再生可能エネルギー急増に伴う欧州 の対応と日本へ...

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再生可能エネルギー急増に伴う欧州 の対応と日本への教訓 京都大学 国際高等教育院 教授 長山 浩章 2017671 資料3

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再生可能エネルギー急増に伴う欧州の対応と日本への教訓

京都大学 国際高等教育院 教授長山 浩章

2017年6月7日

1

資料3

- 目次 -

I. 問題意識

II. 欧州における変動性再生可能エネルギーの現況と課題

III.欧州主要国における市場改革と活用事例1. 英国:需給調整市場活用による蓄電池電力取引事例2. アイルランド:需給調整市場における短周期変動対応市場

3. ドイツ:再エネVPP取引事例、前日・当日・需給調整市場における揚水の市場化

4. ノルドプール:電力取引イノベーションをリードする先駆者

IV. 欧州の経験から考える日本への教訓

2

1. 日本ほど再生可能エネルギーの大量導入に適したところはない。豊富な再エネ資源に恵まれ、27.5GWの定速及び可変速揚水、蓄電池、

火力の運用で、変動性再エネの大量導入のもたらすあらゆる問題に対応できるのではないか?

2. しかし、これらポテンシャルを発揮させ、エリアを超えて、大量の再生可能エネルギーを取り込み、国全体でのコストを下げるには以下が必要ではないか?

「柔軟性(Flexibility)」をもった電力システム

公平で透明な電力取引市場の整備と市場参加者の育成(前日市場、当日市場が今後取引の中心に)

調整力に対する価値の認識と対価

3

問題意識

(MWh)

太陽光

風力

火力

バイオマス

水力

揚水

連系線

地熱

原子力

• 揚水は昼間揚水し、朝と夕方に発電のパターンが鮮明:小丸川4基1,360MW,揚水2,530MW(8基の揚水のうち、7基はいつも稼働)

(九州電力は小丸川可変速があったからこそ、現在これだけ太陽光を入れられるのではないか?)

4

ポテンシャルを発揮できていない例我が国における揚水発電の活用状況

図 九州電力(2016年4月23日〜2016年4月30日)における需給状況

出所: 九州電力 (http://www.kyuden.co.jp/wheeling_disclosure)

(MWh)

太陽光

風力

火力

バイオマス

水力

揚水

連系線

注:ACC=Advanced Combined Cycle出所: 東京電力 (http://www.tepco.co.jp/forecast/html/area_data-j.html)

東京電力管内の他社揚水電源を含め、揚水設備が十分に活用されるといえるか?

5

ポテンシャルを発揮できていない例我が国における揚水発電の活用状況

図 東京電力(2016年4月23日〜2016年4月30日)における需給状況

出所:『電力の改革』 新エネルギー・産業技術総合開発機構(2015)(原著: IEA (2014)The Power of Transformation p.112)

大量の再エネを受け入れる電力システムには今、「柔軟性:フレキシビリティ」が求められている

図 IEAの電力システムのフレキシビリティ分析例:8つの指標

<IEAの指標>1. VRE以外の電源に

対する負荷配分2. VREに対する負荷

配分3. 負荷配分の時間幅4. 最終スケジュール

5. システムサービスの定義

6. システムサービス市場

7. 送配電網の取扱い8. 連系線の管理

6

- 目次 -

I. 問題意識

II. 欧州における変動性再生可能エネルギーの現況と課題

III.欧州主要国における市場改革と活用事例1. 英国:需給調整市場活用による蓄電池電力取引事例2. アイルランド:需給調整市場における短周期変動対応市場

3. ドイツ:再エネVPP取引事例、前日・当日・需給調整市場における揚水の市場化

4. ノルドプール:電力取引イノベーションをリードする先駆者

IV. 欧州の経験から考える日本への教訓

7

欧州は風力を中心に発電量ベースで高い変動性再エネ(VRE)の導入率

8

出所: IEA Electricity Information 2016

日本は 4.1 %

で 22 位

デンマークが

1位で50%超

図 VRE (変動性再生可能エネルギー)の発電電力量導入率比較 (2015年)

0

20

40

60

80

100

120

140

Brent

EPEX

出所:U.S. Energy Information Administration (EIA): Petroleum & other liquidおよび European Power Exchange (EPEX): KWK Price より安田陽作成

