永続性:写真「ライジング」:craig white, urbantoronto.ca...

16
自動車用のニッケル: かつてないほど多く使用 宇宙用のニッケル: 宇宙飛行エンジン めっき産業の見直し: よりクリーンでより効率 的な産業へ ニッケル誌第28巻第1号 (2013年3月号) ニッケルとその用途の情報誌 永続性: シンガポール のスポーツク ラブ施設の屋 根の寿命

Upload: others

Post on 08-Jul-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 永続性:写真「ライジング」:CRAIG WHITE, URBANTORONTO.CA ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル:

自動車用のニッケル: かつてないほど多く使用

宇宙用のニッケル: 宇宙飛行エンジン

めっき産業の見直し: よりクリーンでより効率的な産業へ ニ

ッケ

ル誌

第28

巻第

1号

(20

13年

3月号

ニ ッ ケ ル と そ の 用 途 の 情 報 誌

永続性:シンガポールのスポーツクラブ施設の屋根の寿命

Page 2: 永続性:写真「ライジング」:CRAIG WHITE, URBANTORONTO.CA ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル:

1900年代の最初の10年間の終わりまでには、クロム鋼及びクロムニッケル鋼の諸特性がもっと良く理解され始めていた。そしてこのことからいくつかの国の冶金学者がそれぞれステンレス鋼を開発することとなった。

ドイツのKrupp工場で、Eduard MaurerとBenno Straussが高温用の多くの合金を試験しており、まもなくクロムが20%以上のステンレス鋼は非常に優れた耐食性があることを発見した。それから彼らはクロム20%、ニッケル7%のオーステナイト系合金V2Aを開発した。この組成は、今日に至るまで最も多く生産されているステンレス鋼合金である18-8もしくはAISI304(UNS S30400)鋼種に非常に近い。V2Aは多くの様々な環境で並外れた耐食性を有し、特に硝酸に対し役に立つことが分かった。現在硝酸に対し最も一般的に使用されている合金は、いまだにこの合金で低炭素型の304L(S30403)である。V2A合金は1912年にドイツ特許を取得した。初期の用途は、実際は大部分が工業用と思われる。

MaurerとStraussは、同時に、V1Mと呼んでいた約クロム14%とニッケル2%を含有するマルテンサイト系合金であるニッケル含有焼入硬化型ステンレス鋼の特許も取得した。ニッケルの添加が硬化状態で合金の靭性と耐食性とを増大させる。AISI414(S41400),422(S42200)、431(S43100 )といった合金をはじめとして、今日使用されているマルテンサイト系鋼種のいくつかは、ニッケルが添加されている。また、溶接性をよくするためにニッケルを含むマルテンサイト系の410NiMo(S41500)や主に沖合の石油ガス産業で使用されているスーパーマルテンサイト鋼種といったものもある。

これら二種類の合金から作られた製品が、1914年にスエーデンのMalmöで開催されたバルチック博覧会のドイツパビリオンに展示された。不幸にもその年の夏に第一次大戦がはじまり、4年にわたる戦争の間、鉄鋼生産を軍事用途に流用することが必要になった。

イギリスのシェフィールドでは、独学の冶金学者のHarry Brearleyが銃身の耐摩耗性を向上させるためクロムー鉄合金を研究し始めた。実験では初期の目標は達成されなかったが、Brearleyは、クロムが多い合金ほどそれらのミクロ組織を明らかにするにはより侵攻性のあるエッチング液が必要であるという事実に驚いた。彼はまた、これらの合金は湿気にさらされてもさびないことに気がついた。1913年、彼は12.8%のクロムと0.24%の炭素を含有する商業用のマルテンサイトステンレス鋼の鋳造品を 初めて製造した。Brearleyは、最高の性質を得るために適切な熱処理を慎重に行なった。彼はまた、正しい鍛造温度にすることがその材料を容易にかつ満足がいくように確実に成形できることを理解した。Brearleyの合金で大きな可能性のある用途のひとつは家庭用刃物類で、1914年に最初のナイフ用の鋼片が1914年に鍛造されたのは大いに彼の頑固さのおかげである。シェフィールドの様々な刃物業者がBrearleyのステンレス合金を注文し始めたが、しかし再び戦争によりその商品化が妨げられた。わずかにクロムの含有量が多いものを含めて、この種の鋼の大部分は戦争のために使われた(主には航空機エンジンのバルブ用)。大英帝国ではこの鋼の特許は全く申請されなかった。最初の特許は、1915年にカナダで取得され、その翌年に米国で取得された。Brearleyは最初、この金属が「さびない鋼」と呼ばれるのを好んだ。しかし、R.F.Mosley刃物工場のマネージャーのErnest Stuartは「ステンレス」という名前を好んだ。酢でナイフの合金を試験した後、彼は「この鋼はしみがつかない。」といったと言われている。この名前がすぐに流行した。Brearleyはしばしばステンレス鋼の発見者として認められており、確かにステンレス鋼を一般に広めた張本人である。次号では、米国における初期のステンレス鋼の開発を見ることにする。

ステンレス鋼の歴史 3

最初の商業用ステンレス鋼

Eduard Mauer Benno Strauss Harry Brearley 初期の食卓食器類

Page 3: 永続性:写真「ライジング」:CRAIG WHITE, URBANTORONTO.CA ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル:

写真「

ライ

ジン

グ」:

CRAI

G W

HIT

E, U

RBAN

TORO

NTO

.CA

ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号)

ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル: 焦点 3

ニッケルとその用途の情報誌

発行:ニッケル協会

プレジデント: Dr. Kevin Bradley 編集発行人: Stephanie Dunn [email protected]

デザイン: Constructive Communications, Design

住所: Nickel Institute Nickel Institute Eighth Floor Avenue des Arts 13-14 Brussels 1210, Belgium Tel. 32 2 290 3200 [email protected]

本誌は読者への一般情報提供を目的としており、しかるべき助言を確保せずして、いかなる特定の目的あるいは用途のために使用もしくは依拠されるべきではない。本誌は専門的に見て正確であると信じられるものであるが、ニッケル協会とその会員、スタッフ及びコンサルタントはあらゆる一般的な、もしくは特定の目的のための適合性について、何ら表明もしくは保証するものではなく、また本書に示されている情報に関して、いかなる種類の義務もしくは責任を負うものではない。

