、仮に

大統領の弾劾手続きが開始されれば、政治的不

透明感がレアル相場の重石となる恐れがある。

メキシコ・ペソ トルコ・リラ

為替レート(対米ドル動向)

メキシコ・ペソ トルコ・リラ

(出所) Bloombergデータより野村アセットマネジメント作成 (出所) Bloombergデータより野村アセットマネジメント作成

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投資環境レポート Vol.209 2015.10 6

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対米ドル(右軸)

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対円(左軸)

対米ドル(右軸)

(年/月)

(円/リラ) (リラ/米ドル)

2015年9月末の対米ドルのペソ相場は、1米ドル

=16.91ペソとなり、8月末の16.75ペソに対して

1.0%のペソ安となった。ペソは月半ばにかけて上

昇基調で推移したものの、その後下落した。なお、

対円では、米ドル安(円高)の影響もあり、1ペソ=

7.2円から7.1円へ2.1%のペソ安となった。

月初は、ペソは方向感に欠ける動きが続いたも

のの、その後商品市況に下げ止まりの動きが見ら

れたことが好感され、ペソは上昇した。しかし、月

末にかけては、独大手自動車会社の排ガス不正

問題をきっかけに欧米株式が下落するなど、金融

市場のリスク回避姿勢が高まったことを受け、ペソ

は下落に転じた。

今後のペソ相場を見る上では、メキシコの金融

政策の動向が重要となろう。メキシコ中央銀行は、

9月21日の金融政策決定会合で政策金利を据え

置いた。メキシコと経済的つながりが強い米国の

景気回復にもかかわらず、原油価格の低迷による

原油生産の減少の影響もあって、メキシコの景気

回復には遅れが目立っている。こうした中、中銀

は、足元のペソの下落がインフレ率の上昇につな

がる場合には利上げに踏み切ることを示唆するな

ど、タカ派的な姿勢を留保している。国内景気が

低迷を続ける中、足元のペソ安を受けて、中銀が

利上げに踏み切るか否かが注目される。

2015年9月末の対米ドルのリラ相場は、1米ドル

=3.03リラとなり、8月末の2.91リラに対して3.8%の

リラ安となった。リラは、月間を通じて総じて下落

基調で推移した。なお、対円では、米ドル安(円

高)の影響もあり、1リラ=41.6円から39.6円へ

4.7%のリラ安となった。

月半ばにかけては、8月の消費者物価インフレ

率が市場予想を上回ったことや、国内の武装組織

によるテロ事件を受け地政学的リスクが嫌気され

たことを受けて、リラは下落基調で推移した。その

後は、リラが一時的に反発する場面も見られたも

のの、9月22日に政策金利を据え置いたトルコ中

央銀行の声明が、利上げに消極的だと金融市場

で受け止められたこともあって、リラは軟調な推移

が続いた。

今後のリラ相場を見る上では、米国の金融政策

と国内の政治動向が重要となろう。インフレ率が

高止まりしていることに加え、他の主要新興国に

比べて経常赤字の規模も大きいことから、トルコ

経済は外部環境の変化に脆弱だ。米国の利上げ

時期を巡る金融市場の思惑の変化がリラ相場を

左右する可能性がある。また、11月の総選挙で与

党が単独過半数を獲得できるかは不透明だ。政

治的混乱が金融市場で意識される場合、リラには

追加的な下落圧力がかかる可能性がある。

データ・グラフ集

当資料は情報の提供を目的としており、当資料による何らかの行動を勧誘するものではありません。当資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。ここに示された意見などは、当資料作成日現在の当社調査部の見解であり、事前の連絡無しに変更される事もあります。投資に関する決定は、お客様御自身の判断でなさるようにお願いいたします。

投資環境レポート Vol.209 2015.10 7

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2013/9 2014/3 2014/9 2015/3 2015/9

TOPIX(左軸)S&P500(左軸)MSCI新興国(米ドルベース、左軸)DAX(右軸)

(ポイント) (ポイント)

(年/月)

0.0

0.5

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日本米国ドイツ

(%)

(年/月)

0.8

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円/米ドル(左軸)

