物資輸送と住民避難からみた避難所へ至る道路の安...

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物資輸送と住民避難からみた避難所へ至る道路の安全性検証 豊橋技術科学大学 建築・都市システム学系 大貝 1. はじめに 大規模地震災害時には建物倒壊などにより障害物が発生し,道路が閉塞して通行が困難になる場合 があり,住民避難が難しくなることや,救援物資を輸送できなくなる恐れがあり,救援物資輸送や住 民避難のための避難所へ至る道路の安全性確保は重要な減災対策の一つである。阪神・淡路大震災の 教訓からも建物の倒壊による道路閉塞に起因する被害として,1) 道路閉塞により避難が困難となり, 逃げ惑いにより多数の死傷者が発生,2) 緊急車両の通行障害により,救助活動に支障が発生し円滑な 避難が困難となったなどが指摘されている。 本研究では,東海・東南海連動型の想定震度分布で 6 強の地域が多くを占める豊橋市の市街化区域 内を対象に,物資輸送と住民避難の観点からみた豊橋市の指定避難所へ至る道路の安全性検証を試み ている。 2. 豊橋市の指定避難所と緊急輸送道路・緊急道路について 2.1 豊橋市における指定避難所の現状 豊橋市には第 1 指定避難所と第 2 指定避難所の 2 種類があり,第 1 指定避難所は,災害時に被害を 受け自分の家等を失い居住できなくなった時,又は被害の恐れのある場合に避難する場所と定義され, 校区市民館と地区市民館併せて 70 施設が指定される。また第 2 指定避難所は,第 1 指定避難所が収 容能力を超えた場合に開設する避難所とされており,市内の小中学校等の 90 施設が指定されている。 その内市街化区域には第 1 指定避難所が 41 施設,第 2 指定避難所が 54 施設存在している(図 1 )。 2.2 緊急輸送道路と緊急道路の定義と分布状況について 緊急輸送道路とは,地震災害の警戒宣言時及び発災時には,救助・救急・医療・消火活動及び物資 輸送などの緊急車両が優先的に通行する道路であり,国,県,市が一定の選定基準に従って幹線道路 等を整備後に指定するものである。その種類としては,1) 1 次緊急輸送道路:県庁所在地,地方振 興局所在の市町,重要港湾,空港及び広域物流拠点等を連絡し,広域の緊急輸送を担う道路。2) 2 次緊急輸送道路:第1次緊急輸送道路と市町村役場,主要な防災拠点(行政機関,公共機関,警察署, 消防署,自衛隊等)を連絡する道路。3) 県管理道路:県の管理する国道又は県道。4) 市指定道路:市 が指定した道路の 4 種類がある。 一方,緊急道路とは,地震等の災害発生時に,被災地及び被災者に対する救護活動,支援物資・食 料等の輸送を迅速かつ確実にするために,緊急道路障害物除去(倒壊した建築物等の路上障害物の除 去及び陥没や亀裂等の応急補修)を優先的に実施する路線のことであり,市が独自に指定している。 豊橋市内の指定避難所の分布と緊急輸送道路・緊急道路の指定状況,並びにそれらの位置関係を検 証するため,市内にあるすべての指定避難所と緊急輸送道路・緊急道路の位置を GIS 上でデジタルマ ップ化を行った。多くの緊急輸送道路は指定避難所の入り口に沿って通っていないため,緊急道路の 指定は指定避難所を考慮した配置になっている。しかし,場合によっては指定避難所の入口まで緊急 輸送道路・緊急道路が到達していない箇所もみられた(図1)。

