環境と調和した生活~「環境を生かす」ってどういうことだろ … ·...

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実践場所 白馬北小学校 実践者 山﨑 対 象 小学校3年生 時間数 8時間 担当教科 実践教科 総合的な学習の時間 ねらい ○「アグロフォレストリー」という農林業を知り、そのよさに気づく。 ○アマゾンペーパーの取り組みを知り、実際に紙すき体験をする。 ○環境を生かすためにどんなことができるかを考える。 ○開拓農業を支える人の思いに共感する。 実践内容 プログラム 使用教材 1.アグロフォレストリーへの導入 <フォトランゲージ> ①「これはどこ?」 ・3枚の写真から気付くことや知っていることを語らせる ・アマゾン、ブラジル、移民、について紹介する。 ②「これは何?」 ・胡椒畑の写真、胡椒の実物から、アマゾンでつくっている胡椒を紹介する。 ③「この胡椒が枯れてしまいました。どうして枯れてしまったのでしょう?」 ・連作をすると作物は病害虫によって枯れてしまうことや、アマゾンでは胡椒の 連作により、大規模な病害虫が起こったことを伝える。 ・連作障害は、トマト、ナス、キュウリでも起こることを紹介する。 2.アグロフォレストリーを知る<グループペインティング> ①「そこで一つの土地にいろいろな植物を育ててみました。」 ・胡椒、バナナ、カカオ、アサイー、チークの写真を見せながら、それぞれの植 物の特徴について紹介していく。 ②「3年後、5年後、20年後、この土地はどうなったでしょう?」 ・班ごとに土地の様子を想像し、画用紙に絵を描く。 ・胡椒は紫、バナナは黄色、カカオは茶色、アサイーは青、チークは緑 ・それぞれの植物の特徴については教卓付近に information cardを用意す ③アグロフォレストリーの紹介をし、「アグロフォレストリーにはどんなよさがある と思いますか?」と問う。 3.アマゾンペーパーを知る。<紙すき体験> ①アマゾンで、日本の紙すき技術によって独特の紙が作られていることが資源の 有効利用、森林伐採を防ぐ手だてになっていることを紹介する。 ②自分たちの身の回りのものを使って紙すき体験をしよう ・牛乳パックを使った紙すき体験を行う 4.アグロフォレストリーを行っている人の思いを知る ①坂口さんのビデオ、資料を見ながら、アマゾンの農業にかける日系人の思いを 共感する。 ・トメアスと日本人移民の歴史について簡単に紹介した上で扱う。 ②「坂口さんが今日までやり抜いたのはどうしてか?」考え合う。 5.ふり返り ①「『環境を生かす』って、どういうこと?」について考えながら、学習のふり返りを 行う。 ◇写真1:「アマゾンの風景」「移民 船」「コーヒー畑」 ◇世界地図 ◇写真2:「胡椒畑」 ◇実物1:「胡椒の実」 ◇写真3:「枯れた胡椒の木」 ◇写真4:「枯れたトマト」 ◇写真5:「胡椒」「バナナ」「カカ オ」「アサイー」「チーク」 ◇写真6:「アグロフォレストリー」 ◇information card(胡椒、バナ ナ、カカオ、アサイー、チーク) ◇資料「アグロフォレストリーにつ いて」 ◇実物2:「アマゾンペーパーの製 品」 資料2:「坂口さんインタビュー」 ◇インタビュー1:「トメアス産業組 合理事長坂口さんの生き方」(ビ デオ) 成 果 ・「土にやさしい農業」は「地球にやさしい農業」であることを感じたり、資源を有効に活用することが環境を大切にす る生き方であるという意識をもったりした子どもたちが、自分の生活の中で、どんなことができるのかを具体的に考 えていくことができた。 ・未知の国ブラジルについて学びながら、国際理解学習の中で環境問題について考えることができた。 課 題 ・小学校3年生ということで、内容的に難しい面もあった。本学習を行った子どもたちに、学年の発達段階に応じた次 の学習を準備していきたい。 備 考 ・学年2クラスを対象として授業を展開した。体験学習は学級ごとで実施するなど、活動に応じて、学年、学級を区別 して行った。 環境と調和した生活~「環境を生かす」ってどういうことだろう?~ タイ トル 333

