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国際税務事例研究会 国内源泉所得と源泉所得税(13 2016 11 11 日(金) MJS 税経システム研究所 客員研究員 埼玉学園大学大学院教授、税理士 座長 望月 文夫

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国際税務事例研究会

国内源泉所得と源泉所得税(1)

第 3回 2016年 11月 11日(金)

MJS税経システム研究所 客員研究員

埼玉学園大学大学院教授、税理士

座長 望月 文夫

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【目 次】

はじめに

Ⅰ 所得税法・法人税法上の規定(抄)

1 所得税法における重要な定義規定(2条)・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 2 課税所得の範囲(7条)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 3 非居住者及び法人の納税義務(国内源泉所得)(所法 161 条)・・・・・・・・・ 2 4 租税条約による国内法の修正(所法 162 条)・・・・・・・・・・・・・・・・・5 5 非居住者に対する課税の方法(所法 164 条)・・・・・・・・・・・・・・・・・5 6 分離課税に係る所得税の課税標準(所法 169 条)・・・・・・・・・・・・・・・6 7 外国法人に係る所得税の課税標準(所法 178 条)・・・・・・・・・・・・・・・6 8 外国法人に係る所得税の税率(所法 179 条)・・・・・・・・・・・・・・・・・6 9 源泉徴収免除制度(所法 180 条、214 条)・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 10 外国法人の法人税(国内源泉所得)(法法 138 条)・・・・・・・・・・・・・・ 7 11 外国法人に対する課税の方法(法法 141 条)・・・・・・・・・・・・・・・・・8

Ⅱ 国家間の課税権の配分

1 人的帰属と地理的帰属・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 2 租税条約による課税権の修正・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 3 不動産から生じる所得の課税・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 4 投資所得に対する源泉所得税の課税減免・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14 5 租税条約に基づく軽減又は免除を受けるための手続・・・・・・・・・・・・・ 15

Ⅲ 国内源泉所得の事例

1 不動産の賃借料等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16 2 土地等の譲渡の対価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 3 工業所有権、著作権等の使用料等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18 4 米国居住者に支払う特許権の使用料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19 5 日米租税条約に関する特典制限条項・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20 6 使用料の取扱いについての実例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21 7 使用料についての留意事項(その 1)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22 8 使用料についての留意事項(その 2)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23 9 使用料についての留意事項(その 3)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24 10 使用料についての留意事項(その 4)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25 11 使用料についての留意事項(その 5)-アップル子会社への課税・・・・・・・・ 27 12 使用料についての留意事項(その 6)-平成 21 年 12 月 11 日裁決(抄)・・・・ 29

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Ⅳ 研究会の概要

1 国内源泉所得の意義と規定の確認・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35 2 国内源泉所得をめぐる国際税務事例の確認・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35 3 所得税法 161 条 1 項 11 号に規定する使用料をめぐる上記裁決事例に基づく検討・・・ 35

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1

はじめに

これまで研修会の講師を行う際、国内源泉所得と源泉所得税については、財務省・国税

庁が作成した表(10 頁ご参照)に基づいて説明をしてきました。しかし、それらの表は、

税法の規定→財務省・国税庁による執行の簡便性→わかりやすい表、という段取りの下で

作成されたものであり、税法の規定を理解するのに役に立つものではありません。つまり、

源泉徴収の対象となる国内源泉所得について、当座の実務に対応するため一応(最低限)

の情報を提供するにすぎないものと考えます。 本会の名称は、「国際税務事例研究会」であり、本来事例研究を趣旨としていますが、国

際税務についてより深い理解をしていただくことを目標として、以下に主要な条文を掲げ

るものとし、その次に租税条約(そして、必要に応じて OECD モデル条約コメンタリー)

との関係をご理解いただいた上で、事例について研究してみたいと思います。そのように

することで、単なるQ&Aセッションではない、より深い議論を参加者の先生方と共有で

きると考えます。 今回は、先日、アップルに対する源泉所得税の徴収漏れに関する新聞記事に基づいて、

使用料についてどのように考えればいいのか、を検討したいと思います。 Ⅰ 所得税法・法人税法上の規定(抄)

1 所得税法における重要な定義規定(2条)

号 居住者 国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人を

いう。 4

号 非永住者 居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去 10 年以内におい

て国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人を

いう。 5 非居住者 居住者以外の個人をいう。 6 内国法人 国内に本店又は主たる事務所を有する法人をいう。 7 外国法人 内国法人以外の法人をいう。 8の4 恒久的施設 次に掲げるものをいう。 イ 非居住者又は外国法人の国内にある支店、工場その他事業を行う一定の場所で政

令で定めるもの ロ 非居住者又は外国法人の国内にある建設作業場(非居住者又は外国法人が国内に

おいて建設作業等(建設、据付け、組立てその他の作業又はその作業の指揮監督

の役務の提供で1年を超えて行われるものをいう。)を行う場所をいい、当該非

居住者又は外国法人の国内における当該建設作業等を含む。) ハ 非居住者又は外国法人が国内に置く自己のために契約を締結する権限のある者

その他これに準ずる者で政令で定めるもの

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2

2 課税所得の範囲(7条)

所得税は、次の各号に掲げる者の区分に応じ当該各号に定める所得について課する。 1

号 非永住者以

外の居住者 全ての所得

号 非永住者 95 条1項(外国税額控除)に規定する国外源泉所得(「国外源泉所得」)

以外の所得及び国外源泉所得で国内において支払われ、又は国外から送

金されたもの 3

号 非居住者 164 条1項各号(非居住者に対する課税の方法)に掲げる非居住者の区

分に応じそれぞれ同項各号及び同条2項各号に定める国内源泉所得 4

号 内国法人 国内において支払われる 174 条各号(内国法人に係る所得税の課税標

準)に掲げる利子等、配当等、給付補てん金、利息、利益、差益、利益

の分配及び賞金 5

号 外国法人 161 条1項(国内源泉所得)に規定する国内源泉所得のうち同項4号か

ら 11 号まで及び 13 号から 16 号までに掲げるもの 3 非居住者及び法人の納税義務(国内源泉所得)-(所法 161条)

1項 この編において「国内源泉所得」とは、次に掲げるものをいう。 1

号 非居住者が恒久的施設を通じて事業を行う場合において、当該恒久的施設が当該非居

住者から独立して事業を行う事業者であるとしたならば、当該恒久的施設が果たす機

能、当該恒久的施設において使用する資産、当該恒久的施設と当該非居住者の事業場

等(当該非居住者の事業に係る事業場その他これに準ずるものとして政令で定めるも

のであつて当該恒久的施設以外のものをいう。次項及び次条2項において同じ。)との

間の内部取引その他の状況を勘案して、当該恒久的施設に帰せられるべき所得(当該

恒久的施設の譲渡により生ずる所得を含む。) 2

号 国内にある資産の運用又は保有により生ずる所得(8号から 16 号までに該当するもの

を除く。) 3 国内にある資産の譲渡により生ずる所得として政令で定めるもの 4

号 民法 667 条1項(組合契約)に規定する組合契約(これに類するものとして政令で定

める契約を含む。以下この号において同じ。)に基づいて恒久的施設を通じて行う事業

から生ずる利益で当該組合契約に基づいて配分を受けるもののうち政令で定めるもの 5

号 国内にある土地若しくは土地の上に存する権利又は建物及びその附属設備若しくは構

築物の譲渡による対価(政令で定めるものを除く。) 6

号 国内において人的役務の提供を主たる内容とする事業で政令で定めるものを行う者が

受ける当該人的役務の提供に係る対価 7

号 国内にある不動産、国内にある不動産の上に存する権利若しくは採石法(昭和 25 年法

律 291 号)の規定による採石権の貸付け(地上権又は採石権の設定その他他人に不動

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産、不動産の上に存する権利又は採石権を使用させる一切の行為を含む。)、鉱業法(昭

和 25 年法律 289 号)の規定による租鉱権の設定又は居住者若しくは内国法人に対する

船舶若しくは航空機の貸付けによる対価 8 23 条1項(利子所得)に規定する利子等のうち次に掲げるもの イ 日本国の国債若しくは地方債又は内国法人の発行する債券の利子 ロ 外国法人の発行する債券の利子のうち当該外国法人の恒久的施設を通じて行う

事業に係るもの ハ 国内にある営業所、事務所その他これらに準ずるもの(「営業所」)に預け入れ

られた預貯金の利子 ニ 国内にある営業所に信託された合同運用信託、公社債投資信託又は公募公社債

等運用投資信託の収益の分配 9 24 条1項(配当所得)に規定する配当等のうち次に掲げるもの イ 内国法人から受ける 24 条1項に規定する剰余金の配当、利益の配当、剰余金の

分配、金銭の分配又は基金利息 ロ 国内にある営業所に信託された投資信託(公社債投資信託及び公募公社債等運

用投資信託を除く。)又は特定受益証券発行信託の収益の分配 10号

国内において業務を行う者に対する貸付金(これに準ずるものを含む。)で当該業務に

係るものの利子(政令で定める利子を除き、債券の買戻又は売戻条件付売買取引とし

て政令で定めるものから生ずる差益として政令で定めるものを含む。) 11 号 国内において業務を行う者から受ける次に掲げる使用料又は対価で当該業務に係

るもの イ 工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくは

これらに準ずるものの使用料又はその譲渡による対価 ロ 著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の使用料又

はその譲渡による対価 ハ 機械、装置その他政令で定める用具の使用料 12 号 次に掲げる給与、報酬又は年金 イ 俸給、給料、賃金、歳費、賞与又はこれらの性質を有する給与その他人的役

務の提供に対する報酬のうち、国内において行う勤務その他の人的役務の提

供(内国法人の役員として国外において行う勤務その他の政令で定める人的

役務の提供を含む。)に基因するもの ロ 35 条3項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等(政令で定めるものを

除く。) ハ 30 条1項(退職所得)に規定する退職手当等のうちその支払を受ける者が居

住者であつた期間に行つた勤務その他の人的役務の提供(内国法人の役員と

して非居住者であつた期間に行つた勤務その他の政令で定める人的役務の提

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供を含む。)に基因するもの 13号 国内において行う事業の広告宣伝のための賞金として政令で定めるもの 14号 国内にある営業所又は国内において契約の締結の代理をする者を通じて締結した保