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物資輸送と住民避難からみた避難所へ至る道路の安全性検証

豊橋技術科学大学 建築・都市システム学系

大貝 彰

1. はじめに

大規模地震災害時には建物倒壊などにより障害物が発生し,道路が閉塞して通行が困難になる場合

があり,住民避難が難しくなることや,救援物資を輸送できなくなる恐れがあり,救援物資輸送や住

民避難のための避難所へ至る道路の安全性確保は重要な減災対策の一つである。阪神・淡路大震災の

教訓からも建物の倒壊による道路閉塞に起因する被害として,1)道路閉塞により避難が困難となり,

逃げ惑いにより多数の死傷者が発生,2)緊急車両の通行障害により,救助活動に支障が発生し円滑な

避難が困難となったなどが指摘されている。

本研究では,東海・東南海連動型の想定震度分布で6強の地域が多くを占める豊橋市の市街化区域

内を対象に,物資輸送と住民避難の観点からみた豊橋市の指定避難所へ至る道路の安全性検証を試み

ている。

2. 豊橋市の指定避難所と緊急輸送道路・緊急道路について

2.1 豊橋市における指定避難所の現状

豊橋市には第1指定避難所と第2指定避難所の2種類があり,第1指定避難所は,災害時に被害を

受け自分の家等を失い居住できなくなった時,又は被害の恐れのある場合に避難する場所と定義され,

校区市民館と地区市民館併せて 70 施設が指定される。また第 2 指定避難所は,第 1 指定避難所が収

容能力を超えた場合に開設する避難所とされており,市内の小中学校等の90施設が指定されている。

その内市街化区域には第1指定避難所が41施設,第2指定避難所が54施設存在している(図1)。

2.2 緊急輸送道路と緊急道路の定義と分布状況について

緊急輸送道路とは,地震災害の警戒宣言時及び発災時には,救助・救急・医療・消火活動及び物資

輸送などの緊急車両が優先的に通行する道路であり,国,県,市が一定の選定基準に従って幹線道路

等を整備後に指定するものである。その種類としては,1)第 1 次緊急輸送道路:県庁所在地,地方振

興局所在の市町,重要港湾,空港及び広域物流拠点等を連絡し,広域の緊急輸送を担う道路。2)第 2

次緊急輸送道路:第1次緊急輸送道路と市町村役場,主要な防災拠点(行政機関,公共機関,警察署,

消防署,自衛隊等)を連絡する道路。3)県管理道路:県の管理する国道又は県道。4)市指定道路:市

が指定した道路の4種類がある。

一方,緊急道路とは,地震等の災害発生時に,被災地及び被災者に対する救護活動,支援物資・食

料等の輸送を迅速かつ確実にするために,緊急道路障害物除去(倒壊した建築物等の路上障害物の除

去及び陥没や亀裂等の応急補修)を優先的に実施する路線のことであり,市が独自に指定している。

豊橋市内の指定避難所の分布と緊急輸送道路・緊急道路の指定状況,並びにそれらの位置関係を検

証するため,市内にあるすべての指定避難所と緊急輸送道路・緊急道路の位置をGIS上でデジタルマ

ップ化を行った。多くの緊急輸送道路は指定避難所の入り口に沿って通っていないため,緊急道路の

指定は指定避難所を考慮した配置になっている。しかし,場合によっては指定避難所の入口まで緊急

輸送道路・緊急道路が到達していない箇所もみられた(図1)。

3. 道路閉塞確率の算出

3.1 避難行動困難性評価手法を

用いた算出方法

避難行動困難性評価手法 1)と

は,本研究室で開発中のGIS デ

ータを活用して避難行動や救出

救護活動などの行動の困難性を

建物毎,道路毎に詳細かつ定量

的に評価するツールである。こ

こでは,本評価手法を用いて,

豊橋市の市街化区域内に存在す

る全建物の建物倒壊確率をもと

め,その建物倒壊確率を基に区

域内道路の全リンクの道路閉塞

確率を算定した。

算定の基となる想定震度分布

は,平成16年度に豊橋市が実施

した地震被害予測調査 2)による

もので,東海・東南海連動型地

震の震度分布(250mメッシュ単

位)を用いた。また,建物倒壊

確率の算定は、村尾・山崎 3)の神

戸市調査に基づく地震規模と建

物被害に関する被害率曲線(フラ

ジリティカーブ)に基づいており,

表 1 に示す値を用いている。な

お,詳細な算定手順については文献4)を参照されたい。

3.2 GISデータの整備

ここでは整備したGISデータの概略を示す。

算定に必要なGISデータは建物の構造,階数,

建築年代と道路幅員及び道路延長である。これ

らは豊橋市都市計画基礎調査(H18 )及び固

定資産税課税台帳より収集した。これらの内,

建築年代だけが GIS データではないため,ア

ドレスマッチングサービス(batchgeo:

