発酵小麦デンプンを原料とする久寿餅の特性発酵小麦デンプンを原料とする久寿餅の特性...

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発酵小麦デンプンを原料とする久寿餅の特性 誌名 誌名 日本食品保蔵科学会誌 ISSN ISSN 13441213 巻/号 巻/号 424 掲載ページ 掲載ページ p. 149-153 発行年月 発行年月 2016年7月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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発酵小麦デンプンを原料とする久寿餅の特性

誌名誌名 日本食品保蔵科学会誌

ISSNISSN 13441213

巻/号巻/号 424

掲載ページ掲載ページ p. 149-153

発行年月発行年月 2016年7月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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( 3 ) 日本食品保蔵科学会誌 VOL.42 NO.4 2016 (報 文〕

発酵小麦デンプンを原料とする久寿餅の特性

風見真千子*1.野口治子*19・丸山慶輔*2.本橋慶一*3

矢口行雄*3.入 j畢友啓*4.高野克己*1

* 1 東京農業大学応用生物科学部生物応用化学科

* 2 東京農業大学大学院農学研究科農芸化学専攻

* 3 東京農業大学地域環境科学部電子顕微鏡室

*4 東京農業大学農学部畜産学科

Comparison between the Physical Properties of Kuzu-mochi

and of other Gelatinous Foods

149

KAZAMI Machiko*l, NOGUCHI Haruko*I~ , MARUYAMA Keisuke*2, MOTOHASHI Kei-ichi叫,

YAGUCHI Yukio*3, IRISAWA Tomohiro*¥ TAKANO Katsumi*1

* 1 Department of Applied Biology and Chemistry, Faculか ofApplied Bio-Science,おかoUniversiか ofAgriculture

1-1-1, Sakuragaoka, Setagaya-ku,おかo 156-8502

* 2 Department of Agricultural chemistry, Graduate school of agriculture,おかoUniversiηof Agriculture

1-1-1, Sakuragaoka, Setagaya-ku,おかo 156-8502

* 3 Electron Microscope Center, Faculηof Regional Environment Science,あわ10 University of Agriculture

1-1-1, Sakuragaoka, Setagaya-ku,あわ10 156-8502

* 4 Department of Animal Science, Faculηof Agriculture,あわ10 Universiηof Agriculture

1737 Funako atsugi-shi, Kanagω1ノa 243-0034

Kuzu-mochi made from fermentation treated wheat starch is a traditional ]apanese sweet from the

Edo period. Kuzu-mochi has a unique texture, which is not found in wheat starch gels. In this study,

to clarify the texture characteristics of kuzu-mochi, the physical properties of kuzu-mochi were

compared with that of various gelatinous foods such as dango, warabi-mochi, and yokan. Kuzu-mochi

was softer than yokan, but it was as hard as dango. The chewiness and the stickiness of kuzu-mochi

were lower than that of dango. Kuzu-mochi had an elastic texture and not a sticky one. Many starch

granules were observed within the gel matrix of kuzu-mochi. The gelatinous state of starch in kuzu-

mochi is suggested to contribute to the texture and the internal structure of kuzu-mochi. The

firmness of the fermented wheat starch gels was lower than that of kuzu-mochi. After storing for 72h

at 40

C, the firmness of the fermented wheat starch gel underwent few changes. The results of this

study suggest that the texture of kuzu-mochi is characterized by fermented wheat starch.

(Received Feb. 10, 2016 ; Accepted ]un. 30, 2016)

Key words : kuzu-mochi, fermented wheat starch, gel properη

久寿餅,発酵小麦デンプン,ゲル特性

和菓子は古来の食生活の中で生まれた団子や餅がその

原形であると考えられている。すなわち,採取した木の

実を粉にして食したり,農耕が始まり穀物を粉にし,こね

て成型後加熱して食したり,これらを蜜や呆実の汁とと

もに食べるようになったものと推察されている。平安時

* 1 〒156-8502 東京都世田谷区桜丘 1-1-1~ Corresponding author, E-mail: [email protected]

