将来に向けた意欲的なチャレンジの事例 - meti...1...
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将来に向けた意欲的なチャレンジの事例
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■積極的な設備投資を行っている工場
主にレディス・メンズのジャケット、コート、ワンピース等を手掛けている縫製工場の(株)共栄(山形県鶴岡市)
は、過去、欧米のラグジュアリーブランド等の製造も手がけていた。今後、海外の有力メゾンとの取引も視野
に入れている。
品質を重視しつつも、効率とのバランスを考え、CAD、CAM、スポンジング機等の設備投資を積極的に進
めている。縫製工程では、品質を優先し、中間アイロン工程の研究や、ゲージ類の改良をはかり、作業の標
準化を進めている。
また、閑散期には、外部講師を招いて勉強会を開催し、日々発生する製品の型変わりへの対応力の向上
をはかっている。さらに、突然のアクシデントに対応するため、社員が本縫いミシン、ロックミシンなどのメンテ
ナンスを行えるように研修も実施している。
出典:JUKI わが社のモノ作り戦略
2
■積極的な設備投資を行っている工場
メンズのスーツ、パンツ、コートなどを手掛けている縫製工場である(株)サンライン(青森県田舎館村)は、J
∞QUALITY の企業認証も取得している。同社は、毛芯のテーラードスーツから洗い加工や製品染めなど
のカジュアル的な商品まで幅広く対応する力が評価され、英国「ポール・スミス」ブランドをメイド・イン・ジャ
パンで製造し輸出している。ポール・スミスの他にも、 「コムデギャルソン」や「イッセイミヤケ」などから、輸出
向けの製品を扱う。
国内メンズ工場の閑散期となる4月半ばから6月末(秋冬物生産前)にかけて、ポール・スミスのイギリス向け
(4月後半から)や、「コムデギャルソン」や「イッセイミヤケ」といった海外に輸出する製品を量産することから、
一年間安定した仕事量を確保することが可能となっている。
設備投資にも積極的で、スーツ、ジャケット、パンツのフラップ付けに対応する自動玉縁縫い機を導入した
ことで、従来、ねじ回しを使った機器の調整や縫い方の工夫などにかかっていた作業時間を大幅に短縮す
るとともに、高品質な玉縁縫製が可能となっている。さらに、女性社員がタッチパネルで簡単に操作できる
のも大きなメリットである。
出典:JUKI わが社のモノ作り戦略を一部参照
自動玉縁縫い機
JUKI/APW-896
3
■クリエイター人材の育成
リトゥンアフターワーズ(http://www.writtenafterwards.com/)のデザイナー山縣良和氏が主宰する若手クリエ
イター人材育成のための私塾「ここのがっこう」(http://www.coconogacco.com/)が注目されている。「ここの
がっこう」の生徒には、仕事をしていたり、他の学校に通っている人が多く、週末に「ここのがっこう」で、制作
を行いながら、世界のファッションビジネスの共通言語やクリエイションの仕方について学んでいる。近年、
西山高士、中里周子などの卒業生が、HYERES、ITS や LVMH アワードなどの国際コンテストでグランプリ
を受賞するなど活躍している。
山縣デザイナーは、日本のファッション教育と海外のファッション教育のギャップを埋め、アカデミックにファ
ッションビジネスを学べる機関が必要と説く。「ここのがっこう」の卒業生の活躍が国際的にも評価され、201
6年から、英セントラル・セントマーチンズや伊ポリモーダとの提携が開始されることとなっている。
4
■ものづくりを一元化する垂直統合プラットフォームの普及
デザイナーの「ものづくり」に係る課題に対する包括的な対応策として、ものづくりを一元化する垂直統合プ
ラットフォームの活用が有効であると考えられる。現にデジタルプラットフォームの提供によって、デザイナー
と繊維産地・縫製工場とのマッチング、生地・縫製の仕様・要件の翻訳、納期内のプロジェクトマネジメントを
代行するベンチャー企業(例:シタテル、下記図表を参照のこと)が生まれてきており、デザイナーの負担が
軽減されるだけでなく、取引コストの削減や稼動の平準化といった川上・川中企業の経営改善にも寄与して
