発達障がい者支援のための手引き チームアプローチのすすめ ·...

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発達障がい者支援のための手引き チームアプローチのすすめ 平成23年10月 (令和元年10月一部改正) 新潟県福祉保健部障害福祉課 新潟県教育庁義務教育課

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Page 1: 発達障がい者支援のための手引き チームアプローチのすすめ · 業運営会議(現在の特別支援教育総合推進事業運営協議会)」を合同で開催して、

発達障がい者支援のための手引き

チームアプローチのすすめ

平成23年10月(令和元年10月一部改正)新潟県福祉保健部障害福祉課新潟県教育庁義務教育課

Page 2: 発達障がい者支援のための手引き チームアプローチのすすめ · 業運営会議(現在の特別支援教育総合推進事業運営協議会)」を合同で開催して、

目 次

1 支援者が連携するために・・・・・・・・・・P1

なぜ本誌を作ることになったのか(P2)

「チームアプローチ」ってなんだろう(P4)

2 連携の事例・・・・・・・・・・・・・・・・P7

乳幼児期(P8)

学齢期(P10)

成人期(P12)

3 Q&A~ 連携するための一問一答 ~・・P15

支援のポイント

(1) 発達障がいとは?(P16)

(2) 発達障がいのある方に対する支援とは?(P18)

(3) 支援者が連携を図る上でのキーワードは?(P20)

(4) 診断を勧めた方がいいのかどうかわかりません。(P22)

連携のポイント

(5) なぜ支援者間の連携が必要なのか?(P24)

☝ 日本人は、”連携”することが得意なのか(P27)

(6) コーディネーターとは?(P28)

☝ 支援チーム例(P30)

(7) 「個別支援計画」とは?(P31)

(8) 個別支援会議とは?(P33)

☝ 各地域の体制(P35)

☝ 会議の活用(P36)

(9) 「サポートノート」とは?(P37)

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乳幼児期

(10) 発達障がいと思われる子供の相談先、受診は?(P39)

☝ 療育機関との連携(P41)

☝ 乳幼児検診及び療育指導等(P42)

(11) 子どもの障がいにとまどう家族に対する支援は?(P43)

(12) 園や学校が保護者から聞いておくべきことは?(P45)

(13) 就学にあたり、教育関係者とはどのように連携するか?(P47)

(14) 保護者や保護者団体と連携を図るには?(P50)

学齢期

(15) 不登校等の問題行動が現れた場合の学校の対応は?(P52)

(16) 児童相談所との連携を図るには?(P54)

(17) 学齢期も利用できるサービスは?(P56)

(18) 福祉関係者との連携を図るには?(P58)

☝ 障がい福祉サービス等(P61)

(19) 進学(就職)にあたって学校関係者が注意すべき事柄は?(P62)

(20) 個別の教育支援計画とは?(P64)

(21) 個別の指導計画とは?個別の支援計画や個別の教育支援計画等との関係は?(P66)

(22) 学校が福祉、医療、保健、労働等の関係機関と連携を図るには?(P68)

(23) 校内委員会、特別支援教育コーディネーターとは?(P70)

(24) 巡回教育相談とは?(P72)

成人期

(25) 大人になってから発達障がいであることがわかった方への支援は?(P74)

(26) 専門学校、大学と連携を図るには?(P76)

☝ 状態像を把握しよう(P79)

(27) 就職活動が進まない方や離職を繰り返してしまう方への支援は?(P82)

☝ 発達障がいという言葉について(P85)

(28) 訪問しても会ってもらえない方への支援は?(P86)

4 関係機関の連絡先・・・・・・・・・・・・P89

5 用語索引・・・・・・・・・・・・・・・・P106

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1 支援者が連携するために

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作業部会の立ち上げの経緯

新潟県では、平成20年度から福祉保健部主宰の「発達障害者支援体制整備

検討委員会」と教育委員会主宰の「発達障害等支援・特別支援教育総合推進事

業運営会議(現在の特別支援教育総合推進事業運営協議会)」を合同で開催して、

全県的な支援体制整備について検討を行っています。

その中で、支援者間の「連携」の必要性に関して様々な意見が出されました。

1. どこの地域でも、誰が担当になっても、最低限必要な支援を受けること

ができるような仕組みづくりが必要(ノーマライゼーション)