http://www.batchgeo.com/jp/)を活用して整備

した。詳細な整備手順については,算定手順同

様,文献4)を参照されたい。

表1 地震規模に応じた構造別,建築年代別の建物倒壊確率

構造 建築年代 震度5強 震度6弱 震度6強

木造

~1951 0.01 0.14 0.52

1952~1971 0.00 0.07 0.43

1972~1981 0.00 0.02 0.18

1982~ 0.00 0.01 0.07

S造

~1971 0.02 0.12 0.34

1972~1981 0.00 0.02 0.12

1982~ 0.00 0.01 0.04

RC造

~1971 0.00 0.03 0.13

1972~1981 0.00 0.01 0.05

1982~ 0.00 0.00 0.02

図1 豊橋市の指定避難所と緊急輸送道路・緊急道路の分布

4. 安全性検証対象地区の抽出

3節で求めた市街化区域内のすべて道路リンクの道路閉塞確率を基に,以下に示す基準により危険性

の高い地区を選定した。選定した安全性検証対象地区を図2に示す。

① 指定避難所の入り口が緊急輸送道路・緊急道路に隣接していない。

② 対象エリア内の道路総延長が500m以上である。

③ 道路閉塞確率が10%以上の道路延長が,対象エリア内にある道路総延長の20%以上である。

④ 対象エリアの大きさが4ha以上である。

表2は,対象地区の人口,面積,道路閉塞確率に関わる特性値をまとめたものである。人口と面積

にはばらつきがあるが,どの地区も道路閉塞確率 10%以上の道路割合が 20%~40%となっている。

いずれの地区も土地区画整理事業等による都市基盤整備が実施されていない。

表2 対象地区毎の概要

地区名 町丁・字名 地区内 総人口(人)

対象地区 面積(ha)

道路閉塞確率 10%以上の

道路延長(m)

道路 総延長

(m)

道路閉塞確率 10%以上の

道路割合(%)

梅藪地区 梅藪町,梅藪西町 968 8.47 1,213 3,994 30.37

前芝地区 前芝町 2,547 21.14 2,508 6,829 36.73

下地地区 下地町,横須賀町 624 6.98 733 1,901 38.54

船町地区 船町,北島町 1,333 11.00 1,268 3,979 31.87

関屋地区 関屋町,八町通一丁目 327 4.95 594 1,632 36.39

飽海地区 飽海町,東田町 1,021 7.97 736 2,503 29.39

花田地区 花田町,花田三番町,

北側町,羽田町 1,394 15.01 1,167 5,213 22.39

羽根井地区 花中町,花田町,中郷

町,羽根井町 2,260 23.84 2,325 8,234 28.24

1)地区内総人口:別途求めた対象地区内町丁別推定人口の総和 2)面積及び道路延長関係の値はすべてGIS上で計測した値 3)道路閉塞確率10%以上の道路割合:(道路閉塞確率10%以上の道路延長/道路総延長)×100