いる。
こうしたデジタル分野で垂直統合を可能とするプラットフォームを活用していくことが、ものづくりの分野でも
選択肢の一つとなるよう、川上・川中企業のみならずデザイナーを含めて周知されるとともに、プラットフォー
ム自体の充実も図られていくことが期待される。
出典:平成 27 年度新興国市場開拓等事業「我が国のファッション産業の国際競争力強化及び関係機関の連携を通じ
た中華圏市場への進出可能性の検討」最終報告書
5
■自立化の取組
アパレルと工場の取引においては、契約により高い技術を持つ工場や高品質な生地を生産する能力があ
る工場の名称が公開されず、下請的地位に甘んじている状況を招いている。ライフスタイルアクセント(株)
(熊本県熊本市)では、全国に存在する優れた工場を掘り起こし、製造原価率を50%前後と高めるものの、
直接の取引により商社や卸等に関わるマージンを排除することによって、高品質な衣料品を従来の約1/2
~1/3の価格でファクトリーブランド専門ECサイト「ファクトリエ」にて販売している。
商品の織りネームには、「ファクトリエ」のブランドネームとともに、製造工場名を入れることで、商品のトレー
サビリティを新たな価値として、消費者に訴求している。さらに、生産背景を学ぶ提携工場の見学ツアーを
通してファンの拡大に結びつけ、安心・安全、かつ、高品質であるにもかかわらず、手頃な価格を実現する
ことで高い評価を受けるに至っている。その結果、提携工場の自立化支援に繋がっている。
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■企画提案を行うことにより受注を獲得
一般的に、縫製企業はアパレルからの加工委託を受けて、縫製を行っている。(株)ナカノアパレル(山形
県南陽市)では、積極的な技術開発を行い、針・糸を使わない無縫製技術や、縫い代のない作り方などを
業界でいち早く開発し、企画提案から素材調達・開発・縫製にいたるすべての工程を自社で一貫して請け
負える生産体制を整えた。その高い技術力をOEM・ODMの提案に盛り込み、自らアパレルに持ち込むこ
とで受注に繋げている。
品質にもこだわり、検反・検針など徹底したチェック体制を敷き、生産ラインを工程順に再編し、時短のため
に立ちミシンを採用するなどの工夫を重ね、リードタイム短縮にも取り組んでいる。
出典:(株)ナカノアパレルHPを元に作成
⽴ちミシン⽅式の採⽤
パーツごとに単⼯程の流れ作業で縫製する従来の⽅法をやめ
て、1 ⼈が多⼯程を完成させるために、移動しやすい「⽴ちミシン⽅式」を採⽤しています。
⾼度な縫製技術の⾃社開発
ミシンに「ボールチェーン千⿃留め」や、⾒た⽬も美しい「4
mm 幅バインダー」を導⼊、TPS アタッチメントを装備し付
け合わせ縫製も可能。無縫製(接着)ミシンでは、縫い⽬の
ない縫製もできます。
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■高い技術力が海外で受け入れられる
海外では、相手先の文化やライフスタイルに即した製品が受け入れられることが基本となり、質の高いもの
が求められる。メーカーズシャツ鎌倉(株)(神奈川県鎌倉市)は、出店するエリアの顧客層を絞り込み、求め
る内容(ファッションアイテムとしてではなく、若い頃からシャツに親しみ、ある種の「ユニフォーム」として高度
な素材と縫製技術に注文が多い)に合った精緻なものづくりによる商品開発を行った。さらに、シャツの技術
的特徴について詳細に問う顧客に対して的確に応対できる海外の大学出身の日本人スタッフを配置するこ
とにより、日本流のきめ細かいサービスを提供した。その結果、日本よりも高い価格(5,000円 vs 79ドル、
空輸、関税19.7%)で提供するものの熱心な支持を受けている。
出典:メーカーズシャツ鎌倉HP、各種報道等
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■ハイエンドゾーンに向けた海外展開
東レ(株)(東京都中央区)は、メイド・イン・ジャパン素材の真骨頂として、欧米をはじめとする海外高級ファ
ッションマーケットに広く認知させることを狙い、ファッションテキスタイルの海外統一ブランド「senbism」(セン