2010年以降、原

油高止まりでも電力スポット価

格は低減傾向

2015201020052000

Bren

t Spo

t [U

SD/B

arre

l], E

PEX

Spot

[EU

R/M

Wh]

図 北海原油および欧州電力市場のスポット価格の推移9

昼間に太陽光が大量導入で昼の卸価格も下り、風力の大量導入で卸市場全体の価格が低下

(出所)ドイツ4送電会社公表データ Thomas Ackermann, Ph. D.(2014) “Delay in Expansion of Transmission from north to South in Germany and its impact on Renewable Energy”に京大再エネ講座加筆

(独:5/11/2014)

送電→配電(positive)

配電→送電(negative)

風力

太陽光

発電電力量(GW)

(GW)

図 ドイツにおける配電・送電流通(Negative-Vertical-Load)と再エネ発電

再エネ電力の上位系統への逆潮流昼間に大量の太陽光、風力の出力増でTennet, 50 Hertzでも配電→送電が送電→配電を上回るVertical Loadが大規模に発生

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- 目次 -

I. 問題意識

II. 欧州における変動性再生可能エネルギーの現況と課題

III.欧州主要国における市場改革と活用事例1. 英国:需給調整市場活用による蓄電池電力取引事例2. アイルランド:需給調整市場における短周期変動対応市場

3. ドイツ:再エネVPP取引事例、前日・当日・需給調整市場における揚水の市場化

4. ノルドプール:電力取引イノベーションをリードする先駆者

IV. 欧州の経験から考える日本への教訓

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12

今日の4つの事例(1): タイムスケジュール

数年~数日前実取引の48時間前

実取引の前日12時 GC

実需給4年

英国:需給調整市場活用による蓄電池電力取引事例

アイルランド:需給調整市場における慣性力、短周期変動対応市場

ドイツ:前日・当日・需給調整市場における揚水の市場化、再エネVPP取引事例

ノルドプール:電力取引イノベーションをリードする先駆者

出所各国人口、経済規模 http://databank.worldbank.org/data/home.aspx各国面積 http://www.mofa.go.jp/mofaj/各国電力情報、再エネ情報(ドイツのピークロード以外) IEA(2016)”Electricity Information”ドイツのピークロード Agora(2015)”Report on the German power system Version 1.01 COUNTRY PROFILE”

注1:データは全て2014年のもの

注2:RO=Renewable Obligation

今日の事例(2): 4ゕ国主要データ

日本(参考) 英国 アイルランド ドイツ デンマーク人口(人) 1億2,713万人 6,461万人 461.7万人 8,098万人 564.3万人

面積(平方㎞) 37万8000k㎡ 24.3万k㎡ 7.03万k㎡ 35.7万k㎡ 4.29万k㎡経済規模

(2014年名目GDP)4兆8487億米ドル 2兆9988億米ドル 2562億米ドル 3兆8792億米ドル 3522億米ドル

ピーク電力(MW)

159,070 53,860 4,540 84,000 5,940

FIT RO, FIT→FIT, CfD-FIT REFIT FIT, FIP FIP

N/A

36,060

基礎情報

発電設備容量(MW)

97,010 198,420 13,6609,080

電力情報

再エネ情報

再エネ主要政策

太陽光発電電力量(GWh)

338,930

12,990

32,020

5,380

発電電力量(GWh)

4,050

風力容量(MW)

1,040,680

315,320

太陽光発電容量(MW)

13,080風力電力量

(GWh)

2,210

627,800

39,190

5,140

4,890

57,360

38,230 610

600

26,310 32,180

24,510

23,340

5,040

2,750

0

図 英国における周波数実測結果(2014年1月5日)

Freq

uenc

y

0 o’clock 6 o’clock 12 o’clock 18 o’clock 24 o’clock

Upper limit of management+0.2 Hz

Lowest limit of management-0.2 Hz

Exceeded the upper limit

14

グレートブリテン系統では風力発電の急増で、周波数変動許容範囲50Hz±0.2Hzの維持がますます困難に

なっていく見通しである。特にグレートブリテン系統では大陸系統と比べて需要規模が大きくないため、変動性再エネの増減による周波数変動の影響が大きくなる。左図は2014年1月5日の例であるが、周波数50Hzの適用上限0.2Hzを超過する事例がでていることを示している。