2. 移行期における途切れない支援のため、ライフステージをつなぐ仕組

み・理念が必要

3. 様々な支援者や支援機関の調整役が必要

単独の支援者でできることには限界があるので「連携」は必要。だけど他機

関と関わるのは「面倒」。そして、継続していくことはもっと大変…。

そこで、関係者間が取り組みやすいような「仕組み」や「仕掛け」が必要と

の考えから、具体的な作業を行う作業部会を立ち上げました。

作業部会の議論の中で…

作業部会では様々な意見が交わされましたが、中心的だったのは、以下のよ

うな話題です。

目指すべき支援の在り方とは、「本人と家族を中心にして、様々な関係者

が連携し、途切れない支援を提供すること」。そのためには、「個別支援計画」

を中心に据えて、チームで支援を行うことが理想である。

「個別支援計画を柱としたチーム支援」とは、

1. 本人と関わる支援者(関係者)が集まって「個別支援計画」を作成する。

2. 「役割分担」を決める。

3. 「役割分担」に基づいて、それぞれが「個別支援計画」に沿った支援を

なぜ本誌を作ることになったのか

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行う。

4. 定期的にモニタリングを行い、「個別支援計画」通りに支援が進められて

いるか、新たな「役割分担」が必要ないか等を点検する。

この1から4の仕組みをきちんと機能させることが必要で、どこの地域、

どのライフステージにおいても、この仕組みが構築され、機能することを目

指したい。

本誌の作成

作業部会での検討の結果、「個別支援計画を柱としたチーム支援」を実践する

ためのひとつとして、具体的なやり方、ポイント等をまとめ、実際に連携体制

を組もうとする人が参考になるような手引きを作成することとしました。「支援

者に向けた支援体制確立のための手引き~支援者が共有すべき情報を分かりや

すく~」をコンセプトに作成されたのが本誌です。

本誌では、関係機関との「連携」の第一歩として、そのポイントについて一

問一答形式で解説しているほか、連携の事例や地域の取組事例の紹介、関係機

関一覧、用語索引を掲載しています。

発達障がいのある方に対して、乳幼児期から成人期までの各ライフステージ

に対応する一貫した支援体制が構築できるよう、障がいを持つ本人とその家族

を中心に支援者がチームとなって支援を行っていくこと、これを我々は「チー

ムアプローチ」と呼んでいます。チームアプローチの考えにたち、支援者間の

連携を進めるうえで、本誌が少しでも役に立つことができたら幸いです。

本誌の読み方

本誌は、はじめから終わりまで目をとおしていただくことが一番ですが、日々

忙しい業務の中で全てを読むことは難しいという方は、すぐ知りたいことを一

問一答形式の中から該当するものを眺めていただいたり、用語索引から逆引き

で探していただくこともできます。

また、関係機関一覧をご用意しましたので、連絡をとりたい機関を確認する

ことができます。

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2つのチームアプローチ

ある辞典では、「介護サービス等の提供を、チームを組んで行うことによって、

利用者に総合的な質の高いサービス提供を目指すこと。」とされています。同書

では、チームアプローチとして、①サービス事業者内部におけるもの(サービ

ス内のアプローチ)と、②サービス事業者間のもの(サービス間のアプローチ)