ISSN 0829-8351

印刷:カナダ。再生紙使用。

表紙: 構成:Constructive Communications

写真:iStock Photo:©Uyen Le

屋根の画像:Millenium Tiles

目次焦点編集者記 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3

特集中国の電気めっき団地. . . . . 4, 5自動車のコーティング. . . . . . . 8, 9

注目される用途シンガポールの中華スイミングクラブ . . . . . . 6, 7Zhang Huanの「ライジング. . . 10コンプレッサーホイールと無電解ニッケル被膜. . . . . . . . . 14ハードデスクドライブ . . . . . . . . 15スパークプラグ . . . . . . . . . . . . . 16

ニッケルによる技術革新Sabreエンジン . . . . . . . . . . . . . 11火星上のキュリオシティ. . . 12,13

UNS詳細 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14ウエブリンク . . . . . . . . . . . . . . . 15

小さくかつ必須 様々な形でその特性を活用しているニッケルが我々に確実に、一貫して、効率的にそして安全に行なうことを可能にしているのは、しばしば小さな物、あるいは隠れて見えない物である。

自動車の表面あるいは表面下に多くの例が見られる。あなたはそこに信頼できるイグニッション(16ページのスパークプラグの記事参照)、より完全な燃焼と少ない排気ガス(14ページのコンプレッサーホイールの記事参照)そして高反射性の表面、美しい細部の装飾および自動車の廃棄段階で自動車用ファスナーのカドミをニッケルに代えたことで環境にやさしい結果が得られている文字通り何百というニッケルの小さな用途を見つけるでしょう(少量のニッケルが大きな相違を生んでいるたくさんの場所は8~9ページを参照)。

こうした多くの品目は、一つの材料の層(あるいは、最終製品に望まれる特性によるが、多くの材料の多重層)に別の材料を重ねることが含まれており、ニッケルはこうした多重層技術を可能にする優れた特性を有している。めっきあるいは表面処理技術は、環境と安全という課題を克服してこなければならなかった。この20年間にこの業界の操業には大きな変化があった。4ページと5ページでわかるように、中国では多大な努力がなされつつある。めっき工業団地で産業効率が上がることが期待できる一方、空気や水といった環境面が改善され、労働者とその家族の生活の質も向上することが期待される。

本号でもまたステンレス鋼の一世紀にわたる貢献をヨーロッパにおけるいくつかのステンレス鋼の最初の商業用途についての記事でふりかえっている。6ページと7ページでは非常に現代的な用法―シンガポールの複合プール施設のトップにある電気化学的着色をしたカラーステンレス鋼の屋根について知ることができる。美的外観の話題は10ページにもある。ここでは、すでにトロントのダウンタウンのランドマークとなっている、画家で詩人のZhang Huanの並はずれた新しい彫刻「ライジング」にハイライトをあてている。

動き回る宇宙実験室のCuriosityが火星の表面を探検しているようにあなたが探検できることが本号にはもっとあります(12、13ページを参照)。今後は、ニッケルが可能にしている小さなもの、見えないもの、絶対必要なものを念頭において、本号で取り上げたものの展開やその他の発展をさらに今後のニッケル誌で探究して行くつもりです

Stephanie Dunn Editor, Nickel Magazine ニッケル誌編集者

Page 4: 永続性:写真「ライジング」:CRAIG WHITE, URBANTORONTO.CA ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル:

4 特集 ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号)4 特集 ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号)

中国は製造業の急成長と共に、国内で電気メッキ需要が増加を続けています。現在、中国にはおよそ15,000の電気メッキ企業があり、年間売上は2,000万人民元(300万米ドル以上)を上回ります。実際、電気メッキ産業は中国経済全体を支える支柱の一つであり、現代の厳しい環境条件を満たすため急激に変貌しつつあります。

中国では、電気メッキ作業のほとんどを大規模な工業団地で行っており、そうした工業団地は産業発展のために区画と計画が定められています。これまでに30を超えるこのような工業団地が完成しています。中でも広東省江門市のYamen電気メッキ工業団地は最大規模で予定床面積は130ヘクタールに達します。

新規事業用区画は床面積が40.5ヘクタール、予定総投資額は約20億人民元(約3億2,000万米ドル)であり、電気メッキされる表面積の生産容量は年間200万m2を上回ります。これまでに完成した施設は主に排水処理施設など環境保護のための施設です。

Yamen電気メッキ工業団地に対する総投資額は現在までに15億人民元(2億4,000万米ドル)を超え、そのうち約10億人民元(1億6,000万米ドル)が建設資金、5億人民元(8,000万米ドル)が入居企業の出資金です。電気メッキ工場の面積は300,000m2を上回り、工業団地のインフラの多くがこの中にあります。60社を超える電気メッキ企業がこの工業団地への入居契約を結んでおり、その半分がすでに生産を開始しています。

汚染防止が引き続き優先課題

2007年、汚染源に対する調査によって、金属製品産業による重金属汚染物質の排出量が全国平均の20倍に達していることが明らかになりました。近年では重金属の漏出が関係する事故件数が増加しています。しかし2009年、国家環境保護当局は重金属汚染に対する全体的な管理を強化しました。中国環境保護部が他の部局および委員会と共に「重金属汚染の予防と管理の強化に関する指導意見」を定めました。この「指導意見」は、重金属汚染の予防と管理のための5ヶ年計画の策定と共に、有効な管理措置を2015年までに実施することを求めています。その内容は次のとおりです。・ 表面処理と熱処理を行う産業は、工業団地の管理と集中的な汚染防止を実施しなければならない。

・ 広東省珠江デルタの電気メッキ産業は、統一的な計画体系に基づいて建設を行うと共に、工業団地の管理と集中的な汚染防止を実施しなければならない。・ 汚染防止施設を完備した特定の工業団地を除いて電気メッキ企業は工場を建設してはならず、既存の企業は重金属の排出限界に合格しなければならない。