* 2 干156-8502 東京都世田谷区桜丘 1-1-1* 3 干156-8502 東京都世田谷区桜丘 1-1-1* 4 干243一0034 神奈川県厚木市船木1737

代には遣唐使が伝えた唐菓子,鎌倉時代には禅僧により

点心,安土桃山時代には宣教師によりカステラなどの南

蛮菓子が日本に伝来し,新たな食文化がもたらされるこ

とで大きく変化してきた。さらに江戸時代に入ると庶民

に親しまれる和菓子文化が広まり,多様で多彩な和菓子

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150 日本食品保蔵科学会誌 VOL. 42 NO.4 2016 ( 4 )

が生まれた1)-九和菓子の原料素材には,米粉,小麦粉

などの穀紛および各種デンプンやグルテン,寒天,簡類

が用いられ,米粉ではうるち米の上新粉,もち米の白玉

粉,餅粉,求肥子,道明寺粉,寒梅粉,落雁子,微塵粉

など多種である。このような多様な原料素材と季節変化

が各地域に特徴ある和菓子をっくり出したと考えられる。

久寿餅は,麓(グルテン)を製造する際に得られた小

麦デンプン画分からグルテン残誼やふすまを取り除いた

後,発酵させた発酵小麦デンプンを原料としている。発

酵したデンプンを繰返し水晒した後,これに水を加え加

熱し,その糊液を蒸した後冷却ゲル化させたものが久寿

餅である川)。江戸時代後期に関東地方で誕生し親しま

れ,現在も亀戸天神や川崎大師の門前の名物として知ら

れている。

本研究では,久寿餅の物性の特徴を明らかにすること

を目的として,因子などの一般的に親しまれている和菓

子と,物性および微細構造を比較すると共に,久寿餅の

原料である発酵小麦デンプンと小麦デンプンのゲル物性

の比較を行ったので報告する。

実験方法

1.実験材料

供試試料には,市販の久寿餅(原料:発酵小麦デンプ

ン,水分73%,紀文食品)および、団子(原料:上新粉,

水分78%,山崎製パン),わらぴ餅(原料:わらぴ粉,

加工デンプン,水分78%,明日香KA),羊藁(原料:

小豆館,寒天,水分41%,杉本屋製菓)を用いた。発酵

小麦デンプンは平野食品工業社製を用い,小麦デンプン

は小麦粉(赤松鯉,高橋製粉社製)よりマーチン法川こ

て調製したものを用いた。

2.官能評価η

官能評価は, I特性評価」について 7点評価法により

本学研究室員20名をパネルとして行った。「特性評価」

は硬さ,弾力,付着性,粘りの 4項目とし,団子の物性

を基準として各試料に対する評価を行った。

3.物性測定

各試料の物性はテンシプレッサー (MyBoyII,タケ

トモ電機)を用いて,硬さ,噛み応え,付着性および粘

りを測定した。測定は, 1バイト法(圧縮変形45%,バ

イトスピード)にて 7凹円柱フ。ランジャーを用いた。試

料は200

Cにて 1時間放置し,試料の厚さが約10皿となる

よう整形し測定に供した。

4.走査型電子顕微鏡による観察

試料を約 5醐角に切断した後, 2% (v/v) 1,5ベン

タンジオール溶液に一晩浸漬させ,試料を前固定した。

前固定した試料は0.2Mリン酸緩衝液 (pH7.2) に30分

間浸漬した。この操作を 3回繰り返し行い, 1, 5ーベンタ

ンジオールを洗浄除去した。洗浄後, 2 % (v/v)四酸

化オスミウム溶液に 5時間浸漬させ試料を固定した。そ

の後,固定試料を50,70, 80, 90, 95% (v/v)エタノ

ール溶液および脱水エタノール(2回)に順次に15分間

ずつ浸漬させ,脱水を行った。脱水後の試料をt一ブチ

ルアルコールに30分間, 2回浸潰し,冷凍庫 (-40C)

