クリーンランゲージについて その2

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クリーンランゲージについて その2 2015-02-18 西尾泰和

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クリーンランゲージについて

その2

2015-02-18

西尾泰和

前回のあらすじ

最初の一歩として

「クリーンな一人書き出し法」を学んだ

(他人や口頭対話の扱いは習得に時間が掛かる)

「問題ではなく理想」の原則と、

もっとも重要な2つの質問と、

開始と終了のための2つの質問を学んだ。

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今回のスライドの目的

最初の一歩を習得した人のために

次の一歩を解説する。

キーワード選択のもう一つの原則と

基本5質問の残りの2つを学ぶ。

3

クリーンな一人書き出し法の目的

あなたは、今語り得る以上のことを知っている

クリーンな質問によって、これらの言語化を促す

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公共言語へのとらわれ

「他人と共通だと思う意味体系」(公共言語)

で話すことが重要だと考えがち。しかし、

言語化されたばかりのものは公共言語ではなく

個人的なメタファー☆などの形を取っている。

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個人的なメタファーの例

「この一人書き出し法のプロセスのことを、

以前は卓球のラリーのように思っていたけど、

それは間違いで音楽のようにやるべきだった。」

説明なしでは通じにくいが

本人にとってはしっくりくる表現

これを許容し、むしろ積極的に求める

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もう一つの原則

前回、キーワードの選択の指針として

「問題ではなく願望」の原則を説明した。

今回、もう一つ原則が加わる。

身体感覚や個人的なメタファーは

「まだ言語化されていないもの」の近くにある

そこで…

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「抽象概念より個人的感覚」の原則

抽象概念は公共言語の可能性が高い。それよりも

• 個人的感覚(見える、聞こえる、感じる…)

• 個人的行動(する、進む、登る…)

• 個人的メタファー(ラリー、音楽、階段…)

を優先的に選び、注意を向けていく。

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例題

「スムーズな話の流れを見出して

読者がわかりやすい説明を作りたい」

という言葉が出たとします。

どこかをキーワードとして切り出して、

「Xはどのような種類のXですか?」

と質問してください。

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次のページには○が4つ、×が4つ書かれています。

階段の先では、ジェスチャーや口調、そこまでの会話の流れなどを含めて判断します。

そのため、絶対的な正解も不正解もありませんが

最初の一歩として、ここではあえて○×にしています。

キーワード選択の例 • ◎その「見出す」はどのような種類の?(感覚)

• ○その「作る」はどのような種類の?(行動)

• ○その「スムーズ」はどのような種類の? (この文章だけでは感覚か抽象かがわからない。話すときにジェスチャーが出るとか、

声が強くなるなどの「感覚を伴ってそうな兆候」があれば◎に昇格する)

• ○その「話の流れ」はどのような種類の? (メタファーではあるけど一般的な使われ方なので抽象か個人的メタファーか区別がつかない。ジェスチャーや視線などで物理的な川の流れのようなものを「見て」いそうなら◎に昇格する)

• ×その「読者」はどのような種類の? (有形物ではあるが少し抽象的。これが具体的になることは有益ではあるが、優先度は低い)

• ××その「説明」はどのような種類の? (これは抽象概念だし、どのような説明かがわからないから相手は悩んでいるのでしょう。)

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ここまでのまとめ

抽象概念や公共言語ではなく、

個人的な感覚・行動・メタファーへの注目が

「言語化されていないものを言語化する」

ために重要な役割を果たす

これを踏まえて、クリーンの基本5質問の

残りの3つのうちの2つを見てみよう。

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場所の質問

「そのXはどこにありますか?」

「そのXはどのあたりにありますか?」

基本5質問のうち2つが場所に関する質問

(詳細な場所を特定するために2回場所を聞く)

感覚やメタファーの場所を聞くことで

相手は自分の体との空間的関係を考え

より鮮明に思い浮かべるようになる

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場所がない?

「場所のないものもあるじゃないか。

先に『場所はありますか?』と聞くべきでは」

私も以前そう思っていた。その時の私は

抽象概念と個人的感覚を区別していなかった。

抽象概念は「場所はない」と答えられがちだが、

感覚やメタファーは「強いて言えば…」と

答えが出てくることも多い。

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場所の質問と回答の例 • その「見出す」はどこにありますか?

