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COLLIERS INTERNATIONAL | 2019 U.S. RESEARCH REPORT OCCUPIER SERVICES 米国のフレキシブル・ワークスペース市場: 確立したもの、拡張するもの、発展するもの

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Page 1: 米国のフレキシブル・ワークスペース市場: 確立したもの、拡張するもの、発展する … · する理由とは フレキシブル・ワークスペースを活用

COLLIERS INTERNATIONAL | 2019 U.S. RESEARCH REPORT

OCCUPIER SERVICES

米国のフレキシブル・ワークスペース市場:

確立したもの、拡張するもの、発展するもの

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I 2019 U.S. FLEXIBLE WORKSPACE REPORT | COLLIERS INTERNATIONAL

はじめに

近年のオフィス賃貸借契約の形態は急速に変化して

いる。コワーキング(共働ワークスペース)やフレ

キシブル・ワークスペースが賃貸オフィス全体に占

める割合はまだ比較的低いものの、その占有面積だ

けをみれば、急拡大している。このような影響は

WeWorkやRegusなどの主要な業者以外にも裾野が広

がりつつある。参入業者が増加し多様化しているだ

けでなく、従来型の貸主/テナントの賃貸借契約に

おいても、フレキシブル・ワークスペースの特徴で

ある短期賃貸借や充実したサービスが採用されつつ

あることは興味深い。

いまやコワーキングの形態は広く認識されつつあ

り、商業用不動産業界における市場地位も確立さ

れ、規模の大小を問わず多くの企業にとって不可

欠なオフィス賃貸のオプションとなっている。

形態の違いは多少あるが、一般的なフレキシブ

ル・ワークスペースにおいては、会員制または従

来型の賃貸借契約に基づき、異なる組織の人間が

同じスペースを共有する。この形態は、元々フリ

ーランサー、起業家、新興企業、そして遠隔地で

勤務する従業員が、オフィスを共有するための手

段として使われていた。たいていの場合、貸借主

は、一般的なオフィス賃貸借形態よりも充実した

サービスを提供する。これには、週7日24時間を通

じて常にアクセスが可能なこと、充実したセキュ

リティ、コーヒーなどの提供、ネットワーキン

グ・イベントの開催、さらにジムや、地域のレス

トラン/小売店のディスカウント等の特典までも

が含まれている

しかし、このビジネス・コンセプトが成熟するに

つれ、利用対象者は個人から大企業や法人顧客へ

徐々にシフトしている。この動きにさらに拍車が

かかっているのは、競争の激しい労働市場、非正

規労働者や遠隔地勤務の従業員の増加、そしてフ

レキシブル・ワークスペースの提供が従業員の創

造性と生産性を向上させるという米国企業の信念

がさらに強まっているためである。企業側でもコ

ワーキングは費用対効果が高く、必要に応じてス

ペースを増減できる柔軟なリース形態であるとの

認識が広がりつつある。

本レポートの目的は、テナントと投資家が以下

の項目について共に理解を深めることである

• フレキシブル・ワークスペースを使用する理由とは?

• 様々な賃貸事例とは?

• 体験別にモデル分けすると?

• 最先端の米国市場におけるフレキシブ

ル・ワークスペースの規模・特徴は?

• 業界が直面する主要な課題とは?

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2019 U.S. FLEXIBLE WORKSPACE REPORT | COLLIERS INTERNATIONAL

主な注目点:

• 急激な成長-フレキシブル・ワークスペースは急成長を続けており、

直近僅か18カ月間に新規締結されたオフィス賃貸借契約高の3分の1を

占めるまでになった。

• 法人志向-フレキシブル・ワークスペース・プロバイダーがターゲット

とする利用対象者は大企業や法人顧客にシフトしている。

• 将来を支えるタレントを優先する-より多くの企業が、優秀で若い人材

を採用し繋ぎ留めておくための環境整備策として、フレキシブル・ワー

クスペースを採用し始めている。

• オフィス用途の多様化-法人の共有スペースの用途は、急拡大するオフ

ィス需要の受け入れ、出張してきた役員の一時的な滞在先、新商品開発

を支えるプロジェクト・チーム向けの仮設スペースなど、あらゆる目的

に及んでいる。

• 久々の光明-フレキシブル・ワークスペースは、オフィス需要の中でも

少ない成長分野の1つである。ただし、オフィス市場全体から見ると、ま

だまだ少数派であり、主要オフィス市場の全供給量に対する割合は僅か

1.6%に過ぎない。

• ビジネスモデルの変化-フレキシブル・ワークスペースは、従来の賃貸

借契約の形態、職能別のオフィス設計や利用方法に影響を与えている。

従来型のビル・オーナーも、自身が所有するビルにおけるフレキシブ

ル・スペースと賃貸借のオプションを合わせて提供することにより対応

しつつある。

• テクノロジー関連・高賃金労働者の市場-テクノロジー関連市場におい

て、コワーキング・スペースの利用は、他のセクターの約2倍となってい

る。また、コワーキングは高賃金労働者市場と、プロフェッショナル・

サービス企業が多く存在する都市に集中していることも興味深い。

• 不況に対する耐性?-フレキシブル・ワークスペースの大半は大不況

(2007~2009年中盤)後に開業しているため、不況時のパフォーマンス

実績は未知数である。ただし、テナントがより短期のフレキシブル・ス

ペースを選好すれことを鑑みれば、貸主は貸室を埋めることができるた

め、不況に対するバッファーとなるといえるだろう。

• 妥当な収益性の確保により淘汰が進む-大手フレキシブル・ワーク

スペース・プロバイダーが、賃貸の規模や立地の点から、着実に成

長していることは間違いない。ただし、業者の中には、多額の借入

金を抱え、市場低迷の影響(特に賃料が下落した場合)を敏感に反

映する業者もいることには留意したい。

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III III 2019 U.S. FLEXIBLE WORKSPACE REPORT | COLLIERS INTERNATIONAL

