次世代への引継ぎ(事業承継) · 第3章 60 65 70 75 30年以上前 20~29年前...

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3 60 65 70 75 0 ~ 4 年前 5 ~ 9 年前 10 ~ 19 年前 20 ~ 29 年前 30 年以上前 資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所) (事業承継時期) 62.6 68.1 69.8 70.7 70.5 61.3 66.1 67.5 67.8 67.7 (歳) 中規模企業 小規模事業者 第 2-3-1 図 規模別・事業承継時期別の経営者の平均引退年齢の推移 次世代への引継ぎ(事業承継) 企業運営の多くの部分を、経営者の経営能力、意欲に依存する中小企業・小規模事業者にとって、経営 者の高齢化と後継者難は、業績悪化や廃業に直結する問題である。中小企業・小規模事業者が有する技術 やノウハウ等の貴重な経営資源を喪失させないためにも、後継者の確保はもちろん、円滑な事業承継に向 けて、後継者の養成や資産・負債の引継ぎ等中長期にわたる準備に、早期から計画的に取り組むことが求 められる。 他方、経営者の世代交代が、第二創業と呼ばれるような経営革新や、経営環境の変化への適応を可能と し、企業を発展させる事例もある。 少子化が進んでいる現状においては、経営者の子ども以外への事業承継や事業売却も含めて、事業承継 を検討することが、企業存続のために必要である。本章では、中小企業・小規模事業者の事業承継を巡る 現状と課題を明らかにし、事業承継の意義や、円滑に事業を引き継ぐための方策を論ずる。 1 事業承継を取り巻く状況 始めに、「中小企業の事業承継に関するアン ケート調査 1 」により、中小企業・小規模事業者 の事業承継を取り巻く状況を見ていく。 1.経営者の年代と経営状況 まず、第 2-3-1 図は、経営者の平均引退年齢の 推移を示したものであるが、引退年齢は上昇傾向 にあり、経営者の高齢化が進んでいる状況が見て 取れる。規模別に見ると、小規模事業者の方が、 中規模企業よりも経営者の引退年齢が高い。 1 中小企業庁の委託により、(株)野村総合研究所が、2012 年 11 月に 2001 年以前に創業した中小企業 30,000 社を対象に実施したアンケート調査。回収率 21.3%。詳 細は、参考資料を参照。 2 125 中小企業白書 2013

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第3章

60

65

70

75

0 ~ 4年前5~ 9年前10~ 19年前20~ 29年前30年以上前

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)

(事業承継時期)

62.6

68.1

69.870.7 70.5

61.3

66.1

67.5 67.8 67.7

(歳)

中規模企業

小規模事業者

第2-3-1図 規模別・事業承継時期別の経営者の平均引退年齢の推移

次世代への引継ぎ(事業承継)

企業運営の多くの部分を、経営者の経営能力、意欲に依存する中小企業・小規模事業者にとって、経営者の高齢化と後継者難は、業績悪化や廃業に直結する問題である。中小企業・小規模事業者が有する技術やノウハウ等の貴重な経営資源を喪失させないためにも、後継者の確保はもちろん、円滑な事業承継に向けて、後継者の養成や資産・負債の引継ぎ等中長期にわたる準備に、早期から計画的に取り組むことが求められる。他方、経営者の世代交代が、第二創業と呼ばれるような経営革新や、経営環境の変化への適応を可能とし、企業を発展させる事例もある。少子化が進んでいる現状においては、経営者の子ども以外への事業承継や事業売却も含めて、事業承継を検討することが、企業存続のために必要である。本章では、中小企業・小規模事業者の事業承継を巡る現状と課題を明らかにし、事業承継の意義や、円滑に事業を引き継ぐための方策を論ずる。

第1節 事業承継を取り巻く状況

始めに、「中小企業の事業承継に関するアン

ケート調査1」により、中小企業・小規模事業者

の事業承継を取り巻く状況を見ていく。

1.経営者の年代と経営状況まず、第2-3-1図は、経営者の平均引退年齢の推移を示したものであるが、引退年齢は上昇傾向

にあり、経営者の高齢化が進んでいる状況が見て

取れる。規模別に見ると、小規模事業者の方が、

中規模企業よりも経営者の引退年齢が高い。

1 中小企業庁の委託により、(株)野村総合研究所が、2012年11月に2001年以前に創業した中小企業30,000社を対象に実施したアンケート調査。回収率21.3%。詳細は、参考資料を参照。

第 2 部第1節

125中小企業白書 2013

70歳以上(n=550)

60~ 69歳(n=1,109)

50~ 59歳(n=704)

40~ 49歳(n=361)

40歳未満(n=117)

0% 100%

70歳以上(n=436)

60~ 69歳(n=1,254)

50~ 59歳(n=937)

40~ 49歳(n=525)

40歳未満(n=169)

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 最近5年間の経常利益(個人企業の場合は事業所得。)の状況についての回答。

①小規模事業者

②中規模企業

39.1

13.7

11.6

8.5

8.7

45.3

32.4

29.7

27.6

41.0

49.3

59.1

61.7

68.0

27.8

20.4

23.3

19.1

16.5

40.8

43.2

35.8

39.1

33.5

31.4

36.4

41.0

41.8

50.0

4.4

増加傾向 横ばい 減少傾向

第2-3-2図 規模別・経営者年齢別の経常利益の状況

70 歳以上(n=542)

60~ 69歳(n=1,091)

50~ 59歳(n=699)

40~ 49歳(n=360)

40歳未満(n=115)

70歳以上(n=411)

60~ 69歳(n=1,197)

50~ 59歳(n=921)

40~ 49歳(n=518)

40歳未満(n=163)

0% 100%

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)

①小規模事業者

②中規模企業

36.5 54.8 8.7

35.8 51.4 12.8

24.6 57.8 17.6

16.3 54.3 29.4

13.8 50.4 35.8

56.4 38.7 4.9

55.4 40.3 4.2

49.4 44.4 6.2

45.1 46.9 8.0

31.9 59.1 9.0

拡大したい 現状を維持したい 縮小・廃業したい

第2-3-3図 規模別・経営者年齢別の今後の事業運営方針

第2-3-2図を見ると、経営者が高齢である企業ほど、経常利益の状況について、「減少傾向」と

回答する割合が高い。特に、小規模事業者では、

その傾向が顕著に表れており、経営者の年齢が

70歳以上になると、約7割が減益傾向という状況になっている。

今後の事業運営方針についても、経営者の年齢

が高い企業ほど、「縮小・廃業したい」と回答す

る割合が高い。特に、小規模事業者では、その傾

向が顕著に表れていることも、前図と同様となっ

ている(第2-3-3図)。

第3章 次世代への引継ぎ(事業承継)

126 2013 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

0% 100%

60歳以上(n=176)

50~ 59歳(n=340)

40~ 49歳(n=576)

40歳未満(n=514)

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 事業承継のタイミングについて、「分からない」と回答した企業は除いている。

もっと早い時期の方が良かった

ちょうど良い時期だった

もっと遅い時期の方が良かった

事業承継のタイミング 参  考もっと遅い時期の方が良かった

ちょうど良い時期だった

もっと早い時期の方が良かった

38.5歳(n=177)

現経営者の事業承継時の平均年齢

43.7歳(n=1,059)

50.4歳(n=370)

最近5年間の現経営者の事業承継時の平均年齢

50.9歳(n=898)

21.6 69.1 9.3

5.7 73.3 21.0

6.2 56.8 37.1

6.8 50.6 42.6

第2-3-4図 事業承継時の現経営者年齢別の事業承継のタイミング

2.事業承継のタイミング次に、後継者が事業を承継するのに、最適な年

齢を見てみる。第2-3-4図は、事業承継時の現経営者の年齢別に、事業承継のタイミングを示した

ものであるが、「ちょうど良い時期だった」と回

答する割合が最も高い年齢層は、40~49歳である。

事業承継のタイミングについて、具体的で理解

しやすいものを示すため、「ちょうど良い時期

だった」と回答する現経営者の承継時の平均年齢

を見ると、43.7歳となる。この年齢と、最近5年間の、現経営者の承継時の平均年齢(50.9歳)を比べると、最適な年齢は、実際の年齢よりも約7年早く、また、「もっと早い時期の方が良かった」

と回答する現経営者の承継時の平均年齢(50.4歳)でも、実際の平均年齢を下回っており、後継者へ

の事業承継は、総じて遅れているものと推測され

る2。

事業承継の最適なタイミングは、個々の企業

で、それぞれの置かれた状況等により、異なるこ

とはいうまでもない。以下では、早い時期に経営

を任された後継者の新たな挑戦によって、事業が

拡大している企業の事例を示す。

2 このアンケート調査項目の作成に当たっては、2009年に実施された(株)日本政策金融公庫の「中小企業の事業承継に関するアンケート」の結果を参考とした。同調査では、事業承継のタイミングとして、「ちょうど良い時期だった」と回答する現経営者の事業承継時の平均年齢は、39.6歳であった(集計対象は、事業承継後に経営革新に取り組んだ従業者19人以下の中小企業。)。

第 2 部自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者

第1節

127中小企業白書 2013

事 例

代々の経営者が、地域の名産品を広める取組に挑戦し続けている老舗企業

秋田県湯沢市の有限会社佐藤養助商店(従業員225名、資本金1,000万円)は、1860年の創業以来、地域の名産品である稲庭うどんの知名度向上に、力を尽くしてきた老舗企業である。同社の先代社長である佐藤養助会長は、1967年、23歳で家業を継ぐと、稲庭うどんの市場拡大を目指して、1972年に、一子相伝の秘法であった、稲庭うどんの製造技術を公開した。稲庭うどんの製造が地域に広まれば、雇用機会が生まれ、都会へ出稼ぎに行く人を減らすことができるとも考えていた。それまで、同社では、家族だけで稲庭うどんを製造していたが、地域の人々を職人として育て上げ、徐々に生産量を増やしながら、稲庭うどん製造を地場産業へと発展させた。佐藤会長は、自身の経験から、若いときにこそ、思い切った改革を実現できると考え、長男である佐藤正明社長への事業承継を、早いうちに行う意向を持っていた。佐藤社長は、高校卒業後、1987年に18歳で同社に入社し、10年にわたって製造、販売等の各部門で経験を積んだ。30歳で専務に就任する頃には、佐藤会長から経営を任され、新たに飲食店部門を立ち上げて、事業拡大を図った。2004年に、35歳で社長に就任した後も出店を増やしており、県内を中心に、東京、福岡を含め10店舗を運営している。また、国内だけではなく海外にも目を向けており、2009年には香港、2010年にはマカオの企業と提携し、同地への出店を実現させた。今後は、台湾に現地法人を

設立する予定であり、更なる海外展開に意欲を見せる。現在、飲食店部門は、売上全体の3割を占めるまでになり、同社の業績向上に大きく寄与している。また、店舗数の増加に伴って、新たな雇用機会を提供しているほか、福祉施設に入居する外出が困難な高齢者等に対し、移動厨房車を活用してうどんを提供するなど、地域貢献も果たしている。佐藤社長は、「経営者が代わらないと、企業は変われない。企業は、世代交代することにより、時代の変化に柔軟に対応できるようになる。伝統や経営理念等変えてはならないものもあるが、新たな経営者が自社の経営を見直し、新しいことに挑戦していく必要がある。」と語る。

2-3-1: 有限会社佐藤養助商店

佐藤養助の稲庭うどん

第3章 次世代への引継ぎ(事業承継)

128 2013 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

事 例

早い時期から経営を任された現社長が、新事業を展開して好業績を上げている企業

愛知県新城市の本多プラス株式会社(従業員198名、資本金1億円)は、プラスチック・ブロー成形品の企画・製造・販売等を行う企業である。同社は、熱した樹脂をチューブ状に押し出して金型で挟み、圧縮空気を吹き込んで中空を形成する、ブロー成形をコア技術としている。同社の本多孝充社長は、大学卒業後、英国でMBAを取得し、1997年、28歳のときに、経営企画室長兼営業本部長として、同社に入社した。先代社長である本多克弘会長に経営手腕を認められ、入社4年目には専務に就任、以後経営の実権を任され、2011年に社長に就任した。本多会長は、「一代一事業であり、先代を超えることが後継者の仕事。経営は、感性や気力、体力に優れる若者の方が向いており、息子には自分の思うとおりにやって欲しかった。」と語る。本多社長は、「他人のやらないことをやる」という同社の経営理念に基づき、ブロー成形技術の更なる可能性を追求するとともに、デザインから始まるものづくりを志向して、製品の高付加価値化を図っている。従来は、修正液のボトル等の文具製品を主力としていたが、本多社長の入社以降、化粧品容器、医薬品容器等新たな分野を開拓し、工場の新設を実現している。また、デザイン

部門を設けて、デザイン力、提案力を強化したことにより、取引先の要望やニーズを的確に捉え、多様なオーダーメイド品に対応することが可能となっている。こうした本多社長の取組によって、売上、従業員数は専務就任時から現在までに約2倍になった。また、同社は、女性活用に積極的であり、女性の新卒採用や管理職昇進を増やしてきている。女性従業員比率は約5割に上っており、地域の子育て世代の女性への、就業機会の提供にも貢献しているという。