→あえて言うなら目だな。でも外を見ているんじゃなくて脳の内側を見ているような。

• その「作る」はどこにありますか?

→手かなとも思ったけど、どちらかと言うと

腹の奥で醸成されてそれが手から出てくる

• その「スムーズ」はどこにありますか?

→腕の表面でするするとした感触。

なめらかな筒の中を自分が進んでいくような感じ。

• (悪い例)その「説明」はどこにありますか?

→あえて言うなら頭の中。

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スムーズに回答が出ない?

場所の質問に対してスムーズに回答が出ない?

それは問題ではない。

• 「場所はない」と感じている

→「場所はない」と答えても良い。

「今はまだ場所はないんだな」と解釈する

• 「場所なんて考えたことなかったな」

「どこにあるかな…すぐに出てこないぞ」

→場所がありそうな気がしているなら

どこなのか特定されるのをゆっくり待つ*

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*ゆっくり待った結果「どこにあるのかわからない」という結論になることもあるが

「そうか、今はまだ場所がわからないんだな」と解釈する。

いいよどみは良い兆候

ユージン・ジェンドリンらはカウンセリングの

録音テープを元に、成功と失敗を分けるものが

何かを調査した。

結果:成功したものでは共通してクライアントがいいよどんでいる。

解釈:言語化できて

いないものにアクセス

しているとき、それが

「いいよどみ」として

現れている

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僕の個人的メタファー

以前は卓球のラリーのように、スピーディに

やりとりを繰り返すのが正しいと思っていた。

いいよどんで言葉が止まるのは、

卓球で球を打ち返しそこねるのと同じような

「失敗」だと思っていた。

それは間違いだった。音楽のようにやるべきだ。

鍵盤をひたすら叩き続けてもうるさいだけ。

鍵盤を叩いていない間合い、

音と音の間の空白の時間が大事なんだ。

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まとめ

• 二歩目として以下のことを解説した:

• 公共言語へのとらわれが言語化を妨げる

• 抽象概念より個人的な感覚・行動・メタファー

にフォーカスするという原則

• 基本5質問の2つが「場所の質問」

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まとめ

• 階段の先の以下のことは解説されてない:

• 基本5質問の最後の一つ「何のようですか?」

• 「シンボルの特定は名前と場所と特徴」

個人的感覚をどこまで掘り下るかの目安について

• シンボル間の関係、時間的変化

• 行き止まりの対処:バックトラック、リキャップ

• 対人・口頭での対話の際に重要になる要素:

ジェスチャーへの注目、対話の場のセットアップ、

リピートバック

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おまけ

前回のスライドで使われたキーワード

「最初の一歩」「階段」「階段の先」は

場所が特定されたメタファーの例になっている。

この書き出し法で実際に出てきた、このメタファーに関連する発言:

手法についてだけ説明すると読むのはスムーズだが、使うところで壁に当たる。

理論から説明すると最初から壁に当たる。階段を細かくして少しずつ上がるべき。

階段を上がりきることを目指すのではなく、

最初の一歩を上がることに注力すべき。

で、その最初の一歩はどこにありますか?

最初の一歩は目の前、足元にある。

足元だけ見ていると視線が下向きになってしまう。

見ないとつまずく。だから、まず目線を上げて先の方を見て、

それから足元を見て一歩上がって、

それからまた先の方を見て、近づいたことを確認するのがよい

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次回予告

第3話をいつ、どういう内容で出すかは未定です

反響やフィードバックを見て考える予定。

ここまでのやり方だと「手当たり次第に掘り下げていたら話がどんどんそれていく」という症状が出ると思うので「どこまで掘り下げるのか」と

「戻る方法」を説明するのが第3話、関係を扱うのが第4話かな。

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参考文献 • Clean LanguageはDavid Groveによって

心的外傷のケアのために開発された。

Resolving Traumatic Memories: Metaphors and Symbols in

Psychotherapy

• ここで解説しているのはそれをベースにした

Penny Tompkins と James Lawleyによる “Symbolic Modelling”

Metaphors in Mind: Transformation Through Symbolic

Modelling

• 「公的言語」という表現は、Ludwig J. J. Wittgensteinだが

P.16で紹介したEugene T. Gendlinの著作を介して知った。

体験過程と意味の創造

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