目次

数値から見るフレキシブ

ル・ワークスペース

フレキシブル・ワークスペ

ース市場の概要

フレキシブル・ワークスペースを使用

する理由とは

フレキシブル・ワークスペースを活用

したベスト・タレントの採用戦略

体験別にモデル分けする 13

新しい賃貸モデル – フレックス&コア

型とシティキャンパス型

今後の課題と展望 16

01

02

10

12

14

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1 2019 U.S. FLEXIBLE WORKSPACE REPORT | COLLIERS INTERNATIONAL

数値から見るフレキシブル・

ワークスペース

フレキシブル・ワークスペース市場(コワーキングとても知られ

る)は大不況の後急速に成熟し、広範囲に拡大した。コワーキン

グ・スペース発祥の地であるアメリカでの物件数は、2010年300件

以下だったものが、その後急増し、2017年末には4,000件を超え、

この間の平均年間成長率(CAGR)は約50%に達した。その他の国で

の成長はさらに早く、上記と同じ期間で200件以下から10,000件超

となり、同年間成長率は80%を超えている。

この急激な成長ペースは、各国市場が成熟するにつれて鈍化しつつ

あるが、世界的な市場の成長をみれば、依然として力強い。昨年、

コワーキング・スペースの物件数は米国で16%増加し、米国外でも

36%増加した。2018~2020年のコワーキング・スペース物件数の年間

増加率は米国で約6%、米国外で約13%になる見通しである。1

1 http://www.smallbizlabs.com/2018/01/us-coworking-forecast-2018-to-2022.html

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2 2 2019 U.S. FLEXIBLE WORKSPACE REPORT | COLLIERS INTERNATIONAL

フレキシブル・ワークスペース市場の概要

オフィス・セクターにおける注目度は高いものの、フレキシブル・ワークスペ

ースは市場全体のなかではまだ少数派である。アメリカの主要19都市内の主要

ビジネス地区を対象とした弊社調査では、2018年中盤におけるフレキシブル・

ワークスペースは合計254万平方メートル(以下、sqm)であったが、これはオ

フィス・スペース全体に対して僅か1.6%に過ぎない。この割合はより規模の小

さいセカンダリー市場ではさらに低いことは間違いない(コワーキングが比較

的大都市圏に集中しているので、このような小規模都市は調査の対象外)。

表 1 : 全オフィス供給量に占めるフレキシブル・ワークスペースの割合

全オフィス供給量に占める

フレキシブル・ワークスペースの割合

新規供給量増加分

に占めるフレキシブ

ル・ワークスペース

の割合

2016 Q2 2018 2016-Q2 2018

マンハッタン 1.4% 2.1% 52.9%

その他上位10都市 0.9% 1.4% 28.3%

セカンダリー市場 (9) 1.1% 1.5% 17.2%

合計、全都市 1.1% 1.6% 31.3%

出典: コリアーズ・インターナショナルによる市場調査

ボストン・プロパティーズのCEOオーウェン・トーマスは2018年8月の決算説明

会で、WeWorkを主要顧客として挙げていた。それでもWeWorkが当該REITの収益

に占める割合は、まだ1%以下に過ぎない。とはいえ、フレキシブル・ワークス

ペースの占有面積は急拡大している。弊社調査によると、コワーキング・スペ

ースの賃貸面積、全オフィス・スペースに占めるその割合は、2016年末~2018

年中盤の僅か18カ月にかけて共に約1.5倍へ急拡大した。

さらに、最近の賃貸借契約の動向をみると、この割合が急増し、直近18カ月に

追加供給されたオフィスの約3分の1を占めていることがわかる。とりわけマン

ハッタンではその傾向がより顕著であり、もはや新規供給物件の半分以上がフ

レキシブル・ワークスペースである。また、2018年上半期実績でみても、マン

ハッタンで貸借されたすべての面積に対して、コワーキング企業が約10%を占

めている。テクノロジー・セクターと共に、フレキシブル・ワークスペース

は、直近2年間のオフィス・セクターにおける久々に明るい話題の1つとなって

いる。経済が比較的堅調であるものの、雇用の増加が必ずしもテナント入居増

加に結びつかない環境下において、相対的にフレキシブル・ワークスペースの

占有面積の拡大がより顕著に見られるというような状況にある。

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3 2019 U.S. FLEXIBLE WORKSPACE REPORT | COLLIERS INTERNATIONAL

フレキシブル・ワークスペースはどこに立地しているのか?

弊社が調査した19都市における、フレキシブル・ワークスペースの合計面積は254万sqm以

上であった。この中にはRegusが広めた「エクゼクティブ・スィート」型やWeWorkが開発し

た新たなタイプも含まれる。この様なスペースの約40%がマンハッタンに集中しており、面

積では98万sqm強におよぶ。ニューヨークはフレキシブル・ワークスペースが圧倒的に大き

く、オフィス・スペース全体に対する割合(2.1%)も、弊社が調査した他の大都市の平均

(1.4%)より高い。

表2 : 米国フレキシブル・ワークスペースのロケーションを比較する

(単位:SQM) フレキシブル・ワークスペースの供給量 フレキシブル・ワークス

ペースの供給量変化

2016 Q2 2018 % 増加率

2016年-2018年

マンハッタン 663,699 976,039 47.1%

その他10都市 783,823 1,182,842 48.2%

9つのセカンダリー都市 262,172 367,060 47.1%

合計、全都市 1,709,694 2,525,941 47.7%

出典: コリアーズ・インターナショナルによる市場調査

フレキシブル・ワークスペースの内、その他の118万sqmは、弊社が定義する「その他10都

市」に拡大している。これら都市におけるのはフレキシブル・ワークスペースの免責自体

は非常に大きいが、オフィス総供給量に対する割合でみると、まだ1.4%と低い。

フレキシブル・ワークスペースの残り37万sqmは、弊社が調査した「9つのセカンダリー都市」

に所在するが、全オフィス・スペースに占める割合でみると1.5%に過ぎない。意外ではある

が、フレキシブル・ワークスペースの最近の成長率を概観すると、最大都市でも小規模な都市

でもあまり変わりなく、直近18カ月間を見ると概ね50%弱であることが調査で分かった。

テクノロジー企業が、大都市よりもオースティン、ポートランド、ローリー・ダーラム等の魅

力的な中規模地方都市に注目する中、コワーキングのプロバイダーも当然のことながら、足並

みを合わせてこれらの地方都市に拡大している。

各都市別に2016年以降追加供給されたコワーキング・スペースをみると、マンハッタンが31

万sqmと圧倒的に多く、二番目に供給量が増加したボストンの9万sqm弱と比較すると、ほぼ

3.5倍となっている。また、シアトルとサンフランシスコでもフレキシブル・ワークスペース

が大量に追加供給されたことを付記する。

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2 4 2019 U.S. FLEXIBLE WORKSPACE REPORT | COLLIERS INTERNATIONAL

グラフ 1 : 都市別にフレキシブル・ワークスペースの成長率を比較する(2016年 – 2018年第2四半期)

成長率

ダラス

ローリー・ダーラム

ボストン

シアトル

ミネアポリス

ポートランド

デンバー

サンフランシスコ

マンハッタン

アトランタ

ワシントン, D.C.