険業法2条3項(定義)に規定する生命保険会社又は同条4項に規定する損害保険

会社の締結する保険契約その他の年金に係る契約で政令で定めるものに基づいて受

ける年金(209 条2号(源泉徴収を要しない年金)に掲げる年金に該当するものを

除く。)で 12 号ロに該当するもの以外のもの(年金の支払の開始の日以後に当該年

金に係る契約に基づき分配を受ける剰余金又は割戻しを受ける割戻金及び当該契約

に基づき年金に代えて支給される一時金を含む。) 15号 次に掲げる給付補てん金、利息、利益又は差益 イ 174 条3号(内国法人に係る所得税の課税標準)に掲げる給付補てん金のうち国

内にある営業所が受け入れた定期積金に係るもの ロ 174条4号に掲げる給付補てん金のうち国内にある営業所が受け入れた同号に規

定する掛金に係るもの ハ 174条5号に掲げる利息のうち国内にある営業所を通じて締結された同号に規定

する契約に係るもの ニ 174条6号に掲げる利益のうち国内にある営業所を通じて締結された同号に規定

する契約に係るもの ホ 174条7号に掲げる差益のうち国内にある営業所が受け入れた預貯金に係るもの ヘ 174条8号に掲げる差益のうち国内にある営業所又は国内において契約の締結の

代理をする者を通じて締結された同号に規定する契約に係るもの 16号 国内において事業を行う者に対する出資につき、匿名組合契約(これに準ずる契約

として政令で定めるものを含む。)に基づいて受ける利益の分配 17号 前各号に掲げるもののほかその源泉が国内にある所得として政令で定めるもの 2項 前項1号に規定する内部取引とは、非居住者の恒久的施設と事業場等との間で行

われた資産の移転、役務の提供その他の事実で、独立の事業者の間で同様の事実

があつたとしたならば、これらの事業者の間で、資産の販売、資産の購入、役務

の提供その他の取引(資金の借入れに係る債務の保証、保険契約に係る保険責任

についての再保険の引受けその他これらに類する取引として政令で定めるものを

除く。)が行われたと認められるものをいう。 3項 恒久的施設を有する非居住者が国内及び国外にわたつて船舶又は航空機による運

送の事業を行う場合には、当該事業から生ずる所得のうち国内において行う業務

につき生ずべき所得として政令で定めるものをもつて、1項1号に掲げる所得と

する。 *国内に源泉がある所得でなければ、日本で課税されることはありません。

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4 租税条約による国内法の修正(所法 162条。法法 139条もほぼ同じ)

162 条(租税条約に異なる定めがある場合の国内源泉所得) 日本国が締結した所得に対する租税に関する二重課税防止のための条約(「租税条約」)

において国内源泉所得につき前条の規定と異なる定めがある場合には、その租税条約の適

用を受ける者については、同条の規定にかかわらず、国内源泉所得は、その異なる定めが

ある限りにおいて、その租税条約に定めるところによる。この場合において、その租税条

約が同条1項6号から 16号までの規定に代わつて国内源泉所得を定めているときは、この

法律中これらの号に規定する事項に関する部分の適用については、その租税条約により国

内源泉所得とされたものをもつてこれに対応するこれらの号に掲げる国内源泉所得とみな

す。 2 恒久的施設を有する非居住者の前条1項1号に掲げる所得を算定する場合において、

当該非居住者の恒久的施設と事業場等との間の同号に規定する内部取引から所得が生ずる

旨を定める租税条約以外の租税条約の適用があるときには、同号に規定する内部取引には、

当該非居住者の恒久的施設と事業場等との間の利子(これに準ずるものとして政令で定め

るものを含む。)の支払に相当する事実その他政令で定める事実は、含まれないものとする。 *租税条約上の軽減・免除を受けることができるのは、6号から 16号までの国内源泉所得。

5 非居住者に対する課税の方法(所法 164条)

【1項】非居住者に対して課する所得税の額は、次の各号に掲げる非居住者の区分に応じ

当該各号に定める国内源泉所得について、次節1款(非居住者に対する所得税の総合課税)

の規定を適用して計算したところによる。 1号 恒久的施設を有する非居住者 次に掲げる国内源泉所得 イ 161 条1項1号及び4号(国内源泉所得)に掲げる国内源泉所得 ロ 161 条1項2号、3号、5号から7号まで及び 17 号に掲げる国内源泉所得(同

項1号に掲げる国内源泉所得に該当するものを除く。) 2号 恒久的施設を有しない非居住者 161 条1項2号、3号、5号から7号まで及び 17

号に掲げる国内源泉所得 【2項】 次の各号に掲げる非居住者が当該各号に定める国内源泉所得を有する場合には、

当該非居住者に対して課する所得税の額は、前項の規定によるもののほか、当該各号に定

める国内源泉所得について3節(非居住者に対する所得税の分離課税。*169-173 条)の規

定を適用して計算したところによる。 1号 恒久的施設を有する非居住者 161条1項8号から16号までに掲げる国内源泉所得

(同項第1号に掲げる国内源泉所得に該当するものを除く。) 2号 恒久的施設を有しない非居住者 161条1項8号から16号までに掲げる国内源泉所

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6 分離課税に係る所得税の課税標準(所法 169条)

164 条2項各号(非居住者に対する課税の方法)に掲げる非居住者の当該各号に定める国

内源泉所得については、他の所得と区分して所得税を課するものとし、その所得税の課税

標準は、その支払を受けるべき当該国内源泉所得の金額(次の各号に掲げる国内源泉所得

については、当該各号に定める金額)とする。 1号 161 条1項8号(国内源泉所得)に掲げる利子等のうち無記名の公社債の利子又は

無記名の貸付信託、公社債投資信託若しくは公募公社債等運用投資信託の受益証券

に係る収益の分配 その支払を受けた金額 2号 161 条1項9号に掲げる配当等のうち無記名株式等の剰余金の配当(24 条1項(配

当所得)に規定する剰余金の配当をいう。)又は無記名の投資信託(公社債投資信託

及び公募公社債等運用投資信託を除く。)若しくは特定受益証券発行信託の受益証券

に係る収益の分配 その支払を受けた金額 3号 161条1項12号ロに掲げる年金 その支払を受けるべき年金の額から6万円にその

支払を受けるべき年金の額に係る月数を乗じて計算した金額を控除した金額 4号 161 条1項 13 号に掲げる賞金 その支払を受けるべき金額から 50 万円を控除した

金額 5号 161条1項14号に掲げる年金 同号に規定する契約に基づいて支払を受けるべき金

額から当該契約に基づいて払い込まれた保険料又は掛金の額のうちその支払を受け

るべき金額に対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額を控除し

た金額 7 外国法人に係る所得税の課税標準(所法 178条)

外国法人に対して課する所得税の課税標準は、その外国法人が支払を受けるべき 161 条

1項4号から 11 号まで及び 13号から 16号まで(国内源泉所得)に掲げる国内源泉所得(政

令で定めるものを除く。)の金額(169 条1号、2号、4号及び5号(分離課税に係る所得

税の課税標準)に掲げる国内源泉所得については、これらの規定に定める金額)とする。 8 外国法人に係る所得税の税率(所法 179条)

外国法人に対して課する所得税の額は、次の各号の区分に応じ当該各号に定める金額とする。 一 前条に規定する国内源泉所得(次号及び3号に掲げるものを除く。) その金額(169条2号、4号及び5号(分離課税に係る所得税の課税標準)に掲げる国内源泉所得につい

ては、これらの規定に定める金額)に 100 分の 20 の税率を乗じて計算した金額 二 161 条1項5号(国内源泉所得)に掲げる国内源泉所得 その金額に 100 分の 10 の税

率を乗じて計算した金額 三 161 条1項8号及び 15 号に掲げる国内源泉所得 その金額(169 条1号に掲げる国内

源泉所得については、同号に定める金額)に 100 分の 15 の税率を乗じて計算した金額

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9 源泉徴収免除制度(所法 180条、214条)

国内に恒久的施設を有する外国法人又は非居住者が、納税地の所轄税務署長から源泉徴

収の免除証明書の交付を受け、この証明書を国内源泉所得の支払者に提示した場合には、

その証明書の有効期間内にその支払者が支払う国内源泉所得のうち特定(以下の表)のも

のについては、源泉徴収を要しないこととされています。 4

号 民法第667条第1項に規定する組合契約に基づいて恒久的施設を通じて行う事業か

ら生ずる利益の配分のうち、外国法人(非居住者)の恒久的施設に帰せられるもの

(組合事業に係る恒久的施設以外の恒久的施設に帰せられるものに限る)

5 土地等の譲渡対価のうち、外国法人(非居住者)の恒久的施設に帰せられるもの 6 人的役務提供事業対価のうち、外国法人(非居住者)の恒久的施設に帰せられるもの 7 不動産の賃貸料等のうち、外国法人(非居住者)の恒久的施設に帰せられるもの 10 貸付金利子のうち、外国法人(非居住者)の恒久的施設に帰せられるもの 11 使用料等のうち、外国法人(非居住者)の恒久的施設に帰せられるもの 13 事業の広告宣伝のための賞金のうち、外国法人(非居住者)の恒久的施設に帰せられ

るもの 14 生命保険契約に基づく年金等のうち、外国法人(非居住者)の恒久的施設に帰せられ

るもの *源泉徴収しないことで経済取引をしやすくする規定と理解できます。 10 外国法人の法人税(国内源泉所得)-(法法 138条)

1項 この編において「国内源泉所得」とは、次に掲げるものをいう。 1

号 外国法人が恒久的施設を通じて事業を行う場合において、当該恒久的施設が当該外国

法人から独立して事業を行う事業者であるとしたならば、当該恒久的施設が果たす機

能、当該恒久的施設において使用する資産、当該恒久的施設と当該外国法人の本店等

(当該外国法人の本店、支店、工場その他これらに準ずるものとして政令で定めるも

のであつて当該恒久的施設以外のものをいう。次項及び次条第二項において同じ。)と

の間の内部取引その他の状況を勘案して、当該恒久的施設に帰せられるべき所得(当

該恒久的施設の譲渡により生ずる所得を含む。) 2

号 国内にある資産の運用又は保有により生ずる所得(所得税法 161 条1項8号から 11 号

まで及び 13 号から 16 号まで(国内源泉所得)に該当するものを除く。) 3 国内にある資産の譲渡により生ずる所得として政令で定めるもの 4

号 国内において人的役務の提供を主たる内容とする事業で政令で定めるものを行う法人

が受ける当該人的役務の提供に係る対価 5

号 国内にある不動産、国内にある不動産の上に存する権利若しくは採石法(昭和 25 年法

律 291 号)の規定による採石権の貸付け(地上権又は採石権の設定その他他人に不動

産、不動産の上に存する権利又は採石権を使用させる一切の行為を含む。)、鉱業法(昭

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和 25 年法律 289 号)の規定による租鉱権の設定又は所得税法2条1項3号(定義)に