の二つが示されています(四訂『福祉用語辞典』・中央法規出版)。

サービス内のアプローチ

まず、サービス内のアプローチとは、「サービス事業者内でチームを構成し、

チームにおける調整によって問題解決を図ることで、個々のワーカーを技術的

かつ精神的にもサポートし、より質の高いサービス提供を図る、サービス内の

チームアプローチ」とされています。

これをこの手引きの主な使用者となっていただきたいと考えている教育及び

福祉に携わる皆様にあてはめると、教育分野では、「学校内で複数の先生方が『支

援チーム』を作って支援していこうとする考え方」、福祉分野では、「サービス

提供事業所内で、複数の職員が『支援チーム』を作って支援していこうとする

考え方」となります。

サービス間のアプローチ

次に、サービス間のアプローチとは、「異なるサービス種類の提供事業者間で

チームを構成して調整を図ることによって、利用者に応じて複数のサービスが

統合的な目標や方針をもって提供されることで、より質の高いサービス提供を

図る、サービス間のチームアプローチ」とされています。

これも同様にあてはめると、「学校の教職員と福祉に携わる職員が、分野の壁

を越えて『支援チーム』を作り、一緒に支援していこうとする考え方」(下記参

考書籍でいう「WEコラボ」)となります。

「チームアプローチ」ってなんだろう。

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ただし、教育と福祉だけで完結する場合もあれば、そうでない場合もありま

す。むしろ、完結しないことの方が多いことを考えると、サービス間のアプロ

ーチとはもっと広く、「教育・福祉・医療・保健・労働等の様々な分野における

支援者が、分野の壁を越えて『支援チーム』を作り、一緒に支援していこうと

する考え方」となります。

チームアプローチの考え方

この手引きでは、特に断らない限り、後者を「チームアプローチ」と呼んでい

きます。すなわち、本誌では、「生きづらさや生活・学業上の困難を抱えた方(主

として発達障害のある方)に対し、複数分野・職種の支援者が『支援チーム』

を作り、共通の目標をもって、役割分担しながら、一緒になって本人及びその

家族の支援を行うという考え方」と定義したいと考えています。

参考になる資料

◇「チーム援助入門」(石隈利紀 田村節子共/図書文化)

◇「福祉と教育のWEコラボ」(加瀬進/筒井書房)

◇「福祉用語辞典」(四訂・2008・中央法規)

※ 他にも「チームアプローチ」に関する文献は、医療を中心に多数出版されています。

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連携マニュアル 関連 参考文献

参考になる資料

◇ 「チーム援助で子どものかかわりが変わる」

(石隈利紀・山口豊一・田村節子共/ほんの森出版)

◇ 「特別支援教育「連携づくり」ファシリテーション」

(堀公俊監修・三田地真実/金子書房)

◇ 「特別支援教育を支える行動コンサルテーション:連携と協働を実現す

るためのシステムと技法」(加藤哲文 大石幸二/学苑社)

◇ 「学校支援に活かす行動コンサルテーション実践ハンドブック」

(加藤哲文・大石幸二/学苑社)

◇ 「対人援助の心理学」(望月昭/朝倉書店)

◇ 「行動分析マネジメント:人と組織を変える方法論」

(舞田竜宣・杉山尚子/日本経済新聞出版社)

◇ 「インストラクショナルデザイン:教師のためのルールブック」

(島宗理/米田出版)

◇ 「短期間で組織が変わる:行動科学マネジメント:」

(石田淳/ダイアモンド社)

◇ 「ケア会議の技術」(野中猛・高室成幸・上原久/中央法規出版)

「特別支援教育をどう進め、どう取り組むか」

(下司昌一・砥柄敬三/ぎょうせい)

◇ 「特別支援教育コーディネイトのための「個別の教育支援計画」ガイド

ブック」(全国心身障害児福祉財団)