サンディエゴ

カンザスシティ

オースティン

ヒューストン

ロサンゼルス

シカゴ

マイアミ

フィラデルフィア

0% 50% 100% 150% 200% 250%

出典: コリアーズ・インターナショナルによる市場調査

都市別に見ると、コワーキングはダラスとローリ

ー・ダーラムで最大の成長率を見せており、直近

僅か18カ月でフレキシブル・ワークスペースは倍

以上に増えた。また、ボストンとシアトルでも倍

増している。一方フィラデルフィアとマイアミで

は成長が非常に遅く限定的である。

賃料の価格差に対する感応度の違いも、各都市の

フレキシブル・ワークスペースの成長率に異なる

影響を与えている。比較的に賃料が低い都市で

は、自社スペースを設けるための設置・入居工事

と、コワーキング・プロバイダーを使用すること

によるコストの格差は取るに足らないほど小さ

く、必要経費の総額も当然少ない。当然ながら必

要経費額が少なければ全体的なリスクも抑えられ

るため、新興企業もフレキシブル・ワークスペー

スを利用することにより自らの企業としてのアイ

デンティティが薄まりかねないことを避けるよう

になる。

グラフ 2 : フレキシブル・ワークスペース供給量の増加 (2016年 -2018年第2四半期)

(1,000 SF)

マンハッタン

ボストン

シアトル

サンフランシスコ

ロサンゼルス

ワシントン, D.C.

デンバー

アトランタ

ダラス

シカゴ

ミネアポリス

ヒューストン

ポートランド

ローリー・ダーラム

サンディエゴ

カンザスシティ

オースティン

マイアミ

フィラデルフィア

0 5,00 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500

出典: コリアーズ・インターナショナルによる市場調査

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5 2019 U.S. FLEXIBLE WORKSPACE REPORT | COLLIERS INTERNATIONAL

フレキシブル・ワークスペースを活用するセクターとは?

フレキシブル・ワークスペースを使用するテナントは多岐のセクターに

わたるが、テクノロジーとプロフェッショナル・サービスに関連した企

業が突出している。テクノロジー企業の占める割合が高い都市(雇用者

総数の3%以上)では、フレキシブル・ワークスペースの全オフィス供給

量に対する割合が2%であるが、その他都市では僅か1.1%に過ぎない。

同様の理由から、フレキシブル・ワークスペースは、特にプロフェッシ

ョナル・サービス関連の雇用が多く、比較的高賃金が支払われている都

市に集中していることは興味深い。

表 3 : 全オフィス供給量に対するフレキシブル・ワークスペースの割合

Q2 2018

主要19都市合計 1.6%

テクノロジー・マーケット* 2.0%

プロフェッショナル・サービス・マーケット** 1.8%

その他都市 1.1%

高賃金マーケット*** 1.9%

* 「テクノロジー・マーケット」とは、3%以上の雇用総数が情報サービスに関連するもの。

** 「プロフェッショナル・サービス・マーケット」とは、8%以上の雇用総数がプロフェッショナル

またはビジネス・サービスに関連するもの。

*** 「高賃金マーケット」とは、平均雇用所得が米国平均所得を20%以上上回るもの。

出典: コリアーズ・インターナショナルによる市場調査

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グラフ 3 : 都市別にスペース別の平均コストを比較する(米国ドル/ 月)

マンハッタン

サンフランシスコ

オースティン

マイアミ

シアトル

ワシントン,D.C.

アトランタ

ボストン

デンバー

フィラデルフィア

ロサンゼルス

ダラス

サンディエゴ

ヒューストン

ポートランド

シカゴ

カンザスシティ

ローリー・ダーラム

$0 $200 $400 $600 $800 $1000 $1200 $1400

プライベート・オフィス 専用デスク 共有デスク

出典: コリアーズ・インターナショナルによる市場調査

2019 U.S. FLEXIBLE WORKS PACE REPORT | COLLIERS INTERNATIONAL

フレキシブル・ワークスペースにかかるコストとは?

