直流き電回路における保護線を用いた高抵抗地絡検出手法 森本大...

7
直流き電回路における保護線を用いた高抵抗地絡検出手法 森本大観,重枝秀紀,赤木雅陽,森田岳,柴田直樹,吉井剣 (5) 著作権の関係でこの論文は印刷出来ません。 (注)この論文は、下記の出典とほぼ同じ内容を含んでおり、著作権の関係上、電気学会 の許諾を得て電子版に掲載しているため、閲覧のみ可能となっております。 <参 考> ○論文名:保護線を用いた直流き電回路高抵抗地絡検出システム ○著者名:森本大観、柴田直樹、吉井剣、植松正次、林屋均 ○文献名:一般財団法人電気学会 「平成 26 年産業応用部門講演論文集」(H268○ページ:V-145V-150

Upload: others

Post on 10-Oct-2019

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 直流き電回路における保護線を用いた高抵抗地絡検出手法 森本大 …bunken.rtri.or.jp/PDF/cdroms1/0001/2014/0001003859.pdf · 図3の等価回路を図4に示す。地絡箇所の支持物(以下,

直流き電回路における保護線を用いた高抵抗地絡検出手法

森本大観,重枝秀紀,赤木雅陽,森田岳,柴田直樹,吉井剣 (5)

著作権の関係でこの論文は印刷出来ません。

(注)この論文は、下記の出典とほぼ同じ内容を含んでおり、著作権の関係上、電気学会

の許諾を得て電子版に掲載しているため、閲覧のみ可能となっております。

<参 考>

○論文名:保護線を用いた直流き電回路高抵抗地絡検出システム

○著者名:森本大観、柴田直樹、吉井剣、植松正次、林屋均

○文献名:一般財団法人電気学会 「平成 26 年産業応用部門講演論文集」(H26.8)

○ページ:V-145~V-150

Page 2: 直流き電回路における保護線を用いた高抵抗地絡検出手法 森本大 …bunken.rtri.or.jp/PDF/cdroms1/0001/2014/0001003859.pdf · 図3の等価回路を図4に示す。地絡箇所の支持物(以下,

RTRI REPORT Vol. 28, No. 10, Oct. 2014 5

特集:電力技術

直流き電回路における保護線を用いた高抵抗地絡検出手法

森本 大観*  重枝 秀紀*  赤木 雅陽*

森田  岳*  柴田 直樹*  吉井  剣*

High-resistance Ground Fault Detection Method for DC Feeding System using Protective Wire

Hiroaki MORIMOTO  Hidenori SHIGEEDA  Masataka AKAGI

Gaku MORITA  Naoki SHIBATA  Tsurugi YOSHII

 Ground faults to fixed structures with relatively high ground resistance have been unresolved troubles in DC feeding systems. It is difficult to detect such faults because of the feebleness of the fault current, and they some-times break overhead contact lines, feeder wires or masts in case the fault current continues during several sec-onds. We contrived a new detection system for ground fault using a protective wire and ‘PW devices.’ This pa-per shows the system outline and the results of several indoor and on-site experiments on the proposed system. キーワード:地絡,接地抵抗,保護線,酸化亜鉛バリスタ,ダイオード