ビズム)を立ち上げ、2016年春より欧米ハイエンドゾーンの消費者に向け発信を開始した。
この素材は、東レ(株)自社工場で製糸、国内産地の協力工場にて織り、編み、染めを行っている。この素
材を使った衣料品にはラベルや織りネームを付けることにより、欧米ハイエンドゾーンの消費者へ浸透を図
っていく。手始めとして、フランスのセレクトショップ「LECLAIREUR(レクレルール)」のオリジナルメンズウェ
アの素材として採用され、2016年3月からパリ市内の店舗で先行的に販売が始まった。
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■日本で作った商品の海外販売を拡大
マツオインターナショナル(株)(東京都渋谷区)は、2001年にミラノへ直営店を開設して以来、パリや香港
など海外に11店舗を展開している。海外の直営店舗で売られる商品は、全て日本製で、織り、編みの組織
(テクスチャー)から匠の技術を活用して自由な感覚でものづくりを行っており、日本の技術だからこそできる
海外では作れないものとなっている。さらに、継続的な売上に繋げるため、効率重視の高速織機では表現
できない素材を使ったオリジナル商品を毎シーズン展開している。また、価格は出店している地域の商習慣
を踏まえて設定している。
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■生地輸出における商社との連携
ジーンズ用デニム生地の企画・製造を手がける日本綿布(株)(岡山県井原市)と(株)ショーワ(岡山県倉敷
市)は、高い技術力を背景に高品質なデニム生地を海外ブランド向けに積極的に輸出し、成功している中
小企業である。「海外展示会への継続出展」、「商社との役割分担」、「サンプル製品開発」に、それぞれ特
徴を有している。
日本綿布(株)は、輸出先地域ごとに強みを有する複数の国内商社をパートナーとして使い分けている。国
内商社には、海外ブランドの顧客開拓、売値の決定、船積み業務、与信、資金回収等にいたるまで広範囲
にわたる専門業務をまかせ、海外展示会にも参加するなど、営業・販売促進も含め、二人三脚で海外販路
拡大に取り組んでいる。また、10数年前から海外の商談会・展示会に出展を続けており、初期の困難な時
期もあきらめず出展を続けたことで、海外への売り方を学び、海外輸出拡大の大きな足がかりとなっている。
ショーワ(株)は、ある程度において国内商社に海外向け販売の業務をまかせているが、販路開拓において
は、国内商社だけに頼らず、自ら積極的に海外展示会に参加し、現地エージェントとも直接取引を行って
いる。また、生地提案力を高めるため、サンプル製品作りにも取り組んでおり、パリのオートクチュール校と
のコラボレーションによるインパクトのある製品作りに挑戦している。
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■海外市場獲得に向けた拠点整備
デニムメーカーのカイハラ(株)(広島県福山市)は、初の海外拠点としてタイに進出した。工場はバンコク西
部の工業団に建設し、段階的に整備を進め、最終的にロープ染色から織布、整理加工までの一貫生産体
制を構築する。2015年に織布と整理加工の設備を整備し、2016年1月に月産50万メートルのデニム生産
体制を確立した。今後、染色機を導入し、18年3月までには月産150万メートルを生産する計画である。東
南アジアで高級デニムの潜在需要が高まっているとの判断から、日本と同じ品質のデニム生地を供給する
ことで、これまでにないアパレル市場を創出し事業拡大につなげていく狙い。タイ工場の稼働により、海外
販売比率を約3割から5割以上に高める目標を持っている。
染色整理事業者である(株)ソトー(愛知県一宮市)は、ベトナムの大手繊維メーカーである28CORPORA
TION(所在地:ホーチミン)の工場に、染色機などの機械設備を、3年間で約6億円分導入するほか、数名
の社員を常駐させて技術指導と管理業務を行い、織物を生産する。14年から織布・染色加工の一環工場
として稼働した。現状、日系の縫製企業向けに生地供給しているが、今後は海外販路の獲得を目指す。