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Page 1: 環境と調和した生活~「環境を生かす」ってどういうことだろ … · ①坂口さんのビデオ、資料を見ながら、アマゾンの農業にかける日系人の思いを

実践場所 白馬北小学校 実践者 山﨑 晃

対 象 小学校3年生 時間数 8時間

担当教科 実践教科 総合的な学習の時間

ねらい ○「アグロフォレストリー」という農林業を知り、そのよさに気づく。

○アマゾンペーパーの取り組みを知り、実際に紙すき体験をする。

○環境を生かすためにどんなことができるかを考える。 ○開拓農業を支える人の思いに共感する。

実践内容

回 プログラム 使用教材

1.アグロフォレストリーへの導入 <フォトランゲージ> ①「これはどこ?」

・3枚の写真から気付くことや知っていることを語らせる

・アマゾン、ブラジル、移民、について紹介する。

②「これは何?」

・胡椒畑の写真、胡椒の実物から、アマゾンでつくっている胡椒を紹介する。

③「この胡椒が枯れてしまいました。どうして枯れてしまったのでしょう?」

・連作をすると作物は病害虫によって枯れてしまうことや、アマゾンでは胡椒の

連作により、大規模な病害虫が起こったことを伝える。

・連作障害は、トマト、ナス、キュウリでも起こることを紹介する。

2.アグロフォレストリーを知る<グループペインティング> ①「そこで一つの土地にいろいろな植物を育ててみました。」

・胡椒、バナナ、カカオ、アサイー、チークの写真を見せながら、それぞれの植

物の特徴について紹介していく。

②「3年後、5年後、20年後、この土地はどうなったでしょう?」

・班ごとに土地の様子を想像し、画用紙に絵を描く。

・胡椒は紫、バナナは黄色、カカオは茶色、アサイーは青、チークは緑

・それぞれの植物の特徴については教卓付近に information cardを用意す

③アグロフォレストリーの紹介をし、「アグロフォレストリーにはどんなよさがある

と思いますか?」と問う。

3.アマゾンペーパーを知る。<紙すき体験> ①アマゾンで、日本の紙すき技術によって独特の紙が作られていることが資源の

有効利用、森林伐採を防ぐ手だてになっていることを紹介する。

②自分たちの身の回りのものを使って紙すき体験をしよう

・牛乳パックを使った紙すき体験を行う

4.アグロフォレストリーを行っている人の思いを知る ①坂口さんのビデオ、資料を見ながら、アマゾンの農業にかける日系人の思いを

共感する。

・トメアスと日本人移民の歴史について簡単に紹介した上で扱う。

②「坂口さんが今日までやり抜いたのはどうしてか?」考え合う。

5.ふり返り ①「『環境を生かす』って、どういうこと?」について考えながら、学習のふり返りを

行う。

◇写真1:「アマゾンの風景」「移民

船」「コーヒー畑」

◇世界地図

◇写真2:「胡椒畑」

◇実物1:「胡椒の実」

◇写真3:「枯れた胡椒の木」

◇写真4:「枯れたトマト」

◇写真5:「胡椒」「バナナ」「カカ

オ」「アサイー」「チーク」

◇写真6:「アグロフォレストリー」

◇information card(胡椒、バナ

ナ、カカオ、アサイー、チーク)

◇資料「アグロフォレストリーにつ

いて」

◇実物2:「アマゾンペーパーの製

品」

資料2:「坂口さんインタビュー」

◇インタビュー1:「トメアス産業組

合理事長坂口さんの生き方」(ビ

デオ)