* 電力技術研究部 き電研究室

1.はじめに

 直流電気鉄道において,き電回路の正極側充電部であ

る電車線が何らかの理由で大地上の構造物に地絡し,そ

の地絡電流値が電車・電気機関車の通常走行に必要な電

流より小さい場合,これを高抵抗地絡と呼んでいる1)。

その原因は,カラスの営巣による針金ハンガー投下や遊

園地のアルミ風船等の導電性飛来物,踏切支障等での電

車線切断垂下,鳥獣・樹木接触などが挙げられるが,最

近では雷害に起因する高抵抗地絡事例2)も散見されて

いる。

 直流き電回路の故障計算で通常想定される金属短絡

(車両故障や,断線垂下した電車線のレールへの直接接

触)と比較して,地絡では構造物の接地抵抗とレール漏

れ抵抗が電流経路に介在するため故障電流が小さくな

り,直流き電用変電所の標準的な保護継電要素であるき

電用故障選択装置(50F)や,き電用直流高速度遮断器

(54F)の自動引き外し機構が動作しないことが多い。こ

のため,故障状態を除去できないまま通電が長時間継続

する場合が多く,その結果として設備の焼損,電車線の

断線,支持物の損傷などの事故に波及することがある。

 高抵抗地絡の保護手段として,放電装置を用いてレー

ルへの金属短絡に移行させて変電所の 50F・54F を動作

させるものがある3)4)。しかし,大電流の短絡電流経路

を全線にわたって敷設することは費用的に難しく,実用

化は現時点で本四連絡橋と車両基地構内等に留まってい

る。一方,本線への適用を指向して,地絡時の支持物電位

上昇を細い保護線で伝達する形態(電圧検出式)も概念

提案されている5)が,実用化開発には至っていなかった。

 前記の雷害による地絡の対策として,鉄道総研では以

前に,雷撃によるがいしせん絡を検出して変電所の遮断

器を開放する雷撃保護線方式6)を検討していた。これ

は電圧検出式の一派生形態である。しかし,現地試験の

結果,大気中放電間隙を用いる雷撃保護線方式は,支持

物電位上昇の伝達経路たる放電間隙のアークが消弧し易

く,故障検出の信頼度を確保できないことが判明した7)。

 そこで今回,地絡検出の信頼度向上と,雷害のみなら

ず導電性物体による一般的地絡の検出も可能とする汎用

化を図った高抵抗地絡検出システムを考案し,基礎実験並

びに現地試験によって良好な結果を得たので,報告する8)。

2.高抵抗地絡時の電圧・電流分布

 地絡時の支持物電位上昇に着目した高抵抗地絡検出シ

ステムの汎用化に先立ち,直流き電回路に地絡故障が生

じたときの電圧・電流分布を求めるためシミュレーショ

ンを行った。計算モデルを図 1 に,設定条件を表 1 にそ

れぞれ示す。表 1 のうちレール漏れ抵抗については,対

地絶縁が比較的良い軌道構造の線区を想定している。故

障点位置は区間中央とした。

特 集 論 文

Page 3: 直流き電回路における保護線を用いた高抵抗地絡検出手法 森本大 …bunken.rtri.or.jp/PDF/cdroms1/0001/2014/0001003859.pdf · 図3の等価回路を図4に示す。地絡箇所の支持物(以下,