(株)近藤紡績所(名古屋市)は、紡績工場と染色加工まで行う工場を海外に展開している。インドネシアの
工場は、織り糸、ニット糸を生産しており、出荷先は、40%がインドネシア国内向け、30%が日本向け、残り
が第三国向け。ベトナムの工場は、ニット糸を生産し、50%が第三国向け、30%がベトナムの日系向け、2
0%が日本向けであり、ベトナムのローカルのニッター向けの販売も開始した。中国の青島工場は、紡績か
ら編み立て、染色加工までの一貫工場であり、糸の外販は行っていない。他に、手捺染の工場、縫製工場
があり、製品OEM部門の生産拠点となっている。
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■海外に向けた日本のファッションの情報発信
「東京をアジア最高峰のファッション拠点とする」。平成20年に甘利大臣の下でとりまとめられた「繊維産業
の展望と課題」の一文である。そのヴィジョンの下で、毎年10月と3月に「ファッション・ウィーク東京」が開催
されている。
経済産業省は、ウィークの実施に合わせ、平成27年度より、東南アジア若手デザイナー研修プログラム
「Asian Fashion Meets Tokyo」を実施している。このプログラムでは、タイ、インドネシア、ベトナム、フィリピン
から若手デザイナーを招へいし、日本の優れた生地の品質や流通・小売業システムを学習してもらうととも
に、希望するデザイナーには、ウィークのオンスケジュールでランウェイショーを実施する機会を提供してい
る。
また、経済産業省は、日本のファッションを世界に向けて情報発信するため、ヴォーグ・イタリアやファッショ
ン・ドットコム等から、世界のファッション業界で影響力があるインフルエンサーを招聘している。「ファセッタ
ズム」や「ウジョー」は、ヴォーグ・イタリアの編集長に評価されたことで、アルマーニ新人育成プログラムに採
用され、前者は平成27年秋、後者は平成28年春、それぞれミラノ・コレクションにおいて、アルマーニシア
ターでランウェイショーを実施している。
http://tokyo-mbfashionweek.com/jp/brands/detail/asian-fashion-meets-tokyo-indonesia/
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■国内におけるエシカルファッション創造の動き
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■アパレルと工場の長期安定的な関係の構築
工場の稼働状況は、アパレルがシーズン毎のトレンドを見極めてからの発注が増えていることから、多品種
小ロット化し、納期が短くなってきている。そのため、繁閑差が大きくなり、時期も偏った状況に陥っている。
さらに、シーズン毎の発注であることから、各工場は長期的な視点での工場経営が困難となっている。
その中で、上質なシャツを提供しているメーカーズシャツ鎌倉(株)(神奈川県鎌倉市)においては、協力工
場との長期契約により、店舗での売れ行きを見極めながら、提携工場に必要量を毎週発注するとの仕組み
を構築することで、自社にとっては商品ロスが生じにくくなり、プロパー消化率の向上をもたらすとともに、提
携工場にとっては最低生産枚数を保証され、定期的発注により工場の繁閑差が縮小されることから、安定
的な取引関係が実現されている。長期安定的な取引により、提携工場にとっては、長期的ビジョンを持った
経営が可能となり、生産性向上、品質向上に向けた取組にもつながる好循環が生まれる。
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■産地との信頼関係により生み出されるこだわりの MADE IN JAPAN商品
(株)フランドル(東京都港区)は純国産へのこだわりを強みとしている。(株)フランドルも含め一般的なアパ
レルであれば、1つのブランドに対してデザイナーなど数人でものづくりを行っていることから、どうしても同
質化を招く要因となっていた。その状況を打破し、消費者に魅力ある商品の継続的な提供を可能とするた
め、デザイナーやパタンナーからなる120名を一つの企画チームとした。チーム全員で1つのアイテムにか