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2 連携の事例

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乳幼児期の連携事例

~これまで~

公立保育所に通い、介助員がついているが、適切な対応がされておらず、行動につい

て監視されているような状況であった。母は、「調べてきた視覚支援、構造化などの情

報を保育所に提供するが何の工夫もされない。忙しいのは理解できるが・・。」とのこと。

保健師に相談しても、「保育所との会議を開いてはくれているが、保育所の対応も本人

の様子も変わらない。」とのことだった。

~きっかけとなる出来事~ 保育所生活での様子が記載される「連絡帳」の内容に、毎日、他児童と比較する行動

や集団行動にのれないなどの問題ばかり記載があり、母はそのたびに落胆して、家庭で

の育児にも自信をなくし、放置している状況もあった。その反面、母は様々な相談機関

に思い立つと電話している。そんな中で児童相談所に相談したところ、発達障がい者支

援センターを紹介された。

~結果~

発達障がい者支援センターの職員により、母や保育所、地域の保健師からの聞き取り

が行われるとともに、本人状況の確認をしたうえで、園長、主任保育士、介助員、担当

保健師、地域の相談支援事業者で「関係者による個別支援会議」、そして「母も含めた

会議」が実施された。

会議では、本人や母の願いが伝えられると共に、保育所での対応に関しての改善策が

検討され、「一般的な PDD 児への園での支援事例や必要な工夫の提示」「スモールステ

ップでの目標設定」「保育所・介助員の対応(スケジュール提示、視覚支援等々)等を

実施する計画表の作成」等が行われた。

~連携して良かったこと(今後気をつけたいこと。)~

・ 具体的な工夫例が示されることで、すぐにできることは行動に移すことができた。

例)スケジュール提示や構造化の工夫

・ 他の児童にもわかりやすい結果となり、集団行動がとりやすくなった。

・ 1 ヵ月に 1 回会議を開催し、開始した具体的工夫に対する評価の機会(モニタリン

グ)を設けたことで、支援者側のモチベーションがあがり、新しいアイデアを考え

るようになった。

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・ 結果が出たことで、支援者側が共通して過度な期待をしなくなり、本人の発達の状