Yamen工業団地は入居企業に対し支援サービスと汚染物質処理施設を提供し、約4億人民元(6,500万米ドル)を環境保護のために投資しています。

排水は、浄化した上で各種の電気メッキ企業に供給し再利用されています。同様に、この工業団地には電気メッキの技術的特性に良く適した排気処理施設もあります。これによって工業団地の大気の質は国家基準を満たし、好適な労働環境作りに寄与しています。

実施されている電気メッキの種類は、黒ニッケル、パールニッケル、硬質クロム、模造金、フレンチゴールド、青銅です。新規企業の参入によって種類はさらに増える見込みです。団地内に品質改善のために技術支援する電気メッキに関する専門技術者チームが設置される計画です。

中国では今後も製造業の成長が継続し、その結果電気メッキ団地でも様々な改善が期待されます。産業集中は改善され、より強力な公害防止が確立され、排水は集中処理され、工場の配置やワークフローの最適化によって土地資源の利用が集約化し、あらゆる種類の電気メッキプロセスを一つの団地で提供できるようになります。そうなれば、もっと進んだ技術の導入によって加工処理効率を高め、より大きなエネルギー効率の改善とより少ない廃棄物を実現することも可能になります。労働者も恩恵を受けます。より安全でより清潔、しかも管理の行き届いた環境で働き、最先端の技術や設備などにどこよりも早く触れることができるようになるからです。こうしたすべての点から、電気メッキ産業が省エネルギー、汚染削減、最適な効率という持続可能な路線を進んでいることを示しています。

労働者も恩恵を受けます。より安全で清潔、しかも管理の行き届いた環境で働き…

中国の電気メッキ団地:成長を導く強い流れ

Ni

Page 5: 永続性:写真「ライジング」:CRAIG WHITE, URBANTORONTO.CA ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル:

BOM

BARD

IER

MO

VIA

MET

RO ©

201

1, B

OM

BARD

IER

INC.

OR

ITS

SUBS

IDIA

RIES

.写

真:

BEIJ

ING

SURF

ACE

ENGI

NEE

RIN

G AS

SOCI

ATIO

N

ARTI

ST’S

CO

NCE

PT: Y

AMEN

ELE

CTRO

PLAT

ING

IND

UST

RIAL

BAS

E

ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) 特集 5

r 上と中:Yamen電気メッキ団地の排水処理施設の一部 。

s 下:排水処理施設の作業の流れを表示したYamen電気メッキ団地のチャート。

中国の電気メッキ団地: 成長を導く強い流れ

Page 6: 永続性:写真「ライジング」:CRAIG WHITE, URBANTORONTO.CA ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル:

Ni

空中

写真

:IS

TOCK

PH

OTO

:©U

YEN

LE

写真

:M

ILLE

NN

IUM

TIL

ES

6 注目される用途 ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号)

r 上:クラブの複合施設の空中写真。

w 右:Type 304ステンレス鋼タイルは強度、耐久性、耐食性に加え、視覚的な多様性と魅力があり、住宅街という地域の景観に適合しています。

6 注目される用途 ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号)

Page 7: 永続性:写真「ライジング」:CRAIG WHITE, URBANTORONTO.CA ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル:

第一級の屋根

写真

:M

ILLE

NN

IUM

TIL

ES

シンガポールののどかな東海岸にある中華スイミングクラブは、水泳ばかりでなく水球、バスケットボール、テニス、スカッシュ、バドミントンなど様々なスポーツにおける輝かしい90年の歴史を持っています。

現在、このクラブにはもう一つの自慢したいものがあります。それはニッケル含有ステンレス鋼を電気化学的に着色したタイルだけでできているまばゆいばかりの屋根です。

モザイク状のこの屋根を設計したのは米国ウィスコンシン州ElkhornのMillennium Tiles社です。シンガポールは降水量が多いため(年平均2,340mm)、同社は雨への露出が多い用途で高性能を発揮するType 304(UNS S30400)ステンレス鋼を選択しました。

このタイルは、高性能の注文色が全種類入手可能です。着色プロセスはステンレス鋼自身の化学に基づいて多彩な色を作り出すため、決して太陽光線の暴露による色褪せ

や、はがれ、傷などは生じません。しかもこのプロセスは実際にステンレス鋼の耐食性も高めます。

可視光線はプリズムのように異なる波長に分かれ、それが酸化物表面内に複数の色を

作り出します。酸化物は太陽の紫外線によるダメージを受けません。

色は日中の光の条件に応じて変化し、自然環境を反映

します。タイルの色彩

変化は有機物で見いだされるものと同様にわずかなものです。Millennium Tiles社の創立者であるWalter Hauk社長はこう説明します。「このような色の変化がタイルに目を引く美しさと共に自然な外観を与えるのです。」

本来、着色プロセスは電気化学的であり、高温で酸化性の酸を使用し、200~400ナノメートル近くの厚さのステンレス鋼に自然発生する酸化クロムを強化します。この酸化物が入射光を反射して、色素をまったく添加しなくてもレインボー効果を作り出します。これを「光干渉色」と呼びます。

「ブルー、紫、ピーコック、緑だけでなく、小麦、青銅、ねずみ色の色も作り出すことができ、どの色も設計者や建築家にとって大きな魅力があります。その外観を決定するのは、その下にあるステンレス鋼の仕上げです」

Type 304のニッケル含有ステンレス鋼が選択された理由は主にその耐食性であり、これはシンガポールの海洋性環境にとって特に重要な点です。大量の雨が降るため金属表面に塩化物が蓄積しにくく、孔食のリスクは低減され

ます。フェライト系ステンレス鋼はモリブデンを添加しない限り304に及びませんが、添加したとしてもフェライト系にはニッケル合金系の非常

に優れた成形性が不足しています。

ステンレスタイルの重さは1m2当たり4.5kgしかなく(平方フィート当たり0.9ポ

ンド)、取り付けが容易です。それに対しアスファルト屋根板はその3倍を超える重量が

あり、セラミックやコンクリートのタイルに至っては16倍です。Millennium Tiles社の製品は、最

高風速毎時250km(時速155マイル)の風力試験にも合格しています。

「UV光線によってその色が変化することがないので、この色はステンレス鋼の寿命と同じだけ持続します。」とHauk社長は語り、こう付け加えました。このプロセスを利用した最初の製品は1970年代後半から1980年代に製造したファサードですが、今日に至るまで品質は劣化してい