かわり、さらに素材メーカーや産地などを巻き込み新たな体制にて取り組み始めている。社員は産地へ頻
繁に足を運び、密なコミュニケーションをはかることから、プロの作り手とこれまでなかった新しい商品を生み
出すことを可能とした。強固な関係を示すものとして、新しい商品を生み出すために必要となる設備投資に
ついて、相談されるようになっている。こうした国内製造事業者との強い信頼関係と協力関係がしっかりとし
たものづくりにつながっている。
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■協力工場を含めた生産性向上の取組
国際競争力の高いデニム生地を使っているジーンズメーカーである(株)エドウィン(東京都荒川区)には、
製造のため東北地方を中心とする15の自社工場以外に協力企業(工場)が数社存在している。一般的に
は、協力企業の位置付けは、自社で行わない一部を協力、あるいは、繁忙期対応の調整弁的な関係となっ
ている場合が多い。しかし、(株)エドウィンは、協力企業とは対等なパートナー関係を構築している。
例えば、定期的な社内工場長会議は、協力企業も含めて行い、現場における生産性の改善や技術的な問
題点を議論するのみでなく、新規設備の導入から人材確保、地方や国の補助金活用まで、参考となる点を
指摘し合い、情報を共有する場としても長年機能している。対等な技能、設備を有する協力工場であり続け
るため、(株)エドウィンから設備投資に対して資金援助等は行っていないが、同時期に同じ機械装置を導
入し、機械の操作ノウハウを共有するなど、様々な形で協業メリットを享受できるようにしている。
出典:エドウィンHP
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■アパレル企業と製造工場とのマッチング
中国をはじめとする海外における衣料品生産コストの上昇に伴い衣料品の輸入単価が上昇し、「商品に対
して低価格よりも値ごろ感を求める」といった消費者の嗜好の変化もあり、国内で衣料品製造を発注したい
アパレル企業が増加しているが、国内工場の減少等により、仕事を請けてくれる製造事業者を探すのが困
難となっている。国内のアパレル等が把握しきれない技術ある国内工場を発掘し、マッチングすることでサ
プライチェーン全体の合理性、生産性が向上し、日本の高いものづくり技術を生かした商品づくりにつなが
っている。また、エントリーされる工場の標準工賃を掲載することにより、低価格による受注を回避する効果
も生まれている。
参考: SD ファクトリー http://factory.superdelivery.com/
sitateru https://sitateru.com/
nutte https://nutte.jp/
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■百貨店と繊維産地の連携による商品開発
百貨店の(株)高島屋(大阪市)は、他社に無い魅力あるオリジナル商品の開発を目指し、高い技術を持つ
国内繊維産地企業との共同の取組を開始している。高島屋は、2015年7月より、「繊維・未来塾」と交流を
開始し、バイヤーとの意見交換等を経て、2016年5月には第1段として北陸の繊維メーカーのレースを使
ったレディス商品を発売した。今後は、紳士服、子供服などにも広げる計画となっている。
5年前に発足した繊維・未来塾(松田正夫塾長、事務局:(一社)日本繊維機械学会)は、主として紡績、撚
糸、織り編み、染色加工、縫製に至る、国内の繊維産地の有志が集まり、これからの経営者としてのあり方
や次世代の人材育成を目指す研究組織で、日本の感性、技術力、商品開発力を生かしたモノ作りや、メイ
ド・イン・ジャパンを世界に広げることなどをテーマとし、産業界のリーダーを講師として招いて熱い議論を戦
わせている。それにより、講師陣との人脈が作られ、塾生間の交流が進み、中には事業連携、共同商品開
発に発展していくケースも生まれている。
出典:日経新聞、繊維ニュース、高島屋HP
ケミカルフラワーレースで仕立てた
ワンピース
タンクブラウスとミドルスカートの繊細なフラワー
柄総レースセットアップしたワンピース