短周期変動調整の問題

出所:ナショナルグリッド

風力資源はアイルランドとグレートブリテン島北部、西部に集中。

出所: “Digest of United Kingdom Energy Statistics 2015”,

Department of Energy & Climate Change (2015)

図 英国におけるウィンドファームの位置(2014年12月31日)

出所:Simon Moore (2014) “Getting Interconnected How can interconnectors compete to help lower bills and cut carbon?” Policy Exchange (8/66)http://www.policyexchange.org.uk/images/publications/getting%20interconnected.pdf 図 英国における国際連系

with technical de-rated capacity

IFA(France) 52% 1.04

Eleclink(France) 58% 0.56

BritNED(Netherlands) 69% 0.69

NEMO(Belgium) 54% 0.54

Moyle EWIC(Ireland) 5% 0.06

Total 2.89

出所: DECC (August 2015), Electricity Market Reform: Capacity Market

2015年容量市場オークション

採択BritNed Development Limited(既設)

National Grid Interconnectors Limited(既設):IFA非採択

NEMO LINK LIMITED(新設)――――――――――――――――――――――――――――――――2016年容量市場オークション

採択

BritNed Development Limited(既設)

EirGrid Interconnector Limited(既設)East-WestMoyle Interconnector Ltd(既設)

National Grid Interconnectors Limited(既設):IFA非採択 NEMO LINK LIMITED(新設)

英国では国内の供給力に問題があるため、国際連系線整備が有効で、複数の計画がある。既設容量市場でも落札した。しかし、前日市場のマーケットカップリングには対応できるが、短周期変動には対応できない。

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需給調整サービス名 応答・継続時間(短期)応答・継続時間

(長期)

Enhanced Frequency Response(EFR)

FrequencyResponse

FFR-Primary

FFR-Secondary

Reserve Services

Fast reserve

STOR(待機予備力) 240分以内応答、2時間継続

1秒以内応答 ・15分継続充放電

2~10秒以内応答 ・20秒以上継続

30秒以内応答 ・30分以上継続

1秒 10秒 20秒 30秒 2分 15分 30分 45分

注1:STOR(Short Term Operating Reserve):指令から240分以内で最大出力、最低2時間継続、上げと下げがありMWとMWhで支払い、年3回の入札市場による取引で確保

注2: Fast reserve: 上げ下げがあり、入札期間に時間ごとのAvailability Fee (£/h)、発電量ごとのUtilization fee(£/MWh)、Holding fee(£/h)が得られる、ナショナルグリッドとの相対取引、月ごとの入札市場による取引

注3: Firm Frequency Response(FFR): 以下の3つがあり、 Primary (1次):10秒以内に応答、最低20秒継続(上げのみ)、 Secondary(2次): 30秒以内に応答、少なくとも30分間継続(上げのみ) Hi Frequency: 10秒以内に自動応答、(下げのみ)、FFRは3つとも入札市場を介した取引

出所:BEIS資料 等を参考に作成

指令後2分以内にサービス提供、最低15分継続

Enhanced Frequency Response(EFR): エンハーンスト市場が、2016年8月開札された。指令から1秒以内応答、上げと下げで15分間継続がナショナルグリッドから求められる。

図 英国における需給調整市場の概要 16

表 エンハーンスト市場落札者 (2016年7月の落札事業者)

出所:National Grid Electricity Transmission “Enhanced Frequency Response market Information Report” (26th August 2016)

37の事業者から64のサイトで243プログラム(1,684MW)の応札があり、8つのプログラム(200MW)が落札した。平均落札価格は 9.44£/MWh(1.27円/kWh)という非常に低い落札価格であった。蓄電池の低コスト化という技術革新を反映か?欧州での陸上風力のビジネス機会が減少が原因か?

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注1:Service1: Wide deadband service (Service1)

Service2: Narrow deadband service (Service2)

出所:National Grid Electricity Transmission “Enhanced Frequency Response market Information Report” (26th August 2016)

図 エンハーンスト市場における供給カーブ

メリットオーダーにより8つのプログラムが落札した。一応透明性のある市場は新規参入者にとって参入しやすい市場である。

18

卸市場向けアグリゲーター

(例:Smartest Energy)

DR・アンシラリー市場向けアグリゲーター

(例:KiWi Power)

卸市場

National Grid (ITO)

蓄電池ビジネス

配電会社

容量市場

電力供給 & Tolling 契約

アグリゲーターサービスアグリーメント

ReserveService

ResponseService

EFR契約(4年)