ません。

…同社は雨への露出が多い用途で高性能を発揮するType 304ステンレス鋼を選択しました。

Ni

ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) 注目される用途 7

Page 8: 永続性:写真「ライジング」:CRAIG WHITE, URBANTORONTO.CA ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル:

1

1

2

1

1

2

2

3

3

3

3

3

8

8

8

8

8

7

7

5

6

3

6

66

6

6

6

3

4

22

2

1

1

1

1

1

4

3

4

46

8 特集 ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号)

ニッケルは何千という多彩な用途に用いられていますが、人々がそれに気づくことは少なく、そもそもニッケルがそこで利用されていることさえほとんど知られていないでしょう。たとえば、2011年に製造された8,000万台の自動車、具体的には6,000万台の乗用車と2,000万台のあらゆる種類のトラックの1台1台に、何らかの形でニッケルが用いられています。このページに掲載した図には、ほとんどの自動車でニッケルがどこに使用されているかを示しています。必ずしもすべての自動車がすべての用途にニッケルやニッケル含有合金を使用するわけではありませんが、ニッケルを選択する理由は予想でき、かつ重要なものです。すなわち耐久性、高性能、美しさです。ここに図示していない電気自動車やハイブリッド自動車にも、同じくニッケルの最終用途が数多くありますが、それに加えてバッテリーではニッケル水素電池および自動車用途に新開発された多くのリチウムイオン電池の両方の電池でニッケルは不可欠な役割を果たしております。耐久性のためのコーティングと合金運転環境の中には特に苛酷なものもありますが、全体的に見ると、たとえば排気系統は、弱酸性の燃焼排気中に存在する水分にさらされています。排気系統の部品が故障する場合、部品は腐食の結果として内部から「腐敗」しているのが普通です。ここ数十年の間に、ステンレス鋼が排気系統部品にとってほぼ標準的な素材になりました。11%のクロムのみを含有しニッケルを含有しないフェライト系ステンレス鋼のType 409(UNS S40900)とその改良製品が現在のところ多くを占めますが、最も苛酷な環境で必要とされるより高品質の系統では、Type 304(S30400)などのニッケル含有オーステナイト系ステンレス鋼を採用しています。

ニッケルには高温の苛酷な大気中でも硬質で耐摩耗性に優れた表面を形成できる能力があるため、ピストン、シリンダーライナー、ターボチャージャー、

ブレーキ系統に採用されています。ニッケルは(場合によってはクロムとともに)耐摩耗性を主な理由としてそこに採用されるようですが、それに加えて燃費改善という利点もあります。これは許容誤差が小さく、それを部品の寿命を通じて維持できるからです。

デザインとスタイルは自動車産業の中核部分であり、特定のモデルが市場で成功を収めるためには不可欠です。そのためデザイナーは、複数の材料基板にしっかりと付着し、しかも魅力的な外観を備えたニッケルの能力を選

高耐久性、高効率、そして「より環境に優しい」輸送を可能にしている

自動車用ニッケル

製造された8,000万台の自動車の1台1台に、何らかの形でニッケルが用 い ら れ て い ま す(2011年)。

Page 9: 永続性:写真「ライジング」:CRAIG WHITE, URBANTORONTO.CA ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル:

1

2

2

24

3

3

3

3

3

8

6

1 2

2

1

1

1

1

1

33

5

ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) 特集 9

Close up of Nickel chloride hexahydrate wNi 車

の写

真:

SHU

TTER

STO

CK

択し利用しています。またニッケルはクロムなど装飾的な仕上げ層の基板にも利用できます。

そのほかの多様な用途

ニッケルは車両メーカーやエンジン種類に応じて、他の様々な用途にも用いられています。たとえばスパークプラグ、ディーゼルバルブ、触媒サポート、サーモスタット、ターボチャージャーのホイールと鋳造物、ギヤ、ドライブシャフト、エアバッグ部品、燃料およびブレーキのラインなど数多くあります。

変わりつつある材料の仕様

人間の健康や環境にリスクをもたらす可能性のある材料への懸念から、少なくとも世界の一部の地域ではカドミウムや鉛の使用を(自動車の鉛蓄電池以外でも)やめようとする動きが生まれており、こうした動きが世界市場では次第にメーカーにとっての標準になりつつあります。ニッケルはしばしば錫、亜鉛などの金属と組み合わせて無鉛はんだやカドミウム非含有の代替製品を作り出しています。これ

らの用途で自動車1台当たりに使用されるニッケルの量はごくわずかですが、毎年、何億個という部品が何千万台もの自動車に用いられる状況なので、部品の耐久性、効率、環境適合性、外観の魅力を高めるために使用されるニッケルもかなりの量に達しています。

自動車におけるニッケルのコーティングと合金の図のオリジナルは、米国表面処理協会(NASF)とニッケル協会が作成したものです。

1. Stainless steels – mufflers, catalyst, wiper, fasteners, clamps, springs, etc

2. Alnico magnets – generators, motors

3. Ni alloys – heating elements, exhaust valves

4. Ni alloys – pistons, cylinder liners, turbo-chargers, gears

5. CuNi alloys – brake fluid lines

6. Spark plug alloys

1. ZnNi plate on fasteners, fluid tubes

2. Ni plate under decorative chrome

3. Electroless Ni for wear, corrosion – pistons, suspension, brake systems, fuel lines, gears

4. Decorative Ni

5. Ni plating on Mg

6. Electroless Ni plating on plastics

7. Ni plating for electronic circuits, substrates

8. Electroless Ni/Pd/Au for wire bond, Pb-free soldering 1. ZnNi plated fasteners

合金

OEMコーティング

グリーンコーティング

Page 10: 永続性:写真「ライジング」:CRAIG WHITE, URBANTORONTO.CA ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル:

写真

:CR

AIG

WH

ITE,

URB

ANTO

RON

TO.C

A

ステンレス鋼の彫刻家、危機に 「立ち上がる」

Ni

無類の能力を持つ点を主な理由として、ニッケル含有Type 316ステンレス鋼を選択しました。この彫刻はコンテナ5台でトロントまで海上輸送され、現地で組み立てられました。張洹がステンレス鋼を選んだその他の理由には、硬度、溶接性、洗浄の容易さ、耐食性(トロントの車道や歩道には冬季に大量の塩を散布するため、この点は特に重要です)があります。張洹はこれまでもステンレス鋼で作品を制作してきました。たとえば2010年、張洹は上海万博のためにステンレス鋼で一対のパンダの彫刻を作りました。