梅藪地区

前芝地区

下地地区

関屋地区 船町地区

飽海地区 花田地区

羽根井地区

図2 検証対象地区

5. 地区別の詳細検証

ここでは,4節で選定した対象地区ごとに,物資輸送,住民避難,液状化危険性の観点から詳細に検

討を行い,それぞれの観点からみた緊急道路等の安全性を評価した。5 頁の図 3 に検証の際に用いた

対象地区の事例を示す。

5.1 物資輸送の観点から検証

物資輸送に関しては,対象地区を含む小学校区内のすべての指定避難所のうち,指定避難所の入口

が緊急輸送道路・緊急道路に隣接していない指定避難所を検討対象とした。そして,表3に示す条件

から想定経路を考え,道路閉塞確率を基に緊急輸送道路・緊急道路から指定避難所に至る想定経路の

物資輸送上の安全性について検討している。

表3 想定条件

項目 条件

対象とする指定避難所 ① 対象エリアを含んでいる小学校区内にある指定避難所 ② 指定避難所の入口が緊急輸送道路・緊急道路に隣接していないこと

搬入方法 物資輸送車両(車幅3m)による搬入

想定経路 緊急輸送道路・緊急道路を優先して使用し,指定避難所の入口まで到達

その他 第1指定避難所(市民館)と第2指定避難所(小中学校)が街区内で隣接している場合,お互いに通行が可能である。

物資輸送の検討結果のまとめを表4に示す。ほとんどの地区は緊急輸送道路・緊急道路を利用して

指定避難場所へ安全に物資輸送が可能であることが分かった。前芝地区市民館,八町校区市民館につ

いては,前面道路が 4m 未満であることから直接搬入できない可能性があったが,八町校区市民館は

八町小学校と隣接しており,八町小学校を通じて物資輸送が可能であることから,とくに問題ないと

考えられる。前芝地区市民館については,付近の空き地を利用することで人力輸送が可能である。た

だし,建物倒壊で空き地が瓦礫等で埋まり,利用できなくなることも想定されるため,何らかの対応

策が必要と考えられる。

5.2 住民避難の観点からの検証

住民避難の観点からは以下の

ような考え方の基に検討を行っ

た。

対象地区から指定避難所入口

へと至る経路を避難経路として

想定する。それは,指定避難所

が a)対象地区内にあるか,b)対

象地区外にあるかで 2 種類を想

定した。

a)対象地区内に指定避難所があ

る場合は,対象地区内から避難

所入口へと至る経路を想定する。

b)指定避難所が対象地区外にあ

る場合は対象地区内から緊急輸送道路・緊急道路へと向かい,緊急輸送道路・緊急道路から避難所入

口までに至る経路を考える。

また,緊急輸送道路・緊急道路から指定避難所までの経路については,物資輸送の観点からの検討

表4 物資輸送の観点からの検討結果 小学校区 指定避難所 対策の

必要性 直接搬入可能

考えられる対策

前芝小学校区

前芝地区市民館 △ × 付近の空地に止め,人力で輸送

松葉小学校区

松葉校区市民館 松葉小学校

○ ○

○ ○

八町小学校区

豊城地区市民館 八町校区市民館 八町小学校

○ ○ ○

○ × ○

- 八町小学校を通じて輸送 -

花田小学校区

花田校区市民館 花田小学校 羽田中学校

○ ○ ○

○ ○ ○

羽根井小学校区

羽根井小学校 ○ ○ -

[対策の必要性] ○:検討不要(問題なし) △:指定避難所に安全に到達できない可能性があるため,対応策の検討要 [直接搬入可能] ○:指定避難所の入口まで物資輸送車両で到達可能 ×:指定避難所の前面道路が4m未満で,指定避難所の入口に到達できない可能性あり。

結果を踏まえ,道路閉塞確率が低く,安全

に通行できるものと仮定する。その上で,

対象地区内の道路閉塞確率を基に想定さ

れる避難経路の安全性を検証している。表

5 に住民避難の観点からの検証結果のまと

めを示す。

すべての地区で避難経路を検討もしく

は確保する必要があることが分かった。と

くに,梅藪地区,前芝地区,羽根井地区で

は,道路閉塞確率が10%以上の道路が地区

内に多く分布する。このような地区では住

民が避難を行う際の避難経路選択に大き

な影響を与えることが想定されるため,安

全な避難を可能とする経路を確保してお

く必要があると考える。

しかし,すべての対象地区における避難

経路確保のための対策(緊急道路整備等)