フレキシブル・ワークスペースのコストは都市によって大きく異なる。大抵の場合、コストにはその都市

の賃料水準が反映されている。従って、アメリカで最も高価なオフィス市場であるマンハッタンとサンフ

ランシスコで、デスクあたり平均料金が最高額となるのも当然である。その他、高価な賃貸市場とされる

ボストンやロサンゼルスでもコストは高い。

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フレキシブル・ワークスペースのコストを従来のオフィ

ス賃料の支払いとどの様に比較したらよいか?調査した

19都市において、コワーキング・プロバイダーからオフ

ィス1部屋を借りる場合の月額料金の格差は、シカゴで月

額480ドル/sfからマンハッタンで月額1,160ドル/sfま

でと幅があり、その格差は2.4対1である。グレードAの賃

料の格差はさらに大きく、ミネアポリスで月額17.80ドル

/sfからサンフランシスコで月額97.10ドル/sfとなり、

都市別格差は最大5.5対1となった。

表4は、(コワーキング施設において1人あたりのフロアスペースが標準的広さとされる)60sqft( 6sqm 相当)のフレキ

シブル・ワークスペースを前提として、グレードAオフィスの年間賃料とフレキシブル・ワークスペースにかかる年間

コストを比較したものである。各都市は高い賃料の都市(50ドル超/sf)、中間賃料の都市(35~50ドル/sf)、低い

賃料の都市(35ドル未満/sf)に分類した。フレキシブル・ワークスペースの年間コストと従来のオフィス賃料との平

均的な格差は3.2対1である。しかし、高い賃料の都市では最小の格差となる3対1であり、低い賃料の都市では最大の格

差となる5.8対1となっていることが注目される。・

表 4 : 一人当たりフレキシブル・ワークスペース・オフィスと同等の従来型オフィス・スペースのコスト格差

グレード A 賃料/SF

同等のコワーキング・ス

ペース料金/60SF当たり

一人当たりオフィスのコワ

ーキング平均料金

格差

高い賃料の都市 $76.07 $4,564 $13,645 3.0

中間賃料の都市 $43.82 $2,629 $8,867 3.4

低い賃料の都市 $27.07 $1,624 $9,466 5.8

全都市 $57.93 $3,476 $11,237 3.2

出典: コリアーズ・インターナショナルによる市場調査

従来のオフィス・スペースでは1人あたりの床面積は、一般的に14~19sqm程度であり、コワーキング施設での1人あた

り6sqm相当と比較すると2.5~3倍の広さに相当する。表面上、フレキシブル・ワークスペースにかかる基本的コストは

通常のオフィス利用と比較すると若干高いか同レベルの水準であるようにみえる。しかし、企業が床単価に対する効率

を高めようと努力する中、現状のオフィス・スペースの再構築を試みたり、より効率的な物件へ移転するために費用と

時間をかけるよりも、フレキシブル・ワークスペースの方が手っ取り早い費用削減対策を提供することができる。

低い賃料の都市で非常に高いコスト格差が生じている背景として推察されるのは、こうした都市ではコワーキング・ス

ペースに対するテナント側の価格感応度が限定的であり、コワーキングが提供する柔軟性及び付帯施設に対して、テナ

ントがあまり出費を厭わないということである。セカンダリー都市の場合、企業は長期の賃貸借契約を検討するより

も、全く新しいロケーションをまずは試しとして借りる場合がある。このような場合、フレキシブル・ワークスペース

は、より短い期間でまずは小規模なスペースを借りることを可能とする。

従来のオフィス・スペースとフレキシブル・ワークスペースとのコスト比較に影響を与える要素はまだある。必要とする

床面積の基準は都市ごと、もしくは業種により異なるのに対し、付帯設備に関しては高い賃料の都市の方がテナント側の

期待が大きい傾向にある。従来型のオフィス賃貸の場合、既存の賃貸借契約であるか、目的のはっきりしない賃貸借契約

であるかにかかわらず、コワーキングでは要求されない事前手続きと初期投資が必要となる。但し、短期間を超えてフレ

キシブル・ワークスペースを利用する場合には、恒常的にかかるコストはかえって割高になる場合が多い。

賃貸借の形態を決定する要因はコストだけではない。例えば、フレキシブル・ワークスペースでは会社の個性が埋も

れてしまう可能性があるものの、従来型のオフィスであれば、会社のアイデンティティと企業文化を維持できる可能

性がより高まる。

2 0 1 9 U. S . F L E X I B LE W O R KS PACE R E P O R T | C O L L I E R S I N T E R N A TI O N AL

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8 8 2019 U.S. FLEXIBLE WORKSPACE REPORT | COLLIERS INTERNATIONAL

主な市場参加者

最近発行されたCoworking Resources社によるコワーキ

ング・スペース・オーナー向けガイドでは、以下の大

手プロバイダーが紹介されている。

• IWG/Regus: 世界最大の共有スペース・プロバ

イダーであり、約3,000か所に及ぶ拠点を賃貸し

ている。「Space by Regus」ブランドのコワー

キング・スペース計29か所に加えて、弊社が調

査した19市場において、同社のシグネチャー・

ブランドである「エクゼクティブ・スイート」

は計224拠点におよぶ。

• WeWork: 世界65都市で341か所の拠点を有し、

うちニューヨークだけでも50か所近くある。会員

数は全世界で200,000件以上に上る。

• Knotel: 120か所以上の拠点を有し、計23万

sqmの床面積を賃貸している。

• Impact Hub: 米国内で14か所、全世界で92か所の

拠点を有し、世界81都市に16,000件近い会員数を

有する。フランチャイズ形態で事業展開。

コリアーズは米国内の主要19都市を対象として、フレキ

シブル・ワークスペースの市場動向を独自調査したが、

Coworking Resourcesによる世界的な調査と大体一致する

結果となった。単一物件のみを提供するプロバイダーは

調査対象外とした弊社調査では、対象とする19都市で、

合計140以上のコワーキング・プロバイダーが、約900施

設で、合計面積254万sqmのフレキシブル・ワークスペー

スを運営している事が確認できた。但しこの業界では、

規模経済の影響からプレイヤーの集約度が高いため、上

位10社だけで総面積ベースのシェアで約80%、WeWork一社

だけでも同45%以上を占めていることが注目される。

また大手であるほど扱う建物の規模も大きくなる一棟あ

たりの平均床面積が上位10社は3,437sqmであるのに対

し、その他130社は僅か1,579sqmに留まる。ここでもまた

WeWorkがトップで、一棟あたり平均床面積は7,339sqm、

次がLevel Office社の5,946 sqmとなっている。その他の

プロバイダーについては一棟あたり平均3,716sqmを下回

っている。物件数ではIWG/Regusがトップとなる。弊社調

査に基づけば、物件数ベースではIWG/Regusは全体の30%

を占めているが、床面積ベースで占める割合は21%に過ぎ

ず、同社の一棟当たり平均床面積が相対的に小さいこと

を反映している。

表 5 : 米国主要19都市におけるフレキシブル・ワークスペース・プロバイダーの規模をランク付けする*

(単位:SQM) 全賃貸面積 物件数 一棟当たり床面積

WeWork 1,129,887 154 7,339

Regus 437,109 224 1,951

Knotel 232,258 120 1,951

Spaces 77,574 29 2,694

Convene 49,982 14 3,530

Industrious 48,774 22 2,230

Level Office 47,659 8 5,946

MakeOffices 39,763 12 3,345

Premier Business Centers 27,035 19 1,394

Jay Suites 24,155 8 3,066

上位 10社 2,114,102 610 3,437

その他プロバイダー 483,375 301 1,579

総計 2,597,476 911 2,880

* 調査対象とした各都市上位5社のデータに基づく

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9 2019 U.S. FLEXIBLE WORKSPACE REPORT | COLLIERS INTERNATIONAL

図 1 : 主要19都市におけるフレキシブル・ワークスペース・プロバイダーの占有率(貸借面積ベース)

賃貸スペース合計 (SF)

Jay Suites

Premier Business Centers

MakeOffices

Level Office

Industrious

Convene

Spaces

Knotel

Other

Operators

WeWork

IWG/Regus

WeWork IWG/Regus Knotel Spaces

Convene Industrious Level Offices MakeOffices

Premier Business Centers Jay Suites Other Operators

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8 10 2019 U.S. FLEXIBLE WORKSPACE REPORT | COLLIERS INTERNATIONAL

フレキシブル・ワークスペースを 使用する理由とは?