規定する居住者若しくは内国法人に対する船舶若しくは航空機の貸付けによる対価 6 前各号に掲げるもののほかその源泉が国内にある所得として政令で定めるもの 2項 前項1号に規定する内部取引とは、外国法人の恒久的施設と本店等との間で行われ

た資産の移転、役務の提供その他の事実で、独立の事業者の間で同様の事実があつ

たとしたならば、これらの事業者の間で、資産の販売、資産の購入、役務の提供そ

の他の取引(資金の借入れに係る債務の保証、保険契約に係る保険責任についての

再保険の引受けその他これらに類する取引として政令で定めるものを除く。)が行わ

れたと認められるものをいう。 3項 恒久的施設を有する外国法人が国内及び国外にわたつて船舶又は航空機による運送

の事業を行う場合には、当該事業から生ずる所得のうち国内において行う業務につ

き生ずべき所得として政令で定めるものをもつて、1項1号に掲げる所得とする。 *平成 26 年度税制改正において、配当、利子、使用料などの投資所得などについての規定

が削除されました。外国法人が得る所得であっても一定の国内源泉所得については、所得

税法のみで規定されることになりました。 11 外国法人に対する課税の方法(法法 141条)

外国法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の課税標準は、次の各号に掲げ

る外国法人の区分に応じ当該各号に定める国内源泉所得に係る所得の金額とする。 1 恒久的施設を有する外国法人 各事業年度の次に掲げる国内源泉所得 イ 138 条1項1号(国内源泉所得)に掲げる国内源泉所得 ロ 138 条1項2号から6号までに掲げる国内源泉所得(同項1号に掲げる国内源泉所

得に該当するものを除く。) 2 恒久的施設を有しない外国法人 各事業年度の 138 条1項2号から6号までに掲げる

国内源泉所得 *次頁以下に、非居住者・外国法人に対する課税の概要の表を掲げます。

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非居住者に対する課税の概要

(表1) 所 得 の 種 類 源泉徴収の有無等 ① PE帰属所得 無(注1) ② 国内にある資産の運用・保有による所得

(⑧から⑯までに該当するものを除く。) 無(注2)

③ 国内にある資産の譲渡により生ずる所得で一定のもの 無 ④ 国内における組合事業から生じる所得 20.42% ⑤ 国内にある土地等・建物等の譲渡による対価

(次ページの表の③の一部) 無(注3)

⑥ 国内における人的役務提供の対価(次ページの表の④) 20.42%

⑦ 国内にある不動産等の貸付けによる対価(次ページの表の⑤) ⑧ 国債の利子、預貯金の利子など(次ページの表の(7)) 15.315% ⑨ 配当所得(次ページの表の(8))

20.42%

⑩ 貸付金等の利子(次ページの表の(9)) ⑪ 使用料(次ページの表の(10)) ⑫ 給与、報酬又は年金 ⑬ 広告宣伝のための賞金(次ページの表の(11)) ⑭ 保険年金所得(次ページの表の(12)) ⑮ 給付補てん金、利息、利益又は差益(次ページの表の(13)) 15.315% ⑯ 匿名組合契約に基づいて受ける利益の分配(次ページの表の(14)) 20.42% ⑰ その他その源泉が国内にある所得 無 (注1)事業所得のうち、組合契約事業から生ずる利益の配分については、20.42%の税率

で源泉徴収が行われます。 (注2)措置法 41 条の 12 に規定する一定の割引債の償還差益については、18.378%(一

部のものは 16.336%)の税率で源泉徴収が行われます。また、措置法 41 条の 12 の2に規

定する一定の割引債の償還金に係る差益金額については、15.315%の税率で源泉徴収が行

われます。 (注3)資産の譲渡による所得のうち、国内にある土地若しくは土地の上に存する権利又

は建物及びその附属設備若しくは構築物の譲渡による対価(所令 281 条の3に規定するも

のを除きます)については、10.21%の税率で源泉徴収が行われます。 ・内国法人や居住者が、上(+次ページ)の表にある国内源泉所得の対価を非居住者に支

払う場合、右側に記載した源泉徴収義務がある場合があります。

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区 分    

所得の種類

国内にある不動産の譲渡

国内にある不動産の上に存する権利等の譲渡

国内にある山林の伐採又は譲渡

買い集めした内国法人株式の譲渡

事業譲渡類似株式の譲渡

不動産関連法人株式の譲渡

国内のゴルフ場の所有・経営に係る法人の株式の譲渡 等

20.42%20.42%

無15.315%20.42%20.42%20.42%20.42%20.42%15.315%20.42%

(注)

2 (7)から(14)の国内源泉所得の区分は所得税法上のものであり、法人税法にはこれらの国内源泉所得の区分は設けられていません。

源泉徴収

外 国 法 人 に 対 す る 課 税 関 係 の 概 要

② 国内にある資産の運用・保有(下記(7)〜(14)に該当するものを除く。)

③ 国内にある資産の譲渡(右のものに限る。)

④ 人的役務の提供事業の対価⑤ 国内不動産の賃借料等⑥ その他の国内源泉所得(7) 債券利子等

PEを有する外国法人

PE帰属所得

(事業所得)

(10) 使用料等

PEを有しない外国法人

(表2)

1 土地の譲渡対価に対しては10.21%の源泉徴収がなされる。

PEに帰属しない

国内源泉所得

国 内 源 泉 所 得

国 内 源 泉 所 得 以 外 の 所 得

①PEに帰せられるべき所得

【法人税

無(注1)

課  税  対  象  外

【源泉徴収のみ】

【法人税】

(14) 匿名組合契約等に基づく利益の分配金

(8) 配当等(9) 貸付金利子

(11) 事業の広告宣伝のための賞金(12) 生命保険契約に基づく年金等(13) 定期積金の給付補填金等

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Ⅱ 国家間の課税権の配分

1 人的帰属と地理的帰属

企業が国境を越えて事業活動を行った結果として、一定の所得が算出されたとする。そ

の所得は、どの国で課税されるべきでしょうか。 まずは、納税義務者に注目する考え方があります。これを所得の人的帰属といい、居住

者と非居住者に区分したり、内国法人と外国法人に区分したり、という方法で制度化され

ています。また、非居住者が負担する(源泉)所得税や制限納税義務者(日本に住所がな

い者)が負担する相続税がこれに該当します。 人的帰属という点で言えば、どのような納税者であったとしてもAという納税者が所得

を得る以上、日本の課税権に服するという考え方になります。 これに対して、所得が得られた場所に注目する考え方があります。これを所得の地理的

帰属といい、国内源泉所得や全世界所得課税、国外所得免除といった課税方法がこれに該

当します。 この考え方を徹底することにより、納税者の区分に関係なく、日本の課税権の及ぶ地理

的範囲においては日本において納税すべきということになります。 日本に限らず各国の租税法を規定する場合、誰に対してどの範囲において課税するか、

という基本方針が必要になります。 この点、日本は原則として、居住者に対しては全世界所得課税を、非居住者に対しては

国内源泉所得課税を、それぞれ求めていると考えることができます。 【国内源泉所得の一例】 外国法人 X は国内に保有する土地を1億円で内国法人 Y に売却しました。この場合、日

本当局は X から購入した Y に源泉徴収義務を負わせることにしました。不動産が地理的に

日本にあるので、X の所得の源泉が日本にあるためです。次に、X は外国法人ですが、国内

源泉所得を有することから納税義務者とすることにしました。これは人的帰属の問題です。

内国法人 Y (買主)

外国法人 X (売主)

当 局 売 却

対価 8,979 万円 1,021 万円

土地 (対価 1 億円)

日 本 A 国

10.21%の

源泉徴収義務 源泉所得税納税後、

確定申告義務有り

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2 租税条約による課税権の修正

各国はそれぞれ課税権を有しており、国会(議会)で租税法を立法しこれを施行してい

ます。一方、国境を越えて経済活動を行う企業は、居住地国+源泉地国において各国の課

税権に服することになっています。その場合、各国の国内法上の調整(外国税額控除)が

不十分である時には、居住地国と源泉地国とで二重に課税される可能性があります。 そうなると、二重課税を受ける可能性のある企業側は各国政府にそのようなことのない

よう求めることになります。そこで、各国は国際的二重課税を排除するために二国間租税

条約を締結することになり、国際連盟において二国間租税条約のモデルを策定することに

なりました。最初のモデル条約は 1928 年のマドリッド・モデル租税条約です。その際、大

きく分けると以下の2つの減免措置を設けることになりました。 (1)恒久的施設に帰属しない事業利得は課税されないこと。

まず、企業の海外での出先として恒久的施設の有無を見た上で、源泉地国において恒久

的施設に帰属する所得に限って課税することにしました。海外に進出するのは先進国の企

業であり、先進国としては恒久的施設を狭く解する方が有利である一方、受入国である途

上国としては恒久的施設の範囲は広い方が課税しやすいということがあります。これが、

恒久的施設(PE)認定課税の要因です。 いずれにしても、「恒久的施設なければ課税なし」の原則は、早い時期からモデル条約に

取り入れられていたとされます(国際連盟は先進国中心だったので当然と言えば当然です

が)。 (2)配当、利子、使用料といった投資所得に対する源泉徴収税率を軽減・免除すること。

要するに、国際間の資本、技術、企業及び人的資源の交流を円滑化することを優先しよ

うということです。 その後、1960 年代以降、二国間租税条約モデルは経済協力開発機構(OECD)租税委員

会において議論されることになりました。当時から、投資所得については、源泉徴収がそ

の所得ではなく対価に対して数十パーセントという高率で課税されることで、経済活動に

支障が出てくるという理由を強調することで、先進国は源泉税を減免することを主張して

きました。要するに、投資している原資は、自分達先進国で蓄えた富です。それを一方的

に源泉地国で課税することは妥当ではないという考え方です。一方、途上国は自国に十分

な税源がないため、源泉地国で相当な課税が行われるべきと主張します。そこで、先進国

と途上国との間では折衷案が考え出されることになります。 具体的には、投資所得に関しては先進国・途上国の双方に課税権を認めることにしまし

た。ただし、源泉地国の税率を一定程度以下にするとともに、先進国では外国税額控除に

よって源泉地国で課税された税額を自国の納付税額から控除することにしました。 これに対して、投資の交流が同等である先進国間においては、特に利害関係が衝突しな

い場合には源泉地国での課税を免除することにします。例えば、来年発効する予定の最新

の日独租税条約においては、配当については持株割合 25 パーセント未満を除き、配当、利

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子、使用料については源泉徴収を免除することになっています。 上で述べたように、近年、日本も先進国との租税条約改正の際、(相手国の都合はあるも