容量市場契約

電力供給、ピークカット無効電力、電圧調整サポート

出所:UKPN 等各種資料から作成

英国ではエンハーンスト市場に漏れた蓄電池業者が陸続と卸市場に流入

図 英国における蓄電池を活用した新たなビジネスチャンス 19

表 2016年容量市場入札で落札された蓄電池入札企業

出所:英国政府

再生可能エネルギーが増加し系統の安定度への懸念が生じる中で、英国容量市場において蓄電池の落札(500MW)やデマンドレスポンスの拡大は短期周波数変動への対応に英国が注力していくことを示している。

20

表 FITのNew Generation Tariffs

出所:DECC (2015) “Review of the Feed-in Tariffs Scheme”

FITはNon Energy professionalを対象にした制度でリターン率は事業者にとって望ましいものでなければならないという考えを英国政府は持つ。すべての事業者に平等に4-9%程度のリターンが保証されるような料金設定がなされている。

(Consultation tariff → New tariff)

英国ではFITの対象は小規模事業者で政府が積極的に支援

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- 目次 -

I. 問題意識

II. 欧州における変動性再生可能エネルギーの現況と課題

III.欧州主要国における市場改革と活用事例1. 英国:需給調整市場活用による蓄電池電力取引事例2. アイルランド:需給調整市場における短周期変動対応市場

3. ドイツ:再エネVPP取引事例、前日・当日・需給調整市場における揚水の市場化

4. ノルドプール:電力取引イノベーションをリードする先駆者

IV. 欧州の経験から考える日本への教訓

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表 アイルランドと北海道の比較

注 アイルランド経済規模は1ドル=110円換算出所:アイルランド人口(2014年)http://databank.worldbank.org/data/home.aspx

アイルランド面積http://databank.worldbank.org/data/home.aspx北海道人口(2014年1月)http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ss/tuk/920hsy/920hsy16_03.pdf p.12北海道面積http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ss/tuk/920hsy/920hsy16_01.pdfp.2(アイルランド電力)http://www.seai.ie/Publications/Statistics_Publications/Renewable_Energy_in_Ireland/Renewable-Electricity-in-I

reland-2015.pdf(北海道電力)http://www.hepco.co.jp/corporate/company/ele_power.html

http://www.hepco.co.jp/energy/recyclable_energy/fixedprice_purchase/supply_demand_results.html

アイルランドの国としての再生可能エネルギーのターゲットとして2020年までに発電量で40%にする目標がある。発電設備容量で75%のSNSP(System Non-Synchronous Penetration)を達成する(2016年現在、風力は容量の32%程度、陸上風力2,375MW,洋上風力25MW)。

23

VRE

アイルランド 北海道

461.1万人 546.3万人

7.03万 k㎡ 8.34万k㎡

28.19兆円(2014年名目)  18.4兆円(2014年度名目)

26.32TWh(2014年) 販売電力量(2015年度)28.59TWh

7,529MW(2016年) 7,956MW(2016年3月)発電設備容量

再エネ

(水力含む)27.3%(2015年度)

風力比率 22.8%

(2015年度)

22%(2015年度)

太陽光比率 5.6%

風力比率 2.1%

(2016年4月-9月発電量実績)

人口(人)

面積(平方㎞)

経済規模

(名目GDP)

発電量

石炭

ガス

輸入

風力

水力

CHP

褐炭

出所:Eirgrid/SONI

図 2014年1月のアイルランドの電力需給

アイルランドが孤立系にもかかわらず再エネ大量導入が可能となってるのは、主にガスで調整を行なっているためである。アイルランドの卸価格は英国からガスを購入するため、英国のガス価格と連動している。

24

北アイルランド: Carrickfergus – AES Kilroot (10MW → 100MWへ)

出所:AES | Energy Storage | Deploymentshttp://aesenergystorage.com/deployments/ 25

主に風力の大量導入により、慣性問題、短周期変動対応が問題になってきている。

北アイルランドに導入される大容量蓄電池の例としてAESの100MW蓄電池がある。AESは全世界で432MWの蓄電池を稼動し周波数調整力を提供する。

サービス用途

サービス名 反応時間 持続時間 支払い単位2020年システ

ムニーズ2016年システ

ムニーズSynchronous Inertial Response(SIR)