「ライジング」は制作に2年を要しました。昨年5月の除幕式の際、張洹はその式典のために書いた散文詩を朗読しました。それは、集まった著名人やゲストに対して彫刻自身が語りかけるかのような一人称の詩でした。翻訳するとこうなります。

「我が名はライジング。獣として生まれたが、大地を離れ天に昇ろうとしている。そこは美と調和が支配する神話のような夢の世界。その夢の世界こそがトロント。そこで私は長い時を生きていくのだ。」

ニッケル含有ステンレス鋼の美しさと耐久性を示すこれ以上の証があるでしょうか。

唆しています」とパフォーマンスアーティストとしても有名な張洹は述べています。「私が伝えようとしたメッセージは、人間は自然と調和して生きることが可能であり、私たちの都市も、こうした繊細なバランスを保つことができればもっと暮らしやすい場所になるということです。」

「私は、モンスターのような形の木の作品により生態系の保護に加えて、人間と自然との調和のとれた関係を提唱しています…。人類と自然とが共有し得る美しい都市生活が私の願いです。」

この彫刻は、新たにオープンしたシャングリラ・ホテルと居住区画であるリビング・シャングリラ・コンドミニアムの入口を飾っており、高さ10m、長さ19m、重さが約22トンです。

彫刻の足元には光を反射して輝くプールがあり、すでに複雑なデザインに、さらにこれが加わっています。

張洹が拠点を置く上海スタジオで働くアシスタントの一人Yolandaによ

れば、張洹は光を反射する

昨年の春、カナダ・トロントにあるオンタリオ美術館が、著名な中国人アーティスト張洹(Zhang Huan)による線香の灰を使った絵画や彫刻を施した木の扉を展示しましたが、同時期にこのアーティストによる永続的な屋外設置彫刻の除幕式が行われました。それは美術館の中ではなく、数ブロック南にあるトロントの金融街の屋外でのことです。

「ライジング」という名のこの彫刻は、張洹のウェブサイトの説明によれば「私たちを取り巻く世界の哲学的反映」としてデザインされました。鏡面仕上げのステンレス鋼(Type 316、UNS S31600)ですべてを

制作したこの作品は、世界平和の象徴である鳩が無数に空を飛ぶ様と、龍の胴体を思わせるねじれた木の枝とを表現しています。「この彫刻は私たちの住む地球が直面する危うい状況を示

r 左上と右:「ライジング」の細部。研磨したステンレス鋼製の彫刻は、世界平和の国際的な象徴である無数の鳩と、龍の胴体を思わせるねじれた木の枝からなっています。

r 上:「ライジング」除幕式でのアーティスト張洹と通訳。

10 注目される用途 ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号)

Page 11: 永続性:写真「ライジング」:CRAIG WHITE, URBANTORONTO.CA ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル:

ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケルによる技術革新 11

写真

:CR

AIG

WH

ITE,

URB

ANTO

RON

TO.C

A

写真

と図

©RE

ACTI

ON

EN

GIN

ES L

IMIT

ED

宇宙技術が持つあらゆる可能性を実現するためには、軌道投入に要する費用を削減する必要があり、そのための鍵となるのは、成層圏を超える航空機に動力を供給するハイブリッドロケットエンジンかもしれません。そのエンジンでニッケル合金が重要な役割を担っています。英国オックスフォード近郊にあるカルハム・サイエンス・センターで、Reaction Engines社はSABREエンジンの開発を進めています。SABREエンジンは、空気吸入方式と従来型ロケットエンジン方式という二つの方式で作動します。この2方式により、航空機での輸送を要する酸化剤重量を大きく低減すると共に、使い捨ての大型打ち上げロケットが不要になります。Reaction Engines社の技術担当重役であるRichard Varvillのような人々にとって、単一段の推進システムによる地球軌道投入は、宇宙飛行設計における究極の次のステップです。Varvillは言います。「現在、宇宙に行くのにかかる費用は1回の打ち上げで約1億5,000万米ドルです。我々はこの費用を少なくとも10分の1に減らすことを目指しており、願わくは約1,000万ドルにしたいと考えています。」た だしV a r v i l l が 説 明 するように 、空 気 吸 入 式 ロケットエ ン ジ ン の 作 動 に は 技 術 的 な 問 題 点 をとも な い ま す。「 空 気 は 、エ ン ジ ン の 燃 焼 室 へ の噴 射 前 におよそ14 0 b a rまで圧 縮 する 必 要 が ありま す。この 圧 縮 作 業 に よって 空 気 温 度 は 数 千 ℃ にまで達します。これはエンジンの構成部品が瞬時に溶融するほどの温度です。」こうした危険な温度上昇を避けるため、SABREは予冷却器系統に新しい超軽量の高性能熱交換器を設置し、それにより空気温度をほぼ液状になる段階まで低下させています。これを可能にする技術の鍵がニッケルです。熱交換器は、圧力200barの低温気体ヘリウムを使って吸気をマイナス150℃前後に予冷しなければなりません。また熱交換器は、海水面における10℃から航空機がマッハ5(音速

の5倍かそれ)以上で飛行する際の1,000℃まで変化する外気温にも対応する必要があります。

こうした熱交換器の配管に用いられているのがニッケルクロム超合金Inconel®718(UNS N07718)であ

り、これがエンジン設計にきわめて重要な役割を果たしています。Varvillは言います。「約52%ニッケルを含んだこの合金を使うのには、当然の理由がいくつもあります。これは高温用途であり、Inconel 718は優れた引張強度とクリープ強度を持ち、酸化や腐食に対してとてつもなく高い耐性を示すからです」

