株式会社エクセディ · 2019. 3. 25. ·...
TRANSCRIPT
43 Best Practices Collection 2019
ダイバーシティ経営の背景とねらい
労働人口の減少を見据え、女性社員を戦力化する必要性 株式会社エクセディ(以下、「同社」)は、1950年に株式会社大金製作所として創業し、1995年から現社名に改称した。1950年から自動車部品であるクラッチや、トルクコンバータ(トルコン)を製造・販売している B to B企業であり、トルコンについては世界で約 21%、クラッチは約 10%のシェアである。 創業以来、男性中心の企業であり、女性社員が工場内の事務に配属されることはあっても、製造作業自体に従事することは少なかった。しかし、少子高齢化により日本の労働人口が減少傾向にある中、B to Cの企業と比較して知名度が低いことや、大阪市郊外に本社が位置していることもあり、将来、人手不足に陥ることは明らかだと考えていた。国内でのトルコン生産の拡大や海外への販路拡大を見据え、日本人男性社員のみを戦力とするのではなく、多様な人材の確保、社員の定着を目指し、ダイバーシティ経営を進めることとした。
ダイバーシティ経営推進のための具体的取組
本社工場(大阪府寝屋川市)に女性社員のみの製造ラインを新設 約 30年前に現社長がアメリカに赴任をしていた際には、アメリカでは女性社員がフォークリフトに当然のように乗っている状況を目にしており、その当時から、女性社員が活躍できていない日本の状況が特殊であり、女性社員も現場で活躍できると確信していた。また、2000年代初頭に同社グループのタイやインドネシアの工場で女性社員のみの製造ラインが稼働し、高品質の製品作りに結びついた成功事例を受け、2009年に寝屋川本社で女性社員のみのトルコン製造ラインを導入した。同ラインを作るにあたり、女性社員が現場で働くための環境作りや改善を実施した。例えば、男性社員と比較して身長が低く、筋力の弱い女性社員に配慮して製造ラインの設備 ▲女性社員のみの製造ライン
株式会社エクセディ 大阪府労働人口の減少を見据え、多様な人材の確保と社員の定着に向け、女性社員が活躍できる環境を整備し、不良率の改善による生産性向上を実現
ダイバーシティ経営推進のストーリー
企業概要会社設立年 1950年資本金 8,284百万円本社所在地 大阪府寝屋川市木田本宮1-1-1
事業概要
マニュアルクラッチ(手動変速装置用製品)やトルクコンバータ(自動変速装置用製品)等の自動車用部品、その他、建設・産業機械用製品、二輪車用クラッチの生産・販売
売上高 283,300百万円(2018年 3月期)
従業員の状況総従業員数 3,476(2,770)人女性 483(342)人外国人 510(100)人チャレンジド 25(19)人高齢者 3(0)人平均勤続年数 11.6 年
男性 12.1年 女性 8.4 年
※( )内は正規従業員数 ※ 2018年 8月時点
• 知名度の低さや立地条件に起因する人手不足が課題• 多様な人材の確保と社員の定着に向け、ダイバーシティの取組を推進
背 景
成 果
取 組
• 女性社員が現場で活躍できる環境作り• 本社工場(大阪府寝屋川市)に女性社員向けの製造ラインを新設• 海外販路拡大を見据え、社内のグローバル化を推進
• 女性社員の現場活躍で不良率が改善し、生産性が向上(女性社員の製造ラインを創設した 2009年比で 5割改善)• 女性管理職の増加(2012年度 1名→ 2018年度 8名)
サービス業
(他に分類されないもの)
建設業
製造業
情報通信業
運輸業・郵便業
卸売業・小売業
金融業・保険業
医療・福祉
宿泊業・
飲食サービス業
製造業
対 象
女性 外国人 障がい者 高齢者
キャリア・スキル・経験 限定なし その他
取 組
役員層の多様化
経営会議等への社員参画
柔軟な働き方の整備
評価・報酬・登用基準の明確化
管理職の行動・意識改革
研修やスキル取得環境の整備
キャリア形成意識の醸成
資金調達や人材確保のための情報発信
大企業
44Best Practices Collection 2019