のの)源泉徴収税率をより低税率にする傾向がありますが、新興国・開発途上国との租税

条約においては 10 パーセントに軽減することが多くなっています。 余談になりますが、アマゾンは伝統的な課税権の配分に従いつつ、進出先(現世地国)

において所得に対する課税を免れることに成功しています。つまり、アマゾンは米国企業

ですが、ネット注文をすることで契約を全世界の個人と結んでいます。日本に住む個人A

とアマゾンが契約する場合、国内源泉所得にはなりません。なぜなら、顧客は日本にいる

のですが、もう一方の契約当事者は米国法人です。そして、アマゾンは日本には倉庫しか

有していません。倉庫は(倉庫業を営む法人を除いて)恒久的施設にはならず、アマゾン

は日本に恒久的施設を有していないことになるため、日本の顧客との間で契約して計上す

る収益に関して生じる所得に係る税(この場合は法人税)を日本で納付しなくてもいいこ

とになります。 3 不動産から生じる所得の課税

所得税法 161 条1項5号は、「国内にある土地若しくは土地の上に存する権利又は建物及

びその附属設備若しくは構築物の譲渡による対価(政令で定めるものを除く)」が国内源泉

所得と定めています。 一方、1920 年代以降、不動産から生じる所得については、引き続き不動産所在地国にお

いて課税されることで国際的に合意しています。これは、不動産から生じる所得について

の取扱いが当時から各国で一致していたことを意味します。

OECD モデル条約は、引き続き同じ考え方を採用しています。OECD モデル条約を受け

て、最新の日独租税条約6条は、次のように規定しています。

日独租税条約6条

1 一方の締約国の居住者が他方の締約国内に存在する不動産から取得する所得(農業又

は林業から生ずる所得を含む。)に対しては、当該他方の締約国において租税を課するこ

とができる。

2 「不動産」とは、当該財産が存在する締約国の法令における不動産の意義を有するもの

とする。「不動産」には、いかなる場合にも、不動産に附属する財産、農業又は林業に用い

られる家畜類及び設備、不動産に関する一般法の規定の適用がある権利、不動産用益権並

びに鉱石、水その他の天然資源の採取又は採取の権利の対価として料金(変動制であるか

固定制であるかを問わない。)を受領する権利を含む。船舶及び航空機は、不動産とはみな

さない。

3 1の規定は、不動産の直接使用、賃貸その他の全ての形式による使用から生ずる所得に

ついて適用する。

4 1及び3の規定は、企業の不動産から生ずる所得についても、適用する。

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このように、不動産から生じる所得については、租税条約における減免が行われないの

が普通です。所得税法 162 条の規定にもご留意下さい。 4 投資所得に対する源泉所得税の課税減免

投資所得の代表例といえば、配当・利子・使用料になります。所得税法 161 条1項では、

8項(利子所得)、9号(配当所得)、10 号(貸付金利子)、11 号(使用料)で規定されて

います。これらは、国内法上源泉徴収の対象になります。 一方、租税条約では、不動産所得とは異なり、(租税条約によって異なるものの)ほとん

どの租税条約において源泉徴収税率が減免されることになっています。 これについては、上述した通りですが、所得税法上原則として 20 パーセントの課税がな

されることになりますが、これは国内取引との整合性があることもあり、主権国家として

当然認められることになります。 次に、投資所得の原資がもともと居住地国にあることからすれば、源泉地国課税はなる

べく避ける必要があると言えるでしょう。 なお、小松芳明教授(『租税条約の研究(新版)』有斐閣 77 頁)によると、使用料につい

て先進国側が早くから源泉地国免税を主張したことについて、次のように書かれています。 ① 技術の開発のために必要とされた経費は、過去数年間にわたって支出されたものであ

り、また個々の技術についてその額は一致しない。したがって、使用料課税は収入金の何%

というグロス課税は適当ではなく、純所得を基準とした課税とすべきであって、そのため

には、後進国ではコストの配賦計算が困難であるから居住地国課税とすべきである。 ② 使用料取得のためには、長年月にわたって多額の研究開発費を支出してきているが、

これは企業の損金とされ、本国はその分だけ税収入を犠牲にしてきている。したがって、

その研究開発の成果が使用料として所得を発生させたときには、その金額を居住地国で課

税しなければ過去の税収減をカバーすることができない。 ③ 技術導入国は、その技術の受入れにより企業活動が活発化し、雇用が増大し、おのず

から税収も増大するのであるから、使用料にまで課税する必要はない。 以上のようなことから、これら投資所得に関して租税条約の規定を見ることは極めて重

要になってきます。 最新の日独租税条約においては、以下のようになっています。

改 正 後 配 当 免税(持分割合 25%以上、保有期間 18 か月以上)

5%(持分割合 10%以上、保有期間6か月以上) 10%(その他)

利 子 免税 使用料 免税

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5 租税条約に基づく軽減又は免除を受けるための手続

(1)共通手続 源泉徴収の対象となる国内源泉所得の支払を受ける非居住者等が、日本において源泉徴

収される所得税及び復興特別所得税について、租税条約に基づき軽減又は免除を受けよう

とする場合には、「租税条約に関する届出書」(「届出書」)を提出する必要があります。 この届出書は、その支払内容によって書式が異なり、配当については様式1、利子につ

いては様式2、使用料については様式3、などとなっています。 非居住者等は、届出書を所得の支払者である源泉徴収義務者(「支払者」)ごとに正副2

部作成し、最初にその所得の支払を受ける日の前日までに、支払者を経由して支払者の納

税地の所轄税務署長に提出します。 非居住者等が支払を受ける日の前日までに届出書を税務署長へ提出していない場合には、

支払者は、支払の際、日本と締結している各租税条約に規定している限度税率を適用する

のではなく、国内法に規定する税率によって源泉徴収を行います。 ただし、非居住者等は、後日届出書とともに「租税条約に関する源泉徴収税額の還付請

求書(様式 11)」を、支払者を通じて支払者の納税地の所轄税務署長に提出することで、軽

減又は免除の適用を受けた場合の源泉徴収税額と、国内法の規定による税率により源泉徴

収された税額との差額について、還付を請求することができます。 また、提出した届出書の内容に異動(変更)がある場合には、異動を生じた事項等を記

載した届出書を、異動(変更)が生じた日以後最初に支払いを受ける日の前日までに提出

することとなります。 (2)特典条項を有する租税条約の場合

租税条約の規定の適用に関して条約の特典を受けることができる居住者についての条件

を定めている租税条約の規定、いわゆる、「特典条項」を有する租税条約の場合の取扱いは

おおむね共通事項と同様ですが、特典条項の適用の対象所得として条約による軽減、免除

を受ける場合には、届出書の他に「特典条項に関する付表(様式 17)」及び「居住者証明書

(相手国における居住者であることを証明する書類)」が必要になります。 「特典条項に関する付表(様式 17)」は、租税条約の適用を受けることができる居住者で

あるかどうかを判定する書類であり、特典条項を有する租税条約の適用を受けようとする

場合に届出書に添付して提出します。 非居住者等は、居住者証明書について原本を届出書に添付するか、源泉徴収義務者へ提

示することとなっています。源泉徴収義務者が原本の提示を受けた場合には、「確認をした

旨」、「確認者の氏名(所属)」、「確認日」及び「証明書の作成年月日」を届出書の「その他

参考となるべき事項」の欄に記載し、居住者証明書の写しを作成し、提示を受けた日から 5年間国内にある事務所等に保存しておく必要があります。なお、この場合、居住者証明書

は提示の日前 1 年以内に作成されたものに限ります。

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Ⅲ 国内源泉所得の事例

Q3-1 不動産の賃借料等

非居住者又は外国法人から、日本国内にある土地や建物等の不動産を借りる場合の留意

点についてご教示いただけませんでしょうか。 A3-1 非居住者又は外国法人から日本国内にある土地や建物等の不動産を賃借する場合、

その賃借料を支払う際に、20.42%の所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければな

りません。 【解説】 1 非居住者又は外国法人から日本国内にある土地や建物等の不動産を賃借する場合、そ

の賃借料を支払う際に、20.42%の源泉徴収義務があります。

2 対象となる不動産等

所得税法 161 条1項7号に該当するのは、国内にある不動産、不動産の上に存する権利

若しくは採石権の貸付け、租鉱権の設定又は居住者若しくは内国法人に対する船舶・航空

機の貸付けによる対価です。

3 例外措置として、個人が、自己又はその親族の居住の用に供するために土地や建物を

借りる場合に支払うものについてのみ源泉徴収義務はありません(逆に言えば、法人が借

りる場合には、全て源泉徴収義務があることになります)。

4 不動産の賃借料等については、租税条約上の減免措置がありません。国際的には、不

動産についてはその不動産所在地国に課税権があるとされます。国内の土地等については、

日本に課税権があることから租税条約上の減免措置がありません。

5 貸主である非居住者・外国法人には確定申告義務があります。

内国法人 (借主)

外国法人 (貸主)

当 局 不動産賃貸

賃借料 79.58 万円 204,200 円

マンション (家賃 月 100 万円)