円/ユーロ(左軸)

米ドル/ユーロ(右軸)

(円/米ドル)

(円/ユーロ)(米ドル/ユーロ)

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ロイター/ジェフリーズCRB商品価格指数S&P先進国リート指数JPモルガン新興国債券指数

(ポイント)

(年/月)

金融市場の動き

<変化率、%> <変化率、%> ■株価指数 1ヵ月 3ヵ月 6ヵ月 1年 ■為替相場 1ヵ月 3ヵ月 6ヵ月 1年 日経平均(日本) -8.0 -14.1 -9.5 7.5 円/米ドル -1.1 -2.1 -0.2 9.3 TOPIX(日本) -8.2 -13.4 -8.6 6.4 円/ユーロ -1.4 -1.9 3.9 -3.3 日経ジャスダック平均(日本) -4.9 -9.6 -0.1 5.7 米ドル/ユーロ -0.3 0.3 4.2 -11.5 NYダウ工業株(米国) -1.5 -7.6 -8.4 -4.4 円/英ポンド -2.5 -5.8 1.9 2.0 S&P500(米国) -2.6 -6.9 -7.2 -2.6 円/豪ドル -2.5 -10.9 -7.9 -12.3 NASDAQ(米国) -3.3 -7.4 -5.7 2.8 円/カナダ・ドル -2.4 -8.2 -4.9 -8.0 FTSE100種(英国) -3.0 -7.0 -10.5 -8.5 円/ブラジル・レアル -9.2 -23.1 -19.2 -32.2 DAX(ドイツ) -5.8 -11.7 -19.3 2.0 円/トルコ・リラ -4.7 -13.3 -14.3 -17.7 ハンセン指数(香港) -3.8 -20.6 -16.3 -9.1 円/南アフリカ・ランド -5.2 -14.0 -12.6 -10.9 上海総合(中国) -4.8 -28.6 -18.5 29.1 (注) マイナスは円高方向に動いたことを示す

(米ドル/ユーロの場合は米ドル高)

S&P/BSE SENSEX(インド) -0.5 -5.9 -6.4 -1.8 MSCI新興国(米ドルベース) -3.3 -18.5 -18.7 -21.2 <%> ■債券利回り 8月末 9月末 前月差

<変化率、%> 日本10年国債 0.380 0.356 -0.024 ■商品・リート・債券 1ヵ月 3ヵ月 6ヵ月 1年 米国10年国債 2.218 2.037 -0.181 ロイター/ジェフリーズCRB商品価格指数 -4.1 -14.7 -8.5 -30.4 ドイツ10年国債 0.798 0.587 -0.211 東証リート指数 2.6 -7.0 -10.0 0.4 S&P先進国リート指数 1.8 -1.0 -9.6 1.7 米国ハイイールド債券指数 -2.8 -5.0 -5.0 -3.6 JPモルガン新興国債券指数 -1.9 -2.6 -2.8 -2.5

記載されている市場データは野村アセットマネジメントのホームページでご覧になれます(一部掲載されていない場合があります)。

(注) 変化率は2015年9月末を基準として算出している。 (出所) Bloombergデータより野村アセットマネジメント作成

株価指数

為替

10年国債利回り

商品・リート・新興国債券

商 号:野村アセットマネジメント株式会社

金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第373号

加入協会:一般社団法人投資信託協会/一般社団法人日本投資顧問業協会

www.nomura-am.co.jp/

経済カレンダー 2015年10月18日~2015年11月14日

当資料は情報の提供を目的としており、当資料による何らかの行動を勧誘するものではありません。当資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。ここに示された意見などは、当資料作成日現在の当社調査部の見解であり、事前の連絡無しに変更される事もあります。投資に関する決定は、お客様御自身の判断でなさるようにお願いいたします。