フレキシブル・ワークスペースを採用、または拡張する企業が増えている

が、その理由は定量的にも定性的にも様々である。大企業が、敢えてコワー

キング形態が提供する柔軟性を採用する理由は、営業方策上のものからクリ

エイティブで戦略的なものまで、以下の通り様々である。

• ビジネス展開に対する柔軟な対応—会社側において長年勤務する社

員達に新たなロケーションを試させたり、新たな市場に拠点を

確立しようとする場合、ある程度柔軟性を持たせたオフィス環

境を提供したい場合がある。また、プロジェクト・チームのた

めに比較的短い決められた期間だけスペースを借りたい場合も

ある。この場合の契約オプションとして、短期(月極め)、中

期(6~18カ月毎)、長期(3年以上毎)などが存在する。

• 資本的支出を削減する—フレキシブル・ワークスペースのエンド・ユーザ

ーは最終的には入居工事の償却原価を自己負担することとなるものの、

支払形態としては、全額前払も一括払いも必要とされない。このような

財務管理上の特徴が、エンドユーザーにおいてさらなる柔軟な経費対応

を可能とし、財務リスク軽減にも役立つこととなる。

• クリエイティブなオフィス環境へ転換する—従来型のオフィス環境はす

でに陳腐化しているともいえる。小規模なオフィスは概ね退屈で、大規

模拠点の様な活力がないとみなされている。有力学術研究機関(コーネ

ル大学のBecker 教授、Sims教授等)と大手民間調査機関の共同研究にお

いても、多様な環境が事業革新と生産性を育むと結論付けられている。

• イノベーター/新興企業コミュニティへアクセスする—同様の理由から、

大企業は新規事業を開拓するイノベーターや起業家に接近したいと考え

ている、彼らの考え方から学ぶものがあったり、彼らに投資する可能性

を見出すためだ。このため、インキュベーターやアクセラレータ2の拠点

として利用されているフレキシブル・ワークスペースを、大企業も付随

して利用したいと考えるようになっている。

• リース会計基準(FASB/IASB 13)の変更—新しく施行される米国および国

際財務報告基準は不動産リース債務の開示を明確に求めている。この

ため、企業の不動産戦略の可視性も高まり、社内の不動産管理部門に

対しても保有ポートフォリオを最適化するプレッシャーが高まるだろ

う。非効率または未活用のままであったスペースを、企業収益に最終

的に貢献するものへ用途転換していく企業側のインセンティブも相応

に高まるだろう。また、従来型の長期賃貸借契約に基づいた伝統的な

オフィス・スペースは削減が余儀なくされるため、フレキシブル・ワ

ークスペース市場における追い風となるだろう。企業においては、一

時的な従業員の増減に対応できるフレキシブル・ワークスペース・プ

ロバイダーに対する依存が高まるだろう。また、テナントにおいて

も、会議室、研修施設、小会議スペース等を含む付帯スペースの利用

に対するサービス依存度が高まっていくことが予想されている。

2 https://www.ft.com/content/1ea7d6e6-88dd-11e7-afd2-74b8ecd34d3b

従来「インキュベーター」とは選択的に権利が認められるものであり、通常一定のフィーの支払対価として、コワーキング・スペースへの無制限のアクセスを経営指導や

研修と共に提供している。インキュベーターは公共部門や学術機関から資金提供を受けることが多く、ライフサイエンス分野、デジタル・テクノロジー分野において強い

存在感を示している。「アクセラレーター」とはすでに存在するビジネスの規模拡大のための季刊が限定された集中的な支援プログラムである。プログラムにはワークシ

ョップ、経営指導、将来的な投資家へのピッチ代行などが含まれる。アクセラレーターは融資などを通じて資金提供し、新興企業に対しては株式との交換出資を行った

り、前払いでフィーを一部だけ課金する場合もある。このようなインキュベーターとアクセラレーターのサービスは互いに重複する場合もあることには留意したい。

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11 2019 U.S. FLEXIBLE WORKSPACE REPORT | COLLIERS INTERNATIONAL

一方、調査結果次第では、企業がフレキシブル・ワークスペース・モ

デルを採用することをためらう場合もあることには十分留意したい。

• ハーバード大学の研究3によると、共有スペースではかえって人の交流

が少なくなる、または対面で仕事の話を減らす傾向があることが示され

ている。フォーチュン500に該当する大手多国籍企業の本社を対象とし

た2回の現地調査結果に基づくと、モダンなオープン・オフィスでは対

面での交流が約70%減少する一方、オンラインのコミュニケーションが

同じ割合だけ増加することが明らかになった。言い換えれば、実際には

共有スペースはコミュニケーションを促進する訳ではない可能性があ

る。

• 全ての従業員が外交的だったり、社交的環境で強みを発揮できるとは

限らない。同じくハーバード大学の研究によると、従業員の個人スペ

ースを剥奪し彼らを1つの「水槽」に入れてしまうと、居心地が悪くな

り電子的な世界に引きこもってしまう人もいることが示されている。

• フレキシブル・ワークスペースは刺激が多すぎる。最後に、同じ研究論

文の指摘として、情報過多、注意散漫、人の動きが多すぎることによっ

て、「生産的交流が増えるどころか、減るという逆効果が出ている兆

候」が示されている。カリフォルニア大学アーバイン校の研究4でも、自

分の本来の仕事が中断された場合、その仕事に戻るためにかかる平均時

間として23分かかることが分かっている。言い換えれば、企業はオフィ

ス・スペースにかける費用自体は削減できるものの、結局は従業員の生

産性を犠牲にしているということである。

しかしながら、コワーキング・スペースの拠点数とカバレッジ範囲が着実

に拡大する中で、様々な規模の企業が新しいオフィス形態の利点をまずは

認識し、第一線を走る有能な経営者や従業員が新たな事業展開を企業文化

として受容できるようになることを弊社では期待している。

3 Ethan S. Bernstein, Stephen Turban“オープン”ワークスペースが人間の協調性に与える影響(学会誌:2018年7月Philosophical

Transaction of the Royal Society B.2)