20.42%の

源泉徴収義務 源泉所得税納税後、

確定申告義務有り

日 本 外 国

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Q3-2 土地等の譲渡の対価

居住者又は外国法人から土地等を取得する場合の留意点についてご教示いただけませ

んでしょうか。 A3-2 非居住者又は外国法人へ土地等の譲渡対価を支払う場合、所得税法 161 条1項3号

にあるように 10.21%の源泉徴収義務があります。 【解説】 1 非居住者又は外国法人が所有していた国内の土地等を取得した場合、その対価を支払

う際に、所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければなりません。 2 ここでいう「土地等」には、次のものが含まれます。 (1)土地及び土地の上に存する権利 (2)建物及び建物の附属設備 (3)構築物 3 例外措置として、個人が、自己又はその親族の居住の用に供するために取得した土地

等で、その土地等の対価の額が 1 億円以下である場合は、その個人が支払うものについて

は源泉徴収義務はありません(逆に言えば、法人が取得して対価を支払う場合には、1 億円

以下であっても源泉徴収義務があることになります)。

4 土地等の譲渡についても、租税条約上の減免措置がないことに留意すべきです。理由

は、上の例(3-1)と同じです。

5 土地等を売却した非居住者・外国法人には確定申告義務があります。

内国法人 (買主)

外国法人 (売主)

当 局 売 却

対価 8,979 万円 1,021 万円

土地 (対価 1 億円)

日 本 外 国

10.21%の

源泉徴収義務 源泉所得税納税後、

確定申告義務有り

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Q3-3 工業所有権、著作権等の使用料等

非居住者又は外国法人に対して支払う、工業所有権、著作権等の使用料等の留意点に

ついてご教示いただけませんでしょうか。 A3-3 国内法上、国内において業務を行う者が、非居住者又は外国法人に支払う工業所有

権、著作権等の使用料又は取得の対価のうち、国内業務に係るものを支払う際には、所得

税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければなりません。 ただし、非居住者又は外国法人の居住地国と日本との間に租税条約が締結されている場

合には、その租税条約の規定により課税が軽減又は免除され、源泉徴収が不要になる場合

があります。 【解説】 1 国内法の取扱い

所得税法 161 条1項 11 号は、国内において業務を行う者が、非居住者・外国法人に支払

う工業所有権、著作権等の使用料又は取得の対価を支払う際には、所得税及び復興特別所

得税 20.42%を源泉徴収しなければならないと規定しています。

2 租税条約の取扱い

(1)使用料等の範囲

国内法では工業所有権等に対する譲渡の対価を使用料等に含めるのに対して、租税条約

では工業所有権等の譲渡の対価について譲渡所得とする場合が多いです(米国、中国、ス

イス、オランダ、イタリア、豪州など)。もちろん、国内法と同様の規定を有する国もあ

ります(シンガポール、韓国、ベトナム、デンマーク等)。一方、譲渡が「真正な譲渡」

なら譲渡所得そうでないなら使用料と区分する国もあります(独、スペイン、ベルギー、

メキシコ)。このように、租税条約によって取扱いが大きく異なることに注意が必要です。 (2)使用料免税や租税条約に規定がない場合など

日本が締結している租税条約の中には、使用料について源泉徴収を行わないものや、そ

もそも租税条約に使用料に関する規定がないものがあります。このほか、源泉徴収税率を

軽減(5%又は 10%)しているものもあります。租税条約の簡単な類型は次の通りです。

① そもそも使用料免税としている国・・・米国、英国、フランス、スウェーデン、スイ

ス、オランダ。(ドイツは 2017 年から免税) ② 所得源泉地に関して租税条約には規定がなく国内法を適用する国・・・アイルランド、

オーストリア、スリランカ、サモアなど。 ③ 源泉徴収税率を軽減している国・・・ポルトガル・豪州は5%、それ以外の国(中国

など)は 10%。

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Q3-4 米国居住者に支払う特許権の使用料

当社は米国法人である A 社に対して特許権の使用料を支払うこととしました。これにつ

いて留意すべき点をご教示いただけませんでしょうか。 A3-4 A 社が米国居住者であれば、日米租税条約を適用することになります。日米租税条

約 12 条は、使用料について免税としています。そこで、「租税条約に関する届出書」及び

「特典条項に関する付表 17」を提出することになります。 【解説】 1 日米租税条約

日米租税条約 12 条は、使用料免税を規定しているので、使用料の支払いの際源泉徴収義

務はありません。しかし、租税条約の規定に基づいて課税が軽減又は免除される場合には、

次に掲げる書類を期限内に支払者の所轄税務署長宛に提出しなければなりません。

2 租税条約に関する届出書

日本と租税条約を締結している国の居住者(法人を含む。)が、支払を受ける工業所有権

又は著作権等の使用料について、租税条約の規定に基づき源泉徴収税額の軽減又は免除を

受けるためには、「租税条約に関する届出書(使用料に対する所得税・復興特別所得税の軽

減・免除)」を、最初に使用料の支払を受ける日の前日までに提出しなければなりません。

この場合、使用料の支払者ごとに届出書を正副 2 部作成して使用料の支払者に提出し、使

用料の支払者は、正本を、その支払者の所轄税務署長に提出することになっています。 このように、租税条約に関する届出書を提出するのは、その使用料を受領する非居住者

又は外国法人ということになります。 3 特典条項に関する付表

日米租税条約 12 条により源泉所得税を免税としたことから、第三国居住者が形式的に相

手国居住者になり日米租税条約の恩典を得ようとすることが考えられます。そのため、日

米租税条約の適用を受けるためには、受益者が相手国の居住者であるとともに、その者が

条約の特典条項に定められた所定の条件を備えなければならないこととされました(日米

租税条約 22 条)。そこで、「租税条約に関する届出書」に「特典条項に関する付表(様式 17)」を添えて支払者の所轄税務署長宛提出することになります。その際、原則として、「居住者

証明書」も併せて提出することになりますが、所得の支払者に居住者証明書を提示し、名

称その他の事項について所得の支払者の確認を受けたときは、居住者証明書の添付を省略

することができます。

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Q3-5 日米租税条約に関する特典制限条項について説明して下さい。 A3-5

特典制限条項は、真に租税条約の恩典(=源泉税の免除)を受けるにふさわしい納税者

のみが享受できるよう、逆に言えば租税条約を悪用することのないよう、定められたもの

です。 【解説】 1 特典制限条項は、平成 16 年に全面改正された第三次日米租税条約において規定された

ものです。これは、投資所得に対する源泉地国課税が大幅に軽減したことに伴い、条約特

典の濫用のおそれが増大すると考えられることから、これを防止するため、条約上の特典

を享受できる者を一定の要件を満たす適格な居住者等に限定しています。特典制限条項と

いう名が示す通り、日米租税条約 12 条のように源泉税の免除の規定があったとしても、そ

の特典を受けるためには一定の制限があることにより、全ての取引当事者に認めるもので

はないことを意味しています。 2 特典制限条項を満たすことを示す書類が、「特典条項に関する付表(様式 17)」です。

この書類は、相手国ごとに内容が異なっていますが、いずれも非居住者又は外国法人が条

約相手国の適格な居住者であることを証するものとなっています。 3 米国居住者(米国の法人)の場合、真に特典を受けられる納税者であるか否かについ

てしっかりとした検討を行わないと、税務調査において否認される場合があるので留意す

べきです。 4 平成 25 年改正議定書が発効すると、利子の場合も原則源泉税が免税になること、配当

についても免税のための要件が緩和されることになること、により、特典制限条項の適用

の場面が増加することになります(しかし、現状メドは立っていません)。 5 ここでのポイントは、顧問先内国法人に対して取引相手先である非居住者又は外国法

人の情報をしっかりと入手させること、「特典条項に関する付表(様式 17)」の記載が十分

に可能であるか否かを事前に検討をすることです。租税条約に免税とあるからといっても

必ずしも無制限で認められるわけではないので、非居住者又は外国法人がペーパーカンパ

ニーなどではないことをしっかりと確認させる必要があることに留意すべきです。

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Q3-6 使用料の取扱いについての実例 内国法人 A 社は、日本国内の工場で使用する技術を米国法人 B 社から導入し、その使用

料(月 100 万円)を支払うこととなりました。この使用料について所得税の源泉徴収をす

る必要がありますか。なお、B 社は日本に恒久的施設(PE)を有していません。 A3-6 この使用料については、源泉徴収をする必要はありません。

【解説】 1 使用料については、国内法の規定(所得税法 161 条1項 11 号)により国内源泉所得に

該当し、20.42%の源泉徴収を行うことになります。

2 一方、日米租税条約では使用料について、源泉徴収を要しないと規定しています(日

米租税条約12条)。 日米租税条約12条 1 項 一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者が受益者である使用料に対

しては、当該他方の締約国においてのみ租税を課することができる。 3 項 1 の規定は、一方の締約国の居住者である使用料の受益者が、当該使用料の生じた

他方の締約国内において当該他方の締約国内にある恒久的施設を通じて事業を行う場合

において、当該使用料の支払の基因となった権利又は財産が当該恒久的施設と実質的な

関連を有するものであるときは適用しない。この場合には、第 7 条の規定を適用する。 3 日米租税条約 12 条 3 項は、この使用料が B 社が国内に有する恒久的施設と実質的な関

連を有する場合には、7 条の事業所得で処理すべきであるとしています。そこで、B 社が国

内に PE を有するか否かを確認しておくことは重要です。

4 そこで、租税条約の規定を受けるための手続として、「租税条約に関する届出書(使用

料に対する所得税・復興特別所得税の軽減・免除)」を、最初に使用料の支払を受ける日の

前日までに提出しなければなりません。この場合、使用料の支払者ごとに届出書を正副 2部作成して使用料の支払者に提出し、使用料の支払者は、正本を、その支払者の所轄税務

署長に提出することになっています。「租税条約に関する届出書」を提出するのは、その使

用料を受領する B 社になります。

5 使用料の免税を受けるためには、B 社は、「特典条項に関する付表(様式 17)」も一緒

に提出することになっています(前のページを参照してください)。

6 「租税条約に関する届出書(使用料に対する所得税・復興特別所得税の軽減・免除)」

及び「特典条項に関する付表(様式 17)」(米)の記載要領については、本資料の末尾を参

照して下さい。

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Q3-7 使用料についての留意事項(その1)