成 果

・「土にやさしい農業」は「地球にやさしい農業」であることを感じたり、資源を有効に活用することが環境を大切にす

る生き方であるという意識をもったりした子どもたちが、自分の生活の中で、どんなことができるのかを具体的に考

えていくことができた。

・未知の国ブラジルについて学びながら、国際理解学習の中で環境問題について考えることができた。

課 題 ・小学校3年生ということで、内容的に難しい面もあった。本学習を行った子どもたちに、学年の発達段階に応じた次

の学習を準備していきたい。

備 考 ・学年2クラスを対象として授業を展開した。体験学習は学級ごとで実施するなど、活動に応じて、学年、学級を区別

して行った。

環境と調和した生活~「環境を生かす」ってどういうことだろう?~ タイ トル

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授業の実際

「地球のなかま」学年2クラス(56名)を対象として、ブラジルを題材に「地球のなかま」という単元で学習を仕

組んだ。

<第1時>

小学校3年生にとって、ブラジルは未知の国であ

る。まずはブラジルの概要を紹介した。世界地図で

ブラジルの位置を知った後、日本と比較しながら人

口や面積を確認し、ブラジル国旗に込められた意味

や願いを伝えた。その後、研修で撮ってきた写真を

用い、アマゾン川流域の小さな小学校の子どもやベ

レンの町で学ぶ小学生の姿を見せた。昨年自分たち

が学習した、「九九のひみつを知ろう」で用いたナン

バーボード(私が持って行って、即席の授業を行っ

た)を持って学習しているブラジルの男の子の写真

を見ると、「あれ知ってる!」の声が上がった。また、多様な人々がいることやアマゾンでとれたいろいろ

な種類の魚、日本人の技術協力で育てられるように

なり店頭に並ぶリンゴやキャベツ、白菜等の農産物、ピメンタ(胡椒)やアサイー、カカオジュース

などブラジルならではの食べ物等について、クイズを織り交ぜながら紹介していった。ひときわ子ど

もたちの印象に残ったのは、市場の寿司屋に飾ってあった日本人の似顔絵であった。それはやせて、

前歯の出た顔で、一見お笑い芸人風なのだが、特定のモデルを描いたものではなく、日本人に対する

イメージとして描かれたものだと伝えると、「えー」という大きな歓声が上がった。また、日本人の

移民の歴史にもふれ、多くの日本人が海を渡り、ブラジルの地で苦労して開拓に従事したことや、ア

ントニオ猪木のようにブラジル移民の経歴をもつ人がいることを伝えると、興味をもって写真に見入

っていた。

<第2・3時>

トメアスで見学させていただいた日系2世の小長野さんや小幡さんの農場で取り組んでいたアグロ

フォレストリーを題材にして、環境について視野を広げることをねらいとして授業を行った。アグロ

フォレストリーという農業自体が、日本ではほとんど耳にすることがなく、小学校3年生にとっては

かなり難しい内容なので、アグロフォレストリーが生まれた背景やその仕組みについて、できる限り

わかりやすく理解できるよう写真等を使い説明をした。

地球のなかま 2

森をつくるのうぎょう

これは何 ? ピメンタ = こしょう

こしょうを同じ土地でくりかえし、つくり続けたら

こしょうは病気になって、かれてしまいました

トマトの場合

立ちがれ病

いちょう病

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その後、同じ土地に「こしょう」「バナナ」「カカオ」「アサイー」「チーク」を植えたら、3年後、