2-3-2:本多プラス株式会社

ブロー成形による規格容器

第 2 部自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者

第1節

129中小企業白書 2013

0% 100%

60歳以上(n=296)

50~ 59歳(n=483)

40~ 49歳(n=757)

40歳未満(n=686)

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 1.事業承継後の業績推移は、承継後5年間程度(承継後5年未満の企業は回答時点まで。)の実績による回答。   2.「良くなった」には「やや良くなった」を、「悪くなった」には「やや悪くなった」を含む。

悪くなったあまり変わらない良くなった

59.5 23.3 17.2

46.8 28.3 25.0

43.1 29.0 28.0

39.9 36.8 23.3

第2-3-5図 事業承継時の現経営者年齢別の事業承継後の業績推移

3.世代交代による事業革新と地域、社会への影響第1項において、経営者の高齢化が、企業の業績悪化につながるおそれがあることを指摘した

が、事業承継による経営者の世代交代は、企業に

どのような変化をもたらすのであろうか。

第2-3-5図は、現経営者の事業承継時の年齢別

に、事業承継後の業績推移を示したものである。

全ての年齢層で、「良くなった」と回答する割合

が、「悪くなった」と回答する割合を上回ってお

り、事業承継時の現経営者の年齢が若いほど、承

継後の業績が向上する傾向が見られる3。

第2-3-6図は、経営者の世代交代によって、自社の経営に良い影響があったという企業に、地域

や社会への影響について聞いたものである4。こ

れを見ると、中規模企業の約3分の2、小規模事業者の5割強が、経営者の世代交代によって、地域や社会に良い影響があったと考えていることが

分かる。

具体的な内容を見ると、中規模企業は、「やり

がいのある就業機会の提供」と回答する割合が高

く、「事業利益の地域への還元」が続く。他方、

小規模事業者は、「やりがいのある就業機会の提

供」に次いで、「地域のコミュニティづくりや伝

統文化の継承」と回答する割合が高い。

3 事業承継後に業績が「良くなった」と回答する企業の、現経営者の事業承継時の平均年齢は43.7歳であり、前掲第2-3-4図で示した、事業承継のタイミングについて、「ちょうど良い時期だった」と回答する企業の、現経営者の事業承継時の平均年齢と同じ結果になっている。

4 経営者の世代交代による経営への影響が、どのような形でもたらされたかについては、付注2-3-1を参照。

第3章 次世代への引継ぎ(事業承継)

130 2013 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

0 10 20 30 40 50 60 70

地域の安心安全、福祉医療の充実

地域のコミュニティづくりや伝統文化の継承

地域で生活する人々の生活の充足や質の向上

地域産業の発展に貢献する財・サービス・ノウハウの提供

事業利益の地域への還元

やりがいのある就業機会の提供

(%)

中規模企業(n=752)小規模事業者(n=292)

35.357.0

29.834.6

30.831.1

30.129.5

31.225.1

10.311.4

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 1.経営者の交代による経営への影響について、1項目以上に「良い影響」と回答した企業を集計している。   2.小規模事業者については、常用従業員数1人以上の事業者を集計している。

具体的な内容(複数回答)

良い影響があった65.8%

良い影響があった55.5%

良い影響はなかった34.2%

良い影響はなかった44.5%

小規模事業者(n=539)〈内側の円〉

中規模企業(n=1,159) 〈外側の円〉

(注) 無回答は除いている。また、「その他」は表示していない。

第2-3-6図 規模別の経営者の交代による地域・社会への影響

以上、事業承継の効果、影響を見てきたが、事

業承継の意義は、企業の存続はもとより、新たな

経営者の手によって企業が更なる発展を遂げ、地

域や社会と一層強く結び付いていくことにあると

いえよう。以下では、経営者の世代交代によっ

て、事業の再生や情報技術の活用による経営革

新5、地域や社会への貢献を果たしている企業の

事例を示す6。

5 中小企業・小規模事業者の情報技術の活用の現状と課題については、次章で詳細に分析していく。6 後掲事例2-3-10も参照されたい。

第 2 部自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者

第1節

131中小企業白書 2013

事 例

井筒屋の外観

再建された旅館を受け継ぎ、新たな事業として再生した女性経営者

新潟県村上市の商店街の一角にある井筒屋(従業員2名)は、国の登録有形文化財である建物で、一日一組の宿泊客を受け入れる旅館とカフェを営んでいる。井筒屋の歴史は古く、城下町・越後村上で代々旅籠として続き、松尾芭蕉が「おくのほそ道」の途中に宿泊したことがあるという。井筒屋を営む鳥山潤子氏は、長年、教員として県内の学校に勤めていたが、2010年に退職し、母親から事業を受け継いでいる。井筒屋は、先代である母親が経営していた時代には、ビジネス客が泊まる宿泊施設として営まれていたが、交通網の整備で宿泊客が減少し、1998年に一度廃業している。その後、2007年に文化的な建物がリノベーションされたのを契機に、少人数の観光客向けの旅館として再建された。以前に営業していた多数を受け入れる宿泊施設では、食事の準備等の長時間にわたる労働で家族の負担も大きかったことから、鳥山氏の両親は、鳥山氏が教員を続けることを望んでいた。しかし、鳥山氏は、母親が井筒屋を再建するのを支えたことを通じて、事業への意欲を持つようになるとともに、高齢の母親が不慣れなカフェ事業で苦労しているのを見て、事業を受け継ぐこととなった。

事業承継から3年を経た現在では、井筒屋再建に取り組む過程でつながりができた人々とのネットワークに助けられ、自分自身や事業として何が必要であるかを見つめることができるまでに、事業を軌道に乗せることができてきている。鳥山氏は、「母親から事業を受け継いだときのように、事業の内容や担い手はこれからも変わっていくだろうが、井筒屋という名前と歴史的な建物は、この場所に残していきたい。今は、自分の店を良くすることに注力したいが、そのことが地域にも良い刺激となればと思う。」と語る。

2-3-3:井筒屋

第3章 次世代への引継ぎ(事業承継)

132 2013 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

事 例

後継者が情報技術の活用による経営革新を進めてきた老舗企業

東京都台東区の中川株式会社(従業員30名、資本金3,000万円)は、祭り衣装等祭り用品の企画・制作・販売を行う1910年創業の老舗企業である。浅草に店舗を構えているほか、オンラインショップを運営し、全国の百貨店の催事にも出店している。同社の中川雅雄社長は、米国留学後、出版社勤務を経て、1987年、34歳で実父が経営する同社に入社した。その後、36歳で営業部長、44歳で専務に昇進し、経営革新を主導してきたことで経営手腕を認められ、2002年、48歳で社長に就任した。中川社長が、事業承継以前に行った経営革新の取組の一つは、情報技術の活用である。留学中に、米国内で情報技術の活用が進んでいる実態を目の当たりにし、その重要性を認識した。同社は、インターネットが普及し始めた1998年頃に、他社に先駆けて自社のホームページでの通信販売を開始した。また、仕入から在庫管理、受注までの一連のプロセスをシステム化したことで、業務が効率化されたほか、過去のデータから季節商品である祭り用品の需要を予測し、在庫管理・発注を最適化できるようにもなった。さらに、情報技術の活用の効果を発揮させるためには、同社全体の情報技術に対する知識の底上げが必要と考え、商工会議所の研修等も活用しながら、従業員教育を積極

的に行ってきている。こうした経営革新の取組が奏功して、同社の事業規模は拡大し、従業員数も社長就任前の7名から現在の規模へと大幅に増加している。中川社長は、「会社は、先代、先々代からの預かりものであり、会社を大きくしていくことが、経営を預かっている者の使命。自分が新しいことに取り組んできたことについて、先代は口を出さず、自由に行うことができた。社内で十分な実績を上げたため、社長になる頃には社内外でも認められるようになっていた。」と語る。

2-3-4:中川株式会社

浅草中屋本店

第 2 部自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者

第1節

133中小企業白書 2013

事 例

経営者が自らの持ち味を発揮して自社商品のブランド化を図るなど、事業を発展させている企業

滋賀県大津市の株式会社比叡ゆば本舗 ゆば八(従業員76名、資本金2,500万円)は、ゆばの製造・販売を行う企業である。同社は、1940年の創業以来、ゆばづくり一筋に歩んできている。同社の八木幸子社長は、育児をしながら経理等を担当し、1993年に副社長に、その後、1994年に先代社長が他界し、社長に就任することとなった。先代社長の急逝は想定しておらず、事業承継の準備をしていなかったため、自社株式の承継では大きな苦労があった。食品を扱う事業であり、万一に備えキャッシュフロー経営を意識して、内部留保を手厚くしてきたためである。先代社長は何でもできるアイディアマンであったため、経営の承継でも悩んだが、自分は同じやり方はできないと思い、先代社長が築いた経営基盤を受け継いだ上で、営業部員から商品開発のアイディアを募り、商品の種類を増やしていった。さらに、女性経営者という立場を活かして、自らが先頭に立ち、全国各地で講演し、また、百貨店の催事出店、著名な料理人とのタイアップ等、「比叡ゆば」の認知度を高める取組に注力し、自社商品のブランド化を図ってきた。先代社長の生前は、業務用ゆばの販売が大半であったが、八木社長の就任以後、小売の割合が増えてきている。

後継者については、長男である現在の専務を考えている。長男は、早くから事業を承継する意思を持っていたが、10年前、同社が厳しい問題に直面した時期に、前職を辞して入社を決断したことで、従業員からの信頼が醸成された。現在は、自ら立ち上げた東京支店で、百貨店等への営業を行うとともに、商品の安心・安全の追求や商品製造の効率化に取り組んでいる。八木社長は、「自らの経験から、事業承継の準備には少なくとも5年は必要。事業承継は接ぎ木に近い。先代が築いた経営基盤を維持しながらも、新しい価値を積み上げていくことが重要である。」と語る。

2-3-5:株式会社比叡ゆば本舗 ゆば八

おさしみゆば

第3章 次世代への引継ぎ(事業承継)

134 2013 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

事 例

親子二代で地域の医療・介護サービスを支える企業

香川県観音寺市の株式会社日協堂医療器(従業員20名、資本金1,000万円)は、医療機器、介護用具の販売・レンタルを行う企業である。同社の先代社長である喜井博惠会長は、創業者である実父が病で倒れたことにより、社長に就任した。営業以外の経験はなく、準備期間のない事業承継であった。医療・介護分野の経営には、専門性が求められるため、その後の経営は苦労の連続であった。喜井会長は、事業承継には長期的に取り組む必要があり、後継者には、なるべく早いうちから、社内で経験を積ませた方が良いという認識を持っていたが、自身が経営者として辛い経験をしたことから、息子への事業承継には、あまり積極的ではなかった。息子の喜井規光社長は、作業療法士の資格を取得した後、県外の診療所に勤務し、同社を承継する意思はなかった。しかし、当時社長であった喜井会長が苦労していることを知り、息子として手助けをしたいと考え、2002年、23歳で同社に入社した。喜井社長は、今後も需要増が見込まれる介護分野の強化を、同社の進むべき方向と見定め、社長就任前から、介護用具の販売・レンタルに注力した。また、地域の高齢化の進展により、高齢者への直接的な支援の必要性を

感じ、2004年には、介護付き有料老人ホームの運営を、別会社で開始した。喜井社長と喜井会長は、同社の経営方針を巡る意見の違いから度々衝突してきたが、会社や地域への思いを共有していることから、両者が向き合い支え合って、経営課題を乗り越えることができたという。2009年の喜井社長の社長就任後も、業績は順調に推移しており、2012年には、社会福祉法人を設立し、特別養護老人ホームの運営も始めている。今後も、地域の医療・介護に、一層貢献していきたいという強い気持ちを持っている。

2-3-6:株式会社日協堂医療器

介護用具の展示場

第 2 部自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者

第1節

135中小企業白書 2013

20 年以上前(n=446)

10~ 19年前(n=348)

0~ 9年前(n=507)

20年以上前(n=441)

10~ 19年前(n=588)

0~ 9年前(n=1,105)

0% 100%

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)

①小規模事業者

②中規模企業

61.3 14.4 13.8 10.5

73.9 10.9 9.5 5.7

83.4 10.1 3.8 2.7

43.1 11.0 24.6 21.4

63.1 15.3 15.6 6.0

83.0 8.4 4.8 3.9

社外の第三者

親族以外の役員・従業員

息子・娘以外の親族息子・娘

第2-3-7図 規模別・事業承継時期別の現経営者と先代経営者の関係

4.現経営者と先代経営者の関係の変化続いて、承継形態の変遷について見てみる。第2-3-7図は、事業承継の時期別に、現経営者と先代経営者の関係を示したものであるが、「親族以