の高さを低くし、女性社員でも届きやすい位置に移動させ、さらに、重量のあるものを上げ下げせずに済む機械を導入した。その結果、重いものを運ぶ機会が減ることで、女性社員だけでなく、男性社員にも働きやすい職場に繋がった。また、以前は女性社員が休憩できるスペースが少なかったが、新たに女性社員の声を取り入れ工場内に女性専用の休憩所を導入した。このような改善は、現場で実際に働く女性社員の意見を聞きながら取り入れていった。海外販路拡大のため、社内のグローバル化を推進 同社の海外展開は、取引先である日本の自動車メーカーが米国に進出したことをきっかけに、1980年代から開始している。それに合わせ、トルコン、クラッチの組み立て用工場を現地に設立した。加えて、商品の消耗に備え、交換用の部品についても海外に販売網を築いている。 2015年から、同社としての考え方を海外グループ企業にも広めるため、海外工場の社員を日本に迎え入れている。具体的な作業方法だけでなく、作業の裏にある考え方やマインドの共有を行っている。受け入れた社員からは、日本で経験を積んだ感想として「時間をきっちり守るようになった」「職場をきれいにするように変わった」という声が多く聞かれ、作業品質の向上に役立っていると感じている。さらに、企業理念である EXEDYWAYについても多言語に翻訳され、25か国に勤務する全社員に配布され、企業理念の浸透に寄与している。 加えて、海外拠点の現地人幹部候補を集めて年 1回開催している研修では、参加者は社長と対話をしながら理念への理解を深め、EXEDIAN(企業理念の実践者)代表として各拠点に本社の思いを持ち帰っている。また、日本本社の管理職に対しては、業務時間内に英会話の研修を提供し、グローバル化に対応するためのスキル面からの支援も行っている。 管理職だけでなく、海外要員候補を育てるため、海外拠点での実務研修に若手社員を派遣している。研修後、現地国に駐在する流れが確立されつつあり、更なるグローバル化の一端を担っている。
ダイバーシティ経営の成果
女性社員が現場で活躍し、不良率が改善 女性社員の製造ラインを新設し、現場のラインで活躍できる環境を整えたことで、女性社員数が 5年連
続で増加している。女性社員の製造ラインを新設した2009年と比べると、2017年度の全社不良金額は半減し、また、女性社員の製造ラインは特に不良率が低く、2年連続不良件数 0を達成、生産性の向上に寄与している。現在、マニュアル車向け部品工場や、伊賀市の工場においても、女性社員が現場のラインに加わって活躍している。また、女性管理職については、2012年度は 1名だったが、2018年には 8名に増えており、徐々に活躍が進んでいる。
ダイバーシティ経営の今後の展望
今後のダイバーシティ経営推進の活動は現場の実態にあわせて推進 今後も、男性、女性だけでなく外国人や障がい者等すべての社員が活躍して、国内・海外ビジネスで成果を上げることを目指したいと考えている。 これからのダイバーシティ推進の活動は、現場ごとの事情に沿って進めていくことを目指しており、各現場の意見を吸い上げてそれぞれの事情に沿った施策を打ち出していきたい。特に、工場では、夜勤を含むシフトや重い製品を持ち運ぶ仕事もあるので、個々人の強みを生かした配置が必要である。ダイバーシティ推進の取組を実施することで、社員全員が「この会社は働きやすい」と実感できるような会社にしていきたい。
▲様々な現場で活躍する外国籍社員
活躍している社員女性社員のみの製造ライン立ち上げに関与し、女性ライン工として勤務 同社社員の K氏は、MT製造本部本社トルコン工場で勤務している。女性社員のみの製造ラインを立ち上げるための準備フェーズから関わっており、実際に現場ライン工として勤務するだけでなく、女性社員が勤務しやすい職場作りに注力している。 元々は、非製造業の企業で事務として働いていたが、モノづくりに興味があり同社に中途入社。地元寝屋川市出身で、前身の大金製作所時代から同社のことは慣れ親しんだ存在であった。 女性社員のみの製造ラインの立ち上げ時から一貫して、女性社員が働きやすい職場環境づくりに携わっており、工場や現場環境の改善の旗振り役を担ってきた。例えば、防寒着の導入や、前述の休憩所の導入についても、デザインや機能の面で自身の考えを反映させている。同氏が携わった現場環境づくりの結果、女性社員のみの製造ラインは拡大しており、不良率改善等の効果が上がっている。 また、工場見学がある際には、L氏をはじめ女性社員が説明を担当しているが、見学者から「女性が現場の説明を行っているのですね」という声掛けを受けるケースがあり、その度にエクセディは女性活躍が進んでいると感じ、仕事のやりがいに繋がっているという。
▲工場見学の際に女性社員が説明をしている様子