6 RTRI REPORT Vol. 28, No. 10, Oct. 2014

特集:電力技術

 地絡点の支持物の接地抵抗 RFM は,電化柱がコンク

リート柱の場合,柱の基礎根入れ部に自然に生じる接地

抵抗であり十数 W以上となることが多いが,鉄柱・鋼

管柱で鉄筋接地方式9)が用いられる場合は 1W未満にも

なり得る。

 RFM を 0.1 ~ 10W の間で変化させたときの各部の電

位,電流をシミュレーションで求めた結果を図 2 に示

す。変電所の回線電流 IA, IB(図 1 の設定では IA=IB)は

2000A を下回っており,50F の整定値が 2000A 以上で

あると 50F による地絡検出はできない。また,RFM が

0.33 Ω以上であると変電所帰線電位 VNA(図 1 の設定で

は VNA=VNB)が- 500V に達しないため,直流高圧接地

継電器(64P)も動作せず,現状標準の直流き電用変電

所保護継電システムにおける保護要素は皆無となるが,

IA, IBは数百A程度であり,電線の断線は十分起こり得る。

なお,これらの数値は設定条件によって変化し,特にレー

ル漏れ抵抗 ρr ないしレール特性抵抗 R∞(軌道と大地を

半無限長分布定数回路と考えたときの等価接地抵抗)に

強く影響される。

 ここで,図 2 において地絡点支持物の対地電位 VFM 並

びに地絡点き電線電位 VFF は,支持物の接地抵抗 RFM に

強く影響されている。RFM が 1 Ω程度以上あれば数百 V以上の対地電位上昇が生じるが,RFMが小さくなるに従っ

て対地電位上昇は小さくなり,その分だけ VNA, VNB が負

方向へ移動する。一方,支持物と変電所帰線(レールと

整流器負極の節点)の間の電圧 VFM - VNA は RFM による

変化が少ない。このため,支持物の電位上昇を保護線で

変電所に伝えて高抵抗地絡を検出するシステムを構成す

るにあたり,鉄筋接地方式の支持物にも適合させるため

には,保護線と変電所帰線の間の電圧を監視するのが相

応しいといえる。

3.検討対象の直流高抵抗地絡検出システム

 本稿で検討対象とする直流き電回路用の高抵抗地絡検

出システムを図 3 に示す。変電所間の全長に保護線を新

設し,支持物への地絡時に支持物の対地電位上昇を「保

護線用素子」を用いて保護線へ伝達する。区間両端の変

電所において,保護線の引き込み箇所に避雷器(直流変

電所用)を設けて雷サージを制限し,1kW程度の抵抗器

(保護線用抵抗器)を経て帰線へ接続する。そして,保

護線・帰線間の電圧を監視する「保護線電圧継電器」を

設け,これが動作したときに,き電用直流高速度遮断器

を開放するものである。なお,保護線電圧継電器は一般

的な直流過電圧継電器と考えてよい。

 図3の等価回路を図4に示す。地絡箇所の支持物(以下,

地絡柱という)には,き電線の対地電位からアーク電圧

300V(標準値)を減じた対地電位が生じる。また,地

絡故障ではレール特性抵抗を経て地絡電流が整流器負極

に戻るため,変電所の帰線の対地電位は一般に負となる。

この電位差によって保護線用素子が導通し,保護線に電

位を生じさせる。保護線用素子に関してこの電流方向お

よび電圧印加方向を順方向と定義する。一方,隣接柱の

保護線用素子には逆方向の電圧が印加されるが,素子に

逆阻止特性を持たせ,保護線の電位を隣接柱には伝えな

いようにして,地絡柱以外の複数箇所の柱に通電するこ

とによる保護線電位の低下や地絡事故の波及を避ける。

表1 シミュレーションパラメータ

= Rr rρ

項目 記号 数値 備考

支持物の等価接地抵抗 RFM 変数

故障点アーク電圧 Varc 300V 標準値(定数)

整流器規約無負荷直流電圧 Ud0 1620V

等価内部抵抗 R0 0.03W

導体抵抗

電車線 (N/A)0.0237W/km

HAL 510mm2×2,GT 110mm2

レール(単線あたり) Rr0.017W/km

JIS 50Nレールボンド込

レール漏れ抵抗 ρr 50W・km (=0.02S/km)

レール特性抵抗(単線あたり) R∞ 0.922W

図2 シミュレーション結果

図1 直流地絡シミュレーション回路

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

-1000

-500

0

500

1000

1500

2000

0.1 1 10

電流

(A)

電圧

(V)

地絡点の支持物の等価接地抵抗 RFM (Ω)

VFF

VFM

VNA (=VNB)IA (=IB)

VFM − VNA

A変電所0k000m

B変電所4k000m

レール特性抵抗(単線あたり)

故障点2k000m

下り線

上り線

下り線

上り線

RFM : 支持物の等価接地抵抗

Varc : アーク電圧帰線

レール

電車線路

VFM

VFF

VNA VNB

IA IB

Ud0Ud0

R0 R0

R∞R∞R∞R∞

整流器

Page 4: 直流き電回路における保護線を用いた高抵抗地絡検出手法 森本大 …bunken.rtri.or.jp/PDF/cdroms1/0001/2014/0001003859.pdf · 図3の等価回路を図4に示す。地絡箇所の支持物(以下,