外の役員・従業員」、「社外の第三者」への事業承

継が増加してきており、特に、中規模企業におい

ては、その傾向が顕著に表れている。

こうした傾向の背景には、後継者難や役員・従

業員との関係があると考えられるが、それらの現

状や課題については、次節で触れる。

以下では、後継者問題に対応すること、組織・

体制を整えること等により、親族以外への事業承

継に取り組む企業や、支援機関の取組を事例とし

て示している。

第3章 次世代への引継ぎ(事業承継)

136 2013 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

事 例

事業引継ぎ支援センターの支援を受け、起業希望者を後継者とすることで、後継者問題に取り組む中心商店街店主

静岡県静岡市の蒲原屋(従業員1名)は、豆類を中心とした乾物の食料品店を営む個人商店である。1946年創業の同店は、清水駅前銀座商店街の一角にある賃貸店舗で営業しており、店主の金子武氏は2代目である。店舗内の厨房設備を使った料理教室の開催により、20代の顧客も増えているが、顧客のほとんどは、40代以上の年配の方である。他店ではあまり見られない珍しい商品もそろえ、遠方からの来客も多い。現在69歳の金子氏は、10年ほど前から事業承継を意識し始めた。金子氏には3人の娘がいるが、事業承継の意思はなかったため、取引金融機関に相談したほか、出入りの卸問屋の営業担当に事業承継を打診するなど、後継者を探してきた。実父が創業し、地域の人々の豊かな食生活に貢献している同店を、次世代に引き継ぎたいとの思いであったという。2012年初めに、静岡県事業引継ぎ支援センターが開設されると、静岡商工会議所職員を通じて同センターを知り、事業承継の相談に赴いた。そこで、同センターは、起業希望者と後継者難に直面する中小企業とを、結び付けることができるのではないかと考え、同店を経営したいとの熱意を持つ起業希望者を公募することとした。「創業・事業引継ぎ支援プロジェクト」と名付けられたこの取組では、応募者に対する店舗見学を含む説明会を開催し、同店の収支計画の策定やグループ討議を行うワークショップを実施して、半年程度を掛けて後継者候

補を選考した。20人ほどから応募があり、最終的には、40代の女性が後継者に選ばれた。金子氏は、10年間は、後継者と共に店頭に立つことを考えており、最初の5年間で経営ノウハウを伝え、6年目で屋号、設備を含む事業を、無償で譲渡する予定である。後継者は、2012年12月から同店に勤務し、金子氏が不得意なインターネットでの通信販売にも取り組み、将来的には法人化して、経営基盤を強化することも考えている。金子氏は、「経営環境が変化する中で、若い経営者が新たな取組を始めることは、新たな客層を呼び込み、事業拡大にもつながる。商店街には、後継者がいない店も多い。こうした取組が広がって世代交代が進み、商店街が活気づいてくれれば良い。」と語る。

2-3-7:蒲原屋

蒲原屋の外観

第 2 部自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者

第1節

137中小企業白書 2013

▶▶

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月

北海道事業引継ぎ支援センター 0 1 1 4 8 4 6 2 6 0 4 7

宮城県事業引継ぎ支援センター 3 2 1 6 3 8 6 6 5 8 7 7

東京都事業引継ぎ支援センター 10 13 41 29 27 37 37 30 39 31 23 21

静岡県事業引継ぎ支援センター 14 15 18 19 10 13 17 12 17 10 13 16

愛知県事業引継ぎ支援センター 2 3 4 14 4 10 5 2 7 9 8 1

大阪府事業引継ぎ支援センター 1 5 11 7 12 7 6 13 2 6 2 4

福岡県事業引継ぎ支援センター 4 8 3 3 1 4 5 10 5 3 1 4

事業引継ぎ支援センター合計 34 47 79 82 65 83 82 75 81 67 58 60

事業引継ぎ支援センターの相談企業数の推移(2012年度)

資料:中小企業庁(注) 2012年度の成約件数は、9件(宮城1、東京2、静岡4、愛知1、大阪1)である。

事 例

事業引継ぎ相談窓口・事業引継ぎ支援センターの設置2011年7月に施行された「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法の一部を改正する法律」に基づき、47都道府県の認定支援機関(法律に基づき認定を受けた商工会議所等の支援機関。)の業務に、事業引継ぎ支援業務を追加し、事業引継ぎ等に関する情報提供・助言等を行う「事業引継ぎ相談窓口」を設置した。さらに、事業引継ぎ支援の需要が多く、支援体制の整った地域に、「事業引継ぎ支援センター」を設置しており、同センターでは、事業引継ぎに関する専門家が、事業引継ぎを希望する企業間のマッチング支援等を行う。同センターは、2012年度末現在、北海道、宮城県、東京都、静岡県、愛知県、大阪府、福岡県の全国7か所に設置しており、今後も全国的に拡充していく方針である。

コラム 2-3-1

中小企業の事業引継ぎを支援する公的相談窓口

静岡県静岡市の静岡県事業引継ぎ支援センターは、2012年1月に、静岡商工会議所に設置された、次世代への事業引継ぎに関する様々な課題解決を支援する公的相談窓口である7。事業引継ぎを切り口として、静岡県経済の活性化・発展に貢献することを目標に、中小企業支援を行っている。同センターの開設から2013年3月末までに、225件に上る相談があり、そのほとんどがM&Aに関するものであった。同センターの特色は、県内の地域金融機関との連携により、後継者難の中小企業、事業買収による経営拡大に関心のある中小企業等の、情報収集を行っている点にある。同センターの統括責任者である清水至亮氏は、「事業引継ぎ支援センターの存在がまだ知られていない中、中

小企業にとって身近な相談相手である地域金融機関を紹介窓口とすることで、より多くの中小企業の事業引継ぎニーズを把握することができる。」と連携の意義を語る。2013年3月末現在、同センターの支援によって、4件のM&Aが成約している。また、事業売却が容易ではない小規模事業者の後継者確保も支援している。その取組は、「創業・事業引継ぎ支援プロジェクト」と名付けられ、起業希望者と後継者難の小規模事業者とを結び付け、リスクの少ない起業と地域に必要な事業の存続を、同時に実現するものとして注目されており、9月に後継者が決まった案件では、商店街の食料品店で実施され、中心商店街の空き店舗対策や活性化につながるモデルケースとなるものと期待されている。

2-3-8:静岡県事業引継ぎ支援センター

(企業)

7 詳細は、静岡県事業引継ぎ支援センターのホームページを参照。http://www.shizuoka-cci.or.jp/sbsc/

第3章 次世代への引継ぎ(事業承継)

138 2013 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

事 例

同軸コンポーネンツ

第2節 後継者選びの現状と課題

前節では、中小企業・小規模事業者の事業承継

を巡る現状を示したが、中小企業・小規模事業者

の経営者は、自身の引退後の事業継続や後継者の

選定について、どのように考えているのであろう

か。本節では、後継者選びの現状と課題を見てい

く。

1.事業継続の意向と後継者難まず、経営者の年齢が50歳以上の企業について、事業承継に対する意向を見ていく。

第2-3-8図は、経営者が引退した後の、事業継続についての方針を示したものである8。規模別

に見ると、中規模企業の大半が、事業の継続を希

望しているのに対し、小規模事業者では、6割弱にとどまる。また、廃業を希望する小規模事業者

は、1割強に上っている。

創業者による事業承継の準備や承継後の後継者支援により、社員への事業承継を円滑に行った企業

東京都昭島市のスタック電子株式会社(従業員55名、資本金7,000万円)は、1971年の創業以来、携帯電話基地局の通信、防災通信無線等に関連した、高周波・光伝送の技術開発に力を注いでいる研究開発型企業である。同社では、2011年に、創業者である田島瑞也会長から当時専務であった渡辺勝博社長に、経営が引き継がれた。田島会長は、会社を私物化せず、公私混同はしない、という方針のもとに同社を設立したことから、血縁者は採用せず、親族以外への事業承継を、創業当初から決めていた。自身が65歳で引退することを見据え、後継者を決定する前から事業承継に向けた準備を始めた。田島会長は、まず、人づくりが経営の基本であると考え、1982年から新卒採用を継続し、徹底した従業員教育を行ってきた。また、取引先等で経験を積んだ人材の招へいや中途採用も実施することで、組織の基盤を固め、次期社長を支える経営幹部を育成、登用してきた。後継者を、技術畑の渡辺社長に決めてからは、営業、製造、管理等社内の幅広い部門に配属して、経営者としての視点を養わせるとともに、取引銀行との面談に同行させるなどして、社外の関係者への周知を行った。さら

に、銀行と相談して借入金の個人保証の解除も行い、渡辺社長が経営を担う上での負担を軽くすることに努めた。事業承継後も、田島会長は、1年間は渡辺社長と行動を共にし、経営に関する助言やサポートを行った。社内の意思決定についても、事前には関与しないものの、最終的なチェックを行うようにした。現在は、渡辺社長が経営を主導できるように、従業員の技術教育等を行い、組織の底上げを図る活動に、重点的に取り組んでいる。

2-3-9:スタック電子株式会社

8 規模別の経営者引退後も事業を継続させたい理由については、付注2-3-2を参照。また、規模別の経営者引退後の事業継続についてまだ決めていない理由については、付注2-3-3を参照。

第 2 部自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者

第2節

139中小企業白書 2013

中規模企業(n=2,529)

小規模事業者(n=1,882)

0% 100%

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 1.経営者の年齢が50歳以上の企業を集計している。   2.「事業を継続させたい」と回答する企業には、事業の売却を検討している企業を含む。

事業をやめたい

まだ決めていない事業を継続させたい

57.2 29.1 13.7

84.5 14.2 1.3

第2-3-8図 規模別の経営者引退後の事業継続についての方針

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 1.今後の事業運営方針について「廃業したい」、又は、経営者引退後の事業継続について「事業をやめたい」と回答した、経営者

の年齢が50歳以上の小規模事業者を集計している。   2.「その他」には、「従業員の確保が難しい」を含む。

(%)

事業に将来性がない35.9

地域に需要・発展性がない 5.1息子・娘がいない 5.9

息子・娘に継ぐ意思がない27.3

適当な後継者が見付からない21.4

その他 4.4

後継者難 54.6% 

(n=710)

第2-3-9図 小規模事業者の廃業理由

前掲第2-3-3図において、今後の事業運営方針を示したが、ここで「廃業したい」と回答した小

規模事業者と、前掲第2-3-8図の、経営者引退後の事業継続について、「事業をやめたい」と回答

した小規模事業者の、廃業を希望する理由を見て

みると、後継者難に関連した項目が、半分以上を

占めていることが分かる9(第2-3-9図)。後継者難の内訳を見ると、「息子・娘に継ぐ意思がな

い」、「息子・娘がいない」といった子どもへの事

業承継が難しいことが約6割を占めていることから、親族以外も視野に入れて、後継者の確保に取

り組む必要があると考えられる。

9 中規模企業についても、廃業を希望する理由の内訳は、小規模事業者と同様の傾向となっている。

第3章 次世代への引継ぎ(事業承継)

140 2013 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

▶▶

法人形態(n=441)

個人形態(n=62)

0% 100%

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 事業承継時期が0~ 9年前の小規模事業者を集計している。

親族以外の役員・従業員

社外の第三者

息子・娘以外の親族

息子・娘

85.5 9.7 3.2 1.6

58.5 14.5 15.4 11.6

組織形態別の現経営者と先代経営者の関係

法人形態(n=1,403)

個人形態(n=461)

0% 100%

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 1.経営者の年齢が50歳以上の小規模事業者を集計している。   2.「事業を継続させたい」と回答する事業者には、事業の売却を検討している事業者を含む。

事業をやめたいまだ決めていない事業を継続させたい

43.4 29.3 27.3

61.6 29.2 9.3

組織形態別の経営者引退後の事業継続についての方針

組織形態別の事業継続の意向と後継者選び前掲第2-3-7図、第2-3-8図で示したように、小規模事業者では、親族間の事業承継が多く、また、経営者引退後の事業継続について、後継者難等を理由に廃業を希望する事業者が、一定程度存在する。それでは、小規模事業者の中でも、個人形態の事業者は、経営者引退後の事業継続や後継者の選定について、どのような考えでいるのであろうか。法人格を有する小規模事業者と比較して、見ていきたい。まず、事業承継時期が0~9年前の事業者について、現経営者と先代経営者の関係を示したものを見ると、個人形態の事業者では、親族以外への事業承継が、ほとんど行われていないことが分かる。

次に、経営者の年齢が50歳以上の事業者について、事業承継に対する意向を見ると、経営者引退後も「事業を継続させたい」と回答する個人形態の事業者は半分以下であり、廃業を希望する割合が約4分の1に上っている。

廃業を希望する理由を見ると、個人形態、法人形態共に、後継者難を挙げる事業者が多い。個人形態の事業者では、「息子・娘に継ぐ意思がない」、「息子・娘がいない」と回答する割合が、法人形態の事業者と比べて高くなって

コラム 2-3-2

第 2 部自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者

第2節

141中小企業白書 2013

0% 100%

法人形態(n=402)

個人形態(n=302)

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 1. 今後の事業運営方針について「廃業したい」、又は、経営者引退後の事業継続について「事業をやめたい」と回答した、