5年後、20年後にはどのようになっているかを模式図に書かせる活動をグループペインティングと

して行った。各植物の成長や実が採れる(チークは木材になる)までの期間については、インフォメ

ーションカードとして、下のような一覧表を与えた。

こしょう バナナ カカオ アサイー チーク 子どもたちはこの活動をする中

大人に で、どの年にも何かしらのお金に

なるまで 1年 2年 3年 3年 20年 なる作物ができることに気づいた。

1年目 2m 2m 1m 3m 1m また、できた絵をもとに、カカオ

3年目 2m 5m 3m 9m 4m は日陰がなくては育たないことを

5年目 2m 5m 5m 15m 7m 伝え、アサイーやバナナが日よけ

20年目 2m 5m 8m 15m 25m になっていることに納得した。さ

らにカカオの葉がたくさん落ちて、

それが堆肥となることで農薬を使

わずに済むことも知った。

一連の活動の後、「アグロフォレストリ

ーのよいところ」をグループごとにラン

キングすることにした。子どもたちは、

大きく分けて、「環境にかかわることと」

「人間が生活していくこと」の両面から

そのよさに気づいていった。子どもたち

の考えの概略は以下の通りであった。

わたしたちだって

同じものばかり食べていたら・・・

病気になっちゃうよ

のう薬

病気

そこでどうしたのだろう?

同じ土地に

ちがう作物をいっしょに作ることにしました

こ し ょ う

2m

バ ナ ナ

5mカカオ

8m

ア サ イー

15m

チーク

25m

アグロフォレストリー

森をつくるのうぎょう

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環境にかかわること 人間の生活にかかわること

・(土が)病気にならない ・人のためになる

・いろいろな植物が育つ ・いろいろなことが得できる

・自然にやさしい ・いつでも何かが収穫できる

・自然を大切にしている ・いろいろとれて便利

・エコになる ・お金になる

・自然どうしが助け合っている ・おいしいものが育つ

・よく育つ ・いろいろな食べ方ができる

・緑がたくさん育つ ・いろいろな観察ができる

・森がたくさんできる ・20年、30年と育てるこ

・緑の楽園 とができる

<第4・5・6時>

アマゾンでは、それまで何の利用価値もなくただ捨てられていた繊維質の「クラワ」という植物を

利用して、紙をつくっている。ここには日本の紙すきの技術が生かされていて、現在「アマゾンペー

パー」として工芸品や実用品として製品化されている。この工房を訪問した際のビデオを紹介し、資

源を生かして、生活の糧にしていく試みについて考える機会をもった。紙すきに興味関心を抱いた子

どもたちは、身近にあるもので紙をつくってみたいという願いをもち、牛乳パックでの紙づくりに挑

戦することになった。

各自が家から持ち寄った牛乳パックを開き、コーティングされているビニールをはがし、細かく切

って水に漬け、1日以上おいて、でんぷん糊と共にミキサーで砕き、網状の入れ物の底を使って紙す

きを体験した。1日以上乾かした後、アイロンで仕上げた。きれいな紙が完成すると子どもたちの歓

声が上がった。どの子も自分で使った紙を宝物のように大切に扱っていた。

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<第7時>

これまでの学習を受け、アグレフォレストリーを支える人の姿に学びたいと考え、トメアス産業組

合理事長坂口さんのインタビューを題材として、授業を行った。(以下は授業時の資料)

Furancisco Wataru Sakaguti フランシスコ・ワタル・坂口(トメアス産業組合 理事長)