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■海外進出支援(越境型ファッションECモール)
日本のアパレル企業のアジア進出を支援する取組として、実店舗と越境ECサイトによる海外進出に向けた
新たなプラットフォームの構築が始まっている。
(株)アパレルウェブ(東京都中央区)は、経済産業省クールジャパン推進事業による委託事業を契機とし、
2012年10月にシンガポールの大型ショッピングモールである「プラザシンガプーラ」に実店舗として「JRun
way」を開店。渋谷や原宿で人気の日本ファッションアイテムを取り揃え、現地の人気ブロガーやSNSと連
携し、情報を発信してきた。更に、2014年に越境ECサイト「JRunway.com」をオープン。2015年には、
経済産業省テストマーケティング等支援事業による補助を受け、取り扱いブランドの幅を広げると同時に、
シンガポールの郵便事業会社であるシンガポールポスト社と業務提携した上で、配送先を ASEAN 地域と
拡大している。同モールへの参加企業は、オーダーが入り次第、商品を日本の指定倉庫に納品するだけ
で、ASEAN 全域へ商品を販売することを可能としている。サイト構築・運用、英語でのカスタマー対応等の
EC サイト関連業務をトータルでサポートすることにより、参加企業はより少ない負担で越境 EC への進出が
可能となっている。
2016年度からシンガポールにて期間限定の EC ショールーミングを展開。ショールーミング店舗で実際に
見た商品を ECサイトから購入する事でECでの購入を体験してもらうことで、JRunway.comへの集客に繋
げる試みに取り組んでいる。オンライン(EC サイト)とオフライン(ショールーミング店舗)を連動することで、
顧客に新しいショッピングの形を提案していく。
参加ブランド一覧
実店舗
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■EC事業の海外進出
(株)TSIホールディングス(東京都港区)は、ASEAN 域内で最大のファッション専業のショッピングサイト
「ザローラ」に日本のアパレルメーカーとして初めて本格的に出店する。アジアの中でも特に消費者のファッ
ション意識や購買意欲能力が高く、インターネットの普及が進むシンガポール、マレーシア、香港の 3 か国
において、連結子会社の(株)サンエー・ビーディーが展開する「フリーズマート」にてEC事業を手がけ、リ
アル出店、オムニ化に向けた基盤を整備する。今後、e-コマース事業(EC事業)を通じてアジア戦略を加速
し、早期に東南アジア市場を開拓する。
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■越境 EC の活用による海外展開
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■在庫一元化による消費者利便性の向上
実店舗と同様、ECサイトにおいてもEC毎に在庫を持っており、顧客が日頃利用しているECサイトに在庫
がないと、購入を断念せざるを得ない状況が発生している。また、アパレル側にとっても、販売機会のロスを
招く結果となっている。EC毎に在庫を抱えざるを得ないことから、不要な在庫を抱えプロパー消化率の低
下を招いている。
(株)TSIホールディングス(東京都港区)では、このような状況を改善するため、15年8月にフラッグショップ
(運営:集英社)を手始めに、ECサイトの在庫一元化の取組を開始。今後楽天、ルミネ等4つの大型ECサ
イトに取組を拡大していく。これにより、顧客にとっては、複数のECサイト登録が不要となり、商品検索の利
便性が高まる。
出典:TSIホールディング株主通信、15/10/09 日経流通新聞を元に作成
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■ファッション業界に特化した EC フルフィルメントサービスの提供
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■百貨店の地方・郊外店のEC販売強化による品揃えの充実