経営者の年齢が50歳以上の小規模事業者を集計している。   2. 「その他」には、「従業員の確保が難しい」を含む。

息子・娘がいない

息子・娘に継ぐ意思がない 適当な後継者が見付からない その他その他

地域に需要・発展性がない

事業に将来性がない

27.5 5.0 8.3 36.4 16.6 6.3

後継者難 61.3%

後継者難 50.0%

41.8 5.2 4.0 20.6 25.4 3.0

組織形態別の小規模事業者の廃業理由

01020304050607080

現経営者との相性が良いこと

財務・会計の知識があること

役員・従業員からの人望があること

経営理念が承継されること

事業運営に役立つ人脈やネットワークが

あること

判断力が高いこと

コミュニケーション能力が高いこと

リーダーシップが優れていること

営業力・交渉力が高いこと

技術力が高いこと

決断力・実行力が高いこと

経営に対する意欲が高いこと

自社の事業・業界に精通していること

親族であること

(%)

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 1.小規模事業者を集計している。   2.「その他」は表示していない。

法人形態(n=1,068)個人形態(n=263)

71.5

37.329.7 28.5

35.025.1

17.9 21.3 21.717.1 14.1 11.8 14.4 14.1

55.649.0

40.4 38.128.7 33.5 35.5 31.8 31.0

23.9 25.7 25.7 22.116.0

組織形態別の後継者を決定する際に重視すること(複数回答)

おり、後継者となる子どもがいるかどうかが、事業承継の可否を左右している可能性がある。

後継者を決定する際に重視することを見てみると、個人形態の事業者は、「親族であること」と回答する割合が約7割であり、今後の事業承継に関しても、経営者との血縁関係を非常に重視していることが分かる。

第3章 次世代への引継ぎ(事業承継)

142 2013 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

0% 100%

中規模企業(n=33,075)

小規模事業者(n=20,613)

資料:(株)帝国データバンク「信用調査報告書データベース」、「企業概要データベース」再編加工(注) 1.2012年末時点のデータと2007年末時点のデータを比較し、社長が交代している企業について承継形態を集計している。   2.承継形態が「創業者の再就任」、「分社化の一環」並びに「不明」の企業は除いて集計している。   3.ここでいう「内部昇格」とは、経営者の親族以外の社内の役員や従業員が経営者に昇格することをいう。   4.ここでいう「外部招へい」とは、当該企業が能動的に外部から経営者を招くことをいう。   5.ここでいう「出向」とは、外部(親会社等)から当該企業に受動的に経営者が送り込まれることをいう。   6.ここでいう「買収」とは、合併又は買収を行った企業側の意向により経営者が就任することをいう。

外部招へい

出向

買収

内部昇格親族内承継

64.9 23.8 5.0 3.9 2.3

42.4 33.0 9.1 14.0 1.5

第2-3-10図 規模別の現経営者の承継形態

2.承継形態別の現状と課題前掲第2-3-7図では、親族への事業承継の割合が低下し、親族以外への割合が上昇していること

を示した。親族を後継者・後継者候補(以下、本

項では単に「後継者」という)とする場合、親族

以外を後継者とする場合について、どのような視

点で後継者が選ばれ、また、それぞれの事業承継

の際に、どのような問題が起こり得ると認識され

ているのであろうか。本項では、承継形態別の現

状と課題を見ていく11。

まず、株式会社帝国データバンクのデータベー

スを用いて、2008年から2012年までの現経営者の承継形態を規模別に見ると、小規模事業者は、

親族への事業承継が6割強であるのに対し、中規模企業では4割強にとどまる。中規模企業は、社外の第三者を含めた親族以外による承継が、親族

による承継を上回る状況となっている12(第2-3-10図)。

次に、親族以外への事業承継が多い中規模企業

について、後継者の選定理由を見る。第2-3-11図は、親族を後継者とする企業の、親族を後継者とした理由と、親族以外を後継者とする企業の、

親族以外への事業承継が増えつつある中で、未だに、親族への事業承継が大多数を占める個人形態の事業者では、後継者となる子どもがいない場合、後継者を確保することが、事業承継における最大の課題となろう10。また、子どもがいる場合でも、子どもが事業を継ぐことを当然視することなく、承継の意思を確認するなど、後継者を早期に決定することが、自身の引退後も事業を継続させるために、必要と考えられる。

10 前掲事例2-3-7のように、事業引継ぎ支援センターに相談して、公募によって後継者を確保した個人事業主もいる。11 以下の分析(第2-3-11~14図)では、後継者・後継者候補がいる企業についてのアンケート調査結果をもとにしている。規模別の経営者と後継者・後継者候補の関係については、付注2-3-4を参照。また、規模別・経営者年齢別の後継者の決定状況については、付注2-3-5を、経営者年齢別の後継者が決まっていない理由については、付注2-3-6を参照。

12 前掲第2-3-7図と同様の調査内容を示したものであるが、調査対象となる企業や期間が異なるため、各承継形態の割合は一致していない。

第 2 部自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者

第2節

143中小企業白書 2013

0

10

20

30

40

50

60

自社株式等の引継ぎが容易

自社株式等の引継ぎが障害でない

血縁者に継がせたい

世襲は好ましくない

金融機関との関係を維持しやすい

借入金の個人保証の引継ぎが容易

借入金の個人保証がない(少ない)

経営者としての資質・能力がある

親族よりも資質・能力が優れている

本人から承諾を得やすい

後継者の養成を行いやすい

取引先との関係を維持しやすい

親族以外に適当な人物がいない

親族に適当な人物がいない

自社の株主から理解を得やすい

役員・従業員から理解を得やすい

役員・従業員の士気向上が期待できる

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 1.常用従業員数1人以上の企業を集計している。   2.「特にない」と回答した企業は除いている。また、「その他」は表示していない。   3.後継者には、後継者候補を含む。また、自社株式等には、事業用資産を含む。

(%)

親族を後継者とする企業(n=1,524)

親族以外で多い理由 親族で多い理由

親族以外を後継者とする企業(n=677)

47.0 49.9

18.024.5

33.4

22.6

10.2

22.7

4.3 7.5

23.8

38.8

13.6

23.733.3 31.0

19.8

36.0

25.233.8

53.1

42.8

6.9

▲35.9+32.7

14.3

第2-3-11図 中規模企業の親族/親族以外を後継者とする理由(複数回答)

親族以外を後継者とする理由について、共通ある

いは正反対の関係にある項目を、まとめて示した

ものである13。

これを見ると、親族以外を選択する理由として

多く挙げられているのは、「役員・従業員の士気

向上が期待できる」、「役員・従業員から理解を得

やすい」といった、役員・従業員との関係に関連

したものであることが分かる。相対的に従業員規

模が大きく、経営における役員・従業員の役割が

大きい中規模企業では、役員・従業員の士気向上

等の観点から、親族以外の後継者が選択され、そ

の結果、親族以外への事業承継の割合が、高まっ

ているのではないかということがうかがえる。

また、親族を選択する理由としては、「血縁者

に継がせたい」に加え、自社株式等や借入金の個

人保証の引継ぎが容易であること、金融機関との

関係維持が容易であることといった企業の財務・

経営資産に関連した項目が、多く挙げられてい

る。

一方、親族による承継と親族以外による承継で

は、それぞれどれほど問題があり、その内容はど

ういったものであると考えられているのであろう

か。

後継者への事業承継の際に起こり得る問題を見

ると、親族に事業を引き継ぐ際には、中規模企業

の7割強、小規模事業者の6割強が、問題になり

そうなことがあると考えている(第2-3-12図)。具体的な問題としては、「経営者としての資質・

能力の不足」を挙げる企業が約6割に上っている14。規模別に見ると、中規模企業では、「相続

税、贈与税の負担」と回答する割合も、約4割と比較的高くなっている。

13 小規模事業者の親族/親族以外を後継者とする理由については、付注2-3-7に示しているが、中規模企業と傾向は変わらない。14 後継者の養成については、次節で詳細に見ていく。

第3章 次世代への引継ぎ(事業承継)

144 2013 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

0 10 20 30 40 50 60 70

親族間での争い

役員・従業員の士気低下

本人から承諾が得られない

経営における公私混同

相続税、贈与税の負担

経営者としての資質・能力の不足

中規模企業(n=1,010)小規模事業者(n=561)

58.560.7

29.841.2

25.523.7

16.813.0

8.214.5

6.811.0

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 小規模事業者については、常用従業員数1人以上の事業者を集計している。

具体的な問題(複数回答)

特にない27.3%

特にない35.2%

問題になりそうなことがある64.8%

問題になりそうなことがある72.7%

小規模事業者(n=866)〈内側の円〉

中規模企業(n=1,389) 〈外側の円〉

(%)(注) 「その他」は表示していない。

第2-3-12図 規模別の親族に事業を引き継ぐ際の問題

0 10 20 30 40 50自社の株主から理解を得にくい

役員・従業員から理解を得にくい

役員・従業員の士気低下

取引先との関係を維持しにくい

計画的に後継者を養成することが難しい

金融機関との関係を維持しにくい

本人から承諾が得られない

後継者による事業用資産の買取りが困難

後継者による自社株式の買取りが困難

借入金の個人保証の引継ぎが困難

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 小規模事業者については、常用従業員数1人以上の事業者を集計している。

具体的な問題(複数回答)中規模企業(n=375)小規模事業者(n=122)

特にない36.7%

問題になりそうなことがある60.7%

問題になりそうなことがある63.3%

特にない39.3%

小規模事業者(n=201)〈内側の円〉

(%)(注) 「その他」は表示していない。

30.340.5

30.340.0

30.326.4

21.310.415.616.014.816.018.0

8.39.813.3

6.610.7

2.510.9

中規模企業(n=592) 〈外側の円〉

第2-3-13図 規模別の親族以外に事業を引き継ぐ際の問題

また、親族以外に事業を引き継ぐ際も、親族へ

の事業承継と比べてやや少ないが、6割強の企業が、問題になりそうなことがあると考えている

(第2-3-13図)。具体的な問題としては、借入金の個人保証や資産・負債の引継ぎに関することを

挙げる企業が多い。特に、中規模企業において

は、借入金の個人保証の引継ぎと後継者による自

社株式の買取りが、小規模事業者と比較して、大

きな問題になり得ると考えられている。

第 2 部自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者

第2節

145中小企業白書 2013

▶▶

現行制度概要 【2009年度税制改正において創設】

改正概要

(1)親族外承継の対象化

※原則として、2015年1月から施行

○ 後継者(先代経営者の親族に限る)が、先代経営者から相続・贈与により非上場株式を取得した場合に、その80%分(贈与は100%分)の納税を猶予。

○ 相続・贈与後5年間は以下の要件を満たさないと納税猶予は打切り。  ・雇用の8割以上を毎年維持  ・後継者が、会社の代表者を継続  ・先代経営者が役員(有給)を退任(贈与税の場合)等

○ 5年後以降も株式を保有し事業を継続すれば、後継者死亡又は会社倒産等の時点で納税免除。

後継者は、先代経営者の親族に限定。 親族外承継を対象化。

(4)役員退任要件の緩和

先代経営者は、贈与時に役員を退任。 贈与時の役員退任要件を代表者退任要件に。(有給役員として残留可)

(5)事前確認制度の廃止(2013年4月施行)

制度利用の前に、経済産業大臣の「認定」に加えて「事前確認」を受けておく必要あり。 事前確認制度を廃止。

(6)猶予税額の計算方法の変更

猶予税額の計算で、先代経営者の個人債務・葬式費用を控除するため、猶予税額が少なく算出。

猶予税額の計算で、先代経営者の個人債務・葬式費用を控除しない。

(2)雇用8割維持要件の緩和

雇用の8割以上を「5年間毎年」維持。 雇用の8割以上を「5年間平均」で評価。

(3)納税猶予打切りリスクの緩和

要件を満たせず納税猶予打切りの際は、納税猶予額に加え利子税の支払いが必要。

利子税率の引下げ(現行2.1%→0.9%)。承継5年超で、5年間の利子税を免除。

相続・贈与から5年後以降は、後継者の死亡又は会社倒産等により納税免除。

民事再生、会社更生、中小企業再生支援協議会での事業再生の際には、納税猶予額を再計算し、一部免除。

事業承継税制の拡充中小企業経営者が高齢化してきており、事業承継の円滑化は喫緊の課題となっている。そこで、非上場株式等の相続税、贈与税について納税猶予の特例を認める、「事業承継税制」について、適用要件等の見直しを通じ、制度の使い勝手の大幅な改善を図る。

コラム 2-3-3

第3章 次世代への引継ぎ(事業承継)

146 2013 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

0

10

20

30

40

50

60

70

3 億円超(n=68)

1億~ 3億円(n=85)

5千万~ 1億円(n=76)

0~ 5千万円(n=185)

債務超過(n=72)

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 親族以外に事業を引き継ぐ際に問題になりそうなことを、1項目以上回答した企業を集計している。

(%)