況に合わせたスモールステップの見方をするようになった。

・ あらゆる機関に相談する母に、関係機関が右往左往している状況であったため、本

人に関する定期的な会議での内容については支援者間で情報共有することとし、母

からの相談は“不安解消の行動”として捉え、傾聴に徹することとして共通認識す

る等、異なる対応がなくなった。

・ 家庭での養育の状況確認のため、継続的に担当保健師が家庭訪問を行うこととした

ことで、母と保健師の関係が近づき、母自身の弱い面や苦手なところも聞くことが

できるようになった。

・ 相談窓口を一つとすることが適当かどうかは今後の検討課題です。

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学齢期の連携事例1 ~これまで~

クラス替えがあり、特に申し送り事項もなかったが、学習状況や学校生活の様子から、

発達障がいがあるように思われる。はっきりしたことが分からず、どのような所で診断

してもらえるのか、また今後どのように対応すればよいのか知りたい。

~きっかけとなる出来事~

学校で、友達とのトラブルをきっかけに、保護者と話し合う機会をもった。保護者に

学校生活の様子を知らせると、家庭でも最近心配していることが分かった。保護者の許

可を得て、今後どのように対応していけばよいか、外部の専門家に相談することとした。

市の教育委員会の紹介で、特別支援学校の専門相談員の先生から、検査をしてもらっ

たり、学習の様子を参観してもらったりした。 ~結果~

専門相談員の先生から検査をしてもらい、見通しがもちにくいことや聞いて覚えるこ

とが苦手であることの特徴が分かり、学習指導上の支援の手立てを助言してもらった。

保護者へは、それらのことを伝えたが、もっとしっかり知りたいとの希望から医療機関

への受診を勧めた。

医療機関へは、検査の結果やこれまでの支援方法などの資料を持参し、保護者と担任

で話を聞いた。医師からは、発達障がいの診断があり、情報が整理しづらいことや相手

のことが推測しづらいことなどの説明があり、対応方法について助言を受けた。

後日、担任、保護者、専門相談員とでケース会議をもち、受診結果を参考に視覚的な

支援、具体的な指示、環境の整理などについて支援の方法を検討し、学校と家庭とで取

り組めることを「相談支援ファイル」にまとめて今後取り組むこととした。

~連携して良かったこと(今後気をつけたいこと。)~

担任の悩みを保護者と共有し、担任だけでは限界があることから専門家を交えたチー

ム支援ができた。そこでは、具体的支援方法を検討したり、医療機関に相談したりして

取り組むことから、その後、本人も徐々に学習や学校生活に落ち着いて取り組む姿が見

られてきた。

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学齢期の連携事例2 ~これまで~

学習に集中できず、出歩く行動が多くなった。また、友達とのトラブルも多くなり、

最近では学校に行かないと言っている。保護者は学校に対して不信感をもち、話し合い

ができない。保護者は、困って相談支援事業所に行ったが、学校の対応が悪いと解決の

糸口が見つからない。 ~きっかけとなる出来事~

担任は、困って上司に相談していた。また、保護者の相談していた相談支援事業所か

らも教育委員会へ情報提供と状況確認の問い合わせがあった。 教育委員会のサポートチームで状況確認を行い、学校、教育委員会、相談支援事業所、

保護者で個別支援会議を行うことになった。 ~結果~

関係者が集まり、学校や家庭の様子から本人の障がいの状況を確認しあった。そして、

トラブルとなる原因を検討し、今後の対応方法を関係者で話し合った。 情報が行き違っていたことを確認し、本人への具体的な手立てを検討し、家庭ででき

ること、学校で配慮していくことなどを個別の指導計画や個別の教育支援計画に記入し、

定期的に評価しながら進めることとなった。 ~連携して良かったこと(今後気をつけたいこと。)~

本人の状況をそれぞれの立場で見ていると、どこに原因があるのか分からず学校や保

護者がそれぞれ不安になり、不信感をもってしまった。しかし、専門家のコーディネー

トで情報共有し、具体的な支援の方法が見えてきたことでこれからの見通しがもてるよ

うになった。

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成人期の連携事例1 ~これまで~ 小・中学校は普通学級、高等学校は普通高校を卒業。高等学校卒業後、就職し寮生活

を経験するが、仕事や人間関係についていけず辞職。実家に戻り10年近く引きこもり

に近い生活を送る。その間、他者とうまく付き合えないこと、自分で目標を決めてもそ

れを達成することが出来ず、それに悩み、気分が落ち込むこと等について、自ら改善を

図るために精神科をいくつか受診するも、「病気ではない」と言われ続けてきた。

~きっかけとなる出来事~ 30才の時、地域の相談支援事業所のことを知り、自ら相談に行く。そこには地域活

動支援センターが併設されており、本人の希望により通い始める。

地域活動支援センターの利用を続けていく中で、その方の行動や言動に発達障がいの

特徴があると職員が認識するようになった。これまでうまくいかなかった原因は、その

特徴を本人、そして周囲も正しく理解していなかったからではないかという見解のもと、

本人へ「発達障がい」というキーワードを提示。受診を勧めたが、本人から明確な受診

希望はなく、つながらないまま2年が経過。この間も地域活動支援センターの利用を続

けるものの、気分の落ち込みの周期があり、2、3ヶ月利用がないこともあった。利用

のない期間は自宅で過ごしていたが、過食や生活リズムの乱れを母が心配して地区担当

保健師へ相談するようになり、保健師が相談支援事業所へ連絡した。

~結果~ 相談支援事業所は、これまでの経過等を保健師や発達障がい者支援センターと再度協

議し、あらためて受診を勧めた。今回は母にも同席してもらい発達障がいの特徴や受診、

診断等について説明したところ、本人と母共に受診を希望し、その後受診、検査、診断

とつながった。

現在は、体調に合わせて地域活動支援センターの利用を続けており、今後は本人の困

り感を少しでも軽減するための取組みを本人と一緒に考えていくことが必要と思われ

る。

~連携して良かったこと(今後気をつけたいこと。)~

成人になってからの「受診、診断」は、それが本人にとってどういうメリットがある

のかをよくシュミレーションした上で、家族はもちろんのこと、本人に理解してもらう

ための丁寧な説明が必要であり、今回は、この一連の流れが複数の機関の連携により実

現することができた。

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成人期の連携事例2 ~これまで~ 小・中学校と普通学級に在籍、中学3年生の時に広汎性発達障害との診断を受けた。