にて急冷固化した後凍結真空乾燥装置にて乾燥した。乾

燥した試料を割断し,割断面をオスミウムコーター(極

表面ナノ構造解析システム社製)にてコーテイング後,

走査型顕微鏡 (S-4000,HIT ACHI社製)にて,割断面

の観察を行った。

5.デンプンゲルの調製および物性測定と色調観察 9)

ラッピドビスコアナライザー(側エヌエスピー)にて

8 % (w/v)発酵小麦デンプンおよび、小麦デンプンの糊

液を調製し,得られた糊液をプラスチックシャーレ (φ

3.5cm,高さ 1cm) に流し込み放冷(室温, 20分間)し,

ゲルを作製した。ゲルはシャーレごとプラスチック製容

器に入れふたをし, 40

Cにて 1~72時間保存した。ゲル

の物性は久寿餅と同様の方法にて測定した。ゲルの色調

は分光測色計 (CM-5,コニカミノルタ社)を用い, L*

ピV法にて測定した。

実験結果および考察

1.久寿餅の官能評価および物性測定

久寿餅の物性を評価するため,一般的なデンプン系ゲ

ル食品である団子,わらび餅と羊葉とともに官能評価を

行った (Fig.1)。その結果,久寿餅の硬さは羊藁よりも

柔らかでわらび餅よりも硬く,団子に近い硬さであると

評価された。弾力は団子よりも小さく羊糞よりも大きく,

付着性と粘りは団子やわらぴ餅よりも小さいと評価され

た。久寿餅は,因子と同程度の硬さであるが付着性や粘

りは小さいことから,弾力があるが歯切れのよい食感で

あった。

久寿餅の物性を測定した結果をTable1に示した。硬

さは久寿餅が1929w/cmで,羊藁604gw/cm~こ比べ柔らか

く,わらび、餅25gw/cmより硬く,因子112gw/cmと近く,

官能評価と同様な傾向であった。久寿餅の噛み応えは,

団子が近い値で羊藁より小さく,わらび餅より大きかっ

た。久寿餅の付着性は羊藁17gw/cm,団子l1gw/cmと近

い値を示し,わらび餅の約2.7倍であった。久寿餅の粘

りは羊藁,因子より 1/4~1/3 と小さく,わらび餅の

約 3倍の値を示した。官能評価と物性測定の結果より,

久寿餅は因子と同じくらいの硬さ,噛み応えを有するが,

粘りが少なく,弾力があるが歯切れのよい食感であるこ

とが明らかとなった。

2.久寿簡の内部構造

久寿餅および他のゲル食品の内部構造をSEM~こて観

察した (Fig.2)。久寿餅および団子 (500倍および1,000

倍)ではゲル内部にデンプン粒子がみられ,久寿餅は団

子に比ベデンプン粒が多く観察された。因子においては

デンプンにより形成された網目構造の部分が広く観察さ

れた。わらび餅 (500倍および3,000倍)においては久寿

餅,団子で観察されたデンプン粒は観察できず,デンプ

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( 5 ) 〔報 文〕久寿餅の特徴 151

Firmness

l

Stckiness / __---I: _1ヤ---__'¥. "" Elasticness

一0-ーDango

--0-Yokan

Adhensiveness

Fig. 1 Sensory evaluation of various gelatinous foods

Table 1 Physical properties of various gelatinous foods

Firmness Chewiness Adhesiveness Stickiness

(gw/cni) (gw / cni . crn) (gw/cni) (gw/cni・crn)

Kuzu-mochi 192.3:t 37.6* 3235.8 :t 888.0 13.8:t 3.4 146.7:t 64.9

Warabi-mochi 25.2:t 1.6 346.1 :t 22.7 5.2:t 0.7 47.1:t 2.8

Dango 112.5 :t 14.5 1882.8:t 197.7 12.0:t 2.5 500.4:t 76.6

Yokan 604.6:t 14.6 15,068.3:t 665.6 17.2:t 1.7 742.0:t 109.3

*Mean:t standard deviation. 11 = 6

Kuzu-mochi Warabi-mochi Dango Yokan

ロOZE沼口切四日耳切日

ロozs沼口切何回H

同区OA

Fig.2 Internal structure of various gelatinous foods by SEM

Low magni日cation;Kuzu-mochi and Warabi-mochi. Dango (x500). Yokan (x300)

High magnification; Kuzu-mocha and Dango (xl.OOO). Warabi-mocha (x3.000).