59.7

36.2 35.531.8 30.9

第2-3-14図 純資産規模別の親族以外に事業を引き継ぐ際の問題として、借入金の個人保証の引継ぎが困難と回答する企業の割合

親族以外の後継者に、借入金の個人保証を引き

継ぐことが困難であるのは、どういった企業であ

ろうか。第2-3-14図を見ると、親族以外に事業を引き継ぐ際に、何らかの問題が起こり得ると回

答する企業のうち、債務超過の企業は、個人保証

を引き継ぐことが困難であると考えている企業

が、約6割に上る。しかし、それ以外の企業でも、純資産規模の大きさにかかわらず、3割強が、個人保証の引継ぎが困難であると考えてい

る。個人保証の引継ぎは、親族以外への事業承継

における課題として、留意する必要があろう15。

15 前掲事例2-3-9のように、後継者への事業承継に向けた準備の一環として、金融機関と相談し、借入金の個人保証の解除に取り組んだ企業もある。また、親族内承継であるが、周到な準備で個人保証の問題に対応した企業として、後掲事例2-3-10がある。

第 2 部自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者

第2節

147中小企業白書 2013

▶▶

財務諸表の信頼性担保のため(外部監査がないため)

保全のため(担保としての位置付け)

会社の信用力補完のため(企業との一体性を確保)

経営への規律付けのため(モラルハザードの防止)

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90(%)

資料:中小企業庁委託「平成22年度個人保証制度及び事業再生に関する金融機関実態調査」(2011年3月、山田ビジネスコンサルティング(株))

(注) 「その他」は表示していない。

83.4

75.8

58.0

7.2 (n=429)

金融機関が個人保証を求める理由(複数回答)

事業年数が長い

代表者が信頼できる人物である

必要な財務情報が適時開示されている

業種の信用リスクが低い

会社保有資産が多い

担保で全て保全されている

上場している

サラリーマン社長である

他行が代表者保証を受け入れていない

財務内容が良好である

0 10 20 30 40 50 60 70(%)

資料:中小企業庁委託「平成22年度個人保証制度及び事業再生に関する金融機関実態調査」(2011年3月、山田ビジネスコンサルティング(株))

(注) 「その他」は表示していない。

61.5

43.8

36.4

35.4

20.5

16.9

12.8

10.3

3.8

1.5(n=390)

金融機関が考える個人保証を徴求しない企業の特徴(複数回答)

中小企業における個人保証等の在り方研究会の開催なぜ、金融機関から借入する際に、経営者の個人保証が必要なのか。「平成22年度個人保証制度及び事業再生に関する金融機関実態調査16」により、金融機関が個人保証を求める理由を見ると、個人保証には、経営への規律付けや、信用補完として資金調達の円滑化に寄与する面があると分かる。

一方で、借入金の個人保証は、意欲的な事業展開や、早期の事業再生を阻害する要因となっているほか、後継者への事業承継を困難にさせる一因となっているなどの指摘がある。財務内容が良好であるなどの特徴を有する一部の企業では、個人保証を行っていないと見られるが、個人保証制度は、中小企業金融における融資慣行として定着しており、こうした問題への対応は、重要な政策課題である。

コラム 2-3-4

16 中小企業庁の委託により、山田ビジネスコンサルティング(株)が、金融機関543機関(都市銀行、信託銀行、地方銀行、第二地方銀行、その他銀行、信用金庫、信用組合、政府系金融機関)を対象に実施した調査。有効回答率80.3%。

第3章 次世代への引継ぎ(事業承継)

148 2013 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

以上、後継者選びの現状と課題に関して見てき

たが、後継者は、経営者の親族から親族以外へ

と、徐々に変わってきている状況が確認された。

しかし、特に、小規模事業者において、依然とし

て、後継者に血縁関係を求める経営者は多く、後

継者の確保を難しくしている可能性がある。後継

者の選定に当たっては、親族以外の役員・従業員

や社外の第三者も含めて検討する必要があろう。

また、承継形態によって違いはあるものの、事

業承継を阻害する多様な問題が起こり得ることが

示されており、事業承継を希望する企業において

は、そのような問題が起こらないように準備して

いくことが、円滑な事業承継に向けた課題とな

る。

第3節 事業承継の準備

前節で、経営者引退後の事業継続を希望してい

る企業が多く存在することに触れたが、後継者に

事業を引き継ぐまでに行うべきことは多岐にわた

り、経営者自身も、事業承継に関して相応の知識

を有することが求められる。

本節では、経営者が50歳以上の企業について、事業承継の準備の状況や円滑に事業を引き継ぐた

めの取組等を見ていく。

1.後継者の養成まず、第2-3-15図は、事業承継に関して、経営者が特に関心のある知識を示したものである

が、後継者の養成について、関心を寄せる企業が

多い。規模別に見ると、中規模企業の方が、全般

的に回答割合が高く、小規模事業者よりも、事業

承継をどのように進めるかについて、具体的な関

心を持っていると考えられる18。

このため、学識経験者、実務者、金融機関や中小企業経営者等を構成員として、中小企業庁と金融庁共催による「中小企業における個人保証等の在り方研究会」を、2013年1月に開催した(第1回)。本研究会では、中小企業における個人保証等の課題全般を、個人保証の契約時における課題(個人保証の活用実態や保証・担保に過度に依存しない新しい融資慣行や方法等)と、個人保証の契約後における課題(再生局面等における個人保証の在り方等)の両局面において整理するとともに、解決に向けた具体的な方策について検討を行っている17。

17 詳細は、中小企業庁「中小企業の個人保証等の在り方研究会」を参照。http://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/kojinhosho/index.html

18 純資産規模別の特に関心のある事業承継の知識については、付注2-3-8を参照。純資産規模別に見ても、後継者の養成が、最も関心の高い項目であり、また、純資産規模が大きくなるほど、相続税等や自社株式等についての関心が高まっている。

第 2 部自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者

第3節

149中小企業白書 2013

0

10

20

30

40

50

特にない

事業売却について

自社株式・事業用資産について

事業承継に必要な資金の調達について

相続税・贈与税について

後継者の選定について

後継者の養成について

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 1.経営者の年齢が50歳以上の企業を集計している。   2.「その他」は表示していない。

(%)中規模企業(n=2,366)小規模事業者(n=1,515)

37.0

20.9 19.023.1

12.79.0

29.5

48.0

28.1 26.322.1 21.3

10.0

20.3

第2-3-15図 規模別の特に関心のある事業承継の知識(複数回答)

010203040506070

特にない

自社の株主から理解を

得ること

親族間の相続問題を

調整すること

事業承継計画を策定

すること

自社株式の後継者への

移転方法の検討

相続税・贈与税への

対応を検討すること

役員・従業員から理解を

得ること

金融機関との関係を

維持すること

債務・借入金を

圧縮すること

後継者を支える人材を

育成すること

取引先との関係を

維持すること

後継者の資質・能力の向上

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 1.経営者の年齢が50歳以上の企業を集計している。   2.小規模事業者については、常用従業員数1人以上の事業者を集計している。   3.「その他」は表示していない。   4.事業承継の準備として取り組んでいることには、取り組む予定にしていることを含む。

(%) 中規模企業(n=2,440)小規模事業者(n=1,424)

50.841.2

26.2 26.7 23.314.0 13.3 11.9 10.0 5.8 2.9

16.9

60.2

34.143.0

27.9 27.7 29.720.3 20.9 16.5

7.7 8.6 10.5

第2-3-16図 規模別の事業承継の準備として取り組んでいること(複数回答)

また、事業承継の準備として、具体的にどのよ

うなことに取り組んでいるのかを見てみると、

「後継者の資質・能力の向上」を挙げる企業が最

も多い19(第2-3-16図)。規模別に見ると、小規模事業者は、中規模企業と比べて、準備が遅れて

いることが分かる。

19 純資産規模別の事業承継の準備として取り組んでいることについては、付注2-3-9を参照。

第3章 次世代への引継ぎ(事業承継)

150 2013 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

0

10

20

30

40

50

60

70

現経営者との相性が良いこと

財務・会計の知識があること

技術力が高いこと

事業運営に役立つ人脈や

ネットワークがあること

経営理念が承継されること

役員・従業員からの人望があること

営業力・交渉力が高いこと

判断力が高いこと

コミュニケーション能力が高いこと

決断力・実行力が高いこと

リーダーシップが優れていること

経営に対する意欲が高いこと

自社の事業・業界に精通していること

親族であること

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 1.小規模事業者については、常用従業員数1人以上の事業者を集計している。   2.「その他」は表示していない。

(%)中規模企業(n=2,256)小規模事業者(n=1,242)

57.357.3

48.048.038.638.6

33.633.637.537.5

30.430.4 29.529.5 33.033.023.823.8 24.324.3 22.722.7

30.030.021.221.2

15.815.8

42.642.650.950.9

54.354.3 57.257.251.751.7

43.643.6 42.542.538.038.0

45.545.538.138.1

28.428.4

17.017.025.825.8

16.416.4

第2-3-17図 規模別の後継者を決定する際に重視すること(複数回答)

それでは、向上させる必要がある後継者の資

質、能力とは、どのようなものであろうか。第2-3-17図で、後継者の決定に際して重視することを規模別に見ると、小規模事業者は、「親族で

あること」、「自社の事業・業界に精通しているこ

と」を、中規模企業は、「リーダーシップが優れ

ていること」、「経営に対する意欲が高いこと」を

挙げる割合が高く、小規模事業者と中規模企業

で、傾向に違いがあることが分かる。

一方、後継者に不足している能力等を見ると、

「財務・会計の知識」、「自社の事業・業界への精

通」の回答割合が高い(第2-3-18図)。規模別に見て、違いが大きな項目は、「リーダーシップ」

と「営業力・交渉力」である。前掲第2-3-17図

と併せて見ると、小規模事業者では、経営者自身

の実務能力が期待されているのに対し、中規模企

業では、役員・従業員を統率して経営を方向付け

る能力が、より重視されていることが分かる。

第 2 部自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者

第3節

151中小企業白書 2013

役員・従業員からの人望

判断力

コミュニケーション能力

技術力

事業運営に役立つ人脈や

ネットワーク

決断力・実行力

営業力・交渉力

リーダーシップ

次の経営者としての自覚

自社の事業・業界への精通

財務・会計の知識

0

10

20

30

40

50

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 1.最大3項目までの複数回答。   2.小規模事業者については、常用従業員数1人以上の事業者を集計している。   3.「その他」は表示していない。    4.後継者には、後継者候補を含む。

(%)中規模企業(n=1,624)小規模事業者(n=903)

39.8

31.3 28.8

16.9

30.2

17.8 17.9 20.213.6

10.76.0

43.0

28.926.5

30.2

15.720.8 18.5

11.0 13.0 12.915.1

第2-3-18図 規模別の後継者に不足している能力等

後継者に不足している能力等

財務・会計の知識

(n=934)

自 社 の 事業・業界への精通

(n=676)

次の経営者としての自覚

(n=629)

リーダーシップ

(n=547)

営業力・交渉力

(n=471)

決断力・実行力

(n=419)

事業運営に役立つ人脈や ネ ッ トワーク

(n=394)

技術力(n=327)

コ ミ ュ ニケーション能力

(n=280)

判断力(n=261)

役員・従業員からの人望(n=253)

効果的な取組

社内で実務的な経験を積ませる 27.0 54.4 18.1 40.2 35.9 27.9 17.0 49.5 34.3 24.5 40.7

社内で経営に関する経験を積ませる 28.3 12.3 28.8 26.0 21.4 34.1 14.7 7.6 14.6 31.8 24.5

他社(中小企業)で勤務経験を積ませる 3.3 11.2 8.6 7.7 12.5 8.1 2.8 13.1 11.4 13.0 5.1

他社(大企業)で勤務経験を積ませる 1.7 6.4 2.4 1.8 4.2 5.0 4.1 4.6 4.3 3.8 2.0

民間企業の研修等に参加させる 4.1 0.7 7.0 6.9 4.0 4.8 5.3 2.4 8.6 5.4 3.6

商工会・商工会議所の研修等に参加させる 11.9 1.8 10.7 5.9 6.4 4.5 12.4 2.1 8.6 5.7 6.7

公的機関の研修等に参加させる 6.4 1.0 6.0 3.5 3.4 4.1 3.6 6.7 3.9 5.7 4.3

業界団体・同業組合の研修等に参加させる 6.9 10.1 11.4 4.6 7.6 5.7 30.7 8.0 9.3 4.6 8.3

本・書籍を用いて学習させる 6.5 1.8 2.4 1.3 2.1 2.1 4.1 3.7 3.2 2.7 2.8

第2-3-19図 後継者に不足している能力等を伸ばすための効果的な取組

(%)

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 1.後継者には、後継者候補を含む。

2.色付けしている数値は、後継者に不足している各能力等を伸ばすための効果的な取組のうちの最大値である。3.後継者に不足しているいずれの能力等に対しても、回答割合が5%に満たない効果的な取組は表示していない。4.「その他」は表示していない。