高等学校も普通高校へ進学。本人は、自分の考えや思いを他者に伝えることが苦手なタ

イプではあるが、「自分が稼いで家計を助けなければならない」という気持ちは強かっ

た。

~きっかけとなる出来事~ 高校3年生となり、就職を希望したが、他の生徒のように就職活動を進められず、母

が発達障がい者支援センターへ相談。そこから圏域の障害者地域生活支援センターやハ

ローワーク、在学中の高等学校等との連携が始まった。

~結果~

卒業時に高等学校、ハローワーク、障害者地域生活支援センター、発達障がい者支援

センターで個別支援会議を行い、卒業後の就労支援の引継ぎと方向性を確認。その後、

地域の相談支援事業所や障害者就業・生活支援センター、障害者職業センターの関係者

が集まっての個別支援会議で、現状確認と支援の役割分担が行われ、本人には、障害者

職業センターで職業評価や就職に向けた訓練を受けつつ、精神保健福祉手帳を取得して

もらった。しばらくの間、家族の紹介によるアルバイトを行っていたところ、障害者就

業・生活支援センターが本人の特性や通勤条件にあいそうな会社を開拓。ハローワーク

との連携により実習からトライヤル雇用につながり、就職に成功した。

~連携して良かったこと(今後気をつけたいこと。)~

支援の段階やその間に出来る「すきま」に、それぞれ適した機関や支援者が関わるこ

とができ、高等学校卒業後約 1 年で就職の目途がついた。

今回は家族が「この子には手厚い支援が必要」という見立てのもと、高等学校在学中

から積極的に学校以外にも相談したことが契機となり、学校、ハローワーク、相談支援

事業所等との連携がなされたが、当事者の発信力に頼るだけでは必要な方に必要な支援

が届きにくい。高等学校中退や進路が決まらないままの卒業等から引きこもりにつなが

っていく現状を考えると、「気になるあの子を見失わない」「気になるあの子を救う」た

めに、「その子を知る自分」が必要な支援者とつながる発想と勇気が必要と感じる。

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成人期の連携事例3 ~これまで~ 小学校では普通学級に通っていたが、4年生の時に、教室に入れなくなり、診断を受

けたところ、アスペルガー症候群であることがわかった。その後、高等学校卒業まで普

通高校で過ごすが、18 才の時に初めて入院し、その後、入退院を繰り返したが状況は

変わらなかった。

~きっかけとなる出来事~

初めての事に対する不安が大きいため、一人でやる体験が少なく、何にでも母を頼っ

ており、また、 母が何でも代行していたために、自分でも止められないほど要求がエ

スカレート。 それにより、母のストレスが増え、親子ゲンカが頻発。警察が介入して、

入院というパターンを2回繰り返す。担当保健師が圏域の障害者地域生活支援センター

に連絡を入れたことがきっかけとなって、入院中に 20 才になるのを機に「大学に行っ

て司法書士になる」「一人暮らしをする」を目標に支援が開始された。

~結果~ 入院中に、圏域の障害者地域生活支援センターを中心に、保健所、病院、両親、保健

師、相談支援事業所で個別支援会議を実施し、支援の方向性を確認。入院中に買い物の

練習や小遣い管理の練習を行い、退院後、アパートでの一人暮らしを開始した。

現在は、ホームヘルプサービスや家族の支援等を受けながら単身生活を継続中。退院

後は、相談支援事業所を中心として、利用するホームヘルプサービスを行う事業所等も

含めて個別支援会議を行っている。

~連携して良かったこと(今後気をつけたいこと。)~

圏域の障害者地域生活支援センターがコーディネーターとなることで、各支援者がう

まく機能するようになり、入退院を繰り返す状況から脱することができた。

退院後は、徐々に地域の相談支援事業所を中心とした支援になっているが、圏域の障

害者地域生活支援センターからのアドバイスを受けながら、良い状態を継続していきた

い。