米国との関係はわかりました。それ以外の国の居住者との間における使用料について留

意すべき点をご教示いただけませんでしょうか。 A3-7 国内法と租税条約の規定を注意深く見る必要があります。 【解説】 1 租税条約を締結しているか

租税条約は二国間で締結されている。平成 28 年 10 月 1 日現在、日本は 66 の条約を有し

ており、100 の国と地域との間で効力を有しています。ただし、この中には租税情報の交換

を目的とした租税情報交換協定や税務行政執行共助条約なども含まれています。 そこで、実務においては使用料の支払先である者の所在地国と日本との間で租税条約が

締結されているか否かを確認しなければなりません。租税条約が締結されていない場合、

所得税法 161 条1項 11 号に基づいて、国内源泉所得に該当すれば 20.42%の源泉徴収義務

があります。

2 譲渡の対価

国内法は工業所有権、著作権等の使用だけでなく、「非居住者又は外国法人が国内におい

て業務を行う者から支払を受ける次に掲げる使用料又は譲渡の対価で、その支払者の国内

業務に係るものが、源泉徴収の対象とされる。」として、 ① 工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれら

に準ずるものの使用料又は譲渡の対価、 ② 著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の使用料又はその

譲渡の対価、 ③ 機械、装置、車両、運搬具、工具、器具及び備品の使用料、と規定しています。 そこで、工業所有権、著作権等の譲渡の対価について、源泉徴収義務があります。

3 ドイツ(旧条約)やスペインなどの居住者(法人を含む)との間で、工業所有権等の

譲渡を行う場合、その譲渡が「真正な譲渡」なら租税条約 13 条に該当することになり、譲

渡をした国では課税することができません。例えば、内国法人が有する工業所有権をドイ

ツ法人に譲渡した対価について、これが「真正な譲渡」であれば、ドイツ法人は日本で源

泉徴収義務を負わないことになります。 実務上、真正な譲渡に該当するかは契約書等で判断することになります、譲渡によって

いかなる権利も譲渡人に残さないと言えるか否かが問題になる場合も多いです。

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Q3-8 使用料についての留意事項(その2)

スウェーデン法人に支払う特許権の譲渡対価

【照会要旨】 内国法人 A 社は、国内において精密機械の製造を行っていますが、この度、スウェーデ

ン法人 B 社から精密機械に関する特許を譲り受けることとなりました。B 社に支払う特許

権の譲渡対価については、租税条約による軽減税率の適用を受けることができますか。 なお、B 社は日本に恒久的施設を有しません。 【回答要旨】

租税条約による軽減税率の適用を受けることはできません。

スウェーデン法人に対して支払う特許権等の譲渡対価については、日本・スウェーデン

租税条約第 12 条(使用料条項)及び同条約第 13 条(譲渡所得条項)の適用がなく、スウ

ェーデン法人が我が国に恒久的施設を有しない場合には、同条約第 21条第 3項(その他所

得条項)が適用され、所得源泉地において課税できることとされています。

したがって、国内において業務を行う者が支払う特許権等の譲渡対価でその業務に係る

ものについては、軽減税率の適用はなく、国内法に従って所得税の源泉徴収が必要となり

ます(所得税法第 161 条第 7号、第 212条第 1項)。

(注)

1 非居住者等が我が国に恒久的施設を有しない場合における特許権等の譲渡対価の課税

については、我が国の締結した租税条約は、おおむね次のように分類されます。

(1) 使用料条項が適用され、軽減税率の適用が受けられる租税条約(対シンガポール、大

韓民国等)

(2) 真正(完全)な譲渡以外の譲渡対価について、使用料条項が適用され、軽減税率の適

用が受けられる租税条約(対スペイン、ドイツ等)

(3) 免税とされる租税条約(対アメリカ、イタリア等)

(4) 軽減税率の適用がなく、国内法の規定により課税されることとなる租税条約(対中華

人民共和国等)

2 非居住者等が我が国に恒久的施設を有し、特許権がその恒久的施設の事業用資産を構成

する財産である場合には、原則として源泉徴収が行われた上で申告納税が必要となります。

(注)平成 27 年 7 月 1 日現在の法令・通達等に基づいて作成しています。 *3-8〜10までの3問は、国税庁質疑応答事例から引用しました。

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Q3-9 使用料についての留意事項(その3)

非居住者に支払う職務発明の対価

【照会要旨】 A 社では、使用人の職務発明について特許を受ける権利を承継し、特許法第 35 条の

規定に基づく相当の対価として、その権利の実施後の成績に応じて補償金を支払ってい

ます。この補償金を非居住者に支払う場合には、所得税法第 161 条第 7 号イの工業所

有権等の「使用料」又は「譲渡による対価」のいずれにも該当せず、源泉徴収の対象に

ならないと考えてよろしいですか。 【回答要旨】

非居住者が「相当の対価」として支払を受ける補償金は、所得税法第 161 条第 7 号イの

工業所有権等の「譲渡による対価」に該当し、源泉徴収の対象となります。

職務発明に係る特許を受ける権利を使用者に承継させた場合、使用人はその代償として

相当の対価の支払を受ける権利(対価請求権)を有することとなります。この場合の相当

の対価については、権利承継時に具体的な金額を算定することは極めて困難であることか

ら、実績に応じて支払われる場合がありますが、そのような場合であっても、特許を受け

る権利の承継の代償として与えられた「対価請求権」に基づくものであることに変わりは

ありません。

したがって、非居住者である使用人が特許法第 35条に規定する「相当の対価」として支

払を受けるものは、権利の承継の対価、すなわち所得税法第 161 条第 7 号イの工業所有権

等の「譲渡による対価」として源泉徴収の対象となります。

(注)平成 27 年 7 月 1 日現在の法令・通達等に基づいて作成しています。

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Q3-10 使用料についての留意事項(その4)

ドイツ法人に支払う商標権の譲渡対価

【照会要旨】 内国法人 A 社は、ドイツ法人 B 社から日本、米国、カナダ及びニュー・ジーランド(以

下「4か国」といいます。)における商標権の譲渡を受け、その対価を一時払により支払う

こととしていますが、課税上の取扱いはどのようになりますか。 なお、商標権の譲渡後、B 社は、4 か国においては何らの権利も有しなくなります。

【回答要旨】

「真正な譲渡」に該当するものと認められますので、我が国において課税関係は生じませ

ん。

日・ドイツ租税協定上、商標権について使用料と譲渡の対価とを区別するに際しては、

商標権の「真正な譲渡」から生ずる収益についてのみキャピタルゲイン条項(日・独租税

協定第 13 条第 3 項)を適用することとしています(日・独租税条約交換公文第 8 項)。 そこで照会の契約関係をみてみると、①B 社が 4 か国において所有している商標権の譲

渡を受けるものであること、②A 社が本件の商標権を取得した後は、B 社は、4 か国におい

ては何らの権利も有しなくなること、③その対価は一時払であることから、本件の商標権

の譲渡は「真正な譲渡」に該当するものと認められ、我が国においては課税されないこと

となります。 なお、商標権については、いわゆるパリ条約において「いずれかの同盟国において正規

に登録された商標は、他の同盟国において登録された商標から独立したものとする」旨の

商標権独立の原則を明言しており、それぞれの登録されている国ごとに判定することとな

ります。 (注)平成 27 年 7 月 1 日現在の法令・通達等に基づいて作成しています。 *日独租税条約は、平成 28 年9月 30 日財務省より発効手続が完了した旨プレスリリース

がありました。そこで、以下に新しい使用料条項と譲渡所得条項を掲げます。このうち、

使用料の範囲(2項)については、OECD モデル条約と同様の記述となっています。

日独租税条約 12 条(使用料)

1 一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者が受益者である使用料に対して

は、当該他方の締約国においてのみ租税を課することができる。

2 この条において、「使用料」とは、文学上、芸術上若しくは学術上の著作物(映画フィ

ルムを含む。)の著作権、特許権、商標権、意匠、模型、図面、秘密方式若しくは秘密工

程の使用若しくは使用の権利の対価として又は産業上、商業上若しくは学術上の経験に関

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する情報の対価として受領される全ての種類の支払金をいう。

3 1の規定は、一方の締約国の居住者である使用料の受益者が、当該使用料の生じた他方

の締約国内において当該他方の締約国内にある恒久的施設を通じて事業を行う場合におい

て、当該使用料の支払の基因となった権利又は財産が当該恒久的施設と実質的な関連を有

するものであるときは、適用しない。この場合には、7条の規定を適用する。

4 使用料の支払の基因となった使用、権利又は情報について考慮した場合において、使用

料の支払者と受益者との間又はその双方と第三者との間の特別の関係により、当該使用料

の額が、その関係がないとしたならば支払者及び受益者が合意したとみられる額を超える

ときは、この条の規定は、その合意したとみられる額についてのみ適用する。この場合に

は、支払われた額のうちその超過する部分に対しては、この協定の他の規定に妥当な考慮

を払った上で、各締約国の法令に従って租税を課することができる。

(13 条 譲渡収益) 1 一方の締約国の居住者が6条に規定する不動産であって他方の締約国内に存在するも

のの譲渡によって取得する収益に対しては、当該他方の締約国において租税を課すること

ができる。

2 一方の締約国の居住者が法人、組合又は信託財産(資産の価値の 50 パーセント以上が

6条に規定する不動産であって他方の締約国内に存在するものにより直接又は間接に構成

される法人、組合又は信託財産に限る。)の株式又は持分の譲渡によって取得する収益に対

しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。 3 一方の締約国の企業が他方の締約国内に有する恒久的施設の事業用資産を構成する財

産(不動産を除く。)の譲渡から生ずる収益(当該恒久的施設の譲渡又は企業全体の譲渡の

一部としての当該恒久的施設の譲渡から生ずる収益を含む。)に対しては、当該他方の締約

国において租税を課することができる。 4 一方の締約国の企業が国際運輸に運用する船舶若しくは航空機又はこれらの船舶若し

くは航空機の運用に係る財産(不動産を除く。)の譲渡によって当該一方の締約国の企業が

取得する収益に対しては、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。 5 1から4までに規定する財産以外の財産の譲渡から生ずる収益に対しては、譲渡者が居