(株)高島屋(大阪市)では、「ショールームストア BY TAKASHIMAYA」として、品揃えの充実を始め
た。2015年11月~12月に、岡山店、柏店等の地方・郊外店6店舗にて期間限定で開設した。
ショールームストアには、消費者からの要望が大きいものや、ECサイトで人気の商品のうち、中小型店では
これまで取り扱えていなかった商品のサンプル展示を行っている。消費者は店頭で商品を実際に見て、EC
サイトから購入する。
2016年5月からは、和洋酒・父の日ギフト・ランドセルなどの販売強化期間と合わせて、岐阜店(岐阜県岐
阜市)、立川店(東京都立川市)、米子店(鳥取県米子市)などの店舗にて期間限定で開設している。
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■百貨店の上位顧客との接点拡大とEC販売強化
(株)高島屋(大阪市)が、上位顧客との関係強化を目的に、外商客専用サイト「タカシマヤ・イーサロン」を2
015年11月に開設した。このサイトは、高級品を中心に数百点を取り扱っている。顧客はサイトで紹介され
ている商品を見て、問い合わせを行ったり、商品の確保を依頼することができる。また、顧客が実物を見た
いとの要望に応じ、外商部員が指定された場所に商品を持参するサービスも実施している。
外商顧客は約20万口座だが、外商員は550人。全ての外商顧客に同一のサービス提供するチャネルの
一つとして有効である。2016年6月現在、約9,000人が登録済。今後は、決済機能・商品を宅配する仕組
みも導入予定である。
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■大手アパレルのEC販売強化による海外市場獲得
(株)オンワードホールディングス(東京都中央区)は、総合免税店として店舗展開するラオックス(株)(東京
都港区)と合弁会社「オンワード・ジェイ・ブリッジ」を設立した。ラオックス(株)の販売網(海外向けECサイト
や日本国内の免税店舗等)を活用し、高感度・高品質な日本製品をアジアをはじめとする世界に向けて販
売していく。訪日外国人旅行客向けにワンストップで買い物できる環境として、1号店を大阪心斎橋にオー
プンした。今秋、独自の越境ECサイトの立ち上げを予定しており、海外在住の消費者に向けたEコマースと、
訪日外国人旅行者向けに対する店頭販売の双方を連携させ、事業拡大を進めていく。
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■大手アパレルのEC販売強化による販売機会ロスの解消
(株)オンワードホールディングス(東京都中央区)は、(株)高島屋(大阪市)で展開しているオンワード樫山
のショップに、タブレット型PC端末を導入。店頭で取扱の無い商品や欠品している商品などを、高島屋グル
ープ会社のファッション通販サイト「セレクトスクエア」から購入してもらうタブレット接客を実施している。(サイ
トは、オンワードのEC在庫と連動。)
タブレット接客により、店舗在庫+EC在庫の商品を提案できること、店頭欠品による売り逃しの防止になる
こと、デジタル商品カタログとしてコーディネート提案や着回し方法などをビジュアルで紹介できること、買い
足しの需要が見込めること、宅配できること、等のメリットが見込まれる。
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■IOT 導入による生産性の向上
縫製企業には、CAD用ソフトの導入が進んでいるのに対し、縫製仕様書ソフトの普及は遅れており、企画
会社から送られてくる仕様書を縫製企業用の仕様書に書き直している状況である。企画会社がパターンを
作り、縫製工場でパターンを修正し、衣料品を製造するのであるが、企画会社がパターンを引けなくなって
いる。そのため、縫製企業はパターン作成を押し付けられ、納期にも追われるため、仕事の品質の劣化を
招いている。
CAD用ソフト・縫製仕様書ソフトを活用すれば、3Dでパターンの作成、トアールチェック(型紙から立体的
に試作してチェックすること)をバーチャルリアリティで実施することにより、衣料品製造の品質を向上させる
ことが可能となる。さらに、これらのソフトをクラウド化して複数の縫製工場、企画会社と共有することで、各縫