RTRI REPORT Vol. 28, No. 10, Oct. 2014 7

特集:電力技術

4.保護線用素子の開発と基礎実験

4. 1 保護線用素子の要求事項

 本研究で検討対象とする図 3 のシステムの成立には,

以下の要件を満たす保護線用素子が必要である。

(1) 地絡があるとき,地絡箇所の保護線用素子は確実に

導通する。

(2) 地絡発生時に保護線用素子を通過する直流電流は,

変電所に設ける保護線用抵抗器によって制限される

ことを前提とする。これにより,素子の直流電流破

壊耐量を製作可能な程度にする。

(3) 電車線電圧が最低値の場合でも,アーク電圧と保護

線用素子の電圧降下を経て保護線に生じる電圧で,

変電所の保護線電圧継電器が動作できる必要がある。

(4) 地絡柱でない箇所の保護線用素子は,保護線に直流

電圧が印加されても導通しない。

(5) 通常の列車運転によって変電所の帰線に生じる直流

電位では,保護線用素子は導通せず,保護線電圧継

電器も動作しない。

(6) 保護線用素子は屋外に設置されるため,耐環境性と,

雷サージ電圧・電流を考慮する必要がある。

(7) 素子は沿線の全長にわたって多数必要となるため,

廉価で入手性の良い汎用部品で構成する。

 これらに基づき,保護線用素子は,図 5 に示す酸化亜

図3 保護線による直流高抵抗地絡検出システム

図5 保護線用素子の基本構成

図4 システムの等価回路

き電用直流高速度遮断器

保護線(PW)

U>電車線路

レール

き電用避雷器

保護線用抵抗器

保護線電圧継電器

保護線用避雷器

支持物

変電所機器接地マット

地絡故障(導電性飛来物,せん絡など)

: 本システムで新設する物

整流器

保護線用素子

がいし

: 電流の流れ

大地(零電位)

保護線(PW)

地絡柱隣接柱

保護線用素子

電車線路変電所

アーク電圧

保護線用素子

順方向電流

逆阻止

U>

Ud0

R0 整流器

レール

レール漏れ抵抗

保護線用抵抗器

保護線電圧継電器

柱の等価接地抵抗

……

……

支持物側

保護線側

バリスタV2ダイオード

D

バリスタV1

順方向

鉛バリスタとダイオードの組み合わせとする。以下では

直流1500Vき電回路における使用部品定格設定例を示す。

 バリスタ V1 は,順方向の導通開始電圧を決定する。

通常列車運行時に変電所帰線の電位は最大± 200V 程

度まで達するため,V1 のバリスタ電圧(動作開始電圧

V1mA)をこれより大きな値として不要な導通を避ける。

一方,電車線電圧が最低値のときに,アーク電圧と保護

線用素子の順方向電圧降下を減じた値が変電所の保護線

電圧継電器の整定値以上となるよう V1 の電圧降下を決

定する。図 4 に示した等価回路において保護線電圧継電

器の整定値を 300V 程度と仮定すると,V1 の通電時電

圧降下は 500V 程度に選ぶのが適切である。V1 は順方

向直流連続通電時に焼損することを許容する。

 ダイオード D は逆方向電圧を阻止するために用いる。

ダイオード D と並列のバリスタ V2 は雷サージなどの

過大な逆電圧からダイオードを保護するためのものであ

る。変電所のシリコン整流器の無負荷電圧(整流器のス

ナバによる無負荷時電圧上昇を含む)が変圧器使用タッ

プによっては 2000V 近くに達する可能性を考慮すると,

V1とV2のV1mA の和は 2000V以上でなければならない。

酸化亜鉛バリスタの汎用製品の電圧区分に基づき,V2の V1mA は 1800V を選定し,V1 の V1mA は製品にもよる

が 240 ~ 470V の範囲から選定することになる。

 ダイオード D の逆耐圧定格はバリスタ V2 に雷サージ

電流が流れた時の制限電圧で決定される。V1mA =1800Vのバリスタの制限電圧は数千 A において 4500V 程度で

あり,これ以上の逆耐圧をもつダイオードが必要である。

電流定格は,保護線用抵抗器の値を保護線片端あたり

1kW以上すなわち両端並列で 500W以上に設定すると,

保護線用素子を通過する直流電流は約 3A となる。した

がって,定格電流 3A 級の一般整流用シリコンダイオー

ドを複数個直列にして必要な逆耐圧を得る。

 バリスタ,ダイオードとも,導通の有無はそのときの

印加電圧のみで決まるため,既報の大気中放電間隙アー

クで見られた不安定性7)を排除できる。一方,バリスタ

が定電圧性であることと,バリスタ V1 の焼損を許容し

たことにより,電圧検出式5)に比べて保護線用抵抗器の

値を小さく設定できるため,電化柱に併架された高圧配

Page 5: 直流き電回路における保護線を用いた高抵抗地絡検出手法 森本大 …bunken.rtri.or.jp/PDF/cdroms1/0001/2014/0001003859.pdf · 図3の等価回路を図4に示す。地絡箇所の支持物(以下,

