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CKAN Web マップを用いた多様なデータと活用事例を提供する プラットフォームの試作ーアーバンデータチャレンジ東京 2013 を事例にー 瀬戸寿一・樫山武浩・関本義秀・西沢明 The Prototype platform development using CKAN and Web-map - The case study of Urban Data Challenge Tokyo 2013 - Toshikazu Seto, Takehiro Kashiyama, Yoshihide Sekimoto and Akira Nishizawa Abstract : This paper discuses to utilization of local problem-solving in "Urban Challenge data Tokyo 2013", review the construction platform for providing data. This platform is combine portal site based on CKAN with Web-map based Geoserver to link the use case and data on a variety of areas. It’s expected to support of discussions and development of application in UDCT2013. Keywords : オープンデータ(Open data),オープンガバメント(Open government市民参画(Public participation), CKAN Comprehensive knowledge archive network1. はじめに 2000 年代後半より,行政の公的機能を民間や 市民参画型で担う体制を整備する共に,保有する 情報を広く公開することで,組織的な透明性を担 保する取り組みが,米国や英国を中心に活発に広 まった.これは Government 2.0 Open Government と呼称され,2009 年の第一次オバ マ政権下において公開した Data.gov や,英国の data.gov.uk などのポータルサイトを伴って,政 府機関の有する情報が Web を通して一般公開さ れた.ここで提供されている情報は,再利用しや すいフォーマットで提供されていることから,オ ープンデータないしは,リンクトオープンデータ と称され(深見ほか,2011),データ活用に関す る市民提案やオープンデータ等を用いたアプリ ケーションの実装に向けた取り組みが世界的に 行われつつある. 同様の取り組みは,ここ数年で日本国内におい て急速に活発化している.例えば国家レベルでは, 2012 7 月には日本政府が「電子行政オープン データ戦略」を策定し,2013 5 月にはオープ ンデータ・ビックデータの活用推進に向けたロー ドマップも策定された.地方自治体レベルについ ても,例えば福井県鯖江市は 2010 年頃より「デ ータシティ鯖江」構想による整備を始め(ネクス トパブリッシング, 2013),2012 1 月に公共施 設等の情報を「クリエイティブ・コモンズ 表示 CC-BY)」ライセンスで公開した.このような 公開手法は,福島県会津若松市や千葉県流山市, 静岡県など各地に広がっており,2013 4 月に は千葉市・奈良市・福岡市・佐賀県武雄市の 4 が共同で「ビッグデータ・オープンデータ活用推 進協議会」の設立も行われた.本協議会では,二 瀬戸寿一 〒153-8505 東京都目黒区駒場 4-6-1 生産技 術研究所 Ce509(東京大学空間情報科学研究センター) Phone: 03-5452-6415 E-mail: [email protected]

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CKANとWebマップを用いた多様なデータと活用事例を提供する プラットフォームの試作ーアーバンデータチャレンジ東京 2013を事例にー

瀬戸寿一・樫山武浩・関本義秀・西沢明

The Prototype platform development using CKAN and Web-map - The case study of Urban Data Challenge Tokyo 2013 -

Toshikazu Seto, Takehiro Kashiyama, Yoshihide Sekimoto and Akira Nishizawa

Abstract: This paper discuses to utilization of local problem-solving in "Urban Challenge data Tokyo 2013", review the construction platform for providing data. This platform is combine portal site based on CKAN with Web-map based Geoserver to link the use case and data on a variety of areas. It’s expected to support of discussions and development of application in UDCT2013. Keywords: オープンデータ(Open data),オープンガバメント(Open government) 市民参画(Public participation), CKAN(Comprehensive knowledge archive network)

1. はじめに 2000 年代後半より,行政の公的機能を民間や市民参画型で担う体制を整備する共に,保有する

情報を広く公開することで,組織的な透明性を担

保する取り組みが,米国や英国を中心に活発に広

まった.これは Government 2.0 や Open Government と呼称され,2009 年の第一次オバマ政権下において公開した Data.gov や,英国のdata.gov.uk などのポータルサイトを伴って,政府機関の有する情報が Web を通して一般公開された.ここで提供されている情報は,再利用しや