N/A N/A MWs2h 2% 0%

Fast Frequency Response (FFR) 2 sec 8 sec MWh 12% 6%Primary Operating Reserve (POR) 5 sec 15 sec MWh 11% 13%Secondary Operating Reserve(SOR)

15 sec 90 sec MWh 7% 11%

Tertiary Operating Reserve(TOR1)

90 sec 5 min MWh 8% 10%

Tertiary Operating Reserve(TOR2)

5 min 20 min MWh 8% 10%

Replacement Reserve -Synchronised (RRS)

N/A 20-60min MWh 1% 2%

Replacement Reserve -Desynchronised (RRD)

N/A 20-60min MWh 1% 7%

Ramping Margin 1 (RM1) N/A < 1hr MWh 3% 3%Ramping Margin 3 (RM3) N/A < 3hr MWh 5% 5%Ramping Margin 8 (RM8) N/A < 8hr MWh 5% 5%Fast Post Fault Acitve PowerRecovery (FPFAPR)

N/A N/A MWh 17% 5%

Steady State Reactive Power(SSRP)

N/A N/A MVArh 11% 15%

Dynamic Reactive Response(DRR)

N/A N/A MWh 10% 2%

周波数安定化

電圧安定化

アイルランドでは系統周波数安定化と系統電圧安定化を図り、かつ既存火力を効率よく、運転するためにDS3(Delivering Secure Sustainable System)が形成された。DSプログラムは周波数変化率の緩和、連系線の強化、風力からの予備力供給に加えて、慣性問題、短周期変動問題を解決するため表のように市場からアンシラリーサービスを調達するプログラムが形成中である。14と商品が多いが(〜8時間まで)これは風力のあらゆる変動に対応するためである。2016年と2020年の必要度を比べると2秒以内に応答するFFRと電圧調整のニーズが高まる予想であるのがわかる。それぞれのサービス商品ごとにAuctionが行われるわけではなく、いくつかのサービスをパッケージにした契約でAuctionが行われる。従って単純なメリットオーダーではない形式になる。

表 アイルランドにおけるDS3のプログラム

26出所:EirGrid/SONIの資料を基に作成

<英国・アイルランドからの教訓>

1. 蓄電池の有効利用

(英国)短周期変動対応のため主に蓄電池向け市場を設置し、安価に調整力を調達

できたこと、蓄電池を中心に新たなビジネスモデルを展開して行く気運があることが教訓である。

(アイルランド) 市場を活用して電源中立でコスト・ミニマムな調整力を調達することを企図している

蓄電池だけを優先させると、系統運用、整備を後回しにする懸念はあるが、蓄電池コストは急速に低下しており系統と繋ぎやすくするための規制緩和、蓄電池の調整力としての価値を正しく評価し、その特性を活かした市場などの制度づくり(英国は主に蓄電池が入札できる市場、アイルランドは電源中立)も教訓となろう。

2. 自治体電力がうまくいかないケースが出ているが、地域の期待が大きい割りに財政力が乏しい地元事業者の支援にFITは残すべき。

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- 目次 -

I. 問題意識

II. 欧州における変動性再生可能エネルギーの現況と課題

III.欧州主要国における市場改革と活用事例1. 英国:需給調整市場活用による蓄電池電力取引事例2. アイルランド:需給調整市場における短周期変動対応市場

3. ドイツ:再エネVPP取引事例、前日・当日・需給調整市場における揚水の市場化

4. ノルドプール:電力取引イノベーションをリードする先駆者

IV. 欧州の経験から考える日本への教訓

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図 日本とドイツの市場運営比較

・2011年9月より当日市場(Intraday)の取引が15分単位で可能になった。(流動性の向上):以前は1時間単位・2014年12月より前日市場Day Ahead)で15分取引が可能になった。:以前は1時間・取引単位が15分になり市場の流動性が高まり、またFIPのような制度変更によりNextkraftwerkeのような再生エネVPPが活躍できるようになった。

出所:DECC、ENTSO-E(2014)、ドイツ連邦経済エネルギー省ホワイトペーパー(2015年7月) を参考に京都大学長山作成

<日本>先物市場

(新規)先渡市場

スポット市場

リアルタイム市場(2020年以降

新設)

JEPX

数年~数日前実取引の48時間前

実取引の前日12時

当日1時間前

GC 実需給

実需給

4年

各送配電会社

Forward 市場前日

(Day ahead)市場

当日(Intraday)