8 RTRI REPORT Vol. 28, No. 10, Oct. 2014

特集:電力技術

電線からの静電誘導電圧による不要動作の懸念や,保護

線を懸架するがいしの汚損絶縁低下に伴う検出性能低下

を大幅に軽減できる。

 組み立てた保護線用素子は耐環境性を付与するため,

全体を樹脂でモールドすることを想定する。

4. 2 直流動作に関する基礎実験

 鉄道総研構内の実験棟において,提案するシステムを

模擬した図 6 の回路を構成し,通電試験を行った。使用

した保護線用素子の外観を図 7 に示す。バリスタ V1 と

V2 の V1mA はそれぞれ 390V と 1800V である。本実験で

隣接柱相当箇所に用いた素子(図 7(a))のダイオードは

直流動作実験のみを目的とした設定であり,雷インパル

ス電流への耐性は考慮していない。また,地絡柱相当箇

所の保護線用素子はダイオードの導通によってバリスタ

V1 が単体で存在するのと同等のため,図 6 および図 7(b)に示すようにバリスタ V2 とダイオードを省略している。

 電化柱(地絡柱,隣接柱)の接地抵抗に相当する抵抗

器は,コンクリート柱を想定した 16Ω と,鉄筋接地方式

としては比較的接地抵抗が高い場合を想定した 1Ω の 2通りに設定した。保護線用抵抗器は,区間両端の変電所

に各々 1kΩ を設けるのと同等になるように 500Ω とした。

 測定結果を図 8 に示す。電化柱の接地抵抗がどちら

の想定でも,地絡柱のバリスタは通電により短絡モード

で破壊した。バリスタからは少量の煙が生じ,図 7(b)のように少量の金属物が滲み出ることもあったが,破裂

等することはなかった。一方,隣接柱の素子には電流が

流れず損傷もしないことを確認した。これにより,支持

物への地絡故障を安定して検出できること,並びに使用

部品の特性を適切に選定すれば,地絡柱以外での保護線

用素子の逆導通を避けられることの見通しを得た。

5.現地試験による検証

 本システムの検証のため,保護線用素子と保護線電圧

継電器を用いて,現地営業線において模擬地絡試験を

図6 直流動作試験(基礎実験)回路図7 直流動作試験に用いた保護線用素子

図8 直流動作試験(基礎実験)結果

レール特性抵抗模擬0.41Ω

保護線用抵抗器500Ω

実験棟機器接地

保護線模擬

保護線用素子

3mH+0.1Ω

投入器

柱の接地抵抗模擬16Ω or 1Ω

整流器1500V6000kW

HSCB

柱の接地抵抗模擬16Ω or 1Ω

地絡柱模擬隣接柱模擬

VFF

IPWD1IPWD2

バリスタ(保護線用素子のV1と同型)

VRpw

VNV1: ERZV14D391

V2: ERZV14D182CSD: 800V 3A品を3直列

V1相当: ERZV14D391V2とDは省略

(a) 隣接柱用 (b) 地絡柱用(通電後)

バリスタV2

ダイオードD

バリスタV1

浸出金属物

-2

0

2

4

6

8

-0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

-0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

電流

(A)

電圧

(kV

)

時間 (s)

IPWD2

IPWD1

VFF

VRpw

(a) 支持物接地抵抗16Ω模擬時

-2

0

2

4

6

8

-0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

-0.1 0 0.1 0.2 0.3 0.4電

流 (

A)

電圧

(kV

)

時間 (s)

VN

IPWD2

IPWD1

VFFVRpw

(b) 支持物接地抵抗1Ω模擬時

VN

行った。

 図 9 に試験回路の概略を示す。試験系統は K き電区分

所・M 変電所間の複線 10.3km の区間である。下りき電

線を保護線として使用することで保護線方式の模擬回路

を構成した。電源には M 変電所の直流 1500V 整流器を

使用し,故障発生後のき電用遮断器開放は変電所直接運

転による手動操作によった。地絡故障の模擬は,予め S状ホーン(間隙長 4.5mm)に家庭用アルミ箔の小片を介

在させておき,投入器(6.6kV 汎用真空遮断器を使用)の

投入で通電を開始してアルミ箔を焼損させることとした。

 保護線用抵抗器は K き電区分所・M 変電所とも

1200Ω とした。L 駅構内故障点において柱の接地抵抗を

模擬する抵抗器は,試験で用いる既設接地電極(電車線

路避雷器用)に流す電流を制限して試験を安全に遂行す

ることを重視して 300Ω とした。

Page 6: 直流き電回路における保護線を用いた高抵抗地絡検出手法 森本大 …bunken.rtri.or.jp/PDF/cdroms1/0001/2014/0001003859.pdf · 図3の等価回路を図4に示す。地絡箇所の支持物(以下,