Reaction Engines社はすでに初めての完全な予冷却器システを作り、現在カルハムで試験中です。一方、同社のチームは開発プロセスの次の段階を計画中です。Varvillは言います。「次の段階ではSABREエンジンの全体から部品レベルまで詳細な設計が含まれます。さらに2~3台の小型実証エンジンも製造します。1台は地上における空気吸入式実証エンジンで、カルハムで液体水素燃料で運転します。もう1台は実証用のロケットエンジンで、ヨーロッパのどこかで試験を行います。」

はるか上空の彼方へニッケルクロム合金が費用効果の高い宇宙飛行の実現を促進する

Ni

r SABREエンジンは基本的には閉サイクルロケットエンジンであり、付属する予冷ターボコンプレッサーが燃焼室へ高圧空気を供給します。

v SABREの作動に不可欠な予冷システムの熱交換器はその52%がニッケルです。

Page 12: 永続性:写真「ライジング」:CRAIG WHITE, URBANTORONTO.CA ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル:

12 ニッケルによる技術革新 ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号)

画像

:N

ASA/

JPL-

CALT

ECH

/MSS

S r 左上:打ち上げ前に試験を受けているキュリオシティ 。

r 最上段:火星探査機キュリオシティ、アーティストによるコンセプト図 。

r 右上:ニッケルを含んでいた石「ジェイク・マティアビッチ」。赤の斑点がレーザーの標的であり、円形部分はアルファ粒子X線分光計で分析した領域です。

宇宙空間の真空や火星の低温大気が電流生成に必要な温度差を作り出し、この装置のニッケル製「ホットシュー」が反応熱を伝えます。

Page 13: 永続性:写真「ライジング」:CRAIG WHITE, URBANTORONTO.CA ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル:

画像

:N

ASA

ISTO

CK P

HO

TO ©

HEI

DI K

RIST

ENSE

N

ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケルによる技術革新 13

2012年8月にNASAのキュリオシティが火星の地表探査を開始して間もなく、地球上から操作する制御装置がレーザーとX線のプローブを用いて、奇妙な色をした岩石、通称「ジェイク」の分析を行いました。発見した様々な元素の中に、まさにその計器への電力供給に寄与する一つの元素がありました。ニッケルです。

キュリオシティは、昨年夏に水と生命の痕跡を求めて火星のゲールクレーターに着陸した移動式の科学研究施設であり、汎用放射性同位体熱電発電機(MMRTG)を搭載した初めての宇宙機です。MMRTGは基本的には、核燃料の崩壊熱を電力に変換する搭載型発電装置です。

燃料のプルトニウム238はおよそ125ワットの電力を発電し、これはロボット型ローバー「キュリオシティ」搭載の計器、コンピュータ、通信システム、機械システムを作動させるのに十分な電力です。それに加えて2,000ワットの熱エネルギーが、宇宙空間においても火星の地表においても、これらのシステムを所要の作動温度に維持します。

プルトニウムの自然崩壊で生じる熱を電流に変換するのが熱電対―2個の異種導電性金属―で宇宙空間の真空や火星の低温大気が電流生成に必要な温度差を作り出し、この装置のニッケル製

「ホットシュー」がその反応熱を伝えます。

「MMRTGには可動部品が一つもなく、それゆえ非常に頑健です。」とRocketdyne社のLarry Trager本部長は言います。Rocketdyne社は米国エネルギー省と協力してこの発電装置を開発しました。Tragerは、このシステムは「最も苛酷な環境下でも作動できる。」と付け加えます。

この発電装置は、米国の宇宙機を作動させるために用いられてきた一連の原子力電源の8番目の製品です。以前の製品はアポロミッションにおける衛星や、ボイジャーなどの深宇宙探査機に用いられており、ボイジャーでは1977年の発射から30年以上が経過してもなお作動を続けています。

この発電装置のおかげで、宇宙機は太陽光線があまりに微弱でソーラーパネルを利用できない深宇宙や惑星表面でも活動することができます。またソーラーパネルには火星大気中のダストが積もり、パネルの有効性と寿命を低下させます。

こうした柔軟性はキュリオシティの使命にとり不可欠でした。小型車サイズのローバーは、行き先が決まる前に設計されたものであり、MMRTGは昼が短く冬が長い火星で太陽光線が当たりにくい

環境の高緯度地でもローバーが作動できることを保証しています。

円筒形のMMRTGはコンパクトです。長さ66cm、直径64cmしかなく、ローバーの重量900kgのうちわずか43kgを占めるに過ぎません。

ローバーの製造にはステンレス鋼やその他のニッケル含有合金が用いられました。MMRTGの配管の一部は304L(S30403)および316L(S31603)ステンレス鋼製であり、ニッケルクロム合金Inconel® 718(N07718)製のナットとボルトがローバーの構造体であるアルミ部品の多くを連結しています。合金718は、高い強度を維持して650℃までの温度に耐えることができます。

さらに、火星の岩石の化学分析を実施する計器APXS(アルファ粒子X線分光計)の較正のため、ニッケルプレートが基準標本の玄武岩質岩を保持しています。

ローバーは8月の着陸以来、性能を存分に発揮し、NASAは予定していた2年の使命を延長しました。MMRTGは少なくとも14年の耐用年数を持つと評価されていますが、キュリオシティはそれよりもっと長く火星の地表をつつき回すことになるかもしれません。

「すでに決定しました…。科学的に可能な限り、キュリオシティを運用し続けます。」とNASA科学ミッション局副局長John Grunsfeldは述べています。きわめて苛酷な火星の環境下でキュリオシティが機能し続ける上で不可欠な構成部品の一部にニッケルとニッケル合金が存在します。

r 汎用放射性同位体熱電発電機(MMRTG)の主要構成部品を示す断面図

Ni

キュリオシティはニッケルを利用して火星上で発電

Page 14: 永続性:写真「ライジング」:CRAIG WHITE, URBANTORONTO.CA ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル:

UNSの詳細 本誌で示されているニッケル含有合金及びステンレス鋼の化学的組成(重量パーセント)UNS No. Al B C Cb Co Cr Cu Fe Mn Mo Ni P S Si Ti V W

N06600p. 15

- - 0.15 max.

- - 14.00- 17.00

0.50 max.

6.00- 10.00

1.00 max.

- 72.0- min

- 0.015 max.

0.50 max.

- - -

N06601p. 15

1.0- 1.7

- 0.1 max.