ンによる網目状の構造が発達していた。羊藁では小豆デ

ンプン粒およびその周囲を寒天が囲む状況が観察された。

デンプン系ゲルでは,デンプン粒が加熱により膨潤崩壊

し,溶解したデンプンは冷却によって会合不溶化し網目

構造が形成される。久寿餅と団子の内部構造を比較する

と,久寿餅においては網目構造の部位が団子に比べて少

なく,残存しているデンプン粒子が多く観察されたこと

から,両デンプンの糊化の状況が異なり構造的な違いが

生じたものと推察された。因子の食感は硬く て粘る性質

であるが,久寿餅は硬くて歯切れがよいという異なる食

感を形成したものと考えられた。

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152 日本食品保蔵科学会誌 VOL. 42 NO.4 2016 ( 6 )

Table 2 Physical properties of unfermented and fermented wheat starch

Wheat starch Firmness Chewiness Adhesiveness Stickiness (gw/cIII) (gw/cIII' cm) (gw/cIII) (gw/cIII' cm)

Unfermented

Fermented

43. 3:!:0. 6* 589.3:!: 18. 3 5. l:!: O. 4 17.4:!:3.3

17. 6:!:0. 7 244. 8:!: 5. 2 3. O:!: 0.1 15.4:!: 1. 4

*Mean:!: standard deviation, n = 6

3.発酵小麦デンプンゲルの特徴

発酵小麦デンプンと小麦デンプンのゲルを調製し,そ

の物性を測定した (Table2)。ゲルの硬さおよび噛み

ごたえは小麦デンプンで、それぞれ43gw/cIIIおよび、589gw

/cIII' cm,発酵小麦デンプンでそれぞれ17gw/cIIIおよび

244gw / cIII . cmで、あった。両値とも後者は前者の約 1/2

の値を示した。ゲルの付着性および粘りの値についても

同様に,発酵小麦デンプンは小麦デンプンに比べて低い

値し,発酵により小麦デンプンのゲルは,柔らかく,粘

りのないゲルへと変化した。

さらに,ゲルを 40

Cにて保存した際の硬さの変化を経

時的に測定した (Fig.3)。発酵小麦デンプンではゲルの

硬さは24時間後では 1時間後の1.2倍, 72時間後では1.4

倍,小麦デンプンでは24時間後では 1時間後の1.13倍,

72時間後1.2倍と両者に大きさ差異はみられなかった。

両ゲルとも硬さの増加は緩やかであったが,前者は後者

に比べゲルの硬さは小さく,保存による硬化率はやや大

きかった。さらにゲルの特徴を光学的視点から観察する

ため明度を測定した。ゲルの調製直後では,明度は発酵

小麦デンプンゲル85.3,小麦デンプンゲル82.8で,発酵

小麦デンプンのほうが透明度はやや高く,両ゲルとも時

間の経過とともに明度は低下した。しかし,発酵小麦デ

ンプンの48時間後と小麦デンプンの 6時間後ではゲルの

明度が約79であり,明度の低下は後者が小さく, 48時間

後においても透明感を保持していた (Fig.4)。

発酵小麦デンプンのゲルの硬さは未発酵の小麦デンプ

ンのゲルに比べて柔らかく,硬さの増加は同様で、あった

160

さ 120

U 2

国〉

80

・+G同::: ー」J

-(r WS E山d

一・-FWS

。1 24 48 72

Storage time (h)

Fig. 3 The changes in firmness of unfermented and

fermented wheat starch gels with time stored at 40

C

WS; Unfermented WS gel, FWS; fermented wheat starch.