こうした、経営者に必要な能力等を向上させる

ために、多くの企業では、自社内で経験を積ませ

ること等によって、後継者を養成することが効果

的と考えている(第2-3-19図)。

第3章 次世代への引継ぎ(事業承継)

152 2013 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

0 10 20 30 40 50 60

後継者の養成について相談する先がない

後継者の養成を行う資金がない

後継者の養成方法が分からない

経営者の指導力が不足している

後継者の意欲が不足している

業務が忙しくて時間が足りない

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)

具体的な障害(複数回答)中規模企業(n=1,609)小規模事業者(n=978)

特にない46.0%

特にない46.2%

障害がある53.8%

障害がある54.0%

小規模事業者(n=1,818)〈内側の円〉

(%)(注) 「その他」は表示していない。

47.851.1

32.329.6

26.625.9

15.520.0

18.910.6

11.812.5

中規模企業(n=2,980) 〈外側の円〉

第2-3-20図 規模別の後継者の養成における障害

しかし、第2-3-20図の、後継者の養成における障害で示すように、「業務が忙しくて時間が足

りない」という企業も見られる。

以下では、後継者を OJTで養成するなど、長期にわたる事業承継の準備に取り組んでいる企業

を、事例として取り上げている20。

20 後継者の養成に関しては、前掲事例2-3-1のように、社内の様々な部門で、後継者に経験を積ませる企業や、後掲事例2-3-11のように、後継者が外部の後継者育成研修を受講する企業もある。

第 2 部自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者

第3節

153中小企業白書 2013

事 例

2.関係者からの理解円滑な事業承継のためには、社内外の関係者か

ら事業承継に対する理解を得ることも重要であ

る。周囲に認められないまま、後継者に事業を引

き継げば、後継者の経営主導に支障を来すであろ

う。

第2-3-21図は、社内外の関係者から承継への理解を得るために効果的な取組を示したものであ

るが、規模別に見ると、小規模事業者では、「後

継者が自社で活躍すること」が、中規模企業では、

「後継者を支える組織体制を構築すること」が、

最も高い割合になっている。

事業規模が大きくなるほど、経営者が独力で企

業を運営することは難しくなるため、特に、中規

模企業においては、後継者を支える経営幹部の養

成や組織体制づくりによって、社内外の関係者か

ら承継への理解を得ていくことが重要と考えられ

る。

周到な準備の後に、創業者から現社長が40歳で事業を承継し、地域の活性化にも取り組む企業

滋賀県守山市の株式会社清原(従業員26名、資本金1,250万円)は、和雑貨の製造等を行う企業である。ふくさ等を京都の問屋に卸しているが、近年は、自社ブランド品の開発、小売への展開等に取り組み、売上、従業員数を増やしている。守山市の地域資源である布帛(ふはく)21・縫製品等を活用することで、地域にも貢献している。同社の清原健社長は、1987年に、40歳で、創業者から事業を承継した。創業者は、事業承継を早くから念頭に置き、長期の経営計画に取り込んで、計画的に実施してきた。会社の財務については、自己資本比率を高め、経営者の個人保証が過度に必要とならない状況にした。一方で、それが自社株式の評価額を高めることになったが、長期的な計画のもと、先代社長から清原社長に、さらに現社長の長男である清原大晶専務への事業承継も視野に、自社株式の移転を10年以上掛けて段階的に行った。2013年には、現社長から現専務への事業承継が控えている。現在36歳の清原専務は、早いうちから従業員等に後継者として周知され、また、経営者としての能力を身に付けるために、入社以来OJT で厳しく鍛えられ、

円滑な事業承継に向けた準備が整えられている。清原社長は、「経営者が高齢化すると事業に支障が出る。時代に合わせてビジネスを変革していくこと、若い人の感性を経営に積極的に取り入れていくことが必要。一方で、創業の苦労、企業の核となる理念を忘れないように、語り継いでいくことも大切である。」と語る。現在は、地域のまちづくり会社の社長も兼任し、中小企業の後継者となる息子・娘たちが、地域に戻ってくるような魅力的なまちづくりにも取り組んでいる。

2-3-10:株式会社清原

滋賀県の地域資源「濱ちりめん」を用いた自社ブランド「和奏」のカードケース

21 綿、麻、絹を原糸とした布、織物等の総称。

第3章 次世代への引継ぎ(事業承継)

154 2013 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

0

10

20

30

40

50

60

後継者が自社株式を

保有すること

経営者が後継者の求めに

応じて協力すること

経営者の交代時期を

明示すること

できる限り早期に後継者を

明確にすること

後継者と関係者の綿密な

コミュニケーション

後継者へ段階的に権限を

委譲すること

後継者を支える組織体制

を構築すること

後継者が自社で

活躍すること

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 1.小規模事業者については、常用従業員数1人以上の事業者を集計している。   2.「その他」は表示していない。   3.ここでいう社内外の関係者とは、株主、役員・従業員、取引先、金融機関等をいう。

(%)

中規模企業(n=3,001)小規模事業者(n=1,603)

43.9

29.332.8 33.6 32.6

23.027.1

11.1

47.8 50.0

37.834.0 34.8

28.521.0

17.1

第2-3-21図 規模別の社内外の関係者から承継への理解を得るために効果的な取組(複数回答)

以下では、経営者として成長し、自社の経営を

改善させたこと等で、社内外の関係者との信頼関

係を構築した企業を事例として示す。

第 2 部自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者

第3節

155中小企業白書 2013

事 例

同社の運搬作業

現社長が試行錯誤して経営を改善し、社内外の関係者との信頼関係を築いた企業

熊本県熊本市の株式会社ヒサノ(従業員88名、資本金1,000万円)は、精密機器等の中重量物の運送等を行う企業である。同社の久保誠社長は、2004年、先代社長である義父が病に倒れたことで、経営の舵取りを任された妻を支えようと、前職を辞して、同社に入社した。しかし、運送業に従事した経験がない久保社長に対する従業員の反発は大きく、後継者として社内から認められることは容易ではなかった。そこで、久保社長は、民間の後継者育成研修を1年にわたって受講して、経営者に求められる強い意志、経営ノウハウ等を身に付け、また、業界団体の半年間の研修を受講して、運送原価計算等の知識を習得した。さらに、政府系金融機関が主催する若手経営者の会に参加して経営者の人脈を広げ、他社の経営者から経営に関する助言を受けた。経営者に必要な能力の向上に努めた久保社長は、自ら大型案件の受注を獲得するなど営業実績を上げた。また、運送業者と施工業者が別々に担っていた、機器の運送と設置工事を一貫して行うことで、顧客の物流コストを低減する取組を推進し、同社の受注増に貢献した。

従業員に対しては、一人一人の意見を尊重し、謙虚な姿勢で本音のコミュニケーションを心掛けた結果、徐々に従業員から信頼されるようになった。また、取引金融機関に対しても、経営計画書を提出したり、毎期の決算報告を行ったりするなど、関係維持を図っている。2008年の社長就任以降は、リーマン・ショックの影響により、取引先の製造業の業況が悪化し、売上を伸ばすことが難しい状況であったが、荷受けの集約、効率的な従業員配置等の経費削減策に取り組み、利益率を向上させてきた。現在は、久保社長が営業や経営管理を担当し、妻の久保尚子取締役が総務を担当して、二人三脚で同社を経営している。

2-3-11:株式会社ヒサノ

第3章 次世代への引継ぎ(事業承継)

156 2013 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

▶▶

0% 100%

後継者候補がいない企業(n=930)

後継者候補がいる企業(n=1,232)

後継者が決まっている企業(n=1,798)

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 経営者の年齢が50歳以上の企業を集計している。

あまりしていないあまりしていない

全くしていない

現時点で準備をする必要性を感じない

ある程度している

十分している

15.1 55.7 18.3 5.7 5.2

2.6 30.1 35.2 18.1 14.0

1.713.8 30.4 36.0 18.1

後継者が決まっていない企業

後継者の有無別の事業承継準備の取組度合い

010203040506070

特にない

親族間の相続問題を

調整すること

自社の株主から理解を

得ること

事業承継計画を策定すること

相続税・贈与税への対応を

検討すること

自社株式の後継者への

移転方法の検討

役員・従業員から理解を

得ること

金融機関との関係を

維持すること

債務・借入金を圧縮すること

後継者を支える人材を

育成すること

取引先との関係を

維持すること

後継者の資質・能力の向上

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 1.経営者の年齢が50歳以上の企業を集計している。   2.「その他」は表示していない。   3.事業承継の準備として取り組んでいることには、取り組む予定にしていることを含む。

(%) 後継者候補がいる企業(n=1,209)

後継者が決まっていない企業

後継者候補がいない企業(n=898)

後継者が決まっている企業(n=1,779)63.7

42.0 41.3

29.6 33.425.3 22.4 24.8

14.04.7

8.8 7.9

58.4

30.3 35.024.9 21.1 23.4

15.7 14.4 13.98.2 7.0

13.0

38.932.4

27.3 24.317.5 18.4

9.7 8.213.0

6.8 3.5

26.7

後継者の有無別の事業承継の準備として取り組んでいること(複数回答)

コラム 2-3-5

後継者の有無別の事業承継の準備状況後継者の有無によって、事業承継に向けた準備の状況には、どのような違いがあるのだろうか。事業承継準備の取組度合いを見ると、後継者が決まっている企業は、「十分している」、「ある程度している」と回答する割合が、約7割に上っているのに対し、後継者が決まっていない企業は、後継者候補がいる企業で3割強、後継者候補がいない企業では1割強にとどまる22。

事業承継の準備として取り組んでいることを見ても、大半の項目で、後継者が決まっていない企業は、後継者が決まっている企業と比べて、取組が遅れている状況が見て取れる。事業承継を円滑に進めるためには、まず、後継者を確保する必要があるといえよう。

22 規模別の事業承継準備の取組度合いについては、付注2-3-10を参照。

第 2 部自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者

第3節

157中小企業白書 2013

▶▶

0 10 20 30 40 50 60 70

国・地方公共団体の公的機関の支援窓口

国・地方公共団体の公的機関のセミナー

商工会・商工会議所の支援窓口

ホームページ

業界団体・同業組合等のセミナー

商工会・商工会議所のセミナー

他社の経営者への問い合わせ

経営コンサルタント・金融機関のセミナー

本・書籍

顧問税理士等への照会

(%)

中規模企業(n=1,542)小規模事業者(n=811)

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 経営者の年齢が50歳以上の企業を集計している。

具体的に活用した手段(複数回答)

活用した手段がある65.1%

活用した手段がある54.1%

特にない34.9%

特にない45.9% 小規模事業者

(n=1,498)〈内側の円〉

(注) 「その他」は表示していない。

56.059.7

32.937.2

15.332.0

16.818.8

14.316.1

14.313.9

16.211.2

7.23.4

4.65.8

3.11.9

中規模企業(n=2,367) 〈外側の円〉

規模別の事業承継に関する知識を得るために活用した手段

事業承継に関する知識の習得と相談の状況前掲第2-3-15図において、経営者が特に関心のある事業承継の知識を示した。そこで、事業承継に関する知識を備えるために、何らかの手段を活用したことがあるかを見ると、中規模企業の約3分の2、小規模事業者の5割強で、活用した手段があることが見て取れる。具体的な手段としては、「顧問税理士等への照会」を挙げる企業が最も多く、「本・書籍」が続く。さらに、中規模企業では、小規模事業者よりも、「経営コンサルタント・金融機関のセミナー」と回答する割合が高くなっている。規模による差はあるが、経営者が積極的に、事業承継に関する知識の習得に努めていることがうかがえる。

また、円滑に事業を引き継ぐ上では、経営者自身が事業承継に関する知識を備えるだけではなく、社内外の関係者や専門家と相談することも、重要であると考えられる。事業承継に関して相談している先を見ると、「税理士・公認会計士」と回答する割合が最も高いが、後継者の養成に関しては「他社の経営者」を、後継者の選定に関しては「親族」を挙げる企業も比較的多い。

コラム 2-3-6

第3章 次世代への引継ぎ(事業承継)

158 2013 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45その他

商工会・商工会議所

取引金融機関

経営コンサルタント

親族以外の役員・従業員

他社の経営者

親族

税理士・公認会計士

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 1.経営者の年齢が50歳以上の企業を集計している。   2.「相談していない」と回答した企業は除いている。   3.第2‒3‒15図において、回答割合の高い上位2項目を表示している。   4.相談している先には、相談する予定の先を含む。   5.「その他」には、「弁護士」、「国・地方公共団体の公的機関」を含む。

(%) (%)

30.0 42.2

21.3 40.1

24.7 15.4

18.7 18.6

13.2 6.0

7.6 7.6

7.9 2.0

10.9 9.4

後継者の養成(n=1,453) 後継者の選定(n=1,815)

相談内容別の事業承継について相談している先(複数回答)

▶▶

0

10

20

30

40

50

60

70

その他(n=582)

医療、福祉(n=124)

専門・技術サービス業(n=321)

製造業(n=402)

建設業(n=376)

情報通信業(n=133)