製工場のパタンナーの削減、更なる生産性の向上が期待できる。
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■消費者と店舗をITでつなぐ「ウェブ接客」サービス
欲しい商品をうまく探せない消費者と、商品を提案する店舗をインターネット上でつなぐサービス(STYLE
R)をスタイラー(株)(東京都渋谷区)が提供している。このサービスは、消費者がファッションに対する質問
や要望をアプリから投稿。その投稿に答える形でアパレルショップの店員が洋服を提案するもの。消費者は、
通勤中などの空き時間に効率良く、自分好みの商品を探すことが可能となり、店舗側は、平日など客が少
ない時間帯を「ウェブ接客」に使えるというメリットがある。
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■シェアサービスによる利便性向上
airCloset(エアークローゼット)は、ファッションに興味はあるけれど、時間やお金に限りがある20代後半から
40代の女性を中心とした(株)エアークローゼット(東京都港区)が提供するサービス。2015年2月開設。会
員数8万5千人(無料会員含む)。サービス内容は、好みのスタイルや身長やバストなどのパーソナルデー
タ、届いた服への感想からスタイリストが3着選定し利用者の手元に届けられる。定額会費の支払いにより、
利用回数・返却期間に制限無く、気に入った服は買い取り可能となっている。届く服は、ファッションビルや
百貨店で扱われているアパレルブランドが中心で個別ブランド名は非公表となっている。ただし、試着を通
じ新商品の購入を促す試みとして、期間限定でセレクトショップのブランド商品を選べるサービスを行った。
出典:airClosetHP、日経MJ
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■シェアサービスによる利便性向上
mechakari(メチャカリ)は、シェアリングエコノミーを提供側が体現した新しいビジネスモデルであり、若いレ
ディス世代向けに日常着をレンタルするサービス。2015年9月から(株)ストライプインターナショナル(岡山
県岡山市)がスタートした。同社が提供する服やバックなどブランド新品アイテムをコーディネートしたファッ
ションを多数紹介し、それらを参考に消費者が選ぶ仕組み。(最大3点)
定額会費の支払いにより、利用回数・返却期間に制限無し。気に入ったアイテムを60日借り続けるとそのア
イテムがプレゼントされる。(プレゼント後、新たなアイテムのレンタルは可能。)レンタル後アイテムは、同社
が持つECサイトで中古品として販売する。
出典:(株)ストライプインターナショナルプレスリリース資料
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■RFIDの導入による販売促進
店頭バックヤードにおける商品管理や定期的な棚卸し作業には、多大な労力と時間を要しており、売り場
の運営には負担となっている。RFIDの利用により、バックヤード作業が効率化されたのみでなく、削減され
た時間や人手を接客時間に充てられることにより、質の高いサービスの提供が可能となる。さらに、個別識
別が可能となることから、売り場での欠品管理がリアルタイムで可能となり、適切な補充により、売上げの機
会ロスを防ぐことにも繋がっている。また、表示機器との組み合わせにより、展開しているカラーやサイズ、特
長、在庫情報を顧客は得ることができ利便性が高まる。
RFIDの導入企業
フランドル、イッツ・インターナショナル、ビームス、ユナイテッドアローズ、オンワード、チャールズ&キースジャパン、メ
ーカーズシャツ鎌倉、イオンリテール 等
非接触でデータの読み出し(Read)、書き換え(Write)が可能
電波・電磁界で交信するため、タグの表面が見えなくても読み書
きが可能
複数タグの一括読み取りが可能(個別認識も可能)
RFIDの特徴
出典:株式会社エスキュービズム・テクノロジー
RFID は 1 枚 10 円~20 円。別途、タグを読み取るためのハンディーやアンテナタイプのリー
ダー、ソフトをあわせた RFID システムの導入が必要。