すいフォーマットで提供されていることから,オ

ープンデータないしは,リンクトオープンデータ

と称され(深見ほか,2011),データ活用に関する市民提案やオープンデータ等を用いたアプリ

ケーションの実装に向けた取り組みが世界的に

行われつつある. 同様の取り組みは,ここ数年で日本国内におい

て急速に活発化している.例えば国家レベルでは,

2012 年 7 月には日本政府が「電子行政オープンデータ戦略」を策定し,2013 年 5 月にはオープンデータ・ビックデータの活用推進に向けたロー

ドマップも策定された.地方自治体レベルについ

ても,例えば福井県鯖江市は 2010 年頃より「データシティ鯖江」構想による整備を始め(ネクス

トパブリッシング, 2013),2012年 1月に公共施設等の情報を「クリエイティブ・コモンズ 表示(CC-BY)」ライセンスで公開した.このような公開手法は,福島県会津若松市や千葉県流山市,

静岡県など各地に広がっており,2013 年 4 月には千葉市・奈良市・福岡市・佐賀県武雄市の 4市が共同で「ビッグデータ・オープンデータ活用推

進協議会」の設立も行われた.本協議会では,二

瀬戸寿一 〒153-8505 東京都目黒区駒場4-6-1生産技

術研究所 Ce509(東京大学空間情報科学研究センター)

Phone: 03-5452-6415

E-mail: [email protected]

ッファ操作に焦点を当て,空間オブジェクトの

位置

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次利用可能な公共データの公開以外にも,活用に

向けたアイデア公募に関連したイベントが企

画・実施されている. このように,オープンガバメントに向けた自治

体情報の公開や,データ活用に向けた市民参画型

のイベントが活発化する中で,(1)地域課題の解決に向けた市民と自治体が協働する参加型イベン

トの深化,(2)オープンデータ活用に向けたデータソースの検索やデータの視覚化機能を備えたプ

ラットフォームの構築が求められている.特に地

方自治体が保有するデータは,空間的に限定され

た範囲で構成され,地図画像やSHP形式等のGISデータのほか,住所や緯度経度が記述されている

テキスト形式のデータも少なくない. そこで本研究は,GISデータや位置座標等を有するオープンデータの管理や検索,さらには地図

上での視覚化を支援とするデータポータル型の

プラットフォーム構築を目的として,その構築状

況や,イベントにおいて提供予定のデータセット

について報告するものである. 2. アーバンデータチャレンジ東京 2013の概要 プラットフォーム開発は,2013 年 4 月に筆者らがコアメンバーとなって発足された「アーバン

データチャレンジ東京 2013(UDCT2013)」における公開・提供データでの利用を前提としている.

UDCT2013は,2013年 6月に 1回目,同 8月に2 回目のワークショップが開催され,自治体職員や有識者,民間の開発者,一般市民らの参加によ

って地域課題に関して具体案を議論する「アイデ

アソン」に延べ 250 人以上が参加した.10 月初旬には第 3回目として,オープンデータの入手と加工に関するワークショップを実施予定である.

さらに 2013 年度後半には,これらのイベントで明らかとなった地域課題を踏まえ,自治体等から

提供された地理空間情報等を活用した課題解決

の提案・アプリケーションの実装を目的とするデ

ータチャレンジが実施される(2013 年 8 月本稿執筆時点). 6月および 8月のアイデアソンを通じて自治体ごとに抱える地域課題や,課題解決に関連するデ

ータセットが参加者から複数提案された.これに

より,UDCT2013 を通じて優先的に取り組むべき 9つの課題分野が明らかとなった(表 1). 3. CKAN&Webマップのプラットフォーム構築 UDCT2013 では,上記課題の解決提案のためのデータや,自治体から公開されているオープン

データを統合的に掲載するプラットフォームを

構築中である.開発には地理空間情報を含むオー

プンデータの公開についての先行研究(Morales and de By, 2013; Clark et al, 2013)や,Data.gov等 の 先 進 事 例 で も 採 用 さ れ て い る

Comprehensive Knowledge Archive Network(CKAN)がベースとして採用された.CKANは,オープンデータを推進する非営利組織である

Open Knowledge Foundation(OKF)によって開発されているオープンソース(AGPL v3.0)型のデータ管理システムである. CKANは,CSVや PDF,JPEGなど一般的な

表 1 UDCT における代表的な地域課題

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ファイル形式のほか,KMLや JSONのジオメトリ拡張の GeoJSON,さらに圧縮化された SHPファイルをデータセットとして格納可能である.

なお,緯度経度がついた CSV ファイルや

GeoJSON ファイルは, OKF の開発する

ckanext-spatial をプラグインとして設定することで,CKAN内の地図インターフェース上で表示可能になる(図 1).なお CKAN上のWebマップは,オープンソースの JavaScript ライブラリである leafletを用いて設計されており,GeoJSON等で記述されたマルチポリゴンに対する高速描

画や,緯度経度を有する複数のポイントデータ

(CSV)を集約・表示するクラスタマーカー機能も実装されている.