市場

需給調整市場(1次、2次、3次)

<ドイツ>

EPEX・SPOT

△再給電

△再給電

EEX

GC(30分前)

△再給電

4TSOs

前週火曜日1次予備力確

前週水曜日2次予備力確

Capacity Reserve起動開始

前日10時に

3次予備力確保

インバランス精算

インバランス精算

直接的オークション 間接的オークショ

連系線

容量市場

時間前市場

ベースロード電源市場

29

ドイツにおける市場の流動性の高まり

30

以下の2つが収入構造

1) 需給調整市場における取引(収入の50%)

2) 卸市場における取引(前日、当日):できる限り正確に天候を予測してベストのタイミングで売却する(収入の50%)

再エネVPP取引事例

目的

過程

地位

チーム

100%再生可能エネルギーを可能にする

デジタル、柔軟性、持続可能性

ヨーロッパ最大のデジタルユーティリティーの一つ

広範なアカデミックなバックグラウンドを持つ約130人の従業員

出所:経済産業省 (2016) 「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスについて」第1回 エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス検討会資料4 6/10ページhttp://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/energy_resource/pdf/001_04_00.pdf

31

(前日・当日)

32

6か国で4000のユニット、2700MW以上(図の6か国とスイス、イタリア)内、800MWが特に高い柔軟性

遠隔操作のユニットNext Box経由で結びつけられる。

中央制御システムによりコントロールされる

*Thomas Lommee出所:NextKraftwerke

4000の発電所から、1)リアルタイムの出力と電力需要 2)バイオガスのタンクであれば、今どのくらいのガスが貯蔵されているのか 等の情報を得る。

Next Box

柔軟性電源としてのバイオガス(電気と熱)、固形バイオマス、コジェネ(ガス)、小水力(以上で59%)、DSM(3%)、太陽光・風力(40%)、病院や工場等の緊急用電源(不使用時)から

集めて、前日市場、当日市場、需給調整市場に投入する。特にバイオガスの上げ予備力、下げ予備力が柔軟性を提供する。

33

59 %

3 %

24 %

14 %

Flexible Renewables 柔軟な再生可能エネルギー

DSMSolar power 太陽

Wind power 風力

Assets in Germanyドイツにおけるアセット

全体のポートフォリオ

出所:NextKraftwerke

34

<当日市場における柔軟性の活用>

当日市場で大きく揺れるところが、同社にとっての儲けになる。高い値段をつけるところで、バイオガスや需要家側のDSMを販売するということになる。

注:ベース(その日一日の取引の平均価格)

資産の稼働 ベース 前日市場価格 当日市場価格

出所:NextKraftwerke

出所:Lion Hirth(2015) 'Balancing power 2015 Insights to the German market for balancing power’

ドイツでは風力と太陽光が増えているが調整予備力は20%減少している。(Primaryの価格のみ上昇、Secondary, Tertiaryの価格は下落)この理由としては①2009年よりドイツのTSOが協力して調整予備力の減少に努めていること。またよりドイツ以外に地理的に拡大したIGCC(International Grid Control Cooperation)に入ったこと。

②前日市場、当日市場の流動化向上。需給調整市場ではなくスポットでの当日市場での取引でVRE電源の大部分の「しわ取り」がされている。

図 ドイツにおける変動性再エネの導入容量と需給調整市場の規模 35

36

現在は再エネ取引業者が、卸市場で取引をするという形になっている。取引業者はなるべく正確に気象を予測し、直前の当日市場でできる限り取引するというインセンティブが働くようになった。2012年前までは、調整電力はTSOが独占的に市場で調達してきたが、この市場と当日市場との間の垣根が下がり、競争が激しくなってきている。 (2012年にFIPでも市場価格を上回る利益は享受、下回る損失は補填の制度ができた。2012年にインバランス価格も高くなり、バランシンググループが同時同量を達成するインセンティブ付けとなった。)

ドイツにおいて需給調整市場が縮小し、当日市場が大きくなっている理由

注:FIP=Feed in Premium出所:DECC、ENTSO-E(2014)、ドイツ連邦経済エネルギー省ホワイトペーパー(2015年7月) 及びNextKraftwerke社資料をもとに京都大学長山作成

Forward 市場前日

(Day ahead)市場

当日(Intraday)

市場

需給調整市場(1次、2次、3次)