を一度に講じることは難しいため,以下で

は優先度ランクによる整備の優先順位を

検討した。

優先順位の設け方としては,対象地区の

規模などをみることで,対象地区の危険性

を分類することができると考え,次の方法

で対象地区の優先度ランク付けを行った。

対象地区毎の情報を示した表2より,対

象地区内人口と道路

閉塞確率 10%以上

の道路割合(%)(以下,

危険道路割合)の 2

つの指標を用いて,

表6に示す優先度ラ

ンク分類を行った。

対象地区内人口によ

って地区の規模をみ

ており,危険道路割

合によって地区の危

険度の大きさをみて

いる。この2つの指標を参考にすることで,地区の整備優先度ランクを表すこととした。

表6より,対象地区を優先度ランク付けしたものを表7に示す。前芝地区,羽根井地区,船町地区

の優先度ランクは 1~3 となり,梅藪地区,下地地区,関屋地区,飽海地区,花田地区の優先度ラン

表5 住民避難の観点からの検証結果

小学校区 対象地区 検討の 必要性

道路閉塞確率10%以上の道路分布

前芝小学校区 梅藪地区 前芝地区

× ×

多・広 多・広

下地小学校 下地地区 △ 密

松葉小学校区 船町地区 関屋地区

△ △

広 密

八町小学校区 飽海地区 △ 広

花田小学校区 花田地区 △ 広

羽根井小学校区 羽根井地区 × 多・広

[対策の必要性] ○:避難経路の検討は不要 △:避難経路の検討が必要 ×:避難経路の確保が必要

[道路閉塞確率10%以上の道路分布] 密:密度が高く分布 広:広域に分布。 多・広:広域かつ大量に分布

表6 整備優先度ランクの分類

対象地区内人口 危険道路割合(%) 優先度 ランク 分布 ランク 1 分布 ランク 2

1,500人以上 3 30%以上 2 1

30%未満 1 2

1,500人未満

1,000人以上 2

30%以上 2 3

30%未満 1 4

1,000人未満 1 30%以上 2 5

30%未満 1 6

表7 対象エリア毎の整備優先度ランク

地区名 地区内総人口 危険道路割合 優先度

ランク (人) ランク 1 (%) ランク 2

梅藪地区 968 1 30.37 2 5

前芝地区 2,547 3 36.73 2 1

下地地区 624 1 38.54 2 5

船町地区 1,333 2 31.87 2 3

関屋地区 327 1 36.39 2 5

飽海地区 1,021

2 29.39 1 4

花田地区 1,394 2 22.39 1 4

羽根井地区 2,260 3 28.24 1 2

図3 検証対象地区の事例(前芝地区)

クが 4~6 となった。表 5 で危険性の高い道路が広域かつ大量に分布している地区ほど優先度ランク

が高くなり,妥当な結果と思われる。ただしこの結果は,あくまで整備の優先順位である。どの地区

も住民の指定避難所への安全な避難に問題を抱えている点では同様である。早急な対策の検討が必要

である。

5.3 液状化危険性

地震被害予測調査報告書 2)で液状化危険度の予測が行

われている。この 250m メッシュ単位の予測結果と対象

地区をGIS上で重ねることで,対象地区内の液状化危険

性を把握した。検討結果を表8に示す。

関屋地区以外は,液状化危険度が高いまたは極めて高

いメッシュと重なった地区である。元々ここで選定した

対象地区は相対的に建築年代の古い木造住宅が密集して

いる地区であり,物資輸送と避難のための道路の安全性

確保とともに,沿道建物の液状化対策が求められる。

6. まとめと若干の考察

本調査研究は,東三河地域防災研究協議会を通じて豊橋市の受託研究として実施したものである。

今回示された検証結果は,今後の豊橋市における道路閉塞を想定した避難訓練,人命救助や応急処置

等の防災訓練,災害時の活動部隊を初期投入する際の情報として災害応急対策計画への反映,地域で

の建物耐震化促進等の取組みに活かされる予定である。

このようなソフト対策の一方で,当然ながら地区の防災性能を高めるハード面での,とくに住民避

難の観点からの避難路の安全性確保が求められる。今回危険性が高いと判断された地区はいずれも都

市基盤が未整備で狭隘道路と古い木造住宅が多い戦前から市街地がそのまま残っている地区である。

このような地区は同時に人口減少と高齢化も進行している。したがって都市計画的視点で捉えるなら

ば,避難路の安全性確保に留まらず,対象市街地の総合的な防災性能向上を目指す必要がある。その

ためには地域住民と行政が協働で取組む防災まちづくりの推進が不可欠で,住民の防災意識向上とハ

ード面での市街地整備を進める合意形成のための着実で継続的な取組みが求められる。事業制度的に

は国が定める密集市街地には該当しないため,都市計画の地区計画制度等の適用で対応していく必要

がある。

加えて,今回の検証では対象外となっている津波への対応策も重要な課題である。とくに三河湾に

面する梅藪地区と豊川河口に面する前芝地区は,指定避難所の場所自体を再検討することも必要であ

ろう。

<参考文献>

1) 山元隆稔他:地方都市市街地の防災アクティビティ評価:その 1:評価手法の開発、日本建築学会大会学術

講演梗概集.F-1,pp.561-562,2007

2) 豊橋市:豊橋市地震被害予測調査報告書,2004

3) 村尾修,山崎文雄:震災復興都市づくり特別委員会調査データに構造・建築年代を付加した兵庫県南部地震

の被害建物関数,日本建築学会構造系論文集555号,pp185-192,2002

4) 大貝彰:平成22年度研究報告書「避難行動困難性評価手法を用いた防災拠点と避難路に関する研究」,東三

河地域防災研究協議会,2011

表8 液状化危険度の検討結果

小学校区 対象地区 対策の必要性

前芝小学校区 梅藪地区 前芝地区

× ×

下地小学校区 下地地区 ×

松葉小学校区 船町地区 関屋地区

× ○

八町小学校区 飽海地区 △

花田小学校区 花田地区 △

羽根井小学校区 羽根井地区 △

[対策の必要性] ○:液状化に対する検討は不要 △:エリアの一部で検討が必要 ×:エリアの全てで検討が必要