住者とされる締約国においてのみ租税を課することができる。

新しい日独租税条約 12 条2項にある「使用の権利の対価」ですが、いわゆる使用権をい

うものとされ、特許権・著作権の譲渡からは除かれます。そうなると、上の【照会要旨】

について、日独租税条約 13 条5項に該当することになり、源泉地国である日本には課税権

がないことになります。これについては、今後も検討の対象になるかもしれません。 さて、最初に述べたように、アップルへの課税と工業所有権の譲渡について、以下の裁

決事例を検討したいと思います。

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Q3-11 使用料についての留意事項(その 5)-アップル子会社への課税

国際的税逃れ 日本も網 アップル子会社追徴 監視強化 世界の流れ

2016/9/17 日本経済新聞 電子版

米アップルの子会社が、東京国税局の税務調査を受け、所得税の源泉徴収漏れを指摘さ

れたことが明らかになった。追徴税額は約 120 億円。アイルランドの子会社に移した利益

の一部が課税対象と判断された。近年国際的な企業活動に対する税務当局の監視の目は強

まっている。日本でも今後、課税強化の動きが加速する可能性もある。 国税局が問題としたのは、アップルが展開している音楽や映像のインターネット配信事

業。「iTunes」(東京・港)がソフトウエアの著作権を持っていたアイルランドの子会社

に使用料を支払い、その使用料に対する税金(約 20%)を日本に納める必要があった。 しかし iTunes 社は使用料の形でアイルランド側に支払わず、関連する税金を納めていな

かった。一方でアップルジャパン(東京・港)やシンガポールの関連会社を介在した「iPhone(アイフォーン)」などアップル製品の取引に一定の金額を上乗せする形で、利益がアイ

ルランド側に渡っていた。国税局は事実上、上乗せ分は使用料と判断したもようだ。 今回の課税処分は、iTunes 社などの取引を広く調査する中で、日本での課税が可能な部分

に注目して行った。「税逃れ対策強化の世界的流れを踏まえ、調査に取り組んできた結果」。

税務当局幹部はこう説明した。米アップルは「ノーコメント」としているが、争わずに全

額を納付した。 国際的な企業活動に詳しい税理士によると、税率が低いアイルランドに知的財産を集め、

同国に利益を移して税額を抑える手法は外資系企業の間で使われているという。 近年、国際間の取引を使って節税する企業に対する監視の目は厳しくなっている。欧州連合

(EU)の欧州委員会は8月、違法な税優遇を米アップルに与えたとして追徴課税で取り戻す

ようアイルランドに指示。金額は最大 130 億ユーロ(約1兆 4800 億円)と巨額になった。 このほか米スターバックス、欧米フィアット・クライスラー・オートモービルズが欧州

委に違法性を指摘された。マクドナルドやアマゾン・ドット・コムも調査対象になってい

る。M&A(合併・買収)を通じて本社を法人税率の低い国に移す租税地変換(タックス・

インバージョン)も問題視され、米製薬大手ファイザーによるアイルランド籍のアラガン

の買収が頓挫した例もある。 日本でも過去、日本 IBM の持ち株会社による米 IBM との株取引(10 年)、ホンダと同

社ブラジル現地法人間の取引(04 年)に対して課税処分をした。しかし裁判では国税側の

主張が認められず、課税を取り消した。 ただ「ヒト、モノ、カネや多国籍企業の活動が拡大し、適正課税が求められている」(迫

田英典国税庁長官)なか、課税強化は避けられない。 日本は 10 月1日時点で 100 カ国・地域と租税条約などを結ぶ。1国だけでは複雑化する

世界的な企業の経済活動をとらえきれなかったが、各国と情報を共有することで資金の流

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れを把握できるようになってきた、と国税関係者は口をそろえる。 国際税務に詳しい太田洋弁護士は「これまではグローバル企業の節税策が税務当局を先

行していた」と指摘。「日本でも税務当局の反撃が始まりつつあり、過度な節税に対する課

税処分は日本でも増えるだろう」とみる。

(参考)日愛租税条約(昭和 49 年 12 月4日 発効)13 条 1 一方の締約国内で生じ、他方の締約国の居住者に支払われる使用料に対しては、当該他

方の締約国においてのみ租税を課することができる。 2 1の使用料に対しては、当該使用料が生じた締約国において、その締約国の法令に従っ

て租税を課することができる。その租税の額は、当該使用料の金額の 10 パーセントを超え

ないものとする。 3 この条において、「使用料」とは、文学上、芸術上若しくは学術上の著作物(映画フィ

ルム及びラジオ放送用又はテレビジョン放送用のフィルム又はテープを含む。)の著作権、

特許権、商標権、意匠、模型、図面、秘密方式若しくは秘密工程の使用若しくは使用の権

利の対価として、産業上、商業上若しくは学術上の設備の使用若しくは学術上の経験に関

する情報の対価として受け取るすべての種類の支払金をいう。 3 1及び2の規定は、一方の締約国の居住者である使用料の受領者が、他方の締約国内に

恒久的施設を有する場合において、その使用料を生じた権利又は財産が当該恒久的施設を

通じて行われる事業と実質的な関連を有するものであるときは、適用しない。この場合に

は、8条の規定を適用する。 *以下、裁決事例に基づいて検討をしてみます。

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Q3-12 使用料についての留意事項(その 6)-国税不服審判所平成 21 年 12 月 11 日裁決(抄)

1 事案の概要

(1)概要

本件は、請求人が、ゲームソフトの開発費及びゲームソフトのパッケージ・広告用のイ

ラストの制作費として E 国に本店を置く外国法人に対して支払った金員について、原処分

庁が、当該開発費及び当該イラスト制作費は所得税法 161 条7号ロに規定する著作権の譲

渡の対価に当たるものであり国内源泉所得に該当するとして、源泉所得税の納税告知処分

及び不納付加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、これらは開発委託費等で

あり著作権の譲渡の対価には該当しないとして、これらの処分の全部の取消しを求めた事

案である。

【本件概要図】

(2)基礎事実

イ 請求人は、平成 6 年○月○日に設立された、家庭用ゲームソフトの企画及び開発等を行

う内国法人である。

ロ ゲームソフトの開発委託先である H 社は、平成 6 年○月○日に設立された、E 国を本店

所在地とする外国法人である。

ハ 請求人は、平成 14 年 3 月 15 日付で H 社との間で、H 社が企画開発し、E 国国内で発

売したパソコン版ゲームソフト「J」(「本件原著作物」)を日本で発売するために必要な

ゲームソフトの試作開発委託業務に関する覚書を締結した。

ニ 請求人は、H 社との間で本件ソフトの開発業務(「本件開発業務」)を委託するため、

平成 14 年 6 月 26 日付で開発委託契約(「本件開発委託契約」)を締結した。それによれ

ば、請求人が H 社に対して本件開発業務の対価(「本件開発委託費」)を支払うこととさ

れている。

ホ 請求人は、平成 16 年 1 月 19 日付で H 社に本件各イラストの制作(「本件各イラスト

請求人 X H

日 本 E 国

ゲームソフト 開発委託契約

開発委託費支払い

当 局

著作権の譲渡

の対価に該当 原著作権者

開発関係資料

を提示せず

二次的著作物の開発依頼

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制作業務」)を○○○○円(「本件各イラスト制作費」といい、本件開発委託費と併せて「本