運輸業(n=121)

生活関連サービス業、娯楽業、教育、学習支援業(n=202)

卸売業、小売業

(n=630)

宿泊業、飲食サービス業(n=269)

(%)

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 最近5年間の経常利益の状況について回答した、経営者の年齢が60歳以上の企業を集計している。

65.159.5

54.0 53.7 52.6 50.3 50.0 49.2 47.651.9

業種別の経常利益が減少傾向の企業の割合

業種別の事業承継の現状と課題ここまで、中小企業・小規模事業者の事業承継の現状や課題について、主に規模別に見てきたが、業種別に見た場合、どのような共通点又は相違点があるのであろうか。まず、経営者が60歳以上の企業について、経常利益が減少傾向にある企業の割合を見ると、おおむね過半の企業が、減益傾向にあることが分かる。特に、宿泊業、飲食サービス業や卸売業、小売業では、減益傾向の企業が6割前後と高くなっており、経営において経営者に依存するところが大きいと考えられる。

コラム 2-3-7

第 2 部自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者

第3節

159中小企業白書 2013

0% 100%

その他(n=256)

情報通信業(n=85)

専門・技術サービス業(n=120)

医療、福祉(n=20)

生活関連サービス業、娯楽業、教育、学習支援業(n=97)

運輸業(n=101)

建設業(n=224)

製造業(n=232)

卸売業、小売業(n=269)

宿泊業、飲食サービス業(n=111)

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 事業承継時期が0~ 9年前の企業を集計している。

親族以外の役員・従業員

社外の第三者

息子・娘以外の親族

息子・娘67.6 11.7 8.1 12.6

58.4 14.1 13.4 14.1

54.7 14.2 16.8 14.2

52.2 15.6 21.9 10.3

48.5 13.9 18.8 18.8

45.4 7.2 23.7 23.7

45.0 15.0 10.0 30.0

40.0 3.3 40.040.0 16.7

7.1 7.1 45.9 40.0

38.7 13.3 23.0 25.0

業種別の現経営者と先代経営者の関係

0

10

20

30

40

50

60

70

80

その他(n=1,032)

製造業(n=730)

運輸業(n=239)

卸売業、小売業

(n=1,129)

建設業(n=786)

宿泊業、飲食サービス業(n=496)

生活関連サービス業、娯楽業、

教育、学習支援業(n=404)

情報通信業(n=276)

専門・技術サービス業(n=593)

医療、福祉(n=249)

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)

(%)77.5

61.655.8

50.244.4 41.6

36.329.3 28.6

51.7

業種別の経営者に占める創業者の割合

次に、事業承継時期が0~9年前の企業について、現経営者と先代経営者の関係を示したものを見ると、割合に差はあるものの、ほとんどの業種の企業で、親族への事業承継の割合が高くなっている。一方、専門・技術サービス業、情報通信業の企業では、親族以外への事業承継の割合が高く、特に、情報通信業の企業では、親族以外への事業承継が大半を占めている。

また、経営者に占める創業者の割合を見てみると、医療、福祉の企業では、創業者が8割弱に上っている。一方、運輸業、製造業の企業では、創業者は約3割であり、事業承継の経験がある企業が多い。

第3章 次世代への引継ぎ(事業承継)

160 2013 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

0% 100%

その他(n=754)

医療、福祉(n=164)

専門・技術サービス業(n=422)

宿泊業、飲食サービス業(n=336)

卸売業、小売業(n=768)

建設業(n=523)

生活関連サービス業、娯楽業、教育、学習支援業(n=289)

運輸業(n=166)

製造業(n=540)

情報通信業(n=207)

事業をやめたい

まだ決めていない事業を継続させたい

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 1.経営者の年齢が50歳以上の企業を集計している。   2.「事業を継続させたい」と回答する企業には、事業の売却を検討している企業を含む。

79.2 18.4 2.4

79.1 18.0 3.0

76.5 19.9 3.6

75.8 19.0 5.2

75.7 17.4 6.9

69.7 21.5 8.9

69.3 23.5 7.1

68.2 22.0 9.7

60.4 21.3 18.3

72.1 22.0 5.8

業種別の経営者引退後の事業継続についての方針

さらに、経営者が50歳以上の企業について、経営者引退後の事業継続に対する意向を見ると、いずれの業種の企業でも、「事業を継続させたい」と回答する割合が過半を超えるが、情報通信業の企業の約8割が、事業の継続を希望しているのに対し、医療、福祉の企業では、約6割にとどまる。また、廃業を希望する医療、福祉の企業は、約2割に上っている。

前掲第2-3-8図と同様、業種別に見ても、企業は、経営者引退後の事業継続に、おおむね積極的であることが分かったが、前掲第2-3-12図、第2-3-13図で示したように、後継者に事業を引き継ぐ際には、多様な問題が起こり得る。後継者・後継者候補がいる企業のうち、そうした問題の発生を予見している企業は、どの程度いるのかを示す。親族を後継者・後継者候補とする企業について見ると、いずれの業種でも、7割前後の企業が、問題になりそうなことがあると考えている。

第 2 部自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者

第3節

161中小企業白書 2013

0% 100%

その他(n=357)

宿泊業、飲食サービス業(n=231)

情報通信業(n=37)

運輸業(n=102)

専門・技術サービス業(n=161)

製造業(n=353)

卸売業、小売業(n=446)

医療、福祉(n=88)

生活関連サービス業、娯楽業、教育、学習支援業(n=126)

建設業(n=297)

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)

特にない問題になりそうなことがある74.4 25.6

72.2 27.8

70.5 29.5

70.4 29.6

69.4 30.6

67.7 32.3

65.7 34.3

64.9 35.1

64.5 35.5

69.7 30.3

業種別の親族に事業を引き継ぐ際の問題の有無

0% 100%

その他(n=158)

生活関連サービス業、娯楽業、教育、学習支援業(n=64)

運輸業(n=26)

情報通信業(n=85)

卸売業、小売業(n=72)

医療、福祉(n=13)

宿泊業、飲食サービス業(n=26)

製造業(n=81)

建設業(n=115)

専門・技術サービス業(n=118)

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)

70.3 29.7

65.2 34.8

64.2 35.8

61.5 38.5

61.5 38.5

61.1 38.9

60.0 40.0

53.8 46.2

51.6 48.4

60.1 39.9

特にない問題になりそうなことがある

業種別の親族以外に事業を引き継ぐ際の問題の有無

また、親族以外を後継者・後継者候補とする企業についても、親族を後継者・後継者候補とする企業と比べてやや少ないが、5~7割の企業が、問題になりそうなことがあると考えている。

第3章 次世代への引継ぎ(事業承継)

162 2013 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

0

10

20

30

40

50

60

その他(n=705)

情報通信業(n=200)

専門・技術サービス業(n=378)

卸売業、小売業

(n=689)

医療、福祉(n=135)

生活関連サービス業、娯楽業、

教育、学習支援業(n=274)

建設業(n=486)

宿泊業、飲食サービス業(n=309)

運輸業(n=162)

製造業(n=522)

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 1.経営者の年齢が50歳以上の企業を集計している。   2.ここでいう準備をしている企業とは、事業承継準備の取組度合いについて、「十分している」又は「ある程度してい

る」と回答した企業をいう。

(%)

53.6 52.548.5 47.5

44.9 43.7 42.4 42.3

37.0

43.5

業種別の事業承継の準備をしている企業の割合

それでは、実際に事業承継の準備を進めている企業はどの程度あり、また、事業承継の準備としてどのようなことに取り組んでいるのであろうか。経営者が50歳以上の企業について見てみたい。事業承継の準備の取組度合いについて、「十分している」、「ある程度している」と回答した企業の割合を示したものを見ると、製造業、運輸業の企業は5割強に上っているのに対し、情報通信業の企業では4割弱にとどまっている。

また、事業承継の準備として取り組んでいることを示したものを見ると、いずれの業種の企業でも、「後継者の資質・能力の向上」と回答する割合が最も高く、「後継者を支える人材を育成すること」、「取引先との関係を維持すること」も、多くの企業で挙げられている。事業承継においては、後継者の養成が重要な課題と考えられていることがうかがえる。

第 2 部自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者

第3節

163中小企業白書 2013

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 1.経営者の年齢が50歳以上の企業を集計している。   2.それぞれの業種で、回答割合の高い上位4項目を表示している。   3.事業承継の準備として取り組んでいることには、取り組む予定にしていることを含む。

建設業(n=479)

製造業(n=517)

情報通信業(n=197)

運輸業(n=159)

卸売業、小売業(n=673)

専門・技術サービス業(n=370)

宿泊業、飲食サービス業(n=302)

生活関連サービス業、娯楽業、教育、学習支援業(n=263)

医療、福祉(n=131)

その他(n=693)

4321

後継者の資質・能力の向上(56.3%)

後継者の資質・能力の向上(53.3%)

後継者の資質・能力の向上(54.7%)

後継者の資質・能力の向上(52.3%)

後継者の資質・能力の向上(57.3%)

後継者の資質・能力の向上(59.3%)

後継者の資質・能力の向上(53.6%)

後継者の資質・能力の向上(62.6%)

後継者の資質・能力の向上(55.0%)

後継者の資質・能力の向上(59.5%)

取引先との関係を維持すること(46.0%)

取引先との関係を維持すること(32.5%)

取引先との関係を維持すること(52.2%)

取引先との関係を維持すること(42.1%)

取引先との関係を維持すること(38.1%)

債務・借入金を圧縮すること(38.4%)

後継者を支える人材を育成すること(33.1%)

後継者を支える人材を育成すること(25.2%)

後継者を支える人材を育成すること(35.8%)

後継者を支える人材を育成すること(43.2%)

後継者を支える人材を育成すること(40.2%)

後継者を支える人材を育成すること(31.5%)

後継者を支える人材を育成すること(37.7%)

後継者を支える人材を育成すること(33.4%)

後継者を支える人材を育成すること(37.0%)

後継者を支える人材を育成すること(30.8%)

役員・従業員から理解を得ること(25.1%)

債務・借入金を圧縮すること(21.4%)

取引先との関係を維持すること(29.9%)

取引先との関係を維持すること(42.8%)

債務・借入金を圧縮すること(31.3%)

役員・従業員から理解を得ること(31.0%)

金融機関との関係を維持すること(33.3%)

金融機関との関係を維持すること(30.2%)

債務・借入金を圧縮すること(23.8%)

金融機関との関係を維持すること(29.1%)

債務・借入金を圧縮すること(24.0%)

相続税・贈与税への対応を検討すること(21.4%)

金融機関との関係を維持すること(24.1%)

金融機関との関係を維持すること(26.5%)

業種別の事業承継の準備として取り組んでいること(複数回答)

後継者が求められることは、業種によって異なるため、それぞれの業種の企業は、自社の経営者として必要な資質・能力等を勘案して、後継者の養成に取り組むことが求められよう。

第3章 次世代への引継ぎ(事業承継)

164 2013 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) それぞれの業種で、回答割合の高い上位4項目を表示している。

建設業(n=478)

製造業(n=489)

情報通信業(n=145)

運輸業(n=145)

卸売業、小売業(n=602)

専門・技術サービス業(n=314)

宿泊業、飲食サービス業(n=300)

生活関連サービス業、娯楽業、教育、学習支援業(n=218)

医療、福祉(n=119)

その他(n=583)

4321

経営に対する意欲が高いこと(53.4%)

自社の事業・業界に精通していること(65.5%)

親族であること(49.7%)

親族であること(59.6%)

自社の事業・業界に精通していること(61.1%)

親族であること(63.0%)

経営に対する意欲が高いこと(51.8%)

親族であること(61.3%)

自社の事業・業界に精通していること(50.6%)

経営に対する意欲が高いこと(51.9%)

親族であること(50.7%)

リーダーシップが優れていること(64.1%)

自社の事業・業界に精通していること(49.7%)

経営に対する意欲が高いこと(46.8%)

決断力・実行力が高いこと(50.3%)

経営に対する意欲が高いこと(49.7%)

自社の事業・業界に精通していること(49.1%)

自社の事業・業界に精通していること(49.6%)

リーダーシップが優れていること(48.0%)

リーダーシップが優れていること(50.8%)

リーダーシップが優れていること(50.5%)

決断力・実行力が高いこと(61.4%)

経営に対する意欲が高いこと(49.7%)

自社の事業・業界に精通していること(46.3%)

リーダーシップが優れていること(50.0%)

リーダーシップが優れていること(44.7%)

親族であること(47.7%)

リーダーシップが優れていること(47.1%)

経営に対する意欲が高いこと(46.0%)

自社の事業・業界に精通していること(50.0%)

決断力・実行力が高いこと(48.1%)

営業力・交渉力が高いこと(54.5%)

リーダーシップが優れていること(49.0%)

決断力・実行力が高いこと(44.9%)

経営に対する意欲が高いこと(50.0%)

決断力・実行力が高いこと(39.7%)

リーダーシップが優れていること(47.2%)

決断力・実行力が高いこと(44.5%)

コミュニケーション能力が高いこと(44.5%)