EPEX・SPOT

△再給電

△再給電

EEX

GC(30分前)

△再給電

4TSOs

前週火曜日1次予備力確

前週水曜日2次予備力確

Capacity Reserve起動開始

前日10時に

3次予備力確保

インバランス精算

直接的オークション 間接的オークショ

連系線

図 日本とドイツの市場運営比較

<再エネの取り扱い>

FIT電力の全量をTSOが買い取り(インバランス料金の責任もTSO)

TSOは系統管理に専念(インバランス料金のリスクは

市場取引業者)

2012年以前

2012年以降(FIP導入、インバランスペナルティ強化))

TSOが前

日市場で取引

予想よりも多く(少なく)発電した電力

は当日市場でトレーダーが相殺

実需給

図 ドイツ全土の発電量(2015年3月16日~3月22日)

注1:石油・季節ストレージ・その他による発電量は少量であり、グラフ中での確認は困難である。注2:季節ストレージとは、温水の熱循環等を用いて電力を貯蔵するストレージである。 (Source: Volmar, Dirk, “Status of seasonal thermal energy storage in Germany”)

ドイツでは2015年3月20日に日食が発生輸出入 水力 バイオマス 原子力 褐炭 無煙炭 石油 ガス その他

揚水 季節ストレージ 風力 太陽光

積み上げ

パーセント

出力

日/月/時間(2015)

日時

<3月16日> <3月17日> <3月19日> <3月20日> <3月22日><3月21日><3月18日>

風力

日食発生

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ドイツにおいては、揚水は前日・当日市場と需給調整市場で活用されている。

太陽光

揚水

ガス

無煙炭

褐炭

原子力

バイオマス

水力

ドイツにおける揚水発電所

ドイツにおける揚水発電所は6.5GWで太陽光の20%程度の容量しかないが、日食など急激な出力変化に有効である。

日食により急激に出力が落ちる前に揚水で上げておき、日食時に発電し、また揚水モードに戻すことで残余需要の急激な変動を抑えている。

注 :残余需要=全需要-(太陽光+風力)

出所:Euroelectric (2015) “Hydropower – Supporting a power system”

図 ドイツにおける日食時の揚水発電による調整

全負荷 残余需要

日食

発電モード

揚水モード

残余需要(揚水発電)

全負荷 余剰需要

揚水モード発電モード

揚水発電を考慮にいれた残余需要太陽光発電出力 全負荷 残余需要

全負荷

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共通のメリットオーダーリスト

TennetAmprion

TransnetBW 50Hertz

Controlling block

(参考:ドイツの需給調整市場の形成)

4つのTSOでインバランスのネッティングを行い、調整する量を減らすところから当初ははじまり(4つのそれぞれ役割分担があった)調整力市場に拡大した。

出所:京都大学長山現地調査

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<ドイツからの教訓>

1. 透明性のある厚みのある前日・当日市場の設立–前日・当日市場の拡充(例:前日・当日市場の取引を30分単

位から15分単位にし、市場の流動性を高める。)–当日市場の拡充で、需給調整市場(2次、3次)は縮小する

傾向にある。

2. 揚水(可変速揚水)など調整力のある電源を市場の中で活用する。

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- 目次 -

I. 問題意識

II. 欧州における変動性再生可能エネルギーの現況と課題

III.欧州主要国における市場改革と活用事例1. 英国:需給調整市場活用による蓄電池電力取引事例2. アイルランド:需給調整市場における短周期変動対応市場

3. ドイツ:再エネVPP取引事例、前日・当日・需給調整市場における揚水の市場化

4. ノルドプール:電力取引イノベーションをリードする先駆者

IV. 欧州の経験から考える日本への教訓

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出所:NORD POOL(3.April 2017) ‘The Nord Pool model presented to Renewable Energy Economics Program Kyoto university, Japan’

ヨーロッパの先駆的な電力市場

Nord Pool オフィス

ノルディック/バルトと英国―前日と当日市場

ノルディックの(電力)量にアクセスする当日市場(ドイツ)

YTD(year-to-date=1年前から今日まで)のサービス(が提供される)市場

120名の従業員会員数 380

Nord Pool

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入札時間 TSOはゾーン毎

の送電容量を決定

入札者は入札量を計画

入札終了

入札と送電容量に基づき、広域(ゾーンを超えた)価格が、欧州共通アルゴリズムにて、同時に決定(マーケット・カープリング)

