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- 42 - 燃料噴射装置 KN-6S 型インジェクタ 1.はじめに 近年の環境対応から,車には低燃費,低エ ミッションが求められ,インジェクタについ ては,低回転から高回転領域迄の幅広い流量 レンジで正確な燃料の噴射が必要となる.こ のため,インジェクタの性能を常に車の進化 に合わせて向上させ,同時に低価格化も実現 する必要がある. 2.インジェクタの開発の狙い 実機からインジェクタへ要求される性能は 以下に大別される(Table 1). 製品技術紹介 入 戸 慎 一 *1 小 野 康 幸 *2 加 藤   元 *1 木 村 亮 平 *1 Shinichi IRITO Yasuyuki ONO Gen KATO Ryohei KIMURA 岡 田 翔 太 *3 水 野   誠 *4 松 崎 義 和 *5 Syouta OKADA Makoto MIZUNO Yoshikazu MATSUZAKI *1 開発本部 第三開発部  *2 生産本部 生産技術四部  *3 生産本部 品質技術部  *4 生産本部 丸森工場   *5 購買本部 第一購買部 ※ 2012 年 9 月 11 日受付 Table 1 ENGINE demand and INJECTOR requirement エンジンへの要求 インジェクタへの要求 排出ガス低減 噴霧微粒化、粒径分布 低ペネトレーション エンジン停止時蒸散ガス低減 弁部リーク量低減 気筒間バラツキ対応 流量バラツキ低減 アイドル時低回転数化 MinQ低減 (LFR拡大) 異種燃料対応 アルコール燃料対応 E85%~E100% 商品性 作動音低減 *MinQ:Min流量 LFR:MaxQ/MinQ Fig. 1 INJECTOR cross section KN-6型 2003年より量産 KN-6S型 2011年より量産 KN-10型 2007年より量産 インナーカラー カシメ インナーカラー 圧入 インナーカラー 圧入 スリーブ カプラー 3.インジェクタ性能向上 このインジェクタの特徴は,KN-6 型を小変 更に抑え KN-10 型の技術を踏襲することで量 産ラインをフル活用して,設備投資を最小限 に留め,低価格で高性能とした点である. Table 1 の要求に対応した KN-10 型を Fig. 1 に示す.KN-6 型に対して要求を満足するた めに開発された KN-10 型は高性能ではある が,価格面で課題があった.よって KN-10 型 の性能を維持し価格競争力のあるインジェク タを必要とし,KN-6S 型インジェクタを開発 し(Fig. 1),2011年11月より上市した.現在 は,E85 燃料用などに適用拡大中である.

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Page 1: 燃料噴射装置KN-6S型インジェクタ...-42- 燃料噴射置KN-6S型NETOR 燃料噴射装置KN-6S型インジェクタ※ 1.はじめに 近年の環境対応から,車には低燃費,低エ

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燃料噴射装置KN-6S 型 INJECTOR

燃料噴射装置KN-6S 型インジェクタ※

1.はじめに

近年の環境対応から,車には低燃費,低エミッションが求められ,インジェクタについては,低回転から高回転領域迄の幅広い流量レンジで正確な燃料の噴射が必要となる.このため,インジェクタの性能を常に車の進化に合わせて向上させ,同時に低価格化も実現する必要がある.

2.インジェクタの開発の狙い

実機からインジェクタへ要求される性能は以下に大別される(Table 1).

製品技術紹介

入 戸 慎 一*1 小 野 康 幸*2 加 藤   元*1 木 村 亮 平*1

Shinichi IRITO Yasuyuki ONO Gen KATO Ryohei KIMURA

岡 田 翔 太*3 水 野   誠*4 松 崎 義 和*5

Syouta OKADA Makoto MIZUNO Yoshikazu MATSUZAKI

*1 開発本部 第三開発部  *2 生産本部 生産技術四部  *3 生産本部 品質技術部  *4 生産本部 丸森工場  

*5 購買本部 第一購買部

※ 2012 年 9 月 11 日受付

Table 1 ENGINE demand and INJECTOR requirement

エンジンへの要求 インジェクタへの要求

① 排出ガス低減 噴霧微粒化、粒径分布低ペネトレーション

② エンジン停止時蒸散ガス低減 弁部リーク量低減

③ 気筒間バラツキ対応 流量バラツキ低減

④ アイドル時低回転数化 MinQ低減*

(LFR拡大)