4 Gloria Mark, Daniela Guidth and Ulrich Klovke“中断された作業の損失:スピードとストレスの増加”カリフォルニア大学アーバイ

ン校、School Information & Computer Science

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8 12 2019 U.S. FLEXIBLE WORKSPACE REPORT | COLLIERS INTERNATIONAL

フレキシブル・ワ

ークスペースを活

用したベスト・タ

レントの採用

激しくなる“人材争奪戦”

は、最終的にはフレキシブ

ル・ワークスペースを活用す

る重要な動機づけを提供して

いる。従来、企業の立地条件

は経営幹部の所在する場所に

より決定され、一般社員はそ

の流れに従うだけであった

が、この理屈は真逆になりつ

つある。つまり、現代の企業

は、若く優秀な人材の所在す

る場所へ自ら軸足を移しつつ

あるのだ。最も優秀な人材の

採用競争が激しくなる中、優

秀な人材を引きつけられるだ

けの付帯施設を伴った魅力的

なオフィス環境を自ら構築す

る創造的努力が、それぞれの

企業に求められているともい

えるだろう。

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13 2019 U.S. FLEXIBLE WORKSPACE REPORT | COLLIERS INTERNATIONAL

体験別にモデル分けする

フレキシブル・ワークスペース・プロバイダーが提供するオフィス・

スペースのタイプはターゲットするテナントにより異なるが、基本的

に下記3つの環境に大別できる。

• エクゼクティブ・スイート/従来型—名前から分かるように、複

数の仕切られたオフィスがテナント共有の付帯施設につながって

いる、最も従来型ともいえるオフィス・スペースである。この形

態においてはRegusが長年業界首位にある。

• ホテルによる共有型—超高級なオフィス・スペースときめ細かな

サービスが提供される。経営トップ向けとして最適といえるが、

出張が多い自社の幹部役員などのために、世界最高水準のアメニ

ティの提供を切望する富裕層や企業組織をターゲット顧客として

想定したオフィス・スペースである。世界的にもこの業態のリー

ダーといえるような運営会社は見当たらないが、重要なポイント

は、どこにおいても一貫して高い品質の滞在環境を保証しながら

も、どこに行っても同じような画一性はないということである。

• 一般大衆向けのコワーキング—このタイプのオフィス・スペース

は多様な業種に対応しながらも、基本的に共有型である。従業

員の面積当たり密度も高く、オフィスやデスクも移動可能であ

るため物理的なフレキシビリティを提供する。この業態におい

ては、WeWorkが業界首位で、クライアントの嗜好に応じて他の

ビジネス・モデルも提供していることを付記する。

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8 14 2019 U.S. FLEXIBLE WORKSPACE REPORT | COLLIERS INTERNATIONAL

新しい賃貸モデル –

フレックス & コア型とシティキャンパス型

職場のデジタル化、モバイル化が徐々に進行してい

る。また、リース会計の変更に合わせて、フレキシ

ビリティと働き方改革を図る企業側の需要も徐々に

膨らんでいる。そこで注目されつつあるのが、下記

3つに大別される新たなリース形態である。

1.フレックス & コア型

5コリアーズ・インターナショナル フレキシブル・ワークスペース・アウトルックレポート2018

-アジア太平洋参照

テナントはコア業務のためのスペースと、従業員数

の変動に応じたフレキシブル・ワークスペースを合

わせて長期契約でリースする。コア業務のためのス

ペースをどの様にリースするか、言い換えればサー

ビス提供者と如何に契約するか、あるいはビルの持

主と如何に従来型の賃貸借契約を直に締結するかに

よって、個別契約形態が異なる結果となる。この場

合、サービス提供者が大規模の床面積を一括して貸

借し、値引き相当分を一部でもテナントに還元すれ

ば、全体的なコスト削減が可能となる。同様に、規

模の経済の恩恵から入居工事に伴う全体的なコスト

削減が実現できるため、サービス提供者において

も、従来の賃貸形態と比較すれば、テナント当たり

の効率的な原価削減が可能となる。ビジネスの柔軟

性や可動性の向上、賃貸借期間中の資本的支出を運

営費用として経費計上できる明確な費用対効果など

から、「フレックス&コア」のリース形態は益々注

目を集めている。5

フレキシブル・ワークスペース

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15 2019 U.S. FLEXIBLE WORKSPACE REPORT | COLLIERS INTERNATIONAL

2.シティキャンパス型