親族であること(43.9%)

決断力・実行力が高いこと(48.7%)

業種別の後継者を決定する際に重視すること(複数回答)

業務多忙な企業が、他の経営課題に優先して、

将来の世代交代を見据えた事業承継の準備に取り

組むことは、容易ではないだろう。事業承継の準

備の大部分は、経営者自身が取り組まねばならな

いことであり、特に、中小企業・小規模事業者に

多いオーナー経営者の負担は、非常に大きいと考

えられる。

しかし、準備の不足するままに、突然の事業承

継を迎えれば、新たな経営者が多難な事業運営を

迫られることはもちろん、廃業に追い込まれるこ

ともあり得る。経営者は、事業承継の準備を先送

りせずに、社内外の関係者や専門家、公的機関等

の助力も得ながら、取り組んでいくことが求めら

れる。

第 2 部自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者

第3節

165中小企業白書 2013

0

100

200

300

400

500

600

700

800

12111009080706050403020100

資料:(株)レコフ

420460 478 487

603652

752716

687

578

458421 447

(年)

(件)

第2-3-22図 未上場企業間のM&A件数の推移

0% 100%

後継者がいない企業(n=1,306)

後継者がいる企業(n=3,243)

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 後継者がいる企業には、後継者候補がいる企業を含む。

あまり関心なし 関心なし関心あり

大いに関心あり

2.7 13.9 19.7 63.6

5.8 23.9 19.9 50.4

第2-3-23図 後継者の有無別の事業売却への関心

第4節 事業売却

経営者の引退後も事業の継続を希望している

が、後継者を確保できない企業にとっては、事業

を売却することも、事業承継の方法として考えら

れる。

第2-3-22図は、未上場企業間のM&A件数の推移を示したものであるが、M&A市場は、リーマン・ショック以降の落ち込みから、回復の兆し

を見せている。

事業売却への企業の関心を見ると、後継者がい

ない企業の約3割は、「大いに関心あり」、「関心あり」と回答しており、M&Aに対する潜在的なニーズがあることが分かる(第2-3-23図)。

第3章 次世代への引継ぎ(事業承継)

166 2013 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

0% 100%

5千万~ 3億円(n=1,276)

3億円超(n=609)

5千万円以下(n=2,475)

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)

あまり関心なし 関心なし関心あり

大いに関心あり

7.1 21.1 18.6 53.2

4.0 14.3 20.3 61.4

9.0 24.1 19.9 47.0

第2-3-24図 純資産規模別の事業買収への関心

また、事業買収への企業の関心を見ると、純資

産額3億円超の企業の3割強、5千万~3億円の企業の約3割が、「大いに関心あり」、「関心あり」

と回答しており、比較的財務基盤の良好な企業

は、買い手になり得ると見られる(第2-3-24図)。

それでは、実際に事業を売却する場合、どのよ

うなことが障害となるのであろうか。第2-3-25図を見ると、「買い手企業を見付けることが難しい」と回答する割合が最も高い。規模別に見ると、

中規模企業は、小規模事業者よりも、「役員・従

業員から理解を得にくい」と回答する割合が高く

なっていることから、事業売却による役員・従業

員の不安心理を和らげるために、雇用維持を売却

の条件とするなどの対応が求められよう。

それ以外にも、「適正な売却価格の算定が難し

い」、「手法・手続面の知識が不足している」と

いった、事業売却に必要な専門知識が不足してい

ることが、比較的上位に挙げられており、中小企

業・小規模事業者が、単独で事業を売却すること

の難しさがうかがえる。

第 2 部自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者

第4節

167中小企業白書 2013

0510152025303540

特に障害はない

仲介会社に支払う手数料が高い

相談先がない

自社の株主から理解を得にくい

金融機関との関係を維持しにくい

情報漏えいや信用力低下等が

懸念される

取引先との関係を維持しにくい

手法・手続面の知識が

不足している

役員・従業員から理解を得にくい

適正な売却価格の算定が難しい

買い手企業を見付けることが

難しい

資料:中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、(株)野村総合研究所)(注) 1.小規模事業者については、常用従業員数1人以上の事業者を集計している。   2.「その他」は表示していない。

(%)

中規模企業(n=1,955)小規模事業者(n=1,099)

37.5

25.8

14.1

21.719.0

9.4 10.77.3 8.9

4.8

28.1

35.4

29.4 30.8

22.6 20.7

14.1 12.615.1

8.4 7.1

19.4

第2-3-25図 規模別の事業売却を行う場合の障害(複数回答)

M&A市場が、再び活況を取り戻しつつあり、中小企業・小規模事業者においても、今後M&Aの活用が増えていくことが予想される。特に、後

継者がいない企業は、事業売却に一定程度の関心

を寄せており、事業売却による事業引継ぎが、後

継者難を解決する有効な手段の一つとなるだろ

う。

他方で、マッチングが困難であることや、専門

知識が必要であること等、事業売却に当たっては

様々な障害があり、実際に事業売却を進めること

は容易ではない。事業の売却を希望する企業は、

情報収集に努める必要があることはもちろん、公

的機関に相談したり、M&A仲介会社に仲介を依頼したりすること等を検討する必要がある。

以下では、仲介会社に依頼することで、M&Aによる事業引継ぎを果たした企業や、中小企業・

小規模事業者のM&Aを推し進める仲介会社を、事例として取り上げる。

第3章 次世代への引継ぎ(事業承継)

168 2013 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

事 例

後継者問題の解決と企業の更なる発展のために、M&Aによる事業引継ぎを行った企業

東京都台東区の株式会社タンバック(従業員16名、資本金4,000万円)は、1989年創業の産業用ボードコンピューターの設計・製造を行う企業である。同社の創業者である竹下吉大取締役は、65歳で引退することを見据え、60歳頃から後継者を探し始めていた。技術力に強みを持つ、開発型企業である同社の経営者には、同社の技術に精通していること、技術開発の源泉である従業員と信頼関係を築けることが必要と考えていた。そのため、当初、従業員の中から後継者を選ぶことを検討していたが、金融機関からの借入に際して経営者が個人保証を行うこと、自社株式の買取りに必要な資金を準備すること等が障害になり、断念せざるを得なかった。こうした中、リーマン・ショックが起こり、受注が減少すると、自社単独で生き残っていくことは難しいと考え、M&Aによる事業引継ぎを検討し始めた。竹下取締役は、他社の経営者への相談やM&Aセミナーへの参加によって情報収集を行い、2010年、民間のM&A仲介会社に、M&A仲介を依頼した。買い手企業には、同社の技術、ノウハウを活かすことができる企業を求め、そうした企業が親会社になれば、相乗効果が見込まれ、同社が更に発展できるだけでなく、従業員の雇用も守れると考えていた。その後、産業用コンピューターの回路基板を収納する筐体の製造等を行うエブレン

株式会社(従業員106名、資本金1億4,300万円)が買い手候補となり、半年程の交渉期間を経て、2011年6月にM&Aが実現した。M&A後も、竹下取締役は同社に残り、事業運営は以前と大きな変化はないため、今後は、事業運営における世代交代が課題になる。親会社の資金支援によって、経営者の個人保証は解消し、従業員等に事業を引き継ぐことが可能となっている。竹下取締役は、自身の引退後も、後継者が問題なく経営できるように、業況の改善等に取り組んでいる。

2-3-12:株式会社タンバック

CPU 搭載ボード

第 2 部自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者

第4節

169中小企業白書 2013

0

20

40

60

80

100

120(組)

12 (年度)1110090807

84

9か月間の累計(前年度比 106.3%)106

83

666665

同社が仲介したM&A成約組数(取引数)の推移

資料:(株)日本M&Aセンター

事 例

事業承継問題の解決策としてM&Aを支援する企業

東京都千代田区の株式会社日本M&Aセンター(従業員111名、資本金10億円)は、中堅・中小企業に特化したM&A仲介・コンサルティングを行う企業である。同社は、1991年の創業以来、900組以上のM&Aの成約を支援した実績を有する。金融機関、会計事務所、商工会議所等の、同社が構築した全国的なM&A情報ネットワークを通じて紹介があるほか、セミナー等での啓もう活動により、相談が寄せられる。譲渡希望企業の8~9割は、後継者不在の企業であるという。その中から、経営者が本気で売却を検討しており、買収希望企業からの引き合いが期待できる企業を中心に仲介を行い、2011年度の成約組数は106組と過去最高を記録した。同社の飯野一宏経営企画室長は、「中小企業の経営者は、親族や従業員への事業承継以外の選択肢を無意識的に回避し、事業承継の対応が後手になる傾向がある。親族に承継意思がない、従業員後継者への個人保証の切り替えを金融機関が承諾しないなどにより、想定していた事業承継がかなわないリスクを、認識できていないケースが多い。」と、警鐘を鳴らしている。また、飯野室長

は、「M&Aによって、買い手企業と売り手企業が相乗効果を発揮することで、成長軌道に乗る事例は多い。」と語る。これまで、小規模事業者においては、買い手企業を見付けることが容易でないことや費用負担が障害となって、事業売却による事業引継ぎが進んでいなかった。そこで、同社は、2013年1月に、インターネット上で、年商1億円以下の企業を対象とした事業承継支援サービス「〝どこでも事業引継ぎ”サポート」を開始した。同サービスを利用する企業は、同社が認定する税理士、公認会計士等の公認事業引継ぎアドバイザーを通して専用のシステムに登録し、アドバイザーと相談しながらM&Aを進めることが可能である。また、資料作成等のM&Aに必要な準備の多くを、アドバイザーがシステム上で行うことや、契約締結までの手続を簡潔にすることで、費用負担を大幅に抑えている。今後、小規模事業者においても、後継者難の解決策としてM&Aが選択肢の一つとなることが期待される。

2-3-13:株式会社日本M&Aセンター

第3章 次世代への引継ぎ(事業承継)

170 2013 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

課 題 施 策

後継者難への対応

■47都道府県の認定支援機関(産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法に基づき認定を受けた商工会議所等の支援機関。)に、事業引継ぎ等に関する情報提供・助言等を行う「事業引継ぎ相談窓口」を設置した。

■さらに、事業引継ぎに関する専門家が、事業引継ぎを希望する企業間のマッチング支援等を行う「事業引継ぎ支援センター」を全国7か所に設置し、今後も全国的に拡充していく方針。(詳細は、コラム2-3-1を参照。)

相続税・贈与税負担への対応

■事業承継税制の拡充・雇用8割維持要件を緩和し、「雇用の8割以上を5年間毎年維持」から、「雇用の8割以上を5年間平均で評価」とする。

・民事再生、会社更生、中小企業再生支援協議会での事業再生の際には、納税猶予額を再計算し、一部免除する。

・贈与時の役員退任要件を代表者退任要件とし、先代経営者は有給役員として残留可能とする。(詳細は、コラム2-3-3を参照。)

個人保証への対応

■「中小企業における個人保証等の在り方研究会」を開催し、中小企業における個人保証等の課題全般を、個人保証の契約時における課題(個人保証の活用実態や保証・担保に依存しない新しい融資慣行や方法等)と、個人保証の契約後における課題(再生局面等における個人保証の在り方等)の両局面において整理するとともに、解決に向けた具体的な方策を検討している。(詳細は、コラム2-3-4を参照。)

親族以外の後継者への自社株式の引継ぎに向けた対応

■事業承継税制の拡充(詳細は、コラム2-3-3を参照。)後継者は、先代経営者の親族に限定されているが、親族外承継を対象化する。

■事業承継融資による支援事業承継に伴う多額の資金ニーズ(自社株式や事業用資産の買取り資金等)等が生じている場合に、経済産業大臣の認定を受けることで、株式会社日本政策金融公庫等による代表者個人に対する貸付を利用することができる。

第2-3-26図 事業継承に関する主な施策

ここまで見てきた事業承継を巡る多様な課題に

対応して、後継者に円滑に事業を引き継ぐために

は、中小企業・小規模事業者自身の努力が求めら

れることはもちろん、政府としても事業承継に関

する支援施策を講じ、検討していくことが必要で

ある。以下では、事業承継に関する主な課題への

対応策を示す(第2-3-26図)。

以上、本章では、中小企業・小規模事業者の事

業承継について見てきたが、多くの企業が後継者

難の状況にあり、また、事業承継の際に起こり得

る様々な問題を認識しつつも、十分な準備に取り

組んでいないことが分かった。一方で、事業承継

を果たした企業の中には、事業革新によって業績

が向上し、雇用を増やすこと等で、地域や社会へ

大きく貢献している企業もあることが確認され

た。

長期にわたって経営を続ける中小企業・小規模

事業者の経営者は、自身の引退を想起させる事業

承継に向けた取組に、必ずしも積極的ではないだ

ろう。しかし、企業の継続的な発展のためには、

経営者が育んだ事業を受け継ぐ者が必要である。

今後、引退を迎える経営者が、事業承継を自社の

更なる成長の好機と捉え、次世代に経営を託して

いくことが期待される。

第 2 部自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者

第4節

171中小企業白書 2013