⑤ 異種燃料対応 アルコール燃料対応E85%~E100%

⑥ 商品性 作動音低減

*MinQ:Min流量 LFR:MaxQ/MinQ

Fig. 1 INJECTOR cross section

KN-6型2003年より量産

KN-6S型2011年より量産

KN-10型2007年より量産

インナーカラー

カシメ

インナーカラー

圧入

インナーカラー

圧入

スリーブ

カプラー

3.インジェクタ性能向上

このインジェクタの特徴は,KN-6 型を小変更に抑え KN-10 型の技術を踏襲することで量産ラインをフル活用して,設備投資を最小限に留め,低価格で高性能とした点である.

Table 1 の要求に対応した KN-10 型を Fig. 1に示す.KN-6 型に対して要求を満足するために開発された KN-10 型は高性能ではあるが,価格面で課題があった.よって KN-10 型の性能を維持し価格競争力のあるインジェクタを必要とし,KN-6S 型インジェクタを開発し(Fig. 1),2011 年 11 月より上市した.現在は,E85 燃料用などに適用拡大中である.

Page 2: 燃料噴射装置KN-6S型インジェクタ...-42- 燃料噴射置KN-6S型NETOR 燃料噴射装置KN-6S型インジェクタ※ 1.はじめに 近年の環境対応から,車には低燃費,低エ

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ケーヒン技報 Vol.1 (2012)

(4) 作動音低減 実車商品性に影響のある作動音は,小型

カプラーの採用により音の放射面積を縮小し,低減している.

以上より,KN-6 型の価格と KN-10 型の性能を両立した KN-6S 型の製品化を実現することができた.

◆KN-10 技術移植項目(1) MinQ 低減(LFR 拡大) コイル仕様変更と吸引部磁化促進によ

り,駆動パルス Off 時のバルブ戻り時間(Toff)短縮とバラツキ縮小で,MinQ 低減を実現している(Fig. 2,3).

(2) 噴霧微粒化 燃費及び排出ガスに大きな影響のある噴

霧粒径は,噴孔直上圧の関係(Fig. 5)から,目標粒径を確保できるようシート径

(KN-10 > KN-6S > KN-6)を設定し,圧力損失低減により,微粒化を実現している(Fig. 4).

(3) 流量調整精度向上 排出ガスに大きな影響のある動的流量

は,KN-10 型と同様のインナーカラー圧入調整方式を採用して,カシメ時のインナーカラー変形による調整位置バラツキを抑え,動的流量変化を低減している.

Fig. 2 A lift waveform

リフト

時間

パルス

Toff

無効時間短縮

斜線部.Q低減(LFR向上)

Fig. 3 Magnetic circuit comparison

飽和非飽和

吸引部

磁化促進

レイアウト 非通電時 立上始め フルリフト パルスオフ

KN-6S

KN-6

KN-10

Fig. 4 Pressure in INJECTOR

噴孔

直上圧小

直上圧大VS

バルブシート(VS)

ニードルバルブ(NV)

圧力大圧力低

シート径

VSNV

Fig. 5 An atomized particle size VS pressure in INJECTOR

噴孔前圧(kPa)

噴霧粒径(μm)

目標値

KN-6S 型インジェクタの開発完了により,実機要求を満足し価格競争力のある製品を上市することができました.

最後に本開発の開始より完了迄に携わり御指導,御助言をしてくださったすべての方々,御協力をしてくださったすべての皆様に深く感謝します.大変ありがとうございました.

(入戸・小野・加藤・木村・岡田・水野・松崎)

著 者

入 戸 慎 一