業種の特性に応じて、外出中の社員が、特定の都市内、あるいは世界中でドロップダウン・スペースにアクセスでき

る形態である。当面は慎重に採用されているものの、営業や、クライアントと接する職種においては、今後非常に注

目を集めていくだろうと考えられる。

オフィスは本社とサテライトオフィスで構成される簡素なものが想定されるが、総占有面積は削減されることとなる。こ

れにより、企業側は一定割合の社員を再配置することとなり、ホットデスクやプライベート・オフィスもあるデジタル・

プラットフォームを宛がうこととなる。このような契約形態が、フレキシブル・ワークスペース・プロバイダーの有する

ポートフォリオ6に幅広く関与することとなる。この形態の成功のカギとなるのは、フレキシブル・ワークスペース業者

が自らの保有するデジタル・プラットフォームの強みを十分に発揮させること、そして事業計画に描かれたような新たな

テクノロジーの活用により既存ビジネスとのオンライン上のリンクを実現させること、である。また、この形態において

はサービス提供者のマーケット・カバレッジが大きく影響する。したがって、カバレッジ範囲が拡張すれば、このビジネ

スモデルのメリットも相応に増大することとなる。

3.郊外型

シティキャンパス型のある種変形ともいえるが、立地の良い郊外にあり、良好な交通のアクセスと徒歩で移動できる便

利なオフィス環境を提供している。都心のオフィスを補完するこのようなロケーションは、従業員により大きな柔軟性

を提供している。このスペースのプロバイダーは、通常小規模であり、それぞれの地域に根差している場合が多い。

6 脚注

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8 16 2019 U.S. FLEXIBLE WORKSPACE REPORT | COLLIERS INTERNATIONAL

今後の課題と展望

IWG/Regusによる「エクゼクティブ・スイート」モデルの創出からすでに30年

以上が経過した一方で、WeWorkの創業と共に根付き始めたフレキシブル・ワ

ークスペースを支える事業構想は、まだ10年も経っていない。未だ歴史が存

在しない中で、床面積を急激に拡大しているこのような形態が、広義のオフ

ィス市場に与える影響-またはビジネスサイクルを通じた持続可能な業績水

準などについてはいまだ殆ど知られていない。

本節ではコワーキング・モデルに関する主な疑問点を考えてみたい。

1)フレキシブル・ワークスペースがオフィス市場全体、もしくは従来の

賃貸借形態に与える影響とは?

表面的な影響はまだ小さいように見える。弊社分析によると、コワーキング

による占有面積はいまだ取るに足らない小さなものであり、調査した市場の

全オフィス・スペースの僅か1.6%であった。さらにこの数字も、米国全体を対象

としたオフィス市場のシェアとしては間違いなく過大なものである。これは

今回調査対象外としたセカンダリー都市においては、フレキシブル・

ワークスペースの概念自体がまだ一般的でないことにも影響されている。

しかしすでに説明してきたとおりだが、注目度が増していることは明らかな事

実である。過去18カ月の間だけでも、フレキシブル・ワークスペースによる需

要は、供給増加面積の約50%に相当する。同期間における新規貸借契約に占め

るシェアをみても、供給総量ベースで3分の1に相当する。

これらの印象的な数字でさえ、まだ広義のオフィス市場におけるフレキシブ

ル・ワークスペースの影響を正確かつ包括的に反映しているとはいえないだろ

う。最近、JPモルガンに取って代わり、WeWorkはマンハッタンで最大の単独テ

ナントとなった。同様にロンドンでも1年前に最大の単独テナントとなった。

弊社が対象とする主要なオフィス市場において、コワーキング・プロバイダー

は、法律事務所、投資銀行、その他従来型の主たるオフィス・ユーザー以上に

床需要が拡大しているテクノロジー部門のテナントと、最大の貸借面積を有す

る単独セクターとしての地位をめぐって競合している。これだけの規模を有す

るようになったフレキシブル・ワークスペース業者は、当然ながらマスターリ

ース契約締結においても強い交渉力を発揮することとなっている。

また、影響はコワーキング・リース自体を超えて広がっている。コワーキ

ング契約の典型であるフレキシビリティやサービス内容を盛り込んだ条項

が、従来型のオフィス賃貸でも実感できるようになってきたのだ。テナン

トは、できるだけ短期の賃貸借とできるだけフレキシブルな契約条件を要

求するようになり、多くの場合それを承諾させることに成功している。全

ての個人やビルに適切なものとはいえないが、このような傾向は特に成長

分野や不安定な業種でより顕著に認められる。一方、ヨガルームや無料の

食事、テナントパーティ等、共通のテナント特典を提示する大手のビル持

主も徐々に増えつつあることが注目される。

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2)フレキシブル・ワーキングがビル経営そのものに与える影響とは?