- 1.0 max.

21.0- 25.0

1.0 max.

rem. 1.0 max.

- 58.0- 63.0

- 0.015 max.

0.50 max.

- - -

N07718p. 11, 13

0.20- 0.80

0.006 max.

0.08 max.

4.75- 5.50

1.00 max.

17.0- 21.0

0.30 max.

rem. 0.35 max.

2.80- 3.30

50.0- 55.0

0.015 max.

0.015 max.

0.35 max.

0.65- 1.15

- -

S30400 p. 2,7,8,13

- - 0.08 max.

- - 18.00- 20.00

- - 2.00 max.

- 8.00- 10.50

0.045 max.

0.030 max.

1.00 max.

- - -

S30403 p.2

- - 0.030 max.

- - 18.00- 20.00

- - 2.00 max.

- 8.00- 12.00

0.045 max.

0.030 max.

1.00 max.

- - -

S31600 p.10,15

- - 0.08 max.

- - 16.00- 18.00

- - 2.00 max.

2.00- 3.00

10.00- 14.00

0.045 max.

0.030 max.

1.00 max.

- - -

S31603 p.2

- - 0.030 max.

- - 16.00- 18.00

- - 2.00 max.

2.00- 3.00

10.00- 14.00

0.045 max.

0.030 max.

1.00 max.

- - -

S40900p. 8

- - 0.08 max.

- - 10.50- 11.75

- - 1.00 max.

- 0.5- max.

0.045 max.

0.045 max.

1.00 max.

6xC- 0.75

- -

S41400p. 2

- - 0.15 max.

- - 11.50-13.50

- - 1.00 max.

- 1.25- 2.50

0.040 max.

0.030 max.

1.00 max.

- - -

S41500 p.5

- - 0.05 max.

- - 11.5- 14.0

- - 0.50- 1.00

0.50- 1.00

3.50- 5.50

0.030 max.

0.030 max.

0.60 max.

- - -

S42200 p. 2

- - 0.20- 0.25

- - 11.00-12.5

0.50 max.

- 1.00 max.

0.75- 1.25

0.50- 1.00

0.040 max.

0.030 max.

0.75 max.

- 0.15- 0.30

0.75- 1.25

S43100p. 2

- - 0.20 max.

- - 15.00-17.00

- - 1.00 max.

- 1.25- 2.50

0.040 max.

0.030 max.

1.00 max.

- - -

ISTO

CK P

HO

TO ©

LEE

PET

TET

写真

:CO

LLIN

I GRO

UP

14 注目される用途 ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号)

近年、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンの設計者は自動車の燃費を飛躍的に向上させている。現在のエンジンは、わずか2~3年前に製造されたエンジンよりはるかに燃費が良くなっている。性能が増すと同時に、そうしたエンジンからの有害な排気ガスの排出も大幅に減っている。燃費に関連した総合的なエンジンの性能の向上は温室効果ガス排出削減と化石燃料の保存に極めて重要なことから、そうしたことはすべて良いニュースである。

最近の一つの革新的なものは、作動能率を高めるためにエンジンンの排出ガス再循環系についている小さなアルミ合金「コンプレッサーホイール」である。このホーイールは、800℃で排ガスを動力とするチタニウム製タービンに連結したシャフトに接続しており、毎分250,000回転しなければならない。

このコンプレッサーホーイールの性能に重要なのは、オーストリア

のHohemsのColliniグループにより開発された厚さ30ミクロンの無電解ニッケル―リン合金保護被膜である。このホイールの要求性能はまさに注目に値する。250℃(480℉)の排気系の熱の中で機能しなければならない。それはエンジン系全体の寿命と同じでなければならないことを意味する。耐用期間中ずっと炭素の

「コークス化」を防止するために油分と反応しない特性と共に、排出ガスによる腐食への優れた耐食性、固体粒子からの保護を提供しなければならない。

基本的な構成部品はアルミ合金で製造され、使用される被膜技術は250℃(480℉)を超えてはならない。さもないとアルミ合金基質が再結晶化し、機械的強度の低下を引き起こし、したがってホイールが損傷する。無電解ニッケルは、過酷な稼働環境に耐えるだけでなく、被膜工程で使用される溶液の温度が約90℃(195℉)-ベースメタルの再結晶化に危険なレベルよりはるかに低い温度ーで作業することから選択された。

ホイールの改革 無電解ニッケル被膜が自動車のエンジンの効率を高める

Ni

r 左上:500,000㎞以上でもエンジンの効率および低排ガスを可能にするニッケル-リン被膜のコンプレッサーホイール

Page 15: 永続性:写真「ライジング」:CRAIG WHITE, URBANTORONTO.CA ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル:

デジタルの記憶検索装置は、人間にとっての心臓と同様、コンピュータに必要不可欠なものであり、そこでニッケルが二つの形できわめて重要な貢献をしています。

すべてのコンピュータにデータを記憶し検索する何らかの方法が必要であり、最も一般的なのはハードディスクドライブ(HDD)です。現在のほとんどのHDDは複数のディスクが積み重なっています。ただしコンピュータユーザーの大多数は、実に素晴らしいエンジニアリング製品であるハードディスクに不可欠な要素の一つが無電解ニッケル層であることを知りません。

こうしたディスクのほとんどはアルミ合金で製造されています。アルミは軽量で剛性があり、完全な平面に加工することが容易だからです。しかしアルミは必要とされる水準まで研磨することができないため、コーティングが必要です。

まさにそのコーティングはアルミ合金ディスク表面に蒸着させた高リン無電解ニッケルです。これがこの用途に使用できる唯一のコーティングです。無電解ニッケルは蒸着厚が完全に均一であるため、不可欠である平坦性を維持することができます。ま

たコーティングは、必要な仕上げ水準まで研磨できるようにきわめて硬質でなければならず、最大粗度はおよそ4オングストロームです。これほど高い精度基準が求められるのは、ディスクと読み書きヘッドとの間隔が2ナノメートルにまで小さくなることがあるためです。高リン無電解ニッケルを使用するもう一つの理由はそれが非強磁性だからです。