RTRI REPORT Vol. 28, No. 10, Oct. 2014 9

特集:電力技術

 使用した保護線用素子(雷インパルス電流に対する耐

性は未考慮)の外観と内部構成を図 10 に示す。保護線

電圧継電器は,直流高圧接地継電器(64P)の既存製品

を基本として動作電圧 300V・動作遅延時間 25ms に変

更した試作器を使用した。

図9 現地模擬地絡試験回路概要

上り線

整流器1500V

下り線(保護線模擬)

投入器

保護線用抵抗器1200Ω

M変電所(10k300m)Kき電区分所(0k000m)

地絡故障模擬(アルミ箔) 保護線用素子U>

抵抗器300Ω(柱接地抵抗模擬)

U>

故障点(L駅,5k583m)

保護線電圧継電器

保護線用抵抗器1200Ω 保護線電圧

継電器

避雷器用接地極

V

電車線・機器接地間電圧

保護線・機器接地間電圧

V

V レール・機器接地間

地絡柱模擬

レール電圧

図 12 現地試験結果(変電所測定) 図 13 故障点回路(隣接柱模擬追加)

図 11 現地試験状況

図 10 現地模擬地絡試験で使用した試作保護線用素子

地絡故障模擬保護線用素子

300Ω

故障点(L駅,5k583m)

隣接柱模擬

投入器

地絡柱模擬

-500

0

500

1000

1500

2000

2500

-0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

電圧

(V)

時間 (s)

電車線・機器接地間電圧

保護線・機器接地間電圧

保護線電圧継電器動作

レール・機器接地間電圧

地絡故障模擬保護線用素子

支持物側

保護線側

V2ERZV14D182CS

ダイオード1N54072直列

V1ERZV14D391

 投入器の投入直後,故障点ではアルミ箔が焼損して S状ホーンの極間がアークで導通状態となり(図 11),保

護線用素子が導通した。アークが S 状ホーン上を動き回

るためアーク電圧が変化し,その結果保護線電圧も変動

するが,変電所・き電区分所に仮設した保護線電圧継電

器はすべての試番で遅滞なく動作した(図 12)。これに

より,保護線方式によって高抵抗地絡が検出できること

を確認した。なお,通電後の保護線用素子はバリスタが

短絡モードで破壊していたが,外観は若干の変色がある

程度で破裂等はなかった。

 次に,故障点の回路を図 13 のように変更して隣接柱

の模擬を行い,同様に模擬故障を発生させた。その結果,

隣接柱に設けた保護線用素子は導通しないことを確認し

た。さらに,一度通電して短絡モード破壊になった地絡

柱の保護線用素子を交換せず再使用して模擬故障を発生

させる試験も実施したが,保護線用素子の電圧降下が通

電開始直後から僅少になっていることを除いてシステムの

動作に大きな変化は見られず,素子の破裂等もなかった。

Page 7: 直流き電回路における保護線を用いた高抵抗地絡検出手法 森本大 …bunken.rtri.or.jp/PDF/cdroms1/0001/2014/0001003859.pdf · 図3の等価回路を図4に示す。地絡箇所の支持物(以下,

10 RTRI REPORT Vol. 28, No. 10, Oct. 2014

特集:電力技術

図 15 8/20μs 標準雷インパルス電流通電結果

(順方向電流尖頭値約 10kA)