件開発委託費等」という。)で発注している。

へ H 社は、請求人に対し、本件開発委託費等を請求し、請求人は支払った。

ト 本件ソフトの開発には、請求人の従業員である K が従事していたが、同人は平成 17 年

10 月 20 日に請求人を退職した。原処分庁所属の調査担当職員が、請求人に対して、本件ソ

フトに係る請求人から H 社に対する具体的な作業指示の内容及び H 社から納入された最終

マスターROM 等の内容等について明らかにするように求めたところ、請求人は、本件ソフ

トの開発に関連する書類は、退職した K が廃棄したため現存しておらず、また、同人がコ

ンピューターに保存していたデータについても削除して保存されていないとして明らかに

していない。

2 争点

請求人が E 国所在のゲームソフトの開発委託先である H 社に対して支払った開発費及び

イラスト製作費は、著作権の譲渡の対価に該当するか。

3 当事者の主張

請求人 課税庁

・本件ソフトは、本件原著作物を家庭用ゲー

ム機用ゲームソフトとして日本向けにリメ

イクすることを目的に新たに創作された二

次的著作物である。また、請求人と H 社は、

本件開発委託契約において、本件開発委託費

が請負の対価であるとした上で、本件著作権

が、発生と同時に請求人と H 社の共有とな

る旨を明確に定めている。請求人は本件著作

権を発生と同時に取得しているのであるか

ら、本件開発委託費は本件著作権の譲渡の対

価に該当しない。

・本件各イラストは、請求人がその制作につ

いて H 社に詳細な指示を与えていることか

ら、請求人と H 社との共同著作物である。

請求人は本件各イラスト著作権を発生と同

時に取得しているのであるから、本件各イラ

スト制作費は著作権の譲渡の対価に該当し

ない。

・本件ソフトの著作者は H 社で、本件著作

権はすべて同社が享有するのであるから、本

件開発委託契約における当該著作権を請求

人と H 社が 2 分の 1 ずつ共有する旨の定め

は、著作権の譲渡を定めたものと認められ

る。したがって、本件開発委託費は著作権の

譲渡の対価に該当する。

・本件各イラストは、著作権法第 10 条第 1

項第 4 号に掲げる美術の著作物に該当し、請

求人の依頼により、H 社が創作したものであ

るから、本件各イラスト著作権は、創作者で

ある H 社がいかなる方式の履行をも要せず

享有することとなる。そして、請求人が本件

各イラストを自己の著作物として利用して

いることから、当該著作権が H 社から請求

人に譲渡されたと認められる。したがって、

本件各イラスト制作費は著作権の譲渡の対

価に該当する。

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4 裁決

本件開発委託契約に係る契約書の記載内容等からすると、本件開発業務は、開発計画書

に従って H 社が行うこととされているところ、本件においては、H 社が同社のスタッフを

平成 14 年 3 月から平成 16 年 10 月までの期間、本件開発業務に従事させ、本件ソフトのシ

ナリオ、プログラム、グラフィック、ムービー、サウンドなどを制作していたことが認め

られる。

そうすると、本件ソフトのシナリオ及びプログラムを具体的に表現し、また、キャラク

ターや背景のグラフィックなどを創作したのは H 社と認められるから、本件著作権は、H

社がその著作者として享有し原始的に取得したものとみるのが相当である。

また、本件開発委託契約では、本件著作権等一切の権利は、発生と同時に請求人と H 社

が 2 分の 1 ずつ共有する旨記載されているものの、上記のとおり、本件著作権は、H 社が享

有し原始的に取得するのであるから、本件開発委託契約上、請求人が本件著作権の 2 分の 1

共有持分を保有するとの定めは、H 社から請求人に対して本件著作権の 2 分の 1 共有持分の

譲渡を定めたものであるとみるのが相当である。

そして、共有著作権は、その権利を行使するためには共有者全員の合意が必要であると

されており、たとえ請求人が本件著作権の共有持分を H 社から取得したとしても、請求人

が本件ソフトを日本国内で複製・販売するためには、その共有著作権の共有持分を保有す

る H 社の合意が必要となることからすれば、本件開発委託契約の内容には、請求人におけ

る、本件著作権に係る H 社の持分の使用許諾も含まれていると認められる。

さらに、請求人は H 社による本件著作権の共有持分の国内における権利行使を認めてい

ないことからすれば、本件開発委託契約の内容は、H 社から請求人に対する本件ソフトの日

本国内における独占的利用権に近い権利の取得であると認められる。

すなわち、本件開発委託契約の本体をなす合意は、H 社から請求人に対する本件著作権の

2分の 1共有持分の譲渡及び同著作権の同社持分の日本国内における使用許諾であるといえ

るから、本件開発委託契約に基づく本件業務委託費は著作権の使用料又は譲渡の対価にほ

かならない。

したがって、内国法人である請求人から H 社に支払われた本件開発委託費は、国内源泉

所得となる著作権の使用料又は譲渡の対価に該当するとみるのが相当である。

次に、イラストについては、本件各イラストを具体的に描画したのは H 社の従業員の L

であり、同人が本件各イラストを創作したものと認められるから、本件各イラストの作成

に創作的に寄与したのは H 社であると認められ、本件各イラスト著作権は、H 社がその著

作者として原始的に取得したとみるのが相当である。

本件各イラスト制作業務は、本件開発業務とは別個の業務であるものの、イ.本件各イ

ラストは、本件ソフトを日本国内で販売するために必須のものであると認められること、

また、ロ.本件各イラスト著作権の帰属について、請求人と H 社が本件開発委託契約と同

様に認識していると認められること、ハ.請求人は、本件各イラストを本件ソフトの販売

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に関してケースや解説書に実際に使用していること、ニ.H 社が、そのことについて異議等

を特に唱えていないことからすると、H 社は、請求人が本件各イラストを日本国内で複製し

て使用することを承認していると認められる。

そうすると、本件各イラスト制作費は、著作権の使用の対価あるいは譲渡の対価のいず

れになるかはともかく、内国法人である請求人から E 国法人である H 社に支払われる使用

料又は譲渡の対価に当たるから、国内源泉所得となる著作権の使用料又は譲渡の対価に該

当するとみるのが相当である。

以上により、原処分は適正である。

別紙1 関係法令の要旨

1 所得税法 161 条《国内源泉所得》7号ロは、国内において業務を行う者から受ける著

作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の使用料又はその譲渡によ

る対価で当該業務に係るものは、国内源泉所得に該当する旨規定している。 2 所得税法 212 条《源泉徴収義務》1項は、外国法人に対し国内において同法 161 条1

号の2から7号まで又は9号から 12 号までに掲げる国内源泉所得の支払をする者は、その

支払の際、これらの国内源泉所得について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌

月 10 日までに、これを国に納付しなければならない旨規定している。 3 所得税法 213 条《徴収税額》1項1号は、同法 212 条1項の規定により徴収すべき所

得税の額は、国内源泉所得の金額に 100 分の 20 の税率を乗じて計算した金額である旨規定

している。 4 所得税基本通達 161-23《技術等及び著作権の使用料の意義》は、所得税法 161 条7

号イの「工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれ

らに準ずるもの」(「技術等」)の使用料とは、技術等の実施、使用、採用、提供若しくは伝

授又は技術等に係る実施権若しくは使用権の設定、許諾若しくはその譲渡の承諾につき支

払を受ける対価の一切をいい、同号ロの著作権の使用料とは、著作物(著作権法2条《定

義》1項1号に規定する著作物をいう。)の複製、上演、演奏、放送、展示、上映、翻訳、

編曲、脚色、映画化その他著作物の利用又は出版権の設定につき支払を受ける対価の一切

をいうのであるから、これらの使用料には、契約を締結するに当たって支払を受けるいわ

ゆる頭金、権利金等のほか、これらのものを提供し、又は伝授するために要する費用に充

てるものとして支払を受けるものも含まれることに留意する旨定めている。 5 所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とE国との

間の条約(「日○租税条約」)3条2項は、一方の締約国によるこの条約の適用に際しては、

この条約において定義されていない用語は、文脈により別に解釈すべき場合を除くほか、

この条約の適用を受ける租税に関する当該一方の締約国の法令において当該用語がその適

用の時点で有する意義を有する旨規定している。 6 日○租税条約 12 条1項は、一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者に支

払われる使用料に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる旨規定

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し、同条2項は、同条1項の使用料に対しては、当該使用料が生じた締約国においても、

当該締約国の法令に従って租税を課することができ、その租税の額は、当該使用料の受益

者が他方の締約国の居住者である場合には、当該使用料の額の 10%を超えないものとする

旨規定している。 7 日○租税条約 12 条3項は、この条において「使用料」とは、文学上、芸術上若しくは

学術上の著作物の著作権、特許権、商標権、意匠、模型、図面、秘密方式若しくは秘密工

程の使用又は使用の権利の対価として受領するすべての種類の支払金をいう旨規定し、同

条4項は、使用料は、その支払者が一方の締約国の居住者である場合には、その支払者の

居住地国の国内源泉所得になる旨規定している。 8 日○租税条約 12 条5項は、同条1項、2項及び4項の適用は、文学上、芸術上若しく

は学術上の著作物(ソフトウエア、映画フィルム及びラジオ放送用又はテレビジョン放送

用のフィルム又はテープを含む。)の著作権、特許権、商標権、意匠、模型、図面、秘密方

式又は秘密工程の譲渡から生ずる収入についても、同様に適用する旨規定している。 9 著作権法2条1項1号は、著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであっ

て、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう旨、同項2号は、著作者とは、

著作物を創作する者をいう旨、同項 10 号は、映画製作者とは、映画の著作物の製作に発意

と責任を有する者をいう旨、同項 10 号の2は、プログラムとは、電子計算機を機能させて

一の結果を得ることができるように、これに対する指令を組み合わせたものとして表現し

たものをいう旨、同項 11 号は、二次的著作物とは、著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変

形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいう旨、同項

11 号は、共同著作物は、二人以上の者が共同して創作した著作物であって、その各人の寄

与を分離して個別的に利用することができないものをいう旨規定している。 10 著作権法2条3項は、この法律にいう「映画の著作物」には、映画の効果に類似す

る視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作

物を含むものとする旨規定している。 11 著作権法10条《著作物の例示》1項は、同法にいう著作物を例示して規定してお

り、同項4号は絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物を、同項7号は映画の著作物を、

同項9号はプログラムの著作物を掲げている。 12 著作権法 16 条《映画の著作物の著作者》は、映画の著作物の著作者は、その映画の

著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除

き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的

に寄与した者とする旨規定している。 13 著作権法 17 条《著作者の権利》1項は、著作者は、同法 18 条《公表権》1項、19条《氏名表示権》1項及び 20 条《同一性保持権》1項に規定する権利(著作者人格権)並

びに同法 21 条《複製権》から 28 条《二次的著作物の利用に関する原著作権の権利》まで

に規定する権利(著作権)を享有する旨規定し、また、同条2項は、著作者人格権及び著

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作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない旨規定している。 14 著作権法 28 条は、二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に

関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権

利を専有する旨規定している。 15 著作権法 29 条《映画の著作物の著作権の帰属》は、映画の著作物の著作権は、その

著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているとき

は、当該映画製作者に帰属する旨規定している。 16 著作権法 61 条《著作権の譲渡》1項は、著作権は、その全部又は一部を譲渡するこ

とができる旨規定している。 17 著作権法 65 条《共有著作権の行使》2項は、共有著作権は、その共有者全員の合意

によらなければ行使することはできない旨、また、同条3項は、各共有者は、正当な理由

がない限り、共有著作権の譲渡、又は、共有著作権の行使の合意の成立を妨げることはで

きない旨規定している。 別紙2 本件覚書の要旨

1 第1条(目的) 請求人は、H社が企画開発し、E国国内で発売したパソコン版ゲームソフト「J」の

日本での発売を判断する上で必要となる次の開発をH社に委託し、H社はこれを受託して、

委託された開発を信義に則り誠実に履行するものとする。 (1) 本件原著作物を日本国内で発売するために必要なゲーム改善点の検討 (2) 本件原著作物を日本国内で発売するに足るクオリティになるか検証のためのテ

クニカルデモの作成 (3) 本件原著作物の日本語化 2 第2条(開発完了日) H社は、上記1の開発を平成14年4月30日までに完了する。 3 第3条(対価及び支払) 請求人は、上記1の開発に係る開発委託金 3,000,000 円を開発完了後、H社が発行し

た請求書を請求人が受領した日の翌月 20 日に、H社が指定する銀行口座に振込む。 4 第4条(発売に関する判断) 請求人は、上記1の開発の完了後、30 日以内に本件原著作物を基にして開発する新た

なゲームソフトを日本で発売するか否かを判断し、発売する場合は、請求人とH社の間で

別途契約を締結する。 5 第7条(準拠法) 本件覚書は、日本国内法に準拠するものとする。

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Ⅳ 研究会の概要

1 国内源泉所得の意義と規定の確認

2 国内源泉所得をめぐる国際税務事例の確認

3 所得税法 161 条 1項 11 号に規定する使用料をめぐる上記裁決事例に基づく検討

(以上)