次のステップは、スパッタリングとよく呼ばれる物理蒸着法(PVD)技術を高真空で実施し、非常に薄い軟質な磁性の下層を形成することです。この下層は一般的にニッケル、コバルト、鉄を含む合金で製造されます。ディスクによってはこの材料は厚さがわずか原子4個分のルテニウム層で隔てられる二層構造になります。

下層の上に複数のデータ記憶層を、一般的にコバルト、クロム、白金からなる合金でPVDにより形成します。これらの層もまたルテニウムの薄層でしばしば隔てられます。その上に保護用の最上層が重なります。

無電解ニッケルとニッケル含有磁性下層を使用したハードディスクは、全世界で年間3億~5億台生産されると推定されており、自動車の制御システムやその他の製造分野にも新しい用途が生まれつつあります。ハードディスクドライブは、カメラのようなもっと小型の機器に用いられるフラッシュ(すなわちソリッドステート)ドライブのような他の記憶デバイスと激しい競争を

繰り広げています。これは記憶容量1ギガバイト当たりの価格が大きく下落しているためです。

PHO

TO ©

SEA

GATE

ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) 注目される用途 15

Ni

メモリーのためのニッケル: デジタルの記憶と検索に不可欠

w 無電解ニッケルとニッケル合金の両方をPVDで蒸着するハードディスクドライブは、実に素晴らしいエンジニアリング製品です。

オンライン版ニッケル誌

ニッケル誌の無料購読とウェブサイト掲載のお知らせを希望する場合:www.nickel institute.org/NickelMagazine/Subscription

ニッケル誌を7ヶ国語(英語、中国語、日本語、ロシア語、フランス語、ドイツ語、スペイン語)でウエブサイトに掲載:www.nickelinstitute.org/NickelMagazine/MagazineHome

ニッケル誌のバックナンバーの検索: 2002年7月号以降のニッケル誌を掲載(英語のみ) : www.nickelinstitute.org/en/NickelMaga-zine/MagazineHome/AllArchives

ユーチューブでニッケルに関する9本の短いビデオが見られます。「Nickel Institute」で検索、Nickel Institute Channelにアクセス。ニッケル協会のビデオ「気候温暖化への取り組み」、BBCワールドコマーシャル3本及び再生可能なステンレス鋼に関する広告3本、その他掲載。 www.youtube.com/user/NickelInstitute

www.nickelinstitute.org

Page 16: 永続性:写真「ライジング」:CRAIG WHITE, URBANTORONTO.CA ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル誌第28巻第1号(2013年3月号) ニッケル:

スパ

ーク

プラ

グの

イメ

ージ

:FE

DER

AL M

OGU

L CO

RP.

大型か小型かを問わず(つまり自動車のフード下に収まるコンパクトな4気筒エンジンから部屋の大きさほどの発電装置に至るまで)内燃機関の設計者は、信頼できるスパークプラグが火花を円滑に供給し続けることを必要としています。そこでスパークプラグのメーカーは、プラグの発火に関して高い信頼性と耐久性を兼ね備えた電極を製造するため、ニッケル合金に依存しています

「 ニッケル 合 金 はスパ ークプラグ の 発火と いう世 界 で は 既 定 の 電 極 材 料 です。」有名なChampion®ブランドのメーカー、Federal-Mogul社で発火関係の製品エンジニアリングを担当するRichard Keller取締役は言います。「電極材料としてニッケル合金が利用できないとしたら、生活がほとんど不可能になってしまうことでしょう。」

スパークプラグには二つの電極があります。中央の電極はプラグ底部から突き出しており、L字形の接地電極は火花が発生する狭い隙間を作っています。

米 国ミシガン 州 サウスフィー ルドに本 社を 置くFederal-Mogul社は、ほとんどの電極にAlloy 600(N06600)と601(N06601)および80~97%ニッケルを含有する同 社独自のニッケルクロム合金を含む高ニッケル合金を使用しております。少数のプラグはType 316(S31600)ステンレス鋼製の電極を使用していますが、高ニッケルやニッケルクロムは「性能と費用のベストバランス」をもたらすとKellerは言います。

電極は、長期間高温に耐えることができなければならないと同時に、常に火花を生成する必要があり、しかも酸化や化学品暴露に耐性がなければなりません。大きな課題は電極に「スパークエロージョン」への耐性を持たせることです。スパークエロージョンは、金属損失によって電極間の隙間が次第に広がり、エンジン性能に影響を及ぼします。

一定の火花間隙を維持することは、エンジンがポンプや発電機の動力である場合は特に、不点火やエンストを防ぐうえで「極めて重要」なことだとKellerは言います。運転の中断は多額の費用をともなう場合があるからです。顧客が定格4,000時間持続するプラグを購入した場合、「顧客はきっちり4,000時間の耐久性を期待します」とKellerは言います。「私たちの業界では、想定した耐用期間に満たないことも、それ

を超過することも、ほとんど最悪の事態なのです」

電極の耐浸食性を高めるため、ほとんどのプラグでは発火表面に白金とイリジウムのような耐久性の高い貴金属の合金を添加しています。ニッケル合金は、その溶接性によって貴金属表面を電極に結合させておくばかりでなく、ニッケル自体が白金と組み合わせるのに最適な材料でもあります。

「ニッケルと白金を組み合わせると非常に素晴らしい性能を発揮します」とKellerは言います。プラ

グ先端部に用いられる白金合金では、ニッケルが10%から場合に

よっては1/3近くまで用いられることがあります。ニッケルはまた、産業用プラグや高性能のレース用プラグの製造でも重要な役割を演じています。亜鉛メッキは自動車用プラグを腐食から守る一方、要求の厳しいこれらの用途のために設計されたプラグは通常、特殊なプロセスを用いて製造されます。そうしたプラグのボディにニッケルメッ

キの鋼を用いるのは、ニッケルが高温の捲縮プロセスに耐えられるからです。

Federal-Mogul社はバスや自動車、トラック用のスパークプラグのほか、タービンエンジン、発電所、パイプラインのポンプ場など産業用途のスパークプラグを生産しています。

r ニッケル合金は、両方の電極に強度を与えるだけでなく、イリジウムと白金の表面加工に最適な基板でもあります。

接地電極

Ni

スパークプラグを点火させるニッケル合金発火させ続ける:

中央電極

ギャップ