トメアス生まれ トメアス育ち

1989年~1995年 日本に

出かせぎに来る

現在理事長3期目 7年目

1931年 アカラ野さい組合

白菜、キャベツ、米をつくる

1950年代 コショウ(ピメン

タ)がたくさん売れる

1970年代 こしょうに病気

(フザリウム大発生)水害 ピメ

ンタがほぼぜんめつ

パパイア、メロン、マラクジャ、

カカオをつくりはじめる

カカオの失敗(カカオは日かげがな

いと育たない。焼き畑にうえたためバ

ッタが大発生。農薬をたくさん使う

アグロフォレストリーへ

1982年 ジュース工場をつくる パッションフルーツ、メロン、アセロラなど

1997年 組合のかいさんの話が出たが、坂口さんは、反対する

こしょうのねだんは安くなったが、アサイーが売れるようになる。

2008年 これからに向けて、チョコレート工場をつくろうと考えている

○チョコレート

カカオはいろいろな作物といっしょにつくることができる。農薬もあまり使わないですむ。

ククアスからククレートへ

カフェインを含まないため、カカオより苦みがない。アレルギーのある人でも食べることが

できる。チョコレートは世界中で食べられているわけではない。中国、インドの人が食べ始

めたら、まだまだたくさん売れる。

○この活動を続けている理由

生きている間には何か残したい。みんなに残せるようなものを何か残したい。そういう人がい

なければみんなどこかに行ってしまう。あきらめるとどこかににげなくてはいけない。知えを

しぼらなければ、にげるしかない。にげるのはかんたん。世界からのプレッシャーはものすご

い。世界は「アマゾンの植物を切るな」などとかんたんに言う。自分たちは、今までいっぱい

木を切ってきたのに・・でも、いろいろな法律ができ、その中でやっていかねばならない。ア

メリカやヨーロッパににげることもできるが、この生まれた土地を守りたい。

○アグロフォレストリー

のう薬を使えば、きれいなものができるが、つくる人にも食べる人にもめいわくをかけること

になる。人間にそういう気持ちがなければ、どこかに行くしかない。うまくいかなくなって逃

げた人もいる。残った者は、生き残るために何かをするしかない。

○日けい人について

ブラジルのれきしは500年。そのうち日本人がかかわるれきしは100年。

今やしょうゆはブラジルのどこへ行ってもある。それほど日本人はブラジルにえいきょうを与えている。

「ジャポネーズ、ガランチーノ」(保証付きの日本人)日本人はしんらいできると思われている。

○やりがい

うまくいかなくても生まれたからには、何かしなくちゃ。何か残さなくちゃ。組合のかいさん

の話が出たとき、「人がつくったしゃっ金をどうして自分たちが返すのか」と聞かれた。「この

しゃっ金は自分たちのためにつくった。だから自分たちが返すべきではないか。」と答えた。

「けっしてこれは意地(いじ)じゃない。」「自分たちには深い責任がある。」「自分のやったこ

とが自分に返ってくる。」「浅く思ったら、浅く返ってくる。深く思ったら、深く返ってくる。」

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Page 6: 環境と調和した生活~「環境を生かす」ってどういうことだろ … · ①坂口さんのビデオ、資料を見ながら、アマゾンの農業にかける日系人の思いを