市場価格公表

取引の精算

前日取引の結果の当日の空き送電容量が公表

取引の精算当日市場は、1時間ごと、1時間前

まで実施。速く、リアルタイムで、連続なクロスボーダー取引が可能

(出所)Nord-Pool (和訳)京大再エネ講座

図 Nord-Poolの前日市場スケジュール

取引所取引に関して、入札が進行する中で、常に需要、供給と(ゾーン間、取引所間の)送電容量情報が、提供・確認され、市場価格・数量が決まる。 EUはすでに90%で市場統合が行われており、同じ時間に一斉に価格形成が行われる。実需給の前日14:00に前日市場の取引を反映した、当日市場で利用可能な送電線容量が公表される。取引はリアルタイムで進行し、取引結果は即座に送電線の残り容量にも反映される。

<当日市場>

この範囲内で当日問引き開始

<前日市場>

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– デンマーク(柔軟な分散型電源配置の例)大規模集中型から分散型電源へ:1980年代の大型の石炭の中央集中型発電設備からコジェネの分散型発電設備と風力(陸上及び洋上)へ。

通信設備を具備して市場連動型にすることにより、全ての分散型電源や需要(さらには連系線も)が柔軟性を供給できる能力を発揮する。

出所:Agora Energiewende (2015) “A Snapshot of the Danish Energy Transition Objectives, Markets, Grid, Support Schemes and Acceptance Study” p.21 (19/ 21)

中央集中型発電

陸上風力洋上風力

分散型コジェネ

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1980現在

45出所:植田・山家編著, 安田他:「再生可能エネルギー政策の国際比較」, 京都大学学術出版会 (2016) より安田陽改変

図 北欧における市場取引のイメージ

<BPRが大きな役割を果たす>– ノルドプールでは(欧州の他の市場でも大抵)短時間市場のゲートクローズまでの需給調

整はBRPが市場取引を通じて責任を負い、ゲートクローズ後実供給までの物理的な需給調整をTSOが負う、という役割分担。

– 全ての発電事業者、小売事業者はいずれかのBRPに所属(登録)する。– BRPは大手発電事業者が持つ場合もあり、独立したパワートレーダーが小規模事業者を束

ねる場合もあり、アグリゲータとして小売事業者を束ねる場合もある。

<ノルドプールからの教訓>

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1.公平性、透明性、流動性、利便性の弛まぬ追求により取引市場の拡大化、単一化をリード(市場のシステムの整備)

2.取引所取引に関して、入札が進行する中で、常に需要、供給と(ゾーン間、取引所間の)送電容量情報が、提供・確認され、市場価格・数量が決まる。

3. 複数のBRP(Balancing Responsible Party)が市場を活用しながら需給調整を行う主体となること(市場の参加者の育成)。

-上記の市場にVREやDRも入札できること。-新規参入障壁をなくし、既存プレーヤーに有利な抜け道を作らないこと、などの法制度の整備が必要になる。

- 目次 -

I. 問題意識

II. 欧州における変動性再生可能エネルギーの現況と課題

III.欧州主要国における市場改革と活用事例1. 英国:需給調整市場活用による蓄電池電力取引事例2. アイルランド:需給調整市場における短周期変動対応市場

3. ドイツ:再エネVPP取引事例、前日・当日・需給調整市場における揚水の市場化

4. ノルドプール:電力取引イノベーションをリードする先駆者

IV. 欧州の経験から考える日本への教訓

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Ⅳ. 欧州の経験から考える日本への教訓

・再エネ普及には、市場の整備が重要。欧州の例を見ると前日取引重視が基本で、それに加え、当日市場の役割が高まっている。(結果的にTSOの負担を軽減することになる。)

・こうした動きの中で、フレキシビリティのある電源(蓄電池、揚水等)、VPP等の活躍の場が大きくなり、市場で価値を適正に評価されるようになる。

・透明な市場取引は、送電線(連系線含む)の有効活用にも寄与することになる。

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日本

当日1時間前

先物市場(新規) 先渡市場 スポット市場 時間前市場リアルタイム市場(2020年以降

新設)

JEPX

数年~数日前 実取引の48時間前

実取引の前日12時

GC実需給

実需給

4年

各送配電会社

ベースロード電源市場

容量市場

ご清聴頂き有難うございました。

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