6.保護線用素子の雷インパルス電流への対応

 初期の保護線用素子試作品に標準雷インパルス電流

(8/20μs)を通電する試験を行った結果,3 ~ 5kA でバ

リスタが破裂・ダイオードが短絡モード破壊となった。

 このため,保護線用素子の雷インパルス電流耐量の向

上を検討した。バリスタを破壊耐量の大きいものに変更

するとともに,ダイオードを順方向に流れる雷インパル

ス電流への対応は,図 14 に示すようにダイオードと直

列に抵抗器を挿入し,順方向電圧降下を大きくして過大

な順方向雷インパルス電流をバリスタ V2 に分流させる

方法を考案した。V2 の 10kA 制限電圧が 4500V 程度で

あることから,抵抗値を 10Ω とすると,ダイオードを

流れる電流の最大値は 450A 程度に抑制される。一方,

10Ω の抵抗器の挿入に伴う直流 2 ~ 3A 通電時の電圧降

下増加分は 20 ~ 30V のため,システム全体の直流動作

は抵抗器を挿入しない場合とほとんど変わらない。

 これらの改良により,順方向・逆方向それぞれ標準雷

インパルス電流(8/20μs)10kA に耐える保護線用素子

を得た。通電波形を図 15 に示す。

図 14 破壊耐量を向上した試作保護線用素子の構成と

外観

支持物側

保護線側

V2ERZV20D182

1N54076直列

V1ERZV20D391

抵抗器10Ω

-8

-4

0

4

8

-5

0

5

10

15

-50 0 50 100 150 200 250

素子

端子

間電

圧 (kV

)

通電

電流

(kA

)

時間 (μs)

素子端子間電圧

通電電流

7.まとめ

 直流き電回路の高抵抗地絡故障を確実に検出する方法

として,保護線を新設し,保護線用素子を用いて支持物

の電位上昇を保護線に伝えることにより地絡を検出する

システムを開発した。現地試験によってシステム構成を

検証するとともに,保護線に生じ得る雷サージに現実的

な範囲で対処した保護線用素子を作成した。

 本システムは主に明かり区間本線への適用を意図して

おり,様々な原因の高抵抗地絡故障を検出可能である。

実用化に際しては,保護線の敷設に関する施工基準や,

保護線用素子の取り付け構造,保全方法などを具体化し

ていくことが必要と考えている。

謝 辞

 現地試験に御協力頂いた東日本旅客鉄道株式会社 JR東日本研究開発センターテクニカルセンターおよび高崎

支社の各位,保護線用素子の試作に御協力頂いた株式会

社サンコーシヤの各位,保護線電圧継電器の試作に御協

力頂いた永楽電気株式会社の各位に謝意を表す。

文 献

1) 電気鉄道ハンドブック編集委員会:電気鉄道ハンドブック,

p.528,2007

2) 松本晃,植松正次,吉住浩史,山本浩志,根岸英雄,三苫

好久:続流によるき電線断線現象の検証試験,平成 25 年

電気学会全国大会,No.5-097, Vol.5, pp.167-168, 2013

3) 田中裕,伊東利勝,出野市郎,筋野健吾:放電ギャップを

用いた直流き電回路保護方式,鉄道総研報告,Vol.2, No.8,

pp.47-52, 1988

4) 井上訓一,上野勲:放電ギャップを応用した直流き電回路

用高抵抗地絡自動保護方式,電気学会論文誌 B, Vol.119,

No.2, pp.185-194, 1999

5) 阿部智,伊東利勝,伊藤二朗,伊藤健:電圧検出式接地故

障検出装置の開発,平成 6 年電気学会産業応用部門大会 ,

1994

6) 安喰浩司,森田岳,吉井剣,牧本次郎,内沼夏織:保護線

による直撃雷断線防止システム,平成 22 年電気学会産業

応用部門大会,No.3-19, pp.III-203-204, 2010

7) H. Morimoto, T. Yoshii, J. Makimoto, H. Yoshizumi, A.

Nishiwaki, and H. Hayashiya : “A Study on a Preventive

System of Wire Break triggered by Direct Lightning Strokes on

to DC Railway Feeding Systems”, presented at ICLP 2012,

Wien, Austria, Sept. 2-7, 2012, Paper No. 161.

8) 森本大観,柴田直樹,吉井剣,植松正次,林屋均:保護線

を用いた直流き電回路高抵抗地絡検出システム,平成 26

年電気学会産業応用部門大会,No.5-3, 2014

9) 電気鉄道ハンドブック編集委員会:電気鉄道ハンドブック,

p.575,2007