「坂口さんはどんな思いで今の仕事をしているのだろう?」という問いかけに、子どもたちは、「ま

だまだ生きているうちに何かを残したい、まだまだいっぱい何かを残したいという思い。日本人に助

けてもらっているから、今度は私たちが何かをあげなきゃという思いでやっている。」「生きている

間にいろいろな作物を育てたい。ずっと続けたい。あきらめないでずっとがんばってやっていきたい

と思っている。」「みんながどこかに行ってしまわないように、みんなに何かを残せるようにがんば

っている。世界からのプレッシャーに答えてやりたい。」といったことを発表し、坂口さんの気持ち

に思いをはせた。大人に向けてしゃべったビデオを見ての学習であったので、移民の歴史、組合の仕

事等難しい内容もあったが、子どもたちは興味をもってビデオに見入っていた。

<第8時>

アグロフォレストリー、アマゾンペーパー、紙すき、坂口さんのインタビューをふり返りながら、

学習のまとめとして、「環境を生かすってどういうことだろう?」というテーマでグループごと、派

生図を記入した。はじめ、「緑を守る」「エコをする」といった画一的な言葉しか出なかった子ども

たちであったが、「私たちはお金がないと生活できない。」「便利で、楽しい生活をすると、例えば木

を切って建物を造らなくてはいけなくなる。」といった助言を与えるうちに、「無駄なものはつくら

ない」「リサイクルをする」「環境を生かしながら、楽しく生活して自然を守っていこう」「自然を守

るっていいことなんだなあと思った」「アグロフォレストリーは人々を支えて、豊かな生活ができる

んだなあ」「みんなでいろいろなことをやって、楽しく生活しているんだな」といった、環境と生活

の両面からとらえる感想、意見がたくさん出てきた。

学習の最後に「ぼく・私からのメッセージ」と題して、自分が紙すきでつくった紙に「みんなへ」

メッセージ、または「自分へ」メッセージを書いて学習のまとめとした。子どもたちは、環境につい

て、自分に対して、あるいは自分を含めた大勢の人に対して、自分なりのメッセージを記入した。ブ

ラジル国旗を描く子がたくさんおり、それだけ子どもたちにとって、この一連の学習が印象に残った

ということがうかがえた。

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<終わりに>

年度末、今年 1年間の学習について、印象に残ったことを発表する会をもった。国語や算数、社会、理科、音楽、体育、図工、行事等、多くの学習内容の中から、このブラジルを題材とした一連の学習

を選んだ子が数人いた。紙すきのことを発表した子、ブラジルのことを発表した子もいたが、一人の

女子は「アグロフォレストリーっていいな」と題名をつけ、以下のような発表を行った。

タイトル 「アグロフォレストリーっていいな」いろいろなことを考える人間

こしょうだけを同じ土地に何年も何年も育てていたら、病気になった。それで薬を何回もかけた。何回もかけたら、もっともっとひどい病気になってしまった。お金もなくなった。「何とか考えなくちゃ」と考えた。困りながらも、しっかり考えるところがいいなと思う。人間はみな考える力がある。何でも考えれば、きっといいことがあるはず。アグロフォレストリーをやってよかった。こしょうだけじゃなくていろいろな作物を育てて、

空気もすごくきれいになった。お金ももらえた。森をつくることで、自然を守ることができるんだ。

彼女は、どの授業にも実に興味をもって取り組んだ。そして、どの話しにも、どの活動にも知る喜

び、考える喜び、活動する喜びを感じていることが見てとれた。中でも、特に坂口さんのインタビュ

ービデオを視聴するときは食い入るような表情で見て、聞いていた。一連の学習を通じ、彼女は「知

恵を働かせることで、たくましく生き抜いていく人間」に深い共感の気持ちをもっていたことがうか

がえる。小学校3年生なりに、自分の中で一連の学習を消化し、「いろいろなことを考える人間」と

いう、一つの結論にたどりついた姿に敬服する。この学習が今後の彼女の中で、大きくしっかりと育

っていくことを期待したい。

成果

①ブラジルの知識や日本とブラジルとの関係について、ほとんど知らない3年生であったが、アグロ

フォレストリーやブラジルペーパーを通して、環境を生かして生活していくことの大切さや、人間

の知恵のすばらしさ、国を超えて協力していくことのよさに気づくことができた実践となった。

②学習のふり返りにおいて、「みんなで話し合って考えるのが楽しかった」という感想を書いた児童

が何人もいた。「学ぶことは楽しい」と思うことができる参加型授業の可能性を強く感じる実践と

なった。

③「ブラジルのことをもっと知りたい」「ブラジルに行ってみたい」「地球の仲間を大切にしようと

思った」「日本とブラジルはつながっているということが心に残った」という感想が児童から出さ

れた。開発教育、あるいは国際理解教育の重要性や学びの豊富さに気づかされた実践となった。

課題

①児童の発達段階に応じた国際理解教育を継続的に進めていくことが大切だと痛感した。ただ漠然と

「世界を知る」ということではなく、より具体的に、そしてその土地に生きている人を中心に据え

た題材が重要だと感じた。

②いろいろな場で参加型授業の実践を重ねながら、主体的に学ぶ子どもを育てる実践をこれからもし

ていきたい。

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