大規模の床需要を未だに吸収できるコワーキング業

者はもはや少数派ともいえる。互いの需要の食い合

いというような側面はあるとはいえども、貸主の大

半は、コワーキング業者の参入を真摯に歓迎すべき

であると弊社は考える。

しかしこの形態はとにかくコストがかかる。最重要な

検討課題は、従来型テナントと比較したコワーキング

企業の人口密度の高さである。オフィスの人口密度は

業界によって大きく異なるが、企業が占有コスト削減

のため効率的な間取りを志向しているので、最近では1

人当たりの面積が全般的に低下傾向にある。かつては

企業が借りるフロアは1人あたり平均21~23sqmだった

が、現在では平均14~16sqmの場合が多い。

それでも、これは一般的なフレキシブル・ワークスペ

ースの1人当たり面積である僅か6sqmの3倍近くに相当

する。つい2~3年前まで一般的とされたテナント需要

に比べて、フロアあたりで3~4倍の人数を収容するこ

ととなると、ビルのインフラにも大きな負担がかか

る。エレベーターの待ち時間も増え、ビルを冷やすた

めの空調エネルギーも増大し、カーペットやフロアの

摩耗も激しくなる。

ビルの運営上も、さらに微妙な影響も生じる可能性が

ある。フレキシブル・ワークスペースを志向する人々

の中には、型破りで、従来のオフィスビルに相応しい

イメージではない人もいる。犬に関する条項の様に些

細な事項であっても、重要な交渉条件になったりす

る。実際、最近のメディア・アンド・テクノロジー系

の新興企業はオフィスに犬を連れてくることを奨励す

る傾向があるため、付随して賃貸借契約に新たな長々

とした条項が追加されることになる。こうなると、オ

フィスが犬小屋にならないようにするとか、保険条例

違反、全般的な注意散漫、従業員の安全等、管理責任

上の面倒くさい問題が様々生じてくる。

不動産業界がフレキシブル・ワークスペース・プロバ

イダーの収益源をどの様に保証するか検討している一

方、不動産鑑定への影響も予想されている。なお、イ

ギリスでは、英国王立チャータード・サベイヤーズ協

会が、この議題に関する政策方針を作成中であること

を付記する。

3)ギグエコノミー(非正規雇用者によるインターネット経由の請負業務環境)は、オフィス・スペースに対する需要を低下させる

企業は従業員1人あたり面積をなるべく狭くしている

が、同時に全体床面積に収容される人数も減らしてい

る。今や「ギグエコノミー」として知られるテンポラ

リーの雇用や契約ベースの仕事を、積極的に選ぶ人が

増えている。企業でも従業員を直接雇うより外注に仕

事を出す傾向が強まっている。これは、プロジェクト

のスケジュール管理に都合がよく、福利厚生を提供す

る必要もない柔軟な契約形態が企業に評価されている

ためである。また、契約社員に対しては執務スペース

も提供されないことが多い。この様な社員は自宅勤務

が可能とされていても、フレキシブル・ワークスペー

スに最も適した利用候補者であるともいえるだろう。

テクノロジーも進歩していることから、特にミレニアル

世代の人達は、仕事ができるなら別に本社オフィスで働

かなくてもよいと考えている。

フレキシブル・ワークスペースの普及により、ギグ

エコノミーやアウトソーシングがより現実的なもの

となり、業務シフトが進むのだろうか?この傾向は

従来型のオフィス賃貸借業務の衰退を早めるのだろ

うか?この様に、コワーキング・スペースは従来型

のオフィス・スペースからテナントを直接的に退出

させることだけでなく、ギグエコノミーを促進する

ことで、間接的にもオフィス賃貸借を削減している

わけである。

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4)フレキシブル・ワークスペースはどこへ向かうのか?新たな形態やパートナーシップについて検討する

新興業界によくある様に、コワーキングは変化し続け様々な方向に進化している。ターゲットとなるテナント層に合わ

せ、そのサービスやフレキシビリティのレベルも多様化し、新たな形態も出現している。例えば、WeWorkには現在法人

部門があり、大手企業への対応に取組む一方、他の部門は中堅企業も対象としている。

コワーキングの他の進化形態として、特殊な企業やクライアントに対応するニッチスペースがある。市場に参入する専

門業者は増加しており、バイオテクノロジーや建築等の特殊な業界に対応している。フレキシブル・スペースに共通の

目的を持つ仲間のネットワークを期待している人には、得るものが多いであろう。ニッチ・コワーキングの利用者は、

例えばヨガ愛好者、ミュージシャン、高齢者、性的マイノリティーなどの特定の人達等である。グループ特典としては

ワークショップ、セミナー、ネットワークセッション、機器の共有、キャリアツールなどが含まれる。

しかし、特殊なスペースは論争を呼ぶこともある。ニューヨークではThe Wing(ザ・ウィング)が#MeToo運動の影響を

受け、会員は女性だけに限定した。同社のスペースは大いに成功を収めたものの、ニューヨーク市人権委員会から調

査も受けている。これは会員を女性に限定していることを理由としてで、ニューヨーク市民配慮法に抵触する疑いの

ためである。ACLU:American Civil Liberties Union(アメリカ自由人権協会)は、あるクラブを私的なものと表明

しても、それを私的なものにしたことには繋がらず、特別な配慮を受けることもないと報告している。当該スペース

は差別禁止法に抵触する恐れがあるが、いまだ法的決断はなされていない。

事業の成功によって競合も増え、その中には新規参入業者だけでなく、大手貸主やサービス・プロバイダーも含まれる

こととなった。世界最大手のTishman Speyer(ティッシュマン・スパイヤー)は独自のフレキシブル・ワークスペー

ス・ブランドStudioを本社所在地である600 Fifth Avenueで立ち上げ、当初の計画ではアメリカ及び海外の複数のマー

ケットに進出することを発表した。Equity Officeはコワーキング企業Industriousと提携し自社物件でスペースを経営

し、Boston Propertiesは同社独自ブランドとなる”FLEX by BXP”の事業コンセプトを発表した。フレキシブル・ワー

クスペースの経営を計画しているその他の企業として、Hines、Silverstein Propertiesなどが挙げられる。

コワーキング事業が成熟し拡大するにつれて、プロバイダーの間で吸収合併の増加も想定される。スケールメリット

を生かしながらユーザーのオプションを拡大し、強化させるためにも、デベロッパー、投資家、コワーキング企業は

それぞれのネットワークを駆使し、現存のプロバイダーを活用し、発展を維持しながら、オフィス・スペースを運営

している。主要都市以外の地方都市のプロバイダーがそれぞれ市場地位を確立していけば、それらを主要プロバイダ

ーがやがて吸収し、ネットワークを拡張することができるだろう。

5)景気低迷時のフレキシブル・ワークスペースはどうなるか?

今後は経済と雇用の鈍化が顕在化し、2020年までには多分マイナスの実質成長に落ち込む可能性が高く、今回の長い景気

拡大局面も終盤に近づいているようである。フレキシブル・ワークスペースが景気低迷をどう切り抜けるか、これはオフ

ィス部門全体が直面する重要な課題である。

WeWorkその他多くの競合他社は、今だに赤字の新興企業に過ぎない:2018年上半期、WeWorkは売上が7億6,400万ドルで

あるのに対し7億2,300万ドルの赤字を生み出し、2017年にも9億3,300万ドルの赤字を記録している。このことからも、

同社は急激で大幅な収益減少に対して非常に脆弱な位置づけにあると考えられる。短い歴史と新興業種として実績が不

足していることを考えるとこれら企業の将来はほぼ予測不可能である。但し、信頼力が高く、不況にも強い既存企業と

の長期契約が比較的多い従来型の貸主と比較すると、このようなビジネスモデルではテナントの大半が個人起業家や小

規模で資本力が弱い新興企業であり、リース契約も短期間であることから、不況下のキャッシュフローが不安定になる

公算が高い。

さらに、大抵の場合、コワーキング企業では貸主と長期リース契約を締結させられる一方、自らが管理する賃貸に出す

のは短期間にとどまる。従って、不況下で賃料が下落し収益が悪化すれば、支払う賃料が固定されている場合には経営

の不安定化が加速化する。

一方で不況下において、より多くのテナントが、従来の固定化した長期オフィス賃貸借契約よりも、必要に応じてコワ

ーキング・スペースを短期間借りる方を選択するようになれば、フレキシブル・ワークスペース・プロバイダーに対し

て有利となる。実際、コワーキング・プロバイダーにおいては資本力のある優良テナントにも顧客層を広げようと、大

手企業をターゲットにする新たな動きが見られる。この様に、景気サイクルが弱まる局面で、フレキシブル・ワークス

ペース・プロバイダーが、賃料を下げてでも既存のテナントを引き留めできるか、これは時間が経てばいずれ分かる試

金石ともいえるだろう。

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