が,ゲルの透明感は維持されていた。これらのことより,

小麦デンプンは発酵により老化し難いデンプンとなって

いることが明らかとなった。発酵小麦デンプンの柔らか

くて粘りが少なく,老化しにくいゲルを形成するという

性質が久寿餅の食感を形成している一つの要因であるこ

とが示唆された。また,ゲルの色調に差異がみられ,発

酵小麦デンプンは明らかに透明'性が高かった。これは,

両デンプンの糊化状態,特にデンプンの水和の状態に差

異があるのではないかと推察されたlヘ 今後,発酵によ

るデンプンの構造変化とゲル分子構造の関係について検

Fig.4 Changes in color tone of unfermented and fermented WS gels

Unfermented

WS gels

L* value

Fermented

WS gels

L事 value

1 3

82.8 80.7

85.3 83.3

Time (h)

6

79. 1

80.7

24 48

75.8 74.3

78.4 79.2

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( 7 ) 〔報 文〕久寿餅の特徴 153

討を進めていきたい。

久寿餅の原料である小麦粉の発酵過程は,乳酸などの

有機酸が多量に存在するため常にpH3~4 の酸性条件

下であり,デンプン分解能を有する微生物が存在するこ

とが明らかとなっておりへこれらの作用により変化し

たデンプンの特性が久寿餅の物性に影響するものと考え

られる。

要約

発酵処理を施した小麦デンプンを原料とした久寿餅の

食感に関する特性を明らかとするため,他のデンプン系

ゲル食品(団子,わらぴ餅,羊糞)と物性を比較した。

久寿餅は硬さや噛み応えは羊藁よりも小さく,因子と同

程度で,粘りや付着性においては団子よりも低い値を示

し,久寿餅は弾力があり歯切れのよい食感を特徴とする

ことが明らかとなった。久寿餅の内部構造を観察したと

ころ,ゲル内部にデンプン粒子が多数残存しており,デ

ンプンの糊化状態が久寿餅の内部構造および物性に影響

しているものと考えられた。発酵小麦デンプンゲルは小

麦デンプンのそれに比べて柔らかく,その柔らかさは低

温保存しでも硬くなり難かった。これらのことより,久

寿餅の物性は,発酵処理により変化した小麦デンプンの

性質により特徴づけられていることが明らかとなった。

本研究の一部は公益財団法人江頭ホスピタリテイ事業

振興財団の支援を受けて行った。

文献

1 )新星出版社編集部:和菓子と日本茶の教科書(新星

出版社,東京), pp.8~28 (2009)

2 )鈴木晋ー監修:和菓子風土記(平凡社,東京)

(2005)

3 )日本菓子教育センター編:和菓子教本(誠文堂新光

杜,東京) (2012)

4)入津友啓・野口治子・内野昌孝・高野克己:発酵小

麦デンプンの発酵期間におけるデンプン粒と微生物叢

の変化, 日食保蔵誌, 40 (4), 171~176 (2014)

5 )中山圭子:事典和菓子の世界(岩波書庖,東京),

p.62 (2006)

6) GUAN, L., SEIB, P. A., GRAYBOSCH, R. A., BEAN, S.

and SHI, Y.-c.: Dough rheology and wet milling of

hard waxy wheat flours, J. Agric. Food chem., 57,

7073~7038 (2009)

7 )川端晶子・大羽和子編:調理科学実験(学健書院,

東京), p. 122 (1993)

8 )日本フードスペシャリスト編:食品の官能評価・鑑

別演習(建吊社,束京) (2014)

9 )漬西知子・松永直子・平尾和子・貝沼圭二・高橋節

子:サゴ澱粉を用いたくず蒸しょうかんの調理・加工

特性,調理科学, 35 (3), 287~296 (2002)

10) ZHOU, H., W ANG, c., SHI, L., CHANG, T., Y ANG H.

and Cur, M.: Effect of salts on physicochemical,

microstructural and thermal properties of potato

starch, Food chemistry, 156, 137~143 (2014)

(平成28年 2月10日受付,平成28年 6月30日受理)