投資環境レポート Vol.209 2015.10 8

SUN MON TUE WED THU FRI SAT

10/18 19 20 21 22 23 24

(中)7-9月期GDP (米)9月住宅着工件数 (日)9月貿易収支

(トルコ)金融政策発表

(ブラジル)金融政策発表

(米)9月中古住宅販売件数

(米)9月景気先行指数

(ユーロ圏)金融政策発表

(ブラジル)9月経常収支

25 26 27 28 29 30 31 (米)9月新築住宅販売件数

(独)10月Ifo景況感指数

(米)9月耐久財受注

(米)8月S&Pケース・シラー住宅価格指数

(米)10月コンファレンスボード消費者信頼感指数

(米)金融政策発表

(豪)7-9月期消費者物価指数

(日)9月鉱工業生産指数

(米)7-9月期GDP(速報値)

(メキシコ)金融政策発表

(日)金融政策発表

(日)9月失業率

(日)9月有効求人倍率

(日)9月家計調査

(日)9月消費者物価指数

(日)9月新設住宅着工戸数

(米)9月個人消費支出

(ユーロ圏)9月失業率

(ユーロ圏)10月消費者物価指数

11/1 2 3 4 5 6 7 (中)10月製造業PMI(購買担当者景気指数)

(米)10月ISM製造業景況感指数

(米)9月製造業受注

(豪)金融政策発表

(ブラジル)10月貿易収支

(米)10月ADP雇用統計

(米)9月貿易収支

(米)10月ISM非製造業景況感指数

(英)金融政策発表 (米)10月雇用統計

(独)9月鉱工業生産指数

(ブラジル)10月消費者物価指数(IPCA)

8 9 10 11 12 13 14(中)10月貿易収支

(日)9月経常収支

(日)10月景気ウォッチャー調査

(中)10月消費者物価指数

(中)10月生産者物価指数

(中)10月マネーサプライ(11/10~15)

(日)10月マネーストック (日)10月国内企業物価指数

(日)9月機械受注

(米)10月生産者物価指数

(米)11月ミシガン大学消費者信頼感指数

(ユーロ圏)7-9月期GDP

(出所) Bloombergデータより野村アセットマネジメント作成 ※経済カレンダーは作成時点で利用可能な最新の情報を用いておりますが、経済指標等の発表日は変更される可能性があります。

日本・米国・欧州経済指標 <年間> <月次>

2012年 2013年 2014年2014年 2015年

10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月

日本

日銀短観(大企業製造業)(ポイント) -12 16 12 - - 12 - - 12 - - 15 - - 12

実質GDP成長率(前期比年率、%) 1.7 1.6 -0.1 - - 1.3 - - 4.5 - - -1.2 - - -

消費者物価指数(前年同月比、%) 0.0 0.4 2.7 2.9 2.4 2.4 2.4 2.2 2.3 0.6 0.5 0.4 0.2 0.2 -

完全失業率(%) 4.3 3.7 3.4 3.5 3.5 3.4 3.6 3.5 3.4 3.3 3.3 3.4 3.3 3.4 -

米国

実質GDP成長率(前期比年率、%) 2.2 1.5 2.4 - - 2.1 - - 0.6 - - 3.9 - - -

消費者物価指数(前年同月比、%) 2.1 1.5 1.6 1.7 1.3 0.8 -0.1 0.0 -0.1 -0.2 0.0 0.1 0.2 0.2 -

失業率(%) 7.9 6.7 5.6 5.7 5.8 5.6 5.7 5.5 5.5 5.4 5.5 5.3 5.3 5.1 -

欧州

実質GDP成長率(前期比、%) -0.9 -0.4 0.8 - - 0.4 - - 0.5 - - 0.4 - - -

消費者物価指数(前年同月比、%) 2.5 1.4 0.4 0.4 0.3 -0.2 -0.6 -0.3 -0.1 0.0 0.3 0.2 0.2 0.1 -0.1

失業率(%) 11.9 11.9 11.4 11.5 11.5 11.4 11.3 11.2 11.2 11.1 11.1 11.1 11.0 11.0 - (注) 欧州はユーロ圏。年間の値について、消費者物価指数は平均値、日銀短観、失業率は期末値。月次の値について、日銀短観、GDPは四半期。 (出所) 日本銀行等、当局データより野村アセットマネジメント作成 ※投資環境レポートでは作成時点で利用可能な最新の経済指標を用いておりますが、経済指標等は発表後に訂正や改定が行われることがあります。