図 1 CKAN 上での地図プレビュー機能

これ以外にも CKANでは,WMSの URIをメタデータ内に記述することで地図表示できる地

図プレビュー機能や,データセットのメタデータ

に spatial タグとして GeoJSON 形式で代表点を記述することで,データセット検索時の空間的範

囲の指定も可能になる機能が備わっている.特に

spatial タグは,CKAN 内部におけるデータセット管理以外にも,別途開発中の Web マップ(Geoserverと GeoExtベースで構築)と連動し,表示機能のパラメータにもなっている.

図 2は,CKANを含む UDCT2013におけるデータポータルシステムの基本構成を示している. UDCT2013 では,首都圏の自治体のうち千葉市や流山市など既にオープンデータとして公開さ

れているものに加え,協力関係にある約 60 自治体の防災やまちづくり等 9 分野に関連する Web上での公開データが,目下収集中である.さらに,

UDCT2013 を主催する社会基盤情報流通推進協議会(AIGID)は,都市計画図データや航空写真も既に収集されており,許可の得られたデータセ

ットはCKANサイトを通じて公開予定である(表2).ただし都市計画図や航空写真の多くは,CKANで直接表示できない SHPファイルや,ジオコーディングされた大量の画像ファイルで構

成されている.このような GISデータのプレビュー機能は,Webマップ側のインターフェースで担い,CKAN上ではメタデータやファイルへのURIを記述することとした.

図 2 UDCT2013 用ポータルの基本構成

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さらに UDCT2013 では,データセット以外にも,地域課題の解決に向けた各種アプリケーショ

ンの先行事例が収集・公開されている(図3).

これらのアプリケーションやWebサービスは,9分野・約 40 事例が現在までに掲載され,カテゴリ検索可能である.この機能は,地域課題の解決

に必要なデータセットやアプリケーションにつ

いて議論する材料として期待される.

図 3 CKAN 上での活用事例の掲載

4. おわりに 本稿では自治体等から公開されているオープ

ンデータ等を用いた地域課題の解決に向けたイ

ベント運営にあたり,データ提供プラットフォー

ムとなるポータルサイトの構築と掲載されるデ

ータセットが検討された.自治体から Web 上を通じて公開されているデータは,地理空間情報を

含むものが少なくないが,HTMLや画像による提供が一般的で一部CSVでの公開に留まっている. イベント参加者が地域課題に対して,空間的に

理解し,解決策の提示やアプリケーションを作成

するには,これらの情報をデータソースとして公

開する以外にも,メタデータ等を付加し検索しや

すくする仕組みや,地図上に重ねあわせて表示す

る機能が必要である.CKAN や Geoserver をベースとする Web マップを含むシステムは,オープンデータ等を駆使して地域課題の解決に向け

た,参加者の空間的理解を支援するプラットフォ

ームになることが期待される.ただし,今後の活

用に向けて,次の点で機能整備や改良についての

課題も多い. 第一に,CKAN上に掲載されるデータセットのWeb マップへの動的かつ高速な表示機能の実装である.現状では CKAN に登録した一部の要素のみが,Webマップ上の自動表示に連動しており,全ての位置情報付きのデータセットを表示でき

ない.第二の課題は,他の CKAN からのハーベスティングの実装であり,ポータルサイトとして

のデータセットの充実や利用性の向上に必要な

機能である.これらの課題と共にフィードバック

を受けながら,地理空間情報を含むオープンデー

タを用いた活動に有用なプラットフォームにな

ることが期待されよう. 参考文献・URL 深見嘉明・小林巌生・嘉村哲郎・加藤文彦・大向

一輝・武田英明・高橋徹・上田洋 (2011)Linked Open Dataによるボトムアップ型オープンガバメントの試み,情報処理学会研究報告,

Vol.2011-DD-79 No.1,8p. ネクストパブリッシング (2013)世界一のオープンデータ・シティを目指す 鯖江市,GIS NEXT, 35,16-19.

Clark, R.J., Kuhmuench, C and Richard, S.M. (2013) Developing the national geothermal data system adoption of CKAN for domestic & international data deployment, Proceedings, thirty-eighth workshop on geothermal reservoir engineering, 9p.

Moreles, J. and de By, R. A. (2013) Cyber-applications as gateway to data-rich Digital Earth systems, International Journal of Digital Earth, 1-18.

Open Knowledge Foundation (2013) okfn/ckan https://github.com/okfn/ckan